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右傾化(その2)(いつの間にか日本政治の中枢に浸透した「宗教右派」の源流、「日本人でよかった」6年前の神社本庁ポスターが炎上した理由) [国内政治]

右傾化については、4月29日に取上げた。今日は、(その2)(いつの間にか日本政治の中枢に浸透した「宗教右派」の源流、「日本人でよかった」6年前の神社本庁ポスターが炎上した理由) である。

先ずは、宗教学者 作家 島田 裕巳氏が4月28日付け現代ビジネスに寄稿した「いつの間にか日本政治の中枢に浸透した「宗教右派」の源流 教団は衰退、しかし思想は拡散…」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽持続する心
・先日、関西在住の知り合いが仕事で東京に来たというので会うことになった。知り合いとはいえ、初めて会ったのは去年のことで、付き合いは浅い。 だから、私はほとんど相手のことを知らなかったのだが、話の中で、話題は「生長の家」のことに及んだ。
・生長の家は、戦前から続く新宗教の教団の一つで、創立者は谷口雅春という人物である。谷口は、戦前は日本の軍国主義の体制を支持し、戦後も、右派の宗教家として活躍し、共産主義の脅威を訴え続けた。  ところが、生長の家の方向性は、谷口が亡くなった後に大きく変わり、現在では、谷口の主張を全面的に否定し、エコロジーの実践を中心に据えた教団に変貌している。本部も東京の原宿から山梨県北杜市の山の中に移転した。
・その知り合いは、谷口の時代からの生長の家の会員で、現在でも辞めていないという。 生長の家は、方向性を大きく変えただけではなく、近年になって信者数を大きく減らしている。 各教団は毎年、宗教団体を所轄する文化庁の宗務課に信者数を報告しているが、生長の家の場合、1990年に82万1998人だったのが、2015年では52万1100人に減少している。 これは公称の数字で、はたしてそれがどの程度正確なのかは分からないが、その数字だけでも、生長の家は平成の時代になってからの四半世紀で30万人以上もの信者を失ったことになる。
・生長の家が教団として相当に衰退してきていることはたしかで、しかも、大きく路線を転換したのだから、その知人がとっくに生長の家を辞めていても不思議ではない。 私はなぜ辞めないのかと聞いてみた。 それにはそれなりの答えが返ってきたのだが、私にはそれよりも、もっと本質的な事柄がかかわっているように思えた。
▽新宗教としては特殊
・日本には多くの宗教団体が存在している。とくにキリスト教やイスラム教のような支配的な宗教が存在しないので、その分、数多くの新宗教が生まれている。 主な新宗教としては、生長の家のほかに、天理教、大本、天照皇大神宮教、璽宇、立正佼成会、霊友会、創価学会、世界救世教、神慈秀明会、真光系教団、PL教団、真如苑、GLA(ジー・エル・エー総合本部)がある。 これは、私が『日本の10大新宗教』(幻冬舎新書)で取り上げたものだが、ほかに最近話題になったところでも、幸福の科学や統一教会(現在では世界平和統一家庭連合)などがある。
・ただし、数ある新宗教の中で、生長の家はかなり特殊な教団である。 新宗教に人が集まるのは「貧病争」が原因であると言われる。貧困、病気、家庭内の争い事から救われたいと入信するわけである。 とくに病気が直るということは、どの教団も主張することで、生長の家の場合にも、かつては機関誌である『生長の家』を読みさえすれば病気が直ると宣伝していた。
・その点では、生長の家も一般の新宗教と変わらないことになるが、明確な「思想」があるという点ではかなり特徴的である。 思想があるということは、その思想を実現するために行動するということであり、政治への関心は自ずと強くなる。 実際、谷口雅春は、太平洋戦争がはじまるとそれを「聖戦」として位置づけ、アメリカやイギリスとの和解を断固退けろと主張した。
・戦後になっても谷口は、「日本は戦争に負けたのではない」と、敗戦を合理化した。 そして、東西冷戦の時代が訪れ、保守と革新、右翼と左翼の対立が激しいものになると、戦前の天皇崇拝や国家主義、家制度の復活などを主張するようになり、保守勢力に支持された。
・1964年には、「生長の家政治連盟」を組織して国会に議員を送り込んだ(所属は自由民主党だった)。  1966年には、「生長の家学生会全国総連合(生学連)」が組織され、これは左翼の学生運動と激しく対立した。当時、谷口は、左翼の学生運動を生んだ原因として戦後の憲法体制を激しく攻撃した。谷口の主張は、明治憲法の復活であった。
▽政治思想を持つ教団
・新宗教が政治にかかわる例はある。 戦後すぐの時期には、天理教なども国会に議員を送り込んでいる。その後は創価学会が公明党を組織し、その公明党は現在自由民主党と政権を組んでいる。国会にはまだ議員を送り込んでいないが、幸福の科学も幸福実現党を組織し、数人の地方議員を抱えている。 その点では、生長の家は特殊ではないし、政治的な影響力では、創価学会の方がはるかに大きい。
・しかし、これは多分に誤解されている部分でもあるのだが、創価学会自体はさほど政治には関心をもっていない。それは会員全体について言えることで、創価学会の会員が関心を持っているのは、政治ではなく選挙なのである。 選挙で公明党の議員に勝たせる。それも候補者全員を当選させることが第一の目標であり、それだけを求めているとも言えるのだ。
・そのため、創価学会の会員は公明党の政策についてもさほど関心を持っていない。それは、公明党がかつて日米安保の即時破棄を主張していたところにあらわれている。そんなことは、当時の創価学会はまったく主張していなかった。
・これに対して、生長の家の会員たちは、谷口の政治的な主張に共感し、生長の家政治連盟がそれを国会の場で具体化することを求めていた。生長の家の会員であるということは、生長の家の政治思想に共感し、それを支持するということを意味した。
・私の知人も、谷口の時代に入会しているとすれば、その政治思想を依然として共有しているに違いない。それが、その人物が退会しない根本的な原因ではないか。 教団のあり方がどう変わっても、自分は変わらない。その証として会員であり続けているように思えるのだ。たとえ、その人物が生長の家を辞めたとしても、政治思想は変化しないだろう。
・最近になって宗教右派として注目を集めている「日本会議」の事務局には、生長の家の会員で、生学連のメンバーであった人間たちが入っているとされるが、彼らは、生長の家から離れても、会員であった時代と同じ政治思想を持ち続けているわけである。
▽衰退が思想拡散の契機
・あるいはこうも考えられるかもしれない。 生長の家の教団が谷口時代のような主張を展開していたとしたら、時代に取り残されていくことは避けられない。 過激な天皇信仰は、現在の天皇の姿を考えれば成り立たないし、支持を得られない。 冷戦構造が崩れた以上、共産主義の勢力や左翼を徹底して攻撃しようとしても、相手がいなくなってしまったわけだから、社会的に意味をなさない。 その点で、生長の家の教団が衰退していくのは必然である。社会的な存在価値を失ってしまっているからで、路線の転換も、それが深く関連する。
・ところが、谷口時代に入会した生長の家の会員は、たとえ組織に残っていようと、そこから出てしまっていたとしても、依然として、谷口の政治思想を内心では支持し続けている。だからこそ、日本会議を動かすような人物が生まれてくるわけである。 その点では、谷口の右派的な政治思想を持つ人間たちが、たんぽぽの種が風に乗って飛散していくように、教団の衰退を機に日本社会に散らばったとも言える。
・逆に、生長の家がかつてのような形を取り、会員たちを組織につなぎ止めておいたならば、そうした飛散は起こらなかったかもしれない。 政治的な場面では当然だが、明確な主張をもっている人間は、曖昧な主張しかもっていない人間よりも強い。 明確な主張を持つためには、思想的なバックボーンが必要である。冷戦が続いている時代には、自由主義と共産主義が対立し、それは、国家同士の争いにとどまらず、国内の組織同士、あるいは個人間の対立を生むことになった。
・生長の家の政治思想は、共産主義の政治思想に対立するもので、谷口が生きていた時代には、それぞれの側の思想が、その陣営に属している人間の考え方を規定していた。 ところが、冷戦構造が崩れてから、共産主義の思想は力を失い、それと同時に、リベラルな思想をも弱体化させた。
・現実の政治の世界を見ても、確固とした思想を持つ政治家はほとんど消えてしまった。野党が成り立たないのもそれが関係する。 その中で、生長の家の思想は依然として力をもっている。 戦後、この思想が復活し、力を持ったのは、冷戦の深化という事態が背景にあったからだ。
・今や、アメリカ、ロシア、中国という大国同士の対立が日本の政治状況にも強く影響しつつある。そのなかで、ナショナリズムの傾向が強い生長の家の主張、宗教を背景とした右派的な政治思想は力をもち得るようになってきた。 こうした状況は、今後も長期にわたって続く可能性がある。私たちは、飛散した種がどこでどういう形で芽を吹くかに注目しておかなければならないのである。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51581

次に、ノンフィクションライターの窪田順氏が5月11日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「「日本人でよかった」6年前の神社本庁ポスターが炎上した理由」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・ネット上で大炎上した神社本庁の「日本人でよかった」ポスター。5月3日の憲法記念日前後の護憲派vs保守派のヒートアップを分析していくと、このポスター炎上も情報戦の一端だったことが透けて見える。憲法改正を巡るフラットな議論をしたいのなら、こうした情報戦には気をつける必要がある
▽神社本庁のポスターが大炎上!ネットで侃々諤々の議論に
・ゴールデンウィークの連休に入る直前、ネット上では1枚のポスターをめぐる論争が起きていた。 微笑む女性と日の丸があしらわれたそのポスターには、「私、日本人でよかった。」というコピーがつけられており、下の方にはやはり日本の国旗とともに、「誇りを胸に日の丸を掲げよう」なんて呼びかけがされている。制作したのは、全国の神社が加盟する「神社本庁」である。
・これを京都市内で見かけたというTwitterユーザーが投稿した画像がまたたく間に拡散され、「気持ち悪い」「外国人観光客がみたら異常だと思う」「誰がなんの目的で?」という否定派と「日本人でよかったと思うことが、なにが問題なの?」という肯定派の間でバチバチのバトルが繰り広げられたのだ。
・これに火に油を注ぐ形となったのが、「モデルの国籍」だ。ネット民たちが持ち前の調査力を活かし、ポスターの女性が大手写真画像代理店「ゲッティ イメージズ」が管理している女性のイメージ画像と酷似していることをつきとめた。問題は、彼女がプロフィールで「中国人女性」となっていること。これで一気に「大炎上」となった。
・「愛国」を呼びかけるプロパガンダ広告が、実はそういうイデオロギーを掲げる人が忌み嫌う他民族の方の写真を使っていた、というブーメラン的な現象というと、ナチスの「最も美しいドイツ・アーリア人の赤ちゃん」を思い浮かべる方も多いだろう。 ナチスがヨーゼフ・ゲッベルス国民啓蒙・宣伝相のもとで、国民に対してさまざまなプロパガンダを仕掛けたことは有名だが、実はその一環で「最も美しいドイツ・アーリア人の赤ちゃん」を選ぶコンテンストなんてものまで催されていたことはあまり知られていない。
・そこで週刊誌の表紙を飾ったかわいらしい生後7ヵ月の赤ちゃんは、国民に「ドイツ人でよかった」と思わせるのに効果てきめんだったが、近年になってから衝撃の事実が発覚する。 なんとこの赤ちゃん、ナチスが忌み嫌ったユダヤ人だったのだ。 アメリカへ逃げたご本人が名乗り出て、その時の表紙をホロコースト記念館に寄贈したとAFPが2014年7月に報じている。
▽2011年制作のポスターが なぜ今、炎上したのか?
・エスノセントリズム(自民族中心主義)というものが必ず後頭部に突き刺さる特大ブーメランになる、ということを示す好例だが、これを今回の「愛国ポスター」とダブらせて、いわゆる「右傾化」の批判を展開している方も少なくないのだ。
・もちろん、「どこの国だって自分の国を誇りに思っている。それができない方が異常」という意見もある。このあたりは、政府が推し進める教育改革の「愛国心」という部分にも関わっていることなので、罵り合いだけではなく、ぜひ建設的な議論をしていただきたいと心から願う一方で、個人的にはそれよりも気にかかることがある。 それは、なぜこのタイミングで「炎上」をしたのかということだ。
・ハフィトンポストの取材で神社本庁が回答しているように、実はこのポスターが配布されたのは2011年。筆者も数年前からこのポスターを何度か見かけている。当時は東日本大震災後、日本中で「がんばろう日本」の大合唱がなされている時期だったので、その手の「日本を元気づけさせる系スローガン」だと思っていた。 無論、当時から違和感を覚えた方も多いようで、13年7月にはネット掲示板に《「私、日本人でよかった」という奇怪なポスターがアチコチに貼られていると話題に》というスレッドも立てられて注目を集めている。また、これと同様に、日の丸掲揚を呼びかける「愛国ポスター」は他にもいくつか存在し、それらも合わせて話題になっていた。
・では、そのようなわりと昔から一部では知られた存在だった「愛国ポスター」がなぜここにきて、再びスポットライトを浴びたのか。 いろいろな意見があるだろうが、個人的には「護憲派」のみなさんによる「扇動」が大きいと思っている。つまり、一般の方のTwitter投稿を炎上させようという明確な意志を持った方たちが拡散することで、話題化に成功した、ということだ。
▽改憲勢力にがっちりコミットする神社本庁は護憲派の仇敵
・「おーい、ここにも戦争大好きヒトラー安倍の信者がいたぞ!」と怒り出す方も多いかもしれないが、筆者は「護憲派」のみなさんに、なにか特別な感情を抱いているわけではない。 ただ単純に、ここ数年のみなさんの動きを客観的に見ていれば、ゴールデンウィークあたりに今回のポスター制作主である「神社本庁」を批判する動きが活発化しているのがよくわかるからだ。
・憲法9条を愛する平和的な人たちがなぜ神社をディスらなくてはいけないのかというと、「神社本庁」が憲法改正を掲げ、安倍政権など改憲勢力の力の源泉になっているからだ。 「保守のマドンナ」として知られる櫻井よしこさんが共同代表をつとめる「美しい日本の憲法をつくる国民の会」(以下、国民の会)。この国民の会は、籠池さんですっかりメジャーになった「日本会議」が主導していることで知られるが、実は「神社本庁」もガッツリからんでいる。
・「日本会議」の副会長で「国民の会」の代表発起人のひとりは、「神社本庁」の田中恒清総長なのだ。 さらに、「神社本庁」が組織した政治団体「神道政治連盟」の主張に賛同する超党派議連「神道政治連盟国会議員懇談会」には、衆議院225名、参議院80名(平成29年4月現在)が参加しており、そこには安倍晋三首相をはじめ自民の保守がずらり。07年に今回のポスターと瓜二つの「日本人でよかった」ポスターで出馬された丸川珠代五輪担当相もメンバーだ。
・「護憲派」のみなさんからすれば、「神社本庁」は憲法改正をたくらむ「悪の組織」なのだ。 ご覧になった方も多いだろうが、15年からは初詣客で賑わう神社に「国民の会」のブースを設置、参拝客に署名を呼びかるほか、それぞれの神社の宮司が「氏子」に憲法改正の必要性を訴え、署名集めを依頼するという事態も起きている。なぜそんな昔の日教組みたいなことをしているのかというと、15年に長野市内で開かれた日本会議の支部総会で事務局員が語った言葉がわかりやすい。 「これは請願署名ではない。国民投票という大空中戦で投票を呼びかける名簿になる」(毎日新聞2016年5月4日)
▽護憲派vs保守派の情報戦はフラットな議論の邪魔になる
・こういう動きを誰よりも敏感に感じ、その芽をつぶしてしまおうとがんばっていらっしゃるのが「護憲派」のみなさんだ。 そんな彼らのテンションがマックスになるのが、5月3日の憲法記念日周辺である。実はこの日は「日本会議」や「国民の会」などの憲法改正推進団体だけではなく、「九条の会」などの護憲派もさまざまなイベントを催しているのだ。
・そうなると俄然ネットも盛り上がる。「市民」のみなさんの反原発デモの「参加」や「連帯」の呼びかけが、いまやビラではなく、SNS上でおこなわれる、というのはいまさら説明の必要がないだろう。 想像してほしい。憲法記念日という1年に1度のイベントを前にSNS上で「護憲派」のみなさんがさまざまな情報をやりとりしているなかで、ひょこっと京都の街で不気味なポスターと見たという投稿がひっかかる。かねてから一部で叩かれてきた「愛国ポスター」だが、SNSの反応を見る限り、まだ「鮮度」が落ちていないようだ。 これを拡散しない手はない。もし筆者が「護憲派」だったら、ここぞとばかりに「愛国プロパガンダだ!」とバッシングにまわる。
・断っておくが、批判をしているわけではない。「情報戦」というものはタイミングがなによりも大事であり、過去の使い古されたネタであっても、それが有効である場合は躊躇なく再利用し、敵対する相手へのカウンターにすべきであり、今回の「愛国ポスター」の炎上騒動は、その可能性があると申し上げたいのだ。
・「護憲派」もしくは「保守派」で考えが固まっているみなさんにとっては、このような話をしても意味がないが、もし憲法についての議論をフラットに眺めたいという人は、このような「印象操作」に気をつけていただきたい。  「平和憲法」をめぐる、熾烈な「情報戦」はすでにはじまっているのだ。
http://diamond.jp/articles/-/127488

島田氏が 『日本には多くの宗教団体が存在している。とくにキリスト教やイスラム教のような支配的な宗教が存在しないので、その分、数多くの新宗教が生まれている』、との指摘は確かにその通りだ。成長の家について、 『戦後になっても谷口は、「日本は戦争に負けたのではない」と、敗戦を合理化した。そして、東西冷戦の時代が訪れ、保守と革新、右翼と左翼の対立が激しいものになると、戦前の天皇崇拝や国家主義、家制度の復活などを主張するようになり、保守勢力に支持された』、とは驚くべきしぶとさだ。宗教とはそれだけ信者を虜にするということなのだろう。 『ナショナリズムの傾向が強い生長の家の主張、宗教を背景とした右派的な政治思想は力をもち得るようになってきた。こうした状況は、今後も長期にわたって続く可能性がある』、との指摘もその通りなのだろう。
窪田氏の記事のなかで、 『「愛国」を呼びかけるプロパガンダ広告が、実はそういうイデオロギーを掲げる人が忌み嫌う他民族の方の写真を使っていた、というブーメラン的な現象』、というのではスポンサーの神社本庁や広告代理店の当時の慌てぶりは相当なものだったのだろう。 『ナチスの「最も美しいドイツ・アーリア人の赤ちゃん」』、が実はユダヤ人だったとして、 『エスノセントリズム(自民族中心主義)というものが必ず後頭部に突き刺さる特大ブーメランになる、ということを示す好例』、との指摘は初めて知った。 『15年からは初詣客で賑わう神社に「国民の会」のブースを設置、参拝客に署名を呼びかるほか、それぞれの神社の宮司が「氏子」に憲法改正の必要性を訴え、署名集めを依頼するという事態も起きている。なぜそんな昔の日教組みたいなことをしているのかというと、15年に長野市内で開かれた日本会議の支部総会で事務局員が語った言葉がわかりやすい。「これは請願署名ではない。国民投票という大空中戦で投票を呼びかける名簿になる」』、と日本会議や神社本庁が、初詣を政治的に利用しているといのも初めて知った。これでもまだ「中立的立場」を続ける窪田氏には、失望した。
なお、27日から29日は更新を休むので、30日にご期待を!
タグ:右傾化 ダイヤモンド・オンライン 現代ビジネス 島田 裕巳 生長の家 (その2)(いつの間にか日本政治の中枢に浸透した「宗教右派」の源流、「日本人でよかった」6年前の神社本庁ポスターが炎上した理由) いつの間にか日本政治の中枢に浸透した「宗教右派」の源流 教団は衰退、しかし思想は拡散… 生長の家の場合、1990年に82万1998人だったのが、2015年では52万1100人に減少 戦前は日本の軍国主義の体制を支持し、戦後も、右派の宗教家として活躍し、共産主義の脅威を訴え続けた 生長の家の方向性は、谷口が亡くなった後に大きく変わり、現在では、谷口の主張を全面的に否定し、エコロジーの実践を中心に据えた教団に変貌している 日本には多くの宗教団体が存在している。とくにキリスト教やイスラム教のような支配的な宗教が存在しないので、その分、数多くの新宗教が生まれている 新宗教に人が集まるのは「貧病争」が原因 明確な「思想」があるという点ではかなり特徴的 戦後になっても谷口は、「日本は戦争に負けたのではない」と、敗戦を合理化した 東西冷戦の時代が訪れ、保守と革新、右翼と左翼の対立が激しいものになると、戦前の天皇崇拝や国家主義、家制度の復活などを主張するようになり、保守勢力に支持された 創価学会自体はさほど政治には関心をもっていない。それは会員全体について言えることで、創価学会の会員が関心を持っているのは、政治ではなく選挙なのである 生長の家の会員であるということは、生長の家の政治思想に共感し、それを支持するということを意味 衰退が思想拡散の契機 ナショナリズムの傾向が強い生長の家の主張、宗教を背景とした右派的な政治思想は力をもち得るようになってきた。 こうした状況は、今後も長期にわたって続く可能性がある。 窪田順 「「日本人でよかった」6年前の神社本庁ポスターが炎上した理由」 微笑む女性と日の丸があしらわれたそのポスターには、「私、日本人でよかった。」というコピーがつけられており、下の方にはやはり日本の国旗とともに、「誇りを胸に日の丸を掲げよう」なんて呼びかけがされている。制作したのは、全国の神社が加盟する「神社本庁」 問題は、彼女がプロフィールで「中国人女性」となっていること。これで一気に「大炎上」となった。 「愛国」を呼びかけるプロパガンダ広告が、実はそういうイデオロギーを掲げる人が忌み嫌う他民族の方の写真を使っていた、というブーメラン的な現象というと、ナチスの「最も美しいドイツ・アーリア人の赤ちゃん」を思い浮かべる方も多いだろう 「最も美しいドイツ・アーリア人の赤ちゃん」 なんとこの赤ちゃん、ナチスが忌み嫌ったユダヤ人だったのだ ・エスノセントリズム(自民族中心主義)というものが必ず後頭部に突き刺さる特大ブーメランになる、ということを示す好例 「日本会議」の副会長で「国民の会」の代表発起人のひとりは、「神社本庁」の田中恒清総長なのだ。 さらに、「神社本庁」が組織した政治団体「神道政治連盟」の主張に賛同する超党派議連「神道政治連盟国会議員懇談会」には、衆議院225名、参議院80名(平成29年4月現在)が参加しており、そこには安倍晋三首相をはじめ自民の保守がずらり。07年に今回のポスターと瓜二つの「日本人でよかった」ポスターで出馬された丸川珠代五輪担当相もメンバーだ 15年からは初詣客で賑わう神社に「国民の会」のブースを設置、参拝客に署名を呼びかるほか、それぞれの神社の宮司が「氏子」に憲法改正の必要性を訴え、署名集めを依頼するという事態も起きている なぜそんな昔の日教組みたいなことをしているのかというと、15年に長野市内で開かれた日本会議の支部総会で事務局員が語った言葉がわかりやすい。 「これは請願署名ではない。国民投票という大空中戦で投票を呼びかける名簿になる」
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物流問題(その3)(「宅配ボックス100万台時代」が到来する、大前研一氏が宅配ボックスの大量設置に反対する理由) [企業経営]

昨日に続いて、物流問題(その3)(「宅配ボックス100万台時代」が到来する、大前研一氏が宅配ボックスの大量設置に反対する理由) を取上げよう。

先ずは、6月21日付け日経ビジネスオンラインが外資系証券などで10年以上にわたり流通業界の証券アナリストとして活動し、フロンティア・マネジメント代表取締役の松岡真宏氏へのインタビュー記事「「宅配ボックス100万台時代」が到来する 『宅配がなくなる日』の著者・松岡真宏氏に聞く」を紹介しよう(▽は小見出し、――は聞き手の質問、+は回答内の段落)。
・大規模なサービス残業の実態が発覚したことなどを受けて、宅配最大手ヤマト運輸が構造改革に着手している。ヤマトはなぜ、危機に直面したのか。6月上旬に著書『宅配がなくなる日』(日本経済新聞出版社)を上梓した、フロンティア・マネジメントの松岡真宏氏と山手剛人氏は、時間価値の激変が背景にあると話す。そして、今後は「宅配ボックス100万台時代」に向けて大競争が始まると予測する。(聞き手 大竹剛)
――宅配最大手ヤマト運輸で、2年間で約190億円もの残業代が未払いだったという、サービス残業の実態が明らかになりました。4月には構造改革の計画を公表していますが、ヤマトはなぜ、このような窮地に追い込まれてしまったのでしょうか。
フロンティア・マネジメント 松岡真宏代表取締役(以下、松岡):いわゆる「ラスト・ワン・マイル」というか、ビジネス工程の最後の部分というのは、一般的に一番単純に見えるものですが、実はそこでの改革が最も遅れがちなんですね。例えば、エアラインでもチケットを発券して、搭乗口で確認するという工程は、古くから全く変わっていないでしょう。最近になって、ようやくスマートフォンに表示したバーコードを読み取れるようになるなど変化してきましたが、宅配便のラスト・ワン・マイルは基本的に誕生してから変わっていません。
+そうした中で、商品を選び、代金を支払うといった購買プロセス、企業側から見ればビジネス工程の上流は、アマゾンをはじめとするネット通販やスマートフォンなどの登場によってどんどん効率化していきました。それによって、消費者は気軽に、単価の安い商品までも注文し、宅配で自宅に送るようになりました。
+こうした変化が急速に起きる一方で、ラスト・ワン・マイルのビジネスモデルだけが根本的に転換できておらず、現場が頑張ってしまったということだと思います。環境変化に耐えられず、もっと早くから現場が「このままでは荷物を運べなくなる」と騒いでいれば、おそらく、問題が顕在化するのがここまで遅れなかったはずです。しかし、ヤマトなど宅配を手掛ける物流企業の経営者も、組合を含む従業員側も、制度疲労のまま頑張ってしまった。そのツケが、ここにきて一気に噴出しているということでしょう。
――近著「宅配がなくなる日 同時性解消の社会論」(日本経済新聞出版社)では、ヤマトをはじめとする宅配業界が抱える問題を、「同時性」という切り口で分析しています。宅配業界における「同時性」とは、荷物を届ける人と、受け取る人が、同じ時間に同じ場所にいることです。かつては主婦など家族の誰かが家にいることが多く、この同時性が成り立つことを前提に宅配便のビジネスモデルは構築されていたのですが、最近では共働き家庭や単身世代が増えて、そもそも家で荷物を受け取れる可能性が下がっている。もはや、「同時性」が成り立つという前提が崩壊してしまった。
松岡:以前、コンシェルジュが常駐しているマンションに住んでいたことがあるのですが、私が家にいなくても、何でも受け取ってくれるから、ものすごく便利なんですね。だから、ネット通販だけではなくて、北海道でも銀座でも、買ったものをどんどん、家に送ってしまうようになりました。そこでは、家で私自身が受け取るという同時性を、コンシェルジュが解消してくれていたわけです。最近、普及が始まっている宅配ボックスは、まさにコンシェルジュと同じ役割を果たしています。
+同時性が解消されて便利になると、家に送る荷物の価値はどんどん小さくなるんです。私は1980年代に東京で学生をしていたのですが、愛知の実家に帰ったときは、いろいろと段ボールに荷物を詰めて東京に送っていました。昔の宅配便というのは、物の価値とか思い出とかがたくさん詰まった荷物を運んでいたんです。
+もちろん、今でもそういう荷物はあるでしょう。しかし、アマゾンがあって、スマホがある世の中では、価値が大きい商品とか、思い出が詰まった荷物とかではなくて、シャンプーといった数百円レベルの安い物が非常に増えました。それは、消費者にとって非常に良いことだと思います。ただ、それを支える仕組みが、思い出を送る仕組みと同じものを使っていることが大きな問題なんだと思います。それを変えずに、一生懸命頑張りますというのは、非常に辛いですよね。
+本のタイトルには「宅配がなくなる日」と付けましたが、今の宅配便が完全にゼロになるということを言っているのではありません。ただし、運んでいる荷物の価値が小さくなっているのだから、サービスやインフラも、もっと価値を落としたもの、廉価なものにしていく必要があるでしょう。
▽経済活動を道徳で縛る発想は全体主義的
――今の宅配便の仕組みは完全にオーバースペックであって、もっとコストを落とした別のインフラが必要だというわけですね。
松岡:いわば、エコノミークラスの料金の人を、ファーストクラスに乗せて運んでいるようなものです。しかも、ヤマトは構造改革の一つの柱として、運賃の値上げを発表していますよね。これは、私から見ればファーストクラスが埋まってしまったから値上げをしますと言っているのであって、根本的な解決にはなっていません。エコノミークラスの料金の人を、適正なコストで運ぶ新しいネットワークこそが必要でしょう。
+それともう一つ。ヤマトの問題が大きく報道されるようになってから、不在にするのはドライバーさんに申し訳ないという声が大きくなって、再配達がなくなるように家にいようという機運が高まりましたが、私はこうした動きには疑問です。もちろん、汗をかきながらシャンプーのような単価の安い荷物を再配達してくださるドライバーさんは、本当に気の毒で申し訳なく思います。しかし、経済活動を道徳で縛るような発想は、経済発展にとって正しい姿なのでしょうか。
+経済発展というのは、結局、欲望をいかに満たしていくかと企業側が努力することで実現するものです。それを消費者に我慢しろというのは、社会主義的だと思いますよ。
――それでは、具体的にはどのような宅配ネットワークが必要なのでしょうか。
松岡:そこで重要になるのが、「同時性の解消」という観点です。具体的には、宅配の“セルフサービス化”による同時性の解消です。やはり、一番可能性があるのが宅配ボックスというソリューションだと考えています。 このアイデアは山手が出してくれました。私は最初、コンビニや百貨店、スーパーなどの店舗に宅配ボックスを設置して、それらを荷物の受け取り拠点にすることを考えました。それによって、荷物を取りに行くことが動機付けになり、店舗で買い物もしてくれるかもしれない。 ただ、それでも現在の宅配総数は約40億個ですから、全然足りません。
▽自販機型ビジネスで宅配ボックスは広まる
山手剛人フロンティア・マネジメント 産業調査部シニア・アナリスト(以下、山手):今、宅配総数の約2割が再配達だと言われています。つまり、約8億個ですよね。一方、コンビニ店舗も含め、商業施設や駅に宅配ボックスを設置したとしても、せいぜい、約2億~3億個しか賄えないと試算しました。2億個とすると5%分ですから、足りません。
+そこで、どうするかを考えました。ヒントとして着目したのが、ソフトドリンクの自動販売機です。自販機は今、全国に約250万カ所に設置されています。それと同じ数だけ設置できないとしても、仮に、1カ所あたり10個くらいの宅配ボックスを100万カ所設置できれば、全国で1000万個分、365日で36億5000万個、取り扱うことができます。
――ただし、その宅配ボックスを誰が設置するのかという問題もあります。
山手:その通りで、可能性があるとしたら、自販機と同じようなフランチャイズ方式でしょう。遊休地を持っている個人や個人事業主などに対して、企業が宅配ボックスを置くフランチャイズのパッケージを提供するというものです。自販機もコンビニも、パッケージの内容を企業が競いあってオーナーを獲得していったからこそ、非常に多くの自販機や店舗が全国に普及しました。それと同じように、宅配ボックスも企業が設置を競い合い、かつ、設置する個人もメリットを得られるようなビジネスモデルを構築できれば、普及は加速すると思います。
松岡:宅配ボックスの普及に市場原理を導入するというのは、非常に重要な視点だと思います。ヤマトは宅配ボックスをオープン型にして、その宅配ボックスを各社で共有しましょうという戦略を描いているようですが、私は企業が競争し合わないとダメだと思います。企業も個人も、儲けようというアニマルスピリットで競争するからこそ、社会的な課題の解決が進むのだと思います。
+それこそ、アマゾンのような購買プロセスの川上で圧倒的な力を持つ事業者が、設置に乗り出すかもしれません。既に、アマゾンは米国などで独自のロッカーを設置しています。中国では、荷物の受け取りだけではなく、送ることもできるスマート宅配ボックスなるものを各社が設置を競い合い、既に4万カ所以上に普及しています。
――こうした宅配ボックスを本気で設置していくと、既存の宅配事業と競合することにもなりかねません。人手不足問題の解消という観点からは必要でしょうが、将来的には従来のような“ファーストクラス”の宅配事業は縮小せざるを得なくなるかもしれません。
松岡:ヤマトをはじめとする宅配事業者は、既存のネットワークが非常に巨大なので、なかなか変更することは難しいかもしれません。既存の宅配ネットワークを縮小するというリスクがあるとすれば、宅配ボックスを本格的に普及させようというインセンティブは、あまり働きにくいですね。
▽「宅配のLCC」が必要になる
――米国などでは、個人が隙間時間を使って荷物を運ぶというサービスも登場しています。個人が隙間時間を利用して自分のクルマに他人を乗せて目的地まで送る、ウーバーの宅配版といったサービスです。
松岡:確かに海外ではそうしたサービスも登場していますが、日本でどこまで可能かは分かりませんね。そこまで人件費の安い人があふれているという状況でもないでしょう。
山手:ウーバー的に、人々が隙間時間を利用して荷物を運ぶという仕組みも、結局のところ現在の宅配の延長で、それでは「同時性の解消」につながりません。誰かが、荷物が届くのを待っていなければなりませんから。むしろ、自販機を250万台も普及させた日本には、フランチャイズ方式で宅配ボックスを普及させる潜在的な力があると思います。
――アマゾンは、当日配送の一部や、1時間、2時間というスピード配送を実現する「プライム ナウ」向けの配送網を、自前で構築し始めています。実際の配達は物流会社に委託していますが、ヤマトなど既存の宅配ネットワークとは別の仕組みです。1時間で届けるといったスピード配送は、注文した個人も急いでいるために、配達を待っていて確実に受け取ることを前提にしています。そこでは、むしろ崩壊し始めている「同時性」が成立しているとも言えます。
松岡:今後、荷物を受け取るための時間に消費者がどれだけお金を払うかで、サービス内容は分かれていくのだと思います。 私たちは、時間の価値は大きく2つに分かれると考えています。「節約時間価値」と「創造時間価値」です。前者は、要するにあまり楽しくないから、できれば節約したい時間です。後者は、楽しいからずっと続けていたいと思うような時間です。
+宅配の荷物を待つというのは、基本的には面倒臭い時間ですから、節約時間価値ですよね。つまり、多くの人は短くしたい、もしくはそもそも、待っていたくないと思うわけです。ヤマトの時間指定枠は6月19日から変更になり、午前中、午後2~4時、午後4~6時、午後6~8時、午後7~9時となりました。午後0~2時が廃止され、1時間枠の午後8~9時が2時間枠の午後7~9時に変更になったのですが、2時間も待ちたくないと思うのが、多くの消費者の正直な気持ちではないでしょうか。宅配ボックスのニーズが高まっているのは、そのためです。
+その一方で、今すぐ欲しいというニーズもあります。待ちたくないので、1時間で持ってきてくれれば、その分、お金は払ってもいいという消費者もいるわけです。
山手:プライム ナウの1時間配送は、年会費とは別に1回890円の配送料がかかります。もしかしたら、商品の値段よりも配送料の方が高くなるかもしれない。非常に付加価値の高い、上澄みの部分ですよね。だからこそ、自社の経営資源を投じるだけの価値があると判断しているのだと思います。
松岡:今後、ニーズごとに宅配のネットワークは細分化していくことになると思います。エアラインの世界でも、かつてはフルサービス・キャリアだけでしたが、そこにローコスト・キャリア(LCC)が登場して勢力を急拡大するなど、ニーズごとにサービスが細分化していきました。宅配の世界でも、LCC的なネットワークが今後、不可欠になるでしょうし、ニーズをとらえて急速に台頭する新しいサービスも登場してくるのではないでしょうか。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/030300119/062000014/

