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日本のスポーツ界(その10)(日大アメフト問題1)(日大アメフト選手に学ぶ“不正の後始末” 権力が強さではなく弱さに宿るで困難乗り越える、日大「内田・井上コンビ」にソックリな人物は日本中の会社にいる) [社会]

今日は、日本のスポーツ界(その10)(日大アメフト問題1)(日大アメフト選手に学ぶ“不正の後始末” 権力が強さではなく弱さに宿るで困難乗り越える、日大「内田・井上コンビ」にソックリな人物は日本中の会社にいる)を取上げよう。この問題は、さんざん各方面で取り上げられているので、ここではユニークな角度から分析している記事に厳選した。

先ずは、健康社会学者の河合 薫氏が5月29日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「日大アメフト選手に学ぶ“不正の後始末” 権力が強さではなく弱さに宿るで困難乗り越える」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・このコラムが公開される頃、日大アメフト部の問題はどうなっているのだろうか? 権力、不正、服従、正当化、自己保身、ウソ、無責任、密室性、心理的抑圧etc……。 これまで研究者たちが検証を試みた「心のメカニズム」が、見事なまでに再現された“事件”だった。
・内田正人前監督と井上奨コーチの節操なき会見は、「権力が強さではなく弱さに宿る」ことを知らしめる象徴的な会見だったし、先だって行なわれた日大アメフト部の選手の言葉には、「不安という感情が人を弱くも強くもする」ことが赤裸々に表れ、切なかった。
・今回のような事件は、どこの組織でも起きるし、起きてきた。過去には何人もの、“内田氏”、“井上コーチ”、“日大アメフト選手”がいたし、“外野席”にいる私たちも例外じゃない。
・そして、手を染めてしまった“あと”を、左右するもの。 SOC。Sense Of Coherence。直訳すると「首尾一貫感覚」。SOC とは人生であまねく存在する困難や危機に対処し、人生を通じて元気でいられるように作用する「人間のポジティブな心理的機能」。このコラムで何回か書いてきたとおり、SOCは生きる力であり、ストレス対処力だ。
・平たく言うと、どんな状況の中でも、半歩でも、4分の1歩でもいいから、前に進もうとする、すべての人間に宿るたくましさだ。 真のポジティブな感情は、どん底の感情の下で熟成される。この究極の悲観論の上に成立しているのが、SOC理論である。 勇気ある20歳のアメフト選手の言動は、SOCを理解する上で最良の教材である。そこで今回は、「アメフト事件に学ぶたくましさと愚かさ」をテーマにアレコレ考えてみる。
・本題に入る前に、なぜ、権力者はのうのうとウソをつくのか? なぜ、権力者に従ってしまうのか? について、説明しておく。 まず、前提として権力者が度々ウソをつくことは、世界の膨大な研究結果が一貫して証明している。私たちは一般的に、「ウソをつき、責任を回避すると、イヤな気持ちになる」と考える。ところが、ウソを貫き通すことができると、次第に“チーターズ・ハイ”と呼ばれる高揚感に満たされた状態に陥り、どんどん自分が正しいと思い込んでいくのだ。 権力者の周辺に漂う「もの言えぬ空気」が、権力者の権力を助長し、やがて権力者自身がルールとなり、彼らは「このウソは必要」だと考え、正当化する。その確信が強まれば強まるほど、チーターズ・ハイに酔いしれ、共感も罪悪感などいっさい抱かない「権力の乱用」が横行するのである。
・彼らには危機感の「き」の字もない。あるのはウソの上塗りのみ。そして、「よく言うよ、何年か前の関学が一番汚いでしょ」といった具合に、都合のいい情報を探し出し、巧みに問題のすり替えを行なうのだ。(by 内田氏 「文春オンライン」の音声データより)。
▽「自分は不正をしない」という人も不正の罠にはまる
・一方、権力に屈し、不正を犯してしまう心のメカニズムは、ミルグラム実験(別名アイヒマン実験)で明かされている。 これは50年前の心理実験だが、「権威者に従う人間の心理」を理解するための模範的な社会心理実験として、今なお評価されている(詳細はこちらに書いたので興味ある方はどうぞ)。
・どんなに「自分は不正なんかしない」と思っている人でも、極度のプレッシャーに「不安」という心理状態が重なったとき、不正の罠にはまる。他人からみればたいしたことじゃなかったり、後から考えるとたわいもないことでも、その渦中にいるときには、過度のプレッシャーに押しつぶされそうになり、つい境界線を越えてしまうのだ。だって、人間だから。
・その心情は、アメフト選手が記者会見で語ったとおりだ(以下、記者会見での質疑応答より抜粋)。
・記者:もし、これを拒否していたら、どうなっていたとお考えでしょうか? やってしまってもこのようにフットボールをできなくなった可能性も高いし、やらなかったらやらなかったで、やはりまたフットボールができなくなる現状が起きていたんでしょうか? いかがでしょうか?
・宮川:この週、試合前、まず練習に入れてもらえなかったっていうのもありますし……どうなっていたかははっきりはわからないです。けども……今後ずっと練習に出られない、そういう状況にはなりたくなかった、という気持ちです。
・不安の極限状態で“光”となるのが、権力者の悪魔のささやきである。「オマエのためを思って言ってるんだ」といった甘言に病んだ心はすがり、その言葉を妄信し、「やるしかないじゃん!」ともうひとりの自分に支配される。そして、「自分はちゃんと命令通りやっている」という満足感が、不正を犯すという罪悪感を上回り、「アレは仕方がなかった」と自らを正当化するのである。
・……が、20歳の青年は正当化しなかった。これがSOC。そう、SOCだ。SOCは、困難やストレスが生じて初めて機能する力で、ストレッサー(ストレスの原因)の多い環境ほど、SOCの高低による影響が現れやすい。言い換えれば、SOCはストレッサーが生じて初めて機能する能力であり、「ストレスに対処するための能力」でもある。
▽SOCの高い人も「鉄人」ではない
・SOCの高い人は、大きな危機に遭遇したとき、それを脅威ではなく「自分に対する挑戦だ」と考えることができる。自分の人生にとって意味ある危機であればあるほど、「これは挑戦だから、どうにかして対峙してやる」と踏ん張り、対処するのだ。
・とはいえ、SOCが高い=「鉄人」ではない。SOCの高い人でも間違いは犯すし、後悔もする。それでも絶望の淵から抜け出すための最善の策を探り、覚悟を決め前を向く。ときに傷つき、ときに悩み、自分を見失いながらも、自分を俯瞰する力を取り戻し,自分を信じる力を武器に、困難を乗りこえる度にひと回りもふた回りもたくましくなるしなやかさを、SOCの高い人は持っているのである。
・20歳の青年のSOCは高かった。それを裏付けたのが先の会見であり、彼の贖罪の気持ちが、彼の成長の糧になると確信している。
・記者:監督やコーチから理不尽な指示があってこういう形になった後に、たとえば同僚とか先輩とか周りの人たちから「いや、お前は悪くないんじゃないか。監督、コーチの責任じゃないか」という声は挙がらなかったんでしょうか?
・宮川泰介選手:挙がっていたと思います。
・記者:それを聞いて、ご本人はどういうふうに感じていらっしゃいますか?
・宮川:いや、まず、そもそも指示があったにしろ、やってしまったのは私なわけで……。人のせいにするわけではなく、やってしまった事実がある以上、私が反省すべき点だと思っています。
・記者:明らかな反則行為なわけですけども、直後から悔悟の念がよぎるその行動を、なぜしてしまったのか? 監督の指示がご自身のスポーツマンシップを上回ってしまった、その理由は何でしょう?
