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中国経済(その4)(中国が経常赤字に転落 日本への影響は 「爆買い」の減少に警戒必要、追いつめられた中国経済 2019年の動向を占う 習近平重要講話と中央経済工作会議から読み解く、中国経済「崩壊」の始まりを感じさせるこれだけの理由) [世界経済]

中国経済については、2016年9月7日に取上げたままだった。2年以上経った今日は、(その4)(中国が経常赤字に転落 日本への影響は 「爆買い」の減少に警戒必要、追いつめられた中国経済 2019年の動向を占う 習近平重要講話と中央経済工作会議から読み解く、中国経済「崩壊」の始まりを感じさせるこれだけの理由)である。

先ずは、小宮コンサルタンツ代表取締役会長CEOの小宮 一慶氏が昨年12月21日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「中国が経常赤字に転落、日本への影響は 「爆買い」の減少に警戒必要」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/opinion/16/011000037/122000049/?P=1
・『今年上半期、中国の経常収支が赤字に転落しました。中国国家外貨管理局が発表した2018年1~6月の経常収支は、283億ドル(約3兆1500億円)の赤字となりました。 経常収支とは、貿易収支・サービス収支・所得収支(海外から得た利子や配当など)を合計したもの。海外との総合的な取引状況を示します。これが赤字になったということは、海外から稼げなくなりつつあるということと同義です。これは中国経済には大きな問題となります。 2000年代から急成長を遂げ、世界第2位の経済大国に成長した中国が、なぜ今になって経常赤字に陥ったのか。日本への影響はどのように考えればいいのか。今回は、中国経済の現状と展望について考えます』、中国の経常収支赤字化は、確かに目をひく数字だった。
・『18年1~3月期、17年ぶりの経常赤字に  まずは、経常収支の中でも最も大きなウェイトを占める「貿易収支」の推移から見てみましょう。 貿易収支は大幅な黒字を続けています。2016年は5097億ドル(約57兆円)、2017年も4215億ドル(約47兆円)の黒字です。そのかなりの部分は対米黒字です。米国が不満を持つのも分かります。特にここ数カ月は、米中貿易摩擦による関税率の引き上げを見込んだ駆け込み需要が発生しており、中国側の貿易収支の黒字幅が増加しやすい傾向があります。 ところが、中国の経常収支は2018年1~3月におよそ17年ぶりの赤字に転落し、4~6月は黒字となったものの、1~6月では赤字となりました。 一体、何が原因だったのでしょうか。 経常収支は、貿易収支、サービス収支、第一次所得収支(海外からの金利や配当等)、第二次所得収支(政府開発援助や国際機関への分担金等)の合計です。 中国の内訳を見ますと、先ほども見たように貿易収支は順調ですが、それと同時に「サービス収支」の赤字が拡大しているのです。サービス収支の赤字は2010年あたりから増加し始め、季節要因によって貿易黒字が縮小した2018年1~3月にはカバーしきれず経常赤字になりました。 1~3月期は春節の時期が含まれているため、毎年、この四半期の貿易黒字は一時的に減る傾向がありますが、サービス収支赤字が拡大し続けていることには変わりありません。なぜでしょうか。 主な原因は、中国人による海外旅行の増加による「旅行収支」の悪化です。これは、旅行者の滞在先での宿泊費や交通費などが主なものです。中国からの海外旅行者の増加により、旅行収支の赤字が拡大しているというわけです。 中国経済が成長してくるにつれ国民の生活は豊かになり、海外への旅行熱が高まり、さらには、高品質な海外製品に対する需要が高まりました。税制上、輸入品よりも海外で購入した方が安いこともあり、海外旅行先で爆買いする中国人も多くいます。これらは経常収支の悪化をもたらすのです』、旅行収支赤字が主因であれば、対策は簡単だが、影響は日本にも及ぶ。
・『中国政府が旅行収支赤字を縮小しようとする可能性がある  日本経済もそんな中国人旅行客による恩恵を受けてきました。しかし、それもいつまで続くのかは分かりません。 というのは、中国政府がこの先、旅行収支赤字を縮小しようと動き出す可能性があるからです。 中国の成長率の推移を見ますと、かつては二ケタ成長を続けていましたが、直近の2018年7~9月期は前年同期比6.5%まで鈍化しています。今後は米中貿易摩擦の影響もありますから、ますます厳しい状況に陥るでしょう。長期的には、一人っ子政策の影響で労働力人口が長期的に減少しますから、これも経済成長を鈍化させます。このことは、中国の成長を見込んでの海外からの投資を鈍化させることにつながります。 その中で中国人旅行客が世界各国に旅行を続け、爆買いをすれば、経常収支を悪化させ、人民元売りが起こります。ただでさえ、国内経済の鈍化によって人民元安の傾向が続いている上に、海外旅行や爆買いの影響が重なるのです。 さらに、米中貿易摩擦によって貿易黒字が縮小していく可能性もあります。米国は、それを狙っているわけですからね。貿易黒字の縮小によって経常赤字が拡大すれば、人民元がますます下落し、下手をすれば暴落する可能性も否定できません。 中国政府としては、こういった状況を看過できるはずがありません。人民元安が進みすぎるのを防ぐため、せめて旅行収支赤字だけでも縮小して人民元安に歯止めをかけようと対策を打ち出す可能性は大いにあるでしょう。旅行そのものを規制すれば、当然、爆買いもなくなります。 そうなれば、日本経済への影響も避けられません。2017年の訪日客による消費額は、16年に比べて18%増加し約4兆4000億円に上り、5年連続で最高額を更新し続けています。中でも、中国人観光客による消費は約1兆7000億円と首位に位置しています。 消費額自体は4兆4000億円ですが、波及効果も加味すれば、GDPベースで約10兆円の経済効果があるとの見方もあります。 中国政府が旅行収支赤字の縮小を視野に入れ始めると、この莫大な観光収入が大幅に減少する可能性も少なくありません。 訪日客数の推移を見ますと、2018年8月は前年同月比4.1%増の257万8021人、9月は北海道での地震の影響もあり5.3%減の215万9600人、10月は1.8%増の264万600人となっています。2018年の訪日客数は3000万人を超えましたが、2017年は前年同月比で20%前後の伸びを維持していたことを考えますと、増加ペースが鈍化していると言えるでしょう。 中国政府が手を打ち始めたら、この伸びは止まるどころか、減少に転じる可能性もあります。台湾は反中国政権の影響もあり、中国本土からの旅行客が減少し、経済にも悪影響が出ています』、インバウンド・ブームについては、影の部分の指摘も増えていることから、「中国本土からの旅行客が減少」はやむを得ないことなのだろう。
・『東京のマンション投資、地方の観光地にも影響  さらに言えば、単純に旅行収支だけではなく、海外への投資、例えば不動産投資などを抑制することも考えられます。そうなると、中国人投資家による日本国内、特に東京都内のマンションへの投資、あるいは北海道などでの観光地への投資などに影響が出るでしょう。 しかもここへきて日本経済のトレンドが変わり始めています。2018年7~9月期のGDP実質成長率はマイナス2.5%(季節調整済み、年率換算)と、減少幅は前回の消費増税後の2014年4~6月期以来の大きさとなりました。2019年1月まで成長が続けば、戦後最長の景気拡大となると期待されていますが、その先は黄信号が灯っているのです。 ここで中国からの訪日客が急減するようなことがあれば、日本の景気に大きな影響があることは間違いありません。 米中貿易摩擦の解決の仕方にもよりますが、この先、中国の経常収支は悪化してゆく可能性があります。日本企業も中国を大きな市場としているところも多く、また、訪日客の動向によっては、日本への影響の度合いも大きく変わってきますので、注意が必要です』、既に弱まり始めている日本の景気をさらに下押ししたり、不動産市況に悪影響があることは覚悟する必要があるが、インバウンドに過度に依存した姿こそが異常なのであり、持続性ある成長路線に戻すためには、不可避なことであるように思う。

次に、元産経新聞北京特派員でジャーナリストの福島 香織氏が12月26日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「追いつめられた中国経済、2019年の動向を占う 習近平重要講話と中央経済工作会議から読み解く」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/opinion/15/218009/122500193/?P=1
・『新華社が21日に報じたところによれば、19-21日に中央経済工作会議が開催された。中央委員会総会(四中全会、政治政策の決定を中央委員会によって可決する)を開かずに経済政策を決める中央経済工作会議を先に開くのはやはり異例だ。しかも、その直前に行われた改革開放40周年記念の習近平重要講話を仔細に読めば、経済の習近平路線は大きく変わりそうにない。中国の来年の経済動向を、習近平重要講話と中央経済工作会議の中身から占ってみたい』、これまでからバブルの歪みが指摘されてきた中国経済も、いよいよ「弾ける」とすれば、影響は深刻だ。
・『倒産500万件、失業200万人か  簡単に2018年の中国経済を概観すると、今年の経済鈍化は、庶民が肌身で切実に感じるレベルである。党大会後から始まった債務圧縮政策は中国の雇用を支えてきた民営中小零細企業を直撃、報道ベースでざっくり500万件が倒産し200万人が路頭に迷い、740万人の出稼ぎ者が都市部から農村に戻った。その原因を習近平路線にあるとする声は党内でも大きい。習近平の政策の一番強烈なところは「習近平を核心とする党中央」が一切を指導する独裁路線であり、株式市場も為替市場も民営企業も債務も、党(習近平の意向)が完璧にコントロールしてやろう、という点だ。そんなものを完璧にコントロールできる天才的指導者などいるか、という話だ。 これは鄧小平の改革開放路線(資本主義を経済の手段として容認し、経済活動については政治的制約を極限まで減らし、結果的に豊かになった企業家および中間層を党に取り込むことで共産党の権力を強くする)とは真逆。だから、習近平路線の呼び名は「逆走路線」あるいは「改毛超鄧」(毛沢東のやり方を改良して鄧小平を超越する)と表現される。 胡錦濤政権末期を振り返ると、鄧小平路線を長年継続してきた結果、(資本家を受け入れた)共産党の腐敗と風紀の乱れが激化し、貧富の差の拡大によって大衆の不満が膨らみ、経済が資本主義(自由主義)、政治が社会主義(全体主義)という不均衡によって、共産党は経済の資本主義化にブレーキをかけるか、政治の社会主義体制の看板を下ろすかの選択の岐路に立たされていた。この選択をできずにいた胡錦濤政権から、矛盾が極限まで膨らんだ状態の中国を受けついだ習近平政権は、高度経済成長の持続を諦め、成長減速を「新常態」(ニューノーマル)と受け入れて、経済構造の大改革を行うとした。だが、文革時代に思春期を過ごし、大した経験や知識をもたない習近平には参考となる政治家手本は毛沢東しかおらず、毛沢東のやり方を模倣する以外なかった。 結果として起きた現象を上げれば、安邦保険や海南航空集団といったメガ民営企業の事実上の国有化などによる民営企業のパニック、2015年上海“株災”から始まった中国株式市場の信用失墜、意見の対立する政治家、官僚排除による党内組織機能の硬直化やサボタージュ、中国製造2025(製造業の高度化)や一帯一路(国内余剰生産などの矛盾を国外に移転、拡大することによる問題解消を狙った中華式経済圏の拡大)といった戦略を中国の覇権主義台頭と警戒した米国との貿易戦争などが重なって、中国経済は急減速した。外資引き上げが加速し、キャピタルフライトはとどまらず、人民元は急落を続け、不動産バブル、地方債務ははじける寸前であり、社会消費の鈍化が目立つようになった』、改革開放以来の経済政策の流れが理解できたが、習近平にとっては、内憂外患の極致にあるようだ。
・『「鄧小平路線に戻すべき」との声も  2017年暮れごろから中国政府内の金融官僚たちは「ミンスキーモーメント」という言葉を口にし始めた。これを警戒し、習近平政権は金融バブル崩壊圧力を緩めるために2018年6月、P2P金融業者(ネットなどをプラットフォームに使った個人間融資)を選んで破綻させたのだが、大量の自殺者、失踪者が出て数百万単位の金融難民を出した苛酷なものだった。ネット上で怨嗟の声が渦巻き、習近平政権に対する大衆、特に中間層の敵意を形成することになった。しかも、P2Pを破綻させたところで、中国の巨大な金融破たんリスクが解消されるわけもなく、むしろ次はより大きなショックがくると国内外のアナリストたちは恐怖を感じるようになった。ここに、米国との貿易戦争が重なり、中国経済は改革開放以来、例をみないほどに追いつめられている。 党内では現状を改善するためには路線を旧鄧小平路線に戻すべきだと主張する声が強くなっていた。だが、習近平にとって旧鄧小平路線に戻ることは自身の敗北を認め、下手をすれば引退という形で責任を取らされる可能性があり、簡単には認められない。習近平は最終的にどうするのか、その答えが改革開放40周年記念日に行われた演説であった。 演説の内容を簡単にいえば、旧鄧小平路線には戻らない、という習近平の決意が打ち出されている。見出し的には「改革開放路線の継続宣言」と報じてるメディアもあるが、中身はあくまで習近平路線維持を押し通したものだった。鄧小平の言葉よりも毛沢東の言葉を多く引用しているし、なにより胡錦濤政権時代の2008年に行われた改革開放30周年記念行事には江沢民ら長老が勢ぞろいしたが、今回、長老連は軒並み欠席。現役指導部と習近平の取り巻きだけが参加した習近平独演ショーのようになっていた。 まず「党が一切を指導する」(経済、市場を含めた国家占有至上主義路線)の維持を繰り返した。 また中国を国際秩序の擁護者としながら、「中国人民にあごで偉そうに指図できる教師様はいない」と毛沢東風に語り、中国が目指すのは米国はじめ西洋社会が示す民主主義モデルではなく、中国が独自の道をいくのだと主張している。これは既存の国際秩序への挑戦姿勢と受け取れよう。米国を暗にさして「覇権主義と強権主義に旗幟鮮明に反対する」と牽制している。また国有経済優先姿勢も明確にし、「公有経済制はみじんもゆるがさない」としている。改革開放路線継続といいながら、実は逆走路線である。党内改革派からは鄧小平路線に回帰し、国際社会との融和・妥協点を探るべきだという意見が出ているが、それにも習近平はノーだということだ。 「改革すべきところ、改革できるところは必ず改革する、改革すべきでないところ、改革できないところは絶対改革しない」とのべているが、これは事実上の「これ以上改革開放しない」宣言といえるだろう。習近平の本音はもとのまま毛沢東時代逆走路線ということだ。とりあえず、鄧小平を少し持ち上げてみせるが、「できないものはできない」と、開き直ったようにもみえる。さらに一流の軍隊を作って中華民族の復興路線の後ろ盾とする社会主義現代強国化路線の堅持を訴えた。 また「党の集中統一指導により、我々は歴史の偉大なる転換を実現し、改革開放新時代と中華民族の偉大なる復興の新たな道のりを切り開くことができる。一連の重大なリスクの挑戦を受けて立つことができる。無限の艱難辛苦を克服し、変局、風波、洪水、パンデミック、地震、危機もろもろに対応でき防止できる能力がある。古臭くなった過去のやり方でもなく、旗印を安易に挿げ替えただけの邪道でもなく、ゆるぎない中国社会主義路線を堅持するのだ」と語っている』、「習近平の本音はもとのまま毛沢東時代逆走路線」とはいうものの、毛沢東時代とは比較にならないほど経済構造が複雑化したなかで、統制強化路線が機能するのだろうか。
・『「旗印を安易に挿げ替えた邪道」とは  「旗印を安易に挿げ替えた邪道」とは、経済の資本主義化を社会主義初級段階に言い換えて自由主義路線を推し進めた鄧小平を念頭に置いているとすれば、習近平の本音がどこにあるかは明らかだ。しかも、習近平が考えうるリスクの羅列の筆頭に「変局」「風波」が挙がっている。変局を直訳すれば非常事態だが、これには政治的意味が含まれており、革命や政変、戦争などを連想させる言葉である。風波は動乱、天安門事件のような社会や政治の動乱を差す言葉だ。習近平が自分の路線を押し通す先に、政変や動乱のリスクも想定しているともとれる。この重要講話を読む限り、習近平は妥協しないつもりであり、いざとなったら政変も動乱も受けてたつ、といわんばかりのやけっぱちで暴走気味であるとも受け取れるのではないか。 さて、この重要講話発表の翌日に中央経済工作会議が開催された。新華社によれば会議では「世界は百年に一度の大変局に直面している。変局中には危機と同時にチャンスが併存しており、これは中華民族の偉大なる復興に重大なチャンスをもたらす」と指摘されたという。ここでも、「変局」が意識されている。とにかく来年は、世界も中国も政治体制、経済や秩序のフレームワークが激変するような非常事態がおきうる危険な一年という意識がにじみでている。だから、経済工作会議の前に開かれた政治局会議で2019年、2020年経済成長目標は6.1%に設定すべしと提言された。今年の経済成長は6.6%前後の見込みで、それでも肌身に厳しい状況を感じるのだから、来年の厳しさは想像以上だろう。ちなみに国家統計局内の特別チームが内部報告用に取りまとめた統計によれば今年の本当の成長率は1.67%という(向松祚・人民大学貨幣研究所副所長、NYT)。 会議ではマクロ政策方針は積極財政、穏健通貨政策をとり、よりカウンターシクリカル(逆周期調節)な対応を強化する、とした。さらに積極財政を効果的にするために、大幅減税を実施し、地方政府の専項債権(インフラプロジェクトなどの資金調達のための特別債)規模を大幅に拡大させる、とした。同時に地方債務リスクを穏健に妥当にコントロールする。貨幣政策は適度に緩め、流動性を確保し貨幣政策メカニズムの改善を図りつつ、直接融資比重を上げて民営の中小零細企業の融資困難問題を解決するとした。穏当をキーワードにした慎重な政策で痛みを最小限にとどめるつもりなのか。 構造改革については、国有企業改革が首位におかれた。珍しく踏み込んできたと思える発言は「政企分開、政資分開と公平競争原則を堅持する。国有資本を強く優位に大きくし、企業を管理することから資本を管理することへの転換実現を加速する」とした点だ。国有企業の競争力を強化することを政策の基礎として、党と国有企業の関係を、あくまで国有資本の管理者として、企業自体の管理は政治と切り離す、という意味だとしたら、これは習近平路線の逆をいく話だ。しかも、「民営企業の発展を支持し、制度環境を法治化し、民営企業家人身の安全と財産の安全を保護する」としている。民営企業家の不審死、自殺が相次ぎ、不自然なやり方で民営企業の国有化を進めた、習近平のこれまでのやり方を改める、という意味にもとれる』、ここには触れられてないが、財政赤字はさらに大きく拡大し、中央銀行がそれを支えることになるのだろう。その場合、資本主義国であれば、インフレが激化するが、統計操作では、安倍政権より遥かに手慣れているので、そんな気配も見せないのだろう。不思議な国だ。
・『米中貿易戦争が再燃したら…  こうして見てみると、経済政策に関していえば、習近平路線と離れて独自に動きだしているように見える。だが改革開放記念演説に見た習近平の自分のやり方への執着をみれば、本当に経済工作会議のもとに打ち出された方針で運営されるのかも定かではない。そもそも、中央委員会総会によって次の5年の政策の大枠の方向性が可決されていないのだ。 ちなみに会議に国家副主席の王岐山が欠席したのは、党内で意見分裂があったからだ、という見方もあった。すでに中央委員でもない王岐山の欠席に意味があるかどうか別として、党内で習近平派とアンチ習近平派に分かれて、政策の方向性が紛糾しているという話は私も各方面から仄聞(そくぶん)している。習近平の権力への執念が経済政策の方向性の定まりがたさの原因とすると、今後の見通しは不確定きわまりない。しかも90日停戦を経て3月1日には、米国との貿易戦争が再燃するかもしれない。そうなれば、中国経済のハードランディング回避は難しくなろう。今年のP2P破綻のような選択的破綻でしのぐにしても、規模はリーマンショック級以上、という予想をいうアナリストたちは少なくない』、ただ、トランプも本格的な貿易戦争は望んでないと見られることから、貿易戦争再燃はかろうじて避けられるのではなかろうか。それでも、国内での歪み蓄積による経済悪化といったリスクは十分あり得るだろう。

第三に、ジャーナリストの姫田小夏氏が1月11日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「中国経済「崩壊」の始まりを感じさせるこれだけの理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/190528
・『実態と乖離した不動産価格の裏側  中国経済がおかしくなっている。「IT、製造業、不動産業で雇用削減」「消費が曲がり角」――年明け早々、日本経済新聞は中国経済の変調をこう報じた。中国の主要な経済紙を開いても、「債務危機」「連鎖破綻」「不良資産処理」など、先行きの不穏さを暗示する経済用語が目を引く。2019年の中国経済は見通しが悪い。 昨冬、筆者が訪れた上海の街は「真っ暗」だった。その元凶は不動産市況だろう。もとより上海では、マンションの乱開発と投機が生んだ「空室」が社会問題になっていたが、その数が激増し、夜間マンションにともる灯りが減ったのだ。 上海在住で複数の事業用マンションを持つ富裕層のひとりは「売りに出した住宅を見に来る客はいても契約には至りません」と語る。上海では2017年以降、住宅の中古市場が動かなくなった。 上海市黄浦区の不動産屋に張り出された住宅情報を見ると、1000万元台、2000万元台のマンションが目に付く。特別な仕様でも立地でもないごく普通の住宅だが、1億円はざら、2億円、3億円の高値がつくのだ。 その不動産屋の前に、近隣居住者とおぼしき老人が立っていたので話かけた。この老人は最近、所有していた物件を680万元(約1億1000万円)でやっとの思いで売却したという。このエリアでの成約額といえば680万元がせいぜいなのだ。2000万元越えの “バブル物件”など簡単には売れはしない。 その売却で手にしたお金は何に投資したのかと聞いたら、「借金返済ですべて消えてなくなった」と上海なまりの中国語で明かした。金融機関のみならず、親戚や友人から借りまくって買ったまではよかったが、老人の手元には何も残らなかったのだ。 インターネットでは「房奴」「車奴」など、「~奴」という言葉を見るようになった。住宅ローン、自動車ローン、カードローンを返せない個人が増えているのだ。中国人民銀行は2018年第3四半期末、クレジットカード支払いの不良債権(半年の遅延)額は880億元になったと発表した。2011年同期の106億元と比べると8倍以上の増加だ。 高額な負債を負った生活者は急増する中、中国では今、「個人破産制度を設けよ」という声が高まっている』、個人破産制度がないということは、返済できない個人はどうなってしまうのだろう。
・『改革開放のシンボル民営企業も八方ふさがり  中央政府は今、民営企業の救済と金融破綻の回避に必死だ。中国では企業の倒産が増えている。 中国の改革開放のシンボルとしての役割を背負った民営企業。その数は2017年末までに2726万社に増えた。これに「個体戸」と呼ばれる自営業を加えると、実に中国企業の95%が私企業で成り立っている計算になる。しかしこれら民営企業の多くは、経営コスト増、資金調達難、構造転換の困難という三重苦で経営難に直面している。 筆者は中国で、ある民営企業経営者と面会した。中国の民営企業トップ500の上位にランキングする、中国では有名なアパレル企業の経営陣である。 仮に彼を陳氏と呼ぶことにしよう。陳氏一族は浙江省温州市で、それぞれ工程ごとに独立したグループ会社を経営する同族企業だ。1970年代生まれの陳氏は、製造販売に従事し、全国チェーンを発展させた。そのブランド名は中国人なら誰もが知るところだが、中国の経営環境に対する陳氏の見通しは悲観的だ。 「生存競争があまりに激しい。中国では今、年商1億元規模の企業がバタバタと倒産しています。その原因の1つは、一瞬で価格の比較ができるネット販売。消費者は同じものなら少しでも安いものを選ぶため、競争力のない多くのアパレル工場がつぶれてしまったのです」 同社製品は「タオバオ」でも販売し、大きな商機につながったという。しかし、同時にこれがデフレを招き、2005年前後に高額衣料品の値段はどんどん落ちていった。 一方で、陳氏は経営環境を悲観するもう1つの要因を「信用破綻」だと指摘する。 「温州ではもともと『民間借貸』(個人や企業間での融資)が発達しており、銀行からの借り入れなしに独自に資金調達ができましたが、これが2011年に破綻してしまったのです」 この信用破綻は連鎖を呼び、陳氏のビジネスも一気に暗転した。自社ブランドを持ち、店舗展開を一気に加速させようとした矢先、店舗開発は行き詰まり、数億円の資金を投じて大量生産した商品は瞬く間に在庫の山と化した。その痛手は8年を経た現在も癒えてはいないという。その理由を陳氏は次のように語っている。 「2011年までは中央政府も『民間借貸』を認めていました。商業銀行が中小の民営企業に貸したがらない環境の中で、『民間借貸』は唯一の血流だったのです。けれども2011年に不動産バブルが崩壊すると、住宅を担保に高利で借り入れていた経営者はもはや夜逃げするしかありませんでした」「この破綻の元凶を『民間借貸』にあるとした中央政府は、その後の金融改革の中で、『民間貸借』を規制し、銀行融資を奨励するようになりました。しかし表向きの政策とは違い、銀行は貸したがらない。結局、資金が行き渡らず、多くの企業が今なお厳しい状況に置かれているのです」』、金融面の傷は極めて深そうだ。
・『信用破綻の元凶は不動産バブル崩壊  温州といえば、陳氏のように商才ある経営者を数多く輩出し、民間経済が発達した土地柄だ。改革開放の初期、軽工業が盛んだった温州は“脱国有”のモデル都市として注目を集めた。先に富んだ温州人たちは2000年代に入ると一早く沿海部の不動産に手を出した。地元温州のみならず、上海を含む中国各地の住宅価格は、彼らの大胆なマネーゲームで“身の丈”をはるかに超えるバブルと化した。 身から出た錆とはこのことである。バブル化した不動産市場に浙江省政府が購入を制限する「限購」を発令すると、市場は一気に冷えた。2011年、温州市では事実上、不動産バブルが崩壊した。買い手を市場に参入させないことでバブル抑制を試みたまではよかったが、その「劇薬」が、不動産価格の予想外のハードランディングを招いてしまい、不動産を担保に資金繰りをつけていた温州経済を破綻させてしまったのである。 2014年、筆者は不動産価格が激しく暴落した温州市を訪れた。その温州で目の当たりにしたのは、3年を経てもなお高止まりしたまま売れ残るマンションと、膨大な借金を抱えたまま経営者が戻らない工場だった。不動産価格が高騰したといわれる中心部の宿から見えるのは、数えるほどしか灯りがつかない真っ暗な高級住宅街だった。 さらにそれから4年経った2018年、温州は2019年明けの税率引き上げを前に“駆け込み特需”で製造業が活気づいていた。だが、温州を頻繁に訪れる日本人ビジネスマンによれば「温州経済は今なお暗中模索だ」という。 「温州経済は立ち直たっとは言い難い。抵当に押さえられたままの不動産も少なくありません。主力のアパレルや日用品などの産業も縮小し、次の産業は育っていないのが現状です」』、「「劇薬」が、不動産価格の予想外のハードランディングを招いてしまい」というのは、日本のバブル潰しで、不動産融資の総量規制導入で、不動産市場の崩壊、金融機関の不良債権問題深刻化を招いたオーバーキル策と似ている。
・『突き抜けた民営企業は一握り  日本でもその名をよく聞くアリババやテンセント、OPPOやシャオミなども民営企業だが、こうした“突き抜けた企業”は、実はほんの一握りだ。他方、シェアサイクルでも民営企業が大きなリードを見せたが、3年を経ずして参入企業の多くが消えた。「多産多死」で強者を生み出すのが中国流ともいえるが、上海在住の一部の消費者は「決断は大胆だが経営は問題が多い」と不安を隠さない。ちなみにシェアサイクルのofoは昨年日本から撤退したが、「その後日本支社と連絡がつかなくなった」と協力した自治体を困惑させている。 そんな民営企業に特効薬はないと踏んだのか、昨年、「私営経済退場論」「新公私合営論」といった論文が相次いで発表された。共産党の支配が強まる近年、これらは「中国を再び公有経済に戻すのか」という不安すら煽った。 民営企業は結局のところシャドーバンクから資金調達するしかなく、またしても借りた金の不良債権化が問題になっている。中国の有力経済紙「21世紀経済報道」は、「ここ数年の借り入れが返済期を迎えるが、返済できない企業は多い」、「違約に陥る民営企業が信用破綻を生んでいる」と報じる。 振り返れば2011年、中国のメディアはこぞって温州企業のこげつきと経営者の夜逃げを取り上げた。あれから8年を経た今、上海で感じるのは当時の“温州クラッシュ”の再現だ。 「政府がコントロールできる限りにおいてバブル崩壊はない」とする強気の中国だが、果たして市場は有効に制御されているといえるのだろうか。あるいは温州のバブル崩壊の検証を十分に行ったといえるのだろうか。もしかすると中国経済は今まさに、暗くて長いトンネルの入り口に立たされているのかもしれない』、不良債権といっても、その定義が緩く、処理も先送りが認められていれば、マイナス効果は裏で累積されるだけで、表に出てこない状態なのだろう。しかし、そうした危険な状態はやがて崩壊せざるを得ないが、現政権は先送りを優先するのだろう。
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ポピュリズムの台頭(その4)(トランプ欧州歴訪が示したポピュリスト帝国主義の脅威、トランプ主義で世界に広がる極右ポピュリズム ブラジルにも登場 連鎖する排外主義、「反日」だけが頼みの綱に 韓国・文在寅政権 トランプだけではない ポピュリズムのもたらす独裁政治が世界に蔓延) [世界情勢]

ポピュリズムの台頭については、昨年4月6日に取上げたままだった。久しぶりの今日は、(その4)(トランプ欧州歴訪が示したポピュリスト帝国主義の脅威、トランプ主義で世界に広がる極右ポピュリズム ブラジルにも登場 連鎖する排外主義、「反日」だけが頼みの綱に 韓国・文在寅政権 トランプだけではない ポピュリズムのもたらす独裁政治が世界に蔓延)である。

先ずは、在独ジャーナリストの熊谷 徹氏が昨年7月20日付け日経ビジネスオンラインに掲載した「トランプ欧州歴訪が示したポピュリスト帝国主義の脅威」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/opinion/15/219486/071900044/?P=1
・『米国のドナルド・トランプ大統領とロシアのウラジーミル・プーチン大統領が7月16日に行った共同記者会見は、欧米の多くの政治家、報道関係者を改めて戦慄させた。トランプ氏は「建設的な会談だった。これまで最悪だった米ロ関係が、この会談以降は大きく変わる」と断言。シリアやウクライナなどで継続する国際紛争をめぐってロシアを批判することを避け、友好的な態度を貫いた。プーチン氏が米ロ首脳会談に先立ち貿易や防衛予算をめぐってドイツをはじめとする西欧諸国を厳しく批判した態度とは対照的だった。 プーチン氏にすり寄るかのような米国大統領の態度は、米国の保守派政治家たちの眉をひそめさせた。米国大統領の欧州歴訪は、ポピュリストが権力の座に就いた時に国際社会に生じる危険な「ねじれ」を浮き彫りにした。 ねじれ現象とは、冷戦時代に固い結束を誇っていた米国と西欧諸国が対立し、米国の大統領がかつての敵ロシアに対し奇妙なほど宥和的な態度を見せる状態だ。これまでの敵・味方の概念が通用しなくなりつつある。 トランプ氏の今回の欧州歴訪での発言はしばしば変化し、多くの報道関係者を混乱させた。たとえば7月11日の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議でドイツなどを批判したかと思うと、翌日にはNATOを称えた。だがその直後の7月15日にはロシアと中国だけでなく欧州連合(EU)をも敵と呼んだ。米国大統領がEUをロシア・中国と同列に並べて敵と形容したのは初めてのことである』、トランプの「ロシアかぶれ」もここまでくると、当選前の訪ロ時に破廉恥な「弱味」を握られたためではないか、との疑惑がいよいよ真実味を帯びてくる。
・『ロシアの拡張政策を批判せず  トランプ氏の態度が最も激しくねじれているのは、ロシアに対する関係だ。私が住んでいる欧州の主要メディアは、プーチン氏を「危険な独裁者」と見ている。同氏は2014年に国際法を破ってクリミア半島をロシアに併合し、ウクライナ東部で続く内戦で分離独立派を支援している。このため欧米諸国はロシアに対して経済制裁を続けている。 さらにロシアはシリアの独裁者バシャール・アサド大統領を支援し、ロシア空軍の戦闘機に反体制派を攻撃させている。アサド氏は、数回にわたり毒ガスを使って市民を攻撃した疑いを持たれている。2015年10月にはシリアの北西部で病院が爆撃されて13人が死亡した。国際人権擁護団体アムネスティー・インターナショナルは「この爆撃はロシア空軍が行った」と主張している。 またロシア軍はバルト3国への圧力を高めており、これらの国々との国境地帯でしばしば大規模な軍事演習を実施している。このため北大西洋条約機構(NATO)は2017年、バルト3国に初めて戦闘部隊を常駐させ始めた。NATOは、「西側に対するロシアの姿勢が敵対的な性格を強め始めた」と分析している。 だがトランプ氏はプーチン氏と会談した後に開いた記者会見で、ウクライナやシリア情勢をめぐってロシアを批判しなかっただけではなく、プーチン氏を持ち上げる態度すら見せた。会談の前日にロシアを敵と呼んだことを忘れたかのようである。 北朝鮮の非核化についても、「私はプーチン氏に金氏との会談内容と非核化計画について話した。プーチン氏とロシアはこの問題の終結を切望していると思う。ロシアの協力に感謝したい」と極めて表面的なコメントをしただけだった。 シリア内戦については「シリア危機は極めて複雑だ。米ロ間の協力が数千人の命を救うだろう。我々は過激派組織・イスラム国を掃討したが、イランが漁夫の利を得ることには反対だ」と述べ、ロシアがアサド氏を支援していることやシリアで空爆したことには触れずに、批判の矛先を自分が敵視するイランに向けた』、ロシア寄りもここまでくると、特別検察官による捜査や議会の良識派が頼りの綱だ。
・『ロシア・ゲートをめぐり発言を訂正  記者会見で圧巻だったのは、ロシアが2016年の米国大統領選挙に介入した疑惑をめぐるやりとりだった。米国ではトランプ氏の立場が日一日と苦しくなりつつある。捜査当局は、ロシアの諜報機関がサイバー攻撃によってトランプ氏の対立候補であるヒラリー・クリントン氏の支持率を下げるための工作を実施し、選挙結果を操作したという疑いを強めている。 トランプ氏は「ロシアの介入は私の勝利に影響を与えていない」と主張してきた。だが7月13日に米国の特別検察官はロシアの諜報機関員12人を起訴し、「ロシアの諜報機関は民主党本部のサーバーへの侵入を試みたり、民主党の内部文書を外部に漏らしたりすることで、クリントン氏を不利な立場に陥れようとしていた」と指摘した。つまりロシアの諜報機関が大統領選挙の結果に影響を与えたという疑惑が一段と深まった。今年11月に予定される中間選挙で共和党の勝利を目指すトランプ氏にとって、不利な事態である。 トランプ氏はこの問題についてプーチン氏との首脳会談で議論したことを明らかにした。一方、プーチン氏は記者会見で「ロシアが米国の大統領選挙に介入したことは一切ない」と疑惑を打ち消した。するとトランプ氏は「プーチン大統領は今日極めて力強く疑惑を否定した(President Putin was extremely strong and powerful in his denial today)」と強調した上で、「プーチン氏は、特別検察官が起訴した12人の諜報機関員の捜査のために、ロシア側の捜査官を協力させる準備があると言ってくれた。これは信じられないくらい素晴らしい提案だ」と相手をほめるかのような言葉も発した。 もしもロシアの捜査官を米国の捜査に参加させた場合、機微な捜査情報がロシア側に漏れたり、ロシア側が容疑者や証人に圧力をかけたりする可能性がある。特別検察官が「違法行為を行ったと見ている国」の捜査官をこの重要な疑惑の捜査に参加させるわけがない。さらに、特別検察官が進める捜査についてトランプ氏は「米ロ関係に暗雲を投げかけ、我が国を貶める行為」と改めて批判した。 ドイツの保守系日刊紙フランクフルター・アルゲマイネ(FAZ)で外交問題を担当するクラウス・ディーター・フランケンベルガー記者は、7月17日付の第1面に掲載した社説で「トランプ氏は、自国の捜査当局よりもロシアの権力者の言葉を信じている。これはグロテスクだ」と論評した。そして「トランプ氏はプーチン氏の前でロシアの大国としての地位を承認して見せたようなものだ。もはや米国を西側社会の指導者と見ることは難しい」と厳しい批判の言葉を浴びせた。 さらにトランプ氏は記者団の質問に答えて「(米国大統領選への介入を)ロシアがやったと信じる理由はないと思う」と答えていた。しかし同氏は7月17日になって「これは言い間違いだった」と訂正した。本当は「(米国大統領選への介入を)ロシアがやらなかったと信じる理由はないと思う」と言いたかったというのだ。米国大統領が自分の発言を公式に訂正するのは異例だ。トランプ氏の側近たちは、「特別検察官がロシア・ゲートについて捜査している中、ロシアの介入はなかったと示唆するような発言を大統領がするのはまずい」と助言したのだろう。 米国の保守派政治家の間からも、トランプ氏の態度を批判する声が上がっている。共和党のジョン・マケイン議員は、この会見について論評した声明の中で「私が記憶する限り、トランプ氏がこの会見で見せた態度は、米国大統領による最も不名誉な態度だ」と断言した。そして「彼が見せた素人のような態度、エゴイズム、独裁者への共感が米国に与えた損害は計り知れない。トランプ氏がプーチン氏と首脳会談を持ったのは、誤りだった」と強い言葉で批判した。 マケイン氏は、「トランプ大統領にはプーチン大統領に対して異議を申し立てる力がない。それだけではなく、トランプ大統領は異議を申し立てる意思すら見せなかった。トランプ大統領はメディアの正当性のある質問から意識的にプーチン大統領という暴君をかばっていた。この共同記者会見は、プーチン大統領が世界中に宣伝文句と嘘を拡散するための場を提供したようなものだ」と強い言葉でトランプ氏を攻撃した』、フランクフルター・アルゲマイネ(FAZ)の社説が「「トランプ氏は、自国の捜査当局よりもロシアの権力者の言葉を信じている。これはグロテスクだ」と論評」したのは当然だ。米国内のトランプ大統領に対する反応もまだ健全なようだ。
・『ドイツに対する集中砲火  7月11日から2日間にわたり、NATO首脳会議がブリュッセルで開かれた。トランプ氏は首脳会議が始まる直前にドイツを「攻撃」した。 彼はロシアの大統領の前で見せた宥和的な態度とは対照的に、ドイツのアンゲラ・メルケル首相を徹底的に批判した。今回トランプ氏が取り上げた3つのテーマは、防衛予算と貿易問題、そしてロシアからの天然ガス輸入だった。 NATOは2014年にウェールズで行った首脳会議で、「2024年までに防衛費の対GDP(国内総生産)比率を少なくとも2%まで引き上げるよう努力する」という決議を行っていた。NATOによると、今年の時点で米国はGDPの3.5%を防衛費に充てている。これに対しドイツは1.24%にすぎない。 彼はNATOの イェンス・ストルテンベルグ事務総長との会談で「ドイツは防衛費を十分に負担せず、米国に守ってもらっている。その一方で、米国に対して巨額の貿易黒字を抱えている。さらにロシアから直接天然ガスを輸入するためのパイプライン『ノルトストリーム2』も建設している。ドイツはロシアの囚人(captive)になっているようなものだ」と主張した。主権国家ドイツに対する強い侮辱である。 メルケル氏はこの批判に即座に反論した。同氏は1989年にベルリンの壁が崩壊した時、社会主義時代の東ドイツで研究者として働いていた。彼女はこの経験を踏まえて「私は祖国の一部がソ連の影響下にあった東西分断時代を知っている。したがって現在祖国が統一され、我々が自分の判断で政策を決定できることを大変うれしく思う」と述べた。つまりメルケル氏は「ドイツがロシアの影響下に置かれている」という批判は的外れだと間接的に主張したのだ。 またトランプ氏は「ドイツはエネルギーの60~70%をロシアから得ている」と述べているが、この主張は不正確だ。ドイツのガス会社WINGASなどによると、2017年の時点でドイツのガス消費量のうちロシアから輸入しているガスの比率は40%、石油のロシアからの輸入比率は36.9%である。 ドイツがガスと石油の供給に関してロシアに大きく依存していることは間違いないが、ドイツはEUの対ロシア経済制裁に参加しており、「ロシアに囚われている」という表現は行き過ぎだ』、ドイツとしては、こんあ馬鹿なトランプの言いがかりに付き合う必要はないと思うが、やはりトランプが欧州安保の鍵を握っているだけに悩ましいところだろう。
・『NATO首脳会議の大混乱  メルケル氏の反論はトランプ氏の怒りを抑える役には立たず、NATO首脳会議は防衛支出をめぐって大混乱に陥った。まず初日の会議でトランプ氏が2%の目標を満たしているのが米国など5カ国に過ぎず、ドイツなど他の23の加盟国がこの目標に達していないことについて怒りを爆発させた。彼は「この目標値を2%ではなく、4%にするべきだ」とか「防衛費の対GDP比を2%にする時期が2024年では遅すぎる」と言い出した。 だが他の加盟国首脳はトランプ氏を説得して、「加盟国は2014年のウエールズでの首脳会議で設定した目標を順守する」という内容の共同声明について合意した。 ところがメルケル首相らは翌朝になって、トランプ氏が再びツイッターを通じて他国に対する不満を世界中に発信していたことに気がついた。彼(もしくは彼の側近)は、ツイッターのつぶやきを打ち続けた。その矛先は、またもやドイツに向けられていた。 「ドイツがロシアに対しエネルギーとガスのために数10億ドルも払っているとしたら、NATOには何の意味があるのだ? なぜ28カ国のうち、5カ国しか防衛費の対GDP比率の目標を守っていないのだ? 米国は欧州の防衛のために費用を負担しているのに、貿易では何10億ドルも損をしている。他の加盟国は、2%の目標を2025年までではなく、すぐに達成するべきだ」 「欧州諸国は、昨年私が欧州を訪れた時の要請に応えて、防衛費を数十億ドル追加してきた。だが彼らの追加支出は不十分だ。米国は彼らのためにカネを使い過ぎている。欧州の国境は悪い(筆者注・原文はEurope’s borders are BAD! トランプ氏が何を言いたいのか不明だ。BorderではなくLeaderと言いたかったのだろうか。彼のツイッターの質の低さを示す例文としてあえて引用した)。ロシアとのパイプラインのために巨額のカネを使うのは受け入れられない」「米国の歴代の大統領たちは、ドイツや他の裕福な欧州諸国の指導者に対して、ロシアに対抗するため防衛支出を増やすように要求してきた。だが欧州諸国は、負担すべき防衛費のほんの一部しか払っていない。米国は欧州を支えるために何十億ドルものカネを払っており、貿易では大損害を受けている」 「ドイツはロシアから自国を守りたいと思っている。しかしドイツは今やロシアにカネを払い始めた。ドイツは新しくパイプラインを建設することによって、ロシアからのエネルギーのために数10億ドルの金を払おうとしている。これは受け入れられない! 全てのNATO加盟国は防衛費の対GDP比を2%ではなく、4%にしなくてはならない!」 これらのつぶやきはNATO幹部や欧州諸国首脳を戦慄させた。彼らの頭の中には、トランプ氏が6月上旬にカナダで開かれたG7サミットで、共同声明への同意を会議の後に撤回した記憶が生々しく残っていた。さらにこの朝NATO本部では、「トランプ氏が『米国に独自の道を歩ませる』と吹聴していた」という不吉な噂も流れていた。 もしも米国が共同歩調を乱したら、それはNATOの大幅な弱体化につながる。メルケル氏らはトランプ氏が夜中に発信したツイッターのつぶやきから、彼が前日に行った共同声明への同意を再び撤回する危険があると判断し、7月12日に緊急首脳会議を開くことをストルテンベルグ事務総長に要請した。この会議は当初全く予定されていなかったものだ。この日午前に予定されていたジョージアとウクライナの大統領との会議は、後回しにされた。これらの変更は、メルケル氏ら他国首脳の危機感がいかに大きかったかを物語っている。 この会議でメルケル氏ら各国首脳は「防衛支出の追加額をこれまで予定していた額よりも増やし、これまでを上回るスピードでGDP比2%ラインに近づける」ことを約束した。この会議の後、記者団の質問に答えたストルテンベルグ事務総長は、「各国はトランプ氏の大統領就任時に比べて、防衛支出を410億ドル増やすことを約束した。これは米国の負担を減らすことにつながる」と述べ、「NATOの結束は強まった」と強調した。 トランプ氏も会議の後「議場にいた全ての加盟国が防衛費追加の額とテンポを大幅に増やすことを約束した。NATO首脳会議は大成功だった。私が大統領に就任して以来、各国の防衛支出は数十億ドルも増加した。すばらしい!」と自画自賛している』、防衛支出の増額は欧州諸国にとって出来るカードなので、切らざるを得なかったのだろう。
・『「トランプ氏の操り人形」  これに対しドイツの論壇では「トランプ氏は他の国々をまるで手下であるかのように扱った」という強い不満の声が広がっている。NATO加盟国のある参加者はドイツの新聞記者に「トランプ氏は我々をまるで操り人形であるかのように踊らせた。こんなことは一度も経験したことがない」と語っている。この言葉にはトランプ氏の一挙一動に翻弄される欧州諸国の苛立ちと不満が込められている。 ドイツ外務省の次官を務め、現在はミュンヘン安全保障会議の主催者であるヴォルフガング・イッシンガー氏は、「トランプ氏はマフィアのようなやり方で、首脳会議の行方を操った。欧州諸国はこの経験を教訓として、多国間関係を重視しなくなった米国と今後どう付き合っていくかについて、じっくりと考えなくてはならない」と語った。同盟国の元外務次官が米国大統領の挙動を暴力団にたとえる。これは、オバマ政権の時代までは想像もできなかったことである。 トランプ氏とEU諸国の対立は、まだ始まったばかりだ。同氏は、自動車輸出などドイツが痛みを伴う分野での圧力を強めていくだろう。11月の中間選挙へ向けて、彼のドイツ・バッシングが一段と強まる恐れがある。欧州諸国は安全保障や貿易に関して、米国への依存度を減らそうとする動きを今後加速するに違いない。しかし米国依存度がこれまで高かったために、「脱米」のプロセスにはかなりの歳月がかかるだろう。世界が「ポピュリスト帝国主義」の暗雲から抜け出す道は、当分見つかりそうにない』、「同盟国の元外務次官が米国大統領の挙動を暴力団にたとえる」というのは確かに異常だ。「世界が「ポピュリスト帝国主義」の暗雲から抜け出す道は、当分見つかりそうにない」というのは、やれやれだ。