次に、4月14日付けNEWSポストセブン「大前研一氏、宅配ボックスの大量設置に反対する理由とは」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・宅配便を受け取れず、再配達を頼んでもまた受け取れないということもあるだろう。問題解決にと宅配ボックスの注文が殺到し、生産が追いつかないほどだ。とある自治体では、宅配ボックスを各家庭に設置し、宅配業者の負担が減ったと報じられた例もある。ところが、経営コンサルタントの大前研一氏は、宅配スーパー経営の経験から、受け取り用のボックス設置は問題解決につながらないと指摘する。その現実的な方法について、大前氏が提案する。
・受取人の不在時に荷物を預けられる「宅配ボックス」の大量増設については反対だ。政府は4月から1か所あたり通常150万~200万円かかる設置費用の半額を補助する制度を新設し、宅配業者が駅やコンビニに宅配ボックスを設置することを後押しするという。 しかし、私が宅配スーパー「エブリデイ・ドット・コム」を10年以上にわたって経営した経験から言えば、宅配ボックスは管理が非常に難しい。トラブルの元である。盗難や事故に加え、生鮮食品の場合は衛生上の問題などもあるからだ。 
・たとえば、宅配会社が荷物を入れておいても、受取人が取り出しを忘れてしまったりする。実際、東急などはDPEで預かったフィルムのプリントが出来上がったら駅のボックスの中に入れておき、帰宅時にピックアップしてもらうという仕組みを作ったことがあるが、うまくいかなかった。
・また、コンビニに宅配ボックスを設置するというが、敷地に余裕がある地方や郊外はともかく、都心のコンビニに宅配ボックスを設置するスペースはない。さらに戸建て住宅の場合、個別の設置は有効だが、共同利用の大型ボックスとなると景観上の問題もある。政府は今年度予算案に約5億円を計上し、約500か所の宅配ボックスを新設すると報じられているが、税金の無駄遣いでしかないと思う。
・「エブリデイ・ドット・コム」でうまくいったのは、近所のサラリーマンに“副業”として配達を手伝ってもらうことだ。地方のサラリーマンは、たいがい車の免許を持っているので、出勤前や帰宅後に自宅周辺の家に配達してもらうのである。配達料は1個100円。朝夕10個ずつでも1日2000円稼げるわけだ。依頼する側としても、ヤマト運輸や佐川急便より安くつくので、コストが削減できる。
・これは“空いているもの”を利用した「アイドルエコノミー」の一つである。 宅配業者の専属ドライバーが早朝・夜間に配達すれば残業や過重労働になる。しかし、サラリーマンの空いている時間を利用した副業なら、何も問題はない。また、大半の主婦は朝や夜の配達を嫌がるが、近所の顔見知りのおじさんなら安心だ。
・今はスマホがあるから配達・集荷の手配も簡単だし、時間に余裕のあるサラリーマンも多いだろう。電車通勤が中心の東京などでは、飛躍的に普及している電動自転車で配達してもらうという方法もある。 
https://www.news-postseven.com/archives/20170414_509063.html 

第一の記事で、 『宅配ボックスを誰が設置するのかという問題もあります。 山手:その通りで、可能性があるとしたら、自販機と同じようなフランチャイズ方式でしょう。遊休地を持っている個人や個人事業主などに対して、企業が宅配ボックスを置くフランチャイズのパッケージを提供するというものです。自販機もコンビニも、パッケージの内容を企業が競いあってオーナーを獲得していったからこそ、非常に多くの自販機や店舗が全国に普及しました。それと同じように、宅配ボックスも企業が設置を競い合い、かつ、設置する個人もメリットを得られるようなビジネスモデルを構築できれば、普及は加速すると思います』、との指摘は「たら。れば」の域を出るものではない。 『今後、ニーズごとに宅配のネットワークは細分化していくことになると思います。・・・・宅配の世界でも、LCC的なネットワークが今後、不可欠になるでしょうし、ニーズをとらえて急速に台頭する新しいサービスも登場してくるのではないでしょうか』、との指摘はその通りなのかも知れない。松岡氏はアナリスト時代は力があったが、産業再生機構でダイエーの再生にも関与した際には、財務面だけはキレイにしたものの、事業面では再生にはほど遠く、その後も再生失敗を続けていることから、もう神通力はないのかも知れない。
大前氏が、 『私が宅配スーパー「エブリデイ・ドット・コム」を10年以上にわたって経営した経験から言えば、宅配ボックスは管理が非常に難しい。トラブルの元である。盗難や事故に加え、生鮮食品の場合は衛生上の問題などもあるからだ』、との指摘は実体験に基づくだけに、説得力がある。 『政府は4月から1か所あたり通常150万~200万円かかる設置費用の半額を補助する制度を新設し、宅配業者が駅やコンビニに宅配ボックスを設置することを後押しするという・・・政府は今年度予算案に約5億円を計上し、約500か所の宅配ボックスを新設すると報じられているが、税金の無駄遣いでしかないと思う』、との指摘はその通りだ。
タグ:ヤマト運輸 日経ビジネスオンライン Newsポストセブン 物流問題 (その3)(「宅配ボックス100万台時代」が到来する、大前研一氏が宅配ボックスの大量設置に反対する理由) 「「宅配ボックス100万台時代」が到来する 『宅配がなくなる日』の著者・松岡真宏氏に聞く 大規模なサービス残業の実態が発覚 構造改革に着手 「ラスト・ワン・マイル」というか、ビジネス工程の最後の部分というのは、一般的に一番単純に見えるものですが、実はそこでの改革が最も遅れがちなんですね ビジネス工程の上流は、アマゾンをはじめとするネット通販やスマートフォンなどの登場によってどんどん効率化 ラスト・ワン・マイルのビジネスモデルだけが根本的に転換できておらず、現場が頑張ってしまったということだと思います 宅配業界における「同時性」とは、荷物を届ける人と、受け取る人が、同じ時間に同じ場所にいることです 最近では共働き家庭や単身世代が増えて、そもそも家で荷物を受け取れる可能性が下がっている。もはや、「同時性」が成り立つという前提が崩壊 エコノミークラスの料金の人を、ファーストクラスに乗せて運んでいるようなものです。しかも、ヤマトは構造改革の一つの柱として、運賃の値上げを発表していますよね。これは、私から見ればファーストクラスが埋まってしまったから値上げをしますと言っているのであって、根本的な解決にはなっていません 、一番可能性があるのが宅配ボックスというソリューション 可能性があるとしたら、自販機と同じようなフランチャイズ方式でしょう。遊休地を持っている個人や個人事業主などに対して、企業が宅配ボックスを置くフランチャイズのパッケージを提供するというものです 今後、ニーズごとに宅配のネットワークは細分化していくことになると思います 宅配の世界でも、LCC的なネットワークが今後、不可欠になるでしょうし、ニーズをとらえて急速に台頭する新しいサービスも登場してくるのではないでしょうか。 大前研一氏、宅配ボックスの大量設置に反対する理由とは 「宅配ボックス」の大量増設については反対 政府は4月から1か所あたり通常150万~200万円かかる設置費用の半額を補助する制度を新設し、宅配業者が駅やコンビニに宅配ボックスを設置することを後押しするという 私が宅配スーパー「エブリデイ・ドット・コム」を10年以上にわたって経営した経験から言えば、宅配ボックスは管理が非常に難しい。トラブルの元である。盗難や事故に加え、生鮮食品の場合は衛生上の問題などもあるからだ 政府は今年度予算案に約5億円を計上し、約500か所の宅配ボックスを新設すると報じられているが、税金の無駄遣いでしかないと思う 「エブリデイ・ドット・コム」でうまくいったのは、近所のサラリーマンに“副業”として配達を手伝ってもらうことだ。地方のサラリーマンは、たいがい車の免許を持っているので、出勤前や帰宅後に自宅周辺の家に配達してもらうのである 「アイドルエコノミー」の一つである

物流問題(その2)(「アマゾンフレッシュ」の生鮮宅配にヨーカドーとヤマトが負ける日、元会長 都築幹彦氏に聞く「ヤマト誤算の検証」(上、下)) [企業経営]

物流問題については、3月16日に取上げたが、今日は、(その2)(「アマゾンフレッシュ」の生鮮宅配にヨーカドーとヤマトが負ける日、元会長 都築幹彦氏に聞く「ヤマト誤算の検証」(上、下)) である。

先ずは、イー・ロジット チーフコンサルタントの角井亮一氏が4月26日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「「アマゾンフレッシュ」の生鮮宅配にヨーカドーとヤマトが負ける日 料金、配送、品揃え、物流…各方面から徹底比較!」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・野菜や果物、鮮魚などの生鮮食品を始め、冷蔵や冷凍の商品も取り扱う「アマゾンフレッシュ」。これまでのインターネット通販とはひと味違ったサービスだが、4月21日から日本でもサービスがスタートした。そこで、物流企業などのコンサルティングを手掛け、アマゾンを長年研究している角井亮一氏に、既存のネットスーパーや物流企業などが展開するサービスと比較してもらうとともに、小売り、物流企業などに与える影響を論じてもらった。
▽米国での誕生から10年目にして日本でもサービスのスタート
・2007年に米国で「アマゾンフレッシュ」が誕生してから今年で10年の今年、ついに日本にも上陸した。 昨年に出版した「アマゾンと物流大戦争」(NHK出版)で書いたように、すでに5~6年前から上陸する兆候はあったのだが、ようやく機が熟したのだろう。17年4月21日からついに日本でサービスを開始した。
・アマゾンフレッシュの有力な国内の対抗馬は、セブン&アイ・ホールディングス傘下のイトーヨーカドーが展開するネットスーパー「イトーヨーカドーネットスーパー」と言われている。そこで両社のサービスの中身を比較してみることにする。 最も大きな違いは、年会費の有無だ。アマゾンフレッシュは、年会費3900円のプライム会員がプラス500円を支払えばサービスを受けることができ、合計で4400円が必要だ。一方のイトーヨーカドーネットスーパーは年会費無料だ。
・送料は、アマゾンフレッシュの場合、6000円以上で無料。対するイトーヨーカドーネットスーパーは、通常1回につき324円(税込)となっているのだが、アマゾンに対抗してか4月30日までは6000円以上無料としている。ただし、6000円未満の場合、アマゾンフレッシュは配達料500円(税込)がかかる。イトーヨーカドーネットスーパーは324円(税込)だから少し割高だ。
・配達スピードは、両社ともに最短4時間。配達時間は、アマゾンフレッシュが午前8時から翌日午前0時までなのに対し、イトーヨーカドーネットスーパーは午前10時から午後10時まで。しかし、アマゾンフレッシュの配達便が8便なのに比べ、イトーヨーカドーネットスーパーの西日暮里店は23便(145店の平均は10便)とかなりの違いとなっている。
▽品揃えは充実の10万アイテムで ヨーカドーネットスーパーの10倍
・このように比較してみると、物流や配送に関しては、大差ないことに気づくだろう。では、一番の差はなにか。それは商品の品揃え、アイテム数だ。  アマゾンフレッシュは、野菜、果物、鮮魚、精肉、乳製品など、1万7000アイテムを揃え、プライムナウで扱う商品アイテム(キッチン用品、健康・美容用品、ベビー用品、ペット用品など)まで含めれば、10万アイテム以上と、品揃えはじつに充実している。 当初、15年11月のアマゾンプライムナウの品揃えが3万アイテム、1年前で6万5000アイテムだと言っていたから、10万点以上にまで広げた努力は凄まじいものがある。
・一般的にコンビニエンスストアは3000アイテム、食品スーパーは1万5000アイテムと言われているから、圧倒的な差だといえる。これに対し、ヨーカドーネットスーパーは1万アイテム。つまり、アマゾンフレッシュは10倍以上のアイテム数となり、消費者から見ればその差は歴然だ。
・しかもである。この10万点の中身が素晴らしい。例えば、オイシックスの美味しい有機野菜など、消費者にとても魅力的に映るものも数多く取り揃えられている。これは、一番目を引くと思われる。 さらに、人形町今半の精肉もあるし、人気のロールケーキ「堂島ロール」(モンシェール)や、粕漬けの魚久、鮮魚の北辰、お菓子の黒船なども品揃えに入っていて、買いたいと思う商品は多数にのぼる。
・また、毎週火曜と金曜に開催する「新鮮市」では、新鮮な野菜や鮮魚が販売される。こうした商品を、物流費など採算度返しで展開されると、日本のネットスーパーにとっては極めて厳しいかもしれない。
▽値上げや当日配送の制限はアマゾン一強時代を加速させる
・それでは、物流企業に対する影響はどうなのか。今年に入って宅配最大手のヤマト運輸は、アマゾンを意識した発言を続けている。値上げもしかり、当日配送の撤退まで匂わせているほどだ。 そこで、ここではアマゾンフレッシュとヤマト運輸の配送サービスの違いを見てみよう。 消費者が一番気にするのは、配達時間だと思う。特に忙しいワーキングマザーには、夜間配送の有無が気になるところだろう。明らかにアマゾンフレッシュのほうが、朝早く、そして夜も遅くまで配送してくれる。深夜0時まで必要かどうかは置いておくとして、9時過ぎの要望は多いようだ。
・また、便数は5便と8便とでヤマトが勝る。しかし、ヤマトに対する不満として、良くツィッターなどでつぶやかれるのが「午前1つの時間枠」。それに比べて、アマゾンフレッシュの場合、午前中は2時間ごとの2便ある。  ただヤマトは、電話やアプリで再配達の依頼が可能だ。さらに配達店でも受け取ることができる。
・私は、最近、警告していることがある。それは、ヤマトが悪いわけではないのだが、値上げなどを始めとするヤマトの一連の動きは、アマゾンを利することに繋がり、アマゾン“一強”を加速してしまう可能性があるということだ。 なぜなら、ヤマトの動きは、ヤマトを多く使うネット通販や小売業のネット通販事業にとって、サービスダウンになってしまうからだ。結果として、物流サービス面でアマゾンとのレベルの差が広がり、多くの消費者はアマゾンに流れかねない。
・これは、今回のフレッシュのような生鮮野菜だけでなく、アパレルや日用雑貨、家電などでも同じことだ。  これからのネット通販企業は、宅配会社に頼ることなく、自社で配送網を構築するくらいの気概がないと沈下してしまう。自社で無理なら、同業他社と共同宅配をやるくらいの気持ちが必要なのではないだろうか。
・こうしてみていくと、アマゾンフレッシの開始によって、アマゾンがさらに消費者から支持されていくのは間違いないだろう。となれば、日本の小売業界の経営陣は、ロジスティクスへの知見を高め、物流に投資して生き残りを目指すしかないのではないだろうか。
http://diamond.jp/articles/-/126017

次に、6月15日付け日経ビジネスオンラインが掲載したヤマト運輸元会長、都築幹彦氏へのインタビュー「ヤマトは会社を作り直して信頼を取り戻せ 元会長、都築幹彦氏に聞く「ヤマト誤算の検証」」を紹介しよう(▽は小見出し、――は聞き手の質問、+は回答内の段落)。
・過去2年分で190億円に上る巨額の未払い残業代の支払い、現場の働き方改革、アマゾンをはじめとするネット通販の当日配送の見直し、さらに27年ぶりの値上げなど、ヤマト運輸は今、大きな改革を迫られている。物流業界に大変革をもたらした宅急便事業を小倉昌男氏とともに育て上げたヤマト運輸元会長、都築幹彦氏にヤマト運輸の現状に対する見方と、改革のために何が必要かを聞いた。
▽サービスの後退は信頼の失墜につながる
――一連のヤマト運輸に関するニュースをお知りになって、都築さんはどのようにお感じでしたか?
ヤマト運輸元会長・都築幹彦氏(以下、都築):まずひとこと言っておきたいのですが、日経ビジネスからの取材依頼を最初は断りました。でも、ここは会って話すべきだと腹を決めました。ヤマト運輸の歴史や経営者の考え方を伝えるべきだと思ったからです。 僕自身はサービス残業、つまり残業代の未払い問題については新聞で知りました。それでね、経営幹部に強く言いました。「君たちは恥ずかしくないのか」とね。
――直接、おっしゃったのですか?
都築:ええ。経営幹部たちにね。ヤマト運輸は2019年に創立100周年を迎えます。その前にこのようなことになって。今回はミスしたよな、と。でも、経営幹部は自らの失敗を認めて、減給などの処分を発表しています。そういう点で言えば、経営陣はきちんと責任を取ろうとしています。ただ、手を打つのが遅すぎたと思っています。
――都築さんからご覧になって何が一番問題だったのでしょうか。
都築:一番の問題は、お客さんの信頼を損ねたことです。一度、当日配達をやりますと言ったのに、できないからやめます、というのは、お客さんから見たら認められないですよ。やると言ったのは、ヤマトじゃないかと。一度始めたのにやめるのはサービスの後退です。これは、最大の信頼の失墜ですよ。こういうミスはこの先、もう絶対犯してはいけない。
――都築さんは、ヤマト運輸の現場の状況をご存じだったのですか?
都築:現場のドライバーから大変だという話は聞いていました。そもそもね、当日配送にはかなり無理があると思っていました。宅急便は全国翌日配達を基準につくったんです。それを当日配送にしたら、ドライバーを酷使することになる。ドライバー泣かせの配達方式ですよ。しかも6つの時間帯に刻んだ時間指定の配達もある。そもそも事前に十分に検証してから始めたのか疑問でした。
+しかも今は、夫婦共働きの家が多いでしょう。特に通販を利用する人はね、夫婦ともに帰りが遅い人も多い。ドライバーからすると、夕方6時に届けても留守で、ひどいときには2回も3回も行く。中にはエレベーターのないマンションの4階のようなお宅もあるでしょうし、エレベーターはあっても高層階に何度も行くのは大変です。届け終わるのは夜の10時、といった現場の苦労話を聞いて、どうなっているんだと思っていました。
+私が現役の頃から、届け日を指定してもらうようなサービスはありました。宅急便は翌日配達が原則なので、例えばゴルフ場でプレーした後にゴルフセットを自宅に送る場合、お客さん本人の帰宅に合わせて翌々日に届くようにするとか。けれど、当日配送とか、2時間ごとの時間指定などは、ドライバーにとって相当な負担になりますよ。
▽なぜ経営陣は現場に目が向かなかったのか
――日経ビジネスの取材に対する経営陣の答は、昨年夏ごろから、ネット通販の荷物が急増し、対応できなくなったというものでした。しかし現場では荷物はもっと前から増えていたという話も聞かれ、対応が遅いという印象は否めません。結果的に巨額の残業代の未払い問題につながりました。
都築:過去、サービス残業がなかったとは、正直言えません。僕の時代にも、ありましたよ。ただ今のように、夜10時まで配達するような状況ではなかったと思います。 運送業と製造業は違います。製造業なら機械を増やして24時間稼働させればいいのですが、運送業は最後は人間が足を使って届けないと仕事が完了しません。
+もともとアマゾンさんの荷物に関しては、佐川急便さんが配りきれなくなり、ヤマトで引き受けてもらえないか、とアマゾンさんに頼まれたのだと思います。もちろんほかにも小さいところまで含めてネット通販の会社はヤマト運輸のサービスを利用してくれていると思いますが、その結果、一番ひどい立場に追い込まれたのがドライバーということです。
――本社は気づいていなかったと思いますか?
都築:見て見ぬ振りをしていたとは思いませんが、対応は遅かったですね。労働組合もそう言うでしょう。実際に、私自身、組合幹部から「経営陣に対し散々言っていたのに、対策が打たれていない」と聞いています。それも、もう3~4年前からの話です。だから今回の問題は急に起きたわけじゃないと思っています。
――ヤマトはもっと早い段階で、通販会社などに、もう荷物は引き受けられないと言うべきだったのでしょうか。
都築:ええ、僕はそう思います。なぜなら荷物が多すぎて配れないと、サービスの質の低下につながるからです。また僕が一番、心配しているのが「傭車」の問題です。ヤマトが配りきれない荷物を、社外の運送会社に委託して配達するというものです。もともと盆暮れなど荷物が急増する時期には、傭車を多く使っていましたが、最近は、日常的に傭車が増えている。傭車であっても、ドライバーはヤマトの制服を着ていますから、お客さんからは、一見、分かりづらいのです。このやり方は、ヤマトへの信頼を大きく損ないかねないと思っているんです。
+ヤマトのドライバーは日々お客さんと接する中で信頼を得ていくんですね。そこに他の運送会社とのサービス品質の差が生まれるんです。でもヤマト以外の運送会社に委託していたら、誰が配っても同じということになります。ヤマトは品質が高いから多少値段が高くてもヤマトを選んでいたお客さんが、ヤマト選ぶ理由がなくなってしまいます。そうなると単に価格競争になってしまうこともあります。
▽量の拡大を追い過ぎた?
――今回、ヤマト運輸はアマゾンから非常に安い価格で配送を請け負っていたようです。それはなぜだと思いますか?
都築:明確な理由は分かりません。しかし、安い荷物でも大量に引き受けることで儲けが出ると考えたのかもしれません。もともと、宅急便というのは、荷物の密度を上げる「密度化」を目標としたサービスなんです。つまり、取り扱い個数を増やせば、ネットワークの路線網を走る車の荷台の密度が高まります。すると一個当たりのコストは下がって利益が増えるというわけです。荷物が少ないと赤字ですが、どれだけ荷物を集めるか、密度化が黒字のカギということです。
+宅急便はその理論に沿って、集配車により多くの荷物を積もうと、量を追ってきました。密度化を唱えたのが小倉昌男さんであり、僕も小倉さんと一緒にやっていましたから密度化を推進してきました。密度化は、いわばヤマト運輸では小倉イズムを体現したものなんです。けれど、現状は、増えすぎた荷物に対応できなくなっている。宅急便も始めてから40年経っているんです。環境も変化して、生活態様、交通事情、天候異変など、以前にない状況が生まれています。密度化すれば黒字になるという従来の考え方では、今後はうまくいかないよ、ということです。 密度化が間違っていたというわけではありませんが、本当はもっと早く、修正すべきだったと思います。
――今回、ヤマト運輸は値上げに踏み切り、荷物を8000万個程度減らして、宅急便事業を見直そうとしています。
都築:サービスの質を守るには、それがいいと思います。むしろ、なぜ、もっと早く踏み切らなかったのか。27年前、実際に宅急便を始めて14年後、私が社長をしていたとき、宅急便の数が増えすぎて現場が追い付かなくなるという経験をして、私は値上げに踏み切りました。 社長を辞める覚悟で小倉イズムを壊そうとした
――まさに今回と同じですね。
都築:現在もそうですが、ドライバーを増やそうとしたけれど、好景気だったこともあり、人手不足で、全然、採用が追いつかない。増え続ける需要にドライバーの数が追い付かず、長時間労働に対して現場から不満も出ていました。十分な人手がなければ、翌日配達が守れないなど、サービスの品質が保てなく可能性もある。ドライバーが疲れていたら、交通事故の危険だってあります。 そこで私は値上げを決断しました。値上げにより宅急便の取り扱い個数をいったん減らそうと決めた。私は、小倉イズムを壊そうとしたんです。
――反対はありませんでしたか。
都築:値上げにはみんな反対でした。当時、運賃を値上げするには運輸省(現・国土交通省)の認可が必要でした。僕は一気に1個100円の値上げをすると決めていました。身近なサービスだけに、20円とか、30円とか、ちょこちょこ上げるのは逆によくないと考えたんです。運輸省からは宅急便は公共輸送、公共機関だからと値上げについていろいろ言われましたよ。しかし最終的にはドライバーの長時間労働を是正するためだという理由で認めてもらいました。けれど、一番反対したのが、小倉さんだったのです。
――なぜ、小倉さんは反対されたのでしょうか。
都築:実は当時、宅急便の取り扱い個数は約4億個でした。しかしライバルも多く、特に日本通運さんが手掛けていたペリカン便が追い上げていました。小倉さんは、うちが値上げしたら、ペリカン便に荷物が流れることを心配していました。シェアを守ることが大事だと考えていたんですね。
+そこで僕は小倉さんに言ったんです。今、世の中が変わってきたんですと。量を追っていたら、荷物の方がどんどん増えてしまって、翌日配達も難しくなっている。大事なのは、宅急便に対する信頼を守ることではないですか、と。いったんは値上げして荷物は減るかもしれないけど、うちもドライバーが足りないのだから、ライバルだってきっと厳しい。向こうもきっと値上げしてきます。そしたら、品質に優れたうちにお客さんは戻ってくるはずだと。
――小倉さんは納得されたんですか?
都築:最終的にはね。「運賃値上げっていくら上げるんだ」と、聞かれたので「100円上げます」と言うと、小倉さんはびっくりしちゃって。でも1回きりの値上げだから、必要な金額で実行するべきだと説明し、踏み切りました。 もし値上げがうまくいかなかったら僕は社長をやめる覚悟でした。結果的に値上げはプラスに働き、ドライバーの確保や次の成長のための設備投資の原資にすることができました。予想どおりペリカン便も値上げをして、翌年の宅急便の売り上げは前年比109%と伸びたのです。
▽信頼されるから荷物が集まる
――お客さんからの「信頼」を保つことができたとお考えですか?
都築:その通りです。だって、信頼できない運送会社に荷物は預けないでしょう?かつて、宅配の市場は郵便小包がほぼ独占していました。国鉄に荷物を託す鉄道小荷物という方法もありましたが、鉄道ですから駅から家までの足がない。一部、運送会社が運んでいましたが、「駅留」と言って、駅まで自分で荷物を取りに行かなくてはならなかったのです。みんなリヤカーで取りに行ったものです。
+一方、郵便局はというと、例えば、荷物を持って行って、この荷物はいつごろ着きますかと聞きますね、すると「着いたときに着きますよ」という答えが返ってくるような状態なんです。宅急便をやる前には、ああ、これは絶対苦情にならない、いい言い方だなと、思いました。でも、お客さんから見ると、いつ着くか分からないでは、困るでしょう。そこでヤマト運輸は、荷物を受けたら全国に翌日配達しようと。そのサービスを実現し、品質を磨いて、信頼を高めてきたんです。
+僕は縁あってヤマト運輸に入社しました。それで小倉昌男さんと一緒に宅急便を始めて、皆さんから、宅急便というのは発明だ、なんて言われてきました。やっぱり自分が働いてきたヤマト運輸という会社、育ててきた宅急便というのはかわいいんです、僕は。だから今、こういうことになって本当に悲しいんです。
――今回、ヤマト運輸には大きな問題が起きたわけですが、都築さんがヤマトがここで経営を立て直すために、もう一度輝くために何が必要だとお考えですか?
都築:それは、もう一回、原点に戻れということです。一言でいえば。宅急便を始めたときの発想からずいぶんずれちゃっているよ、ということを言いたい。 かつて、宅急便を始める前のヤマト運輸は、業績がずっと悪かったんです。それには原因があって、何の特色もない運送会社になっていたからなんです。運転手もあんまり質がいいとは言われなかった。歴史のある運送会社で、一時は成功していたんですが、知らないうちにヤマト運輸は惰性に流されて信頼されない会社になっていたんです。
――そこから宅急便をつくり、発展させてきたということですか。
都築:会社というのは作り変えることができるし、人間、考えればアイデアが生まれるものです。ただ、今の経営陣は人柄はいいけれど、品がいいというか、がむしゃらさが足りないようにも見えます。 僕は小倉さんとさんざん言い合って、議論しました。小倉さんに平気で何でも言うのは僕くらいだったかもしれないけど、言いたいことを言って議論しました。だから、今の経営陣にも、議論して考えて、ヤマト運輸を作り変えていってほしいと思います。小倉さんだって、生きていたら、もっと自分たちで考えてみたらどうだって、きっと言うはずです。
――では、会社を作り変えるということについて、さらに都築さんの意見を聞かせてください。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/030300119/061400012/?P=1

