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英国EU離脱問題(その8)英国が「EUを離脱しない」は本当なのか、英国EU離脱で「欧州と世界」はどう変わるのか [世界情勢]

昨日に続いて、英国EU離脱問題(その8)英国が「EUを離脱しない」は本当なのか、英国EU離脱で「欧州と世界」はどう変わるのか を取上げよう。これは、EU研究の第一人者の北大・遠藤教授が東洋経済オンラインに連載した第2、3回である。広い視野からの深い分析を、学者らしからぬ平易な文章で綴っているので紹介する次第である。なお、第1回はこのブログの7月4日に紹介した。

先ずは、7月9日付け東洋経済オンライン「英国が「EUを離脱しない」は本当なのか 「EU研究第一人者」北大・遠藤教授が予測」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・前回の「英国はEU離脱で『のた打ち回る』ことになる」(6月27日配信)では、国民投票の結果を受け、何がどう起きたのかを分析した。結局、計3回に分けて寄稿することになるが、この第2回と、次の第3回では、今後を占っていきたい。お互い密接に連関するが、便宜上、イギリス・欧州・世界の3つに分けて検討する。ここではイギリスから始めよう。
・あらかじめ、今回(第2回)の中心的なテーゼ(命題)を述べれば、「イギリスは、領域的な亀裂を深め、主流政党による国民統合もままならず、自由民主主義の地盤が緩んだ形となっている」ということになろう。また、第3回では、〈資本主義(グローバル化)=国家主権=民主主義〉の「トリレンマ」(三すくみ)によって、EUだけでなく、世界が揺さぶられるさまが語られるだろう。
▽高まるスコットランドの独立機運
・イギリスはすでに身もだえている。デモが続き、主要政党内では対立が深まっている。歴史的に折り重なった亀裂が、南北、老若、貧富など多くの分断線に沿って走っており、それらが一気に噴き出しといえよう。ここでは、特にイギリスの将来に直結する「2つの活断層」に注目する。
・ひとつは、連合王国(UK)のかたちを左右するエスニシティ(共通の言語や宗教などによる特定の集団への帰属)とナショナリズムにかかわる。周知のように、スコットランドでは独立志向が再燃している。無理もない。同地では、24ポイント差をつけ、明確にEU残留を打ち出したのに対して、人口で勝るイングランド(全英の8割超)が7ポイント差をつけて離脱を志向し、スコットランドの声を圧倒した形となったからである。
・もとよりイングランドとの連合に違和感があり、イングランド優勢のウェストミンスター議会によって自分たちの命運が左右されるのを快く思っていないところに、リーマンショック(2008年)後の保守党政権は超緊縮政策を強行。スコットランドの重視する福祉が削られ、不満が募っていた。それでも2014年の住民投票で、独立が10ポイント差で否決され、しばしそれは封印されていた。
・今回の国民投票は、寝た子を起こしてしまった。スコットランドのニコラ・スタージョン首席大臣(首相、国民党=SNPの党首でもある)は、離脱派の勝利を受け、「EU残留を選択したスコットランドの声を尊重しなければならない」とし、再度の住民投票を選択肢の一つと明言した。独立に向けて問題点を洗い出すため、有識者や実務家による諮問委員会を設置したうえ、ブリュッセルを訪れた。
・同地では、欧州委員長や欧州議会議長などとも面会し、スコットランドのEU残留の道を模索しているが、スペインやフランス政府からは反対されている。イギリス政府が、EU脱退手続きを定めたリスボン条約50条のボタンを押し、離脱交渉を本格化させれば、規定により2年後には脱退が完了してしまう可能性が極めて高い。それまでに独立を獲得し、EUへの残留を継続できるか、瀬戸際だと考えているのである。したがって独立への機運が改めて高まっており、UKの国家的統一が危ぶまれているとまではいえよう。
▽UKは生き残る?スコットランド独立の「3つのハードル」
・けれども、機運の高まりと独立の達成との間には大きな開きがある。言い換えれば、独立はそう簡単ではなく、多くの障害がある。ここでは、3つ挙げよう。
・第1に、憲法的な問題がある。2014年の住民投票が効力を持ったのは、実は事前にUK政府とウェストミンスター議会がその投票の実施を認めたからである。その権威づけなしに実施されるということになれば、法的には単なる自発的な投票サンプル調査とみなされかねない。その場合、たとえ住民投票にたどり着いたとしても、2014年11月にスペインのカタルーニャで行われた独立投票のように、効力のないものと中央政府に一蹴される可能性もある。
・第2に、経済社会的な問題がある。近年の原油価格の下落で、北海油田からの収入が当てにならなくなっているのを脇においても、EUから離脱したUKと、独立後のスコットランドとがどのような関係を結ぶのか不明確なままである。2014年投票時にも深刻な争点となった通貨の問題は解決していない。UK政府が、当時「もし独立なら、その後のスコットランドはポンドを使うのを許さない」としたこともあり、多くの有権者が不安を覚え、独立に反対した。ユーロ圏に加盟できるのは(すでに独立した)国家であり、しかも財政状況や移行期間を含め厳しい条件が課される。簡単にポンドから切り替えられるわけではない。
・そもそも、離脱したUKから独立するには別の大きな問題も抱える。というのも、UKがEUにいれば、スコットランドが独立しても、加盟国同士、共通市場や人の自由移動を維持できるが、離脱後の独立は、EU内のスコットランドとUKという域外国との間に、物や人の移動を阻害する国境をつくってしまう。
・スコットランドの対EU貿易は、石油やガスを除いた2014年の数字で、UK向けの4分の1ほどでしかなく、その比率は前年比で減っている。まがりなりにも、300年ほど連合を形成していた2つの間で、こうした往来上の障害が生じるときに、人びとが抱える不安や不利益は大きいものとなろう。これは、EUとUK、あるいはスコットランドとUKが物や人の自由移動について協定を結ばない限り、新たに生起する問題である。
・第3に、政治的な問題がある。つまり、こうした諸問題を抱えながら、もし数年の間に2度目の独立否決という投票結果に終わった場合、単なるスコットランド政治指導部の責任問題では済まない。ちょうどカナダのケベックで起きたように、数世代にまたがり、独立は封印されるであろう。そのリスクを冒すかどうか、当然に躊躇が見込まれる。じっさい、スタージョン首席大臣(首相)は、数々の手を打ちながら、独立を問う住民投票についてコミットするのを慎重に避けているのが現状である。
・それでも、独立への希求を抑圧するのは困難である。経済面で一時的に混乱しても、いったん独立し、自国通貨を刷り、EU加盟を待ち、UKと物や人の移動について友好的な協定を結ぶシナリオが排除されるわけではない。したがって、たとえ短期的には独立がむずかしくとも、中長期的にどうなるのか、事態を注視する必要がある。
・なおここで北アイルランド情勢にも触れておくと、全体では55.8%対44.2%で残留を求めたものの、スコットランド同様に、イングランドに圧倒された形となった。 より詳しく見ると、さらに問題が浮かび上がる。UKとのつながりを重視するユニオニスト(主にプロテスタント)と、逆にアイルランドとの紐帯を重んずるナショナリスト(主にカトリック)とのあいだで、投票行動が真逆となった。 たとえば、北アントリムのようなプロテスタント地区では倍近いスコアで離脱派が勝利したのに対し、カトリック地区のフォイルでは4倍もの大差で残留派が離脱派を上回った。これは、宗派やエスニシティごとに支持政党が全く異なるボスニアで見られる投票行動と大差ない。
