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欧州(その1)(「EU崩壊」などは近視眼的な妄想に過ぎない、欧州には悪くないトランプの経済政策 欧州金融機関から上がる期待の声、米国の恫喝に欧州はどう反応するのか) [世界情勢]

今日は、欧州(その1)(「EU崩壊」などは近視眼的な妄想に過ぎない、欧州には悪くないトランプの経済政策 欧州金融機関から上がる期待の声、米国の恫喝に欧州はどう反応するのか) を取上げよう。

先ずは、東北大学名誉教授の田中 素香氏が昨年12月16日付け東洋経済オンラインに寄稿した「「EU崩壊」などは近視眼的な妄想に過ぎない ヨーロッパは昔からいつもたいへんだった」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・12月4日、イタリアの国民投票はレンツィ首相(当時、12日にはジェンティローニ氏が外相から首相に就任)にノーを突きつけた。賛成41%、反対59%の大差でレンツィ首相の憲法改正提案を拒否し、首相は辞任した。首相の憲法改正提案に、反EU・脱ユーロを主張するポピュリスト政党「五つ星運動」が激しく反対した。そのためか、わが国では、イタリアの首相敗北はポピュリズム運動の勝利、というような解釈の論調も見受けられる。
・Brexit(ブレグジット・英国のEUからの離脱)や「トランプ勝利」の連想かもしれない。 だが、よく見てみると、そうでないことが分かる。
▽イタリア国民は民主主義の健全さを示した
・レンツィ首相は、選挙で勝利した民主党のレッタ前首相に改革能力がないと批判して退陣させ、代わって首相の座をまだ39歳の若さで射止めた。そのため、民主党やほかの主要政党の重鎮たちから嫌われ、ベルルスコーニ元首相と連携するなど変則的な運営だった。政策も冴えず、若者の失業率40%超の経済は改善しなかった。
・イタリア憲法は、ファシズムに陥ったイタリアの歴史を反省して、行政府に対する議会の権限を強め、しかも下院と上院がほとんど同権をもつ。首相は事実上の一院制に転換して効率を引き上げたいとしたのだが、ポピュリズム政党の伸張する時代に、むしろこちらのほうが危険な企てでもあった。選挙の洗礼も受けずにイタリア史を変えかねない憲法改正を国民投票にかけるなど、無謀でもあった。
・投票では、18歳~34歳層の81%が反対投票、ほとんどすべての州で敗北した。主要政党のリーダーたちやその下の組織、知識人層の多くも反対票を投じた。
・同じ12月4日のオーストリア大統領選挙での極右候補の敗北・親EU候補の勝利(得票率53.3%)とともに、ヨーロッパの民主主義の健全さを示した。とはいえ、イタリアでは銀行危機が進行中で、こちらは速やかな救済行動が不可欠だ。新内閣に期待しよう。
・来年はEU(欧州連合)主要国で選挙が相次ぐ。3月にはオランダで、秋にはドイツで総選挙。4~5月にフランス大統領選挙がある。小国は経済依存度が高く、ユーロやEUを離脱するのは無理、問題は大国だが、フランスがEUの将来にとって一番重要だ。
・フランスでは共和党(中道右派)の大統領候補にフィヨン氏(サルコジ大統領時代の首相)が選ばれた。社会党ではオランド大統領が低支持率のため立候補を断念したが、社会党自体の支持率も低い。5月の大統領選決選投票ではフィヨン氏と極右政党である国民戦線のルペン党首の一騎打ちになるという予想が多い。
▽フランス国民のユーロ支持率は高い
・ルペン氏の主張は、EUから権限を取り戻し、難民や移民などの侵入からフランスを守る、そのためにはEU離脱が必要、というものだ。ドイツに都合よく作られたユーロ圏でフランスは競争力を失っているので、ユーロを離脱する、ということも視野に入れている。