次に、元日経新聞論説主幹の岡部 直明氏が10月11日付け日経ビジネスオンラインに掲載した「トランプ主義で世界に広がる極右ポピュリズム ブラジルにも登場、連鎖する排外主義」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/report/16/071400054/101000081/?P=1
・『トランプ主義が暴走するなかで、世界に極右ポピュリズム(大衆迎合主義)が広がっている。ブラジル大統領選では「ブラジルのトランプ」と呼ばれる極右のジャイル・ボルソナロ下院議員が首位に立った。イタリアの極右、サルビニ副首相(同盟党首)が打ち出した財政拡大路線は財政規律を求める欧州連合(EU)への挑戦状ともいえる。旧東欧圏でも排外主義勢力が頭をもたげている。トランプ流排外主義に連鎖する極右ポピュリズムの蔓延は、グローバル経済を揺るがし、世界を危機に陥れる危険がある』、「トランプ流排外主義に連鎖する極右ポピュリズムの蔓延」は確かに由々しい潮流だ。
・『「ブラジルのトランプ」首位に  ブラジル大統領選では、極右のボルソナロ氏が46%の票を獲得し首位に立ったが、過半数を確保できなかったため28日に左派のフェルナンド・アダジ元サンパウロ市長との決選投票が実施される。予想を上回る得票だったが、ボルソナロ氏は選挙結果に不満らしく「選挙に不正がなければ、今回で決まりだった」と述べた。根拠もなく不正というあたり、「ブラジルのトランプ」らしい。 元軍人のボルソナロ氏は、軍事独裁政権を礼賛しているほか、黒人や同性愛者を差別する過激な言動が売りだが、それだけに反発も強い。それでも大統領選で首位になることが、ブラジル社会の混迷ぶりを浮き彫りにしている。国営企業の民営化など構造改革路線は市場では支持されており、ボルソナロ人気で株価や通貨レアルは上昇に転じている。 ブラジル経済は2014年ワールドカップ、2016年オリンピックと相次ぐメガ国際大会の開催を受けて、低空飛行を続けてきた。新興国は軒並み米連邦準備理事会(FRB)の利上げの余波を受けているが、ブラジルもその例外ではない。失業率は12%、財政赤字の国内総生産(GDP)比は8%と構造問題を抱えている。それだけに、極右ポピュリストの改革路線に期待も集まる。 収監中のルラ元大統領などブラジル政界には腐敗と汚職が相次ぎ、政治不信が極まっている。こうしたなかでの強権政治家への期待は民主主義の脅威でもある』、ブラジルの前政権は左翼ポピュリストだったので、選挙で左右が入れ替わったのは理解できる。
・『「トランプの壁」が揺るがす中南米  中南米にはもともと、社会に不満を抱えた人々を取り込むポピュリズムの潮流があった。その傾向がさらに強まる可能性がある。中南米はいま、トランプ米大統領によるメキシコ国境での壁建設にみられる排外主義で、移民排斥のうねりが高まっている。独裁と極度の経済難にあるベネズエラやニカラグアからの移民、難民は周辺国に流入するが、ペルー、コロンビアなどには難民排斥の動きが強まっている。トランプ大統領の国境管理に阻まれた中米の人々は、結局、メキシコでの定住を目指すことになるが、それにはメキシコ国民の不安も高まっている。 そのメキシコはトランプ政権との協議で、北米自由貿易協定(NAFTA)を米墨加自由貿易協定(USMCA)に切り替えることで合意したが、「米国第1」の色彩が濃く、数量規制による管理貿易や為替条項が盛り込まれている。ブラジル経済が低迷し、アルゼンチン経済も深刻な危機に見舞われるなかで、メキシコだけが中南米のアンカー役を担うのにも限界がある。トランプ排外主義は中南米全体を揺るがす。トランプ発の中南米危機は「極右ポピュリズム」の台頭を許す温床になっている』、中南米の「極右ポピュリズム」は当面、続くとしても、その結果が政治や社会の分断を招くとすれば、悲劇だ。
・『「ムッソリーニの再来」の挑戦  イタリアの連立政権は左派の「五つ星運動」と右派の「同盟」の左右両派のポピュリスト政権である。大学教授で政治経験のないコンテ首相が表向きは采配を振るう形だが、実権を握るのは五つ星運動党首のディ・マイオ副首相と同盟党首のサルビニ副首相である。とりわけ「ムッソリーニの再来」との異名のあるサルビニ副首相の存在感は大きい。 EU内ではあちこちで極右勢力が台頭しているが、EUの原加盟国で主要国である国の政権を極右ポピュリストが牛耳るのはイタリアだけである。フランスでは大統領選で極右、国民戦線のルペン党首を封じ込め、若きマクロン大統領を誕生させた。ドイツではメルケル政権は社民党との連立の組み方に腐心しながらも、進出する極右「ドイツのための選択肢」に待ったをかけた。オランダも総選挙で極右のウィルダース自由党党首の進出を阻んだ。それだけに、イタリアの政権が極右ポピュリスト支配に陥ったのは大きな衝撃である。 内相を兼務するサルビニ副首相は、北アフリカからの難民受け入れを拒むなど移民、難民排斥にまず「実績」を示そうとしたが、今度はEUへの挑戦に動き始めている』、「EUの原加盟国で主要国である国の政権を極右ポピュリストが牛耳るのはイタリアだけ」というのはやはり衝撃的だ。
・『後退する財政再建目標  サルビニ副首相はEUやユーロからの離脱を考えてはいないが、EUの財政規律路線を目の敵にしてきた。3月の総選挙では聞こえの良いポピュリスト政策を並べたてて勝ち上がってきただけに、公約実現を試されている。 コンテ・イタリア政権は9月末、2019-21年の3年間の経済財政計画を決定した。財政赤字のGDP比は2・4%とEU基準(同3%)以内に収めたが、2021年までに同0・2%の黒字化を達成するという目標は後退した。イタリアの長期債務残高のGDP比は130%とギリシャ(同180%)に次いで悪い。景気は緩やかに回復してきたものの、失業率は10%を超えるうえ、銀行システムの懸念が残り、ユーロ圏の最大の不安要因であることに変わりはない。財政規律が緩めば、不安はさらに高まる。 そんななかでユーロ圏の財務相たちはイタリアに「財政ルールを順守せよ」と警告している。EUはイタリアに予算修正を求める構えである。イタリアのポピュリスト政権とEUのズレをみて、イタリアの長期金利は一時4%台に上昇しており、混迷はさらに続く』、12月19日付け日経新聞によれば、「EU、イタリア予算案が当初案より財政赤字幅を縮小させたのを評価し、EU財政ルールに違反しているとして検討していたイタリアへの年内の制裁手続き入りは見送る」ようであるが、今後も、EUとの摩擦が増えるだろう。もっとも、イタリアはEUから受けるメリットの方が大きいので、英国のような離脱に発展する懸念はなさそうだ。
・『広がる排外主義  イタリアのような主要国ではないが、極右ポピュリストが政権を牛耳るEU加盟国がある。ヒットラーを生んだ国、オーストリアである。極右政党、自由党党首のシュトラッヘ副首相は日本経済新聞のインタビューで、難民を多く受け入れたドイツのメルケル首相の判断を「無責任だ」と公然と批判した。難民受け入れに寛大すぎたメルケル首相の政策姿勢は、メルケル首相本人が反省しているが、EUの盟主であるメルケル首相へのあからさまな批判は、EUの求心力が低下している証しだろう。 そうでなくでも、難民問題をめぐってEUと旧東欧圏のあつれきは強まっている。ポーランドやハンガリーは、メルケル政権主導のEUの難民受け入れ分担に強く反発してきた。司法の独立をめぐってもあつれきがある。EUはポーランドが施行した最高裁判所に関する新法について、司法の独立を侵害するとしてEU司法裁判所に提訴することにした。欧州議会はハンガリーに対して表現の自由や人権保護などEUの基本的価値に制裁手続きの開始を求めている。 こうしたEUの動きに、ポーランドとハンガリーはEUの全会一致原則をたてに、互いに発動を阻止する構えだ。 冷戦終結直後、筆者はポーランドを訪れ、外務省幹部と会見したが、驚いたのはEUへの早期加盟に強い意欲を示したことだった。EU加盟後も「優等生」として振る舞ってきた。そのポーランドはいま排外的な強権政治で、ポーランド出身のトゥスクEU大統領の頭痛の種になっている』、EUの制裁措置を、「ポーランドとハンガリーはEUの全会一致原則をたてに、互いに発動を阻止する構えだ」というのも困ったことだ。
・『バノン氏がめざす「極右連合」  こうした排外主義の広がりは、トランプ主義の影響が大きい。トランプ政権を去ったが、極右ポピュリストのスティーブ・バノン氏はトランプ大統領を大きく動かした。トランプ主義の原点はバノン主義といっていい。米中間選挙を前に、共和党はトランプ人気に頼りきりで、トランプ大統領に乗っ取られたといえる。 政権を去ったバノン氏がめざすのは、「極右連合」の形成である。イタリアのサルビニ副首相、オランダのウィルダース自由党党首、ハンガリーのオルバン首相らとの連携を模索している。狙いは来年の欧州議会でのEU懐疑派の勢力拡大である。 これは、欧州極右のさきがけとなったフランスのジャン=マリー・ルペン氏がとった戦略を見習うものだろう。冷戦末期、筆者は欧州議会選挙を取材したが、極右ルペン氏の台頭は衝撃的だった。もっとも、ルペン氏の娘、マリーヌ・ルペン氏が、「バノン氏には欧州を救えない」と一定の距離を置いているのは皮肉である』、バノンが「極右連合」を目指しているとは、やはりそうかと納得できる話だ。
・『危険な「トランプ慣れ」症候群  危険なのは、いま世界に「トランプ慣れ」が広がっていることである。米国経済が好調を維持していることで、トランプ主義にも「まあいいか」という風潮が出てきている。 しかし、そのトランプ主義がいま世界で極右ポピュリズムの台頭を許しているのは間違いない。源にあるトランプ大統領の排外主義を直視し、警告し続けない限り、排外主義は連鎖の輪を広げるだろう。それは世界経済を停滞させ、民主主義を後退させて、世界を深刻な危機にさらすことになる。極右台頭を座視した結果が何をもたらしたか。戦前の苦い教訓に学ぶときである』、岡部氏の主張には全面的に賛成である。

第三に、米国在住ジャーナリストの高濱 賛氏が1月7日付けJBPressに寄稿した「「反日」だけが頼みの綱に、韓国・文在寅政権 トランプだけではない ポピュリズムのもたらす独裁政治が世界に蔓延」を紹介しよう。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/55130
・『「民主主義は大衆が選んだ指導者によって死ぬ」  米国のバラク・オバマ前大統領が2018年の1年間に読んだ本として挙げている29冊の中に『How Democracies Die』(民主主義はいかにして死すか)がある。 ハーバード大学のスティーブン・レビツキーとダニエル・ジブラット両教授が著した本で、2019年1月にはペーパーバック版も出た。 著者たちはズバリこう言い切っている。「民主主義は将軍たちの手によって死ぬのではなく、大衆が選んだ指導者たちの手によって死ぬ」 大衆によって選ばれた指導者は権威的な独裁者になり得る。その要因は4つある。 1つ目は、独裁者は民主的な制度・法令・慣例を拒絶し、却下する。 2つ目は、独裁者は政敵、反対者の合法性を否定する。 3つ目は、独裁者は特定の暴力を大目に見たり、けしかけたりする。 4つ目は、市民的自由(思想・言論・集会の自由)を削ごうとする。 著者たちは現代社会の政治にこの4つのカテゴリーを当てはめてこう指摘する』、「民主主義は大衆が選んだ指導者によって死ぬ」との著者たちの指摘は不気味だ。
・『権威主義的指導者4カテゴリーをすべて備える大統領  「リチャード・ニクソン(第37代大統領)を除けば、この4つの要因のうち1つとして実行した米歴代大統領はいない。ところがドナルド・トランプ(第45代大統領)はこの4つのすべてに当てはまる」 つまりトランプ大統領についてはこういうことが言えるというのだ。 トランプ大統領は、オバマ第44代大統領が決定し、議会が承認したオバマケア(医療保険制度改革)をはじめ移民政策、地球温暖化防止のためのパリ協定、環太平洋連携協定などの外交的約束を次々と一方的に破棄。 いまだに「政敵」ヒラリー・クリントン元国務長官を訴追しようと必死になっている。 さらにはネオナチスの反社会的行動を黙認するだけでなく、その支持者を周辺に起用してきた。 市民的自由が脅かされているのを見てないふりをしている。 著者たちは、こうした「トランプ政治」の兆候は、実はオバマ第2期政権後半にすでに表れていたと見ている。 「保守派のアントニン・スカリア最高裁判事が急逝した2016年、オバマ大統領はその後継に中道リベラル派のメリック・ガーランド・コロンビア特別区連邦控訴裁判事を指名した」 「これに対して上院共和党は米政治史上これまでになかったような行動に出た。ガーランド氏の指名承認するための審議どころか聴聞会すら拒否したのだ」「米民主主義を守るのは立法、司法、行政だ。その1つ、立法が行政が指名した司法に仕える最高裁判事候補を承認するか否かの重要な役割を放棄したのだ」「この時、民主主義の根幹がすでに腐り始めていたのだ。これは当今の民主主義に対する恐るべき脅威だった」』、「権威主義的指導者4カテゴリーをすべて備える大統領」がトランプ大統領とは、恐ろしい話だ。しかも、トランプ以前の上院共和党も「民主主義の根幹がすでに腐り始めていた」とはやれやれだ。
・『民主主義の基盤は「相互的寛容」と「制度上の自制」  本書の著者たちはさらに続ける。「民主主義の基盤を補強するのは、2つのノーム(規範)、つまり暗黙のルール、しきたりだ」「1つは、自分の意見に反対する者に対する配慮だ。『相互的寛容さ』(Mutual toleration)だ。もう一つは『制度上の自制』(Institutional forbearance)だ」 つまりこういうことだ。「短期的にはあなたにとっては不都合かもしれないが、長期的には良いかもしれない。逆の私にとって短期的には好都合だが、長い目でみれば良くないかもしれない」「なぜなら私は未来永劫政権の座にあるわけではない。あなたが取って代わる時が来る。それが民主主義だ。我々の政策論議に必要なのは寛容さと自制だ」 著者たちによると、こうした共和党の「規範破り」はトランプ政権誕生で一気に加速したという」「トランプ氏の選挙公約に盛り込まれた箇所の多くは自らの個人的な恨みを晴らす言葉で散らばられていた」「トランプ氏は衝動的な感情を自らコントロールできない。自らの言動をコントロールできなければ、民主主義を継続的に遂行する当事者にはなり得ない」「トランプ氏が米民主主義の死を招いているとまで言わない。だが、トランプ氏は米民主主義を死に至らしめる過程を加速させていることだけは間違いない」 「彼は『3軍最高司令官』(Commander-in-chief)であると同時に『政治規範ぶち壊し屋』(Norm-shredderd-in-chief)でもある。今、米国の政治は、『ガードレールなき民主主義』なのだ」Newsweek』、『ガードレールなき民主主義』とは恐ろしいが、言い得て妙だ。
・『プーチン、エルドアン、アドゥロ、モディも同列  著者たちは、世界にも目を向ける。 民主主義国家を自負する国の中にトランプ氏と同じような権威主義的な指導者はいないだろうか。民主主義の危機を迎えているのは国はあるのか。 著者たちによれば、「民主主義国家」という旗を掲げながら、自らの政治に反対する野党や反対勢力を「不穏分子」として投獄したり、自らの政策を批判するメディアや言論人を弾圧したり、共同謀議、国家転覆だとレッテルを張り、沈黙させている指導者は世界にうじゃうじゃいるというのだ。(むろん、共産主義独裁の中国や北朝鮮などは論外である) 著者たちが指摘する「民主主義国家と称する国家」を牛耳っている権威主義的指導者は以下の通りだ。 ロシアのウラジミール・プーチン大統領。トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領、ハンガリーのオルバン・ビクトル首相、ベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領、インドのナレンドラ・モディ首相・・・・。 これら指導者を選んだのは有権者である大衆だ。 その多くは自分たちに苦しい生活を強いている張本人は「保守反動」だと確信していた。そして選挙では「革新」に票を投じた。 ところが政権を取った「革新」こそが今、大衆を苦しめている。「言論の自由」を奪い、弾圧している。政府批判をする反対勢力を投獄している。 中には反政府分子を殺害するよう「指示」したとされる指導者すらいる。共産党一党独裁の中国や北朝鮮ならいざ知らず、一応「民主主義国家」を標榜している国々だ』、よくぞこれだけ権威主義的指導者たちが揃ったものだ。
・『勉強会で「権威主義的指導者」と名指しされた文在寅  筆者が定期的に参加している学者・ジャーナリストの少人数の勉強会がある。その席上、本書が取り上げられた。 出席者の1人は、民主主義国家と自称し、米国の重要な同盟国であるサウジアラビアを取り上げた。 昨年10月、サウジアラビア政府を批判していたジャマル・カショギ記者が殺害された背景には、サウジアラビアの最高権力者、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子がいるのではないか、との情報がもっぱらだ。 「サルマン皇太子もプーチン氏やエルドアン氏と同じ穴のムジナだ」というわけだ。 もう1人、東アジア問題に精通する米主要シンクタンクの研究員は「韓国の文在寅大統領はどうだろう」と言い出した。 「『民主主義の敵』は必ずしも保守反動ばかりではない。左翼、極左反動も独裁化すれば『民主主義の敵』になり得る。プーチンはその典型だ」「韓国の文在寅(大統領)も左翼集団を基盤にのし上がった政治家だ」 「確かに前任者の朴槿恵(前大統領)は個人的な不正や不正腐敗などで追放され、投獄された。だがそれによって朴槿恵の成し遂げた政治をすべて否定する権限などないはずだ」「それは、トランプ大統領がオバマ前大統領のやってきたことをすべて破棄すると似ているではないのか」「その錦の御旗は『民族』『自主』『正義』そして『反日』。韓国人は何人でも『反日』を無条件に受け入れなければ生きていけないような土壌が出来上がってしまった」「そのあおりを受けて、日本との慰安婦問題では『最終的かつ不可逆的に解決した』日韓合意といった外交上の約束事まで破棄した」「それを司法は支持するかような判決を次々と出している。韓国の司法は、今や文在寅と同じ思想を持つ同じ世代の『革新』分子に牛耳られている」「本書の著者たちが挙げている権威主義的指導者の条件を満たす4つのカテゴリーうち、1と2は適用されるんじゃないか」』、文在寅のような左派ポピュリストも大いに問題だ。
・『「自分たちだけが世界のすべてと考える」 韓国のネオ『衛正斥邪派』  筆者はたまたま読んでいた著名な韓国人ジャーナリストの記事を紹介した。韓国有力紙「朝鮮日報」の元主筆、柳根一氏のコラムだ。 「今(韓国は)混沌の局面だ。庶民生活が無茶苦茶になっている。『進歩』を掲げる政府でありながら、その政策は貧富の格差を一層ひどくした」「混沌をまざまざと示すのは20代男性の最近の動向だ」「当初は文在寅大統領を支える大きな支持層だった。その後わずか半年で年齢層の中で文大統領を最も支持しない層に変わった」「実は20代だけでなく、多くの国民が自分たちの生活を以前よりも苦しくした張本人は『保守』だと確信し、『進歩』に投票した。ところがどっこい、実際にその『進歩』が彼らを苦しめているのだ」「彼らが『進歩』と考えていた当事者たちは実は『進歩』でなく、歴史の反動であり、守旧の愚か者だったのだ」「(今、文在寅政権で要職に就いている)かっての学生運動家たちは近代文明における左派ではなく、前近代の朝鮮王朝時代における『衛正斥邪派』*1のようなものだったのだ」 *1=元来は正学(朱子学)を守り、邪学(仏教や天主教など)を排斥する学派だったが、欧米列強の侵略に直面し、欧米諸国を夷狄視して排斥する学派に転じた。朝鮮王朝末期の政治思想及びその学派。「左派は自由民主主義を否定し、産業化に反対し、ビジネス文明に無知。彼らはかっての中華帝国とその子分として自分だけが世界のすべてのように考えた朝鮮王朝時代の発想に基づいて行動している」「今(韓国で行われている)戦いは大韓民国と朝鮮(北朝鮮+南朝鮮)王朝との間で起こっている」』、文在寅の取り巻きの「かっての学生運動家たちは近代文明における左派ではなく、前近代の朝鮮王朝時代における『衛正斥邪派』*1のようなものだったのだ」、というのは驚きだ。
・『渡邉恒雄氏の「反ポピュリズム論」とも相通ずる「民主主義の死」  勉強会に出席した米主要紙のコラムニストはこうコメントした。 「『保守反動独裁に対する抵抗』を掲げる自称『民主闘士』たちが政権を握ると、今度は自分たちに反対する者たちを査察し、裁判にかける。投獄する」「どこの中堅民主主義国家にも見られる現象だ。文在寅(大統領)が南北朝鮮和解だ、統一だ、と大騒ぎするのは、国内的に政権持続が怪しくなってきたからだろう。『反日』は文在寅政権にとっては命綱のようなものなんだろう」 かって読売新聞主筆の渡邉恒雄氏は著書『反ポピュリズム論』の中で「大衆迎合は国を滅ぼす」と指摘している。 まさに本書の著者たちが指摘した「民主主義は大衆が選んだ指導者の手で死ぬ」という論点にも相通ずるものがある。 著者たちが指摘した「民主主義の死」。それはただトランプ政治にだけに当てはまるものではない。 また右とか左、保守とか革新とは別次元のものだろう。(ややもすれば、「進歩」だとか「革新」と言うと、何となく反民主主義独裁とは無関係と思いがちだが、反民主主義と政治哲学は無関係だ)「民主主義は大衆に選ばれた指導者によって死ぬ」――。噛みしめたい主張だ。韓国の知識人の意見も聞きたいところだ。 本当に今、韓国では「大韓民国と朝鮮王朝の戦い」が起こっているのか』、今回の高濱氏の記事は、刺激的で大いに参考になった。
タグ:日経ビジネスオンライン JBPRESS ポピュリズムの台頭 岡部 直明 高濱 賛 熊谷 徹 トランプ氏は、自国の捜査当局よりもロシアの権力者の言葉を信じている。これはグロテスクだ (その4)(トランプ欧州歴訪が示したポピュリスト帝国主義の脅威、トランプ主義で世界に広がる極右ポピュリズム ブラジルにも登場 連鎖する排外主義、「反日」だけが頼みの綱に 韓国・文在寅政権 トランプだけではない ポピュリズムのもたらす独裁政治が世界に蔓延) 「トランプ欧州歴訪が示したポピュリスト帝国主義の脅威」 ロシアの拡張政策を批判せず ロシア・ゲートをめぐり発言を訂正 ドイツに対する集中砲火 NATO首脳会議の大混乱 「トランプ氏の操り人形」 「トランプ主義で世界に広がる極右ポピュリズム ブラジルにも登場、連鎖する排外主義」 「ブラジルのトランプ」首位に 「トランプの壁」が揺るがす中南米 「ムッソリーニの再来」の挑戦 イタリアの連立政権は左派の「五つ星運動」と右派の「同盟」の左右両派のポピュリスト政権 後退する財政再建目標 バノン氏がめざす「極右連合」 危険な「トランプ慣れ」症候群 「「反日」だけが頼みの綱に、韓国・文在寅政権 トランプだけではない ポピュリズムのもたらす独裁政治が世界に蔓延」 「民主主義は大衆が選んだ指導者によって死ぬ」 民主主義はいかにして死すか 民主主義は将軍たちの手によって死ぬのではなく、大衆が選んだ指導者たちの手によって死ぬ 権威主義的指導者4カテゴリーをすべて備える大統領 民主主義の基盤は「相互的寛容」と「制度上の自制」 プーチン、エルドアン、アドゥロ、モディも同列 勉強会で「権威主義的指導者」と名指しされた文在寅 「自分たちだけが世界のすべてと考える」 韓国のネオ『衛正斥邪派』 渡邉恒雄氏の「反ポピュリズム論」とも相通ずる「民主主義の死」
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ハラスメント(その10)(続・代表取締役の辞任を迫った百十四銀行のガバナンスと内部統制、「組織の病」を見過ごすトップと指導という詭弁 ガイドラインでは不十分…パワハラ防止措置の法制化を、「高3自死事件」遺族が国と面談を望んだ理由 日本バレーボール協会も異例の対応に動いた) [社会]

ハラスメントについては、昨年9月18日に取上げた。今日は、(その10)(続・代表取締役の辞任を迫った百十四銀行のガバナンスと内部統制、「組織の病」を見過ごすトップと指導という詭弁 ガイドラインでは不十分…パワハラ防止措置の法制化を、「高3自死事件」遺族が国と面談を望んだ理由 日本バレーボール協会も異例の対応に動いた)である。

先ずは、山口利昭弁護士が昨年11月2日付けビジネス法務の部屋に掲載した「続・代表取締役の辞任を迫った百十四銀行のガバナンスと内部統制」を紹介しよう。
http://yamaguchi-law-office.way-nifty.com/weblog/2018/11/post-63bb.html
・『10月30日のエントリー「代表取締役の辞任を迫った百十四銀行のガバナンスと内部統制」(以下「前回エントリー」と表記します)の続編であります。10月30日時点では、百十四銀行さんのスキャンダルがどのような経緯で表面化したのかわかりませんでした。しかし昨日(11月2日)発売のZAITEN12月号の記事を読み、ようやく納得いたしました。この百十四銀行さんの事件がZAITENで表に出る前に、同行が自社の対応を公表することにした可能性が極めて高いと思われます。 しかし地銀トップのスキャンダルを調べ上げ、(推測にすぎませんが)社内処分をリリースさせたZAITENもなかなか、ですね。本エントリーをお読みの皆様の会社で同じことが起きた場合、ZAITENさんの記事が掲載される前に動きますか?それとも様子見ですかね? 会長および執行役員とともに、取引先との宴会に同席させた「女性社員」とは、20代の入社まもない行員だったそうです。前回エントリーでは「幹部候補であれば問題ないのでは」と書きましたが、このZAITENさんの記事が真実だとすればちょっと元会長さん、執行役員さんを弁護する余地(善解の余地)はなさそうです。しかし本当に取引先の要望で新入の女性行員を同伴させたというのは・・・・・ちょっと信じられないですね(ZAITEN誌によると、現実に取引先から「セクハラの範疇を超えた不適切行為」があったということですから)』、この事件は10月30日付け日経新聞でも簡単に取上げられただけだったので、よく分からなかった。山口氏の説明でも、宴席に「取引先の要望で新入の女性行員を同伴させた」理由、など不明な点はあるが、重要な取引先であるにしても、百十四銀行のやり方は酷過ぎる。
・『また、前回エントリーでは、百十四銀行さんの内部統制やガバナンスには一定の評価が与えられるのでは・・・と述べましたが、ZAITENさんと百十四銀行さんの広報とのやりとりを読みますと、あまり社内処分や公表には熱心ではなかったことが窺えます。このようにZAITENさんのスキャンダル記事が掲載される予定を知って処分を公にした・・・・ということであれば、ちょっとガバナンスや内部統制を前向きに捉えることには躊躇いたします(つまり前記エントリーの一部を訂正したいと思います)。さらに、内部通報が同行に届いた事実は間違いないようですが、しかし通報事実がZAITENのもとに届いている事実も間違いないわけですから、同行の通報受理後の調査に問題があったことが推測され、この点からも内部統制が有効に機能していたかどうか疑問が残ります。 なお、前回エントリーにおきまして、 ①けっして経営トップが不適切行為に及んだわけではないものの、取引先の行為を制止できなかった点を問題視して社内調査に持ち込んだ経緯や、②穏便にすまそうとした社内の空気を社外取締役が一切読まずに正論で押し切った経緯、③そして会食が行われた2月から通報があった5月までの間、社内で本件はどう扱われていたのかなど、もう少し詳しく知りたいところです と書きましたが、ZAITENの記事を読んでも、そのあたりは明らかにはなりませんでした。とくに社外取締役が、当初の社内処分に異を唱え、外部弁護士による調査に持ち込んだ経緯については、上記記事にも何ら掲載されていません。むしろこのZAITENさんの詳細な記事と百十四銀行さんの記者説明とのギャップから推測しますと、銀行自身が自浄作用を演出したような穿った見方も成り立ちます(おそらくそんなことはない、とは思いますが・・・)。会長さんは社外取締役も辞任されたそうなので、今後は「これで収束」ということになるのかもしれませんが、ZAITEN記事によって真相はさらに闇の中に埋まっていくような気がいたしました。百十四銀行さんの内部統制、ガバナンスが果たして評価できるものであったのか、それとも私の推測が間違っていたのか、どこかで第二報が出てくることを期待しております』、「穏便にすまそうとした社内の空気を社外取締役が一切読まずに正論で押し切った」ということであれば、社外取締役にも大いに存在意義があることを実証した形だ。

次に、健康社会学者の河合 薫氏が11月13日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「「組織の病」を見過ごすトップと指導という詭弁 ガイドラインでは不十分…パワハラ防止措置の法制化を」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/opinion/15/200475/111200190/?P=1
・『「とにかく遅刻が多い。何度注意してもいっこうに直らない。『電車が遅れた』『乗り換えを間違えた』だの言い訳を繰り返すんです。先日も顧客との打ち合わせの時間に遅れて、相手をカンカンに怒らせましてね。僕も堪忍袋の緒が切れて、かなり強めに叱ってしまったんです。 そしたらなんとパワハラだと訴えられた。これをパワハラって言われてしまったら、部下の指導なんかできないですよ」 さて、これはやっぱり「パワハラ」? あるいは「指導の範囲」? どっちでしょ? 実はこれ、厚労省の「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」(パワハラ検討会)がまとめた報告書で、「パワハラに該当するか、該当しないか」を判断する具体例として示された事例を、私が口語体にしたものである。 正式な記載は以下。「遅刻や服装の乱れなど社会的ルールやマナーを欠いた言動・行動が見られ、再三注意してもそれが改善されない部下に対して上司が強く注意をする」で、報告書ではこれを、「パワハラ……じゃない」とジャッジ。上司の業務の適切な範囲であり、部下への指導としている。 その根拠としたのが、パワハラ検討会が決めた「パワハラの定義」だ。次の3つの要素をいずれも満たすものを、新たな「職場のパワーハラスメントの概念」としたのである(「新たな」とした理由についてはのちほど)。 (1)優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われること (2)業務の適正な範囲を超えて行われること (3)身体的もしくは精神的な苦痛を与えること、又は就業環境を害すること 冒頭のケースでは、「部下の遅刻問題」を上司が強く叱責することは、「上司の指導」の一環であり、「精神的苦痛を与える」とは言いがたい。(1)は満たすが、(2)と(3)は該当しない。 ちなみに「業務の適正な範囲を超えて行われること」とは、「社会通念に照らし、当該行為が明らかに業務上必要ない、又はその態様が相当でないものであること」を意味する。 具体的には、次のような行為が相当する。 ・業務上明らかに必要性のない行為 ・業務の目的を大きく逸脱した行為 ・業務を遂行するための手段として不適当な行為 ・当該行為の回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える行為 冒頭のケースでは、部下は再三注意されていたにもかかわらず、遅刻を繰り返した。なので、どんなに部下が「あれはパワハラです!」と訴えてもパワハラにならないのである。 では、次の場合はどうだろうか? 「強く叱る」だけではなく蹴りを入れたり、「親の顔が見てみたいよ!」とか、「どんな育てられ方したんだ!」とか、「だから〇〇大学のやつはダメなんだよ!」といった言葉が加わったら? ……はい、アウト!です。れっきとした「パワハラ」である。 暴力は「業務上明らかに必要性のない行為」で、「身体的苦痛」をもたらす。「生まれや育ち」に触れたり、容姿、あるいはプライベートなど、人格に関わる言葉は、「業務の目的を大きく逸脱した行為」で、「精神的苦痛」。(1)、(2)、(3)のすべてに該当し、3つの要素すべてを満たすため「パワハラ」なのだ』、きちんとした「パワハラ定義」が出来たことは、管理者にとっては朗報だ。
・『検討され尽くした「パワハラ定義」  では、もしみんなの前で叱責されたらどうだろうか? (3)の「精神的苦痛」や「就業環境を害する」には該当するが、(2)には必ずしも該当しないので、パワハラとは言いがたい。しかし、もし、わざわざみんなの前で立たせて、見せしめのように叱責した場合は、「業務を遂行するための手段としては不適当な行為」なので「パワハラ」。 じゃあ、冒頭の上司が、連日連夜、部下に深夜残業を課し、部下の睡眠時間が著しく取れない状況での遅刻だったら? 「パワハラじゃないよ。遅刻したヤツが悪いんだよ!」 いやいや、そんなことはない。連日連夜の残業の強制は、パワハラ6類型の「業務上の過大な要求」(のちほど説明)にあたり、結果として(1)(2)(3)のすべてに該当するのでアウト。部下は泣き寝入りしなくてすむ。堂々と「パワハラです!」と談判して大丈夫だ。 ……ふむ、実によく検討され尽くした「パワハラ定義」だ。 もちろん、すべてのケースで100%白黒つけられるわけではない。しかしながら、境界線のグレー部分がかなり薄められ、会社側、働く人側、それぞれの立場に立ち、さまざまな角度から検討した末にたどり着いた「3つの要素」であることは容易に想像できる。 一年ちょっと前の17年7月。これまでのパワハラ対策の問題点と、件の検討会発足を受け、こちらのコラムに私なりの意見を書いた(上司の虐待を擁護するニッポンの闇 指導とパワハラの境界線はどこだ)。 「セクハラは“受け手主観”で決めるべきだが、パワハラには、もっときちんとした線引きが必要なんじゃないか」と。「“虐待”と“パワハラ”を分け、“継続的”という文言も重要視してほしい」と訴えた。むろん検討委員会が私のコラムごときを参考にしたとは思えないが、当時「指導とパワハラの境界線」で派生していた問題は大かた解決できると考えている。 報告書では、冒頭の事例とは別に、典型的なパワハラ6類型を次のようにまとめている(報告書より河合作成)。検討グループでは、11年度に設置されたワーキンググループが示した「パワハラ定義と6つの行為類型」を踏まえ、先の3つの要素(1)(2)(3)を加えたのだ。(表はリンク先参照) いかがでしょうか。 完全ではないかもしれない。 しかしながら、「だって、ちょっと叱っただけで、パワハラと言って、翌日から来ないんですよ」「だって、社会人としてのレベルに達してない輩が多いのに、どこまで手取り足取り育てなきゃいけないんですか?」「上司が萎縮して指導ができないですよ」「中小企業の中には、強めの指導ができないと営業成績が落ちるところもあるでしょ」……etc etc. といった、上司たちの懸念をかなり払拭できる内容である』、表は確かによく出来ているようだ。
・『経営側の主張にあきれている  「これやっちゃダメ」「あれ言っちゃダメ」とダメ、ダメ、ダメだらけにするより、「〇〇はパワハラにはならない」という指標があれば、「指導とは何か」が考えられる。上司を悩ます「受け手にすべて決定権がある」という暗黙の了解に、くさびを打ち込んでくれたのだ。 が、経営側はこれでも物足りないらしい。何が何でもNO!「指導との境界線が~」とのたまい続けているのである。 11月6日に行われた労働政策審議会(厚労相の諮問機関)の分科会で、職場のパワハラの対策として、企業に「防止措置を義務付ける法整備」が提案された。ところが、経営側はこれまでどおり、「パワハラと業務上の指導の線引きが困難だ。いきなり法による措置義務を課すことは慎重であるべきだ」と繰り返したのである ……私は、パワハラがこれだけ社会問題化する中で、社員を守るための法的義務を回避しようとする経営側の姿勢に正直なところ、あきれている。申し訳ないけど、それ以上でもそれ以下でもない。ただただあきれているのだ。 あの時もそうだった。もう10年以上前になるが、過労死ラインとなる残業時間を議論する検討会で研究者側が「60時間」を主張するも、最後の最後まで経営側は受け入れず、「100時間」を訴え続けた。結果的に、苦肉の策として、「発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える」、あるいは「発症前1か月間におおむね100時間」という基準が定められた。当時、大学院生だった私は、傍聴席でこの議論を聞きながら、本当に残念に思った。 働き方改革関連法の議論の時も、まったく一緒だった。罰則付きの残業時間規制は、結局、経団連が主張する「繁忙期月100時間案」を連合が認める形となった。政府は「労働基準法の制定以来、70年ぶりの大改革」と胸を張るが、「100時間未満」とわざわざ「未満」にするという姑息な手段で、「100時間」とされる過労死ラインを“クリア”した。 これだけパワハラが社会問題になり、働く人の心身をむしばみ、最悪の場合、死に至る人まで出ているというのに。いったいどこまで、経営側は「きちんと経営すること」から逃げようとするのか。経営者は「最後は人。人材じゃなく、人財」と豪語するくせに、「働く人」への責任を負うのをとことん嫌う。 今回も、「義務化は中小企業の足かせとなる。ガイドラインで周知することが現実的だ」と、なんら強制力のない“ガイドライン信仰”を繰り返した。いったいこの国の経営者は、どれだけガイドラインが好きなのだろうか? そして、できあがったガイドラインに、本当にきちんと対応しているのだろうか? しかも、何かというと「中小企業が~」と、中小企業のせいにするのはいかがなものか。 私の知る限り、中企業だろうと小企業だろうと、働く人たちが生き生きと働く“健全な”経営をしている会社はたくさんある。そういった会社には、パワハラは存在しない。 パワハラは個人の問題ではなく、組織の問題である。数字だけを追いかけ、高すぎるノルマや過剰なプレッシャーを働く人にかけ、長時間労働、不公平感だらけの雇用形態といった「組織の病巣」を抱える企業で、パワハラは横行する。 風通しのいい職場を目指すこと、職場風土をよくすること、すべての社員が生き生きと働ける元気な職場づくりをすることが、パワハラ対策になる。 パワハラをなくせば組織が元気になるのではなく、元気な組織にはパワハラは起きないのだ。 パワハラは「組織の病」だ。経営側はその病を個人の問題とし、「指導」という体のいい言葉で組織の病巣を隠し、法的義務化反対の言い訳に、「中小企業」を持ち出し、責任逃れをする。 確かに、従業員1000人以上の大企業の88%がパワハラ対策を講じているのに対し、99人以下の中小企業は26%にとどまる(詳しくはこちら)。 だが、対策のほとんどが「従業員向け相談窓口」で、なんでもかんでも相談窓口を作れば、それで「オッケー!」? そんなわけはない』、経営側の責任逃れは、いつものこととはいえ、酷いものだ。
・『「相談窓口」の存在を知っているのか  そもそも「相談窓口」の存在を、働く人たちは知っているのか? 知っている人たちは、「相談窓口」に救われているのか? 実態調査の結果によれば、「相談窓口の設置」については、企業が実施していると回答した割合は、82.9%であるにもかかわらず、従業員が把握していると回答した割合は45.5%。勤務先がパワハラ予防・解決に「積極的に取り組んでいる・取り組んでいる」という回答者で過去3年以内のパワハラ経験者であっても、「相談窓口」の利用者は8.6%で、「何もしなかった」が41.8%と圧倒的多数だ。 「相談しても解決にならない」「相談することにより職務上不利益が生じる」 と考え、踏みとどまる。 相談窓口を作るなら、そこで働くすべての人が「最後はあそこに相談にいけばいいんだ」という意識を持たせることが必要不可欠。 そういった手間がかかる作業をせずに、ただ単に「窓口作った。はい、オッケー!」という茶番が、境界線をますます曖昧にさせるのだ。 「何? 相談がない? そっか、うちの会社にはパワハラはないんだな」「え? 相談のほとんどが『客観的にみたら、それパワハラじゃない』というものばかりだって? 本人のストレス耐性の問題だな」 ……といった具合に。 だが、もし「防止措置を義務付ける法整備」が創設されれば、経営側も働く側も意識が高まり、今ある「窓口」がもっと有効に使われることも期待できるし、職場風土の改善も含めて、「パワハラをなくすために必要なことは何か?」という問いを、企業が自ら問いかけるきっかけにもなる』、説得力溢れる主張だ。
・『企業とそのトップが取り組むことが絶対条件  それでももし「中小企業は……」というのであれば、長時間労働と同じように猶予期間を設ければいい。厚労省委託事業として、無料のパワハラセミナーや、無料のコンサルなども行われているので、そういったものを中小企業が優先的に利用できるようにするとか、いくらでも対策は取れるはずだ。 「指導」という言葉でパワハラがまかり通っていた昭和の時代にも、理不尽な扱いに悩んだ人はいたはずだし、恐らくそういう人は誰に話すこともできず、ひたすら耐えた。中には、耐えきれずに会社をひっそりと辞めていった人だっているかもしれない。 「時代が変わったから」かつては許された行為が許されなくなったわけじゃない。元々、許されない行為なのだ。 時代に関係なく、理不尽な言動は人を傷つける。 もうやめませんか。家に帰れば、自慢の娘や息子、尊敬されるお父さんやお母さんを苦しめることを。職場のハラスメントなんかで、人をうつや自殺に追い込んでいいわけないでしょ』、「「時代が変わったから」かつては許された行為が許されなくなったわけじゃない。元々、許されない行為なのだ」というのは、パワハラ問題の本質を再認識させられた。