・離脱派の北アイルランド首席大臣(首相)アーリーン・フォスターは、国民投票の結果を妥当とした一方、かつてIRA(アイルランド共和軍)指導者だった残留派の副首席大臣マーティン・マクギネスは、さっそく北アイルランドはアイルランドとの再統一について住民投票すべきと発言している。長いあいだ反目してきた両派は、UKとアイルランドの双方がEU加盟国だったことも手伝い、対立が収まっていたわけだが、今後に懸念を残した。当面、EU加盟国であるアイルランドと離脱を余儀なくされる北アイルランドとの国境や物・人の往来がどのように展開するのか、まずは見守る必要がある。
▽「国民統合機能」を果たせない政党
・以上がイギリスの国家統合における領域的亀裂を示唆しているのに対し、階層的な分断を経由して、政党による国民統合もまた、機能不全にさらされている。 周知のことだが、ここ1世紀近くのあいだ、イギリスの政党政治では保守党と労働党が支配的な地位を占め、1人区の勝者総取り形式の選挙制度もあいまって、自由党→自由民主党(1989年10月以降)が小党にとどまり、第3党として主要両党に絡むというのが、基本的な構図であった。それらの政党は、国民の声を吸い上げ、議会をつうじて統治機構へと接続するつなぎ目に位置し、大切な国民統合の機能を果たしていたのである。
・しかし、2015年総選挙では多党化し、地域政党化の様相も示した。単独過半数を得て勝利した保守党のみならず、労働党も得票率は増やしたのだが(議席は減)、自民党は壊滅し、57から8に議席に減らした。逆に、スコットランド国民党SNPが議席を6から56に急増させて第3党になった。イギリス独立党も得票率では第3党に当たる12.6%を得た(議席は1のみ)。SNPはスコットランド特有の現象であり、イギリス独立党は基本的にイングランドに基盤を持つ(一部ウェールズにも浸透しているが)。 問題は、多様な声を糾合し、草の根と政権、イギリスと欧州・世界とをつないできた2大政党にある。
▽右傾化する保守党、危機に陥った労働党
・もともと親欧の政党であった保守党は、サッチャー政権末期から欧州政策で対立しはじめ、その後21世紀に入ってイギリス独立党に引きずられるように右傾化し、反EU色を強めた。 今回の国民投票では、保守党は、支持者間、指導者間、支持者と指導者の間に深い亀裂をあらわにした(概数で支持者は6対4で離脱を選んだのに対し、議会の保守党は2対1で残留志向)。
・のみならず、国民投票の過程では、とくに保守党離脱派(とイギリス独立党)指導者のあいだで、デマや虚偽すれすれの言説がはびこった。EUへの純拠出金を(週3.5億ポンド=約450億円も持ち出していると)過大に見積もっただけでなく、「脱退時にはそのお金を国民の医療サービス事業(NHS)に回せる」と吹聴したあげく、投票後は舌の根も乾かぬうちに、そうした主張と距離を置くというのは一例に過ぎない。「トルコの加盟が間近で、残留の暁にはもっと多くの移民が押し寄せる」というデマも、繰り返し語られた。
・政治には、多様な声を束ねる機能がある。あちらを立てればこちらが立たずということは多々あり、平和や正義など上位の理念で括ったり、最大多数の最大幸福の合理性を説いて説得したり、だめなら保障や補填を試みたりすることで、異質な他者との間に秩序を保とうとする。しかし、デマや虚偽で民衆をあらぬ方向に引っ張るというのは、短期的な政治的利益を上げることはできても、中長期には政治が拠って立つ基盤を壊しかねない。
・保守党の離脱派は、イギリス独立党に引きずられて政治を劣化させた挙句、イギリスの民主政に深い爪痕を残した。国民投票後、フィナンシャル・タイムズ紙にコメントを寄せたある読者は、それを「脱事実民主政(post-factual democracy)」と名付け、話題を呼んだ。イギリスのみならず、アメリカのトランプ現象などにも通じる傾向である。
▽なぜ労働党が「より深い危機」にあると言えるのか
・一方、労働党の支持基盤では離脱志向が強まり、深い亀裂が残ったままである。例外はロンドン、マンチェスター、リヴァプールなどの大都市であり、そこには典型的にガーディアン紙を読む進歩的・国際的なリベラルが住んでいる。 他の多くは、下層から中流の労働者が集まる町におり、雇用を脅かすとして移民を警戒し、EUへの親近感は持ち合わせておらず、おおむねグローバル化の負け組に位置する。
・今回の国民投票で残留を呼びかけた労働党の現有議席ごとにシミュレーションすると、150選挙区が離脱に入れ、残留に入れたのは82に過ぎなかった。おおよそ、65%対35%である。言い換えれば、議席保有区の約3分の2で党の方針と異なる投票がなされたことになる。亀裂は、上記の国際的・進歩的リベラルと中流以下の労働者とのあいだに走っている。
・つまり、これらの150の労働党の選挙区は、次期総選挙でEU懐疑主義的な保守党や反EUのイギリス独立党が議席奪取を狙う草刈り場となるのである。国民投票後、いかに労働党が実存的な危機を迎えているか、見て取れるだろう。
・この背景にあるのは、前回でも触れたグローバル化とEU統合の一体化(イメージ)に対して疎外感を強める中間層・労働者の姿である。彼らは、他の多くの先進国の例と同様、実質賃金が伸びず、雇用が不安定化するなかで、首都中心部との格差を感じ、グローバル化とそれに連なる政治エリートに対して反感を覚えている。
・それらすべてをつなぐ最重要な要因が移民であり、その移民を可能にするEUとそれを支持する政治家もまた、排すべき対象となる。EUは、もはや彼らにとって労働者を守らないグローバル化の別働組織でしかない。このイメージは、イギリス独立党の支持者たちのEU観と大差はない。
・この中間層・労働者が右(や一部左)に流れ、穏健中道が沈没するとき、EUの基盤である自由民主主義自体が劣化する。根っこにあるのは、その層を無策のままエンパワー(支援)できないでいることなのである。
・デマや虚偽は、イギリスらしさの対極にあるものと、ながらく観念されてきた。日本人の多くにとって、それは古くは紳士(や淑女)の国であり、ごく最近まで2大政党が政権交代を繰り返すなか、穏当な漸進改良主義を実践する議会制民主主義の母国であった。
・イギリスの政治に対する肯定的なイメージは、日本に限ったことではない。例えば米国に亡命し活躍した著名なユダヤ人政治哲学者のハンナ・アーレント(1906-1975)は、人知れずイギリス好きであった。そのわけは、同国が反自由民主主義に対する抗体を持ちあわせているからであった。 彼女の代表作の一つである『全体主義の起源』では、帝国主義を介して、支配する国外で醸成される人種主義のような邪悪が国内に逆流してくるなか、先進帝国に全体主義が植えつけられてゆくさまが描かれている。ドイツやフランスと異なり、その逆流を押しとどめ、自由民主主義を維持するイギリスへの敬意もまた、時折顔をのぞかせる。
・しかし、いまやそこここに小トランプや小サンダースが散見され、グローバルな自由民主主義の劣化の波にのみ込まれてしまった。深慮、自己相対化、諧謔(ユーモア)など、イギリスから連想してきた性質が影を潜めた。これは、長い目で見たとき驚きである。「イギリスよ、お前もか」という感を強くする
▽もし「離脱ボタン」を押さないと、どうなるのか?