・宮川:監督、コーチからの指示に、自分で判断できなかったという、自分の弱さだと思っています。
・記者:ただ、今日会見に臨んでくださるような、そんな強い意志を持たれている方が断れない状況になっているということは、これはまた繰り返されてしまう可能性もあるという意味もあって。ここで伝えておかなければならないメッセージというのもお持ちかと思うのですが、そういった点いかがでしょうか。
・宮川:自分の意思に反するようなことは、フットボールにかかわらず、すべてにおいて、するべきじゃないと思います。
・記者:指導する側に求めるものもあると思いますが、いかがでしょうか?
・宮川:指導する側……先ほどから言ってる通り、僕がどうこう言うことではないと思っています。
・20歳の青年は、しっかりと自分の言葉で、自らを罰するがごとく言葉を紡いだ。記者たちが“狙った”安易な質問にも、一切のらなかった。 あれって、なかなかできることじゃない、と思うのです。あのフラッシュの中での記者会見は、本人の想像以上のプレッシャーと緊張との戦いだったはずだ。一挙手一投足を逃すまいと構えるカメラと、記者たちがしきりに繰り返した「なぜ、監督やコーチの指示に従ってしまったのか?」という「責め」にも、彼は屈しなかった。
▽弱さと向き合い、自己受容を手に入れた
・青年は、普通であれば目をつぶりたくなるような、自分の弱さ、不甲斐なさと正面から向き合い、「自己受容(self acceptance)」というリソースを手に入れていたのである。 自己受容とは、ナルシシズム的な自己愛や過剰な自尊心とは異なり、自分のいいところも悪いところも、しっかりと見つめ、自分と共存しようとする感覚である。
・SOCの高い人たちは、いくつものリソースを獲得しているだけでなく、困難に遭遇する度にリソースを動員する力もある。リソースとは、世の中にあまねく存在するストレッサーの回避や処理に役立つもののこと。お金や体力、知力や知識、社会的地位、サポートネットワークなども、すべてリソースである。
・リソースは、専門用語ではGRRs(Generalized Resistance Resources=汎抵抗資源)と呼ばれ、「Generalize=普遍的」という単語が用いられる背景には、「ある特定のストレッサーにのみ有効なリソースではない」という意味合いと、「あらゆるストレッサーに抗うための共通のリソース」という意味が込められている。
・彼は、プレッシャーと先行きの見えない不安から、監督とコーチに屈してしまったけど、ちゃんと「自分」を取り戻した。ラフプレーで退場になったあとテントで大泣きしたとき彼の内部にあった「自己受容」に気付き、ご両親や関係者のサポートというリソースに支えられながら、自己受容を強化したのだ。
・「自己受容」はSOCを高める大切なリソースのひとつだ。私の個人的な感覚では、40代以上で「自己受容」ができている人は、例外なくSOCが高い。一方、10代や20代で自己受容できている人は、幼少期での親子関係が極めて大きな役割を果たしていた。実際、私がこれまでインタビューした人たちで、自己受容できている人たちはそうだった。
・⻑くなるので具体的なことは、今回は書かないけど(いずれ機会があったら書きます。著書には書いてあるので興味ある方はそちらを読んでください。すみません)、彼にもSOCが育まれる質のいい親子関係があったに違いない。 SOCはただ単にストレスや困難に対処する力ではなく、困難や危機を成長につなげる力だ。
・20歳の青年は、今はとんでもなくしんどいかもしれない。贖罪の気持ちに押しつぶされそうになることもあるかもしれない。だが、きっと乗りこえられる。周りの力を借りながら、踏ん張り、感謝し、再び踏ん張れば、やさしくて強い人、真のしなやかなSOCを獲得できると確信している。
・今回の事件で、ひとつ残念なのは、記者会見で「信頼していた」という井上コーチが、最後まで権力に屈してしまったことだ。なんというか……、中間管理職のジレンマというか。「自分が未熟だった」という言葉を繰り返していたけど、“日大アメフト部のコーチ”という社会的地位が彼の目を曇らせてしまったのだろう。
▽13項目の質問によって測定できる
・最後にSOCについて、補足しておく。SOCは、イスラエルの健康社会学者であるアーロン・アントノフスキー博士が提唱した概念で、信頼性と妥当性が確認され、世界各地で使われている13項目の質問によって、個人のSOCを測定することができる。私は恩師である山崎喜比古先生の下で、長年にわたりSOCに関する研究を積み重ねてきた。
・SOCの高い人は、さまざまな健康に関する要因を予測する力が高い。例えば、SOCの高い人ほど、ストレスにうまく対処し、健康を保つことができる。抑うつや不安、頭痛・腹痛などのストレス関連症状だけでなく、欠勤なども予測する。SOCの高い人ほど、仕事上の疲労感が少なく、バーンアウトを起こしにくく、職務満足感が高いことも確認されている。
・欧米で行われた10年間の追跡調査では、SOCの高い人は低い人に比べて10年後の精神健康が良好であることも確認されている。SOCが寿命を予測するとの研究結果もある。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/200475/052800161/?P=1

次に、ノンフィクションライターの窪田順生氏が5月31日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「日大「内田・井上コンビ」にソックリな人物は日本中の会社にいる」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・連日、ワイドショーで叩かれまくっている日大の内田前監督と井上前コーチ。しかし、この問題は、2人の悪者に全責任をおっかぶせれば済むほど簡単な話ではない。日本中の会社には「内田・井上コンビ」にソックリな人物がわんさかいるはず。それはかつて、山本七平も指摘した「日本人の暴力志向」が根底にあるからだ。
▽監督とコーチを連日吊るし上げ テレビの短絡的報道の危うさ
・日大アメフト部の内田前監督、井上前コーチだけの責任ではありません。 発生から1ヵ月が経とうとするのに、連日のようにワイドショーやらで報道される、日大悪質タックル問題。「もうこの話はいいよ」「他にもっと大事な問題があるだろ」などと呆れている人も多いのではないだろうか。
・ご存じのように、「反則を指示した・していない問題」や、「司会による質問潰し問題」が落ち着いてきたかと思いきや、田中英寿理事長の“他人事”感満載の対応、内田正人前監督がアメフト部OBをボコボコにした「事件」、コーチ陣の暴力によって部員20人が逃亡したことなど、耳を疑うようなスキャンダルが次々と明らかになっている
・これは彦摩呂さんの食レポ風に言えば、「不祥事の玉手箱や~」ともいうべき、テレビ的には非常においしい状況。そういう意味では、各局が毎日のように、何かしらの日大ネタをぶっこんでくるのもいたしかないと思うが、その一方で、報道の嵐の中で見受けられる「ある傾向」には、非常に危ういものを感じている。それは、内田前監督や、井上奨前コーチへの「個人攻撃」だ。
・ほとんどの情報番組では、2人の顔をどアップで映し出し、これまでの発言をパネルでまとめ、いかに彼らが嘘をつき、選手を追いつめていたかということを嬉しそうに解説している。そして、コメンテーターや評論家のみなさんが渋い顔をして「ありえません」「許せません」と彼らを叩いている。そんなやりとりを朝から晩まで見せられたら、ほとんどの視聴者は「この人たちが悪いんだな」と受け取ってしまうだろう。
