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メディア(その10)(朝日の実売はついに400万部割れ?決算書で分かる新聞「財務格差」、新型ステマがルールの盲点突く手口 奴隷化するウェブメディア、速報も広告もやらない「新メディア」のジャーナリズム哲学を読み解く ニュースの「信頼」を取り戻すために) [メディア]

メディアについては、これまでは「マスコミ」として、昨年10月23日にも取上げた。今日は、(その10)(朝日の実売はついに400万部割れ?決算書で分かる新聞「財務格差」、新型ステマがルールの盲点突く手口 奴隷化するウェブメディア、速報も広告もやらない「新メディア」のジャーナリズム哲学を読み解く ニュースの「信頼」を取り戻すために)である。

先ずは、昨年10月25日付けダイヤモンド・オンライン「朝日の実売はついに400万部割れ?決算書で分かる新聞「財務格差」」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/183343
・『テクノロジーの進化でさらなる激変期に突入したメディア業界。これから数年で業界の序列は大きく変わるでしょう。勝ち残るのはどこなのか。連載を通じてメディアの近未来を模索していきます。第13回は『週刊ダイヤモンド』10月27日号の特集「メディアの新序列」のスピンオフとして、凋落が続く新聞業界の実情に迫りました。大手新聞社の現役およびOB役員から成る有志集団「プロジェクトP」の協力を得て、最新の実売部数を試算したところ衝撃の数字が出てきました。 今年9月、米老舗ニュース雑誌の「タイム」が1.9億ドル(約210億円)で買収された。金の出し手は顧客情報管理で最大手の米セールスフォース・ドットコムの創業者兼CEOのマーク・ベニオフ夫妻。超の付く富裕層だ。超富裕層によるメディア買収といえば、米紙「ワシントン・ポスト」を買った米アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏が有名だが、それ以外にも複数いる。 例えば、米老舗評論誌「ジ・アトランティック」の経営権を握ったのは、米アップル創業者の故スティーブ・ジョブズ氏から遺産を相続したローリーン夫人だ。 超富裕層によるメディア買収が増加する背景には、当然、メディアを取り巻く厳しい状況がある。米ノースカロライナ大学チャペルヒル校の研究チームの調査によると、2004年から16年までの間に、米国の新聞社の3分の1以上で所有者が変わったという。 インターネットの台頭で広告収入が激減し、経営に行き詰まったメディアが次々と投資ファンドなどに安く買いたたかれていったのだ。新聞など伝統的なメディアはジャーナリズムにはこだわるものの、マネタイズは不得手で経営の効率化も不十分なケースが少なくない。 テクノロジーの導入によって劇的に経営が改善する可能性を秘めている点で、テック企業創業者に買われるケースは幸せかもしれない。実際、ワシントン・ポストは自社開発のAI(人工知能)で記事の自動執筆を進めるなど、大きな成果が出ている』、欧米でのメディア買収劇は、これ以前からも活発だった。
・『最新の推定実売部数を試算  翻って日本の伝統メディアはどうか。決算数字から見ていこう。 下図は、朝日新聞社、読売新聞グループ(基幹6社の合計)、毎日新聞グループホールディングス、産経新聞社の連結売上高と営業利益の推移を示したグラフだ(日本経済新聞社については後述するが、この4社とは事情が異なるため除外した)。4社の売上高は6年で15.8%減少、金額にすると2000億円超も減った計算だ。 加速する部数の減少が新聞社の経営を直撃している。02年下期に1000万部を超えていた読売の部数は851万部まで減り、朝日に至っては600万部を割り込み、02年下期から230万部も急減している。 日本の新聞社の場合、さらに大きな問題がのしかかってくる。「押し紙」だ。押し紙とは、部数をかさ上げして広告単価を引き上げたい新聞社が販売店に押し付ける「在庫」のことで、配達されることのない部数を指す。 大手新聞社の現役およびOB役員から成る有志集団「プロジェクトP」は自らの経験や販売店への取材に基づき、朝夕刊セット部数は部数のかさ増しがほとんどない一方、朝刊単独で売られている部数には4割から5割の押し紙が含まれていると結論付けた。 プロジェクトPが策定した計算式を基に、本誌で全国紙の最新の推定実売部数を算出したところ、下図の通り衝撃的な結果となった。朝日の実売部数は400万部割れ、産経は100万部割れの可能性があるというのだ。 このままのペースで部数の減少が続けば、ビリオネアのIT創業者が全国紙のオーナーになる日も遠くないだろう』、「朝日の実売部数は400万部割れ、産経は100万部割れの可能性」というのは驚きの数字だが、新聞社もここまで追い詰められたのかと痛感させられた。日本の新聞社の場合は、非上場で社員持ち株会やオーナーらが大株主になっている。傘下のテレビ会社は上場している「ねじれ」状態にあり、ここを突いたが最終的には失敗したのが、堀江 貴文氏によるフジTV買収騒動だった。