・さて、イギリスの自由民主主義のゆくえは中長期的に見守っていくしかないものの、短期的には、EUの離脱のあり方が問われよう。その是非、形態、時期などについて、百家争鳴の様相を呈している。
・散見されるのが、離脱は結局起こらないとする議論である。国民投票はあくまで「諮問的」でしかないから、主権者である議会はその結果に拘束されず、残留派が多数を占める議会は、結局離脱を選択しない(具体的にはリスボン条約50条の手続き開始を決定しない)というのである。
・この手の議論は、基本を間違えている。純粋な法的議論では、「男を女に変え、女を男に変える以外は何でもできる」議会は万能とされるものの、政治的に今回の国民投票をひっくり返すのは極めてむずかしい。  まず、過度な法的抽象論を離れ、基本的事実を見つめよう。「主権」的な議会は誰に選ばれているのか。それは国民である。その国民が、形式には諮問的であれ、総意を表明してしまった。それが国民投票である。その直接的な意思表明は、間接的な意思決定である議会の立法や採決に対し、相当な政治的正統性を帯びる。イギリス憲法史の権威でもあるヴァーノン・ボグダノー教授はこう述べた。「国民主権は議会主権より深い」。ほぼ間違いなく、議会は国民の声を尊重し、EU離脱に向かうだろう。
・仮に議会が離脱ボタンを押すのを拒否した場合、どんな事態を生むだろうか。恐らくカオスである。今回の投票がかなりの程度、反エリート主義に動かされているのが明らかななか、やっとEUからの「独立」を勝ち取った人々はそれにどう反応するだろうか。投票後に行われた残留派のデモ程度では済むまい。 仮想できるシナリオは、「リスボン条約50条ボタン」を押すのを引き伸ばし、政府や議会が時間稼ぎをすることであろう。しかし、これでは、国民投票の結果を打ち消せはしない
▽国民主権と議会主権がねじれれば深刻な憲政危機に
・とすると、いずれかの政党(指導者)が残留を正面から掲げて、総選挙を闘うシナリオが理論的に仮構しうるが、それは正面から、何のための国民投票だったかと、意味(権威)を国民に問うてしまう。一度結論を出した国民に、同じことを総選挙が問うとき、国民主権と議会主権とは競合する。それを国民はどう受け止めるだろうか。特に、国民の多数が離脱を表明し、議会選で残留派が再度多数を占めて、結果がねじれたとき、深刻な憲政危機をもたらしうる。
・なお、総選挙で残留を問うたとしても、残留派が勝利するかどうかはかなり疑問である。今回の投票を総選挙の区割に落としてシミュレーションすると、421対229で離脱派が勝利することになる。この差は、1997年のブレア労働党による地滑り的勝利よりも大きい。
・結果として、次期首相を決める保守党の党首選で、残留を説く候補は一人もいなかった。先頭を走る内相テリーザ・メイ内相は控えめな残留派だったが、国民投票後「離脱は離脱」と明言し、他の選択肢を否定した。政府の交渉方針を2016年内に固め、しかるのち、おそらくは年が明けてから50条を発動し、交渉を開始するという見込みに言及しており、彼女が保守党党首(首相)になれば、多少のずれはあっても、そのようなスケジュール感で進んでいく可能性が高い。
・同じく議会路線で、EU離脱はするが単一市場には残るべきと公約し、総選挙を闘う政党(指導者)がでる可能性も排除できない。それに勝てば、離脱はするけれども、EUとノルウェーのような関係をイギリスが結ぶことが可能になるかもしれない。 しかし、そうすると、EU移民は自由往来し、拠出金は払いつづけることになる。今回の国民投票の結果(および総選挙で負けて退陣する可能性)をまえにして、そのような経済的合理性を説き、政治的突破力を発揮する指導者が現在のイギリスにいるとは思えない(全盛期の元保守党政権蔵相ケン・クラークが後継首相だったら、と思わないではないが、それは妄想に過ぎない)。
・そうすると、せいぜい出来るのは、「ステルスによるノルウェー型の関係構築」であろう。つまり、遅延ののち、忘れた頃に目立たぬようEUと手打ちをし、単一市場へのアクセスを維持するというシナリオである。ただし、それはやはり、正式にEU離脱を意味する。 従って、国会の法的権威だけで、今回の根本的結果、つまり離脱の決定じたいをひっくり返すのは無理と思われる。
・もちろん、国民投票のやり直しは可能である。結果を残留へと覆すなら、それしかないのではなかろうか。このシナリオは、離脱交渉が不利に終わり、経済的な大不況がイギリスを襲った場合、数年内に実現する可能性もないわけではない。そうでなくても、10-20年のスパンで見たとき、EUへの再加盟を問う可能性もある。とはいっても、そこでEU(再)加盟派は勝利するとも限らず、またEUがどうなっているかもわからないのである。 第3回は7月中旬の予定です。
http://toyokeizai.net/articles/-/126350

次に、第3回目の7月16日付け東洋経済オンライン「英国EU離脱で「欧州と世界」はどう変わるのか EU研究第一人者の北大遠藤教授が分析」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・イギリスの離脱により欧州連合(EU)はどうなるのか、世界にとってそれはどういう意味を持つことになるのか。連載の最終回(第3回)である今回、この問いに取り組みたい。
▽EUのダメージをできるだけ正確に推し測ってみよう
・今回の国民投票は、EU史上初めて、一国家が脱退することを意味する。大げさに言えば、それは世界史的な事件である。EUは間違いなくすでにダメージを受けたし、これからも受ける。その先、ダメージをフェアに推しはかることが大事なのだが、それは簡単な作業ではない。 実際、直後の反応も見事に割れている。例えば一方では、欧州議会議長シュルツは「これはイギリスの危機であって、EUの危機ではない」とし、他方では、投資家のジョージ・ソロスは「EU解体は事実上不可逆」という。そういうときは、事実から入り、そののち徐々に目に見えない影響に移るのが良い。
・まず経済から入ろう。イギリスは世界第5位のGDPをもち、EU域内ではドイツに次ぐ第2位の経済体である。のみならず、世界じゅうから資金を集め、金融ネットワークを張りめぐらす大国である。その力がEUから抜けていくとき、相応のダメージは避けられない。
