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英国EU離脱問題(その3)離脱決定をどう考えるか [世界情勢]

英国EU離脱問題については、6月8日に取上げた。23日の国民投票では、残留予想を覆して、僅差で離脱が勝利した。今日は、(その3)離脱決定をどう考えるか を取上げよう。

先ずは、影響を楽観的に捉える見方として、6月24日付け東洋経済オンライン「英国のEU離脱は、極めて合理的な判断だった 英トップエコノミストが予言していた「崩壊」」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・英国保守党・労働党双方のブレーンでもあったロジャー・ブートル氏は、2015年に上梓された『欧州解体』で、英国のEU離脱を予言していた。 同書から、英国がEUを離脱するメリットや、EUとの関係について論考した内容を抜粋してお届けする。
・英国がEUから抜けた途端に、すべてのEU向け輸出が消滅すると考えるのは誤りだ。何が起ころうと、そのかなりの部分は継続するだろう。実際に何が起こるのかは、どのような種類の貿易関係が合意されるかによる。確かな答えは知りようがないが、人間の欲と既存の国際協定を考えれば、ある程度の当たりをつけることは可能だ。とにかくひとつはっきりしているのは、緊密な貿易関係を続けることが両者にとって大きな利益になるということ。したがってそういう帰結になる可能性が最も高い。
・英国は強い立場で交渉に臨める。あまり知られていないことだが、ほかのEU加盟国にとって、英国は米国を上回る最大の輸出先なのだ。それはすなわち、多くの欧州大陸の企業にとって英国が最大の市場であることを意味している。たとえばイタリアのフェラーリ社は最近、英国が同社の最大の市場になったと発表した。
・そのうえEU各国の対英貿易収支は明らかに黒字になっている。つまり英国からの輸入よりも、英国への輸出のほうが多いということだ(これは英国がEUとの貿易で損失を出しているということではない。貿易関係から得られる利益にはさまざまなものがあるが、自国で作ると高くつくものを国外から安く輸入できるという点もそのひとつなのだ。さらに言うなら、すべての貿易相手国と収支を均衡させる必要はなく、そうするメリットもない)。
・したがって、英国がEUから離脱すれば、ドイツの自動車メーカーのBMWやメルセデスをはじめ、無数の欧州大陸の企業が、英国との自由でオープンな貿易関係を維持しようと必死になるだろう。そのために彼らは自国政府やEUに働きかけるはずだ。実際、英国のEUとの貿易関係は非常に緊密で広範なので、交渉の過程で英国が特別に有利な条件を引きだすこともできるかもしれない。 考えうる協定の枠組みは、わずかな差異しかないものも含め、数えきれないほどある。
▽単一市場の一員であることは、それほど重要なのか?
・EU支持派が英国のEU離脱の可能性について語るとき、彼らはしばしば、英国が単一市場に「背を向ける」とか、はなはだしきは「閉めだされる」といった言い方をする。これは相当終末的に聞こえる─―そしてそれを意図した―─言葉だ。EU向けの輸出が大きなシェア(おそらく40〜45%)を占める中で、ある種の経済的惨事を予感させるものがある。
・頭に浮かぶのは、一定の閉鎖空間に単一市場が設置されていて、その中でだけビジネスが行われているという構図だ。有価証券が集中的に取引される証券取引所のような空間を考えてもいいかもしれないし、古い市場町にあった穀物取引所のような建物を思い浮かべてもいいかもしれない。そこへの入り口はドアで守られている。EUから去ることはそのドアを背後で閉める――あるいは乱暴に叩きつける――ようなもので、そんなことをすれば市場へのアクセスは失われてしまう……。
・そこまで極端なことにはならないと見る向きもあるが、彼らもまた、英国が離脱すれば単一市場への「完全な」アクセスが失われるという言い方をする。メンバーでない者はその空間の全域ではなく、一部区域に限って入場を許されるというイメージだろうか。あるいは全域には入れるが、月曜日と火曜日だけとか、毎日11時から15時までといった具合に、時間を制限されるイメージかもしれない。
・こうしたイメージはまったくの誤解である。世界中のすべての国がこの空間に入れるのだ。ただしメンバーでない国は入り口である種の入場料(共通域外関税)を払わなければならず、またその空間内で商品を売りに出すには「取引所」のルールに定められたすべての条件と規格を守らなければならない。
