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欧州同時多発テロ事件(その5)ベルギー爆弾テロ [世界情勢]

パリ同時多発テロ事件については、昨年11月25日に取上げたが、ベルギーへの広がりを受けて、今日は、 欧州同時多発テロ事件(その5)ベルギー爆弾テロ である。

先ずは、3月25日付けダイヤモンド・オンライン「ベルギー爆弾テロの背景に政府の対策の甘さ」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・ベルギーの首都ブリュッセルで22日朝に発生した連続爆弾テロ事件。これまでに少なくとも31人が死亡、300人以上が負傷しており、EUやNATOの関連施設も多い「欧州の首都」は一転して厳戒態勢が敷かれることになった。同時に、ベルギーのテロ対策の甘さを指摘する厳しい声も出始めている。
▽30人以上の命を奪った爆弾テロ 「欧州の首都」が厳戒態勢に
・ベルギーの首都ブリュッセルで22日、空港と地下鉄駅の2ヵ所で連続して爆発が発生し、少なくとも31人が死亡し、300人以上が負傷する大惨事となった。これらの爆発で、2人の日本人も重軽傷を負っている。ブリュッセル空港で二度の爆発が発生したのが、現地時間の22日午前8時ごろ。爆発のあった空港内のターミナルビルは激しく損傷しており、少なくとも一回の爆発ではスーツケース爆弾が使用された可能性が指摘されている。現場では爆弾が取り付けられたベストや自動小銃も発見されている。1時間後の午前9時過ぎには、ブリュッセル市内中心部、EU本部に近い地下鉄のマールベーク駅で、発車直後の地下鉄で爆発が起こった。
・事件発生から間もなくして、ベルギー政府はテロの警戒水準を最高レベルの4まで引き上げ、ブリュッセル市内の公共交通機関はストップし、国内の原子力発電所でもほとんどの職員に対して避難指示が出され、市民は極力外出を控えるよう伝えられた。ブリュッセル在住のジュリー・タイレルさんは、「こういったテロの可能性は以前から語られていたものの、実際に町の機能が全てストップしている光景に驚きを隠せません。今はメッセンジャーなどを使って家族や友人の無事を1人ずつ確認しています」と語った。
・事件発生後、IS(通称:イスラム国)と繋がりがあるとされるニュースサイトがISの関与を伝えており、事実上の犯行声明とみられる。ベルギーの警察当局は空港の防犯カメラがとらえた3人の男性の写真を公表。3人のうち2人は自爆したとみられ、当局は残る1名の情報を市民に求めている。
▽「テロの温床」とかねて指摘の町 犯罪発生率が高く警察も捜査に消極的
・昨年11月にフランスのパリで発生した同時テロでは、バタクラン劇場の無差別銃撃でも多くの市民が殺害された。事件発生後に周辺の捜査を行っていたフランスの警察当局は、劇場近くに停められていた外国ナンバーのレンタカーを発見。車内にはクシャクシャの状態で放置された駐車違反のチケットがあり、そのチケットはベルギーのブリュッセル近郊のモーレンベークで発行されたものと判明した。
・その情報がベルギーの警察当局にわたり、モーレンベークで家宅捜索を行った警察は、パリの連続テロ事件で車両の提供などに協力した疑いで3人を逮捕している。ベルギーはISの戦闘員としてシリアやイラクに渡る人口別の割合がヨーロッパ内で一番高く、その中でもモーレンベークは、以前から「テロリストの温床」と国内外のメディアから指摘されてきた。