・あいつらが悪いのは事実なんだから別にいいだろと思うかもしれないが、これでは「痛快TV スカッとジャパン」のような勧善懲悪ドラマを観て日頃のストレスを発散していることと変わらないので、この問題の本質に迫ることはできない。 むしろ、「パワハラ監督と、子分のコーチをスカッと成敗!」みたいな娯楽にしてしまうと、20歳の若者を、善悪の正常な判断ができないまで追いつめた「真犯人」から、人々の目を背けさせてしまう恐れがあるのだ。
▽日大フェニックスにソックリな戦時中の捕虜殺害・人肉食事件
・この構図をご理解いただくためには、日大フェニックスだけに限らず、すべての大学運動部の体育会カルチャーのルーツである旧日本軍を例にすると分かりやすい。 「上」から命じられたことは、どんな理不尽なことでも絶対服従というカルチャーは、世界中のあらゆる軍隊組織に見られるが、旧日本軍が際立って異常だったのは、「人は常軌を逸した苦痛を与えれば与えるほど強くなる」というサディスティックな教育観のもとで、「個人」を人間として正常な判断ができないところまで追いつめた点にある。
・理不尽な新兵いじめや、玉砕命令などなど、例を挙げれば枚挙にいとまがないが、日大フェニックスとソックリなのが「父島事件」だ。 第二次世界大戦末期、戦況が厳しくなってきた1944年8月から45年3月にかけて、小笠原諸島の父島の陸海軍部隊が、米軍捕虜数人を軍刀の試し切りなどで殺害、さらにその遺体の一部を食べたといわれる事件だ。
・もちろん、70年以上前の戦時中に起きた事件であり、しかも戦勝国による裁きだったから、公平性を欠いているという意見もある。「人肉食は事実ではない」ということを主張されている方たちもおられるが、「捕虜殺害」に関しては46年10月に行われた米軍グアム裁判で14人が起訴され、首謀者とされる陸軍師団長の立花芳夫中将や的場末男少佐ら5人が絞首刑にされた。
・日大フェニックスが「日大の誇り」なんて言われていたように、当時の日本人は帝国陸軍を「世界一、綱紀粛正が徹底された軍隊」と誇っていた。では、そんな「名門軍隊」でなぜ、こんな陰惨な事件が起きてしまったのかというと、これまた日大フェニックスと同じで「戦意高揚」のためだ。
・この裁判の弁護を担当した伊藤憲郎弁護士の日誌には、公判の生々しいやり取りが収められており、そこには、この組織の絶対権力者・立花中将がこんなことを言っていたというある大尉の証言が記されている。「人間の肉を食らうくらいの闘魂がなくてはいけない。この次の空襲で酒の肴が空から落ちて来ぬかなあ」(日本経済新聞2009年8月14日)
・狂っている――。内心みんながそう思ったが、誰もそれを口にしなかった。「捕虜殺害は師団長、的場少佐の命令で拒絶するわけにいかなかった」(同紙)という証言からも分かるように、「王様の言うことは絶対」なのだ。この構造は、内田前監督のことを選手たちが陰で「ウッチー」などと呼んで小バカにしながらも、いざ面と向かうと誰も文句を言えず、どんな理不尽な命令もふたつ返事で従っていたのとまったく同じである。
▽「暴力で統治しないとダメになる」日本人特有の国民性とは
・では、この事件の「真犯人」は誰だろうか。すべてを立花中将や的場少佐のせいにするのは乱暴すぎると、筆者は思う。もちろん、実際に命令を下したのは、彼らだったかもしれない。が、そこには部下たちに、「人肉を食う」という、筆舌に尽くしがたいような精神的な苦痛を乗り越えて、誰にも屈しない闘魂を持ってもらいたい、という思いがあったのではないか。 立花中将や的場少佐のような人々に誤ったマネジメント、人材育成へ走らせたものこそが、「真犯人」ではないのか。
・それは一言で言ってしまうと、「力で言うことを聞かせないと、秩序維持ができない」という日本人の国民性である。 実はそのあたりのことを、フィリピン戦線に軍属として派遣された後、捕虜収容所に送られた小松真一氏が、『虜人日記』で詳しく述べている。
・捕虜収容所では、日本人同士によるすさまじい暴力、リンチなどが横行。小松氏が「暴力団」と呼ぶ勢力が幅をきかせ、恐怖政治を行っていた。が、ある日それらが一掃され、捕虜内の選挙でリーダーが決められるという民主主義的な動きができた。喜ばしいことだと思ったのもつかの間、すぐに問題が起きる。収容所内の秩序が崩壊してしまったのである。
・「暴力団がいなくなるとすぐ、安心して勝手な事を言い正当な指令にも服さん者が出てきた。何と日本人とは情けない民族だ。暴力でなければ御しがたいのか」(同書) なぜ日本人は「力」でしか秩序を守れないのか。
・このあたりの問題を小松氏は、「日本の敗因二十一カ条」としてまとめ、日本人には大東亜を治める力も文化もなかったと結論づけている。これを読んだ評論家の山本七平は、日本人の「暴力志向」と深く関係しているのは、小松氏が二十一カ条の中に掲げたものの一つ、「思想として徹底したものがなかった事」だと考察している。
・「個人としては、天皇も東条首相もまた大本営の首脳も、何一つ、静かなる自信を持っていなかった。また確固たる思想があるわけでもなかった。従って、一個人の目から見れば、それは自分の生涯には全く関係なく、一つの無目的集団であった」(『日本はなぜ敗れるのか―敗因21カ条』 角川書店)
・これは日大フェニックスに、そのまま当てはまる。それを象徴するのが、現役部員たちが今回の問題について何日も話し合った結果に出した以下の声明だ。「これまで、私たちは、監督やコーチに頼りきりになり、その指示に盲目的に従ってきてしまいました。それがチームの勝利のために必要なことと深く考えることも無く信じきっていました」
・だが、こうなってしまうのは彼らが悪いわけではない。日本の子どもは幼い頃から「みんなのため」というスローガンのもと、自分勝手な振る舞いは禁じられる。円滑な組織運営のために「個」の思想は捨てろ、という教育を十数年間受け続けてきた彼らが、「思想なき組織」に入れば「考えないマシーン」になってしまうのは当たり前である。
▽山本七平が予言した暴力志向に落ちる日本社会
・確固たる思想がないので、組織内で権限を持つ人間の命令に従うしかない。「個」として自分のルールが確立されていないので、「組織のため」の一言を持ち出されると、どんな非人道的なことでも、どんなルール破りもやってのけてしまう。
・そしてこれは日大フェニックスだけの問題ではない。内田前監督が、選手に対して集中的にしごきを行うことを、選手たちは「ハメる」と呼んでいたが、これを耳にして、「そんなのうちの会社にもあるよ」と思った人は多いのではないか。
・見せしめのようにみんなの前で叱責されたり、何をしてもネチネチと怒られたりという人は、どんな職場にもいる。表現は差があれど、彼らは同僚たちから憐れみの目を向けられ、こんなニュアンスのことを言われるのではないか。「あいつ完全に部長にハマったよね」
・山本七平は、小松氏が指摘した「日本人の暴力志向」は、現代にも脈々と受け継がれていると考えていた。「それを認めて、自省しようとせず、指摘されれば、うつろなプライドをきずつけられて、ただ怒る」という対応で、この「暴力志向」という問題から目をそらし続けてきたからだ。そしてこのような「予言」をしている。「われわれはここに、日本全体がいずれ落ち込んでいく状態の暗い予兆を見るような気がした」(同書)
・なぜAI全盛の時代に、いまだに若者たちが体育会気質を叩き込まれるのか。なぜ「名門」をうたう組織で相次いで、パワハラやルール破りが発生しているのか。 内田前監督と井上前コーチを叩いてスッキリ、田中理事長を引きずり下ろせばみんなハッピー、なんていう考えは、あまりにも表面的で幼稚すぎる。そろそろ日本人全員が、なぜこのような問題ばかりが起きるのかを、徹底的に考えてみるべき時に差しかかっているのではないだろうか