・だが、それだけだ。鍵のかかったドアはないし、アクセスの時間制限もない。単一市場のルールや規格に従うという点に関して言えば、それは輸出者が世界のどの市場でもしなければならないことだ。英国が米国に輸出するなら、米国のルールに従わなければならないし、米国の規格に合わせなければならない。中国やオーストラリアに輸出する場合でも同じこと。違うのは、英国がすべての経済分野について米国や中国、オーストラリアのルールと規格に従う必要はないということである。
・単一市場のメンバーにならずとも、単一市場に輸出を行うことは完全に可能だ。結局のところ、米国、中国、日本、インドなど単一市場に加わっていないたくさんの国々が、EUに首尾よく輸出を行っている。彼らはこぞってEUとFTAを結ぼうとしているが、単一市場に加わることは考えていない。だとしたら、英国が単一市場の一員であることがなぜそれほど重要なのだろうか。
▽NAFTA加盟という選択肢
・ここまでに明らかにしてきたとおり、英国はEUから離脱しても、おそらくEUとの間に条件のよい緊密な貿易関係を確立できるだろう。しかし私はそうならないリスクについても認めてきた。このリスクが多くの人々に、英国が世界の中で「独りぼっち」になるのではないかという恐れを抱かせている。上記の議論では、そうした恐れを鎮めるような諸点を示した。
・さらに、英国は世界の多くの国々とFTAを結べるだろう。それだけではない。英国がそれを望むならだが、「クラブに加わる」ことの利点を提供してくれそうな組織が2つ存在する。
・ひとつ目は北大西洋自由貿易地域(NAFTA)だ。美術史家のケネス・クラークはあえてその考えを批判し、こう述べた。 英国人の魂には常に何かロマンチックなものがあった。英国はどんな困難にも屈しないという「軽騎兵旅団の突撃」のような話に、私たちは感動せずにはいられないのだ。EUを抜けてNAFTAに入るという発想の背後にも、同じような心情がある。
・実のところ、英国のNAFTA加盟は決して非現実的な話ではない。米国テキサス州選出のフィル・グラム上院議員も、それを提案したことがある。間違いなくその案は、英国のみならず、米国とカナダでも少なからぬ支持を得るだろう。 EUの一員である限り、英国がNAFTAに加盟することはできない。しかしEUから離脱するなら、話は別だ。これは英国にとって好ましいシナリオになる。なぜならNAFTAに加盟すれば、経済に何らの規制を負わされることなく、北米と自由貿易を行えるからだ。しかもEUを含む世界中の国々やブロックを相手に、FTA交渉を行うこともできる。
・もうひとつ、興味をそそる展望がある。英国は、「英連邦」と呼ばれる素晴らしい国家グループの中心にいる。英国民の意識の中ではこのグループの存在感は薄れつつあるが、GDPの総計は相対的に急速な成長を遂げている。 保守党政権の元閣僚のデビッド・ハウエルも、近著『Old Links & New Ties』の中で、英連邦は英国にとって有望だと主張した。彼は次のように力説する。 英連邦のネットワークは54の独立国(英国王を自国の国王とする16の国々と、38の共和国など)に広がっている。人口は20億人を超えており、全人類のほぼ3分の1を占める。また少なくとも机上の計算では、世界貿易の20%のシェアと、欧州を嫉妬させるほどの成長期待を持つ、経済的巨人である。
・英連邦の成長期待がどれほど魅力的かは、どんなに強調しても足りないだろう。アジアの加盟国に限った話ではない。英連邦には近年力強い成長を見せるアフリカの国々も数多く含まれている。実際、アフリカ経済が20年ほど前の「アジアの虎」たちのように急上昇しようとしていると考える専門家は多い。興味深いのは、意外なことに、英連邦がかつての大英帝国の国々以外にも開かれていることだ。モザンビークとルワンダはすでに加盟した。ほかにも大英帝国に1度も属したことのない国々が、加盟への関心を示している。
・もちろん英連邦に期待しすぎるのは禁物だ。これはEUのような形の経済ブロックではなく、自由貿易圏や関税同盟でさえないのだ。しかし、だから無意味だとも言えない。デビッド・ハウエルも強調するとおり、デジタルでネットワーク化された新世界では、国々のブロックという考え方は次第に時代遅れになりつつある。英連邦が加盟国に提供するのは、貿易を促進する一連のつながりや結びつきだ。その中核には英語という言語と、英国のモデルを基礎とする制度や法の体系が存在する。
・英連邦の投資銀行や英連邦の就労ビザ、英連邦専用の空港の窓口を設けようという提案さえあった。こうしたものが大きく現状を変える原動力になるとも思えないが、英連邦の貿易増がもたらす将来性については軽視しないほうがいい。結局のところ、EUだって欧州石炭鉄鋼共同体から始まったのだ。
