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アベノミクス(その16)「働き方改革」3(「同一労働同一賃金」) [経済政策]

アベノミクス(その16)「働き方改革」については、昨年12月26日に取上げた。今日は、「働き方改革」3(「同一労働同一賃金」) である。

先ずは、日本総合研究所 チーフエコノミストの山田 久氏が1月13日付け東洋経済オンラインに寄稿した「「同一労働同一賃金」、本当の狙いは何なのか 実は非正規処遇の改善のさらにその先にある」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・安倍晋三政権は「働き方改革」を最重要課題に位置付け、「同一労働同一賃金」の実現を目玉政策に掲げている。2016年12月20日には政府によってガイドライン(指針)案が示された。今後、それを基に法制化が行われるとともに、関係者の意見や国会審議を踏まえて、ガイドラインも最終的に確定するとしている。
・そもそも現政権が同一労働同一賃金を掲げたのはなぜか。字面通りには、社会問題化されてきた正社員と非正規社員の二重構造にメスを入れ、非正規の労働者の処遇改善を行うためだ。もっとも、このわかりづらい用語がスポットライトを浴びることになった政治的なタイミングもまた、見落とせない。首相が同一労働同一賃金の実現への取り組みを表明したのは2016年1月の施政方針演説だった。
・アベノミクスが失速のリスクに晒され、2015年秋に「一億総活躍社会」というスローガンを打ち出して、仕切り直しを図った流れを受けたものである。重点政策としてきた賃上げの成果が十分でない中、最低賃金引き上げとの両輪で取り組み、政権支持につながる経済好循環を後押しする狙いがあったといえるだろう。
▽会社人の総合能力が評価されてきた
・ここで同一労働同一賃金が政策課題になることは、とりも直さず、それがわが国では実現していないことを物語る。では、「同じ仕事をすれば同じ賃金を払うべき」という、ある意味で当然ともいえるルールが、日本で成立してこなかった理由は何か。
・原因は日本の雇用システムの特異性に求めることができる。その基本は、仕事内容や勤務地を定めず、会社という運命共同体の一員になるというものだ。この場合、企業における従業員のランクを決めるのは、その時についている仕事よりも、企業特有の技能や社内人脈から構成される、いわば「会社人」としての総合能力だ。
・このため賃金は仕事よりも「人」につく。一方、パートや契約社員はあくまで一時雇用が建前で、賃金は就いている仕事で決まる。この結果、そもそも正社員には、同一労働同一賃金が成り立たない。正規・非正規間では賃金の決め方自体が異なり、当然、処遇の均等が成り立つ術もない。
・ちなみに欧州では、職種や地域ごとに使用者団体と労働組合が締結する労使協約によって賃金表が決められ、企業ごとにすべての「職務」が賃金等級に格付けされる。さらに労使協約は非組合員にも適用される仕組み。結果として、正規も非正規も同じ基準で、仕事に応じて賃金が決められるシステムになっており、同一労働同一賃金が成り立つ状況にある。
・もっとも、欧州の現実をみる限り、必ずしも職務内容の同一性を問うことはない。合理的な説明がつかない格差は認めないという、不利益取り扱い禁止原則によって、柔軟な運営がされている。たとえば、勤続年数や学歴、職業資格による賃金格差は認められている。政府もそうした欧州の実態を参考に検証し、冒頭で触れたガイドライン案を示した。
・内容をより具体的に追ってみよう。政府のガイドライン案では、いかなる待遇差が不合理か不合理でないか、具体例が示されている。一定の条件下では、非正規に対する「賞与」支払いや通勤手当・食事手当など「諸手当」の同一支給の必要性を示しており、一定程度、非正規の処遇改善が期待できるものだ。
・これは裏を返せば、企業の人件費負担増を意味する。非正規処遇改善のための原資を、正社員の賃金の引き下げで捻出する動きが出てくる、といった懸念の声もある。だが、正社員の賃金引き下げは、不利益変更法理によって容易にできるものではない。
▽基本給は同一でも、処遇差は是認?