・ISの戦闘員としてシリアに渡航したベルギー人は推定で500人弱とされており、シリア以外にもイラクやアフガニスタンに戦闘員として渡ったベルギー人も少なくない。この傾向は10年以上前から続いており、2005年にはイラクで米軍の車列で自爆テロを起こしたメンバーの中に、ベルギー南部シャルルロワ出身で、イスラム教に改宗した女性も含まれていた(イラクで自爆テロを行った最初のヨーロッパ人女性とされる)。また、アフガニスタンでタリバンと共闘していたベルギー人らが帰国後に国内でテロを計画したが、治安当局によって未然に阻止されている。
・移民の多いモーレンベークの失業率は25%以上で、定職に就けない若者の不満を地元の過激派ネットワークが上手く利用しているとの報道もある。人口は過去10年で約25%も増加しており、モロッコからの移民を中心としたイスラム系コミュニティが存在する。現在はイスラム教徒が町の人口の約4割を占めており、ベルギーの他の町よりもイスラム教徒の比率は高い。犯罪発生率も高く、地元警察も踏み込んだ捜査には消極的とされ、そこに旧ユーゴ諸国やアルバニアで70年代から80年代にかけて製造されたライフルなどが大量に流れ込み、銃などの密売が日常的に行われていると、複数のメディアは報じている。
・ブリュッセルのテロの背景を考える際に、モーレンベーク地区の若者に代表される社会システムに不満を抱える移民の第二、第三世代の存在はこれまでにも数多くのメディアで取り上げられてきた。それに加えて、自動小銃などが簡単にベルギー国内のブラックマーケットで取引され、ISによる戦闘員のリクルートの大部分がネットを経由して、普段は付き合いのない第三者によって行われている実態も注視すべきであろう。
▽市民が200万丁の銃を所持 過半数が未登録で密売も横行
・皮肉な話だが、ブリュッセルに拠点を置くシンクタンク「フランドル平和研究所」はテロ前日の21日に、ベルギーに違法なルートで持ち込まれる重火器類に関する調査の結果を発表していた。フランドル平和研究所の調査によると、ベルギー国内で市民が所持している重火器類は最大で約200万丁。そのうち、正規の手続きで登録が済まされたものは約90万丁で、過半数が登録されていない現状が存在する。2009年から2015年にかけて、判明しているだけで銃の違法売買の摘発が1225件あったものの、実際にはこれをはるかに超える回数の取引が闇マーケットで行われていると推測される。
・銃の多くは90年代後半の国家危機の際に武器庫から多くの銃が盗み出されたアルバニアや、同じく90年代に紛争を経験した旧ユーゴ諸国のひとつであるモンテネグロが中心となり、西ヨーロッパに流されている模様だ。フランドル平和研究所の調査では、ほぼ全てのケースで陸路が使われ、数丁から数十丁の拳銃や自動小銃が自家用車などに詰め込まれ、西ヨーロッパに向かうのだという。このような比較的小規模な取引がメインとなっているため、警察当局も密輸される重火器類全てをチェックするのが極めて困難な実情がある。
・また、ドイツの外国語放送「ドイチェ・ヴェレ」は世界中の紛争地で使用されているカラシニコフ銃のバルカン半島における「売値」が500ユーロ程度なのに対し、西ヨーロッパでは最大で2000ユーロの値が付くため、マフィアなどとは無縁の一般人がアルバイト感覚で車に銃を積んで西ヨーロッパを目指すケースも存在したと伝えている。
・カラシニコフといえば旧ソ連諸国で生産されているイメージが強いが、昨年11月にフランスのパリで発生した同時テロ事件では、少なくとも2丁のザスタヴァ社製M70自動小銃が使用されている。ザスタヴァ社はセルビアで自動車と小火器の生産を行う企業だが、M70自動小銃は旧ユーゴ政権下の1970年代に現地でライセンス生産されたカラシニコフ銃であった。また、昨年1月のシャルリ・エブド襲撃事件でも、バルカン半島から持ち込まれた自動小銃が使われていたことが判明している。
▽ソーシャルメディアが勧誘ツール 外国人戦闘員の75%がSNS経由