・今後英欧間でどのような貿易投資体制が組まれるのか、まだ見通せないが、その行方によっては、EU27ヵ国の1000億ユーロ(約12兆円、1ユーロ120円で換算)ほどに上る対英黒字が大きく減少する可能性がある。 ただし、EUの対英貿易はEUのGDP全体の3%ほどにとどまるので、アイルランドなどへの局所的ダメージを除き、それだけで全体に深刻な影響が出るとは思えない(後述のように、イタリアを発火点にユーロ危機と連動すると厄介であるが)。
・いずれ英欧間で自由貿易圏の形成がなされる可能性が高く、その場合には影響は軽微だろう(逆にイギリスの対EU貿易はGDPの13%を占めており、得意とする金融サービスなどが自由貿易から除外される可能性もあり、その場合イギリスへの影響より大きいと思われる)。
・次にEU予算は第2位の拠出国を失い、影響は避けられない。2016年の数字で、イギリスは194億ユーロを拠出し、70億ユーロほどを受け取ることになっている。とすると、純拠出額は124億ユーロだ。EU総予算(支払いベース)は約1440億ユーロだから、概数で17兆円のうちの1.5兆円(約9%)の穴があく。ドイツのIFO研究所は、そのうちの25億ユーロ(3000億円)ほどをドイツが担うことになると計算している。
・社会的にも、EUは影響を受ける。2015年末の数字で、約120万人の東欧移民をはじめ、約300万人のEU市民がイギリスに住んでいる。最多はポーランドで約85万人、ルーマニアから17.5万人、リトアニアから15.5万人ほどとなっている(他方、EU在住のイギリス人も120万ほどいる)。これらの人々の法的地位、母国への送金(額)、他のEU諸国に迂回する移民(数)などの行方によっては、影響を受けるEU加盟国が出てこよう。
・さらに、外交・軍事についていえば、EU共通外交安全保障政策においてイギリスがもつ存在感は加盟国の中で頭一つ抜けていた。つねに先頭に立ち積極的に主導したわけでなくとも、「EU戦闘群(battlegroups)」の展開、「アテネ・メカニズム」に基づくボスニアやソマリアでの作戦、その他テロ・薬物対策や対外諜報・内務情報などでも、それなりに頼れる存在であった。 旧帝国時代からのネットワークやアメリカとの「特別な関係」が、EU諸国にとって必ずや資するものだったとは言えないが、同国が培ったそうした外交資源や経験は、目に見えない財産でもあった。それは、世界的に物事を考え、自由で開放的な経済を維持するという気質をもEUに対してもたらし、NATOなどとの橋渡しをよりスムーズなものにしてもいた。これらのプラス面は、イギリスがEU加盟国でなくなることで目減りし、EUを変質させていく可能性がある。
▽EUは「ドイツ色」に染まるのか?
・これとは別に、イギリスがEUから離れると、ドイツの覇権が強まると多くが言う。一面ではその通りであるが、おそらくそれだけでは、現状をつかみきれない。 まず、ドイツ支配の強化について。欧州統合史を紐解くと、そもそもド・ゴール大統領の下、1960年代に2度もイギリス加盟をブロックしたフランスが、跡を襲ったポンピドゥー大統領の時代にそれに向け積極姿勢に転じた背景には、西ドイツ・ブラント政権が「鉄のカーテン」を超えて東方外交に乗り出したことへの対抗があった。 つまり、フランスが一方的外交を始めた西ドイツを前にイギリスを利用しようとしたわけで、1973年のイギリス加盟(当時はEC)は、大陸の勢力均衡のなせる業でもあったのである。
・今回の文脈で重要なのは、その重石としてのイギリスが離脱を決め、しかもそのタイミングがドイツの興隆期と重なっている点である。 周知のように、ドイツ経済は好調で、経常収支、失業率、産業競争力などの指標で群を抜いている。イギリスなき後、ドイツの向こうを張れる唯一の国であるはずのフランスは、比較相対的に低成長、高失業に悩み、停滞している(その点ではイタリアも同様)。 のみならず、フランス社会党出身のオランド大統領は国内政治基盤が脆弱で、極右の国民戦線(FN)が反EU姿勢を鮮明にするなかで国論は割れ、相対的に安定しているメルケル首相下のドイツと好対照をなしている。もともとオランド氏は、ドイツ主導の緊縮財政を打破するという選挙公約のうえで選出されたのだが、それを守れず、同じ志を持つイタリアのレンツィ首相と組んでも、オランダやフィンランドと連携するドイツ主導の態勢を崩せずにいる。
・ウクライナ問題の解決に向けたシャトル外交でも、結局は主導するメルケル首相についていくのが精いっぱいだった。2016年に起きたパリ同時多発テロの後、シリアへの空爆を実施した際には一時的にオランド大統領の支持率が上がり、難民危機で揺れたドイツでメルケル首相の権力基盤が緩んだ時期があった。だが、それぞれの問題が落ち着くにしたがい、元のさやに納まってしまった。
・非力なフランスが、単独で構造的に優位にあるドイツに対抗するのは当面は困難だろう。他の諸国を頼みにしようにも、ドイツを支持する国もあり、オランド大統領が対ドイツ連合を主導できるわけもなく、かつて頼みにしたイギリスはすでにもうそこにいない。せいぜい彼にできるのは、なるべくメルケル首相のそばに立ち、欧州の権力中枢に位置してみせるだけである。
・ただし、欧州の国際政治を強大なドイツのくびきの下にあると描けば済むかというと、そう簡単ではない。というのも、ナチスを経験したドイツは、伝統的に自らへの不安(独語でAngst=アングスト)を育んできているからである。 かつてヘルムート・シュミット元首相は、「ドイツ人は恐れる傾向にある。ナチス期と戦争以来、それは意識の一端を占めてきた」と述べた。この不安ゆえに、自分の権力性にスポットライトが当たるのを嫌がるのである。
・もちろん、ドイツ人は自信を取り戻し、ときに傲慢に振る舞うようにもなった。しかし、この意識は簡単にはぬぐえず、厄介な現れ方をする。先に述べた緊縮財政も、自らが権力的に課したというよりは、規律やルールの陰に隠れ、それが経済的合理性をもつという観念の下で実行される。その「合理性神話」が、自らに関するもう一つの神話、つまり勤勉家・節約家であるという自意識や成功体験と結びつき、手に負えないほど、硬い国民的なコンセンサスをなしている。  このドイツに、自らの図体が大きくなり、その一挙動が権力性を帯びてしまったという自覚は薄く、それに見合う責任意識は生まれない。したがって、緊縮を緩め、投資を促し、場合によっては債務を軽減することで成長を呼び込み、そのことでヨーロッパじゅうの中間層の厚みを増すという、客観的に欧州経済を円滑かつ持続可能な形で運営していくための措置は取られないままである。