・今回の案は欧州と日本の労働慣行の違いを勘案し、どちらかといえば保守的な形の提示になっている。総じてみれば、正社員処遇への影響は、限られたものにとどまるだろう。賃金の大半を占める「基本給」については、能力に応じた同一支給の必要性を指摘しているものの、キャリアコースの違いやペナルティーを伴う負担の違いによって”処遇差を設けることは問題にならない”としており、大枠では現状是認のスタンスといえるからだ。
・これでは非正規処遇改善の効果は十分とはいえない。あくまで今回を出発点と位置づけ、今後、一段の取り組みが必要といえよう。ただ、杓子定規に進めていくと、職務分離によって正規・非正規間で過度に仕事の区分が行われ、かえって非正規の低賃金を固定化させる恐れもある。よって、産業別や職種別に検討会を立ち上げ、より具体的なケースについて継続して議論を行い、可能な限り格差をなくしていくという方向で、労使が対話を重ねていかなければならない。
・加えて重要なのは、これまで多くが不明瞭だった、非正規の評価や昇給の仕組みについて、正社員の制度と整合性をとりながら整備していくことだ。非正規の現状の賃金を引き上げるという静態的な視点だけでは不十分。非正規が正社員に転換できるルートを整備するなど、キャリア開発面での格差是正という動態的な視点も必要である。
・もっとも、同一労働同一賃金のより深い意義は、実は非正規処遇の改善のさらにその先にある。なぜなら、現行の雇用システム自体の見直しが不可避な状況下、同一労働同一賃金こそ、再構築すべき雇用システムにおける、公平処遇の原理に位置づけられるべき原理だから。つまりその意義はむしろ、”正社員のあり方の見直し”につなげることにあるのだ。
・日本が本格的な人口減少局面に突入する中、人手不足を補うために女性やシニアの活躍を促進するとともに、生活水準の維持・向上に必要な労働生産性の引き上げに向けて、低生産性産業から高生産性産業への人材移動を促すことは不可欠になる。それには、正社員の雇用維持を最優先し、非正規にとって十分なキャリア形成機会を得られず賃金も伸びない、現行の雇用システムのあり方を見直す必要がある。そのための方向性として、欧州型、とりわけ北欧型の雇用システムのエッセンスを導入することが有効である。
・欧州の正社員は、職種を決めて企業に雇われるのが基本で、日本よりも転職や再就職をしやすい。キャリア形成は企業任せでなく、自ら主体的に行い、やりたい仕事や生活とのバランスを考えて、企業を移ることも例外ではない。ここで重要なのは、欧州においては、政府および労使が協力して実践的な職業能力資格を整備し、企業のニーズを十分に組み入れた高等職業教育制度が設けられていることである。
・特に北欧では、労使が国家レベルで合意して非営利の支援組織を設け、企業をまたぐ形で労働移動をきめ細かくサポートする仕組みが整備されている。比較的活発に労働移動が行われ、正社員の欠員が生じて非正規を正規化できる余地が生まれ、非正規のキャリア形成にもつながっている。また欧州全体では、実践的で企業横断的な職業能力認定制度が整備され、非正規であっても能力形成の機会を得やすい。
▽雇用の流動化、労働移動が進んでいく
・企業間の雇用の流動性があり、非正規にも能力開発・キャリア形成の機会が与えられるので、欧州では不採算事業の撤退に伴う余剰人員の整理が比較的スムーズに行われる。生産性が高くかつ労働時間が短くて済み、男性の育児・家事参加が一般化して女性活躍は進んでいる。欧州における同一労働同一賃金とは、正規・非正規間のみならず、性別や年齢、国籍を問わず、多様な人材が公平に処遇されることで、様々な属性を持つ人々が能力を十二分に発揮できるための処遇の原理に位置づけられている。
・以上のように、同一労働同一賃金への取り組みの真の意義は、それを契機に、雇用システムに欧州型の要素を取り入れ、雇用のあり方そのものを見直していくことだといえるだろう。わが国の正社員のあり方について、安心して転職・再就職できる環境を整えたうえで、欧州のように、職種を自ら選択できるようにしていく。
