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鉄道(小田急線火災、「踏切非常ボタン」に潜むワナ、「豪華観光列車」料金があまりにも高額なワケ、鉄道「高速化競争」から欧州が離脱した理由) [科学技術]

今日は、鉄道(小田急線火災、「踏切非常ボタン」に潜むワナ、「豪華観光列車」料金があまりにも高額なワケ、鉄道「高速化競争」から欧州が離脱した理由)を取上げよう。

先ずは、作家の冷泉 彰彦氏が昨年9月13日付け東洋経済オンラインに寄稿した「小田急線火災、「踏切非常ボタン」に潜むワナ 検証が必要なのは鉄道側の対応だけではない」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・小田急小田原線の代々木八幡ー参宮橋間で9月10日、線路脇の建物で火災が起きているにも関わらず、現場の横に電車が8分間も停車した結果、車両に延焼し屋根が炎上したという事故が問題になっている。車両の一部が炎に晒されている状態で、約300名の乗客が線路に降りて避難するという事態になった。
▽消火活動には問題なかったか
・初期の報道は二転三転したが、だいぶ落ち着いてきたので整理してみよう。まず、なぜ延焼するような場所に停車したのかという最大の問題についてだ。小田急が把握している情報によれば、消防の依頼で警察が踏切の緊急警報ボタンを押し、電車が停止したという。
・消防が緊急停止を要請したのは、当初は電車が火災現場に接近するのを止めるための機転という見方もあったものの、後に出てきた現場証言に基づく報道によれば「線路方面から消火活動をしたいので、電車を止める必要があった」という理由だったようだ。 また、一旦動き始めた電車が火災現場の前に一部の車両が残っている時点で再度停止した問題については、消防がその場で停止して乗客を避難させるよう指示したということが、その指示の音声と共に報じられている。
・消防による消火活動は、一刻を争う中で瞬時の判断が必要な仕事だ。消防士自身が危険と隣り合わせというケースもある。それだけに、何から何まで規則に縛られるのではなく、消防士が臨機応変に判断し、場合によってはリスクを取ってでも消火、もしくは人命救助を行う必要がある職務である。
・それゆえ、消防の一挙手一投足を規則で縛ってしまい、人命救助のために必要な柔軟な判断が萎縮するようではいけない。だが、今回のケースは違うと思う。今回の事例を踏まえて、今後の事例に活かしていただきたい。
・今回の事故では小田急電鉄の対応にもっぱら注目が集まっているが、消防と警察の判断についても問題点の検証が必要だ。想定外といえるさまざまな原因が重なって起きた事故だが、いくつか問題がある。 まず、消防の依頼で警察が押したという踏切の緊急警報ボタンは、あくまで踏切内の危険を知らせるためのものである。たとえ警察や消防であっても「電車を止めるため」という目的以外での使用はやめるべきだ。
・なぜなら、現在のATS(自動列車停止装置)やATC(自動列車制御装置)、運転司令所による中央からの運行管理の体制は、「緊急警報ボタン」が押されると「押された踏切に障害があり、その手前で列車を停止されるべき」であるとして強制力を持つようになっているケースが多いからである。小田急によると、同社の場合はボタンが押された踏切に接近している上下線の電車が自動で停まるという。その結果、火災現場の横で電車が緊急停止するという事態が発生したわけだ。
▽消火のネックは「架線」
・また、本来は電車が停止したからといって即座に線路近くでの消火作業を行えるわけではない。線路のすぐ近くで消火活動を行うには、架線からの漏電や感電の事故を防止するための措置が行われるべきだからだ。 消火活動を行う前に小田急側に何らかの連絡があったかは、同社によると今のところ情報が入っていない。
・架線には、今回の区間であれば直流1500V、交流電化区間なら在来線でも2万Vという高圧電流が送電されている。万が一、通電した架線などの近くで消火活動をすることがあれば大変危険だ。もしも今回、送電の停止などについて鉄道側との連絡や確認を取る前に、電車を止めて線路付近で消火活動が始まっていたのであれば、危険な行為と言わざるを得ないだろう。
・さらに、一旦電車が動き出してから再度電車を停車させ、乗客を線路に下ろして避難させた経緯についても検証が必要だ。今回は運転士・車掌が車両への延焼に気づいておらず、消防隊の指摘を受けてから避難させている。 乗客を線路に下ろして避難させるというのは、鉄道事業者の判断事項である。もし架線が切れて垂れ下がっているようなことがあれば感電の危険があることはもちろん、乗客が線路を避難する区間について、反対方向の電車が走っていないかなどの安全確認が必要だからだ。
・小田急は、線路に乗客を降ろす場合は反対方向の電車が停まっていることなどの安全性を確認するため、司令と車掌などが連絡を取り合ってから行うという。乗客が線路に下りる際の安全が確保されていたかどうか、重ねての検証を求めたい。
・消防の消火活動、人命救助活動を規則で縛ることには、メリットとデメリットがあり、基本的には瞬時の柔軟な判断を尊重したい。だが今回の非常ボタンによる電車の停止から避難に至るまでの経緯については、鉄道の安全を維持するための大原則に照らして問題がある部分がなかったか、鉄道側だけでなく警察・消防側の行動についても検証が必要だと思う。
▽沿線火災対応の原則見直しを
・小田急電鉄の対応にも注文をつけたい。今回の事故では、運転士や車掌が車両への延焼を認識していなかった。たとえばカメラ映像などで周辺の状況を運転士が確認できる仕組みなどがあればすぐに状況把握ができたかもしれない。火災の状況がわかっていれば、現場の横で緊急停止した後も速やかに発車し、延焼を防げた可能性もある。司令所との交信体制が適切だったかといった点も含め、危機管理の面で鉄道側にも改善の必要な点は多数ある。 
・また、車両についても検証が必要だろう。今回の事故で燃えたのは、屋根に電気的な絶縁のために塗られているウレタン樹脂で、難燃剤を含む素材で燃えにくくなっているというが、不燃ではない。屋根の難燃性に関しては総合的な検討が必要だ。
・今回の事故は幸いにも大事には至らなかったが、これを教訓に、鉄道が絡んだ火災における消防の行動原理について原則の見直しをしてもらいたいと思う。同じ日にはJR中央緩行線の大久保駅付近でも線路際での火災が発生している。できるだけ速やかにガイドラインを整備するなどし、周知徹底を図っていただきたいと思う。
http://toyokeizai.net/articles/-/188384

次に、江戸川大学 社会学部現代社会学科 准教授の崎本 武志氏が昨年11月24日付け東洋経済オンラインに寄稿した「「豪華観光列車」料金があまりにも高額なワケ クルーズトレイン料金は「運賃」ではなかった」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・鉄道は主要交通機関の1つとして、旅客・貨物両面の輸送を担う大動脈としてのインフラ機能を有しているが、観光面でも重要な位置づけを担っている。特に近年は鉄道が注目されていることもあり、鉄道に乗車する行為そのものが目的化する、いわば「鉄道乗車そのものを観光行為とする」という利用が一般的にも認知されるようになっている。
・このように、鉄道に乗車する行為を目的とする「本源需要」としての鉄道利用のあり方は、これまでは鉄道ファンなど一部の層のみが味わう楽しみ方であったが、現在はれっきとした観光目的として確立されつつある。また、こうした観光客を目的とした列車である「観光列車」「観光車両」が各地で数多く登場し、人気を博している。
▽最近は「クルーズトレイン」が大人気
・もちろん、これらの観光列車や観光車両には近年登場したものばかりでなく、長い間活躍しているものも多く存在する。新型車両やリニューアルされた車両、レストラン列車やイベント列車、自然を楽しむトロッコ列車やかつて活躍した車両を復活させたSLなどのレトロ列車は各地で運転され、休日を中心に行楽客の人気の的となっている。
・中でも現在注目を集めているのが、「クルーズトレイン」と呼ばれる豪華列車である。クルーズトレインとは観光に目的を特化させた周遊型の豪華列車の総称だ。船舶でも数多くの寄港地での観光を楽しみながら船内での豪華な設備を誇るクルーズ船が高付加価値の観光旅行のジャンルとして確立され、日本でも定着している。海外ではヨーロッパで運行されている「オリエント急行」など数多くのクルーズトレインが存在するが、日本では2013年にJR九州で「ななつ星in九州」が運行されたのが最初だ。今年はJR東日本で「トランスイート四季島」、JR西日本で「トワイライトエクスプレス瑞風」が運行を開始し、国内外から申し込みが相次いでいる。
・ななつ星、四季島、瑞風は、どれも鉄道車両内において豪奢(ごうしゃ)なひとときを味わうことを目的としており、沿線観光地や有名ホテル・旅館にも立ち寄り、宿泊や食事を楽しむことができる「周遊型ツアー」として確立されている。しかし、その額は最も安価なものでも1泊2日で25万円と、かなり高額なものとなっている。
・ななつ星と四季島の3泊4日コースは、それぞれ1泊は沿線地域の豪華旅館の宿泊が加わっているのも大きな特徴だ。ななつ星では由布院温泉の「玉の湯」「亀の井別荘」、「四季島」では、登別温泉「滝乃家」といった、当代一流の旅館である(現在ななつ星は台風18号の影響で久大本線の一部区間不通のため、コース・宿泊地など内容が変更となっている)。瑞風では外部での宿泊はないものの、「菊乃井」村田吉弘氏の日本料理や「ハジメ」米田肇氏の西洋料理を堪能することができる。
・ここで、単純な疑問がある。クルーズトレインは、なぜこれだけ高価なのだろうか。本来の運賃・料金であれば、特別車両であったとしても、ここまでの値段設定は考えられない。
▽クルーズトレインは「募集型企画旅行」だった
・その理由は、豪華さはもちろんだが、クルーズトレインは、従来JRにおいて設定されている特急列車などの運賃・料金体系とはまったく別種類のものだからだ。つまりこの列車に乗車するための条件が「乗車券」「特急券」「寝台券」を購入することではなく、これらの運行そのものが不特定多数の旅行者の募集を行う旅行商品であり、乗車を希望する場合はこの旅行商品に申し込みを行う形をとる、ということなのだ。
・申込先としてそれぞれツアーデスクが開設されているが、ななつ星は「JR九州企画」、四季島は「びゅうトラベルサービス」、瑞風は「日本旅行」といったグループ内の旅行会社がツアーデスクを運営しているのだ。旅行業法では、このように、旅行会社があらかじめ旅行の行程・計画を作成し、パンフレットや広告などで参加者を募集して実施する旅行のことを「募集型企画旅行」と規定している。いわゆる、「パッケージツアー」と称されているものだ。
・旅行業には第1種・第2種・第3種の3つの種別があり、第1種旅行業は海外・国内の、第2種旅行業は国内の募集型企画旅行を企画・実施を行うことが可能であり(第3種は旅行業者が所属する市町村の近隣を対象とする募集型企画旅行の企画・実施のみ可能)、日本のクルーズトレインの場合は鉄道会社に第1種・第2種の旅行業登録があれば列車による旅行商品の企画・実施が可能となる。
・これらクルーズトレイン乗車の申込時は、旅行業約款である旅行条件書が交わされ、旅行業法に基づき募集型企画旅行に参加した、という形がとられる。行程の中で提供される各食事、各観光案内、各宿泊についても、すべて料金に含まれている。
▽単なる移動ではなく、旅程に従う
・このように、クルーズトレインは高付加価値旅行商品として販売されている。目的の有無にかかわらず列車に単純に乗車するのではなく、旅程に従って旅行商品としての企画に参加することが必要となる。 しかし、クルーズトレインが登場する前にも鉄道を使った旅行商品は存在した。新幹線や、かつてのブルートレインなどの寝台列車、各地の観光列車を活用した旅行商品が多数、造成・販売されてきた。
・こうしたクルーズトレインが日本に誕生するまでは、「ベニス・シンプロン・オリエント・エクスプレス」や「氷河特急」など海外のクルーズトレインに乗車するパッケージツアーに参加するしかなかった。しかし、日本にもスイスに勝るとも劣らない車窓風景がある。
・これらを生かしたクルーズトレインは貴重な観光資源としての無限の可能性がある。世界各国から鉄道乗車を目的とした観光客を迎え入れることは重要だが、単に人数だけを追求するのではなく、文化的な価値の高いインバウンド振興を果たすべきだ。
http://toyokeizai.net/articles/-/196908

第三に、 欧州鉄道フォトライター の橋爪 智之氏が昨年12月22日付け東洋経済オンラインに寄稿した「鉄道「高速化競争」から欧州が離脱した理由 「世界最速」の中国とは異なる事情がある」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・10月にイタリアのミラノで開催されたExpo Ferroviaria 2017(鉄道見本市)。2年に1回、ドイツのベルリンで開催される「イノトランス」と比較すればそれほど規模が大きいわけではないが、会場に隣接する車庫スペースを使って、ささやかながら実物の車両展示も行われるなど、主にイタリアの業界関係者へ向けた商談、および宣伝活動の場となっていた。
・今回、その見本市での車両展示で開催前から最も注目を集めていたのは、イタリアの民間高速列車会社NTV社の新型車両ETR675形、通称「イタロEVO」だ。もちろん、同社の看板列車である「イタロ」用の最新型で、初代車両ETR575形と同じフランスのアルストム社製だ。
▽初代よりも遅い新型車両
・しかし、この初代車両と2代目車両、同じ製造会社ながら車体構造が全く異なる。ETR575形は小田急ロマンスカー50000形VSEなどと同様、中間車は1つの台車で両側の車体を支える連接構造を採用しているのに対し、最新型のETR675形は、2つの台車で1つの車体を支える、通常のボギー構造を採用している。 そして、外見上よりさらに大きな違いは、最高速度が異なることだ。初代のETR575形は最高速度が時速300kmなのに対し、ETR675形は250km。なんと50kmも遅いのだ。そういえば、ドイツの最新型高速列車ICE4も、1世代前のICE3が最高速度320kmだったのに対して250kmへと抑えられている。
・鉄道先進国の最新型高速車両が、旧型より速度の面で劣っているとは、一体どういうことなのだろうか。  日本に新幹線が誕生してからすでに50年以上。この間に、世界各国では鉄道の最高速度向上のための研究が絶えず行われ、その技術は日進月歩で進化していった。特に、1990年にフランスの高速新線、LGV大西洋線が完成すると最高速度は時速300kmの時代へ突入し、欧州大陸を中心に高速新線の建設ラッシュとなった。
・21世紀に入ると、中国が高速鉄道建設を本格的にスタート。欧州や日本のメーカーから車両を輸入し、それを基にして多種多様な高速列車を次々と生み出してきた。事故が発生したことで一時は勢いを失っていたが、その後も建設の手を緩めることなく次々と路線を延長し、2017年現在で世界一となる、2万2000kmの高速新線網を有する高速列車大国へと成長した。現在は、世界最速の時速350km運転を実現している。
▽「技術力」の問題ではない
・一方、鉄道先進国であるはずの欧州や日本は2017年現在、最高速度は時速320km止まりで、あとから追いかけてきた中国の後塵を拝している。だが、これは技術的に欧州や日本が中国に追い越された、という意味と必ずしもイコールではない、という点に注意しなければならない。
・日本ではJR東海の新幹線955形試験車両が1996年に時速443kmを達成しており、技術的に新幹線のさらなる高速化ができない理由はないが、現在はリニア開発へ注力しているため、これ以上の速度向上は行わないと考えられる。欧州では、フランスのTGV試験車両V150が2007年に時速574.8kmという前人未到の世界記録を達成しており、現在もこの記録は破られていない。
・これらの速度試験は、日本では記録目的ではなく、高速運転時における安定性や耐久性など、総合的な性能向上を目的として行われている。一方のフランスは、表向きは速度記録への挑戦というスタンスだが、広義的にはその高速走行試験から得られる技術的データを営業列車へフィードバックすることを目的としている。
・だが、営業運転における恒常的なスピードアップとは、試験車両で記録を達成したらすぐに可能という単純な話ではなく、信号システムの変更や軌道強化といった地上設備の更新や騒音対策など、インフラの整備も行わなければならない。 そのためには多額の費用が必要となるが、仮に最高速度を300kmから350kmへ引き上げたとしても、350kmで走行できる区間が短ければ時間短縮効果はわずかとなり、費用対効果で考えれば無理に設備投資をしてスピードアップをする必要はないという結論に至る。
・JR東日本は2012年に発表した中長期経営計画の中で、東北新幹線における将来的な時速360km運転の実現を掲げていたが、すぐには実現へ向けて進まず、まずはE5系新幹線による320km運転からスタート。2017年7月になって、北海道新幹線が全線開業する2030年度までに車両開発や設備改良を進め、360kmでの運転を実現するとしている。
・日本と同様に比較的国土が狭く起伏のある欧州でも、時速300km以上の高速運転には意外と消極的だ。現在、欧州で最速の列車は、フランスの高速新線LGV東ヨーロッパ線で、東北新幹線と同じ最高時速320kmで運行されている。それ以上の速度に関して具体的な計画として挙がっているのは、イタリアの高速列車フレッチャロッサの360km運転があるだけで、欧州における高速列車のパイオニアであるフランスやドイツなどでは、その具体的な計画すらない。
▽「高速化より定時性が重要」
・その唯一の計画を掲げるイタリアは、最新型車両フレッチャロッサ・ミッレ(ETR400形)で速度向上試験を重ね、2016年2月にはイタリア国内最高速度記録の時速393.8kmを記録した。営業認可の取得には、試験走行で営業最高速度+10%の安定した走行が求められるため、営業速度360㎞を実現するためには、少なくとも396㎞を達成することが条件となる。しかし、393.8㎞を記録したところで走行試験は終了した。
・その後、イタリア鉄道(FS)のCEOマツォンチーニ氏は地元紙に対し、時速360km運転については最優先事項ではなく、当面は保留すると述べている。その理由は、利用客が求めるものは、最高速度向上によるわずかな時間短縮より、ダイヤ通りに走る定時性であるため、との見解を示している。
・イタリア国内は、トリノ―ミラノ―ボローニャ―フィレンツェ―ローマ―ナポリと、主要都市を南北に結ぶルートに高速新線が建設されているが、このうち時速360km運転を考慮して線路間隔や曲線が設計されている区間はトリノ―ミラノ間のみで、ほかの区間は線路の改良が必要となる。比較的新しいミラノ―ボローニャ間も、規格としては走行可能だが、土地収用問題があったモデナ付近に制限速度240㎞の急なカーブが存在し、現在もすべての列車がここでの減速を余儀なくされている。
・つまり、現状の設備では全区間で時速360km運転が可能なのはトリノ―ミラノ間だけということになる。同区間の距離はわずか142kmで、所要時間は現時点でも1時間を切っており、例え360km運転を実現したとしてもその短縮効果は数分程度。この区間だけでは費用対効果は薄いというわけだ。
▽なぜ「イタロ」新型は遅くなったか
・さて、かなり前置きが長くなったが、最初の話に戻ろう。フランスのアルストム社は、中~高速向け車両として、タイプの異なる3車種を用意している。有名なTGV、その派生形のAGV、そして「ペンドリーノ」だ。TGVは今さら説明するまでもなく、フランスの高速列車として、今も改良を重ねながら増備が進められている。
・AGVは、両端に機関車を配置した動力集中方式のTGVに対し、日本の電車と同じような動力分散方式を採用した車両で、最高時速300km以上の列車に使用するために開発された。これがイタロの初代車両、ETR575形のベースとなっている車両だ。「ペンドリーノ」は主に250㎞までの中速列車に使用するための車両で、元をたどればイタリアのフィアット社が開発した振り子式特急車両。同社がアルストム社に吸収されてからは、同社の製品ラインナップに加えられた。
・NTV社が今回発注した「イタロEVO」と呼ばれるETR675形はペンドリーノをベースにした車両だが、最高速度は時速250kmで振り子装置もない。「廉価バージョン」というとやや語弊があるが、つまり振り子装置が必要なほどの曲線区間もなく、最高速度で初代車両に多少劣っても、トータルの所要時間にさほど影響がないとNTV社が判断した、ということだ。
・契約価格については、初代のETR575形は25編成で6億5000万ユーロ、1編成当たり2600万ユーロであるのに対し、2代目のETR675形は8編成で4億3000万ユーロ、1編成当たりでは5750万ユーロ。一見すると新型は契約価格が倍以上にハネ上がっているが、これは20年間のメンテナンス費用を含んだ契約となっているためだ。ETR575形の契約にはメンテナンス費用が含まれていない。
・この数字だけではどちらがより経済的かは算出できないが、高速運転を続けていれば、各パーツの摩耗や耐久性の低下はより早く訪れる。ETR575形のメンテナンス費用がその都度発生すると仮定すると、十数年使い続けていけば莫大な金額としてのしかかってくる。
▽「高速化」から適切な速さへ
・NTV社とアルストム社の共通認識として、現在のイタリア都市間路線網においては、最高速度を50km程度落としたところで、所要時間の差は10分以内で収まるという試算がある。実際、イタロが運行されている区間のうち、フィレンツェ―ベネチア間やミラノ―ベネチア間はほとんどが最高速度200km程度の在来線を走るし、高速新線の開業年が古いフィレンツェ―ローマ間など、もともとの路線設計が最高速度250kmの区間もある。
・これらの区間を走る場合、ETR575形ではスペックを持て余すのは間違いない。新型車両を在来線が混在する区間などへ集中的に投入することで、所要時間を大幅にロスさせることなく、かつランニングコストも抑制することが可能となる。今回のイタロEVOの投入には、そんな意図が見え隠れしており、実際に同社は早くも11編成の追加発注を決定している。
・高速列車に夜行列車があるほど、圧倒的に国土が広大な中国は高速鉄道を建設するのに最適な環境が整っており、それが世界最速の時速350km運転へと繋がっている。他方で、高速列車のパイオニアである日本や欧州各国は、国土そのものが中国よりだいぶ狭く、決して環境が整っているとはいえない。現在の欧州各国鉄道の潮流は、さらなる高速化ではなく、より適切な速度による運行へと変化していっているのだ。
http://toyokeizai.net/articles/-/200848

第一の記事で、 『小田急線火災』、については、 『今回の事故では小田急電鉄の対応にもっぱら注目が集まっているが、消防と警察の判断についても問題点の検証が必要』、というのは確かにその通りだ。そのためには、これらを全て包摂するような第三者委員会を設置すべきだが、そうした報道はまだない。国土交通省が音戸を取るべきだろう。
第二の記事で、 『クルーズトレインは「募集型企画旅行」だった』 というので、料金があまりにも高額なのは、 料金は「運賃」ではなく、参加代金、というので納得できた。それにしても、これだけ高額なのに、かなり先まで予約が詰まっているというのは、バブルというより、新たな旅行スタイルが受け入れられつつあるということなのだろう。
第三の記事で、 『鉄道先進国であるはずの欧州や日本は2017年現在、最高速度は時速320km止まりで、あとから追いかけてきた中国の後塵を拝している』、『 営業運転における恒常的なスピードアップとは、試験車両で記録を達成したらすぐに可能という単純な話ではなく、信号システムの変更や軌道強化といった地上設備の更新や騒音対策など、インフラの整備も行わなければならない。 そのためには多額の費用が必要となるが、仮に最高速度を300kmから350kmへ引き上げたとしても、350kmで走行できる区間が短ければ時間短縮効果はわずかとなり、費用対効果で考えれば無理に設備投資をしてスピードアップをする必要はないという結論に至る』、という欧州の判断は極めて合理的だ。記事を離れるが、東海道・山陽新幹線で博多発東京行きののぞみ34号の台車があと3センチで破断の恐れがあったのに、名古屋駅まで運行を続けたという初の重大インシデントは、重大事故と紙一重だっただけに、JR西日本などの気の緩みが深刻な段階にあることを物語っている。これも、本来は第三者委員会で徹底的な原因究明に当たってもらいたいものだ。
タグ:鉄道 東洋経済オンライン 氷河特急 ななつ星 瑞風 四季島 (小田急線火災、「踏切非常ボタン」に潜むワナ、「豪華観光列車」料金があまりにも高額なワケ、鉄道「高速化競争」から欧州が離脱した理由) 冷泉 彰彦 「小田急線火災、「踏切非常ボタン」に潜むワナ 検証が必要なのは鉄道側の対応だけではない」 消火活動には問題なかったか 消火のネックは「架線」 沿線火災対応の原則見直しを 崎本 武志 「「豪華観光列車」料金があまりにも高額なワケ クルーズトレイン料金は「運賃」ではなかった」 最近は「クルーズトレイン」が大人気 最も安価なものでも1泊2日で25万円と、かなり高額 クルーズトレインは「募集型企画旅行」だった 単なる移動ではなく、旅程に従う ベニス・シンプロン・オリエント・エクスプレス インバウンド振興 橋爪 智之 「鉄道「高速化競争」から欧州が離脱した理由 「世界最速」の中国とは異なる事情がある」 イタリアの民間高速列車会社NTV社の新型車両ETR675形、通称「イタロEVO」 初代よりも遅い新型車両 鉄道先進国であるはずの欧州や日本は2017年現在、最高速度は時速320km止まりで、あとから追いかけてきた中国の後塵を拝している 営業運転における恒常的なスピードアップとは、試験車両で記録を達成したらすぐに可能という単純な話ではなく、信号システムの変更や軌道強化といった地上設備の更新や騒音対策など、インフラの整備も行わなければならない。 そのためには多額の費用が必要となるが、仮に最高速度を300kmから350kmへ引き上げたとしても、350kmで走行できる区間が短ければ時間短縮効果はわずかとなり、費用対効果で考えれば無理に設備投資をしてスピードアップをする必要はないという結論に至る 高速化より定時性が重要」 高速化」から適切な速さへ
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ベンチャー(その2)(日本からアップルやグーグルが生まれない根本的な理由、金の亡者でもロマンチストでもないベンチャーキャピタルの二面性、大企業とスタートアップ企業の協業に潜む4つの落とし穴) [経済]

ベンチャーについては、昨年8月21日に取上げた。今日は、(その2)(日本からアップルやグーグルが生まれない根本的な理由、金の亡者でもロマンチストでもないベンチャーキャピタルの二面性、大企業とスタートアップ企業の協業に潜む4つの落とし穴)である。

先ずは、昨年11月28日付けダイヤモンド・オンライン「日本からアップルやグーグルが生まれない根本的な理由」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・若者の聖地である東京・渋谷に、起業家を支援するための大型施設が誕生する。起業といえばシリコンバレーが真っ先に浮かぶが、渋谷の新拠点はそれと一線を画している。ベンチャー企業という世界の片隅で起きている変化に目を凝らす特集の第1回(全6回)は、日本で始まった“胎動”を追う。
▽若者の聖地である渋谷に起業支援ビルがオープン
・2017年11月下旬、東京・渋谷の「タワーレコード渋谷店」の壁面には、9月20日に引退を発表した歌手・安室奈美恵さんのベストアルバムを宣伝する大型看板が掛かっていた。茶褐色の看板からは哀愁が漂い、まるで一時代の終わりを示すかのようだった。 タワレコといえば、1990年代、若者文化の情報発信拠点として一時代を築いた。安室さんのファッションをまねした女子高生、通称「アムラー」の“聖地”として栄えた。しかし、それも今は昔。若者は、スマートフォンの画面を眺めるばかりで、タワレコに備え付けられた大型モニターなど目もくれず、かつてのにぎわいはどこにもなくなっていた。
・だが、そんなタワレコの地で、新しいムーブメントが起きようとしている。それは、時代の転換を示す“シグナル”だった。 タワレコから道路を挟んだ向かい側に、えんじ色で「EDGEof」との文字が頂上に書かれた、地上8階建ての真っ白なビルがそびえ立つ。 実はこのビル、1階の飲食店を除き、起業家の育成・支援を行う複合施設となる予定だ。コワーキングスペースのほか、イベントスペースやショールームにメディアセンターもできるという。今秋からイベントが始まり、来春には正式オープンする予定だ。
・このビルを運営するEDGEof(エッジ・オブ)共同代表の小田嶋・アレックス・太輔氏は、「イノベーションは新しいコミュニティの中から生まれる。エッジな(最先端に立つ)人たちを集め、渋谷の地から新しい文化を創り、世界に発信していきたい」と話す。 もっとも、こうした起業支援施設は日本各地に数多く存在する。では、エッジ・オブは一体、何が違うのだろうか。それを説明する前に、起業支援の最前線であるシリコンバレーの現状を振り返ろう。
▽米トップ5に入る企業を育てたシリコンバレーの「エコシステム」
・現在、世界のトップ5社の時価総額を合計すると3.3兆米ドル(約372兆円)にも上る。この中のアップル、グーグル(アルファベット)、フェイスブックの3社は、いずれもシリコンバレーの会社だ。こうした企業を育てたのが、後述する「エコシステム」だと言われており、日本には十分にないものだ。
・そもそも、スタートアップ企業(ベンチャー企業)が成長するためには、投資家から資金を集めて優秀な人材を獲得し、製品やサービスに磨きをかけていく必要がある。もちろん、金融機関から融資を受ける手もあるが、時間のかかる審査を待っていては商機を失ってしまう。そこで投資家の出資を受ける場合が多い。
・そうしたスタートアップに資金を提供しているプレーヤーの一つが「ベンチャーキャピタル」(VC)だ。VCは、9割の投資が失敗したとしても、1割で大成功すればよいと考えており、金融機関では取ることができないリスクを負って出資してくれる。 また、「エンジェル投資家」も、スタートアップを足元で支えている。その多くが自ら企業経営者として成功を収め、財を成した人物たちだ。創業間もない企業にも寛容で、出資だけでなく、人材の紹介やアドバイスなども行う。 シリコンバレーには、こうした投資家たちがそこら中にいる。例えば大学で先端技術の研究に打ち込んでいる若者に、エンジェル投資家がポンとカネを提供し、新しい技術が花開くといったケースは枚挙に暇がない。
▽日本のベンチャー投資額は米国のわずか2%
・こうした投資家の厚みは、スタートアップの誕生と成長に大きく影響する。実際、2016年のベンチャー投資額は、米国の7.5兆円に対して、欧州が5353億円、日本は1529億円(米国の約2%)にとどまる(「ベンチャー白書2017」)。
・投資家から資金提供を受けて成長し、花開いたスタートアップ企業には大きく二つの道ができる。一つは株式上場(IPO)によって市場から資金を得て、さらに成長する道。そしてもう一つは、M&Aによって経営権を売却し、どこかの企業の傘下に入る道だ。 VCから出資を受けた企業は、ファンドの運用期間が5~10年程度であるため、10年足らずでどちらの道を選択するか迫られることになる。逆に言えば、こうした“期限”があるからこそ、急成長を果たすスタートアップが次々と生まれるのだ。
・特に、グーグルやアマゾンといった巨大IT企業はさらなる成長を果たすため、スタートアップの技術や人材を取り込もうと積極的にM&Aを仕掛けている。それもあって、米国ではVCから出資を受けたスタートアップの約9割がM&Aでどこかに売却されている。
・こうした仕組みによって、起業家には多額の資産が転がり込む。そこで、次なる起業につなげたり、自身が投資家となって別の企業を支援したりする。そうした“循環”を見て世界中から人と金が集まるため、情報交換や人材交流も活発となり、新産業の創出に至っているのだ。
・残念ながら、日本にはこうした土壌、いわゆる「エコシステム」が醸成されていない。新興企業のIPOこそ増えているものの、M&Aとなるとまだまだ限られている。 なぜなら、受け入れる側の日本の大手企業は、給与体系や人事体制が古いなど、受け皿になる“下地”がないからだ。また、スタートアップを育てて、その結果としてリターンを得ようという考え方ではなく、自社の新規事業のネタ探しが中心で、人材やノウハウを囲い込もうとするため、スタートアップは育たない。 海外企業からのM&Aにしても、言葉の壁が立ちはだかって対象になることはまれだ。
▽大企業や行政支援とは一線を画すエッジ・オブ
・話を戻そう。「エッジ・オブ」は、こうしたエコシステムを作る担い手になろうとしている。しかも、最初からグローバルを意識しているのが特徴だ。 コワーキングスペースのように“場所貸し”をする企業も増えているが、こぢんまりとしたケースが多い。入居者同士の交流を促し、化学反応を起こさせるためには、数百人程度を収容する規模感が必要であるにもかかわらずだ。 また、運営者にもスタートアップ経営者のような「熱量」が求められる他、さまざまな関係者を束ねる「顔」がいないと新しい機運が生まれにくい。
・行政主導のプログラムもあるが、熱心な担当者に依存する、つまり属人的なケースが多い。また、行政機関だから数年で異動・交代してしまい、一過性のものに陥りやすい。しかも、自治体ごとにバラバラで行われているため、広がりにも欠ける。
・エッジ・オブは、こうしたものたちとは一線を画している。単なる起業家支援ではなく、研究者や投資家との橋渡し、メディアとの連携、アーティストの招致などを通じて、新しいコミュニティ作りをしようとしているのだ。  実際、創業者6人は多彩な顔ぶれだ。
▽音楽、ゲーム、イベントなどに精通 多彩な経歴を持つ創業者たち
・小田嶋氏と共にCEOを担うのが、イノベーションプロデューサーであり音楽業界に関係の深いケン・マスイ氏だ。また、世界的な評価を受けているゲームクリエイターの水口哲也氏、伝説のシミュレーションゲーム「シムシティ」の開発者で投資家のダニエル・ゴールドマン氏、世界的プレゼンテーションイベントの日本版「TEDxTokyo(テデックス・トーキョー)」の創立に関わったトッド・ポーター氏。そして自らも連続起業家であり、世界中で起業家の支援・育成を行っているMistletoe(ミスルトゥ)ファウンダーの孫泰蔵氏がいる。いずれも、世界的に幅広い人的ネットワークを持っている人々だ。
・「6人の創業者たちは、幅広いネットワークを持っている。それらを活用し、メンバーをサポートしていきたい」(小田嶋代表)。 そんな小田嶋代表自身も、欧州のスタートアップ事情に通じており、今回のエッジ・オブ設立においても欧州、とりわけフランスから大きなヒントを得ている。というのも現在、フランスは欧州で最もベンチャー投資資金が集まっており、次のシリコンバレーとして世界からの注目が一気に集まっているからだ。
・連載の2回目では、スタートアップに対する投資熱が加速するフランスの今をレポートする)
http://diamond.jp/articles/-/150976

