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通商問題(その1)(トランプ暴走に巻き込まれる世界経済 米中貿易戦争の危険な賭け、米中貿易戦争が激化するとは考えられない理由、米中関係はすでに大きな転機を迎えている トランプの対中貿易戦争には理由がある) [世界情勢]

今日は、通商問題(その1)(トランプ暴走に巻き込まれる世界経済 米中貿易戦争の危険な賭け、米中貿易戦争が激化するとは考えられない理由、米中関係はすでに大きな転機を迎えている トランプの対中貿易戦争には理由がある)を取上げよう。

先ずは、元日経新聞論説主幹の岡部 直明氏が3月27日付け日経ビジネスオンラインに掲載した「トランプ暴走に巻き込まれる世界経済 米中貿易戦争の危険な賭け」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・米中貿易戦争を仕掛け、輸入制限を強行したトランプ米大統領の暴走が世界経済を巻き込んでいる。国際協調派の相次ぐ辞任でブレーキ役を失ったトランプ保護主義は歯止めがきかない。それは世界同時株安に直結した。1930年代、米国発の保護主義で始まった世界大不況を連想させる。トランプ大統領は貿易戦争に勝てると公言するが、最大の敗者が覇権国の威信を失墜した米国であることは間違いない。トランプ大統領にひたすら追随してきた日本への打撃も大きい。ひたすら輸入制限の例外扱いを希うのではなく、自由貿易の原点に立ち「ノーと言える日本」に戻り、国際社会の結束をめざさない限り、トランプ暴走は止められないだろう。
▽よぎる1930年代の悪夢
・トランプ大統領は鉄鋼、アルミニウムにそれぞれ25%、10%の高関税を課す輸入制限措置を打ち出したが、それだけでは済まなかった。中国の知的財産権の侵害を理由に、5000億ドル相当の輸入品の約1割に高関税を課す方針を打ち出した。情報通信機器や機械など約1300品目を対象に25%の関税を課す。大統領権限で強力な貿易制限をかける「通商法301条」をたてにした措置である。中国企業の対米投資も制限する。
・これを受けて、中国も鉄鋼、アルミの輸入制限に対抗して、最高25%の関税を上乗せする報復措置を打ち出した。果物、ナッツ、継ぎ目のない鋼管など120品目に15%、豚肉、アルミ・スクラップなど8品目に25%の関税を上乗せする。さらに、米国産大豆などで対中制裁への対抗措置を検討している。全面的な「米中貿易戦争」の様相が濃くなっている。
・トランプ発の貿易戦争は世界同時株安に波及した。こうした状況は、1930年代の世界大不況を思わせる。1929年のニューヨーク株暴落を受けて、1930年、米国はスムート・ホーレイ関税法を制定、世界に関税引き上げなど保護主義が連鎖する。通貨切り下げ競争と相まって世界貿易は縮小し、世界大不況につながる。それがヒットラーはじめ極右政権の台頭を許し、第2次大戦への導火線になったのである。
▽最大の敗者は米国
・トランプ大統領は「貿易戦争、いいじゃないか。簡単に勝てる」などを公言しているが、米国発で保護主義の連鎖が起きれば、最大の敗者は米国になるだろう。 トランプ政権は国際協調派が次々に更迭や辞任に追い込まれ、保護主義にブレーキがかからなくなっている。世界に保護主義の連鎖が続き、その傷が深まりかねない。経済政策の司令塔である国家経済会議(NEC)議長は、輸入制限に反対したコーン氏が辞任し、対中強硬派のクドロー氏が指名された。ロス商務長官、ナバロ通商製造政策局長と並んで、対中強硬派が顔をそろえることになる。
・国際協調路線ゆえに更迭されたティラーソン国務長官の後任は、強硬派のポンぺオ氏だ。マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)の座を引き継ぐのは、「ネオコン」で名をはせたボルトン氏である。これでは、トランプ大統領の強硬路線に待ったをかけるどころか、政権全体が呼吸を合わせて一直線で突き進む危険がある。覇権国としての米国の信認は地に落ちるだろう。保護主義に警告した20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議でも「米国の孤立」が鮮明になった。