第三に、フリーライターの島沢 優子氏が12月8日付け東洋経済オンラインに寄稿した「「高3自死事件」遺族が国と面談を望んだ理由 日本バレーボール協会も異例の対応に動いた」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/253662
・『「自分の関わった競技で子どもが自分で命を絶つなんて……。本当に申し訳ない……」 岩手県立不来方高校(紫波郡矢巾町)男子バレーボール部3年の新谷翼さん(当時17)が7月に自死した問題。遺族に文書で面会を求められた日本バレーボール協会専務理事の八田茂さん(61)は、筆者の取材で涙をにじませた。 サッカーJリーグのキャリアサポートセンター長や日本オリンピック委員会(JOC)のキャリアアカデミー責任者を歴任。昨年8月に協会外部から初めて専務理事に登用された。サッカーをはじめスポーツの強化育成に関わってきただけに、無念さが込み上げたのだろう』、八田茂専務理事のような立派な指導者が、スポーツ界にいたとは嬉しい驚きだ。
・『バレーボール協会専務理事が異例の面会  「第三者委員会の結果は出ていないからといって当該競技に関係する私たちが知らん顔はできない。まずは遺族の気持ちを考えるのが人間としての筋だと思う。こちらに来ていただくのでは申し訳ない。こちらからご焼香に伺いたい」と面会の意思を示した。 過去記事でも報じたとおり、翼さんは「ミスをしたらいちばん怒られ、必要ない、使えないと言われました」などと、顧問から受けた暴言の詳細を記した遺書を残していた。さらに岩手県教育委員会が実施した調査でも、「おまえのせいで負けた」などと顧問からなじられていたことを一部生徒が証言している。 これらの事実から、父親である聡(さとる)さん(51)は、顧問の男性教師(41)による間違った指導が自死の原因だと主張しているが、学校や顧問は認めていない。 また、前任の盛岡一高での暴力を元生徒に訴えられ係争中だったこの教師を顧問に置いた学校や県教育委員会の責任も問うているが、今もって第三者委員会の立ち上げさえメドが立たない。当時を知る翼さんの同級生たちが来春卒業してしまえば、調査は難航しかねない。このため遺族は11月16日付で、教師に対し刑事告訴を行った。 部活の現場における生徒へのパワハラは、この岩手の案件だけではない。10月には松本国際高校(長野県松本市)の男子バレー部監督(62)が、部員への暴力を含めたパワハラを認め辞任した。前任の岡谷工業高校で全国制覇の実績を持つ指導者だったが、暴力に頼る指導を継続させていたのだ。亡くなった翼さんは18歳以下のバレー日本代表候補だったが、松本国際にも日の丸をつける選手がいる。 八田専務理事は「どちらも決して起きてはいけないこと。体罰根絶の取り組みの整備、運用はそれなりに行ってきたが、それが決定打になっていないのかもしれない」と残念そうに話す。 ふたつの案件を踏まえ、同協会では来年2月、「暴力の撲滅に向けた強化策の提案・実施を行う」(八田専務理事)緊急プロジェクトを立ち上げる予定だ。 ひとつの案としては、協会オリジナルの指導者ライセンスを整備し、暴力やパワハラに頼らない指導について、再教育の機会を作ることだ。選手のすべての年代において競技団体独自の指導者資格が存在するのは目下のところ日本サッカー協会のみで、これにバスケットボール協会が続く。 さらに、2月に開催される全国春の高校バレーボール選手権大会(春高バレー)の際に、改めて日本バレーボール協会として、暴力とパワーハラスメントの根絶を宣言。啓もうのための策を考えていくという。 バレーボールの暴力案件が連続したとはいえ、当該の協会および連盟の実務的なトップポジションにあたる専務理事が被害に遭った選手の家族と面会するケースは異例のことだ』、岩手県教育委員会のお粗末な対応には、開いた口が塞がらないが、「教師に対し刑事告訴」は当然のことだ。さらに、損害賠償の民事訴訟も起こすべきだろう。バレーボール協会が「協会オリジナルの指導者ライセンスを整備」するのは、望ましい責任ある対応だ。
・『桜宮事件では協会は動かなかった  2012年12月に大阪の市立桜宮高校のバスケットボール部員(当時2年)が顧問による暴力やパワハラを苦に自殺。それを機にスポーツ界と全国高等学校体育連盟および日本中学校体育連盟は2013年に暴力行為根絶宣言をした。バレーボール協会も当時、会長名で「暴力行為には体罰のような肉体的な暴力だけではなく、暴言・脅迫・威圧・侮辱といった相手を精神的に傷つける行為も含まれる」とメッセージを発表している。 部員の自死はそのくらい重大な事件だったが、亡くなった部員の遺族が協会に面会を求めても当時の日本バスケットボール協会は応じていない。国際バスケットボール連盟(FIBA)から2リーグ制や組織の改変を求められ混乱の真っただ中にあったためともいえるが、そもそも責任の所在があいまいだった。 中高の運動部に所属する生徒は、当該競技の協会・連盟に登録しながら、中体連や高体連にも所属する。学校内の活動なので、教育委員会も関わってくる。一見、多くの機関に守られているように映るが、実は顧問の指導や運営の問題の有無をチェックできるのは学校のみだ。 匿名を条件に取材に応じてくれた岩手県のバレーボール指導者の男性は、翼さんの死を知ったとき、別の指導者らと「やっぱり、また、やらかしたか」と話したそうだ。顧問が、盛岡一高で暴力事件を起こし裁判中であることを知っていたからだ。 「不来方の監督はチームを指導するような資質のある人間ではなかった。負けると、生徒を体育館の隅に集合させ、ずっとミスした子を罵倒していた。常に怖い顔をして、ただ、ただ、生徒を責めるだけ。そんなところを見ても学校は見て見ぬふりをしていたのか。そういう態度を間違っていると感じなかったのか」と男性指導者は疑問を呈する。 だが、過去に取材した学校の管理職は「好成績を上げる運動部の顧問には、なかなか対等に話ができない」と漏らしていた。成績のいい部活動は学校にとっての名誉でもあり、それは地域や保護者をも巻き込む。「目指せ!全国大会!」と熱くなる保護者を前に「指導を見直せ」とは言えない。「このくらいは、まあいいか」と甘くなるのではないか。 松本国際に続き、熊本県九州学院高校ラグビー部、全国大会常連の山梨県富士学苑高校女子バスケットボール部と、強豪チームでの監督による暴力事件が続いている。 名古屋経済大学高蔵高校(愛知県名古屋市)の野球部では、元プロ野球選手だった監督(47)が部員に暴力を振るう動画が流出。学校側は「暴力は初めて」と説明したが、テレビの取材で生徒は「ここまで激しいのはなかった」と過去にもあったことを認めるような発言をしている。 殴った、殴らないの話ではなく、怒鳴り続けるなどパワハラ的指導が常態化していなかったか、生徒が自由に主体的に取り組める部活マネジメントができていたのかといった観点で話す学校のトップを筆者は聞いたことがない』、こんなにも問題が頻発しているのであれば、部活マネジメントについて、全国的に文科省が取り組むべき喫緊の課題だろう。
・『オリンピックを機に暴力の徹底廃止を  多くの学校において、暴力に対する感度は決して高くない。ただ相次ぐ暴力事件を契機に、「ノーモア暴力・パワハラ」の気運が高まりつつある。このところの暴力事件をめぐる報道は、内部通報がきっかけのものが多いが、それが増えているのは、部活における暴力への疑念が増しているからだろう。春から続いたスポーツ界の不祥事によって、スポーツ現場での暴力やパワハラに関する意識が向上した背景がある。 暴力に頼らない指導や運営に精通した競技団体は、今後現れるかどうか。 「競技団体が指導者教育をしっかりやってくれと、スポーツ庁やJOCからも言われている。バレー界は2020を境に、暴力やパワハラと完全に決別する。それを東京五輪のレガシーにできればと思っている」とバレーボール協会の八田専務理事は決意をのぞかせた。 本格的な根絶を打ち出そうとしている同協会が、ひとつの手本になるかもしれない。 聡さんは11月12日、スポーツ庁の鈴木大地長官と面会をした。居住地の仙台にスポーツシンポジウム出席のため訪れることを新聞報道で知り、スポーツ庁へ直接連絡し、面談を取りつけたのだった。 シンポジウム前の短い時間ではあったが、長官に遺書を見せ「息子のような若者を二度と出さないためにも」と、暴力根絶へいっそう尽力することを約束してもらった。 「暴力やパワハラを減らしていくため、あらためてスポーツ界全体でしっかり取り組まなければならないと思っている。周知徹底を図ります」。鈴木長官は筆者ら報道陣の前で、そう決意を示した』、鈴木長官の決意が、口先だけに終わることのないよう見守っていきたい。

なお、明日から23日まで海外に行く予定である。パソコンも持って行くつもりだが、このブログの更新は不定期にならざるを得ないことを、予めお知らせしておきます。
タグ:東洋経済オンライン ハラスメント 日経ビジネスオンライン 島沢 優子 河合 薫 山口利昭 ビジネス法務の部屋 (その10)(続・代表取締役の辞任を迫った百十四銀行のガバナンスと内部統制、「組織の病」を見過ごすトップと指導という詭弁 ガイドラインでは不十分…パワハラ防止措置の法制化を、「高3自死事件」遺族が国と面談を望んだ理由 日本バレーボール協会も異例の対応に動いた) 「続・代表取締役の辞任を迫った百十四銀行のガバナンスと内部統制」 百十四銀行さんのスキャンダル ZAITEN12月号 会長および執行役員とともに、取引先との宴会に同席させた「女性社員」とは、20代の入社まもない行員 現実に取引先から「セクハラの範疇を超えた不適切行為」があった ZAITENさんのスキャンダル記事が掲載される予定を知って処分を公にした 穏便にすまそうとした社内の空気を社外取締役が一切読まずに正論で押し切った 「「組織の病」を見過ごすトップと指導という詭弁 ガイドラインでは不十分…パワハラ防止措置の法制化を」 「パワハラ」? あるいは「指導の範囲」? 厚労省の「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」(パワハラ検討会)がまとめた報告書 検討され尽くした「パワハラ定義」 経営側はこれまでどおり、「パワハラと業務上の指導の線引きが困難だ。いきなり法による措置義務を課すことは慎重であるべきだ」と繰り返したのである 働き方改革関連法 経団連が主張する「繁忙期月100時間案」を連合が認める形 「相談窓口」の存在を知っているのか 企業とそのトップが取り組むことが絶対条件 「「高3自死事件」遺族が国と面談を望んだ理由 日本バレーボール協会も異例の対応に動いた」 岩手県立不来方高校 男子バレーボール部3年の新谷翼さん(当時17)が7月に自死 日本バレーボール協会専務理事の八田茂 バレーボール協会専務理事が異例の面会 10月には松本国際高校(長野県松本市)の男子バレー部監督(62)が、部員への暴力を含めたパワハラを認め辞任 協会オリジナルの指導者ライセンスを整備し、暴力やパワハラに頼らない指導について、再教育の機会を作る 大阪の市立桜宮高校のバスケットボール部員(当時2年)が顧問による暴力やパワハラを苦に自殺 「好成績を上げる運動部の顧問には、なかなか対等に話ができない」 「目指せ!全国大会!」と熱くなる保護者を前に「指導を見直せ」とは言えない。「このくらいは、まあいいか」と甘くなるのではないか 本県九州学院高校ラグビー部 山梨県富士学苑高校女子バスケットボール部 強豪チームでの監督による暴力事件が続いている 名古屋経済大学高蔵高校(愛知県名古屋市)の野球部 監督(47)が部員に暴力を振るう動画が流出 オリンピックを機に暴力の徹底廃止を
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トランプ大統領(その39)(「トランプ的政治家」が世界で増殖中 「本家」は不動産開発業者だからFRBを批判?、冷泉彰彦氏:全てが不透明なアメリカの新年、スティグリッツ教授が警告 トランプ大統領のひどい経済政策と扇動政治の末路) [世界情勢]

昨日に続いて、トランプ大統領(その39)(「トランプ的政治家」が世界で増殖中 「本家」は不動産開発業者だからFRBを批判?、冷泉彰彦氏:全てが不透明なアメリカの新年、スティグリッツ教授が警告 トランプ大統領のひどい経済政策と扇動政治の末路)を取上げよう。

先ずは、みずほ証券チーフMエコノミストの上野 泰也氏が昨年11月13日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「「トランプ的政治家」が世界で増殖中 「本家」は不動産開発業者だからFRBを批判?」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/opinion/15/248790/110800165/?P=1
・『10月28日に行われた2つの選挙は、経済格差拡大の中で蓄積した不満がポピュリズムや保護主義などに結び付く「歴史のうねり」が続いていることを、如実に示した。 この日に投開票されたブラジル大統領選挙の決選投票では、極右のボルソナロ下院議員が左派のアダジ元教育相を破った。ボルソナロ氏はマイノリティーへの差別的な発言やSNSを多用する手法などから「ブラジルのトランプ」と呼ばれる。「(ブラジルの軍事)独裁政権の過ちは(反体制派を)拷問したが殺さなかったことだ」「警察は(サンパウロでの刑務所暴動で)111人ではなく、1000人殺しておくべきだった」「機関銃で(最大のスラム街)ホシーニャを一掃すべきだ」といった、過去の過激な発言が報じられている。ただし、トランプ米大統領とは異なり、ボルソナロ氏は自由貿易推進派とみられている。 治安対策に関連する過激な発言で知られているのが、フィリピンのドゥテルテ大統領である。既存政治への批判を展開し、16年5月の大統領選で勝利した。トランプ氏よりも国のリーダーになったのは早いが、「フィリピンのトランプ」と呼ばれることがある。 「チェコのトランプ」もいる。既成政治の打破を訴える新興政党「ANO2011」を率いて17年10月の下院選挙で第1党の座を勝ち取り、同年12月に少数与党政権を発足させた富豪、バビシュ氏である。首相就任にあたりバビシュ氏は「汚職と闘い、効率的な国家を目指す」と強調した。だが、自身が保有する企業群を通じたEU補助金横領の疑惑がくすぶり、18年1月には議会によって免責特権をはく奪された。 イタリアでは、ポピュリスト政党「五つ星運動」と極右政党「同盟」の連立政権が発足。「イタリアのトランプ」とは言われていないようだが、同盟を率いるサルビーニ副首相・内相の動きが目立っている。 欧州では、イタリアのほか、フランス、ドイツ、オーストリア、スウェーデンなどでも極右政党が国政選挙で躍進しており、金融市場で政治的なリスクの「火種」とみなされている』、各国で次々とミニ・トランプが登場しているのは、本当に嘆かわしいことだ。昨日取上げたCA社による情報工作が功を奏したためなのだろうか。
・『世界に次々登場する「○○のトランプ」  そうした中、ブラジル大統領選と同じ10月28日にドイツ・ヘッセン州(金融都市フランクフルトを含む重要な州)で行われた州議会選挙で、メルケル首相が率いる与党キリスト教民主同盟(CDU)が大幅に議席を減らした。 第1党にはなったものの、伝統的な地盤での歴史的な敗北である。同首相は12月開催のCDU党大会で党首選への立候補を見送ると表明。首相職は21年の任期まで務めた上で、政界を引退する意向である。 だが、党大会で選出されるCDUの後継党首が反メルケルの人物になって早期退陣を迫られるケースや、CDU以上に党勢衰退に苦しんでいる社会民主党(SPD)が大連立を解消する結果、前倒し総選挙に突入するケースも考えられる。ドイツの政治情勢の不安定化は、為替市場におけるユーロの売り材料である。 欧州統合を推進する中心的な政治家としてドイツの首相を13年間も務めてきたメルケル氏は、保守政党の党首ながら、リベラルな路線をとってきた。自由貿易・国際協調を推進。地球温暖化対策にも積極的な姿勢をとってきた。米国のトランプ政権とは真逆である。 だが、人道主義に沿う寛容な難民政策(大量の難民受け入れ)がつまずきのもとになった。1つの時代を築いた人物がついに退場の道筋をつけざるを得なくなったわけであり、歴史の区切り目と言っても過言ではあるまい。 各国の国内政策だけでなく通商問題などでも価値観の対立が先鋭化し、世界の政治経済は先行き不透明感がかなり強くなっている。焦点になった2つの選挙が終わった後、週明け10月29日の米株式市場では、ニューヨークダウ工業株30種平均の日中値幅が918ドルという異例の大きさになった。市場の変動は今後も大きくなりやすいだろう』、ドイツでは、CDUの新党首がメルケル路線の後継者となったことは、僅かな好材料だ。
・『話は変わるが、足元の金融市場、上記のような政治イベント以外で大きな材料になっているのが、FRB(米連邦準備理事会)による利上げの動向と、トランプ大統領が中国などに対して仕掛けている「貿易戦争」の行方である。 米大統領は、保護主義的な政策を強引に打ち出すことによって株価下落材料を自ら作り出す一方で、FRBの利上げ路線に対しては公の場で繰り返し批判を行っている。 もっとも、人事権を用いた介入などは行っておらず、一定の自己抑制は効いているように思われる。この点については当コラム10月23日配信・・・で、すでにお伝えした。 そうしたトランプ大統領によるFRB批判の関連で、米経済紙ウォールストリートジャーナル(WSJ)の寄稿・投書(オピニオン)欄が、興味深い視点を提供してくれている』、確かにトランプ大統領はFRBに対し「口先介入」に止める自制心は持っているようだ。
・『パウエル議長を激励したブラインダー氏  WSJは10月18日、アラン・ブラインダー元FRB副議長による「FRBは決してクレイジーではない(The Fed Is Anything but Crazy)」と題した寄稿を掲載した。トランプ大統領が「FRBはクレイジーなことをやったと私は思う(I think the Fed has gone crazy.)」と10日に述べたことに反論したものである。 ブラインダー氏によると、巨大な不確実性が存在する中で、中立金利(経済にとって引き締めにも緩和にもならない水準だと推計される金利)に向けて徐々に、非常に慎重に、いつでも止める用意はしながら利上げを行うという、現在とられている手法は合理的であり、決して大胆でもクレイジーでもない。心変わりしやすいトランプ氏ではなく、用心深い上に思慮深くて知的な人物であるパウエル氏がFRBを率いていることは、米国にとり幸運である。 そう断じたブラインダー氏は、パウエル氏は理論一辺倒ではなく頑固でもないことから、仮にFRBがミスをしてしまう場合でもそれは小さなものにとどまり、迅速に修正され得るだろうと結論付けた。要するに、パウエル議長への激励であり、トランプ大統領の言動への間接的な批判である。 もっとも、中立金利の水準を厳密に特定するのが事実上不可能であること(加えて言えば、日銀が以前に指摘した通り、イールドカーブの形状からくる経済へのインパクトの違いもおそらくある)、金融政策変更の影響が実体経済に出てくるまでには1年以上のラグ(時間差)があるとみられること(ずっと先の状況を的確に予測しながら「運転」するのは容易なことではない)など、上記のブラインダー氏の主張には弱点もある。 その後、10月29日のWSJ紙には、ブラインダー氏の寄稿への反響と位置付けられる投書が2つ掲載された。うち1つが面白い内容だった。 それは、もともと不動産の開発業者(デベロッパー)であるトランプ氏の度重なるFRB批判は、そうした業者特有の思考パターンに基づいているのではないかという投書である』、ブラインダー氏のパウエル議長擁護論は、ややオーバーで身びいきとの印象を与えかねないものだ。
・『長年の思考パターン故なのか  不動産デベロッパーが期待するFRBの役割は、金利をできるだけ低水準にとどめることである。デベロッパーは多額の資金を借り入れるので、借りる際の金利水準が収益の大小に直結する。完全雇用・大きな財政赤字の下でFRBが低金利を維持すると、許容すべきでない水準へのインフレ加速が避けられないが、デベロッパーはインフレを恐れない。なぜなら、インフレの下では不動産の市場価値は上がり、収益は上乗せされ、失敗した投資案件がインフレによる債務の目減りによって救われるかもしれないからである。 投書の主は最後に、米国の政府債務増加の問題にも思考を及ばせている。GDP比で大きく上昇した米国の連邦政府債務比率を引き下げるには、もし民主党が歳出削減をいやがり、共和党が増税をいやがるならば、第2次世界大戦後の米国のように、インフレによる債務の棒引きが残された唯一の手法だという(いわゆる調整インフレ)。 共和党は以前、マネーの面で健全な政党とみられていた。だが、「トランプの党」(大統領寄りになった現在の共和党)は決してそうではないと、この投書は結論付けた。 若いうちに身についた思考や行動のパターンは、年齢を重ねても(特に中高年では)、なかなか変わりにくいとされている。トランプ大統領による度重なるFRB批判トークにも、度合いは不明確だが、そうした面があるのかもしれない』、不動産業者という出自が影響しているというのは納得できる話だ。

次に、在米作家の冷泉彰彦氏が1月5日付けメールマガジンJMMに投稿した「全てが不透明なアメリカの新年」 from911/USAレポートを紹介しよう。
・『前年の暮れの雰囲気は、十分なほどの不透明感に満ちていましたが、実際に年が明けてみるとその不透明感は、益々濃くなっているようです。不透明感といっても、濃霧の中に放り出されて、周囲は断崖絶壁だとか底なし沼だというような、「突然奈落の底に落ちる」恐怖感というのではありません。 例えば、瞬時に戦争が始まるとか、先進国間で国境が閉鎖されるとかというようなことはあり得ないでしょう。株に関しては、いくらでも暴落の可能性はありますが、かといって大暴落とか、一瞬のうちに恐慌と金融危機が訪れる可能性は薄いと思われます。だからこそ、消費は堅調であり、また雇用統計も十分に良いのですが、ではこのまま景気が改善し続ける保証はどこにもありません。 経済以上に視界が悪いのが、アメリカの政界です。通常であれば、一期目の大統領は再選を目指して活発に動く時期ですが、この大統領については、このまま4年の任期を全うするか全く不透明な状態です。それ以前の問題として、ホワイトハウスの主要なポジションについては、空席という状態で越年してしまいました。 越年ということでは、予算が成立しないことで政府閉鎖が起きています。実際に連邦政府職員の給与支払いは停止されたままであり、問題は大有りなのですが、予想に反してこの政府閉鎖は既に2週間続いており、トランプ大統領に言わせれば「数ヶ月いや数年でも続ける」というのですから深刻です』、連邦政府職員も飛んだ迷惑を被ったものだ。
・『そんなわけで、経済も政治も「全く方向性が見えない」という視界の悪さ、方向性の欠如の中に放り出されているわけですが、一体全体どうしてこのような事態に立ち至ったのでしょうか? まず、経済に関しては、トランプ政権によるグローバリズムの否定と通商戦争の弊害がハッキリと出てきているのだろうと思われます。 トランプ政権というのは、確かにグローバリズムの否定と経済ナショナリズムの実現を公約に掲げて登場し、またその公約に忠実な行動や政策を次々と繰り出してきました。自動車工場が国外移転しそうになると、一々首を突っ込んできて罵倒し、日欧を相手に関税戦争を仕掛け、また北米自由貿易協定については条件改定に漕ぎ着けています。 では、その結果として「置き去りにされた製造業」の復権が始まったのか、つまり空洞化にブレーキをかけることで、「錆びついたラストベルト」で製造業の雇用が回復しつつあるのかというと、その動きはまだ極めて限定的です。 例えば、昨年2018年11月の中間選挙では、その「ラストベルト」、具体的にはペンシルベニア、オハイオ、ミシガン、ウィスコンシンといった地域で、共和党は大苦戦を強いられました。これは、トランプ政権の政策によって製造業の雇用が回復したわけではなく、反対に養豚や養鶏、そしてGMといった中国向けビジネスが「通商戦争」のために大きくダメージを受けたからでした』、トランプの「化けの皮」が徐々に剥がれつつあるのかも知れない。
・『問題は、この対中国の通商戦争です。こちらも、最初はNAFTAとか日欧との通商を巡る舌戦などと同じように、政治ショーに仕立てても最終的には経済に壊滅的なダメージを与えることはなく、「俺様ディール」で何とかなるだろうという雰囲気がありました。 例えば、中国側でも一部の長老からは、習近平体制に対して「アメリカとは早期に手打ちをするべき」という主張があったようで、双方ともに問題が深刻化する前に、合意を形成するチャンスはいくらでもあったように見えます。 ですが、そうはなりませんでした。中国側では、各企業が猛烈なスピードで対米ビジネスの生産拠点を国内から東南アジアに移したり、米国から調達していた農産品をブラジルなど第三国からの調達に変えたり、素早い対応を進めたのです。当然の動きと言えますが、その結果として、アメリカでは豚肉や大豆などが余剰となり、農家はかなり苦しくなっています。また、GMの場合は「キャデラック」とか「ビュイック」といった旧世紀のアメリカン・ラクシュリーのブランドは、国内では見向きもされない中で中国が大得意先だったわけですが、これも大きなダメージを受けています。 そんなわけで、序盤戦は中国が巧妙に動く中で、アメリカは「短い潜伏期間で発症した重篤な副作用に苦しむ」という状態になったわけです。そこで出てきたのが、華為(ファーウェイ)の問題でした。この問題については、スパイ行為を狙った怪しいチップが組み込まれているという容疑が語られていますが、そんな仕掛けを見破られないように施すことはテクニカルに不可能であり、5G(第5世代)の移動体通信におけるイニシアティブを取られまいという、技術戦争というのが底流にあると思われます』、「短い潜伏期間で発症した重篤な副作用に苦しむ」挙句、ファーウェイ問題が出てきたとは、外敵に目を逸らせる戦術なのだろう。
・『いずれにしても、このファーウェイの「ナンバー2をカナダに逮捕させる」という事件以降は、通商戦争は第二幕として性格が異なる内容へと深化してしまいました。 今回のアップルショックは、その結果ということができると思います。1月3日のアップルの株価暴落は、クックCEOによれば「通商戦争による中国市場でのスローダウン懸念」ということでしたが、問題は「中国で売れなくなる」だけではなく、「中国で製造できなくなる」ことによるグローバルな生産体制への影響が懸念されることで、そうなると正に、通商戦争の「副作用本番」と言うことになってしまいました。 問題は実はそれほど複雑ではありません。今回の一連の「トランプ流の経済ナショナリズム」というのは、要するに政治ショーであり、本質論ではなかったはずのものです。そのルーツ自体がそうでした。つまり、2016年の大統領選での「ラストベルト」での圧倒的なトランプ人気というのは、「製造業が復権してくれないと、自分は職がなくて困る」という現役世代の切実なニーズを掘り起こしたのでは「ない」のです。 そうではなくて「自分は組合員として製造業でキャリアを全うして引退し、年金生活を送っている」という有権者に対して「自分がかつて属していた製造業が尊敬されない」ことへの怒りを引き出して見せた、つまり「現実のニーズ」ではなく「心理的な自尊心ニーズ」とでも言いますか、イリュージョンとしての「怒り」を引き出したものです』、最後の部分は極めてユニークな指摘で、大いに参考にる。
・『一番の例が「製炭業」です。「元炭鉱労働者」を相手に「俺様は製炭を再開してみせる」というのは、あくまで比喩であり、「炭鉱は閉鎖」とストレートに言ってしまったヒラリー・クリントンへのアンチとしての政治的レトリック以上でも以下でもないはずです。 ですから、公約にしても政策にしても「表面的なパフォーマンス」でよく、反対に本質的な部分からひっくり返すところまでは、考えていなかった「はず」でした。とにかく、なんでも「俺様の個人的なディール」で済ませる人ですから、多少の「条件上乗せ」でなんでも落ち着くところに落ち着かせるだろう、そんな風に誰もが思っていたわけです。 ですが、今回の通商戦争は違います。そうではなくて、実体経済そのもの、しかも基幹産業を含めた大きな影響のある話について、力勝負に引き込まれてしまったのです。つまり、政治的レトリックを使って「世論の中の感情論を手玉に取る」という部分と、それはそれとして「実体経済の部分では合理的に振る舞う」という部分、つまり本音と建前をうまく使い分けているはずのトランプ政権が、その使い分けができなくなってきているわけです。 現在の不透明感の一番の原因はそこにあるように思われます』、「本音と建前をうまく使い分けているはずのトランプ政権が、その使い分けができなくなってきているわけです」というのは、さすが深い読みだ。
・『外交もそうで、例えば歴代の共和党政治家がイランを敵視していたのは、サウジとの蜜月を維持するパワーバランスの問題もさることながら、イランに野放図に原油生産を許すと、原油価格のコントロールができなくなるという、極めて現実的な計算があったからでした。 一方で、オバマがイラン制裁を解除したのは、シェールの実用化を含むエネルギーの多様化と自給にメドをつけた中では、石油利権が安全保障上の喫緊の課題では「なくなった」ことが大きいわけです。 ですが、トランプの場合は、イランを敵視するのは「なぜならば敵だから」ということで、そこにリアルな理由はない一方で、それこそ空爆を命令しかねないような剣幕でもあるわけです。そのくせ「石油が安いのは消費者に喜ばれる」と歓迎しているのですから支離滅裂としか言いようがありません。 またサウジとの蜜月についても、リアリストとしての判断というよりも、家業の借金を保証してもらっているという疑惑を指摘されているという状態でもあります。ちなみに、この問題に加えて「ロシア疑惑」「女性への違法な口止め料支払い疑惑」などを含めた一連の疑惑に関しては、2月に「特別検察官レポート」が公表される予定であり、その内容が懸念されることから余計に「政権をめぐる不透明感」が増しているということもあります』、「特別検察官レポート」の公表が楽しみだ。
・『更に、ホワイトハウスの重要なポジションが空席になったままという状態は、年明けになっても解消されていません。例えばマティス国防長官に関しては、今になっても大統領は「あれは辞任ではなく事実上の解雇」だという発言を繰り返しており、よほど恨んでいるというのは分かるのですが、その分だけ後任探しは難航しそうです。 そんなわけで、大統領の周辺はガタガタという状態なのですが、では、これを追及する側の民主党はというと、決して一枚岩ではなく、中道派(リベラル)と左派(プログレッシブ)の抗争は激しくなっています。 例えば、1月3日には昨年11月に選出されたメンバーを含む第116議会が発足しました。その中で注目されたのは、民主党で「初のパレスチナ系下院議員」として登院したラシダ・トライブ議員(ミシガン州13区)でした。彼女は就任の宣誓をイスラム教徒として行ったのですが、その際に使用したコーランは、合衆国建国の父の一員であるトマス・ジェファーソンのものだったとして話題になりました。 その一方で、支持者を集めたミニ集会で「トランプという mother****er を弾劾せよ」と放送禁止用語を叫んだとして、ごく内輪の会合の内容であるにも関わらず動画をアップされるという攻撃を受けています。 また、同じように新人議員として注目されているアレクサンドリア・オカシオコルテス氏(民主党、ニューヨーク州14区選出)の場合は、初登院に合わせて「大学時代に校舎の屋根に登ってダンスしていた」という「スキャンダル動画」を公開されるという洗礼を受けています。これに対してオカシオコルテス議員は、「共和党では女がダンスをするのはスキャンダルなんでしょ?」という挑発的なツイートで、わざわざ議員会館の廊下で踊ってみせた動画を公開して対抗していました。 また、彼女らが「師匠」と仰ぐ左派のリーダー格、バーニー・サンダース議員の場合は、「2016年の選挙運動の際に運動員やボランティアにおいて女性差別があった」という長文の告発記事がNYタイムスに出ていました。こうした一連の「民主党左派への攻撃」の背後には、オカシオコルテス議員の言うような共和党支持者の影だけでなく、民主党内の抗争の匂いもするのです』、本来、1つにまとまってトランプを追求すべき民主党も、これでは救いようがない。
・『どうして民主党内がまとまらないのかというと、政策が大きく乖離しているのが原因です。例えば、1月4日には、そのオカシオコルテス議員は「富裕層への所得税は税率70%まで増税する。これを財源に、徹底した温暖化対策を行う」という「政策」をブチ上げました。トランプの富裕層減税を元に戻すのならまだ分かります。またトランプのカットした温暖化対策を復活するというのも必要なことでしょう。 ですが、そこで「70%」と言ってしまうというのは、共和党支持者だけでなく、民主党の中道派にも喧嘩を売っているに等しいわけです。ご本人や仲間の左派は計算ずくで、「左派のポピュリズム」を煽るだけの政治ゲームをやっているのかもしれませんが、こうなると「分断」を政治的手段にするという手法としては、トランプと何が変わらないのかという話になります。 いずれにしても、これから2020年に向けて民主党内では、大統領候補選びが本格化します。それが、1992年や2008年のように、対立が党内を活性化して最終的には大きなエネルギーになればいいのですが、2016年のように対立のしこりが本選まで残るようでは、ホワイトハウス奪還は難しくなるかもしれません。 また、大統領選の前に大きなテーマとして、大統領弾劾という問題があります。この問題では、左派は「昨年11月の選挙戦で公約して勝ってきた」議員が多い中で、それこそトライブ議員のように「ブリング(いじめ)体質を持ったトランプは即座に弾劾すべき」という主張があります。一方で、中道派は「弾劾を進めると膨大な政治的エネルギーを消耗する」として決して積極的ではありません』、中道派が積極的でない理由はあと1つ釈然としない。
・『では、共和党の方はどうかというと、昨年11月の中間選挙では、福音派もトランプ支持に回ってあれだけ「団結」を見せたわけです。ですが、ここへ来て「2020年には予備選でトランプ降ろしを」という動きもあります。具体的には、ユタ州から上院議員に選出されて今回登院して来たミット・ロムニー氏は、公然と「トランプ批判」の宣言を公開して話題になりました。そこに、「巧妙にトランプ政権を見限る」ことに成功したニッキ・ヘイリー前国連大使なども絡んでくるなどという「予想」も連日話題になっています。 いずれにしても、トランプ政権周辺も、党内が分裂状態の民主党も、そしてトランプに「どこまでついて行くのか?」ハッキリしない共和党も、アメリカの政界ではゲームに参加している全員が「大局観や揺るぎない方向性」を持てていないと言うことが分かります。年明けの不透明感の核にあるのは、その問題です。そして大局観と方向性に欠けているというのは、市場関係者も同じと言わざるを得ません。 別の言い方をするならば、今のアメリカは、トランプという異分子にあまりにも引っ掻き回されたために、目先のことしか見えないし、国外のことも見えなくなっているのです。極端なまでに政治的であり、極端なまでに内向きという言い方もできるでしょう。そして、引っ掻き回し続けたトランプ自身も、その収拾ができなくなっているわけで、そのような混乱状態が先行きの不安を作り出しているように思われます』、世界のリーダーたるべきアメリカの混乱も「出口」が見えない迷路にあるのは、困ったことだ。