https://diamond.jp/articles/-/171295

第一の記事は、河合氏らしく心理学的な角度から、今回の問題を見事に分析しており、説得力があると共に、大いに参考になる。中心的テーマの『SOC。Sense Of Coherence。直訳すると「首尾一貫感覚」。SOC とは人生であまねく存在する困難や危機に対処し、人生を通じて元気でいられるように作用する「人間のポジティブな心理的機能」』、については、最後の補足で、『私は恩師である山崎喜比古先生の下で、長年にわたりSOCに関する研究を積み重ねてきた』、というのでその知識の深さの謎が解けた。 『今回のような事件は、どこの組織でも起きるし、起きてきた。過去には何人もの、“内田氏”、“井上コーチ”、“日大アメフト選手”がいたし、“外野席”にいる私たちも例外じゃない』、というのはその通りだ。 『ウソを貫き通すことができると、次第に“チーターズ・ハイ”と呼ばれる高揚感に満たされた状態に陥り、どんどん自分が正しいと思い込んでいくのだ』、というのは、現在の安倍首相も陥っているのかも知れない。『「自分は不正をしない」という人も不正の罠にはまる』、『青年は、普通であれば目をつぶりたくなるような、自分の弱さ、不甲斐なさと正面から向き合い、「自己受容(self acceptance)」というリソースを手に入れていたのである』、というのもなるほどである。
第二の記事は、日本社会の特質と結び付けており、これも参考になるところ大だ。冒頭の 『日本中の会社には「内田・井上コンビ」にソックリな人物がわんさかいるはず。それはかつて、山本七平も指摘した「日本人の暴力志向」が根底にあるからだ』、で思わず引き込まれてしまい、最後まで裏切られることなく、満足した。 (現在の報道スタイル)『これでは「痛快TV スカッとジャパン」のような勧善懲悪ドラマを観て日頃のストレスを発散していることと変わらないので、この問題の本質に迫ることはできない。 むしろ、「パワハラ監督と、子分のコーチをスカッと成敗!」みたいな娯楽にしてしまうと、20歳の若者を、善悪の正常な判断ができないまで追いつめた「真犯人」から、人々の目を背けさせてしまう恐れがあるのだ』というのはその通りだ。『日大フェニックスにソックリな戦時中の捕虜殺害・人肉食事件・・・日大フェニックスだけに限らず、すべての大学運動部の体育会カルチャーのルーツである旧日本軍を例にすると分かりやすい。「上」から命じられたことは、どんな理不尽なことでも絶対服従というカルチャーは、世界中のあらゆる軍隊組織に見られるが、旧日本軍が際立って異常だったのは、「人は常軌を逸した苦痛を与えれば与えるほど強くなる」というサディスティックな教育観のもとで、「個人」を人間として正常な判断ができないところまで追いつめた点にある・・・日大フェニックスとソックリなのが「父島事件」だ』、「父島事件」は知らかかったが、言われてみてば確かにその通りだ。ただ、『「暴力で統治しないとダメになる」日本人特有の国民性とは』、というのは、日本人特有の国民性というより、暴力統治に長年慣らされた影響とも考えられるのではなかろうか。『山本七平は、日本人の「暴力志向」と深く関係しているのは・・・「思想として徹底したものがなかった事」だと考察・・・「われわれはここに、日本全体がいずれ落ち込んでいく状態の暗い予兆を見るような気がした」』、『内田前監督と井上前コーチを叩いてスッキリ、田中理事長を引きずり下ろせばみんなハッピー、なんていう考えは、あまりにも表面的で幼稚すぎる。そろそろ日本人全員が、なぜこのような問題ばかりが起きるのかを、徹底的に考えてみるべき時に差しかかっているのではないだろうか』、というのは重いが考えるべき課題であることは確かだ。
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北朝鮮問題(その19)(「米朝の駆け引き、背後にある2つの構造」、トランプが米朝会談中止の大バクチを平気で打てた理由) [世界情勢]

北朝鮮問題については、5月8日に取上げたが、今日は、(その19)(「米朝の駆け引き、背後にある2つの構造」、トランプが米朝会談中止の大バクチを平気で打てた理由)である。

先ずは、在米作家の冷泉彰彦氏が5月26日付けメールマガジンJMMに掲載した「[JMM1003Sa]「米朝の駆け引き、背後にある2つの構造」from911/USAレポート」を紹介しよう。
・6月12日にシンガポールでの開催が決まっていた米朝首脳会談について、5月24日にトランプ大統領は会見して米国の側から「キャンセル」すると発表、併せて北朝鮮の金正恩委員長に対する「会談中止」を通告する書簡を公表しました。
・アメリカのニュース並びに世論は、大きくは反応しませんでした。この日から、翌日の25日にかけてのTVニュースでは何と言っても映画プロデューサーで「#METOO」運動の契機となったハーベイ・ワインスタインがNY市警に出頭して、その場で起訴されたというニュースが大きな扱いでした。他には俳優モーガン・フリーマンのセクハラ問題、そして政治ニュースとしては、相変わらずトランプの「ロシア疑惑」が大きく取り上げられていました。株式市場の方は、国際情勢の流動化を嫌って、会談中止の発表直後は下げましたが、その後は戻しています。
・このニュースですが、アメリカ世論の受け止め方が冷静であったのには、いくつかの直接的な理由があります。まず、何よりも「ボルトン補佐官、ペンス副大統領による北朝鮮との罵倒の応酬」があったこと、次いでトランプ大統領本人による「会談の可否について発表する」という「いつもの思わせぶりな予告」があったこと、これに加えて(既に崩落して使い物にならなくなっていたようですが)北朝鮮がトンチャンリの核実験場を爆破したというニュースが、アメリカ社会に一定の安心感を与えていたということもあるでしょう。
・ところで、会談のキャンセルの理由に関しては、トランプ流の「ディール戦術」であるとか、トランプにしても金正恩にしても「予測不可能性」を抱えたキャラだからであるとか、いろいろな解説がされているようです。あるいは、ボルトン補佐官が安易な妥協を嫌っているとか、中国が背後で動いているとか、細かな観察から大きな観察まで色々なものが出ています。
・ですが、もう少し俯瞰的に見てみますと、大きく2つの構造的な問題があるように思われます。1つ目は、全体の落とし所が見えてきたのではないか、という点です。どういうことかと言うと、3月26日に中朝首脳会談の1回目が北京で行われ、またこの間にポンペオCIA長官(当時)の極秘訪朝もあり、中国と米国との根回しがされた上で「4月27日の南北首脳会談」が行われ、これが成功したと言うイメージで発表がされ、世界もそう受け止めたわけです。
・ところが、この時点では肝心の部分、つまり一連の北朝鮮をめぐる交渉の「落とし所」は見えていませんでした。漠然と朝鮮半島の非核化ということは言われていましたが、最も重要な「北朝鮮はどの程度、国を開くのか?」という問題は明らかにされる兆候すらなかったのです。
・その後も様々な動きがあり、国務長官に就任したポンペオ氏が再訪朝して、北朝鮮が人質として確保していた米国籍の3人が釈放されるとか、6月12日のシンガポール会談が発表されたりしたわけです。問題は5月8日に大連で行われた「再度の中朝首脳会談」です。ここから何かが動き始めたように思われます。