第三に、6月16日に掲載された上記記事の続き「「考える経営」が現状を打ち破る 元会長、都築幹彦氏に聞く「ヤマト誤算の検証」(下)」を紹介しよう(▽は小見出し、――は聞き手の質問、+は回答内の段落)。
・残業代未払いや荷物の増加に伴う当日配達の見直しなどで揺れたヤマト運輸。現場の問題への対応に遅れたとされるヤマト運輸の経営の問題に対してどう考えるか、同社元会長・都築氏にさらに意見を聞いた。都築氏は「(経営の立て直しのためには)会社を作り変えろ」と説き、「信頼」「挑戦」「人」など、ヤマトが取り組むべき課題を挙げる。
▽「どん底」のヤマト運輸から生まれた宅急便
――前回のインタビューの最後で、都築さんは「会社は作り変えることができる」とおっしゃいました。実際に都築さんは小倉昌男さんと一緒に宅急便事業を育て上げ、ヤマト運輸を大きく作り変えてこられましたね。
ヤマト運輸元会長・都築幹彦氏(以下、都築):僕は35年にわたって、小倉昌男さんと一緒に仕事をしました。ちょうど、僕が30歳で路線部の営業課長だった時に、4つ年上の小倉さんが営業部長になったんです。それ以来、ほぼ一緒なんです。
+この路線部というのは、ヤマト運輸の中でも主力のトラック事業の部門なのですが、赤字続きなんです。小倉さんは飲みに行くと「この会社はつぶれるんじゃないか」と嘆いていました。もちろん、小倉さんにとってヤマト運輸は、親父さんである小倉康臣さんが創った会社で、いつかは自分が継ぐという意識もあったと思います。でも、僕も一緒になって「古いばっかりで、この会社はだめですね」と言ってました。 言ってみれば、宅急便が生まれる前はヤマト運輸の「どん底」の時代だったのです。
――宅急便は苦しい状況の中で生まれたということですね。
都築:実は、宅急便の原点には、康臣氏が戦前に作った「大和便(やまとびん)」というサービスがあるのです。これはイギリスの運送会社が手掛けていた輸送サービスを参考にして作ったものですが、関東域内で運送事業をする免許を取り、個人間の荷物を運ぶ路線ネットワークを作ってドアツードアで荷物を運んでいたのです。これは非常に成功していたということです。
――そういう先見性も持っていたのに、戦後、東京-大阪という幹線への進出で遅れをとり、ヤマトの経営は苦しかった。なぜでしょう?
都築:僕もね、そのことについて、疑問に思っていたんです。そこで創業者の康臣さんに直接尋ねたことがあります。路線部の営業課長時代、康臣さんの出張のかばん持ちをすることになり、お供して得意先を回る機会があったので、そのとき思い切って尋ねたんです。
+まず、関東にネットワークを作っていたのだから、関西でも認可をとってネットワークを作ればよかったのに、そうしなかったのはなぜかと。すると、取ろうとしたときには、もうすでに西濃運輸さんや福山通運さんが関西を中心に動いていて、取りたいけれど取れなかった。向こうが強くなっていた、という答えが返ってきました。
+東京-大阪間の幹線も西濃さんや福通さんが先行して、ヤマトはそれから5~6年たって免許申請したそうです。そうしたら関西の運送業者が、運輸省に対して、ヤマトに認可を出すのを反対して、結局、遅れをとったということでした。康臣さんにすると、当時は道路も車もあまりよくなかったので、東海道はトラック輸送より鉄道、という見方をしていたと思います。そこで、遅れた面もあるかもしれません。
+最終的にはヤマトも東京-大阪間に進出しましたが、すでにライバルが荷主を押さえていました。僕自身、営業を担当したんですが、まったく取れなかった。苦労しました。 ドル箱路線の東海道を走る運送会社は長距離業者と呼ばれ、一方で、ヤマト運輸は近距離業者だと言われて、「かつては一流だったけど、今は三流」とも言われました。悔しい思いをしました。
――ヤマトは近距離業の事業でどのような荷物を手掛けていたのですか?
都築:百貨店の荷物の配送とか、家電製品の配送などですね。三越(現三越伊勢丹)さんや、松下電器産業(現パナソニック)さんが大きな顧客でした。それから旧国鉄の荷物を運ぶ通運事業も売り上げを立てていました。
▽創業者、康臣氏の功績も知ってほしい
――宅急便を始めてからは、宅急便に集中していったのですね。
都築:そうです。松下さんはじめ法人のお客さんを軒並みこちらから断わったのです。 宅急便が大成功を収めたので、今ではヤマト運輸と言うと、宅急便の会社ということになりますが、ヤマトには宅急便の前にも長い歴史があるわけです。けれどマスコミも、また社内でも、どうしても小倉昌男さんのイメージが強い。極端に言えば、昌男さんを偶像化、神格化してしまう面があります。
+しかし、実際には創業者の康臣氏の功績も大きかったのです。2人を知る私にすれば、昌男氏に比べて、康臣氏が果たした役割が知られていないことは残念です。会社の歴史には、実は学ぶことがとても多いと思うんです。 康臣さんと昌男さんは、父と息子であったゆえに、やりづらい面、難しい面もあったと思います。昌男さんにしてみると、康臣さんが長い間社長を務めて、かなりワンマンだったので自分がやりづらい思いをしたのでしょう。その影響もあり、社長や会長職に定年制を設けて、潔く身を引く制度を作ったりしています。
――定年制の影響もあってか、ヤマトは小倉昌男さんが去った後も、トップがきちんと交代しているという印象はあります。
都築:僕もきっぱりやめていますし、最後は相談役になりましたけど、発言権がないならあまりやっても仕方ないかなと、1期で辞めました。ただ、社内では小倉さんの存在が大きかっただけに、ヤマトを引っ張っていく後継者となる人材をきちんと育てたかといわれると、あまり、できていなかったかもしれません。
+初代社長の康臣さんは50年にわたって、社長を務めました。ワンマンになるのも仕方ないかもしれません。その後、昌男さんが16年社長を務めています。2人の存在はとても大きいものです。 ただ、その後は4年程度で代わっていますから、任期が短めなので、一つの考えを貫いて大きな事業を描くというのは、やりづらくなっているかもしれない。これはヤマト運輸だけの問題ではないと思いますが。今回の問題が起きて、僕は経営者をどう育てるかを強く考えさせられました。
――名経営者の後の舵取りが難しいというのはよく聞く話です。
都築:ただ、小倉昌男さんといえども、一人で経営ができたわけではないんですね。 僕は、昌男さんに随分、教えてもらいました。僕よりはるかに頭がいい人です。発想力がある。僕は何ていうかな、自分で言えば、がむしゃらにがんばるタイプです。小倉さんを陸軍大臣、総理大臣だとしたら、僕は参謀本部長というところでしょうか。やっぱりアイデアとか頭の力は小倉さんの方がある。僕は現場屋だから実践派ですね。
+ただ、二人だったから力を合わせられたところも多々あると思います。例えば、昌男さんは規制緩和を唱えて、当時の運輸省(現国土交通省)の許認可権限はおかしいとか、発言するんですね。その後、私が低姿勢で運輸省に説明に行ったり。実際に認可の申請に行くのは私ですし。「ヤマトさんは出入り禁止だよ」と役人に嫌みを言われながらも、事情を説明しましたよ。
+時には、小倉さんと意見が対立することもありましたが、僕も意見を曲げませんでした。僕のような人間をずっとそばに置いた小倉さんはすごいと思います。何でも言う人間だからそばに置いたのでしょうね。 今は、持ち株会社に変わったのだから、経営陣の中でもぜひ議論してほしいし、勉強をして議論して、時代にあった経営に変えていってほしいと思います。
▽多角化戦略をどう考える?
――おっしゃるとおり、ヤマト運輸は2005年にホールディングス制に移行し、グループとしての事業戦略を描いていますね。宅急便事業を核としながらも、法人需要、つまりBtoBの物流や海外事業の展開など、多角化路線を打ち出しています。
都築:すでにアジアなどに進出していますし、海外展開をしたいという気持ちは分かるけれど、慎重に進めるべきだと思っています。僕が言っているのは、まずは国内をしっかり固めることが先ではないかと。 将来にわたって反対というのではありません。報道などによると、佐川急便さんも海外展開に力を入れていると聞いています。一方で、日本郵政さんは海外の物流会社を買収したけれどうまくいかず、巨額の損失を出している。ヤマトには、まず自分の足元をしっかり固めて、十分に準備をしてからでもいいのではないかと。今、ヤマトの足元は決して磐石ではないと思うのです。 実際に、今回も荷物が配りきれず、問題が起きたのです。当日配達だとか海外進出とか、無理をしている面があるようにも見えます。
――ヤマトの中に、少子高齢化で、いつかは国内市場の伸びが止まるので、海外へという考えがあるのかもしれません。
都築:今後も市場が伸びていくかどうかは僕も分かりません。でも今ヤマトは5割のシェアを持っていると言われますが、5割ということはまだ5割残っているわけです。極端な言い方をしたら、全部宅急便が扱えば、今の倍になるわけでしょう。まずは国内の体制を万全にしてから、海外に展開してもいいのではないかと思います。もちろん目下の状況では、日本でさらにシェアを増やそうにも、ドライバーの確保からして、大変だと思いますが。
▽巨大物流施設が稼動して、末端は?
――2000億円を投じて、羽田や沖縄などに国内市場はもとよりアジア展開をにらんだ大規模な物流施設を作るなど、設備投資にも力を入れています。
都築:それはいいのですが、どうも大きな設備を作ったから、アマゾンさんのような大量の荷物も扱えるという判断につながったのではないか、と気にはなります。立派な施設ですね。あれだけのものを作ったら、いかに稼働率を上げていくか、ということも考えるでしょう。
・ただ、巨大物流施設で機械を使って、たくさんの荷物を受注して仕分けても、最後は全国の営業所に届いてドライバーが運ぶわけです。末端の配送の負担も考える必要がありますね。
――宅急便だけに頼る事業構造から変えていきたいという狙いはあると思います。
都築:事業には限界が来ると思うかもしれませんが、面白いもので、需要というのは、いろいろ変化するんです。 宅急便だって、考えて、考えて、もともとなかったサービスを作り出したわけです。今後は、配達の仕方だって、うんと変わっていくかもしれない。また変えていかなくちゃならないと思います。
+僕は、アイデアというものは、考えればなんぼでも出てくるんじゃないかと思っています。だから、この先、何年かしたら荷物が減るんじゃないかとか、仕事がなくなっちゃうんじゃないかと、不安になる必要はないと思う。 ある事業やサービスがこれで終わりということは、絶対ないと思います。もうどんどん新しく変わっていくわけです。その変わっていくところを、どうとらえていくかですね。
▽佐川、郵政などライバルとの争いに負けるな
――最後に、都築さんから見て、今後、ヤマト運輸、ヤマトホールディングスが大事にすべきものは何でしょうか。
都築:繰り返しになりますが、まずは「信頼」です。今回の件で、ヤマト運輸は大きく顧客の信頼を損ねてしまいました。だからもう一度、信頼を構築しないといけません。今や郵便局だって、サービス品質を上げて来ています。かつての郵便小包と宅急便のような明確な差はないのです。佐川急便さんも上場を準備していると聞きました。こうしたライバルがいることも意識しながら、ヤマトの品質も上げていかないといけないと思います。
+二つ目は「挑戦」です。宅急便は郵便小包という独占事業への挑戦でした。また宅急便だけでなく、ヤマト運輸はこれまでも、いろいろな事業に挑戦してきました。出遅れたこともありましたが、挑戦してきたから100年の歴史を築いてきた。逆に今回、こういう事件が起きたから、この機を生かしてほしいですね。 好景気で会社の調子がいいときというのは、実は経営者にとっては、やりにくいことも多いのです。でも今は、会社として見直すときですから、無駄を省いたり、新しいサービスを考えることが大事です。せっかくヤマトには歴史があるのですから、歴史から学んだり、経営者も勉強して出直し、挑戦するときだと思いますね。
・そして忘れてならないのは「人」ですね。信頼を得るのもお客さんに接する「人」で、会社の挑戦を実際に形にするのも「人」ですから。最前線にいるドライバーをはじめ、人を育て、大切にする会社になってほしいと思います。僕自身はもうヤマト運輸を離れていますが、ヤマトの事業の社会的意義は大きいし、後輩たちには期待しているんです。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/030300119/061500013/?P=1 

「アマゾンフレッシュ」は確かにすごく便利なサービスのようだ。ただ、ヤマト運輸ですら頭を抱えている配送の問題をどう解決するかについては、記事では触れられてないのは、玉にキズだ。 『これからのネット通販企業は、宅配会社に頼ることなく、自社で配送網を構築するくらいの気概がないと沈下してしまう』、というのは筆がすべり過ぎた「暴論」といえよう。
都築幹彦氏へのインタビューは、読ませる内容だ。上では、 『僕が一番、心配しているのが「傭車」の問題です。ヤマトが配りきれない荷物を、社外の運送会社に委託して配達するというものです』、というのは、ピーク時対応のために、サービス品質維持を犠牲にしていることになるが、ある程度はやむを得ないのではなかろうか。 『宅急便というのは、荷物の密度を上げる「密度化」を目標としたサービスなんです・・・密度化は、いわばヤマト運輸では小倉イズムを体現したものなんです。けれど、現状は、増えすぎた荷物に対応できなくなっている』、というのは、ビジネスモデルの根幹に係る重大な問題のようだ。 『27年前、実際に宅急便を始めて14年後、私が社長をしていたとき、宅急便の数が増えすぎて現場が追い付かなくなるという経験をして、私は値上げに踏み切りました』、小倉氏をはじめ周囲が反対するなかで、値上げを貫いたというのは、大したものだ。ただ、今回とは環境も違うので、今回の値上げが上手くいくという保障にはなりそうもない。
下では、 『「どん底」のヤマト運輸から生まれた宅急便』、というのは初めて知った。 『巨大物流施設で機械を使って、たくさんの荷物を受注して仕分けても、最後は全国の営業所に届いてドライバーが運ぶわけです。末端の配送の負担も考える必要がありますね』、というのはその通りだ。現経営陣にも慎重な手綱さばきを期待したい。
明日は、宅配ボックスの問題を取上げる予定である。
タグ:挑戦 信頼 日経ビジネスオンライン ダイヤモンド・オンライン 物流問題 (その2)(「アマゾンフレッシュ」の生鮮宅配にヨーカドーとヤマトが負ける日、元会長 都築幹彦氏に聞く「ヤマト誤算の検証」(上、下)) 角井亮一 野菜や果物、鮮魚などの生鮮食品を始め、冷蔵や冷凍の商品も取り扱う「アマゾンフレッシュ」 米国での誕生から10年目にして日本でもサービスのスタート 国内の対抗馬は、セブン&アイ・ホールディングス傘下のイトーヨーカドーが展開するネットスーパー「イトーヨーカドーネットスーパー」 アマゾンフレッシュは、年会費3900円のプライム会員がプラス500円を支払えばサービスを受けることができ、合計で4400円が必要だ。一方のイトーヨーカドーネットスーパーは年会費無料 品揃えは充実の10万アイテムで ヨーカドーネットスーパーの10倍 値上げや当日配送の制限はアマゾン一強時代を加速させる これからのネット通販企業は、宅配会社に頼ることなく、自社で配送網を構築するくらいの気概がないと沈下してしまう ヤマトは会社を作り直して信頼を取り戻せ 元会長、都築幹彦氏に聞く「ヤマト誤算の検証」 サービスの後退は信頼の失墜につながる 一番の問題は、お客さんの信頼を損ねたことです。一度、当日配達をやりますと言ったのに、できないからやめます、というのは、お客さんから見たら認められないですよ。やると言ったのは、ヤマトじゃないかと。一度始めたのにやめるのはサービスの後退です。これは、最大の信頼の失墜ですよ 宅急便は全国翌日配達を基準につくったんです。それを当日配送にしたら、ドライバーを酷使することになる ドライバー泣かせの配達方式 当日配送とか、2時間ごとの時間指定などは、ドライバーにとって相当な負担になりますよ 巨額の残業代の未払い問題につながりました ヤマトはもっと早い段階で、通販会社などに、もう荷物は引き受けられないと言うべきだった 僕が一番、心配しているのが「傭車」の問題です。ヤマトが配りきれない荷物を、社外の運送会社に委託して配達するというものです もともと、宅急便というのは、荷物の密度を上げる「密度化」を目標としたサービスなんです つまり、取り扱い個数を増やせば、ネットワークの路線網を走る車の荷台の密度が高まります。すると一個当たりのコストは下がって利益が増えるというわけです 密度化を唱えたのが小倉昌男さん けれど、現状は、増えすぎた荷物に対応できなくなっている 27年前、実際に宅急便を始めて14年後、私が社長をしていたとき、宅急便の数が増えすぎて現場が追い付かなくなるという経験をして、私は値上げに踏み切りました 値上げにはみんな反対でした 一番反対したのが、小倉さんだったのです 信頼されるから荷物が集まる 「考える経営」が現状を打ち破る 元会長、都築幹彦氏に聞く「ヤマト誤算の検証」(下) 「どん底」のヤマト運輸から生まれた宅急便 ドル箱路線の東海道を走る運送会社は長距離業者と呼ばれ、一方で、ヤマト運輸は近距離業者だと言われて、「かつては一流だったけど、今は三流」とも言われました。悔しい思いをしました 、実際には創業者の康臣氏の功績も大きかったのです 初代社長の康臣さんは50年にわたって、社長を務めました その後、昌男さんが16年社長を務めています すでにアジアなどに進出していますし、海外展開をしたいという気持ちは分かるけれど、慎重に進めるべきだと思っています まずは国内をしっかり固めることが先ではないかと 2000億円を投じて、羽田や沖縄などに国内市場はもとよりアジア展開をにらんだ大規模な物流施設を作るなど 巨大物流施設で機械を使って、たくさんの荷物を受注して仕分けても、最後は全国の営業所に届いてドライバーが運ぶわけです。末端の配送の負担も考える必要がありますね
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共謀罪(その8)(郷原氏の見方:菅「怪文書」発言、義家「守秘義務」発言こそ、国民にとって”残念”) [国内政治]

昨日、一昨日に続いて、共謀罪(その8)(郷原氏の見方:菅「怪文書」発言、義家「守秘義務」発言こそ、国民にとって”残念”) を取上げよう。

東京地検特捜部検事で弁護士の郷原信郎氏が6月16日付け同氏のブログに掲載した「菅「怪文書」発言、義家「守秘義務」発言こそ、国民にとって”残念”」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・「加計学園」の獣医学部新設問題で、「総理のご意向」などと書かれた文書の存在について、文科省で再調査が行われた結果、同省内部者からの存在が指摘されていた19文書のうち14文書の存在が確認された。  前回調査後、文科省職員による「『文書が存在する』とのマスコミへの告発証言」が相次いだことを受けて行われた再調査で、これらの告発証言の真実性が裏付けられたことになる。
・告発証言に基づく報道の一つ【(朝日)加計文書、職員の報告放置 初回調査後「省内に保管」】によれば、文書が確認できなかったとした当初調査の後、複数の同省職員から、同省幹部数人に対し、「文書は省内のパソコンにある」といった報告があったのに、こうした証言は公表されず、事実上放置されていたとのことであり、私が、再調査が決定された直後に述べたように(【「あったものをなかったことにした」前回調査での“隠ぺい”解明を】)、今回の再調査の結果から、「文書の存在が確認できなかった」とした当初の調査が、実質的に「隠ぺい」であった疑いが濃厚になったと言えよう。
・文書の存否の確認のための調査を行いながら、文書そのものを隠ぺいして、文書がなかったかのような公表をしたことは、国民に対する裏切りであり、重大な「不祥事」である。 しかも、その調査結果の公表を受けて、官房長官は、新聞報道で存在が指摘された文書を「怪文書」などと切り捨て、前川喜平前文科省次官が、記者会見で「確かに存在した」と公言しても、直前に読売新聞が報じた同氏の「出会い系バー」への出入りに言及して、教育行政の最高の責任者にあるまじき行為と個人攻撃するなど、同氏の証言の価値を貶めようとしたこと(【読売新聞は死んだに等しい】)が、「マスコミと結託した悪辣な企み」であった疑いも一層高まった。
・文科省に対する信頼を失墜させただけでなく、加計学園問題をめぐる混乱を助長することになった“隠ぺい不祥事”の背景に、官邸や内閣府のどのような動きがあったのか、徹底解明することが不可欠である。文科省は再調査の結果、文書の存在が明らかになっても、まだ「前回調査は合理的」と言っているようだが、論外だ。そのように言い通さざるを得ないこと自体が、官邸・内閣府から文科省幹部に「異常な力学」が働いていることを示していると言えよう。
▽文部科学副大臣の守秘義務違反発言
・こうした経過の中で、見過ごすことができないのは、文書の存在等を証言した文科省職員の内部告発者について、義家弘介文部科学副大臣が、6月13日の参院農林水産委員会で、「国家公務員法違反(守秘義務違反)での処分」を示唆したことである(【加計問題の内部告発者、処分の可能性 義家弘介・文科副大臣が示唆】)。
・義家氏は、 文科省の現職職員が公益通報制度の対象になるには、告発の内容が具体的にどのような法令違反に該当するのか明らかにすることが必要だ 告発内容が法令違反に該当しない場合、非公知の行政運営上のプロセスを上司の許可無く外部に流出されることは、国家公務員法(違反)になる可能性がある と述べた。
・再調査が開始された局面でこのような発言を行ったことに対して、「内部告発の犯人探し」「恫喝」など批判が集中した。しかし、その後も、義家氏は、「国家公務員には公務員の法律と手続きがある」などと述べ、菅義偉官房長官も、「一般論としての法律の解釈を説明したものだ」などと擁護した。 しかし、誰がどう考えても、文科省副大臣として、義家氏の発言が正しいとは思えない。 義家発言は、どこがどう誤っているのか。
▽義家発言の誤り
・義家発言は、少なくとも、法的な側面から見ると、大きく間違ってはいない。公益通報者保護法という「法令」によって保護される「公益通報の対象事実」は、「犯罪行為の事実」「法律の規定に基づく処分に違反する事実」等に限られている。そして、現在の文部科学省の公益通報制度において、通報の内容は「特定の法律違反行為」に限定されており、そういう意味では、保護される内部通報の範囲は、義家氏が述べたとおりである。
・しかし、そこには、重要な視点が欠落している。 いまや、世の中では当然の認識になっている“コンプライアンス”は、決して「法令遵守」にとどまるものではないということが、全く理解されていないということだ。 多くの企業では、内部通報の対象を「法令違反」に限定することはせず、組織の活動に関する不公正・不当な行為について、広く「コンプライアンス上の問題」ととらえて対応するのが当然のこととなっている。単なる法令遵守の観点だけからではなく、「本当に社会の要請、国民の要求に応えられるものかどうか」という観点から、組織の活動をチェックし、問題があれば是正していく取り組みをしていかなければならないのは、官公庁においても同様であり、むしろ、民間企業よりも高いレベルが求められているといえる。
・最近の事例を挙げれば、「南スーダンPKO派遣部隊の日報問題」で、いったんは廃棄したとされていたものの、過去の全ての日報が保管されていたことが分かり、防衛省が「隠ぺい」と批判されたことは記憶に新しい。意図的な「隠ぺい」だったとすると、社会的には到底許容されない重大な問題だが、具体的に法令に違反するわけではない。
・私は、2009年に、総務省顧問・コンプライアンス室長に就任した際、それまで総務省にあった「法令等遵守室」を「コンプライアンス室」に改め、法令違反のみならず、広く総務省のコンプライアンスに関する情報提供・申告を受け付ける「コンプライアンス窓口」を設置した。そして、「総務省の行政が“社会の要請にこたえる”という意味で問題があると考えられる場合には、積極的に申告・通報を行ってほしい」という呼びかけをした。
・この呼びかけに応じて様々な情報がもたらされた。その中で、「補助金の予算執行が不適切だ」という指摘があり、調査したところ、当初交付決定されていた約4億6000万円の補助金のうち、約2億5000万円が不適切であったことが明らかになり、減額措置をとった。内部通報によって具体的な問題を把握し、コンプライアンス室を中心に調査を行った結果だった。これも、補助金交付決定が「違法」だったわけではない。交付の手続やチェックが不十分で、税金が不当に使われそうになっていたという問題だった。
・この調査結果については、2011年5月、当時の片山総務大臣が、閣僚懇談会で報告し、他の省庁においても第三者を活用したコンプライアンスの仕組みを整備する必要性が指摘された。そして、私は、同年5月30日の参議院決算行政監視委員会に参考人として出席し、コンプライアンスを「法令遵守」ではなく、広く「社会の要請に応えること」ととらえる必要性を強調し、総務省のコンプライアンス室の取組みを他の中央官庁にも広げていく必要性を強調した(【参議院決算行政監視委員会会議録】)
・ところが、それから、6年経った今でも、文科省という官庁では、未だに、通報対象が「法令違反」に限られ、しかも、「通報時に具体的にどのような法令違反に該当するのか明らかにしないと、内部通報として扱ってもらえない」というのである。 組織が、本当の意味で社会の要請に応え、健全な活動を行っていくためには、法令違反に限らず、様々な問題について、幅広く組織内から声を挙げてもらうこと、そのために、内部通報窓口を積極的に活用することを呼びかけるという姿勢が不可欠だ。
・文科省において、「総理のご意向」などと書かれた文書の存在を確認するための調査を行いながら、「あるものをなかったことにした」のは、法令違反とまではいかないかもしれないが、少なくとも、調査の目的を無にしてしまう「隠ぺい」であり、「社会の要請に反する重大な不祥事」である。それを是正しようとする文科省職員の告発の動きは、正当な内部告発と評価できるものだ。
・ところが、義家氏は、「化石のような通報制度」を盾にとり、「守秘義務違反による懲戒処分」を振りかざして、内部告発の動きを封じ込めようとしたのである。それが、教育行政を主導する文科副大臣の発言なのである。 義家氏は、「ヤンキー先生」出身の異色の政治家として知られている。もし、教師時代の教え子が、公務員になって、「役所内で、法令には反しないが、社会的には許されないことが行われています」と言って相談に来た時、「法令違反に該当しないと内部通報として扱われないので、黙っておきなさい」と助言するのであろうか。 そのような人物に、文科省の副大臣の職責を果たす資格があるだろうか。
▽官房長官の「怪文書」発言
・「総理のご意向」の文書を「怪文書」と言って切り捨て、文科省内からの告発証言が相次ぎ、再調査を求める声が上がっても、「我が国は法治国家だから法令に基づいて適切に対応している」と言い続けて再調査を拒否し続けてきた菅官房長官の姿勢も、「悪しき法令遵守」の典型である。
・驚くべきことに、菅氏は、今回の調査で文書が文科省内で存在していたことが明らかになった後も、その「怪文書」という発言を撤回することもなく、謝罪もせず、「怪文書」という言葉が独り歩きしたことが「残念」と言って開き直っている。 「怪文書」という言葉が独り歩きしていることが「残念」だと思っていたのであれば、再調査を拒否している間に、せめて再調査の結果が出る前に、なぜそう言わなかったのか。
・菅氏は、一旦自分が言い始めたことを撤回するようなことは絶対にせず、開き直るためには、どんなに苦しい言い逃れをすることも厭わない人物であることがわかったのである。
・義家氏のような人物が文科副大臣の職にあること、そして、菅氏のような人物が内閣の要である官房長官の職にあることこそが、我々国民にとって「残念」なことである。
 https://nobuogohara.com/2017/06/16/%E8%8F%85%E3%80%8C%E6%80%AA%E6%96%87%E6%9B%B8%E3%80%8D%E7%99%BA%E8%A8%80%E3%80%81%E7%BE%A9%E5%AE%B6%E3%80%8C%E5%AE%88%E7%A7%98%E7%BE%A9%E5%8B%99%E3%80%8D%E7%99%BA%E8%A8%80%E3%81%93%E3%81%9D%E3%80%81/ 

さすがコンプライアンス問題の大権威の郷原氏だけあって、菅「怪文書」発言、義家「守秘義務」発言を見事に切り捨てた。 『2009年に、総務省顧問・コンプライアンス室長に就任』、 『私は、(2011)年5月30日の参議院決算行政監視委員会に参考人として出席し、コンプライアンスを「法令遵守」ではなく、広く「社会の要請に応えること」ととらえる必要性を強調し、総務省のコンプライアンス室の取組みを他の中央官庁にも広げていく必要性を強調した(【参議院決算行政監視委員会会議録】)』、にも拘らず、文科省や防衛省がいまだに「法令遵守」という狭義の定義に従っていたというのは、残念なことだ。確かに、省庁を護るという保守的な立場からは狭義の定義でいく方が都合がいいのかも知れないが、国民に奉仕する省庁にするという革新的な立場からは広義の定義でゆくべきだ。ただ、これは官僚任せにせず、政治家主導で推進しないと進まない問題なのだろう。この時に政権にあったのは、なんと民主党(2009年7月~2012年12月)であった。政治主導を表看板にしながら、内実は官僚のサボタージュに遭っていたので、「とてもそれどころではない」ということだったのかも知れないが、千載一遇のチャンスを失った罪は重い。本題に戻ると、 『義家氏は、「化石のような通報制度」を盾にとり、「守秘義務違反による懲戒処分」を振りかざして、内部告発の動きを封じ込めようとしたのである。それが、教育行政を主導する文科副大臣の発言なのである』、 『調査を求める声が上がっても、「我が国は法治国家だから法令に基づいて適切に対応している」と言い続けて再調査を拒否し続けてきた菅官房長官の姿勢も、「悪しき法令遵守」の典型』、などの指摘は全く同感である。マスコミにももっと勉強してもらいたいところだ。
タグ:共謀罪 郷原信郎 義家弘介 (その8)(郷原氏の見方:菅「怪文書」発言、義家「守秘義務」発言こそ、国民にとって”残念”) 菅「怪文書」発言、義家「守秘義務」発言こそ、国民にとって”残念” 「加計学園」の獣医学部新設問題 「総理のご意向」などと書かれた文書の存在 文科省職員による「『文書が存在する』とのマスコミへの告発証言」が相次いだことを受けて行われた再調査で、これらの告発証言の真実性が裏付けられたことになる 当初の調査が、実質的に「隠ぺい」であった疑いが濃厚になったと言えよう 文部科学副大臣の守秘義務違反発言 、「内部告発の犯人探し」「恫喝」など批判 保護される内部通報の範囲は、義家氏が述べたとおりである 文部科学省の公益通報制度 いまや、世の中では当然の認識になっている“コンプライアンス”は、決して「法令遵守」にとどまるものではないということが、全く理解されていないということだ 単なる法令遵守の観点だけからではなく、「本当に社会の要請、国民の要求に応えられるものかどうか」という観点から、組織の活動をチェックし、問題があれば是正していく取り組みをしていかなければならないのは、官公庁においても同様であり、むしろ、民間企業よりも高いレベルが求められているといえる 南スーダンPKO派遣部隊の日報問題 2009年に、総務省顧問・コンプライアンス室長に就任 参議院決算行政監視委員会に参考人として出席し、コンプライアンスを「法令遵守」ではなく、広く「社会の要請に応えること」ととらえる必要性を強調し、総務省のコンプライアンス室の取組みを他の中央官庁にも広げていく必要性を強調 、義家氏は、「化石のような通報制度」を盾にとり、「守秘義務違反による懲戒処分」を振りかざして、内部告発の動きを封じ込めようとしたのである。それが、教育行政を主導する文科副大臣の発言なのである 官房長官の「怪文書」発言
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共謀罪(その7)(小田嶋氏の見方2) [国内政治]