第三に、ノーベル経済学賞受賞者のジョセフ・E・スティグリッツ氏が1月7日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「スティグリッツ教授が警告、トランプ大統領のひどい経済政策と扇動政治の末路」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/189801
・『ノーベル経済学賞受賞者のスティグリッツ教授は、2019年はトランプ米政権のひどい経済政策と扇動的な政治姿勢の結果がよりはっきりと見える年だと指摘する。 ドナルド・トランプ米大統領の政権と与党・共和党は2017年末、法人税を1兆ドル減税する法案を強引に議会で通過させた。 この減税による歳入減少分は、所得分布の中位にいる大多数の米国人への増税によって一部相殺される。当初、米国のビジネス界はこの施しに大喜びしたが、2018年には、その喜びはトランプ氏と彼の政策に対する不安に取って代わられるようになった。 1年前、米国のビジネス・金融界のリーダーたちは、際限のない欲望から巨額の財政赤字に対する自身の嫌悪感にフタをした。しかし、今では、2017年の税制改革パッケージが史上最も逆進的で、時宜を得ない税制法案だったということを理解しつつある。 先進国の中で最も格差の大きい国である米国において、何百万もの貧困世帯や未来の世代が、億万長者のための減税のツケを払っていくのである。 また、米国の平均寿命は先進国の中で最も短いのに、この税制法案は健康保険の加入者が1300万人減少するように設計されていた。 この立法措置の結果として、2019年会計年度(2018年10月~2019年9月)の財政赤字は1兆ドルになると米財務省は予測している。これは、景気後退期を除く平時の単年度としては、どの国も経験したことがない巨額の赤字である。 おまけに、約束された設備投資の増加は実現していない。企業は労働者にスズメの涙ほど還元した後、利益のほとんどを自社株の買い戻しと配当に回してきた。 だが、これは格別意外ではない。設備投資が確実性から効果を得るのに対し、トランプ氏は混乱を栄養源にしているのである』、財界もトランプ政策の誤りに気付きつつあるというのは、遅そ過ぎる。「トランプ氏は混乱を栄養源にしている」というのは言い得て妙だ。
・『1兆ドル減税の効果に持続力なし 逆に損失を招く可能性  その上、この税制法案は大急ぎで可決されたため、誤りや矛盾、それに人目を盗んでこっそり盛り込まれた特別の利益に関する抜け穴をたくさん含んでいる。幅広い国民の支持が得られていないため、政治の風向きが変わったらかなりの部分が破棄されるのはほぼ確実で、このことは経営者たちも認識している。 われわれの多くが当時指摘したように、この税制法案は、経済に持続的な推進力を与えることではなく、軍事費の一時的な増額とともに、「シュガーハイ(糖分を多く取った後の興奮状態)」のような一時的な活気を経済に与えることを意図したものだった。 設備投資の即時償却は、その年に支払う税額を減少させるが、次の年からはその効果は剥がれ落ちてしまう。それに、この法律は支払利子の控除額を事実上引き下げるので、最終的には税引き後の資本コストを増大させる。従って、投資を妨げる。なぜなら投資の多くは借金で賄われるからだ。 その一方で、米国の巨額の赤字は何とかして補填しなければならない。米国の貯蓄率の低さからすると、補填資金のほとんどが必然的に外国の貸し手から調達されることになる。これは米国が債務返済のために多額の資金を海外に送るようになるということだ。 今から10年後の米国の国民総所得は、この法律がなかった場合に達成されていたと思われる金額をおそらく下回っているだろう。 大きな損失を招く税制改革法に加えて、トランプ政権の貿易政策も市場を動揺させ、サプライチェーンを混乱させている。中国からの原材料に頼っている米国の多くの輸出企業が、生産施設を海外に移転しても何の不思議もない。 トランプ氏の貿易戦争のコストを計算するのは時期尚早だが、この戦争の結果、誰もがより貧しくなると考えて間違いないだろう。 その上、トランプ氏の反移民政策は、エンジニアなどの高技能労働者に依存している企業が研究・生産施設を海外に移転するのを促進している。米国各地で労働力不足が目立つようになるのは、時間の問題だ。 トランプ氏は、グローバル化や金融化、トリクルダウン理論(大企業や富裕層がさらに豊かになれば中小企業や低所得者層にもその恩恵が滴り落ちて波及するという考え方)が約束していたことは実現されていないという事実を利用して、権力の座に就いた。グローバル金融危機と10年にわたる弱々しい成長の後、エリートたちは信用を失っていた。そこで、トランプ氏が登場して責任の所在を指摘したのである。 だが、彼が政治的利益のために利用してきた経済問題は、もちろんそのほとんどが移民や輸入のせいで生じたわけではない。例えば工業分野の雇用喪失は、主として技術の変化によるものだ。ある意味で、われわれは自身の成功の被害者になっているのである。 それでも、政策決定者はこうした変化をもっとうまく管理して、国民所得の伸びが少数の人のものではなく、多くの人のものになるようにできたはずだ。 ビジネスリーダーや資本家は欲に目がくらんでおり、特に共和党は、そんな彼らに望みのものを何でも喜んで与えてきた。その結果、実質賃金(インフレ調整後)は伸び悩んでおり、自動化やグローバル化によって職を追われた人々は置き去りにされてきた』、さすがリベラル系経済学者らしい鋭い指摘だ。
・『ブラジルやハンガリー、イタリアにも伝播 トランプ・ブランドの「フランチャイズ」  トランプ氏の政策の経済的側面はこのようにひどいものだが、彼の政治姿勢はさらにひどい。しかも、残念なことに、人種差別や女性蔑視、ナショナリスト的扇動という「トランプ・ブランド」は、ブラジルやハンガリー、イタリア、トルコなどの国々で「フランチャイズ」を確立している。 これらの国は全て、米国と同様の、もしくはさらにひどい経済問題に見舞われるだろう。 そして、これらの国はすでに、ポピュリスト(大衆迎合主義者)のリーダーたちが栄養源にしている、無礼さが招く現実に直面している。米国では、トランプ氏の発言や行動が邪悪で暴力的な力を解き放っており、その力はすでに制御不能になり始めている。 社会が機能するのは、市民が政府や制度を信頼し、また互いを信頼しているときだけだ。それなのに、トランプ氏の政治姿勢は、信頼を損ない、不和を拡大することを基盤にしている。これはどこまで行ったら終わるのだろう? 米ピッツバーグのシナゴーグ(ユダヤ教の礼拝所)で11人のユダヤ教徒が殺害された事件は、米国における「水晶の夜」(1938年11月にドイツで起こったユダヤ人迫害事件)の前触れなのだろうか? こうした問いに対する答えは分かりようがない。現在の政治の動きがどのように展開するかに多くのことが左右されるだろう。 今日のポピュリストのリーダーたちは、彼らの経済政策の必然的な失敗に支持者たちが幻滅したら、極右の方向にさらにかじを切るかもしれない。 より楽観的なシナリオでは、彼らは自由民主主義の枠の中に連れ戻されるかもしれない。少なくとも、彼ら自身が失望することで強硬姿勢を緩める可能性はあるだろう。 確実に分かっているのは、経済的結果と政治的結果は絡まり合い、互いに補強しているということだ。2019年には、過去2年のひどい経済政策とさらにひどい政治姿勢の結果が、よりはっきりと見えるようになるだろう』、「ピッツバーグのシナゴーグで11人のユダヤ教徒が殺害された事件」には、社会の不和拡大策が背景にあるとの示唆や、2019年の見通しは恐ろしいことだ。我々も覚悟した方がよさそうだ。
タグ:共和党 メルケル首相 日経ビジネスオンライン 冷泉彰彦 ダイヤモンド・オンライン 上野 泰也 トランプ大統領 JMM (その39)(「トランプ的政治家」が世界で増殖中 「本家」は不動産開発業者だからFRBを批判?、冷泉彰彦氏:全てが不透明なアメリカの新年、スティグリッツ教授が警告 トランプ大統領のひどい経済政策と扇動政治の末路) 「「トランプ的政治家」が世界で増殖中 「本家」は不動産開発業者だからFRBを批判?」 ブラジル大統領選挙の決選投票 極右のボルソナロ下院議員が左派のアダジ元教育相を破った。 治安対策に関連する過激な発言で知られているのが、フィリピンのドゥテルテ大統領 フィリピンのトランプ チェコのトランプ 少数与党政権を発足させた富豪、バビシュ氏 イタリアでは、ポピュリスト政党「五つ星運動」と極右政党「同盟」の連立政権が発足 フランス、ドイツ、オーストリア、スウェーデンなどでも極右政党が国政選挙で躍進 世界に次々登場する「○○のトランプ」 CDU党大会で党首選への立候補を見送る FRBの利上げ路線に対しては公の場で繰り返し批判 パウエル議長を激励したブラインダー氏 「FRBは決してクレイジーではない(The Fed Is Anything but Crazy)」と題した寄稿 不動産デベロッパーが期待するFRBの役割は、金利をできるだけ低水準にとどめること 「全てが不透明なアメリカの新年」 from911/USAレポート 経済以上に視界が悪いのが、アメリカの政界です このまま4年の任期を全うするか全く不透明な状態 予算が成立しないことで政府閉鎖 実際に連邦政府職員の給与支払いは停止されたまま 経済に関しては、トランプ政権によるグローバリズムの否定と通商戦争の弊害がハッキリと出てきている 「錆びついたラストベルト」で製造業の雇用が回復しつつあるのかというと、その動きはまだ極めて限定的 トランプ政権の政策によって製造業の雇用が回復したわけではなく、反対に養豚や養鶏、そしてGMといった中国向けビジネスが「通商戦争」のために大きくダメージを受けた 問題は、この対中国の通商戦争 双方ともに問題が深刻化する前に、合意を形成するチャンスはいくらでもあったように見えます 序盤戦は中国が巧妙に動く中で、アメリカは「短い潜伏期間で発症した重篤な副作用に苦しむ」という状態になったわけです 華為(ファーウェイ)の問題 5G(第5世代)の移動体通信におけるイニシアティブを取られまいという、技術戦争というのが底流にある 通商戦争は第二幕として性格が異なる内容へと深化してしまいました 問題は「中国で売れなくなる」だけではなく、「中国で製造できなくなる」ことによるグローバルな生産体制への影響が懸念 アップルの株価暴落 通商戦争の「副作用本番」 今回の一連の「トランプ流の経済ナショナリズム」というのは、要するに政治ショーであり、本質論ではなかったはずのものです 「現実のニーズ」ではなく「心理的な自尊心ニーズ」とでも言いますか、イリュージョンとしての「怒り」を引き出したものです 本音と建前をうまく使い分けているはずのトランプ政権が、その使い分けができなくなってきているわけです 外交もそう トランプの場合は、イランを敵視するのは「なぜならば敵だから」ということで、そこにリアルな理由はない一方で、それこそ空爆を命令しかねないような剣幕でもあるわけです サウジとの蜜月についても、リアリストとしての判断というよりも、家業の借金を保証してもらっているという疑惑を指摘 「ロシア疑惑」「女性への違法な口止め料支払い疑惑」などを含めた一連の疑惑に関しては、2月に「特別検察官レポート」が公表される予定 ホワイトハウスの重要なポジションが空席になったままという状態 大統領の周辺はガタガタという状態 民主党はというと、決して一枚岩ではなく、中道派(リベラル)と左派(プログレッシブ)の抗争は激しくなっています どうして民主党内がまとまらないのかというと、政策が大きく乖離しているのが原因 ここへ来て「2020年には予備選でトランプ降ろしを」という動きもあります 今のアメリカは、トランプという異分子にあまりにも引っ掻き回されたために、目先のことしか見えないし、国外のことも見えなくなっているのです 引っ掻き回し続けたトランプ自身も、その収拾ができなくなっているわけで、そのような混乱状態が先行きの不安を作り出しているように思われます ジョセフ・E・スティグリッツ 「スティグリッツ教授が警告、トランプ大統領のひどい経済政策と扇動政治の末路」 トランプ氏は混乱を栄養源にしている 1兆ドル減税の効果に持続力なし 逆に損失を招く可能性 ビジネスリーダーや資本家は欲に目がくらんでおり、特に共和党は、そんな彼らに望みのものを何でも喜んで与えてきた。その結果、実質賃金(インフレ調整後)は伸び悩んでおり、自動化やグローバル化によって職を追われた人々は置き去りにされてきた ブラジルやハンガリー、イタリアにも伝播 トランプ・ブランドの「フランチャイズ」 2019年には、過去2年のひどい経済政策とさらにひどい政治姿勢の結果が、よりはっきりと見えるようになるだろう ピッツバーグのシナゴーグ(ユダヤ教の礼拝所)で11人のユダヤ教徒が殺害された事件 トランプ氏の政治姿勢は、信頼を損ない、不和を拡大することを基盤に
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トランプ大統領(その38)(内部告発者クリストファー・ワイリー氏 ロングインタビュー(上)「トランプという怪物」を作った会社、(中)「これは戦争だ」心を操る大量破壊兵器、(下)改憲議論で学ぶべき英国の歪められた民主主義) [世界情勢]

トランプ大統領については、昨年11月18日に取上げた。今日は、(その38)(内部告発者クリストファー・ワイリー氏 ロングインタビュー(上)「トランプという怪物」を作った会社、(中)「これは戦争だ」心を操る大量破壊兵器、(下)改憲議論で学ぶべき英国の歪められた民主主義)である。これは民主主義の根幹を揺るがす大問題なので、大いに考えさせられる必読である。なお、この問題は、トランプ大統領で整理するよりも、より一般的に「ソーシャルメディア」(昨年10月3日)とした方が適切かも知れないが、今回はそのままトランプ大統領に入れた。

先ずは、フリーテレビディレクター(ロンドン在住)の伏見 香名子氏が昨年11月16日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「「トランプという怪物」を作った会社 内部告発者クリストファー・ワイリー氏 ロングインタビュー(上)」を紹介しよう。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/100500021/111300028/
・『国の行方を左右する選挙や国民投票で、カウンター・テロの技術が、投票を左右するために、有権者を標的に応用されていたーー。まるでスパイ映画のようなシナリオが、米英で「実演」されていた。「私はスティーブ・バノンの心理兵器を作った」。英国の大手紙・オブザーバーに、こんな衝撃的な見出しが躍ったのは、今年3月のことだ。 トランプ米大統領の選出や、英国のEU(欧州連合)離脱を決めた国民投票において、有権者を標的にしたデジタル戦略が繰り広げられた。主戦場はSNS(交流サイト)で、背後にロシアの関与があるのではないか。このように囁かれてきた数々の疑惑を現実のものとして告発したのは、1人のデータ・サイエンティストだ。 フェイスブック(以下FB)から8700万人分もの個人情報を不正に取得し、有権者の意識を誘導するデジタル戦略を繰り広げていたケンブリッジ・アナリティカ(以下CA社・後に破産)。告発者はこの会社のリサーチ・ディレクターだった、カナダ出身のクリストファー・ワイリー氏(29)だ。 事件の概要は前稿(フェイスブック騒動、驚愕の「デジタル情報戦」)をご参照頂きたいが、ワイリー氏が英議会・下院特別委員会に提出した122ページに渡る証拠文書や、同委員会での実に3時間半に及んだ証言などによって初めて、問題の詳細や深刻さが浮き彫りになったと言われている。 告発によれば、CA社の前身の会社は元々、過激派の弱体化を目的とした研究を行なっていた。しかし、超保守派でトランプ大統領最大の献金者とも言われた富豪、ロバート・マーサー氏からの資金提供を受けてCA社として生まれ変わり、かのスティーブ・バノン氏が責任者として指揮を取り始めてから、会社が激変したという。 2016年の米大統領選において、人々が移民などに対する、耳を疑うような攻撃的なスローガンを掲げたのも、実はこの会社で行われた研究が発端だったと、ワイリー氏は告発した。 同氏が告発したのは所属していた会社だけでなく、米大統領上級顧問だったバノン氏や、背景での関与を疑われた大国ロシアである。告発を準備していた段階から何度もCA社による法的措置を取られた上、FBからは追放された。この事だけでも、ワイリー氏の告発による影響力の大きさを物語っている。 世界各地での講演などで多忙を極めるワイリー氏に、今回単独ロング・インタビューを敢行した。まず、CA社は何を目的とし、何をしたのか。告発に至るまでの経緯を聞いた。(ーーは聞き手の質問・意見)
・『CA社は偏執的なメッセージに弱い人を標的にした  ーー2016年の米大統領選でのご自身の役割について、教えてください。 クリストファー・ワイリー氏(以下ワイリー氏):私は当初、防衛研究、サイバー戦・情報戦、また、国家安全保障研究プロジェクトを専⾨とする、CA社の前⾝の会社に就職しました。 この会社はその後、米国の富豪、ロバート・マーサー氏によって資金提供を受けました。そして、スティーブ・バノン(元トランプ大統領首席戦略官・上級顧問)が、後にCA社として知られることになった、その会社の責任者(の1人)に任命されました。CA社は、トランプ陣営の主要アドバイザー、そしてオーガナイザーの一つとなったのです。 彼らはFBから違法に取得したデータを基に、統計学的モデルを構築しました。これを用い、陰謀論や偏執(パラノイア)的なメッセージに弱い人々や、神経過敏な人々を標的に、ドナルド・トランプを支持するムーブメントを作り出すことが目的でした』、バノンは政権から一応離れた形になったが、トランプ当選に向けての工作は、以下で詳説されるように飛んでもなく悪どい。
・『過激派組織の影響力を下げるのは、やり甲斐があった  ーー最初に勤めたのは、どんな会社だったのでしょうか。 ワイリー氏:私は当初、SCLグループという会社のリサーチ・ディレクターに就任しました。SCLグループは英国の防衛請負業者で、米英の軍事部門の研究などを、心理・情報オペレーションを用いて行っていました。 多くの場合、過激派に対峙し、テロ組織の活動に潜入したり、また、あるテロ組織が、なぜ世界の特定の地域で効果的なのか、どのように新兵の勧誘を行うのか。そうしたことを特定していました。 私が雇用されたのは、例えばIS(自称イスラム国)などの組織の場合、オペレーションの多くがオンライン上で組織されているからです。皮肉なことに、米英軍は、フォーラムやチャットグループ、携帯アプリなどを用いた、とてもお粗末なテロ集団に遅れを取っていました。 私がSCLで始めた研究は、国内外を問わず、ある特定の人口集団の中で、どんな人たちが最も過激派集団の勧誘に弱く、操作されやすいのかを知ることでした。そうすることで、介入も可能になり、参加を阻止することができます。 更に、すでに過激派に所属している人たちを標的にし、組織を辞めさせるか、組織の団結力を弱め、運営を弱体化させることに効果的なメッセージを特定することもしていました。 ーーSCL社に就職した当初は、どんな仕事をしたかったのですか? ワイリー氏:CA社の前身だったSCLに雇用された際は、まず研究内容が興味深いと感じました。様々な文化について学ぶ機会があり、データ・サイエンティストとして日々関わることのない問題についても触れることができました。 過激思想や、その前段として、過激派に最も取り込まれやすい人たちのプロファイルを、数学やデータを用いて作ることができるのか。データ・サイエンティストとして、とても興味深い問題だと思いました。軍の仕事というのは、外的、また、時には内的脅威からも、市民を守ることです。データ、インターネット、そしてSNSを使うことで、その脅威を即座に特定し、問題が起こる前に介入する事が可能です。 参加してしまう前に、どんな人が最もテロ組織に加入してしまいやすいのか、また、もし既に参加してしまっている人なら、誰が最も早く爆弾を作るのか、ということなどを特定するのです。 軍(の目的)は介入し、過激派組織の影響力を受動的に、必ずしも暴力を使わずに下げることです。軍の視点からは2つの選択肢が存在します。ISのような組織の場合、ドローンなどを使って爆撃し殺害すること。あるいは、勧誘やコミュニケーション、また、組織内の文化的・社会的団結力に介入し、効果を下げることです。 後者のアプローチであれば、テロとの戦いにおいて、少なくとも私たちの考えではドローン攻撃に比べ、巻き添え被害を極力、起こさずに済むと思いました。しかし皮肉なことに、この研究に関する「巻き添え被害」は大きく、米英国民に使用され、トランプ大統領の選出、そして、英国のEU離脱という結果を招いてしまったと考えています』、SCLは当初は意義深い情報工作をしていたようだ。
・『バノンが仕掛けた「文化戦争」  --働き始めた当初は、良い動機しかなかったということですね。 ワイリー氏:はい。当初CA社の前身に入社した多くの人たちが、尊敬に値する理由で、研究を行っていました。問題は、富豪であるマーサー氏が社に資金を投じ、バノン氏を責任者にしてから起きるようになりました。 バノン氏にはこの会社をどの様に利用するか、明確な目的がありました。「文化戦争」を起こすことです。文化戦争、あるいはどんな戦争でも、戦うには武器庫が必要です。「戦争」が文化面で起きる場合、開発の必要があるのは、情報面の武器です。彼がこの社で働きたかった理由は、開発されたものがオンライン上で使用された武器だったからです。 目的は人々を欺き、操り、抑圧・支配すること。そのため、ある事柄をより信じてしまう人々を特定して標的にし、操作された情報を「武器」として流す。これこそが、バノン氏が「文化戦争」のために使用を望んだ技術です。会社は元々、この技術や研究を用いて国を守ろうとしていたのであり、市民を攻撃することが目的だったのではありません』、優れた情報技術やデータを「文化戦争」に使おうとしたバノン氏はさしずめ「ハイド氏」のようだ。
・『--バノン氏はなぜ「文化戦争」を起こしたかったのでしょうか。 ワイリー氏:バノン氏には、歪んだ「世界のあるべき姿」についての思想があるのです。彼は「人種」について、また「強い男性が支配すべき」という独自の見方、そして「権威主義」について、すなわち「国が統治されるべき姿」についても、見解を持っています。 当時は「非主流派」だった彼の考えが主流となるには、このような思想を独創的にプレゼンし、社会に注入しなければなりません。彼には富豪の資金を有するという利点がありました。つまり、何百万ドルもの資金を投じてSCLの様な企業を発掘・買収し、キャンペーンを始めるために利用することができたのです』、悪知恵に富豪という大スポンサーが付いたのであれば、「鬼に金棒」だ。
・『オンライン上のナイフを作ってしまった  --あなたが会社にいた2年間、どの時点で「何かがおかしい」と感じ、なぜその様に感じる様になったのですか? ワイリー氏:バノン氏が入ってきて、研究の目的が変えられ始めた時です。社の指示や、優先事項が変化し始めました。研究は米国で始まり、研究チームが米国で何をし始めたのかを目の当たりにした時、その目的に疑問を抱きました。 すなわち、なぜ米国民に「人種差別思考」を、しかも攻撃的に浸透する必然性があるのか、などということです。過激思想や人種差別思想から脱却させるのではなく、逆の方向、つまり、人々を過激化し、差別的に思考を誘導することです。 米国で設立されていた研究プログラムを見て、私たちが当初しようとしていたことから逆行していることを知りました。ナイフを例にしますが、料理人はナイフを使って、ミシュランレベルの食事を作ることができる反面、殺人の武器として使用することもできます。私たちは、オンライン上のナイフ(=武器)を作ってしまったのです。 バノン氏は、これを防御ではなく、攻撃目的の武器として使用しました。私はこのことが非常に問題だと感じました。特に、研究室で行われた実験用の動画を見ると、実験の初めには普通だった人たちが、終わる頃には人種差別的なスローガンを、あたかも普通のこととしてわめき散らしていました。 この有様を見て私は社の新しい幹部に対し、この会社の目的が、当初の目的に即しているのなら、こんな実験には意味がないと問題提起しました。しかし、研究は継続されることになり、私は社を辞めました。私が辞めた直後、このことを問題視したチームの第一世代の社員の多くも、退社しました。自分たちが作り始めたものが、全く別のものに変容してしまったからです』、「実験用の動画を見ると、実験の初めには普通だった人たちが、終わる頃には人種差別的なスローガンを、あたかも普通のこととしてわめき散らしていました」、信じられないような身の毛がよだつ話だ。
・『ーー具体的な時期を教えてください。 ワイリー氏:「入社」の意味にもよりますが、社に所属していたのは2013年と2014年です。(米大統領選の)予備選が始まりかかっていた2014年の終わりごろから2015年、テッド・クルーズ候補やドナルド・トランプ氏が出現した頃、退社しました。 社が悪い方向へ転げ落ちた例をお話ししますが、米国ではなくアフリカのある国のことです。市民に選挙で投票させない目的で、人々が生きたまま縛られ、焼かれる姿や、喉を切り裂かれる場面などを撮影した動画を流していました。投票に向かうなら、あなたがこうなる、というメッセージです。 テロ組織の勧誘や、教会やショッピング・モールでの自爆テロを阻止する目的で、こうした動画を流すことはまかり通るかもしれませんが、先程の例では、人々の投票する権利を、脅迫することで奪っているのです。米国のみならず、他の国々で行なっていることに非常な嫌悪を感じ、私の良心に照らし、あの会社に留まることはできませんでした。私以外の多くの人たちも、同様に感じていました』、アフリカのある国の例はきっと実験なのだろうが、酷い話だ。
・『人々を人種差別主義者に変える研究  米国で起きたことは、当然大統領選の結果もあり、地政学的にも大きく注目されています。しかし、私が酷いと感じた、人生で見た中でも最も吐き気を催したものは、あの会社が流した動画です。人々が溝で、血を流しながら死にゆく様を映していました。陰湿で、悪魔の様な語り口を使い、見ている人を脅したのです。こうした動画をオンラインで流し、有権者が投票に行かない様に仕向けました。 もう一つ、侮辱的だと感じたのは「これはアフリカだ。自分たちは何をしても構わない」という、人を人とも思わない、社の態度です。米国で行なっていたこと、つまり、いかにして人々を人種差別主義者にするか、また、人々に偽の事象を信じさせるというという研究まで目の当たりにしては、そこで働き続けることを、正当化はできませんでした。 私はこうしたプロセスを経ましたが、私だけではなく多くの人たちが、私が辞めた後、すぐに退社しました。皮肉にもこのことが会社にもたらしたのは、社が行なっていたことを容認できた、新しい社員を集めるチャンスでした。結局、奇妙な形で会社は存続し続けたのです』、確かに会社にとっては、既にノウハウの蓄積があるので、反対派を整理できて、バノンらは喜んだのだろう。
・『CA社にいたら米社会を破壊していた  ーー良心の呵責にもかかわらず、社に留まっていたとしたら、どんなことをしていたと思いますか? ワイリー氏:SCLに入った当初そして、CA社に変わった時、私は研究部門のディレクターでした。私の仕事は、社で行われていた数々の研究プロジェクトの優先順位を定め、体系化することでした。スタッフを選び、どんな知識を得るか、目的を定めました。また、データ・サイエンスの側面から、集めたデータを用いて、クライアントのプロジェクト目的に即した、統計的な型を作る事にも携わりました。 私が辞めた理由の一つは、米予備選が始まった頃、社が人々をいかに「人種差別化」するか、という研究を行う事のみならず、「受動的に学ぶ」段階から、人々を騙し、欺き、操作する目的のコミュニケーションを通じ、「受動的に学ぶ」段階から、文明社会に適合しない考え方をまき散らすという「攻勢」に転じたからです。 CA社に留まっていれば、私はバノン氏の「人種差別主義を基盤としたムーブメント」に、加担していたでしょう。(ロシア疑惑を捜査している)ムラー米特別検察官によって、ロシアのエージェントとして起訴された人たちにも、加担してしまったでしょう。攻撃的な外国組織と共に、米社会を破壊したでしょう。 この全てのことに、私の良心は耐えきれませんでした。あのまま継続して勤務することは、米英やCA社が関わっていた国々における民主主義を攻撃することであり、良心に照らし、そんな事はできませんでした』、「「受動的に学ぶ」段階から、文明社会に適合しない考え方をまき散らすという「攻勢」に転じた」というのは、恐ろしいような転換だ。
・『ーー2016年米大統領選の結果を見て、どう感じましたか。 ワイリー氏:とても非現実的な光景でした。両者の関わりが公になる以前から、CA社はトランプ陣営と共に動いていたのです。当時、人々が「奇妙な語り口だ」としていた「壁を作れ!」や「(米政府の)どぶさらいをする!」また「闇の国家が人々から全てを取り上げており、みんなを監視している」などというスローガンは全て、CA社が初期の頃行なっていた研究から生まれたもので、鮮明に記憶しています。 こうした報告はバノン氏に上げられ、彼からトランプ氏に渡されました。米国のニュースを見るのは、私には奇妙なことでした。なぜなら、世間はトランプ氏が言うことを笑ったり、「気が触れている」と評していました。こんな埒もないことを言って、勝つ道理がないと思われてもいました。 私はそれを見ながら「いや、そうではない。もし、適切に標的とされれば、どれだけの人たちがトランプ支持に傾くかを、わかっていない」と思いました。(メディアなどが)トランプ氏や聴衆を馬鹿にすればするほど、(トランプ氏の発言を)好ましいと感じ、聴衆は(メディアから)自分も馬鹿にされていると感じ、トランプ攻撃が起こる度、彼の基盤がどんどん固まって行きました。攻撃は、トランプ氏を助けたのです。 この事はとてももどかしく、私は民主党陣営に警告を試みました。しかし、ヒラリー陣営はあまりに自信に満ち、誰もトランプ氏の勝利を見抜く事は出来ませんでした。「違法で恐ろしく非道徳的なことをしているかもしれないが、どうせ勝たないのだから、問題はない」と言う態度でした。案の定、彼は当選しました。そこで初めて人々は驚愕したのです。 私にとってあの事は「トラウマ」と言う言葉がふさわしいと思います。何も、なす術はありませんでした。ちょうどその頃、英国の大手紙がトランプ陣営とCA社がしていたことについて、情報を共有しないかと持ちかけてきました。トランプ氏選出の数ヶ月後、当初は匿名の内部告発者として、そして後に実名の情報提供者としての活動を始めました』、「壁を作れ!」などのスローガンは全て、CA社が初期の頃行なっていた研究から生まれたもの」、そこまで指導していたのかと驚かされた。「私は民主党陣営に警告を試みました。しかし、ヒラリー陣営はあまりに自信に満ち、誰もトランプ氏の勝利を見抜く事は出来ませんでした」、というのは大いにあり得る話だ。
・『フランケンシュタインを作ってしまった  --自分が「何を」作ってしまった、と感じましたか? ワイリー氏:陳腐な言い草ですが、私は「フランケンシュタイン」を作ってしまったと感じました。興味のあることを研究しているうちに、想像もしていなかった方向に物事が進み、怪物を作ってしまった、と言う意味です。 しかし、その時点で既に会社は乗っ取られ、バノン氏が責任者であり、社は米国で運営され、トランプ陣営に設置されていました。私には、どうすることもできませんでした。 問題はトランプ氏が勝利する前に、人々があの会社が何をしていたか、真剣に捉えていなかったことにあります。なぜなら、トランプ氏が勝利するなど、誰も想像だにしていなかったからです。ブラック・スワン(注:マーケティング用語・事前に予測不可能な事態が起きてしまい、衝撃が大きい事象のこと)とも呼べるかもしれませんが、前例のないことが起きてしまいました。 人々に警鐘を鳴らそうとしても、無駄でした。「それは奇妙なことだけど、どうと言うことはない。どうせ、彼は勝たない」という反応ばかりで、苛立ちを感じました。彼が勝っただけでなく、実際大統領になったことには「非現実的」という言葉しか思い浮かびませんでした。 多くの人も同様に感じたでしょうが、私にとっては特にそうでした。自分の働いていた会社の研究報告書に出ていた言葉を(トランプ氏が)発していたのですから。この研究こそがトランプ氏を、彼の信条を象徴する「ドナルド・トランプ」に仕立て上げたのです。 「ドナルド・トランプ」は粘土のごとく、バノン氏によって、理想の候補に形作られました。そしてそのことの多くは、CA社が収集した研究とデータを基に、可能になりました。見るのが辛いことでした。作られたものの一部は自分の責任であるのに、何もできないと感じました』、トランプの考え方は生来のものと思っていたが、「「ドナルド・トランプ」は粘土のごとく、バノン氏によって、理想の候補に形作られました」には心底驚いた。
・『--恐怖を感じましたか? ワイリー氏:恐怖を感じたとは言いませんが、CA社からは既に何度も脅されました。複数回訴えられもしました。彼らが恐れていたのは、社が何をしようとしているか、私が口を開くことを最も懸念していました。 トランプ氏が選出された後、そして英国のEU離脱が決定した後、CA社がただのロンドンの片隅で運営されている、何の影響力もない、非道徳的で奇妙なことをしている会社であるという認識から、世界にとてつもない影響を及ぼす会社であることがわかりました。 私の倫理観の真逆の存在だと理解した時、彼らから脅され続けている中でも、誰かに告白しなければと感じました。トランプ氏が選出された際、CA社は自分たちの事業が注目されてしまうことを懸念していたと思います。しかし(告発の)全てが真実であり、証拠文書が存在した以上、彼らが防衛策を講じることは、不可能でした。私の立場はこうしたもので、ガーディアン紙やニューヨーク・タイムズ紙が、何が起きたかを伝えてくれました』、英米の一流紙は頼りになるようだ。

次に、上記の続きとして、12月4日付け日経ビジネスオンライン「「これは戦争だ」心を操る大量破壊兵器 内部告発者クリストファー・ワイリー氏ロングインタビュー(中)」を紹介しよう。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/100500021/112600029/?P=1
・『英国におけるデータと民主主義をめぐる攻防では、今年3月、ケンブリッジ・アナリティカ社(以下CA社、後に破産)について暴露された大スキャンダルに端を発して以来、現在も刻々と事態が動き続けている。 個人情報大量流出問題などで揺れるフェイスブック(以下FB)のマーク・ザッカーバーグCEOに対し、フェイクニュースなどに取り組む英下院・特別委員会が行った度重なる招致・証言要請にもかかわらず、氏は結局11月27日のヒアリングを今回も拒否。自身の出席はおろか、委員会の求めたビデオ・リンクを通じた証言さえも拒んだ。 11月24日には、この問題を当初から詳報してきた英オブザーバー紙が、ザッカーバーグ氏を含むFB幹部が交わした、データとプライバシーに関する社内極秘eメールなどの資料を、特別委が入手したと報道。ザッカーバーグ氏ら幹部がCA社事件が起こる何年も前から、FB上の個人情報の取り扱いについて、どのような方針でいたのかを示す重大な資料と見られている。 この資料はFBとの法廷闘争に及んでいる第3者の米ソフトウェア会社のオーナーが所有しているものだ。オブザーバー紙によれば特別委は、この人物のロンドン出張の際、滞在先で資料の提出を迫った。しかし、裁判への影響を理由に拒否したため、議会権限で彼をホテルから議会へ「エスコート」の上、提出しなければ罰金または禁固刑の可能性があることを提示し、資料を入手したと報じている』、英国議会がここまでするとは驚きだ。日本の国会に爪の垢でも煎じて飲ませたい。
・『米CNNなどは、訴えが起こされているカリフォルニアの裁判所が、FBの要請によりこの文書を非公開にすることを認め、今年10月、報道機関数社による開示要求を却下したと報じている。これに対し特別委側は、資料は英国内で入手されたものであり、米国の法は及ばないという立場でいる。本稿執筆現在(11月27日)、特別委は文書の内容を近日公開する姿勢を崩していない。 特別委がここまでの強硬な手段を取ったのは、元CA社の内部告発者、クリストファー・ワイリー氏に対しても取られた、この問題に関するFB側の不誠実な対応が背景にあることは否めない。 「銀河英雄伝説」と言う、同名のSF小説を原作として、1980年代に制作されたアニメがある。作品中、情報戦のエキスパートが、「情報」の何たるかを若い兵士に諭すシーンがある。 いわく、世の中に流布する情報には必ずある種のベクトルがかかっている。世論を誘導するため、あるいは、願望を全うし、自らを利するために情報を流している「発信者」の存在がある、と言う趣旨の話だ。 その情報発信者が誰かわからないときは?との問いにこの中佐は、「犯罪が行われた時、最も利益を得た者が真犯人」だと返す。 トランプ米大統領の選出や英国のEU離脱、さらに、この事によって生じた米英社会の分断と混乱が、CA社の内部告発者、クリストファー・ワイリー氏の告発通り、苛烈な情報戦の産物であるならば、この結果により「利益を得た真犯人」は、誰か。 ロシアによる情報戦関与の疑いや、CA社を徹底的に追い詰めるべく、1年以上も周到な準備を行った経緯。さらに、関係者が思いもよらなかった、FBによる過剰な反発や、SNSを主戦場として繰り広げられている「情報戦争」について、引き続きワイリー氏に聞く』、引き続き面白そうだ。
・『予想外だったFBからの反撃と嘘  --内部告発を行う事は、並大抵の決断ではなかったと思います。一方で、事業内容を外部に漏洩しないと言う社内規定や守秘義務があったとしても、それを越える法の存在に守られたと、以前うかがいました。 クリストファー・ワイリー氏(以下ワイリー氏):その通りです。英米では、いかなる契約も、企業、あるいは政府の犯した犯罪行為を告発することから、守る事はできません。法的見解からすれば、違法行為が起きたのなら、守秘義務契約があったとしても、違法行為を告発する目的で、その契約を破ることは可能です。 基本的には、民間契約が法律より優先される事はあり得ません。ただし、それでも社員が提訴されないと言うことではありません。公益にかなわない、または、真実ではない、などという理由をつけて、訴訟を起こすことも可能でしょう。この件に関して敗訴するという懸念はなく、むしろ、ずっと継続して訴訟を起こされるのではないかという心配がありました。 覚えておいていただきたいのですが、この会社は富豪が資金源であり、彼らが「弁護士軍団」を送り込むことは容易です。このため、ガーディアン紙やニューヨーク・タイムズ紙、そして、英国のニュースチャンネル、チャンネル4と共同で動く事は必須でした。全ての事象を詳細に記し、事実を幾多の証拠で裏付けする事で、訴訟すら起こせず、訴えが即座に棄却される状況に追い込みました。 このために、多くの報道機関が参戦し、チャンネル4ニュースのおとり取材(今年3月のチャンネル4ニュース)によって、CA社CEO(最高経営責任者、当時)のアレクサンダー・ニックス氏が、多くのことを認める証言をカメラに収めました。脅威はありましたが、それを現実にさせないよう、事実が全て記録されるよう、あらゆる手を尽くしました。 ーー準備にはどの位時間をかけたのですか? ワイリー氏:1年以上です。まず、米英の2大紙が、共同執筆にあたり合意しなければなりませんでした。その上、数多くの証人から証言を得る必要があり、私が多くの人たちを紹介しました。その全ての人たちが、カメラの前の証言や、自分に関連のある証言を拒みました。 当然のことながら、全員がスティーブ・バノン氏を恐れていたからです。当時、バノン氏はホワイトハウスの米国家安全保障会議におり、大統領上級顧問でした。つまり、強大な権力者です。人々はバノン氏と富豪だけではなく、米政府の巨大な圧力による追求を恐れたのです。 このため、匿名で証言を得ることさえ、非常にゆっくりとしたプロセスでした。しかし、徐々にそれは集まっていきました。同時に潜入オペレーションを開始し、CA社のCEOに、彼らのとてつもなく非道徳的、かつ、違法な運営を認めさせました。(目的達成のために)売春婦を使うことや、贈賄の現場をでっち上げ、密かに撮影すること。このような違法行為や、更なるデマの拡散を行なったことを、(隠し)カメラの前で認めさせました。 彼らは偽情報を流し、政治的な議論に貢献することではなく、勝つ事だけを重視したことを認めました。ここにたどり着くには、膨大な証拠を集め、詳細を詰めるのに1年かかり、ガーディアンはファクトチェックを3回行うほどの徹底ぶりでした。その情報について、今度はニューヨーク・タイムズが同様のチェックを繰り返したのです。 このことによって、少なくとも私の告発に関しては、揺るぎない立場を作ることができたと思います。世界有数の新聞2紙が、3度、4度と、互いのファクトを、全てが事実であると確認しあったのですから。その上で、公の場にあの様に大きく出たことで、バノン氏やCA社がどれほど報復しようと試みてもあまりに露出が大きく、関与を疑われずに彼らが行動を起こす事は、不可能でした。表に出ることで、安全を確保したのです』、「準備に1年以上」、とは多くの証言や周到なファクトチェックを考えれば当然だ。これぞ真のジャーナリズムだろう。
・『私にとって興味深かったのは、むしろFBの反応でした。CA社よりも遥かに多く、FBが攻撃を試みました。これは、私たちが予想もしなかったことでした。私たちは報道が出るかなり前から、FB側が建設的、かつ生産的な回答を用意できるよう、連絡していたのです。記者や報道機関の誰にも、FBを攻撃する意図は全くありませんでした。なぜなら、FBにはプラットフォームとしての責任があったとしても、不正行為自体には加担していなかったからです。 しかし、彼らが背景の全て、そして、その全てが真実であると知っていたことで、彼ら自身も加担していたことになりました。FBはガーディアン紙に対し、名誉毀損で法的措置を取ると脅し、すべてを否定しました。同時に、彼らは私にも文書で「あなたは米国でハッカー行為など、連邦法違反行為を行なった」として、FBI(米連邦捜査局)に通報すると知らせてきました。 その手紙には、指摘された事実が全て真実だと明記されていたのです。つまり、FBという会社はガーディアン紙に対し「この内容は誤りであり、報道するな、すれば訴える」と脅す一方で、内部告発者である私には「この事を公表するな、するなら警察に通報する。なぜなら、内容は真実だからだ」と言ってきたのです。しかも、この二つのことを連絡してきたのは、全く同じ弁護士です。 このことで、問題の本質が明らかになったと思います。すなわち、(情報操作など)何が起きているかを完全に熟知しているプラットフォームが存在し、それが明るみに出そうになると、彼らはジャーナリストや内部告発者を脅し、情報を遮断しようと試みたのです』、FBの同じ弁護士が、ガーディアン紙とワイリー氏に全く逆の主張をするとは、いくら弁護士とはいえ、良心はないのだろうか。
・『全く予期しなかったことは、CA社よりも、FBと戦う時間に費やした時間の方が、長かったということです。とても奇妙な状況でした。私たちは、常識の範囲以上の時間を彼らに与え、報道が出る前に回答する機会を与えていたのですから。 私たちはFBから問題の解決策を提示されるものだと思っていました。それどころか、彼らは全てを否定し、脅しをかけまくりました。しかし、米英2大紙がこれを事実として報じ、FBの弁護士が、内部告発者に対して「これは事実だ」と認めてしまっては、報道された頃には否定はできませんでした。1週間後、FBは世界中の新聞に謝罪広告を掲載しました。ほんの1週間前には、ガーディアン紙を訴えると言っていたにもかかわらずです』、FBの不誠実さには改めて驚かされた。
・『FBからの執拗な脅し  --あなた自身のFBアカウントは、どうなりましたか? ワイリー氏:私は(FBから)追放され、世界で数少ない、FB追放者の1人となりました。FBはインスタグラムを有していますから、インスタもダメですし、WhatsAppも使えなくなりました。携帯やオンラインで使っていた、FB認証を必要とするアプリも使えなくなりました。 FBがしようとしたことは、問題を認識し、解決策を提示することではなく、当初は内部告発者である私や、私の信頼性への攻撃を試み「彼は悪い人間で、私たちのシステムをハッキングした、システム上の問題はない」と主張していました。しかし、彼らが、報道の何年も前からこうした問題を知っていたという十分な証拠はありました。CA社に所属していた人たちを雇用し、心理プロファイリングについて、特許を取ろうともしていました。プラットフォームで何が行われていたか、当然知っていたのです。 FBは私に責任を被せ、自分たちは被害者を装おうとしました。私を追放することで、報道の主語をFBとCA社ではなく「私」に転じようと試みたのです。しかし、誰もそんなたわ言は信じませんでした。私を追放した1週間後、(当時の)英デジタル・文化・メディア・スポーツ大臣が議会で「FBが内部告発者を追放することなど、言語道断だ」と発言しました。 FB社には過ちを正し、社会に貢献する機会が与えられていたのに、彼らはあらゆる場面で、関わり合いのある全ての人たちを脅し、英議会や政府が「言語道断だ」という見解を発表した後も、私を追求し続けました。私は継続して悪者であり、彼らは被害者という立場です。 FBは年間、数十億ドルを稼ぐ企業です。それなのに、何ら責任を取ろうとしていません。このことが、最も問題であると私は考えています。彼らには、過ちを止める力があります。幾多の社会的、政治的な交流が起こり、情報が飛び交う場を彼らは作り、私たちの文化や社会に対し、多大な影響力を持っています。 内部告発者を犯罪者扱いし、同時に自分たちのプラットフォームを改善することを拒否するなど、とても器が小さいと感じます。私個人も、英政府と同様の見解です。言語道断だ、と感じています』、FBの対応は、確かに「言語道断だ」。
・『--(大統領選などに関する)ロシアの介入には、どの時点で疑いを抱き始めましたか? ワイリー氏:私がSCL、後のCA社で働いていた頃、特にバノン氏が責任者の1人になってから、数多くのロシア人が会議に出席し始め、プロジェクトに参加し始めました。私たちのデータ・セットが、ロシアの国家プロジェクトとして、オンライン上の心理プロファイリングを担当していたチームによって、アクセスされるようになりました。 私たちの会社がトップ心理学者として雇用した人物は、同時にサンクトペテルブルクで、ロシア政府を資金源とする心理プロファイリング・プロジェクトにも携わっていました。この人物は(同時期)ロシアに渡航しています。(当時)プロファイリング用のアルゴリズムが、米国の有権者データを用いて作られていましたが、同じデータが、ロシアでもアクセスされていたのです』、こんなことにもロシアが関与しており、それをバノン氏も了解していたのだろう。闇は深そうだ。
・『プーチン大統領と旧知のCEOにもデータを送っていた  ロシアの大手企業の一部の幹部が私たちを訪れ、こちらの幹部と面会を始めました。こうした企業に対し、SCLやCA社の偽情報拡散や、選挙で「人々の信頼を失わせるプロジェクト」についてのプレゼンを行なったりもしました。 CA社が持っていた(有権者などの)データを、プーチン大統領と旧知のロシアの石油会社のCEOに送ってもいました。私たちの会社は、その後(ロシア疑惑を捜査している米国の)ムラー特別検察官によって、ロシアの諜報機関と関連する、あらゆる組織で情報収集を行ったことが判明し、起訴された人物も雇用していました。 会社が行なっていたことに興味を持っていたロシア人は、他にも大勢いました。情報を集め、データにアクセスしていました。情報・偽情報キャンペーンとは何か、ロシアは何をしていたのかを検証すると、多くのことはFB、ツイッターなどSNSのプラットフォーム上で起きていました。 CA社が作り、プロファイリングを行なったデータは、偽情報を使ったターゲティングに重大な役割を果たしていました。FBがこのことを問われた時、彼らはデータについて「その後どうなったのかわからない」としていましたが、ロシアの大規模なプロパガンダに流用されていたのかもしれません。このことは大きな問題で、私たちの選挙の安全性が、とてつもなく脆弱であることを浮き彫りにしています。 FBは自分たちが何をしていたか知っていましたし、プロジェクトに関わっていた人たちを、後に雇用もしています。FBはこのことを問題視していませんでしたし、プロファイリングについて、メディアに話してもいました。でも誰も、何も対策を講じませんでした。違法行為はおろか、非常に繊細な個人情報を、敵意を持った国家に渡してしまうことなど、とんでもなく非道徳的なことを行うことが、いかに容易だったかを示していると思います』、FBはどうも本当に悪辣で民主主義の敵ともいえる存在のようだ。
・『ーー選挙などのキャンペーンにおいて、人々を動かすために最も有効なメッセージはどんなものですか? ワイリー氏:人々の世の中の見方は多様で、様々なメッセージに対する反応も人によって異なりますから、ある一つの「特効薬」は存在しません。人々についてデータを集めることの究極の目的は、あなたが作ったアルゴリズムによって、例えばA、B、Cという特定のメッセージに反応する人たちを選別する事です。 どのメッセージが最も有効であるか、ということに関しては、ある一つのメッセージだけが様々なグループに有効である、ということではなく、答えは常に「状況による」のです。 例えば、陰謀論やパラノイア的思考に弱く「国境に秘密の軍隊が存在する」「オバマは銃を取り上げに来る」「市民は監視されている」などという馬鹿げた偽のメッセージを、他の人々に比べ、より信じてしまうある特定の集団が、CA社のターゲットでした。 一方で、極左思考の人たちを取り込むメッセージも存在します。こうしたメッセージは、極右の人たちには響きません。十分な情報さえあれば、人によって、様々なメッセージを送ることが可能となります』、民主党でも極左が台頭した背景には、CAの工作があるのかも知れない。
・『ーーこうしたことは「デジタル洗脳」と呼べるのでしょうか。 ワイリー氏:「洗脳」の定義によると思います。「洗脳」が、ある人の世界観を本人に気づかせないまま激変させ、行動までも変えさせてしまうことを意味するのなら、CA社が行なっていたのはまさしくそれです。 陰謀論や偽情報を、それを最も信じてしまう脆弱性を持った人たちの間で拡散し、その上で、その人たちが、真実でない事柄に関するイベントやグループに参加し、集団で抗議活動を行うよう仕向けました。こうしたイベントに参加してしまった人たちは、もし最初からCAのような会社や、ロシアによって資金を投じられたオペレーションの存在を知っていたら、どうだったでしょう。 その人が、こうした情報を信じやすいからと意図的に選ばれ、彼らが怒りを感じ、抗議活動を起こすため、ひいては、社会を分断する目的で情報を流されたと知っていたのなら、同じ行動を起こしたのか、疑問に思います。 こうした前提で、同じメッセージを受け取っていたとしたら、彼らは行動を起こしていないでしょう。その人たちは、騙されているのですから。誰かを騙すには、騙しているという事実を隠さなければなりません。「洗脳」が人々を本質的に欺き、長期に渡って、その人たちの思考や行動を激変させることを意味するのであれば、答えはイエスです』、「デジタル洗脳」が可能になったとは、本当に恐ろしい時代になったものだ。
・『ワシントンに核爆弾を投下する必要はない  ーージェイミー・バートレット氏(参考「狙われる有権者たち、デジタル洗脳の恐怖」)が指摘していたことですが、現在「デジタル戦争」が起きていると思いますか。 ワイリー氏:まさしくその通りです。米国の軍事ドクトリンには、「第5次元の戦場」(=サイバー)というものが存在します。陸・海・空・宇宙、そして情報です。軍事オペレーションにおいて、情報は第5次元の戦場と呼ばれています。 オペレーションで、陸や空を制すること同様、情報の流れそのものを制することは、目的達成をより容易にする環境を作ります。銃弾や爆弾を使わないからと言って、武器が使用されていない、とは言えないのです。軍事において情報は、非動的武器と呼ばれ、この武器はターゲットを攻撃しますが、敵の目的を阻止するため、あるいは、自己の目的を達成するために、運動エネルギー弾などは使いません。 情報の役割は、敵の思考や行動のパターンを変えることです。「敵」とは、反対勢力の司令官かもしれませんし、テロ組織の勧誘係かもしれません。ロシアの場合は、市民のことを指すかもしれません。敵の影響力を封じ込めたいのなら、この場合は米国ですが、人々の団結をまず破壊して社会を壊す。そして、理性のない行動を取り、気の触れた人たちをトップに選出させる。もしくは、あなたの政治的目的を支援する人物を選ばせる。成功すれば、勝者はあなたです。 ワシントンに核爆弾を投下する必要はありません。人々を取り込み、あなたの目的に合致する人物を選出させれば良いのです。どちらにしても、あなたは勝つことができます。敵の土台を壊し、目的を達成できるのですから。これが情報戦の基本であり、問題の核心ですが、SNSのプラットフォームはもはや、友達とチャットしたり、猫の写真をシェアできる場ではありません。新しい「戦場」なのです。 ハッキングなどそうした側面ではなく、今や戦闘はサイバー・スペースで起き、軍隊のみならず、一般市民を欺き、操るための情報が用いられることを理解しなければなりません。これは、戦争なのです。 「大量破壊兵器」の定義が、「広範囲に渡り世代を超えて長期間続く、破壊行為を行うこと」だとします。トランプ大統領のような人物を選出させること。あるいは、違法行為や操作を通じ、英国のEU離脱を成功させるという、国の政体を恒久的に激変させることは、ほぼ間違いなく「広範囲が長期間、破壊的な損害を被る」ことでしょう。 基本的な政体を変化させる。最も力のある国の大統領や、社会そのものを自滅させる。一国に、自らを攻撃させる。これらのことは、「大量破壊兵器」による被害であり、実際、起きている事です。爆発物や火ではなく「マインド」(思考・心)を利用する、認知的戦闘です。あなたのマインドが標的でもあり、同時に、他者に危険な情報を伝達する媒体ともなるのです。そして現状、そのことに、何の対策も講じられてはいません』、「SNSのプラットフォームは・・・新しい「戦場」なのです」、「「大量破壊兵器」による被害」、「現状、そのことに、何の対策も講じられてはいません」などの指摘には大いに考えさせられた。