・ISがソーシャルメディアを事実上の勧誘ツールにしている点も、改めて認識しておくべきだ。昨年3月、米ブルッキングス研究所の研究員らがツイッター上におけるIS関連のアカウントについて調査した結果を発表。ISのメンバーが関係している可能性の高いアカウントが4万6000以上存在することが判明した。これらのアカウントは、ISの行動を称賛するプロパガンダ的な役割を果たすものがほとんどであるが、これらを経由してISの関係者とコンタクトを取り、実際にISに戦闘員として参加する若者も存在する。
・ツイッターやフェイスブック、タンブラーといったSNSが、勧誘ツールという点で大きな役割を果たしているという指摘は英オックスフォード大学の研究者からも出ており、ISの外国人戦闘員の約75%はSNSの投稿をきっかけに、「ジハード」に参加したというデータも存在する。これまで考えられてきた、家族や近所のモスク関係者による勧誘ではなく、普段の生活で繋がりのない第三者にSNS上でオルグされていくという部分に特徴がある。
・23日にはシリアとの国境に近いトルコ南部のガジアンテプで、23歳の日本人男性がトルコ軍警察に身柄を拘束される事件が発生している。この男性には国外退去処分を下される見通しだが、現地当局は男性がソーシャルネットワークでISの関係者と連絡を取り合っていた疑いがあり、男性が「戦闘員としてISに参加するつもりだった」と取り調べで語ったことを発表している。
▽文化的に二分、一枚岩になれず 官僚や警察の情報共有にも問題
・長きに渡って異なる言語や文化をめぐって国内で対立が続いている、ベルギー独特の国内事情も理解しておくべきだろう。ベルギーは文化的に、北部のフラマン語圏と南部のワロン語圏に二分され、前者はオランダ文化圏で後者はフランス文化圏になる。首都ブリュッセルでは公用語としてフランス語とオランダ語の両方が使われ、交通標識なども複数の言葉で書かれたものが珍しくない。多言語国家であるベルギーでは、他にもドイツ語が話される地域も存在するが、言葉によって警察の管轄が大きく分かれ、互いをライバル視し、情報共有に消極的になる傾向が1980年代から続いてきた。
・数字だけを見れば、ブリュッセル周辺ではフランス語を使う市民の数が圧倒的に多いものの、ブリュッセルは地理的に南部のフランス文化圏の最北端に位置しており、ブリュッセルから少し離れると完全なオランダ文化圏に入ってしまうのだ。
・ベルギーでは2010年6月に行われた総選挙のあとで、フランス語圏とオランダ語圏の議員の間で対立が深刻化。2011年暮れまでの約1年半、内閣不在の状態が続くという異常事態も発生している。北部と南部における文化的な違いは前述したが、北部のオランダ語圏が経済的により恵まれているといいう背景もあり、イタリアの南北問題に似た事情も存在する。
・そのため、文化的に1つになれないベルギー(事実、ベルギーからの分離・独立を主張する地域もある)が、国内政策で一枚岩の結束を誇れない事情も見え隠れする。ブリュッセル在住の42歳の男性は22日、米バズフィードの取材に対し、「まともな政府が存在せず、二分した官僚政治が存在した結果、テロを防ぐことができなかった」と語っている。
▽テロ対策緊急予算発表は先月 人員・予算投入の遅れがあだに
・ベルギー、とりわけブリュッセル近郊のモーレンベークが「テロネットワークの温床」と指摘されてきたものの、22日にブリュッセルで発生したテロを政府が未然に防げなかった原因は、政府内の文化的対立だけが問題ではない。より具体的な原因として、テロ対策に多くの人員や予算を投入してこなかったツケが回ってきたのだという厳しい指摘も存在する。
・ベルギーの諜報関係者は英ガーディアン紙の取材に対し、テロ組織と関係があるとみられる数千人の行動確認をわずか数百人の諜報部員で行っており、「あまりにも人員が少ないため、みんな疲弊している」と匿名でコメントしている。