次に、ネットサービス・ベンチャーズ・マネージングパートナーの校條 浩氏が12月18日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「金の亡者でもロマンチストでもないベンチャーキャピタルの二面性」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・昨今、米国のベンチャーキャピタル(VC)への出資を検討する日本企業が増えてきている。 それ自体は意味があるのだが、そのときに気になるのが、「わが社は投資リターンを求めていない。あくまでVCから新事業情報を得るのが目的だ」という経営トップの発言だ。 ここには大きな誤解がある。それを明かす前にVCがどう理解されているのか、日本のウィキペディアを参考に見てみよう。
・「VCとは、ハイリターンを狙った投資を行う投資ファンドのこと。主に高い成長率を有する未上場企業に対して投資を行い、投資した企業を株式公開させたりして利益を得る。資金を投下するのと同時に経営コンサルティングを行い、投資先企業の価値向上を図る。担当者が取締役会等にも参加し、経営陣に対して多岐にわたる指導を行う」(筆者要約)
・必ずしも間違ったことを言ってはいないものの、シリコンバレーのVCの実態を知る者としては違和感がある。 その違和感を生む原因は、既存の株式投資の枠組みで語られていることだ。本物のVCは、既存市場や既存事業で成長している未上場企業へ投資してハイリターンを目指す、わけではない。 ではVCをどう理解すべきなのか。ここで、VC界の大物の一人、ビノッド・コースラ(Vinod Khosla)をご紹介しよう。
▽大物が説く本当の役割
・コースラは、米サン・マイクロシステムズを立ち上げた一人として有名だ。同社といえば、主に業務に利用される高性能のコンピューター「ワークステーション」の市場をけん引した会社である(後に米オラクルが買収)。 世界最高峰といわれるVC、クライナー・パーキンス(Kleiner Perkins Caufield & Byers)に転じたコースラは、そこでも大きな成果を残し、自らコースラ・ベンチャーズというVCを設立した。個人資産は1500億円超ともいわれる。
・そのコースラが強調することは二つ。一つは「主役は起業家であり、VCはそれを支援するプロデューサーである」ということ。次に「失敗」の重要性である。 「専門家や経験を積んだ経営者、それにVCによる未来事業に関する意見はほとんど当てにならない」とコースラは喝破する。 起業家は、24時間寝ても覚めても事業のことを考え、市場に最も近いところにいて最も多くの情報を持っている。専門家たちの「コンサルティング」や「指導」を真に受けてしまうような起業家が成功するのかといえば、答えは否だ。
・周りの誰も理解できない未来の市場を見据え、自分のビジョンのみを信じて切り開く。そうした起業家を発掘し、後押しし、本人の成長を助けること。それこそがVC本来の仕事であるのだと、コースラは言う。 また、世の中にインパクトを与えるような事業を創造するのに失敗は付きものだ、とも言う。失敗なく立ち上がるようなことはあり得ないし、逆に失敗がない事業はインパクトが小さい。
・よく誤解されることだが、何も失敗を奨励しているわけではない。失敗はない方がいい。 問題は、その質だ。致命的な失敗は避け、なるべく小さくし、早く結果が出る形で失敗を重ねる。失敗の条件を知ることが大きな成功への道につながっている。
・コースラもそうだが、実はVCの動機は、スタートアップを通して世界を変えるような新しい事業や産業を創造したい、という根源的な欲求にある。 もちろん、成功のバロメーターはもうけであるが、それが真の動機にはならない。世界を変えるような事業を創造すれば、巨万の富は後からついてくると考えているからである。
・とはいえ、VC自身も投資先企業の失敗を想定しているから、複数のスタートアップに投資することにより、リスクを抑えている。 失敗の可能性が大きい事業を多く手掛け、一握りの大成功した事業によって、全体の投資リターンを得る。そんなパラドックスを抱えるのが他の投資ファンドとは違うところだ。
▽「ジキルとハイド」の二面性
・一方、その資金は、年金ファンドや大学の基金のような「既存の枠組み」にいる金融機関から調達する。  なぜ、一寸先も分からないような事業創造へ投資するVCに、リスクに敏感で投資リターンの予想が中心課題である金融機関が出資するのか。 それは、VCに投資リターンの長期的なトラックレコードがあるからだ。実際、VCに投資する金融機関は、VCの仕事の中身にはあまり関知しない。あくまで関心は投資リターンなのだ。
・だから、VCの運用者であるジェネラルパートナー(GP)には、運用の仕方に関し最大限の裁量が与えられる一方で、VCへの出資者(LP)には投資リターンだけを心配するように役割分担がされている。 これが、お互いに全く文化や価値観の違うGPとLPの世界をつなぐことによって新しい産業を創造する、という見事なシリコンバレー流の仕組みなのだ。 その点、投資リターンが高ければ高いほど、よりよい案件が集まってくる。LPは必ず投資リターンを求めるべきで、冒頭の経営者の誤解はここにある。
・VCとは不思議なものだ。金の亡者でもロマンチストでもない。金もうけが動機ではないのに、巨額のもうけが成功の証しとなる。世界を変えたいという自己中心的な動機で、起業家という他人の成功を後押しする。  その実現のためには、折り目正しい金融機関から資金を調達し、利益を還元しながら、コンプライアンスや財務報告も完璧にこなす。そんな二面性がある。 真のVCとは、「ジキルとハイド」なのだ。(敬称略)
http://diamond.jp/articles/-/150305

第三に、Translink Capital(トランスリンク・キャピタル)マネージング・パートナーの秋元信行氏が12月27日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「大企業とスタートアップ企業の協業に潜む4つの落とし穴」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽大企業とスタートアップの協業が上手く行かない理由
・大手企業とスタートアップ企業とのオープンイノベーションを目指した取り組みが活況を呈している。以前はIT関連企業が多かったが、最近では金融や鉄道、食品、スポーツ業界などでも非常に積極的に取り組まれており、もはやオープンイノベーションはIT業界の専売特許ではなくなってきた。
・オープンイノベーションとは、自社内だけでなく、他社(異業種、スタートアップ企業、大学など)の技術やサービス・経験を組み合わせることで、新たな価値を創出しようとするもの。イノベーションが起こりにくい大手企業と、イノベーション発想は持っているものの企業としての総合力が不足しているスタートアップ企業が、互いの強みと弱みを補完し合う意味で協業するケースも多い。 特に「インキュベーションプログラム」「アクセラレーションプログラム」といった、オープンイノベーションへの取り組みが大企業で多く実施されるようになってきたのも最近の傾向だ。
・これは、大手企業側がプログラムを主催し、社外専門家のサポートを受けながら、技術・経営など様々な点からスタートアップ企業の成長を支援するもので、出資提携、協業等のオープンイノベーションのパートナーとなり得るスタートアップ企業の発掘を主な目的とするケースが多い。 また、大手企業がスタートアップ企業への出資、協業促進することを目的にしたコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)を設立する動きも加速している。
・この大きな流れに呼応するように、最近では企業の垣根を超えたオープンイノベーション実務担当者、CVC関係者のコミュニティも形成され、各社の取り組み概要や失敗事例、ノウハウ共有が活発に行われている。だが、こうした取り組みが増加しているものの、その一方で、これらが事業として成功するケースはまだまだ少ないのが実情だ。
・取り組みが増えている今、なぜ失敗したのか、どこに落とし穴があるのかを学ぶことで、成功の可能性を高めることが必要になっている。そこで今回、大手企業がスタートアップ企業との協業で陥りがちである「代表的な落とし穴」について見ていきたい。
▽落とし穴1:手段の目的化
・落とし穴の1つ目は、「手段の目的化」だ。オープンイノベーションの本来の目的が明確になっており、常にそこを目指して活動していくことが徹底されていないと、単に短期間で「やっている感」を出すための取り組みに走ることになる。
・前述したとおり、「アクセラレーションプログラム」は、大手企業が自社の持つ総合的な企業力とスタートアップ企業の持つ斬新なアイデアとを掛け合わせて新たな価値を創出したり、スタートアップ企業に対してビジネスに資するメンタリングを提供したりすることで、その成長を加速させたりする。また、そのプログラムを通じて大手企業社員もスタートアップ企業と接することで、起業家目線を身につけ、自社企業文化に新しい風を吹き込む人材へ成長するなど、様々な目的がある。
・非常に意義ある取り組みではあるが、本来、目指していた目的を達成できたか否かを判定できる結果が出るには、かなり時間が掛かる。だが、変化の速い昨今のビジネスにおいて「結果が出始めるのは3年後くらいから」というものは、なかなか許容され難い。そこで、短期的に「成果を出している感」を醸し出す必要が出てきてしまう。ここで起こりがちなのが「手段の目的化」だ。
・プログラムそのものを無難に回すことや、イベントが盛り上がっているかどうかを重視してしまう。本来、その取り組みを行うことで結果に結びつけることが目的であるのに、盛り上げることそのものが目的化されてしまうといった状況である。
・また、大企業がスタートアップ企業に対して、少額な業務委託契約を発注する行為も、手段の目的化にあたるだろう。新たな価値創造といった大きな成果を目指す協業は、そう簡単に実現しない。しかし、短期的な「やっている感」を出すために、とりあえず下請け的業務をスタートアップ企業へ発注し、お茶を濁すという行為である。
・戦略的なシナジー創出を目的とするCVCの場合であれば、「とりあえずの出資件数稼ぎ」が該当するかもしれない。出資そのものは有望スタートアップ企業発掘のための手段であり、目的ではないケースでも、独立したCVCにとっては各年度のKPIのひとつに出資件数が採用されることが多い。短期的な成果として、出資件数稼ぎに注力してしまうのだ。これも、よくある「手段が目的化」しているケースだ。
▽落とし穴2:スタートアップへの「リスペクト」
・オープンイノベーションを推進するパートナーとして、大手企業がスタートアップ企業と対等な立場で案件に取り組む姿勢は非常に重要だ。 共に新たな価値創造を目指す仲間であるわけで、下請け扱いをしていたら新たな価値創造など実現するわけがない。感情的な部分ではあるが、スタートアップとの協業においては極めて重要である。
・このポイントは10年以上前から同じことが言われており、日々スタートアップ企業と接している大手企業の関連部門メンバーにはかなり浸透している。 だが、他部門メンバーなど全体にそのマインドが根付いていないケースも多い。いくつかの理由があるが、結局はスタートアップ企業をリスペクトすることが「腹落ち」していないのではないか。
・そこで、次のような考え方をしてもらうと「腹落ち」につながると思うので紹介したい。 昨今のスタートアップ企業は、社会課題の解決に正面から挑戦しているケースが増えている。本気で世の中を良くしたい、困っている人たちを助けたいという強いモチベーションを胸に起業している起業家が多い。それに対して、新規事業を立ち上げようとしている大手企業では、一人ひとりが社会課題の解決まで本質的に考えているとは言い難い。 産声をあげたばかりの小さな会社が、本気で社会課題の解決に向けて汗水垂らしている。彼らの信念、視座の高さを純粋に見れば、自然とリスペクトの念が湧いてくるはずだ。
▽落とし穴3:エッジに「ヤスリ掛け」
・新しい価値を生み出すアイデアや事業は、常に“エッジ”が立っているものだ。よって初期段階では、賛否両論が多く飛び交う傾向にある。オープンイノベーションを「異質なアセットの組み合わせによる新しい化学反応=新しい価値創出」と捉えるのであれば、なおさらである。
・しかし、大手企業がある案件を進めようとすると、社内関係部門との合意形成や経営幹部の承認を得る必要がある。様々な関係者からの要求や質問、疑問を解決するために尖った部分を丸くしていかざるをえないことが多々発生する。この「合意形成」プロセスが、まさに「エッジにヤスリを掛けてしまっている」行為だ。  その結果、エッジの効いた技術・サービスに魅力を感じ、スタートさせようとした取り組みは、丸くヤスリ掛けされ、結局多数の合意形成が可能な、無難な部分だけに限定した通常の業務委託契約になってしまう。 せっかくのオープンイノベーションを目指したスタートアップとの取り組みが、結局「少しだけ従来と違うアプローチをした業務委託契約」になってしまう。
▽落とし穴4:1/1評価
・大手企業によるスタートアップ企業への投資や協業がスタートした当初は、オープンイノベーションによる価値創造のための活動や案件に対して「ポートフォリオの一部」、全体の1/10や1/100といった見方がされる。 しかし少し時間が経過し始めると、「ポートフォリオの一部」という考え方が薄れ、協業案件や出資案件を一つひとつの独立案件として、1/1で評価し始めてしまう傾向がある。1件1件をきちんと評価すること自体を否定するものではないが、オープンイノベーションの取り組みは百発百中というわけにはいかず、1/1での評価には馴染まない活動である。
・こういった評価に移行すると、実質的に百発百中を求められることになり、失敗が許容されないという雰囲気が醸成され、活動そのものが萎縮していく。エッジの効いたスタートアップ企業との新たな取り組みに、チャレンジし難い環境が定着してしまうのだ。
▽落とし穴を避けるには?
・これらの落とし穴を避けるためにはいくつかポイントがあるが、重要な2点を紹介する。 1つ目は、骨太なゴール、実現したい青写真を明確化することである。オープンイノベーションやスタートアップ企業との協業もその実現手段であって、目的ではないはずである。その上で常にブレずに、骨太なゴールに向かうプロセスを回すことが重要である。
・アクセラレーションプログラム内のスタートアップ企業に対するメンタリングでよく指摘される、ゴール、それに向けてのマイルストーン、仮説、KPI設定を行い、それに向かってPDCAを回すといった作業を、大手企業自身の取り組みでも実践することが重要である。 注意しなければいけないのは、これらのプロセスがしっかりとゴールを向いているかである。これを徹底することが「手段の目的化」という落とし穴を回避する近道だ。
・2つ目は、評価手法の見直しだ。 オープンイノベーションは、実践の場に数多く立ち続けることが重要になる。そのため、アクセラレーションプログラムやインキューベーションプログラム、CVCなどの取り組みが活発化している現状は、非常に好ましい状況だと思う。しかし、ここで確認しなければならないのは、オープンイノベーションの推進を担う大手企業のメンバーに対する評価制度が、ある程度長い時間軸で、失敗を評価する仕掛けになっているか否かである。
・オープンイノベーションの取り組みは、チャレンジが大前提だ。しかし、チャレンジには必ず失敗がつきまとう。特にスタートアップ企業とのオープンイノベーションの場合、高い確率で失敗するだろう。しかし、失敗の中身をきちんと見ることが大切だ。大手企業では、社員の業績評価は半年サイクルが一般的だが、数年単位で取り組みを評価するなど、「失敗を評価しながら、成功を粘り強く待つ」仕掛けを持つことが何よりも重要である。
http://diamond.jp/articles/-/154463

第一の記事で、 『シリコンバレーの「エコシステム」』、は確かにうらやましいような素晴らしい仕組みだ。 『日本のベンチャー投資額は米国のわずか2%』、というのはさんざん言われていることだが、こうした記事のなかで読むと、改めて彼我の差の大きさを痛感させられる。 『大企業や行政支援とは一線を画すエッジ・オブ』、 『音楽、ゲーム、イベントなどに精通 多彩な経歴を持つ創業者たち』、などを読むと、エッジ・オブは面白いインキュベーションの場になる潜在力を秘めているようで、今後を注目したい。
第二の記事で、VC界の大物の一人、ビノッド・コースラ(Vinod Khosla)の主張はさすがに説得力がある。 『「専門家や経験を積んだ経営者、それにVCによる未来事業に関する意見はほとんど当てにならない」とコースラは喝破する。 起業家は、24時間寝ても覚めても事業のことを考え、市場に最も近いところにいて最も多くの情報を持っている。専門家たちの「コンサルティング」や「指導」を真に受けてしまうような起業家が成功するのかといえば、答えは否だ。 周りの誰も理解できない未来の市場を見据え、自分のビジョンのみを信じて切り開く。そうした起業家を発掘し、後押しし、本人の成長を助けること。それこそがVC本来の仕事であるのだ』、 『真のVCとは、「ジキルとハイド」なのだ』、などからみると、日本のVCの多くが大手銀行などの関連会社である現状は、心細い限りだ。
第三の記事で、『落とし穴』として、 『手段の目的化』、 『スタートアップへの「リスペクト」』、 『エッジに「ヤスリ掛け」』、 『1/1評価』、などが列挙されているが、なるほどと納得させられた。 『落とし穴を避けるには?』、ももっともであるが、実際にそれに従うのは容易ではなさそうだ。
タグ:ベンチャー ダイヤモンド・オンライン (その2)(日本からアップルやグーグルが生まれない根本的な理由、金の亡者でもロマンチストでもないベンチャーキャピタルの二面性、大企業とスタートアップ企業の協業に潜む4つの落とし穴) 「日本からアップルやグーグルが生まれない根本的な理由」 渋谷に起業支援ビルがオープン 「EDGEof」 米トップ5に入る企業を育てたシリコンバレーの「エコシステム」 日本のベンチャー投資額は米国のわずか2% 大企業や行政支援とは一線を画すエッジ・オブ 音楽、ゲーム、イベントなどに精通 多彩な経歴を持つ創業者たち 校條 浩 「金の亡者でもロマンチストでもないベンチャーキャピタルの二面性」 ビノッド・コースラ(Vinod Khosla) 主役は起業家であり、VCはそれを支援するプロデューサーである」 「失敗」の重要性 「専門家や経験を積んだ経営者、それにVCによる未来事業に関する意見はほとんど当てにならない」とコースラは喝破する 起業家は、24時間寝ても覚めても事業のことを考え、市場に最も近いところにいて最も多くの情報を持っている。専門家たちの「コンサルティング」や「指導」を真に受けてしまうような起業家が成功するのかといえば、答えは否だ 周りの誰も理解できない未来の市場を見据え、自分のビジョンのみを信じて切り開く。そうした起業家を発掘し、後押しし、本人の成長を助けること。それこそがVC本来の仕事であるのだ VCの動機は、スタートアップを通して世界を変えるような新しい事業や産業を創造したい、という根源的な欲求にある ジキルとハイド」の二面性 秋元信行 「大企業とスタートアップ企業の協業に潜む4つの落とし穴」 大企業とスタートアップの協業が上手く行かない理由 落とし穴1:手段の目的化 落とし穴2:スタートアップへの「リスペクト」 落とし穴3:エッジに「ヤスリ掛け」 落とし穴4:1/1評価 落とし穴を避けるには?
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2018年の7大地政学リスク [世界情勢]

今日は、2018年の7大地政学リスクを取上げよう。筆者である田中 均氏の主張には私として同意できない部分もあるが、国際情勢の全体を捉える上で、参考になると思われる。

元外務省審議官で日本総合研究所国際戦略研究所理事長の田中 均氏が1月17日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「「現実の危機」につながりかねない2018年の7大地政学リスク」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・2018年は昨年以上に地政学リスクが深刻になる可能性が高い。昨年1月に就任したトランプ大統領の米国は世界の中での指導力を大きく低下させた。同時に米国の「力の空白」が新たな国際社会の脆弱性を生んだ。今年はそのような脆弱性が、「現実の危機」につながるリスクがあちこちにある。
▽米第一主義で「力の空白」 米国を軸の国際秩序崩壊のリスク
・米国の政治的混乱は一層深刻化するのだろう。 本格化しているモラー特別検察官による「ロシアゲート」の捜査は、トランプ大統領周辺に及んでいくと予想される。 現段階ではロシアによる選挙介入への共謀や 司法妨害について、トランプ大統領の弾劾に繋がるような直接的な証拠が出てくるとは想定されていない。
・しかし、トランプ大統領の子息トランプ・ジュニア氏や娘婿のクシュナー大統領上級顧問など家族に捜査が及び、起訴される可能性は排除されてはいない。 仮にトランプ氏が大統領権限を行使し、このような人々を恩赦するといった事態にまでなれば、トランプ大統領の政治的立場は著しく弱まるだろう。
・いずれにせよ、いわゆるトランプ大統領の「岩盤支持者」(白人ブルーカラー層を中核)と既成政治勢力、高学歴・ホワイトカラー層を中心とする反トランプ勢力の決定的な分断は、さらに進むだろう。 トランプ大統領は選挙中の公約を含め、これらの支持者に向けた政策方針を引き続き打ち出して行くだろうが、減税のように共和党の核心的政策に一致する政策は実行されても、その他の多くの公約はなかなか実現していくまい。
・これは議会の賛同が得られないことと、いまだ空席となっている主要な政府人事が多く、実務的な支えが不足していることも大きい。 このような状況が、11月に予定される中間選挙にどういう影響を与えることになるのか。
・もともと中間選挙は過去、大統領の与党に不利な結果となっている(ブッシュ政権下の9.11テロ翌年の2002年中間選挙を除き)。 ただ今年の中間選挙では、上院の改選議席(100議席の3分の1の34議席)のうち民主党(系)の議席は26であり、民主党が現有議席を確保しさらに2議席をネットで増加させ、非改選議席と合わせて過半数を制するのはなかなか困難と予想されてはいる。 そうした中で、もし上下両院のいずれかで、共和党が多数を失った時の政権に与えるダメージは極めて大きいだろう。
・また国内情勢と連動して、国際的な米国の指導力が一層低下していくのは必至である。 トランプ大統領の大統領らしさ(プレジデンシャル)が全く欠けたツイートの発信や、最近、出版された「暴露本」などから、トランプ大統領の言動への信頼はますます揺らいでいる。
・これまで発表されてきたトランプ大統領の対外政策の多くは、従来の米政権の基本政策から大きく外れたものだ。(TPPや地球温暖化対策のパリ合意からの離脱、イスラム圏からの入国禁止措置、メキシコとの国境の壁建設、NAFTAの見直し、イラン核合意への反対、エルサレムをイスラエルの首都と認定など)。 さらに「アメリカファースト」は、米国の国際社会における指導力の放棄であるだけでなく国際協調主義の放棄であり、結果的には米国は孤立主義に向かっていると見られてもおかしくない。
・このような米国の指導力の放棄はいたるところで「力の空白」を生み、その空白を埋めるための地域内での争いや、あるいは、ロシアや中国の活発な活動を招来することになる。 昨年12月に発表された国家安全保障戦略は米国の「力」の役割を強調するが、果たしてどこまで政策に反映されるかは疑問である。 米国の主導の下で築かれてきた民主主義と市場主義を中核とするリベラルな国際秩序は徐々に崩れていくリスクが大きい。
▽依然、残る朝鮮半島の戦乱リスク 北朝鮮は日米韓の分断図る
・朝鮮半島情勢も予断を許さない状況が続くだろう。 北朝鮮が核兵器を放棄するための外交交渉に応じないとすれば、結果は二者択一しかない。 北朝鮮を事実上の核保有国として認知するか、軍事的行動により解決を求めるかの二者択一である。
・北朝鮮を事実上の核保有国として認知することは解決とはならず、情勢の一層の不安定要因となる。即ち北朝鮮のこれまでの行動を見れば北朝鮮が核を脅しに使う可能性は高く、韓国では自国の核武装が現実味を帯びていく。 そうなれば地域情勢は著しく不安定となる。
・軍事的衝突に至るのは、北朝鮮がさらなるミサイル・核実験をエスカレートさせ、一方で安保理制裁が最大限まで強化され、米国の軍事的圧力が限界点を越え、行動せざるを得なくなる場合である。 これは米国本土に届く核戦力を米国が自国に対する真の安全保障リスクと捉えるからである。
・この場合には米国の先制攻撃があってもおかしくないが、攻撃によりすべての反撃能力を封じることは不可能であり、朝鮮半島で本格的な軍事衝突に至る可能性は高い。 この場合朝鮮半島だけではなく日本にも大きな被害が予想し得る。これ以外に、北朝鮮の韓国に対する軍事的挑発が限定的な戦闘に至る可能性も排除できない。
・2018年早々、南北高官会議が約2年ぶりに再開され、北朝鮮が平昌オリンピックへの選手派遣を行うことが協議されている。 米韓合同軍事演習もオリンピック後まで延期されることとなり、少なくともオリンピック期間中は緊張が高まるとは想定されない。 一方で、国連安保理経済制裁の実効性は相当に上がっており、これが北朝鮮経済に徐々に厳しい打撃を与えていく事になるのだろう。
・北朝鮮は核を維持したまま事態を打開していくため、南北関係を進めることにより韓国を引き込み日米韓の分断を図ろうとするのだろう。 南北が対話を維持する事自体は決して否定されるべきではないが、ここで北朝鮮を真剣な交渉に引き出すためには、第一に経済制裁について日米韓中の固い連携を維持し、実効的な制裁を続けることが必要となる。
・同時に万が一の事態に備えた危機管理計画を関係国で準備しておくことも重要となる。 このようなP3C(Pressure-圧力、Coordination-連携、Contingency Planning-危機管理計画、Communication Channel-対話の窓口)が北朝鮮問題の外交的解決を可能にする唯一の解だ。 しかし関係国の冷静で緻密な戦略がなければ上に述べた軍事衝突のリスクは高まる。
・特に金正恩委員長とトランプ大統領という両国のリーダーはいずれも国内的に盤石の基盤を有している訳ではなく、追い詰められて衝動的に行動するリスクも念頭に置かねばばらない。
▽中国経済は成長減速 管理強化で外資進出、慎重に
・昨年の党大会で権威・権力を固めた習近平総書記の中国にとっての最大のリスクは、習近平総書記が掲げた「社会主義現代化」路線の下で、政治・経済の矛盾・摩擦が大きくなることだ。 中国は今後、共産党の経済への支配を強化させ、国有企業も合併等により巨大化を図る一方、引き続き金融などのサービスセクターを中心に改革開放路線を進めるとしている。
・そしてインターネット規制やスマートフォン決済の飛躍的拡大に伴う個人情報の確保により「管理社会」の色彩をますます強めていくことになろう。 中国経済は賃金上昇などの要因により減速していかざるを得ず、外資は共産党の介入やインターネット規制等を市場活動の阻害要因と考え、進出に慎重となって行くのではないか。
・経済成長の大幅な鈍化は、所得不均衡、社会保障の不十分さ、環境問題等にまつわる国民の不満を顕在化させていく事も考えられる。言論等への強権的引き締めにも限度があると思われる。 経済社会的混乱は共産党内部の権力闘争に繋がりやすい。
・習近平総書記が今回の党大会に際して、あえて5年後の新しい指導者を政治局常務委員に含めることをしなかったのは、自らの権力がレームダック化していくのを防ぐ狙いだと考えられる。 今後の実績次第ではさらに5年任期延長を図る余地を残したのだろう。
・対外関係では、「一帯一路」を通じて影響力を西アジア、中東などに拡大し、大国の地位を固めていくという戦略は奏功している。
・中国にとっての最大のリスクは対米関係であろう。 米国は貿易不均衡問題について今後、知的財産権問題を含め相当に強硬に出てくることも予想される。 ただ北朝鮮問題で緊密な協力関係が維持されれば、米中関係の衝突といった事態にはなりがたい。
▽中東は宗教対立で不安定化 イラン・サウジの軍事衝突リスク
・中東では、過激派戦闘集団「IS」との戦闘が終焉していくにしたがって、新たな対立軸としてシーア派とスンニ派の宗教対立が前面に出てきた。 とりわけ両宗派を代表するイランとサウジアラビアの両大国の対峙という事になりつつある。 両国は対峙しながらそれぞれイランはロシア、トルコとの関係、サウジは米国、イスラエルとの関係強化が図られてきている。 トランプ政権が反イラン、親サウジ・イスラエルの姿勢を明確にしていることが背景にある。
・これまではシリア問題やイエメンでの内戦、カタール問題といった第三国でのイランとサウジの関わり合いが中心であったが、サウジとイランそれぞれの国内情勢の変化次第では直接の衝突を招来しかねない。  サウジではムハンマド皇太子による国内改革が性急に進められていることで、拘束されて財産の供出を求められている王族の不満は高まり、宗教界の批判も強くなりつつある。 また、イエメンへの乱暴な介入に見られる対外強硬策も散見される。 イランでは制裁解除の効果は部分的であり、経済の停滞に対する国民の不満に起因する政府批判のデモが起こっている。 双方ともが、国内の不満を外にそらす対外強硬策に活路を見出すことが考えられないではない。
▽英国の「ハードBREXIT」? 止まらないポピュリズム
・欧州でも脆弱性が強まっている。 「BREXIT」をめぐる英国とEUの協議は、ようやく第一段階の清算金を巡る交渉が終わり、離脱後の新しい経済的枠組みの交渉に入った。 英国議会での承認プロセスにかかる時間を考えると、今年の晩秋には、新たな枠組みについておおよその合意ができている必要がある。
・新たな枠組みとして考えられるのは、これまでの例から見れば、ノルウェ―方式(単一市場への完全なアクセスはあるが、一方で移民制限など人の移動の制限もない)か、カナダ方式(人の移動制限はあるが、同時にサービス分野の欧州市場へのアクセスは含まない)だ。
・だが、いずれも英国の要請を満たすものではない。 英国は人の移動への制限を課しつつ、サービスも含む単一市場へのアクセスを担保したいとしており、これが通るとも思えない。 清算金を巡る交渉では英国はEU側の要求に妥協せざるを得なかったわけで、EU側は安易な例を作ると英国にならって離脱する国が出てくる懸念から、枠組みの交渉でもかなり固い態度を維持するのだろう。
・英国内でもメイ首相の政治的基盤は弱く、今後の世論がどう展開していくかで、EUとの合意がまとまらないままEUから離脱する、いわゆる「ハードBREXIT」となって行く可能性は否定できない。
・いずれにせよEU離脱後のEU外の諸国との交渉(これまでEUとして結んでいた諸協定の英国への移し替え)も考えれば、膨大な作業が必要となり、英国を取り巻く情勢はかなり不透明・不安定になって行く可能性がある。
・EUの中核国、ドイツでのキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)と社会民主党(SPD)の連立交渉は結果的にはまとまるにしても、3月一杯かかるのだろう。 選挙の結果を踏まえればメルケル首相も難民問題などで妥協をしていかざるを得ないだろうし、国内問題を抱えている中では、マクロン仏大統領と共に欧州統合の再構築に向けて動く余地も限られる。 特に内政問題では他の欧州諸国におけるポピュリズム勢力の伸長(イタリアの3月総選挙における5つ星運動の成否など)に注意する必要があろう。
▽「力の空白」活用するロシア 中東などでの影響力強める
・プーチン大統領は3月の大統領選挙を経てどういう戦略をとるのだろうか。 欧州との関係においてウクライナ・クリミア問題は現状を維持しつつ、NATOに対峙していく姿勢を強化するのだろう。 中東においては米国が当事者能力を失っていくのに乗じてシリア問題などで主導権を握り、イラン・トルコとの連携によりトランプ大統領のサウジやイスラエルなどの同盟国重視戦略に対峙しようとしている。
・トランプ大統領の就任当初予想された米国との関係改善も、米国内の「ロシアゲート」の下で進められるとは考えられない。 おそらくプーチン大統領は、トランプ大統領の米国が国際社会において指導力を失っていくことによる「力の空白」を最大限に活用しようとするのだろう。
・ただ米国主導の秩序に本格的に挑戦していくためには、ロシア経済の弱体化もあり、中国との戦略的一致がなければ可能ではない。 果たして中国がロシアと共に国際秩序への挑戦といった行動に出るかは今後の状況次第であり、注意して見守る必要がある。
▽日本は経済の信認喪失リスク 政策硬直化で構造改革進まず
・2018年の世界の地政学リスクについて述べたが、日本自身にも大きなリスクが内在していることを忘れてはならない。 基本的には二つの重大なリスクが存在している。 一つは日本経済の信認が大きく失われるリスクである。 現在は表面的には日本経済は好調だが、これも異次元の金融緩和と財政拡張政策がもたらしたものであり、このような政策が蓄積している深刻な構造的問題に目をつむる訳にはいかない。
・中でも国の債務のGDP比は200%を超え、2%の消費税増税ですら景気を冷やす懸念から、なかなか実現できないでいる。 企業は資金を豊富に持っているが、日本国内で投資をしていく展望に欠け、国民も将来への不安から消費を大きく増やすことには踏み切れないでいる。 本来は、強い政権の下で抜本的な産業・労働市場の構造改革と歳出の抜本的改革を実行していかなければならないのに、政治は短期的に国民の不興を買う政策には乗り出そうとしない。 何かのきっかけで日本経済への信認が欠け、財政破綻をきたすリスクを排除できない。
・二つ目は、対外関係で近隣諸国との関係で抱える大きなリスクだ。 日本の将来の繁栄のためには、大きな成長力を有する中国などの近隣諸国と良好な関係を維持し共存していかなければならない。 30年前、米国は日本の貿易総量の30%を占めていたが、今や15%にまで低下し、中国は25%を占めるに至っている。
・米国とは価値を共有するとともに利益も共有し、強い関係を構築することができた。 しかし多様なアジア諸国とは利益は共有するが、価値を完全に共有している訳ではなく、良好な関係を維持するのは簡単な事ではない。 それだけに日本は米国とは強い安全保障関係を維持しつつ、中国をはじめとする近隣諸国とは利益を拡大していく政策をとるべきなのだが、現在は必ずしもそうではない。
・今日、日本は中国に対しては「牽制」、韓国に対してはこれまでとは違って「非包容的」な面が目立つ。 はたしてそれでいいのか。 いわゆる「官邸1強体制」の下、議論の多様性が封じ込められ、政策の硬直性が目に付く。 本来は最大のシンクタンクたる官僚組織についても、人事の締め付けが厳しいのか、自由闊達な議論が行われているとも見受けられない。
・野党・自民党・経済界・メディアの政策批判論議も低調に見える。 2018年の日本に内在するリスクは、この政策硬直性のゆえに経済・対外関係両面において本来必要な構造的改革が行われないことなのだろう。
http://diamond.jp/articles/-/156083