・米連邦準備理事会(FRB)の政策運営も厳しさを増すだろう。パウエル新議長は年3回の利上げという慎重な出口戦略を打ち出したが、物価しだいでは利上げを加速する必要に迫られる。しかし、保護主義発動による世界同時株安で消費が萎える恐れもある。保護主義の連鎖で、世界貿易が停滞し、米国経済が打撃を受ければ、利上げテンポにも影響しかねない。
・とくにトランプ大統領から貿易戦争をしかけられた中国は米国債売却まで視野に入れているようにみえる。劉鶴副首相は「中国は準備ができており、国家の利益を守る実力もある」と警告している。中国が米国債を売却すれば、米市場を揺るがしかねないだけに、パウエルFRBの対応はさらに厳しくなる。
・米産業界はトランプ発の貿易戦争がコスト増になってはねかえることを警戒している。トランプ大統領の支持基盤に恩恵をもたらすどころか、打撃をこうむることが鮮明になれば、劣勢が予想される11月の中間選挙にも影響するだろう。貿易戦争はすべてが敗者になるが、最大の敗者は火をつけた米国であることを思い知らされるはずだ。
▽米中覇権争いの様相
・「米中貿易戦争」は、貿易を超えた覇権争いの側面もある。知的財産権の侵害を名目にしているのは、先端技術をめぐる大競争を想定しているからだろう。米国は知的財産権の保護では同じ問題を抱える日欧との連携をめざしたいところだろう。一方、中国は知的財産権保護で日米欧連携、中国包囲網という事態だけ避けたい考えだ。トランプ保護主義に対抗して世界貿易機関(WTO)を重視し、自由貿易を堅持するため日欧との連携をめざしている。
・米国が警戒するのは、習近平政権が2025年に向けて人工知能(AI)やビッグデータ解析、産業ロボットなど次世代技術に集中投資しようとしている点だ。米国から中国への技術移転が続けば、先端分野でも米中逆転が起こりうるという警戒心が潜む。 米中はこれまでに経済相互依存を深めてきているだけに、貿易戦争が覇権争いに発展すれば、世界経済への打撃は深刻化しかねない。
▽功を奏した硬軟両様のEU戦略
・欧州連合(EU)が北米自由貿易協定(NAFTA)見直し交渉中のカナダ、メキシコなどとともに、鉄鋼、アルミの輸入制限で「適用除外」を獲得したのは、「圧力」と「融和」の硬軟両様の通商戦略が功を奏したからだろう。トランプ大統領の輸入制限に真っ先にかみつき、共和、民主両党幹部のおひざ元の製品に対抗関税を課すと表明したのはユンケル欧州委員長だった。EUの盟主でトランプ嫌いのメルケル独首相が政権に「復帰」するやいなや、対抗関税でトランプ保護主義に警告したのも効いた。米国の巨大情報技術(IT)企業に照準を合わせたEUのデジタル課税構想も無視できなかったはずだ。
・その一方で、EUは通商担当のマルムストローム欧州委員が適用除外を働きかけるとともに、トゥスク大統領が中断している米国との自由貿易協定(TTIP)の再開を求めるなど融和路線の構えもみせた。 EUを適用除外にするうえでは、安全保障面の配慮も働いたはずだ。ロシアでプーチン大統領が再選され、強権化が予想されるなかで、北大西洋条約機構(NATO)の米欧同盟まで揺るがすわけにはいかなかったのだろう。
▽「ノーと言える日本」に戻れ
・巧みなEUの通商戦略に比べて、トランプ保護主義に対する日本の対応は、あまりにお粗末だった。保護主義を真っ向から批判するより先に、適用除外をひたすら願い出たのは情けなかった。繊維、カラーテレビ、自動車、半導体など何度も日米通商摩擦を経験し、2国間の保護主義がいかに不毛なものであるかわかっているはずの日本がなぜ正々堂々とトランプ保護主義に「ノー」を突きつけなかったのか。