第三に、この続きとして、1月4日付け日経ビジネスオンライン「改憲議論で学ぶべき英国の歪められた民主主義 内部告発者・クリストファー・ワイリー氏ロングインタビュー(下)」を紹介しよう。ーーは聞き手の質問・意見。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/100500021/011000030/?P=1
・『オンライン上にある膨大な個人情報を不正に流用し、選挙や国民投票などの民主プロセスを歪めたとされる英データ分析会社・ケンブリッジ・アナリティカ社(以下CA社・後に破産)。 CA社に対し、ユーザーの同意も得ず情報を流したフェイスブック(以下FB)は12月に米政府から提訴されるなど、一連の騒動でまたも株価が急落した。CA社の元社員らによる内部告発が最初に報じられたのは18年3月だが(参考:フェイスブック騒動、驚愕の「デジタル情報戦」)、FBは未だ激震に見舞われ続けている。 その時から、私はターゲット広告によって民主プロセスが歪められた事象を追い続けた。取材を通じ、最も危険だと感じるのは、ターゲット広告の有効性を高めるため、それらが意図的に人々の感情に訴えかけるよう作成されていることであり、多くの場合、それが人々の怒りや不安の感情であることだ。 英国でEU離脱を問う国民投票が実施された2016年以来、英社会には間違いなく離脱派・残留派の間に、癒しがたい分断の爪痕が残っている。離脱の行方は全く見えず、政治も社会・経済も混迷し、さまよい続けている。しかし、私が更に深刻だと感じるのは、勝つために多額の資金を投じて行われた、デジタルを含む、なりふり構わぬ政治キャンペーンや、主流メディアの表層的な報道によって生じた、人々の互いに対する疑念や不信感である。 本来、政治的な意見は民主主義国家において個々人が自由に持てるはずだ。それが故意に他者を傷つけるものでないならば、ある一つの見方を糾弾したり、異なる価値観を持つ人々を迫害してはならない。しかし、現在離脱派は「無知な人種差別主義者」、残留派は「無責任な夢想主義者」とレッテルを貼られ、双方に歩み寄りの姿勢は見られない。 こうした怒りや不安の感情をあおり立てた先に何が待つのか。科学的な立証は困難だが、EU離脱を問う国民投票では、移民や難民へのヘイトを駆使した離脱派による苛烈なキャンペーンのさなか、投票の数日前、野党労働党の女性議員が白昼、白人至上主義の男に暴殺されている。(参考:「英国の女性議員殺害が問う“憎悪扇動”の大罪」) 日本でも昨今、右派だ左派だと、不毛な対立の構図が拡大している。すでに亀裂の起きている社会において次なる分断の火種は、現政権が悲願とする、改憲に向けた国民投票ではないだろうか。 こうした心情に、更に互いに対するヘイトを駆使したターゲット広告や偽情報が拡散した場合、人によっては癒しがたい傷が、怒りや不安として残ってしまう可能性は否定できない。それは、英国においてのEU離脱、米国でのトランプ大統領の選出プロセスを見れば明らかだ。 CA社は人々にこうした感情を植え付け、民主プロセスを利益目的で操ることで、巨額の富を得た。社会に深刻な分断を招き、そのために排他的な暴言や、いわれのないヘイトによって人々が心に傷を負うだけでなく、命を落とした人が仮にいたとしても、彼らは血で染まった金を手にし、何ら責任を負うことはない。 私がこの取材を続けるのは、日本の国民投票が念頭にあることを告げると、一線でこの問題に取り組み続ける英国の専門家らは口々に「今ならまだ間に合う」「日本に米英と同じ轍を踏んでほしくない」と取材に対し、惜しみない協力をしてくれた。 ある感情を逆なでするような情報や広告が流れてきたならば、なぜその情報が自分の元に流されてきたのか、激情にのまれる前に立ち止まって考える自衛策が、まずは不可欠だろう。 一方、元CA社の内部告発者、クリストファー・ワイリー氏は、個人の力だけでは防ぎきれない膨大な量の情報操作に対峙するため、規制や国際的な枠組みが急務だと言う。FBをはじめとするプラットフォームの責任や、改憲に関する国民投票などについて、引き続き、ワイリー氏の見解を聞いた』、「規制や国際的な枠組みが急務だ」というワイリー氏の主張には大賛成だ。ただ、実効性をどう付けるかが問題だろう。
・『ロシアは米英、日本の規制を遵守する必要がない  ーー政治的なキャンペーンにおいて、現状デジタル広告を巡る環境は「無法地帯」とも言えます。だからこそ、規制が必要なのですね。 クリストファー・ワイリー氏(以下ワイリー氏):規制は不可欠です。交流サイト(SNS)のプラットフォームにはより透明性を持たせ、こうしたキャンペーンを止めることをより容易にする運営を行わせるべきでしょう。 しかし、法律は基本的に、非合法組織を止めることはできません。あなたを攻撃するのが、敵対する外国の国家であろうが、法を尊重しない、国内の犯罪組織であろうが、新しい規制が必ずしも助けになるとは限りません。 SNSのプラットフォームが、より責任を持ち、良い企業市民であるための規制には賛成です。彼らには、ビジネスを運営するためにも、民主主義を守り、果たすべき役割があるのですから。ビジネスを運営する基盤は社会であり、彼らは社会を尊重すべきです。そのための規制は必要です。しかし同時に、現在起きている情報攻撃を監督し、防止する機関や組織も必要だと思います。 規制を設けることはできますが、ロシアには米英、それに、日本の規制を遵守する義務はありません。軍隊も、規制の存在など気にもとめず、敵とみなせば攻撃を仕掛けるでしょう。ですから、機関としてより効果的に反撃・防衛し、同時に、自衛に効果的な計画も作らねばなりません。 これまで私が見てきた中で、一致団結してこの問題に取り組んでいるのは、最近選挙を実施したスウェーデンだけです。民間防衛機関が、自然災害やテロのみならず、敵対する外国勢力による広域の情報攻撃についても主導的役割を果たしました。多くの国が、こうしたことを検討すべきだと思います』、スウェーデンが初めて取り組んだとは初耳だ。今後、注目してみたい。
・『--人々はこの戦争に、勝てるのでしょうか。 ワイリー氏:勝敗が決まり、その後何も起こらない、という事象ではないと感じます。これは高度に人々が繋がり、デジタル化された現代社会の新しい現実なのでしょう。 インターネットが社会生活を営む上での基盤となった結果だと思います。他の技術革新と同じように、インターネットやSNSによる恩恵は多い反面、同時にリスクももたらしているということです。まずこのリスクから社会を守らないことには、恩恵を享受できません。 「情報戦争」は終わらないでしょう。プロパガンダは数世紀に渡り存在し、新しいことではありません。今はそれが、「サイバー空間」という新しい戦場で展開されています。政府や人々は、実社会とサイバー空間に「現実」という意味で、差異はないことを理解しなければなりません。 実社会だからといって「サイバー空間よりもリアルだ」ということではないのです。サイバー空間もリアルな空間です。実社会に影響を及ぼします。この事が人々の生活における、新しい次元であることを認識すべきです。人々にとっての安全性を確保し、攻撃から守る必要があります』、「サイバー空間もリアルな空間です。実社会に影響を及ぼします」、言われてみればその通りだ。
・『ーーシリコンバレーや巨大広告企業は、こうした危険を気にもとめていないということでしょうか。 ワイリー氏:これまでのところ、気にしているとは思えません。彼らが最も気にかけているのは、利益でしょう。それと、自分たちに対する評価です。CA社についての報道がなされてから、FBの株価は2回急落しました。(注:インタビュー当時の10月時点で)1回目はFB史上最大、2回目は時価総額で米企業史上最大の下落額と言われています。 人々が、社会や民主主義の公正性を大切にしていることは、明白です。人々は、他国の軍による偽の、または操作された情報の標的になりたいと思っていませんし、そんな事は常識です。 問題は、シリコンバレー企業の多くが、自分たちがビジネスを行うために必要とする社会において、良い企業市民としての役割を果たしていない事です。FBは道徳的な責任を負っていますが、同時に、米国とその民主主義が機能不全に陥ってしまえば、自分たちもビジネスを行えなくなってしまいます。 シリコンバレーはいくつかのことを学ぶ必要があります。まず、ジャーナリストや市民社会、内部告発者から批判を受けたのなら、安全面の欠陥を通報する「ホワイト・ハッカー」同様に扱うべきだと言うこと。その事に報酬を与え、感謝すべきです。 また、誰かが問題を指摘した場合、その事を、より良い商品開発のための、良い機会だと捉える事です。問題を長引かせて告発を否定し、脅迫するなどという、FBがこの問題を通じて行ったことをすべきではありません』、FBのザッカーバーグCEOは、目先の利益を長期的な利益よりも重視しているのだろう。
・『フェイスブックは他の産業から学ぶべき  FBは他の産業から学ぶべきです。例えば、自動車業界はシートベルト設置について、コストがかかるため、「人々には選択の自由がある」「自動車事故が起こることを想起させ、売り上げに影響する」などと言って、長く拒み続けました。現在では標準装備されていますし、シートベルトなしに車に乗る人は誰もいません。 シートベルトは自動車産業を傷つけてはいませんし、人々は自動車購入をやめてはいません。自動車は、シートベルトやエアバッグの装備によって、以前に比べ多少価格が上がっているかもしれません。しかし、それによって事故死する人の数は減少しているはずですし、安全性に安心した購買者は、車を買い続けるでしょう。 つまり、シリコンバレーはまず第一に、安全性の確保は絶対に譲れないものであること、そして、その事は、彼らにとっての「問題」ではないことを認識すべきです。より安全な商品を作ることがより安全な産業に繋がり、長期的には、人々はその商品を使い続けます。 民主プロセスを破壊する、あるいは、人々を操作し、社会の団結を壊す目的の商品を作り続けるのならば、いつか人々は商品を見限り、利用を止めるでしょう。産業としての長期的な存続は、商品と、消費者の安全性の確保にかかっています。 また、ユーザーはユーザーとして尊重されるべきで、「企業側が利用する者」として、軽視されるべきではありません。私は、現在のシリコンバレーの対応は問題だと思います。さらに、米国外で暮らしている人たちとってより問題だと思うのは、私たちがオンライン上の「社会のクローン」を作ったことです。 そのクローン、つまり、デジタルのあなたやその友人が交流するサイバー空間に責任を負うべき企業が、あなたの国の司法権が及ばない国に存在していることです。私たちは「社会のクローン」を、私たちの法律を尊重しなくても良い、米国の企業に譲渡しているのです。 サイバー空間が民主主義だけでなく、私たちの法律とどう関わるのか、真剣に考えるべき時です。各国の空港には、それを3つのアルファベットで示す、国際基準が定められています。なぜインターネット上の公開に適したものと、そうでないものや、それをどう規制して行くのかという、(空港表記と)同じような国際的な枠組みが存在しないのでしょうか。 各国がインターネットを、何か真新しいものではなく、リアルなもの、経済や社会、民主主義を支え、人々の仕事の中心的・基本的なものとして認識し始めている昨今、最低でも空港表記と同様の国際条約が検討されるべきでしょう』、大賛成だが、壁は高そうだ。
・『ーー日本の現政権は、改憲に関する国民投票を検討していますが、国民投票法において、広告に関する資金投入の上限も、デジタル広告に関する規制もありません。このことは、危険だとお考えですか。 ワイリー氏:日本が学べる例は、いくつか存在すると思います。まず明確なのは、英国が行ったEU離脱に関する国民投票です。この国民投票に関する法的枠組みは、後に現実のものとなったあらゆる問題を全く想定していませんでした。 偽情報に関するプログラム、データの利用、サイバー広告、SNSプラットフォーム上における透明性などです。その全てにおいて、あらゆる脆弱性が、食い物にされました。 日本は特別な立場にあります。オンライン上の「インフルエンス・オペレーション」において、高度な能力を有する数多くの国々のすぐそばに位置しているからです。北にはロシアがあり(北方領土に関する)対立が起きています。中国、そして北朝鮮と韓国など、日本の政治に介入しようと試みる国々に囲まれてもいます。 また、他国だけではなく、例えば9条改正に関連し、国民投票によって利益をあげようと目論む軍事請負企業、武器システムなどがあるとします。こうした既得権益は、(規制など)彼らを止めるものが何もなければ、人々を(広告で)標的にし、有権者をあざむくために使えるだけの資金を投じるでしょう。 英国居住者としての見解ですが、少なくとも私は英国の民主主義が、今や立証された事実ですが「違法にだまし取られた」様を目の当たりにしました。違法行為を行ったキャンペーン団体が罰金を課されただけで、何の軌道修正もされず、国民投票の結果は有効で、英国のEU離脱は現実のものとなっています。 日本にとって、積極的、または受動的に軍事紛争に関わるのか否か、日本人であることの根本を問うような決断を行う場合、ある意思を持って行動する既得権益が存在するのなら、彼らの目論見は実現するでしょう。それが敵対する外国勢力であろうと、非道な企業であろうとも。既存の大手企業であったとしても、逃げ切れると判断すれば、実行するでしょう』、このまま何もしないで、憲法改正の国民投票に臨むとすれば、確かに危険だ。
・『選挙がハッキングに遭うとは誰も想像せず  日本は、世界で最も「つながって」いる社会です。一人当たりのソーシャル・プロファイリング、インターネット、電子メール、テキストメッセージや携帯電話など、全ての「つながり」が、最も高い国です。つまり、日本人は他国の人々よりも多くサイバー空間に暮らし、米国や欧州よりもデジタル・テクノロジーに繋がっています。 このことは、多くの「クールなテクノロジー」を生むという面で素晴らしいことですが、同時にリスクも生んでいます。テクノロジーによって最も繋がっているのに、全く無防備です。その上、国の根本を問うような課題があり、その答えから利益を得ようとしている人たちがいるのなら、ありとあらゆる危険な計画が実行される事でしょう。 これほど重大な事項に関して、日本がどう監視・監督、また防衛し、いかにして英国のEU離脱のような問題を防止するかを考えることは、賢明でしょう。 英国での経験から言えることはこうです。問題が起きたことは証明でき、英選挙管理委員会が私や、その他の人たちの申し立てを認めました。情報コミッショナーが、違法行為が起きたことを記す証拠を入手し、悪意を持った者らの存在を突き止めました。それにも関わらず、国の行方を恒久的に変えてしまった問題の核である「国民投票の結果」は変わらないのです。 当局には、結果を覆すだけの権限が与えられていません。英国のEU離脱を問う国民投票における最大の法的な欠陥は、組織的な不正行為が起きた場合や、詐欺的行為、意図的な操作行為、敵対する外国勢力からの介入に対応する術がなかったことです。 こんなことが起きるとは予想だにしていませんでしたし、可能だとも思われていませんでした。選挙や国民投票がハッキングに遭うことなど、誰も想像もしていませんでした。日本がその根本に関わる決断を行うのなら、国民投票の実施などより以前に、悪意を持った何者かが、結果に影響を及ぼすことのできない枠組みを作ることです』、「選挙や国民投票がハッキングに遭う」という英米で起きた事態が、日本でも起こるのは避けたいものだが、間に合うとは思えない。
・『ーー英国では、与党議員でありながら、民主主義を守ろうと、この問題に尽力しているコリンズ・デジタル・文化・メディア・スポーツ特別委員会委員長(参考:「フェイスブックが『偽情報拡散』のツケを払う日」)のような政治家が存在します。一方で日本の現政権は改憲が目的であり、更にはそれを可能にできる巨大広告企業も存在します。 ワイリー氏:日本のメディアは大きな影響力を持つ、わずかなキー・プレイヤーによって独占されています。メディア市場に多様性が存在せず、その事だけでも危険です。この中の一つの組織だけでも堕落すれば、大きな問題が起きるでしょう。 ーー世界は少数者に権力が集中する独裁状態に向かっているのでしょうか。 ワイリー氏:そうとも言い切れませんが、既得権益を持つ何者か、または、敵対する国によって、票が絶対に影響されないよう対策を講じなければ、長期的な視点から見れば、選挙を実施すること事態の有効性が問われるでしょう。 民主主義が機能するためには、人々が自由に、そして、事実に基づいた情報を得た上で判断を下せることを尊重せねばなりません。敵対する外国が、あなたの国を助けるどころか、破壊する目的で歪めた現実を広めることがあってはなりません。このことを許してしまっては、選挙を実施する意味はなく、選挙は単に「意味のない、手の込んだパフォーマンス」に成り下がってしまいます』、安倍政権は既に最近の2回の総選挙を、別の形で「意味のない、手の込んだパフォーマンス」にしている前科があるだけに、心配だ。
・『内部告発者を英雄視する西側諸国  世界が独裁状態に向かっているのではありませんが、選挙の公正性が保てなければ、政府の公正性も、ビジネスの公正性も保てません。社会は腐敗で充満し、機能不全に陥った国家が誕生する事でしょう。 選挙の重要性は、そこにあります。一定期間に一度、投票用紙に判断を記入し、時には行列に何時間も並ばされて、うんざりすることもありますが、このことこそが、私たちの社会運営の根本です。 選挙は、守るべき最も重要なものの一つであると私は考えています。投じられる限り全ての資源を投入するべきでしょう。民主プロセスを守るためには、一切の疑問も受け付けるべきではありません。民主主義が崩壊すれば、社会全体も崩壊します』、その通りだ。
・『ーー私は取材者として「内部告発者」の取材ほど、細心の注意が必要なものはないと考えている。西側諸国でWhistle Blowerと呼ばれる内部告発者の証言は、その告発内容が衝撃的であればあるほど、一時的であれ、社会は彼らを「英雄」として祭り上げ、惜しみない賞賛を送る。 しかし、幾人かの内部告発者が、その後不可解な行動に転じていることもまた、見過ごすことはできない。未だロンドンのエクアドル大使館に立て籠もり続けるウィキリークス創設者のジュリアン・アサンジ氏然り、ロシアに亡命した、エドワード・スノーデン氏然りである。 事象の全容がわからない早い時点で、むやみに内部告発者をもてはやす事はできないし、すべきでもないと私は考えている。 「内部告発者」への取材に二の足を踏む私が、ワイリー氏の取材を敢行したのは、彼がメディアに露出し始めた当初、画面を通して得た印象が大きい。 数カ月に渡るコンタクトの後、実際に対面したワイリー氏は、その印象と寸分違(たが)わなかった。前述の内部告発者らから感じた、情報開示の際の「影」の様なものを、彼からは微塵も感じなかった。 このことは、何ら根拠のない、単なる取材者としての勘のようなものでしかない。また実際は、ワイリー氏には彼なりの目論見があるのかもしれない。しかし、数度の取材を通じて話した彼から悲壮感は全く感じられず、常に、無法地帯と化したサイバー空間と、自分が作り出してしまった「怪物」と闘い続ける、前向きな意志がまっすぐに伝わってくる。隠し立てすること、やましさの無いことの証明でもあるかの様に、衝撃的な体験を屈託なく語り、明るい。 ワイリー氏が対峙してきたのはロシアという大国や、米政権の元幹部らや富豪、そして英国の資産家らでもある。しかし、未だ30歳にも満たないワイリー氏はひるむことなく巨大な権力と対峙し続け、各国政府のアドバイザーを務めたり、欧州委員会をはじめとする国際機関などで講演するなど、絶えず世界を駆け巡り、この問題に取り組み続けている。氏の行動力、志と勇気に敬意を評したい。 ワイリー氏は12月1日付で、アパレル大手ヘネス・アンド・マウリッツ(H&M)のリサーチ・ディレクターに就任した。データ・サイエンティストとしての手腕を買われ、今後は同社でAIを駆使した持続可能性を追求して行くのだという。内部告発者として政府機関などと敵対し、また、自らが働いていた企業に都合の悪い真実を暴露した過去のあるワイリー氏を、世界的な大手企業が堂々と迎え入れたことに、欧州の懐の深さを感じる。 ワイリー氏の取材を通じて幾度となく自問したことがある。一連のCA社事件に類似する事象が仮に日本で起きていたとしたら、ワイリー氏が行ったような内部告発は、可能だっただろうか。 権力者にとって都合の悪い真実を暴くという意味では、最近の日本では、森友・加計問題がCA社事件に相当するのではないだろうか。これまでに日本では、「都合の悪い真実」を伝えようとした人々がその後どの様な仕打ちを受けてきたか。ワイリー氏の内部告発後の状況とは、真逆である。 残念ながら日本は現在、政権にとって都合の悪い事実を伝えようとした告発者が、告発の数日前、大手新聞により人格をおとしめられるような記事を掲載され、その後も政治家から嫌がらせを受けることがまかり通る社会だ。 また、生命の危険を顧みず、社会に貢献するためリスクを冒し、取材を続けるジャーナリストを「自己責任」などという、稚拙で卑怯な言葉で切り捨てることがまかり通る「見て見ぬ振りを是とする社会」でもある。 この現状では、ワイリー氏のような内部告発や、米英のジャーナリストらが必死に行ってきた、権力者の横暴を食い止めるための攻防は、日本では期待できないだろう。 ワイリー氏に「あなたが公の場で告発を行った18年3月、日本では自らの命を絶ち、権力者の不正を伝えた『告発者』の存在があった」と話すと、真剣な眼差しを向けていた。 米英、そしてワイリー氏が生まれたカナダでは、民主主義を「自分たちの責任」として捉え、考え抜き、戦い続ける市民が多数存在し、それを支援する社会の声が時に大きなうねりとなることに、羨望の念を禁じ得ない。 日本は、自分たちの未来に責任を持てるのか』、欧米と比べた日本の遅れた現状に対する危機感は、私も同感である。

・今回はトランプ大統領から出発して、民主主義のあり方を問う内容となったが、明日はトランプ大統領そのものを取上げるつもりである。
タグ:日経ビジネスオンライン トランプ大統領 伏見 香名子 (その38)(内部告発者クリストファー・ワイリー氏 ロングインタビュー(上)「トランプという怪物」を作った会社、(中)「これは戦争だ」心を操る大量破壊兵器、(下)改憲議論で学ぶべき英国の歪められた民主主義) 「「トランプという怪物」を作った会社 内部告発者クリストファー・ワイリー氏 ロングインタビュー(上)」 私はスティーブ・バノンの心理兵器を作った 告発者 ワイリー氏 富豪、ロバート・マーサー氏からの資金提供を受けてCA社として生まれ変わり、かのスティーブ・バノン氏が責任者として指揮を取り始めてから、会社が激変 CA社は偏執的なメッセージに弱い人を標的にした 過激派組織の影響力を下げるのは、やり甲斐があった バノンが仕掛けた「文化戦争」 オンライン上のナイフを作ってしまった 人々を人種差別主義者に変える研究 CA社にいたら米社会を破壊していた フランケンシュタインを作ってしまった 「「これは戦争だ」心を操る大量破壊兵器 内部告発者クリストファー・ワイリー氏ロングインタビュー(中)」 予想外だったFBからの反撃と嘘 FBからの執拗な脅し 英デジタル・文化・メディア・スポーツ大臣が議会で「FBが内部告発者を追放することなど、言語道断だ」と発言 プーチン大統領と旧知のCEOにもデータを送っていた デジタル洗脳 ワシントンに核爆弾を投下する必要はない 軍事において情報は、非動的武器と呼ばれ、この武器はターゲットを攻撃しますが、敵の目的を阻止するため、あるいは、自己の目的を達成するために、運動エネルギー弾などは使いません 情報の役割は、敵の思考や行動のパターンを変えることです 「改憲議論で学ぶべき英国の歪められた民主主義 内部告発者・クリストファー・ワイリー氏ロングインタビュー(下)」 規制や国際的な枠組みが急務 ロシアは米英、日本の規制を遵守する必要がない 「サイバー空間」という新しい戦場で展開 サイバー空間もリアルな空間です。実社会に影響を及ぼします フェイスブックは他の産業から学ぶべき 最低でも空港表記と同様の国際条約が検討されるべきでしょう 日本は特別な立場にあります。オンライン上の「インフルエンス・オペレーション」において、高度な能力を有する数多くの国々のすぐそばに位置しているからです 国民投票によって利益をあげようと目論む軍事請負企業、武器システムなどがある 英国の民主主義が、今や立証された事実ですが「違法にだまし取られた」様を目の当たりにしました 選挙がハッキングに遭うとは誰も想像せず 内部告発者を英雄視する西側諸国
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東京オリンピック(五輪)予算膨張以外(その6)(郷原氏:竹田会長「訴追」で東京五輪の危機を招いた政府・JOCの無策) [外交]

今日は、昨日のブログで最後に紹介した問題を、東京オリンピック(五輪)予算膨張以外(その6)(郷原氏:竹田会長「訴追」で東京五輪の危機を招いた政府・JOCの無策)として取上げよう。なお、「東京オリンピック(五輪)予算膨張以外」の最近のものは、昨年11月18日である。

元東京地検検事で弁護士の郷原信郎氏が1月11日付けの同氏のブログに掲載した「竹田会長「訴追」で東京五輪の危機を招いた政府・JOCの無策」を紹介しよう。
https://nobuogohara.com/2019/01/11/%E7%AB%B9%E7%94%B0%E4%BC%9A%E9%95%B7%E3%80%8C%E8%A8%B4%E8%BF%BD%E3%80%8D%E3%81%A7%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E4%BA%94%E8%BC%AA%E3%81%AE%E5%8D%B1%E6%A9%9F%E3%82%92%E6%8B%9B%E3%81%84%E3%81%9F%E6%94%BF%E5%BA%9C/
・『フランスの司法当局が、日本オリンピック委員会(JOC)竹田恒和会長を東京2020オリンピック・パラリンピック(以下、「東京五輪」)招致に絡む贈賄容疑で訴追に向けての予審手続を開始したと、仏紙ルモンドなどフランスメディアが報じている。 カルロス・ゴーン氏が特別背任等で追起訴された直後であり、この時期のフランス当局の動きがゴーン氏に対する捜査・起訴への報復との見方も出ている。 このJOCによる五輪招致裏金疑惑問題については、2016年にフランス当局の捜査が開始されたと海外メディアで報じられ、日本の国会でも取り上げられた時点から、何回かブログで取り上げ、JOCと政府の対応を批判してきた』、この問題を追ってきただけに、夕方のテレビ報道を受けて直ぐにこのブログを書き上げた郷原氏の手際は鮮やかである。
・『東京五輪招致疑惑の表面化  問題の発端は、2016年5月12日、フランス検察当局が、日本の銀行から2013年7月と10月に、2020年東京オリンピック招致の名目で、国際陸上競技連盟(IAAF)前会長のラミン・ディアク氏の息子に関係するシンガポールの銀行口座に約2億2300万円の送金があったことを把握したとの声明を発表したことだ。 この問題が、AFP、CNNなどの海外主要メディアで「重大な疑惑」として報じられたことを受け、竹田会長は、5月13日、自ら理事長を務めていた東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会(2014年1月に解散、以下、「招致委員会」)としての支払の事実を認めた上で、「正式な業務契約に基づく対価として支払った」などと説明した。しかし、この説明内容は極めて不十分で、東京五輪招致をめぐる疑惑に対して、納得できる説明とは到底言えないものだった。 フランス検察当局の声明によれば、送金した先がIAAF前会長の息子に関係する会社の銀行口座であるという事実があり、それが2020年五輪開催地を決定する時期にあまりに近いタイミングであることから、開催地決定に関して権限・影響力を持つIOC委員を買収する目的で行われた不正な支払いだった疑いがあるとのことだった。問題は、招致委員会側に、そのような不正な支払いの意図があったのか否かであり、そのような意図があったのに、それが秘匿されていたのだとすれば、JOCが組織的に開催地決定をめぐる不正を行ったことになり、東京五輪招致をめぐって、極めて深刻かつ重大な事態となる』、確かにJOCの説明は不十分で、疑惑を晴らすには至っていない。
・『私は、ブログ記事【東京五輪招致をめぐる不正支払疑惑、政府・JOCの対応への重大な疑問】で、この問題を詳しく取り上げ、JOCの竹田会長は、まさに、招致委員会の理事長として今回の約2億2300万円の支払を承認した当事者であり、支払先に際してどの程度の認識があったかに関わらず、少なくとも重大な責任がある。招致委員会が組織として正規の手続きで支払った2億2300万円もの多額の資金が、五輪招致をめぐる不正に使われた疑惑が生じており、しかも、支払いを行った招致委員会のトップが、現在のJOCのトップでまさに当事者そのものである竹田会長なので、「外部の第三者による調査が強く求められる」と指摘した。 その上で、同ブログ記事の末尾を、以下のように締めくくった。 五輪招致をめぐる疑惑について、徹底した調査を行ったうえ、問題があったことが明らかになっても、それでもなお、東京五輪を開催するというのが国民の意思であれば、招致を巡る問題を呑み込んだうえで国民全体が心を一つにして、開催に向けて取り組んでいくべきであろう。 今回の招致委員会をめぐる疑惑について、客観的かつ独立の調査機関を設けて徹底した調査を行い、速やかに招致活動をめぐる問題の真相を解明した上で、東京五輪の開催の是非についての最終的な判断を、国政選挙の争点にするなどして、国民の意思に基づいて行うべきではなかろうか』、まさに正論である。
・『外部調査チームによる調査報告書公表  しかし、その後の政府、JOCの対応は、それとは真逆のものだった。 国会での追及を受けたことなどから、その後、JOCは、第三者による外部調査チームを設置し、2016年9月1日に、「招致委員会側の対応に問題はなかった」とする調査報告書が公表された。しかし、それは、根拠もなく、不正を否定する「お墨付き」を与えるだけのものであった。それについて、日経BizGate【第三者委員会が果たすべき役割と世の中の「誤解」】で、以下のように指摘した。 フランスで捜査が進行中であり、今後起訴される可能性があるという段階で、国内で行える調査だけで結論を示したということになるが、その調査はあまりに不十分で、根拠となる客観的な資料もほとんど示されていない。 この報告書では、「招致委員会がコンサルタントに対して支払った金額には妥当性があるため、不正な支払いとは認められない」と述べているが、そもそも金額の妥当性に関する客観的な資料は何ら示されていない。世界陸上北京大会を実現させた実績を持つ有能なコンサルタントだというが、果たして本当に彼の働きによって同大会が実現したのかという点について全く裏が取れていない。 また、招致が成功した理由や原因、コンサルティング契約に当たって半分以上の金額を成功報酬に回した理由も、何1つ具体的に示されていない。そのような契約が「適正だった」と判断することなど、現時点ではできないはずだ。 結局のところ、疑惑に対して納得のいく説明を行えるだけの客観的な資料が全くない状態で、専門家だとか中立的な第三者などによる何らかのお墨付きを得ることで、説明を可能にしようとした、ということでしかない』、第三者による外部調査チームの報告書は、根拠も示さずに都合のいい結論だけを出すとは、「お墨付き」を与えるためとはいえ、酷過ぎる。よくぞ恥ずかしげもなく出したものだ。
・『BOC会長のリオ五輪招致疑惑による逮捕  そして、2017年10月5日 リオデジャネイロオリンピックの招致をめぐって、ブラジルの捜査当局が、開催都市を決める投票権を持つ委員の票の買収に関与した疑いが強まったとして、ブラジル・オリンピック委員会(BOC)のカルロス・ヌズマン会長を逮捕したことが、マスコミで報じられた。 NHKニュースによると、ブラジルの捜査当局は、先月、リオデジャネイロへの招致が決まった2009年のIOC(国際オリンピック委員会)の総会の直前に、IOCの当時の委員で開催都市を決める投票権を持つセネガル出身のラミン・ディアク氏の息子の会社と息子名義の2つの口座に、ブラジル人の有力な実業家の関連会社から合わせて200万ドルが振り込まれていたと発表していた。捜査当局は、ヌズマン会長が、「贈賄側のブラジル人実業家と収賄側のディアク氏との仲介役を担っていた」として、自宅を捜索するなど捜査を進めてきた結果、2009年のIOC総会の直後、ディアク氏の息子からヌズマン会長に対して、銀行口座に金を振り込むよう催促する電子メールが送られていたことなどから、票の買収に関与した疑いが強まったとして逮捕したとのことだった(日本では報じられていないが、その後、起訴されたとのことである)。 このニュースは、日本では、ほとんど注目されなかったが、私は、【リオ五輪招致をめぐるBOC会長逮捕の容疑は、東京五輪招致疑惑と“全く同じ構図”】と題するブログ記事を出し、リオ五輪招致疑惑と、東京五輪招致疑惑とが全く同じ構図であることを指摘し、以下のように述べた。 BOC会長が逮捕された容疑は、リオオリンピック招致をめぐって、「IOCの当時の委員で開催都市を決める投票権を持つセネガル出身のラミン・ディアク氏の息子の会社と息子名義の口座に、約200万ドルが振り込まれていた」というもので、東京オリンピック招致をめぐる疑惑と全く同じ構図で、金額までほぼ同じだ。 IOCの倫理委員会は、「疑惑が報じられた昨年からフランス検察当局の捜査に協力し、さらに内部調査を継続している」としているが、その調査は、当然、東京オリンピックをめぐる疑惑にも向けられているだろうし、IOCの声明の「新たな事実がわかれば暫定的な措置も検討する」の中の「暫定的な措置」には、東京オリンピックについての措置も含まれる可能性があるだろう。 JOCは、「その場しのぎ」的に、第三者委員会を設置し、その報告書による根拠もない「お墨付き」を得て問題を先送りした。それが、今後の展開如何では、開催まで3年を切った現時点で、“本当に東京オリンピックを開催してよいのか”という深刻な問題に直面することにつながる可能性がある。今後のBOC会長逮捕をめぐるブラジル当局の動き、オリンピック招致疑惑をめぐるIOCと倫理委員会の動きには注目する必要がある』、「金額までほぼ同じ」には驚かされた。JOCに忖度して殆ど報道しなかった日本のマスコミの姿勢には、いつものこととはいえ、腹が立つ。
・『以上のような経過からすると、今回、フランス当局の竹田会長の刑事訴追に向けての動きが本格化したのは当然のことと言える。東京五輪招致をめぐる疑惑について、フランス当局の捜査開始の声明が出されても、全く同じ構図のリオ五輪招致をめぐる事件でBOC会長が逮捕されても、凡そ調査とは言えない「第三者調査」の結果だけで、「臭いものに蓋」で済ましてきた日本政府とJOCの「無策」が、東京五輪まで1年半余と迫った今になって、JOC会長訴追の動きの本格化するという、抜き差しならない深刻な事態を招いたと言えよう。 今日、竹田会長は、訴追に関する報道を受けて、「去年12月に聴取を受けたのは事実だが、聴取に対して内容は否定した」とするコメントを発表したとのことだが、問題は、フランス司法当局の竹田会長の贈賄事件についての予審手続が、どのように展開するかだ。 フランスでの予審手続は、警察官、検察官による予備捜査の結果を踏まえて、予審判事自らが、被疑者の取調べ等の捜査を行い、訴追するかどうかを判断する手続であり、被疑者の身柄拘束を行うこともできる。昨年12月に行われた竹田会長の聴取も、予審判事によるものと竹田会長が認めているようなので、予審手続は最終段階に入り、起訴の可能性が高まったことで、フランス当局が、事実を公にしたとみるべきであろう』、私は当初、ゴーン問題に絡めたフランス検察当局のいやがらせと軽く考えていたが、「予審手続は最終段階に入り、起訴の可能性が高まった」とは深刻だ。
・『ということは、今後、フランスの予審判事が竹田会長の身柄拘束が必要と判断し、日本に身柄の引き渡しを求めてくることもあり得る。この場合、フランス当局が捜査の対象としている事実が日本で犯罪に該当するのかどうかが問題になる。犯罪捜査を要請する国と、要請される国の双方で犯罪とされる行為についてのみ捜査協力をするという「双方可罰性の原則」があり、日本で犯罪に該当しない行為については犯罪人引渡しの対象とはならない。 今回、フランス当局が捜査の対象としている「IOCの委員の買収」は、公務員に対する贈賄ではなく、日本の刑法の贈賄罪には該当しないが、「外国の公務員等」に対する贈賄として外国公務員贈賄罪に該当する可能性はあるし、招致委員会の理事長が資金を不正の目的で支出したということであれば、背任等の犯罪が成立する可能性もあり、何らかの形で双罰性が充たされるものと考えられる。 いずれにせよ、フランスの裁判所で訴追されることになれば、旧皇族の竹田宮の家系に生まれた明治天皇の血を受け継ぐ竹田氏が「犯罪者」とされ、JOC会長職を継続できなくなるだけでなく、開催前の東京五輪招致の正当性が問われるという危機的な事態になることは避けられない』、「双方可罰性の原則」があっても、日本でも法に触れる可能性があるようなので、「犯罪人引渡しの対象」となってしまうとは、大変なことだ。外交には自信があると豪語する安倍政権の真骨頂が試されることになろう。
タグ:五輪 東京オリンピック 郷原信郎 同氏のブログ 予算膨張以外 (その6)(郷原氏:竹田会長「訴追」で東京五輪の危機を招いた政府・JOCの無策) 「竹田会長「訴追」で東京五輪の危機を招いた政府・JOCの無策」 フランスの司法当局 日本オリンピック委員会(JOC)竹田恒和会長 招致に絡む贈賄容疑で訴追に向けての予審手続を開始 東京五輪招致疑惑の表面化 東京オリンピック招致の名目で、国際陸上競技連盟(IAAF)前会長のラミン・ディアク氏の息子に関係するシンガポールの銀行口座に約2億2300万円の送金 「正式な業務契約に基づく対価として支払った」などと説明 開催地決定に関して権限・影響力を持つIOC委員を買収する目的で行われた不正な支払いだった疑い 【東京五輪招致をめぐる不正支払疑惑、政府・JOCの対応への重大な疑問】 外部の第三者による調査が強く求められる」と指摘 外部調査チームによる調査報告書公表 第三者による外部調査チームを設置 「招致委員会側の対応に問題はなかった」とする調査報告書が公表 根拠もなく、不正を否定する「お墨付き」を与えるだけのもの 【第三者委員会が果たすべき役割と世の中の「誤解」】 調査はあまりに不十分で、根拠となる客観的な資料もほとんど示されていない。 この報告書では、「招致委員会がコンサルタントに対して支払った金額には妥当性があるため、不正な支払いとは認められない」と述べているが、そもそも金額の妥当性に関する客観的な資料は何ら示されていない BOC会長のリオ五輪招致疑惑による逮捕 リオデジャネイロオリンピックの招致 ブラジル・オリンピック委員会(BOC)のカルロス・ヌズマン会長を逮捕 200万ドルが振り込まれていた 【リオ五輪招致をめぐるBOC会長逮捕の容疑は、東京五輪招致疑惑と“全く同じ構図”】 リオ五輪招致疑惑と、東京五輪招致疑惑とが全く同じ構図 JOCは、「その場しのぎ」的に、第三者委員会を設置し、その報告書による根拠もない「お墨付き」を得て問題を先送りした “本当に東京オリンピックを開催してよいのか”という深刻な問題に直面 フランスでの予審手続は、警察官、検察官による予備捜査の結果を踏まえて、予審判事自らが、被疑者の取調べ等の捜査を行い、訴追するかどうかを判断する手続 予審手続は最終段階に入り、起訴の可能性が高まったことで、フランス当局が、事実を公にしたとみるべきであろう 予審判事が竹田会長の身柄拘束が必要と判断し、日本に身柄の引き渡しを求めてくることもあり得る 「双方可罰性の原則」 「外国の公務員等」に対する贈賄として外国公務員贈賄罪に該当する可能性はあるし、招致委員会の理事長が資金を不正の目的で支出したということであれば、背任等の犯罪が成立する可能性もあり、何らかの形で双罰性が充たされるものと考えられる 明治天皇の血を受け継ぐ竹田氏が「犯罪者」とされ、JOC会長職を継続できなくなるだけでなく、開催前の東京五輪招致の正当性が問われるという危機的な事態になることは避けられない
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日本のスポーツ界(その22)(毎食「米3合食え」と迫られる野球少年の壮絶、パワハラ“無罪” 塚原夫妻復権で加速するスポーツ界の退化、貴ノ岩暴行問題を「心の弱さ」や「暴力の連鎖」で片付けてはいけない理由、感動と熱狂の「箱駅駅伝」が日本人だけにしかウケない理由) [社会]