第一のリスクに関連して、 『モラー特別検察官による「ロシアゲート」の捜査は、・・・司法妨害について、トランプ大統領の弾劾に繋がるような直接的な証拠が出てくるとは想定されていない』、というのは支配的な見解だが、個人的には弾劾に繋がれば面白いのにと、残念である。 『米国の指導力の放棄はいたるところで「力の空白」を生み、その空白を埋めるための地域内での争いや、あるいは、ロシアや中国の活発な活動を招来することになる』、というのはその通りだろう。
第二のリスクに関連して、 『金正恩委員長とトランプ大統領という両国のリーダーはいずれも国内的に盤石の基盤を有している訳ではなく、追い詰められて衝動的に行動するリスクも念頭に置かねばならない』、というのも順当な指摘だ。
第三のリスクに関連して、 『米国は貿易不均衡問題について今後、知的財産権問題を含め相当に強硬に出てくることも予想される。 ただ北朝鮮問題で緊密な協力関係が維持されれば、米中関係の衝突といった事態にはなりがたい』、というのにも異論はないが、個人的には米中関係の対立、その中でのトランプ大統領の「手綱さばき」を見てみたいとも思う。
第四の  (サウジ、イランの)『双方ともが、国内の不満を外にそらす対外強硬策に活路を見出すことが考えられないではない』、といった場合にトランプ大統領では調停役たり得ず、プーチンが代役を果たす可能性もあるかも知れない。
第五のリスクに関連して、 『「ハードBREXIT」となって行く可能性は否定できない』、ようだが、本来は離脱反対派だったメイ首相が、再国民投票の要求を頑なに断っている真の理由は何なのだろうか。 
第六のリスクに関連して、 『プーチン大統領は、トランプ大統領の米国が国際社会において指導力を失っていくことによる「力の空白」を最大限に活用しようとするのだろう・・・果たして中国がロシアと共に国際秩序への挑戦といった行動に出るかは今後の状況次第であり、注意して見守る必要がある』、にも異論はない。
第七のリスクに関連して、 『日本は経済の信認喪失リスク 政策硬直化で構造改革進まず』、という結論には異論はないが、それをもたらす要因には、私は異次元緩和の「出口」問題があると思う。米国に続いて、欧州中央銀行も緩和を止めれば、いやが上でも日銀の異次元緩和が注目され、国債市場、為替市場を中心に波乱が起きるリスクに注目する必要があると思う。
タグ:ダイヤモンド・オンライン 中間選挙 2018年の7大地政学リスク 田中 均 「「現実の危機」につながりかねない2018年の7大地政学リスク」 米国の「力の空白」が新たな国際社会の脆弱性を生んだ 米第一主義で「力の空白」 米国を軸の国際秩序崩壊のリスク 現段階ではロシアによる選挙介入への共謀や 司法妨害について、トランプ大統領の弾劾に繋がるような直接的な証拠が出てくるとは想定されていない 「アメリカファースト」は、米国の国際社会における指導力の放棄であるだけでなく国際協調主義の放棄であり、結果的には米国は孤立主義に向かっていると見られてもおかしくない 米国の指導力の放棄はいたるところで「力の空白」を生み、その空白を埋めるための地域内での争いや、あるいは、ロシアや中国の活発な活動を招来することになる 依然、残る朝鮮半島の戦乱リスク 北朝鮮は日米韓の分断図る 中国経済は成長減速 管理強化で外資進出、慎重に 、習近平総書記 経済社会的混乱は共産党内部の権力闘争に繋がりやすい 中国にとっての最大のリスクは対米関係であろう。 米国は貿易不均衡問題について今後、知的財産権問題を含め相当に強硬に出てくることも予想される。 ただ北朝鮮問題で緊密な協力関係が維持されれば、米中関係の衝突といった事態にはなりがたい 中東は宗教対立で不安定化 イラン・サウジの軍事衝突リスク 双方ともが、国内の不満を外にそらす対外強硬策に活路を見出すことが考えられないではない 英国の「ハードBREXIT」? 止まらないポピュリズム 力の空白」活用するロシア 中東などでの影響力強める 日本は経済の信認喪失リスク 政策硬直化で構造改革進まず 何かのきっかけで日本経済への信認が欠け、財政破綻をきたすリスクを排除できない 対外関係で近隣諸国との関係で抱える大きなリスク
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電気自動車(EV)(その3)(中国発のEV化で日本の自動車産業は電機の二の舞にならないか、クルマは人命を奪ってきた 我々のEVが常識を“破壊”する 独白ジェームズ・ダイソン、全固体電池の菅野教授が語る EVはこう進化する 次世代電池の“本命”はリチウムイオン電池の限界を超えるか) [科学技術]

電気自動車(EV)については、昨年11月29日に取上げた。今日は、(その3)(中国発のEV化で日本の自動車産業は電機の二の舞にならないか、クルマは人命を奪ってきた 我々のEVが常識を“破壊”する 独白ジェームズ・ダイソン、全固体電池の菅野教授が語る EVはこう進化する 次世代電池の“本命”はリチウムイオン電池の限界を超えるか)である。

先ずは、法政大学大学院教授の真壁昭夫氏が昨年12月12日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「中国発のEV化で日本の自動車産業は電機の二の舞にならないか」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽世界でEVへの移行が進めば日本自動車メーカーの競争力はどうなる!?
・世界の自動車市場で、今後の“命運”を握る競争が進んでいる。それが、EV(電気自動車)の開発競争だ。その背景には、世界最大の自動車生産・販売国である中国や欧米諸国で、重要な環境対策としてEVを重視することが明確に打ち出されたことがある。 中国や欧米諸国、その他新興国でもEV化に向けた政策が議論され、自動車業界に参入する企業も増えている。この流れは、今後も続くだろう。
・一般的に、内燃機関を搭載した自動車に比べ、EVに使われる部品数は少ない。部品点数が減ると、自動車メーカーの競争力を支えてきた技術力が差別化の要因とはなりづらくなる。 また、EVへの移行のスピードもかなり速い。大規模にEV開発が進めば、供給圧力が高まり、価格に下落圧力がかかる可能性がある。また、IoT(モノのインターネット化)などに伴い、自動車は多くのセンサーを搭載し様々なデータを収集する“デバイス”としての役割を強くするだろう。
・これまで、多数の部品を微妙に“すりあわせ”しながら組み立てる技術で優位性を保ってきた、日本の自動車メーカーにとって、これまでと違った競争を強いられることが想定される。少数のユニット型部品を合わせるだけで完成品ができるデジタル家電の二の舞になることも懸念される。“日の丸”自動車メーカーにとって、EVは一種の鬼門になるかもしれない。
▽EVが主流になることで“すりあわせ”からユニット部品の組み立てへ
・一般的に、レシプロエンジン(燃料が生むエネルギーでピストンを動かす原動機)を搭載した自動車には、3~5万点の部品が必要だ。部品数が多いため、自動車産業のすそ野は広い。トヨタなどの完成車のメーカーをトップに、下請け、孫請けというように、業界内で重層的な取引関係が蓄積されてきた。
・部品が多い分、各パーツの調整が完成車の性能を左右する。走行時の振動、エンジンルームから車内に伝わるノイズなどをコントロールするためには、「経験と知識」の蓄積が欠かせない。高級車ともなればなおさらだ。それらの高い技術が参入障壁にもなった。
・ドイツ、日本の完成車メーカーが競争力を高めてきた理由は、一国内で高品質の自動車部品を生産し、それを“すりあわせ”して完成車を生産することに長けてきたからだ。それは、トヨタがハイブリッドシステムを開発、実用化するためにも不可欠だった。
・EV化は、この産業構造を一変させてしまうだろう。 なぜなら、EVに使われる部品は、内燃機関を搭載した自動車の6割程度で済むからだ。その分、すりあわせ技術への依存度は低下する。言い換えれば、自動車の生産は、“部品のすりあわせ”から、フレーム、バッテリーなどの“ユニット(部品の集合体)の組み立て”にシフトする可能性が高い。
・例えばスマートフォンの生産は、ユニットの組み立てによって成り立っている。アップルのiPhoneには日本製の部品が多く使われているが、それが組み立てられるのは中国にあるフォックスコンの工場だ。 同じことが自動車でも進もうとしている。
・見方を変えれば、部品ごとのバランスなどを調整し、付加価値を生み出すという既存の自動車メーカーが担ってきた役割は、さまざまな業界に溶け出していく可能性が高まっている。状況によっては、完成車メーカーは単なる“車体組み立て業”に変化することも考えられる。
▽異業態の新規参入とこれまでと違った競争の激化
・もっとも、世界の自動車メーカーがこの動きに対応しようとしている。 同時に、中国、インドなどでのEV需要を取り込もうと、他業種からの参入も増えている。EVの開発競争は激化するだろう。決断が遅れると「挽回が難しくなる」と、危機感を募らせる経営者は多い。
・それを印象づけた動きの一つが、日本電産がEVの駆動用モーターへの参入を決定したことだ。 同社は、フランスのPSAと組み量産を目指す。合弁を足掛かりにして、日本電産がEVの生産に取り組む可能性もある。世界最大の電子機器の受託製造サービス(EMS)企業である台湾のホンハイも、EV事業の強化を重視している。
・その他にも、自動車業界に参入する企業は増えている。英国ではダイソン、国内ではヤマダ電機が参入を決めた。鉱山業界からは、BHPビリトンがバッテリー向けの素材供給能力を増強しようとするなど、EV需要を取り込もうとする企業は急速に増えている。
・こうした動きをもとに将来の展開を考えると、かなりダイナミックに自動車業界の構図は書き換えられていくだろう。特に、アマゾンやグーグルが自社ブランドのEVを市場に投入すれば、かなりの社会的なインパクトがあるはずだ。 自動車は、交通状況や部品の稼働状況など、ありとあらゆるデータを収集するデバイスとしての性格を強くしている。オンラインのネットワークと自動車がつながる“コネクテッドカー”が実用化されれば、自動車の運転が自動化されるだけでなく、移動や物流などの仕組みも大きく変わるだろう。
・そう考えると、ハイテク企業と自動車の関係は接近するはずだ。中国ではバイドゥ(百度)がインテルやダイムラーをはじめとする有力企業とともに、自動運転化技術の実用化に向けた実験を開始した。こうした動きが自動車とネットワーク技術の融合を促す。自動車メーカーが自動車をつくるという常識で、今後の自動車業界を論じることは難しくなっている。
▽重要性高まる、EV化の先を見据えた経営戦略
・現時点でわが国の行政と自動車業界は、EV化に出遅れている。 特に、トヨタにとってはハイブリッドカーの生産ラインを維持しつつ、EVの生産能力を整備するのは容易ではない。このままの状況が続けば、国内自動車メーカーの競争力は低下するだろう。 中長期的な目線で考えると、中国での需要を見込んでEVの供給能力は増えるだろう。一方、需要が右肩上がりで増え続けるとは考えづらい。10年単位で考えると、世界経済が減速に向かうことも考えられる。どこかで需給バランスは崩れ、EVの価格に下落圧力がかかる可能性がある。
・EVではバッテリーの性能が問われる。その他のユニットに関しては差別化が難しいといわれている。ブランド(メーカー)や外見が違うが、中身は同じという流れに行き着くことも考えられる。その見方が正しければ、EVにはコモディティー化しやすい要素がある。生産面では先進国よりも新興国の方が有利だ。
・1990年代、アジア新興国が台頭する中で、半導体などの電機業界では同様の展開が進んだ。わが国の企業は、各社独自の規格に従って完成品を作ることに固執し、結果的に競争力を失った。その教訓を生かすべきだ。
・重要なことは、製品の設計やコンセプトを“オープン(公開)”かつ“コモン(共通)”にすることだ。バイドゥにはその意図がある。トヨタもマツダ、デンソーと組み、他社の参画を呼び掛けながらEVの開発を急いでいる。同時に、トヨタは人工知能やネットワーク技術のための研究所も開設し、ブロックチェーンなどの研究に力を入れている。同社が11月28日に発表した経営陣の刷新にも、EV化の先を見据えた戦略的な視点が反映されている。
・将来的には、日常生活の中で自動車が家電と同じような位置づけになることも考えられる。その中で国内企業が競争力を発揮するためには、環境が大きく変わることへの危機感を各企業で共有し、新しいモノやサービスの創造に注力することが欠かせない。それが、世界規模でモビリティとネットワークの融合が進むことへの対応につながるだろう。
http://diamond.jp/articles/-/152413

次に、1月12日付け日経ビジネスデジタル「クルマは人命を奪ってきた 我々のEVが常識を“破壊”する 独白ジェームズ・ダイソン」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・世界に驚きを与えたダイソンのEV参入。ファンは沸き立つ一方、自動車業界は実現性を疑問視する。 「本当に成功するのか」─。創業者、ジェームズ・ダイソン氏が決断の背景を打ち明ける。
・「A Dyson EV」。2017年9月26日、英ダイソン創業者のジェームズ・ダイソン氏は全社員宛てにこう題したメールを送り、EV(電気自動車)事業への参入を表明した。サイクロン掃除機、羽根のない扇風機など、ユニークな機能とデザインを兼ね備えた家電を開発し、消費者の支持を獲得してきたダイソン氏。「次はなぜ、EVなのか」。そう問うと、話は自動車メーカーに対する痛烈な批判から始まった。
▽VWの排ガス不正問題で決断
・なぜダイソンがEVを手掛けるのか。皆さんには多少の驚きを与えたかもしれませんが、決して思い付きで始めたわけではありません。むしろ長い間、考え続けてきた構想でした。 ダイソンがEVを開発する理由。一言で言えば、世界で広がる環境汚染に対して行動を起こしたいという切実な思いです。とりわけ自動車の排気ガスによる大気汚染は深刻です。この惨状を変えたい。
・英国の大学キングス・カレッジ・ロンドンによると、大気汚染を理由に命を落とす人は、ロンドン市内だけで毎年9500人近くに上ります。世界で見ると犠牲者の数はさらに増え、世界保健機関(WHO)は、2012年に世界中で約700万人が死亡したと報告しました。大気汚染は、今では世界最大の環境リスクと言って過言ではありません。ここに解決策を示すことが、今のダイソンの使命だと考えています。
・私自身、この問題には30年近く取り組んできました。1990年、まだダイソンを創業する前ですが、自動車の排気システムに取り付ける、粒子状物質を捕集するサイクロンフィルターの開発に着手しました。サイクロンの原理は、掃除機に利用したものとほぼ同じです。きっかけは、偶然に目にした米国立労働安全衛生研究所の論文でした。ディーゼルエンジンの排気ガスが含む有害物質と、実験用のマウスやラットが早期に死亡することを関連付ける内容でした。後で分かったことですが、ガソリンエンジンも、同様の問題を抱えています。
・日々、何気なく自動車を利用することが、我々を死に至らしめる可能性がある。とても深刻な問題のはずですが、自動車メーカーを含め社会の関心はとても低かった。そこで、自分自身でその解決策を考えることにしたのです。 サイクロンフィルターはその後、試作と検証を繰り返しながら、93年までには実用に耐え得るレベルになりました。当時、BBC(英国営放送)で試作品が紹介されて、それなりに話題にもなったのです。
・しかし、自動車業界の反応はとても薄いものでした。ディーゼルの排気ガスは環境にも人体にも大きな問題はないとし、我々が開発したフィルターの重要性について、どこも真剣にとりあってはくれませんでした。それでも諦めず、2000年まで開発を続けました。 そうしている間に、欧州連合(EU)当局が「クリーンディーゼル」エンジンの採用を奨励するようになりました。ディーゼルが環境に与える影響は問題のないレベルであり、EUとしてクリーンディーゼルの普及に力を入れると。英国もEUの考えをそのまま取り入れ、ディーゼルエンジンは環境に優しいものとのイメージが広がりました。さすがに、プロジェクトを中断せざるを得ないという結論に至りました。
・ところがです。大気汚染の問題は一向に収束していません。先進国、途上国に関係なく、大都市は空気が汚染され、人々が苦しんでいます。問題を放置してきた大手自動車メーカーは、その責任を免れることはできません。 決定的だったのは、15年に発覚した独フォルクスワーゲン(VW)のディーゼルスキャンダルです。自動車メーカーは、大気汚染問題に正面から取り組むことなく、規制を巧みに回避してきたことが明らかになりました。信じられない背信行為を続けていたのです。
・幸いなことに、今のダイソンには当時のフィルター開発とは別の方法でこの問題に対処する技術があります。長年開発を続けてきたモーターと電池、そしてAI(人工知能)などのソフトウエア。(15年に米スタートアップを買収して手に入れた)全固体電池は誰もが開発したがっている技術です。ファンヒーターや空気清浄機能などの空調家電で培ったノウハウなども組み合わせれば、ダイソン流のアプローチで大気汚染問題に立ち向かえます。それが、ダイソンがEVに乗り出す理由です。
・ですから、米テスラの成功に我々も追随しようというわけではありません(笑)。私には、長い間、世界的な社会課題を解決したいという、燃えるような強い思い(desire)があったのです。 今、自動車メーカーがせきを切ったようにEV開発に乗り出しています。多くは「環境への配慮」をうたっていますが、私から見れば、規制によって無理に強制されているようにしか見えません。我々の動機とは明らかに違います。
▽外部の懸念、気にしない
・創業前からの強い思いが自身をEV開発へ突き動かしたと繰り返したダイソン氏。一方で、EV開発はこれまで成功を収めてきた家電開発とは複雑さも投資規模も異なる。「本当に成功できるのか」と疑問を呈する声も少なくない。ダイソンは、テスラに転職した元社員や前CEO(最高経営責任者)のマックス・コンツ氏を情報漏洩の疑いで訴えるほど、徹底した秘密主義を貫く。そのため謎が多い。
・EV開発は既に約3年前から開始しています。私自身も多くの時間をこのプロジェクトに割いていますが、現時点では内容についてのコメントはしません。我々は従来も秘密主義でやってきましたし、自動車開発の競争は激しく、秘密保持は鉄壁にする必要があります。
・本当にできるのかという疑問の声がある? 声の主が我々の何を知っているかは分かりませんが、今は「できる」とだけ答えておきましょう。20年までにモーターと電池という我々のコア技術を活用したEVを開発し、21年から量産を始めます。投資額も現在表明している20億ポンド(約3000億円)で足ります。評価は、ぜひ完成した製品を見てからにしてほしいですね。
・ダイソンはもはや家電メーカーではなく、テクノロジー企業です。15年に発売したロボット掃除機「360アイ」には、360度の視界を持つパノラマレンズのカメラを搭載して“自動運転”を実現しています。リアルタイムに部屋の特徴を認識し、室内の位置関係を計算して地図を作製します。英インペリアル・カレッジとは画像処理技術について研究していますが、これらは全てEVに活用していきます。
・AIや機械学習の研究にも資源を注いでいます。ダイソンのデジタルモーターの回転速度を調整するためには、従来は機械的に回転数を設定しておく必要がありました。しかし、今は全てソフトウエアで制御しています。スマートフォンで家電を操作するといった目に見える部分から、モーターの制御といった裏側まで、ソフトの研究開発は急ピッチで拡大中です。社内のエンジニアもソフトに精通する人材が今や多数を占めます。
・EVを開発している他社の動向は気にしていません。自動車メーカーも、EVで本当に成功しようと思うなら、エンジンを搭載した自動車の開発を引きずらず、開発体制をリセットする必要があります。EVの中核となるモーターと電池の開発も同様です。彼らにアドバンテージがあるとは思いません。
▽「デザイン」が革新を生む
・ダイソンは、掃除機や扇風機など、一般には技術革新が乏しく「コモディティー(汎用品)」と呼ばれる成熟市場に飛び込み、イノベーションを起こしてきた。ここ数年の業績は急拡大しており、16年12月期の売上高は前の期比45%増の25億ポンド(約3625億円)と、5年前に比べ2倍以上の規模になっている。そんなダイソンが次に照準を定めたのがEV。クルマもコモディティーになったことを意味するのか。
・自動車がコモディティーになったのか? 私は全くそう思いません。むしろ、自動車は最もコモディティーから遠い製品の一つだと考えています。とても複雑で、感情的な製品です。付け加えれば、我々が手掛けた製品はいずれもコモディティーだとは考えていません。消費者には、掃除機もドライヤーも日々の生活を送る上でとても価値のある製品です。コモディティーかどうかを決めるのは、むしろ、開発した側の情熱や思いがどれだけ注がれているかによります。
・なぜ、ダイソンは他社と違う製品を開発できるのか。それは我々が「デザイン」という概念を一般よりも、より包含的に捉えているからです。デザインとは、単に製品の見た目を指すだけではありません。製品がどう機能するかであり、使われ方を徹底的に考え抜く行為も含みます。突き詰めれば、製品によって消費者が抱える課題や不満をどう解消するかを考えることなのです。 これを実践するには、デザインとエンジニアリングは分けない方がいい。ダイソンのエンジニアは全員、デザイナーでもあります。製品とは、機能とデザインが密接に関わり合いながら生まれていくとの哲学があるからです。
・歴史を振り返れば、デザイナーという職業は存在しませんでした。エンジニアがその役割を担っていたのです。これが分離するきっかけを作ったのが、自動車産業です。大量生産・大量販売を志向した自動車メーカーは、エンジニアリングからデザインを切り離し、マーケティングに活用するようになったのです。デザインという役割は自動車を売るために分離され、流れは一般製品を売る企業にも広がっていきました。
・もう一つ、他社とダイソンが違うように見えるのは、エンジニアである私が会社を率いているからでしょう。昔も今も、エンジニアが経営のトップに存在する企業は稀有なケースでした。 その昔、私が商談相手に製品を持っていくと、「エンジニアではなくビジネスマンはいないのか?」とバカにされたものでした。しかし、製品の可能性は誰よりもエンジニアが理解しています。仮にあなたが、新製品のアイデアを持ち込んできたら、その試作機を見て、製品として成功しそうかどうかを即決できます。ビジネスやマーケティングといった話は、その後についてくるものです。日本の企業だって、ソニーやホンダの創業期はそのような哲学を持った会社だったと思います。 もちろん、私の経営が唯一の正しい方法だとは言いません。しかし、私自身はこのやり方が素晴らしい製品を生むものだと信じています。
▽破壊の先に未来がある
・ダイソン氏は現在70歳。EV開発の陣頭指揮を執り、現在も世界を飛び回る日々を続ける。その一方で、後継者に指名した長男のジェイク・ダイソン氏が15年から経営に参画し、世代交代に向けた準備も進めている。EV参入の先には、どのようなビジョンを描いているのだろうか。
・EVの先、ですか。もちろん、24時間365日、常に考えていますよ。詳しくは言えませんが、30年後にダイソンがどうあるべきか、ビジョンも明確に持っています。それに向かって、ダイソンの企業文化は日々進化していくことになるでしょう。 技術の変化はかつてなく激しくなりました。昨日の成功体験が明日も役立つとは限らない時代です。過去の経験は価値になるどころか、むしろ障害となる可能性もある。ダイソンもこれまでの成功体験は捨て、未来に向けて変わり続ける必要があります。我々が新卒の学生を積極的に採用するのは、彼らが社会人として成功体験を積んでいないからです。こうした人材の重要性は、今後さらに高まっていくでしょう。
・これから参入するEVは比較的長い時間をかけて準備をしてきましたが、10年後、20年後は全く違うものを手掛けているかもしれません。私は元来、技術による既存業界の破壊(disruption)が好きなのです。それ自体は不安定ですが、その先には常に新しい機会が広がっているのですから。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/special/010900888/?ST=pc(このリンクにアクセスするには、日経ビジネスオンラインでのポイントが必要)

第三に、1月17日付け日経ビジネスオンライン「全固体電池の菅野教授が語る、EVはこう進化する 次世代電池の“本命”はリチウムイオン電池の限界を超えるか」を紹介しよう(▽は小見出し、――は聞き手の質問、+は回答内の段落)。
・英ダイソンのEV(電気自動車)参入表明で注目を集めるのが「全固体電池」だ。現在主流のリチウムイオン電池が抱える走行距離などの限界を突破する電池として期待されている。ダイソンのみならず、トヨタ自動車など多くの会社が開発に力を注ぎ始めている。第一人者、東京工業大学の菅野了次教授に、全固体電池がEVを変える可能性について聞いた。
――全固体電池は、現在主流のリチウムイオン電池と比べて、どんな点が優れているのでしょうか。
・菅野了次・東京工業大学物質理工学院副学院長・教授(以下、菅野氏):まず、今のリチウムイオン電池というのはすごくいい電池です。鉛蓄電池やニッケルカドミウム電池などに比べてはるかにエネルギー密度が高く、充放電の特性も素晴らしい。これよりもいい電池を作るというのは、なかなか難しい。
+この素晴らしいリチウムイオン電池の電解液を固体にしたらどうなるか、というのが、そもそもの全固体電池の発想です。まだ実用段階の製品としては世の中に出てきてはいませんが、電解液を固体にした際に発揮されるであろう、優れた特性が明らかになるにつれて注目が高まってきました。
+例えば、現在のリチウムイオン電池は、電解液を充てんした独立したセル(電池の構成単位、単電池)を直列につないで使用します。一方、電解質を固体にすると、正極と固体電解質、負極を重ねて1枚のシート状にして、そのシートを順番に積み上げていくことでパッケージにできます。液体を使わないために構造が簡単になり、容量を上げやすくなるだろうと期待されています。
▽出力を大きくできるのが最大の利点
――全固体電池の開発が加速しているのは、菅野先生などが新しい物質を発見したからと言われていますね。
・菅野氏:電解質の中でイオンが活発に動くほど、電池の出力は大きくできるのですが、かつては、固体の中をリチウムのイオンが動くという現象を起こさせること、そのものが難しいとされていました。しかし、我々(東工大とトヨタ自動車)は2011年に、固体の中でもイオンがよく動く材料を見つけました。
+電解液を使う今の電池の欠点は、大電流を流すと電解質の中をイオンが動きにくくなるということです。それを、大変高度に設計することで、大きなパワーを取れる電池に仕上げているのが現状です。 一方、我々はさらに16年に、固体材料に塩素を添加するとイオンがさらによく動くことを発見しました。イオンの動きが速いと出力を大きくできると先ほどお話ししましたが、(これによって従来のリチウムイオン電池よりも)全固体電池の出力を大きくできる可能性が出てきました。それが、全固体電池の最大のメリットとして、注目されている理由だと思います。
――リチウムイオン電池を使う今のEVは、充電に時間がかかることも欠点の1つだと言われています。全固体電池を使うと、充電速度も速くなるのでしょうか。
・菅野氏:電流をたくさん取れるようになると、充電も速くなると期待できます。ただし、電池自体の電圧の限界といった問題もありますので、電流がたくさん取れるということがすなわち、充電が速くできるというわけではありません。それでも、工夫次第で速くなる可能性はあると考えています。
▽心臓のペースメーカーに使われるほど信頼性が高い
――現在のリチウムイオン電池は、自動車事故などの際に爆発したり、炎上したりすることが懸念されています。全固体電池になると、安全性は増しますか。
・菅野氏:固体材料の場合、液体が蒸発して引火することはないので、液体の電池より燃えにくいと言っていいと思います。 実は、これまで全固体電池は、固体の中でイオンが動くことが難しいために、大きな電流が取れず用途が非常に限定されていました。その1つが、心臓のペースメーカーです。微弱の電流でも十分だからですが、心臓のペースメーカーに利用されていたのは、信頼性が高いからです。
・ただし、我々が今開発している材料は、多少空気中で分解しても、とにかくイオンが動くことを重視していますので、実際の電池に使ったときの安全性は、大きな電池にしてみなければ分からないところはあります。
▽全固体電池でクルマの設計の自由度が増す
――そもそも、全固体電池の用途として、なぜEVが有望視されているのでしょうか。
・菅野氏:これまでの全固体電池は、実用化されたのが心臓のペースメーカーくらいで、ほとんど電池として認められていなかったような状況でした。信頼性はあるけれど、パワーは取れない。「使い道はあるのか」と問われれば、「ない」と答えるしかありませんでした。
+しかも、リチウムイオン電池という非常に優れた電池があり、それを全固体電池に置き換える必要はないと考えられてきました。 実際、電池という分野はこれまで、既存の電池を新たな電池が置き換えたという事例はないんですよね。新しい電池が登場した時には、必ずと言ってよいほど、その電池を必要とする新たな用途、新たな製品が世の中に誕生しています。例えば、リチウムイオン電池が登場したのは、ノートパソコンや携帯電話が誕生したのと、ちょうどタイミングが一緒でした。
+だから、もし全固体電池がうまい成長ストーリーを描けるとするならば、やはり新たな用途や製品に使われるということだと思います。
――全固体電池によって、クルマ全体の設計の自由度は増すでしょうか。
・菅野氏:例えば、固体電解質は100℃でもマイナス30℃でも動くので、リチウムイオン電池に比べて、(安定して動く)温度範囲が広がります。つまり、それほど厳しい温度管理をしなくても良くなるという点で、設計の自由度は増す可能性があります。リチウムイオン電池は60℃以上になると劣化が進むので、現在のEVは冷却装置などで温度管理をきちんとする必要があります。
+もちろん、容量の大きな電池にした場合に、様々なややこしい問題が出てくるかもしれません。それでも、固体電解質は低温から高温までたぶん大丈夫なので、設計の自由度が増す可能性はあると思います。
――英ダイソンは全固体電池のベンチャーを買収し、開発を加速しています。ダイソンがどのような電池を出してくるか、研究者の間で噂になっていませんか。
・菅野氏:全然分かりません。あまり情報は聞こえてきませんね。
――やはり、先頭を走っているのはトヨタですか。
・菅野氏:トヨタでしょうね。
――菅野先生などの基礎研究のおかげで、素材開発は進んできました。一方、製品化に向けた各社の生産プロセスの開発はどんな状況と見ていますか。
・菅野氏:電池が実用化されるまでには、我々のような基礎研究から応用研究、そして実際のデバイスの生産というように、それぞれの段階でギャップがあります。メーカーが実際のデバイスとして製品化するのが一番の課題ですが、いつまでに製品化するという宣言もしているところを見ると、それは多分、乗り越えたんだろうなと思います。
+。競争はなかなか激しいですよ。固体電解質の素材は日本よりも海外で研究が活発ですね。例えば、中国やドイツ。米国も、我々が発表したすぐ後に、コンピューターで材料の組み合わせを計算する計算科学という手法で、実際のモノを作らずに知財だけを先に押えてしまうといったことまでやっています
――全固体電池を使えば、EVの走行距離がガソリン車を超えてしまうということも起こり得るのでしょうか。
・菅野氏:全固体電池がEVでどういう使われ方をするのか、あまり分からないですけれども、(電池の)パッケージを小型化できたり、エネルギー密度を上げられたり、長く走れたりといったメリットは、多分あると思います。 可能ならば、やはり充電速度を上げたいですけれども、たぶんそれは次のステップでしょうね。  クルマが道を走ったら充電できたりとか、ボタンを押したらクルマが迎えに来たりとか、そういう将来が見えてきていますよね。全固体電池によって電池の実力がもっと上がれば、そういった未来もたぶん一気に近づくでしょう。
――全固体電池が、EVのあり方を変えるということですか。
・菅野氏:今はまさに、全固体電池がものになるかどうかという瀬戸際のようなところでもあります。これまでの電池とはそもそもの発想が違うので、うまくいくならば、たぶん行き着く先も違うものになるだろうと期待しています。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/011100194/011100003/?P=1