・北朝鮮問題もあり、トランプ政権との関係を重視するのはわかるが、世界経済全体を大きく揺さぶる覇権国の保護主義に、真正面から切り込めないとすれば、それこそまともな同盟国とはいえない。 しかも、同盟国としての「適用除外」のお願いは無視される結果になった。そのせいか、世界同時株安のなかでも日本株の下げは最も大きい。安倍晋三首相はトランプ大統領を最も親しい関係と位置付けているかもしれないが、トランプ大統領の方は何でも通る「安全パイ」としか考えていないのではないか。
・トランプ保護主義には「ノーと言える日本」に戻るしかない。EUのように、はっきり物申さないかぎり、通商戦略は成り立たない。 まず、トランプ政権が求める2国間の自由貿易協定(FTA)は受け入れるべきではない。2国間で貿易不均衡を是正する考え方自体が誤っていることを説くしかない。何より環太平洋経済連携協定(TPP)への米国復帰を優先すべきである。
・そのうえで、中国が加わる東アジア地域包括的経済連携(RCEP)とTPPを結合することだ。それは「米中貿易戦争」に終止符を打つ近道でもある。TPPにもRCEPにも足場を置く日本の役割は極めて大きい。トランプ保護主義を逆手に取って、日本が歴史的使命を果たす番である。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/071400054/032600058/?P=1

次に、早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問の野口悠紀雄氏が4月5日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「米中貿易戦争が激化するとは考えられない理由」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・ドナルド・トランプ米大統領は、3月22日、知的財産権侵害を理由に、中国製品に25%の関税を課す貿易制裁措置を表明した。また、23日には、鉄鋼とアルミ製品への追加関税適用を開始した。4月4日には、制裁関税の原案を発表した。 これが米中貿易戦争に発展するのではないか、との懸念が広がっている。株価も下落した。
・しかし、これは、まったく経済合理性を欠く政策だ。このままエスカレートするとは考えられない。 アメリカが本当に恐れるべきことは、中国の特殊な社会構造が、ビッグデータの利用やAIの開発に有利に働いていることだ。
▽中国への高関税で困るのは米国の企業や消費者
・アメリカの対中貿易赤字は、2016年で3470億ドルと巨額だ。 トランプ大統領は大統領選挙戦のときから、この削減が必要だと主張してきた。 そのために、中国を為替操作国に指定するなどの措置を取る可能性があると報道されてきた。 それがついに今回、関税という形で現実のものとなったのだ。
・しかし、これは、経済的に合理性を欠く政策だ。 中国からの輸入5000億ドルの約1割に25%の高関税が課されれば、困るのはアメリカの消費者や企業である。アメリカ国内で製品価格が上昇し、消費や投資が抑えられる。 アメリカの経済力を弱めるだけであり、実際に、反対の声がアメリカ国内で上がっている(中国でなく、アメリカ国内であることに注意)。すでに、全米小売業が反対している。
・情報通信機器などは中国で組み立てて輸入しているので、コストが上昇する。米中のサプライチェーンは極めて巨大であり、これを変えることなどできない。 他方で、この措置によってアメリカの雇用が増大するとは考えられない。
・トランプ大統領の政策は、国際協調を無視したアメリカ第一主義だと言われる。しかし、この政策は、アメリカのためにならないという点が最も重要だ。 米中経済戦争の可能性をまったく否定するわけではないが、これがエスカレートしていくような事態は、あまり現実的なこととは思えない。
▽政治的な意味や駆け引きの道具として意味があるか?