・仮説を立てるのであれば、この時点で中朝の間では、北朝鮮を「どこまで開くのか?」という問題について、具体的な応酬があった可能性があります。中国の立場は明確です。「北朝鮮はできるだけ改革開放を進めて経済的な自立と発展へ向かって欲しい」ということが一つあります。「核開発や国際的なヤミ市場での活動」というのは、中国には迷惑千万だからです。その一方で、「国境の開放を急ぎ過ぎて、南による吸収合併のような再統一が起きるのは困る」という立場でもあります。
・中国が、どうして「南による北の吸収合併」を嫌うのかというと、そこには切迫した理由があります。まず米国陣営と鴨緑江を挟んで軍事的に相対するのは、コスト的に困るということがあります。また統一朝鮮ができた場合に、鴨緑江の「こちら側」である朝鮮人自治区の中に統一に参加したいという動きが出てしまうと、国家体制を揺るがす大問題になるという懸念からです。
・つまり、中国としては「経済は自立して欲しい」が「国を開きすぎて統一になるのは困る」という立場と考えられます。一方でこれは北朝鮮の現体制の希望する方向性でもあります。北朝鮮は「好きでアングラ経済に手を染めているわけではなく、経済的に発展できるのであれば、それが一番」と考えているはずです。その一方で、「現在の政治体制が崩壊する」ということは何をしてでも避けたいでしょう。
・ということは、中朝の利害は一致するわけです。ですが、その方法というのが難しいのです。北朝鮮がグローバル経済に直接参加していくようになれば、情報や人の往来が一気に加速します。そうなると、強権で引っ張ってきた現政権が不安定になるのは目に見えています。
・そこで可能性としてあるのは、「中国を相手とした交易の拡大と、中国による経済協力」あるいはこれにロシアを加えた格好での経済協力で、北朝鮮の経済を回すという考え方です。つまり、韓国や日米などの西側自由陣営との直接的な「ヒト・モノ・カネ」の流通は非常に限定的にした上で、中ロが通商の窓口となっての経済成長をさせるという策です。
・ということは簡単に言えば、現状維持ということになります。朝鮮半島における冷戦的な秩序は維持したままで行く、南北の全面的な経済協力、日米による北朝鮮との国交正常化などは考えないという考え方です。そうなると、別に無理をして、ICBM破棄だとか、短距離ミサイル破棄などはしなくていい、最低限の核廃棄、つまり実験場の爆破による当面の実験停止、プラス、ある種の交渉の余地は残すけれども、「管理された冷戦的対立」はこのまま「未解決の問題」として引っ張って行くという方向性です。
・勿論、こうした見立ては相対的なものです。仮に北朝鮮が完全に国を開いて統一も覚悟で改革開放をやるというのが10点満点で、米朝戦争前夜というような軍事的危機が0点だとしますと、シンガポール会談の行方が楽観視されていた時点が7点ならそれが4点ぐらいに減ったというだけの話であり、絶対的なものではないと思います。
・ですが、他に現実的な落とし所が見えない以上、2度目の中朝会談以降は、こうした方向での「揺り戻し」が動き出した、その「落とし所」は管理された冷戦、つまりは現状維持だという見方ができます。
・仮にそうだとして、2番目の問題はトランプ政権が「最低限の核放棄+現状維持」という、10点満点で4点ぐらいの成果を受け入れることができるのか、という点です。 4月一杯の情勢としては、トランプ政権は「相当のリスクを取ってもいい」から「朝鮮半島における歴史的転換」という「華麗なる成果」を挙げたいという状況にありました。というのは、まず「ロシア疑惑」に続いて「ポルノ女優との不倫疑惑」が炎上しており、そんな中で11月の中間選挙で敗北すれば弾劾罷免もあるかもしれないという危険な状態にあったからです。
・その11月の中間選挙ですが、3月13日にペンシルベニア州18区(ピッツバーグ近郊)で行われた連邦下院の補欠選挙を僅差で落として以来、下院の共和党には不振という傾向が色濃くなっていました。上院も危ない一方で、現在は絶対過半数を持っている下院ですら、民主党による逆転があるかもしれないという「空気」が濃くなっていたのです。
・ところが5月の後半になって、政治的な空気が少し変わって来ました。「イラン核合意離脱、エルサレムへの米大使館移転といった中東における極端な保守政策が、トランプのコア支持者だけでなく、ブッシュを支持した草の根保守や福音派にも支持された。その一方で、民主党はこれを批判するも外交問題は選挙戦の争点にはしにくい様子であり、国内的にはこうした極端な政策が結果的にトランプの得点になっている」「ロシア疑惑の追及が続く中、コーエン顧問弁護士への捜査などは進展するも大統領本人を訴追できるような材料は出てこない」「FBIや司法省幹部などは、強引に政権への捜査を進めて弾劾罷免の流れを作り出すよりも、2020年の大統領選挙で後腐れなく負けてもらう方向を考えている気配。
・その兆候として、あれだけ抵抗していた女婿のジャレット・クシュナーに国家最高機密へのクリアランスを再度与えている」「不倫疑惑は結果的に『口止め料は最終的に大統領本人が払った』というジュリアーニ弁護士の居直り戦術が効いて尻すぼみ気味。一方で民主党側は、クリントンの方が悪質だという批判を恐れて、この問題は追求できず」「民主党では人材難が続いている。サンダース、ウォーレンなどは飽きられる一方で、新しいリーダーが出てこない。
・NY州ではヒラリー派の現職知事クオモを左から追い落とそうと、女優のシンシア・ニクソンが予備選参戦しているが届きそうにない」「その民主党は、マイク・ポンペオ(国務長官)、ジーナ・ハスペル(CIA長官)の2名の新任閣僚候補について、必死になって承認否決へ持って行こうとしたが、あっけなく失敗」「中国に貿易戦争を仕掛け、日独の輸入車に関税25%課税の案など経済政策はメチャクチャだが、市場がその時は下げても戻ってしまうので、結果的に経済界が黙認した格好になっている。その株式市場にはまだ下落の兆候はない」「アフリカ系ミュージシャンのカニエ・ウェストの支持を改めて獲得するとか、サッカーのワールドカップ大会のアメリカ開催に興味を示すなど、白人至上主義だけでなく、有色人種のポピュリズム的なカルチャーにも支持を広げて来た。その一方で、フットボールのNFLにおける国歌への抗議行動を禁止に追い込むなど、文化面での争いにおいて少しずつ得点が見られる」
・支持率を調査すると40%強、不支持が55%前後という「低支持率」は変わりません。ですが、全体的な社会の雰囲気としては、トランプ政権に少し勢いが出て来ているのは事実ですし、11月の中間選挙も改めて与野党拮抗という状況になって来ています。
・ということは、トランプとしては「ノーベル賞級の功績」を狙って、「ギャンブルをする」必要性は薄くなっているのです。ここからは私の推測ですが、仮に習近平と金正恩が「高度な現状維持策」へと後退しつつあるとして、トランプとしては、その流れに「乗る」ことは可能になってきていると考えられます。
・トランプの対北朝鮮外交ですが、ここまでは「中国を動かす」とか「得意のディールで問題を解決に向かわせる」というような選挙戦の際に「公約」してきたストーリーに乗って進めて来ていますし、その上で「少なくとも核実験場は破壊した」し「人質の3名の米国人は一ドルも払わずに奪還した」ということで、「国内向けの政治ショー」としては、「うまくやっている」格好になっています。
・その上で、ここで「一方的に会談中止を宣告」しつつ、相手への儀礼は示すことで、先方からの懇願があれば会談を再設定することには「やぶさかでない」などという高等戦術を見せているのですから、全体的にはかなり得点は稼いでいるわけです。
・ですから、敢えて「大きなリスクとなる在韓米軍撤退」とか「半島再統一」などというのは、中国が先送るのであれば、それに乗っても全く構わないということになるではないでしょうか? 仮にそうであれば、米中の間には大きな立場の違いはないということになります。