第一の記事で、 『これまで、多数の部品を微妙に“すりあわせ”しながら組み立てる技術で優位性を保ってきた、日本の自動車メーカーにとって、これまでと違った競争を強いられることが想定される。少数のユニット型部品を合わせるだけで完成品ができるデジタル家電の二の舞になることも懸念される。“日の丸”自動車メーカーにとって、EVは一種の鬼門になるかもしれない』、というので、改めて深刻さを再認識させられた。 『異業態の新規参入とこれまでと違った競争の激化』、 『重要なことは、製品の設計やコンセプトを“オープン(公開)”かつ“コモン(共通)”にすることだ』、などはその通りなのかも知れない。
第二の記事で、 『EVを手掛けるのか。皆さんには多少の驚きを与えたかもしれませんが、決して思い付きで始めたわけではありません。むしろ長い間、考え続けてきた構想』、 事実、ダイソン氏が、創業前の1990からサイクロンフィルターを開発していたというのは、初耳だが、なるほどと納得した。 『コモディティーかどうかを決めるのは、むしろ、開発した側の情熱や思いがどれだけ注がれているかによります』、というのは、興味深い指摘だ。 『「デザイン」が革新を生む』、というのも、あのユニークなデザインを考えると説得的だ。 『我々が新卒の学生を積極的に採用するのは、彼らが社会人として成功体験を積んでいないからです。こうした人材の重要性は、今後さらに高まっていくでしょう』、との考え方もユニークだ。やはりダイソン氏は、イノベーションのスーパースターだ。
第三の記事では、全固体電池の開発がどんな段階にあるか、についてはハッキリしてないが、完成すれば素晴らしいものらしい。 『固体電解質の素材は日本よりも海外で研究が活発ですね。例えば、中国やドイツ。米国も、我々が発表したすぐ後に、コンピューターで材料の組み合わせを計算する計算科学という手法で、実際のモノを作らずに知財だけを先に押えてしまうといったことまでやっています』、とは驚きだ。計算科学で特許を取ってしまうとは、時代もずいぶん進んだものだ。いずれにしろ、全固体電池が実用化されると、我々の生活もますます便利になりそうだ。
タグ:電気自動車 日経ビジネスオンライン ダイヤモンド・オンライン 真壁昭夫 全固体電池 (EV) )(その3)(中国発のEV化で日本の自動車産業は電機の二の舞にならないか、クルマは人命を奪ってきた 我々のEVが常識を“破壊”する 独白ジェームズ・ダイソン、全固体電池の菅野教授が語る EVはこう進化する 次世代電池の“本命”はリチウムイオン電池の限界を超えるか) 「中国発のEV化で日本の自動車産業は電機の二の舞にならないか」 、EVに使われる部品数は少ない。部品点数が減ると、自動車メーカーの競争力を支えてきた技術力が差別化の要因とはなりづらくなる これまで、多数の部品を微妙に“すりあわせ”しながら組み立てる技術で優位性を保ってきた、日本の自動車メーカーにとって、これまでと違った競争を強いられることが想定される 少数のユニット型部品を合わせるだけで完成品ができるデジタル家電の二の舞になることも懸念される。“日の丸”自動車メーカーにとって、EVは一種の鬼門になるかもしれない EVが主流になることで“すりあわせ”からユニット部品の組み立てへ 自動車の生産は、“部品のすりあわせ”から、フレーム、バッテリーなどの“ユニット(部品の集合体)の組み立て”にシフトする可能性が高い 、部品ごとのバランスなどを調整し、付加価値を生み出すという既存の自動車メーカーが担ってきた役割は、さまざまな業界に溶け出していく可能性が高まっている 異業態の新規参入とこれまでと違った競争の激化 自動車の運転が自動化されるだけでなく、移動や物流などの仕組みも大きく変わるだろう 重要性高まる、EV化の先を見据えた経営戦略 現時点でわが国の行政と自動車業界は、EV化に出遅れている 重要なことは、製品の設計やコンセプトを“オープン(公開)”かつ“コモン(共通)”にすることだ 日経ビジネスデジタル 「クルマは人命を奪ってきた 我々のEVが常識を“破壊”する 独白ジェームズ・ダイソン」 創業者、ジェームズ・ダイソン 決して思い付きで始めたわけではありません。むしろ長い間、考え続けてきた構想でした ダイソンがEVを開発する理由。一言で言えば、世界で広がる環境汚染に対して行動を起こしたいという切実な思いです。とりわけ自動車の排気ガスによる大気汚染は深刻です。この惨状を変えたい この問題には30年近く取り組んできました。1990年、まだダイソンを創業する前ですが、自動車の排気システムに取り付ける、粒子状物質を捕集するサイクロンフィルターの開発に着手 EUとしてクリーンディーゼルの普及に力を入れると。英国もEUの考えをそのまま取り入れ、ディーゼルエンジンは環境に優しいものとのイメージが広がりました。さすがに、プロジェクトを中断せざるを得ないという結論に至りました 今のダイソンには当時のフィルター開発とは別の方法でこの問題に対処する技術があります。長年開発を続けてきたモーターと電池、そしてAI(人工知能)などのソフトウエア。(15年に米スタートアップを買収して手に入れた)全固体電池は誰もが開発したがっている技術です。ファンヒーターや空気清浄機能などの空調家電で培ったノウハウなども組み合わせれば、ダイソン流のアプローチで大気汚染問題に立ち向かえます。それが、ダイソンがEVに乗り出す理由です。 20年までにモーターと電池という我々のコア技術を活用したEVを開発し、21年から量産を始めます。投資額も現在表明している20億ポンド(約3000億円)で足ります ・ダイソンはもはや家電メーカーではなく、テクノロジー企業です デザイン」が革新を生む コモディティーかどうかを決めるのは、むしろ、開発した側の情熱や思いがどれだけ注がれているかによります 我々が「デザイン」という概念を一般よりも、より包含的に捉えているからです。デザインとは、単に製品の見た目を指すだけではありません。製品がどう機能するかであり、使われ方を徹底的に考え抜く行為も含みます。突き詰めれば、製品によって消費者が抱える課題や不満をどう解消するかを考えることなのです これを実践するには、デザインとエンジニアリングは分けない方がいい。ダイソンのエンジニアは全員、デザイナーでもあります 製品とは、機能とデザインが密接に関わり合いながら生まれていくとの哲学 エンジニアである私が会社を率いている 破壊の先に未来がある 「全固体電池の菅野教授が語る、EVはこう進化する 次世代電池の“本命”はリチウムイオン電池の限界を超えるか」 東京工業大学の菅野了次教授 電解液を固体にした際に発揮されるであろう、優れた特性が明らかになるにつれて注目 液体を使わないために構造が簡単になり、容量を上げやすくなるだろうと期待されています 出力を大きくできるのが最大の利点 充電も速くなると期待できます 液体の電池より燃えにくい 全固体電池でクルマの設計の自由度が増す 固体電解質の素材は日本よりも海外で研究が活発ですね。例えば、中国やドイツ。米国も、我々が発表したすぐ後に、コンピューターで材料の組み合わせを計算する計算科学という手法で、実際のモノを作らずに知財だけを先に押えてしまうといったことまでやっています
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北朝鮮問題(その14)(高度上空の核爆発で起きる「電気がない世界」の恐怖、米朝開戦の瀬戸際で、32ヵ国の陸軍トップを前に僕が話したこと、米韓が先制攻撃なら北朝鮮は1日で壊滅も 「軍事マニュアル」判明) [世界情勢]

北朝鮮問題については、昨年11月27日に取上げた。今日は、(その14)(高度上空の核爆発で起きる「電気がない世界」の恐怖、米朝開戦の瀬戸際で、32ヵ国の陸軍トップを前に僕が話したこと、米韓が先制攻撃なら北朝鮮は1日で壊滅も 「軍事マニュアル」判明)である。

先ずは、読売新聞調査研究本部主任研究員 永田和男氏が昨年5月24日付け読売新聞に掲載した「高度上空の核爆発で起きる「電気がない世界」の恐怖」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・北朝鮮の核・ミサイル開発に懸念が高まっている。核兵器の恐ろしさとは何だろうか。熱線と爆風による大規模な殺傷と破壊、そして放射能汚染はもちろん深刻な脅威だ。しかし、はるか上空の核爆発で地上に起きる「電気がない世界」の恐怖は想像できるだろうか。一時的な停電ではなく、国の電力網全体が破壊されて何年も復旧しなくなるような事態だ。読売新聞調査研究本部の永田和男主任研究員が解説する。
▽電磁パルス攻撃は「現実の脅威」
・「一発の核爆弾が我が国上空のはるかな高さで爆発することで、電力供給網と死活的に重要なインフラが崩壊し、何百万もの生命が危険にさらされる。北朝鮮が核弾頭搭載可能なミサイルを持ち、イランも保有に近づく現状を見れば、電磁パルス攻撃は理論上の懸念ではなく、現実の脅威である」――。 昨年7月、ドナルド・トランプ氏を大統領候補に正式指名した米共和党大会で採択された綱領に、こんな一項が盛り込まれていた。
・電磁パルスは、一定の高度で核爆発が起きた時に起きる電磁波のことだ。核爆発により放出されるガンマ線が空気分子と衝突することで発生する。電磁パルスが地磁気に引き寄せられて地上に向かう時に大電流となり、電子機器や送電線などに入り込んで破壊してしまうのだ。
・2004年に米議会に提出された専門家委員会の報告書「電磁パルス攻撃の合衆国への脅威評価」によると、電磁パルスは核爆発が地上40~400キロ・メートルの高さ(30~500キロ・メートルという説もある)で起きる時に最も発生しやすい。大気が適度に希薄なためにガンマ線が爆発地点から遠方まで拡散するためだという。爆発地点が米国中部の上空高度400キロ・メートルなら、地上の影響範囲は全米をすっぽり覆う半径2200キロ・メートルに達するという試算もある。
▽発電施設、スマホ、パソコンを次々に破壊
・10キロ・トン程度の核弾頭(広島に投下された原爆は15キロ・トン)が大気の希薄な高度上空で爆発しても爆風はほとんど起きず、熱風や放射能の影響も地表には届かないとされる。したがって、爆発の時点では死傷者も建造物の破壊も発生しないが、その間に電磁パルスによる大電流が送電線などに入り込み、ネットワークで結ばれた発電や変電施設は次々に焼け落ちた状態になる。スマートフォンやパソコンなどの電子機器部品にも大電流が入り込み、破壊されてしまう。
・実は、こうした現象は第2次世界大戦中の核開発初期段階から、開発に携わった物理学者らの間で予想されていた。1962年に米国が北太平洋上空400キロ・メートルで行った核実験では、実験場から1300キロ・メートル以上離れたハワイ・オアフ島で停電が発生した。この実験が米本土上空で行われていたら、全米規模の電力喪失事態が起きていただろうと指摘する物理学者もいる。ただ、翌63年に大気圏内、宇宙空間での核実験を禁止した部分的核実験禁止条約が発効したこともあり、その後、これほどの高度での核爆発実験は行われていない。
・冷戦終結で、米ソなど超大国による核戦争は遠のいたが、最近は、国際条約を顧みない北朝鮮などの「ならず者国家」やテロ組織が核を使用する懸念が着実に高まる。一方で、電力と電子機器への依存度は60年代当時とは比較にならないほど増大している。2001年の同時テロや03年のニューヨーク大停電を経験した米国では特に、電磁パルス攻撃で起きる国家規模での電力喪失事態への懸念が広まっていると言える。
▽電力システム崩壊なら「1年後に9割死亡」
・では、国全体で長期間、電力がまったく使えなくなると、どのようなことが起きるのだろうか。そのイメージをつかむのに、今年2月公開の日本映画「サバイバルファミリー」(矢口史靖監督)が参考になる。平凡な一家の視点から、現代人の生活がどれほど電力に依存し、それがないと、どんなことが起きるかがわかりやすく描かれていた。
・普段と変わらないある日、原因もわからず電気が止まる。目覚まし時計もスマホもテレビも、冷蔵庫もガスコンロも水道も使えない。今何時かもわからないまま外へ出ると、エレベーターも信号機も自動車も電車も、何もかも止まっている。現金自動預け払い機(ATM)は作動せず、預金データも消えてしまっている。食料や水、日用品は次第に尽きていく――。  ただ、この作品では人の死や暴力的な場面はほとんど登場せず、最後には再生に向けたハッピーエンドも用意されている。
・一方、米国では近年、電磁パルス攻撃で起きる「電気のない世界」をテーマとした近未来小説が続々発表され、一つのジャンルを形成している。飢餓や疫病、略奪の横行など社会秩序崩壊をこれでもか、とばかりに描いた作品がほとんどだ。 
・先に挙げた04年の議会報告書は、全米規模の電力システム崩壊があった場合、復旧には数年を要し、食料や燃料、医薬品などあらゆる物資の欠乏と衛生確保が困難になることから飢餓と疫病は免れず、人口3億人余りの米国で「1年後には90%が死亡している」と予測している。 ニューヨークなど大都市で上下水道がまったく使えなくなり、食料がどこからも輸送されてこない状態を考えただけでも、生き残りが容易ではないことは想像に難くない。電磁パルス攻撃を扱う近未来小説も、この報告書の見通しを参考にしているものが多い。
▽電磁パルス攻撃扱う小説、ベストセラーに
・代表的なのが、08年発表の第1作以来ベストセラーとなり、今年完結した作家ウィリアム・フォースチェン氏の3部作(いずれも邦訳なし)だ。1作目『ワン・セカンド・アフター(1秒後)』では、米国全土で一瞬にして電力が失われ、正に1秒前まで電力を当たり前のように享受していた人々は途方に暮れる。未曽有の惨状の一部を紹介しよう。
・自動車は電気系統を破壊され、高速道路上で立ち往生し、飛行中の旅客機は制御機能を失い、次々に墜落する。専用機エアフォースワンで移動中の大統領も犠牲となった。体内に埋め込んだ心臓ペースメーカーが動かなくなったお年寄りがうめき出し、倒れていく。病院では非常用電源も尽きると、あらゆる設備が使えなくなり、普段ならわけなく救えるはずの患者たちを前に医師たちもなすすべがない。商店では、残り少なくなる食料や物資の略奪が始まる。
・元軍人の主人公は、糖尿病の持病を持つ娘のインスリン確保に奔走しながら、この事態は何者かの電磁パルス攻撃が原因と推測し、政府が何ら対策を講じてこなかったことを嘆く。主人公と町の人々は、食料強奪を狙う暴徒集団の襲撃を受け、多くの犠牲者を出しながら撃退する。しかし、娘は、インスリンの補給が絶えて命を落とす。主人公が、妊娠したもう一人の娘に、必要な栄養を与えるため、泣く泣く愛犬の首に手をかける壮絶な場面も登場する。
・1年後、海外駐留から引き揚げて復興支援にあたる軍隊が、わずかばかりの物資とともに町に到着。主人公たちは、事態がやはり、テロ組織のミサイルによる電磁パルス攻撃が引き起こしたものだったことを知る。大統領を失った政府は首都ワシントンを放棄して地下都市に逃れ、テロ組織の背後に北朝鮮とイランがいたと断定して残存核兵器で両国を報復攻撃する。だが、電磁パルス攻撃は欧州とアジアでも同時に起きていたため、ロシアを含む大部分の欧州諸国と日本、台湾、韓国も崩壊。被害を免れていた中国が唯一の超大国となり、復興の名目で米西海岸に軍を駐留させ、事実上の占領を始める――まさに戦慄の筋書きだ。
・2作目『ワン・イヤー・アフター(1年後)』、3作目『ファイナル・デイ(最後の日)』では、米国再生を願う主人公と軍の元同僚らの奮闘と、超大国・米国が事実上消えてしまったことで起きる世界の混乱が描かれる。ささやかなハッピーエンドはあるが、そこに至るまでの描写は壮絶だ。 1作目にはトランプ大統領の有力支持者でもあるニュート・ギングリッチ元下院議長が巻頭文を寄せ、電磁パルス攻撃は政府機関や専門家の研究の裏付けがある「本物の脅威だ」と強調。「攻撃後、最初の1週間で数百万人が命を落とすことになる」と警告している。
▽北朝鮮も「電磁パルス攻撃」を想定か
・核とミサイルの開発を続ける北朝鮮は、米国に到達する大陸間弾道弾(ICBM)の取得を視野に置いているとみられ、米国も深刻な脅威と受け止めている。ただ、共和党綱領でも核兵器を電磁パルス攻撃に使うとの懸念を指摘されていた北朝鮮は、既にミサイルを地上40~400キロ・メートルに打ち上げる技術は備えている。5月14日に打ち上げた中長距離弾道ミサイルの高度も2000キロ以上に達したとみられている。弾頭を小型化してミサイルに搭載する技術もすでに習得しているとの見方もある。電磁パルス攻撃は、核保有国の中国、ロシア、そして米国も冷戦期以来研究を続けているとされる。北朝鮮も、電磁パルス攻撃という核の使い方を認識していると考える方が現実的だろう。
・むしろ、保有する核弾頭の数が限られている国や独自には核開発能力を持たないテロ組織にとって、小型核一発でも相手国に致命的打撃を与える可能性がある電磁パルス攻撃は、効果的な攻撃方法の一つとみることもできる。
・軍事専門家によると、テロ組織が核弾頭を上空に打ち上げようとする場合、貨物船舶で標的とする国の沿岸に接近し、船内に隠し持つ発射装置を使うやり方などが考えられる。観測用気球で弾頭を上空40キロ・メートル程度まで運び、遠隔装置で起爆することも可能だと指摘する専門家もいる。
・米議会では、電磁パルス攻撃を想定した重要インフラ防護に関する法案が15年に下院に提出されたが、まだ成立をみていない。昨年の共和党綱領はこの法案の早期成立を訴えるとともに、連邦政府と各州政府に対しても重要インフラ施設の保護に乗り出すよう求めている。トランプ大統領は就任前、「サイバーその他の手段による攻撃から死活的に重要な社会インフラを守る」と語ったことがある。インフラ投資や国防関連予算の増額に強い関心を示すトランプ氏が今後、電磁パルス攻撃を念頭に置く施策を打ち出すかどうか注目される。
・日本でも、電磁パルス攻撃への対策を訴えた研究機関による提言がある。一般社団法人「日本戦略研究フォーラム」が昨年発表した「高高度電磁パルス攻撃によるインフラ破壊の脅威への対処」は、電磁パルス攻撃を「大震災をはるかに超える広範囲の社会インフラ等の破壊をもたらす新たな緊急事態」として認識することを国民に警告した。その上で、(1)核兵器の全廃と拡散防止を目指す外交的取り組み(2)各国間のテロ組織などの情報共有や、攻撃が起きた際の相互態勢作り(3)国内インフラの防護体制構築――の3点を対策として提示した。
▽電磁パルス現象は「太陽嵐」でも発生
・実は、電磁パルス現象は核爆発だけでなく、太陽表面の巨大爆発で起きる磁気嵐(太陽嵐)が地球を直撃した場合にも発生する。観測史上最大の1859年の磁気嵐直撃では、普及し始めていた電信機器などに深刻な被害が及んだ。近年も、1989年にカナダで磁気嵐によるとみられる停電が起き、2012年にもかなりの規模の太陽嵐が地球近くを通過していたことが米航空宇宙局(NASA)の観測でわかっている。この時直撃していれば、人類存続に関わる危機になっていた可能性も取り沙汰されている。
・日本戦略研究フォーラムの提言は、核による電磁パルス攻撃への備えは、近い将来再び起こる可能性が高い太陽嵐直撃への備えにもなると強調する。研究グループ代表を務めた鬼塚隆志氏(元陸上自衛隊化学学校長)は、「コンピューターやインターネットの長所を追い求めるだけでなく、負の面にも気づくべきだ」と指摘。電子機器依存の高まる現代社会で突然電力が失われた時に起こる事態を想定しておくことは、国土強靱化を語る上で、ぜひ必要な視点だと力説する。鬼塚氏は、電磁パルス攻撃からの防護を国土全体の社会インフラに対して施すのは困難でも、一部の地域で発電、送電施設を電磁パルスの影響が及ばない地下に埋設したり、パソコンなどの電子機器に十分な防護を施したりしておくことも提唱する。拠点的な都市や地区だけでも電力が生きていれば、全土の復旧に向けた足がかりになるはずだ。
・「電気のない世界」という一見、絵空事のような事態が実は十分に起こり得るのだと認識し、それが起きた時、どのような影響が市民生活と社会全体に及ぶのかを産官学一体で協議してみることが、有効な対策の出発点だろう。核弾頭やミサイルを使う電磁パルス攻撃という人為的脅威を踏まえて、国際社会がテロとの戦いや核拡散防止体制を講じる中で、「電気のない世界」をもっと深刻な問題として話し合うべきではないだろうか。
http://www.yomiuri.co.jp/fukayomi/ichiran/20170523-OYT8T50051.html

次に、東京外国語大学教授で紛争屋の伊勢崎 賢治氏が12月31日付け現代ビジネスに寄稿した「米朝開戦の瀬戸際で、32ヵ国の陸軍トップを前に僕が話したこと 日本メディアの喧騒から遠く離れて」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽アメリカ陸軍から届いた講演依頼
・アメリカは一枚岩ではない。 それは、小泉政権の時に日本政府代表として、アメリカがタリバン政権を倒した後のアフガニスタンの占領統治に参加し「武装解除」を担当した時に強く感じたことだ。 現場では、国防総省、国務省、そしてCIAの“協働”は最大の課題であったし、せっかく協働できても、ホワイトハウスの突然の意向(つまりアメリカ自身の選挙戦の都合)に翻弄されたり。
・そのアメリカから2017年9月末、北朝鮮開戦が心配されていた最中、僕に依頼が来た。国防総省。その中でも「アメリカ陸軍」である。 アメリカ陸軍は、2年に一度、太平洋地域諸国の陸軍の参謀総長を集め信頼醸成を行なっている。PACC : Pacific Armies Chiefs Conferenceである。その第10回目が韓国ソウルで開催されることになり、アメリカ陸軍太平洋総司令官ロバート・ブラウン大将からの招聘である。
・太平洋地域オーストラリア、ニュージーランド、インドネシア、フィリピンはもちろんのこと、イギリス、フランス、インド、そして特記すべきは中国を含む、全32ヵ国の陸軍のトップだけが参加する。日本からは、陸上自衛隊幕僚長が出席した。
・会議のテーマは、Unity in effort(共に闘う): Building Civil-Military Partnerships in Land Force Response to Non-traditional Securit y Threats (非通常戦脅威に対する陸軍戦略における軍民連携)。
・僕は講演者として招かれ、講演内容は在日米軍司令部と韓国の安全保障専門のシンクタンクが僕と調整した。 講演テーマは、僕がアメリカのアフガニスタン戦や国連PKOの現場で経験した国際部隊による「占領統治」と敵対行為が進行中の国家建設、ということで落ち着いた。
▽本当の戦争は敵政権を倒した後に始まる
・戦争は敵政権を倒しただけでは終わりではない。それからが本当の戦争なのだ。 特に厄介なのは、敵政権とその指揮命令系統を、講和なしに完全に軍事的に破壊させてしまった場合だ。 政権崩壊を受け入れないもの、政権時の圧政の復讐を恐れるもの、占領統治が始まってもそれ失望し不満を募らせ暴力的抵抗に訴えるもの。非通常戦脅威、インサージェント(insurgent)など、色々な言葉で言い表される非対称な脅威との戦争が始まる。
・現代の戦争とはここに勝利することを言うのだ。敗戦を受け入れ整然と自らを武装解除し統治された日本人には、安保・軍事専門家を名乗る者たちにも、感覚的に、ここが、判らない。 僕に課せられたテーマは、戦争の勝ち方、つまり、占領統治の困難と教訓である。アメリカは、日本以外で、ことごとく、これに失敗している。
・近年のアフガニスタン、イラクにて、米軍が苦悩を重ねてきた占領統治、すなわち軍政において、民政との協働、とりわけ、「ソフトパワー」の戦略的重要性が認識されて久しい。 敵国政権を倒しただけでは戦争は到底完了しないことを、いやそれ如何によっては、開戦自体が失策であると米国民に思わせてしまうことをアメリカ軍は経験している。
・2006年に、アフガニスタン、イラクでの占領統治の教訓から米陸軍ペトレイアス将軍によって20年ぶりに書き換えられた米陸軍・海兵隊の Counter-Insurgency: COINドクトリンに代表されるように、それを失策にさせない努力は試行錯誤されている。 その一環として占領統治を「国際化」、つまり米軍単独ではなく、多国籍軍としてそれを行う試みは当然の帰着であるように思える。アメリカへの悪意を国際化によって中和させるために。
・それが Unity in effort であり、それを醸し出すべきなのがソフトパワーであるが、これは単に駐留軍が”やさしく”振舞うことではない。 屈強な兵士がチョコレートを配ったって、民衆は、それを、見透かす。当時のイラクやアフガニスタンで米軍の日々のスローガンになったように、ソフトパワーとは民衆のココロをつかむ人心掌握。戦争を民衆”で”勝つ Winning the People であり、具体的には、優良な「傀儡政権」をつくる以外の何物でもない。
・それを通して民衆を把握すること。これが占領統治の極意であることを、アメリカ、そして同盟国NATO諸国によるCOINは経験値としている。
▽なぜ傀儡政権づくりに失敗するか
・一方で、COINがドクトリン化されて久しい今でも、COINは未だに、全く、成功していないこと、いや、その兆しさえないことも、COINの実務家たちは、共通認識としているのだ。 なぜ傀儡政権づくりに失敗するか。  相手のあることだから、それも独立した「主権」を扱うことだから、不確定要素が支配するのはわかる。 しかし、その不確定要素を失敗の直接要因にさせない最大限の工夫と努力は、確定的な戦略として協議されてしかるべきであり、ここに、この会議に僕が呼ばれた理由がある。
▽軍事占領は時間がかかる。
・本来インサージェントへの作戦は、その当事者国領域の局地的なものだが、日本の戦後統治開始直後に始まった冷戦のように、領域を超える新たな脅威の展開がしばしば起こり、駐留継続の必要性が生まれる。 それは現代においても同じで、局地的な脅威であったアフガニスタンのタリバンは「レジェンド化」し、共謀者アルカイダを経て国外に分散し、IS、その他のグループのように止めどもなくアメリカへの脅威として増殖してゆく。
・それは回り回ってアフガニスタンにも帰還し、現地の紛争構造(例えばタリバン vs ISのように)を複雑化させ、ついに米建国史上最長の戦争となり今日に至る。 駐留の長期化の一方で、傀儡政権の「主権度」はどんどん増してゆく。なのに人心掌握に負けるのはなぜか。敵のそれが上回るのはなぜか。 なぜ民衆は我々を、我々が作る傀儡政権を嫌うのか。そして、民衆の嫌悪に慄いた傀儡政権自身までもが、我々に敵意を向け始めるのはなぜか。
▽失敗を最小限にするための戦略
・最悪の例は、アフガニスタンのタリバン政権打倒後、最良の傀儡とアメリカが見込んだカルザイ大統領(当時)だ。その政権末期には、反米キャンペーンの急先鋒となり、政権の保身に走ったのだ。
・それでも、こんな針の筵のなかでも、我々は、アメリカは、NATOは、そしてその戦略であるCOINは、この道を進むしかない。 なぜなら、国際部隊が主力戦力として圧倒し、インサージェントに軍事的に勝利するのは、米・NATO関係者の中でも不可能であると認識されているからだ。
・僕の講演は、そうした針の筵の中で足掻くのが占領政策の現実だとしたら、失敗を最小限にするための戦略とは何か。国際部隊の統合司令部として、特に常に民衆の憎悪の引き金となる、駐留軍による過失・事故を包括する法体制とは何か。これを論じた。
・傀儡政権の「主権度」が時間とともに高まれば高まるほど、現地法と駐留軍の法の「競合」が、占領統治の死活問題になるからだ。これは「地位協定」の問題に集約されてゆく。 そういった駐留軍のあるべき法体制の議論は、未だ発展途上であり、多国籍の駐留軍の法体制も各国様々であるから、その統合も大きな課題である。 軍事組織として「法の空白」を抱える日本の自衛隊という問題もある(拙稿参照:南スーダン自衛隊撤退ではっきりした日本の安保の「超重大な欠陥」http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51311 )。
・果たして、国際社会に、以上のような試練と挑戦をクリアして、新たな占領をつくる余裕が、あるかどうか。これが僕の講演の問いかけであり、同時に米陸軍の依頼であった。
▽北朝鮮占領は国際社会のキャパを超えている
・この太平洋陸軍参謀総長会議は、チャッタムハウスルールで、誰が何を言ったかは口外しない紳士協定だから、内容を詳述できない。 しかし、僕の講演を受けてのフロアでの質疑応答、そして公式・非公式のクローズドな32ヵ国の陸軍トップとの交流で得られた知見として言えることは、以下のように要約される。
 +正規軍だけで200万を超すとも言われる北朝鮮軍が政権崩壊後、整然と武装解除するとは、特に先進国の米同盟国の陸軍参謀総長たちは、韓国陸軍の一部を除いて、誰も考えていない。
 +金正恩斬首作戦は、技術的な可能性はどうあれ、北朝鮮の指揮命令系統を崩壊させることは、占領統治の観点からは、見合わないリスクを伴う。
 +戦端が開かれたら短時間で首都ソウルを壊滅できると言われている国境線上に配備された北朝鮮の通常兵器への対応は「デジタル的」に可能とする一部の韓国軍幹部の発言には、米陸軍、その他先進同盟国の幹部からは困惑の表情が読み取れた。
 +政権崩壊後、アメリカ軍が北朝鮮に進駐することは、この会議に参加した中国にとって許せる事態か。  アメリカの仮想敵イランと接するアフガニスタンでタリバン政権崩壊後の占領統治の例があるので、「国際部隊」としての体裁と、意思疎通と、願わくば安保理決議があれば、なんとか乗り切れるのではないか(中国代表がそう明言したわけではなく、関心はもっぱら米軍による韓国のTHAAD配備であった)。
 +一般論として、混乱期の軍政に必要な兵力は人口1000人に対して20名のような計算値がある。それからすると当時のアフガニスタンでも兵力70万、イラクでは50万だが、あれほど同盟国に呼びかけ、安保理決議を引き出して全国連加盟国に呼びかけても、両者共にピーク時に20万以下。もちろん占領統治は失敗し続け現在に至る。 人口2500万の北朝鮮では50万以上の兵力が理論上必要となるが、アフガニスタン、イラクの経験からも、国際社会のキャパを超えている。 たとえこの兵力が投入されても成功の保証はないのだ。なぜならCOINの成功例として語られるインド、カシミールでのISを含む対イスラム過激派対策では、人口700万に対しインド軍75万の投入、つまり前述の計算値でいうと人口1000人に対して兵力100の投入を常態化して、やっと安定させているからである。
 +金正恩政権崩壊後の安定化に理論上必要な兵力においては、60万の正規兵力を誇る韓国軍が主力になることに、言語、文化の理解、そして兵力ローテーションのロジの面で圧倒的な優位性があるが、反面、近親憎悪による被支配感の倍増が占領統治の負荷になる可能性は看過できない。最大限の「国際化」を図ることは必要。
 +いずれにせよ、イラク、シリアに代表される中東情勢、北アフリカ、アフガニスタン、パキスタンからフィリッピン、ミンダナオまで、国際部隊のコミットが常態化している現在、北朝鮮占領は、国際社会のキャパを超えている。
▽緩衝国家・日本の命運
・以上、北朝鮮の”挑発“とトランプ大統領の好戦的な発言が続いていた中、日本社会メディアの喧騒が極致にあった時の「アメリカ」である。 なぜこの時期に? それもソウルで? アメリカ陸軍には二つの意思があったと思う。
・一つは、北朝鮮への最終的な示威行為。つまり、金正恩に対して、お前を倒した後のことも考えているぞ、という。それも、アメリカ統一司令の国際部隊で。 もう一つは、アメリカ陸軍だからこそ、である。空軍であれば爆弾を落として基地に帰ってくればいい。しかし占領統治で、非対称な敵と血みどろで戦わなければらないのは陸軍(含海兵隊)なのである。一行政組織として、大統領に占領統治のコストとリスクを勘案して戦争の政治決断をさせたい、という。
・どちらかは判らない。でも、どちらかだけではないと思う。 しかし、国名は明かせないが、アメリカの主力同盟国の陸軍参謀長数名の僕の講演への明確な反応は、後者を示唆するものであった。 日本は他のアメリカの同盟国にはない特性が、韓国と共にある。それは「緩衝国家」としてのそれである(拙稿参照:知らなければよかった「緩衝国家」日本の悲劇。主権がないなんて… http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53472 )。
・アメリカの開戦によって「本土」への被害を被る同盟国は韓国と日本だけである。その両者でも、直接の被害国は韓国であり、日本は少なくとも開戦の結果を見通す余裕が韓国よりあるはずだ。 繰り返す。アメリカは一枚岩ではない。どのアメリカを見るか。緩衝国家としての日本の命運がかかっている。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54018