・2年前にブリュッセルで発生したユダヤ人博物館襲撃事件や昨年11月のパリ同時テロ事件では、それぞれの首謀者がモーレンベークを拠点にしており、厳しい姿勢での摘発を望む声は以前から存在したが、ベルギー政府が総額で約200億円規模のテロ対策用緊急予算について発表したのは先月のことであった。後手に回ったベルギー政府の対応にも批判が噴出するのは必至だ。
・ベルギー政府の対応をめぐっては、ブリュッセルで発生したテロの実行犯に対する監視が徹底していなかったと、トルコのエルドアン大統領から批判されており、ベルギーの治安関係者の大失態が早くも指摘されている。ブリュッセル空港で自爆したとされるイブラヒム・バクラウイ容疑者は昨年6月に、ISの戦闘員としてシリアに渡る直前にトルコ当局によって拘束されていた。
・バクラウイ容疑者の情報はベルギー政府にも送られたが、ベルギー側は「差し迫った脅威はなしと判断した」と一週間後にトルコ政府に返答し、身柄引き渡しの要求も行われなかったため、ベルギー国籍のバクラウイ容疑者は自らの希望でEU加盟国のオランダに送られ、そこからの消息は途絶えていた(同様の情報はオランダ政府にも送られたと、トルコ政府は主張している)。バクラウイ容疑者は2010年に銀行強盗を試みた際に、警察官に発砲する事件を起こしており、懲役9年の刑が確定したが、2014年に保釈されていた。
・テロ対策で予算も人員も足りなかったとされるベルギーだが、ブリュッセル事件から間もなくして、国家としてのこれまでのテロ対策に対して国内外から厳しい指摘を受けている、EUの中心地であるはずのベルギーが、予算不足や多言語主義がマイナスとなって発生した縄張り意識によって、ヨーロッパ基準のテロ対策を実施できていなかった事実は何とも皮肉な話である。
http://diamond.jp/articles/-/88521

次に、ドイツ在住のジャーナリストの熊谷徹氏が、4月1日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「欧州覆うフランス・ベルギー・コネクションの影」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・今年3月最後の週末は、十字架にはりつけにされたキリストの復活を祝う「復活祭(イースター)」だった。キリスト教徒にとっては、クリスマスに次いで重要な行事であり、長い冬が終わり春が到来したことを祝う祭りだ。生命力のシンボルである卵やウサギの形をしたチョコレートが、町のショーウインドウを飾る。
▽陰鬱な復活祭
・今年の欧州の復活祭は、極めて重苦しい雰囲気に包まれた。過激組織イスラム国(IS)の毒牙が、再び欧州を襲ったからだ。
・ISの戦闘員は、3月22日にベルギーの首都ブリュッセルの空港と地下鉄で爆弾テロを起こした。35人が殺害され、日本人2人を含む約270人が重軽傷を負った。ブリュッセルは、EU(欧州連合)本部がある「欧州の心臓部」。この町を直撃したテロは、EU加盟国政府と市民に強い衝撃を与えている。
・ローマ教皇フランシスコも、3月25日にコロシアムで行われた復活祭の行事で、ISを名指しすることを避けながらも、間接的にISのテロを糾弾した。「ある宗教の信奉者の一部は、彼らの神を冒涜している。彼らは、類を見ない暴力を正当化するために宗教を利用している」。
・欧州では昨年以来、大規模なテロが続発している。昨年1月にはパリの風刺雑誌「シャルリ・エブド」の編集部で編集長やイラストレーターら11人が射殺されたほか、ユダヤ系スーパーでも買い物客ら4人が犠牲になった。10か月後には、ISのテロリストがコンサートホールやレストランで市民130人を無差別に射殺し、352人に重軽傷を負わせる未曽有の惨事が起きた。