日本のスポーツ界については、昨年10月18日に取上げた。今日は、(その22)(毎食「米3合食え」と迫られる野球少年の壮絶、パワハラ“無罪” 塚原夫妻復権で加速するスポーツ界の退化、貴ノ岩暴行問題を「心の弱さ」や「暴力の連鎖」で片付けてはいけない理由、感動と熱狂の「箱駅駅伝」が日本人だけにしかウケない理由)である。

先ずは、フリーライターの島沢 優子氏が11月4日付け東洋経済オンラインに寄稿した「毎食「米3合食え」と迫られる野球少年の壮絶 午前0時まで泣いて食べる小5の絶望」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/246963
・『夏の暑さも和らぎ、食欲の増す季節がやってきた。メタボぎみのお父さんは「もう食べちゃダメ」と奥様ににらまれたりするが、逆に「もっと食え」と強制される子どもがいるのをご存じだろうか。 「1食につき米3合食え」  子どもの脳に詳しい小児科医で文教大学教育学部特別支援教育専修の成田奈緒子教授は、講演のため足を運んだ東北地方のある町でこんな話を聞いた。 「息子が少年野球の監督から1食につき米3合食えと命じられ、苦しんでいます」 小学5年生。野球の少年団で投手として頑張っているが、放課後行う練習が終わるのは夜9時を過ぎる。そこから米3合、茶碗に山盛り6杯ぶんの白飯を食べなくてはならない。 食べるのに夜中の12時までかかる。体が細く体も小さいため「食べないと試合で投げさせないと監督に言われた」と泣きながら食べる。プロ選手を輩出した少年団らしく、「1食3合命令」は地域の少年団でも有名だ。 しかも、白飯がおなかに入らなくなるからか「野菜や肉などのおかずは食べなくていい。塩だけで飯を食え」とも言われているそうだ。 子どもの脳育てのために早寝早起きを推進する成田教授が、さらに驚いたのは、同じ話を今度は東海地方での講演の際にも聞いたからだ。そこでも前述のケースと同様「1食米3合」を監督から命じられ、子どもたちが苦しんでいた。 実は筆者も似た話を知っている。首都圏にある少年野球クラブで以前聞いたのは「どんぶり3杯」。量的には米3合とほぼ同じだ。消化できずに下痢になるため、栄養を吸収できず太れない。体重が増えないため「おまえ、食ってないだろう!」と叱られる。そこまで食べなきゃいけないなら野球をやめたいと子どもが言う――そんな話だった。 野球少年が「1食米3合」の理不尽に苦しんでいる』、小学生に「1食米3合」を強要するとは、トンデモない話だ。強要する指導者たちの常識の欠如にも驚かされる。
・『「本当に驚きました。本来なら小学生が就寝すべき夜9時まで練習し、それから米3合食べて就寝が夜中では、成長ホルモンが分泌する時刻に間に合わないので身長が伸びません。夜中に食べることで胃腸がもたれて朝ごはんがしっかり食べられないため、日中の活動に支障をきたします。本末転倒です」と成田教授は勘違いの“食トレ”に警鐘を鳴らす。 「野球食」なる言葉が登場したのは2000年前半。その後、ラグビー、サッカー、駅伝などで日本のトップアスリートたちがスポーツ栄養、「食トレ」に励む文化が生まれたが、その起点になったのが野球食だった。 それが小学生にも下りてきたのだろうか。正しい栄養指導を受けられない親たちは不安そうだ。 都内で小学6年生の野球少年を育てる40代の母親は「うちは団長が楽しく野球をやろうと方針を示しているチーム。息子も含めてみんな体は小さいけど、そこまで食事のことを厳しく言われない」と明かす。 ただ、親睦会などでコーチと話すと「実際、体が大きい子がいるほうが勝てる」とか、「野球は体が大きくないと話にならない」といった本音も聞かされる。 「根尾(昂=大阪桐蔭高校)君なんて、そんなに大きくないけど凄い選手じゃないですか。全員4番になれるわけじゃないのに。どのくらい食べさせたらいいのか。そもそも本人が嫌がるのに食べさせていいのか」 ▽メディアの影響による勘違い(そこで、帝京大学スポーツ医療科学科助教でスポーツ栄養士の藤井瑞恵さんに、それらの疑問について聞いてみた。スポーツクラブの子どもたちの栄養指導の経験があり、現在は大学選手権10連覇を狙うラグビー部の栄養サポートをしている。 藤井さんはまず、メディアの影響による勘違いを指摘する。「ここ数年、スポーツ栄養がメディアで取り上げられるようになり、テレビなどで、高校生や大学生のトップアスリートはこんなに食べてますよ、といった様子が報じられます。悪いことではないのですが、それを見て、小学生にも、とか、小学生からやればいい、などと勘違いされているのではないか」 無論だが、米3合に根拠はないという。 「続けていたら、体に変調をきたします。消化不良を起こし胃腸障害のもとになりかねません。下痢をしたり、嘔吐したら、ほかの栄養素も外に出てしまって逆効果。背も伸びません」 藤井さんによると、野球をはじめスポーツ少年の正しい栄養摂取は「さまざまな食材を適量食べて、しっかり吸収する」ことだ。 成長期にある小学生の間は、骨の形成にポイントを置く。骨が鉄筋とコンクリートでできていると仮定すると、鉄筋部分はコラーゲン。骨のしなやかさ、骨の質を決める成分だ。コンクリート部分はカルシウムになる。 コラーゲンをつくるには、肉や魚、卵から摂取するたんぱく質や柑橘類などに含まれる「ビタミンC」が必要になる。カルシウムは牛乳や小魚など。そのカルシウムを体に吸収しやすくするには魚やきのこ類などに含まれる「ビタミンD」と、納豆や春菊、ほうれん草などの葉物、海藻に含まれる「ビタミンK」を摂ってほしいという。 白飯が好きな子どももいるが、ふりかけをかけて食べて終わり、ではいけない。ごはんは糖質で、エネルギーに変わる大事な栄養素だが、その糖質をうまくエネルギーに変えるには豚肉や豆類にある「ビタミンB1」が必須であり、そのB1を吸収しやすくするには、一緒にネギやニンニクに入っている「アリシン」を摂る必要がある。 加えて、スポーツ少年の親が心掛けたいのは、補食の確保だという。放課後の練習など、おなかがすいた状態で始め、エネルギー不足の状態で体を動かすと脚つりやけがの原因になる。脳も糖質などをエネルギー源にしているため、頭も働かなくなる。よって、バナナやおにぎり、パンなどの補食を開始前に摂ることが重要だ。 中学校の部活動は、その観点から見て理想的ではなく、問題がありそうだ。一部の私立校以外は、食べ物を学校に持ってきてはいけないところが多い。 「小学生は平日なら一度帰宅して補食を摂れますが、中学生は昼ごはんのあと何も食べずに部活に入ります。栄養学的によくありません。学校としてのシステムを変えることを考えてほしい」(藤井さん)。 たとえば、部活生が持ってきたおにぎりなどを学校側が放課後まで預かっておくなど、工夫が必要だろう。 発育発達の面についても、もっと考えたほうがいい。藤井さんによると、小学生時代はどの競技も基礎技術を習得することが重要だという。小学生は技術、中学生は持久力。高校生から筋力に注目する。このような発達段階に応じたて指導すべきという考え方は、スポーツコーチングの世界では常識だ。 「少年野球の指導者や親御さんは、小学生の時期に何をいちばんやらなくてはいけないかを整理してほしい。小中学生の時期は、個々で成長の速さが違う。無理に体を大きくする時期ではありません」(藤井さん)』、スポーツ栄養ブームがこんな誤解を生んでいるとすれば、メディアの責任も重い。
・『大人が勝利を求めすぎていないか  大きい子は打てる。打てれば勝てる――。そんな発想から“米3合の呪縛”が生まれ、子どもたちを苦しめていないか。まだまだ続く競技生活を考えれば、子ども時代には「野球は楽しいなあ」と感じることが最も重要なのに、大人が勝利を求めすぎている側面はないだろうか。 そんな理不尽は、すべての少年野球の現場で起きている事態ではなく、ごく一部なのだろう。だが、一方で子どもの野球離れが言われ始めて久しい。全日本軟式野球連盟に登録している小学生チーム数は、2011年度の1万4221に対し、2017年度は1万1792。6年間で2500弱のチームが消滅している。 少子化やサッカー人気に押されているとの見方も間違いではないかもしれないが、理不尽さが敬遠されている可能性も否定できないと筆者は考える。育成の環境が今の時代にあっているかどうか、点検することは無駄ではないだろう。 冒頭の成田教授は言う。「食べることで苦しむなんて、少年スポーツに危険な側面があるという認識を持ちました。大人がきちんと新しい知識を学んで指導しなければ、子どもにとって悪影響でしかありません。指導者だって、その子を良くしたいと思っているはず。誰かがこうしているとか、そういった話を鵜呑みにしないでもっと勉強してほしい」 食事も、スポーツも、本来楽しむもの。この価値観を大人たちが共有することが何より必要だ』、「食事も、スポーツも、本来楽しむもの」は正論ではあるが、スポーツは勝負にこだわりがちになることは不可避なだけに、難しい問題だ。スポーツ栄養については、メディアも誤解を生じないような報道に努めるべきだろう。

次に、12月12日付け日刊ゲンダイ「パワハラ“無罪” 塚原夫妻復権で加速するスポーツ界の退化」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/sports/243545
・『この“判決”がどう出るか。 リオ五輪体操女子代表の宮川紗江(19)が塚原光男副会長(70)と妻の千恵子女子強化本部長(71)によるパワハラ被害を告発した問題は10日、日本体操協会が第三者委員会の調査結果を報告。夫妻によるパワハラを認定せず、2人の職務復帰が決まった。 レスリングの栄和人前日本協会強化本部長から火がついたスポーツ界のパワハラ問題。今月7日には厚生労働省がセクハラやパワハラについて「許されない行為」と法律に明記する方針を固めたが、今回は第三者委員会が塚原夫妻に「パワハラであると感じさせてしまっても仕方ないものもあった」という報告がありながら、まさかの“無罪”判決。スポーツ界の「パワハラの壁」は思った以上に高いことが証明された。 これにより、各競技団体の役員たちも安堵しているに違いない。体操界の場合、こんな声もあるという。「長く協会の中枢にいる塚原夫妻は内部の資金の流れなどの情報を持っているはず。『処分したらバラされることを恐れた』なんて話もある。第三者委員会が聴取した人は塚原派とされる人たちが多かったそうです。パワハラ被害を見聞きしていた人たちは声もかからなかった」(体操関係者) そもそも、宮川が協会を通さずにパワハラ告発に踏み切ったのは、協会への不信感があったから。宮川の勇気ある行動に体操界で多くのOGらが支持する声を上げていたのは、そのような実態を知っていたからだろう。しかし、そんな声も完膚なきまでに潰された』、第三者委員会の聴取では、「パワハラ被害を見聞きしていた人たちは声もかからなかった」とは、酷い話だ。スポーツ庁はそんないい加減な報告書は突き返すべきだったろう。
・『「体操協会の“判決”は、今後の日本スポーツ界の進歩を妨げ、むしろ退化させることになるでしょう」と話すのは、スポーツライターの工藤健策氏だ。 「この先、同じようなパワハラ被害があったとしても、悩みを抱える選手が声を上げづらくなってしまった。これでは宮川選手も報われない。いつも一番苦しむのは現場の選手です。物を言えない周囲の大人が問題で、選手の味方につかず、悪いことを悪いと言えない大人が残る。パワハラ指導者はそういう人たちを周囲に集め、自分たちばかりが前に出る、塚原夫妻は一刻も早く現場から去るべきです」 東京五輪まで1年半。スポーツ界の時計は逆戻りしている。』、スポーツ界の闇はなんら晴らされることなく、文字通り「闇に葬られた」ようだ。

第三に、ノンフィクションライターの窪田順生氏が12月13日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「貴ノ岩暴行問題を「心の弱さ」や「暴力の連鎖」で片付けてはいけない理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/188326
・『日馬富士暴行事件では被害者だった貴ノ岩が、一転加害者となり引退に追い込まれた問題に、識者たちから「心の弱さ」「暴力の連鎖」といったコメントが寄せられている。だが、事態はこの手の話で簡単に片付けられていいものではない』、どういうことなのだろう。
・『被害者から一転、暴行・引退 元師匠はじめ有識者らが反応  これは「暴力の連鎖」なのか、はたまた「個人の暴力気質」に由来する問題なのか――。 白鵬のお説教を聞く態度が悪いと元・日馬富士にリモコンでタコ殴りにされた元・貴ノ岩が、今度は忘れ物の言い訳をした「付き人」にビンタしてしまった一件のことだ。 世間の同情を集めていた「被害者」が一転して「加害者」へという2時間サスペンスを彷彿とさせるジェットコースター的展開に、さまざまな声が寄せられている。 まず多いのは、理不尽な暴力を受けた者の気持ちを誰よりもわかっているのに、なぜこんな愚かなことをしてしまったのか、という怒りだ。 落語家・立川志らく氏も「こんな大バカ者はいない」と吐き捨て、相撲に造詣の深い漫画家・やくみつる氏は発覚直後から「さっさと荷物をまとめた方がいい」と痛烈に批判し、テレビ出演時に元・貴ノ岩が過去にも暴力を振るっていたこともにおわせた。また、師匠だった元・貴乃花など引退報告の電話を無視、テレビのインタビューでも「10年は会わない」と大激怒している。 彼らの怒りは、暴力衝動を抑えることができなかった「心の弱さ」へ向けられている。一方で、元貴ノ岩を叩かない人たちからは無力感や憤りとともに、「暴力の連鎖」が語られている。 例えば、ジャーナリストのモーリー・ロバートソン氏は、「純粋な暴力の連鎖にしか見えない」とコメント。ネットでも有識者らが、「根深すぎる暴力の連鎖」「やはり暴力の連鎖は断ち切れないのか」などと述べているのだ。 もちろん、反論もある。暴力や虐待の被害者が、時を経て加害者にまわる事件や悲劇が起きると、世の中はすぐに「暴力の連鎖」という言葉で片付けてしまいがちだが、筆舌に尽くしがたい虐待や暴力を受けても、「加害者」にならない人はゴマンといる。つまり、「暴力の連鎖」なんてのは幻想であって、元貴ノ岩のような人間は、被害者になるならない関係なく、遅かれ早かれ他人に暴力を振っていたというワケだ。 果たして悪いのは、元・貴ノ岩の人間性か、それとも暴力が暴力を生んでしまう負の連鎖か――。みなさんいろいろ思うところがあるだろうが、個人的にはこの手の話でサクッと片付けられていることに危うさしか感じない。問題の本質から人々の目を遠ざけてしまうからだ。 では、問題の本質は何かというと、「付き人」という名の徒弟制度に尽きる』、確かに問題の本質を捕えて、適切な対応策を採らないと同じ過ちが繰り返されるだけだろう。
・『力士約50人が暴力被害、うち9割が若手 元凶はスポーツ界の根深い「徒弟制度」  大相撲の元横綱日馬富士の傷害事件を受けて日本相撲協会が設置した第三者機関「暴力問題再発防止検討委員会」によれば、昨年暴力を受けたと答えた協会員は約50人(5.2%)で、被害者の約9割は1~3年目の若手。暴力を振るったのは兄弟子が大半で、「教育」や「指導」の名目だった。 この調査結果を裏付ける「材料」は相撲の世界に枚挙にいとまがない。 例えば、真相はいまだに藪の中ではあるが、元・日馬富士も、元・貴ノ岩をリモコンでボコボコにしたのは大横綱・白鵬へ礼を欠いたことを体でわからせた「指導」だと主張している。また、貴乃花親方引退の遠因になった、貴公俊が付き人を殴ったケースも、入場のタイミングを伝えるのが遅かったという致命的なミスに対してのことである。 このように「上」が「下」に対しておこなう暴力事案が山ほどあることからも、この問題の原因が、「付き人」に象徴される徒弟制度にあるのは明白だ。 それは、他のスポーツを見てもよくわかる。その中でも、相撲と同じく日本人が大好きな高校野球がわかりやすいだろう。 2001年、名門とうたわれたPL学園の野球部寮で、上級生が下級生をバットで殴るなど暴行事件が続発した。背景には、下級生が上級生の「付き人」として生活の世話などをする過度な上下関係があった。当時、1年生たちはこんな寮のルールをメモさせられた。 「3年生は天皇へいか」「返事は常にハイとイイエ」「先輩方に何かのまねをしろと言われたら、する。できませんは、ない」(朝日新聞2001年6月30日) こういう問題が発覚した後も残念ながら野球部の暴力はなくならなかった。2013年には、1年生を上級生が集団リンチで病院送りにして出場停止処分も受けている。 2001年以降、野球部寮は廃止され、部員は一般の生徒たちと同じ寮へ移り、監督など大人たちも「暴力は絶対に行けない」と口すっぱく説いた。このように暴力根絶のための必死に取り組んでいたのに、なぜ暴力が続いたのか』、確かに野球部での暴行事件がこれだけ続いている背景には、根深い問題がありそうだ。
・『悪習は元から絶たなければ消えない 徒弟制度ある限り暴力事件は続く  答えはシンプルで、元凶である徒弟制度は続いていたからだ。「朝日新聞」(2013年7月2日)の取材に応じたOBたちはこのように振り返る。 「1年生はよく寮の1階ロビーに集合がかかり、しばかれた。理由は掃除ができないとか、練習での動きは悪いとか」「付き人という名はなかったが、1年生には先輩の指導係がいて、その先輩のユニホームの洗濯は1年生がやった」 どうだろう、兄弟子から何かとつけてボコボコにされる相撲の「付き人」とやっていることは丸かぶりではないか。 これこそが冒頭で述べたように、元・貴ノ岩が付き人を殴った問題を、「個人の暴力気質」や「暴力の連鎖」というふわっとした話で片付けてはいけない、と申し上げた最大の理由だ。 PL学園のケースからもわかるように、この問題の本質は「徒弟制度」である。 だから、野球部寮をなくすなど、ちょっとやそっと閉鎖的な社会を風通しをするくらいでは、何の解決にもならない。ましてや、「心の弱さ」などという精神論で立ち向かえるような話でもない。 貴乃花親方のように厳しい師匠や、高校野球部では絶対権力者である監督が、「いいか、お前ら、暴力は絶対ダメだぞ」とどんなにきつく教え込んでも、その「愛弟子」たちが暴力をやめられないのがその動かぬ証である。 そういう本当のことを指摘すると、「歴史や伝統を否定するのか!」「先人が大切にしてきた相撲道の精神が失われてしまう!」と顔を真っ赤にして、この世の終わりのように騒ぎ出すおじさんたちが多いのだが、「悪しき伝統」という言葉があるように、長く続いていることが必ずしも正しいこととは限らない』、やはり本質への斬り込みが不可欠だ。
・『根底にある「人間は辛い経験をしなければ成長できない」という思想  そもそも、相撲という「国技」の魅力や精神と、先輩の身の回りの世話を後輩がしなくてはいけないという「付き人」のシステムは何の関係もない。「礼節」や「忍耐」を学ばせるためだとかいうが、それを鉄拳制裁で叩き込ませているようになっている時点で、もはやこの方向性が間違っているのは明らかだ。 過去に『徒弟制的修行論が「頑張っても報われない時代」にまではこびる愚』という記事の中でも指摘したように、日本では仕事のできない人間は「半人前」として、人権も半分になって、パワハラや体罰を乗り越えなくては「一人前」になれない、という特殊な「人材育成」の哲学が根強く残っている。それが弱者は強者に搾取されて当然という、「ブラック企業」のカルチャーを生み出した。 日本では「職人」という言葉を持ち出すと、どんなに理不尽な話でも何やらすべて許されるようなおかしな風潮があるが、前近代的な「徒弟制度」というものを、強迫観念のように、この時代にまで引きずってきたことが、「ブラック企業」や「パワハラ」の原因となっているという事実を、そろそろ直視すべきだ。 下積み、付き人…このような徒弟制度の根底にある思想は、「人間は辛い経験をしなければ成長できない」という思想である。 だから、徒弟制度の信奉者たちは、かつて自分が受けたハラスメントを繰り返す。パワハラ上司のほとんどが、「俺が若い時はこんなもんじゃなかったぞ」と、ワケのわからない自慢をするのも、後輩に対するハラスメントや暴力というものを、「お前に良くなってほしい」という「愛」だという悲劇的な勘違いがあるからだ。 残念ながら、日本社会の多くでいまだにパワハラがなくならないことからもわかるように、徒弟制度を否定すると、日本が滅びるくらいに考えているおじさんがいまだに社会の主導権を握っている。 貴ノ岩の件で、被害者が加害者になったと驚いているが、世間を見渡せばそのようなサイクルばかりではないか。相撲界、スポーツ界だけではなく日本企業でも、ハラスメントを受けた人が、自分よりも弱い立場にハラスメントをしている。店員として悪質クレームを受けた人が、仕事を離れて自分が「客」の立場になると、モンスタークレーマーに豹変するという現象も起きている。誤解を恐れずにいってしまうと、日本社会は「ハラスメント」で成り立っているのだ。 そう考えていくと、相撲協会が徒弟制度という病巣にまで手を突っ込むとは考えにくい。第二、第三の貴ノ岩が出るのも時間の問題ではないか』、「日本では仕事のできない人間は「半人前」として、人権も半分になって、パワハラや体罰を乗り越えなくては「一人前」になれない、という特殊な「人材育成」の哲学が根強く残っている。それが弱者は強者に搾取されて当然という、「ブラック企業」のカルチャーを生み出した」との指摘は、説得力に溢れ、その通りだ。スポーツ界だけでなく、企業社会にまで広がる根深い問題だが、その指摘がもっと多くの識者からもされないと、解決には向かいそうもない。やれやれ・・・。

第四に、同じ窪田順生氏が1月10日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「感動と熱狂の「箱駅駅伝」が日本人だけにしかウケない理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/190460
・『毎年、日本中が熱狂する箱根駅伝。しかし、柔道や空手などの日本発スポーツが世界で人気を博しているのに比べて、駅伝は世界では人気がない。実は、駅伝が神道や「祭り」と非常に深いつながりを持っていることも、影響しているのではないだろうか』、興味深そうだ。
・『日本では大人気だけど…外国では流行らない駅伝  日本では大人気の駅伝ですが、海外では流行りません。 今年の「箱根駅伝」も大いに盛り上がった。 初優勝の東海大、5連覇は逃しながらも驚異の追い上げで見事復路優勝を果たした青学。彼らを往路で引きずり下ろしながらも復路で失速してしまった東洋大などなど、1年間をこの日にかけてきた若者たちが死力を尽くし、たすきをつないでいく姿に、思わず感動したという方も多いのではないだろうか。 実際、テレビ中継の視聴率は往路復路ともに30%超えと過去最高を記録。ゴールの大手町はもちろんのこと、沿道では100万人ともいわれる観衆がランナーに声援を送った。ここまでくると、もはや「国民的行事」といってもいいだろう』、「テレビ中継の視聴率は往路復路ともに30%超えと過去最高を記録」とは驚きの数字だ。
・『そんな盛り上がりを見るたび、いつも不思議で仕方がないことがある。それは、なぜこんなにも人々を熱狂させ、そして感動を与えてくれる素晴らしい競技が、世界に広がらないのか、ということだ。 ご存じの方も多いと思うが、「駅伝」は日本発祥のスポーツだが、「柔道」「空手」「競輪」などの日本発祥競技が世界へ広がり、多くの国で愛され、五輪種目にもなっているのと比べると、「マイナー」と言わざるをえない。 一昨年あたりから中国の大学で箱根駅伝の「コピー」が始まったというニュースがあったが当然、パクりなので本家ほど盛り上がらない。韓国も日本統治時代の名残で駅伝自体はあるがかなりマイナー。マラソンが盛んな欧州や、世界的ランナーを多く輩出するアフリカでも、「フランス駅伝でパリっ子が大フィーバー」とか、「ケニア駅伝で這いつくばってゴールしたランナーに国中が感動!」なんてニュースは聞いたことがない。 では、なぜ「駅伝」は日本人だけにしかウケないのだろうか。 日本の駅伝という特異な文化に興味を抱き、実際に自らも駅伝に参加するなどして綿密に取材をしたイギリス人のジャーナリスト、アダーナン・フィン氏は著書「駅伝マン――日本を走ったイギリス人」(早川書房)の中で、高度経済成長の原動力にもなった日本人の「和」を尊ぶ思想にピタッとハマった競技だからではないかと考察している』、こういう問題は、かえって外国人の方がポイントを突いた見方をするものだ。
・『駅伝のルーツは「神事」 コースにも神道的思想が  「駅伝チームは、すべての参加者が自分の役割を果たして勝利を得る。つまり、全員がチームのために一丸となって闘わなくてはいけない。それが当時の日本人の精神と合致し、少しずつ駅伝の知名度が上がり、マラソンを凌ぐほどの人気を博すようになったのだった」(同書、第4章「和をもって駅伝となす」より) これには納得だと深く頷く方も多いことだろう。筆者もまったく同意である。 確かに、「たすきをつなぐためぶっ倒れるまで走る姿に涙腺崩壊」というのは、「炎天下で肩を壊してまで速球を投げる高校球児の姿に感動をありがとう」にも通じるものがあり、そこには日本人が愛してやまぬ「集団主義」が大きく関係しているのは間違いないだろう。 ただ、「チーム」を尊重するカルチャーは日本だけのものではない。ならば、マラソンという個人競技は世界中で普及しているのだから、そのリレー版である駅伝だってもっと受け入れられていいはずである。しかし、現実にそうなっていないということは、よその国の人にはいまいちピンとこないものの、日本人だけにグッとくる要素が、駅伝に秘められていると考えるべきだ。 それはなにか。個人的には、「駅伝」というものが競技スポーツというより、日本古来の「神事」、あるいは「祭事」に近いものだからではないかと思っている。 「おいおい、年の初めからヤベエやつの記事読んじゃったよ」と閉じそうになっている方も多いかもしれないが、駅伝という競技の成り立ちを知れば、そこまで荒唐無稽な話ではないということがわかっていただけるはずだ。 「駅伝」を世に生み出したのは今年のNHK大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺」のモデルとなっている金栗四三氏だというのはあまりに有名な話だ。 自身がストックホルム五輪で途中棄権してしまった苦い経験をもとに、世界に通用をするマラソン選手の育成に乗り出した金栗氏は、リレーレースで選手を鍛えるのが一番いいとして、この競技を考案した。ではなぜそれが「マラソンリレー」とかではなく、「駅伝」と名付けられたのか。ご本人はこのように述べている。 「そのころ長距離リレーになんとか名前をつけようということになり、武田千代三郎という伊勢神宮に関係のある皇學館長が駅伝という古式ゆかしい名前を編み出したと思う。そして大正九年の第一回から駅伝を始めたわけだ」(読売新聞1953年12月23日) つまり駅伝とは、その成り立ちから神道の影響を受けた競技と言えるのだ。そんなの昔のことでしょと思うかもしれないが、そのような神道的な思想はコースにもちゃんとあらわれている』、「成り立ちから神道の影響を受けた競技」というのは初耳だ。
・『駅伝は「お祭り騒ぎ」ではなく正真正銘の「お祭り」である  箱根駅伝は、大手町という「将門の首塚」から「関東総鎮守箱根大権現」と呼ばれた箱根神社を結んでいる。出雲全日本大学選抜駅伝のスタートは出雲大社。全日本大学駅伝対校選手権大会も、名古屋の熱田神宮を出発して、ゴールは「駅伝」に縁のある伊勢神宮だ。 外国の人たちに「なぜ日本人はお正月に神社に行くのですか?」と尋ねられても「日本人はそういうものですから」と答えるしかない。「なぜ日本人は大木に乗って斜面をすべり下りたり、山車で猛スピードを出したりという危ないお祭りをするのですか」と尋ねられても同じだろう。 駅伝もこれらと同じではないか。つまり、理屈で説明できるものではなく、日本人ならば気がつけば熱狂し、ハタから見ているだけでも胸が踊る「お祭り」のようなものなのではないか。 箱根駅伝の魅力を語る際に必ず「ドラマ」という言葉が出る。実況アナウンサーもそこを意識して、スポーツ中継とは思えぬほど、思いっきり「情」に訴える。 ペースが落ちれば大興奮、足が止まれば大騒ぎ。道に倒れたら大絶叫。また、箱根駅伝まで彼らがどういう鍛錬を重ねてきたかはもちろん、家族や友人、ライバルとの人間関係までつまびらかにして盛り上げる。 なぜ、たかが大学生のスポーツ大会に、こんなにもお祭り騒ぎをするのか不思議で仕方がなかったが、「お祭り」だと考えればすべて辻褄が合うのだ。 そんな馬鹿げた妄想には付き合いきれん、という全国数千万人の箱根駅伝ファンからの怒りに声が聞こえてきそうだが、歴史を振り返れば、駅伝がスポーツではなく「神事」として行なわれたという動かぬ証拠がある。 1940年、日本の東北から九州、さらに朝鮮半島、満州、台湾の若者たちの中から選抜して大駅伝大会が催された。これは宮崎神宮(宮崎県)から橿原神宮(奈良県)まで、約1000キロを10日間で疾走するというものだった。 なぜこんな凄まじい長距離の駅伝をやることになったのかというと、紀元2600年を奉祝するためだ。宮崎は神武東征のスタート地点。橿原神宮のある畝傍山は、神武天皇が即位した皇居があったとされる。要するに、これは「神武東征駅伝」だったのだ。ちなみに、この記念すべき大会で見事優勝を収めたのは「朝鮮台湾軍」だった』、なるほど。
・『米英撃滅祈願で開催された1942年の駅伝大会  また、それだけではなく、駅伝は「皇民」である日本人の士気を上げるため、「祈願」のようなことにも使われている。 1942年、ミッドウェー海戦でぼろ負けする2ヵ月ほど前、「鉄脚を通じて銃後の士気を鼓舞せんとする」(読売新聞1942年3月20日)ため、伊勢神宮から皇居の二重橋前の約600キロを3日間で走る駅伝大会が催された。全国から健脚自慢の選手52名が選抜され、おこなわれたそのイベント名はズバリ、「米英撃滅祈願東西対抗縦走大会」――。 若者たちの走りは、神国・日本の皇民たちを奮い立たせ、神に対して憎き鬼畜米英の破滅を祈祷するための「儀式」だったのである。 日本人が大好きな野球も戦時中は、敵性スポーツとして冷遇されたことを考えると、「駅伝」というものが単なる「マラソンリレー」ではなく、我々日本人の信仰や精神に深く根付いていたがゆえ、かなり特別扱いされていたということがうかがえよう。 こういう出自を考えれば、駅伝というものが日本人だけにしかウケないというのも納得ではないだろうか。 少し前、女子駅伝で、足を故障した選手が、たすきをつなぐために約200メートルをはいつくばるということがあって大きな話題になった。 すぐに監督は審判に棄権を要請したというが、選手本人の強い希望もあって最後まではいつくばってたすきを渡したのだという。 選手個人の記録、選手個人の未来などよりも、はるかに「たすき」の方が大切。その頑なまでの教条主義というのは、そこに生きる人間の意志よりも伝統や格式を重んじる「神事」や「祭事」を思わせる。 このあたりの精神は日本人ならば、まあなんとなく理解できるが、よその文化の人たちには難しいのではないか。 日本中が涙を流して熱狂する駅伝が、「世界のEKIDEN」になるのは、まだまだ当分先のことのようだ』、「選手個人の記録、選手個人の未来などよりも、はるかに「たすき」の方が大切。その頑なまでの教条主義というのは、そこに生きる人間の意志よりも伝統や格式を重んじる「神事」や「祭事」を思わせる」との指摘は本質を突いており、大いに参考になった。

・なお、さきほどの夕方のNHKニュースで、JOCの竹田会長が、「五輪招致で汚職に関与した疑惑で、フランスで刑事訴追するか否かを決める予備審問の手続きが取られている」と伝えた。かねて噂になっていた件が、今頃になって浮上した背景は不明だが、ひょっとすると日産のゴーン事件への「サヤ当て」なのかも知れない。これについては、事実関係がハッキリすれば、改めて取上げるつもりである。
タグ:高校野球 NHKニュース 東洋経済オンライン 日刊ゲンダイ ダイヤモンド・オンライン 窪田順生 島沢 優子 日本のスポーツ界 宮川紗江 (その22)(毎食「米3合食え」と迫られる野球少年の壮絶、パワハラ“無罪” 塚原夫妻復権で加速するスポーツ界の退化、貴ノ岩暴行問題を「心の弱さ」や「暴力の連鎖」で片付けてはいけない理由、感動と熱狂の「箱駅駅伝」が日本人だけにしかウケない理由) 「毎食「米3合食え」と迫られる野球少年の壮絶 午前0時まで泣いて食べる小5の絶望」 1食3合命令 大人が勝利を求めすぎていないか 「パワハラ“無罪” 塚原夫妻復権で加速するスポーツ界の退化」 塚原光男副会長(70)と妻の千恵子女子強化本部長(71)によるパワハラ被害を告発した問題 日本体操協会が第三者委員会の調査結果を報告。夫妻によるパワハラを認定せず、2人の職務復帰が決まった 長く協会の中枢にいる塚原夫妻は内部の資金の流れなどの情報を持っているはず。『処分したらバラされることを恐れた 体操協会の“判決”は、今後の日本スポーツ界の進歩を妨げ、むしろ退化させる 「貴ノ岩暴行問題を「心の弱さ」や「暴力の連鎖」で片付けてはいけない理由」 被害者から一転、暴行・引退 元師匠はじめ有識者らが反応 「暴力の連鎖」 「個人の暴力気質」 問題の本質は何かというと、「付き人」という名の徒弟制度に尽きる 力士約50人が暴力被害、うち9割が若手 元凶はスポーツ界の根深い「徒弟制度」 上級生が下級生をバットで殴るなど暴行事件が続発 悪習は元から絶たなければ消えない 徒弟制度ある限り暴力事件は続く この問題の本質は「徒弟制度」 「心の弱さ」などという精神論で立ち向かえるような話でもない 根底にある「人間は辛い経験をしなければ成長できない」という思想 日本では仕事のできない人間は「半人前」として、人権も半分になって、パワハラや体罰を乗り越えなくては「一人前」になれない、という特殊な「人材育成」の哲学が根強く残っている 「ブラック企業」や「パワハラ」の原因 「感動と熱狂の「箱駅駅伝」が日本人だけにしかウケない理由」 日本では大人気だけど…外国では流行らない駅伝 アダーナン・フィン 「駅伝マン――日本を走ったイギリス人」(早川書房) 日本人の「和」を尊ぶ思想にピタッとハマった競技だからではないかと考察 駅伝のルーツは「神事」 コースにも神道的思想が 駅伝は「お祭り騒ぎ」ではなく正真正銘の「お祭り」である 「駅伝」を世に生み出したのは 金栗四三氏 武田千代三郎という伊勢神宮に関係のある皇學館長が駅伝という古式ゆかしい名前を編み出した 駅伝とは、その成り立ちから神道の影響を受けた競技と言える 米英撃滅祈願で開催された1942年の駅伝大会 鉄脚を通じて銃後の士気を鼓舞せんとする 米英撃滅祈願東西対抗縦走大会 選手個人の記録、選手個人の未来などよりも、はるかに「たすき」の方が大切 その頑なまでの教条主義というのは、そこに生きる人間の意志よりも伝統や格式を重んじる「神事」や「祭事」を思わせる JOCの竹田会長 五輪招致で汚職に関与した疑惑で、フランスで刑事訴訟の手続きが取られている 日産のゴーン事件
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企業不祥事(一般)(その7)(スバル、品質問題の泥沼から抜け出せるのか、「日産 スルガ銀 スバル…社是から考える不祥事 高野山の企業墓に見る「日本型経営」の喪失、「勤勉な国」日本で組織的不正が起こる根因 「アイヒマン実験」が教えてくれる教訓) [企業経営]