・トランプ大統領がこうした政策を打ち出している理由としては、つぎの2つが考えられる。 第1は、中間選挙に向けた政治的なメッセージだ。 アメリカでは、今年11月に中間選挙が実施される。そこで、こうした措置を講じて、アメリカの雇用を増やそうとしているとのアピールをしたいのだろう。
・ただし、政治的にも本当に効果があるかどうか、疑問だ。 中間選挙でどのような結果が出るかが注目されるが、そのときまでにはっきりした成果を示すことは、おそらくできないだろう。
・もう1つ考えられるのは、国際的な交渉での、取引の手段にすることだ。 対中関税も6月までに具体的な内容を決めるとされており、まだ最終化していない。発動を決めるまでの2ヵ月間に中国と貿易赤字の削減策などを交渉する。 鉄鋼製品に25%、アルミ製品に10%の高関税適用も、除外国がまだ最終的には決まっていない。これからさまざまな駆け引きの道具に使うつもりだろう。 ただし、輸入量を制限できたところで、それがアメリカの雇用を増やすことにはならない。アメリカで鉄鋼業が復活するなどということは、およそ考えられない。
▽「報復」で米国債売れば、長期金利上昇で困るのは中国
・アメリカの措置に対して、中国は報復措置として4月2日から米国からの輸入品128項目に最高25%の高関税をかけ始めた。 中国外務省の華春瑩報道官は、記者会見で、「中国は貿易戦争を望んでいないが、怖がってもいない。お返しをしなければ失礼になる。私たちは最後まで付き合う」と述べたとされる。
・2日から高関税が実施されたのは、米国産豚肉や果物、ワイン、継ぎ目なし鋼管などで、こうした報復措置の実行で、アメリカの畜産業や農業などは困るだろう。 しかし、中国の消費者も、価格が上がるという問題に直面する。
・中国の報復措置としてもっと強力なのは、アメリカ国債の購入を減らすことだとも言われる。 中国の米国債保有額は2017年10月末時点で約1兆1900億ドル(約135兆円)と国別で最大だ。 これを売却したり購入量を減らしたりすれば、アメリカの金融市場は混乱する可能性が強い。そして、アメリカの長期金利の上昇に拍車がかかるだろう。
・だが、それで一番困るのは中国なのだ。 人民元に下落圧力が生じて資本流出が再び増加するリスクを、中国としてはなんとしても避けたい。実際、中国人民銀行は、これまで、アメリカの利上げに対して、人民元安の阻止に全力を挙げてきた。
・長期金利が上昇すると、中国ではもう1つの問題が生じる。 それは、本コラム「なぜ日米金利差が拡大しているのに円高になるのか」で書いたように、国内の企業の債務残高が巨額なことだ。 仮に金利が上昇すると、金融危機が発生する可能性がある。
▽日米貿易への影響は限定的だが円高をもたらす可能性
・では、トランプ政策の日本への影響はどうか? トランプ政権の鉄鋼・アルミニウムの輸入制限措置は、日本も適用対象になった。 ただし、日本の鉄鋼輸出のうちアメリカ向けは2%程度なので、影響は限定的と考えられる。 他方で、アメリカのエネルギー産業は、パイプライン用鋼管などを輸入に依存している。このため、エネルギー産業が適用除外を求めている。
・こうした事情を考えると、通商面での直接的な影響は限定的と考えられる。 影響は、為替レートや金利を通じて働くだろう。 最も影響が大きいのは、アメリカがどんな経済政策を出してくるかがまったくわからないことが、国際貿易経済に大きな攪乱要因になることだ。 国際経済環境のリスクが増し、リスクオフの動きが強まる。円が安全資産と見なされて、資金が流入し、円高になる。
・第2に、中国が報復措置でアメリカ国債の購入を減らせば、アメリカの長期金利の上昇に拍車がかかる。これは、日本の金融政策に影響を与える。 ところで、本コラム「世界株安は『トランプ期待』が止めていた正常トレンドへの復帰だ」で書いたように、日本経済は、為替レートによって大きな影響を受ける。というより、円高になるか円安になるかで、経済の大勢が決まってしまう。