・『現役役員が描く3つの再編案  最も厳しいのが産経だ。朝日の自己資本比率が59.8%、利益剰余金が3198億円に達するのに対し、産経のそれは20.0%、132億円にすぎない。保有していた資産の切り売りでしのいできたが、それも尽きた。 プロジェクトPのメンバーの一人は「産経か同じく財務が厳しい毎日が再編の引き金を引く可能性が極めて高い」と予測する。プロジェクトPは業界再編の在り方も提案している。具体的には以下の3案だ。
(1)産経と毎日が「MSグループホールディングス」を結成(他紙の再編受け皿としても機能) (2)共同通信加盟社を束ねた持ち株会社の設立(中心はオーナー家が社長になった中日新聞社) (3)読売以外の全国紙が地方取材の新組織を立ち上げ(取材効率の向上と地方紙の対抗軸をつくる) あくまでも提案であり、具体的に動いているわけではないが、いずれにしても全国紙の「財務格差」を見る限り、全国紙5社体制は間もなく終わりを告げるだろう』、産経は切り売りする資産も尽きたとあっては、いよいよ再編劇が始まるのかも知れない。

次に、10月26日付けダイヤモンド・オンライン「新型ステマがルールの盲点突く手口、奴隷化するウェブメディア」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/183404
・『テクノロジーの進化でさらなる激変期に突入したメディア業界の最前線を追う本連載。第14回は、『週刊ダイヤモンド』10月27日号の特集「メディアの新序列」で掲載した、新たな手法で広がるステルス・マーケティング(ステマ)によって、企業に奴隷化されるウェブメディアが出始めていることをレポートした記事を、ダイヤモンド・オンラインで特別公開します』、面白そうだ。
・『ルールの盲点をつき生き残る新型ステマ  3年前の「事件」を機に撲滅されたと思われていたステルスマーケティング(ステマ)だが、今も形を変えて横行していることが本誌の取材で明らかになった。 ステマとは、企業から料金が支払われて作成される記事広告であるにもかかわらず、本来行うべき「広告」などの表示をせずに純粋な記事であると偽装し、読者を欺くマーケティング手法を指す。 企業は広告料金よりも安い割に高い効果が見込め、仲介する広告代理店やPR会社は効果の高いサービスとして売り出すことができ、ウェブメディアは売り上げが立つ。読者を欺くこと以外はいいことずくめで、長らくウェブメディアに巣くってきたあしき慣習だった。 それを問題視したのがヤフーだった。2015年7月、ニュースの提供契約を結ぶ報道機関がステマ記事を配信した場合、契約解除も含めた対応を取ると発表したのだ。 これで業界内にはステマ排除の流れが一気に生まれた。業界団体の日本インタラクティブ広告協会が策定した「インターネット広告倫理綱領および掲載基準ガイドライン」に、「広告であることの明示」が含まれているという認知も広がった。 だが、うまみのあるグレーな手法であればあるほど、規制されたときにルールの盲点を突くように進化し生き残っていくのは世の常。ステマも例外ではなく、ガイドラインで定めた規制の手薄なところを狙う新たな手法で生き残った。 新旧のステマ手法を比較した二つの図を見比べてほしい。 旧ステマで演出を担ったのは、一部の広告代理店やPR会社だった。一方、新ステマを“演出”するのは、インフルエンサーだ。SNSのインスタグラムなどで、数十万人規模のフォロワーを抱え、トレンドに影響を与えることからそう呼ばれる。 マーケティング会社の幹部は、「この構図はヤフーの事件以降、2段階にわたって“潜った”結果だ」と明かす。 実は事件後すぐに、ステマ演出者は広告代理店とPR会社から、フリージャーナリストやフリーライターに代わったという。代理店を通した旧ステマがやりにくくなった企業は直接、フリーのジャーナリストやライターに金を渡し、編集記事に偽装した広告記事を書くことを求めた。だがステマの片棒を担がされることに気付いたジャーナリストやライターがいたことで、この手法は消滅。そこで企業側はもう1段階“潜り”、行き着いたのがインフルエンサーだったというわけだ』、「ステマ」を最初に問題視したヤフーはさすがだが、こうしたモグリの動きはやはり出てきてしまうのだろう。