・言ってみれば、いまのドイツは戦間期のアメリカに近く、自身の権力と責任(意識)とが見合っていない状況にある。じつは、いま欧州で必要とされるのは、責任に見合ったより一層のドイツの権力行使であり、正しい権力の使い方なのだが、「ドイツの覇権が復活した(ので警戒せねば)」とだけ述べる多くの言説は、その必要を覆い隠してしまうのである。
▽「崩壊のボトムライン」はどこにあるのか
・こうして中途半端なドイツの権力と責任感の下で、欧州経済社会は窒息する。そのなかで、不満分子は当然増え、反EU機運が盛り上がる。それを担うのは、イギリス同様、グローバル化=EU統合でないがしろにされてきたと感ずる中流以下の層である。
・そうした反EUの勢力が目を付けるのが、国民投票という手法であろう。もうすでに去る2月の段階で、難民問題についてオルバン・ハンガリー首相は国民投票にかけると示唆していた(日取りは10月2日とイギリス投票後に表明)。また4月6日、オランダではウクライナとEUとの間の連合協定という枢要とはいいがたい争点を国民投票にかけ、結果は批准の拒否であった(約32%の低投票率のなか61%が反対)。
・こうした流れの中で起きたのが、イギリスの国民投票である。この先、大陸諸国の右派が、ときの政府権力を揺さぶり、EUの加盟かその中心的な政策を問うため、国民投票という手法に訴えかけるよう動くに違いない。フランスのマリーヌ・ルペンFN党首やオランダのウィルダース自由党党首は、離脱を問う国民投票への意欲をあらわにしている。
・そこここで加盟や政策が問われ、ときにそれが成功するとなると、EUは立ち行かなくなる。そのたびに停滞・麻痺し、域内で人の移動の自由を可能にするシェンゲン協定を維持したり、ユーロ圏を守るための必要な措置を採れず、ますますEUは信頼を失うこととなろう。
・では、EUは崩壊するのかというと、それもそう簡単ではない。戦後ずっと欧州統合に投入してきた政治的資本は莫大で、いまだに一国で保全しきれない平和・繁栄・権力を共同で確保する枠組みとして、EUはエリートのみならず、多くの人のあいだで不可欠なものと認識されてもいる。
・そのうえで、それが崩壊・瓦解するときのボトムラインを確認しておくと、それは、独仏のような中枢国で、民主主義が排外的なナショナリズムによって劣化し、たとえば仏FNや「ドイツのための選択肢(AfD)」のような反EUの右派政党が伸長した挙句、その支持がなければ政権や予算が成立しないという状況になったとき、EUは真に内破の危機に陥る。それ以外の国々でも、イタリアやオランダなど原加盟国を含めた大多数の国でそのような状況になれば、やはり流れ解散のような状況になりうる。
・けれども、そうした内破シナリオが現前にあるわけではない。フランス大統領選は、第1回目で過半数が取れなければ2回目の投票がある仕組みで、通常、たとえ極右勢力が第2回目の投票に勝ち進んでも、左右の穏健中道勢力が多数で上回る。 2002年選挙では、2回目で中道右派のシラク大統領とジャン・マリ・ル・ペンFN党首(現在のマリーヌ党首の父)が戦い、シラクが勝利した。マリーヌの支持率は25~28%であることが多く、2017年初の大統領選では2回目に進む可能性が高いものの、多くがそこで敗退すると見込んでいる。ドイツでも、州レベルでAfDが票の4分の1を取った例はあり、2017年9月の総選挙でその躍進は確実視され、社民党の弱体化が懸念材料であるけれども、主要政党の連立によってその事態を乗り切るのではないかと予想されている。
・また、もっとも欧州懐疑的な国の一つであるデンマークでも、イギリス国民投票をはさんで、EU加盟の支持率が59.8%から69%へと目に見えて増加した(フィンランドでは56%から68%へ)。 オランダにおいても、ウィルダース率いる反EU・排外主義的な自由党が興隆しているが、過半(53%)が国民投票に反対しており、150人の国会でイギリス投票後に出された国民投票動議を支持したのはたった14人だった。
・その他、ハンガリーやポーランドなど東欧諸国における反EU勢力には留意が必要だが、これらの国がオーストリアなど他国と歩調を合わせてEU倒壊に向かう可能性は低く、仮にそうなったとしてもそうした勢力の伸長が同地域にとどまり、中枢にその影響が直接及ばない限り、そう大きな事態にはならない。
・独仏に続いて重要度が高いのは、イタリアであろう。同国では、欧州懐疑主義的な要素を含む「五つ星運動」が2013年総選挙で単独政党としては第1党となり、その後も勢力を保ち続けている。これが、秋に予定されている上院改革に関する国民投票などを機に、さらに勢いづき、EUやユーロの加盟に関する国民投票を仕掛けてくるような事態は考えられる。またその際、ユーロ危機がイタリアの銀行危機に連動しているというシナリオも排除できない。しかし、それらは想定はできても、まだ可能性の高いシナリオではない。
▽基本シナリオは「崩壊」ではなく「再編」
・こうして、特に独仏における政党政治が底抜けすると、EUが内破するというのがボトムラインであり、それが当面ありそうにないとすると、今回のイギリス国民投票はEU崩壊・瓦解でなく、再編をもたらすものとなろう。えてして、もうEUは終わったという言説が氾濫する時代である。そのことはここで確認しておきたい。
・問題はその再編がどういう形を取るかである。基本を確認しておくと、EUは機能強化、集権化、つまり統合を必要としている。ユーロ圏においては銀行同盟が不完全で、財政統合にいたっては、各国財政の相互監視を体系化しただけで、共通予算や財務省(大臣)、財政移転などは共通通貨を中長期的に円滑に運営するのに必要なのに、実現のめどはたっていない。