昨日に続いて、共謀罪(その7)(小田嶋氏の見方2) を取上げよう。

コラムニストの小田嶋隆氏が6月16日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「ヤンキー先生が教えてくれる安倍政権の気持ち」を紹介しよう。
・共謀罪の構成要件を厳格化した「テロ等準備罪」を新設する改正組織犯罪処罰法は、ついさきほど(つまり6月15日の午前)の参院本会議で、与党などの賛成多数をもって可決、成立した。 この法律の審議にともなうすったもんだや、成立の過程をめぐるあれやこれやについて、色々と書きたいことがないわけでもない。  だが、すでに言われ尽くしていることでもあれば、ほかの書き手がこれから繰り返すであろう内容と重複する話でもあると思うので、ただ一言「残念だ」と述べるにとどめておく。
・何を書いたところで愚痴にしかならないこの話題については、本当は、だからこそ根気良く延々と繰り言を並べ続けなければならないのかもしれない。実際それを実践している人たちもたくさんいるし、私は、その彼らの活動に敬意を抱いている。 とはいえ、私個人は、この件に関しては、心の底からうんざりしている。いまさら、ことあらためて、何らを言う気持ちにはなれない。
・前提にさかのぼって考えるに、そもそも、私のこの「うんざりしている」という感情と、その感情の結果としてもたらされた無力感が、おそらくは現今のこの状況を招き寄せた一因であったわけで、言い換えれば、さまざまなことにあらかじめうんざりしていたことの結果として、われわれは、いまいるこの地点に立っているのかもしれない。でもって、私たちは、自分たちがうんざりし続けてきたことの代価を、これから長い時間をかけて支払うことになるのだろう。まったく、一から十までうんざりする話ではないか。
・今回は、義家弘介文部科学副大臣が6月13日の農林水産委員会で述べた言葉について考えてみるつもりでいる。 というのも、義家副大臣は、現政権の「気分」というのか、精神構造をみごとなばかりに体現している人物で、それゆえ、この人の言動を観察すれば、われわれが遭遇するであろう近未来を、かなりの程度、正確に予測できるはずだと思うからだ。
・朝日新聞の報道によれば、 《13日の参議院農林水産会議で、自由党の森ゆうこ氏は、「文科省の文書再調査は(文書の存在をあると告発した)犯人捜しのためにやっているという話も出ている。今回告発した人は公益通報者にあたると思うが、権利を守る意識はあるか」と尋ねた。 これに対し、義家氏は「文科省の現職職員が公益通報制度の対象になるには、告発の内容が具体的にどのような法令違反に該当するのか明らかにすることが必要だ」と説明。さらに森氏が「『(告発者を)守る』と言えないのか。勇気を持って告発した人たちの権利を守ると言って欲しい」と求めると、義家氏は「一般論」と断った上で、「告発内容が法令違反に該当しない場合、非公知の行政運営上のプロセスを上司の許可無く外部に流出されることは、国家公務員法(違反)になる可能性がある」と述べた。》(ソースはこちら) ということになっている。
・義家氏のこの発言は、安倍総理が6月9日、学校法人「加計学園」の獣医学部の新設をめぐり文部科学省が追加の調査を行うことについて、「徹底的に調査するよう指示した」とされる、その総理の指示と整合していない。 総理は、「徹底的な調査」を指示している。 一方、義家副大臣は「非公知の行政運営上のプロセスを上司の許可なく外部に流出されることは国家公務員法(違反)になる可能性がある」と述べることで、事実上「情報の漏洩」を強く牽制している。
・並べて見れば明らかな通り、この二つの指示は正反対の方向を指し示している。 ということはつまり、この二つの指示をともに満足させることは原理的に不可能なわけだ。 事情を聴かれた文部科学省の職員はどちらの指示に従ったら良いのだろうか。 総理の意を受けて、徹底的な調査に応ずるべく、自らの知るところをすべて明らかにすると、その態度は、副大臣が指摘するように「国家公務員法」に抵触してしまうかもしれない。
・かといって、副大臣が示唆するところに従って、国家公務員法に違反しないように非公知の行政運営上のプロセスを外部に流出することを避けようとすれば、総理の指示する「徹底的な調査」に違背することになる。 にっちもさっちも行かないではないか。 文科相の職員にしてみれば、このダブルバインド状況の意味するところは、完全な行動不能である。
・てなわけで、かかる状況から導き出される近似解は、 「徹底的な調査に応ずるべく真摯に回答している体を装いつつ、その実、何ひとつ内実のある話を漏らさない証言態度」 ぐらいなところに落着する。 わかりきった話だ。 官邸にしてみれば、国会の会期が延長されて、共謀罪が可決成立するまでの間、時間を稼ぐことができればそれで良いわけだし、副大臣の立場もまた、国会審議が続いている間は、文科省が加計学園の問題から逃げている印象を薄めることができればとりあえずはオーケーだ、ということだ。
・つまり、両者の立場は、「指示」としては完全に矛盾しているものの、「意向」の上でははじめから足並みを揃えているわけで、なあに国会が閉会してしまえば、矛盾も一致も、すべてはどうせ古い資料になるだけの話なのである。 私が今回の騒ぎを眺めていて面白いと思ったのは、義家副大臣の農林水産委員会での恫喝まがいの答弁について、ネット上で 「ヤンキー先生の名が泣くぞ」 という反応がいくつかあがっていたことだ。
・これらの声がどういう意図から発せられたものなのかというと、上司である官邸の意向を忖度して、部下にあたる文部科学省の官僚を恫喝してみせた義家副大臣の振る舞い方が、「弱きを助け強きをくじく」ヤンキーの美学に反するではないか、ということだったようだ。 なるほど。
・「ヤンキー」という言葉からそういうたくましくも心正しい人間像を思い浮かべる人々がいることは、ちょっと不思議に見えるが、よくよく考えてみれば、さして意外な展開でもない。 実際、ヤンキーを理想の人間像ないしは男らしさの典型として描写する物語は、いまなお少年漫画やテレビドラマの世界では、ど真ん中のメインストリームを形成している。 「ごくせん」「タイガー&ドラゴン」「静かなるドン」「マイボス☆マイ☆ヒーロー」「任侠ヘルパー」「クローズ」「龍が如く」などなど、本来は反社会的な人物像であるはずの任侠の世界の人間をヒーローとして描くドラマなり漫画も、相変わらず高い人気を維持している。
・要するに、われら日本人は、ヤンキーが大好きなのだ。 であるからして、「ヤンキー先生」というキャッチフレーズも、単に義家副大臣の来歴が「不良あがり」だという事実を描写しただけの言葉ではない。 むしろ、「ヤンキー先生」というその名前は、義家氏に対して、「改悛したヤンキー」だからこそ期待できる、熱い人間性や行動力を期待して名付けられたものだ。
・ヤンキー先生の支持者たちは 「片隅に追いやられた人間への共感」 であるとか、 「正しいことのためにはカラダを張る傾向」 であるとか 「世の中の決まりごとや法秩序より、自らの信念にしたがってまっすぐに行動するひたむきさ」  みたいな、そういう男気(おとこぎ)なり、親分肌を彼の上に見ようとしていると、そう考えるのが自然だ。 
・しかしながら、私の見るところ、義家副大臣が、国家公務員法を持ち出して官僚を恫喝したのは、極めてヤンキーらしい処世だったし、指揮系統における親分筋にあたる官邸の意向を忖度してみせた機敏さもヤンキーしぐさ以外のナニモノでもない。 なんというのか、ヤンキーというのは、上下関係のはっきりしたサル山ライクな社会での生存に特化した生き方の別名なのであって、ヤンキーほど兵隊として有能な人間はいないという、それだけの話なのだ。
・ついでに申せば、私個人は、義家氏のようなキャラクターを副大臣として重用していることでもわかる通り、そもそも現政権の行動規範自体が、まるっきりヤンキー美学そのまんまだと考えた方が、すべてにおいてわかりやすいのではなかろうかと考えている。 もっとも、「ヤンキー」という言葉には、様々な定義が並立していて、現状では、あまり厳密な話はできないわけなのだが、ただ、私個人は、現政権が、「ヤンキー」という言葉の多義的な意味を多義的なまま含みおいた上で、いずれにしても「ヤンキー」志向であることは明らかだというふうに考えている。
・以下、傍証を並べてみる。 ヤンキーの精神性は、まるっきりの不良というのとは少し違っている。 少なくとも本人たちは、自分たちを「できそこないの不良」そのものだとは思っていない。 むしろ、自分たちのような純一で真正直な人間がうまく適応できないような世の中のありかたのほうが間違っているぐらいに考えることが、彼らの間の共感のタネになっている。
・彼らには彼らなりの道徳があり、固有の美学がある。 ヤンキーは、武士道や儒教道徳や任侠道みたいなものを寄せ集めた、独特の倫理観を共有している、と言い換えても良い。 それは、「仲間が第一」だという日本のムラ社会に昔から通有する集団主義の友情賛美傾向でもあれば、「腕と度胸と現場主義」を重んじる10歳児の任侠志向でもある。
・総じて言えば、彼らは儒教道徳(的なもの)から来る「忠孝」と、武家由来の「お家大事」と、任侠映画ゆずりの「友情物語」ぐらいな雑多な物語のアマルガムみたいなものを信じている人たちで、だからこそ本人たちは、自分たちを倫理的な人間だと考えている。
・以上は、大変に大雑把かつ粗雑なまとめだが、私が、ヤンキーと呼ばれる人間像についてざっと考えている骨子の部分だ。 異論は認める。 そう思わない人はそう思わなくてもかまわない。 大切なのは、そのヤンキーの人々が抱いている道徳なり倫理が、近代社会の法理念や人権意識と多くの部分で相容れない点だ。 で、はなはだ乱暴な結論だが、そこのところが、ヤンキー政権である現政権が、憲法改正を願ってやまない根本的な理由だとも思っている次第だ。
・実際、共謀罪も、 「仲間内の裏切りを絶対に許さない」 ことを第一の原則とする任侠世界の疑心暗鬼を明文化したものだと思えば、そんなに違和感はない。 事実、ツイッター世界の中でも「元暴力団組長」を名乗る「猫組長」なるアカウントが 《共謀罪成立で発狂してる連中見ながら乾杯したい。》  と、共謀罪の成立を歓迎するツイートを発信して、共感を集めている。
・私は、このアカウントが本当に元暴力団の組長であったのか、単なるやくざワナビーのチンピラなのか、それとも「元」と言いつつ現役としての活動をある程度残しているのか、本当のところはまったく知らないのだが、ともあれ、任侠の世界に身を置いていた設定で情報発信をしている人物が、自分たちが有力な捜査対象であるはずであるにもかかわらず、それでもなお共謀罪へのシンパシーを隠さないのは、なにごとにつけ苛烈さと明快さを好むヤンキーの人々が「人権だのポリティカリーコレクトネスだのに足をとられて思うままにその実力を発揮できずにいる民主警察」に歯がゆさを感じていることを物語っていると思う。
・共謀罪の成立を歓迎する市民は、意外なほど多い。 ちょっと前にさる高名なお笑い芸人が、日曜の番組の中で、共謀罪の成立を容認する発言をしたことが話題になったが、私はあの発言が、特定の芸人の特殊な感覚であるとは考えていない。むしろ、ああいう発言がバラエティー番組の中で普通に語られたことは、一般のテレビ視聴者の感覚がすでにヤンキー化していることを示唆するものだというふうに受け止めている。
・というのも、あの番組は、出演者の不規則発言がうっかり送出されてしまう生放送の番組ではなくて、収録済みの映像をスタッフが確認した上で再生している収録番組だからだ。  ともあれ、われわれは、任侠の世界に舞い戻ろうとしている。 賛成しない人もいるだろうが、私はそう思っている。
・ついでに申せば、私は人前で「腹心の友」みたいな言葉を使う人間は、「仲間」に対して独特の感情を持っているとも思っている。 彼は、おそらく、仲間を優遇することを、道徳的なことだと考えているはずだ。 その彼の考え方を改めさせることは容易な仕事ではない。 私は、無理だと思っている。
・ヤンキーは、「学校の先生が教室で教えていた」タイプの規範や決まりごとを、総じて憎んでいる。 で、民主主義も、その仲間に入っている。 ヤンキーは民主主義を好まない。 彼らはより鉄血でガチで時に暴力的で緊張感に溢れた、ギリギリでスパルタンな体制を好む。
・たとえば日本国憲法の三大原則と言われている 国民主権 基本的人権の尊重 平和主義 は、いずれも、ヤンキー美学からすると、なまぬるくてお花畑でどうにもイカさない女の腐ったみたいな(←ミソジニーもヤンキーの特徴のひとつですね)旗印に見える。 だから、そういうものは鼻で笑うことにしている。 法治主義も、個人主義も、多様性の尊重も、当然のことながらお気に召さない。
・どれもこれも、現代民主主義を支える理念はおよそビシっとしていない、と、そう思っている。 まあ、人間をビシっとさせるみたいな体制は、強権体制に決まっているわけだから、民主主義がその反対を志向するのは当たり前といえば当たり前なのだが、とにかく、ヤンキーはビシっとしていない体制を、コシの無いうどんをきらう讃岐の人たちみたいな調子でバカにしている。
・ヤンキーの目には、法よりは信義、個人の裁量よりは仲間の掟、人権よりは義理、平和よりは闘争、平時よりは非常時、自由よりは挺身、生命よりは死の方が美しく、尊く見えている。 その証拠に、新撰組にしても、白虎隊にしても、四十七士にしても、尊敬できる集団に属していた男たちは誰もが血によって誓った大義を成員の個々の生命より高く置いたではないか……と、彼らは考える。
・一方、民主主義が想定する社会は、その中で生きる個々人がそれぞれに別の考え方を持ち、相容れない感情と立場と自由を抱いていることを前提に設計されている。 であるから、民主主義の世界では、個々人の信念や正義感や人権が折り合わない部分については、互いに承認した法に従うことで共生することにしている。
・だからこそ、日本国憲法は、公よりは個を、規制よりは自由を、忠義よりは人権を、私的な集団の掟よりは普遍的な法律を重視しているわけなのだが、そういう曖昧でビシっとしていない世界観は、ヤンキーのみなさんにはピンと来ない。
・ヤンキー先生について、「ヤンキー」なのに「先生」だっていうのは変じゃないか、というツッコミがあったが、実は、この組み合わせはそんなに不自然ではない。 というのも、人間と人間の間に権力関係を設定すると、当然その中で生きる人間はヤンキーになるからだ。 ということは、生徒に対して上からものを言う前提で対している限り、その先生は、一定のヤンキー性を身にまとうことになる。
・私は、義家副大臣みたいなタイプの人間は、自分が関わる組織をサル山化する触媒として機能するのだと思っている。 このことはつまり、彼を重用し、文科省の大臣に据えている人間が、官僚機構をサル山化することを願っているということでもある。 もしかしたら、彼は、われわれの国の社会をまるごとサル山にしたいと考えているのかもしれない。
・まあ、その方がビシっとして良いじゃないかと思う国民が多数派を占めるようなら、うちの国がサル山化することを止めることはもう誰にもできない。 余生は、はぐれザルとして生きて行くしかないのかもしれない。 仲間はつのらない。 共謀罪になると思うので。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/174784/061500098/

小田嶋氏が、 『私のこの「うんざりしている」という感情と、その感情の結果としてもたらされた無力感が、おそらくは現今のこの状況を招き寄せた一因であったわけで、言い換えれば、さまざまなことにあらかじめうんざりしていたことの結果として、われわれは、いまいるこの地点に立っているのかもしれない。でもって、私たちは、自分たちがうんざりし続けてきたことの代価を、これから長い時間をかけて支払うことになるのだろう。まったく、一から十までうんざりする話ではないか』、と指摘しているのには同感だ。 『われら日本人は、ヤンキーが大好きなのだ』、との指摘については、私は「ヤンキー」について殆ど考えてこなかったので、新鮮だった。 『ヤンキーの目には、法よりは信義、個人の裁量よりは仲間の掟、人権よりは義理、平和よりは闘争、平時よりは非常時、自由よりは挺身、生命よりは死の方が美しく、尊く見えている。 その証拠に、新撰組にしても、白虎隊にしても、四十七士にしても、尊敬できる集団に属していた男たちは誰もが血によって誓った大義を成員の個々の生命より高く置いたではないか……と、彼らは考える』、ということは日本人の一部にある伝統的美学は、民主主義とは「相性」が悪いのかも知れない。 『うちの国がサル山化する』、とは考えるだけで恐ろしいことだ。 『余生は、はぐれザルとして生きて行くしかないのかもしれない。 仲間はつのらない。共謀罪になると思うので』、との結びの皮肉は出色だ。
明日は、義家発言を郷原氏が法律家の立場から批判した記事を取上げるつもりである。
タグ:小田嶋隆 共謀罪 日経ビジネスオンライン ヤンキー先生 改正組織犯罪処罰法 (その7)(小田嶋氏の見方2) ヤンキー先生が教えてくれる安倍政権の気持ち 私個人は、この件に関しては、心の底からうんざりしている。いまさら、ことあらためて、何らを言う気持ちにはなれない 私たちは、自分たちがうんざりし続けてきたことの代価を、これから長い時間をかけて支払うことになるのだろう。まったく、一から十までうんざりする話ではないか 義家弘介文部科学副大臣 義家副大臣は、現政権の「気分」というのか、精神構造をみごとなばかりに体現している人物 告発内容が法令違反に該当しない場合、非公知の行政運営上のプロセスを上司の許可無く外部に流出されることは、国家公務員法(違反)になる可能性がある」と述べた ヤンキーを理想の人間像ないしは男らしさの典型として描写する物語は、いまなお少年漫画やテレビドラマの世界では、ど真ん中のメインストリームを形成している 指揮系統における親分筋にあたる官邸の意向を忖度してみせた機敏さもヤンキーしぐさ以外のナニモノでもない ヤンキーは、武士道や儒教道徳や任侠道みたいなものを寄せ集めた、独特の倫理観を共有している 儒教道徳(的なもの)から来る「忠孝」と、武家由来の「お家大事」と、任侠映画ゆずりの「友情物語」ぐらいな雑多な物語のアマルガムみたいなものを信じている人たちで そのヤンキーの人々が抱いている道徳なり倫理が、近代社会の法理念や人権意識と多くの部分で相容れない点だ 日本国憲法の三大原則と言われている 国民主権 基本的人権の尊重 平和主義 は、いずれも、ヤンキー美学からすると、なまぬるくてお花畑でどうにもイカさない女の腐ったみたいな(←ミソジニーもヤンキーの特徴のひとつですね)旗印に見える ・ヤンキーの目には、法よりは信義、個人の裁量よりは仲間の掟、人権よりは義理、平和よりは闘争、平時よりは非常時、自由よりは挺身、生命よりは死の方が美しく、尊く見えている。 その証拠に、新撰組にしても、白虎隊にしても、四十七士にしても、尊敬できる集団に属していた男たちは誰もが血によって誓った大義を成員の個々の生命より高く置いたではないか……と、彼らは考える 、民主主義の世界では、個々人の信念や正義感や人権が折り合わない部分については、互いに承認した法に従うことで共生することにしている。 義家副大臣みたいなタイプの人間は、自分が関わる組織をサル山化する触媒として機能するのだと思っている その方がビシっとして良いじゃないかと思う国民が多数派を占めるようなら、うちの国がサル山化することを止めることはもう誰にもできない 余生は、はぐれザルとして生きて行くしかないのかもしれない。 仲間はつのらない。 共謀罪になると思うので
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共謀罪(その6)(共謀罪が生み出すのは密告奨励社会、“禁じ手”で「共謀罪」採決の全内幕、「共謀罪」法成立を海外はどう報じたか) [国内政治]

共謀罪については、6月6日に取上げたが、国会成立後の今日は、(その6)(共謀罪が生み出すのは密告奨励社会、“禁じ手”で「共謀罪」採決の全内幕、「共謀罪」法成立を海外はどう報じたか) である。

先ずは、6月5日付け日刊ゲンダイ「平岡秀夫元法相が懸念 共謀罪が生み出すのは密告奨励社会」を紹介しよう(▽は小見出し、Qは聞き手の質問、Aは平岡氏の回答、+は回答内の段落)。
・政府・与党が「東京五輪に向けてのテロ対策」「国際組織犯罪防止条約を締結するため」などと理由をつけて、今国会での成立を急ぐ「共謀罪」法案は強行採決で衆院を通過、参院での審議が始まったが、国民生活を脅かす懸念はまったく払拭されないままだ。この法案のどこが問題なのか、何が狙いなのか。かつて衆院法務委員会の野党筆頭理事として共謀罪法案を葬り去り、民主党政権時代には法相を務めた経験も持つ専門家・平岡秀夫氏に聞いた。
▽自首すれば減刑、密告奨励社会へ
Q:「共謀罪」は過去3回、法案が国会に提出されましたが、世論の反対が強く、ことごとく廃案になってきました。今回は、「テロ等準備罪」と名前を変えていますが、複数の人の「合意そのものが犯罪」になるという共謀罪の本質は、まったく変わっていません。犯罪意思、つまり心の中で思ったことをどうやって取り締まり、立件するのでしょう?
A:そこが大問題なのです。「合意」は「心の中で思ったこと」と紙一重で、憲法で定められた「内心の自由」を侵しかねない。「疑わしい」というだけで人が処罰される事態があり得ます。また、「悪い考えを持っている」という証拠を集めようと思えば、通信傍受(盗聴)、会話傍受、身分を偽った潜入捜査や密告に頼らざるを得ない。取り調べにおいても自白偏重になりがちで、冤罪を生じさせる危険性が高くなります。
Q:捜査員がスパイを送り込み、情報を得る手法が合法化されることへの懸念もありますね。
A:捜査員でなくても、敵対者が情報を得るために団体に入り込んだり、仲間が仲間を売り渡したりするケースが考えられます。その人たちが刑罰を免れる仕組みがつくられているからです。共謀罪法案には「実行着手前に自首した者は、その刑を減軽し、又は免除する」という「必要的刑の減免規定」が盛り込まれている。共謀に加わっても、犯罪の実行前に自首すれば、必ず刑を減免しなければならないという規定です。
Q:密告を奨励するようなものですね。
A:その他にも、昨年の刑事訴訟法改正で司法取引制度が新設され、他人の犯罪事実を明らかにする見返りに求刑を軽減したり不起訴にすることが認められています。この場合、捜査段階で、自分が罪から逃れるために当局の筋立てに沿ってウソの供述をすることだってあり得るでしょう。共謀罪ができて、刑の必要的減免制度などが認められれば、誰が敵か味方か、疑心暗鬼になり、密告を奨励する相互監視社会になってしまいます。
Q:政府は2000年に国連総会で採択された「国際組織犯罪防止条約(TOC条約)」を締結するために、国内法として共謀罪をつくる必要があると説明しています。
A:私もこの条約の締結は必要だと考えますが、この条約は、例えばマフィアによるマネーロンダリングや麻薬取引のような経済犯罪の取り締まりを目的としたものです。条約自体でそのことを明記し、条約の立法ガイドなどで政治的、宗教的なテロリズムを除外することが明確にされています。条約締結のためなら、組織的な経済犯罪に特化して国内法の整備を進めればいいので、テロ対策とは分けて考えるべきです。
Q:しかし、政府は「五輪のため」「テロ対策」を錦の御旗に共謀罪創設を推し進めようとしています。
A:テロ対策と言われると国民も反対しづらいから、あえてテロ対策を前面に出しているのです。国連はテロ対策の条約を多数作成していて、すでに日本はその主要13条約のすべてを批准しています。具体的にはハイジャック防止条約やテロ資金供与防止条約などです。国内の現行法にも銃刀法やピッキング用具所持禁止法などがあります。
+それでもまだテロ対策に足りないものがあるというのなら、そこに絞って法整備の必要性を議論するべきです。それに、共謀罪法案が想定しているようなものは、現行の予備罪、準備罪や、銃刀法などの特別立法における犯罪、それらの教唆罪や共謀共同正犯などでほとんどカバーできています。数を絞ったとはいえ、テロ対策にかこつけて、懲役・禁錮4年以上の罰則がある犯罪全般に網をかけようとする共謀罪法案の乱暴なやり方は、到底認めることができません。
▽民主党政権時、法務省は「共謀罪なし」でも条約締結できるという立場だった
Q:民主党政権時代、あるいは法相を務めていた時は、TOC条約と共謀罪の取り扱いはどうだったのでしょうか。
A:政権交代前から、共謀罪を導入しなくてもTOC条約を批准することが可能かを探り、09年7月に「可能だ」とする「民主党政権インデックス2009」が出来ました。私が法相に就任した時には、法務省の関係部局に対し、自民党政権で議論されていた共謀罪を創設しなくてもTOC条約は締結可能という立場で作業を進めるように指示しました。実際、11年11月の衆院予算委員会では、当時の法務省刑事局長も「平岡大臣の答弁(共謀罪を作らなくても条約は締結できる)を踏まえて、今後やっていかなければいけない」と答弁しています。
▽法案に「テロ」の文字を入れなかった法務官僚の矜持
Q:法務省が一時はそういう立場を取っていたのに、今国会では共謀罪が強引に押し切られようとしています。誰が最もやりたがっていると考えますか?
A:法務省というよりは、今や、共謀罪を実際に運用する警察が積極的なのだと思います。安倍政権では、公安警察出身の杉田和博官房副長官や北村滋内閣情報官など警察官僚が官邸で力を持っている。犯罪の数が激減し、警察の人員・予算が減らされようとする中、共謀罪を手に入れれば、捜査対象は無限に広がり、相当規模の労力と予算が必要になりますからね。
+もうひとつの推進勢力は、政権与党そのものでしょう。私は官僚時代、内閣法制局にいたこともあるので分かるのですが、この法案が法務省から与党に示された当初、「テロ」の文字が法案のどこにもなかった。テロ対策にかこつけて進めたい安倍官邸・自民党に押し切られ、後から「テロリズム集団」の文言が法案に加えられましたが、このことで、共謀罪法案がテロ対策とは何の関係もないことを示した法務官僚の矜持を見た思いです。
Q:政府は「一般の人は対象にならない」と説明していますが、「組織的犯罪集団」の定義は曖昧です。一般人も捜査対象になり得るという懸念が消えません。
A:一般企業や労組などの普通の団体も、「継続的結合体」とみられる「団体」なら、当局がある時に「よからぬ考えを持っている」と判断すれば、捜査対象になってくる可能性があります。戦前の治安維持法も、当初は「一般の人には関係ない」とされていましたが、次第に適用対象が拡大され、時の権力者にとって煙たい団体は片っ端から摘発対象になりました。政権批判に精を出している「日刊ゲンダイ」だって危ないですよ。
+例えば、共謀罪法案では「組織的信用毀損罪」も対象犯罪になっています。「日刊ゲンダイ」が監視対象にされていたり、密告する裏切り者が出たりすれば、編集会議で「あいつは許せない。懲らしめるためにこんな内容の記事を出そう」みたいな話題が出ただけで、疑いがかけられて一網打尽にされる可能性がある。これは、実際に記事にされたかどうかは関係なく共謀(合意)した段階で犯罪は成立するし、未必の故意でもいいので「もしかしたら信用毀損になるかも」という程度の共謀でも構いません。
+こうなると事前の検閲と等しく、言論の自由や思想の自由を著しく脅かすものとなります。当然、市民生活は萎縮していく。監視や密告に怯え、内心の自由も脅かされる、そんな社会にしてはいけません。共謀罪法案の問題点から目をそらさせるために、「五輪」や「テロ対策」の言葉で国民をだまそうとしている政府に対し、有権者はもっと怒らなければなりません。  ひらおか・ひでお 1954年、山口県生まれ。東大法学部卒、76年大蔵省(現財務省)に入省。98年に弁護士登録。2000年から衆院議員を5期務め、法相や衆院法務委員長などを歴任。現在は銀座総合法律事務所所属。共著「新共謀罪の恐怖」が発売中。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/206580

次に、6月15日付け日刊ゲンダイ「国会蹂躙した安倍政権 “禁じ手”で「共謀罪」採決の全内幕」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・安倍政権が一気に舵を切ってきた。ここまで国会を蹂躙するとは、もはや言葉もない。会期末の「共謀罪」法案の採決強行は予想していたが、委員会採決もスッ飛ばして「中間報告」という禁じ手を使ってくるとは――。 与党は当初、共謀罪を成立させるために小幅の会期延長も視野に入れていた。ところが、14日になって突然、1日でケリをつける方針に転換。参院法務委員会での採決を省略できる「中間報告」を参院本会議で行い、朝までに採決して成立させることを決めた。
・共謀罪法案の成立を阻止するために、内閣不信任案を提出するタイミングを探っていた民進党は寝耳に水で、国会内は騒然となった。 「14日朝9時半からの議院運営委員会の理事会で、参院本会議での法務大臣への問責決議案の処理などを協議した際は、与党もそれほど強硬ではなく、『国家戦略特区法の改正案の成立を期すために中間報告で処理したい』というような打診があったそうです。そこは、こちらも異論がないので了承したと聞いています。それが、午後になって急に共謀罪の中間報告という話になっていて驚きました」(民進党国対関係者)
・参院本会議の定例日は月、水、金。与党は金曜日の本会議採決を考えているとみられていた。だから、それに合わせて内閣不信任案を提出するべく野党は準備していた。水曜日の段階で、与党が中間報告という禁じ手まで使って一気呵成に法案を仕上げにくると、野党がやれることは限られてしまう。大臣の問責や委員長解任動議、不信任案などを連発して時間稼ぎをしたところで、会期内の成立は決まったも同然だ。
▽いまや政権の常套手段に
・中間報告による本会議採決は、過去には衆院で4回、参院で18回あったが、それは与野党が協力して早期成立を図る法案だったり、与野党対決型法案の場合に委員長が野党で採決に応じないケースだった。直近では麻生政権がレームダックとなっていた2009年7月、臓器移植法を与野党が中間報告で成立させた。今回のようなケースは異例だが、安倍政権では07年に続き2回目だ。
・「衆参で3分の2議席を持っているのだから、本来なら、こういうやり方をする必要はない。安保法の時だって、中間報告などという奇策は使わなかった。それだけ安倍政権が追い込まれているという見方もあります。加計問題で内閣支持率が下落傾向にあり、都議選を控える状況では、早期に国会を閉じてしまうのが得策だと判断したのでしょう。ただ、こんな異様な法案成立の過程を見れば、有権者もさすがに“おかしい”と思う。かえって不信感が募り、強引に閉じない方がよかったという結果にもなりかねません」(政治ジャーナリスト・角谷浩一氏)
・とにかく国会を閉じてしまいたい自民党と、都議選を控えた公明党の利害が一致したことも大きい。公明党にとって、都議選は国政選挙並みに重要な選挙だ。イメージダウンは避けたい。 「法務委員会の秋野委員長は公明党の議員ですから、支持者の手前、野党議員に詰め寄られて混乱の中で採決を強行するシーンを見せたくなかった。委員会採決を飛ばして本会議で採決する案は、公明党にとって渡りに船だったはずです」(与党国対関係者)
・審議を尽くすことより、安倍首相の保身と公明党の選挙対策を優先し、与党内で共謀罪の“禁じ手採決”を共謀したわけだ。 数の力で国会審議も無視する。国会が冒涜され、言論も封じられる。これは民主主義と国民に対する背信そのものだ。この日の安倍政権の暴挙を、有権者は絶対に忘れてはいけない。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/207454

第三に、6月17日付けダイヤモンド・オンラインがハフポスト日本版から転載した「「共謀罪」法成立を海外はどう報じたか、BBC「キノコ狩りも対象」と紹介」を紹介しよう(■は記事の区切り)。
・「共謀罪」の趣旨を含む改正組織的犯罪処罰法が、参院本会議で可決、成立した。このニュースを海外はどう報じたのか、一部を紹介しよう。
■「“凶暴な”新テロ法案」(ガーディアン) イギリスのガーディアンは、「反対者が自由を抑制することになると危惧している“凶暴な”新テロ法を、日本は通過させた」との見出しで報じた。 記事は、法案成立を急いだ理由として、安倍首相が「東京オリンピック・パラリンピックまで、わずか3年しかない。しっかりとテロを防ぐにあたって国際社会と協力するため、できるだけ早く組織犯罪条約を批准したい」などと話したことを紹介。  一方で、民進党の蓮舫代表が、「安倍政権は“凶暴な”法律を成立させた。これは内心の自由を侵害する」と述べたことも伝えた。
■「キノコ狩りも対象」(BBC) BBCは、どのような犯罪が対象になるのかを説明。277の罪のうち、 音楽のコピー アパートの建設に抗議するための座りこみ 偽造切手の使用 無免許でモーターボートレースに参戦 保安林でのキノコ狩り 消費税の回避 などを列挙した。 なかでもキノコ狩りについては、イメージ画像つきで紹介。政府が「例えば、暴力団やテロ組織が、不法に採取したキノコを売却することで資金を調達できる」と説明していることも付け加えた。
■「日本では大規模なテロは起きていないが…」(ウォール・ストリート・ジャーナル) アメリカのウォール・ストリート・ジャーナルは「日本では、外国人による大規模なテロ攻撃は起きておらず、1990年代半ばにカルト宗教によって引き起こされた神経ガス中毒で約24人が死亡した以外に、ほとんどない」と、オウム真理教の例と日本の現状を伝えた。 その上で、「しかしながら、安倍晋三首相は2020年の東京オリンピックのテロ対策準備の一環として、新たな立法が必要だとしている」などと伝えた。
■牛歩戦術を写真で紹介(新華網) 中国の新華網は記事で大きな写真を4枚使い、野党議員が反発していることを紹介した。牛歩戦術により投票時間をオーバーし、福島瑞穂氏ら3議員の投票が受理されなかったシーンも掲載されていた。
■「森友学園や加計学園を隠すために強行との批判も」(聯合ニュース) 韓国の聯合ニュースは、「第2の治安維持法との批判を受けてきたいわゆる『共謀罪』が、強行採決で通過した」などと報じ、1944年に治安維持法違反の疑いで逮捕され、福岡刑務所で獄死した韓国の詩人・尹東柱(ユン・ドンジュ)氏のことを紹介した。 さらに記事は、「森友学園と加計学園スキャンダルを覆うために、共謀罪の処理が強行されたという批判も野党から出ている」などとも述べた。
■「憲法改正への野望を進めるための道を開く」(ブルームバーグ) ブルームバーグは「法律の成立は、安倍首相による、第二次世界大戦後の日本の安全保障政策を定義した平和主義憲法を改正するという野望を前進させる道を開くことになる」などと解説。上智大学の中野晃一教授(政治学)のコメントを、次のように紹介した。 「この法案は、今後予定されている憲法改正についての国民投票と、日本が将来的に戦争へ関与する可能性について、安倍氏の方向性と一致している。これらの両方とも、政府の決定に反対するような、制御しにくい市民をコントロールする新しい手段を必要とする」
http://diamond.jp/articles/-/132205 

民主党政権時代には法相を務めた経験も持つ平岡氏の指摘は、さすがに鋭い。 『自首すれば減刑、密告奨励社会へ』、とは恐ろしいことだ。 『「悪い考えを持っている」という証拠を集めようと思えば、通信傍受(盗聴)、会話傍受、身分を偽った潜入捜査や密告に頼らざるを得ない。取り調べにおいても自白偏重になりがちで、冤罪を生じさせる危険性が高くなります』、 『司法取引制度が新設・・・捜査段階で、自分が罪から逃れるために当局の筋立てに沿ってウソの供述をすることだってあり得るでしょう』、 『テロ対策にかこつけて、懲役・禁錮4年以上の罰則がある犯罪全般に網をかけようとする共謀罪法案の乱暴なやり方は、到底認めることができません』、などの指摘はその通りだ。 『民主党政権時、法務省は「共謀罪なし」でも条約締結できるという立場だった』、 やりたがっているのは、『法務省というよりは、今や、共謀罪を実際に運用する警察が積極的なのだと思います』、警察が官邸のなかで大きな力を振っているというのは、恐ろしいことだ。しかも、警察がヒマになるので、共謀罪で仕事を作り出すとは、とんでもないことだ。 「『組織的信用毀損罪」も対象犯罪になっています。「日刊ゲンダイ」が監視対象にされていたり、密告する裏切り者が出たりすれば、編集会議で「あいつは許せない。懲らしめるためにこんな内容の記事を出そう」みたいな話題が出ただけで、疑いがかけられて一網打尽にされる可能性がある』、とマスコミも対象になり得るというのは、初めて知った。こうした危険性を伝えない、一般のマスコミの不甲斐なさは、情けない限りだ。
第二の記事で、 『委員会採決もスッ飛ばして「中間報告」という禁じ手を使ってくるとは』、 『審議を尽くすことより、安倍首相の保身と公明党の選挙対策を優先し、与党内で共謀罪の“禁じ手採決”を共謀したわけだ』、と公明党までもが暴挙の片棒を担いだとは、同党の体質を如実に示しているようだ。
第三の記事のなかでは、BBCの「キノコ狩りも対象」が、イギリス人らしい皮肉の利いたユーモアが感じられて出色だ。
タグ:日刊ゲンダイ 共謀罪 ダイヤモンド・オンライン ハフポスト日本版 テロ等準備罪 (その6)(共謀罪が生み出すのは密告奨励社会、“禁じ手”で「共謀罪」採決の全内幕、「共謀罪」法成立を海外はどう報じたか) 平岡秀夫元法相が懸念 共謀罪が生み出すのは密告奨励社会 民主党政権時代には法相を務めた経験も持つ専門家・平岡秀夫 自首すれば減刑、密告奨励社会 「合意」は「心の中で思ったこと」と紙一重で、憲法で定められた「内心の自由」を侵しかねない。「疑わしい」というだけで人が処罰される事態があり得ます 通信傍受(盗聴)、会話傍受、身分を偽った潜入捜査や密告に頼らざるを得ない。取り調べにおいても自白偏重になりがちで、冤罪を生じさせる危険性が高くなります 必要的刑の減免規定 司法取引制度 捜査段階で、自分が罪から逃れるために当局の筋立てに沿ってウソの供述をすることだってあり得るでしょう 「国際組織犯罪防止条約(TOC条約)」 条約締結のためなら、組織的な経済犯罪に特化して国内法の整備を進めればいいので、テロ対策とは分けて考えるべきです 国連はテロ対策の条約を多数作成していて、すでに日本はその主要13条約のすべてを批准しています テロ対策にかこつけて、懲役・禁錮4年以上の罰則がある犯罪全般に網をかけようとする共謀罪法案の乱暴なやり方は、到底認めることができません 民主党政権時、法務省は「共謀罪なし」でも条約締結できるという立場だった 法務省というよりは、今や、共謀罪を実際に運用する警察が積極的なのだと思います 公安警察出身の杉田和博官房副長官や北村滋内閣情報官など警察官僚が官邸で力を持っている 犯罪の数が激減し、警察の人員・予算が減らされようとする中、共謀罪を手に入れれば、捜査対象は無限に広がり、相当規模の労力と予算が必要になりますからね もうひとつの推進勢力は、政権与党そのものでしょう 一般企業や労組などの普通の団体も、「継続的結合体」とみられる「団体」なら、当局がある時に「よからぬ考えを持っている」と判断すれば、捜査対象になってくる可能性があります 共謀罪法案では「組織的信用毀損罪」も対象犯罪になっています。「日刊ゲンダイ」が監視対象にされていたり、密告する裏切り者が出たりすれば、編集会議で「あいつは許せない。懲らしめるためにこんな内容の記事を出そう」みたいな話題が出ただけで、疑いがかけられて一網打尽にされる可能性がある 事前の検閲と等しく、言論の自由や思想の自由を著しく脅かすものとなります 国会蹂躙した安倍政権 “禁じ手”で「共謀罪」採決の全内幕 委員会採決もスッ飛ばして「中間報告」という禁じ手を使ってくるとは 加計問題で内閣支持率が下落傾向にあり、都議選を控える状況では、早期に国会を閉じてしまうのが得策だと判断したのでしょう 「法務委員会の秋野委員長は公明党の議員ですから、支持者の手前、野党議員に詰め寄られて混乱の中で採決を強行するシーンを見せたくなかった。委員会採決を飛ばして本会議で採決する案は、公明党にとって渡りに船だったはずです 共謀罪」法成立を海外はどう報じたか、BBC「キノコ狩りも対象」と紹介 「“凶暴な”新テロ法案」(ガーディアン) 「キノコ狩りも対象」(BBC) 「日本では大規模なテロは起きていないが…」(ウォール・ストリート・ジャーナル) 牛歩戦術を写真で紹介(新華網) 「森友学園や加計学園を隠すために強行との批判も」(聯合ニュース) 「憲法改正への野望を進めるための道を開く」(ブルームバーグ)
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司法の歪み(その2)(アディーレの不適切業務めぐる「処分」の重み、美濃加茂市長への逆転有罪判決問題2)   [社会]