・『インフルエンサーという個人が絡むことで巧妙化  今年9月、実際にインフルエンサーを使った新ステマの疑いが強いとして、世界的に有名な米ソフトウエア企業が話題になった。その企業が米国本社で新商品を発表。その発表会へインフルエンサーが数人、招待されていた。新商品の提供や旅費が企業負担であることはもちろん、この企業の場合「40万~50万円の報酬が支払われるケースが多い」(事情をよく知るフリージャーナリスト)。便益を受けていることは明らかだった。 そのインフルエンサーは早速、インスタグラムでその企業を礼賛する投稿を始めた。ここまではそのインフルエンサーと企業でのステマ問題にとどまっていたが、新興デジタルメディアがそのインフルエンサーの投稿を編集記事として取り上げたことから、大規模なステマに発展した。 インフルエンサーの多くは広告や口コミマーケティングのガイドラインなど知らない一般人だ。そもそも広告ガイドラインは、広告を出稿する企業や広告代理店、それを掲載するウェブメディアを対象としている。 インフルエンサーが順守すべきは口コミマーケティングの業界団体であるWOMマーケティング協議会が定めた「WOMJガイドライン」。ここには「関係性の明示」の項目があり、「便益の明示:金銭・物品・サービスなどの提供があることの明示」をしなければならないと明記されているが、このガイドライン自体、業界内でも知名度が低い。 先のインフルエンサーも明示はしていなかった。編集記事として取り上げたウェブメディアは、本来ならインフルエンサーが企業から便益を受けているかどうか確認すべきだった。 業界団体関係者は「インフルエンサーを使ったマーケティングは、両団体のガイドラインで完全に規制し切れない課題として認識している」と打ち明ける。個人であるインフルエンサーが絡むことで、新ステマは巧妙化されているのだ』、こんな状態を放置すれば、長期的にはネット記事に対する信頼性を損ない、ネット業界全体にとってもマイナスの効果を及ぼすだろう。
・『処方箋は「広告モデル」からの脱却  新ステマが横行する要因はもう一つあり、それはウェブメディアのビジネスモデルの脆弱さだ。 前述した実際のケースのように、ウェブメディアはインフルエンサーの投稿を記事として取り上げずに、自ら取材して記事を書けばいいはずだ。しかし、収益を広告に依存するウェブメディアは、低コストで記事を量産し、少しでも多くのページビュー(PV)を稼ぎ、広告収入を増やすことが求められる。「スピード重視で、記事1本にコストは掛けられない」(元ウェブメディア記者)。だから、手っ取り早くインフルエンサーの投稿内容でも記事にしてしまう負の連鎖。 企業から直接、インフルエンサーの投稿内容を記事にしたらどうかと提案されることもあるという。ウェブメディアからすれば、その企業が自社に広告を出稿する広告クライアントであれば、その提案を受けざるを得ない。 インフルエンサーがその企業から金をもらっているかどうかは、このときに確認すべきだが、先の実例のように便益を受けていることを明示していなければ、ウェブメディアは知る由もない。仮に知ったとしても、広告クライアントという強い立場からの提案を断るのは難しい。結果、ウェブメディアは企業側の“奴隷”に成り下がってしまうのだ。 ステマはその費用対効果の高さ故に、これからも少しずつ形を変えて残っていくだろう。メディアにとって処方箋は、企業に対する抵抗力を持つこと、すなわち広告に過度に依存しないビジネスモデルを確立することだ。できなければ、業界序列の最下層に落ちることになるだろう』、この「処方箋」は余りにキレイ事すぎて現実味に乏しい。その意味では、これは解決策が見出し難い難問のようだ。

第三に、清涼剤として、武蔵大学社会学部教授/ジョージワシントン大学客員研究員の奥村 信幸氏が1月4日付け現代ビジネスに寄稿した「速報も広告もやらない「新メディア」のジャーナリズム哲学を読み解く ニュースの「信頼」を取り戻すために」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/59153
・『新メディア「コレスポンデント」とは何か?  アメリカで2019年の初夏、新しいメディアが生まれることになりそうだ。正しくは2013年にオランダでスタートした新しいニュースメディアの英語版がスタートする。ジャーナリズム関係者の間では早くから注目されていたメディア「De Correspondent」が、「The Correspondent」という英語でのサービスを、ニューヨークを拠点にして始める計画だ。 コレスポンデントという言葉は「特派員」と訳されることが多いが、むしろいろいろな現場に派遣される記者/リポーターと言ったほうが適当であろう。オランダ語圏に限定されたニュースサービスだったにもかかわらず、彼らが世界的な注目を集めたのは、以下のようなジャーナリズムについての考え方や経営理念が高い評価を得たためであった。