第三に、週刊朝日の記事を1月13日付けダイヤモンド・オンラインが転載した「米韓が先制攻撃なら北朝鮮は1日で壊滅も、「軍事マニュアル」判明」を紹介しよう。
・2018年も北朝鮮の“挑発”は続きそうだが、米国が先制攻撃を仕掛けるケースを想定した“軍事マニュアル”の全容が韓国で明らかになった。  根拠となるのは、2017年12月4~8日に実施された米韓合同軍事演習「ビジラント・エース」だ。日本では戦闘機や偵察機など米韓両軍で230機が参加したと伝えられていたが、11月29日に北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)の「火星15」発射したことを受けて260機に増強され、史上最大規模の軍事訓練となった。
・韓国在住のジャーナリスト、裵淵弘(ベ・ヨンホン)氏がこう語る。 「詳細はこれまで明らかにされてこなかったのですが、訓練内容を分析した文書を見ると本当に実戦さながらです。米軍が本当に先制攻撃を仕掛けた場合、その攻撃力は想像を絶します。北朝鮮は報復攻撃さえできずに、早ければ1日で壊滅すると考えられます」
・これまで米国が北朝鮮に対して先制攻撃を実行した場合、全面戦争に発展するのは避けられず、北朝鮮の報復攻撃によって日米韓は甚大な被害を受けることが予想された。 特に非武装地帯(DMZ)の北方に配置された北朝鮮の多連装ロケット砲や長距離砲がいっせいに火を噴き、付近に展開している米陸軍第2歩兵師団が標的になるばかりか、ソウルが“火の海”に化す悲劇も現実味を帯びていた。
・過去、米国はクリントン政権時代の1994年に北朝鮮の核施設への空爆を検討したことがあった。北朝鮮は93年に核拡散防止条約(NPT)を脱退した後、核実験と弾道ミサイル「ノドン1号」の発射を強行していたからだ。だが、米国が空爆を実行すれば、朝鮮戦争の再開が危惧された。開戦から90日で米軍の死者5万2千人、韓国軍の死者49万人、韓国の民間人の死者は100万人以上に達するという衝撃のシミュレーション結果を、当時の在韓米軍司令官がホワイトハウスに報告し、攻撃を中止したという経緯があった。
・いま、ICBMの完成を目前にして、核弾頭の量産体制に入ったとも見られる北朝鮮の“脅威”は当時の比ではない。当然、米国本土も無傷では済まないはずだ。 ところが、この想定は米韓合同軍事演習「ビジラント・エース」によって覆されるかもしれないというのだ。米韓両軍が先制攻撃で遂行する作戦とは、一体いかなるものなのか。裵氏が説明する。
・「攻撃は段階的に行われますが、最初に出動するのは3機の電子戦機『EA‐18G』です。電波を発射して北朝鮮のレーダー網を完全に麻痺させ、さらに対レーダーミサイルで通信基地を破壊する攻撃機です。実際、訓練中にも北朝鮮のレーダー網を麻痺させてしまったようです。このため、北朝鮮は演習内容をまったく把握できなかったといいます」
・北朝鮮の通信網を無力化し、制空権を完全に奪ったところで、ステルス戦闘機のF35AやF22が出動。迎え撃つ北朝鮮の空軍を相手にすることもなく、ミサイル基地や生物兵器、大量破壊兵器関連施設など最優先のターゲットを次々と精密爆撃する。むろん、ソウルを照準にしたDMZ周辺の長距離砲陣地も完全に叩く。反撃能力を潰えさせた後、ステルス機能のないF-15、F-16戦闘機、B-1B爆撃機が残る主要軍事施設を思うがまま絨毯爆撃するという手順だ。
・開戦となれば、金正恩朝鮮労働党委員長は要塞化された地下作戦部に身を潜める。だが、通信衛星で金氏の動きは捕捉され、バンカーバスター(地中貫通爆弾)を搭載したF-35Aが“斬首作戦”を実行する。裵氏が続ける。 「さらに驚くのは、260機もの戦闘機の上空で早期警戒管制機『E-8ジョイント・スターズ』という航空機が展開することです。1度に600カ所の目標物をレーダーで探知し、優先順位を決めて、すべての戦闘機に攻撃の指揮、管制をする。おまえはこの基地を撃て、おまえはあそこを撃てというふうに、設定された軍事目標を一気呵成にしらみ潰しにしていくのです。その指示作業を確認する訓練も行われました。もはや、作戦は完璧に組み立てられています。もちろん、撃ち漏らしはあるでしょうが、開戦となれば、これまで考えられていたような反撃能力が北朝鮮に残っているとは思えないのです」
・仮に、北朝鮮が同時多発的な攻撃を企てたとしても、ほとんどのミサイルが液体燃料のため注入に1~2日かかる。その動向がキャッチされると戦争準備と認められ、米国にとってみれば先制攻撃の口実になる。だが、現実的には、米軍によるこの空前絶後の作戦も封印されることになる。
・「いざとなれば、これほど大規模な攻撃を実行できるということを見せつけたのです。圧倒的な軍事力の差で北朝鮮を委縮させ、経済制裁に消極的な中国を圧迫する効果を狙っています。しかし、北朝鮮が先に奇襲攻撃を仕掛けてこない限りは、この作戦は実行されません。金正恩氏もそのことを十分承知しているから、制裁で追い詰められても体制維持のため、今年もレッドラインを超えないぎりぎりの“挑発”をくり返すでしょう」
・(裵氏) 北朝鮮の狙いは、抑止力を極限まで高めて米国との直接交渉のカードを引き出し、核保有国として認めさせることだろう。 一方で経済制裁が、北朝鮮を確実に追い詰めている。はたして金正恩体制崩壊への導火線となるのか。12月22日には、国連安全保障理事会が北朝鮮に対し、10回目の制裁決議を採択した。ガソリンや軽油など石油精製品の輸出を9割削減するという厳しい措置が取られる。北朝鮮は「わが国の自主権への乱暴な侵害、朝鮮半島と地域の平和や安定を破壊する戦争行為」などと強く反発した。
・軍事的プレッシャーと相次ぐ経済制裁にも北朝鮮サイドは、表面的には強気の姿勢を崩さない。コリアレポート編集長の辺真一(ピョン・ジンイル)氏はこう見る。 「国際包囲網を張って兵糧攻めにしながら軍事プレッシャーをかけて、北朝鮮をギブアップさせようとしています。しかし、北朝鮮は過去9回の制裁決議にも反発してきましたし、米韓の軍事演習に怯んで弾道ミサイル開発を断念するかといえば、そんなことは到底考えられません。金正恩氏は相応の覚悟を持って、次の手を打ってくるはずです。北朝鮮は9月のミサイル発射以来、75日間も音無しの構えでした。国際社会は、米国の軍事力に委縮していたとか、あるいは対話を求めるために自制していたと見ていた。よもや、新型の『火星15』を開発していたとは思わなかったはずです」
・米韓合同軍事演習が終わった後も、金正恩氏は北朝鮮の“革命の聖地”である白頭山に登頂。平壌に戻った12月11~12日には、軍需工業部門の大会に出席した。「わが国を世界最強の核強国、軍事強国へとさらに前進させなければならない」と檄を飛ばし、今後も核開発を質量ともに強化していくことを宣言したのである。辺氏が続けて指摘する。
・「対話の前提となるのは、北朝鮮の非核化です。はたして金正恩氏が応じるでしょうか。米国や日本は、北朝鮮が制裁や軍事プレッシャーに弱って対話を求めてくると思い込んでいる。北朝鮮側はトランプ大統領が譲歩しない限りは対話には応じない姿勢です。仮に、米朝間で交渉が始まったとしても、北朝鮮は弾道ミサイルや核開発の放棄を求められるから、決裂は必至です。結局、落としどころがないのです。私は奇跡が起きない限り、武力衝突が起きる可能性がきわめて高いと訴えてきた。金正恩氏が降参するか、トランプ氏が折れるか……。どちらもあり得ません」
・一方で、韓国の文在寅大統領は、2~3月に開催する平昌(ピョンチャン)冬季五輪・パラリンピックへの参加を北朝鮮に呼び掛け、融和ムードを醸し出すのに必死だ。2月末に予定されていた次回の米韓合同軍事演習も、五輪・パラリンピック後に延期することを米国に求めている。韓国のメディアも金正恩氏が実妹の金与正(キム・ヨジョン)氏を派遣し、サプライズショーを行う可能性について報じている。だが、辺氏の見方は厳しい。
・「文在寅氏の錯覚も甚だしい。北朝鮮が平昌五輪に参加するメリットは何もありません。米国とともに制裁圧力を加えている相手に、わざわざ花を持たせるようなことをするはずがありません。それに北朝鮮は冬季五輪で、過去にスピードスケート競技で銀メダルと銅メダルを1個ずつしか獲得できていないありさまです。一方、韓国は平昌五輪でメダル獲得数が世界でベスト5に入ることが見込まれています。五輪でも南北格差が鮮明になるだけで、北朝鮮は恥を晒すことになる。北朝鮮が参加する理由が見つかりません」
・逆に、平昌五輪の最中に北朝鮮が弾道ミサイルの発射実験などを行う可能性はあるのだろうか。辺氏は「期間中は99%ない」と明言する。むしろ、過去のデータを見ると、五輪前に実行する恐れがあるという。16年1月6日には4回目の核実験を実施、2月6日にはテポドン2号改良型を発射した。2月8日は朝鮮人民軍の正規軍創建記念日だが、今年は70周年を迎える。そのタイミングで、北朝鮮が新たなアクションを起こすかもしれないというのだ。
・「米軍は、核施設やミサイル基地などを限定的に攻撃するかもしれません。武力衝突が起きても全面戦争へとエスカレートさせないために、同時に和平協議に向けた努力が払われることになるでしょう。そこを対話の契機とすることができるか、国際社会の対応が試されることになります」(辺氏)
・北朝鮮は潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の「北極星3」の開発も視野に入れる。戦争につながりかねない金正恩氏とトランプ氏のチキンレースは、当面続きそうだ。
http://diamond.jp/articles/-/155732

第一の記事で、 『電磁パルス攻撃は「現実の脅威」』、 『電力システム崩壊なら「1年後に9割死亡」』、などは、本当に恐ろしい話だ。特に、電力システム崩壊の場合は、原子力発電所で冷却ができなくなって、爆発、或いはその一歩手前で、炉内の汚染物質を外部に放出(ベント)することで、生き残った人々も放射能汚染で長い間、苦しめられることになるだろう。読売新聞は原発推進派だけあって、この問題には触れてないが・・・。
第二の記事の伊勢崎氏は、世界各地の紛争地帯に派遣された豊富な経験があるだけに、アメリカ陸軍としても講演を依頼したのだろう。記事で、 『占領統治の困難と教訓である。アメリカは、日本以外で、ことごとく、これに失敗している・・・最悪の例は、アフガニスタンのタリバン政権打倒後、最良の傀儡とアメリカが見込んだカルザイ大統領(当時)だ。その政権末期には、反米キャンペーンの急先鋒となり、政権の保身に走ったのだ』、なかなか難しいものだ。現在の金融政策と同様に、「出口戦略」が最も困難なようだ。 『僕の講演は、そうした針の筵の中で足掻くのが占領政策の現実だとしたら、失敗を最小限にするための戦略とは何か。国際部隊の統合司令部として、特に常に民衆の憎悪の引き金となる、駐留軍による過失・事故を包括する法体制とは何か。これを論じた』、確かに「失敗を最小限にするための戦略」と割り切らないと、答はないのかも知れない。 『北朝鮮占領は国際社会のキャパを超えている』、というのは確かにその通りなのだろう。しかし、こうした現実を踏まえた議論がアメリカ陸軍に浸透することで、トランプの暴走が食い止められて欲しいものだ。
第三の記事で、 『米韓合同軍事演習「ビジラント・エース」・・・米韓両軍が先制攻撃で遂行する作戦開戦となれば、これまで考えられていたような反撃能力が北朝鮮に残っているとは思えないのです』、というのは初めて聞く話で、本当かとの疑問も残る。仮に事実とすれば、トランプによる先制攻撃にブレーキかけるものがないことになる。これも、恐ろしい話だ。
タグ:週刊朝日 読売新聞 北朝鮮問題 ダイヤモンド・オンライン 現代ビジネス 伊勢崎 賢治 (その14)(高度上空の核爆発で起きる「電気がない世界」の恐怖、米朝開戦の瀬戸際で、32ヵ国の陸軍トップを前に僕が話したこと、米韓が先制攻撃なら北朝鮮は1日で壊滅も 「軍事マニュアル」判明) 永田和男 「高度上空の核爆発で起きる「電気がない世界」の恐怖」 電磁パルス攻撃は「現実の脅威」 電磁パルスは、一定の高度で核爆発が起きた時に起きる電磁波のことだ 核爆発により放出されるガンマ線が空気分子と衝突することで発生する。電磁パルスが地磁気に引き寄せられて地上に向かう時に大電流となり、電子機器や送電線などに入り込んで破壊してしまうのだ 電磁パルスは核爆発が地上40~400キロ・メートルの高さ(30~500キロ・メートルという説もある)で起きる時に最も発生しやすい 爆発地点が米国中部の上空高度400キロ・メートルなら、地上の影響範囲は全米をすっぽり覆う半径2200キロ・メートルに達するという試算もある 発電施設、スマホ、パソコンを次々に破壊 1962年に米国が北太平洋上空400キロ・メートルで行った核実験では、実験場から1300キロ・メートル以上離れたハワイ・オアフ島で停電が発生 63年に大気圏内、宇宙空間での核実験を禁止した部分的核実験禁止条約が発効したこともあり、その後、これほどの高度での核爆発実験は行われていない 電力システム崩壊なら「1年後に9割死亡」 04年の議会報告書は、全米規模の電力システム崩壊があった場合、復旧には数年を要し、食料や燃料、医薬品などあらゆる物資の欠乏と衛生確保が困難になることから飢餓と疫病は免れず、人口3億人余りの米国で「1年後には90%が死亡している」と予測 電磁パルス攻撃扱う小説、ベストセラーに 北朝鮮も「電磁パルス攻撃」を想定か 「米朝開戦の瀬戸際で、32ヵ国の陸軍トップを前に僕が話したこと 日本メディアの喧騒から遠く離れて」 アメリカ陸軍から届いた講演依頼 PACC : Pacific Armies Chiefs Conference 講演テーマは、僕がアメリカのアフガニスタン戦や国連PKOの現場で経験した国際部隊による「占領統治」と敵対行為が進行中の国家建設、ということで落ち着いた 本当の戦争は敵政権を倒した後に始まる なぜ傀儡政権づくりに失敗するか 軍事占領は時間がかかる 失敗を最小限にするための戦略 最悪の例は、アフガニスタンのタリバン政権打倒後、最良の傀儡とアメリカが見込んだカルザイ大統領(当時)だ。その政権末期には、反米キャンペーンの急先鋒となり、政権の保身に走ったのだ 僕の講演は、そうした針の筵の中で足掻くのが占領政策の現実だとしたら、失敗を最小限にするための戦略とは何か。国際部隊の統合司令部として、特に常に民衆の憎悪の引き金となる、駐留軍による過失・事故を包括する法体制とは何か。これを論じた 北朝鮮占領は国際社会のキャパを超えている 緩衝国家・日本の命運 「米韓が先制攻撃なら北朝鮮は1日で壊滅も、「軍事マニュアル」判明」 米韓合同軍事演習「ビジラント・エース」 米軍が本当に先制攻撃を仕掛けた場合、その攻撃力は想像を絶します。北朝鮮は報復攻撃さえできずに、早ければ1日で壊滅すると考えられます 北朝鮮が平昌五輪に参加するメリットは何もありません 北朝鮮は潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の「北極星3」の開発も視野に入れる 戦争につながりかねない金正恩氏とトランプ氏のチキンレースは、当面続きそうだ
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悪徳商法(ジャパンライフ問題 大手メディアが報じたがらない理由、「はれのひ」事件は起こるべくして起きた 着物ビジネスの闇、「はれのひ」問題の本質は事件は、”賃金不払いの犯罪”) [社会]

今日は、悪徳商法(ジャパンライフ問題 大手メディアが報じたがらない理由、「はれのひ」事件は起こるべくして起きた 着物ビジネスの闇、「はれのひ」問題の本質は事件は、”賃金不払いの犯罪”)を取上げよう。

先ずは、1月6日付け日刊ゲンダ「ジャパンライフ問題 大手メディアが報じたがらない理由」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・高齢者をターゲットにマルチ商法を展開し、銀行から取引停止処分を受け倒産に追い込まれた「ジャパンライフ」。国民生活センターが昨年12月29日に設置した「ジャパンライフ専用ダイヤル」には6日間で計273件の相談があった。
・ところが、過去10年で約1500件もの相談が寄せられていた大問題だというのに、大手メディアはなぜかあまり報道していない。そもそも、これまで消費者庁から4回も業務停止命令を受けたのに、ほとんどニュースになっていなかったことが不可思議なのである。 日刊ゲンダイは、ジャパンライフが問題ビジネスを続けてこられた背景に、政官との癒着が影響している可能性を報じ、安倍政権との接点も指摘してきたが、実は大手メディアにも“毒”が回っているのではないか、とみられるのだ。
▽新聞社幹部は顧問を務めていた
・「ジャパンライフの山口隆祥会長がマスコミ関係者と懇意にしているのは有名な話です。会長は、自ら主催した勉強会にメディア幹部を招いたり、中元、歳暮なども定期的に贈っていたといいます。実際、大手新聞社の関連団体の幹部は、かつてジャパンライフの顧問を務めていたほどです」(専門紙記者)
・ジャパンライフは、マスコミ各社に自社製品の広告記事も頻繁に出稿している。同社のホームページ(HP)には「弊社の商品がメディア掲載されました!!」とデカデカと宣伝され、大手新聞社や週刊誌などへの“広告掲載実績”が紹介されている。HPには、09年以降の実績が掲載されているが、16年末に消費者庁から行政指導を受けた後も、たびたび広告を出稿し続けていたのだ。
・「昨年9月の消費者庁会見で、岡村和美長官は記者からの質問に答える形で、ジャパンライフが16年末で339億円もの債務超過に陥ったことを明かし、問題視しました。会見で個別案件について言及するのは異例のことです。長官は非公式な場で『しっかり報道してほしい』とまで話したといいます。それでも、大手メディアはほとんど報じませんでした」(前出の専門紙記者)
・昨年12月20日に、愛知県の被害対策弁護団に告発されて以降、山口会長と長女のひろみ前社長は、今も行方をくらませている。大手メディアが“忖度”し報道を控えているのなら、問題である。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/220643/1

次に、ノンフィクションライターの窪田順生氏が1月11日付けダイヤモンド・オンライン「「はれのひ」事件は起こるべくして起きた、着物ビジネスの闇」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・成人式当日に逃げて新成人たちをパニックに陥れた「はれのひ」。しかし、着物業界の構造や、ボッタクリ体質を考えれば、「はれのひ」のような悪質業者が生まれたことに何の不思議もない。
▽成人式当日に音信不通 「はれのひ」は計画倒産か
・着物の着付けやレンタル・販売を手がける業者「はれのひ」が成人式当日、契約者になんの説明もなく連絡が取れなくなったことが大きなニュースとなった。
・2008年に創業した「はれのひ」は、ホームページ(現在は閉鎖)で、「全国100店舗展開」「上場を視野に入れて事業を拡大させていきます」などと景気のいいビジョンを掲げていた。少子化と着物離れが進行して市場がシュリンクしている中で、あまりにも見通しが甘すぎると、同業者も怪しく思っていたという。 東京商工リサーチによると、一昨年時点で既に3億超の債務超過に陥っており、かなり前から取引先や従業員への未払いが問題化していたことから、「詐欺」や「計画倒産」を疑う声も出てきている。
・一生に一度の晴れ舞台を楽しみにしているお嬢さんたちの思いを踏みにじるなんて、年の始めからなんとも気分の悪い話だと憤る方も多いだろうが、個人的には今後、この手のトラブルは、さらに増えていくのではないかと心配している。 今回、被害に遭われた方たちの悲痛な叫びを聞けばわかるように、もはや「着物」はアパレルビジネスではなく、完全に「冠婚葬祭」と同じ、セレモニービジネスとなっているからだ。
▽葬儀屋と同じく、着物業者は消費者を騙しやすい
・「は? どういうこと?」と首をかしげる方のため、まずはセレモニービジネスの問題点からご説明しよう。  「明朗会計」が謳われ、数万円程度の家族葬などが普及した今でも、葬儀にまつわる消費者トラブルは後を絶たないのはご存じのとおりだ。筆者も十年ほど前、悪質な葬儀会社や、その被害者によく取材をしたものだが、悪質業者がなくならない理由は、葬儀が「一生に一度のセレモニーだから」という一点に尽きる。
・葬儀サービスを何度も利用するわけではないので、質の良し悪しや、価格の相場がわからない。契約や支払いなど、何もかもが初めてなので、業者側に言われるまま。どのあたりがそんなに高いのかと尋ねても、「普通はそれくらいしますよ」と説明されると、納得せざるを得ない。 優良業者ならばそれでもまったく問題ないが、世の中には必ず、こういう構造を悪用する業者が現れる。要するに、悪意さえあれば簡単に消費者を「カモ」にすることができてしまう業態なのだ。
・実は「着物」も、これとまったく同じ構造になりつつある。 2015年、経済産業省繊維課がまとめた「和装振興研究会」の資料の中にある「きものの着用頻度」という調査では、着物着用経験のある人の83.6%が「儀式で何度か着た程度」と回答して、「日常的に着用」する者は0.3%程度となっている。つまり、現代における着物は、成人式や結婚式という「一生に一度のセレモニー」に付随する「儀式用品」と言っても差し支えないレベルなのだ。
・あまり良いたとえではないが、一般人からすれば、「着物」はお葬式で使う棺桶や祭壇と同じく、質の良し悪しや相場もよく分からない「ナゾの商品」なのだ。 だから、ユーザーである十代女性はもちろん、その保護者も、すすめられた晴れ着がいくらくらいなのか、見極められる人はほとんどいない。「これで20万円は相当お得ですよ」と言われれば、それを信頼するよりない。
▽呉服市場は30年で6分の1に縮小
・このように消費者を「カモ」にしやすいビジネスモデルこそが、利用客に最も精神的ダメージを与える成人式当日に夜逃げという、消費者軽視の極みともいえる「はれのひ詐欺」を招いた可能性が高い、と筆者は考えている。
・消費者軽視からなるトラブルというのは、先ごろ銀行取引停止が大きな話題になったマルチ商法大手ジャパンライフを見てもわかるように、その業界が傾けば傾くほど顕在化していく。そういう点では、着物業界は黄信号がついていると言わざるを得ない。 前出「和装振興研究会」の資料によると、呉服小売金額は、1982年の約1.8兆円から右肩下がりで2013年には3000億円と、約30年間で6分の1にまで縮小している。
・その勢いはここにきてさらに深刻化しており、大手でも倒産や自己廃業が続いている。昨年4月には、着物学校「装道礼法きもの学院」を運営する「装いの道」が民事再生法の適用を申請した。15年には京都呉服や西陣織帯地の販売を行っていた「株式会社京都きものプラザ」も自己破産している。
・このような厳しさに拍車を掛けているのが、「はれのひ」のような、フォトスタジオやレンタル衣装などから参入してきたニューカマーである。市場が急速にしぼんでいくなかで、新旧のプレイヤーが熾烈な生存競争を繰り広げれば、脱落者の中には「はれのひ」のように「暗黒面」へ堕ちてしまう業者も出てくるはずなのだ。  ただ、筆者がこれから「着物」をめぐるトラブルが増えてしまうと心配するには、実はもうひとつ理由がある。それは「着物業界」に根強く残る「ボッタクリ気質」だ。
▽「高級化」の内実は“ボッタクリ” 西陣織業界の闇
・小西美術工藝社の社長を務め、日本の伝統産業に造詣の深いデービッド・アトキンソン氏の著書「国宝消滅」(東洋経済新報社)によると、日本人の着物需要が減っていくなかで、着物業界は売り上げを維持するため、「価格を上げ、原価を下げる」という、ともすれば「ボッタクリ」とも言えなくはない戦略を取ったことがうかがえるという。
・たとえば、西陣織は1966年(昭和41年)に出荷量がピークを迎え、そこから減少に転じていくのだが、出荷金額のピークはその10年後というタイムラグが出ている。このことについて、「和装振興研究会」の報告書では、「出荷数量の減少を受けて、供給側が高付加価値商品にシフトしたことがうかがえる」と分析している。  そんなもん、世界一の技術を誇る日本の職人がつくるのだから、高級ブランドのように多少高くなるのはしょうがないだろという声が聞こえてきそうだが、この「高付加価値」はそういう類のものではない。
・「東京都中小企業種別経営動向調査報告書」によると、呉服業界の売上原価率は、昭和56年(1981年)度には64.2%だったが、平成25年(2013年)度を見ると49.5%と大きく改善している。同時期の小売業の平均が68~63%ということを考えると、尋常ではないほど原価を削っている。 そう聞くと、勘のいい方はお気づきだろう。ベトナムなどの海外生産へと移行しているのだ。ユニクロなどファストファッションのように「質」と「低価格」を両立させるために、優秀な縫製技術が安価で得られる海外に依存するというのなら話は分かるが、日本の着物の場合は、ユーザーが減るなかでも利益をキープする術として、海外生産で原価を下げつつ、「高付加価値」を訴求するという「ボッタクリ」のそしりも受けかねない戦略に出たのだ。
▽着物業界のマーケティングが成人式を一大イベントにした
・当然、目の肥えた着物愛好家は離れ、洋装へ流れていく。一方、敷居を思いっきり高くしたので、若い世代の新客が入ってこないという悪循環も招く。こんなことをしては、戦前まで庶民の間に普及していた普段着としての「着物」が衰退するのは当たり前である。
・このユーザーメリットがゴソッと抜けた戦略が、「着物」という産業を衰退させて、サザエさんの波平やフネさんのように日常的に着物を着用するような庶民文化を、壊滅的な状況に追いやってしまったのである。
・実はそれを最も象徴するのが、今回騒動になった「成人式」である。多くの人が誤解しているが、このセレモニーは日本の「伝統」でもなんでもない。1949年、戦争に負けて落ち込んでいた国民を鼓舞するために、文部省が始めた官製イベントで、『そっぽ向かれた「成人の日」 行事やめた区もある 祝賀会場の出足は悪い』(朝日新聞1954年1月16日)と報道されるように、当初の新成人は今の「プレミアムフライデー」に対する我々のように、かなりシラけていた。
・そんな調子なので、晴れ着で出席する方が珍しかったのだが、1967年ごろから一気にブームが起こる。高度経済成長期で、日本人が豊かになって「古き良き伝統」を見直したーーなんて美談ではなく、着物業界の涙ぐましいマーケティングの成果だ。 「四十年ごろから入学、卒業式に母親が着る黒い羽織(PTA羽織とも言われた)がパタッと売れなくなり、あわてた主産地の新潟県十日町の業者が振そでの生産に切り替え、大衆化路線に歩み始めたのが普及にはずみをつけたとされている」(日本経済新聞1991年1月6日)
・その後も全国の業者がさまざまなキャンペーンを行い、徐々に今のような「一生の一度」というファッションショー化したのである。要するに、「成人式の晴れ着」は、バレンタインデーやクリスマスケーキが、菓子屋のマーケティングであるのとまったく同じ構造ということだ。
▽着物を復活させるには「儀式」と決別しなければならない
・こういう「ボッタクリ気質」を未だに引きずる業者もいるなかで、彼らのノウハウを悪用する第二、第三の「はれのひ」があらわれても、何もおかしくはない。 「とくダネ!」のキャスター・小倉智昭氏が今回の騒動を受けて、「これを機に成人式で着飾ったりするのをやめたほうがいい」と提案したら、飛躍しすぎだとネットで叩かれた。
・だが、実はこれは着物文化を守るという意味では、悪くない提案だ。先ほども申し上げたように、「着物」が衰退している最大の理由は、「ボッタクリ」ともいうべき高付加価値路線が行き着くところまで行ってしまい、葬式と同じように「セレモニー化」していることが大きい。 それを牽引してきたのが「成人式」だ。ここで、若い女性は「一生に一度」の着物体験をして終わりとなる。結婚式でも使うという人もいても、そのような儀式用品であることに変わりはない。
・着物を復興させるには、このような「儀式」と決別してもう一度、普段着としてアパレル(普通の衣服)にならなくてはいけない。技術が世界一だというのなら、面倒臭い着付けなど必要のない、今の時代向きの着物を開発すればいい。作務衣や浴衣がそれなりに売れているなかで、そういう「進化」をしてもいいではないか。
・実際、外国人観光客や若い世代が気軽に着用できる安価なレンタル着物を提供するサービスは好調だ。「成人式の晴れ着」という「一生に一度使うかどうかの高級品」ではない、「普段使いの着物」にこそ、この伝統を守るための「答え」がある。 「はれのひ詐欺」を他人事だと思わず、なぜこのような消費者軽視のトラブルが起きてしまったのかを、着物業界全体で改めて考えるべきではないか。
http://diamond.jp/articles/-/155406

第三に、元東京地検特捜部検事で弁護士の郷原信郎氏が1月11日付けの同氏のブログに掲載した「「はれのひ」問題の本質は事件は、”賃金不払いの犯罪”」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・日産自動車、神戸製鋼所など、日本を代表する企業の不祥事が相次いだ2017年が終わり、2018年の年明け早々、それらとは全く性格の異なる小規模企業が起こした「不祥事」が社会に大きな波紋を生じさせている。
・晴れ着の販売・レンタルと当日の着付け等の事業を行っていた企業「はれのひ」が、1月8日の成人式の直前に突然営業を停止し、店舗が閉鎖されて連絡がとれなくなった。予約した晴れ着が届かず、着付けも行われず、多くの新成人が成人式に晴れ着で出席できない事態となった。 昨年相次いだ大企業の不祥事の多くが、実害を伴わない「形式的不正」であったのとは異なり、「はれのひ」の問題は、多くの消費者に重大な経済的、精神的損害を与えた。 この問題の本質と、責任追及の在り方を、コンプライアンスの視点から考えてみたい。
▽営業停止に至る経過
・「はれのひ」の主要店舗は、横浜、八王子、つくば、福岡の4店。報道によると、1月6日に、本社から各店舗に営業停止の指示があり、このうち、1月7日が成人式だったつくば店と、1月8日が成人式だった福岡店は、店長の判断で営業を継続し、可能な限りの対応を行ったが、横浜店は、営業停止の指示があった時点で、従業員は既にすべて退職しており、アルバイト店員だけだったため営業ができず、八王子店も、詳しい状況は不明だが、営業停止の指示に従ったようだ。 
・その後の報道によると、「はれのひ」は、1年半前から6億円を超える債務超過で、最近4か月は、従業員に対する給与も支払っていなかったとのことだ。 今回の営業停止が事実上の「経営破綻」によるものであることは明白だ。
・企業の経営破綻は、債権者や取引先に重大な損害を与える。取引先が一般消費者である「BtoC」の事業の企業が消費者に予測し難い損害を生じさせた最近の事例として、格安旅行会社「てるみくらぶ」のケースがある。
・「てるみくらぶ」のケースでは、自己破産申請を行った日に、女性社長が記者会見を開き、涙ながらに謝罪を行い、少なくとも、自らが引き起こした事態に正面から向き合う姿勢は示した。一方、「はれのひ」の方は、多くの新成人・家族に予期しない重大な打撃、損害を与えておきながら、社長は行方をくらまし、営業停止した店舗の従業員も姿を現わしていない。つまり、問題を起こした当事者の企業の側が誰も姿を現わさず、どのような経緯でそのような事態になったのか説明もせず、謝罪すらしない。つまり、引き起こした事態に対して、会社側は誰も正面から向き合っていない。
▽「はれのひ」に対する「社会の要請」
・コンプライアンスとは、「組織が社会の要請に応えること」であり、組織の不祥事とは、「社会の要請に反すること」である。 「はれのひ」という企業にとっての「社会の要請」は、「晴れの日」を祝う人々の幸せをサポートすることにあったはずだ。そういう企業にとって、祝福と喜びに包まれるはずの成人の日という「晴れの日」に、新成人や家族を大混乱と悲嘆に陥れるというのは、本来の「社会の要請」に最も極端な形で反してしまった重大な「不祥事」だ。
・当初から反社会的活動を行うことを目的としている犯罪組織や暴力団でない限り、組織に働く者は、誰しも、組織の活動も自分の業務も、社会の要請に応えるものと考えて仕事をしているはずだ。「はれのひ」にも従業員がいて、もともとは「晴れの日」を祝う人々の幸せをサポートするという「社会の要請」に応えようと仕事をしていたはずだ。成人の日の直前までは、そのような従業員の仕事が続けられていた。そういう従業員にとって、「社会の要請」に正面から反し、自分達が直接相対していた顧客に重大な迷惑と損失を与える事態に至ることは、何とかして避けたいと思うのが当然だ。それは、組織に働く者としての最低限のコンプライアンスである。ところが、少なくとも、営業停止の直前まで多くの従業員が働いていた「はれのひ」では、その最悪の事態を引き起こすことを避けることができなかった。
▽「社会の要請」に応えられなかった原因としての「給与不払」
・その最大の原因は、「はれのひ」が給与不払のまま事業を継続していたことにある。給与(賃金)を支払うことは、経営者の従業員に対する最も基本的な義務である。その義務すら果たせないまま事業を継続していたという異常な状況が、今回のように、企業としてのコンプライアンスに著しく反する事態を招いてしまった。 
・前記のとおり、同社は、4ヵ月にわたって従業員に対して給与を支払っていなかったようだ。給与が支払われないのであるから、従業員の退職が相次ぐのは当然であろう。問題の横浜店は、正社員不在の状態になり、そもそも成人の日の営業が不可能になっていた。八王子店は詳細は不明だが、実質的には同様の状態だったのであろう。それに対して、つくば店、福岡店が店長判断で営業を継続したのは、顧客に混乱と損害を与える事態を何とかして食い止めたいという使命感、責任感によるものであろう。しかし、一般的には、給料すら支払ってもらっていない従業員に、そのような対応を期待するのは酷だ。
・顧客が、成人式の日に、「晴れの日」を祝う人々の幸せをサポートするというサービスを提供してくれるものと信頼したのは、「はれのひ」という企業のブランドでも、篠崎洋一郎社長個人に対する信用でもない。着物の販売・レンタルについての営業活動、事前の写真撮影、成人式当日の段取りの打ち合わせ等に対応してくれた同社の従業員達との間の「人と人との関係」があったからこそ、顧客は、大切な成人式の日の晴れ着のサービスを「はれのひ」に頼んだのである。従業員も、本来は、そのような信頼を裏切りたくはなかったはずだ。しかし、横浜店、つくば店では、給与不払の結果従業員は退職し、店舗自体が、信頼に応えることができない状態になってしまった。従業員の立場からすれば、最低限の権利である「給与支払いを受けること」すら期待できない状態であった以上、致し方ないことと言わざるを得ない。そのような状態で事業を継続したことに根本的な問題があるのであり、その責任は経営者にある。
▽篠崎社長の重大な責任と厳重処罰の必要性
・ところが、その責任を負うべきは篠崎社長本人は、突然の営業停止で顧客に甚大な被害を与えておきながら行方をくらましている。社会的には「犯罪者」そのものである。篠崎社長は、今年に入ってから本社にも全く姿を見せていないとのことであり、ネット上で、中国上海に逃亡しているのではないかとの情報も寄せられている。 速やかに篠崎社長の身柄を確保し、厳正に処罰すべきというのが、世の中一般の考え方であろう。
・問題は、具体的に、どのような罪名で、どのような刑事事件として立件すべきかである。 まず、考えられるのが詐欺罪だ。成人式で契約どおり晴れ着の提供や着付けのサービスを行えないことを認識した上で晴れ着の販売・レンタル契約で顧客から代金を受領したのであれば詐欺罪が成立する。「取り込み詐欺」と言われる形態の詐欺だ。しかし、破綻した企業の経営者の多くは、「経営は苦しかったが何とか契約を履行できると思っていた」と弁解するのが通常であり、顧客から代金を受領した段階で、そのような認識があったことの立証は容易ではない。倒産必至の状態でツアー募集を継続した「てるみくらぶ」の社長についても、逮捕された容疑は、「金融機関への虚偽の決算書提出による詐欺」であり「取り込み詐欺」ではない。
・昨日から報道されているが、ネット上の出品サイトに、着物や小物が大量に出品され、しかも、出品者が個人ではなく法人であった可能性もあり、「はれのひ」との関連が疑われている。これが、「はれのひ」が客に販売した着物なのであれば業務上横領となる可能性が高い。しかし、販売した着物を管理していたのが従業員だったとすると、従業員側が、未払給料に充てる目的で会社にあった着物を出品して売却しようとした可能性も考えられる。それ以外でも、販売した着物が既に売却換金されていれば業務上横領に該当する可能性が高いが、どこかに保管され、顧客に引き渡すことが可能な状態になっていれば、引き渡しが遅れただけで、犯罪とは言えない。いずれにしても、着物の換金行為に社長自身が関与していなければ、社長の刑事責任を問うことはできない。
・このように考えると、行方をくらましている篠崎社長について、詐欺、もしくは横領で逮捕状をとるのは容易ではなさそうだ。仮に、篠崎社長が中国に逃亡しているとすると、逮捕状をとった上、中国当局に逃亡犯罪人の身柄引き渡しを求めなければならないのであり、一層、そのハードルは高くなる。
▽篠崎社長に対してまず適用すべきは「賃金不払の罪」
・ここで、改めて、「はれのひ」問題の本質に即して、篠崎社長に適用すべき罰則を考えてみる必要がある。  既に述べたように、今回の事態を引き起こした根本的な原因は、「はれのひ」が給与不払の状態のまま長期間にわたって事業を継続していたことである。それに対して、適用されるべき罰則として、労働法上の「賃金不払の罪」がある。
・労働基準法24条は、「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」と定めている。使用者が所定の支払期日に賃金を支払わなければ、120条1号の罰則が適用され「30万円以下の罰金」に処せられる。 実際に、労働基準監督署から賃金不払罪で送検されるケースは相当な件数がある(最近は、賃金不払に対しては、最低賃金法4条の「最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない」との規定に基づき、同法40条の「50万円以下の罰金」の罰則が適用されているようだ。)。
・一般的には、賃金不払と言っても、会社倒産によって、それまでの賃金が支払えなくなったというやむを得ない事由のものも多く、起訴猶予となるものも少なくない。しかし、「はれのひ」の賃金不払は、数か月にわたって、賃金を支払わないまま従業員を働かせていたというもので、それによって従業員が退職したために、成人の日に晴れ着と着付けを提供するという同社にとって極めて重要な契約上の義務が履行できない事態を生じさせ、顧客に重大な損害を与えたのであり、結果も極めて重大だ。「悪質極まりない賃金不払の犯罪」として、可能な限り厳しく処罰すべき事案である。
・法定刑が30万円以下の罰金のみの犯罪については、「被疑者が定まった住居を有しない場合又は正当な理由がなく前条の規定による出頭の求めに応じない場合」にしか逮捕できないが、少なくとも、国内外に逃亡中の篠崎社長については、逮捕することに問題はない(最低賃金法違反であれば「50万円以下の罰金」なので、逮捕に制約はない。)。
・しかも、賃金不払で逮捕状をとれば、仮に、篠崎社長が中国に逃亡しているとしても、逃亡犯罪人の引き渡しを求めることが可能だと考えられる。外国への犯罪人の引き渡しの請求は、「双方可罰性(双罰性)の原則」(請求する国と、請求される国双方で犯罪とされていること)の要件を充たす必要があるが、中国では、肉体労働者への賃金未払いが大きな社会問題になったことを受け、2011年5月に、「悪意のある賃金未払い」が刑罰の対象とされたとのことであり、この双罰性もクリアできると考えられる。
・篠崎社長の賃金不払事件の立件のためには、まず、その被害者である従業員達が、労基署、警察等に協力し、賃金不払の被害申告を行う必要がある。もちろん、最終的には、詐欺、横領等の事実についても徹底して罪状を明らかにしていくべきだが、まず、早急に身柄を確保することが必要であり、そのためには、賃金不払の罰則を適用するのが最も容易だと考えられる。
▽再発防止のための対策
・今回の「はれのひ」問題は、労働行政と消費者行政に関して、大きな課題を残した。同種事案の再発防止は、以下の二つの観点から考える必要がある。 まず、労働行政の問題として、悪質な「賃金不払」のまま事業が継続されていたことについて、労働基準監督署による監督が機能しなかったことが問題として指摘できる。 「賃金不払が継続する」という、本来あってはならない状況で事業が継続されたことで、企業としての本来の責務を果たすことが妨げられ、重大な社会的影響を生じさせた。労働基準監督署は、大企業を含めた長時間残業の問題ばかりでなく、今回のような中小企業における給料の不払・遅配に対しても、労働者側が申告・情報提供しやすい環境整備を行い、適切な指導や処分で是正し、それに従えない企業には事業を停止させるべきであろう。
・もう一つは、本件のように消費者に重大な損失を生じさせかねない事案を把握して適切な措置をとるということを、消費者行政の問題として検討する必要がある。報道によると東京商工リサーチ等の信用調査会社では、「はれのひ」の経営不振を早くから把握していたという。
・企業の信用状況に関する情報収集は、企業間取引の事業であれば、企業の責任において行い、企業自身で取引継続の可否の判断を行えばよい。しかし、一般的に、消費者自身が、取引する企業の信用を調査することは困難である。「はれのひ」のように、企業と消費者の間で、単発だが高額の取引で、しかも、特定の日にその履行が行われないと消費者に重大な損害が生じるようなものについても、同様である。信用状況について行政当局で情報を収集し、不適切な事業が行われている可能性があれば、指導監督に乗り出し、必要に応じて消費者に注意喚起を行うべきであろう。法令上そのような権限が与えられていないのであれば、法改正や条例改正も検討すべきではなかろうか。 
・横浜市では、横浜市消費生活条例によって権限は与えられていたようで、本件でも、問題発生後に調査に入ったと報じられている。必要なことは、事前に何らかの措置を取ることができないかどうかだ。
・コンプライアンスというと、これまで大企業の問題と考えがちであるが、「てるみくらぶ」に続いて、今回のように消費者に重大な損害を与える「不祥事」が発生したことを機に、中小企業のコンプライアンスについても、真剣に考えることが必要であろう。
https://nobuogohara.com/2018/01/11/%e3%80%8c%e3%81%af%e3%82%8c%e3%81%ae%e3%81%b2%e3%80%8d%e5%95%8f%e9%a1%8c%e3%81%ae%e6%9c%ac%e8%b3%aa%e3%81%af%e3%80%81%e8%b3%83%e9%87%91%e4%b8%8d%e6%89%95%e3%81%84%e3%81%ae%e7%8a%af%e7%bd%aa/