・今後、円高が進めば、日本企業の利益は落ち込み、株価は下落するだろう。 では、日本はこうした事態に対してどう対処すべきか? 本来であれば、自由貿易の重要性を世界に向かって訴えるべきだ。 しかし、そう主張すれば、アメリカは二国間交渉で、「それでは農業についても自由貿易をしよう」という要求をしてくる。 ところが、日本は農産物に高関税をかけている。 だから、日本は自由貿易を声高に主張することができない。 アメリカの保護貿易に口を挟むには、日本が自由貿易を実行しなければならない。
▽アメリカが本当に危惧すべきことがある
・これまで中国は、大量の留学生をアメリカの大学に送り込み、そこで学んだ知識を中国に持ち帰らせて、中国の知識、技術水準を向上させてきた。 その結果、コンピュータサイエンスの分野では、清華大学が世界一になるほどの発展を遂げた。 これを知的財産権の侵害とは言わないが、歴史上かつてなかったほどの規模の膨大な知識の移転である。このような知識移転がなければ、中国の工業化は実現しなかっただろう。
・ただし、それによってアメリカが損失を被ったわけではない。また、衰退したわけでもない。アメリカは、中国の工業化を利用して生産を委託し、互いに「Win-Winの関係」で成長してきた。現在でもこの関係は強固であり、それが簡単に変わるとは思えない。
・アメリカが本当に危惧すべきは、中国の先端的IT(とくにAI)が、近い将来にアメリカを抜くことだ。 しかも、それが中国独自の国家体制と深い関係を持っていること(ビッグデータの利用に国民が警戒心を持たないこと)だ。 中国は、AIに支えられた独裁政治に向かいつつあるように見える。
・習近平国家主席は、これまでいかなる独裁者も手にすることができなかった完全な支配手段を手に入れ、ビッグブラザー(ジョージ・オーウェルの『1984年』に登場する独裁者)より強力な独裁者になろうとしている(「中国の最先端AIが作り出す戦慄の未来社会」参照)。 これは、「デジタル・レーニン主義」とも呼ばれるものだ。
・こうした国家が出現することは、世界全体にとって重大な問題だ。自由な政治・社会構造を維持しつつ先端的情報技術の開発を進める方策を、日本はアメリカとともに考える必要がある。
http://diamond.jp/articles/-/165999

第三に、東洋大学教授の薬師寺 克行氏が4月12日付け東洋経済オンラインに寄稿した「米中関係はすでに大きな転機を迎えている トランプの対中貿易戦争には理由がある」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・米中両国が相手側の輸出品への関税引き上げで激しいぶつかり合いを演じている。米国が次々と打ち出す関税引き上げに中国が同じ規模の対抗策を取れば、中国は米国からの輸入品のすべてに高関税をかけざるをえないような勢いだ。
・もちろん両国のこうした強気の姿勢は、約2カ月後に米国が制裁対象品目を正式に決定することを念頭に置いた駆け引きの面が強い。したがって多くの関係者が、米中両国間で水面下の交渉が行われ、現実的な落としどころを見いだすであろうとみている。むろんトランプ大統領は何をしでかすかわからないという不安の声も根強いが、世界経済を根底からひっくり返すようなことはしないであろう。そう信じたいところだ。
▽米国の対中政策は「関与」から「封じ込め」へ
・ただし、昨年来の経緯を分析すると、米中関係が大きな転機を迎えたことは間違いない。それは中国を何とかして米国中心の世界の経済システムに取り込もうという、オバマ前大統領までの歴代米国政権が続けてきた「関与政策」(engagement policy)から、もはや中国は自分たちに協調してこないから力ずくで抑え込もうという一種の「封じ込め政策」(containment policy)への転換だ。
・そうなると米中のみならず、両国の同盟国も巻き込んだ世界的な対立構造ができかねない。今回の米中貿易摩擦の展開は冷戦時代を彷彿させる状況への突入を予感させるような出来事である。 今回の高関税をめぐる「報復合戦」は急に始まったことではない。2016年の米大統領選挙中から、トランプ氏は中国との膨大な貿易不均衡を問題にしており、中国を「貿易で優位に立つため為替を操作している」と批判し、自分が大統領に当選すれば中国を為替操作国に認定すると公約していた(実際には認定しなかった)。さらに、当選後は米中間の貿易不均衡を理由に、米国がこれまで維持してきた「一つの中国」という政策について「なぜ堅持する必要があるのかわからない」と中国を挑発する発言をした(これも後に事実上撤回した。