 +ニュース速報競争と距離をおき、代わりに原因の分析や解説を重視したニュースをつくる。
 +ユーザーとソーシャルメディアなどで対話しながら、ニュースの切り口や取材先を柔軟に決めていく。
 +広告を取らず、ユーザーの購読料だけでメディアを運営する。
そして、この考え方に賛同する支援者をクラウドファンディングで募り、8日間で1万9000人近くの寄付を集めている。 英語圏でのメディア開設計画でも、彼らは当初資金をクラウドファンディングで集めると宣言し、2018年11月14日から1カ月で250万ドルという目標を掲げ、締め切り33時間前に何とか目標を達成した。 支援を申し出た人は目標達成時で4万2780人、ニュースサービスに対するクラウドファンディングの人数としては、オランダで成功した時の記録を更新し世界最大規模になった。この原稿を書いている12月末現在、支援者はさらに増え、4万6000人を超えている。 コレスポンデントのホームページには「最新じゃないニュース(Unbreaking News)」というコピーが掲げられている。この反対語である「Breaking News(ブレーキングニュース)」とは「ただいま入ったばかりのニュースです」と伝えられる、いわゆる「飛び込みのニュース」である。「24/7」とも言われる、24時間、1週間休みなしのサイクルで動く現代のニュースの世界では、最も価値があるものとされている。 だが、コレスポンデントは、この「常識」に真っ向から異議を唱える』、なかなか画期的で興味深い動きだが、クラウドファンディングでの支援者は4万6000人、とは拍子抜けするほど小規模だ。
・『「理想のジャーナリズム」に正面から挑む  アメリカで開設が予定されているコレスポンデントでも、オランダで中心的な役割を果たしてきたエルンスト・ファウスとロブ・ワインバーグが、それぞれCEOと編集責任者(Founding Editor)を務める。 コレスポンデントがこれまで注目されてきたのは、その純粋で愚直ともいえるニュースづくりの姿勢のためである。日本を含め、世界中のほとんどの国で、ニュースを伝えているメディアが「理想ではあるが実現は難しい」とあきらめていたことに、敢えて挑戦したからだ。 しかし、オランダ語だったこともあって、彼らの考え方が詳しく分析されてきたとは言い難い。筆者も2017年10月に、アメリカ・ワシントンDCで開かれたONA(オンライン・ニュース・アソシエーション)という世界最大のデジタルジャーナリズム団体の年次総会のセッションで、ワインバーグのプレゼンを聞いたが、時間も限られていて消化不良であった。 アメリカでのクラウドファンディング・キャンペーンを行うにあたり、ファウスとワインバーグ、それに市民ジャーナリズムの権威で、既存のメディアの報道姿勢を鋭く批判してきたニューヨーク大学教授のジェイ・ローゼンの3人は、かなりの分量にのぼる「能書き」を公開し、トークショーに出演するなどPRを行ってきた。 彼らがMedium(カナダ発のブログプラットフォーム)に英語で公開したものを中心にエッセンスを抽出し、考え方を整理してみたい。彼らの議論は、単にニュースを送り届ける「理念」だけでなく、How=それをどのような手続きで行うのかという段階にまで、一歩踏み込んだものになっている。 コレスポンデントの試みに対しては、「一定の規模のメディアを維持するには、広告など何らかのスポンサーに依存しないとサステナブルな経営は期待できない」など、冷ややかな見方もある。また、彼らのコンテンツは「ニュースでなく、評論ではないか」という批判もある。 しかし、コレスポンデントの主張は、ディスインフォメーションやミスインフォメーションの嵐の中で信用が揺らいでいる現代のニュースメディアの弱点を鋭く言い当てていたり、それらのメディアが避けてきたジャーナリズム本来の役割をいかに回復するかのヒントについて議論したりしていて、傾聴に値するものだと思う。次頁から具体的に見てゆこう』、コレスポンデントは広告には依存せずに、読者から料金を会費(後述)として取るようだが、法外に高いものにないのだろうか。