▽英国は欧州で最大の経済規模を持つ国となる
・英国がEU離脱後に締結の努力をするべき協定をまとめてみよう。
 +EUとのFTA  +NAFTAへの加盟  +世界のできるだけ多くの国々(中国を含む)とのFTA  +英連邦諸国との連携強化
・このような未来像を考えるとき、英国人の多くは――それに英国以外の人々も――こんなふうに想像する。英国はひどく小さく、取るに足らない国だから、FTA交渉などできないと。それは誤りだ。英国はロシアやブラジルやインドを上回る世界第6位の経済規模を有している。英国は依然として大国なのである。
・その英国が、どうして満足のいく貿易協定を結べないはずがあろうか。米国にはそれができていると私が言えば、「米国は特に大きいからだ」という答えが返ってくるかもしれない。ならばシンガポールはどうかと問えば、「特に小さいからだ」と返されるかもしれない。どうも悲観論者たちの考えでは、国たるものはとても大きいかとても小さいかのどちらかでなければならず、英国は中途半端であるようだ。「小国であるには大きすぎ、大国であるには小さすぎる」としたら、まるで童話「3びきのくま」(主人公の少女が「ちょうどよい温かさのスープ」や「ちょうどよい堅さのベッド」を見つける)の逆バージョンではないか。
・これはナンセンスだ。現実の英国は依然として重要な経済国家であり、他国から見れば大きな輸出市場となっている。英国は(スイスがそうであるように)世界の多くの国々と好ましい貿易関係を結べる地位にある。 それに多くの人々は、世界的な影響力の低下は避けられないと決めてかかっているが、英国はGDPのランキングを堅持するだろうし、いくつか順位を上げる可能性もある。
・人口学的な要因も大きなインパクトを与えそうだ。大規模な移民によって状況が根本的に変わらない限り、ドイツ、イタリア、スペインの人口は減少していくだろう。フランスの人口は若干増加したあとで安定に向かう。一方、英国の人口は目に見えて増えていくだろう。おそらく2050年以降に、英国の人口がドイツを上回ることになりそうだ。
・かくして英国は、おそらく欧州で最大の経済規模を持つ国となる。GDPではブラジルとインドに抜かれるのは確実だが、フランスとドイツを抜くだろうから、世界ランキングは依然として第6位のままだ(これは市価のGDPを比較したもの。購買力平価では幾分違ったランキングになるだろうが、実質的な論点は揺るがない)。
▽英国と日本の関係は変わらない
・英国に投資する日本企業には、意を強くしてもらいたい。ここで声を大にして言っておくが、たとえEUから離脱しても、英国はEUとの緊密な貿易関係を維持するだろう。それにEU離脱は、英国にとっての万能薬ではないとはいえ、一連の機会になることは間違いない。
・忘れてならないのは、欧州のほとんどの国々とは違い、英国の人口統計が有望であることだ。先述したように、これから20年もすれば、英国は欧州で最大の経済規模を持つ国になっているだろう。そしてEUにとどまるにせよ離脱するにせよ、英国は間違いなく日本からの投資を歓迎し続けるし、日本の親しい友人・同盟国であり続けるだろう。
http://toyokeizai.net/articles/-/124401

次に、みずほ総研の吉田健一郎氏が6月24日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「さよなら”欧州”、次の焦点は「脱退通告」 英国とEU、新たな関係構築へ神経戦は続く」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・英国が欧州連合(EU)からの離脱を決めた。1973年の欧州共同体加盟から43年を経て、英国は”欧州”と袂を分かつことになる。
・これから何が起こるのか。当面の注目の一つは、英政府がEUに対して行う「脱退通告」のタイミングであろう。脱退通告はEUからの脱退を定めたEU条約第50条において決められている手続きであり、それが脱退を巡る英国とEUの交渉開始のトリガーとなる(図表1)。英国の国民投票法上は、国民投票で離脱が選択された場合でも、必ず離脱手続きを始めなくてもよい。しかし、国民の意思を尊重し、英政府はいずれかのタイミングでEUに対して「脱退通告」を行うことになろう。
▽「脱退協定」締結までの猶予は2年間
・EUへの「脱退通告」の実施は、「2年後のEU法適用の停止」という期限へのカウントダウンが始まることを意味する。脱退を巡る交渉でどのようなことが話し合われるかについて、50条では特に定められていないが、EUからの脱退日や移行期間、現在英国に住むEU市民(あるいはEUに住む英国民)の取り扱いなどが、話し合われることになろう。50条では、脱退の際に締結される「脱退協定」は、脱退後の英国とEUの関係を決める新協定を「考慮に入れて」話し合われることが定められているため、英国とEUの間の新たな関係性を定めた新協定も同時並行で話し合われる公算が大きい。