・域内で人の移動の自由を可能にするシェンゲン体制についても同様である。外から来る人を制御しないとそれは成り立たないが、域外国境管理の強化はまだ緒に就いたばかりである。また、域内で犯罪者やテロリストが自由移動するのを追跡・捕捉するのに、各国政府間の内務警察協力が不可欠だが、不十分なままである。 これらが進まない理由は、それぞれドイツの反対や各国警察当局の猜疑心など様々だが、他方で、必要とされる集権化は、別の論理でも構造的に制約される。すなわち民主主義の論理である。
・EUは直接選挙による欧州議会を持つが、それと人々とのつながりは弱く、民主的正統性は希薄なままである。 そもそも欧州次元の民主的政体を支える「欧州人」はほぼ存在しないといってよい。政治的公共空間は各国ごとに分断され、そのナショナルな空間でのみ民主主義が機能している。したがって、イギリスが国民投票をすると、それに対抗できる欧州大の正統性は創り出しえないのである。
▽EUは構造的に行き詰まっている
・「皆で決めた」という正しさ感覚が欠如したなかで集権化をすると、どういう根拠でEU(あるいはよく表象される言い方だと、EUの首都「ブリュッセル」)がその権限を持ちうるのか、すぐに異議申し立ての対象となる。だから、EUは前に進めないのである。
・さらに、もう一つの深刻な問題が現在のEUには忍び寄っている。それは、人権や法の支配といった基本的な価値が深く共有されておらず、各国ごとにまだらなことである。周知のことだが、現在のポーランドにおける「法と正義」党政権は、反自由主義的な政策を打ち出し、裁判所やメディアの独立を脅かしている。 ハンガリーのオルバン首相は、風見鶏のようなところはあるものの、権威主義的であり、難民流入時においてみせたように、ときに排外主義的でもある。オーストリアでは、5月の大統領選挙でこそ、緑の党の候補が僅差で極右自由党のそれを退けたが、のちにその結果は破棄され、今秋やり直しの選挙が行われる。EUがみずから立脚すると、ありとあらゆる公式文書に書き入れてきた基本的な価値が、このように蝕まれるとき、それは理念的な危機を迎えているということを意味する。
・EUはこうして構造的に行き詰まっている。ここから先は推察の領域だが、もし上記の民主的正統性の希薄さや周辺国における反自由主義の興隆という事情が変わらないとすると、集権化の意思を持つ中核的な加盟国が再結集し、EUの枠内で一層の統合を推し進める可能性がある。 その場合、現在のEUを構成する28加盟国よりも狭いサークルで、独仏などの原6加盟国を核とし、そこから現在19か国のユーロ圏までの幅で、理念と意思を確認しあい、必要とされる措置を先行的に取っていくことになろう。
・これは、EUの同心円的な再編シナリオである。言ってみれば、「1部リーグ」が原加盟国に数か国を加えたインナーにより形成され、「2部リーグ」にそれ以外のEU加盟国が残る。1部と2部を分ける論理は、いくつか考えられるし、相互に排他的でもなかろうが、たとえば人権や法の支配で劣後すると考えられる国は「2部落ち」を余儀なくされよう。他にも、通貨統合への持続的参加が危ぶまれる国も「2部落ち」の可能性がある。さらにその外縁に、非EU加盟国からなる「3部リーグ」が形成され、シェンゲンの加盟国だがEUの枠外にいるノルウェーなどはそこに位置しよう。
・イギリスは、たとえ国民投票で残留を選んでいたとしても、すでに「2部落ち」を自ら選択していたともいえる。というのも、キャメロン政権が国民投票に向けて2月にEUと交わした妥協案により、同国は「特別の地位」を得、「絶えず緊密化する連合」からの適用除外を勝ち取っていたからである。さらなる統合への意思を持たない国として、自他共に認めていたことになる。 結果として離脱を選んだとき、イギリスは2部でなく3部かそれより外縁のポジションを得ることにしたのであるが、いずれにしても再編は避けられなかったかもしれない(欧州同心円的秩序の図示イメージ)。
・このようなインナー形成の例として、イギリス国民投票直後に開催された「原6加盟国」外相によるベルリン会合があげられよう。外された形の東欧の加盟国からは直ちに批判が浴びせられたが、これは6カ国の「本家本元意識」の現れであり、危機の時に浮上したということ自体が興味深い。また、実は以前からルクセンブルク出身のユンケル欧州委員長は、東欧諸国を念頭に置いて、都合の良い時だけEU枠を使う「パートタイム欧州人」がいると批判し、ドイツを中心に原加盟国に偏ったEU運営をすることで、逆に批判を浴びる存在であった。
・今後も「6カ国会合」があるかどうかわからない。独メルケル首相はその枠に批判的であるとも伝えられる。それが持続・発展しなくても、ユーロ圏の首脳会合や財務省会合は以前から頻繁に開かれており、こちらがベースになる可能性もある。仮にギリシャで再度政変が起き、債務不履行の危機になれば、そのときにギリシャをユーロ圏から切り離し、「2部リーグ落ち」を余儀なくする可能性もないわけではない。
・イギリスの離脱は、こういった再編パンドラの箱を開けてしまった。その再編は、おそらくリーグ分別の方向を示しているように思う。ただし、繰り返しになるけれども、その前提は、独仏など中心国の民主主義が排外主義・反EUの方向に変質しないことである
▽欧州複合危機の時代
・2010年代のEUは危機だらけだ。もともとユーロ圏が深刻な危機に見舞われていたところ、ウクライナ危機が始まり、またギリシャ発でユーロ危機が二度も再燃した。そのうち、中近東から100万を超える大量の難民が押し寄せ、3000人以上の難民がその過程で命を落とし、域内の自由移動をつかさどるシェンゲン体制が機能不全に陥り、しまいにはパリにおける同時テロで130名、ブリュセルでも35名の犠牲者が出た。今度は、このイギリス離脱劇である。
・これは「複合危機」といえよう。複数の危機が同時進行し、お互いに連動し、EUのみならず国内の統合をも脅かす段階にまで来ている。間違いなく、戦後の欧州政治史・国際政治史のなかで第一級の変動期にあると言えよう。
・ただし、それらの個別危機があらわにした断層・対立は、必ずしも重なり合っていない。ユーロ危機では南北間、とりわけドイツとギリシャの間の対立が激しかった。 それは、難民危機では、どちらかというと東西間、たとえばドイツとハンガリーのような対立にとってかわり、ドイツの利害はギリシャのそれと重複し、一部共闘していた。また、ウクライナ危機やテロ事件では、むしろEUの結束は、個別利害の違いにもかかわらず全体として高められる方向に左右し、イギリスの離脱劇は、他の加盟国を一時的にせよ団結させたところもある。