司法の歪みについては、昨年12月3日に取上げた。今日は、(その2)(アディーレの不適切業務めぐる「処分」の重み、美濃加茂市長への逆転有罪判決問題2) である。

先ずは、弁護士法人アリスト代表弁護士/溝の口法律事務所所長の田畑 淳氏が4月15日付け東洋経済オンラインに寄稿した「アディーレの不適切業務めぐる「処分」の重み 懲戒の段階によって影響は断然変わってくる」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・「過払い金の返還。あなたも対象かもしれません。着手金無料!成功報酬制!お電話ください」  テレビをよく見る人なら、1度はこんなCMを見掛けたことがあるでしょう。法律事務所としては珍しく、大々的にテレビCMを仕掛けて一躍有名になったのが弁護士法人「アディーレ法律事務所」です。
▽「今だけ無料」は景品表示法に違反と議決
・そのアディーレに対して東京弁護士会を含む3つの弁護士会の綱紀委員会が、弁護士法人としてのアディーレと石丸幸人弁護士、複数の所属弁護士について、「懲戒審査が相当」とする議決をしていたことが判明しました。
・消費者庁は昨年2月、アディーレがホームページ上で行っていた、着手金を全額返還するキャンペーンを、実際は5年近くの長期にわたって行っていた事実に反し、1カ月間の期間限定でのキャンペーンと宣伝していたことが景品表示法に違反するとして、措置命令を出しています。それを受けて、同事務所や所属弁護士への懲戒請求が各地の弁護士会で起こされた結果、3つの弁護士会が今回の判断を出しました。
・今回の事件は対象となったアディーレがいわゆる過払い事件をきっかけに成長してきた「新興大手事務所」の最大手であることもあり、懲戒審査の行方が注目されています。
・「弁護士の懲戒」というとどんな状況を想像されるでしょうか。近年は弁護士による横領事件などがメディアにより取り上げられることもありますし、「暴力団やアウトローの手先」に堕した弁護士を想像する方もいらっしゃるでしょう。 実際の懲戒はいわゆる弁護過誤、事件を処理せず放置するなどの事例から、依頼者への虚偽の報告、過大な報酬、弁護士会の会費滞納、弁護士の行方不明なども含め多岐にわたります。いわば問題のある業務活動を行った弁護士にペナルティを与える、最大にして万能の方法として運用されているものです。
▽弁護士自治において中核になる制度
・実は懲戒制度がなぜ重要なのかという点は「弁護士自治」と深くかかわっています。たとえば他の士業である司法書士の監督官庁は法務省、行政書士は総務省、公認会計士は金融庁、税理士は国税庁……と弁護士を除くほとんどすべての士業は何らかの形で省庁の監督を受けています。 しかしながら、時に国家権力と対峙する弁護士については独立が守られ、監督官庁はなく、弁護士会自身が弁護士を処分しています。これは過去、治安維持法に反対した弁護士が資格を剥奪されたような歴史に基づくものであり、懲戒処分制度は弁護士自治において中核になる制度の1つなのです。
・簡単に弁護士会の懲戒制度について説明すると、まず懲戒の手続きは誰でも行える懲戒請求(弁護士法58条1項)によりスタートします。
 (1)弁護士会は、懲戒請求があったとき(または弁護士会があると思料するとき)は、綱紀委員会に事案の調査をさせます(弁護士法58条2項)。
 (2)綱紀委員会は、上記の調査により、対象弁護士等について、懲戒委員会に事案の審査を求める旨判断した時には、懲戒委員会に事案の審査を求め、審査が開始します(弁護士法58条3項)。 
・つまり、本件についての懲戒の審査はまず所属弁護士会の中での調査と審査の2段階のうち、1段階目の調査を終了した状況といえます。 たとえば2016年についてみると、懲戒の請求の総数は3480件、これについて調査が行われています。そのうち審査を求める旨の判断が出ている、つまり(1)の段階を突破したのが191件、さらに(2)の段階も審査をもってして懲戒相当という判断が出たケースが114件となります。
・つまり数字で見るかぎり、(1)の段階から(2)に進んだ事件は、過去の統計上は半数~半数強ほどの件について最終的に懲戒処分が行われているといえます。最終的な処分は委員会の判断を待つことになりますが、客観的なHP上の表記については争いのなさそうな本件について(1)の綱紀を突破した以上、(2)でも懲戒処分相当という判断が出る可能性は相当程度あると言ってよいでしょう。
・なお、弁護士法人に対する懲戒は、法人自身に対する懲戒ですので、懲戒の効力は法人を構成する社員である弁護士や使用人である弁護士に直接及ばず、本件では「法人・石丸弁護士・その他複数の弁護士」がそれぞれ懲戒請求されています。本件では後述するように「法人」が懲戒されると、極めて大きな影響が出る場合があります。
・2016年の統計では全懲戒事案114件のうち、60件が戒告処分、47件が業務停止、3件が退会命令、4件が除名処分となっています。この中でおよそ半数を占める「戒告」処分は不名誉な記録が残り、一定の制限を受けることがあるものの、業務そのものが大打撃を受ける程の効果はありません。一般的に戒告レベルの事件は報道されないことも多いため、多くの読者の方にとってはイメージしにくい懲戒処分かもしれません。
▽業務停止となった場合
・それより重い「業務停止」については、たとえ1カ月という短いものでも弁護士法人にとっては大打撃となりかねません。 弁護士・弁護士法人は業務停止期間中、一切の弁護士業務ができません。それは「すでに受けて裁判を行っている事件」でも「顧問契約」でも同じです。
・となると、業務停止処分を受けた弁護士は、いったんすべての事件、すべての顧問業務について辞任しなくてはならないのです。これは個人で営業を行っている弁護士でも場合により100件近い事件について別の弁護士を探して引き継ぎを行わねばならず、大変な業務となります。
・それに加え、本件は百数十人の弁護士を擁する日本屈指の大事務所であるところ、法人の業務が停止されれば法人名で受任している業務をすべて辞任しなければなりません。これは想像を絶する手間と時間を要することになりそうです。
・この点について、「業務停止期間中、事務所の中で懲戒を受けていない弁護士が新事務所を立ち上げ、その新しい事務所が暫定的にすべての事件を引き継ぐ」という応急処置で対応するケースで業務が滞ることは防げる、という実例もあるようですが、上記の混乱をすべて回避することは難しいでしょう。
・では業務停止が明けた後は前と同じ状態に戻れるのかというと、これも簡単な問題ではありません。業務停止を受けたことに不信感を持ち、弁護士を解任する依頼者や顧問先もいるでしょう。莫大な金額がかかっているといわれる広告費について、集客できない期間が挟まることは資金繰りの点からしても危険です。融資の継続においてもマイナス要因になるでしょう。タイミングと長さ次第では業務停止が事実上事務所を倒産させ、結果多くの依頼者を混乱させるということも十分ありえます。
・今回の件はどの程度重い処分になるのでしょうか。確かに、法律事務所が消費者庁から行政処分を受けたことは業界にとっても驚きで、多くの弁護士を擁しながら数年間問題のある状況を続け、ここに至ったことは問題が大きいとも言えます。高い倫理性を要求される法律事務所が行政処分を受けた、という未曾有の事態であることを重く見るなら処分は重くなると言えそうです。
・ただ、本件は倫理上の問題はあっても、実際に着手金は取っていないわけで、深刻な被害を受けた人がいるケースと比較し、あまり重く罰するのはどうかという意見もあります。 相場観が問われそうですが、実は弁護士による広告は長く規制されており、これが解禁されたのは2000年。そこから現在に至るまで、広告についての懲戒というのは全期間を通して数件と極めて数が少なく、本件とピンポイントで類似する事案は存在しません。また懲戒が弁護活動の広い範囲の問題をカバーする以上、どの程度の処分を科すかについては客観的、一義的な基準がありません。
・本件は、「戒告」で済むのか、「業務停止」になるのかで、その後の影響に大きな差が出る事件です。 また、懲戒の重さとは別に懲戒対象の範囲、「ボスの(事務所の)問題に巻き込まれて懲戒対象となる若手弁護士」の扱いについても、業界内外の注目点でしょう。 アディーレ側は、懲戒された石丸弁護士以外のアディーレ所属弁護士について「広告にかかわっていない」として懲戒しないよう求めていると聞いています。若手弁護士の離反や退職を防いで事務所を守ろうとする経営側の事情も想像できます。
▽責任の所在はどこに?
・今回のケースについて責任の所在を実質的に考えるなら、アディーレで「広告戦略を誰が決定していたのか」という点が問題になりそうです。アディーレ内部の権限分掌については現在明らかではありません。事情に詳しい関係者に聞くかぎり、広告戦略はごく2~3人のトップが判断しており、かつ実際に広告戦略にかかわっていた幹部が懲戒対象になっていない一方、まだ若手で権限のない弁護士が懲戒請求の対象となっている可能性もあるようです。
・おそらく懲戒請求に当たって、懲戒請求者はアディーレ内部での権限分掌を調査できないでしょうから、そうした齟齬(そご)は十分ありえます。とはいえ、どの所属弁護士もアディーレのHP、広告内容は見られるわけですから、それをやめさせるよう事務所のトップに働きかけることはできたともいえます。となると、責任の所在についてはある程度形式的に判断せざるをえません。具体的には通常の会社で取締役に相当する「社員」はより責任が重くなるといえます。
・ただ、昨今の若手弁護士を取り巻く就業環境は決して余裕のあるものではありません。解雇されたら明日の生活はどうしようと考えている若手弁護士も現在は多いと聞きます。名だたる名門事務所ですら上司の命令は絶対であり、上司の問題行為に巻き込まれ、懲戒の憂き目に遭っていると思われる若手の弁護士がいることは事実です。
・アディーレにおいて、事実上若手の弁護士がトップに広告方針を変えさせるような進言をすることができたかについて慎重に考え、形式面を見るとしても「社員」に就任している弁護士がどこまで権限を持っていたのか、いわゆるブラック企業の「名ばかり管理職」のような観点も必要だと感じます。 具体的に申し上げると、弁護士法人が支店を出す際、どの支店にも必ず「社員」を置かねばならないことから、事務所内で権限を有していなくても、とりあえず地方の支店に配置した若い弁護士が「社員」として登記されることは珍しくないことなのです。
・「どの弁護士も専門家で独立した存在である」という考え方は建前としてあっても現在の状況には必ずしも当てはまりません。アディーレのように、組織化してサービスを展開する法律事務所では、弁護士であっても、上司の命令に逆らえない弱い立場の部下とならざるを得ない局面もあったでしょう。そうした点を考慮に入れず、実質的な役割の精査なく形式的に責任ある立場とする判断は、あまり望ましいとはいえません。
・上司に逆らうだけの力がなく誤った行動をとってしまった弁護士は、専門家でありつつ他方社会的には弱者としての側面も有しています。懲戒すべき事実については厳正に審査を行うべきでしょう。一方で、若手の弁護士に弁護士人生を通して記録が残る「懲戒歴」という烙印を押すこと、また手続きの中途であり、本来非公開である綱紀の段階で情報がどのように発表されるかというあり方については、より慎重を期すという考え方もあろうかと思います。
http://toyokeizai.net/articles/-/167663

次に、元東京地検特捜部検事で弁護士の郷原信郎氏が5月18日付け同氏のブログに掲載した「美濃加茂市長事件、弁護団はなぜ”逆転無罪”を確信するのか」を紹介しよう(▽は小見出し)。郷原氏らしく長文であるが、事件の重大性に鑑みて、お付き合い頂きたい。
・全国最年少市長だった藤井浩人市長が、受託収賄等で逮捕、起訴された美濃加茂市長事件。昨年11月28日に名古屋高裁が言い渡した「逆転有罪判決」に対して、藤井市長は、即日上告していたが、5月16日、弁護団は、最高裁判所に上告趣意書を提出した。
・同日午後1時から、東京地方裁判所の司法記者クラブで、主任弁護人の私と、上告審で新たに弁護団に加わった原田國男弁護士、喜田村洋一弁護士に、藤井市長も駆けつけて記者会見を行った(記者会見に参加したジャーナリストの江川紹子氏のyahooニュースの記事【「日本の司法を信じたい」~美濃加茂市長の弁護団が上告趣意書提出】)。 藤井市長は、会見で、「私が潔白であるという真実が明らかにされることを確信している」と述べたが、我々弁護団も、上告審での“再逆転無罪”を確信している。
▽日本の刑事裁判の「三審制」の構造
・上告趣意書は全文で128頁に上る。記者会見では、説明用に抜粋版(50頁)を作成して配布した。これとほぼ同様の内容の抜粋版を、私の法律事務所のHPに掲載している(【上告趣意書抜粋版】)。 抜粋版の内容を中心に、我々弁護団が、最高裁で“再逆転無罪”を確信している根拠を挙げることとしよう。
・その前に、日本の刑事裁判における「三審制」の構造と、その中で、上告審がどのように位置づけられているのかを説明しておく。 検察官の起訴を受けて、第1審(地裁)では、公訴事実について、白紙の状態から事実審理が行われる。被告人・弁護人が無罪を争う事件であれば、検察官の請求によって、公訴事実を立証するための証人尋問等の証拠調べが行われ、被告人質問で、被告人の弁解や言い分も十分に聞いた上で、第1審判決が言い渡される。判決に対して不服があるときは、つまり有罪であれば被告人・弁護人側、無罪であれば検察官側が、控訴の申立てをし、裁判は、控訴審に移ることになる。
・控訴審(高裁)は、基本的には、「事後審査審」と言われ、第1審判決の事実認定や訴訟手続に誤りがあるか否かという観点から審理が行われる。特に誤りがないと判断されれば控訴は棄却され、誤りがあると判断された場合には、第1審判決が破棄され、第1審で審理のやり直しが命じられたり(差戻し)、控訴審自ら判決の言い渡し(自判)が行われたりする。このように、第1審判決の見直しに関して、必要に応じて、控訴審での事実審理が行われる。こうして出された控訴審判決に対して、不服があれば最高裁判所への上告が行われることになる。
・上告審(最高裁)は、三審制の「最後の砦」であるが、上告理由は、「憲法違反、判例違反、著しく正義に反する事実誤認・法令違反」に限定されている。控訴審までに行われた事実審理や法律適用が、国の根本規範である憲法や、刑事裁判のルールと言うべき「最高裁判例」に違反した場合や、事実認定や訴訟手続に重大な誤りがあって、そのまま確定されることが「著しく正義に反する」という場合でない限り、上告審で控訴審判決が覆されることはない。
▽上告趣意書で主張した3点の上告理由
・美濃加茂市長事件で、弁護人が上告理由として主張したのは、以下の3点である。 第1に、原判決(控訴審判決)は、「1審が無罪判決を出したとき、控訴審が、新たな証拠調べをしないまま1審判決を破棄して有罪判決を下すことができない」とする最高裁判例(昭和31年7月18日大法廷判決・刑集10巻7号1147頁)及び「第1審判決が、収賄の公訴事実について無罪を言い渡した場合に、控訴裁判所が、事件の核心をなす金員の授受自体についてなんら事実の取調を行うことなく、訴訟記録及び第1審で取り調べた証拠のみによつて犯罪事実の存在を確定し、有罪の判決をすることは違法」とする最高裁判例(昭和34年5月22日第二小法廷判決・刑集13巻5号773頁)に違反する(以下「判例違反①」)。
・第2に、原判決は、「控訴審が1審判決に事実誤認があるとして破棄するためには、1審判決の事実認定が論理則・経験則等に照らして不合理であることを具体的に示すことが必要」とする最高裁判例(平成24年2月13日第1小法廷判決・刑集66巻4号482頁「チョコレート缶事件判決」)に違反する(以下「判例違反②」)。
・第3に、原判決は、重大な事実誤認により、被告人を無罪とした1審判決を破棄して被告人を有罪としたものであり、無辜の被告人を処罰の対象とした点で、著しく正義に反するものである。
▽1審無罪判決を破棄して有罪自判するために必要な証拠調べ
・第1の判例違反①の主張は、原判決が、第1審無罪判決を破棄して有罪の自判をすることについての判例のルールに違反したというものだ。このルールというのは、証人尋問や被告人質問等を直接行って、供述者の態度や表情等も含めてその信用性を判断する第1審(このようなプロセスを経た裁判所の判断を重視することを「直接主義」「口頭主義」と言う)と、その結果を記録した書面だけで判断する控訴審とは大きく異なるのであるから、控訴審が、一審無罪判決を覆して有罪判決を言い渡すためには、自ら新たな証拠調べをしなければならない、というものだ。しかも、その証拠調べも、単に、「やれば良い」というものではなく「事件の核心に関するもの」でなければならない。その結果、公訴事実が認定できると控訴審が判断した場合にのみ、有罪の自判をすることができる、というのが判例である。
・ところが、本件の名古屋高裁での控訴審では、この新たな証拠調べが「事件の核心」である現金授受に関して行われたとは到底言えない。 控訴審では、贈賄供述者の中林本人の証人尋問が職権(裁判所自らが必要と判断して実施すること)で行われた。それは、中林の一審証言に際して「検察官との入念な打合せ」が行われ、証言に大きな影響を与えたと思われたことから、検察官との打合せ等に影響されない中林の「生の記憶」を確認するために、事前に資料等を全く渡さない状態で、中林の「生の記憶」を確かめようとしたものだった。ところが、ブログ【控訴審逆転有罪判決の引き金となった”判決書差入れ事件”】でも書いたように、融資詐欺・贈賄の罪で服役中の中林に、今回の証人尋問の実施について裁判所から正式の通知が届くよりも前に、中林自身の裁判で弁護人だった東京の弁護士から、尋問に関連する資料として、藤井市長に対する一審無罪判決の判決書等が送られるという想定外の事態が起こった。中林は、自分の捜査段階での供述や一審での証言内容などがすべて書かれている判決書を事前に読んで、証言を準備していたのである。
・中林は、一審証言とほぼ同じ内容の証言を行ったのだが、判決書を事前に読んでいたのだから当たり前であり、少なくとも、中林証言の信用性を認める証拠としては意味のないものだった。原判決も、当裁判所としても予測しなかった事態が生じたことから、当裁判所の目論見を達成できなかった面があることは認めざるを得ない。したがって、当審における中林の証言内容がおおむね原審(1審)公判証言と符合するものであるといった理由で、その信用性を肯定するようなことは当然差し控えるべきである。 と判示している。
・それ以外に、控訴審で行われた新たな証拠の取調べは、中林の取調べを行った中村警察官の証人尋問だけだった。ところが、それは、「中林の供述経過」だけにしか関係しない証拠で、しかも、中林の取調べを担当した警察官という捜査の当事者であり、中林証言の信用性が否定されることに重大な利害関係がある人物の証言なので、証拠価値が極めて低い。このような証拠調べが、控訴審での「新たな証拠調べ」として評価されるものではないことは明らかである。
・そうなると、控訴審で、一審無罪判決を覆す判断をしようと思えば、最低限必要なことは、被告人質問で、現金の授受という「事件の核心」について、被告人から直接話を聞くことであった。しかし、被告人の藤井市長は、公判期日すべてに出席していたのに、裁判所は、被告人質問を一切行わず、直接話を聞くことを全くしないまま結審し、逆転有罪判決を言い渡したのである。
・しかも、原判決は、ブログ【村山浩昭裁判長は、なぜ「自分の目と耳」を信じようとしないのか】でも述べたように、直接見聞きしたわけでもなく、裁判記録で読んだだけの一審被告人質問での供述について、「中林が各現金授受があったとする際の状況について、曖昧若しくは不自然と評価されるような供述をしている」という理由で、証拠価値がないと判示したのである。現金は全く受け取っておらず、一緒に昼食をしただけだと一貫して述べている藤井市長が、1年半も前に、誰かとファミレスで短時間、昼食を一緒にした時のことについて、資料をもらったか否か、どのような話をしたのかなど具体的に覚えていないのが普通であり、その点について記憶が曖昧だということは、被告人供述の証拠価値を否定する理由には全くならないことは言うまでもないが、原判決は、この被告人供述について、「被告人が記憶のとおり真摯に供述しているのかという点で疑問を抱かざるを得ない」などと、藤井市長の供述態度まで批判しているのである(その供述を直接見聞きしたわけでもないのに!)。
・このような原判決が、第1審の無罪判決を破棄して有罪を言い渡す場合の判例のルールに違反していることは明白である。
▽控訴審での事実誤認の審査と1審の論理則・経験則違反の指摘
・判例違反②の根拠としている「チョコレート缶事件判決」は、控訴審における事実誤認の審査の方法について、最高裁が平成24年に示した判断である。それまでは、第1審裁判所が、直接証人尋問等を行って得た「心証」と、控訴審裁判所が、事件記録を検討して得た「心証」とが異なっていた場合に、控訴審判決が、第1審判決を事実誤認で破棄することについて特に制約はなかった。しかし、裁判員制度が導入され、それまで以上に、刑事裁判の審理を1審中心にすることの必要性が高まる中で、最高裁は、 第1審において,直接主義・口頭主義の原則が採られ,争点に関する証人を直接調べ,その際の証言態度等も踏まえて供述の信用性が判断され,それらを総合して事実認定が行われることが予定されていることに鑑みると,控訴審における事実誤認の審査は,第1審判決が行った証拠の信用性評価や証拠の総合判断が論理則,経験則等に照らして不合理といえるかという観点から行うべきもの  と判示し、論理則・経験則違反が具体的に指摘できない場合には、第1審判決を事実誤認で破棄することができない、としたのである。
・原判決でも、第一審判決の事実認定を批判する中で、「論理則・経験則違反」という言葉を多数、使ってはいる。しかし、その内容は、1審判決が論理則・経験則に照らして不合理であることを具体的に指摘したものではなく、控訴審の誤った「心証」に基づく判断を「論理則・経験則」と言い換えているだけである。
・個別の判示についての記述は、証拠関係の詳細にわたるので「抜粋版」では省略したが、典型的な一例を挙げよう。 本件では、現金授受があったとされる現場に、常にTが同席していたこと、そのTが「自分が見ているところで現金授受の事実はなかった。席も外していない。」と証言していることが、現金授受を認定する上での最大の問題であった。
・その点に関連して、最初にとられた中林の警察官調書では、1回目の現金10万円の授受があったとされた「ガスト美濃加茂店」での会食について、Tは同席せず、被告人と中林の二人だけだったように記載されているのに、その後、検察官調書で、Tも含めて3人の会食だったとされていることから、弁護人は、「当初、二人だけの会食だったと供述していた中林が、ガスト美濃加茂店の資料で3人だったことが判明したため、事後的に辻褄合せをしたものだ」と主張し、その点を、中林供述が信用できないことの根拠の一つとしていた。それに対して、中林は、一審公判で、「警察官調書作成後、メール等の詳しい資料を熟読するうちに、平成26年3月末頃から同年4月上旬頃、被告人が到着するのをガストの駐車場でTと一緒に待っていた情景等を思い出した。」と供述して、Tが同席していたことを自分で思い出したように証言していた。
・これに対して、1審判決では、 中林は、すでに3月27日付け警察官調書において、被告人とガストの駐車場で待ち合わせたこと自体は供述しているし、4月2日午前中に被告人と中林との間でやり取りされたメールを見ても、Tを同行していた事実を推測させるような記載は見当たらないことからして、前記資料等を見たことをきっかけに前記情景等が思い出されたとする中林の説明はそのまま首肯し難い。 と指摘していた。
・これに対して、控訴審判決(原判決)は、 確かに、メールの履歴をみる限り、Tに関する記載は無いものの、記憶喚起のあり方として、Tの存在を直接示す記載が無くても、メールを見ながら当時の状況について記憶喚起している中で、Tがいた情景を思い出すということは、経験則上あり得ることであり、この点も特に不自然ではない。 と判示し、まさに、1審判決の指摘が経験則に反しているかのように判示した。
・しかし、1審判決は、記憶喚起の経過として、「メールにTの存在を直接示す記載が無いのにメールを見ながら当時の状況について記憶喚起している中で、Tがいた情景を思い出すこと」があり得ない、と述べているのではない。中林は、警察官調書で、被告人とガストの駐車場で待ち合わせたこと自体は供述しているのだから、「被告人が到着するのをガストの駐車場でTと一緒に待っていた情景等を思い出した」という「記憶喚起の経過についての説明内容」が不合理であることを指摘しているのである。
・しかも、この点について、中林は、控訴審での証人尋問で、「Tがガストに同席していたことを思い出したきっかけ」について裁判所から質問され、「刑事さんに頼んで、カードの支払の明細を取寄せてもらったところ、しばらくして、それが来て、3人分のランチの支払があったので、Tがいたことがわかった。」と証言しており、中林は、控訴審では、「被告人が到着するのをガストの駐車場でTと一緒に待っていた情景等を思い出したこと」という1審での証言を、自ら否定している。
・また、前述したように、控訴審で証人尋問が行われた中林の取調べ警察官の中村も、「中林は4月2日ガストでのT同席を、自分で思い出したのではなく、4月13日頃にガスト美濃加茂店の資料を示されて思い出した。」と証言しており、一審の中林証言は、中村証言とも相反している。
・このように、Tの同席を思い出した経緯についての1審中林証言を、「首肯しがたい」とした1審判決の指摘が正しかったことは、控訴審における証拠調べの結果によっても裏付けられているのである。 ところが、原判決は、自ら行った証拠調べ(中林証人尋問)の結果を完全に無視し(この点に限らず、原判決が控訴審での中林証人尋問の結果を全て無視したことは前述した。)、1審中林証言について《この点も特に不自然ではない。》などと判示して、一審判決の指摘が誤っているかのように言っているのである。
・これは、原判決の指摘が「1審判決の論理則・経験則違反の指摘」に全くなっておらず、余りにも杜撰なものであることの典型例であるが、それ以外の点も、証拠に基づいて仔細に検討していくと、中林の捜査段階からの供述経過や、関係者の供述を無視したり、1審判決の指摘の趣旨を誤ってとらえたり、全くの憶測で中林の意図を推測して中林証言の不自然性を否定したりするなど、1審判決の事実認定に対する批判として的外れなものばかりである。このような原判決は、最高裁判例で言うところの、「一審判決の論理則・経験則違反を指摘」したとは到底言えず、上記判例に違反していることは明白である。
▽著しく正義に反する重大な事実誤認
・そして、第3の上告理由が、中林証言の信用性を肯定し、現金授受があったと認定したことの「著しく正義に反する重大な事実誤認」である。 証拠の詳細にわたる内容なので、「抜粋版」では省略したが、上告趣意書では、原判決が、証拠評価に関して多くの重大な誤りを犯していることを徹底して指摘した。証拠評価に関して、不当に過大評価したのが中林の知人のAとIの証言、不当に過少評価したのが、現金授受があったとされる会食に同席したTの証言だ。
・Aは、1審公判で、「平成25年4月24日頃、中林から、被告人にお金を渡したいから50万円貸してくれないかと頼まれた。」と証言した。また、Iも、1審公判で、「浄水プラントの実証実験が始まった後の同年8月22日、中林とともに西中学校に浄水プラントを見に訪れた際、中林に、『よくこんなとこに付けれたね』と言ったのに対して、中林が、『接待はしてるし、食事も何回もしてるし、渡すもんは渡してる』と発言し、何百万か渡したのかと聞いたら、中林が『30万くらい』と答えた。」旨証言した。
・これらの証言について、1審判決は、A証言を「中林において被告人に対して現金供与の計画を抱いていたとの事実の裏付けにはなり得るものの、それ以上に第2現金授受の存在を直接に裏付ける事実となるものではない」、I証言を「その性質上伝聞証拠に当たり、中林の公判供述の信用性に関する補助事実に過ぎない上、Iの公判供述における中林の発言内容は曖昧な内容である」と述べて、極めて簡潔な判示で証拠価値を否定した。
・ところが、原判決は、Aが証言する中林の発言が、「Aに依頼した時点で、被告人に対し金銭を供与することを企図していたことを推認させる事実」だとし、Iが証言する中林の発言が、各現金授受に関する中林証言と金額も含めて整合している」とし、AとIの証言を、後から作為して作り上げることのできない事実であるという意味において、「中林証言の信用性を質的に高めるもの」と評価したのである。
・1審判決が、A、Iの証言の証拠価値を当然のごとく否定したのは、もともと、その証言が、「中林の発言」を聞いたという間接的なもので、「伝聞証拠」であり、証拠としての価値が低いことに加えて、その「中林の発言」の内容も、信用性を高めるようなものではないからである。Aが証言するように、中林がAに借金を依頼する際に、その理由について「被告人に金を渡したい」と発言した事実があったとしても、Aから頻繁に高利で金を借りていた中林が借金を依頼する口実にしたに過ぎないと考えるのが常識であろう(実際に、控訴審での検察官の主張も、A証言は、中林の供述経過に関する証拠にしようとしただけで、Aが証言する「中林発言」が信用性を高めるとは言っていない)。また、Iが証言する、美濃加茂西中学校を中林とともに訪れた際の会話というのも、それまで実績がほとんどなかった中林の会社が美濃加茂市の中学校に浄水プラントを設置したことについて、中林が、会社の実績を上げたように誇大に説明する中で(実際には、この設置は「実証実験」であり、費用もすべて中林側が負担しているのであるが、Aはそのことは知らされていない。)、「それなりのことはしている」と言ったという程度の「他愛のない世間話」に過ぎないと考えるのが常識的な見方だろう。
・それに加え、1審裁判所は、彼らの証言態度や中林とA、Iとの関係などから、凡そ証拠として評価するに値しないと判断したものと考えられる。 A、Iは、かねてから中林と深い関係があるほか、本件や中林の融資詐欺の捜査の進展によって利害を受ける立場にあり、全くの第三者による証言とは質的に異なる。
・Aは、中林が会社を設立した際には発起人となり、「見せ金」として設立資金を一時的に提供するなど同社に深く関わっていた。しかも、中林が金融機関から騙し取った金の多くは、Aの中林への貸付金の返済としてAに渡っていた。そのため、当然のことながら、Aは、中林の逮捕後、融資詐欺の共犯の嫌疑で捜査を受けており、多数回にわたって警察の取調べを受け、自宅や所有自動車等の捜索も受け、自宅から多額の現金も発見されていたことは、同人も証言している。ところが、Aが「被告人に渡す金として中林に50万円を貸した」旨の供述を行い、その後、中林が、Aから借りた金で20万円を被告人に供与した旨供述して以降、愛知県警捜査二課の捜査は、中林と被告人との贈収賄に集中し、Aに対する融資詐欺の共犯の捜査もうやむやのまま終わり、Aは逮捕されることも処罰を受けることもなく終わっている。ある意味では、中林の贈賄供述により、中林以上に恩恵を受けたのがAだったと言える。
・Aは、中林が被告人への現金供与を供述するより前に、警察の取調べで聴取対象とされていた融資詐欺の共犯の容疑とは全く無関係の上記供述を始めた。少なくとも、その後、警察捜査が、中林を贈賄者とする本件贈収賄事件の方向に進展したことは、Aに対して有利に働いた。そして、Aは、本件公判で、中林から被告人に現金を渡した旨の報告を受けたことなど、検察官に有利な証言を行っている。
・また、1審の証人尋問で、検察官の主尋問にはすらすらと答えていたIは、弁護人の反対尋問になると態度が急変し、中林とともに設置された浄水プラントを見に行く理由となったプラントの設置と自分の仕事との関係についても曖昧な説明しかできず、弁護人からの反対尋問で、「渡すもんは渡した」という中林の発言を聞いたことを最初に話した相手や、警察との関係などについて質問されて、証言が二転三転し、意味不明の言葉を発するなど、明らかに不自然な証言態度だった。
・このようなA、I証言のいかがわしさ、不自然さは、少なくとも、1審でのA、Iの証言を直接見聞きした人の目には明らかだったはずだ。実際に、1審公判をすべて傍聴した江川紹子氏は、控訴審判決後に、【美濃加茂市長まさかの逆転有罪 名古屋高裁に棲む「魔物」の正体】と題する記事(週刊プレイボーイ2016年12月26日号[第52号])で、1審で明らかになった中林とA、Iとの関係に言及した上、 彼らは、中林社長とは金銭を媒介した利害関係人であり、背景は闇に包まれている。ふたりの証言を直接聞いた一審はこれを重視しなかったが、高裁はその速記録を読んで、いとも簡単に信用した。 と書いている。
・原判決が、A、I証言を外形だけでとらえて、「中林証言の信用性を質的に高めるもの」と評価したのは、凡そ論外と言わざるを得ない。
▽同席者Tの証言の証拠価値の否定
・一方、原判決が、不当に証拠価値を過少評価したのが、T証言だ。現金授受があったとされる2回の会食に同席し、現金の授受は見ていないこと、会食では席を外していないことを明確に述べるTの証言は、現金授受の事実は全くないという被告人供述に沿う有力な証拠であり、控訴審において、現金授受を認める方向で1審判決が覆される可能性はないと確信していた根拠の一つだった。ところが、原判決は、このT証言を、捜査段階からの供述に「変遷」があるとして証拠価値を否定したのである。
・その大きな理由とされたのが、Tの取調べが開始された直後に作成された検察官調書の次のような記述だった。 中林は、4月2日にガストで会ったときと、4月25日に山家で会ったときの2回、藤井にお金を渡していると聞いています。しかし、私は、そのとき、中林が藤井にお金を渡している場面は、見た記憶がありません。ですから、仮に、中林が藤井に金を渡しているとするなら、私がトイレや携帯などで席を外した際に渡しているのではないかと思います。
・原判決は、この供述調書の記載から、「Tが、捜査段階で、両方の席で席を外した可能性があることを前提とした供述をしていた」と言って、公判証言との間で「変遷」があるというのである。 Tは、被告人が任意同行を求められ逮捕された平成26年6月24日の早朝、被告人とほぼ同時に警察に任意同行を求められ、その後、同月28日までの5日間、連日、長時間にわたり警察の取調べを受け、「被告人と中林との会食の際に席を外していないか」と聞かれて「ない」と答えると、「絶対にないか、そう言い切れるか」と長時間にわたって執拗に質問され、威迫的言辞も交えた取調べが続けられた結果、28日には、身体を痙攣が襲い、椅子から転げ落ちて意識を失うほどの状況にまで追い込まれ、Tが依頼した弁護士の抗議により警察での取調べは中止されることになった。その間の26日に、名古屋地検で、検察官の取調べを受けた際に作成された供述調書が、上記の供述調書なのである。
・そのような供述調書が作成された状況について、Tは、1審公判で、 「見ていないところで渡ったというのであれば、席を外したときしかない」ということは検察官から言われたと思います。僕は席を外していないということは一貫して言っておりましたので。 と証言している。 警察での取調べの状況からしても、「会食の際に席を外した」という供述を引き出すことに最大の目的があったのは明白であり、同日の取調べにおいて、Tが自発的に「席を外した可能性がある」と言っているのであれば、それこそ、検察官がまさに獲得しようとしていた供述そのものなのであるから、検察官は、そのままの供述を検察官調書に記載したはずであり、「仮定的」形態で供述を録取する必要など全く存在しない。
・にもかかわらず、これに真正面から回答する記載ではなく、「仮定的内容」の記載になっているのは、Tが証言するように、同日の取調べにおいては、いずれの会食に関しても離席の可能性を否定していたからとしか考えられない。 警察での拷問的な取調べ、検察での欺瞞的な調書作成等、捜査機関が手を替え、品を替え、なり振り構わない姿勢で、Tから「席を外した」旨の都合の良い供述を得ることに腐心していたことは、1審の記録上も明らかである。ところが、原判決は、その中で作成された上記検察官調書の記載だけを取り上げて、「席を外した可能性があることを前提とした供述」ととらえているのである。
▽判例のルールに反することと重大な事実誤認
・これまで述べてきたことは、128頁にわたる上告趣意書で述べたことのほんの一端に過ぎない。極めて丁寧な審理で適切な証拠評価・事実認定を行った1審判決を否定した原判決が、表面的には「控訴審判決」の外形を取り繕っていても、その内容は凡そ「刑事裁判」とは言えない杜撰極まりないものだ。
・今回、上記の3つの上告理由を内容とする上告趣意書を作成し、取りまとめる過程で、改めて感じたのが、そこで引用した二つの最高裁判例が、実質的にも、刑事控訴審についての適切なルールであり、そのルールに反すると、事実認定に関しても重大な誤りを犯すことにつながるということだ。
・原判決が「控訴審は、『事件の核心』について新たな証拠調べをしないまま1審無罪判決を破棄して有罪判決を下すことができない」という判例①、「控訴審が1審判決に事実誤認があるとして破棄するためには、1審判決の事実認定が論理則・経験則等に照らして不合理であること具体的に示すことが必要」とする判例②に忠実にしたがった審理を行って判決に至っていれば、一審無罪判決を破棄して不当な有罪判決を出すことはあり得なかったはずだ。
・日本の刑事裁判の三審制で、「最後の砦」としての上告の理由が、原則として判例違反に限定されているのも、本件の判例と原判決の事実誤認の関係を見ると、十分に理由があることのように思われる。 今回の上告に対する裁判として、訴訟手続の問題である判例違反①との関係からは、理論的には高裁又は地裁への「差戻し」というのもあり得る。しかし、我々弁護団の一致した意見で、求める裁判は、「原判決破棄」「検察官の控訴を棄却する」だけに絞った。
・一審で十分に審理が尽くされ、さらに、控訴審での事実審理の結果からも、1審の無罪判決が極めて正当なもので、それを不当に破棄した原判決が誤りだということは明らかだ。
・記者会見冒頭の挨拶を、藤井市長は、以下のように締めくくった。 本日、弁護団の先生方に、最後の司法判断に向けて、最高裁判所への上告趣意書を提出して頂きました。 私の言い分を一言も聞くことなく、有罪を言い渡した控訴審判決が、全くの誤りであること、私にかけられた容疑が無実無根で、私が潔白であることを、完璧に論証していただいたと思っております。 私は、日本の司法の正義を信じたいと思います。 今回の上告趣意書を最高裁でしっかり受け止めて頂き、私が潔白であるという真実が明らかにされることを、そして、私の無実を信じ、市長として信任してくださっている美濃加茂市民の皆様に良い御報告ができることを確信しています。
・「司法の正義を信じる」という若き市長の言葉に応える最高裁の適切な判断が出されることを、主任弁護人の私も固く信じている。
https://nobuogohara.com/2017/05/18/%E7%BE%8E%E6%BF%83%E5%8A%A0%E8%8C%82%E5%B8%82%E9%95%B7%E4%BA%8B%E4%BB%B6%E3%80%81%E5%BC%81%E8%AD%B7%E5%9B%A3%E3%81%AF%E3%80%81%E3%81%AA%E3%81%9C%E5%86%8D%E9%80%86%E8%BB%A2%E7%84%A1%E7%BD%AA/