・このパリのテロ以来、イスラム系テロリストの「フランス・ベルギー・コネクション」が浮かび上がりつつある。フランスとベルギーの捜査当局は、パリ事件の犯行グループと、今回のブリュッセルの事件の犯行グループの間に密接な繋がりがあると見ている。
・たとえばブリュッセルでテロ攻撃を行ったブラヒム・バクラウィ とその弟ハリド、さらにナジム・ラーシュラウィ は、パリの同時多発テロの首謀者アブデルハミド・アバウド と密接な関係があった。
・フランスの捜査当局は、パリの事件で使われた自爆ベストの破片から、ナジム・ラーシュラウィの指紋を検出している。ラーシュラウィは2013年にシリアに渡航して、ISの軍事教練を受けた経験を持つ。このため捜査当局は、ラーシュラウィがアブデルハミド・アバウドのグループのために自爆ベストを製造した疑いを強めている。
▽「イスラム過激派の温床」
・ブリュッセルとその近郊は、「イスラム過激派の温床」と呼ばれる。ISは、ブリュッセルとその近郊を、欧州でのテロ攻撃のための「出撃陣地」として使っている。この地区では、テロリストたちが隠れ家を持っていたほか、自動小銃や爆薬が次々と見つかっている。昨年11月のパリのテロ事件の犯人グループの一部は、ブリュッセル郊外のモレンベークに住んでいた。
・ブリュッセルのテロが発生する4日前の3月18日には、パリ・テロ事件の犯行グループの一員だったモロッコ系フランス人、サラ・アブデスラム が、ベルギー警察によってモレンベーク地区で逮捕された。彼はパリで自爆したイブラヒム・アブデスラム の弟で、パリのテロの首謀者アバウドの幼馴染だった。サラ・アブデスラムは、犯行グループのためにレンタカーやホテルを手配していた。
・欧州のメディアは一時「ブリュッセルのテロは、アブデスラム逮捕の報復か」という憶測を伝えた。だがブラヒム・バクラウィがブリュッセルのごみ箱に捨てたPCからは、「捜査の手が迫っており、もはや逃げられない」という一種の「遺書」が見つかっている。このため捜査当局は、「ブラヒム・バクラウィらのグループは、アブデスラム逮捕によって、自分たちが検挙されるのは時間の問題と考え、多くの市民を巻き添えにして自爆する道を選んだ」という見方を強めている。
・なぜブリュッセル近郊は、テロの温床となったのか。ベルギーの公用語の1つは、フランス語である。ブリュッセル西部のモレンベーク地区の住民の間には、イスラム系の国々からの移民や、その血をひくベルギー人たちが多い。このためモレンベーク地区は、モロッコやアルジェリア系のフランス人テロリストたちが身を隠すのに、もってこいの場所なのだ。
・西欧のテロ問題は、貧困問題でもある。パリやストラスブールなどフランスの大都市周辺には、バンリュー(banlieu=郊外)と呼ばれる住宅街がある。バンリューには北アフリカなどからのイスラム系移民やその血をひく市民の比率が高い。バンリューでは失業率が高く、治安が悪い。アブデルハミド・アバウドがパリでの同時多発テロ直後に潜伏し、警官隊との銃撃戦の末死亡したパリ郊外のサン・ドニ地区も、バンリューである。ベルギーにも似たような住宅街があり、モレンベーク地区もバンリューの一種だ。
・これらの地区に住むイスラム系移民の子どもの中には、学校をドロップアウトして犯罪に走り、刑務所でイスラム過激派の思想を吹き込まれたり、過激なイスラム教指導者から「西欧社会への憎悪」を吹き込まれたりする者がいる。この過程でインターネットも大きな役割を果たしている。西欧からシリアなどの紛争地域に渡り、ISから軍事教練を受けた若者の数は、数千人にのぼる。その中でもベルギーは、シリアに渡った「志願兵」の数が最も多い国の1つだ。これまでに約500人のベルギー人がシリアに渡航している。
▽国境を超えた捜査が苦手