・だからといって、今回の鉄鋼やアルミニウムに対する関税上積みや、知的財産権侵害を理由とした幅広い中国製品に対する関税引き上げは、怒りに満ちたトランプ大統領の強引な判断だけで打ち出されたものではない。通商問題の分野で制裁を打ち出すには、国内法だけでなくWTO(世界貿易機関)の規則などに関する高度で専門的な知識とともに、過去の詳細なデータを踏また判断が不可欠である。メキシコとの国境に壁を作るというような問題とは異なり、大統領一人で決められるような単純なものではない。
・2017年4月、トランプ大統領は通商拡大法に基づいて商務省に鉄鋼輸入の実態調査を指示した。商務省は今年に入って調査結果を大統領に報告するとともに、関税率引き上げの対象をすべての国とするか、特定の国に限定するか、すべての国に輸入割り当てを設けるか、の3つの選択肢を示した。トランプ大統領は、その中で最も厳しい、一部の国を対象から外すものの、すべての国を関税率引き上げの対象とする案を選択して、公表した。
・知的財産侵害を理由とした通商法301条発動も、「包括経済対話」の決裂を受けてUSTR(米国通商代表部)が調査を行った結果の対応だ。つまりいずれの政策も、米国はじっくりと時間をかけて、法律に定められた手順を踏んで打ち出している。
▽習近平の中国は「韜光養晦」から「中国の夢」へ
・実は対中貿易の巨額の赤字も、中国による知的財産権の侵害も、米国にとって長年の懸案だった。しかし歴代米政権は中国に対し強硬姿勢を見せるどころか、逆に中国との良好な関係を維持しようとしてきた。  第2次世界大戦後、米国は台湾に移った国民党政権が作った中華民国を合法的な中国の政府とみなし国交を結ぶとともに、大陸の中華人民共和国とは朝鮮戦争やベトナム戦争で対峙するなど対立関係にあった。しかし、ニクソン政権時代に米国は中華人民共和国に急接近し、1979年に国交を樹立した。ここから米国の中国に対する「関与政策」が始まった。
・中国側も鄧小平氏の指導の下、社会主義体制の中で市場主義経済を取り入れる「改革開放路線」を打ち出すとともに、対外政策は「自らの能力を隠して時機を待つ」という戦略を意味する「韜光養晦(とうこうようかい)」を掲げ、大国ぶらない比較的穏健な姿勢を打ち出し、米国との関係を維持してきた。
・巨大な人口を持つ中国は市場としても魅力的であることから、経済成長を支援するとともに、米国主導で作り上げた戦後の世界経済システムに中国を取り入れる。これが米国の中国に対する「関与政策」だ。1980年代以降は一時期を除き、ほぼ一貫して積極的な首脳往来を繰り返し、2001年には中国のWTO加盟を支持した。こうした姿勢は、米国の政権が共和党、民主党にかかわらず継続されてきた。
・こうした関係を変えるような動きを先に見せたのは習近平主席が率いる中国だったかもしれない。急成長した経済力と軍事力を背景に、習近平氏は「中華民族の偉大なる復興」と「中国の夢」の実現を掲げ、今世紀半ばには「社会主義現代化強国の建設」を目標に掲げた。これはわかりやすく言えば米国に匹敵する大国になることを宣言したものである。同時に習氏は、欧米流の民主主義システムを取り入れることを明確に否定している。つまり、米国流の政治や経済システムに組み込まれるつもりはないのだ。そればかりか今や「一帯一路」戦略の下、近隣諸国にとどまらず、遠く中東や東欧、アフリカ諸国までをも中国の影響下に置こうという戦略を実践している。
▽中国の勢いは止まらず、米国の影響力は低下
・こうなると米国もこれまでの「関与政策」を続けているだけでは済まないと考えざるをえない。経済・貿易政策で今できることは、いささか古めかしい発想だが貿易不均衡の是正という名目で中国からの輸入を減らす、さらに知的財産侵害を理由に米国からの技術移転などに制約を設ける。そして、中国経済の発展に歯止めをかけるくらいのことだろう。こうした政策を日本や欧州など同盟国を巻き込んで実行すれば、冷戦時代の米国がソ連に行った伝統的な「封じ込め政策」に似たものとなる。しかし、トランプ大統領にはまだ、そこまでの明確な戦略はないようだ。