・逆に言えば、これらの対立軸や断層が重なっていたら、EU内の分断は深く耐えきれないものとなっていた可能性が高い。その軸はズレており、それぞれの対立は重い課題を示しつつも、当面、政治的に分散・対処可能なものなのかもしれない。 独仏などの中心国では、2017年にかけて大きな国政選挙が待ち構えている。これはEUの政治指導の在り方に直結し、複合危機への対応、ひいてはEUの再編を左右する。注視すべきはそこである。
▽グローバル化、国家主権、民主主義は三すくみ状態
・このイギリスのEU離脱の事例は、世界を揺さぶった。それは、株価や為替の数字上の話にとどまらない。先進国が抱えるグローバル化、すなわち資本主義と、国家主権、民主主義のあいだの緊張関係を、劇的な形で「見える化」してしまったのである。
・ダニ・ロドリックは主著『グローバリゼーション・パラドックス』(柴山佳太・大川良文訳、白水社、2013年〔原著2011〕)で、〈グローバル化=国家主権=民主主義〉はトリレンマ(三すくみ)状態にあり、同時に3つは並びえないと論じた。 たとえば国家主権と民主主義の連結により、労働や金融など選択的に市場を閉めると決め、グローバル化に背を向けることはできる。また、国家主権がグローバル化と結びつき、民主主義を犠牲にすることも可能だ。あるいは、国家主権はこのさい犠牲にして、グローバル化と民主主義を選び、グローバル・ガバナンスと世界民主主義の組み合わせを構想することもできる。けれども、3つを同時に成立させることはできないというのである。
・ロドリックの議論は、現代における「先進国リスク」を暗示している点で優れている。それは、実際のところ、国家主権と民主主義の相性が抜群で、グローバル民主主義など不可能であることから、この3つが正三角形の関係に立たず、並べた段階で論点を先取りしている観もあるのだが、ほぼ例外なく民主主義的である先進国の悩みを言い当てているのである。
・つまり、中国のような一党独裁国やシンガポールのような権威主義国は、主権とグローバル化の組み合わせで前進できるのに対し、先進国は、自国の民主主義に敏感足らざるを得ない分、グローバル化が一層深化すると、トリレンマに陥らざるを得ないのである。
・この点に照らすと、イギリスのEU離脱は、同国やEUの再編を超えたより大きな問題を世界に提起している。 すでに明らかになったことだが、イギリスのEU離脱派は、グローバル化とそれに準ずると見なされたEU統合に対し、ときに強烈な違和感をもっていた。それは、主権意識、反移民感情、国民アイデンティティの動揺、反エリート主義、雇用不安、生活水準の停滞・低迷など、様々なかたちをとり、しばし重複する。たとえば、グローバル化やEUと連なる政経官学エリートは、自分たちの声を軽視し、移民を大量に許容し、安定した就業と慣れ親しんだ生活スタイルを脅かしている、といった感覚である。
・この点で興味深いエピソードがある。あるイングランド北部での集会でのことだ。離脱・残留の色をつけずに「客観的」なデータや「中立的」な意見をバランスよく提供する「専門家」として出席したロンドン大学の教授が、「EU加盟や移民流入は国内総生産(GDP)にとってプラスとする経済学者の意見が多い」と紹介したところ、聴衆から「それはお前のGDPだ、俺たちのではない」という野次が飛んだという。
・根っこにはこうした階層意識があり、それはグローバル・EUエリートに忘れ去られてきたという疎外感と密接に絡み、「専門家」の職業的な分析すらをも、吹き飛ばしてしまう。この根本的な不満や不安に切り込んでいかなければ、〈国家主権=民主主義〉の組み合わせがグローバル化(およびEU)に向けられ、いつでも暴発する(見方によっては開放される)可能性がある
▽「ホブソン・モーメント」の到来か
・けれども、一国が国民主権の発露の結果グローバル化に背を向けても、グローバル化自体をキャンセルできるわけではない。その意味で、〈国家主権=民主主義〉に引きこもるのが「理想解」でないこともまた事実である。
・トリレンマの解消に魔法のような解はないが、現在必要とされることを端的に言えば、グローバル化によって置き去りにされた先進国の中流以下の階層に対して実質的な価値を付与し、支援インフラを構築する「国内的改良」と、放縦のままであるグローバル化をマネージする「国際的組織化」とを、組み合わせることだろう。 かつて『帝国主義論』を著し、のちにレーニンやケインズに多大な影響を与えたJ・A・ホブソンは、過剰貯蓄の末に膨張し、海外に投射されて行く資本を、過少消費に陥る国内に逆流させ、労働者に価値付与する構想を披露した。これは、世界にまたがる帝国的な政治経済権力の改革と、国内の社会民主主義的な改良とをつなげる稀なアイディアだった。
・現代にそのまま適用できるわけではないが、求められているのは、国際と国内、資本と労働とを橋渡し、先の〈グローバル化=国家主権=民主主義〉のトリレンマを緩和する、この手の包括的構想である。逆に、それを示さないと、中間層は実際にやせ細り、グローバル化によって見捨てられたと感じ、〈国家主権=民主主義〉の組み合わせを通じて、いつでもグローバル化に刃を向けることになる。
・具体的には、日に500兆円に上るとされる資本取引へのトービン税のような動きからタックス・ヘイブンのような税逃れの世界的規制まで、あるいは、法人税の「底辺への競争」の協調的回避から労働や安全基準の国際的なすり合わせに至るまで、グローバルな協力・再編を多方面・包括的に進める一方で、国内においても中間層への支援を全面的に推し進める必要があるのではないだろうか。
・そのためには、国際協調のもとで企業が過剰に溜め込む内部留保をはき出させ、そうして確保した各国の税を使い、中間層の所得アップを図り、子育てから介護まで就労支援のインフラ整備に取り組まねばなるまい。これらは必要なことの包括的なリストではないが、この類の「国際=国内改革の組み合わせ」を提示しなければ、グローバル化の利益が、「先進国の所得上位1%」と「新興国の労働者」だけでなく、忘れ去られた先進国の中間層にとっても還元されうるのだと彼ら自身が実感することは難しかろう。