企業不祥事については、昨年4月21日に取上げた。久しぶりの今日は、(一般)(その7)(スバル、品質問題の泥沼から抜け出せるのか、「日産 スルガ銀 スバル…社是から考える不祥事 高野山の企業墓に見る「日本型経営」の喪失、「勤勉な国」日本で組織的不正が起こる根因 「アイヒマン実験」が教えてくれる教訓)である。

先ずは、昨年11月7日付け東洋経済オンライン「スバル、品質問題の泥沼から抜け出せるのか 要のエンジン部品でリコール、販売店は疲弊」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/247943
・『ついに砂上の楼閣が崩れてしまった――。 SUBARUは11月5日、2019年3月期の業績見通しを大幅に下方修正した。売上高は3兆2100億円とほぼ据え置いたが、営業利益は2200億円と前回予想を800億円、率にして約27%も引き下げた。かつて営業利益率は10%台を誇っていたが、今期の予想では6.8%。これが今のスバルの実力だ。 下方修正の主要因は、スバルの技術の代名詞とも言うべきエンジンの部品のリコール(回収・無償修理)で関連費用は550億円にのぼる。対象は「バルブスプリング」と呼ばれるエンジンの吸排気弁を開け閉めするためのバネ状の部品。最悪の場合、走行中にエンジンが停止するおそれがある。 スバルは11月1日に国土交通省に2012年1月~2013年9月に製造した「インプレッサ」など4車種の10万1千台あまりのリコールを届け出た。海外分を合わせると約41万台が対象となる』、これは従来の検査不正とは違い、売り物だったエンジンでの部品不具合という致命的欠陥だけに深刻だ。
・『3回目の最終報告書を提出後も不正継続  スバルにとってこの1年は非常に苦しかった。昨年10月、新車の出荷前に行う完成検査を無資格の検査員が行っていた問題が発覚。社内調査が不十分でリコールを繰り返し、最終報告書を3回も提出する異例の事態となった。 完成検査問題は今年9月に3回目の最終報告書を出して収束に向かうかに見えた。だが、スバルは11月5日に追加のリコールを発表。これまで完成検査の不正は2017年末まで行われたと説明していたが、実際は今年の9~10月まで続いていた。10月に行われた国交省の立ち入り検査で、ブレーキ検査の不正を続けていたことが発覚した。 リコールの対象車両は今年1月8日から10月28日までに製造された約10万台。11月8日に正式にリコールを届け出る予定だ。これで完成検査に関するリコールは約53万台にのぼる。 販売店は逼迫している。1年前から軽自動車「サンバー」の大規模リコール対応に多くの人手を割かれ、すでに息切れ状態だった。そのさなかに完成検査のリコール対応の仕事が続々と降りかかってきた。自動車業界は整備士不足で簡単に人を増やすこともできない。リコール、すなわち部品の回収・無償修理は、自動車メーカーが国交省に届け出た後1年以内に行う必要があり、現在の進捗率は80%だ。 しかし、新たな2件のリコールで販売店の逼迫状態がさらに長引くことは必至だ。バルブスプリングのリコールではより強度のある部品に交換するが、エンジンを車から外し、シリンダーヘッドやカムシャフトなどを分解する必要がある。問題のバルブスプリングを交換し、再度エンジンを組み立てなおすまで、12~13時間はかかるという。スバルの水平対向エンジンは、左右にシリンダーがついているため余計に時間がかかる』、エンジンのリコールには「12~13時間はかかる」というのでは、販売店には極めて大きな負担だ。
・『販売店に漂う疲弊感と不安  スバル本社は交換を迅速に進めるため、全国に8カ所の整備工場を新設する。ディーラーで預かった車両を送り込み、集中的にリコール作業を行う。ディーラーでのリコール作業と合わせて、1年での収束を目指す。 さらに完成検査不正の追加リコールものしかかる。今回もこれまで同様リコール作業の分散を図るため、ユーザーが車検や法定点検のタイミングに合わせて車両を持ち込む場合には、検査内容の重複分5万円がユーザーに支払われる。販売店の負荷を少しでも軽減しようというスバル本体の取り組みだが、現場には疲弊感が漂う。「もうウミは出し切ったと言っていたのに、またこれでがっかり。会社がもうだめなんじゃないのかとみんな不安に思っている」と、ある販売店の店員はつぶやく。 エンジン部品の問題については6年も前の2012年からスバル本社には報告が上がっていた。設計上のミスや、製造過程でのばらつきなどが原因で、バネが伸び縮みを繰り返す中でバルブスプリングが破損(疲労破壊)してしまい、異音がしたり、エンジンが故障したりしていたという。 品質保証本部長を務める大崎篤常務執行役員は、「途中、材質の強度を高めたり、製造の精度を上げたりと対応したが、原因究明とリコール判断に時間を要してしまった」と話す。スバルにバルブスプリングを納入している日本発条は「部品そのものに問題があるというわけではない」(広報)と話す。 それでは何が問題だったのか。自動車工学が専門の早稲田大学の大聖泰弘名誉教授は、「材質分析や耐久テストの過程で、部品・素材サプライヤーとのすり合わせが不十分だった可能性がある」と見ている。 問題がわかっていたのならば、サービスキャンペーンや自主回収でもっと早く手を打つこともできたはずだ』、6年前から報告が上がっていながら、「原因究明とリコール判断に時間を要してしまった」というのは、余りに悠長過ぎる対応だ。
・『米国での訴訟リスクも  危惧すべきは、約14万台分のリコールが出ている米国での訴訟リスクだ。リコール隠し・遅れがあったと判断されれば、厳しい制裁金が課される可能性がある。では、なぜここまで時間がかかったのか。 国際自動車ジャーナリストの清水和夫氏は、「エンジンは精密機械で壊れやすく、原因の判断が難しい。急成長していたスバルは、膨大な数のクレームを前に、本当の原因を特定することができなかった」と分析する。そのうえで、「これからの時代は、IoT(モノのインターネット化)技術やAI(人工知能)を使い、新たな検査体制を整えることが不可欠になる」と指摘する。 品質問題をいつまでも引きずっていると、スバルの風土改革が進んでいるのか疑問を持たざるをえない。ガバナンス(企業統治)やコンプライアンス(法令順守)の意識について、前出の大聖氏は「現場に仕事の重要性を認識させ、モチベーションを与えるのが経営者の責任だ」と警鐘を鳴らす』、スバルは総販売台数106.7万台(2018年3月期)のうち、国内は16.3万台、米国が67.1万台と、米国市場に大きく依存しているだけに、ブランド・イメージ棄損や訴訟リスクは深刻だろう。
・『業績の立て直しになお時間  しかし、中村知美社長は「いまは会社の悪いウミを出している途上であり、今回検査員が告発をしたのも、意識改革の一環だ」と危機感は薄い。先述した通り、追加リコールは国交省による指摘がきっかけで、自浄作用が働いたわけではない。風土改革の成果とみるのは早計だ。 今回の件で、スバルの業績立て直しはさらに遅れる。国内の生産ラインの見直しに伴い、生産台数も当初計画の67万2000台から65万6000台に1万6000台減らす。急成長を牽引してきた米国の販売も、減産によって在庫が足りなくなるため、ブレーキがかかる見通しだ。信頼を売りにしてきた会社で起こった品質問題に、株価も下がり続けている。スバルが再びスタートラインに立てるのは、いつになるのか』、私も若い頃、水平対向エンジンに魅せられて保有したことがあるだけに、なんとか早く立ち直ってもらいたいものだ。

次に、ジャーナリストで浄土宗僧侶の鵜飼 秀徳氏が12月3日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「「日産、スルガ銀、スバル…社是から考える不祥事 高野山の企業墓に見る「日本型経営」の喪失」を紹介しよう。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/061100222/112600016/?P=1
・『私は11月初旬、長野県にある禅寺を訪れていた。住職を務める老師とは、かれこれ5年ほどの付き合いになる。もともと老師は大手精密機器メーカーの米国法人の社長まで務めていた。老師は若い頃に禅に傾倒。仏門への憧れを募らせ、同社を退職後、厳しい修行を成し遂げた。そして、空き寺に入ったのが2001年のことであった。 老師はこの1年を振り返って、こう話した。 「今年は企業の不祥事が多かったね。過失ではなく、企業のデータ改ざんなど、故意の不祥事が目立った。今一度、社是というものに立ち返ってもらいたいね。どの企業の社是も、仏教の考え方そのものだから」 エフシージー総合研究所によれば、2018年1月から11月22日までにマスコミで報じられた企業事件の数は100件に上る。 新年早々に世間を騒がせたのが、振袖の販売、レンタルを手掛けていたはれのひ社長による詐欺事件だ。2月には三菱マテリアルのグループ会社3社で品質データの改ざんがあったことが判明。さらに、神戸製鋼所やスバルなどでもデータ改ざんが次々と発覚した。スルガ銀行は、不正融資問題で一部の業務停止命令に追い込まれた。 老師と別れて2週間後。2018年の企業不祥事の総決算と言わんばかりに“ゴーンショック”が起きた。改めて老師の「社是の精神を思い返して」との言葉が思い浮かんだ』、確かに近年は企業不祥事が目立つなかでも、昨年はことの他多かった気がする。僧侶が企業不祥事を取上げるとは、興味深い。
・『社是を朝礼などで読み上げている企業はともかく、諳んずることができる従業員は、そうはいないのではないか。社是とは、企業のあり方の指針であり、創業者の理念が込められていることもある。近年は、「社是」とは呼ばず、「企業理念」などとする企業も多い。日産自動車の場合、「ビジョン」が社是にあたるだろう。 たいていの社是は抽象的な表現であり、どの企業も似通っている。 たとえば、稲盛和夫氏が名誉会長を務める京セラの社是は「敬天愛人」。そこにはこんな説明が添えてある。「常に公明正大 謙虚な心で 仕事にあたり 天を敬い 人を愛し 仕事を愛し 会社を愛し 国を愛する心」 京セラの場合、社是とは別に経営理念が存在する。そこでは、「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること」としている。 では、不祥事のあった企業の社是とはどんなものか。 グループ会社で性能データ改ざんのあった三菱マテリアル。企業理念に「人と社会と地球のために」をうたっている。 燃費などの測量データ改ざんに関わっていたスバル。企業理念の第2項目に「私たちは常に人・社会・環境の調和を目指し、豊かな社会づくりに貢献します」と述べている。 不正融資問題で揺れているスルガ銀行は、企業理念の中で「いつの時代にも社会から不可欠の存在として高く評価される企業」としている』、立派な社是がありながら、不祥事が頻発するのは、何故なのだろう。
・『社是に共通する精神とは裏腹に……  渦中の日産はどうか。「ビジョン」の中で、「人々の生活を豊かに」を掲げる。 優良企業だろうと、不祥事を起こした企業だろうと、社是で言いたいことは基本的にはさほど変わらない。共通するのは、「社会のお役に立ちます」だ。 ところが、不祥事を起こした企業は、社是とは裏腹な行為をしでかしている。 改めて、先の老師の話に戻そう。老師は社是を「仏教そのもの」と述べた。どういうことだろうか。例えば、仏教では「利他行」という言葉がある。利他行とは、自分の利益よりも、他者の利益を優先することである。他者のために尽くす、と言い換えてもよい。 京セラの「敬天愛人」や三菱マテリアルの「人と社会と地球のために」、日産の「人々の生活を豊かに」は、まさに利他行の実践をうたったものだ。 「縁起」という仏教用語もある。「縁起でもない」という否定的な用語で使われることも少なくないが、そもそもの縁起とは、「過去」や「社会」などとの繋がりを意味する。存在そのものの意味を、縁起は問うている。 話は少し飛ぶが、カルロス・ゴーン氏の事件にからんで彼の多額の報酬が話題になっている。テレビのワイドショーなどでは評論家たちが決まってこう言う。 「グローバルスタンダードに立てば、決してゴーン氏の報酬額は高くはない。むしろ、日本の経営者の報酬が安すぎるのだ」 私はこの考え方に、どうも違和感を覚えてしまう。日本の経営者の報酬額が抑えられてきたのは、「縁起」の考え方が根付いているからだ。 「先人達がいて、今の自分たちがいる」「多くのステークホルダーのおかげで、企業が存在する」 だから、従業員や株主、あるいは社会に還元するのだ。「企業を成功に導けば、それなりの報酬を受け取る資格がある」という論理は、近視眼的である。 スバルの社是である「常に人・社会・環境の調和を目指す」、スルガ銀行の「いつの時代にも社会から不可欠の存在として」は縁起と同義である』、「日本の経営者の報酬額が抑えられてきたのは、「縁起」の考え方が根付いているからだ」、「「企業を成功に導けば、それなりの報酬を受け取る資格がある」という論理は、近視眼的である」などはユニークで面白い指摘だ。
・『縁起に基づいた企業の良心  以前、私が高野山奥の院を訪れた時、様々な「企業墓」がずらりと並んでいるのを目にした。これは、故人となった経営者やOB、ステークホルダーに感謝の念を込め、御霊を合祀したものである。まさに、縁起に基づいた企業の良心がそこにあった。その中には、日産の企業墓もあった。 しかしながら、残念なことに、スバルやスルガ銀行、日産は企業の良心を見失ってしまったのだ。 そもそも社是の歴史を遡れば、社寺建設を手がけた金剛組が定めた「職家心得之事」が古い。金剛組の創業はなんと西暦578年(創業1440年)。世界最古の企業だ。金剛組は、四天王寺などの数多の古刹を手がけてきた。職家心得之事は江戸時代中期、第32代金剛喜定の遺言である。そこには、以下のような16カ条が記されていた。 一.儒仏神三教の考えをよく考えよ 一.主人の好みに従え 一.修行に励め 一.出すぎたことをするな 一.大酒は慎め 一.身分に過ぎたことはするな 一.人を敬い、言葉に気をつけよ 一.憐れみの心をかけろ 一.争ってはならない 一.人を軽んじて威張ってはならない 一.誰にでも丁寧に接しなさい 一.身分の差別をせず丁寧に対応せよ 一.私心なく正直に対応せよ 一.入札は廉価で正直な見積書を提出せよ 一.家名を大切に相続し、仏神に祈る信心を持て 一.先祖の命日は怠るな』、世界最古の企業の社是だけあって、部分的には現在の時代には必ずしもフィットしないものもあるが、現在にもフィットするものも多いのは、さすがだ。
・『第一に、儒教や仏教、神道の理念を大事にせよと説き、最後にも先祖の命日には感謝の念を捧げよとしている。興味深いのは「入札は廉価で正直な見積書を提出せよ」。仮に顧客を欺いて利益を上げたとしても、お天道様がちゃんと見ていて、結局は事業に失敗するということだろう。 これを仏教で「因果応報」という。この社是は現在の金剛組でも、翻訳し直され、受け継がれているという。 日本における資本主義の祖と呼ばれる渋沢栄一も、やはり企業活動における精神論を大事にした人物だ。例えば「士魂商才」を提唱した。直訳すれば、商売には、商才に加えて武士の魂が必要であるということ。わかりやすく言えば、商売において卑怯な手段は使うな、ということになろう。 こうした「日本型経営」が、戦後の経済成長を支えてきた。しかしながら、グローバリズムの名の下に、合理化が図られ、次第に企業の持つ精神性が失われてきつつある。 今の多くの大企業はコンプライアンス遵守、様々なハラスメントの防止などを徹底しているが、形骸化しているように思う。実態として目先の利益や、立身出世のために、他者を踏み台にしてはいまいか。 ゴーン氏の問題が事実なら、グローバリズムの広がりとともに、古きよき日本型経営の心が失われた結果だと思う。それは一人の経営者の問題ではない。日産の体質そのものが問われており、行きすぎた資本主義の澱のようにも見える。同様の問題はどの企業にも潜んでいる可能性がある』、「行きすぎた資本主義の澱」とはその通りなのだろうが、キレイ事の社是に立ち返ったところで、現実的な答えは見出し難いのではなかろうか。

第三に、 電通、ボストン・コンサルティング・グループ等を経てコーン・フェリー・ヘイグループ シニア・クライアント・パートナー の山口 周氏が1月6日付け東洋経済オンラインに寄稿した「「勤勉な国」日本で組織的不正が起こる根因 「アイヒマン実験」が教えてくれる教訓」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/257070
・『 『武器になる哲学』の著者で、哲学科出身の外資系コンサルタントという異色の経歴を持つ山口周さん。実は、「日本で次々にコンプライアンス違反が起こる」と、数年前から予言していました。その理由、そして対策とは――』、面白そうだ。
・『『菊と刀』が教えてくれる、組織的不正の原因  筆者が「日本では今後、コンプライアンス違反が続出して社会問題化するだろう」と考えて自分のブログなどで書き始めたのが、2015年ごろのことでした。残念なことに、この予測は今のところ当たってしまっています。 昨年ニュースになっただけでもスルガ銀行のシェアハウス不正融資問題、耐震ダンパーの数値改ざん、大手自動車メーカーの燃費や排ガスの不正検査と、枚挙にいとまがありません。 なぜ、「勤勉」と言われてきた日本の現場で、不正が起こるのか。この問題は文化人類学者のルース・ベネディクトが『菊と刀』で指摘した「恥の文化」の枠組みで考えるとわかりやすいと思います。 ルース・ベネディクトは、諸文化の人類学的研究において重要なことは、恥に大きく頼る文化と、罪に大きく頼る文化とを区別することである。道徳の絶対的基準を説き、各人の良心の啓発に頼る社会は、<罪の文化>と定義することができる。としたうえで、さらに 恥が主要な社会的強制力になっているところでは、たとえ告解僧に対して過ちを公にしたところで、ひとは苦しみの軽減を経験しない。と指摘しています。 つまり「罪」は救済できるけど「恥」は救済できないということです。これは考えてみれば恐ろしいことですよね。西洋の「罪の文化」では、告解によって罪は救済されることに、一応はなっています。この「罪の文化」に対して、ベネディクトは、「恥の文化」においては、たとえそれが悪行であっても、世間に知られない限り、心配する必要はない。したがって「恥の文化」では告解という習慣はない、と指摘しています。 ベネディクトの指摘のうえにそのまま考察を積み重ねれば、こういうことになります。つまり、日本人の生活においては「恥」が行動を規定する最大の軸になる。それはつまり、各人が自分の行動に対する世間の目を気にしているということです。この場合、彼あるいは彼女は、ただ世間の他人が自分の行動をどのように判断するかを想像しさえすればよく、その他人の意見の方向に沿って行動するのが賢明であり、さらには優秀であるということになります。 ということで、最後に彼女は 日本人特有の問題は、彼らは、ある掟を守って行動しているとき、他人は必ずその自分の行動の微妙なニュアンスをわかってくれる、という安心感を頼りに生活するように育てられてきた、ということである。(引用はすべて『菊と刀』講談社学術文庫より)とまとめています』、「恥の文化」については知っていたが、不祥事問題に当てはめるとは山口氏はさすがだ。
・『この指摘について、何度も転職を繰り返してきた自分がいつも感じていることを重ね合わせると、1つの道筋が見えてくるように思うのです。 いくつかの会社を渡り歩いてきた僕がいつも感じていることは「ある会社の常識は、ほかの会社の非常識」だということです。電通に勤めている人は電通でまかり通っている常識を「世間の常識」だと勘違いしているし、ボストンコンサルティンググループ(BCG)に勤めている人はBCGでまかり通っている常識をやはり「世間の常識」だと勘違いしています。 つまり常識というのは非常に文脈依存性がある、現代アートの用語で言えば「サイトスペシフィック」だということです。何度か転職をすれば、自分が所属していた会社=世間での常識が、そこでしか通用しない常識だったのだという認識を持つことができるのですが、同じ会社にずっといるとそういう相対化は難しい。つまり、会社という「狭い世間」の常識が、社会という「広い世間」の常識と異なるということに気づけないわけです』、確かに労働力の流動性に乏しい日本の企業社会では、「サイトスペシフィック」な常識が横行している。
・『「狭い世間の掟」を相対化する2つの解決策  ここに「世間の多層性」という問題が出てきます。ある会社の常識、ベネディクトの指摘をつかえば「掟」がサイトスペシフィックであるということは、そこに無批判的に従うということが「広い世間の掟」に反することにもなりかねない。しかし、彼らあるいは彼女らは「狭い世間の掟」には従わざるをえません。なぜなら「恥」は「罪」と違って救済されないからです。「恥」はそのまま「狭い世間」=会社からの心理的・物理的な追放を意味します。それは窓際に送られることであり、あるいは早期退職を勧奨されることです。 救済されない「恥」への恐れから、「狭い世間の掟」に従わざるをえないために発生しているのがコンプライアンス違反だと考えれば、この問題を解決するための本質的な方策が浮かび上がるように思います。 世の中は「狭い世間の掟」に従って「広い世間の掟」を破った人を市中引き回しのうえ打ち首にすることによって、「広い世間の掟」を守らせようとしていますが、個人個人にとっての利得はあくまで「狭い世間の掟」へ従うか従わないかで決まっているのですから、これは筋が悪いアプローチと言わざるをえません。社会全体がよって立つような道徳律を持っていない国ですから、どうしても行動を規定する軸足は「狭い世間の掟」にならざるをえない』、非常に説得力のある指摘だ。特に、「救済されない「恥」への恐れから、「狭い世間の掟」に従わざるをえないために発生しているのがコンプライアンス違反」というのは、日本企業で相次ぐコンプライアンス違反の本質をズバリ突いている。
・『ではそういう社会において、どうやって「狭い世間の掟」を相対化し、その掟がおかしいと見抜く判断能力を身につけるか。答えは2つしかないと思います。 1つは、結局は労働力の流動性を上げろ、という結論になるのではないかと思います。自分が所属している「狭い世間の掟」を見抜けるだけの異文化体験を持つ、ということです。 もう1つは、教養を身につけろ、ということでしょうか。教養とは何か?「狭い世間の掟」を妄信することがないよう、人や組織とはどういうものかを知っておくことですね。 その1つの例として、スタンレー・ミルグラムが行った社会心理学史上、おそらくもっとも有名な実験である「アイヒマン実験」を紹介しましょう。私たちは一般に、人間には自由意思があり、各人の行動は意思に基づいていると考えています。しかし、本当にそうなのか?という疑問をミルグラムは投げかけます。具体的には次のような実験でした』、「アイヒマン実験」とは何なんだろう。
・『人が集団で行動するとき、個人の良心は働きにくくなる  新聞広告を出し、「学習と記憶に関する実験」への参加を広く呼びかける。実験には広告に応じて集まった人から選ばれた2人の被験者と白衣を着た実験担当者(ミルグラムの助手)が参加します。 被験者2人にはクジを引いてもらい、どちらか1人が「先生」の役を、そしてもう1人が「生徒」の役を務める。生徒役は単語の組み合わせを暗記し、テストを受けます。生徒が回答を間違えるたびに先生役は罰として生徒に電気ショックを与えるという実験です。 クジ引きで役割が決まったら全員一緒に実験室に入ります。電気椅子が設置されており、生徒は電気椅子に縛り付けられる。生徒の両手を電極に固定し、身動きができないことを確認してから先生役は最初の部屋に戻り、電気ショック発生装置の前に座ります。 この装置にはボタンが30個付いており、ボタンは15ボルトから始まって15ボルトずつ高い電圧を発生させる……つまり最後のボタンを押すと450ボルトの高圧電流が流れるという仕掛けです。先生役の被験者は白衣を着た実験担当者から、誤答のたびに15ボルトずつ電圧を上げるように指示されます。 実験が始まると、生徒と先生はインターフォンを通じて会話します。生徒は時々間違えるので、電気ショックの電圧は徐々に上がる。75ボルトまで達すると、それまで平然としていた生徒はうめき声をもらし始め、それが120ボルトに達すると「痛い、ショックが強すぎる」と訴え始めます。しかし実験はさらに続きます。やがて電圧が150ボルトに達すると「もうダメだ、出してくれ、実験はやめる、これ以上続けられない、実験を拒否する、助けてください」という叫びを発します。電圧が270ボルトになると生徒役は断末魔の叫びを発し始め、300ボルトに至って「質問されてももう答えない!とにかく早く出してくれ!心臓がもうダメだ!」と叫ぶだけで、質問に返答しなくなります。 この状況に対して白衣を着た実験担当者は平然と「数秒間待って返答がない場合、誤答と判断してショックを与えろ」と指示します。さらに実験は進み、電圧は上がる。その電圧が345ボルトに達すると、生徒の声は聞こえなくなります。それまで叫び続けていたのに、反応がなくなってしまいます。気絶したのか、あるいは……。しかし白衣の実験担当者は容赦なく、さらに高い電圧のショックを与えるように指示します。 この実験で生徒役を務めているのはあらかじめ決まっているサクラでした。つねにサクラが生徒役、応募してきた一般の人が先生役になるようにクジに仕掛けがしてあり、電気ショックは発生しておらず、あらかじめ録音してあった演技がインターフォンから聞こえてくる仕掛けになっていたわけです。しかし、そんな事情を知らない被験者にとって、この過程は現実そのものでした。会ったばかりの罪もない人を事実上の拷問にかけ、場合によっては殺してしまうかもしれない、という過酷な現実です。 さて、読者の皆さんがこの被験者の「先生」の立場であったら、どこで実験への協力を拒否したでしょうか。ミルグラムの実験では、40人の被験者のうち、65%に当たる26人が、痛みで絶叫し、最後には気絶してしまう(ように見える)生徒に、最高の450ボルトの電気ショックを与えました』、初めのうちはなんて酷い実験なのかと憤りを感じたが、「つねにサクラが生徒役、応募してきた一般の人が先生役になるようにクジに仕掛けがしてあり、電気ショックは発生しておらず、あらかじめ録音してあった演技がインターフォンから聞こえてくる仕掛けになっていたわけです」というので、一安心した。
・『これほどまでに多くの人が実験を最後まで継続してしまったのはなぜなのか。1つ考えられる仮説としては「自分は単なる命令執行者にすぎない」と、命令を下す白衣の実験担当者に責任を転嫁しているから、と考えることができます。 「自らが権限を有し、自分の意思で手を下している感覚」の強度は、非人道的な行動への関わりにおいて決定的な影響を与えるのではないか。ミルグラムは仮説を明らかにするため、先生役を2人にして、1人にはボタンを押す係を、もう1人には回答の正誤の判断と電圧の数字を読み上げるという役割を与える実験を行いました。このうち、ボタンを押す係はサクラなので、本当の被験者の役割は「回答の正誤を判断し、与える電気ショックの電圧の数字を読み上げる」ことだけとなり、つまり実験への関わりとしては、最初のものよりもより消極的となります。果たせるかな、最高の450ボルトまで実験を継続した被験者は、40人中37人、つまり93%となり、ミルグラムの仮説は検証されました。 ミルグラムによる「アイヒマン実験」の結果はさまざまな示唆を私たちに与えてくれます。 1つは官僚制の問題です。官僚制と聞けば、官庁などの役所で採用されている組織制度と考えがちですが、上位者の下にツリー状に人員が配置され、権限とルールによって実務が執行されるという官僚制の定義を当てはめれば、今日の会社組織のほとんどすべては官僚制によって運営されていることになります。 ミルグラムの実験では、悪事をなす主体者の責任が曖昧な状態になればなるほど、人は他者に責任を転嫁し、自制心や良心の働きは弱くなることが示唆されます。これがなぜ厄介かというと、組織が大きくなればなるほど、良心や自制心が働きにくくなるのだとすれば、組織の肥大化に伴って悪事のスケールも肥大化することになるからです』、「組織が大きくなればなるほど、良心や自制心が働きにくくなる」というのは、その通りなのだろう。
・『「これは間違っているのでは?」と最初に言える重要性  もう1点、ミルグラムによる「アイヒマン実験」はまた、私たちに希望の光も与えてくれます。権威の象徴である「白衣の実験担当者」の間で意見が食い違ったとき、100%の被験者が150ボルトという「かなり低い段階」で実験を停止しました。 この事実は、自分の良心や自制心を後押ししてくれるような意見や態度によって、ほんのちょっとでもアシストされれば、人は「権威への服従」をやめ、良心や自制心に基づいた行動をとることができる、ということを示唆しています。 人は権威に対して驚くほど脆弱だというのが、ミルグラムによる「アイヒマン実験」の結果から示唆される人間の本性ですが、権威へのちょっとした反対意見、良心や自制心を後押ししてくれるちょっとしたアシストさえあれば、人は自らの人間性に基づいた判断をすることができる、ということです。これは、システム全体が悪い方向に動いているというとき「これは間違っているのではないか」と最初に声をあげる人の存在の重要性を示しているように思います』、なるほどその通りなのだろう。
・「アイヒマン実験」については、以下のWikipediaの説明が、アイヒマンとの関わりについても解説している。これによれば、「アイヒマン裁判の過程で描き出されたアイヒマンの人間像は人格異常者などではなく、真摯に「職務」に励む一介の平凡で小心な公務員の姿だった」、「妻との結婚記念日に花束を贈るような平凡な愛情を持つ普通の市民であっても、一定の条件下では、誰でもあのような残虐行為を犯すものなのか」という疑問が提起された。この実験は、アイヒマン裁判(1961年)の翌年に、上記の疑問を検証しようと実施されたため、「アイヒマン実験」とも言う」、人間とは恐ろしい一面を持っているが、それを解き明かそうと努力する存在でもあるようだ。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%83%AB%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%A0%E5%AE%9F%E9%A8%93
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租税回避(タックスヘイブン)(その5)(追跡 パラダイスペーパー 疑惑の資産隠しを暴け、アマゾン グーグルの租税回避に対抗するG20諸国の切り札、金融株の「ブラックスワン」 マネロン200兆円の闇=大槻奈那氏) [世界情勢]

租税回避(タックスヘイブン)については、2016年5月15日に取上げた。久しぶりの今日は、(その5)(追跡 パラダイスペーパー 疑惑の資産隠しを暴け、アマゾン グーグルの租税回避に対抗するG20諸国の切り札、金融株の「ブラックスワン」 マネロン200兆円の闇=大槻奈那氏)である。なお、タイトルから「「パナマ文書」問題」は外した。

先ずは、2017年11月12日放映のNHKスペシャル「追跡 パラダイスペーパー 疑惑の資産隠しを暴け」のポイントを紹介しよう。
https://www.youtube.com/watch?v=gNGQZRc2Qv4
・『11月上旬、世界に衝撃が走った。アメリカのウィルバー・ロス商務長官による新たなロシア疑惑、F1界のスーパースター、ルイス・ハミルトンによる巨額の税逃れの疑惑。世界各国の指導者や富裕層が、不透明な資産運用や税逃れを行っている実態が浮かび上がってきたのだ。きっかけとなったのは、「パラダイスペーパー」と名付けられた文書。バミューダ諸島の法律事務所などから流出した膨大な内部資料で、去年「パナマ文書」報道を手がけたICIJ(67か国の国際調査報道ジャーナリスト連合)が新たに入手した。NHKはパラダイスペーパーを各国のメディアと共同で分析。一握りの権力者や富裕層たちが、国境をまたいで税率の低いタックスヘイブンに金を動かし、払うべき税金を逃たり巧妙に資産を隠したりする現実が見えてきた。楽園と呼ばれる島々から流出した権力者たちの不都合な真実。パラダイスペーパーを徹底追跡する』、いささか旧聞には属するが、広がりや影響の大きさなどから紹介するものである。
・『ドイツの新聞社に持ち込まれ、1340万ファイル。ICIJが1年かけ調査。ただ、マルタで取材中の女性記者が殺害。「パナマ文書」は1カ所からだが、「パラダイスペーパー」は複数の国・地域からもたらされた。バミューダ、ケイマン諸島、ジャージー、モーリシャス、セーシェル。カナダ首相の腹心、ナイキ、アップルなどの他、日本関連の名も1000超。NHK、朝日、共同が協力して調査したが、取材に応じる者は殆どおらず。鳩山由紀夫はバミューダに登記された香港拠点のエネルギー会社の名誉会長。経営や事業に係ってないと結び付きを否定。元総務副大臣の内藤正光は、在職中にタックスヘイブンで運用されている金融商品10万€を購入。届出は失念していたとのこと』、「取材中の女性記者が殺害」とは酷い話だ。1000超ある日本関連の名も、記者たちが調査しても大きな成果は出てこなかったようだ。
・『アメリカのウィルバー・ロス商務長官はタックスヘイブンを通じロシアと不適切な関係をもった疑惑。所有し会長をしていた海運会社ナビゲータ-が、ロシアのエネルギー会社シブール(プーチンの義理の息子や友人がオーナー)が経済制裁で取引禁止にも拘らず、取引。ロス氏は長官就任で関係する会社の株の殆どを売却、会長を辞め、利益相反はないと証言。しかし、手元に残した2つのペーパーカンパニーが多段階の投資を通じ、最終的にナビゲータ-を保有。同社はシブールと77億円を受取り、その一部は長官に流れた。トランプのロシア疑惑解明の大きなカギに』、ロス氏は長官を続けていることからすると、疑惑は闇のままなのだろうか。
・『ある島の疑惑  マン島を使った税逃れに関して詳細に書かれたメール。ロシアでも多くの人がマン島のジェット機を保有。ガーナ大統領の兄弟がマン島に設立された会社の大株主に。ドイツでカジノ経営もしている大富豪、バウル・ガウセルマンの年売上3200億円、マン島のペーパーカンパニーを隠れ蓑に違法な賭博ビジネス。オンライン賭博のシステムを作り、ドイツ向けサイトを開設。ライセンスを持っておらず違法。マン島では金融業が発展、人口8万人、失業率0.8%。ジェット機リース会社が急増したが、駐機場には僅か1機。代行業者を通してリース会社名義にすれば、20%のVATかからず。F1レーサーのルイス・ハミルトンは昨年52億円を稼ぎ、ジェット機リース会社を作っていたが、自分で使っていた。ICIJの追求で、マン島政府は異例の釈明会見』、英国領のマン島は租税回避で有名だが、プライベート・ジェット機のリースは同島の活動のうちごく一部に過ぎない。「駐機場には僅か1機」というのは、リースされて世界中の空港に駐機しているのだろう。
・『西田信義事件  メガバンクから6億円を騙し取った詐欺事件で逮捕。マン島にジェット機や大型クルーザーのリース会社を設立。その後の調べで、メガバンクからの融資で負債総額は107億円。銀行はジェット機に招待飛行を受け、騙された。西田曰く、「ビジネスで成功している人には、どこからか必ず声がかかるようになっている。一旦、声がかかって火が付くと、カネをどんどん増やしてくれる。そういう世界がある。何もしなくてもカネが入る。そういう仕組みがある。1つの国が叩かれても、別の貧しい国がまた始める。儲かっている人がいる限り、タックスヘイブンは永久になくならない」』、「一旦、声がかかって火が付くと、カネをどんどん増やしてくれる。そういう世界がある。何もしなくてもカネが入る。そういう仕組みがある」というのはうらやましいと同時に、腹立たしい限りだ。
・『アメリカのウィルバー・ロス商務長官の疑惑  ICIJが調べた上で、11/6に世界中で報道。本人は違法なことはしていない。2社の株式は手放すと釈明。ICIJ記者「明らかになったのは、タックスヘイブンの闇のほんの一部に過ぎない」。 世界にはまだ税逃れを手助けする業者が無数にある。タックスヘイブンを使った税逃れや資産隠しは長い間、闇に包まれていた秘密の仕組み。今も世界経済全体に大きな影響を与え続けている。僅か1%の人が世界中の富の50%を保有。タックスヘイブンはその事実を覆い隠す巨大な装置。闇は底知れない』、こうした活動には、監査法人なども大きな収入源としてかかわっているだけに、「闇は底知れない」というのは言い得て妙だ。

次に、財務省出身で中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員の森信茂樹氏が昨年3月21日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「アマゾン、グーグルの租税回避に対抗するG20諸国の切り札」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/164189
・『4月にアルゼンチンで開催されるG20(主要20ヵ国・地域)財務相・中央銀行総裁会議で、今後の世界の税制の方向を左右する重要な報告書「電子経済に関する中間報告」が提出される。 国境を超えてビジネスを展開するアマゾン・ドット・コム(Amazon.com)やグーグル(Google)に代表される米国IT企業に対する課税強化の方向性が出される見通しだ。どの国も財政赤字に悩む中、放置しておけない最大問題の一つに、G20が本格的に取り組むスタートになる』、中間報告については、比較的地味な問題だったこともあり、マスコミでは余り取上げられなかったようだ。
・『米IT企業の租税回避に先進国、新興国が対抗  加速する経済のグローバル化、デジタル化に税制がどのようについていくのか。中でも、アマゾンやグーグルが、国境を超えてビジネスをする相手国、つまり消費者のいる国(以下、消費国)では法人税を払っていないという問題に、欧州や日本、さらには中国やインドのような新興国がどう対応するかは、喫緊の課題だ。 中間報告は、国際的租税回避を防止するOECDのBEPS(税源侵食及び利益移転)プロジェクトの議論の延長としてまとめられ、その後さらなる議論を経て2020年に最終報告書が作成される予定だ。 ついこの間までの国際課税の議論は、多国籍企業の本拠地である居住地国である先進諸国と、彼らが実際にビジネスをして利益を上げる源泉地国である中国やインドといった新興国や途上国との間で、税源をどう配分するかの問題だった。 しかしデジタル経済が進んだ現在の構図は、米国IT企業と米国政府、さらには米国以外の先進国・新興国(サービス消費国)にとっても、看過できない問題になったのだ』、電子商取引がこれだけ普及したなかでは、これは極めて重要な問題だ。
・『EU主導で新たな課税模索 ビッグデータ、法人課税の根拠に  デジタル経済化が進む中、税制で最も深刻な影響を受けているのはEU諸国だ。 例えば、オーストリアの消費者がアマゾンを通じて商品を購入する場合を考えてみよう。 彼がインターネットを通じてアマゾンに注文すると、それはルクセンブルクのアマゾン販売子会社との購買契約になる。商品はドイツの配送センターから配達を受ける。 このケースでは、倉庫(配送センター)が、法人税を課す根拠であるPE(恒久的施設)になり得るという変更が行われたとしても、倉庫のないオーストラリアには全く課税権は生じない。EUには、アマゾンの倉庫すら存在しない消費国が数多くある。それらの国にとっては、倉庫をPEとするという新たな決定がなされても、法人税を課すことはできないのである。 そこでEUでは、OECD・BEPSプロジェクトの中間報告がまとめられる前に、EUで何らかの方向性を合意し、OECDの議論をリードしようとしてきた。 PEの概念を見直して、物理的施設がなくても、「significant digital presence」があれば、PEとみなして法人課税の根拠とすることの検討が始まっている。 これは、集積された顧客の個人データ(ビッグデータ)」と定義されており、グーグルなどのサービスの消費国も、定期的に消費者のデータを集めていれば、課税権が発生するという考え方だ。 さらに、こうした「根本的な解決策(Comprehensive approach)」が合意されるには時間がかかると考えられることから、「短期的解決策(“quick fixes”)」として、online advertisement tax(広告活動に課税する広告税)、withholding tax(支払い段階で課税する源泉税)、 equalization levy(売り上げに課税する平衡税)などが検討されている(2017年9月のEU財務相会合(ECOFIN)非公式会合による)。 EUが議論を急ぐもう一つの背景には、英国の動向がある。 英国は、BEPS報告書(第1次)の公表された2015年に先立って、アマゾンやグーグルの租税回避への牽制になる「利益迂回税(diverted profits tax)」という独自の税制を導入した。 このような独自課税の動きはEU域内でも広がりつつある。各国の対応がバラバラでは、今後のG20での議論でのEUの交渉力を弱めることになりかねない。 そこでEUは、グローバルな合意を得るためにはまず自分たちの共通ポジションの確立を目指し、「電子経済に関する中間報告」に影響を与えようと議論を急いでいる』、細部はなかなか難しい問題だが、EUには頑張って欲しい。
・『微妙な米国の立場 自国企業の競争力維持の思惑  これに対して、米国政府の姿勢は微妙なものになっている。 米国は、OECD・BEPSプロジェクトの議論には加わりながらも、その勧告を実施するためのBEPS防止措置実施条約(MLI)には参加しないという矛盾した対応をとってきた。 これに拍車をかけるのが、トランプ政権の「アメリカファースト」だ。 税制当局として米国の税収の脱漏となる租税回避を防ぎたいという意向と、一方で米国経済成長の原動力であるIT企業の競争力を損なうようなことはしたくないという思惑のはざまに揺れ続けているわけだ。 巨大IT企業への新たな課税の動きは、今後、世界の税制にどのような影響を与えるのであろうか』、アメリカが国際的協定に参加しなくても、EUなどの各国はそれぞれ独自に課税出来るのではなかろうか。
・『世界の税制が変わる可能性 無形資産への課税に進む  物理的拠点を要しない電子経済の下では、これまでのPE概念に代わり、何らかの課税根拠が必要となる。一方で、IT企業の価値を形成するのは、特許権や著作権、さらにはビジネスモデルといった無形資産だが、それは「集積された顧客の個人データ(ビッグデータ)」、つまりSignificant Digital Presenceの下に成り立っているといえる。 ではそこにどのように課税するのか。税の原則は公平・効率(中立)・簡素なので、その原則に沿って考える必要がある。 私見を述べてみたい。 まず、ビッグデータや無形資産に課税するということは、資産税、あるいはそこから上がる資産性所得(この場合ロイヤルティー)への課税ということになる。 その場合、「資産の価値」をどう評価するかということが最大の関門になる。 これについては、OECDでこれまでもいろいろ議論されており、難しい問題であるが、何らかの糸口が見つかりつつある。 別の方法としては、消費課税の考え方で対応すべきというものがある。 VAT・消費税の考え方は仕向け地主義、つまりモノやサービスの消費地で課税するという考え方だ。 つまり電子経済の下で国境を越えるビジネスは、生産要素を活用する場所で課税する法人所得税ではなく、消費者のいる場所で課税する消費課税にしてはどうかという考え方だ。 その場合、消費に変えて売り上げを課税ベースにするという考え方もある。 日本は2015年に、国境を超えて音楽・広告や電子書籍などの役務(サービス)を提供する外国事業者に対し、消費税の課税義務を課したが、それを拡張する考え方である。 いずれにしても、消費国(源泉国)でビジネスを行い、巨額の利益を上げながら、その収益は低税率国・タックスヘイブンに帰属させるという「価値創造地と納税地の乖離」という問題の解決には、無形資産やビッグデータを課税対象にするなど、従来とは違う発想の転換が必要になるだろう。 本コラム第147回「グーグルやアマゾンへの課税で社会保障や教育財源確保を」・・・で指摘したように、この問題は日本にとっても重要な課題であることを認識する必要がある』、グーグルやアマゾンなどGAFAに対しては、独禁法上の問題も出てきており、しばし逆風が吹くのかも知れない。