・脱退協定や新協定の締結に向けた交渉が行われている2年間は、EU法は英国に引き続き適用される。しかし、EU28カ国全てが交渉の延長に合意しなければ、通告後2年でEU法の英国への適用は停止される。仮に英国とEUの間の協定が2年間で合意に達することが出来なければ、一時的か恒久的かは別としても、英国はEUの単一市場からは外れ、WTO(世界貿易機関)の枠内での貿易取引を行うことになる。この場合、現在よりも高い関税率が英国からEUへの輸出品にかけられ、在英輸出企業の競争力に影響を与えるだろう。通告から2年間はEU法が適用されるため、影響が今すぐに出るという話ではないが、将来的に在英日本企業にも影響を及ぼす可能性があり、日本企業は交渉の進展をみながら、備えをしておく必要があろう
▽秩序だった離脱に向けて綱渡りの状況続く
・離脱を決めた今、英国にとって最も重要となるのは、秩序だった離脱である。これまでのところ、キャメロン首相は投票で離脱が決まった場合の即時通告を表明している。その一方で、離脱派はすぐに通告を実施せずにEUと非公式に協議を実施すべきと主張している。離脱派は一定のめどが立った後で通告を実施することにより、時間切れによるEU法の突然の停止を防ぎ、2020年5月の次回総選挙までに交渉を終了させれば良いと考えている。
・EUへの通告時期を遅らせることは、時間切れによるEU法の適用停止リスクを低下させ、英国が交渉上不利な立場に陥ることを防ぐ効果が期待されている。しかし、EUとの交渉の長期化はそれ自体が大きなリスクであり、集中的な交渉による早期締結も重要だ。金融業や製造業といった英国にとって重要な産業のEUにおける事業展開や、雇用の取り扱いなど先行きの不透明感が晴れなければ、英国経済は大きな停滞が見込まれるだけでなく、金融市場でも株価下落や通貨安が収まらない可能性がある。これは英国経済のみならず世界経済にとってのリスクである。
・EU側の事情を言えば、EUにとっての英国の重要性と主要国の政治日程を併せて考えると、独仏が選挙を終える2017年秋以降であれば、英国に妥協し易いかもしれない。これまでEUと他国が経済協定を結ぶ際には、4年前後の交渉期間がかかっている。EUの政治日程としては、2017年3月にオランダの下院選挙、同年4~5月にフランス大統領選挙、同年8~10月にドイツ連邦議会選挙を控えており、いずれの国でもEU懐疑的な政党が勢力を伸ばしている。国内のEU懐疑政党を勢いづかせないために、当面は、英国に安易な妥協をしにくい環境にある。
▽スコットランドの英国離脱も
・一方で、英国との自由な貿易関係を維持することは、自国に産業を取り戻そうという保護主義的な動機を別とすれば、EU各国の国益にかなっているのも事実である。自動車産業など、英国で対EU向けに事業展開するEU企業は多い。英国経済の長期に渡る停滞はEUにとっても打撃である。
・英国の内政に目を転じると、スコットランドのニコラ・スタージョン第一首相は、今回の国民投票キャンペーンの過程で、全英では離脱支持だったとしても、スコットランドで残留支持が過半数を上回った場合には、スコットランドの英国からの独立を問う住民投票の再実施(前回は2014年9月)に向けた交渉を行う意思を表明している。住民投票を再実施するには英中央政府との合意が必要となるため実現は容易では無いが、再度住民投票となればスコットランドが英国を離脱する可能性が高まる。それは、「グレートブリテン」から「リトルイングランド」への道へとつながりかねない。
▽直ちにEUの終わりが始まるわけではない
・最後に、EUの先行きについて考えてみたい。国民投票を実施するに際し、事前に英国がEUに対して行った権限回復交渉では、EU側は英国を含む各国の主権を強めることに合意した。EU側の妥協の背景の一つは、英国がEUを離脱した場合、各国内のEU懐疑政党が更に伸長し、EUが揺らぐことへの危機感があったと考えられる。現在、EU懐疑政党の勢いはかつてないほど強い。そこに加わった今回の英国のEU離脱は、1992年にデンマークがマーストリヒト条約の批准を国民投票で否決した「デンマーク・ショック」以来のインパクトをEUに与えることになろう。