・だが、フランス経済のEU・ユーロ圏依存度は非常に高く、仏企業はグローバル化・EU化しているで、EU離脱もユーロ離脱も経済的に無理だ。EUのグローバリズムからフランス労働者を守るというルペン氏の意志は尊いが、EUの中で実現するべきだ。 フランス国民の通貨・ユーロへの支持率は高い。ユーロはすでに人々が生きていくインフラになっている。イタリアもフランスと事情は同じだ。英国が離脱できたのはユーロ圏に入っていなかったからだ、ということもできよう。
・心配な点はフィヨン氏の選挙公約が、サルコジ元大統領に似た新自由主義政策である点だ。解雇の容易化、週35時間労働の規制廃止(延長)、公務員の50万人削減と労働時間の週39時間への引き上げ、年金支給年齢の65歳への引き上げ、などで、労働者の大反対を受けそうな項目がずらりと並んでいる。ルペン氏に足をすくわれないで頑張れるだろうか。
・秋のドイツ総選挙ではメルケル首相4選の可能性が高いだろう。2015年の難民大量流入への積極的な受け入れ対応は結果的にやりすぎとなり、メルケル首相への批判の声は高まった。だが、ドイツの人口は現在の8300万人から2060年には7000万人まで減少するとの予測が出ている。ドイツの大企業は労働人口減少に強い危機感を持っており、それがメルケルの難民受け入れ宣言につながった。さすがに、前回2012年選挙ほどの強さはないが、社会民主党は凋落し、他の政党にもメルケル首相に対抗できるようなリーダーがいない。
・今年6月に英国民はBrexitを選択した。離脱までは3段階ある。英国が交渉プランを作成し、EUに交渉を通告(第1段階)。そこから英国とEUの脱退交渉となる(第2段階)。交渉が妥結すれば、2019年7月に離脱という(第3段階)。 英国のメイ首相は2017年3月に交渉通告をすると公言し、「交渉まで手の内は明かさない」とも言っていたが、裁判所の判決により、議会で離脱方針を審議することになりそうだ。そうなると、交渉開始はずれ込むかもしれない。
・国民投票では離脱票とと残留票は僅差で、世代間、地域間で判断は大きく割れている。どんな方針を出しても、すんなりとはいかない。離脱方針はまだ決まっていない。
▽英国、EUともにダメージ大きい
・製造業はEUの関税同盟と単一市場に、農業は共通農業政策に、サービス業は単一市場にと、みんなEUにどっぷり足を突っ込んでいる。在英企業と大陸企業の間にはサプライチェーンが複雑に形成されており、英国が関税同盟から離脱すると、在英の日産やトヨタ、それに2500社の在英ドイツ企業、他の加盟国の在英企業等々の一部は英国からの離脱へ動くであろう。
・共通農業政策の下で英国は約5.5兆円の農作物を輸入、1.5兆円ほどを輸出しているが、いずれも4分の3はEU相手だ。共通農業政策から離脱すると、農産物平均20%の関税、規制など非関税障壁に引っかかる。ダメージは英国・EU双方で大きい。勝者なき離脱になる。
・メイ首相や閣僚はインドやアラブを訪問し、米国、中国へも秋波を送るが、英国の輸出シェアは中国5%、インドは1%で、約50%のEUとは比較にならない。40数年も一緒にやってきたのだから、切り離し自体そもそも無理な話なのだ。 英国はEU離脱を撤回するのがよいというのが筆者の考えだ。しかし決めた以上離脱しかない、というのであれば、「形式離脱、実質残留」方式を追求するのがよい。すでにブリュッセルのシンクタンクからそうした提案がなされている。
・Brexit、ギリシャ問題、イタリアの銀行危機など休む間もない危機の連続を見ていると、「EU崩壊」などと妄想したくもなろう。だが、欧州はいつも大変だった。第2次大戦後、旧ソビエト連邦が欧州の「不都合な」部分を囲い込んでくれて、パンドラの箱が閉まった。だが、西ヨーロッパだけで動けた幸福な時代はもう過ぎ去った。今、本来のヨーロッパに戻ったのである。
・まだEUと加盟国はその状況に慣れていない。徐々に危機を抑制できる制度作りと資金の手当てをしていかないといけない。20世紀の理想的な欧州統合の印象が強すぎて、そこを基準に考えるから「EU崩壊」という意見になるが、もっと余裕を持って見る必要があろう。