・それは、生活とのバランスや個人のキャリア形成からすれば、滅私奉公的な日本型の正社員の働き方を見直し、欧州型の職種を選べる働き方に近づくことを意味する。異なる就業形態間の相互転換もスムーズになるだろう。つまり、同一労働同一賃金を、処遇のあり方にとどまらず、雇用のあり方全般を見直すきっかけとする。そうすることで、あらゆる属性の人々にとって仕事と生活を両立し、本物の働き方改革が展望できるのであり、そこまで視野に入れた取り組みが求められているのだ。
http://toyokeizai.net/articles/-/152928

次に、立命館大学政策科学部教授、立命館大学地域情報研究所所長の上久保誠人氏が1月17日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「安倍政権の「同一労働同一賃金」は懐古趣味的で現実味がない」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・安倍晋三政権が「働き方改革」を推進し、その目玉として、「同一労働同一賃金」を打ち出している。その目的は、正社員に比べて少ない非正規労働者の給料を増やすことで、個人消費の拡大につなげ、停滞感が漂うアベノミクスを再び浮揚させる起爆剤にすることだという。これは、いまや形骸化しつつある、高度経済成長期に「誰もが正社員」であった年功序列・終身雇用の「日本型雇用制度」を復活させようということだといえる。
・本稿は、安倍政権の「同一労働・同一賃金」が、世界の潮流である「懐古趣味的ナショナリズム」であり、それは米大統領に就任予定のドナルド・トランプ氏が「米国を再び偉大な国にする」として企業をツイッターで攻撃して米国内の雇用を守ろうとすることと、類似性があることを指摘する。
▽トランプ氏の「懐古趣味的ナショナリズム」では雇用は増えず、経済は動かない
・1月20日に米国大統領に就任予定のドナルド・トランプ氏がツイッターで企業を攻撃する投稿を頻発している。GM、フォードのメキシコの新工場建設計画を撤回させて、遂には日本のトヨタを批判した。トヨタも同じくメキシコ新工場建設計画があるが撤回はしなかった。しかし、豊田章男社長は「今後、5年間で米国に100億ドル(約1兆1600億円)を投資する」ことを表明せざるを得なかった。
・トランプ氏は、「最も多くの雇用を作り出す大統領になる」と宣言した。だが、オバマ政権の関係者が「オバマ政権と同じだけの雇用創出をするには、個別企業約800社と交渉しなければならないだろう」と皮肉ったという。高コストの米国内の工場で生産しても、米国内の消費者の不利益だし、海外に輸出しても売れるわけがない。雇用は増えるどころか減っていく。結局、企業を脅しても、自らの首を絞めるだけになるだろう。
・トランプ氏は「米国を再び偉大な国にする」という。だが、過去の米国の栄光を再びという「懐古趣味的ナショナリズム」(Financial Times“Trump, Putin, Xi and the rise of nostalgic nationalism”)で国民の感情に訴えるだけでは、雇用は増えず、経済が動かないことに、すぐに気づかされることになる。
▽安倍首相はG7最初の懐古趣味的ナショナリスト
・「懐古趣味的ナショナリズム」を打ち出すのは、トランプ氏だけではない。中国の習近平国家主席やロシアのウラジーミル・プーチン大統領も「強い国家の復活」をアピールしてきた。英国のEU離脱でも、「英国を欧州一部ではなく、世界屈指の大国だった時代への懐古」を訴えた「離脱派」が勝利した(第134回)。 EUでも昨年、イタリアではマッテオ・レンツィ首相が国民投票で敗れて退陣に追い込まれた。今年も、フランスの極右政党「国民戦線」のマリーヌ・ルペンが大統領選に勝利する可能性があり、ドイツやオーストラリアなどで極右政党が支持を増やしている。懐古趣味的ナショナリズムは、いまや世界的な潮流となっている。
・昨年、懐古趣味的ナショナリズムの勢いによって、英国、イタリア、米国と3人のG7首脳が交代した。今年のフランス大統領選、ドイツ総選挙の結果によっては、更に懐古趣味的な首脳が登場する可能性がある。