・しかし筆者は、「ブレクジット・ショック」によって、直ちにEUの終わりが始まるとの立場は取っていない。独仏において、EU懐疑的な政党が政権を握る可能性は今のところ低い。フランスでは、大統領選挙は単記2回投票制であり、初回投票で50%の得票を得る候補がいなければ上位2名の決選投票となる。仮にEU懐疑派の国民戦線党首であるルペン氏が決選投票に進んだとしても、決選投票では反ルペン派が結集し、ルペン氏は勝てないと予想される。ドイツにおいても、ユーロに懐疑的な政党である「ドイツのための選択肢」は、議席を獲得するのに必要な最低得票率(5%)を得て、議席の獲得が予想されるものの、政権入りするまでには至らないだろう。
・これまでEUが成し遂げてきた成果は大きい。第一に、EUは、これまで域内の平和を維持する役割を果たしてきた。第二に、財やサービス取引の自由移動など単一市場の構築は、全ての加盟国にとり大きなメリットである。特に若い世代にとり、EU域内で自由に学び、就職し、居住するという権利は、既に当然の社会インフラとなっている。共通通貨ユーロも同様である。今回の英国民投票における世論調査をみても、若い世代は明確にEU残留支持を示している。
・EUは、今後若い世代に対して、更なる統合の成果を示す必要がある。若い世代がEUへの期待を失えば統合のモメンタムは失われる。その意味では、EU域内において若年層の失業率が高い現状は非常に危惧される。若者の雇用促進に向けた規制緩和や、需要創出による雇用機会の拡大が急務だ。英国離脱後のEUに求められるのは、保護主義の復権では無く、国家、都市、企業、労働者のダイナミズムの復活を通じた経済成長であろう。英国民がEUに突き付けた課題は重い。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/062200373/?P=1

第三に、在独ジャーナリストの熊谷徹氏が6月24日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「反EUのポピュリズムが理性に勝った日 英国のEU離脱決定は、欧州統合の機関車役ドイツにも打撃」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・6月24日、英国の国民投票でEU離脱派が勝った。英国の有権者は、キャメロン首相の嘆願を拒絶し、43年ぶりにEUに背を向ける道を選んだ。実際に英国がEUから脱退するまでには、少なくとも2年間はかかると見られているが、この国がEUと袂を分かつことは確実だ。キャメロン首相は辞任を表明した。離脱によって悪影響を受けるのは、英国の経済界だけではない。長期的には、EUそして欧州統合を最も強力に進めてきたドイツにとっても大きな打撃となる。
・この開票結果は、欧州市民の間でEUへの失望がいかに深く、右派ポピュリズム勢力への支持が強まっているかを示した。英国のEU離脱は、EU政府に相当する欧州委員会に対し、EUの根本的な改革を迫るものだ。英国に追随して他のEU諸国でも、国民投票による離脱の動きが広がる可能性がある。6月24日は、欧州の歴史の中で暗黒の日として記憶されるだろう。
▽英国経済の競争力低下へ
・この決定はまず、6月24日のポンド暴落が象徴するように、英国経済にとって激震となる。同国の輸出額のうち、半分以上をEU加盟国向けが占める。対EU輸出は、英国のGDP(国内総生産)の約15%を稼ぎ出している。また英国の輸入額の約50%も、EU諸国からのものだ。英国はEU脱退によって、単一市場の利点(関税廃止、人と物の自由な移動、自由な資本取引)を失う。英国では輸入品の価格が上昇する。対EU貿易での価格競争力も弱くなる。したがって、同国はスイスやノルウェーのようにEUと交渉して、少なくとも関税廃止などの利点を維持しようとするだろう。
・同国にとって特に大きな懸念は、金融機関の動きだ。英国のGDPの約8%は金融サービスによって生み出されている。ロンドンには、米国の投資銀行、商業銀行など外国の多くの金融機関の欧州本社がある。EU離脱によって、ロンドンはEU域内の自由な資本取引の流れから遮断される。
・国民投票の直前に金融機関に対して行われたアンケートによると、回答企業の33%が「英国がEUから離脱した場合、同国でのオペレーションの規模を縮小する」と答えていた。EU離脱は、欧州最大の金融センターであるシティーで働く人々の雇用を脅かすことになるかもしれない。
・欧州では、「EU離脱によって、多くの金融機関はロンドンから、欧州中央銀行(ECB)があるドイツのフランクフルトに拠点を移すだろう」と予測されている。 日本の外務省によると、英国には約1000社の日本企業が進出し、約16万人を雇用している。同国に拠点を持つ日本企業にとっても、欧州市場戦略を大きく見直す必要がある。