・その意味で、21世紀初頭の現在求められているのは、20世紀初頭に出されたホブソン流の構え方なのである。無限膨張の資本が国内の労働者に還元され、そのことで改編された世界の下の改良された国内で、中間層が健全な民主主義を実践しつづける構図が追求されねばならない。 これを「ホブソン・モーメント」と呼ぶことにしよう。そうした論理を誰が紡ぎ、どの政治的人格が引き受けていくのか。イギリスの事例は、EUの再編をも超えて、そうした問いを世界中の国に突き付けている。今回の出来事が真に世界史的な事件であった所以である。
http://toyokeizai.net/articles/-/127684

スコットランドの独立に「3つのハードル」があり、極めて難しいことを改めて知らされた。『デマや虚偽で民衆をあらぬ方向に引っ張る』を、「脱事実民主主義」とはよくぞ言い表したものだ。これは、確かに、『イギリスらしさの対極にある』、『いまやそこここに小トランプや小サンダースが散見され、グローバルな自由民主主義の劣化の波にのみ込まれてしまった』、とはその通りだ。『「国民主権は議会主権より深い」。ほぼ間違いなく、議会は国民の声を尊重し、EU離脱に向かうだろう』、その場合、『せいぜい出来るのは、「ステルスによるノルウェー型の関係構築」』、ということであれば、何のための離脱だったかということで、後悔(Bregret)が広がるだろう。
『せいぜい彼(オランド大統領)にできるのは、なるべくメルケル首相のそばに立ち、欧州の権力中枢に位置してみせるだけである』、はオランド大統領の置かれた苦境を鋭く指摘しており、思わず微笑んでしまった。
『EUは構造的に行き詰まっている』ので、『EUの同心円的な再編シナリオ』とは、確かにあり得るシナリオだ。『イギリスの離脱は、こういった再編パンドラの箱を開けてしまった』、というのも的確な指摘だ。『欧州複合危機の時代 2010年代のEUは危機だらけだ』は、確かによくぞここまで危機が集中したと改めて痛感するが、『対立軸や断層』がたまたま重ならなかったので、持ち堪えているのだろう。『グローバル化をマネージする「国際的組織化」』、は大変難しく重い課題なので、自分なりにも考えてゆきたい。
タグ:東洋経済オンライン 第2回 第3回 北アイルランド オランド大統領 英国EU離脱問題 (その8)英国が「EUを離脱しない」は本当なのか、英国EU離脱で「欧州と世界」はどう変わるのか 北大・遠藤教授 英国が「EUを離脱しない」は本当なのか 「EU研究第一人者」北大・遠藤教授が予測 英国はEU離脱で『のた打ち回る』ことになる イギリスは、領域的な亀裂を深め、主流政党による国民統合もままならず、自由民主主義の地盤が緩んだ形となっている 資本主義(グローバル化)=国家主権=民主主義〉の「トリレンマ」(三すくみ)によって、EUだけでなく、世界が揺さぶられるさま 高まるスコットランドの独立機運 UKは生き残る?スコットランド独立の「3つのハードル」 憲法的な問題 2014年の住民投票が効力を持ったのは、実は事前にUK政府とウェストミンスター議会がその投票の実施を認めたからである 権威づけなしに実施されるということになれば、法的には単なる自発的な投票サンプル調査とみなされかねない 第2に、経済社会的な問題 第3に、政治的な問題 UKとのつながりを重視するユニオニスト(主にプロテスタント)と、逆にアイルランドとの紐帯を重んずるナショナリスト(主にカトリック)とのあいだで、投票行動が真逆 EU加盟国であるアイルランドと離脱を余儀なくされる北アイルランドとの国境や物・人の往来がどのように展開するのか、まずは見守る必要 ▽「国民統合機能」を果たせない政党 右傾化する保守党、危機に陥った労働党 保守党の離脱派は、イギリス独立党に引きずられて政治を劣化させた挙句、イギリスの民主政に深い爪痕を残した デマや虚偽で民衆をあらぬ方向に引っ張るというのは、短期的な政治的利益を上げることはできても、中長期には政治が拠って立つ基盤を壊しかねない 「脱事実民主政(post-factual democracy)」 労働党が「より深い危機」にある 、いまやそこここに小トランプや小サンダースが散見され、グローバルな自由民主主義の劣化の波にのみ込まれてしまった もし「離脱ボタン」を押さないと、どうなるのか? 国民主権は議会主権より深い」。ほぼ間違いなく、議会は国民の声を尊重し、EU離脱に向かうだろう 国民主権と議会主権がねじれれば深刻な憲政危機に せいぜい出来るのは、「ステルスによるノルウェー型の関係構築」 英国EU離脱で「欧州と世界」はどう変わるのか EU研究第一人者の北大遠藤教授が分析 いずれ英欧間で自由貿易圏の形成がなされる可能性が高く、その場合には影響は軽微 EU予算は第2位の拠出国を失い、影響は避けられない 約120万人の東欧移民をはじめ、約300万人のEU市民がイギリスに住んでいる EU在住のイギリス人も120万 外交・軍事についていえば、EU共通外交安全保障政策においてイギリスがもつ存在感は加盟国の中で頭一つ抜けていた EUは「ドイツ色」に染まるのか? せいぜい彼にできるのは、なるべくメルケル首相のそばに立ち、欧州の権力中枢に位置してみせるだけである いまのドイツは戦間期のアメリカに近く、自身の権力と責任(意識)とが見合っていない状況にある いま欧州で必要とされるのは、責任に見合ったより一層のドイツの権力行使であり、正しい権力の使い方なのだが、「ドイツの覇権が復活した(ので警戒せねば)」とだけ述べる多くの言説は、その必要を覆い隠してしまうのである 独仏のような中枢国で、民主主義が排外的なナショナリズムによって劣化し、たとえば仏FNや「ドイツのための選択肢(AfD)」のような反EUの右派政党が伸長した挙句、その支持がなければ政権や予算が成立しないという状況になったとき、EUは真に内破の危機に陥る 基本シナリオは「崩壊」ではなく「再編」 EUは構造的に行き詰まっている 欧州複合危機の時代 2010年代のEUは危機だらけだ EUの同心円的な再編シナリオ グローバル化、国家主権、民主主義は三すくみ状態 トリレンマ 、放縦のままであるグローバル化をマネージする「国際的組織化」
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