・それにしても、フランスの大統領選挙は気がかりだ。フランスまでが極右ポピュリスト政権になれば、EUの危機はBrexitどころではない。フランス国民の政治的英知を期待しよう。5月にフィヨン氏が首尾よく大統領になり、秋に第4次メルケル政権が選出されれば、具体的な対策へと進むであろう。
http://toyokeizai.net/articles/-/149515

次に、2月15日付け日経ビジネスオンライン「欧州には悪くないトランプの経済政策 欧州金融機関から上がる期待の声」を紹介しよう(▽は小見出し、Qは聞き手の質問、+は回答内の段落)。
・トランプ大統領の予測不能な行動に振り回されているのは、日本だけではない。EU(欧州連合)やNATO(北大西洋条約機構)に批判的な態度を取るトランプ大統領を、欧州でも警戒する動きが広がっている。 2月3日にマルタで開催されたEU非公式首脳会議では、トゥスクEU大統領が、トランプ政権をEUにとっての「外的脅威」と位置付けた。イスラム圏7カ国の国民に対する入国制限に対しても、EU主要国が批判。EUと米国の政治的な溝は深まっている。
・ただし、経済面を見れば、必ずしも悪いことばかりではない。トランプ大統領が提唱する金融規制の緩和や経済政策には欧州金融機関からも期待の声が上がる。欧州経済に及ぼすトランプ効果を、大和総研の菅野泰夫シニアエコノミストに聞いた。
・Q:トランプ大統領が打ち出した経済政策をどう見ていますか?
・菅野:経済政策に特化して見れば、極めて真っ当な政策を打ち出しているとの印象です。トランプ大統領の狙いは、シンプルです。すなわち、財政出動による景気拡大と、反グローバリズムの通商政策により国内雇用を増やし、中間層の所得水準を上げるというもの。移民についても、これまで受け入れ過ぎた反省から、適切な水準での管理に舵を切っていくということでしょう。
+もちろん、彼独特の政策の打ち出し方や、ツイッターを使った“口撃”という手法については賛否が分かれますが、市場関係者から見れば結果が大切です。ダウ平均株価の水準を見る限り、トランプ大統領の打ち出した施策は今のところ期待されていると言っていいでしょう。
+自動車メーカーに米国内で工場を作るように介入したりする行為も、自動車メーカーが従っているのは、米国の力を認めているからに他なりません。もし、本当に米国に未来がなければ、メーカーは米国から逃げ出してしまうわけです。こうした事情も勘案した上で「取引(ディール)」がなされているとの見方もできます。トランプ大統領が今後繰り出す施策は予測不能ですが、今のところ米国企業や米国で事業を展開する外国企業双方の利益が確保されていると考えられるでしょう。
+彼にとっては、貿易交渉もディールの感覚に近いのではないでしょうか。TPP(環太平洋経済連携協定)のような多国間交渉よりも、2国間で交渉をまとめた方が、取引がしやすいし、スピードは速いですからね。ビジネスマンの発想ですべての政策を動かしている印象です。
+マクロ経済をみると、財政出動への期待が高まれば、株価は上がる傾向にあります。現時点での株価を見る限り、金融市場はトランプ大統領の政策を評価していると見ていいでしょう。
+ただし、大型のインフラ投資や減税策に関する法案が提出されるのは2017年春以降となりそうです。選挙公約には、与党である共和党内から反発の声が上がる恐れがあり、可決までに時間がかかる可能性がありますね。従って、実際に財政出動が始まるのは、2018年以降と想定する向きも多く、現段階では期待が先行し過ぎているという見方も否めません。
・Q:当然ながら、トランプ氏の政策は、欧州の経済にも影響を与えますね。
・菅野:そうですね。ポイントは、3つあると思います。 1つは金融政策です。結論を言えば、長らく続いた低金利の潮目が欧州でも変わる可能性があります。
▽欧州の低金利が正常化する可能性も