・ドイツのバーテルスマン財団の研究報告書によると、EU離脱が英国経済にもたらす損失は、2030年までにGDPの0.6%~3%に達する。外国企業の数が減少し、失業率が上昇することも避けられないだろう。さらにスコットランドがEU加盟を求めて、英国からの独立運動を再燃させる可能性もある。
・英国にとって唯一の経済的な利点は、EU加盟国が支払う「会費」を納める必要がなくなることだ。英国は現在約86万4000ユーロの「会費」をEUに払っている。しかしこれは英国のGDPの0.5%にすぎない。価格競争力の低下や外国企業のユーロ圏への流出、雇用の減少などのデメリットを相殺することはできない。
・EUにとっても英国の離脱は大きな痛手だ。2015年の英国のGDPは約2兆5690億ユーロで、ドイツに次ぐ第2位。EUは同国の脱退によって、GDPが一挙に17.6%減ることになる。 ドイツにとっても、英国の喪失はマイナスだ。両国の意見はしばしば対立してきたが、英国は南欧の債務過重国の経済を立て直す上で、財政出動よりも構造改革を重視するという点では、ドイツと考え方が似ていた。財政出動を重んじるギリシャ、イタリア、スペインの意見を抑える上で、プラグマティズムを重視する英国はドイツの「盟友」だった。つまりドイツは、南欧諸国との交渉の中で重要な応援団を失うことになる。
▽移民増加と排外主義の高まり
・日本の読者の皆さんは、「EU脱退がもたらす経済的な打撃について再三伝えられていたのに、なぜ英国の有権者はEU離脱の道を選んだのか」と不思議に思われるだろう。この背景には、難民危機を追い風として、英国だけでなく欧州全体で右派ポピュリストに対する支持が高まっている事実がある。
・英国のEU脱退を最も強く求めていたのが、ナイジェル・ファラージ率いる「イギリス独立党(UKIP)」だ。同党の党員数は2002年には約9000人だったが、2014年には約4倍に増えて約3万6000人となっている。2015年の下院選挙で同党は12.6%の得票率を確保。2014年の欧州議会選挙では得票率が28%に達し、英国社会に強い衝撃を与えた。
・英国のポピュリストたちがEUを批判する最大の理由は、EUが政治統合・経済統合を進める中で、域内での移動の自由と他国での就職の自由を促進したことだ。この結果、英国ではポーランドなど東欧諸国からの移民が急増し、ロンドン以外の地方都市を中心として、移民制限を求める声が強まった。英国の反EU勢力は、EUの事実上の憲法に匹敵するリスボン条約を改正し、域内での移動の自由を制限することを求めていた。
・だがEUにとって、域内の移動の自由は欧州連合にとって最も重要な原則の1つだ。ドイツのメルケル首相をはじめとして、他国の首脳は英国のためにリスボン条約を改正することに難色を示していた。 英国のポピュリスト勢力は、「我々はEUが自らを根本的に改革し、加盟国の利益を尊重しなければ、脱退すると再三訴えてきた。だがEUは結局、改革を拒絶した。だから我々はEUから出ていく」と主張していた。
・私の脳裏に去来するのは、ウインストン・チャーチルが1946年9月19日にチューリヒで行った演説である。彼は、この中で第二次世界大戦のような惨劇を二度と起こさないために、欧州大陸の国々が統合し『欧州合衆国』を作るべきだと提唱したのだ。だがチャーチルは、この合衆国に英国は加わるべきではないと断言していた。彼は、大戦中の苦い経験から、英国は欧州大陸とは一線を画するべきだという態度を持っていたのである。英国はユーロ圏(注)に加盟しない道を選んだ時にも、チャーチルのこの思想を実践した。今回の国民投票により、ジョン・ブル(英国人のこと)たちは再びチャーチルの警告に耳を貸したのである。(注)統一通貨ユーロへの通貨統合
▽欧州全体でポピュリズムが台頭
・さて右派ポピュリストが伸張しているのは、英国だけではない。EU離脱派の勝利は、欧州の他の国々の極右政党、ポピュリスト政党にとっても追い風となる。
・欧州大陸で最も過激な反EU政党が、フランスの「フロン・ナショナール(FN=国民戦線)」だ。ネオナチの扇動者の娘であるマリーヌ・ルペン氏率いるFNも、フランスのユーロ圏からの脱退、EUに譲渡された一部の国家主権をフランスへ返還すること、シェンゲン協定の廃止などを求めている。ルペンは、フランスに流入する移民の数を年に1万人に制限するとともに、同国に不法滞在している外国人の強制送還を要求。就職や社会保障サービスについては、外国人よりもフランス人を優先するべきだと提案している。