・もちろんこんな対応で中国の勢いを止めることはできない。今年、ちょうど40年目を迎える「改革開放政策」で中国は経済大国に成長し、そのGDP(国内総生産)は2030年前後には米国を追い越すともいわれている。対照的に米国の国際社会に対する影響力はますます低下している。これまで中国を見下し余裕を持って対応していたが、そんな時代はとっくに終わった。「関与政策」から新しいスタイルの「封じ込め政策」に米国が対中政策の舵を切らざるをえなくなりつつあることがそれを証明している。
・こうした言動はトランプ大統領が得意とする、最初に威嚇的発言で相手を脅し、その後の交渉で譲歩を引き出そうという交渉スタイルだったのかもしれない。実際、2017年4月の首脳会談では、習近平国家主席が貿易不均衡について「米中包括経済対話メカニズム」を立ち上げることで合意するとともに米国の対中輸出を増やすための「100日行動計画」を策定することを約束した。中国側が一方的に米国に譲歩したかのような結果だった。
・ところが同年7月に行われた第1回の「包括経済対話」は決裂し、共同声明はもちろん、出席者の記者会見もできないまま終わった。そして、1年経ってみると、米国の対中貿易赤字は減るどころか逆に増えてしまった。首脳会談の合意を受けた米中間の協議は何ら成果を生み出さないまま時間だけが過ぎているのだ。「米国は完全に中国にだまされたと思っている」というのが日本外務省の見立てである。
https://toyokeizai.net/articles/-/216306

第一の記事で、 『国際協調派の相次ぐ辞任でブレーキ役を失ったトランプ保護主義は歯止めがきかない・・・全面的な「米中貿易戦争」の様相が濃くなっている』、というのは本当に困ったことだ。 『貿易戦争はすべてが敗者になるが、最大の敗者は火をつけた米国であることを思い知らされるはずだ』、ただ、思い知るには相当の時間がかかるだろう。 『貿易戦争が覇権争いに発展すれば、世界経済への打撃は深刻化しかねない』、 『「ノーと言える日本」に戻れ』、などの指摘はその通りだ。なお、今日の新聞では、トランプ大統領がTPP復帰の検討を指示したらしいが、復帰の条件としてアメリカに有利な取り決めを要求してくるようであれば、日本としては、せっかく調印にこぎつけたものが、白紙還元されかねないと、断固拒否すべきだ。
第二の記事で、 『中国への高関税で困るのは米国の企業や消費者』、さらに農民も中国側の対抗関税引上げで打撃を被るだろう。 政治的にも本当に効果があるかどうか、疑問だ。 中間選挙でどのような結果が出るかが注目されるが、そのときまでにはっきりした成果を示すことは、おそらくできないだろう』、 『「報復」で米国債売れば、長期金利上昇で困るのは中国』、 『日米貿易への影響は限定的だが円高をもたらす可能性』、などの指摘はその通りだろう。 『「デジタル・レーニン主義」・・・こうした国家が出現することは、世界全体にとって重大な問題だ。自由な政治・社会構造を維持しつつ先端的情報技術の開発を進める方策を、日本はアメリカとともに考える必要がある』、これは深刻だが、如何に対応するかは本当に難しい問題だ。
第三の記事で、 『米国の対中政策は「関与」から「封じ込め」へ』、というのは参考になる深い考察だ。  『今回の鉄鋼やアルミニウムに対する関税上積みや、知的財産権侵害を理由とした幅広い中国製品に対する関税引き上げは、怒りに満ちたトランプ大統領の強引な判断だけで打ち出されたものではない。通商問題の分野で制裁を打ち出すには、国内法だけでなくWTO(世界貿易機関)の規則などに関する高度で専門的な知識とともに、過去の詳細なデータを踏また判断が不可欠である』、という冷静な分析はさすがだ。 『習近平の中国は「韜光養晦」から「中国の夢」へ』、 『中国の勢いは止まらず、米国の影響力は低下』、こうした中国と如何に良い関係を築いてゆくかは、本当に難しい課題だ。
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