第三に、 マネックス証券執行役員チーフ・アナリストの大槻奈那氏が12月27日付けロイターに寄稿した「コラム「金融株の「ブラックスワン」、マネロン200兆円の闇=大槻奈那氏」を紹介しよう。
https://jp.reuters.com/article/column-forexforum-nana-otsuki-idJPKCN1OP08T
・『クリスマス直前の21日、ドイツ銀行の株価が過去最安値をつけた。同銀の株価純資産倍率は0.23倍と、清算価値を大幅に割り込んでいる。世界的な株安と連動した面もあるが、もう1つの要因は資金洗浄(マネーロンダリング)の摘発である。  11月末、ドイツ銀行に総勢170人もの警察官や検察官、税務調査官らが家宅捜索に入った。著名人や政治家の税逃れの実態を明らかにした「パナマ文書」絡みのマネロン事件への関与した疑いがあるという。次いで米投資銀ゴールドマン・サックスも、マレーシアの政府系投資会社1マレーシア・デベロップメント(1MDB)事件への汚職・資金洗浄疑惑捜査に関連した証券関連法違反の疑いで刑事訴追された。いずれも、株価が急落した。 今年は、こうした世界のトップ金融機関を巻き込んだマネロン疑惑が連発している。9月には、デンマーク最大手銀ダンスケ銀行のマネロン疑惑が連日報じられた。同行のエストニア支店などを通じた、過去8年間で最大2000億ユーロ(約25兆円)に上るマネロン疑惑が浮上している。 過去最大のマネロン事件は、1991年に倒産した英国のBCCI(国際商業信用銀行)で、洗浄総額は200億ドルとされていたが、この疑惑が事実だとすればこれを上回る史上最大規模となる。 国連などの試算によると、世界で洗浄されている資金は、世界国内総生産(GDP)の2─5%、つまり年間200兆円規模に上る。資金の流れを断つことができれば、多くの犯罪を防止できる。「防波堤」としての金融機関の役割は大きいはずだが、うまく機能していないのが現実だ』、ドイツ銀行の株価は下記リンクの通り年明け後も低迷を続けているようだ。
https://www.db.com/ir/en/share-price-information.htm
・『対策の遅れが目立つ邦銀、来年が試金石  日本はどうだろうか。「疑わしい取引」の報告件数は年間40万件、実際に摘発された事例も350件と、過去10年で倍増した。しかしいずれも規模が小さく、金融機関の関与はまれだ。とはいえ、邦銀ではマネロン対策が進んでいる、と素直に受け取ることは難しい。むしろ、日本におけるマネロン対策に対する世界的な評価は極めて低い。 「マネロン天国」などという汚名を着せられこともある日本は、国際的な資金洗浄対策を目的に設立された金融活動作業部会(FATF)から不備を指摘され続けている。 08年10月に示された第3次対日審査では、取引相手の法人を誰が実質的に支配しているかを十分確認できていないなど49項目中25項目が要改善という厳しい内容となった。さらに、14年に開かれたFATFの定期会合では、異例の名指しで日本の対策不備が指摘された。 そんな折、来年にはFATF第4次審査団が来日する。これま-での法整備が、各銀行で実際どの程度有効に運用されているか審査される予定だ。邦銀もようやく本気を出して、IT化や現金による海外送金の取り止めなど、さまざまな施策を打ち始めている。 それでも、欧米に比べると日本の遅れが目立つのはなぜだろうか。1つには、どうしてもテロが遠い国の出来事に感じられることが挙げられる。テロ対策によって手続きの不便さを強いられることに、なかなか国民の納得が得にくい。 もう1つは、現金社会という点も挙げられる。実際、送金も多額の現金を経由する例が少なくない。顧客サービスを優先するあまり、1日の送金上限額なども高めだ。欧米のATMでは100万円を超える現金引き出しなどあり得ない。「振り込め詐欺」の被害金額が1回平均で300万円以上と、米国の類似詐欺「グランドペアレント・スキャム(祖父母詐欺)」より桁違いに大きいのも、こうした現金取り扱いを巡る違いのせいだ。 さらに厄介なのは、言語の違いだ。日本では、外国人も口座をカタカナ表記で作成できる。アルファベットが正式名称であれば、いわゆる「仮名」口座の作成は簡単だ。世界の「ブラックリスト」に掲載されている名前は当然アルファベット表記であるため、二重三重にチェックをしても、他国に比べて検知するための難易度が高い。 政府方針では今後、外国人労働者受け入れ促進のため、彼らの銀行口座開設を容易にするという。チェックの手間は格段に増え、その分、抜け道も増える可能性がある』、三菱UFJ銀行も、米国でのマネロン問題で36億円の課徴金を米当局に支払わされ、昨年には北朝鮮関連でもマネロン疑惑が発覚した。本年FATAの審査があるとは、各行とも準備に追われているのだろう。
・『金融株の「ブラックスワン」  もし日本が来年のFATF審査にパスしなければどうなるだろうか。FATFに法的制約はないが、各国のマネロン対策が厳しくなる中で、外銀が邦銀経由の送金を受けにくくなる可能性がある。受け入れを制限する外銀が出てくるリスクも否定できない。また、マネロン対策が甘い国だと改めて認定されてしまうことで、犯罪組織に狙われる可能性もある。 FATFが設立された30年前の報告書では、世界のマネロン金額は850億ドルと推定されていた。この数字が正しければ、FATFが設立されて以降、マネロンは根絶されるどころか、20倍に膨張したことになる。名誉回復のため、FATFも各国当局も一層対応を厳しくする可能性がある。 市場が予想することが難しいイベントだけに、マネロン事案での摘発は株価への影響が大きく、意外な「ブラックスワン(想定外の出来事)」となる可能性も否定できない。それでなくても株価の動揺が著しい銀行業界だが、マネロンリスクは、もう1つの懸念材料となりそうだ』、日本が今年のFATA審査にパスするよう祈るばかりだ。
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メディア(その10)(朝日の実売はついに400万部割れ?決算書で分かる新聞「財務格差」、新型ステマがルールの盲点突く手口 奴隷化するウェブメディア、速報も広告もやらない「新メディア」のジャーナリズム哲学を読み解く ニュースの「信頼」を取り戻すために) [メディア]

メディアについては、これまでは「マスコミ」として、昨年10月23日にも取上げた。今日は、(その10)(朝日の実売はついに400万部割れ?決算書で分かる新聞「財務格差」、新型ステマがルールの盲点突く手口 奴隷化するウェブメディア、速報も広告もやらない「新メディア」のジャーナリズム哲学を読み解く ニュースの「信頼」を取り戻すために)である。

先ずは、昨年10月25日付けダイヤモンド・オンライン「朝日の実売はついに400万部割れ?決算書で分かる新聞「財務格差」」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/183343
・『テクノロジーの進化でさらなる激変期に突入したメディア業界。これから数年で業界の序列は大きく変わるでしょう。勝ち残るのはどこなのか。連載を通じてメディアの近未来を模索していきます。第13回は『週刊ダイヤモンド』10月27日号の特集「メディアの新序列」のスピンオフとして、凋落が続く新聞業界の実情に迫りました。大手新聞社の現役およびOB役員から成る有志集団「プロジェクトP」の協力を得て、最新の実売部数を試算したところ衝撃の数字が出てきました。 今年9月、米老舗ニュース雑誌の「タイム」が1.9億ドル(約210億円)で買収された。金の出し手は顧客情報管理で最大手の米セールスフォース・ドットコムの創業者兼CEOのマーク・ベニオフ夫妻。超の付く富裕層だ。超富裕層によるメディア買収といえば、米紙「ワシントン・ポスト」を買った米アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏が有名だが、それ以外にも複数いる。 例えば、米老舗評論誌「ジ・アトランティック」の経営権を握ったのは、米アップル創業者の故スティーブ・ジョブズ氏から遺産を相続したローリーン夫人だ。 超富裕層によるメディア買収が増加する背景には、当然、メディアを取り巻く厳しい状況がある。米ノースカロライナ大学チャペルヒル校の研究チームの調査によると、2004年から16年までの間に、米国の新聞社の3分の1以上で所有者が変わったという。 インターネットの台頭で広告収入が激減し、経営に行き詰まったメディアが次々と投資ファンドなどに安く買いたたかれていったのだ。新聞など伝統的なメディアはジャーナリズムにはこだわるものの、マネタイズは不得手で経営の効率化も不十分なケースが少なくない。 テクノロジーの導入によって劇的に経営が改善する可能性を秘めている点で、テック企業創業者に買われるケースは幸せかもしれない。実際、ワシントン・ポストは自社開発のAI(人工知能)で記事の自動執筆を進めるなど、大きな成果が出ている』、欧米でのメディア買収劇は、これ以前からも活発だった。
・『最新の推定実売部数を試算  翻って日本の伝統メディアはどうか。決算数字から見ていこう。 下図は、朝日新聞社、読売新聞グループ(基幹6社の合計)、毎日新聞グループホールディングス、産経新聞社の連結売上高と営業利益の推移を示したグラフだ(日本経済新聞社については後述するが、この4社とは事情が異なるため除外した)。4社の売上高は6年で15.8%減少、金額にすると2000億円超も減った計算だ。 加速する部数の減少が新聞社の経営を直撃している。02年下期に1000万部を超えていた読売の部数は851万部まで減り、朝日に至っては600万部を割り込み、02年下期から230万部も急減している。 日本の新聞社の場合、さらに大きな問題がのしかかってくる。「押し紙」だ。押し紙とは、部数をかさ上げして広告単価を引き上げたい新聞社が販売店に押し付ける「在庫」のことで、配達されることのない部数を指す。 大手新聞社の現役およびOB役員から成る有志集団「プロジェクトP」は自らの経験や販売店への取材に基づき、朝夕刊セット部数は部数のかさ増しがほとんどない一方、朝刊単独で売られている部数には4割から5割の押し紙が含まれていると結論付けた。 プロジェクトPが策定した計算式を基に、本誌で全国紙の最新の推定実売部数を算出したところ、下図の通り衝撃的な結果となった。朝日の実売部数は400万部割れ、産経は100万部割れの可能性があるというのだ。 このままのペースで部数の減少が続けば、ビリオネアのIT創業者が全国紙のオーナーになる日も遠くないだろう』、「朝日の実売部数は400万部割れ、産経は100万部割れの可能性」というのは驚きの数字だが、新聞社もここまで追い詰められたのかと痛感させられた。日本の新聞社の場合は、非上場で社員持ち株会やオーナーらが大株主になっている。傘下のテレビ会社は上場している「ねじれ」状態にあり、ここを突いたが最終的には失敗したのが、堀江 貴文氏によるフジTV買収騒動だった。
・『現役役員が描く3つの再編案  最も厳しいのが産経だ。朝日の自己資本比率が59.8%、利益剰余金が3198億円に達するのに対し、産経のそれは20.0%、132億円にすぎない。保有していた資産の切り売りでしのいできたが、それも尽きた。 プロジェクトPのメンバーの一人は「産経か同じく財務が厳しい毎日が再編の引き金を引く可能性が極めて高い」と予測する。プロジェクトPは業界再編の在り方も提案している。具体的には以下の3案だ。
(1)産経と毎日が「MSグループホールディングス」を結成(他紙の再編受け皿としても機能) (2)共同通信加盟社を束ねた持ち株会社の設立(中心はオーナー家が社長になった中日新聞社) (3)読売以外の全国紙が地方取材の新組織を立ち上げ(取材効率の向上と地方紙の対抗軸をつくる) あくまでも提案であり、具体的に動いているわけではないが、いずれにしても全国紙の「財務格差」を見る限り、全国紙5社体制は間もなく終わりを告げるだろう』、産経は切り売りする資産も尽きたとあっては、いよいよ再編劇が始まるのかも知れない。

次に、10月26日付けダイヤモンド・オンライン「新型ステマがルールの盲点突く手口、奴隷化するウェブメディア」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/183404
・『テクノロジーの進化でさらなる激変期に突入したメディア業界の最前線を追う本連載。第14回は、『週刊ダイヤモンド』10月27日号の特集「メディアの新序列」で掲載した、新たな手法で広がるステルス・マーケティング(ステマ)によって、企業に奴隷化されるウェブメディアが出始めていることをレポートした記事を、ダイヤモンド・オンラインで特別公開します』、面白そうだ。
・『ルールの盲点をつき生き残る新型ステマ  3年前の「事件」を機に撲滅されたと思われていたステルスマーケティング(ステマ)だが、今も形を変えて横行していることが本誌の取材で明らかになった。 ステマとは、企業から料金が支払われて作成される記事広告であるにもかかわらず、本来行うべき「広告」などの表示をせずに純粋な記事であると偽装し、読者を欺くマーケティング手法を指す。 企業は広告料金よりも安い割に高い効果が見込め、仲介する広告代理店やPR会社は効果の高いサービスとして売り出すことができ、ウェブメディアは売り上げが立つ。読者を欺くこと以外はいいことずくめで、長らくウェブメディアに巣くってきたあしき慣習だった。 それを問題視したのがヤフーだった。2015年7月、ニュースの提供契約を結ぶ報道機関がステマ記事を配信した場合、契約解除も含めた対応を取ると発表したのだ。 これで業界内にはステマ排除の流れが一気に生まれた。業界団体の日本インタラクティブ広告協会が策定した「インターネット広告倫理綱領および掲載基準ガイドライン」に、「広告であることの明示」が含まれているという認知も広がった。 だが、うまみのあるグレーな手法であればあるほど、規制されたときにルールの盲点を突くように進化し生き残っていくのは世の常。ステマも例外ではなく、ガイドラインで定めた規制の手薄なところを狙う新たな手法で生き残った。 新旧のステマ手法を比較した二つの図を見比べてほしい。 旧ステマで演出を担ったのは、一部の広告代理店やPR会社だった。一方、新ステマを“演出”するのは、インフルエンサーだ。SNSのインスタグラムなどで、数十万人規模のフォロワーを抱え、トレンドに影響を与えることからそう呼ばれる。 マーケティング会社の幹部は、「この構図はヤフーの事件以降、2段階にわたって“潜った”結果だ」と明かす。 実は事件後すぐに、ステマ演出者は広告代理店とPR会社から、フリージャーナリストやフリーライターに代わったという。代理店を通した旧ステマがやりにくくなった企業は直接、フリーのジャーナリストやライターに金を渡し、編集記事に偽装した広告記事を書くことを求めた。だがステマの片棒を担がされることに気付いたジャーナリストやライターがいたことで、この手法は消滅。そこで企業側はもう1段階“潜り”、行き着いたのがインフルエンサーだったというわけだ』、「ステマ」を最初に問題視したヤフーはさすがだが、こうしたモグリの動きはやはり出てきてしまうのだろう。
・『インフルエンサーという個人が絡むことで巧妙化  今年9月、実際にインフルエンサーを使った新ステマの疑いが強いとして、世界的に有名な米ソフトウエア企業が話題になった。その企業が米国本社で新商品を発表。その発表会へインフルエンサーが数人、招待されていた。新商品の提供や旅費が企業負担であることはもちろん、この企業の場合「40万~50万円の報酬が支払われるケースが多い」(事情をよく知るフリージャーナリスト)。便益を受けていることは明らかだった。 そのインフルエンサーは早速、インスタグラムでその企業を礼賛する投稿を始めた。ここまではそのインフルエンサーと企業でのステマ問題にとどまっていたが、新興デジタルメディアがそのインフルエンサーの投稿を編集記事として取り上げたことから、大規模なステマに発展した。 インフルエンサーの多くは広告や口コミマーケティングのガイドラインなど知らない一般人だ。そもそも広告ガイドラインは、広告を出稿する企業や広告代理店、それを掲載するウェブメディアを対象としている。 インフルエンサーが順守すべきは口コミマーケティングの業界団体であるWOMマーケティング協議会が定めた「WOMJガイドライン」。ここには「関係性の明示」の項目があり、「便益の明示:金銭・物品・サービスなどの提供があることの明示」をしなければならないと明記されているが、このガイドライン自体、業界内でも知名度が低い。 先のインフルエンサーも明示はしていなかった。編集記事として取り上げたウェブメディアは、本来ならインフルエンサーが企業から便益を受けているかどうか確認すべきだった。 業界団体関係者は「インフルエンサーを使ったマーケティングは、両団体のガイドラインで完全に規制し切れない課題として認識している」と打ち明ける。個人であるインフルエンサーが絡むことで、新ステマは巧妙化されているのだ』、こんな状態を放置すれば、長期的にはネット記事に対する信頼性を損ない、ネット業界全体にとってもマイナスの効果を及ぼすだろう。
・『処方箋は「広告モデル」からの脱却  新ステマが横行する要因はもう一つあり、それはウェブメディアのビジネスモデルの脆弱さだ。 前述した実際のケースのように、ウェブメディアはインフルエンサーの投稿を記事として取り上げずに、自ら取材して記事を書けばいいはずだ。しかし、収益を広告に依存するウェブメディアは、低コストで記事を量産し、少しでも多くのページビュー(PV)を稼ぎ、広告収入を増やすことが求められる。「スピード重視で、記事1本にコストは掛けられない」(元ウェブメディア記者)。だから、手っ取り早くインフルエンサーの投稿内容でも記事にしてしまう負の連鎖。 企業から直接、インフルエンサーの投稿内容を記事にしたらどうかと提案されることもあるという。ウェブメディアからすれば、その企業が自社に広告を出稿する広告クライアントであれば、その提案を受けざるを得ない。 インフルエンサーがその企業から金をもらっているかどうかは、このときに確認すべきだが、先の実例のように便益を受けていることを明示していなければ、ウェブメディアは知る由もない。仮に知ったとしても、広告クライアントという強い立場からの提案を断るのは難しい。結果、ウェブメディアは企業側の“奴隷”に成り下がってしまうのだ。 ステマはその費用対効果の高さ故に、これからも少しずつ形を変えて残っていくだろう。メディアにとって処方箋は、企業に対する抵抗力を持つこと、すなわち広告に過度に依存しないビジネスモデルを確立することだ。できなければ、業界序列の最下層に落ちることになるだろう』、この「処方箋」は余りにキレイ事すぎて現実味に乏しい。その意味では、これは解決策が見出し難い難問のようだ。

第三に、清涼剤として、武蔵大学社会学部教授/ジョージワシントン大学客員研究員の奥村 信幸氏が1月4日付け現代ビジネスに寄稿した「速報も広告もやらない「新メディア」のジャーナリズム哲学を読み解く ニュースの「信頼」を取り戻すために」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/59153
・『新メディア「コレスポンデント」とは何か?  アメリカで2019年の初夏、新しいメディアが生まれることになりそうだ。正しくは2013年にオランダでスタートした新しいニュースメディアの英語版がスタートする。ジャーナリズム関係者の間では早くから注目されていたメディア「De Correspondent」が、「The Correspondent」という英語でのサービスを、ニューヨークを拠点にして始める計画だ。 コレスポンデントという言葉は「特派員」と訳されることが多いが、むしろいろいろな現場に派遣される記者/リポーターと言ったほうが適当であろう。オランダ語圏に限定されたニュースサービスだったにもかかわらず、彼らが世界的な注目を集めたのは、以下のようなジャーナリズムについての考え方や経営理念が高い評価を得たためであった。
 +ニュース速報競争と距離をおき、代わりに原因の分析や解説を重視したニュースをつくる。
 +ユーザーとソーシャルメディアなどで対話しながら、ニュースの切り口や取材先を柔軟に決めていく。
 +広告を取らず、ユーザーの購読料だけでメディアを運営する。
そして、この考え方に賛同する支援者をクラウドファンディングで募り、8日間で1万9000人近くの寄付を集めている。 英語圏でのメディア開設計画でも、彼らは当初資金をクラウドファンディングで集めると宣言し、2018年11月14日から1カ月で250万ドルという目標を掲げ、締め切り33時間前に何とか目標を達成した。 支援を申し出た人は目標達成時で4万2780人、ニュースサービスに対するクラウドファンディングの人数としては、オランダで成功した時の記録を更新し世界最大規模になった。この原稿を書いている12月末現在、支援者はさらに増え、4万6000人を超えている。 コレスポンデントのホームページには「最新じゃないニュース(Unbreaking News)」というコピーが掲げられている。この反対語である「Breaking News(ブレーキングニュース)」とは「ただいま入ったばかりのニュースです」と伝えられる、いわゆる「飛び込みのニュース」である。「24/7」とも言われる、24時間、1週間休みなしのサイクルで動く現代のニュースの世界では、最も価値があるものとされている。 だが、コレスポンデントは、この「常識」に真っ向から異議を唱える』、なかなか画期的で興味深い動きだが、クラウドファンディングでの支援者は4万6000人、とは拍子抜けするほど小規模だ。
・『「理想のジャーナリズム」に正面から挑む  アメリカで開設が予定されているコレスポンデントでも、オランダで中心的な役割を果たしてきたエルンスト・ファウスとロブ・ワインバーグが、それぞれCEOと編集責任者(Founding Editor)を務める。 コレスポンデントがこれまで注目されてきたのは、その純粋で愚直ともいえるニュースづくりの姿勢のためである。日本を含め、世界中のほとんどの国で、ニュースを伝えているメディアが「理想ではあるが実現は難しい」とあきらめていたことに、敢えて挑戦したからだ。 しかし、オランダ語だったこともあって、彼らの考え方が詳しく分析されてきたとは言い難い。筆者も2017年10月に、アメリカ・ワシントンDCで開かれたONA(オンライン・ニュース・アソシエーション)という世界最大のデジタルジャーナリズム団体の年次総会のセッションで、ワインバーグのプレゼンを聞いたが、時間も限られていて消化不良であった。 アメリカでのクラウドファンディング・キャンペーンを行うにあたり、ファウスとワインバーグ、それに市民ジャーナリズムの権威で、既存のメディアの報道姿勢を鋭く批判してきたニューヨーク大学教授のジェイ・ローゼンの3人は、かなりの分量にのぼる「能書き」を公開し、トークショーに出演するなどPRを行ってきた。 彼らがMedium(カナダ発のブログプラットフォーム)に英語で公開したものを中心にエッセンスを抽出し、考え方を整理してみたい。彼らの議論は、単にニュースを送り届ける「理念」だけでなく、How=それをどのような手続きで行うのかという段階にまで、一歩踏み込んだものになっている。 コレスポンデントの試みに対しては、「一定の規模のメディアを維持するには、広告など何らかのスポンサーに依存しないとサステナブルな経営は期待できない」など、冷ややかな見方もある。また、彼らのコンテンツは「ニュースでなく、評論ではないか」という批判もある。 しかし、コレスポンデントの主張は、ディスインフォメーションやミスインフォメーションの嵐の中で信用が揺らいでいる現代のニュースメディアの弱点を鋭く言い当てていたり、それらのメディアが避けてきたジャーナリズム本来の役割をいかに回復するかのヒントについて議論したりしていて、傾聴に値するものだと思う。次頁から具体的に見てゆこう』、コレスポンデントは広告には依存せずに、読者から料金を会費(後述)として取るようだが、法外に高いものにないのだろうか。
・『「天気」ではなく「気候」こそニュースだ  【ニュースは、もっぱらセンセーショナルで、珍しくて、否定的で、最新の出来事についてのみ伝えるものになってしまった。そして、この5つの言葉が、今のニュースが抱える問題を的確に言い当てている】 ワインバーグはコレスポンデントを立ち上げた際の問題意識について、このように表現している。 学生時代に哲学を学んでいたワインバーグは、2006年に24歳で初めて新聞記者になった時のことを回想し、「周りの記者が取材している内容を見て、ニュースというものの変質に危機感を持った」という。 多くの読者を獲得しようとしてセンセーショナルな度合いを深めるほど、ニュースは視覚に訴え、ショックを与えることを目指し、誰もが何かひとこと言いたくなるような題材ばかり選ぶようになる。「かくして、テロリストの攻撃はニュースになるが、どこかの領土が占領状態であることはニュースとして取り上げられない」。「バスの爆発に比べ、人権抑圧は『画になりにくい』」からだ。 しかし、そのようなニュース選びの基準では見逃してしまう「致命的な問題」があるとワインバーグは指摘する。 例えば、「2008年の金融危機はなぜ、リーマンブラザーズが倒産に直面するまでニュースにならなかったのか」と彼は問いかける。ウォールストリートの金融機関が抱えるリスクは、その何年も前から少しずつ蓄積していたはずなのに、リーマンの経営危機という目を引く事件が起きるまで、メディアは何も伝えられなかった。しかし本当は、その間に深刻化していた問題こそ、ニュースとして取り上げられるべきではなかったのか、と』、金融危機の話は「後だしジャンケン」のようなもので、コレスポンデントがあったとしても大きく取上げられはしなかったのではなかろうか」。
・『ニュースは長らく「きょう、今起きていること」に目を向けさせ、「フック(人の目をひく要素)」をそなえていなければならないとされてきた。だがワインバーグは、この「常識」が、過去から未来へと続く「長期間にわたる物事の変化」へ、人々の目を向けにくくさせているというのだ。 この言葉が象徴的だ。「夜のニュースは『天気(weather)』で終わるが、なぜ『気候(climate)』の話はしないのだろうか?」』、気候は概ね一定しているので、誰も関心を持って読まないのではないか。
・『ニュース中毒の「解毒剤」をつくる  【事件が起きると飛びつき、われ先にと伝えるニュースのままでは、「きょう起きたことは伝えてくれても、毎日起き続けている重要な問題を伝えてくれることはない】 また、このような速報偏重のニュースは「フェイクニュースよりたちが悪い」ともワインバーグは言う。フェイクニュースは「間違った情報」だが、現在私たちにもたらされているニュースのほうがむしろ、「私たちの今後の可能性に対する評価や、歴史認識や、進歩や、何が適切かという考え方を少しずつ変化させて、根本的にミスリードしてしまう」。つまり、「読者・視聴者が知らない間に、間違った考え方を少しずつ植え付けていく」ことになると警告する。 私たちはもはや、「過剰なニュース摂取」を通り越して、「ニュース中毒」になっている。大量のニュースに冒されると、必要以上に他者を恐れ、未来に懐疑的になり、現状を改善しようとする人の努力をあざ笑うような態度をとるようになってしまう。要するに、「今のニュースは、私たちを幸せにしていない」のだ。 コレスポンデントが打ち出したのは、「ニュースの解毒剤(antidote)」というコンセプトだ。ニュースを再定義し、2つの大きな考え方の「変革」を提案するのである。 ひとつは、「センセーショナル=扇情的な報道(sensational)」から「ファウンデーショナル=社会の根幹を見つめる報道(foundational)」への転換だ。表面的な事象だけを強調した「センセーショナル」な事件の伝え方を止めて、事件や事象が起きた「根本的な」原因を分析し、その背景となった社会の「基盤」に根ざす問題を明らかにするという意味だろう。 ふたつめは、「ごく最近のこと(recent)」ではなく、「いろいろな物事を関連付けた(relevant)」報道をするべきだという考え方だ。 これらの2つの変革を定着させるために、コレスポンデントでは、記者に「新しい習慣」を身につけてもらうという。それは、「ニュースとして報道するのに妥当かどうか、そしてタイムリーかどうかという、伝統的な判断基準を破壊する」ことだと、ワインバーグは言う。 ジャーナリストたちは、自身がニュースの過剰消費の当事者でもある。しかし、そうした彼らの価値基準がそもそも狂っているのだ。これを改めるために、コレスポンデントではニュース以外の情報源、街での立ち話、一見ジャーナリズムと関係のないような文学作品に触れるなど、記者が独自の情報ネットワークを新たに開拓することを要求する。 「ニュースをいかに早く、いかに大げさに伝えるか」ではなく、むしろ「どうすればこのニュースに、他のニュースメディアには真似できない価値を、自分たちは上乗せして伝えられるのか」を考える。コレスポンデントは、速報合戦での一番乗りや、スクープや、他のメディアに引用されるようなニュースは目指していないという。「私たちの周りで進行している物事を見極め、その構造や問題の原因を探求する過程」こそ重要だ――そう彼らは考えている』、「「ニュースの解毒剤」というコンセプト」は確かに必要なのかも知れない。
・『「客観性」という欺瞞と向き合う  では、そのような理想のニュースの題材を、どのようにして選ぶのか。 ワインバーグは、これまでジャーナリストたちが尊重してきた価値観や「フィルター」そのものを根本的に問い直すべきだと主張する。「公正さ」や「偏らない議論」といった、ジャーナリズムの「常套句」が無意識のうちに依拠している「客観的であること」についての再定義が必要だと。 ジャーナリズムが情報の伝達ではなく、権力を監視するという社会的な使命を帯びているとすれば、事実を正確に伝えるために「客観的であること」は必須の条件である――それが現在、誰もが疑わない理解だ。しかし注意深く見てみると、ここ数十年の間に、その意味が微妙に歪んでしまったというのだ。 それは政治報道で多用される「党派性を帯びない(non-partisan)」と言われる伝え方の技術のせいだという。 【ジャーナリストたちは、独立や信頼性、真実を語る能力とは、ニュースを伝える際に自らの政治的な立ち位置を設けないことだと勘違いするようになってしまった】 「事実のみを伝える」とか「事実と意見を分けて報道する」ことなど、どだい不可能だ――というのが、ワインバーグの見解だ。「すべての事実は、人間が解釈して伝えるものだから」である。 たとえ特集記事ではなくストレートニュースであっても、「存在論的に(何が事実と言えるのか)、認識論的に(何が真実か)、方法論的(どうやってそれを発見するのか)にも、さらには倫理的(どうしてこの問題を伝えるのか)にも、ニュースはあらゆる側面で、ジャーナリストの世界観に依拠せざるを得ない」。つまり「立ち位置がない」、言い換えれば「偏りがない」報道など原理的に不可能なのである。 一方で、「立ち位置がない報道」「偏りのない報道」とは結局、権力者たちの判断に寄り添い、その代弁者に成り下がってしまうことである、ともワインバーグは喝破する。 現在のアメリカのニュースはトランプ一色になっている。メディアは大統領の最新ツイート、スピーチ、記者会見をひたすら追いかけて報じ続けるが、「何も新しい事実は伝えられず、根本的な知識は伝達されない。しかしみんなそれがニュースだと思い込んでいる…それがニュースとして伝えられているからだ」』、「「立ち位置がない報道」「偏りのない報道」とは結局、権力者たちの判断に寄り添い、その代弁者に成り下がってしまうことである」というのは、その通りなのかも知れない。
・『まず「記者の主観」を前提にする  いまや、理想とは正反対のものになってしまった「客観性」を、ワインバーグは「ジャーナリストが人間、市民として目指す倫理的な目標」として、一種の「限定的な努力目標」として認識し直そうと呼びかける。 その上で「透明性のある主観(Transparent Subjectivity)」という言葉を用いて、記者が自らの政治的な立ち位置を率直に説明してから、それを前提にニュースを発信するという方針を明らかにしている。 コレスポンデントはウェブサイトで「10項目の創立理念」を列挙しているが、その6番目には、このことが以下のように説明されている。【私たちはジャーナリストが「中立的」とか「バイアスがない」などと装うべきではないと思う。反対にコレスポンデントの記者は、正直に自分たちがどのような立場でそれを伝えるのかを明らかにする。それは、自分たちのものの見方を透明性を持って伝えるほうが、そのような見方は存在しないと言い張るより良いことだ、という信念に基づく。 私たちは誰の手先でもない。特定の党派の代弁者でもない。私たちは事実を重視するが、それが意味を持って伝えられるには「解釈すること」が不可欠だということも良く知っている。だから、私たちは自分たちの報道に何らかの情報をもたらす世界観や道徳的な信念に対し偏見を持たずに、事実がそうであれば柔軟に見方を変化させていく】 この誓いを単なる「お題目」にしないために、コレスポンデントはすべての記者に自分の「ミッション・ステートメント(職務上の使命)」を記すことを要求する。 すべての記者は、コレスポンデントというプラットフォームでニュースを発信することを通して、ジャーナリストとして何を成し遂げたいのかを表明しなければならない。しかし、ステートメントに「ニュースを伝える」と書くことは許されない。ニュースを伝えることは「使命」ではない。そのニュースで何を取り上げ、どんなメッセージを込めようとするのかを記さなければならない。 従来の報道機関のような、記者の担当分けもしないようだ。今回筆者が参照したいくつかの文章の中には、これまでコレスポンデントがオランダで行ってきた報道の事例も登場するが、それぞれのコレスポンデント(記者)は、「プライバシー担当」「モビリティ(人や物の移動に関する)担当」など、耳慣れない分類になっている。 「忘れられた戦い担当」は、地球上で命や生活の危機に陥っている人たちの声を伝えようとしているし、「人間以外の動物(non-human)担当」や「政府の債務担当」など、記者の関心分野や問題意識によって担当が決められるようだ。 筆者もかつてテレビ局の報道局に所属していたが、社会部や外信部といった領域別、あるいは省庁や役所ごとの担当の分け方だと、どうしてもグローバルな問題への関心が希薄になる。そうした問題を扱おうとすると、取材先やステークホルダーが複数の機関や省庁にまたがってしまい、誰も調整役を買って出る余力がないからである。 かくして、難民や地雷や気候変動といった問題は、国際機関の会議など「イベント」という「フック」がないと、なかなかニュースとして伝えられなかった。 ファウスはMediumの記事において、コレスポンデントの「エネルギーと気候変動」担当記者が、この問題を読者や外国のジャーナリストと協力して取材していく過程で、世界的な石油会社であるシェルが、1991年以来実に四半世紀以上も、温暖化など気候変動の危険性を知りながら放置してきたことを示す内部文書を発見し、その内容を明らかにした報道のプロセスを詳しく描写している』、コレスポンデント(記者)の新たな担当の分類は興味深いが、「取材先やステークホルダーが複数の機関や省庁にまたがってしまい、誰も調整役を買って出る余力がない」といった問題をどうクリアするのだろう。
・『読者も、ニュースを作る「協力者」に  コレスポンデントはニュースを「最終商品」ではなく、「読者と共に進める対話」であるとする。そのため、記事のアイディアや、これから何を知るべきかという問題意識、取材計画までを「公開ノートブック」としてウェブサイト上にアップデートしていく方式を取ることを宣言している。 読者やユーザーは、受け身で情報を単に消費するだけの存在ではなく、時に専門的な知識の供給源ともなる積極的な「協力者」となってほしい、とも述べている。事実、オランダのコレスポンデントでは、記者の時間の30〜40%がソーシャルメディアなどを通じた読者とのコミュニケーションに充てられるという。これはジャーナリストのエネルギーの配分としてはかなり異質なものだ。 記事が作られていくプロセスを透明化し、記者自身も取材内容を公開し、読者との情報や意見交換を経ながら、柔軟に仮説や前提を改めて問題を深く探求していくことが、コレスポンデントの報道姿勢であるとしている。そうすることによって、「ジャーナリストと、読者やユーザーとの信頼関係や絆」が強化されていくはずだと。 肝心なのは、「私たちは事実を提示します」「読者は記事を読んで、あとは自分で判断して下さい」というような「彼らと私たち」という一方向的な関係ではなく、わくわくするような発見から懸念すべき問題まで、過程を晒しながらニュースを出し続けることで、報道内容だけでなく「ひとりの人間としての記者」に対する読者の理解を深めてもらうことだという。 従来の報道の「常識」は、取材した情報の中から伝えるべきものだけを選別してニュースとして伝え、そのほかのボツネタをはじめ、取材の「手の内」や「過程」を見せるのはタブーという考え方だ。この点は、おそらく既存のメディアにとって最も受け入れることが難しい価値観ではないだろうか』、記者と読者が双方向でやり取りするというのも新鮮だが、実効性のほどはどうなのだろう。
・『読者の信頼が第一、収益は最小限に  19世紀の終わり頃から始まったニュースビジネスは、単純に言えば「いかに読者の目を引くニュースを出せるか」を競い、その結果集まった読者や視聴者を、広告主に売ることで成立してきた。しかし、産業が成熟するにつれて、このようなビジネスモデルの限界が露呈している。 広告モデルでは、メディアが純粋に「重要だ」「報じる価値がある」と考えるニュースよりも、「人の目を引く」ニュースの優先度が高まる。またニュースとして議論するのが適切かどうか、影響を受ける人の集団がどのくらい大きいのかといった基準よりも、新しいかどうか、見た目のインパクトがあるかどうかといった基準が勝ってしまう。 コレスポンデントはこの問題を克服するために、広告に依存するビジネスモデルを捨て、報道姿勢に賛同する読者のメンバーシップ料を唯一の収益源にしようとしている』、前述のように読者のメンバーシップ料が法外に高くならないようにするためには、かなり多くの読者を集める必要がある。それまでは、クラウドファンディングで集めた資金で赤字を補填していく、ということなのだろうか。
・『しかし、こうしたジャーナリズムの理想を語るだけでは、報道機関としての活動が継続できるかは保証されない。理想を実践し続けることだけが、コレスポンデントを存続させる原動力なのだ。 コレスポンデントの組織としての具体的な行動原理や、第三者からの干渉や利益相反を避けるための仕組みの整備に大きな役割を果たしたのは、報道機関の活動を支える基金のアドバイザーとして関わっているジェイ・ローゼンだ。彼は、経営の理念や原則についてこちらの記事でまとめている。 彼はまずファウスとワインバーグに対し、2011年にハフィントンポストがAOLに3億1500万ドルで売却されたときのように、もしもコレスポンデントがこれから大成功を収めても、創立者である2人が会社を売却し、巨額の利益を上げるような事態が100%起きないような保証を求めた。その結果、以下の2点の仕組みが整備されたという。 ひとつめは、どんなに会員収入などが増えても、利益率に「5%」という厳格な上限(キャップ)を設けるという規定だ。これはウェブサイトの「10の原則」の9番目に明記されている。 これでコレスポンデントが投資家にとって、買収したくなる魅力的な企業に見える可能性は低くなった。 さらに、コレスポンデントに出資している企業や、アメリカのコレスポンデントのオーナーとなるオランダの組織の幹部(ファウスやワインバーグも含まれる)に、同社の基本的な目標や創立理念、経営方針などを変更できないよう規定し、これらを公開した。こうして、コレスポンデントは収益を極大化する必要がなくなり、理想を掲げた目標に専念できるというわけだ。 アメリカのコレスポンデントは、この2019年1月から本格的にスタートし、6月頃に最初のニュース配信を目指すという。彼らの最初の仕事は、クラウドファンディングに加わった賛同者に最初のニューズレターを書くことだそうだ。筆者も非常にわずかではあるが、出資している。 記者の本格的な募集も始まったばかりのうえ、ニュースをメンバーにのみ限定して公開するのか、一部を一般にも公開するのかといった、細かい運営方針もまだ決まっていない部分が多い。また、記録的な額となったとはいえ、クラウドファンディングに協力した人の数はわずか5万人足らずで、協力額のメジアン(中央値)は約30ドルと、規模も大きくない。コレスポンデントがメディアとしてどこまで存在感を示せるかは、未知数の部分も多い。 おそらく、メディアとしてはかなり小さな規模からスタートするであろうから、彼らの実践や純粋な思想が、既存の大手メディアにもそのままヒントになるとは言い難い。 それでも、「ニュースの客観性」をめぐる議論や、政治的な立ち位置についてのミッション・ステートメントなどの試みは、日本のメディアにとっても興味深い話題だろう。コレスポンデントの挑戦がどう支持され、どう展開するのか、2019年は注目の年となりそうだ』、アメリカでは「クラウドファンディングに協力した人の数はわずか5万人足らず」とは心細い限りだが、私としても大いに注目していきたい。
タグ:メディア オランダ ダイヤモンド・オンライン 現代ビジネス (その10)(朝日の実売はついに400万部割れ?決算書で分かる新聞「財務格差」、新型ステマがルールの盲点突く手口 奴隷化するウェブメディア、速報も広告もやらない「新メディア」のジャーナリズム哲学を読み解く ニュースの「信頼」を取り戻すために) 「朝日の実売はついに400万部割れ?決算書で分かる新聞「財務格差」」 最新の推定実売部数を試算 朝日の実売部数は400万部割れ、産経は100万部割れの可能性がある 現役役員が描く3つの再編案 「新型ステマがルールの盲点突く手口、奴隷化するウェブメディア」 ルールの盲点をつき生き残る新型ステマ ヤフーだった。2015年7月、ニュースの提供契約を結ぶ報道機関がステマ記事を配信した場合、契約解除も含めた対応を取ると発表 新ステマを“演出”するのは、インフルエンサーだ インフルエンサーという個人が絡むことで巧妙化 処方箋は「広告モデル」からの脱却 奥村 信幸 「速報も広告もやらない「新メディア」のジャーナリズム哲学を読み解く ニュースの「信頼」を取り戻すために」 新メディア「コレスポンデント」とは何か? 「De Correspondent」が、「The Correspondent」という英語でのサービスを、ニューヨークを拠点にして始める計画 「理想のジャーナリズム」に正面から挑む 「天気」ではなく「気候」こそニュースだ ニュース中毒の「解毒剤」をつくる 「客観性」という欺瞞と向き合う まず「記者の主観」を前提にする 読者も、ニュースを作る「協力者」に 読者の信頼が第一、収益は最小限に
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