・人口約1100万人のベルギーは、一種のパッチワーク国家だ。南部のワロン地域ではフランス語が公用語。北部のフランデレン地域では、オランダ語の一種であるフラマン語が公用語である。フランス語系住民とフラマン語系住民の対立が長く続いたため、1993年から連邦制を採用している。
・このためフランスやドイツに比べると、中央政府の統率力が弱い。2010年の総選挙の後には、フランス語圏とフラマン語圏の対立のために、連立をめぐる交渉が難航し、500日以上も政治の空白が続く異常事態が起きている。ドイツも連邦国家だが、言語はドイツ語に統一されているので、ベルギーのような言語圏による分断は起きていない。
・中央政府の統率力の弱さは、警察の杜撰な捜査体制にも表れている。トルコのエルドアン大統領は、3月23日にオランダ政府とベルギー政府の重い失態を暴露した。トルコ政府は、2015年7月にブラヒム・バクラウィをシリア国境に近いトルコの町で逮捕し、オランダに送還。そしてオランダ政府とベルギー政府に対して、「この人物はテロ組織の戦闘員だ」と警告した。だが、オランダ政府は「テロ組織との繋がりを立証できなかった」としてブラヒム・バクラウィを釈放していた。ドイツのニュース週刊誌シュピーゲルは、「ベルギー政府の内務大臣と司法大臣は、同国の警察がトルコから通報があったにもかかわらず、適切に対応しなかった責任を取って辞任を申し出たが、首相が慰留した」と伝えている。
・またギリシャのニュース専門テレビ局「スカイ」が3月26日に報じた内容も、無視できない。「スカイ」によると、ギリシャ警察が2015年1月にアテネ市内のアパートを捜索したところ、テロリストたちがブリュッセル空港での爆弾テロを計画していたことを示す文書が見つかった。このアパートを借りていたのは、パリの同時多発テロの首謀者アブデルハミド・アバウドと関係がある人物だった。ギリシャ警察は、ブリュッセル襲撃計画についてベルギーの捜査当局に通報したが、同国政府は対策を取らなかった。
・EUでは、昨年夏に難民危機がエスカレートするまで、人と物の移動の自由を保障するシェンゲン協定に基づき、誰でも欧州大陸の26ヶ国の間を国境検査なしに自由に行き来できた。テロリストたちもフランスとベルギーの間を、まるで1つの国であるかのように自由に移動した。だがテロリストを取り締まる各国の捜査当局は、国境の垣根に遮られて縦割りの活動しかしていなかった。ベルギーの捜査当局が、トルコやギリシャの捜査当局の警告に耳を貸さなかったのは、そのためである。各国の警察がばらばらに捜査を行っており、他国の警察との連携や情報交換が不十分だ。他国から通報があっても、重視しない。
・2014年5月にブリュッセルのユダヤ博物館が襲われたテロ事件も、各国の捜査当局間の連絡の悪さを示す例だ。この事件では、メーディ・ネムーシュというアルジェリア系フランス人が博物館に突入して自動小銃を乱射し、ユダヤ人4人を殺害した。ネムーシュは2012年にシリアへ渡り、ISの戦闘員としてシリア政府軍と戦っていた。
・彼が2014年3月にドイツのフランクフルト空港に到着した時、ドイツ人の入国検査官はネムーシュがフランスの捜査機関の監視対象となっていることに気づいた。しかし、逮捕命令は出ていなかったので、そのまま入国を許した。このテロリストは、それから約2ヶ月後に凶行に走った。もしもドイツ入国時にネムーシュが逮捕されていたら、ユダヤ博物館でのテロは防げたかもしれない。
・また欧州では、テロに走る可能性がある「要注意人物」の数が多いために、警察が対応しきれないという側面もある。たとえばフランスの捜査当局のデータバンクに登録されているイスラム過激派の数は、1万1400人にのぼる。警察がこれだけの数の要注意人物を24時間監視することは、不可能だ。
▽ISが核テロを計画?