アディーレのテレビコマーシャルは、消費者庁から処分を受けた後も、引き続き「しつこい」ぐらい大量に流し続けている。 『「弁護士自治」』、というのは確かに重要なものだ。 それに基づく 公正な『懲戒処分』を期待したい。ただ、『業務停止』、は公認会計士と同様に、確かに混乱をもたらしかねないが、 『「業務停止期間中、事務所の中で懲戒を受けていない弁護士が新事務所を立ち上げ、その新しい事務所が暫定的にすべての事件を引き継ぐ」という応急処置で対応するケースで業務が滞ることは防げる、という実例もあるようです』、との裏ワザで対応するほかなさそうだ。
『美濃加茂市長事件』の控訴審は、こんな裁判があるのかと驚いたほど、不当極まりないものだ。藤井市長については、控訴審での有罪判決を受けて一旦、辞任、1月30日の市長選挙で再任、5月には任期満了で辞任、市長選挙には無投票で3選されたようだ。市民も信任しているようだ。T氏の取り調べで、 『5日間、連日、長時間にわたり警察の取調べを受け、「被告人と中林との会食の際に席を外していないか」と聞かれて「ない」と答えると、「絶対にないか、そう言い切れるか」と長時間にわたって執拗に質問され、威迫的言辞も交えた取調べが続けられた結果、28日には、身体を痙攣が襲い、椅子から転げ落ちて意識を失うほどの状況にまで追い込まれ、Tが依頼した弁護士の抗議により警察での取調べは中止されることになった』、という警察での拷問的取り調べも、こんなことがいまだに行われているというのは、空恐ろしいことだ。さらに、 『検察での欺瞞的な調書作成』、控訴審での判断、も信じられないほど不合理なものだ。 『「司法の正義を信じる」という若き市長の言葉に応える最高裁の適切な判断が出されることを、主任弁護人の私も固く信じている』、私も信じたい。ただ、こうした警察や検察の強権的姿勢は、共謀罪の危険性を改めて示すものだ。
タグ:東洋経済オンライン 消費者庁 上告趣意書 名古屋高裁 郷原信郎 過払い金の返還 措置命令 藤井浩人市長 司法の歪み (その2)(アディーレの不適切業務めぐる「処分」の重み、美濃加茂市長への逆転有罪判決問題2) 田畑 淳 アディーレの不適切業務めぐる「処分」の重み 懲戒の段階によって影響は断然変わってくる あなたも対象かもしれません。着手金無料!成功報酬制!お電話ください 大々的にテレビCMを仕掛けて一躍有名になったのが弁護士法人「アディーレ法律事務所」 「今だけ無料」は景品表示法に違反と議決 弁護士会の綱紀委員会 懲戒審査が相当 景品表示法に違反 弁護士自治において中核になる制度 懲戒処分相当という判断が出る可能性は相当程度ある 業務停止となった場合 弁護士・弁護士法人は業務停止期間中、一切の弁護士業務ができません。それは「すでに受けて裁判を行っている事件」でも「顧問契約」でも同じです いったんすべての事件、すべての顧問業務について辞任しなくてはならないのです 業務停止期間中、事務所の中で懲戒を受けていない弁護士が新事務所を立ち上げ、その新しい事務所が暫定的にすべての事件を引き継ぐ」という応急処置で対応するケースで業務が滞ることは防げる、という実例もある 、「戒告」で済むのか、「業務停止」になるのかで、その後の影響に大きな差が出る事件 美濃加茂市長事件、弁護団はなぜ”逆転無罪”を確信するのか 受託収賄等で逮捕、起訴された美濃加茂市長事件 「逆転有罪判決 控訴審(高裁)は、基本的には、「事後審査審」と言われ、第1審判決の事実認定や訴訟手続に誤りがあるか否かという観点から審理が行われる。特に誤りがないと判断されれば控訴は棄却され、誤りがあると判断された場合には、第1審判決が破棄され、第1審で審理のやり直しが命じられたり(差戻し)、控訴審自ら判決の言い渡し(自判)が行われたりする 上告理由は、「憲法違反、判例違反、著しく正義に反する事実誤認・法令違反」に限定 原判決(控訴審判決)は、「1審が無罪判決を出したとき、控訴審が、新たな証拠調べをしないまま1審判決を破棄して有罪判決を下すことができない」とする最高裁判例(昭和31年7月18日大法廷判決・刑集10巻7号1147頁)及び「第1審判決が、収賄の公訴事実について無罪を言い渡した場合に、控訴裁判所が、事件の核心をなす金員の授受自体についてなんら事実の取調を行うことなく、訴訟記録及び第1審で取り調べた証拠のみによつて犯罪事実の存在を確定し、有罪の判決をすることは違法」とする最高裁判例(昭和34年5月22日第二小法廷 原判決は、「控訴審が1審判決に事実誤認があるとして破棄するためには、1審判決の事実認定が論理則・経験則等に照らして不合理であることを具体的に示すことが必要」とする最高裁判例(平成24年2月13日第1小法廷判決・刑集66巻4号482頁「チョコレート缶事件判決」)に違反 原判決は、重大な事実誤認により、被告人を無罪とした1審判決を破棄して被告人を有罪としたものであり、無辜の被告人を処罰の対象とした点で、著しく正義に反するものである 控訴審では、この新たな証拠調べが「事件の核心」である現金授受に関して行われたとは到底言えない 裁判所は、被告人質問を一切行わず、直接話を聞くことを全くしないまま結審し、逆転有罪判決を言い渡したのである 原判決が、不当に証拠価値を過少評価したのが、T証言 5日間、連日、長時間にわたり警察の取調べを受け、「被告人と中林との会食の際に席を外していないか」と聞かれて「ない」と答えると、「絶対にないか、そう言い切れるか」と長時間にわたって執拗に質問され、威迫的言辞も交えた取調べが続けられた結果、28日には、身体を痙攣が襲い、椅子から転げ落ちて意識を失うほどの状況にまで追い込まれ、Tが依頼した弁護士の抗議により警察での取調べは中止されることになった 「見ていないところで渡ったというのであれば、席を外したときしかない」ということは検察官から言われたと思います。僕は席を外していないということは一貫して言っておりましたので 警察での拷問的な取調べ、検察での欺瞞的な調書作成等、捜査機関が手を替え、品を替え、なり振り構わない姿勢で、Tから「席を外した」旨の都合の良い供述を得ることに腐心していたことは、1審の記録上も明らかである 司法の正義を信じる」という若き市長の言葉に応える最高裁の適切な判断が出されることを、主任弁護人の私も固く信じている
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企業不祥事(その12)(なぜ企業不祥事はこんなに起きるのか?、2万円強盗で逮捕 メリルリンチ社員は1億円宅セレブ暮らし、あの「ウーバー」がセクハラを容認したワケ) [企業経営]

企業不祥事については、1月10日に取上げたが、今日は、(その12)(なぜ企業不祥事はこんなに起きるのか?、2万円強盗で逮捕 メリルリンチ社員は1億円宅セレブ暮らし、あの「ウーバー」がセクハラを容認したワケ) である。

先ずは、日本大学教授の稲葉 陽二氏が4月14日付け現代ビジネスに寄稿した「なぜ企業不祥事はこんなに起きるのか? 「強い絆」が会社をつぶす 企業統治から見える「日本の危うさ」」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽日本人ならではの「特性」
・日本人は他人へきめ細かい心遣いをする。 筆者は欧米に8年在住し、それ以外にも発展途上国を含めかれこれ数年海外を飛び回っていたが、こんなに他人へ心遣いをする人種は他にないのではないかとさえ思う。 言い換えれば、直裁な物言いによる直接対決を避ける。
・日本人のもう一つの特長は、この心遣いの延長線上のことかもしれないが、肉体も意思も持たないはずの法人を「さん」付けで呼んで擬人化することだ。 貴社(your highly esteemed company)という表現はビジネスレターなどでは多少古臭いが、英語でもありえよう。しかし、日常会話の中で法人名に「さん」を付けて呼ぶのは、おそらく日本人だけではないだろうか。
・加えて、日本企業は相変わらず、社員同士の結束を今でもとても重視する。飲み会や休日のゴルフなどの私的な交流、公私が混然一体となった社員同士の「強い絆」が社内ポリティックスでものを言う企業もいまだに多い。 この結果、多くの大企業でトップは後継者に社長を退任したあとまで自らを優遇してくれる者を選び、相談役として残る。
・「心遣い」「法人へのさん付け、つまり擬人化」「強い絆」「相談役」は、日本人やその組織の美徳かもしれない。逆に場の空気を読む、それができないKYは社会性に欠け社員失格という評価となる。 いずれにせよ、組織の独特の文化・規範が社員を支配するという神話が生まれる。
▽社会関係資本と企業風土
・人々や組織の間のネットワークと、それが醸成する信頼と規範は社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)と呼ばれ、筆者も、特に地域コミュニティの社会関係資本はご近所の底力となるので、その醸成やその結果としての共助が重要だと主張している。
・しかし、社会関係資本の考え方を企業に当てはめると、心遣いのあまりに法人を自然人のように扱い、強い絆を大切にし、組織特有の文化・規範を重んじる考え方は、筆者には、一般の地域コミュニティの話と異なり、とても危ないもののように思われる。 たとえば、企業不祥事の際に企業が第三者委員会を設け、原因と対策を調査し、その報告書に必ず「企業風土」という言葉が原因の一つとして挙げられる。
・しかし、不祥事の原因が法人という組織特有の文化・規範である「企業風土」だといってしまうと、責任の所在が曖昧になってしまう。 それどころか、不祥事を起こした企業の経営者は企業風土の犠牲者だと言わんばかりの論調さえ許されることになる。
・筆者の近著『企業不祥事はなぜ起きるのか ソーシャル・キャピタルから読み解く組織風土』(中公新書)では、具体例として、2016年5月19日の日経に掲載された、三菱自動車の益子修会長の「風土を変えられなかった」と相川哲郎社長の「開発部門の風土で育った私がそのままだと、改革の妨げになる」という発言を取り上げて、次のように述べている。
・「この記事に違和感を覚えた読者は多いのではないだろうか。生え抜きで1978年に入社して以来、ほぼ一貫して開発部門に在籍し、2005年から当社の取締役を10年以上も務めた社長と、三菱商事からの転籍とはいえ、2004年から足掛け13年も代表取締役を務めてきた会長が、まるで自分たちの手の届かないところに「風土」というものが存在して、それが不祥事の元凶であるがごとく語っている。」 企業が経営者の手に負えない「風土」という得体の知れないものに支配されているのでは、企業不祥事はどんな改革をしてもこれから未来永劫なくならないということではないか。 少なくとも、企業風土というものをきちんととらえる必要があるという点が、上述の近著の問題意識である。
▽企業風土は経営者が紡ぐもの
・このためには、企業風土を企業内の構成員間のネットワークとしての社会関係資本ととらえると問題の本質が明らかになる。まず地域住民のネットワークとしての社会関係資本と企業内のネットワークとしての社会関係資本は根本的に違う。
・第一に、企業内社会関係資本の特徴は、企業に属する者は必ず上司、最終的にはトップとのネットワークで結ばれている点だ。つまり、社長は、全社員にアクセス権を持っている。 したがって、社長はその意思があれば、社内の誰とでもコミュニケーションを取れる点で、通常の地域コミュニティの住民間の社会関係資本と全く異なる。企業内には職制のネットワーク、つまりフォーマルなネットワークがあるが、末端の従業員までつながることができるのはトップしかいない。
・第二に、企業内の職制のネットワークは、基本的に上司から部下への情報伝達網であり、下からみれば一方的に上から情報や命令を与えられ、上から下へは上司の一存で情報を流すことができる。 しかし、下から上へどういう情報をいつ流すかは上司のスタンスに左右されるという、非対称性がある。トップはよく自由に進言して構わないなどというが、それはトップのスタンス次第で、下がトップを信頼していない企業の中でそんなことをトップが言っても誰も信じない。 このような企業では、職制のネットワークでは下から上へ本当の情報は上がらない。つまり、職制のネットワークを本当に双方向のネットワークにできるのはトップしかいない。
・第三に、企業内の職制のネットワークは本来、業務を円滑に遂行させるもので、基本的にトップはそこからプラスの波及効果を期待している。 しかし、このネットワークは時として、粉飾、偽装、リコール隠し、談合などに用いられ、会社の近視眼的利益やトップの保身の観点からみたらプラスでも、社会的には大きなマイナスの波及効果を持つものとなる。 本来、従業員間の信頼を増すなど、健全なプラスの波及効果を持つネットワークが悪用され、証拠隠滅、隠匿、責任逃れなどのとんでもない目的のために利用されてしまう。
・第四に、そんなケースでは、往々にしてトップが信頼されておらず、一方的な上司からの命令しか流れないネットワークで企業内社会関係資本が壊れているのに、従業員から辞めるという選択肢がない。 賃金などの雇用条件・環境を考えれば、ほかによりよい選択肢がないからだ。特に、社会的に威信がある有名な企業の従業員は、転職しても現職以上の好条件を得るのは難しいと考えれば面従する。雇用条件・環境はよくても、従業員は働き甲斐や誇り、連帯感も感じない最低の職場となるかもしれない。
・つまり、経営者は社内のネットワークをその裁量でいかようにもデザインすることができるが、部下にはできない。その意味では、企業風土はコミュニティの歴史的文化的経緯を踏まえて住民同士が醸成する地域コミュニティの社会関係資本とは明らかに異なる。 企業風土は経営者が紡ぐものであり、その一義的責任は経営者にある。不祥事を惹起するようないい加減な企業風土を変革できないのなら経営者としての資格がない。 しかし、残念ながら、冒頭で述べた「心遣い」「法人へのさん付け、つまり擬人化」「強い絆」「相談役」という日本の特性は、本来の経営者の責任を著しく曖昧にしてしまう。
▽強い絆が会社をつぶす
・企業不祥事をタイプ別に分類すると、企業の存亡がかかるような重大な事案はほぼ例外なくトップの関与があり、したがって、取締役会が何らかの形で問題の本質を看過してしまっているケースである。 そこで、取締役会で本当に自由な議論ができているのかが重要になるが、これを客観的にとらえるのは難しい。ただ、取締役会の構成をトップと他の構成員との関係でみて、トップの影響力の強さの代理変数としてみることはできる。
・過去に不祥事を起こした企業のケースでは、トップが取締役の中で圧倒的に高い自社株式保有比率を持ち、他の取締役や監査役などの役員の年齢を超えて年長になればなるほど、利益率や企業の安定性が損なわれる傾向がみられる。
・東証一部上場企業で、トップと取締役会のメンバーの生え抜き度(卒業してただちに当該企業に入社すれば生え抜き度が高く、中途入社になればなるほど生え抜き度は低くなる)をみると、生え抜き度の高い企業と経営者ほど、利益よりも安定度を重視する保守的な経営をする傾向がみられる。 また、社外取締役の人数が多いほど、利益率が高い。実際に不祥事を起こした企業でみると、取締役を内輪の人材で固めてトップが取締役会の中で大きな発言力を持つ企業が多い。
・すなわち、「強い絆」を誇る企業ほど、重大な企業不祥事を引き起こす傾向があるのだ。 社員の強い絆は必要かもしれないが、経営者の間の内輪の強い絆は、むしろ互いの甘えを生み、不祥事の兆候を見過ごしてしまう。加えて、相談役という内輪のネットワークがこれを加速する。
・不祥事の原因として企業風土、組織風土などという曖昧な概念を挙げて、意思決定をした取締役会とその経営トップの責任を看過するようなことがあってはならない。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51440

次に、5月16日付け日刊ゲンダイ「2万円強盗で逮捕 メリルリンチ社員は1億円宅セレブ暮らし」を紹介しよう。
・セレブぶりが“アダ”になったようだ。 強盗などの疑いで15日までに警視庁捜査第1課に逮捕された、メリルリンチ日本証券社員で米国籍のアルシニエガス・カルロス・アルホンソ容疑者(45=東京都目黒区上目黒)。今年1月5日午後8時50分ごろ、東急東横線都立大駅近くのマンションのエントランスに侵入し、帰宅した会社員女性(37)から現金2万8000円入りのバッグを奪ったとされる。
・「アルホンソ容疑者はその日、仕事帰りに被害女性宅のマンションを訪れ、帽子とマスク姿で待ち伏せしていた。入り口付近で女性からトートバッグを奪って逃走しようとしたところ、女性に追いつかれ、足首をつかまれたため、大きな声を上げ、英語で何か叫んだらしい。女性の額に果物ナイフを突きつけて脅迫し、そのままバッグを奪って逃走したということです」(捜査事情通)
・逮捕の決め手となったのが、被害女性のバッグとは別に、アルホンソ容疑者自身が犯行時に持っていたバッグだった。日本で36個しか販売していない珍しい一品という。  「現場周囲の防犯カメラには、珍しい形のバッグを持って逃走するアルホンソ容疑者の姿が映っていたそうです。それを手掛かりに、捜査員がアルホンソ容疑者の特徴を記憶し、駅や繁華街を歩いて似ている人を捜し出す、いわゆる『見当たり捜査』を続けていた。そうしたら中目黒駅前で、まさにその珍しいバッグを持っているアルホンソ容疑者を見つけ出し、逮捕に至ったというわけです」(警察関係者)
・アルホンソ容疑者は被害女性と面識はなく、酒に酔っていたわけでもなかった。容疑に関しては「間違いありません。すみません」と話しているという。 それにしても不思議なのは、動機だ。「メリルリンチの40代社員なら、少なくとも年収2000万円は下らないはず」(経済ジャーナリスト)。アルホンソ容疑者は数年前にメリルリンチ日本証券に転職し、「営業ではなくIT系の仕事をしていた」(関係者)。もともと“ヒルズ族”で、5年前に敷地面積113平方㍍の新築一戸建てを「1億円ほどで購入した」(近隣住民)という。
・「日本人の奥さんと、小学生、幼稚園の娘さん2人の4人暮らしでした。週末になると必ず家族で外食し、休日の朝は商店街のおしゃれなカフェで、家族そろってブランチをしていました。ご主人(アルホンソ容疑者)はとにかく子煩悩で、よく娘さんを肩車していましたね。奥さんはとてもきれいな方で、全身をハイブランドで固め、常に身だしなみには気を使っていました。人付き合いが苦手な奥さんに代わって、幼稚園の保護者会にはいつもご主人が顔を出していましたね。上の娘さんはこの春、名門私立大の小学校に入学したばかりなのに…」(別の近隣住民)
・強盗する理由がどこにも見当たらない。 「まあ、アルホンソ容疑者はセレブだから日本に36個しかないバッグも持っていたわけで、それがアダになった格好ですね」(前出の捜査事情通) 幸せいっぱいのセレブ暮らしとも、これでサヨウナラか。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/newsx/205440/1

第三に、健康社会学者の河合 薫氏が6月13日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「あの「ウーバー」がセクハラを容認したワケ 成功者が“バカなこと”を止められない背景とは」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・今回は「能力のある人が“そんなバカなこと”をやめられないワケ」について、アレコレ考えてみようと思う。  オンデマンド配車サービスという、革新的サービスを生み出した米ベンチャーの代表格「Uber technologies(ウーバー・テクノロジーズ、以下Uber)」が、とんでもないことになっている。 なんと「成績さえ良ければ、何をやってもオッケー」と、セクハラを容認していたことが表沙汰になり、20人を超える社員が解雇されたのである。
・コトの発端は、今年2月。 昨年の12月に退社した元従業員スーザン・ファウラーさん(エンジニア)の、「Reflecting On One Very Very Strange Year At Uber」(Uberで過ごしたとってもとっても奇妙な一年を振り返って)と題されたブログの公開だった。リンクはこちら。
・「ご存知のとおり私は昨年12月にUberを退職し、1月にStripeに再就職しました。そのことについてたくさんの質問を受けました。なぜ、私がUberを辞めたのか、私がUberで過ごした時間はどのようなものだったのか、と。 それはとても奇妙で、魅力的で、少しばかり恐ろしくて、みなさんに話す価値のあることなので、私の心の中に鮮明に残っているうちにありのままを綴っていきます。(河合が簡単に要約しました)」
・このような言葉で始まるブログは、エンジニアとして2015年11月にUber に入社してから辞めるまでの1年間の出来事を、A4のペーパーにすると5ページほどに丁寧にまとめたものだ。 ファウラーさんによれば、入社当時のUberは新しいモノを次々と開発し、学びのあるいい会社だった。ところが、数週間のトレーニングの後、参加したチームでの初日に“事件”がおこる。 彼女は上司から社内チャット(=company chat )を通じて、性的な誘いを受けたのである。
・驚いた彼女は上司とのチャットをスクリーンショットで撮り、人事部に報告。 「私は人事部が適切にこの件を処理し、再び(セクハラ上司のいない)すばらしい人生を歩めると期待した」(彼女のブログを簡約)
▽「セクハラだけど有能だから」
・ところが事態は予想外の方向に向かったのだ。 人事部は「これは明らかなセクハラであるが、彼(=セクハラ上司)の成績は極めて優秀で、今までセクハラの訴えを受けたことがない。今回のセクハラは彼の“初犯”であり、口頭での厳重注意のみとする」と回答。 そして、彼女に「チームを異動するか、そのまま残る(現状に耐える)か」の選択を迫った。“勝者”にはすべてが許される、とでもいわんばかりの物言いに彼女は当惑する。
・なんせ、そのチームは彼女の専門知識を活かせる最良の場だった。社員に与えられた「活躍したいチーム」を選ぶ裁量権を、なぜ放棄しなくてはならないのか。納得できない彼女は、「ここで仕事をしたい!」と人事部に抗議。 ところが、人事部は一貫していっさい受け付けず、「去るべきはセクハラ上司」と何度訴えても、「アナタには選択肢を与えた。それを選ばないアナタが悪い」と逆に批判されてしまったのだ。
・「このままでは自分にとってもマイナスになる」と考えた彼女は、出来たばかりの新しいチームに移る。そこでは充実した日々を過ごし、彼女が開発した製品が世界中で使われることになるなど、すばらしい経験をする。 で、その間に彼女は、他のエンジニアの女性たちも自分と同じようなセクハラを受け、同じように人事部から“初犯”と告げられていたことを知る。
・人事部も上層部も“競争に勝った優秀な社員”の愚行を隠蔽し、明らかに特別扱いをしていたのだ。さらに、社内には性差別も横行。社内を見渡してみれば、当初25人いた女性エンジニアが6人まで減少していた。  そこで彼女はセクハラや性差別の報告書をまとめ、人事部に提出。すると上司から「自分は何が違法で何が違法でないか熟知している。キミのことを切ろうと思えばいつでも簡単に切れる」と、脅された。その上司も「ハイパフォーマー」として評価されている人物だったのである。
・「その1週間後、新しい就職先を見つけ、Uberを辞めました。最後の日、女性の割合を計算してみると、150人以上のエンジニアのうち女性はわずか3%でした。 Uberで過ごした時間を振り返ると、エンジニアとして最高の仕事ができる機会をもらえたことに感謝しています。自分が開発した製品についても誇りに思います。 ただ、上記に記した出来事は、すべてバカげていて笑い飛ばすしかありません。奇妙な経験。変な一年」(彼女のブログを簡約) ブログはこう結ばれていた。
▽CEOも暴言を吐く
・ファウラーさんののブログは瞬く間に拡散。ブログには500件以上のコメントが付き、「あなたの勇気に感謝する」「こんな愚行は許されない」「私の会社でも勝者は特権を得ている」などなど、驚きと共感の嵐となった。テレビや新聞などのメディアも取り上げ、「競争に勝ちさえすれば、何でも許されるのか!」と批判された。  UberのCEO、トラビス・カラニック氏は慌てて火消しに奔走し、外部に委託して調査をすると明言した。
・その調査の結果、彼女が報告したセクハラは氷山の一角に過ぎないことが明らかになる。 メディアが行った調査でもセクハラやパワハラが横行し、女性の身体を触り、男性を殴っている事例や、ドラッグを使用するマネジャーの存在が確認された。 これらを通して、社内にはカラニック氏と親しい「Aチーム」と呼ばれる人たちがいて、ハイパフォーマーは何をやっても会社に容認されていたことが、明るみになった。社長がお墨付きを与えたハイパフォーマーには、人事部も手を出せず、黙認するしかなかったのである。
・さらに、カラニック氏自身の素行も問題になった。 今年3月。カラニック氏がUberのドライバーと、賃金体系について車内で口論している動画をBloombergが公開。 実は、Uberはライバル企業に対抗して運賃を下げ、ドライバーたちの時給は10ドルまで落ち込んでいたのだ。
・動画には、カラニック氏の連れが降り、彼が一人になったところで、「賃金が低過ぎてやっていけない」とドライバーが訴える姿が映し出されている。 「こんな給料じゃ生きていけない。賃金を上げてくれよ!」と、抗議するドライバーに対しカラニック氏は全く聞く耳を持たない。それでも食い下がるドライバー。そして、カラニック氏は、 “Some people don’t like to take responsibility for their own shit! ”( 何でもかんでも人のせいにしやがって。ふざけんな!) と吐き捨て、車を降りていってしまったのである。 なんとも……。 似たようなタイプは、日本にもいますね。
・「競争に勝ちさえすればいいんだよ。勝つ努力をしないオマエが悪いんだよ」と、勝者の特権を振りかざす……。どんなに能力があろうとも、最低――です。 いずれにせよ、同社はセクハラやパワハラが疑われる215件のうち、現時点で54件の差別、47件のセクハラ、33件のイジメが確認され、20人超を解雇。残りの57件は、調査継続中だそうだ(日本経済新聞朝刊 6月8日付「米Uber セクハラ20人超解雇」)。
・また、カラニック氏は、Apple Musicの消費者マーケティング責任者、ボゾマ・セイントジョン氏(女性)を、最高ブランド責任者(CBO)に迎え入れるという目玉人事を発表。Uberを「アップルのような人々から愛されるブランド」にするのが目的だそうだ(こちら)。
・215件のセクハラやパワハラの疑いって……。いったいどんな会社なんだ。しかも、競争に勝った社員には人事部も手を出せず、トップの側近としてやりたい放題って。トップの“お友達”に周りは忖度するしかないっていうのは、万国共通なのだろうか。 
・そういえば、Uberは「空飛ぶタクシー」構想を打ち出していたけど、アレってネガティブなイメージを“夢のあるお話”で払拭するのが狙いなのかも、と思ったりもする。 計画では3年以内の実用化を宣言しているけど、。「何でもかんでも人のせいにしやがって。ふざけんな!」的プレッシャーで、新たな被害者が出ないこと祈るばかりだ。
・カラニック氏は「魂を入れ替える」と宣言し、先のセイントジョン氏以外にも、米ハーバード大学ビジネススクールのフランセス・フレイ教授を副社長に起用する方針も明らかにしているけど、「勝つ」ことに執着してきた人の価値観を変えるのは容易ではない。
▽「成果主義は麻薬だ」
・もちろんいかなる世界にも、競争はつきものであることを否定する気はない。 だが、結局のところ、競争に過剰に執着する人の多くは周りよりもたくさん稼ぐことにプライオリティを置き、競争に勝った人だけを「価値ある人間」と評価し、勝者は権利を得てしかるべきと信じ込んでいる。
・世間からはカリスマだの成功者と持ち上げられ、その高揚感に酔いしれ、「負けていく奴は、努力が足りないんだよ」と切り捨て、「カネで買えないものはない」と平然と言い、マグロのように止まることなく泳ぎ続ける。 止まった途端に自分が終わるような気がして、その恐怖から逃れるために、どこまでもどこまでも競争に執着する。
・あれだけ世間から評価されたベンチャーの創業者が、「チームA」 に特権を与え、ドライバーに無慈悲に対応する、なんて馬鹿げた行動を繰り返したのも、「どれだけ人よりも多く稼ぐかが大切。そうしないと社会的地位を手に入れられない」という経験が骨の随までしみ込んでいるためとしか、私には思えないのである。
・以前、インタビューした人が、「成果主義は麻薬のようなもの」と話してくれたことがある。 彼の会社では、数年前から成果主義を導入した結果、社内の人間関係が悪化。だが、社長はそれを問題視しながらも、成果主義をやめることはできなかったというのだ。 「それまでの年功賃金か、成果次第の歩合制かを選べるようになった。歩合制は基本給が減る変わりに、トップセールスの社員には毎月10万円のボーナスが出る。ほとんどの社員が歩合制を選びました。10万は大きい。それに釣られたんです。
・成果主義で、確かに会社の業績は上がりました。 みんな目の色が変わったし、社内の活気も出ました。給料が上がる人も結構いました。 でも、ウツになる社員も増えた。互いの足をひっぱったり、密告が増えたり……、とにかく醜かったです。
・でも、社長は方針を変えないばかりか、競争を激化させた。成果主義の副作用を問題にしてるのにトップセールスのボーナスを上げたんです。また、ニンジンをぶら下げれば、事態が好転すると思い込んでいるのでしょう。 しかも、社長だけではなく、社員も新たなニンジンに喜んだ。最悪の職場環境でみんな窒息しそうになっているというのに。わけが分かりません。 結局のところ、成果主義(=競争)は麻薬です。味わった醍醐味が忘れられないんです」
▽有害な上司ほど従業員を“中毒”させる
・奇しくも、先日。彼の“麻薬発言”を裏付けるような調査結果が明らかになった。 米国のコンサルティング会社「ライフ・ミーツ・ワーク」が、大卒従業員1000人を調査したところ、非常に有害な上司(=toxic leaders)の下で働く従業員は、そうでない従業員よりも仕事に忠実に入れ込む傾向が高いことが分かったというのだ。  ここでの「有害な上司」とは、公然と部下をけなしたり罵倒したり、怒りを爆発させたり、他者の功績やアイデアを自分の手柄にしたりする管理職のこと。
・調査では「有害な上司」は、競争が激しく、勝つか負けるかといった雰囲気がある会社で多い傾向にあることもわかったとしていている。 また、有害上司の下で働く従業員は、そうでない従業員より平均で2年も長く勤めるという、予想に反した結果も出た。
・なぜか? 有害上司は、権力も持っているので一見「有能」に見える。 もともと仕事へのモチベーションが高い従業員は、「ここで踏んばれば、昇進するときに有利になる」と考え、「これは自分にとってチャンスだ。このチャンスをつかみ続けておかなくては」と自分に言い聞かせ、ひどい扱いに耐えるという、「過剰適応」に陥っているのだ。
・件の「成果主義は麻薬のようなもの」と語った男性は競争の渦に巻き込まれた結果、身体を壊し、2週間ほど休んだのち、競争を強いられる日常に戻るのが嫌になり退社した。 「休んでいるうちに気がついたんです。競争、競争って、オレ、何やってんだろう、って」 過剰適応の先にあるのは、バーンアウト。この男性はギリギリ燃え尽きる前に、立ち止まることに成功したのだ。
・「Reflecting On One Very Very Strange Year At Uber」というタイトルを、ファウラーさんがつけたのも、「私、何やってたんだろう」という気持ちがどこかにあるのではないだろうか。 競争に勝つことは刺激的だ。そのとき得た「快楽」は、まさしく魔物だ。
・競争社会が激化しているのは、揺るぎない事実だ。 だからこそ、私たちは「奇妙で、魅力的で、少しばかり恐ろしい」経験から身を守らなければならない。 バーンアウトは、文字通り燃え尽きること。灰になってしまってからでは元も子もない。
▽うまく行っている時ほどご用心!
・いま仕事にノッている人、勝ち続けている人にこそ考えて欲しい。 絶好調のときほど、成果の出ない人を下に見ていないか、大切な人との時間はちゃんととれているか、家族をないがしろにしていないか、身体にムリがいってないか、成果主義の麻薬にいつの間にか溺れていないか、と一度立ち止まる必要がある。
・だって、他者との競争に勝ったことで得た名声は、失敗で一夜にして落ちる。そして、誰も一生勝ち続けることなどできやしないのだから。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/200475/061200109/?P=1