・『「天気」ではなく「気候」こそニュースだ  【ニュースは、もっぱらセンセーショナルで、珍しくて、否定的で、最新の出来事についてのみ伝えるものになってしまった。そして、この5つの言葉が、今のニュースが抱える問題を的確に言い当てている】 ワインバーグはコレスポンデントを立ち上げた際の問題意識について、このように表現している。 学生時代に哲学を学んでいたワインバーグは、2006年に24歳で初めて新聞記者になった時のことを回想し、「周りの記者が取材している内容を見て、ニュースというものの変質に危機感を持った」という。 多くの読者を獲得しようとしてセンセーショナルな度合いを深めるほど、ニュースは視覚に訴え、ショックを与えることを目指し、誰もが何かひとこと言いたくなるような題材ばかり選ぶようになる。「かくして、テロリストの攻撃はニュースになるが、どこかの領土が占領状態であることはニュースとして取り上げられない」。「バスの爆発に比べ、人権抑圧は『画になりにくい』」からだ。 しかし、そのようなニュース選びの基準では見逃してしまう「致命的な問題」があるとワインバーグは指摘する。 例えば、「2008年の金融危機はなぜ、リーマンブラザーズが倒産に直面するまでニュースにならなかったのか」と彼は問いかける。ウォールストリートの金融機関が抱えるリスクは、その何年も前から少しずつ蓄積していたはずなのに、リーマンの経営危機という目を引く事件が起きるまで、メディアは何も伝えられなかった。しかし本当は、その間に深刻化していた問題こそ、ニュースとして取り上げられるべきではなかったのか、と』、金融危機の話は「後だしジャンケン」のようなもので、コレスポンデントがあったとしても大きく取上げられはしなかったのではなかろうか」。
・『ニュースは長らく「きょう、今起きていること」に目を向けさせ、「フック(人の目をひく要素)」をそなえていなければならないとされてきた。だがワインバーグは、この「常識」が、過去から未来へと続く「長期間にわたる物事の変化」へ、人々の目を向けにくくさせているというのだ。 この言葉が象徴的だ。「夜のニュースは『天気(weather)』で終わるが、なぜ『気候(climate)』の話はしないのだろうか?」』、気候は概ね一定しているので、誰も関心を持って読まないのではないか。
・『ニュース中毒の「解毒剤」をつくる  【事件が起きると飛びつき、われ先にと伝えるニュースのままでは、「きょう起きたことは伝えてくれても、毎日起き続けている重要な問題を伝えてくれることはない】 また、このような速報偏重のニュースは「フェイクニュースよりたちが悪い」ともワインバーグは言う。フェイクニュースは「間違った情報」だが、現在私たちにもたらされているニュースのほうがむしろ、「私たちの今後の可能性に対する評価や、歴史認識や、進歩や、何が適切かという考え方を少しずつ変化させて、根本的にミスリードしてしまう」。つまり、「読者・視聴者が知らない間に、間違った考え方を少しずつ植え付けていく」ことになると警告する。 私たちはもはや、「過剰なニュース摂取」を通り越して、「ニュース中毒」になっている。大量のニュースに冒されると、必要以上に他者を恐れ、未来に懐疑的になり、現状を改善しようとする人の努力をあざ笑うような態度をとるようになってしまう。要するに、「今のニュースは、私たちを幸せにしていない」のだ。 コレスポンデントが打ち出したのは、「ニュースの解毒剤(antidote)」というコンセプトだ。ニュースを再定義し、2つの大きな考え方の「変革」を提案するのである。 ひとつは、「センセーショナル=扇情的な報道(sensational)」から「ファウンデーショナル=社会の根幹を見つめる報道(foundational)」への転換だ。表面的な事象だけを強調した「センセーショナル」な事件の伝え方を止めて、事件や事象が起きた「根本的な」原因を分析し、その背景となった社会の「基盤」に根ざす問題を明らかにするという意味だろう。 ふたつめは、「ごく最近のこと(recent)」ではなく、「いろいろな物事を関連付けた(relevant)」報道をするべきだという考え方だ。 これらの2つの変革を定着させるために、コレスポンデントでは、記者に「新しい習慣」を身につけてもらうという。それは、「ニュースとして報道するのに妥当かどうか、そしてタイムリーかどうかという、伝統的な判断基準を破壊する」ことだと、ワインバーグは言う。 ジャーナリストたちは、自身がニュースの過剰消費の当事者でもある。しかし、そうした彼らの価値基準がそもそも狂っているのだ。これを改めるために、コレスポンデントではニュース以外の情報源、街での立ち話、一見ジャーナリズムと関係のないような文学作品に触れるなど、記者が独自の情報ネットワークを新たに開拓することを要求する。 「ニュースをいかに早く、いかに大げさに伝えるか」ではなく、むしろ「どうすればこのニュースに、他のニュースメディアには真似できない価値を、自分たちは上乗せして伝えられるのか」を考える。コレスポンデントは、速報合戦での一番乗りや、スクープや、他のメディアに引用されるようなニュースは目指していないという。「私たちの周りで進行している物事を見極め、その構造や問題の原因を探求する過程」こそ重要だ――そう彼らは考えている』、「「ニュースの解毒剤」というコンセプト」は確かに必要なのかも知れない。