・欧州刑事警察機構(ユーロポール)は今年1月、欧州対テロセンター(ECTC)を創設し、各国間の捜査情報の流れを改善する方針を明らかにした。昨年11月にパリで起きたテロの犯人たちの一部が、隣国ベルギーを出撃拠点としていたため、捜査当局も国境の壁を超えた捜査活動を強化する必要に迫られている。
・欧州が本当に必要としているのは、米国の連邦捜査局(FBI)並みに強力な捜査権を持った国際的な捜査機関だ。ECTCは欧州版FBIには程遠い。
・欧州諸国は、対テロ捜査の強化を迫られている。その理由の一つは、ISが核物質を使ったテロを計画している疑いが強まっているからだ。捜査当局は、バクラウィ兄弟の知人の自宅から、驚くべきビデオ映像を発見した。同兄弟は、2015年11月にベルギー核研究所センター(SCK・CEN)の幹部の自宅の前の植え込みにビデオカメラを隠し、この人物の出勤時刻や帰宅時刻を記録していたのだ。
・捜査当局は、バクラウィ兄弟がこの幹部を誘拐して、プルトニウムなどの核物質を脅し取ろうとしていた可能性があるとしている。核爆弾を作るだけの技術がなくても、有毒なプルトニウム粉末を普通の爆弾の周囲に取り付けて、爆発によって飛散させれば、多くの市民に健康障害が生じる可能性がある。いわゆる「ダーティー・ボム(汚い爆弾)」である。
・イスラム系過激組織が核テロを目論んでいたことが分かったのは、世界で初めてのこと。このビデオ映像が発見されて以降、ベルギー政府は国内の原子力発電所を軍に警備させている。ブリュッセルの空港と地下鉄でテロが起きた直後にベルギー政府は、「原発もテロ攻撃の対象となる危険がある」として、職員の一部を避難させた。
・ベルギー北部のドール原子力発電所の4号機では、2014年8月に奇妙な事件があった。何者かがタービンの弁を開けて、6万5000リットルの油を流出させたのだ。このためタービンは過熱して、自動的に停止した。放射能漏れなどは一切なかったが、電力会社には1億~2億ドルもの被害が出た。これはベルギーの原子力発電所で起きた人為的な妨害工作としては最も深刻なケースだった。現時点で犯人は検挙されていない。
・捜査当局の調べで、この発電所で一時、イスラム過激派に属する人物が働いていたことも分かっている。モロッコ出身のベルギー人、イリヤス・ボンガラブは、2009年から3年間、ドール原子力発電所で働いた後、シリアでISに加わり、政府軍との戦闘で死亡している。
▽原発へのサイバー攻撃の可能性
・EUの対テロ担当官ジレ・ド・ケルコーブは、「今後5年以内に、ハッカーがインターネットを通じて原子力発電所へのサイバー攻撃を行う可能性がある」と述べている。 テロ組織がネットを通じて原発の中央制御室のシステムに侵入し、冷却システムなどを使用不能にするというのは、欧州の治安当局が最も恐れているシナリオだ。
・ドイツでは、このシナリオがパニック映画の世界の中だけのものではないことを示す実験が行われた。2014年4月に、バーデン・ヴュルテンベルク州のエットリンゲンという町(人口4万人)で、公営地域電力会社(シュタットベルケ)がIT専門家に依頼して、サイバー攻撃のシミュレーションを実施したのだ。
・サイバー犯罪対策のコンサルタントであるフェリックス・リントナーは、地域電力会社の近くの建物から、ネットを通じて電力会社のITシステムに侵入。彼は、わずか2日で、中央制御室のITシステムに侵入し、広域停電を起こす直前の段階に到達した。彼がそこでマウスをクリックしたら、エットリンゲンでこの会社が電力を供給している全ての世帯、企業が停電していた。
・同社はこの実験を通じて、システムの弱点を発見し、防護態勢を強化した。IT部門の職員も増やした。犯行を誘発しないために、リントナーが侵入した手口はここには詳しく記さない。彼は「ハッカーによる被害を最小限に食い止めるには、あらゆるシステムをネットで接続するのではなく、重要な部門はネットから切り離すべきだ」と忠告している。
・欧州では今後、電力ビジネスのデジタル化が進むために、電力会社とネットで接続されたスマート・メーター(デジタル化された電力メーター)が企業や住宅で普及する。顧客はPCの画面上で、自宅や企業の電力消費量を監視することができる。このスマート・メーターについて、一部のテロリズム専門家は、ハッカーが電力会社のITシステムに侵入するために使われる危険があると指摘している。