稲葉氏の記事にある  『企業風土は経営者が紡ぐものであり、その一義的責任は経営者にある。不祥事を惹起するようないい加減な企業風土を変革できないのなら経営者としての資格がない。 しかし、残念ながら、冒頭で述べた「心遣い」「法人へのさん付け、つまり擬人化」「強い絆」「相談役」という日本の特性は、本来の経営者の責任を著しく曖昧にしてしまう』、 『企業不祥事をタイプ別に分類すると、企業の存亡がかかるような重大な事案はほぼ例外なくトップの関与があり、したがって、取締役会が何らかの形で問題の本質を看過してしまっているケースである』、 『実際に不祥事を起こした企業でみると、取締役を内輪の人材で固めてトップが取締役会の中で大きな発言力を持つ企業が多い。 すなわち、「強い絆」を誇る企業ほど、重大な企業不祥事を引き起こす傾向があるのだ』、などの指摘はその通りなのだろう。
第二の記事は、新聞で事件を初めに読んだ時点では、我が目を疑った。日刊ゲンダイの記事でも、犯行動機については触れられてないのは、残念だ。IT系の仕事であれば、年俸はそれほど高くない可能性もある。ただ、 『帽子とマスク姿で待ち伏せしていた』、というのでは、単に「魔が差した出来心」でもなさそうだ。まあ、続報で動機が明かされるのを期待するほかなさそうだ。
河合氏の記事は、日経新聞の報道だけでは理解できなかったことについて、詳しく触れているので、お陰で理解できた。Uberほどの企業でも、こんなことがあるのかと改めて驚かされた。 『非常に有害な上司の下で働く従業員は、そうでない従業員よりも仕事に忠実に入れ込む傾向が高いことが分かった・・・有害上司の下で働く従業員は、そうでない従業員より平均で2年も長く勤めるという、予想に反した結果も出た。なぜか? 有害上司は、権力も持っているので一見「有能」に見える。 もともと仕事へのモチベーションが高い従業員は、「有害な上司ほど従業員を“中毒”させる・・・ここで踏んばれば、昇進するときに有利になる」と考え、「これは自分にとってチャンスだ。このチャンスをつかみ続けておかなくては」と自分に言い聞かせ、ひどい扱いに耐えるという、「過剰適応」に陥っているのだ』、などの指摘は、組織と人間の関係は一筋縄ではいかない複雑なもののようだ。
タグ:日刊ゲンダイ 企業不祥事 日経ビジネスオンライン 現代ビジネス 河合 薫 (その12)(なぜ企業不祥事はこんなに起きるのか?、2万円強盗で逮捕 メリルリンチ社員は1億円宅セレブ暮らし、あの「ウーバー」がセクハラを容認したワケ) 稲葉 陽二 なぜ企業不祥事はこんなに起きるのか? 「強い絆」が会社をつぶす 企業統治から見える「日本の危うさ」 日本人ならではの「特性」 「心遣い」「法人へのさん付け、つまり擬人化」「強い絆」「相談役」は、日本人やその組織の美徳かもしれない。逆に場の空気を読む、それができないKYは社会性に欠け社員失格という評価となる 『企業不祥事はなぜ起きるのか ソーシャル・キャピタルから読み解く組織風土』(中公新書) 企業風土は経営者が紡ぐもの 企業風土は経営者が紡ぐものであり、その一義的責任は経営者にある。不祥事を惹起するようないい加減な企業風土を変革できないのなら経営者としての資格がない 強い絆が会社をつぶす 企業の存亡がかかるような重大な事案はほぼ例外なくトップの関与があり、したがって、取締役会が何らかの形で問題の本質を看過してしまっているケースである 生え抜き度の高い企業と経営者ほど、利益よりも安定度を重視する保守的な経営をする傾向 社外取締役の人数が多いほど、利益率が高い 実際に不祥事を起こした企業でみると、取締役を内輪の人材で固めてトップが取締役会の中で大きな発言力を持つ企業が多い 強い絆」を誇る企業ほど、重大な企業不祥事を引き起こす傾向があるのだ 2万円強盗で逮捕 メリルリンチ社員は1億円宅セレブ暮らし メリルリンチ日本証券社員 米国籍のアルシニエガス・カルロス・アルホンソ容疑者 都立大駅近くのマンションのエントランスに侵入し、帰宅した会社員女性(37)から現金2万8000円入りのバッグを奪ったとされる 少なくとも年収2000万円は下らないはず IT系の仕事 あの「ウーバー」がセクハラを容認したワケ 成功者が“バカなこと”を止められない背景とは 能力のある人が“そんなバカなこと”をやめられないワケ 「成績さえ良ければ、何をやってもオッケー」と、セクハラを容認 20人を超える社員が解雇 元従業員スーザン・ファウラー Reflecting On One Very Very Strange Year At Uber」(Uberで過ごしたとってもとっても奇妙な一年を振り返って)と題されたブログの公開 入社当時のUberは新しいモノを次々と開発し、学びのあるいい会社だった 数週間のトレーニングの後、参加したチームでの初日に“事件”がおこる。 彼女は上司から社内チャット(=company chat )を通じて、性的な誘いを受けたのである チャットをスクリーンショットで撮り、人事部に報告 セクハラだけど有能だから 新しいチームに移る 他のエンジニアの女性たちも自分と同じようなセクハラを受け、同じように人事部から“初犯”と告げられていたことを知る 人事部も上層部も“競争に勝った優秀な社員”の愚行を隠蔽し、明らかに特別扱いをしていたのだ ハイパフォーマー」として評価 CEOも暴言を吐く 成果主義は麻薬だ 有害な上司ほど従業員を“中毒”させる 非常に有害な上司(=toxic leaders)の下で働く従業員は、そうでない従業員よりも仕事に忠実に入れ込む傾向が高い 有害上司の下で働く従業員は、そうでない従業員より平均で2年も長く勤めるという、予想に反した結果も出た 有害上司は、権力も持っているので一見「有能」に見える。 もともと仕事へのモチベーションが高い従業員は、「ここで踏んばれば、昇進するときに有利になる」と考え、「これは自分にとってチャンスだ。このチャンスをつかみ続けておかなくては」と自分に言い聞かせ、ひどい扱いに耐えるという、「過剰適応」に陥っているのだ 過剰適応の先にあるのは、バーンアウト うまく行っている時ほどご用心!
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安倍首相の賃上げ要請(その3)(これだけ深刻な人手不足なのに、いつまでも賃金が上がらない理由、賃金が下落するのは成長産業がパートに頼らざるを得ないからだ) [経済政策]

安倍首相の賃上げ要請については、昨年5月28日に取上げた。1年以上経った今日は、(その3)(これだけ深刻な人手不足なのに、いつまでも賃金が上がらない理由、賃金が下落するのは成長産業がパートに頼らざるを得ないからだ) である。

先ずは、東京大学社会科学研究所教授 玄田 有史氏が5月17日付け現代ビジネスに寄稿した「これだけ深刻な人手不足なのに、いつまでも賃金が上がらない理由 日本はこの構造的問題から抜け出せるか」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽日本が嵌った逆ケインズ現象の罠
・業務量の増大によるサービス残業や人手不足の深刻化を理由に、ヤマト運輸などの宅配業界で、労働条件の改善の取り組みを本格化させる取り組みが話題となっている。 インターネット通販などの急速な拡大を背景としたもので、供給元のアマゾンなどの通販サイトや、通販利用者の理解が、取り組みの実現には欠かせない。 ただそれにしても、前提となる運賃値上げはヤマト運輸の場合、実に27年ぶり。どうしてこれだけ長い間、労働条件の改善の取り組みが、放置され続けてきたのだろうか。
・そもそも人手不足にあるのは、宅配業界にとどまらない。 厚生労働省が発表した2016年度平均の有効求人倍率は1.39倍と、バブル期の1990年度(1.43倍)以来の高水準を記録した。 経済学の教科書には、人手不足になれば、労働市場の価格メカニズムにしたがって、おのずと賃金に上昇傾向が生まれると、きまって記されている。 しかし、日本の現実は、教科書の指摘とはおよそほど遠い。
・同じく厚生労働省によれば、物価の変動を加味した実質賃金は、2016年に前年比0.7%増と、5年ぶりにアップしたという。 ただ、それにしても賃上げのペースは、人手不足の深刻さに比べて、あまりに弱い。2000年代半ばからリーマンショックまでの期間にも、有効求人倍率の改善はみられたが、そのときにも実質賃金は、ほとんど増大しなかった。
・よく賃金が上がらないのは、非正規雇用が増えたからだといわれる。しかし、正社員と正社員以外にわけて賃金の動きをみても、両者とも人手不足の割に、顕著な増加はみられない。 そもそも本当に人手不足なら、もっと非正規から正規に切り替えられる人が増えて、それによって賃金が上がってもよさそうなものだ。しかし、そのような正規化の動きの広がりを耳にすることも、あまりない。
・どうやら日本の経済は、既存の経済学の教科書では説明しきれないような、構造的な問題に陥っているようなのだ。 かつて経済学者ケインズは、失業が減らない理由として、人手が余っても賃金が下がらない「下方硬直性」を指摘した。現在の日本は、人手が足りなくても賃金が上がらず、生活も改善しない、賃金の「上方硬直性」の罠にはまっている。
・だとすれば、上方硬直性の理由は何なのか。その罠から抜け出すことはできるのか。 筆者は今年4月、ずばり『人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか』(慶應義塾大学出版会)という題名の書物を編集した。そこには、現在の日本の労働経済学を代表する第一線の若手研究者らに16本の論文を寄稿してもらった。  ここでは、そのエッセンスからこの問題の背景を探ってみたい。
▽賃下げを行わなかった企業ほど賃上げに消極的
・16の論文のうち、4本が共通したのは、先に述べた下方硬直と上方硬直が、実は密接にかかわっているという指摘だ。 経済学では、価格は市場の需要と供給によって通常決まると習う。需要が増えて商品が足りなくなりそうだと価格が上がり、反対に供給が増えて余り気味になると価格は下がる。労働市場の需要と供給で決まる賃金も、同じ原理で増減すると考えられてきた。
・しかし、食材や貴金属などの商品と違って、労働という商品は、人間の感情によっても左右される。 行動経済学という人間の行動を経済学的に考察する最近の研究からは、労働者は過去に支払われた水準より賃金が下がることを、とても嫌がることが指摘されてきた。 だから賃金が下がることには抵抗もするし、実際下がってしまうと、とたんにやる気がなくなってしまう。反対に、賃金が下がりさえしなければ、上がることには、それほどこだわらないという性格の人が、どうも多いようなのだ。
・賃金が下がると労働生産性も下がることを経験的に知っている企業は、どのような行動に出るのか。 人手不足だからということで賃金を大幅に上げたとする。その後に思いがけず不況になると、賃金を下げないと人件費がかさみ、経営が圧迫される。だが賃金を下げてしまうと労働者はやる気をなくすため、下げるにも下げられない事態に陥ってしまう。
・だから、賃金が下げられない硬直性があると、今が人手不足でも将来また不況になることをおそれる企業ほど、おいそれとは賃金を上げられないのだ。働き手も、給料が下がりさえしなければよいので、多少の不平はあっても、それほど賃金が上がることには執着しない。
・実際、企業データを用いた分析からは、過去に月給の賃下げを行わなかった企業ほど、今回も賃上げをしない傾向がみられると指摘されている。賃下げが出来ない場合、企業は、将来の賃金調整の余地を残すため賃上げに慎重なることも、理論的な分析から主張された。
・働き手は月給が下がることはかなり嫌うのだが、ボーナスの増減はそうでもないようだ。人手が足りなくなったり、業務量が増えたときには、企業は月給アップに代わってボーナスをたくさん支払う。 反対に将来人手が余ったり、仕事が暇になるようだったら、今度は柔軟にボーナスを削減して我慢してもらう。そんなメリハリの効いた特別賞与の活用を、これからはもっと考えたほうがよいのかもしれない。
▽高齢化が落とす暗い影
・加えて多かったのは、過去にない「高齢化」の進行が、賃金の動向にも影を落としているという指摘だった。 年功的に上がる賃金や、生え抜きの長期雇用の傾向は、以前ほどには日本の企業でみられなくなったという声も多い。 この本のなかでも、年々増え続ける積み上げ型の賃金制度を企業は採用しなくなり、かわりに一定の範囲内で増減するゾーン型の賃金制度に変更する場合がみられるようになったという指摘があった。
・制度の変更は、新しく採用された人々に対して入社と同時に適用されることも多いが、既存の制度で賃金が決まっていた人々は、しばしば適用対象外になったりもする。 おおざっぱにいえば、バブル入社世代までは、日本的雇用システムとよばれた年功賃金や終身雇用の恩恵にあずかることも多かった。
・そんな恩恵世代の男性が、2000年代後半以降、高齢者となり、徐々に定年退職を迎えるようになる。年功賃金が変化してきたといっても、それでも正社員である彼らの賃金は、若い社員に比べれば、圧倒的に高い。 定年によって、高い賃金を失う人々は、多数にのぼる。そのなかには、いわゆる団塊の世代も含まれていた。高い賃金を得ていた人が、統計のなかから一気に退場していくのだ。当然、平均でみた賃金には、強い下方圧力がかかっていく。
・さらに定年で辞めた人たちの多くは、そのまま引退することを選ばない。定年後も嘱託などのかたちで会社に残り続けるか、別の会社で別の仕事に就くことになる。共通するのは、そんな高齢者は、きまって非正規雇用になるということだ。 賃金が上がらないのは、非正規雇用が増えたからだという人もいるが、どこで増えたかといえば、実は高齢者の間で増えた。しかも団塊の世代を含む60代の非正規雇用が、一気かつ大量に増えたのだ。
・その結果として、非正規雇用の高齢者(特に大卒の高齢者)については余り気味で、賃金はなかなか増えない状況が続いている。 人手不足は、20代などの若い働き手について、特に深刻だ。少子化による人口減少の影響を考えると、若者の賃金は、もっと増えてもよかった。 しかし、若者の背後には、低賃金の大量の高齢者が、潜在的な競争相手として存在している。その影響を受けて、人手不足であるはずの若者、特に正規雇用以外の若者の賃金まで、伸び悩んでしまっている。
・政府は同一労働同一賃金ということで、特に非正規雇用の賃金など、処遇改善に力を入れてきた。一方で、労働力人口の減少に対処するために、一億総活躍社会という看板も同時に掲げ、女性や高齢者の労働参加を促そうとしている。皮肉なことに、高齢者の労働参加が続く限り、非正規雇用の賃金はなかなか上がらない。 今後、高齢者や若者の賃金が上がり始めるとすれば、増え続ける高齢者の労働参加が収束した時点だろう。その日は、一体いつ訪れるのか。それはまだ誰にもわからない。
▽氷河期はトラウマとして残った
・高齢者や若者について触れてきたが、実のところ、賃金面で近年もっとも辛い思いをしてきたのは、30代後半から40代前半の人々、特に大学卒の人々である。 本のなかには、40代前半の大学卒(大学院卒を含む)の男性の月給を、2010年時点と2015年時点で比較した内容がある。 それによると2015年時点の月給は、10年に比べて、平均すると実に約2万3000円も少なくなっていた。2015年の40代前半は、第2次ベビーブーム世代を含む、いわゆる就職氷河期世代だ。それに対し2010年の40代前半は、ぎりぎりバブル崩壊直前の、売り手就職世代だった。
・氷河期世代は、新卒時の就職活動のときだけでなく、その後の職業人生でも、以前の世代に比べて多くの困難を経験してきた。 転職は当たり前になり、賃金が低い中小企業で働いている大卒も以前よりずっと多い。直前の世代の採用が大量だったため、管理職に昇進するのも遅れてきた。それらがすべて氷河期世代の低賃金につながっている。
・氷河期世代で深刻なのは、20代の若い頃に上司や先輩からの指導や、勤め先での教育や訓練を受けた経験が少ないと多くが感じていることである。氷河期世代が働き始めた2000年代初めには、今以上にサービス残業という言葉がささやかれた。 だが、激務をこなしてきた経験が、スキルの蓄積につながっていない。たまたま不況期に就職したという理由によって、能力の開発が十分になされず、結果的に低賃金に甘んじざるを得ないとすれば、これ以上の不幸はあるだろうか。
・現在、賃金が上がらない背後には、かつての氷河期が影を落としていることも忘れてはならない。 『人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか』では各章を「需給」「行動」「制度」「規制」「正規」「能開」「年齢」というポイントごとに整理した。 ここで触れられなかった他の重要な理由もある。それらも確かめていただければ、「なるほど」「そうだったのか」と感じることが多いと思う。 そうして日本の雇用が現在抱える、いくつもの構造的問題に対する理解が深まれば、幸いである。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51726

次に、早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問の野口悠紀雄氏が6月15日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「賃金が下落するのは成長産業がパートに頼らざるを得ないからだ」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・前回のコラムでは、正規労働者とパートタイムなどの非正規労働者の間に、きわめて大きな賃金格差があることを見た。賃金と、正規・非正規の割合、産業の生産性の違いはどのような関係にあるのだろうか。
・産業別に見ると、生産性が低い産業ほどパート労働者の比率が高い。だが、「パート労働者の比率が高いために、その産業の給与が低くなる」のではなく、「産業の生産性が低いために、パートに頼らざるをえない」のだ。この十数年を見ると、低生産性産業の成長率のほうが高かったために、経済全体としてパート労働者の比率が上昇し、賃金が下落したのだ。 
▽パート労働者が多い産業は給与が低い
・産業別のパートタイム労働者比率と現金給与総額の関係は、図表1に示すとおりである。 これらの間には、密接な相関関係があることが、直ちに見て取れる。 すなわち、パートタイム労働者比率が高い産業ほど、現金給与総額が低くなっているのだ。 パートタイム労働者比率は、平均では30.06%だが、飲食サービス(76.21%)、生活関連サービス業(47.22%)、卸売業・小売業(44.35%)などでは、平均値より高い。そして、現金給与総額が平均値より低い。 それに対して、製造業(13.40%)などでは、パートタイム労働者比率が平均値より低く、現金給与総額が平均値より高い。 もっとも、以上の関係は、非正規労働者の給与水準が一般労働者のそれよりも低いことから、当然の結果である。
▽生産性が低い産業はパートに頼らざるをえない
・では、産業の生産性とパートタイム労働者比率との関係はどうなっているだろうか? これを考えるため、一般労働者(パート労働者を含む労働者全体ではなく、パート労働者を除外した一般労働者)の給与水準と、パート労働者の比率を産業別に見ると、図表2に示すとおりである。 ここで一般労働者の給与水準を取り上げたのは(従業員全体の給与水準でなく一般労働者の)給与の水準が産業の生産性の高低を示すと考えられるからである。
・図表1と図表2を比べると、図表2における賃金格差は、図表1の場合ほどは大きくないことが分かる。また、パートタイム労働者比率が高いほうが給与は高くなっている場合もある(例えば、卸売業・小売業の一般労働者給与は、製造業のそれより高い)。
・ただし、全体として見れば、弱い逆相関が見られる。実際、両者の相関係数を計算すると、マイナス0.623となる。 これは、「パート労働者の比率が高いために、その産業の給与が低くなる」のではなく、「産業の生産性が低いために、パートに頼らざるをえない」ことを示している。 つまり、生産性や給与水準の高低は、その産業の特性なのである。
・だから、「同一労働同一賃金」を目指したところで、その産業の賃金が上昇することにはならない。産業の生産性が所与である以上、同一賃金を目指せば、一般労働者の賃金が低下することになるだろう。 もちろん、生産性が低い産業で投資を行なうことによって労働生産性を高めることは、不可能ではない。しかし、それには限度があるだろう。
▽賃金下落の背景に、産業構造の変化、「高所得産業」が縮小
・上で述べたように、生産性が比較的、高い産業と低い産業がある。 ところで、これらの間には、成長率の差があるのだ。 毎月勤労統計調査のデータで見て、現金給与総額が平均より高いのは、つぎの産業だ。  鉱業・採石業等、建設業、製造業、電気・ガス業、情報通信業、不動産・物品賃貸業、運輸業・郵便業、金融業・保険業、学術研究等、教育・学習支援業、複合サービス事業。 これらの産業を「高所得産業」(高生産性産業)と呼び、それ以外の産業(公務を除く)を「低所得産業」(低生産性産業)と呼ぶことにしよう。
・産業別の就業者の増加率には著しい差がある。労働力調査によって、2006年から16年の間の産業別就業者の増加率を見ると、例えば、製造業は、マイナス10.15%であったのに対して、宿泊業・飲食サービス業は4.55%、医療福祉は42.03%だった。
・高所得産業と低所得産業の構成比の推移を見ると、図表3に示すとおり、大きな変化があった。すなわち、06年から12年頃にかけて、前者の比率が低下し、後者の比率が上昇したのだ。 その結果、06年には高所得産業の比率のほうが高かったが、08年頃を境に、低所得産業の比率のほうが高くなっている。 このような産業構造の変化が、経済全体の賃金を下落させている。
・毎月勤労統計調査の賃金指数(現金給与総額、5人以上の事業所、就業形態計、調査産業計)は、06年の106.0から、13年には99.6まで下落した。16年には100.6とわずかに回復したが、長期的に見て下落傾向にあることは否定できない。 経済全体としての賃金の上昇は、生産性の高い産業が成長することによってしか実現しないのだ。
・これまで述べたことを繰り返そう。 パート労働者比率が高い産業では賃金水準が低いのだが、現実には、パート労働者比率が高い産業ほど就業者全体の伸び率が高い。したがって、全体の平均的な賃金が低下する。 つまり、雇用においてパートへの依存が増えているために、給与総額が圧縮されているのである。  経済全体の賃金下落はこうしたメカニズムによって生じているので、政府が春闘で賃上げに介入しても、賃金が上昇しないのだ。
▽「低所得産業」の成長率が高いため、パートタイム労働者が増える
・低生産性産業の成長率のほうが高いために、経済全体としても、一般労働者の増加率よりパートタイム労働者の増加率が高くなる傾向がある。 これに関して、実際のデータを見よう。 毎月勤労統計調査によって2012年から16年の間の常用雇用指数(5人以上)を見ると、パートタイム労働者が13.8%の増加、一般労働者が3.7%の増加だ。
・ところで、パートの増加率は、産業別に大きな差がある。 パート労働者が増えているのは、非製造業である。12年から16年の間のパートタイム労働者の常用雇用指数(5人以上)を見ると、宿泊業・飲食サービス業で20.5%の増、医療・福祉で21.4%の増と、きわめて高い伸び率を示している。 それに対して、製造業では10.4%の伸びに留まっている。
・すでに見たように、パート労働者比率が高いのは低所得産業であり、この産業の伸び率のほうが高い。このため、経済全体としても、パートタイム労働者の増加率が高くなるのだ。
▽非製造業は、非正規を増やして利益を上げてきた
・また、上に述べたことから、「パート労働者の伸びが高い産業では、賃金の伸びが低い」ということになるはずだ。これを実際のデータで確かめておこう。 両者の関係は、図表4に示すとおりである。 それほど明確にではないが、負の相関が見られる(相関係数はマイナス0.50)。 つまり、パートが増えている産業では、賃金上昇率がマイナスになる(なお、この図では、電気・ガス業を除いてある)。
・この図とは別に、2012年から16年の間の変化を見ると、もっと顕著に負の相関関係が見られる。 名目賃金指数(一般労働者とパートの合計の現金給与総額、事業所規模5人以上)の増加率を見ると、製造業では2.0%であるのに対して、宿泊業・飲食サービス業ではマイナス0.1%と、わずかではあるが減少しているのだ。 なお、人件費と利益の関係は、拙著『日本は円高に対処できるか?』(ダイヤモンド社、2016年、第4章)で述べた。
・そこで述べたように、輸出産業(その大部分は製造業の大企業)は、円安によって利益を増大させた。そして、非製造業の企業は、非正規を増やして人件費総額を圧縮することによって、利益を増やした。
http://diamond.jp/articles/-/131836

玄田氏の記事にある 『現在の日本は、人手が足りなくても賃金が上がらず、生活も改善しない、賃金の「上方硬直性」の罠にはまっている』、との指摘はなるほどと納得させられる。ただ、 『人手が足りなくなったり、業務量が増えたときには、企業は月給アップに代わってボーナスをたくさん支払う。 反対に将来人手が余ったり、仕事が暇になるようだったら、今度は柔軟にボーナスを削減して我慢してもらう。そんなメリハリの効いた特別賞与の活用を、これからはもっと考えたほうがよいのかもしれない』、との指摘には違和感を感じた。というのも、日本企業は以前からボーナスを人件費負担の調整弁として大いに活用してきた筈で、これをさらに活用しようと主張しているのだろうか。 『氷河期はトラウマとして残った』、というのには驚くと同時に、彼らに同情せざるを得なかった。
野口氏が指摘する 『パート労働者が多い産業は給与が低い』、 『パート労働者が多い産業は給与が低い』、 『賃金下落の背景に、産業構造の変化、「高所得産業」が縮小』、 『「低所得産業」の成長率が高いため、パートタイム労働者が増える』、などの産業構造面からの指摘も説得的だ。
いずれにしても、これでは安部首相がいくら賃上げを要請しても、実らないのも無理なさそうだ。
タグ:野口悠紀雄 行動経済学 安倍首相 ダイヤモンド・オンライン 現代ビジネス 賃上げ要請 (その3)(これだけ深刻な人手不足なのに、いつまでも賃金が上がらない理由、賃金が下落するのは成長産業がパートに頼らざるを得ないからだ) 玄田 有史 これだけ深刻な人手不足なのに、いつまでも賃金が上がらない理由 日本はこの構造的問題から抜け出せるか 日本が嵌った逆ケインズ現象の罠 正社員と正社員以外にわけて賃金の動きをみても、両者とも人手不足の割に、顕著な増加はみられない 現在の日本は、人手が足りなくても賃金が上がらず、生活も改善しない、賃金の「上方硬直性」の罠にはまっている 人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか 若手研究者らに16本の論文を寄稿 賃下げを行わなかった企業ほど賃上げに消極的 労働者は過去に支払われた水準より賃金が下がることを、とても嫌がることが指摘 賃金が下げられない硬直性があると、今が人手不足でも将来また不況になることをおそれる企業ほど、おいそれとは賃金を上げられないのだ 業務量が増えたときには、企業は月給アップに代わってボーナスをたくさん支払う。 反対に将来人手が余ったり、仕事が暇になるようだったら、今度は柔軟にボーナスを削減して我慢してもらう。そんなメリハリの効いた特別賞与の活用を、これからはもっと考えたほうがよいのかもしれない 高齢化が落とす暗い影 若者の背後には、低賃金の大量の高齢者が、潜在的な競争相手として存在している。その影響を受けて、人手不足であるはずの若者、特に正規雇用以外の若者の賃金まで、伸び悩んでしまっている 氷河期はトラウマとして残った 2015年時点の月給は、10年に比べて、平均すると実に約2万3000円も少なくなっていた 管理職に昇進するのも遅れてきた 氷河期世代で深刻なのは、20代の若い頃に上司や先輩からの指導や、勤め先での教育や訓練を受けた経験が少ないと多くが感じていることである 賃金が下落するのは成長産業がパートに頼らざるを得ないからだ パート労働者が多い産業は給与が低い 生産性が低い産業はパートに頼らざるをえない 賃金下落の背景に、産業構造の変化、「高所得産業」が縮小 「低所得産業」の成長率が高いため、パートタイム労働者が増える
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北朝鮮問題(その5)(「北朝鮮危機」はあざとい猿芝居だ!、北朝鮮威圧策を諦め中国を批判するトランプ政権の迷走、米軍準機関紙が断言「米軍は北朝鮮を攻撃しない」) [世界情勢]

北朝鮮問題については、4月30日に取上げたが、今日は、(その5)(「北朝鮮危機」はあざとい猿芝居だ!、北朝鮮威圧策を諦め中国を批判するトランプ政権の迷走、米軍準機関紙が断言「米軍は北朝鮮を攻撃しない」) である。