・安倍首相は、G7の首脳で古株のほうになった。今年、既に大統領選に出馬せず、退陣する意向を表明しているフランソワ・オランド仏大統領に続いて、総選挙でアンゲラ・メルケル独首相が退任に追い込まれる可能性が取りざたされている。安倍首相は一挙に最も古株の首脳となる可能性がある。 だが、安倍首相はナショナリズムに対抗する「自由民主主義陣営」の「最後の砦」というわけではない。「美しい国、日本」「日本を取り戻す」と訴えてきた安倍首相は、むしろG7で最初に登場した「懐古趣味的ナショナリスト」なのではないだろうか(「5つのポイントで占う2015年」)。
▽アベノミクスは懐古趣味的な経済政策だ
・実際、安倍政権は2012年12月の発足以来、「懐古趣味的」な経済政策を続けてきたと考える。この連載で指摘してきた通り、金融緩和・公共事業で株高・円安に導き輸出産業に一息つかせる「アベノミクス」は、つぎ込むカネの量が異次元だというだけで、旧態依然たるバラマキ政策である。それは「失われた20年」の緊縮財政と改革に疲れた国民に、単純に「高度成長の夢よ、もう一度」と思わせるものだった(第129回)。
・だが、政権発足から4年経ったが、結局経済は復活しない。異次元緩和「黒田バズーカ」の効き目がなければ、更に「バズーカ2」を断行し、それでも効き目がなく、「マイナス金利」に踏み込んだ。これは、「カネが切れたら、またカネがいる」という、かつて何度も繰り返されたことと全く同じである(第133回・p2)。
・安倍政権の懐古趣味的な性格が最も現れたのが、再三に渡って繰り返された「企業への賃上げ要請」だろう。安倍首相や麻生太郎副総理・財務相ら経済閣僚が、再三に渡って企業に「賃上げ」を要請し、事実上産業界に「圧力」をかけてきたことだ。 この連載では、安倍政権の産業界に対する度重なる賃上げの「圧力」と、首相の祖父・岸信介元首相が商工省のエリート官僚時代に実行した「国家総動員体制」との類似性を指摘してきた(第80回・p6)。国家総動員体制下では、軍需品の生産を優先するために、企業の利潤追求が「悪」であると否定された。それは、企業が内部留保をため込み過ぎているとして、利益を上げた分は「賃上げ」すべしとする、安倍政権の強硬姿勢とよく似ているのだ。
▽「同一労働同一賃金」は格差拡大への嫌悪と高度経済成長期への回帰願望に支持される
・そして、「働き方改革」である。この改革には、電通の新人社員の自殺で社会問題となった「長時間労働」の是正や、「女性の社会進出」を促進する政策などが含まれ、その部分では世界の水準から遅れた部分を取り戻そうとするものと評価できる。
・一方、「正社員」と「非正規労働者」の不合理な待遇の格差をなくす「同一労働同一賃金」だが、それが非正規労働者を正社員に近づける方向性で行われるならば、「誰もが正社員だった高度成長期に戻りたい」という、国民の懐古趣味的な感情に訴えるものとなってしまう。 「同一労働同一賃金」は与党のみならず、民進党、共産党など野党や労働組合も支持している。その支持の構図も「懐古趣味的」だ。なぜなら、80年代以降続いてきた「新自由主義的改革」に対する嫌悪が背景にあるからである。
・日本で派遣労働者が増えたのは、バブル経済の崩壊とグローバリゼーションによる「失われた20年」と呼ばれる長期的な経済停滞に対して、国内の正社員の年功序列・終身雇用の「日本型雇用システム」を頑なに守ろうとしたことで起こった。
・グローバリゼーションによって、日本企業は国際競争力を維持するために多国籍化し、開発途上国の安いコストで生産する体制を作ったが、一方で国内の労働需要は激減してしまった。これに対して、日本企業は既存社員の雇用維持に努め、新規採用を抑制し、派遣や請負等の「非正規労働者」を増加させた。
・その結果、若年層の多くが新卒で正社員として採用されず非正規労働者となった。そして、既存社員の年功序列・終身雇用が守られる一方で、非正規労働者として社会人をスタートした若年層が、その後に正社員の職を得ることは極めて難しくなった。正社員と非正規労働者の格差は固定されることとなったのだ(連載第47回)。
・「同一労働同一賃金」とは、このような「グローバリゼーション」「新自由主義改革」による正社員と非正規労働者の格差拡大とその固定化に対する嫌悪感がある。そして、その嫌悪感の裏返しには、「新自由主義改革」以前の「誰もが正社員」で、年功序列・終身雇用を謳歌できた「高度経済成長期」に回帰したいとの願望がある。
▽「非正規動労者の待遇を正社員に近づける」は論理的整合性を欠く