・パリの次にISの矛先が向いたのは、ブリュッセルだった。ISの次の標的はどこか。欧州のメディア関係者たちは、「日常生活にテロの不安が常につきまとう、暗い時代がやってきた」という憂鬱な言葉を囁いている。筆者は、2000年代の初めに自爆テロが多発するイスラエルに3回行ったことがある。最近の欧州の雰囲気は、当時のイスラエルに急速に近づきつつある。「欧州がイスラエル化している」という、私の直感が的中しないことを望む。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/219486/033100014/?P=1

ベルギーには200万丁の重火器があり、過半数が未登録とは驚いたが、ダイヤモンド・オンライン記事のようにバルカン半島と西欧で価格差が4倍もあり、シェンゲン協定で国境がフィリーパスであれば、そうした危険性は、人と物の移動の自由を定めた「シェンゲン協定」のマイナス面だ。文化的に二分され、警察も情報共有に消極的というのでは、まさにテロの温床だ。しかし、文化的にはドイツ系、フランス系、イタリア系に三分されるスイスでは、警察までが弱体になったという話は聞かない。やはり、ベルギーの特殊性なのだろうか。
モレンベーグ地区は、熊谷氏が指摘する北アフリカなどからのイスラム系移民が多く住む「バンリュー」の1つらしいが、これは警察がその気になりさえすれば、スパイなどにより監視する対象地域が絞られる筈だ。スパイを使う捜査への抵抗感もあるにしても、やはり警察のやる気のなさが大きいようだ。「国境を超えた捜査が苦手」、トルコからの情報の無視など、「お粗末」というほかない。無論、アメリカの9.11テロの際にも、FBIなどの捜査当局が批判されたり、日本の公安警察もオウム事件を見逃す大失態を演じたり、県警間の情報の壁から捜査ミスを起こしたりしているので、世界的に警察組織が抱える問題なのかも知れない。
爆弾テロも困るが、「核テロ」だけはなんとしてでも抑え込んで欲しいものだ。
明日、金曜日は更新を休むので、土曜日にご期待を!
タグ:ブリュッセル 日経ビジネスオンライン ダイヤモンド・オンライン ブリュッセル空港 熊谷徹 欧州同時多発テロ事件 (その5)ベルギー爆弾テロ ベルギー爆弾テロの背景に政府の対策の甘さ 連続爆弾テロ事件 地下鉄で爆発 ISの関与 「テロの温床」とかねて指摘の町 シリアに渡航したベルギー人は推定で500人弱 移民の多いモーレンベークの失業率は25%以上 イスラム教徒が町の人口の約4割 地元警察も踏み込んだ捜査には消極的 移民の第二、第三世代 市民が所持している重火器類は最大で約200万丁 過半数が登録されていない ソーシャルメディアが勧誘ツール 外国人戦闘員の75%がSNS経由 文化的に二分、一枚岩になれず 官僚や警察の情報共有にも問題 フラマン語圏 ワロン語圏 人員・予算投入の遅れがあだに トルコ当局 バクラウイ容疑者の情報 ベルギー側は「差し迫った脅威はなしと判断した 欧州覆うフランス・ベルギー・コネクションの影 イスラム過激派の温床 モレンベーク地区は、モロッコやアルジェリア系のフランス人テロリストたちが身を隠すのに、もってこいの場所 貧困問題でもある バンリュー 北アフリカなどからのイスラム系移民やその血をひく市民の比率が高い 失業率が高く、治安が悪い モレンベーク地区もバンリューの一種 刑務所でイスラム過激派の思想を吹き込まれたり 過激なイスラム教指導者から「西欧社会への憎悪」を吹き込まれ 国境を超えた捜査が苦手 中央政府の統率力の弱さは 警察の杜撰な捜査体制 各国の捜査当局は、国境の垣根に遮られて縦割りの活動しかしていなかった 他国から通報があっても、重視しない ISが核テロを計画? 欧州対テロセンター(ECTC) 原発へのサイバー攻撃の可能性 電力ビジネスのデジタル化が進むために ハッカーが電力会社のITシステムに侵入するために使われる危険
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