先ずは、ジャーナリスト 半田 滋氏が5月3日付け現代ビジネスに寄稿した「「北朝鮮危機」はあざとい猿芝居だ! 日米朝「形だけ」の演出 軍事のプロなら一目でわかる」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽ひとつめのブラフ
・北朝鮮の核・ミサイル開発をめぐり、朝鮮半島近くに空母「カールビンソン」 を派遣した米国、対抗するように300門の自走砲を並べて一斉砲撃をみせた北朝鮮、空母型護衛艦を初の米艦防護に派遣した日本…。  役者がそろい、大向こうをうならせるケレン味あふれる大芝居。「トランプ屋! 金屋!」。そして「安倍屋!」
・おや、と疑問を抱かせたのはまず米国だった。 米太平洋艦隊は4月10日、米韓合同演習「フォールイーグル」に参加し、シンガポールに寄港した後、オーストラリアへ向かう予定だったカールビンソンを「西太平洋の北部海域に派遣する」と発表した。朝鮮半島沖に地上攻撃ができる空母を差し向けるというのだ。
・北朝鮮では翌11日、国会にあたる最高人民会議が平壌(ピョンヤン)で開かれ、この日金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長の党第1書記就任5周年を迎える。15日には金日成(キムイルソン)国家主席生誕105周年があり、各国メディアを招待して大規模な軍事パレードが予定されていた。
・空母派遣という物騒なプレゼントは、生誕を記念して6回目の核実験もしくは米国まで届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)の試射など「絶対にやるなよ」というトランプ政権からのメッセージである。 これに対抗するように北朝鮮は軍事パレードに潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)「北極星」、新型の大陸間弾道弾(ICBM)など米国の脅威になる兵器を次々に登場させ、期待通り、もとい予想通りの見せ場を演出した。
・フィナーレは翌16日、咸鏡南道(ハムギョンナムド)の新浦(シンポ)付近からの弾道ミサイル1発の発射だった。直後に空中で爆発し、数時間後、韓国のソウルに到着したペンス米副大統領が対応に頭を痛めることもなく、生誕式典は幕を閉じた。
・米国は北朝鮮の「誠意」に答える。米太平洋軍司令部当局者は18日、軍事パレードにあわせて派遣すると発表していたカールビンソンが、実はパレード当日には、朝鮮半島から約5600キロも離れたインドネシア近くを航行していたと発表した。 カールビンソンは当初の予定通り、オーストラリア海軍と共同訓練を行っており、朝鮮半島へは舳先を向けてさえいなかった。 トランプ大統領が「我々は大船団を送っている」と述べたのは、得意の「オルタナティブ・ファクト(もうひとつの真実)」だったのである。 米軍最高指揮官の大統領が空母の行動を知らないはずがない。朝鮮半島へ向かわせるとの発表は、ブラフだったと考えるほかない。
▽瞬殺できる無謀な配備
・カールビンソンはその後、海上自衛隊の艦艇と共同訓練しながらゆっくり西太平洋を北上した。米海軍は29日、カールビンソンの周囲を固めて進む海上自衛隊の護衛艦2隻と米海軍の巡洋艦と駆逐艦3隻の映像を公開した。
・しろうと目には頼もしい限りの「嗚呼、堂々の我が艦隊」だが、情勢が緊迫しているならカメラに映りやすいような位置関係にはならない。臨戦態勢ならば、潜水艦や航空機からの攻撃に備えてそれぞれの艦艇は15キロから20キロも離れて配置するのが当たり前だからである。
・空母の周囲を艦艇が守るように並ぶ映像は「フォト・エクササイズ(写真用訓練)」と呼ばれる。相当ヒマか、安全が確保されている場合に限定される。日米の共同訓練は北朝鮮に見せることが最大の狙いだったのだ。よっ、トランプ屋!
・最後の懸案だった4月25日の北朝鮮人民軍創建85周年は何事もなく終わり、締めくくりに29日、北朝鮮は平安南道北倉(ピョンアンナムドプクチャン)付近から北東方向に弾道ミサイル1発を発射したものの、これも途中で爆発して終わった。 最近では発射に成功することが多かったミサイルが二度連続して爆発したのは、トランプ大統領へのメッセージとみるべきではないだろうか。ミサイル発射をやめることはないが、現状では米国の脅威にはならない、という北朝鮮なりの回答である。
・金正恩委員長の考えを忖度することなく、「失敗」の一言で片づけては失礼というものだろう。 北朝鮮の「深謀遠慮」はまだある。 朝鮮中央通信によると、25日に軍創建後、史上最大規模とされる演習があり、300門以上の自走砲による一斉砲撃が行われた。公開された映像は3列に並んだ自走砲が列ごとに海を隔てた陸地へ向かって一斉に砲撃している。勇ましいことこの上ないが、これほどケレン味あふれる光景はない。
・自走砲と自走砲の距離はわずか10メートル程度。300門あろうが、それ以上だろうが、カールビンソンに搭載されたFA18戦闘攻撃機なら上空からの爆弾投下で瞬殺できる無謀な配置となっている。 演習とは、本番で想定される事態に備えて行うのが常識であり、本来なら自走砲は点々と離れ、上空から見つけにくいようカモフラージュされる。
・見てくればかりを強調したこの演習は、北朝鮮国民に対して「米国に毅然と立ち向かう我が人民軍」を「見せる」のと同時に米国に対し、「軍の威力を示すけれど、決して本番を想定してはいない」と訴えるシグナルとなっている。 「役者やのう…」(古いか)。 米国と北朝鮮の役者はそろった。最後は日本である。
▽形だけ」の米艦防護
・カールビンソンに航空燃料などを洋上補給する米海軍の補給艦を護衛するため、海上自衛隊の空母型護衛艦「いずも」が1日、横須賀基地を出航した。 安全保障関連法にもとづく、「武器等防護」適用の第1号である。「いずも」は太平洋で米補給艦と合流し、四国沖まで航行する。 米艦艇を守る「武器等防護」は現場の指揮官の判断で武器使用ができ、集団的自衛権行使と変わりないとして野党が憲法違反と批判した自衛隊行動のひとつである。
・奇妙なのは白羽の矢が立ったのが「いずも」だったことだ。 空母のように舳先から艦尾まで平らな全通甲板を持ち、ヘリコプターを搭載する役割の「いずも」は他の護衛艦と比べ、防御力で格段に劣る。自らを守ることさえ覚束ないのに米補給艦に対する攻撃を防ぐことなど不可能に近い。 もっとも北朝鮮海軍に太平洋で活動する能力はないので攻撃を受ける心配はないが、米補給艦と共同行動するのは四国沖で終わり、日本海には入らないというのは文字通り「形だけ」の米艦防護であることを示している。
・「いずも」は15日にシンガポールで開催される国際観艦式に参加する予定があり、同方向に進む米補給艦との「二人旅」に選ばれたのだった。 安全保障関連法にもとづく、自衛隊の活動は南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に派遣している陸上自衛隊に「駆け付け警護」を命じてから2件目。安倍晋三首相は任務付与から3ヵ月が経過した3月10日に撤収命令を出し、「駆け付け警護」は行わずに終わる。
・「いずも」による「武器等防護」が形式的にすぎないのと同様、「形だけ」だったといえる。安倍政権にとって、安全保障関連法は実施段階に入ったという実績づくりこそが重要なのだろう。 米軍と行動を共にすることでトランプ大統領に対米追従の姿勢をみせつつ、形式的な対米支援にとどめたことで、北朝鮮へは「戦うことまでは想定していない」というただし書きを示すことになった。
・「これが政治だ」といえば、それまでだが、真相を探れば北朝鮮問題を巧みに利用する安倍政権の姿が浮かび、日本国民という観客の大向こう受けを狙ったあざとい猿芝居の舞台裏が見えてくる。
▽なぜ中韓に向かう閣僚がいないのか…
・安倍首相は13日の参院外交防衛委員会で、北朝鮮の軍事力について「サリンを(ミサイルの)弾頭に着け、着弾させる能力をすでに保有している可能性がある」と指摘してみせた。 何を根拠に言うのか不明だが、国民に安全安心を提供するのではなく、脅しの言葉を吐くことにより、森友問題や共謀罪といった国内問題から目をそらさせようとする意図がうかがえる。
・脅しが効いたのか、金日成生誕記念日の4月15日、弾道ミサイル攻撃を受けた際の避難方法などを紹介する内閣官房の「国民保護ポータルサイト」のアクセス数は45万8373件と急増し、3月のアクセス数(45万858件)を1日で上回った。 海外渡航中の邦人に安全情報を提供する外務省のメールサービス「たびレジ」の登録者も急増し、韓国関連の登録者数は2倍にふくれあがった。
・遂に4月29日のミサイル発射時には東京メトロや新幹線の一部が運転を見合わせる事態にまでなった。  ミサイル発射の報道は午前6時6分だったが、5時半ごろには発射されており、日本に到達していたとすれば10分後の5時40分ごろのはず。第一報があった時点で終わった話だったのだから、噴飯ものというほかない。
・観客が大芝居に感情を激しく揺さぶられ、平常心を失いつつある一方で、ゴールデンウィークに外遊する閣僚は半数にあたる11大臣にものぼる。副大臣は11人、政務官は8人が日本を不在にする。 日本の行く末を心配していないか、実は心配いらないことを知っているかのどちらかであろう。
・訪問先は米国、英国、ロシア、東南アジア各国など。本気で北朝鮮情勢を不安視するなら北朝鮮に影響力がある中国や韓国に向かうはずだが、そんな閣僚は一人もいない。 背筋も凍るようなケレン味たっぷりの舞台を見せられ、「ああ、すごいお芝居だった」と感動する観客は次も入場料にあたる一票を安倍政権に捧げるのだろうか。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51641

次に、 軍事ジャーナリストの田岡俊次氏が6月15日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「北朝鮮威圧策を諦め中国を批判するトランプ政権の迷走」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・米国は北朝鮮の核・ミサイル問題で軍事的圧力を掛けるのを諦めた様子だ。 朝鮮半島沖に出していた空母2隻は6月6日、日本海を去り、近日中に西太平洋に残る空母は横須賀を母港とする「ロナルド・レーガン」1隻という平常の状態に戻る。
・米国防長官ジェームズ・マティス海兵大将は、国防総省の記者会見やCBSテレビの番組で「軍事的解決に突き進めば信じられない規模の悲劇的結果となる」と力説し「外交的手段による解決のため、国連、中国、日本、韓国と協力して行く」と述べている。国連安保理は北朝鮮への経済制裁強化を決議したが、ほとんど従来の制裁と変わらない内容で、日本に対する核・ミサイルの脅威は高まる一方だ。
▽空母3隻が1隻の体制に 原潜も攻撃能力低い
・核・弾道ミサイル開発を進める北朝鮮に対して、米海軍は4月8日、シンガポールからオーストラリア訪問に向かっていた空母「カール・ヴィンソン」を反転させ、北西太平洋に向かわせる、と発表。同艦は4月29日に日本海に入った。昨年11月から横須賀で定期修理に入っていた空母「ロナルド・レーガン」は5月7日修理を終え、試験航海の後16日出港、日本海に向かった。さらにワシントン州キトサップ港から6月1日に空母「ニミッツ」が出港、日本のメディアでは「空母3隻で北朝鮮に圧力を掛ける」とも報じられた。
・だが「カール・ヴィンソン」はすでに約6ヵ月の間、海外に展開しているため、乗組員の拘禁性ノイローゼを防ぐために、カリフォルニア州サンディエゴの母港に戻ることが必要だ。一方で「ニミッツ」はアラビア海など中東方面に展開する予定だから、西太平洋は通過するだけで、仮に日本海に入っても顔を出す程度。残るのは横須賀を母港とする「ロナルド・レーガン」1隻になり、普段の配置に戻ることになる。
・巡航ミサイル「トマホーク」を154発も搭載できる原潜「ミシガン」は、4月25日釜山に入港、攻撃能力を誇示した。だがその後、6月6日に釜山に入った原潜「シャイアン」はもっぱら艦船攻撃用の潜水艦で、魚雷に加え「トマホーク」は12発余りを積めるだけだ。
▽マティス国防長官 「軍事的解決は悲劇になる」
・マティス国防長官が「軍事的解決」に突き進むべきではないと公言するのだから、いかに米国が攻撃能力を誇示しても威嚇効果はない。日本海から空母が引きあげたのも当然だ。 その理由としてマティス長官が5月19日に国防総省での記者会見で「信じられない規模の悲劇的な結果となる」と語ったのには十分な根拠がある。
・北朝鮮は、1990年にソ連が、92年に中国がそれぞれ韓国と国交を樹立して孤立したため核兵器開発を始め、93年3月には核不拡散条約(NPT)からの脱退を宣言した。 しかし3ヵ月の脱退予告期限切れ寸前の6月に、米朝高官会談で脱退宣言を撤回し、国際原子力機関(IAEA)の査察も受けることになった。だが査察に非協力的で核兵器開発の疑いが濃くなったため、米国(クリントン政権)は北朝鮮寧辺(ヨンビョン)の原子炉とプルトニウムを抽出する燃料棒再処理施設に対する航空攻撃を計画した。
・しかし在韓米軍司令部は、航空攻撃を実行すれば、1953年の朝鮮戦争休戦協定は破棄となり、全面的戦争が再開される、と判断。そうなれば「最初の90日間で米軍の死傷5万2000名、韓国軍の死傷49万名、民間人死者は100万人を超える」との損害見積もりを本国政府に提出した。 航空攻撃だけを考えていたワシントンの高官たちはこれを見て愕然とし、攻撃を諦めてカーター元大統領を平壌に派遣、当面は火力発電用の重油を提供するとともに、高純度プルトニウムが出にくい軽水炉2基を建設するのと引き換えに核開発を停止することで合意し、危機は回避された。
▽北朝鮮のミサイル能力 朝鮮戦争当時とは格段に向上
・今日、米軍が北朝鮮を攻撃しようとすれば、その困難と危険は94年当時の比ではない。原子炉などは空から丸見えの固定施設だから、破壊自体は容易だが、核弾頭となれば、どこにあるかが分からない。 94年の北朝鮮には、地上部隊で侵攻する以外の反撃能力は無かったが、今日では弾道ミサイルがある。自走発射機に載せて移動し、谷間のトンネルなどに隠れ、命令が出れば出て来て、ミサイルを立てて発射するから、米軍が先制攻撃をしようにも目標の位置が分からない。仮に一部を壊せても残りのミサイルが韓国や日本に向けて発射されるだろう。
・またソウルの北約40キロの停戦ラインの北側は、朝鮮戦争中に中国軍が造った地下陣地となっている。半島を横断する全長240キロ、奥行き30キロの巨大な要塞地帯は、米軍の猛烈な爆撃、砲撃に耐えて戦線を守り抜いたから、それが今日の停戦ラインになっている。 北朝鮮軍はそこに170ミリ長距離砲、射程60キロの22連装の車載ロケット砲など、砲2500門を配備している。その数はソウル前面だけでも350門と見られる。これが一斉射撃すれば、「ソウルは火の海になる」と北朝鮮が言うのは嘘ではない。
▽日本にも打撃大きい 難民流入や投資の回収不能
・もし北朝鮮が米軍、韓国軍の攻撃を受け、滅亡が迫れば、金正恩氏は、自暴自棄で「死なばもろとも」の心境になり、核ミサイルを米軍基地や大都市に向け発射する公算は高い。 日本にとっても、仮にその戦禍を免れたとしても、風向きによっては放射性降下物が来るし、残留放射能と経済の混乱で韓国に住めなくなった難民が大量に流入することもありそうだ。韓国への企業の投資や融資は回収不能となる。戦争が終わっても、難民が帰国できるよう朝鮮半島の復興に日本は莫大な寄与を求められるだろう。
・これを考えれば、米国が23年前にあきらめた北朝鮮攻撃を今日実行する可能性はごく低い。このことを、私は「北朝鮮攻撃説」が高まった3月以来、ずっと説いてきたが、マティス長官が全く同じ判断を示したことに安堵した。 トランプ大統領は、おそらく状況を知らずに威勢のよい発言をしたものの、マティス長官や国家安全保障問題担当の大統領補佐官ハーバート・マクマスター陸軍中将ら、現実を知る軍人の説明を聞いて、振り上げた拳をそっと引きこめたように見える。
・日本の安全と国益にとっては、朝鮮半島で戦争が起こるより、起こらない方が良いのは当然だ。だが、米国がもし北朝鮮の核問題を事実上棚上げにし、核とミサイルの開発と配備がさらに進むならば、相手は将来、何らかの理由で自暴自棄の状況になりかねない国だけに危険は高まる。 一方、マティス国防長官は6月3日シンガポールでの「アジア安全保障会議」で演説し、中国の南シナ海、東シナ海での行動を強く批判しただけでなく、台湾に関して「防衛装備の提供で協力する」と中国をもっとも刺激する発言をした。
・北朝鮮の核問題に対処するには、北朝鮮の貿易額の90%を占める中国の協力が不可欠で、マティス長官自身もそれを言っている。 国連安全保障理事会が6月2日に決めた北朝鮮の制裁は、禁輸の対象となる物品や制裁手段などは従来のままだ。単に高官14人と4機関(従来39人、42機関)を渡航禁止、資産凍結のリストに追加しただけだから、効果がありそうになく、中国が独自で経済的圧力をかけてくれることに期待せざるをえない。
・にもかかわらず、米国防長官が中国と対立する姿勢を示したのは不可解だ。 トランプ政権としては、北朝鮮に対する軍事行動はできず、威圧も尻すぼみになったため、東アジアでの米国の威信が低下することを案じ、中国に対し強硬な発言をすることで存在感を保つことを狙ったか、とも考えられる。 また南シナ海での岩礁の領有権問題を抱えるベトナム、マレーシアなどの防衛関係者から「米国は北朝鮮の核問題で中国の協力を求めるあまり、南シナ海問題を放置するのでは」との懸念も出ているため、その不安の除去をはかったのかもしれない。
・だが東南アジア諸国はすべて中国主導のアジア・インフラ投資銀行(AIIB)の加盟国で、中国との経済関係をさらに拡大しようと努めており、米中の対立を期待しているわけでもない。 中国、北朝鮮に対する米国の首尾一貫しない姿勢は、中東、欧州に対しても見られるトランプ政権の対外政策全体の迷走の一端とも言えよう。
http://diamond.jp/articles/-/131771

第三に、ガバナンスアーキテクト機構研究員 部谷 直亮氏が6月16日付けJBPressに寄稿した「米軍準機関紙が断言「米軍は北朝鮮を攻撃しない」 ソウルにおけるメガシティ戦闘で泥沼化の恐れ」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・今年の春、米軍の北朝鮮への先制攻撃の可能性を報じたメディアやジャーナリストは今やすっかり口を閉ざしてしまった。中にはいまだにそうした見解を述べる論者も散見されるが、現実的にはその可能性はきわめて薄い。
・5月21日、米軍の準機関紙「military times」は、北朝鮮への先制攻撃はリスクが高く、トランプ政権は攻撃を考えていないとする記事を掲載した。記事の概要は以下のとおりである。 トランプ政権は、北朝鮮への軍事的選択肢はないと考えている。 確かに北朝鮮の現政権によるミサイル実験は頻繁さを増し、金正恩は米西海岸への核攻撃能力獲得に近づいている。だが、米国の軍高官は、先制攻撃が大惨事を招き、最悪の場合、10万人の民間人を含む大量の死者を生み出すと懸念している。
・まず、国境地帯の花崗岩の山岳地帯に秘匿された北朝鮮の砲兵部隊は、砲撃から数分で山中に秘匿できる。また、韓国のソウルは非武装地帯から約56キロメートルにある人口2500万人の大都市である。シンクタンクの分析では、170ミリ自走砲、240ミリおよび300ミリの多連装ロケットシステムがソウルを攻撃できる。特に300ミリロケットがソウルに向けられた場合、都市火災が発生する。数百万人の民間人がソウルから南下して鉄道・航空・道路における大混乱をもたらし、大規模な人道危機を引き起こす。
・元航空戦闘軍団司令官のハーバート・カーライル元空軍大将は、「米韓連合軍が北朝鮮を倒すのは間違いないが、韓国の民間人犠牲者を減らすのに十分な迅速さで北朝鮮軍を機能停止に追い込めるかが最大の問題だ」と警鐘を鳴らす。専門家たちも、ひとたび通常戦争が始まれば戦いは数カ月以上続くとみている。
・米軍が特に懸念しているのが、ソウルの一角に北朝鮮軍が侵入する事態である。北朝鮮軍は非武装地帯に多数掘削した秘密トンネルから1時間に2万人を侵入させることができる。これは「恐るべきメガシティ戦闘」を引き起こす可能性がある。カーライル元空軍大将は「ソウルのどこかに北朝鮮軍が侵入すれば、航空戦力の優位性は相対化される。メガシティ戦闘では航空戦力は極めて限定的な役割しか発揮できない」と指摘する。
・米海兵隊の活動も困難である。第1の理由は、海兵隊は朝鮮戦争以来、大規模な強襲揚陸作戦を行っていないこと。第2は、現在西太平洋に展開中の5~6隻の水陸両用艦艇では、上陸作戦に必要な1~1.7万人の戦力を運べないこと。第3は、北朝鮮の沿岸防衛能力は1950年とは比較にならないほど向上し、何百マイル先の艦艇や舟艇を破壊できることだ。
・しかも、開戦となれば、米軍の地上基地が打撃を受ける可能性があるため、利用可能なすべての米空母がこの地域に吸引されることになる。陸空軍なども同様で、全世界における米軍の即応能力を低下させるリスクがある。また、ヘリテージ財団研究員のトム・スポウラー元陸軍中将は「戦争が始まると米陸軍は旅団戦闘団を新たに編成しなければならない。だが、イラクにおける経験で言えば2年間は必要だ」と指摘する。
▽考えれば考えるほどリスクが高い先制攻撃
・以上の記事から分かるのは、元軍人たちは我々が考える以上にリスクを重く見ているということだ。 元米軍人たちの指摘は、(1)海兵隊の脆弱性に伴う上陸作戦の困難性、(2)頑丈な花崗岩と複雑な地形を利用した砲兵陣地の強靭さと威力、(3)メガシティ戦闘、(4)戦力の枯渇、に集約できる。
・海兵隊の脆弱性は言うまでもないが、(2)(3)(4)については改めて説明が必要だろう。まず(2)についてだが、地形・地質の有効な活用は沖縄戦における日本軍の粘り強さを振り返れば、その効果がよく分かる。沖縄戦闘時の日本軍は、沖縄の硬い珊瑚岩と起伏の激しい地形を利用して砲兵陣地(いわゆる反斜面陣地)を形成して、航空・火砲の圧倒的な劣勢下でも米軍を苦しめた。
・(3)の「メガシティ戦闘」は、2014年頃から米陸軍が強調している概念である。米陸軍は、2030年には全世界人口の6割がメガシティ(人口1000万以上の大都市圏で、世界に27か所存在)に居住する時代になるとして、メガシティ戦闘に必要な将来の米陸軍の戦力構成やドクトリンの検討を続けている。 米陸軍は、メガシティでは民間人への配慮や戦力の分散が余儀なくされるため、作戦が極めて複雑になる他、敵戦力が建物や住民に紛れ込むことで航空戦力が活用できず、相手の情報も手に入らないため、大苦戦が予想されるとしている。イラク戦争時のファルージャ攻防戦や近年のイスラム国との各都市における死闘を思えば、元軍人たちがソウルに北朝鮮軍の部隊が侵入すればやっかいなことになると考えるのも当然だろう。
・(4)については、要するに北朝鮮問題以外にも米国の抱える脅威はたくさんあるということだ。米国は既にイスラム国との戦い、アフガンでの戦い、テロとの戦い、サウジアラビアとイランの覇権争いに巻き込まれている。米国としては、すでに炎上しているそちらの「戦線」にこそ、まず戦力を割く必要がある。特にイスラム国打倒はトランプ政権の主要公約であり、これを成し遂げねば北朝鮮どころではない。
・実際、トランプ政権のシリアへの肩入れはさらに深まっている。6月13日、米軍はついに「南シリア」に初めて長距離砲兵部隊を展開させた。しかも、国防総省のスポークスマンたるライアン・ディロン大佐は、記者たちに対して「これは親アサド勢力の脅威に備えるためである。今後もそのために米軍の現地におけるプレゼンスを拡大していく」と述べた。親アサド勢力とは、イランが支援する武装勢力のことであり、これは単にシリアへの深入りだけではなく、イランの代理勢力と米軍の戦闘すら秒読みに入ったことを意味する。要するに、米イラン関係の悪化の第一歩になりかねないということだ。
・このように、考えれば考えるほど、北朝鮮への先制攻撃は軍事的リスクが高く、それは外交的・政治的リスクに直結しているのである。もちろん、政治的に「詰み」に近づきつつあるトランプ大統領が北朝鮮攻撃を決断するといった可能性もあるが、その場合でも、現時点では中東でさらなる軍事行動の方がはるかに安易かつ安全なのは言うまでもない。やはり、北朝鮮への先制攻撃の可能性は「現時点」では低いだろう。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/50274

米空母の不可思議な動きには疑問を持っていたが、半田氏が見事に解いてくれた。 『カールビンソンは当初の予定通り、オーストラリア海軍と共同訓練を行っており、朝鮮半島へは舳先を向けてさえいなかった。 トランプ大統領が「我々は大船団を送っている」と述べたのは、得意の「オルタナティブ・ファクト(もうひとつの真実)」だったのである』、との指摘で納得できた。 『カールビンソンの周囲を固めて進む海上自衛隊の護衛艦2隻と米海軍の巡洋艦と駆逐艦3隻の映像・・・ 「フォト・エクササイズ(写真用訓練)」』との指摘には、すっかり騙されていた自分の馬鹿さ加減に苦笑せざるを得なかった。 『最近では発射に成功することが多かったミサイルが二度連続して爆発したのは、トランプ大統領へのメッセージとみるべきではないだろうか。・・・金正恩委員長の考えを忖度することなく、「失敗」の一言で片づけては失礼というものだろう』、というのもなるほどと思わされた。 『米海軍の補給艦を護衛するため、海上自衛隊の空母型護衛艦「いずも」が1日、横須賀基地を出航・・・「いずも」は他の護衛艦と比べ、防御力で格段に劣る。自らを守ることさえ覚束ないのに米補給艦に対する攻撃を防ぐことなど不可能に近い』、との指摘にも苦笑してしまった。「フォト・エクササイズ」用としては、大きな「いずも」は最適で素人の国民を騙すには格好の材料だ。 『朝鮮問題を巧みに利用する安倍政権の姿が浮かび、日本国民という観客の大向こう受けを狙ったあざとい猿芝居の舞台裏が見えてくる』、との指摘はこれから大いに心しておくべきだろう。 『ゴールデンウィークに外遊する閣僚は半数にあたる11大臣にものぼる。副大臣は11人、政務官は8人が日本を不在にする。日本の行く末を心配していないか、実は心配いらないことを知っているかのどちらかであろう』とは、、国民を馬鹿にし切っている。これでもまだ「入場料」を払い続ける人々がいるとすれば、よほど能天気なのだろう。
田岡氏の記事では、 『トランプ大統領は、おそらく状況を知らずに威勢のよい発言をしたものの、マティス長官や国家安全保障問題担当の大統領補佐官ハーバート・マクマスター陸軍中将ら、現実を知る軍人の説明を聞いて、振り上げた拳をそっと引きこめたように見える』、との指摘で、冷徹な軍人の判断に一安心させられた。
部谷氏の記事にある 『米陸軍は、・・・メガシティ戦闘に必要な将来の米陸軍の戦力構成やドクトリンの検討を続けている』、というのは、米陸軍が環境変化に柔軟に対応する姿勢に感心すると共に、富士山麓で総合火力演習を1961年以来続けている陸上自衛隊は大丈夫なのかとふと不安になった。まあ、米軍との共同作戦などで、最新の考え方は吸収しているから大丈夫なのかも知れないが・・・。
タグ:北朝鮮問題 ダイヤモンド・オンライン JBPRESS 現代ビジネス 田岡俊次 (その5)(「北朝鮮危機」はあざとい猿芝居だ!、北朝鮮威圧策を諦め中国を批判するトランプ政権の迷走、米軍準機関紙が断言「米軍は北朝鮮を攻撃しない」) 半田 滋 北朝鮮危機」はあざとい猿芝居だ! 日米朝「形だけ」の演出 軍事のプロなら一目でわかる 空母「カールビンソン」 300門の自走砲を並べて一斉砲撃をみせた北朝鮮 空母型護衛艦を初の米艦防護に派遣した日本 役者がそろい、大向こうをうならせるケレン味あふれる大芝居 空母派遣という物騒なプレゼントは、生誕を記念して6回目の核実験もしくは米国まで届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)の試射など「絶対にやるなよ」というトランプ政権からのメッセージ カールビンソンは当初の予定通り、オーストラリア海軍と共同訓練を行っており、朝鮮半島へは舳先を向けてさえいなかった トランプ大統領が「我々は大船団を送っている」と述べたのは、得意の「オルタナティブ・ファクト(もうひとつの真実)」だったのである カールビンソンの周囲を固めて進む海上自衛隊の護衛艦2隻と米海軍の巡洋艦と駆逐艦3隻の映像を公開 臨戦態勢ならば、潜水艦や航空機からの攻撃に備えてそれぞれの艦艇は15キロから20キロも離れて配置するのが当たり前 フォト・エクササイズ(写真用訓練) 最近では発射に成功することが多かったミサイルが二度連続して爆発したのは、トランプ大統領へのメッセージとみるべきではないだろうか ミサイル発射をやめることはないが、現状では米国の脅威にはならない、という北朝鮮なりの回答 金正恩委員長の考えを忖度することなく、「失敗」の一言で片づけては失礼というものだろう 300門以上の自走砲による一斉砲撃 自走砲と自走砲の距離はわずか10メートル程度 FA18戦闘攻撃機なら上空からの爆弾投下で瞬殺できる無謀な配置 演習とは、本番で想定される事態に備えて行うのが常識であり、本来なら自走砲は点々と離れ、上空から見つけにくいようカモフラージュされる 米国に対し、「軍の威力を示すけれど、決して本番を想定してはいない」と訴えるシグナル 形だけ」の米艦防護 空母型護衛艦「いずも」 「いずも」は他の護衛艦と比べ、防御力で格段に劣る。自らを守ることさえ覚束ないのに米補給艦に対する攻撃を防ぐことなど不可能に近い 安倍政権にとって、安全保障関連法は実施段階に入ったという実績づくりこそが重要なのだろう 形式的な対米支援にとどめたことで、北朝鮮へは「戦うことまでは想定していない」というただし書きを示すことになった サリンを(ミサイルの)弾頭に着け、着弾させる能力をすでに保有している可能性がある」と指摘 国民に安全安心を提供するのではなく、脅しの言葉を吐くことにより、森友問題や共謀罪といった国内問題から目をそらさせようとする意図 国民保護ポータルサイト 東京メトロや新幹線の一部が運転を見合わせる事態にまでなった ミサイル発射の報道は午前6時6分だったが、5時半ごろには発射されており、日本に到達していたとすれば10分後の5時40分ごろのはず。第一報があった時点で終わった話だったのだから、噴飯ものというほかない ゴールデンウィークに外遊する閣僚は半数にあたる11大臣にものぼる。副大臣は11人、政務官は8人が日本を不在にする 本気で北朝鮮情勢を不安視するなら北朝鮮に影響力がある中国や韓国に向かうはずだが、そんな閣僚は一人もいない 背筋も凍るようなケレン味たっぷりの舞台を見せられ、「ああ、すごいお芝居だった」と感動する観客は次も入場料にあたる一票を安倍政権に捧げるのだろうか 北朝鮮威圧策を諦め中国を批判するトランプ政権の迷走 米国防長官ジェームズ・マティス海兵大将 軍事的解決に突き進めば信じられない規模の悲劇的結果となる」と力説し「外交的手段による解決のため、国連、中国、日本、韓国と協力して行く」と 残るのは横須賀を母港とする「ロナルド・レーガン」1隻になり、普段の配置に戻ることになる マティス国防長官 「軍事的解決は悲劇になる」 米国(クリントン政権)は北朝鮮寧辺(ヨンビョン)の原子炉とプルトニウムを抽出する燃料棒再処理施設に対する航空攻撃を計画 最初の90日間で米軍の死傷5万2000名、韓国軍の死傷49万名、民間人死者は100万人を超える」との損害見積もりを本国政府に提出 航空攻撃だけを考えていたワシントンの高官たちはこれを見て愕然とし、攻撃を諦めて カーター元大統領を平壌に派遣 仮に一部を壊せても残りのミサイルが韓国や日本に向けて発射されるだろう ソウル前面だけでも350門と見られる。これが一斉射撃すれば、「ソウルは火の海になる」と北朝鮮が言うのは嘘ではない 日本にも打撃大きい 難民流入や投資の回収不能 トランプ大統領は、おそらく状況を知らずに威勢のよい発言をしたものの、マティス長官や国家安全保障問題担当の大統領補佐官ハーバート・マクマスター陸軍中将ら、現実を知る軍人の説明を聞いて、振り上げた拳をそっと引きこめたように見える 部谷 直亮 米軍準機関紙が断言「米軍は北朝鮮を攻撃しない 米軍の北朝鮮への先制攻撃の可能性を報じたメディアやジャーナリストは今やすっかり口を閉ざしてしまった 米軍の準機関紙「military times 北朝鮮への先制攻撃はリスクが高く、トランプ政権は攻撃を考えていないとする記事を掲載 最悪の場合、10万人の民間人を含む大量の死者を生み出すと懸念 秘密トンネルから1時間に2万人を侵入させることができる 恐るべきメガシティ戦闘」を引き起こす可能性 メガシティ戦闘では航空戦力は極めて限定的な役割しか発揮できない メガシティ戦闘に必要な将来の米陸軍の戦力構成やドクトリンの検討を続けている 北朝鮮問題以外にも米国の抱える脅威はたくさんあるということだ。米国は既にイスラム国との戦い、アフガンでの戦い、テロとの戦い、サウジアラビアとイランの覇権争いに巻き込まれている 政治的に「詰み」に近づきつつあるトランプ大統領が北朝鮮攻撃を決断するといった可能性もあるが、その場合でも、現時点では中東でさらなる軍事行動の方がはるかに安易かつ安全なのは言うまでもない。やはり、北朝鮮への先制攻撃の可能性は「現時点」では低いだろう
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