・2015年12月にフランスで行われた地方議会選挙では、FNが第1回目の投票で27.7%の票を確保し、第一党となった。この選挙結果は、11月にパリで発生した同時テロを受けて、極右政党に票を投じる有権者が増えた可能性を示唆している。2回目の投票では保守連合と左派連合が共闘したためFNは敗北したが、この選挙は特にパリ以外の地域でFNが支持基盤を拡大しつつあることを印象づけた。ルペン氏は、将来フランスの大統領になることをめざしている。
▽ドイツでも右派が躍進
・ドイツは第二次世界大戦中、ナチスに率いられて、ヨーロッパ全体に惨禍を引き起こした。この歴史的事実に対する反省から、ドイツでは極右政党が全国レベルで躍進することはなかった。ときおり極右政党がいくつかの州議会に議席を持つ程度だった。これはフランスとの大きな違いだった。 だが第二次世界大戦後初めて、ドイツでも極右政党が全国レベルで勢力を伸ばしつつある。メルケル首相の難民受け入れ政策に反対するポピュリスト政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の全国レベルでの支持率は約11%。来年の連邦議会選挙で、議席を持つことが確実視されている。 AfDは、今年3月にバーデン・ヴュルテンベルク州、ラインラント・プファルツ州、ザクセン・アンハルト州での州議会選挙で、2桁の得票率を記録した。
・またオーストリアでも極右政党・自由党(FPÖ)が勢力を拡大しており、今年4月から5月にかけて行われた大統領選挙では、同党のノルベルト・ホーファー候補者があと一歩で大統領になるところだった。右派勢力、反EU勢力はオランダ、イタリア、ポーランドなどでも勢いを強めている。
▽市民の不安感が追い風に
・欧州の右派ポピュリスト政党には、共通点がある。彼らはイスラム教徒の移民に批判的であり、多文化主義や複数主義に反対する。彼らは自国民の利益を優先し、リベラリズムに批判的だ。さらに、これらの政党は反グローバリズム、反ユーロ、反EUという点でも一致している。ポピュリストにとって、EUによる政治統合や経済統合は、自国の利益をないがしろにする、グローバリズムの象徴なのだ。
・そしてポピュリストたちは、議会制民主主義よりも、直接民主主義を重視する。ポーランドやハンガリーなど一部の国のポピュリスト政権は、三権分立、言論の自由を制限し始めている。 ボン大学・政治学部のフランク・デッカー教授は、「伝統的な政党に強い不満を抱く市民が増えていることが、ポピュリズム政党にとって追い風となっている」と指摘する。
・多くの国で経済状況が悪化していることから、社会の中で外国人が増え、複数主義的な傾向が強まることに不満を持つ市民が増えている。グローバル化、デジタル化が進む社会で負け組になるという不安が、人々を保守主義に走らせている。さらに、難民危機や無差別テロに対する不安感も、右派勢力を有利にしている。ドイツですら得票率が2桁になるということは、右派政党の支持者が、労働者階級だけではなく、中間階層でも増えることを示唆している。 ちなみに、欧州でのポピュリズムと排外主義の高まりは、米大統領選挙でドナルド・トランプ候補の人気が高まっていることとも重なり合う部分がある。大西洋の両側で、排外主義が勢いを増していることは、不気味だ。
▽エリートのプロジェクトに反旗
・欧州の政治統合、経済統合は政治家、財界関係者、学者、報道関係者などエリートのプロジェクトである。これに対し、欧州各国の庶民は常に懐疑的だった。彼らは統合の深化を「自分の雇用を脅かすグローバル化の象徴」と見てきたからだ。英国のEU離脱は、エリートのプロジェクトに対して、庶民が反旗を翻したことを意味する。欧州委員会では、近年の反EU勢力の伸張を見て、「過去20年間の欧州統合の深化のプロセスは、エリートの利益を優先して、庶民の感情に十分配慮しなかった」と反省する声も出ている。今後欧州のエリートたちが庶民の信頼を回復すべく、統合の今後の道筋について見直しを迫られることは必至だ。
・しかし、時はすでに遅いかもしれない。英国における離脱派の勝利を見た庶民たちは、「国民投票」という武器の重要性を強く認識した。国民投票では、知識や所得水準は関係ない。数だけが勝負を決める。 ドイツには、全国規模の国民投票は存在しない(この背景には、1930年代にドイツの国民が選挙によってナチスに政権を与えたことへの反省もあるだろう)。ただしフランスでは、国民投票は可能だ。将来、他のEU諸国でも英国と同じように、右派勢力が国民投票によって、EU離脱を目指す可能性がある。
・つまり英国を襲った激震は、EU崩壊に向けての第一歩となる危険があるのだ。欧州の地政学的な動きは、スピードを増す一方だ。日本企業にとっても、密度の濃い情報収集がますます重要になる。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/219486/062400017/?P=1