+トランプ大統領は、低金利に批判的なスタンスで知られています。このため、今後の金融市場は、現状よりも高い金利になるという見方が金融関係者の間で一致しています。
+一方、為替市場では、為替操作国を名指しするなど、トランプ大統領が口を出しすぎる状況が続くと予想されます。大統領の発言がファンダメンタルズに即しているとは思えず、各国の金融政策担当者にとって悩ましい状況が続くでしょう。口先介入で永遠に相場が決定されることはないと思いますが。
+ただ、実際に米国金利が上昇すれば、欧州にも影響を与える可能性があります。折しも、世界の主要国で金融政策の有効性に対する信頼性が揺らいでいるタイミングです。金融緩和によって長らく低金利が続いてきた欧州でも、金利がある程度正常化する可能性はあります。
+特にECB(欧州中央銀行)の政策金利はグローバルな経済環境の変化を受けて決定されます。年央以降の金融政策会合の場で、ドラギ総裁が進める現行の金融緩和政策に対する出口戦略がどのような形で決定されるかに注目しています。
・Q:英国では英中銀のイングランド銀行が利上げを模索していると見られていますが…。
・菅野:英国は、国内のインフレ率上昇という別の要因もあり、利上げに転じる可能性は十分にあるでしょう。焦点となるのは、ここでもECBですね。ドラギ総裁が、トランプ効果によって、いつごろ意思を変化させるのかが今後の注目の一つになるでしょう。ドラギ総裁は現段階では金融引締め、利上げに否定的な見方をしています。そのタイミングを見計らって(通貨防衛の意味合いも含め)、英中銀の動きがあわただしくなると思います。
+2つめのポイントは、財政政策です。先程も述べたように、米国は財政出動を拡大させることで、景気拡大を推し進める考えです。その流れは、欧州にも広がる可能性があります。EU離脱を決めた英国は、財政拡大の姿勢を既に明確にしています。フランスの大統領選でも、財政拡大が一つの論点になるとみられています。
・Q:EUを事実上取り仕切るドイツの厳しい監視は、加盟国が財政支出を拡大させるハードルになりませんか。
・菅野:もちろん、EU主要国は、財政規律を順守することを求めるでしょうが、その声が弱まりつつあるのも確かです。欧州委員会も、2017年以降に財政支出を拡大させる必要性を2016年11月に指摘しています。これはドイツに対するメッセージだとして注目されました。ドイツ側は相変わらず、財政拡大による景気浮揚効果について異論を唱えており、反発しています。欧州委員会がこのドイツの方針をどこまで変えられるかが、一つの注目点になるでしょう。
+最後のポイントが、金融規制です。トランプ大統領は2月3日に、金融規制の一つであるドッド・フランク法などの見直しを命じる大統領令に署名しました。加えて、新たな規制の導入も凍結すると発言しており、金融危機以降に実施した金融改革を見直す方向に向かっています。
+この結果、世界共通の金融規制枠組みの策定に向けて、米国の関与が弱まる可能性があります。例えば、現在進められている銀行規制のバーゼルIII規制改革(バーゼルIV)は、欧州銀行の意向をより多くくんだ形で最終決着する可能性が濃厚です。そうなれば、欧州の銀行にとっては、追い風になる可能性もあります。
・Q:EU離脱を決めた英国と米国との関係はどうなりますか?先日のメイ首相とトランプ大統領の会談では、特別な関係をアピールしていました。
・菅野:この会談が英国にとって一定の成果となったのは確かでしょう。米国との特別な関係を改めて確認するとともに、トランプ大統領からNATOへの100%コミットを引き出すことに成功しました。メイ首相は、米国のコミットを取り付けるため、防衛支出をGDP(国内総生産)比で2%支払うようNATO加盟国に説いて回ることを約束しています。