・『「客観性」という欺瞞と向き合う  では、そのような理想のニュースの題材を、どのようにして選ぶのか。 ワインバーグは、これまでジャーナリストたちが尊重してきた価値観や「フィルター」そのものを根本的に問い直すべきだと主張する。「公正さ」や「偏らない議論」といった、ジャーナリズムの「常套句」が無意識のうちに依拠している「客観的であること」についての再定義が必要だと。 ジャーナリズムが情報の伝達ではなく、権力を監視するという社会的な使命を帯びているとすれば、事実を正確に伝えるために「客観的であること」は必須の条件である――それが現在、誰もが疑わない理解だ。しかし注意深く見てみると、ここ数十年の間に、その意味が微妙に歪んでしまったというのだ。 それは政治報道で多用される「党派性を帯びない(non-partisan)」と言われる伝え方の技術のせいだという。 【ジャーナリストたちは、独立や信頼性、真実を語る能力とは、ニュースを伝える際に自らの政治的な立ち位置を設けないことだと勘違いするようになってしまった】 「事実のみを伝える」とか「事実と意見を分けて報道する」ことなど、どだい不可能だ――というのが、ワインバーグの見解だ。「すべての事実は、人間が解釈して伝えるものだから」である。 たとえ特集記事ではなくストレートニュースであっても、「存在論的に(何が事実と言えるのか)、認識論的に(何が真実か)、方法論的(どうやってそれを発見するのか)にも、さらには倫理的(どうしてこの問題を伝えるのか)にも、ニュースはあらゆる側面で、ジャーナリストの世界観に依拠せざるを得ない」。つまり「立ち位置がない」、言い換えれば「偏りがない」報道など原理的に不可能なのである。 一方で、「立ち位置がない報道」「偏りのない報道」とは結局、権力者たちの判断に寄り添い、その代弁者に成り下がってしまうことである、ともワインバーグは喝破する。 現在のアメリカのニュースはトランプ一色になっている。メディアは大統領の最新ツイート、スピーチ、記者会見をひたすら追いかけて報じ続けるが、「何も新しい事実は伝えられず、根本的な知識は伝達されない。しかしみんなそれがニュースだと思い込んでいる…それがニュースとして伝えられているからだ」』、「「立ち位置がない報道」「偏りのない報道」とは結局、権力者たちの判断に寄り添い、その代弁者に成り下がってしまうことである」というのは、その通りなのかも知れない。
・『まず「記者の主観」を前提にする  いまや、理想とは正反対のものになってしまった「客観性」を、ワインバーグは「ジャーナリストが人間、市民として目指す倫理的な目標」として、一種の「限定的な努力目標」として認識し直そうと呼びかける。 その上で「透明性のある主観(Transparent Subjectivity)」という言葉を用いて、記者が自らの政治的な立ち位置を率直に説明してから、それを前提にニュースを発信するという方針を明らかにしている。 コレスポンデントはウェブサイトで「10項目の創立理念」を列挙しているが、その6番目には、このことが以下のように説明されている。【私たちはジャーナリストが「中立的」とか「バイアスがない」などと装うべきではないと思う。反対にコレスポンデントの記者は、正直に自分たちがどのような立場でそれを伝えるのかを明らかにする。それは、自分たちのものの見方を透明性を持って伝えるほうが、そのような見方は存在しないと言い張るより良いことだ、という信念に基づく。 私たちは誰の手先でもない。特定の党派の代弁者でもない。私たちは事実を重視するが、それが意味を持って伝えられるには「解釈すること」が不可欠だということも良く知っている。だから、私たちは自分たちの報道に何らかの情報をもたらす世界観や道徳的な信念に対し偏見を持たずに、事実がそうであれば柔軟に見方を変化させていく】 この誓いを単なる「お題目」にしないために、コレスポンデントはすべての記者に自分の「ミッション・ステートメント(職務上の使命)」を記すことを要求する。 すべての記者は、コレスポンデントというプラットフォームでニュースを発信することを通して、ジャーナリストとして何を成し遂げたいのかを表明しなければならない。しかし、ステートメントに「ニュースを伝える」と書くことは許されない。ニュースを伝えることは「使命」ではない。そのニュースで何を取り上げ、どんなメッセージを込めようとするのかを記さなければならない。 従来の報道機関のような、記者の担当分けもしないようだ。