第一の記事で、 『日刊ゲンダイは、ジャパンライフが問題ビジネスを続けてこられた背景に、政官との癒着が影響している可能性を報じ、安倍政権との接点も指摘』、というのは下記である。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/220446/1
ここでは、 『大手メディアにも“毒”が回っているのではないか』、に話を戻そう。 『消費者庁会見で、岡村和美長官は記者からの質問に答える形で、ジャパンライフが16年末で339億円もの債務超過に陥ったことを明かし、問題視しました。会見で個別案件について言及するのは異例のことです。長官は非公式な場で『しっかり報道してほしい』とまで話したといいます。それでも、大手メディアはほとんど報じませんでした」』、というのは、まさに異常なばかりの“忖度”である。大手メディアは猛省すべきではなかろうか。
第二の記事で、 『もはや「着物」はアパレルビジネスではなく、完全に「冠婚葬祭」と同じ、セレモニービジネスとなっている』、 『着物業界のマーケティングが成人式を一大イベントにした』、などの指摘で、私も認識を新たにさせられた。特に後者については、私など区主催の成人式など馬鹿にして出席など、露ほども考えなかっただけに、時代の変遷、或いはそれをもたらした着物業界のマーケティングの力に改めて驚かされた。ただ、 『着物を復興させるには、このような「儀式」と決別してもう一度、普段着としてアパレル(普通の衣服)にならなくてはいけない』、との主張には、違和感を覚えた。着物着用の退潮に対抗すべく、「儀式」への道を選んだのに、いまさら普段着に戻したところで、着物着用の退潮傾向は変わらないと思うからだ。
第三の記事で、 『成人の日という「晴れの日」に、新成人や家族を大混乱と悲嘆に陥れるというのは、本来の「社会の要請」に最も極端な形で反してしまった重大な「不祥事」だ』、 『篠崎社長の重大な責任と厳重処罰の必要性』、 『篠崎社長に対してまず適用すべきは「賃金不払の罪」』、などの指摘はその通りだ。 『「はれのひ」のように、企業と消費者の間で、単発だが高額の取引で、しかも、特定の日にその履行が行われないと消費者に重大な損害が生じるようなものについても、同様である。信用状況について行政当局で情報を収集し、不適切な事業が行われている可能性があれば、指導監督に乗り出し、必要に応じて消費者に注意喚起を行うべきであろう。法令上そのような権限が与えられていないのであれば、法改正や条例改正も検討すべきではなかろうか』、との主張には大賛成だ。消費者庁の後手に回った対応にはうんざりだ。消費者庁の役人もこれでは、モラルが下がる一方だろう。彼らのモチベーションを上げるためにも、権限強化が必要だ。
タグ:悪徳商法 郷原信郎 ダイヤモンド・オンライン ジャパンライフ 窪田順生 同氏のブログ (ジャパンライフ問題 大手メディアが報じたがらない理由、「はれのひ」事件は起こるべくして起きた 着物ビジネスの闇、「はれのひ」問題の本質は事件は、”賃金不払いの犯罪”) 日刊ゲンダ 「ジャパンライフ問題 大手メディアが報じたがらない理由」 高齢者をターゲットにマルチ商法 銀行から取引停止処分を受け倒産 過去10年で約1500件もの相談 大手メディアはなぜかあまり報道していない 消費者庁から4回も業務停止命令 政官との癒着が影響している可能性を報じ、安倍政権との接点も指摘 実は大手メディアにも“毒”が回っているのではないか、とみられるのだ 新聞社幹部は顧問を務めていた ジャパンライフの山口隆祥会長がマスコミ関係者と懇意にしているのは有名な話 マスコミ各社に自社製品の広告記事も頻繁に出稿 岡村和美長官は記者からの質問に答える形で、ジャパンライフが16年末で339億円もの債務超過に陥ったことを明かし、問題視しました 長官は非公式な場で『しっかり報道してほしい』とまで話したといいます。それでも、大手メディアはほとんど報じませんでした 「「はれのひ」事件は起こるべくして起きた、着物ビジネスの闇」 「はれのひ」は計画倒産か 一昨年時点で既に3億超の債務超過 かなり前から取引先や従業員への未払いが問題化 もはや「着物」はアパレルビジネスではなく、完全に「冠婚葬祭」と同じ、セレモニービジネスとなっているからだ 葬儀屋と同じく、着物業者は消費者を騙しやすい 現代における着物は、成人式や結婚式という「一生に一度のセレモニー」に付随する「儀式用品」 呉服市場は30年で6分の1に縮小 厳しさに拍車を掛けているのが、「はれのひ」のような、フォトスタジオやレンタル衣装などから参入してきたニューカマー 新旧のプレイヤーが熾烈な生存競争を繰り広げれば、脱落者の中には「はれのひ」のように「暗黒面」へ堕ちてしまう業者も出てくるはずなのだ ▽「高級化」の内実は“ボッタクリ” 西陣織業界の闇 ベトナムなどの海外生産へと移行 海外生産で原価を下げつつ、「高付加価値」を訴求するという「ボッタクリ」のそしりも受けかねない戦略に出たのだ 着物業界のマーケティングが成人式を一大イベントにした 着物を復活させるには「儀式」と決別しなければならない 「「はれのひ」問題の本質は事件は、”賃金不払いの犯罪”」 昨年相次いだ大企業の不祥事の多くが、実害を伴わない「形式的不正」であったのとは異なり、「はれのひ」の問題は、多くの消費者に重大な経済的、精神的損害を与えた 「てるみくらぶ」のケースでは、自己破産申請を行った日に、女性社長が記者会見を開き、涙ながらに謝罪を行い、少なくとも、自らが引き起こした事態に正面から向き合う姿勢は示した 、「はれのひ」の方は、多くの新成人・家族に予期しない重大な打撃、損害を与えておきながら、社長は行方をくらまし、営業停止した店舗の従業員も姿を現わしていない。つまり、問題を起こした当事者の企業の側が誰も姿を現わさず、どのような経緯でそのような事態になったのか説明もせず、謝罪すらしない。つまり、引き起こした事態に対して、会社側は誰も正面から向き合っていない もともとは「晴れの日」を祝う人々の幸せをサポートするという「社会の要請」に応えようと仕事をしていたはずだ 社会の要請」に応えられなかった原因としての「給与不払」 篠崎社長の重大な責任と厳重処罰の必要性 労働基準監督署は、大企業を含めた長時間残業の問題ばかりでなく、今回のような中小企業における給料の不払・遅配に対しても、労働者側が申告・情報提供しやすい環境整備を行い、適切な指導や処分で是正し、それに従えない企業には事業を停止させるべきであろう 。「はれのひ」のように、企業と消費者の間で、単発だが高額の取引で、しかも、特定の日にその履行が行われないと消費者に重大な損害が生じるようなものについても、同様である。信用状況について行政当局で情報を収集し、不適切な事業が行われている可能性があれば、指導監督に乗り出し、必要に応じて消費者に注意喚起を行うべきであろう。法令上そのような権限が与えられていないのであれば、法改正や条例改正も検討すべきではなかろうか
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企業不祥事(神戸製鋼などの部材不正)(その5)(「品質問題」はどんなメーカーでも起こりうる  現場力に詳しいローランドベルガー・遠藤氏が語る根本原因、「トクサイ(特別採用)」は製造業の堕落だ 企業統治に詳しい久保利英明弁護士に聞く、神戸製鋼を蝕んだ根深い「カビ型不正」 コンプライアンスに詳しい郷原信郎弁護士に聞く) [企業経営]

昨日に続いて、企業不祥事(神戸製鋼などの部材不正)(その5)(「品質問題」はどんなメーカーでも起こりうる  現場力に詳しいローランドベルガー・遠藤氏が語る根本原因、「トクサイ(特別採用)」は製造業の堕落だ 企業統治に詳しい久保利英明弁護士に聞く、神戸製鋼を蝕んだ根深い「カビ型不正」 コンプライアンスに詳しい郷原信郎弁護士に聞く)を取上げよう。

先ずは、昨年12月13日付け東洋経済オンライン「「品質問題」はどんなメーカーでも起こりうる ローランドベルガー・遠藤氏が語る根本原因」を紹介しよう(▽は小見出し、Qは聞き手の質問、Aは遠藤氏の回答、+は回答内の段落)。
・神戸製鋼所、日産自動車、東レ、三菱マテリアル――。日本を代表する名門企業で品質にかかわる不祥事が相次いでいる。日本企業の強みだった品質が低下したのか、日本のものづくりはどうなってしまうのか。  『現場力を鍛える』『見える化』(いずれも東洋経済新報社刊)などの著者で、現場力の実践的研究を行う遠藤功ローランド・ベルガー日本法人会長に、今回の一連の品質問題について聞いた。
Q:品質問題の連鎖が続いています。
A:今後もまだ出てくるのではないか。今回の品質問題には、個別企業だけではなく、日本のものづくりが抱える構造的な問題が背景にあると考えている。
・私の考える構造問題には主に3つの要素がある。まず1つ目が「世界最高品質追求の圧力」だ。日本企業は世界最高の品質を追求して、海外企業との差別化を図ってきた。完成車メーカーからの厳しい要求によって、素材・部品メーカーが鍛えられてきたともいえる。顧客の要求はどんどん高まるが、とにかくそれに応えなければいけない。特に中国・韓国メーカーが追い上げてくる中で、より品質を求めるプレッシャーが強くなった。
▽日本企業が直面する「現場力の劣化」
+では、その厳しい要求水準に応えるはずの生産現場はどうか。ここに構造問題の2つ目、「現場力の劣化」がある。日本の現場では、つねにギリギリの人数で回しており、非正規の従業員も多い。世代交代があるため技能継承も簡単ではない。
+今回は品質保証に携わる人たちがデータの改ざんに手を染めていた例があった。以前なら現場には「品質の番人」とか「品質の鬼」と言われるような人がいて、「こんなもの絶対に出さん」と、不適合品を絶対に現場から出さなかった。そういう人が少なくなり、不適合品が現場で止まらなくなってしまった。失われた20年の中で、設備投資の抑制が続き、現場の意識やマインドも劣化してしまった。
+3つ目が、経営陣の問題だ。ここ5年で「攻めのガバナンス」という言葉が出てきたが、ガバナンスが内部統制や法令順守よりも、利益の追求にウエートを置くようになってしまった。いわば「コーポレートガバナンスのバランスの劣化」だ。 経営陣は一言も品質を犠牲にしていいとは言っていないが、利益重視の姿勢が生産現場への暗黙のプレッシャーとなった。経営陣が戦略策定やIR(投資家向け広報)などに忙しく、現場にあまり行かなくなり、現場との距離が広がった面もある。
+そこに個別企業の要因が重なったのだろう。神戸製鋼や日産はより利益重視のプレッシャーが強かった可能性がある。名門意識からくるおごりや緩みもあったかもしれない。一部の企業には、経営戦略そのものに無理があったのではと思う部分もある。
+構造問題であるかぎり、今回のような品質問題はどんな製造業でも起こりうる。品質第一の原点に回帰して、根本からやり直さなければならない。私は今回の一連の問題を深刻に受け止めている。
▽経営陣はもっと謙虚に受け止めるべき
Q:法令違反はなく、安全性には問題はないから、「本来公表しなくてもいい問題」と発言する経営トップもいました。
A:法令違反うんぬんではなく、顧客との約束を果たせていない段階ですでに問題だ。ましてや顧客の要望を満たすように、品質データを改ざんしていいはずがない。海外企業との取引なら、全数チェックを要求されてもおかしくない。経営陣はもっと謙虚に受け止めるべきだ。
+品質は「基本品質」と「機能品質」に分けられる。基本品質とは製品として本来備えるべき品質で、最低限守らなければならないもの。そして、機能品質は差別化のために、顧客から個々に要求されるものだ。日本メーカーは主に機能品質を競い、成長してきた。 一連の発言を聞いていると、もともと要求の厳しい機能品質で約束を守れなかっただけ、という甘えを感じる。言い換えれば、自分たちは世界最高品質を目指しているのだから、これぐらいは許されるという一種のおごりだ。
+確かに日本メーカーは、基本品質については相当高いレベルを維持している。ただその分、価格は高い。顧客の側から見れば、日本メーカーの信頼性におカネを払っていた側面がある。日本企業なら変なことはないだろうというプレミアム。改ざんが行われていたとなれば、その根底が崩れてしまう。  
Q:今回の品質問題では「特別採用(特採=トクサイ)」という商習慣がクローズアップされました。
A: 特採は昔からあり、海外メーカーとの取引にもある。特に契約には明記されない。  特採が広がったのは、顧客にもメリットがあるからだ。もともと顧客の品質要求は厳しく、すべてがその水準を満たさなくていい面もある。100点でなくてはならない素材や部品もあるが、そうでないものは「98点でいいからすぐ、安く出して」などという条件で出荷してもらう。
+背景には歩留まりの問題がある。本当に高品質な素材・部品の場合、100を作って歩留まりが70~80というケースはザラにある。つまり、20~30は捨てている。難しい製品の歩留まりを上げるのは本当に難しいもの。それでも生産現場はなんとか踏みとどまっている。顧客もそれは理解しているので、特採制度を使って対応し、少しずつでも歩留まりの向上につなげてもらう。
+ただ、それは顧客の了解が大前提だ。顧客に無断で要求品質を満たさない製品を出していいわけではない。ある企業の生産担当役員は「うちでも(問題になった企業と)同じようなことはあるが、ぎりぎりで踏みとどまっている」と言っていた。そうした中だからこそ、技術的なブレークスルーが生まれているともいえる。
▽「過剰品質」は悪くない
Q:今回の問題は「過剰品質のワナ」にも見えます。
A:確かに過剰品質という面はあるかもしれない。しかしそれに挑戦してきたからこそ、日本の製造業は成長できた。今後も中国や韓国メーカーが作れないものを作る。おそらくその戦略は間違っていない。 これまでは企業の垣根を超えて、オールジャパンで世界最高品質を追求してきた。そこをもう一度担保しないと、日本のもの作りの根底が崩れてしまう。顧客との再交渉をきめ細かく行うなど、一部で契約内容を見直しつつ、あらためて品質第一に回帰しなければならない。
Q:今後はどんな対応が必要でしょうか。
A:悪者探しのようなモグラたたきをしても意味がない。個社だけに矮小化せずに、日本のものづくり全体の問題として認識し、業界の垣根を越えて取り組むべきだ。 日本のものづくりが今後どうやって飯を食うのか、大局的に議論する必要がある。これまで国内の設備投資は抑制され、製造業の空洞化が進んできた。しかしある程度国内でものを作らないと、人が育たないし、技術も進歩しない。
+企業は内部留保として貯め込むばかりでなく、現場への投資を積極化する局面に差しかかっている。そして経営者自らが、主体的に生産現場の立て直しに取り組むことが求められるだろう。
http://toyokeizai.net/articles/-/200621

次に、1月10日付け日経ビジネスオンライン「「トクサイ(特別採用)」は製造業の堕落だ 企業統治に詳しい久保利英明弁護士に聞く」を紹介しよう(▽は小見出し、――は聞き手の質問、+は回答内の段落)。
・日本の製造業は「堕落」した――。  コーポレートガバナンス(企業統治)に精通する久保利英明弁護士は、日産自動車や神戸製鋼所などで相次いだ一連の品質問題を、一刀両断する。ゼンショーホールディングスの労働環境問題など、多くの事案で第三者委員会を率いた企業統治の専門家は、資本主義のいろはの「い」が崩れたと警告する。
――神戸製鋼所や三菱マテリアル子会社など、日本を代表する大手メーカーが品質関連の不正を繰り返していました。ただし安全性には問題がなかったとみられ、今のところ、重大な事故などにつながってはいません。
久保利英明弁護士(以下、久保利):表面上はそうかもしれませんが、僕はかなり深刻な問題だと思いますよ。頭を下げることすらしない某自動車メーカーの社長さんの姿を見ていると、こんな人たちに日本の製造業を任せて大丈夫なのかと、強い危機感を覚えます。 かつて、不二家が「消費期限切れの牛乳原料」を使ったことが原因で経営危機に陥ったことがあります。世間から大きくバッシングされ、今では山崎製パンの子会社になっています。
+皆さんはこのとき、何が問題になったか覚えていますか。製造したクッキーやケーキで食中毒を出したわけではありません。社内規定から「1日」過ぎた牛乳を使った可能性がある、との疑惑が浮上したのがきっかけです。 この問題が発覚したら、大手コンビニやスーパーは不二家の製品を一斉に撤去しました。「社内ルールすら守れない企業の商品は販売できない」というのがその理由です。 過剰反応だと言う人もいるかもしれませんが、僕はまっとうな経済社会の姿だと思います。ルールや契約は守られるべきなのです。
▽最終消費者を見ていない不祥事企業
――多くの人の口に入る食品と、機械などに加工される素材や部品では、扱いが違うという意見もあります。
久保利:BtoBの商品で、取引先が納得しているなら問題ないって言うんでしょう。これも大きな間違いですよ。素材だって部品だって最後の段階では、必ずBtoCのビジネスになるんです。誰が飛行機に乗り、誰が自動車を買うのですか。神戸製鋼や三菱マテリアルが受け取るお金は、究極的には誰が支払っているのですか。多くの一般消費者でしょう。
+ところが、問題を起こした企業にはこうした意識が欠けている。取引先の了解を得ることを最優先にして、視線がその先に向いていないのです。だから動きが極めて遅い。 神戸製鋼がデータ改ざんを把握したのは2017年の8月頃とされていますが、公表したのは10月になってから。食品メーカーだったら、問題を起こした商品を3日で回収しなかったらボコボコにされますよ。BtoBの製造業だから許されると考えるのは甘い考えでしょう。
――一連のデータ改ざんで浮き彫りとなったのが、トクサイ(特別採用)と呼ばれる日本独自の商慣習でした。要求に満たない品質の製品を、取引先の許可を得たうえで納入する仕組みです。
久保利:これにも非常にがっかりさせられましたね。納期を守るために、契約と異なる品質の製品を出荷していたんでしょう。まともな製造業なら、絶対に品質を犠牲にしないはず。相手が認めたとしても、自らの矜恃が許さない。
+しかも一部ではトクサイという慣習を悪用し、相手の承諾を得ないまま不適格な製品を納入したケースすらあります。「過剰品質」と言われるほど安全面を考慮しているので、多少なら許容されるだろうと考えているのでしょうが、それは何の言い訳にもなりません。製造業としての「堕落」だと言うべきです。
――トクサイは一部のメーカーに限らず、日本の製造業ではよく使われる取引手法です。
久保利:ある企業で、トクサイの有無や社内稟議のプロセスを調べたそうです。すると幸いなことに、ここ数年間ではやっていないことが分かりました。ただし、それ以前は不明です。記録が存在しないため遡れないというのです。
+担当者はこう話したそうです。「トクサイは相手が認めなければ実現しない。製品として使われて長い時間が経っているし、事故らしい事故も起きていないから、大丈夫じゃないですか」。
久保利:その企業では、トクサイについて取引先と交渉するのは営業部門に任されていたそうです。品質保証部門はダメ出しをするだけなので、絡むことはほとんどない。営業担当が泣きついて、相手が認めれば「規格外」の製品も受け入れてもらえるようになる、と。
▽「悪法」だと文句を言うのが社長の仕事
――商慣習が現実を反映していないという側面もありそうです。一部の契約書には今も、「欠陥無きこと」「混入無きこと」といった文言が書かれていると指摘する人もいます。納入するメーカーも購入する側も“建前”だと認識しつつ、取引を続けている実態があります。
久保利:それでも契約は契約です。いくら購入する側が強いからといって、(納入するメーカー側が)書かれていることを守らずに後から何とかしようというのは、詐欺に近い。数十年にわたって契約を見直してこなかったのなら、相応の責任を覚悟しないといけません。売り手と買い手が決めたルールを守るのは、資本主義社会のいろはの「い」ですよね。
+以前から続く契約が実態と乖離しているなら、メーカー側はその理由を真剣に考えないといけません。実態から乖離しているのは、自らの技術力が衰えたからではないですか。昔のように一級品が作れなくなったのに、実態を見ていないだけではないですか。
――日産自動車やSUBARU(スバル)は新車の「完成検査」を無資格の従業員がやっていました。長い間、ルールから逸脱した状態が続いていたことになります。
久保利:時代遅れの検査をしても意味がないと考えていたのでしょうね。(生産ラインの各工程で)しっかりと品質を担保していれば、完成車の検査なんて不要だと。 確かにそうかもしれません。しかし本当にそう思うなら、(監督官庁である)国土交通省に意見を表明するのが筋でしょう。代官が絶対的な力を持つ江戸時代ではないんです。悪法だと考えるなら、国会でも規制改革会議でもいいから、とにかく意見を表明すべきです。社長はそれをするのが仕事です。
+もしかしたら、一見すると余計に見える完成検査のプロセスが、日本製品を「超一流」たらしめていたのかもしれませんよ。国交省はそのプロセスが大事だと思っていたわけですし、トヨタ自動車などはルール通りにやっていました。 自分の都合で勝手に解釈するという点で、トクサイと(日産やスバルの)完成検査問題は根底でつながっています。真面目な「モノ作り」ができなくなったから、プライドや矜恃が徐々に薄らいでいき、今の事態を招いていると考えるべきなのでしょう。
▽人間は「悪さ」をする存在
――日本のモノ作りの品質は劣化している、と。
久保利:その通りでしょう。製造業を率いる多くの人が、今なお日本製品の品質は世界一だと考えていること自体、私には信じられません。 私は50年間かけて、170の国と地域を歩いてきました。各国の最高級ホテルにはかつて、ソニーやパナソニックのテレビが置かれていました。今はみんな、韓国のサムスン電子やLGですよね。
+価格競争に負けたからではないでしょう。最高級ホテルは値段で選びませんから。世界の金持ちは、日本製品を「超一級品」だと思っていないということですよ。この傾向は10年以上変わりません。 日本の現場が生みだしている製造物が昔と比べて「たいしたことない」ことは、多くの人が感じているはずです。この事実を直視しないと次に進めません。
――現場の従業員こそが、日本の製造業の強みだと言われてきました。この根幹も揺らいでいるのでしょうか。
久保利:大きな境目を迎えているような気がしますね。昨今の問題から見えてくるのは、人間は「悪さ」をするということです。一方で、コンピューターは嘘をつかない。機械が出した数字を人間がさわれないようにして提示しないと、信頼されない時代になっているのかもしれません。
+欧米企業のホワイトカラーは基本的に、ブルーカラーを信用していません。一方で日本は、人間が信頼できるという前提で現場を考えてきた。この前提が崩れたとき、最も苦しむのは日本の製造業なのかもしれません。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/122800192/122800002/

第三に、1月11日付け日経ビジネスオンライン「神戸製鋼を蝕んだ根深い「カビ型不正」 コンプライアンスに詳しい郷原信郎弁護士に聞く」を紹介しよう(▽は小見出し、――は聞き手の質問、+は回答内の段落)。
・昨年秋に神戸製鋼所での品質データ改ざん問題が発覚して以降、三菱マテリアル子会社など日本を代表するメーカーで同様の問題が相次ぎ判明した。全容解明は途上だが、コンプライアンスに詳しい郷原信郎弁護士は問題の性格を「カビ型不正」と指摘する。日本の製造業の構造問題について聞いた。
――神戸製鋼所を筆頭に複数の名門企業で品質データ偽装が判明し、日本の製造業のブランドイメージは大きく傷つきました。
郷原信郎弁護士(以下、郷原):一連の問題を「製品の品質」に結び付けると、本質を見誤ります。神戸製鋼などは調査を続けているので断定的なことは言えませんが、多くのメーカーは安全性に問題がある商品を顧客に納入していたわけではないと思います。
+日本のメーカーは相当な「安全率」を見込んで製品を設計し、顧客側もそれを期待していた。強度などで多少ばらつきがあっても、実際に使う上で支障が無いなら顧客も文句を言わず受け入れる。だからこそ「特別採用(トクサイ)」という商慣習が認められていたのでしょう。  一方で、長年取引を続けているうちに、数字に対する感覚がいい加減になっていた可能性もある。製品の品質自体に関わる問題というよりむしろ、契約の仕様や商慣習などが問われているのだと思います。ちゃんと調べれば、これから相当な数の問題が明らかになるでしょう。
――不正に手を染めたのは、一部の企業だけではないと。
郷原:契約が実態と乖離していたというレベルなら、多くの企業で起きていただろうと思います。相手に伝えても「正直に言ってくれてありがとう」で済む程度の潜在的な問題は、素材メーカーや部品メーカーを調べれば相当な数があるでしょう。
+ただし、現代では数字の改ざんは社会的に許容されません。トラブルが起きていないからといって、放置できる問題ではないのです。不祥事企業をバッシングするだけでなく、日本の製造業全体が構造的に抱える問題だと捉えて、対策を考える必要があると思います。
▽経営トップは現場の「カビ」を把握できない
――構造的な問題とは。
郷原:今回判明した問題の多くは長年にわたって企業組織の末端に潜んでいた、偽装や改ざん、隠蔽、捏造といった「形式上」の不正です。経営トップが実態を把握していれば、即座にやめさせていたはずです。  ところが経営層が現場の状況を把握できないために、問題を明るみに出せなかった。手を染めている現場の人々は、自分たちの手で過去からのやり方を是正できません。そしていつしか、不正が企業に染みついてしまう。私はこれを「カビ型不正」と呼んでいます。
――不正には様々あると思いますが、「カビ型」はどういう特徴があるのでしょうか。
郷原:違いを鮮明にするために、東芝の粉飾決算と比較してみましょう。東芝のケースでは不正の震源地は経営トップでした。権力闘争を続けていた上層部が、自分に都合の悪い数字を隠そうとして利益を水増ししたわけです。こうした問題を解決するには、経営トップの交代が効果的です。原因をつまんで捨てれば退治できるという意味で、私は粉飾決算を「ムシ型不正」と呼んでいます。
+一方、カビ型不正の典型例が談合です。特定の個人が原因ではなく、組織風土や歴史的経緯など構造的な背景を抱えていることが多い。担当者がAさんからBさんに変わっても、同じように不正が引き継がれていきます。個人の意志とは関係ないところで、不正が続く仕組みになっているからです。
+ムシとは違い、カビの原因は複雑です。汚れや湿気といった根本原因を除去しない限り、根絶することはできません。目に見えているカビを取り除いても、また新たなカビが生えてきます。一連の品質データ偽装も、そういう性格を持っていると思います。
――品質データ偽装がカビだとすると、どういう環境が不正の「温床」になっているのでしょうか。
郷原:30年前や40年前の日本の製造業では、今ほど厳密に数値データが求められていなかったはずです。実績のある工場で一定の原料を用い、きちんとした工程を経た製品なら基本的には信頼できるという認識が、メーカーと顧客の両方にありました。
+ところが技術の進歩にともない、客観性が求められるようになってきました。ハイテク製品だけでなく、昔と同じような使われ方をする素材や部品についても数字が重視される。こうした変化は急激に起きるのではなく、徐々に進行していったと思われます。
+こうした状況で、検査の数字が契約と多少ずれてしまったらどうするか。かつては腕利きの職人が「大丈夫だ、私が保証する」と言って、納入していたのではないでしょうか。すると、これが前例となってしまいます。  契約と数字が乖離した製品を納入するのは、一種の不正です。本当ならやめないといけない。だけど、昔からそういう慣習が続いているし、最近もやってしまった。改めるには、その理由を説明する必要も出てきます。
▽一度でも隠蔽すると悪循環に
――先輩や上司の顔を潰してしまうので、今さら波風は立てられない。
郷原:企業組織の中で、先輩のしてきたことを否定するのは相当な勇気が要りますからね。違和感を感じていたとしても、今まで通りに続けるしかなくなります。課長や工場長といった人たちが、個人の意志で問題を解消するのは極めて難しい。 続けるだけならまだいいのです。問題は「監査」が入ったときにどうするか。先輩に責任を押し付けることはできないし、内部通報窓口に相談するわけにもいかない。そうしたときに「隠蔽」が始まるのです。
+一度隠蔽すると、隠蔽した事実をさらに覆い隠す必要に迫られて悪循環に陥っていく。製品の安全性などには問題が無くても、過去の隠蔽工作を隠すためにデータを偽装するといった不正がどんどん膨れあがっていきます。カビ型不正の恐ろしさは、こういうところにあるのです。
――放置しておくと、カビの増殖は止められません。
郷原:そういう行為をやめるには、どこかで問題点を全部さらけ出す必要があります。経団連は2017年12月、会員企業に対して品質管理に関する不正などの自主調査を求めました。世耕弘成経済産業相も「顧客対応などとは別に速やかに社会に公表する」ことを要請しました。
+ところが今回のようなケースでは、拙速な情報公開が世間の混乱を招く可能性があります。素材や部品といったBtoB製品では、「顧客」が大きく関わってくるからです。 東レ子会社が製造していたタイヤ部材では、彼らが数値の改ざんを把握したとしても、すぐに世間に公表できません。安全性について最終責任を負っているのは顧客であるタイヤメーカー。タイヤメーカーと調整する前に素材メーカーが発表してしまうと、世間は混乱するだけです。
▽一気にあぶり出すことが大事
――その場合、企業はどのような行動を取るのでしょうか。
郷原:一番安全なのは、偽装や改ざんなどの不正を「把握しない」ことになってしまいます。把握してしまったら、顧客への説明や公表など大変なことになりかねません。実態を正直に報告しなくなる現場が増えることは容易に想像できます。そして、カビはさらに根深くなっていく。
――どうすればカビを根絶できるのでしょうか。
郷原:まずは、企業から切り離された第三者による「問題発掘型アンケート」が有効です。全従業員に対して匿名でアンケートを実施して、具体的な問題点を自由に記述してもらうのです。 一定の期限内に申告すれば、社内処分は免除するという方法も有効です。法令違反は無視できませんが、軽微な問題だったら免責するという姿勢を明確にすれば、申し出る人も現れるでしょう。
+そうすることで、どの事業部でどんな問題が発生しているのか、経営トップが把握できるようになります。調査を進めれば、汚れや湿気といったカビの根本原因が見えてくるかもしれません。 品質に関する不正が五月雨式に発覚するような状況は、日本の企業社会にとってマイナスです。企業組織の末端には様々な問題が潜んでいるという前提に立ち、この機会に一気にあぶり出して解消することが重要だと思います。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/122800192/122800003/?P=1