+ただし、英国が米国とEUの橋渡し役になるという目論見については、疑問符がつきます。2月3日にマルタで開かれたEU非公式首脳会議で冷遇されるなど、英国はEU諸国から冷ややかな目で見られ、橋渡し役となる目算は外れた形になりました。さらに、トランプ大統領が発表したイスラム圏7カ国の国民に対する入国規制によって、親密さをアピールした英国は苦しい立場に立たされる可能性があります。
+一方で、英国にとって米国はEU離脱後のパートナーとして欠かせません。EU離脱後すぐに貿易協定を締結できるように、準備を進めていくでしょう。ただ、もちろん、ここにも問題はあります。例えば、EUを離脱する英国の農家はEUからの助成金を喪失する可能性が高く、そうした中で、米国の農業とどう伍していくのか。トランプ大統領と折り合うのは、決して簡単ではありません。
▽ロシアの経済は急成長へ
・Q:ロシアへの影響についてはどう見ますか
・菅野:あまり語られていませんが、今回のトランプ大統領の就任で大きく注目されているのは、ロシアです。石油価格の回復に伴い、昨年までマイナス成長だった経済は今年はプラス成長が予想されています。このタイミングで西側の経済制裁解除が重なれば、ロシア株式市場や通貨ルーブルも大きく回復することが予想されています。
+一方で、経済制裁解除に関して米国の与党共和党からも批判が出ています。マケイン上院議員は対ロシア制裁を法制化するよう主張するなど強気の姿勢を取り続けています。ただ、ホワイトハウスの内部にいる関係者が、すでに経済制裁解除に関する大統領の令草案ができていると語るなど、大統領と議会の対立が激しさを増しています。
+「取引」好きを自認するトランプ大統領が、経済制裁解除が利益になると考えれば、3月の解除に向けて一気に情勢が動く可能性もあります。そうなれば、7月に更新を迎えるEUによる経済制裁の解除につながることも考えられます。そうなれば、欧州企業のビジネスも段階的に拡大していくでしょう。結果的に、トランプ大統領の親ロ姿勢は、ロシアが急成長する機運を高めることになりました。
+総合的に見れば、トランプ大統領の政策は、停滞する欧州経済に風穴をあける可能性があります。ただし、英国をはじめとする欧州首脳は、従来の常識が通じないトランプ大統領の一挙一動に、当面の間、右往左往させられることになりそうです。欧州首脳たちがどのように対処していくのか、今後も注目されます。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/interview/15/230078/021400078/?P=1

第三に、在独ジャーナリストの熊谷徹氏が3月2日付け日経ビジネスオンラインに掲載した「米国の恫喝に欧州はどう反応するのか 新国務長官「防衛費を増額しないなら欧州の同盟を見直す」」を紹介しよう。
・ミュンヘン中心部の高級ホテル「バイリッシャ―・ホーフ」。ここで毎年2月に開かれる「ミュンヘン安全保障会議(MSC)」は、民間団体が主催するイベントだが、ドイツ政府の首相をはじめ、主要国の外務大臣、国防大臣らが一堂に集うユニークな催しだ。比較的狭いホテルなので、通路は立錐の余地もないほど混み合うことがある。参加者は特定の条約、協定について合意しなくてはならないという、時間的なプレッシャーにさらされていないため、比較的自由に意見を交換できる利点もある。
▽注目されたペンス演説
・今年2月17~19日に開かれたMSCは、内外のメディアや安全保障関係者から特に大きな注目を浴びた。昨年11月にトランプ政権が誕生してから初めてのMSCであり、同政権の副大統領マイク・ペンスが参加したからである。彼が米国外で演説するのは初めてのこと。
・トランプは選挙期間中に、「NATOは時代遅れだ」と言い切っていた。「トランプの大統領就任とNATOの運命」でお伝えしたように、この発言は、欧州に強い不安と動揺をもたらしている。欧州諸国の指導者たちは、「米国は将来も欧州の防衛に関わるのか。それとも、欧州から徐々に手を引こうとしているのか」という問題に強い関心を示している。