第一の記事については、トップエコノミストが書いたとは思えないような雑な離脱促進論だ。英国が強い立場でEUとの交渉に臨むことが出来ると主張するが、関税はともかく、各種の認証などについての「統一パスポート」は使えなくなり、これも個別交渉で解決していくとすれば、問題はそれほど簡単とも思えない。英国では重要な金融業が受ける打撃についても、この抜粋では触れていない。英国の人口が2050年にはドイツを上回るとの予測は、そうなのかも知れないが、経済の混乱が長引くようであれば、若年人口の流出もあり得るだろう。
第二の記事では、EUとの離脱の条件交渉は、『国内のEU懐疑政党を勢いづかせないために、当面は、英国に安易な妥協をしにくい環境にある』と指摘しているが、この方が第一の記事よりもありそうに思える。
第三の記事で指摘しているように、英国の離脱騒ぎが欧州全体のポピュリズムに「追い風になる」というのも困ったことだ。
今日の日経新聞朝刊は、英国EU離脱問題が実に10頁にわたって掲載されていた。なかでも、興味をひかれたのは、ファイナンシャル・タイムズ紙のチーフ・エコノミクス・コメンテーターのマーティン・ウルフ氏による「長い不確定な時代の入り口」という記事。投票結果は、『政治的、経済的なエスタブリッシュメントに対する反乱でもあった』、『同じような怒りのうねりは世界の様々な国にも存在』として、米国のトランプ氏、フランスのルペン党首、ドイツの「ドイツのための選択肢」などを挙げ上で、『英国が先頭を切って、悲惨な自傷行為に走ってしまった。今や権力を手にしつつあるジョンソン氏やゴーブ氏らは、これまで自分たちが軽蔑してきた専門家の話に頼らざるをえなくなることは皮肉』として、理論的な分析を放棄して心情に訴えるだけだった離脱派を徹底的に皮肉った。
この問題は、日米欧の株式相場に大暴落をもたらしたが、これらを含め今後も適宜、フォローしてゆきたい。
タグ:英国 東洋経済オンライン 国民投票 日経ビジネスオンライン 日経新聞朝刊 吉田健一郎 英連邦 熊谷徹 EU離脱問題 (その3)離脱決定をどう考えるか 英国のEU離脱は、極めて合理的な判断だった 英トップエコノミストが予言していた「崩壊」 ロジャー・ブートル 欧州解体 英国のEU離脱を予言 緊密な貿易関係を続けることが両者にとって大きな利益 英国は強い立場で交渉に臨める ほかのEU加盟国にとって、英国は米国を上回る最大の輸出先 EU各国の対英貿易収支は明らかに黒字 交渉の過程で英国が特別に有利な条件を引きだすこともできるかもしれない 単一市場のメンバーにならずとも、単一市場に輸出を行うことは完全に可能 NAFTA加盟という選択肢 2050年以降に、英国の人口がドイツを上回ることになりそうだ。 さよなら”欧州”、次の焦点は「脱退通告」 英国とEU、新たな関係構築へ神経戦は続く 英政府がEUに対して行う「脱退通告」のタイミング 「脱退協定」締結までの猶予は2年間 EU28カ国全てが交渉の延長に合意しなければ、通告後2年でEU法の英国への適用は停止 単一市場からは外れ、WTO(世界貿易機関)の枠内での貿易取引を行うことになる 離脱派はすぐに通告を実施せずにEUと非公式に協議を実施すべきと主張している。離脱派は一定のめどが立った後で通告を実施することにより、時間切れによるEU法の突然の停止を防ぎ、2020年5月の次回総選挙までに交渉を終了させれば良いと考えている EUとの交渉の長期化はそれ自体が大きなリスクであり、集中的な交渉による早期締結も重要 国内のEU懐疑政党を勢いづかせないために、当面は、英国に安易な妥協をしにくい環境にある スコットランドの英国離脱も EU懐疑的な政党が政権を握る可能性は今のところ低い EUは、今後若い世代に対して、更なる統合の成果を示す必要 反EUのポピュリズムが理性に勝った日 英国のEU離脱決定は、欧州統合の機関車役ドイツにも打撃 欧州の歴史の中で暗黒の日として記憶されるだろう 英国経済の競争力低下へ 移民増加と排外主義の高まり 欧州全体でポピュリズムが台頭 エリートのプロジェクトに反旗 マーティン・ウルフ 長い不確定な時代の入り口 政治的、経済的なエスタブリッシュメントに対する反乱でもあった 同じような怒りのうねりは世界の様々な国にも存在 英国が先頭を切って、悲惨な自傷行為に走ってしまった 今や権力を手にしつつあるジョンソン氏やゴーブ氏らは、これまで自分たちが軽蔑してきた専門家の話に頼らざるをえなくなることは皮肉
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