今回筆者が参照したいくつかの文章の中には、これまでコレスポンデントがオランダで行ってきた報道の事例も登場するが、それぞれのコレスポンデント(記者)は、「プライバシー担当」「モビリティ(人や物の移動に関する)担当」など、耳慣れない分類になっている。 「忘れられた戦い担当」は、地球上で命や生活の危機に陥っている人たちの声を伝えようとしているし、「人間以外の動物(non-human)担当」や「政府の債務担当」など、記者の関心分野や問題意識によって担当が決められるようだ。 筆者もかつてテレビ局の報道局に所属していたが、社会部や外信部といった領域別、あるいは省庁や役所ごとの担当の分け方だと、どうしてもグローバルな問題への関心が希薄になる。そうした問題を扱おうとすると、取材先やステークホルダーが複数の機関や省庁にまたがってしまい、誰も調整役を買って出る余力がないからである。 かくして、難民や地雷や気候変動といった問題は、国際機関の会議など「イベント」という「フック」がないと、なかなかニュースとして伝えられなかった。 ファウスはMediumの記事において、コレスポンデントの「エネルギーと気候変動」担当記者が、この問題を読者や外国のジャーナリストと協力して取材していく過程で、世界的な石油会社であるシェルが、1991年以来実に四半世紀以上も、温暖化など気候変動の危険性を知りながら放置してきたことを示す内部文書を発見し、その内容を明らかにした報道のプロセスを詳しく描写している』、コレスポンデント(記者)の新たな担当の分類は興味深いが、「取材先やステークホルダーが複数の機関や省庁にまたがってしまい、誰も調整役を買って出る余力がない」といった問題をどうクリアするのだろう。
・『読者も、ニュースを作る「協力者」に  コレスポンデントはニュースを「最終商品」ではなく、「読者と共に進める対話」であるとする。そのため、記事のアイディアや、これから何を知るべきかという問題意識、取材計画までを「公開ノートブック」としてウェブサイト上にアップデートしていく方式を取ることを宣言している。 読者やユーザーは、受け身で情報を単に消費するだけの存在ではなく、時に専門的な知識の供給源ともなる積極的な「協力者」となってほしい、とも述べている。事実、オランダのコレスポンデントでは、記者の時間の30〜40%がソーシャルメディアなどを通じた読者とのコミュニケーションに充てられるという。これはジャーナリストのエネルギーの配分としてはかなり異質なものだ。 記事が作られていくプロセスを透明化し、記者自身も取材内容を公開し、読者との情報や意見交換を経ながら、柔軟に仮説や前提を改めて問題を深く探求していくことが、コレスポンデントの報道姿勢であるとしている。そうすることによって、「ジャーナリストと、読者やユーザーとの信頼関係や絆」が強化されていくはずだと。 肝心なのは、「私たちは事実を提示します」「読者は記事を読んで、あとは自分で判断して下さい」というような「彼らと私たち」という一方向的な関係ではなく、わくわくするような発見から懸念すべき問題まで、過程を晒しながらニュースを出し続けることで、報道内容だけでなく「ひとりの人間としての記者」に対する読者の理解を深めてもらうことだという。 従来の報道の「常識」は、取材した情報の中から伝えるべきものだけを選別してニュースとして伝え、そのほかのボツネタをはじめ、取材の「手の内」や「過程」を見せるのはタブーという考え方だ。この点は、おそらく既存のメディアにとって最も受け入れることが難しい価値観ではないだろうか』、記者と読者が双方向でやり取りするというのも新鮮だが、実効性のほどはどうなのだろう。
・『読者の信頼が第一、収益は最小限に  19世紀の終わり頃から始まったニュースビジネスは、単純に言えば「いかに読者の目を引くニュースを出せるか」を競い、その結果集まった読者や視聴者を、広告主に売ることで成立してきた。しかし、産業が成熟するにつれて、このようなビジネスモデルの限界が露呈している。 広告モデルでは、メディアが純粋に「重要だ」「報じる価値がある」と考えるニュースよりも、「人の目を引く」ニュースの優先度が高まる。またニュースとして議論するのが適切かどうか、影響を受ける人の集団がどのくらい大きいのかといった基準よりも、新しいかどうか、見た目のインパクトがあるかどうかといった基準が勝ってしまう。 コレスポンデントはこの問題を克服するために、広告に依存するビジネスモデルを捨て、報道姿勢に賛同する読者のメンバーシップ料を唯一の収益源にしようとしている』、前述のように読者のメンバーシップ料が法外に高くならないようにするためには、かなり多くの読者を集める必要がある。それまでは、クラウドファンディングで集めた資金で赤字を補填していく、ということなのだろうか。