・特にロシアが2014年にクリミアに戦闘部隊を送って強制併合、ウクライナ東部の内戦にも介入するなど、不穏な動きを強めている。ロシアと国境を接するバルト3国やポーランドでは、80年代の東西冷戦の時代に似た不安感と緊張感が高まっている。MSCで、米新政権のナンバー2が、NATOの未来についてどのような方向性を示すのかが注目されたのは、そのためだ。
▽「欧州諸国は約束を守れ」
・ペンスが2月18日にミュンヘンで発信したメッセージは、独首相アンゲラ・メルケルら会議場を埋めた欧州諸国の政治家たちの胸に、安堵と不安が混ざった感情を生じさせたに違いない。 ペンスは、トランプのような露骨な表現を避け、「米国はNATOを力強く支援する。大西洋を挟んだ軍事同盟への関与は揺るがない」と述べた。紋切り型の表現ではあるが、少なくとも米国は、欧州との軍事同盟に関わり続けるという言質を与えた。このことは、メルケルら欧州諸国からの参加者に、一抹の安堵感を与えただろう。
・だがペンスは、彼のボスからのメッセージを伝えることも忘れなかった。それは、「米国は防衛ただのりをもはや許さない」という意思表示だ。 ペンスは「北大西洋条約は、加盟国が攻撃を受けた場合、他の国が結束して反撃するという集団的自衛権の原則に基づいている。この原則は、加盟国が応分の貢献をすることも義務付けている」と述べ、「NATO加盟国は、約束した防衛費をきちんと負担することを約束した」と欧州諸国に矛先を向けた。NATO加盟国は、2006年の会議で、「2024年までに、国内総生産(GDP)に対する防衛支出の比率を、2%に引き上げる」と合意している。
・その上でペンスは「この約束は、あまりにも長い間、大半のNATO加盟国によって無視されてきた。この約束を達成したのは、まだ数か国にすぎない。欧州の大国の中にも、防衛費を本格的に増やす努力を始めていない国もある。この約束不履行は、軍事同盟の基盤を侵食している」と批判した。米国の本音は、「NATOへの関与を続ける」という外交辞令ではなく、むしろこちらの方だろう。
▽ドイツに向けられた矛先
・ペンスは名指しを避けたが、「防衛費を増額するための真剣な努力を始めていない大国」とは、欧州最大の経済パワー・ドイツのことである。NATOの統計によると、2016年のドイツの防衛支出の対GDP比率は1.19%で、2%の目標から遠く離れている。英国(2.21%)やフランス(1.78%)にも水を開けられている。ペンスは「我々は、同盟諸国がこの目標を達成することを期待している。今や、本格的な行動を始める時だ。欧州の防衛には、米国だけでなく欧州の貢献も欠かせない」と釘を刺した。
・つまりペンスの発言は、「ドイツなどが応分の防衛負担を怠り、欧州の防衛について米国に過度に依存しているのは、もはや許せない。米国が将来NATOに関与し続けるのは、他のNATO加盟国が防衛費増額の約束を守った場合のみだ」というメッセージを含んでいるのだ。
・MSCの会場でペンスの演説に対する拍手は、少なかった。彼の発言は、外交辞令のオブラートに包まれていたとはいえ、しょせんはトランプによる欧州批判の繰り返しである。このため欧州諸国の外務大臣や国防大臣たちは、喝采を送る気にならなかったのだろう。
・MSCでメルケルは、「防衛支出の増額は、徐々に行うべきものであり、効率性についても配慮しなくてはならない。安全保障に貢献するのは、防衛支出の増額だけではない。発展途上国への援助や教育水準の改善、難民の援助も安全保障にとって重要だ」と反論。議論の焦点を防衛支出だけに絞り込むトランプ政権の姿勢を、間接的に批判した。
・同時にメルケルは「対GDP比で2%」の目標達成に向けて努力する方針を強調するとともに、「欧州はイスラム過激派の脅威とロシアの野心に直面しており、米国の軍事力を必要とする」と述べ、欧州が独力ではこの2つの試練に対応しきれないという本音を漏らした。
▽集団的自衛権の原則から逸脱?