・しかし、「同一労働同一賃金」が復古趣味的で、国民の感情に訴える政策であるために、トランプ氏の雇用拡大策と同様に、論理的整合性を欠いたものとなっている。 安倍政権は、昨年12月20日に「同一労働同一賃金ガイドライン(案)」を発表し、「同じような能力・経験・成果を上げた労働者は、給与・賞与はもちろん、各種の手当等についても平等に処遇されなければならない」という基本的な考え方を打ち出している。
・この考え方自体は目新しいものではない。安倍政権登場前の、民主党政権期から、何度も導入が検討されてきたが、実現が難しかっただけである。導入が難しい理由は、日本企業では正社員に対する「職能給(能力に応じた賃金)」制度が定着しているからだ。その上、勤続年数を重ねると賃金もアップするという年功序列的な賃金制度が採用されてきた。
・これは欧州で一般的であり、同一労働同一賃金導入の前提となっている「職務給(仕事に応じた賃金)」とは異なるものである。換言すれば、現行の年功序列の賃金制度は「特定の人に仕事をつける」仕組みであり、「特定の仕事に賃金が結びつく」仕組みである「同一労働同一賃金」とは、なじまないものなのだ。
・また、日本企業においては、総合職(現在でも主に男性)の「正社員」は、勤務場所を自ら選択できなかったり、頻繁な配置転換があったりする。それは企業にとって、将来の幹部候補生を、さまざまな経験を積ませることで育成する仕組みである。つまり、正社員の給与には、単なる業務に対する賃金ではなく、会社にとって重要な、高度な経営業務に就くための準備をする部分が加算されている。それが年功賃金の上昇カーブとなり、非正規労働者との「格差」を広げることになっている。
・要するに、日本型雇用システムの下では、正社員と非正規労働者の格差解消は、単純に給与を同じにすればいいわけではないのだ。それならば、勤続年数が同じ非正規労働者に、正社員と同じ年功賃金を適用すればいいのかというと、そういうわけにもいかない。有期雇用の非正規動労者は、年功賃金のメリットが生じる前に雇用期間が終了してしまうので、格差解消に効果がないからだ。
・そして何より問題なのは、前述の通り、そもそもグローバリゼーションの世界的な大競争に生き残るために、企業は労働コストを下げる必要があり、非正規労働者を増やしてきたのだ。非正規労働者の待遇を、正規動労者に合わせるのでは、人件費が増大し、企業は経営が成り立たなくなる。それを「懐古趣味的ナショナリズム」で国民を煽り、首相の圧力で無理やり企業にやらせようというのであれば、安倍首相は「髪型がまだマシなトランプ」(英国のボリス・ジョンソン外相のこと)ならぬ、「体形がまだマシなトランプ」と言われても仕方のない、ポピュリズム的政策ではないだろうか。
▽「同一労働同一賃金」は欧米型の明確な契約関係を結ぶ制度で実現すべき
・そもそも、「働き方改革」とは、解雇規定を緩和して、労働力の流動性を高めることだったはずだ。現代の技術革新が急激なスピードで進む時代には、年功序列・終身雇用の社員によって企業内に蓄積された技術・知識では対応できない。外部からプロジェクトの責任者を招聘し、専門的な知識を持つ中途採用を集められるようにしなければ、企業は生き残っていけない。要するに、年功序列・終身雇用の「日本型雇用システム」からの脱却こそが、働き方改革の核心だったはずなのだ。
・この連載では「終身雇用」「年功序列」が、世界的に見ると極めて珍しい制度だということを指摘してきた(第97回・p4)。欧米のみならず、中国や東南アジアでも、大学卒の一括採用というシステムはない。学生は、大学在学中に就職活動をせずに勉学に集中し、卒業してから、インターンシップを皮切りにキャリア形成を始める。インターンで評価されれば就職できるが、最初から正社員の待遇はなかなか得られない。つまり、日本でいう「非正規労働者」としてキャリアをスタートさせる。若者は30歳くらいまでは転職を繰り返して、自分の適職を探していくのが通常である。
・また、企業・行政機関で役職者のポジションに空席が生じた時、組織外にオープンに人材を募る「公募」が行われる。平社員として契約している者が役職者になりたければ、「公募」に応募して、外部からの多数の応募者と競争しなければならない。もちろん、社内の人間が昇格することはあるのだが、それは社外からの応募者と能力を比較して、役職者にふさわしいと社外に明確に説明できる場合である。