・ただし、北朝鮮の立場からすると、まだ2つの点について「諦めてはいない」という可能性があると考えます。それは、「米国あるいはこれに日本などを加えた形で、西側からも巨額の資金援助を引き出したい(但し、政権崩壊につながる改革開放はやらない)」「米国を相手にして対等に渡り合い、朝鮮戦争の終結を実現したという政治的功績を挙げたい」という2点です。
・こうした点については、中国は冷淡、韓国は大歓迎、トランプとしては「相手がその2点に固執するなら逆にカードとして条件交渉に使おう」というアプローチになるのではないかと思われます。シンガポール会談が実施されるのか、されないのかという点について言えば、こうした条件面での駆け引きの結果で決まるのでしょうが、それぞれの国の世論に対して「見栄えの良い」形に持っていければ実施するでしょうし、そうでなければ敢えて実施する必要性はないということになるかもしれません。

次に、立命館大学政策科学部教授の上久保誠人氏が5月28日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「トランプが米朝会談中止の大バクチを平気で打てた理由」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・ドナルド・トランプ米大統領は5月24日、シンガポールで6月12日に予定されていた、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との「米朝首脳会談」を中止する意向を明らかにした。北朝鮮が、豊渓里(プンゲリ)の核実験場を爆破し、「朝鮮半島の非核化」を目指す姿勢を示した直後の発表であった。
・これに慌てた北朝鮮が、金委員長が韓国の文在寅大統領と急遽、板門店で首脳会談を行い、米朝首脳会談開催への「確固たる意志」を表明し、決裂回避に動き始めた。トランプ大統領はツイッターで、自身で表明した首脳会談の中止から一転して、今度は開催に前向きな姿勢を示した。
・結局、米朝首脳会談は当初の予定通り、シンガポールで6月12日に開催されることになる見込みだ。筆者は、突如首脳会談中止を表明し、相手が慌てたところで「やっぱりやろう」と揺さぶったトランプ大統領に、「ディールの達人」の恐ろしさを見た。そして、金委員長は、完全に逃げ場を失い、「袋小路」に追い込まれた。
▽「アメリカファースト」のトランプ大統領は既に「ディール(取引)」を終えている
・トランプ大統領にとって、「朝鮮半島の完全な非核化」や「北東アジアの紛争回避」など、実はどうでもいいことなのではないだろうか。そもそも、トランプ政権が「北朝鮮の核・ミサイル開発問題」に介入し始めたのは、北朝鮮が米国を直接核攻撃できる大陸間弾道弾(ICBM)を持つ可能性が出たからだった(本連載第155回)。
・トランプ大統領は、口を開けば「朝鮮半島の完全な非核化」、拉致問題を解決する」などといろいろ言ってはいるが、実は自国の安全保障のことしか考えていない。北朝鮮が核実験場を爆破して、核弾頭を搭載したICBMを開発できないということを確認した、まさにその日に首脳会談中止を表明したのは、そのことを象徴的に示している。
・首脳会談を流すという、既存の政治家には絶対にできない「挑発」は、いかにもトランプ大統領らしい。だが、1つ言えることは、大統領にとって、「完全な非核化」など、所詮「オマケ」に過ぎないということだ。やはり、大統領の行動は、あくまで「アメリカファースト」なのだと、あらためて示したといえる(第170回)。
▽トランプにとって「完全な非核化」以外に会談実施の意味はない
・トランプ大統領にとって、米朝首脳会談とはどういう意味を持つのか、もう少し考えてみる必要がある。まず、金委員長が「ICBMの実験中止」を表明し、「核実験場」を爆破したことの持つ意味である。 端的にいえば、北朝鮮が「米国を直接攻撃できる」懸念が消えたことを意味するだろう。つまり、米朝首脳会談の開催前にして、トランプ大統領が本当に欲しいものは、既に手に入ってしまったことになる。
・その上、北朝鮮に拘束されていた米国人3人も取り戻し、米国世論にアピールできるオマケも得た。「朝鮮半島の非核化の実現」とは、それができれば「ノーベル平和賞」級の偉大な成果となり、そういう意味での関心はあるだろう。だが、「アメリカファースト」の大統領の本音としては、実現してもしなくても、どちらでもいいこととなる。
・一方、この連載で指摘したように、「朝鮮半島の完全な非核化」の実現が「在韓米軍の撤退」を意味することは想定される。だが、これは米国の長期的方針としては既に決定していることであり、その実行のタイミングだけの問題である(第180回・p5)。そういう意味では、トランプ大統領が是が非でも米朝首脳会談をやりたいという動機付けにはなるものではない。
・あえていえば、トランプ大統領にとって米朝首脳会談は、デメリットの方が大きいものかもしれない。大統領は「ディールの達人」として名をはせているが、そのイメージが崩れるかもしれないからだ。 例えば、米朝首脳会談の席上で、「ICBMの実験中止」「核施設爆破」を金委員長に宣言させるならば、その他が「段階的核廃絶」など曖昧な決着になったとしても、トランプ大統領が「ビッグディール」を成功させたということになるだろう。だが、金委員長は、既にそれを宣言し、実行してしまったのだ。そうなると、首脳会談で話し合うことは「朝鮮半島の完全な非核化」のみとなってしまう。
・言い換えれば、トランプ大統領にとって、首脳会談での「ディール」の成功を示すものは、「朝鮮半島の完全な非核化の実現」だけになってしまった。だが、それは北朝鮮にとって簡単に飲めることではなく、実現は難しい。そうかといって、北朝鮮が望む「段階的非核化」を大統領が認めたら、それは単なる妥協ということになる。大統領のタフなイメージが壊れるだけである。
・それでは、首脳会談の席上でガチンコで「完全な非核化」で揉めて決裂したら、どうなるか。あまりにその衝撃は大きすぎる。「ディールの達人」というトランプ大統領の評価が完全崩壊するだけでなく、北朝鮮がブチ切れて「最悪の事態」を招くリスクもある。
・要するに、金委員長が「ICBMの実験中止」「核施設爆破」というカードを先に切ってしまったことで、トランプ大統領にとって、米朝首脳会談で「ディール」を成功させるハードルが一挙に「完全非核化」に上がってしまったのだ。しかし、大統領は既に得るものを得てしまっているので、米朝首脳会談をやる意味が希薄になっていた。
・それにもかかわらず、金委員長はいささか調子に乗ったのか、首脳会談での「ディール」の「落としどころ」は「段階的核廃絶」だと、楽観的に考えていたのだろう。部下に米国を「挑発」するような、軽はずみな言動を繰り返させてしまった。 また、金委員長と米国の「仲介役」を務めてきた韓国の文大統領や、金委員長の「後ろ盾」である中国の習近平国家主席も、同じように楽観的に構えているようであった。
・トランプ大統領からすれば、それは許せないということになったのだろう。そこで、「完全非核化を北朝鮮が飲まないのであれば、別に米朝首脳会談など無理にやる必要などないのだ。それで北朝鮮が逆ギレするなら、軍隊を出して簡単に叩き潰すぞ」という脅しをかけた。 トランプ大統領は、金委員長や、韓国、中国に「俺は圧倒的に強い立場にあるのだぞ。それを忘れるなよ」ということを、強く知らしめたかったのではないだろうか。
▽金正恩も事実上の「核保有国」となるために会談を回避したほうがいいと考えるか?