・ペンスは3日後にブリュッセルのNATO本部で事務総長イェンス・ストルテンベルグと会談。その後の記者会見で、ミュンヘンでの演説よりも率直な表現を使い、「防衛支出の目標を達成しない同盟国に対する、米国市民の忍耐は、永遠には続かない」と述べている。彼は、そうした国に対して米国がどのような措置を取るかについては、明言を避けた。
・ペンスに先駆けて、2月15日にNATO本部を訪れた米国の国防長官ジェームズ・マティスは、ペンスよりも単刀直入に「他のNATO加盟国が防衛費増額の努力を怠るならば、米国は欧州防衛への貢献を減らす」と語った。これは、欧州に対する「恫喝」もしくは脅迫とも取れる発言だ。
・欧州の加盟国が最も強く懸念しているのは、北大西洋条約の第5条、つまり「NATO加盟国は、他の国に対して行われた軍事攻撃を、自国への攻撃とみなす」という原則が、トランプ政権によって揺るがされることだ。トランプがNATOを批判して以降、「欧州諸国は、対GDP比2%の目標を達成していない国が攻撃されても、米国は自国への攻撃と見なさず、反撃しないのではないか」という懸念を強めている。
・この点について、NATOの事務総長ストルテンベルグは、ペンスとの共同記者会見で「北大西洋条約の第5条が定める集団的自衛権について、(防衛費負担などの)条件を全く付けていない」と釘を刺している。この発言は、ロシアからの脅威に最も直接的に曝されているバルト3国やポーランドが抱く不安を緩和するためだろう。
▽独の2024年までの目標達成は不可能
・さてペンスに批判されたドイツにとって、2%の目標達成は容易なことではない。ドイツはロシアがクリミアを併合した2014年以来、防衛支出を毎年引き上げている。その増加率も、年々増えている。2017年には防衛支出を前年比で7.9%と大幅に増やした。その伸び率は、GDP成長率を上回る。
・だがストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が2015年の各国の防衛支出を比較した統計によると、ドイツの支出は393億9300万ドルで、米国(5960億ドル)の約15分の1に過ぎない。 NATOの統計によると、2016年のドイツの防衛支出の対GDP比は、NATO加盟国28カ国中で第16位(2%の目標に達しているのは、米国、ギリシャ、英国、エストニア、ポーランドの5カ国だけ)。つまりNATO加盟国の82%は、2%の目標に達していない。
・ドイツの2%達成が難しい理由は、経済規模が大きいことだ。2017年のドイツの防衛支出は、370億ユーロ(約4兆4400億円)。2016年のドイツのGDPは、3兆1330億ユーロ(約375兆9600億円)。GDPの2%は、627億ユーロ(約7兆5192億円)である。
・つまりドイツが米国に対する約束を果たそうとすると、防衛支出を現在より257億ユーロ(約3兆840億円)も増やす必要がある。約70%もの増額だ。欧州最大の経済パワーといえども、これは難題である。ドイツが7年以内、つまり2024年までに、2%の目標を達成するのは不可能であろう。
▽米国への依存からの脱皮を目指すドイツ
・トランプの圧力は、欧州の安全保障地図を塗り替え、米国からの「乳離れ」を促す可能性がある。今欧州の安全保障関係者の間では、「米国がNATOへの関与を減らす場合に備えて、我々は防衛能力を高める可能性がある」という意見が強まっている。
・ドイツのジグマー・ガブリエル外務大臣は、MSCの直前に行ったドイツの保守系日刊紙フランクフルター・アルゲマイネ紙(FAZ)とのインタビューの中で「欧州諸国は、いつまでも米国に防衛してもらえばよい、自分たちは何もしなくてよいと長い間思い込んできた。だがそうした時代は、完全に終わった。我々は、強い欧州を作らなければならない。そうしなければ、トランプ、プーチン、中国から一人前のパートナーとして見られることはない」と断言している。
・彼は「米国がリーダーとしての役割を果たさなくなるのであれば、欧州は防衛力の強化という、長年の課題を実行に移さなくてはならない」と述べ、米国との新たな関係を模索することになるだろうと指摘した。