・日本でも働き方改革は、欧米やアジア諸国の企業・官僚組織のように、雇用者・労働者間で、明確な報酬・労働条件を合意した契約関係が結ばれることが、目指されるべきではないだろうか。日本型雇用システムの下では、雇用者・労働者間の契約は曖昧だ。もちろん日本にも雇用契約はあるのだが、筆者は内定式か入社式で、雇用契約書を配られ、その場で即、印鑑を押させられたのを覚えている。内容はほとんど確認しないで印鑑を押したし、契約書の修正など申し出る余地はなかった。新卒一括採用の場合、現在でもそれはほとんど変わらない。
・そのような曖昧な雇用者・労働者の契約関係だから、電通の新入社員の自殺事件のような、まるで奴隷のような労働を強いる「ブラック企業」の問題が出てくるのだ。日本型雇用慣行というのは、労働者を守ってくれるものとはいえない。終身雇用の慣行を廃し、契約関係を明快にする新しい制度を導入すれば、ブラック企業は減る。また、派遣労働者が奴隷のような扱いを受けることも減るかもしれないのだ。「同一労働同一賃金」は、派遣労働者を正社員扱いしろという、企業経営の難しさを無視した乱暴な話ではなく、正社員・派遣労働者の区別を撤廃し、全ての雇用が明確な契約関係によって成立する制度を導入することで実現すべきなのである。
▽日本にとって懐古趣味的ナショナリズムは命取りとなる
・繰り返すが、安倍首相の「同一労働同一賃金」は、高度成長期の「誰もが正社員」だった時代の夢をもう一度見せることで、国民の支持率を上げようという懐古主義的な政策だ。それは、トランプ氏や、習近平主席やプーチン大統領が「強い国家の復活」という懐古趣味的ナショナリズムを掲げるのと同じ世界的潮流である。
・しかし、この連載で論じてきたように、世界は「ブロック経済化」に向かっている。米国、中国、ロシア、英国は、自前の「生存圏」を確保できる。これらの国々は、内向きになり、懐古趣味的なムードなっても、生きていくことはできる。
・しかし残念ながら、日本が内向きになり、「日本型雇用システムはやはり素晴らしい」などと懐古趣味的になったら、自滅への道だということを自覚すべきだ(第145回)。自前の資源も経済圏も持たない日本は、「ブロック経済」の間で極東の一小国に成り下がってしまうからである。日本はグローバル経済の相互依存の中で、世界標準のシステムに合わせて生きていくしかないことを自覚すべきだ。日本にとって、懐古趣味的ナショナリズムは、命取りであることを忘れてはならない。
http://diamond.jp/articles/-/114384

山田氏が指摘する (正社員の)『賃金は仕事よりも「人」につく。一方、パートや契約社員はあくまで一時雇用が建前で、賃金は就いている仕事で決まる。この結果、そもそも正社員には、同一労働同一賃金が成り立たない。正規・非正規間では賃金の決め方自体が異なり、当然、処遇の均等が成り立つ術もない』、というのはその通りだ。 『同一労働同一賃金への取り組みの真の意義は、それを契機に、雇用システムに欧州型の要素を取り入れ、雇用のあり方そのものを見直していくことだといえるだろう。わが国の正社員のあり方について、安心して転職・再就職できる環境を整えたうえで、欧州のように、職種を自ら選択できるようにしていく』 というのは理想論ではあるが、企業の正社員の「働かせ方」を根本から変える必要があるだけに、管理職以上の強い抵抗から進展には相当長い年月が必要だろう。
上久保氏が、「懐古趣味的ナショナリズム」についての考察は面白く、 『安倍首相はG7最初の懐古趣味的ナショナリスト』、との指摘は、日本が金融政策でもG7で最初に新手法を試す場になっていることにも、通じるものがある(たまたまに過ぎないが・・・)。 『日本でも働き方改革は、欧米やアジア諸国の企業・官僚組織のように、雇用者・労働者間で、明確な報酬・労働条件を合意した契約関係が結ばれることが、目指されるべきではないだろうか』、との主張は、上記の山田氏をより強調したものだ。導入に当たっての課題も同様である。ただ、『日本にとって懐古趣味的ナショナリズムは命取りとなる』、ことは確かなので、一歩ずつでも改革してゆかねばならないのだろう。
明日の金曜日は更新を休むので、土曜日にご期待を!