・一方、金委員長の立場から見れば、事前に大統領に対してカードを切りすぎたことは大失敗だったように見える。米朝首脳会談を通じて、トランプ大統領から「体制維持の確約」を得て、「段階的核廃絶」を約束することで事実上の「核保有国」になれればよかったのに、トランプ大統領の「アメリカファースト」を読み間違えて、自ら首脳会談のハードルを「完全な非核化」に上げてしまったからだ。
・金委員長は慌ててトランプ大統領の機嫌を取って、予定通り首脳会談を実施する方向に一応向かってはいる。だが、金委員長は本当にこのまま、首脳会談を行ったほうがいいのだろうか。 そもそも論だが、北朝鮮が目指してきたのは「核保有国」になることだ。それが「体制崩壊」を防ぐ唯一の道だというのは、金委員長の父・金正日氏の「遺訓」であった。金委員長が融和の姿勢を示し、韓国の文大統領との南北首脳会談で「核なき朝鮮半島の実現」を約束したが、それは本気ではないはずだ。
・本音は「段階的非核化」という曖昧な着地点を勝ち得て、実質的に「核保有国」になることが目標だったはずだ。だが、既に欲しいものを手に入れてしまい、あわよくば「ノーベル平和賞」でも取れれば儲けものくらいに考えて、思い切り「ディール」のハードルを上げてきたトランプ大統領と、どう渡り合ったらいいのだろう。金委員長は、これから非常に頭を痛めるはずだ。
・それならば、むしろ米朝首脳会談を流したほうがいいという判断はあり得るだろう。そうすれば、「朝鮮半島の完全な非核化」は議論する場がなくなり、中距離核ミサイルは日本に向けてズラリと並んだままとなり、北朝鮮は実質的に「核保有国」となることができる。そして、中国、ロシア、韓国も、本音では北朝鮮が核保有国となることは悪いことではないと思っている(第166回)。
・米国は、「アメリカファースト」なので、ICBMさえ持たなければ、北朝鮮を攻撃することに関心は持たないだろう(第155回)。もちろん、米国はいまや「世界の暴力団」なので、トランプ大統領を怒らせたら何をされるかわからない(第181回)。ただ、たとえ首脳会談が流れても、北朝鮮は自ら「段階的核廃絶を行っていく」と宣言したりして、慎重にトランプ大統領の機嫌を取っていけばいい。
・要するに、トランプ大統領が既に「ディール」で「実」を得たことで強硬姿勢に出たように、今度は金委員長があえて首脳会談を流して、事実上の「核保有国」となる「実」を得ようと、動く可能性があるかもしれない。
▽「ディールの達人」トランプは、金正恩を完全に「袋小路」に追い込んだ
・だが、金委員長が米朝首脳会談を流して核保有国になるという「実」を得ることは、相当に難しいかもしれない。それは、トランプ大統領は強硬姿勢を示すことで、韓国の文大統領の首根っこもガッチリと掴んでしまったように思うからだ。
・韓国の文大統領は、米朝首脳会談で北朝鮮が「体制維持の保証」と「段階的核廃絶」をトランプ大統領から勝ち取れば、一挙に南北首脳会談で金委員長が求めてきた経済協力を進めるつもりだった。だが、トランプ大統領が米朝首脳会談の「ディール」を、北朝鮮が簡単に飲めない「朝鮮半島の完全な非核化実現」に引き上げたことで、簡単に「ディール」が成立することはなくなり、南北の経済協力を進める思惑は棚上げせざるを得なくなるだろう。
・米朝首脳会談が流れれば、北朝鮮は事実上の「核保有国」になれるが、国連の経済制裁は解除されないことになる。金委員長にとって、南北間の経済協力が非常に重要になるが、トランプ大統領を無視して、文大統領が経済協力を進めることは、難しいのではないだろうか。
・北朝鮮に対する国連の経済制裁は、非常に効いているとされている。北朝鮮は米朝首脳会談を流して「核保有国」となれても、経済制裁が解除されなければ、早晩行き詰まることになる。かといって、米朝首脳会談を行えば、トランプ大統領から「完全な非核化」を強く要求されることになる。
・金委員長は、結局経験不足だったのだろうか。軽率にも首脳会談の前に、トランプ大統領の欲しいものを渡してしまった。結果、米朝首脳会談は「退くも地獄、進むも地獄」となってしまった。「ディールの達人」トランプ大統領は、完全に金委員長を袋小路に追い込んだように見える。
https://diamond.jp/articles/-/171058

第一の記事は、再び会談をやると決定する前の段階で、米国内の政治情勢を中心にみたものだ。 『もう少し俯瞰的に見てみますと、大きく2つの構造的な問題があるように思われます。1つ目は、全体の落とし所が見えてきたのではないか、という点です・・・「再度の中朝首脳会談」です。ここから何かが動き始めたように思われます・・・韓国や日米などの西側自由陣営との直接的な「ヒト・モノ・カネ」の流通は非常に限定的にした上で、中ロが通商の窓口となっての経済成長をさせるという策です。 ということは簡単に言えば、現状維持ということになります』、『2番目の問題はトランプ政権が「最低限の核放棄+現状維持」という、10点満点で4点ぐらいの成果を受け入れることができるのか、・・・トランプとしては「ノーベル賞級の功績」を狙って、「ギャンブルをする」必要性は薄くなっているのです。ここからは私の推測ですが、仮に習近平と金正恩が「高度な現状維持策」へと後退しつつあるとして、トランプとしては、その流れに「乗る」ことは可能になってきていると考えられます』、などの指摘はさすがに深く鋭い。なるほどと納得させられる。
第二の記事で、『トランプ大統領は、口を開けば「朝鮮半島の完全な非核化」、拉致問題を解決する」などといろいろ言ってはいるが、実は自国の安全保障のことしか考えていない。北朝鮮が核実験場を爆破して、核弾頭を搭載したICBMを開発できないということを確認した、まさにその日に首脳会談中止を表明したのは、そのことを象徴的に示している』、『金委員長が「ICBMの実験中止」を表明し、「核実験場」を爆破したことの持つ意味・・・米朝首脳会談の開催前にして、トランプ大統領が本当に欲しいものは、既に手に入ってしまったことになる・・・「朝鮮半島の非核化の実現」とは、それができれば「ノーベル平和賞」級の偉大な成果となり、そういう意味での関心はあるだろう。だが、「アメリカファースト」の大統領の本音としては、実現してもしなくても、どちらでもいいこととなる』、『金委員長は、・・・軽率にも首脳会談の前に、トランプ大統領の欲しいものを渡してしまった。結果、米朝首脳会談は「退くも地獄、進むも地獄」となってしまった。「ディールの達人」トランプ大統領は、完全に金委員長を袋小路に追い込んだように見える』、などの指摘は、本番の米朝首脳会談をみてゆく上でも大いに参考になる。