・さらに過激な意見も出ている。ポーランドの元首相ヤロスワフ・カチンスキーは、今年2月初めに「米国が欧州を防衛しないとしたら、欧州は独自の核抑止力を持つべきだ」と発言した。 かつてソ連の支配下に置かれた中東欧諸国は、米国に対して、ロシアの脅威から自分たちを守る守護者の役割を期待してきた。中東欧諸国が、独仏とは異なり、ブッシュ政権のイラク侵攻を支援したのは、そのためである。だが中東欧諸国の期待は、トランプ政権の誕生で大きく揺らいでいる。「米国の核の傘は、本当に頼りになるのか?」。カチンスキ―の発言の背景には、NATOの将来について不透明感が強まったことに対する、中東欧諸国の焦燥感がある。
▽平和の配当を享受できる時代は終わった
・MSCの2日後、ドイツ連邦政府は連邦軍を増強すると発表した。連邦軍の将兵の数は現在17万8000人。これを2024年までに2万人増やして19万8000人とする。ドイツは東西冷戦の終結後、徴兵制を廃止した他、将兵の数を年々減らしていた。欧州の中央に位置するドイツは、冷戦終結による「平和の配当」を最も享受してきた国の1つである。
・だがロシアだけではなく、大西洋の反対側の米国、そして中東や北アフリカでも、地政学的な不透明感が強まりつつある今、ドイツは「米国のいない西側陣営」の中で指導的な役割を果たすよう、EU諸国から求められる可能性がある。ドイツが平和の配当を享受していればよい、居心地の良い時代は、終わったのだ。 2017年は、ドイツそしてEU諸国が米国からの自立を目指し始める、重要な分水嶺となるかもしれない。
▽欧州の対米戦略に注目するべきだ
・我々日本人は、米国の豹変に直面した欧州人たちの焦りと不安感を、対岸の火事として眺めているだけでよいのだろうか。SIPRIによると、日本の2015年の防衛支出はGDPの1.0%で、ドイツよりも低い。409億ドルも防衛に支出しているのに、対GDP比率が低いのは、経済規模が大きいためだ。つまり日本も、ドイツと同じ悩みを抱えている。
・万一トランプ政権が、日本に対しても防衛費増額を要求してきた時、我が国はどう答えるのか。欧州とアジアの地政学的状況は大きく異なるとはいえ、欧州が考える対米戦略の中に、我々が学べる内容もあるはずだ。本シリーズでは、今後も欧州諸国の動きについてお伝えしていくつもりだ。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/219486/022700025/?P=1  

第一の記事は、さすがに学者らしく、歴史的視点から分析している。『レンツィ首相の憲法改正提案を拒否』、については、重要事項がなかなか決められないイタリア政治の後進性を示したと誤解していたが、実は、『イタリア国民は民主主義の健全さを示した』、との指摘で、考え直した。ただ、英国のBrexitについては、この記事の後、メイ首相は単一市場よりも移民制限の方を重視するという「ハードブレクジット」路線を選択した。 『欧州はいつも大変だった。第2次大戦後、旧ソビエト連邦が欧州の「不都合な」部分を囲い込んでくれて、パンドラの箱が閉まった。だが、西ヨーロッパだけで動けた幸福な時代はもう過ぎ去った。今、本来のヨーロッパに戻ったのである』、というのは、確かに言われてみれば、その通りだ。
第二の記事が指摘している 『トランプ大統領が提唱する金融規制の緩和や経済政策には欧州金融機関からも期待の声が上がる』、というのは当然だろう。しかし、経済政策については株式市場の短期的評価に引きずられたためか、楽観的過ぎる印象を受ける。少なくとも「米国第一主義」を臆面もなく掲げる通商政策は、EUにとって、マイナスの影響をもたらす筈だと思う。ただ、ロシアへの経済制裁を解除するとすれば、欧州経済にも大きなプラスの影響を与えるだろう。
第三の記事にある 『NATO加盟国は、2006年の会議で、「2024年までに、国内総生産(GDP)に対する防衛支出の比率を、2%に引き上げる」と合意』、というのは恥ずかしながら初めて知った。これでは、ドイツにとっては、『2024年までの目標達成は不可能』、というのもやむを得ないだろう。『安全保障に貢献するのは、防衛支出の増額だけではない。発展途上国への援助や教育水準の改善、難民の援助も安全保障にとって重要だ』、とのメルケル首相の反論は正論だ。他方で、『米国への依存からの脱皮を目指すドイツ』、とはいっても核武装については、『カチンスキーの独自の核抑止力を持つべき』、は極論としても、現在保有しているフランス、英国に任せておくだけなのだろうか。『平和の配当を享受できる時代は終わった』、のは事実としても、如何に対応してゆくのか、日本も埒外ではないだけに、大いに注目されるところだ。
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