第一の記事で、 『「現場力の劣化」がある。日本の現場では、つねにギリギリの人数で回しており、非正規の従業員も多い。世代交代があるため技能継承も簡単ではない』、 『経営陣の問題だ。ここ5年で「攻めのガバナンス」という言葉が出てきたが、ガバナンスが内部統制や法令順守よりも、利益の追求にウエートを置くようになってしまった。いわば「コーポレートガバナンスのバランスの劣化」だ』、 『「構造問題であるかぎり、今回のような品質問題はどんな製造業でも起こりうる』、 『経営陣はもっと謙虚に受け止めるべき』、などの指摘は、その通りだ。
第二の記事で、 『安全性には問題がなかった』、ことは言い訳にはならず、不二家のケースでみられたように、 『ルールや契約は守られるべきなのです』、という指摘にはさすが説得力がある。 『「悪法」だと文句を言うのが社長の仕事』、 『日本は、人間が信頼できるという前提で現場を考えてきた。この前提が崩れたとき、最も苦しむのは日本の製造業なのかもしれません』、などはまさにその通りだ。
第三の記事で、 『製品の品質自体に関わる問題というよりむしろ、契約の仕様や商慣習などが問われているのだと思います』、 『今回判明した問題の多くは長年にわたって企業組織の末端に潜んでいた、偽装や改ざん、隠蔽、捏造といった「形式上」の不正です。経営トップが実態を把握していれば、即座にやめさせていたはずです。 ところが経営層が現場の状況を把握できないために、問題を明るみに出せなかった。手を染めている現場の人々は、自分たちの手で過去からのやり方を是正できません。そしていつしか、不正が企業に染みついてしまう。私はこれを「カビ型不正」と呼んでいます』、 『不祥事企業をバッシングするだけでなく、日本の製造業全体が構造的に抱える問題だと捉えて、対策を考える必要があると思います』、 『一度でも隠蔽すると悪循環に』、などの指摘はさすが郷原氏だけあって的確だ。 『今回のようなケースでは、拙速な情報公開が世間の混乱を招く可能性があります。素材や部品といったBtoB製品では、「顧客」が大きく関わってくるからです。 東レ子会社が製造していたタイヤ部材では、彼らが数値の改ざんを把握したとしても、すぐに世間に公表できません。安全性について最終責任を負っているのは顧客であるタイヤメーカー。タイヤメーカーと調整する前に素材メーカーが発表してしまうと、世間は混乱するだけです』、 『企業組織の末端には様々な問題が潜んでいるという前提に立ち、この機会に一気にあぶり出して解消することが重要だと思います』、などの指摘も、現実を踏まえているだけに、説得力がある。
タグ:見える化 東洋経済オンライン 東レ 日産自動車 神戸製鋼所 三菱マテリアル 企業不祥事 日経ビジネスオンライン 郷原信郎 現場力を鍛える (神戸製鋼などの部材不正) (その5)(「品質問題」はどんなメーカーでも起こりうる  現場力に詳しいローランドベルガー・遠藤氏が語る根本原因、「トクサイ(特別採用)」は製造業の堕落だ 企業統治に詳しい久保利英明弁護士に聞く、神戸製鋼を蝕んだ根深い「カビ型不正」 コンプライアンスに詳しい郷原信郎弁護士に聞く) 「「品質問題」はどんなメーカーでも起こりうる ローランドベルガー・遠藤氏が語る根本原因」 名門企業で品質にかかわる不祥事が相次いでいる 、現場力の実践的研究 遠藤功ローランド・ベルガー日本法人会長 今回の品質問題には、個別企業だけではなく、日本のものづくりが抱える構造的な問題が背景にあると考えている 世界最高品質追求の圧力 現場力の劣化 経営陣の問題 ガバナンスが内部統制や法令順守よりも、利益の追求にウエートを置くようになってしまった。いわば「コーポレートガバナンスのバランスの劣化」だ 経営陣はもっと謙虚に受け止めるべき 法令違反うんぬんではなく、顧客との約束を果たせていない段階ですでに問題 品質は「基本品質」と「機能品質」に分けられる 特別採用(特採=トクサイ 過剰品質」は悪くない 日本のものづくりが今後どうやって飯を食うのか、大局的に議論する必要がある 「「トクサイ(特別採用)」は製造業の堕落だ 企業統治に詳しい久保利英明弁護士に聞く」 日本の製造業は「堕落」した 不二家が「消費期限切れの牛乳原料」を使ったことが原因で経営危機に陥ったことがあります ルールや契約は守られるべきなのです 最終消費者を見ていない不祥事企業 悪法」だと文句を言うのが社長の仕事 人間は「悪さ」をする存在 日本は、人間が信頼できるという前提で現場を考えてきた。この前提が崩れたとき、最も苦しむのは日本の製造業なのかもしれません。 「神戸製鋼を蝕んだ根深い「カビ型不正」 コンプライアンスに詳しい郷原信郎弁護士に聞く」 製品の品質自体に関わる問題というよりむしろ、契約の仕様や商慣習などが問われているのだと思います 契約が実態と乖離していたというレベルなら、多くの企業で起きていただろうと思います 経営トップは現場の「カビ」を把握できない 今回判明した問題の多くは長年にわたって企業組織の末端に潜んでいた、偽装や改ざん、隠蔽、捏造といった「形式上」の不正です。経営トップが実態を把握していれば、即座にやめさせていたはずです。  ところが経営層が現場の状況を把握できないために、問題を明るみに出せなかった。手を染めている現場の人々は、自分たちの手で過去からのやり方を是正できません。そしていつしか、不正が企業に染みついてしまう。私はこれを「カビ型不正」と呼んでいます ムシとは違い、カビの原因は複雑です。汚れや湿気といった根本原因を除去しない限り、根絶することはできません。目に見えているカビを取り除いても、また新たなカビが生えてきます。一連の品質データ偽装も、そういう性格を持っていると思います 技術の進歩にともない、客観性が求められるようになってきました 一度でも隠蔽すると悪循環に 一度隠蔽すると、隠蔽した事実をさらに覆い隠す必要に迫られて悪循環に陥っていく。製品の安全性などには問題が無くても、過去の隠蔽工作を隠すためにデータを偽装するといった不正がどんどん膨れあがっていきます。カビ型不正の恐ろしさは、こういうところにあるのです 今回のようなケースでは、拙速な情報公開が世間の混乱を招く可能性があります。素材や部品といったBtoB製品では、「顧客」が大きく関わってくるからです。 東レ子会社が製造していたタイヤ部材では、彼らが数値の改ざんを把握したとしても、すぐに世間に公表できません。安全性について最終責任を負っているのは顧客であるタイヤメーカー。タイヤメーカーと調整する前に素材メーカーが発表してしまうと、世間は混乱するだけです 一気にあぶり出すことが大事 企業組織の末端には様々な問題が潜んでいるという前提に立ち、この機会に一気にあぶり出して解消することが重要だと思います
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企業不祥事(神戸製鋼などの部材不正)(その4)(役員エレベーターと不正発覚の不機嫌な関係、東レ不正「ネットに書かれたから公表」が日本企業に与えた衝撃、神鋼ショックが原発にも 大飯・玄海再稼働延期の裏事情) [企業経営]

企業不祥事(神戸製鋼などの部材不正)については、昨年12月3日に取上げた。今日は、(その4)(役員エレベーターと不正発覚の不機嫌な関係、東レ不正「ネットに書かれたから公表」が日本企業に与えた衝撃、神鋼ショックが原発にも 大飯・玄海再稼働延期の裏事情)である。

先ずは、健康社会学者の河合 薫氏が12月5日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「役員エレベーターと不正発覚の不機嫌な関係 人間だもの、社長さんだって“愚か”になります」を紹介しよう(▽は小見出し、+は段落)。
・今回は「経営者が経営できなくなる時」というテーマで、あれこれ考えてみる。 ちょうど2カ月ほど前、大手メーカーに勤務している中間管理職の人たちとちょっとした会合があった。 参加者は4人。うち2人は海外駐在経験者である。  会合ではさまざまな情報交換に加え、“無責任な上司”の話で盛り上がった。
・というのも、ちょうど「瀕死の部署を再生したら、左遷されちゃった!」の回を公開した直後で、「あれ、メチャメチャわかります!」と1人が言い出した途端、「うちもうちも!」と“上”への不満が吹き出したのである。
 +「うちの会社ってちょっと儲かると、すぐ経営コンサルタントを雇うんです。でも、それって現場には何の役にもたたない。現場、現場で課題は違うし、仕事は常に想定外の連続です。はっきり言って意味ない。意味があるとすれば、効率化とか生産性向上に『ちゃんと取り組んだ』と、上が満足するってことぐらいです」  「えっと、コンサルにはどれくらい払うんですか?」(河合)  「正確な数字はわからないけど…、億は払ってますよ」  「それくらい払ってるでしょうね。うちもこないだもコンサルが入りましたよ。ずっと隣にいるから邪魔でしょうがない(笑)」 
▽存在感ゼロの社長に存在意義はある?
 +「今の社長ってやたら数字に強いんですよ。それはそれでいいんですけど、数字のことしか言わないから、何を考えているかのメッセージが全然伝わらない」  「社長のメッセージって、年頭の挨拶とかそういうのですか?」(河合)  「毎週、月曜朝に社長から社員全員にメールが届くんですよ。数字ばっかで最後まで読める人、いないと思います。っていうか、読もうって気にもならない」 
 +「いやいや、うちはメールはないけど社長の顔も見たことないですよ。ホントに存在してるのか? って、部下が疑うほど存在感も影響力もないですから(笑)」  「うちは逆です。やたらと出たがりで、年頭に役員一同が全国を回って講話するんです」  「トップが一つひとつの現場に行くだなんて、いい会社じゃないですか!」(河合) 「でもね、どこに行っても同じことしか言わないし、社員と交流の場もないんですよ。テレビ会議でいっせいにやれば、現場の負担が減るのに~ってみんなグチってますよ」
 +「うちは海外の支店を年に1回社長が回るんですけど、国賓並みの待遇で迎えなきゃならない。わけわからないでしょ」(←海外駐在時の話) 「うちはそこまですごくはないですけど、お付きの人が多すぎ。現地のスタッフは“マイケル!”って呼んでますよ」  「マイケル??」(河合)  「マイケル・ジャクソンです(笑)」 ……etc、etc。
・トップが聞いたら凹んでしまうかもしれないけど、これが“現場の声”です。 下は“上”に不満を募らせ、上は“下”を嘆くのは万国共通。最初は初対面ということもあり、お互い遠慮し抑え気味に話していたが、コラムの話題になった途端、ここにも書けない“意味不明”っぷりを「これでもか!」というほど教えていただき、大いに参考になりました。
・で、最後に彼らに私の「長年の問い」をぶつけることに。 「なぜ、トップがそんなに無能でも、会社はつぶれないのか?」と。 一応私なりの仮説はある。が、当事者の彼らに確かめたかった。 
・すると……… 「何を言ってるんですか河合さん。社長が何もしなくても、会社は回るんです」と異口同音の回答が返ってきた。 「現場レベルには優秀な人がいる」 「やるべきことはだいたい決まってる」 「社長の承認を得なくてもチャレンジできることは多い」 「例え失敗しても経営を揺るがすほどの損失にはならない」
・ふむ。予想通り、まさしく「ディルバートの法則」である。 「組織の生産性に直接的に関係しているのは組織の下層部で働く人たちで、上層部にいる人たちは生産性にほとんど寄与していない」(byスコット・アダムス)
▽組織に何が足りなかったのか?
・「でも、通貨危機とか、外部環境が大きく変わったら、いくら現場が頑張ってもダメですよね?」(河合)  「そのとおり」(全員うなずく)  「あと、不正の内部告発への対応とか?」(河合)  「そうだね」(全員うなずく) 
・……その2カ月後、 神戸製鋼所、三菱マテリアル、日産自動車、スバル、そして、東レ……。 彼らと話していたことが現実になった。 次々と報じられる“大企業”やその子会社の不祥事は、まさしくデジャブ(4人は該当企業の社員でありません。念のため)。
・もちろんこれらの“不正”発覚が、内部告発によるものなのかどうかは定かではない。 実際、神戸製鋼所の不正問題が発覚した直後、産経新聞の取材に応じた前社長の佐藤広士相談役は、「内部告発だったのか」との記者の質問にこう答えている。 「工場からの申告だ。(川崎博也会長兼)社長が品質管理を徹底しようと、もう一度全工場の問題点を洗い出し、その中で分かったことらしい。発表が連休中になったのは、分かったことを早急に発表しようとしただけで、他意はない」(ソースはこちら)。
・だが、神戸製鋼の副社長は、「改ざんは10年くらいまえから」と日本経済新聞の取材に答えた(こちら)が、それを聞いた元社員が、 「少なくとも40年前には、製造現場で『トクサイ(特別採用)』という言葉を一般的に使っていた。今に始まった話ではない」 と告発(こちら)。
・東レにいたっては、元社長で現相談役の榊原定征氏は経団連会長としての記者会見で、 「極めて残念。日本の製造業に影響を及ぼしかねない深刻な事態だ。(問題は)発覚した時点で可及的速やかに報告しないといけない」 と不正発覚問題に言及。 その翌日、東レが榊原氏の社長・会長在任中に、タイヤ補強材などの製品データを一部改ざんしていたことが判明した。 しかも、東レの日覚昭広社長は、子会社の不正を把握してから発表までに1年4カ月も過ぎていることについて、 「今月初めにインターネット上に改ざんに関する書き込みが出るまで、問題を公表するつもりがなかった」 と明かしている。
・また、日産の西川廣人社長は、 「不正の原因は、工場の課長と係長の間のコミュニケーションにギャップがあった」 と記者会見で述べたが、社内から「現場に責任を押し付けるのか!」と大ブーイングが起こり、会見の翌日、 「自分たちにも責任があった」 と釈明した(こちら)。
・これが日本を代表するメーカーの“トップ”かと思うと情けなくなってしまうのだが、とにもかくにも“風通しが悪い”。企業という一つの共同体で、上と下がつながっていない、というかトップが「つなぐ努力をしていない」のだな、きっと。
▽役員エレベーターがあってもなくても
・私はこれまでたくさんの企業を取材させていただいたり、多くの企業に講演に呼んでいただいたが、“問題”を抱える会社は例外なく上と下が断絶していた。 で、大抵の場合、その断絶は“見える”。 
 +「役員専用のエレベーター」のある会社
 +「ナマ社長」を社員が見たことない会社
 +「役員専用フロア」がある会社
・具体的にはこんな具合だ。 ちなみに先の会合に参加した4人の会社は、上記の条件をすべて満たしていた。ということは……。これ以上考えるのはやめておこう。 「役員専用のエレベーターやフロアがあって何が悪いんだ!?」と思われるかもしれないけど、仮にあったとしても「社長に下とつながる本気」があれば、やがてそれは無駄なものと化す。
・私がこれまで取材した経営者のうち、生産性を上げ、世界で通じるワザを持っている企業のトップは、誰一人として社長室に座り込んではいなかった。 あるトップは毎朝社内を1時間かけて歩きまわり、 あるトップは社食で従業員たちと食事をし、 あるトップは社長室にバーを作り、社員と夜通し飲んでいた。 それぞれのやり方で、それぞれの考えで、社員と“人”としてつながる場や機会を意識的に作り、“walking management”を実践していたのだ。
・かつてJALが経営危機に陥ったとき、西松遙社長(当時)が社員たちと同じ空間に机を並べ、同じ社食で昼食をとり、同じ通勤手段を使い、同じ通用門、同じエレベーターを使っていたけど、とどのつまり、社員が人ならトップも“人”。
・今回の不正発覚問題の原因は、さまざまな専門家の方たちがそれぞれの専門的な知識で説明しているけど、健康社会学的には実にシンプル。 「“人”であることを忘れた結果」――。と、私は考えている。
・「今の会社にきて、いちばん戸惑ったのは社長室がないことでした。 いつも部下たちに見られているから、すごい緊張する。ちっともくつろげない。ホントにイヤだった。 でもね、だから前の会社で失敗したんだってことがよくわかった。
・孤立してちゃ、経営はできない。社長は外の人とつながるのは一所懸命だけど、いちばん大切なのは社内でつながることなんですよ」  ある企業のトップだった方が、こんな話をしてくれたことがある。 彼は10年ほど前に、現場の不正の責任を取って辞任。社員400人の企業から、20人の企業に移った。
▽どんな人物でも愚かになり得る。人間だから。
・前職時代にインタビューしたときには、ブランドもののスーツでビシッと決めていたけど、このときはラフなジャケットにノーネクタイ。 服装の変化にも驚いたけど、目線の低い話し方になったことに驚嘆した。
・当たり前のことだが、社長も人。どんなに高い知性と、先見性と、並外れた能力を持っているトップでも、基本的には“人”。ということは、どんな人でも愚かになる可能性がある、ってことだ。 人は誰しも過ちをおかす。感情的になることもあれば、傲慢になったり、保身に走ることだってある。
・その弱さを克服するために、人は他者とつながり、他者と協力することで生き延びてきた。信頼という関係性を築くことで、愚かになったり、自分勝手になった際の保険を掛けたのである。 企業の中でも同じことだ。 上と下が“つながる”にはその場の空気、すなわち視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の五感を共有できる“場”が必要不可欠。
・冒頭の会合で“下”は「毎週月曜日に社員全員にメールする社長さん」「年頭に現場に出向いて講話する経営陣」を嘆いていたけど、おそらく“上”はそれでつながると思い込んだ。 でも、“下”はつながらなかった。  「見る(視覚)、聞く(聴覚)」だけでは、心は“つながった”と認識できない。
・元気な会社のトップが歩き回り、昼食を共にし、社長室のバーで語りあったように、触れる(触覚)、匂う(臭覚)、味わう(味覚)が満たされて初めて心と心の距離感が縮まっていく。 タバコの好き嫌いはさておいて、「喫煙室の会議」が盛り上がる一因も、五感の共有なのかもしれない。
・多くのリーダーシップ論には「クオリティータイム(質の高い時間)」の重要性が書かれているけど、実際には「クオンティティータイム(量を伴う時間)」が欠かせない。 社長を“見る”機会が増えるだけで、「雲の上の存在で直接話してはいけない存在」という社員が抱きがちなイメージは打破できるし、接する時間が長くなればなるほど相手が身近になり、互いを理解する力も育まれる。
・それを国賓待遇で迎えたのでは、接する時間を極小化するようなものだろう。貴重な機会に距離を広げてどうするんだ。 よく「経営者は孤独」と言うが、むしろ、孤独ではなく、“孤立”していることが問題で。 やっぱり「孤立してちゃ、経営はできない」のだと思う。
▽「経営幹部は通常の報告を監督する以上の仕事をしなければならない」
・シドニー・フィンケルシュタインの名著『Why smart executives fail and what you can learn from their mistakes(邦題:『名経者が、なぜ失敗するのか?』)」は、6年間という歳月をかけて「失敗した企業」40社を調査し、当事者たちへのインタビューも実施し、経営者が陥りやすい失敗のメカニズムや避ける方法を書いた一冊である。 「これはビジネスに関する書籍だが、調査を終えたときにはっきりしたのは、これが“人間”についての考察であるということだった」(by フィンケルシュタイン)
・500ページ近いこの大著に、上下の“つながり”に言及した部分がある。 「組織が厳格すぎたり、階層構造的になると、当事者たちは緊急情報に上手く対処できない。NASAのスペースシャトルの失敗はその典型的ケースだ。NASAでは直属の上司・部下の関係を超えて、情報が行き交うことは絶対になかった。すべての管理職は、直属の部下から上がってくる情報だけに頼っていた。 
・経営幹部は通常の報告を監督する以上の仕事をしなければならない。自ら探し求めなければ手に入らない情報を、手に入れなければならない」――(“失われたコミュニケーション・チャネル”の章より抜粋)。 自ら探す情報……ね。
・そういえば元気な会社の社長さんたちには、もうひとつ共通していることがあった。 彼らの名刺に「メルアド」と「携帯電話の番号」が、ちゃんと記されていたのである。 ほら、日本を代表する企業のトップの名刺って、連絡先が代表になっているケースが多いじゃないですか。あれだとインタビューや取材のお礼も、つい後手になりがちで。 私から情報が入るわけじゃないけど、こんな小さなところにも、失敗の予兆は潜んでいるのかもしれない。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/200475/120400134/?P=1

次に、ノンフィクションライターの窪田順生氏が12月7日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「東レ不正「ネットに書かれたから公表」が日本企業に与えた衝撃」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・「内々に処理するつもりだったが、ネット掲示板の書き込みがあったので公表することに」――経団連会長の出身企業・東レの正直すぎるカミングアウトに注目が集まっている。ネット書き込みからの不正公表がスタンダードにならざるを得ないほか、内部告発も増えるのではないかと考えられるからだ。
▽ネットの書き込みが発端だった!東レ不祥事が注目を集める理由
・「うちの会社のヤバい話もネットに書き込んでやれ」なんて人が、これから増えていくのではないだろうか――。 神戸製鋼、三菱マテリアルに続いて、品質データの改ざんが発覚した東レ。当初は社内で内々に処理をしようとしていたのが、一転して公表に踏み切ったのは、ネット掲示板の書き込みのせいだと会見で明かしたことが話題を呼んでいる。
・「不正ドミノ」というものは、しょっぱなにバレた企業が一番壊滅的なダメージを負い、2番目、3番目と後出しした企業は傷が浅くなっていくというのが、企業不祥事のセオリーだ。 たとえば、4年前に世間が大騒ぎした食品の産地偽装問題は、発端の阪急阪神ホテルズでは社長が辞任に追い込まれるなど厳しいバッシングにあったが、それから雨後のタケノコのように同様の不正が発覚した外食企業の名を、もはや世間は覚えていないだろう。三菱自動車を日産子会社にした燃費不正問題に関しても、次に発覚したスズキへの風当たりはぐっと軽く、自動車業界の人間でなければ「ああ、そういえばそんなことあったね」という印象だろう。
・にもかかわらず、東レは三菱マテリアルよりも注目を集めている。その背景には「ネット掲示板の書き込みにビビって公表なんて漫画みたいな話、本当にあるんだな」という世間の驚きもさることながら、危機管理を生業としているコンサルタントなどからは、「東レのカミングアウトによって、今回の『改ざんドミノ』とはまた別の新しい『ドミノ』が始まるのでは」、と危惧する声が上がっていることがあるのだ。 それは、「ネット告発ドミノ」である。
▽日本企業は他社の謝罪会見を研究して真似をする
・どういうことか、ご説明しよう。実は、これまでもネット掲示板での告発を受けて、大企業が不正を白状するというようなケースはあった。そういう匿名の告発を、今回の「週刊文春」のような週刊誌やネットニュースが嗅ぎつける。そこで企業側が「ああ、もうこれは逃げ切れない」と謝罪会見をセッティングするというのが、わりと多いパターンだ。実際、筆者もそういう企業から相談を受けたことが何度かある。
・ただ、こういうケースの場合でも、「たまたまタイミングが重なっただけで、もともと公表するつもりでした」なんてスタンスを貫き通す企業が圧倒的に多い。 東レのように「ネット掲示板に書き込まれなければ公表しなかったのか」とさらなる集中砲火を浴びるのを避けるための、自己保身からの詭弁であることは言うまでもないが、もうひとつ大きな原因としては、日本の企業文化の中に蔓延する「前例主義」のせいだ。
・不祥事が発覚した企業は必ずといっていいほど、自分たちと同様の不祥事や、競合などがどのような対応をしたのかを意識する。そこで似たような釈明、似たようなお詫びの言葉を自分たちのケースに置き換えてコピペする。 つまり、どこかの誰かが始めた「ネット掲示板へのカキコミで公表しましたとは、口が裂けても言わない」という不文律が、問答無用で従うべき企業危機管理の「定石」となってしまっているのだ。
・いやいや、そこまで硬直したマニュアル主義であるわけがないと主張する人もいるが、ならば世の中に溢れる「謝罪会見」をどう説明するのか。 業種、会社の規模、不祥事の中身にかかわらず、登壇者は似たような出で立ちをし、似たようなタイミングと角度で頭を下げ、似たような話法で謝罪と反省の言葉を口にしているではないか。
▽不祥事会見の「定石」を あっさり破った東レ
・「いやあ、あの社長の謝り方はかなりユニークだったね」というケースはほとんどない。つまり、日本の企業危機管理というのは、「前例」から逸脱することを極度に恐れ、さながら伝統芸能のように「様式美」を追求する世界なのだ。 では、こういう「前例主義」に凝り固まった日本企業の中で、東レのような大企業が、清々しいくらい正直に「もともと公表するつもりはありませんでしたが、ネット掲示板に出てしまったので」なんてカミングアウトをしたら、どんなことが起こるだろうか。
・社長がいつもジーンズ姿みたいな新興ベンチャーではない。榊原定征・経団連会長を輩出した「ザ・日本企業」の影響力を踏まえると、なにかしらの不都合な事実をネットに書き込まれた企業は、それを即座に公表するのが当然という風潮が生まれないだろうか。
・実際、危機管理の専門家として名高い郷原信郎弁護士も、ご自身のブログにその可能性を示唆している。 「経団連会長出身企業がそのように理由を説明して問題の公表を行った以上、他の企業も、今後データ改ざん等の具体的事実が掲示板に書き込まれる都度、同様の対応をせざるを得ないことになる」(2017年11月29日) ご指摘の通りだと考える。さらにもっと言ってしまうと、この公表によって「内部告発」の動きも活性化されることが予想される。
▽名門企業・東レの敗北宣言に大企業は戦々恐々
・既にさまざまな方が指摘しているが、日本社会ほど内部告発に厳しい社会はない。組織内で良かれと思って声をあげると、孤立して左遷されるのはお約束。最悪、「自分から辞めたいという申し出があった」という体裁で、退職に追い込まれる。
・そういう人を守るということでつくられたはずの公益通報者制度も中身がスカスカで、国が調査をおこなったところ、半数近くの通報者が退職に追い込まれたり、嫌がらせなどを受けていることが分かっている。 こういう社会の中で、東レのような大企業が、「ネット掲示板へのカキコミ」に対して「敗北宣言」とも取れるような会見をおこなえば、不正を告発しようと悩む人の背中を押すのは容易に想像できよう。
・無論、筆者が指摘しているようなことは、企業の危機管理の担当者は十分承知している。東レの会見を受けて、今頃はネットのモニタリングやアラート体制の強化などを呼びかけていることだろう。あるいは、「どうやったらそういう書き込みを消せるのだ」なんて、あまり褒められないような「策」を講じる方もいるかもしれない。 だが、そういう焼け石に水的な対策や、不毛な議論をおこなうより遥かに有益な方法がある。中国企業ファーウェイのやり方を見習うのだ。
▽内部告発者を2段階昇進!ファーウェイCEOの戦略とは
・今年9月、ファーウェイが職員向けに開いているオープンコミニティ「心声社区」に、創始者である任正非CEOの「真実を貫いてこそHuaweiは充実する」(原題:要堅持真実、華為才能更充実)というメールが公開された。そこにはこのように書かれている。 「我々は職員および幹部が真実を語ることを奨励すべきだ。真実には正確なものと不正確なものがあるので、各組織がそれを採択すべきかどうかは問題ではないが、風紀を変える必要はある。真実は組織の管理を改善するのに役立つが、嘘は管理を複雑化し、コストを高める要因となる。よって、会社は梁山広氏(社員番号00379880)のランクを即日2つ昇進させ16Aとし、そのほかの昇進や一般査定に影響しないものとする。自らの職位を選べ、研究所での仕事を許諾。鄧泰華氏の保護下に置かれ、打撃や報復を受けないものとする」(PCWatch 2017年9月6日)
・このメールでは梁氏がどのような「事実」を語ったのかは明らかにされていないが、何かしらの開発に関して「内部告発」をしたのではないかといわれている。 実際、ファーウェイ・ジャパンの広報に確認したところ、「心声社区」は「本音を自由に言い合える場所」という意味の造語で、社員の不満を直接経営に反映させるために設置されており、SNSを介して外部にも公表されている。 もちろん、この梁氏が本当にここまで厚遇されているのかどうかはわからないが、この「内部告発者を昇格させる」という型破りな対応が、ファーウェイ社内だけではなく、中国国内からも多数の賞賛の声を寄せられたのだ。
▽内部告発者を保護することが ネット告発の減少につながる
・いやいや、ああいう国だから「建前」で取り繕っているだけだと、斜に構えた見方をする方も多いだろうが、「内部告発」ということに関していえば、先ほども申し上げたように、我々の国は「建前」ですらも維持できていないという体たらくである。 「個々のモラルだったら絶対に日本人が勝つ!」とか「このやり方では出世目当ての告発合戦になりそうだ」なんて感じで、さまざまな反論が聞こえてきそうだが、個人的には日本企業が素直に見習うべきスタンスだと考えている。 なぜかというと、このファーウェイ方式が、次から次へと組織内部から悪い話が噴出する「ネット告発ドミノ」の対策として、実は最も有効だからだ。
・「ネット告発」を世の中から消すために最も有効な手段は、内部告発は匿名でコソコソとおこなわれなくてはいけないものだ、というカルチャーを変えることだというのは言うまでもない。 つまり、「内部告発」を「裏切り」や「経営危機」というマイナスで捉えることなく、企業がより良くなる「成長のチャンス」として捉えることが当たり前の社会となれば、「匿名のネット告発」など、何の意味もなさなくなっていくのである。
・神戸製鋼や東芝など、「嘘」によって瀬戸際に追い込まれる名門企業が続出している今、必要なのは東レのような財界のリーダー的な企業が、「ネット掲示板のおかげで公表しました」なんてカミングアウトをすることではない。ファーウェイがしたように、カルチャーを変えるような「劇薬」をぶちまけることなのである。
・貴乃花親方がバッシングされることに違和感を覚える人も多い中で、内部告発者が昇進しました、なんて取り組みをはじめた企業が現れれば、一気に社会から支持され、新たな危機管理の定石として普及する可能性だってなくはない。 嘘は管理を複雑化し、コストを高める要因となる――。「ちょっとくらいの改ざん」が常態化してしまった日本のものづくり企業は、いまこそファーウェイCEOのこの言葉を噛みしめるべきではないのか。
http://diamond.jp/articles/-/152094

第三に、12月12日付けダイヤモンド・オンライン「神鋼ショックが原発にも、大飯・玄海再稼働延期の裏事情」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・ついに、電力業界にも“神鋼ショック”の波が押し寄せた──。関西電力大飯原子力発電所3、4号機(福井県)と九州電力玄海原発3、4号機(佐賀県)の再稼働が、延期されることになった。
・かねて、10月8日に発覚した神戸製鋼所による検査データの改ざんを受け、原発を保有する電力各社は危機感を募らせていた。というのも、神戸製鋼は西日本の電力会社が採用する加圧水型軽水炉(PWR)の原子炉格納容器をはじめ、全国の原発の主要設備に多くの部材を納入しているからだ。 データが改ざんされた神戸製鋼の製品が原発で使用されていることが判明すれば、真っ先に稼働停止に直結しかねない。電力業界の対応は誠に素早かった。
・しかし、その電力業界らしい“横並び”の対応が、かえって“お上”である原子力規制委員会の怒りを買ってしまった。 11月9日に行われた原子力規制庁の会合には東京、中部、関西、九州の4電力の原発担当幹部が出席し、神戸製鋼のデータ改ざん問題について規制委側に「原子力施設の安全性に対し、直ちに重大な影響を与える問題ではない」と回答する資料を提出した。
・すると、規制委の山中伸介委員は「非常に不満足。(原発の)安全上重要な部分に、神戸製鋼の製品が使われているかどうかを聞いている」と“出直し”を指示した。 その後、電力各社がさみだれ式に、規制庁に報告を行う事態になり、結果的に対応が後手に回った。 関電、九電の両社は、再稼働延期の理由について、神戸製鋼のデータ改ざん問題への対応に時間がかかるためとしている。
▽終わりが見えない安全確認
・「給与の完全復活が遠のいた」。ある関電社員はこう嘆いた。  関電も九電も早期に原発を再稼働させ、収益を改善させるシナリオを描いていた。特に関電は大飯3、4号機を再稼働させた後に、電気料金の値下げを予定していたが、そのスケジュールも先送りになってしまった。
・電力業界からは規制委に対する恨み節も聞こえてくるが、更田豊志委員長は「むちゃなことを言っているつもりはない。原発を運用する者としての責任」と意に介さない。今後の対応も、「長期戦になる可能性はある」と述べた。 つまり、神鋼ショックによる、電力業界への“とばっちり”は、まだ終わりが見えないのだ。
・電力各社は、まずは原発の安全上重要な機器に絞って安全確認の調査を進めてきたが、今後は調査対象を広げざるを得ない。 神戸製鋼の報告書によると、データ改ざんは5年以上にわたって行われていた。さらに過去へさかのぼって調査が必要になる事態も予想される。 やはり原発は、見通しの立たない事業。今後も“外野”に振り回される可能性は少なくない。
http://diamond.jp/articles/-/152583