タグ:東洋経済オンライン 同一労働同一賃金 ダイヤモンド・オンライン アベノミクス 上久保誠人 働き方改革 (その16)「働き方改革」3(「同一労働同一賃金」) 山田 久 「「同一労働同一賃金」、本当の狙いは何なのか 実は非正規処遇の改善のさらにその先にある 正社員と非正規社員の二重構造 非正規の労働者の処遇改善 ・アベノミクスが失速のリスクに晒され 日本の雇用システムの特異性 仕事内容や勤務地を定めず、会社という運命共同体の一員になるというものだ 企業における従業員のランクを決めるのは、その時についている仕事よりも、企業特有の技能や社内人脈から構成される、いわば「会社人」としての総合能力 賃金は仕事よりも「人」につく。一方、パートや契約社員はあくまで一時雇用が建前で、賃金は就いている仕事で決まる。この結果、そもそも正社員には、同一労働同一賃金が成り立たない 正規・非正規間では賃金の決め方自体が異なり、当然、処遇の均等が成り立つ術もない 欧州では、職種や地域ごとに使用者団体と労働組合が締結する労使協約によって賃金表が決められ、企業ごとにすべての「職務」が賃金等級に格付けされる。さらに労使協約は非組合員にも適用 不利益取り扱い禁止原則によって、柔軟な運営 ガイドライン案 「諸手当」の同一支給の必要性を示しており、一定程度、非正規の処遇改善が期待できるものだ 大枠では現状是認のスタンス これまで多くが不明瞭だった、非正規の評価や昇給の仕組みについて、正社員の制度と整合性をとりながら整備していくことだ 同一労働同一賃金のより深い意義は、実は非正規処遇の改善のさらにその先にある 同一労働同一賃金への取り組みの真の意義は、それを契機に、雇用システムに欧州型の要素を取り入れ、雇用のあり方そのものを見直していくことだといえるだろう 滅私奉公的な日本型の正社員の働き方を見直し、欧州型の職種を選べる働き方に近づくことを意味 安倍政権の「同一労働同一賃金」は懐古趣味的で現実味がない トランプ氏の「懐古趣味的ナショナリズム」では雇用は増えず、経済は動かない 安倍首相はG7最初の懐古趣味的ナショナリスト 懐古趣味的ナショナリズムは、いまや世界的な潮流 アベノミクスは懐古趣味的な経済政策だ 「非正規動労者の待遇を正社員に近づける」は論理的整合性を欠く 正社員の給与には、単なる業務に対する賃金ではなく、会社にとって重要な、高度な経営業務に就くための準備をする部分が加算 「同一労働同一賃金」は欧米型の明確な契約関係を結ぶ制度で実現すべき 正社員・派遣労働者の区別を撤廃し、全ての雇用が明確な契約関係によって成立する制度を導入することで実現すべきなのである 日本にとって懐古趣味的ナショナリズムは命取りとなる
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