・『しかし、こうしたジャーナリズムの理想を語るだけでは、報道機関としての活動が継続できるかは保証されない。理想を実践し続けることだけが、コレスポンデントを存続させる原動力なのだ。 コレスポンデントの組織としての具体的な行動原理や、第三者からの干渉や利益相反を避けるための仕組みの整備に大きな役割を果たしたのは、報道機関の活動を支える基金のアドバイザーとして関わっているジェイ・ローゼンだ。彼は、経営の理念や原則についてこちらの記事でまとめている。 彼はまずファウスとワインバーグに対し、2011年にハフィントンポストがAOLに3億1500万ドルで売却されたときのように、もしもコレスポンデントがこれから大成功を収めても、創立者である2人が会社を売却し、巨額の利益を上げるような事態が100%起きないような保証を求めた。その結果、以下の2点の仕組みが整備されたという。 ひとつめは、どんなに会員収入などが増えても、利益率に「5%」という厳格な上限(キャップ)を設けるという規定だ。これはウェブサイトの「10の原則」の9番目に明記されている。 これでコレスポンデントが投資家にとって、買収したくなる魅力的な企業に見える可能性は低くなった。 さらに、コレスポンデントに出資している企業や、アメリカのコレスポンデントのオーナーとなるオランダの組織の幹部(ファウスやワインバーグも含まれる)に、同社の基本的な目標や創立理念、経営方針などを変更できないよう規定し、これらを公開した。こうして、コレスポンデントは収益を極大化する必要がなくなり、理想を掲げた目標に専念できるというわけだ。 アメリカのコレスポンデントは、この2019年1月から本格的にスタートし、6月頃に最初のニュース配信を目指すという。彼らの最初の仕事は、クラウドファンディングに加わった賛同者に最初のニューズレターを書くことだそうだ。筆者も非常にわずかではあるが、出資している。 記者の本格的な募集も始まったばかりのうえ、ニュースをメンバーにのみ限定して公開するのか、一部を一般にも公開するのかといった、細かい運営方針もまだ決まっていない部分が多い。また、記録的な額となったとはいえ、クラウドファンディングに協力した人の数はわずか5万人足らずで、協力額のメジアン(中央値)は約30ドルと、規模も大きくない。コレスポンデントがメディアとしてどこまで存在感を示せるかは、未知数の部分も多い。 おそらく、メディアとしてはかなり小さな規模からスタートするであろうから、彼らの実践や純粋な思想が、既存の大手メディアにもそのままヒントになるとは言い難い。 それでも、「ニュースの客観性」をめぐる議論や、政治的な立ち位置についてのミッション・ステートメントなどの試みは、日本のメディアにとっても興味深い話題だろう。コレスポンデントの挑戦がどう支持され、どう展開するのか、2019年は注目の年となりそうだ』、アメリカでは「クラウドファンディングに協力した人の数はわずか5万人足らず」とは心細い限りだが、私としても大いに注目していきたい。
タグ:メディア オランダ ダイヤモンド・オンライン 現代ビジネス (その10)(朝日の実売はついに400万部割れ?決算書で分かる新聞「財務格差」、新型ステマがルールの盲点突く手口 奴隷化するウェブメディア、速報も広告もやらない「新メディア」のジャーナリズム哲学を読み解く ニュースの「信頼」を取り戻すために) 「朝日の実売はついに400万部割れ?決算書で分かる新聞「財務格差」」 最新の推定実売部数を試算 朝日の実売部数は400万部割れ、産経は100万部割れの可能性がある 現役役員が描く3つの再編案 「新型ステマがルールの盲点突く手口、奴隷化するウェブメディア」 ルールの盲点をつき生き残る新型ステマ ヤフーだった。2015年7月、ニュースの提供契約を結ぶ報道機関がステマ記事を配信した場合、契約解除も含めた対応を取ると発表 新ステマを“演出”するのは、インフルエンサーだ インフルエンサーという個人が絡むことで巧妙化 処方箋は「広告モデル」からの脱却 奥村 信幸 「速報も広告もやらない「新メディア」のジャーナリズム哲学を読み解く ニュースの「信頼」を取り戻すために」 新メディア「コレスポンデント」とは何か? 「De Correspondent」が、「The Correspondent」という英語でのサービスを、ニューヨークを拠点にして始める計画 「理想のジャーナリズム」に正面から挑む 「天気」ではなく「気候」こそニュースだ ニュース中毒の「解毒剤」をつくる 「客観性」という欺瞞と向き合う まず「記者の主観」を前提にする 読者も、ニュースを作る「協力者」に 読者の信頼が第一、収益は最小限に
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