第一の記事で、 『「うちの会社ってちょっと儲かると、すぐ経営コンサルタントを雇うんです。でも、それって現場には何の役にもたたない。現場、現場で課題は違うし、仕事は常に想定外の連続です。はっきり言って意味ない』、というのには笑ってしまった。確かにトップの自己満足のためのコンサルティングでは、意味がない。 『東レにいたっては、元社長で現相談役の榊原定征氏は経団連会長としての記者会見で、 「極めて残念。日本の製造業に影響を及ぼしかねない深刻な事態だ。(問題は)発覚した時点で可及的速やかに報告しないといけない」 と不正発覚問題に言及。 その翌日、東レが榊原氏の社長・会長在任中に、タイヤ補強材などの製品データを一部改ざんしていたことが判明した。 しかも、東レの日覚昭広社長は、子会社の不正を把握してから発表までに1年4カ月も過ぎていることについて、 「今月初めにインターネット上に改ざんに関する書き込みが出るまで、問題を公表するつもりがなかった」』、というのは、見るに堪えないドタバタ劇だった(詳しくは第二の記事で)。 『孤立してちゃ、経営はできない。社長は外の人とつながるのは一所懸命だけど、いちばん大切なのは社内でつながることなんですよ」』、 『「経営幹部は通常の報告を監督する以上の仕事をしなければならない」』、などの指摘はその通りだ。
第二の記事で、 『「経団連会長出身企業がそのように理由を説明して問題の公表を行った以上、他の企業も、今後データ改ざん等の具体的事実が掲示板に書き込まれる都度、同様の対応をせざるを得ないことになる」』、との郷原氏の指摘は確かにその通りだろう。 『内部告発者を2段階昇進!』、させたファーウェイは立派だ。内部告発を徹底的に忌み嫌う日本企業もツメの垢でも煎じて飲ませたいくらいだ。
第三の記事で、 『大飯・玄海再稼働延期』、につながったとは、神戸製鋼も罪つくりなことをしたものだ。現在のところ、原発のどんな部分に使われたのかは不明だが、特に安全性が絶対視される原発用の部材でまで不正があったというのでは、『終わりが見えない安全確認』という泥沼に入り込んでしまったようだ。
タグ:神戸製鋼 企業不祥事 日経ビジネスオンライン ダイヤモンド・オンライン 窪田順生 河合 薫 郷原信郎弁護士 (神戸製鋼などの部材不正) (その4)(役員エレベーターと不正発覚の不機嫌な関係、東レ不正「ネットに書かれたから公表」が日本企業に与えた衝撃、神鋼ショックが原発にも 大飯・玄海再稼働延期の裏事情) 「役員エレベーターと不正発覚の不機嫌な関係 人間だもの、社長さんだって“愚か”になります」 経営者が経営できなくなる時 うちの会社ってちょっと儲かると、すぐ経営コンサルタントを雇うんです。でも、それって現場には何の役にもたたない。現場、現場で課題は違うし、仕事は常に想定外の連続です。はっきり言って意味ない うちは海外の支店を年に1回社長が回るんですけど、国賓並みの待遇で迎えなきゃならない。わけわからないでしょ ディルバートの法則 「組織の生産性に直接的に関係しているのは組織の下層部で働く人たちで、上層部にいる人たちは生産性にほとんど寄与していない」(byスコット・アダムス) 東レにいたっては、元社長で現相談役の榊原定征氏は経団連会長としての記者会見で、 「極めて残念。日本の製造業に影響を及ぼしかねない深刻な事態だ。(問題は)発覚した時点で可及的速やかに報告しないといけない」 と不正発覚問題に言及 その翌日、東レが榊原氏の社長・会長在任中に、タイヤ補強材などの製品データを一部改ざんしていたことが判明した しかも、東レの日覚昭広社長は、子会社の不正を把握してから発表までに1年4カ月も過ぎていることについて、 「今月初めにインターネット上に改ざんに関する書き込みが出るまで、問題を公表するつもりがなかった」 と明かしている “問題”を抱える会社は例外なく上と下が断絶 役員専用のエレベーター」のある会社 +「ナマ社長」を社員が見たことない会社 +「役員専用フロア」がある会社 、“walking management” 孤立してちゃ、経営はできない。社長は外の人とつながるのは一所懸命だけど、いちばん大切なのは社内でつながることなんですよ 多くのリーダーシップ論には「クオリティータイム(質の高い時間)」の重要性が書かれているけど、実際には「クオンティティータイム(量を伴う時間)」が欠かせない 経営幹部は通常の報告を監督する以上の仕事をしなければならない シドニー・フィンケルシュタイン 「東レ不正「ネットに書かれたから公表」が日本企業に与えた衝撃」 経団連会長の出身企業・東レの正直すぎるカミングアウトに注目 当初は社内で内々に処理をしようとしていたのが、一転して公表に踏み切ったのは、ネット掲示板の書き込みのせいだと会見で明かしたことが話題 ネット告発ドミノ 不祥事会見の「定石」を あっさり破った東レ 「経団連会長出身企業がそのように理由を説明して問題の公表を行った以上、他の企業も、今後データ改ざん等の具体的事実が掲示板に書き込まれる都度、同様の対応をせざるを得ないことになる」 名門企業・東レの敗北宣言に大企業は戦々恐々 内部告発者を2段階昇進!ファーウェイCEOの戦略とは 内部告発者を保護することが ネット告発の減少につながる 「神鋼ショックが原発にも、大飯・玄海再稼働延期の裏事情」 関西電力大飯原子力発電所3、4号機(福井県)と九州電力玄海原発3、4号機(佐賀県)の再稼働が、延期 西日本の電力会社が採用する加圧水型軽水炉(PWR)の原子炉格納容器をはじめ、全国の原発の主要設備に多くの部材を納入 電力業界らしい“横並び”の対応が、かえって“お上”である原子力規制委員会の怒りを買ってしまった 原子力施設の安全性に対し、直ちに重大な影響を与える問題ではない」と回答する資料を提出 規制委の山中伸介委員は「非常に不満足。(原発の)安全上重要な部分に、神戸製鋼の製品が使われているかどうかを聞いている」と“出直し”を指示 終わりが見えない安全確認 電力各社は、まずは原発の安全上重要な機器に絞って安全確認の調査を進めてきたが、今後は調査対象を広げざるを得ない
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エネルギー(その2)(原子力から脱却しないと日本は二流国に陥る メルケル首相のブレイン、ジェレミー・リフキン氏の警鐘、テスラが世界最大の蓄電システムを稼働、ついに大手電力が「再エネは怖い」と知った 2018年は日本の電力市場の転換点になる) [経済政策]

一昨日に続いて、エネルギー(その2)(原子力から脱却しないと日本は二流国に陥る メルケル首相のブレイン、ジェレミー・リフキン氏の警鐘、テスラが世界最大の蓄電システムを稼働、ついに大手電力が「再エネは怖い」と知った 2018年は日本の電力市場の転換点になる)を取上げよう。

先ずは、昨年12月14日付け日経ビジネスオンライン「原子力から脱却しないと日本は二流国に陥る メルケル首相のブレイン、ジェレミー・リフキン氏の警鐘」を紹介しよう(▽は小見出し、――は聞き手の質問、+は回答内の段落)。
・カーシェアなどのシェアリングエコノミー(シェア経済)が世界中で広がっている。米ウーバーテクノロジーズや米エアビーアンドビーの普及に代表されるシェア経済拡大の背景にあるのは、技術の進化で可能になった「所有」から「共有」というパラダイムシフトだ。 
・脱原発や「インダストリー4.0」を進めるドイツのメルケル首相のブレーンとして知られ、モノのインターネット(IoT)の普及とシェア経済の拡大など「第3次産業革命」の到来を予言してきた文明評論家のジェレミー・リフキン氏は、同革命への日本の対応の遅れを指摘。その理由は「原子力から脱却できないことにある」と警鐘を鳴らす。
――世界の第3次産業革命の進展と、日本の現状をどう見ていますか。
・ジェレミー・リフキン氏(以下、リフキン氏):欧州連合(EU)はスマートヨーロッパ、中国は『インターネットプラス』という計画を立て、第3次産業革命を起こそうとしています。エネルギーや、クルマなどの輸送手段をインターネットにつなぎ、効率性や生産性を極限まで高めるのが第3次産業革命です。 
+モノやサービスを生み出すコスト(限界費用)が限りなくゼロにつながり、民泊やライドシェアなどに代表されるシェア経済が台頭する。EUと中国が国家戦略として取り組むのに対し、日本はこのパラダイムシフトに対して計画を持っていません。この状況が続けば、長期的に壊滅的な影響をもたらし、日本は2050年までに二流国家になってしまうと思います。
+なぜそうなるのか、もうちょっと細かく全体像を示しましょう。いまのパラダイム、つまり石油と原子力をエネルギー源とし、内燃機関で動く輸送手段によって成り立っている第2次産業革命の成果はいま、衰退状態にあります。GDP(国内総生産)は世界中で落ち、生産性はもはや伸びようがないのです。 もともと第2次産業革命は米国で起き、瞬時にコミュニケーションができる電話やラジオ、テレビが普及しました。テキサスで採掘された安い石油がエネルギーとなりヘンリー・フォードが自動車を大量生産し、車やトラックが普及した。これが第2次産業革命で20世紀まで世界が繁栄しました。
▽生産性の向上は限界
+しかし、この中央集権的な通信や、原油と原子力に依拠したエネルギー、内燃機関を使う輸送手段という第2次産業革命のインフラに接続されている限り、生産性はもう天井を打ったと私は見ています。さらにそれがもたらした気候変動によって、人類は危機にさらされている。
+例えば、温暖化によって水の量はどんどん増えています。生態系は水の循環によって影響を受けていて、温度が1度上がるごとに降雨量が7%増えます。その結果、予見できないような大きな台風や豪雪、春は洪水、夏は干ばつ、それから山火事につながる。この秋も、世界中で様々な場所で異常気象がありました。  生物種は4億5000万年の間に5回、大々的に絶滅しました。今、その6回目の絶滅の危機にある。気候変動がこのままいくと現在地球に生息している生物種の50%が、この80年で絶滅すると言われている。大々的に種が絶滅したら私たち人間は生き延びていけるのでしょうか。そう考えれば、経済の新しいビジョンに重要なのは炭素を排出しない計画ということになります。
――EUや中国は積極的に再生可能エネルギーを導入しています。
・リフキン氏:かつて半導体産業がそうであったように、再生エネの固定費はいま、指数関数的に下がっています。太陽光や風力発電の固定費もどんどん下がってきている。電力会社が20年などの長期的な電力の買い取り契約を結ぶようになり、1キロワット時(kWh)当たり4セントという場合もあります。太陽光や風力に燃料費は要りません。当然、原発や化石燃料はコストで競争できません。しかも再生エネの固定費はもっと安くなる。それを中国も欧州も分かっていて、導入を進めているのです。
▽エネルギーも分散
――産業革命が起きる時にはエネルギー、輸送、情報伝達の3つの要素でパラダイムシフトが起きると指摘しています。
・リフキン氏:英国で起きた第1次産業革命は、交通が水蒸気で変わり、蒸気で動く印刷機が生まれました。第3次産業革命はデジタル革命です。センサーを付け、データをモニタリングするIoTの上で、「コミュニケーション・インターネット」「エネルギー・インターネット」、そして「輸送インターネット」が進展します。  デジタル化してお互いが接続し、それで社会を管理し動かしていく。ネットワークに誰もが接続できるようになったことで、太陽光や風力を使って自分のところで電気を作り、余剰があったら共有する。太陽光と風力という限界費用がほとんどゼロの安いものを使えるようになるのです。
+こういう社会になった時、中央集権的なエネルギーの代表である原子力はどんな意味を持つでしょうか。あるいは化石燃料で競争できるのでしょうか。限界費用がほぼゼロの再生エネを使っているビジネスと、原子力や化石燃料のエネルギーを使っているビジネスが競争できるでしょうか。
+ドイツのメルケル首相は第2次産業革命のインフラを使う限り、これ以上の成長はないという私の助言を受け入れ、インダストリー4.0という第3次産業革命へとかじを切りました。脱原発政策も進めています。第3次産業革命には、新しいエネルギーのインフラが必要なのです。
+第3次産業革命では生産性が上がり、環境負荷はどんどん下がり、ライドシェアや民泊などの新しいビジネスと新しい雇用の機会を生み出します。日本は電気通信、ICT、自動車、電機といろいろな産業で世界トップクラスにあり、まさにこのインフラを構築するのに必要なものがすべてある。 それなのにまだ依然として原発に頼っている。昔ながらの原子力から脱却できないということが、日本が第3次産業革命を進められない最大の理由だと思います。
+新しく原発を建設することは非常に愚かなことです。結局は取り残される資産になるからです。第3次産業革命のエネルギーは分散型でなければいけない。日本は早く決断を下すべきです。
▽中国の政策にも影響
――中国でもリフキン氏の考えが導入されているのですか。
・リフキン氏:李克強首相が自伝の中で私の著書を読んだと記していました。中国はこうした私のストーリーを受け入れ、非常に早く動きました。私が最初に中国を訪れた11週間後には、820億ドルの予算を全国の送電網のデジタル化に使うと発表しました。各地域が中国の企業から装置を買い入れて自家発電を行い、電源を分散化させるという動きが始まっており、第13次五か年計画にも『インターネットプラス』という産業活性化の方向性が盛り込まれています。
+ですが、明日の朝、いきなり第2次革命が終わるということではありません。突然終わるわけではないが、いま破壊的な影響が生じているのは事実。日本企業の皆さん、特に、38歳以下のデジタルネイティブなミレニアルの世代の皆さんに言いたいのは、今から2つの産業革命を同時に生きなければいけないということです。
+終末を迎えつつある第2次と、台頭する第3の産業革命の両方に対応しなければならない。第3次産業革命は30年かけてゆっくりと進展していくので、30年にわたって2つのビジネスモデルを共存させないといけない。その両方ともきちんと関与できなければ、企業として存在は望めない。日本が先行者になるのか、待ってしまうのか。待つほどこの第3次産業革命に対応するのは難しくなるでしょう。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/interview/15/230078/121300116/?P=1

次に、英ファイナンシャル・タイムズの記事を12月25日付け日経ビジネスオンラインが転載した「テスラが世界最大の蓄電システムを稼働 リチウムイオン電池革命が最終段階を迎えたとされる理由」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・米電気自動車(EV)大手テスラがオーストラリアの南オーストラリア州に建設した、世界最大のリチウムイオン蓄電システムが12月1日、同国の送配電網に電力の供給を始めた。 テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は今年7月、「(オーストラリアが抱える電力問題を解決する手段として建設開始から)100日以内に蓄電設備を完成させる」という大胆な約束を掲げたが、その約束を果たしたことになる。マスク氏は、約束通り期限内に完成しなければ、今回の建設費を全て負担すると表明していた。
・テスラの蓄電システム「パワーパック」は、南オーストラリア州にある複数の風力発電所と接続されており、3万戸に1時間分の電力を供給できる能力を持つ。その電力供給能力は、既に設置されている最大規模の蓄電設備の3倍に及ぶという。
▽世界の電力システムを刷新する可能性も
・オーストラリアでは昨年9月に激しい嵐に見舞われ発生した大規模な停電を受けて、再生可能エネルギーに対する信頼性を巡り全国的な議論が巻き起こった。そのため南オーストラリア州では配送電網の強化を図っており、今回のテスラの蓄電設備もその一環として、同州政府の補助金で建設が進められてきた。
・「世界最大のリチウムイオン蓄電システムを記録的な速さで完成させられたということは、現在のエネルギー問題に対し、持続可能でかつ信頼できる解決策を提供することが可能だということを示している」) テスラは同システムが正式に稼働を開始した12月1日、こんなコメントを発表した。
・この施設が完成したことで、リチウムイオン電池革命は、最終段階に入ったといえる。というのも、こうした蓄電システムによって低価格の太陽光発電や風力発電を、全国の送配電網に接続できるようになれば、世界の電力システムを刷新できることを意味するからだ。 しかし、この巨大蓄電システムの技術は現在、オーストラリア国内で批判に直面している。政府と野党は、石炭火力発電の将来を巡って対立する一方、再生可能エネルギーへの信頼性が昨年の激しい嵐の発生にともない低下したことで、エネルギー政策全体が混乱に陥っているのだ。
▽オーストラリアはエネルギー政策を巡り迷走
・南オーストラリア州は、2025年までに電力の半分を再生可能エネルギーによって賄うという目標を掲げてきた。建設費用5000万豪ドル(約43億円)とされる今回のテスラの蓄電システムの導入は、再生可能エネルギーの比率を上げるからといって停電が発生しやすくなるわけではないということを有権者に納得させるための、州政府のいわば目玉の政策だ。
・今年、南オーストラリア州は電力の半分を再生可能エネルギーで賄うという目標を達成した。だが、昨年激しい嵐で州全体が停電に見舞われたことを受け、オーストラリアのターンブル首相は、原因は同州の再生可能エネルギー政策にあるとして、「半分はイデオロギー、半分は愚かさ」に基づくものだと批判している。 「石炭火力発電の代わりに再生可能エネルギーを使うつもりなら、いつも太陽が出ているわけではないということに、少し考えれば気付くはずだ」と同首相は指摘した。
・オーストラリア政府は10月、「全国エネルギー保証政策」を発表した。これは、環境に優しいエネルギーの推進について全国的な目標を掲げることはもうせずに、石炭火力発電所を存続させることで、確実な電力供給を目指すという内容だ。 だが今のところ、各州政府はこの計画への参加を拒んでいる。そのため、オーストラリアには現在、国として合意できているエネルギー政策も気候変動政策も存在しない状態だ。
・南オーストラリア州は、ジェイ・ウェザリル州首相を筆頭に連邦政府のエネルギー戦略に反対している。連邦政府の戦略は、太陽光や風力への投資を妨げ、環境を汚染する石炭火力発電所を後押しすることになるというのが同首相の主張だ。2016年に起きた大停電も、悪天候によって引き起こされたものであり、再生可能エネルギーの問題ではないとの見解だ。
▽「電力の安定供給という重要な課題の解決策」
・財界ロビー団体によると、停電により企業が被った損失は計3億6700万豪ドル(約313億円)に上るという。そのため労働党率いる南オーストラリア州政府は、エネルギー供給の安定を図るために総額5億5000万豪ドル(約469億円)を投じる計画を発表した。 具体的にはガス火力発電所の建設や、州内で開発され使用されるガスに対するインセンティブ、緊急時には州政府が発電事業者に州内に電力を供給するよう指示できる新たな権限を持つこと、そして今回のテスラによる蓄電システムなどが含まれる。
・テスラの蓄電システムは、99基の風力タービンを抱え、315メガワットを発電できるホーンズデール風力発電所に接続している。夏の電気使用量がピークを迎える時間帯や悪天候で電力供給が低下した場合には、全国の配送電網向けに約129メガワット時の電力を供給できる。
・「この蓄電システムは、必要なときに電力を早急に供給できるので、電力の安定供給という重要な課題解決につながる。ただ、停電が起きた場合、その問題を解決できるわけではない」と話すのは、ホーンズデール風力発電と蓄電システムを所有する電力会社ネオエン・オーストラリアのフランク・ウォイティーズ社長だ。
・テスラの蓄電システムは、安定したエネルギー源と組み合わせて使用する必要があるが、今後も国内のエネルギー・ミックス(電源構成)において石炭火力発電を重視するという連邦政府の姿勢にウォイティーズ氏は否定的だ。 「石炭は過去のものだ。今年、エネルギーの転換が起きているということを我々は示してきた。電池の価格は低下しており、いまや新規の石炭火力発電所よりも再生可能エネルギー発電所を建てる方が安くなっている」
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/108556/122100025/?P=1

第三に、日経エネルギーNext編集長の山根 小雪氏が1月10日付け日経ビジネスオンラインに掲載した「ついに大手電力が「再エネは怖い」と知った 2018年は日本の電力市場の転換点になる」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・あけましておめでとうございます。日経エネルギーNext編集長の山根小雪です。本年もどうぞよろしくお願いいたします。
・2018年はエネルギー業界にとって、大いなる変化の年になりそうな気がしています。2016年の電力全面自由化、2017年のガス全面自由化といった分かりやすいイベントはありません。ただ、大手電力にとっても、新電力にとっても、今年どう動くかがその後の行方を大きく左右すると感じるのです。 その理由は、日本のエネルギー業界の巨人である大手電力の“気づき”にあります。
▽夏に火力発電所がフル稼働しなかった衝撃
・「大手電力会社の経営陣から社員までが、初めて再生可能エネルギーを怖いと思った年」。ある大手電力幹部は、2017年をこう表現します。 電力需要が高まる夏になっても大手電力各社の火力発電所がフル稼働しない状況は、相当な衝撃だったと言います。急速に広がった太陽光発電によって、昼間の電力需要が賄われたためです。  太陽光発電が最も早く、大量に導入された九州電力エリアでは2016年から、既にこうした状況にありました。ただ、「たまたまかもしれないという思いが、九電以外の大手電力にはあった」そうです。ですが、2017年の夏を経験して、淡い期待は打ち砕かれたのです。
・日々の取材活動の中でも、大手電力各社の変化を感じることは少なくありませんでした。 例えば、ドイツの話題に及んだ時。ドイツでは大量の再エネ電力が電力市場に流れ込み、卸電力価格が低迷し、最新鋭の火力発電所が停止しているという話になっても、2016年当時は、必ずといっていいほど、「それはドイツの話であって、日本とは違う」と切り替えされたものです。まだ対岸の火事であると言える心境だったのでしょう。   ところが、2017年の後半には、「再エネの大量導入による電力システムの変化は世界の潮流」という答えが返ってくるようになりました。
・それだけではありません。例えば、中部電力が2017年4月に発表した「技術経営戦略への取り組み」には、分散電源の大量導入を前提とした技術的課題や新たなビジネスモデルが書き込まれています。トップダウンで策定されたこの戦略ロードマップは、変化する時代を捉えようとする意欲がにじみ出ています。
・こうした動きは中部電にとどまりません。分散化を捉えた新ビジネスは既存の事業部門では取り組みにくい事情もあります。そこで、関西電力など複数の大手電力会社が、新組織を立ち上げて、ジレンマに向き合おうとしています。
・夏に火力発電所がフル稼働しなかった衝撃の岡本浩副社長ら、東電のメンバーが著者として名を連ねた書籍「エネルギー産業の2050年 Utility3.0へのゲームチェンジ」(日本経済新聞出版社)の発刊も、2017年以前には考えられなかったことです。本書は人口減少、脱炭素化、分散化、自由化、デジタル化の「5つのD」によって電力システムの革新の必要を予測しています。
・こうした変化に、ある大手電機メーカー幹部は、「電力ビジネスに関わる社員は全員読むように指示した」と言います。長らく変化のなかった電力業界の構造が、大きく変わろうとしています。 大手電力が変化を受け入れた背景には、再エネの大量導入だけでなく、電力需要の減少があります。電気事業連合会が公表しているデータを見ると、リーマンショック前の2007年をピークに需要が減少していることがわかります。
・2017年はバブル期以来の空前の好景気となりました。それでも、「期待したほど需要が戻らない」(大手電力幹部)。その理由は、省エネの進展です。 好業績となった企業の多くが、生産設備の追加や更新、工場に冷暖房を設置するなどの快適投資をしています。かつては設備が増えれば、電力需要も増えるのが当たり前でした。ところが、「設備の省エネ化が猛烈に進み、設備投資すればするほど需要が減る時代になった」(大手電力幹部)のです。
・2017年は厳冬となったため、需要は少し増えています。「2017年で電力需要は底を打ったのでは」という声も聞こえてきます。ただ、超少子化と言われる今、予想を上回るペースで人口は減少していくでしょう。電力需要がかつての水準に戻るとは、到底考えられません。
・「3.11」によって原子力発電所が停止し、固定価格買取制度のスタートによって再生可能エネルギーの大量導入時代が幕開けしました。それでも、なかなか大手電力会社に変化は見られませんでした。
・当時、ある政府幹部が、「大手電力のビジネスマインドに変化を促すのは需要減が最も効く」と言っていたことが思い起こされます。電力需要の減少は、発電所の稼働率を低下させ、託送料金収入を減少させ、販売量を減らすからです。いま、まさに大手電力各社は、再エネの怖さを体感しながら、この問題に直面しているわけです。
▽否応なく再編に向かう
・日本に先んじて、再エネの大量導入と省エネ、需要減少に直面した欧州の電力会社は、2015年後半から相次いで経営改革に乗り出しました。 例えば、独RWEは再エネと配電、小売りを新会社に移行しました。政策的支援が見込める再エネと、デジタル化や分散化によりビジネスの中核となりそうな配電と小売りを組み合わせています。市場環境や制度変更によるボラティリティ(収益のブレ)が大きな燃料や発電事業と切り離したのです。ちなみに欧州の場合、既に送電は別会社になっているケースが大半です。
・日本の電力会社も今後、否応なく再編に向かっていくことになるでしょう。 既に、東京電力フュエル&パワーと中部電力は、燃料と火力発電事業をJERA(東京都中央区)に移管しました。発電事業は売上規模が大きく、ボラティリティはますます高まることを考えると、早期の対策が欠かせない領域です。
・再エネの導入と需要減は、火力燃料であるLNG(液化天然ガス)をダブつかせるという大問題を大手電力各社に突きつけています。火力発電の稼働率低迷によって、長期契約と引受量の縛りがあるLNGの余剰が経営に重くのしかかっています。
・JERAは海外での燃料トレーディングを拡大することで燃料需給を最適化し、その影響を最小限に食い止めようと挑戦を始めました。太陽光発電の大量導入と原子力の再稼働によって火力発電の稼働率低迷に直面する九州電力は、東京ガスとLNG調達に関する戦略提携を発表しています。  送配電部門は、需要減少によって託送料金収入の減少に直面します。特に、人口減少の影響を直接受ける地方の大手電力への打撃は、生半可なものでは済みそうにありません。一般送配電事業者は総括原価方式が認められているとはいえ、託送料金の地域格差が広がっていけば、おのずと再編圧力がかかってくるでしょう。
・小売部門は販売電力量の減少によって、付加価値が勝負を分かつ時代となります。これまでに大手電力各社が得意とはしてこなかったサービス競争が始まります。 そして、大手電力が変化に直面し、膠着した電力市場の構造が変わるということは、新電力にとっては実力が試される時代の到来を意味します。
・今でこそ常時バックアップと日本卸電力取引所(JEPX)に頼った電源調達をしている新電力が大半ですが、今後は電源調達の巧拙が問われます。販売戦略や需給管理ノウハウも、今まで以上に競争に勝つために必要になってくるはずです。
・数年以内には、大手電力に課されている規制料金は撤廃されるでしょう。大手電力がなりふりかまわず競争を仕掛けて来た時に、新電力は対抗できるのか。その時までに、電気事業を運営する地力を付けることが、自由化時代を勝ち抜くには欠かせません。
・3.11から7年目を迎える2018年。日本の電力システムは、欧米に数年遅れて、分散化に向き合おうとしています。この難しい時代には、規制当局の正しい舵取りが欠かせません。そして、電力市場における公正な競争こそが、サービスの多様化を需要家にもたらし、ひいては自由市場における電力の安定供給を支えることにつながるはずです。
・日経エネルギーNextは2018年も日本の電力市場の変化を捉え、読者のみなさまにお届けします。本年もどうぞよろしくお願いします。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/022700115/010900068/?P=1

第一の記事で、 『第3次産業革命・・・モノやサービスを生み出すコスト(限界費用)が限りなくゼロにつながり、民泊やライドシェアなどに代表されるシェア経済が台頭する。EUと中国が国家戦略として取り組むのに対し、日本はこのパラダイムシフトに対して計画を持っていません。この状況が続けば、長期的に壊滅的な影響をもたらし、日本は2050年までに二流国家になってしまうと思います』、 『かつて半導体産業がそうであったように、再生エネの固定費はいま、指数関数的に下がっています。太陽光や風力発電の固定費もどんどん下がってきている。電力会社が20年などの長期的な電力の買い取り契約を結ぶようになり、1キロワット時(kWh)当たり4セントという場合もあります。太陽光や風力に燃料費は要りません。当然、原発や化石燃料はコストで競争できません。しかも再生エネの固定費はもっと安くなる。それを中国も欧州も分かっていて、導入を進めているのです』、 『中国はこうした私のストーリーを受け入れ、非常に早く動きました』、などの指摘は、細かな点では誇張されて「本当かいな」といった点もなくはないが、大筋としてはその通りで、日本としても真剣に取り組む必要がありそうだ。
第二の記事で、 『南オーストラリア州・・・昨年激しい嵐で州全体が停電に見舞われたこと』、について、中央政府と南オーストラリア州政府の見方がすれ違っているようだが、徹底的に掘り下げて分析すれば、答は出てくるのではなかろうか。『テスラの蓄電システムは・・・夏の電気使用量がピークを迎える時間帯や悪天候で電力供給が低下した場合には、全国の配送電網向けに約129メガワット時の電力を供給できる・・・この蓄電システムは、必要なときに電力を早急に供給できるので、電力の安定供給という重要な課題解決につながる』、テスラもなかなかやるようだ。
第三の記事で、 『夏に火力発電所がフル稼働しなかった衝撃』、などから、 電力会社からも、『2017年の後半には、「再エネの大量導入による電力システムの変化は世界の潮流」という答えが返ってくるようになりました』、というのは大きな前進だ。 『「大手電力のビジネスマインドに変化を促すのは需要減が最も効く」・・・大手電力各社は、再エネの怖さを体感しながら、この問題に直面しているわけです』、やはり尻に火が付いて初めて慌てだしたようだ。 ただ、『火力発電の稼働率低迷によって、長期契約と引受量の縛りがあるLNGの余剰が経営に重くのしかかっています』、というのは深刻だ。原発再稼働どころではないのかも知れない。
タグ:エネルギー 気候変動 テスラ 日経ビジネスオンライン 蓄電システム ファイナンシャル・タイムズ ジェレミー・リフキン (その2)(原子力から脱却しないと日本は二流国に陥る メルケル首相のブレイン、ジェレミー・リフキン氏の警鐘、テスラが世界最大の蓄電システムを稼働、ついに大手電力が「再エネは怖い」と知った 2018年は日本の電力市場の転換点になる) 「原子力から脱却しないと日本は二流国に陥る メルケル首相のブレイン、ジェレミー・リフキン氏の警鐘」 脱原発や「インダストリー4.0」を進めるドイツのメルケル首相のブレーン モノのインターネット(IoT)の普及とシェア経済の拡大など「第3次産業革命」の到来を予言してきた文明評論家 日本の対応の遅れを指摘。その理由は「原子力から脱却できないことにある」と警鐘 モノやサービスを生み出すコスト(限界費用)が限りなくゼロにつながり、民泊やライドシェアなどに代表されるシェア経済が台頭する。EUと中国が国家戦略として取り組むのに対し、日本はこのパラダイムシフトに対して計画を持っていません この状況が続けば、長期的に壊滅的な影響をもたらし、日本は2050年までに二流国家になってしまうと思います 中央集権的な通信や、原油と原子力に依拠したエネルギー、内燃機関を使う輸送手段という第2次産業革命のインフラに接続されている限り、生産性はもう天井を打った 生物種は4億5000万年の間に5回、大々的に絶滅 EUや中国は積極的に再生可能エネルギーを導入 デジタル化してお互いが接続し、それで社会を管理し動かしていく。ネットワークに誰もが接続できるようになったことで、太陽光や風力を使って自分のところで電気を作り、余剰があったら共有する。太陽光と風力という限界費用がほとんどゼロの安いものを使えるようになるのです 中央集権的なエネルギーの代表である原子力はどんな意味を持つでしょうか。あるいは化石燃料で競争できるのでしょうか。限界費用がほぼゼロの再生エネを使っているビジネスと、原子力や化石燃料のエネルギーを使っているビジネスが競争できるでしょうか 第3次産業革命では生産性が上がり、環境負荷はどんどん下がり、ライドシェアや民泊などの新しいビジネスと新しい雇用の機会を生み出します 中国はこうした私のストーリーを受け入れ、非常に早く動きました 終末を迎えつつある第2次と、台頭する第3の産業革命の両方に対応しなければならない 第3次産業革命は30年かけてゆっくりと進展していくので、30年にわたって2つのビジネスモデルを共存させないといけない 「テスラが世界最大の蓄電システムを稼働 リチウムイオン電池革命が最終段階を迎えたとされる理由」 オーストラリアの南オーストラリア州に建設した、世界最大のリチウムイオン蓄電システム 建設開始から)100日以内に蓄電設備を完成させる」という大胆な約束を掲げたが、その約束を果たしたことになる 3万戸に1時間分の電力を供給できる能力を持つ 建設費用5000万豪ドル(約43億円)とされる今回のテスラの蓄電システムの導入 昨年激しい嵐で州全体が停電に見舞われたことを オーストラリアのターンブル首相は、原因は同州の再生可能エネルギー政策にあるとして、「半分はイデオロギー、半分は愚かさ」に基づくものだと批判 ・オーストラリア政府は10月、「全国エネルギー保証政策」 石炭火力発電所を存続させることで、確実な電力供給を目指す 各州政府はこの計画への参加を拒んでいる 2016年に起きた大停電も、悪天候によって引き起こされたものであり、再生可能エネルギーの問題ではないとの見解 電気使用量がピークを迎える時間帯や悪天候で電力供給が低下した場合には、全国の配送電網向けに約129メガワット時の電力を供給できる 山根 小雪 「ついに大手電力が「再エネは怖い」と知った 2018年は日本の電力市場の転換点になる」 日本のエネルギー業界の巨人である大手電力の“気づき” 夏に火力発電所がフル稼働しなかった衝撃 「エネルギー産業の2050年 Utility3.0へのゲームチェンジ」 設備の省エネ化が猛烈に進み、設備投資すればするほど需要が減る時代になった ある政府幹部が、「大手電力のビジネスマインドに変化を促すのは需要減が最も効く」と言っていた 日本の電力会社も今後、否応なく再編に向かっていくことになるでしょう 再エネの導入と需要減は、火力燃料であるLNG(液化天然ガス)をダブつかせるという大問題を大手電力各社に突きつけています。火力発電の稼働率低迷によって、長期契約と引受量の縛りがあるLNGの余剰が経営に重くのしかかっています
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本日は更新を休むので、明日の金曜日にご期待を!

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