タグ:北朝鮮問題 冷泉彰彦 ダイヤモンド・オンライン メールマガジンJMM 上久保誠人 (その19)(「米朝の駆け引き、背後にある2つの構造」、トランプが米朝会談中止の大バクチを平気で打てた理由) 「[JMM1003Sa]「米朝の駆け引き、背後にある2つの構造」from911/USAレポート」 会談のキャンセルの理由 もう少し俯瞰的に見てみますと、大きく2つの構造的な問題がある 1つ目は、全体の落とし所が見えてきたのではないか、という点です 「中国を相手とした交易の拡大と、中国による経済協力」あるいはこれにロシアを加えた格好での経済協力で、北朝鮮の経済を回すという考え方 2番目の問題はトランプ政権が「最低限の核放棄+現状維持」という、10点満点で4点ぐらいの成果を受け入れることができるのか トランプとしては「ノーベル賞級の功績」を狙って、「ギャンブルをする」必要性は薄くなっている 敢えて「大きなリスクとなる在韓米軍撤退」とか「半島再統一」などというのは、中国が先送るのであれば、それに乗っても全く構わないということになるではないでしょうか? 仮にそうであれば、米中の間には大きな立場の違いはないということになります 北朝鮮の立場からすると、まだ2つの点について「諦めてはいない」という可能性があると考えます。それは、「米国あるいはこれに日本などを加えた形で、西側からも巨額の資金援助を引き出したい(但し、政権崩壊につながる改革開放はやらない)」「米国を相手にして対等に渡り合い、朝鮮戦争の終結を実現したという政治的功績を挙げたい」という2点 中国は冷淡、韓国は大歓迎、トランプとしては「相手がその2点に固執するなら逆にカードとして条件交渉に使おう」というアプローチになる 「トランプが米朝会談中止の大バクチを平気で打てた理由」 トランプ大統領は、口を開けば「朝鮮半島の完全な非核化」、拉致問題を解決する」などといろいろ言ってはいるが、実は自国の安全保障のことしか考えていない 大統領にとって、「完全な非核化」など、所詮「オマケ」に過ぎないということだ。やはり、大統領の行動は、あくまで「アメリカファースト」なのだと、あらためて示したといえる 金委員長が「ICBMの実験中止」を表明し、「核実験場」を爆破したことの持つ意味 トランプ大統領が本当に欲しいものは、既に手に入ってしまった 「朝鮮半島の非核化の実現」とは、それができれば「ノーベル平和賞」級の偉大な成果となり、そういう意味での関心はあるだろう。だが、「アメリカファースト」の大統領の本音としては、実現してもしなくても、どちらでもいいこととなる 金委員長が「ICBMの実験中止」「核施設爆破」というカードを先に切ってしまったことで、トランプ大統領にとって、米朝首脳会談で「ディール」を成功させるハードルが一挙に「完全非核化」に上がってしまったのだ。しかし、大統領は既に得るものを得てしまっているので、米朝首脳会談をやる意味が希薄になっていた 本音は「段階的非核化」という曖昧な着地点を勝ち得て、実質的に「核保有国」になることが目標だったはずだ。だが、既に欲しいものを手に入れてしまい、あわよくば「ノーベル平和賞」でも取れれば儲けものくらいに考えて、思い切り「ディール」のハードルを上げてきたトランプ大統領と、どう渡り合ったらいいのだろう。金委員長は、これから非常に頭を痛めるはずだ 金委員長は、結局経験不足だったのだろうか。軽率にも首脳会談の前に、トランプ大統領の欲しいものを渡してしまった。結果、米朝首脳会談は「退くも地獄、進むも地獄」となってしまった。「ディールの達人」トランプ大統領は、完全に金委員長を袋小路に追い込んだように見える
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ハラスメント(その7)(ハラスメント指摘のやりすぎで会社は壊れる このままいくと世の中が窮屈になってしまう、セクハラ・パワハラの心理を徹底分析〜サイコパスの「真実」を明かす 身近に潜む「マイルド・サイコパス」) [社会]

昨日に続いて、ハラスメント(その7)(ハラスメント指摘のやりすぎで会社は壊れる このままいくと世の中が窮屈になってしまう、セクハラ・パワハラの心理を徹底分析?サイコパスの「真実」を明かす 身近に潜む「マイルド・サイコパス」)を取上げよう。いずれも、参考になるところ大である。

先ずは、5月11日付け東洋経済オンラインが掲載した草食投資隊(「長期投資を根づかせたい」という投信業界のグループ)の 渋澤 健氏、中野晴啓氏、藤野英人氏らによる座談「ハラスメント指摘のやりすぎで会社は壊れる このままいくと世の中が窮屈になってしまう」を紹介しよう(▽は小見出し、+は発言内の段落)。
・このところ、メディアなどを通じて毎日と言っていいほど「ハラスメント」(嫌がらせ)の言葉を耳にします。セクハラ、パワハラだけでなく、ハラスメントにはなんと30以上の種類があるとの話もあります。しかし調べてみると、なかには「これって、日本だけのハラスメント?」と思われるようなものも……。草食投資隊の3人は、ハラスメントについてどう考えているのでしょうか。
▽ビジネス関係だけでもハラスメントの種類が多すぎる!
・渋澤:ハラスメントって、いろいろな種類があるってご存じでした?
・中野:セクハラ、モラハラ、パワハラ、ぐらい?
・藤野:たぶん、もっとたくさんあるのですよね。
・渋澤:30以上あるそうですよ。たとえば「ブラハラ」ってご存じですか。
・藤野:それはちょっと……。のっけから人を試そうという話ですか?「男性目線」で答えを言うと、それ自体がセクハラになるというやつでしょうか?
・中野:私も同じようなことを考えていたのですが。
・渋澤:ブラッドタイプ・ハラスメント。
・藤野:あ、違った(笑)。
・中野:それ、何ですか。
・渋澤:よくあるじゃないですか。「ああ、確かにキミはAB型だからちょっと変わっているよね」って、つい口にしてしまうことが。これで嫌な思いをしている人が結構いるって話です。
・中野:それ、ヤバイですよ。飲んでいるときとか、つい言ってしまいがちです。
・藤野:でも、スマホで調べてみたのですが、本当にハラスメントって多いのですね。ビジネスパーソンがかかわりそうなものだけを挙げると、アルハラ、テクハラ、カラハラ、スモハラ、テクハラ、エイハラ、スメハラ、エアハラ、ソーハラ、パーハラ、マタハラ、カスハラ……。う~む。
・中野:なんでもハラスメントにするのはゆきすぎだと思いますよ。飲酒の無理強いはハラスメントですが、そのうち「飲みに行かない?」って誘うこと自体がハラスメントだと言われかねない。そうなったら、誰もコミュニケーションをしようと思わなくなるでしょう。
+確かに福田淳一前財務事務次官の行動はセクハラだったのかもしれませんが、あれを機に、なんでもハラスメントだなどという拡大解釈が横行したら、経済は確実に停滞します。些細な言動がハラスメントで訴えられるような時代になったら、人々の行動は萎縮しますよ。グローバルでも、こんな流れが一段と深刻になっているのでしょうか。
・藤野:「♯Me Too」は世界的に話題になっていますが。
・中野:渋澤さん、実際のところアメリカはどうなんですか。
▽日本は「ネンハラ」がひどい!?
・渋澤:なんでもかんでもハラスメントに結びつけるようなことは、少なくとも私自身は、見たことがないし、経験したこともありません。セクハラ(sexual harassment)やパワハラ(power harassment)という言葉として存在して社会で使われていますが、今、藤野さんがスマホで調べてくれたように、ハラスメントの種類が30以上もあるというのは、メディアなどが作った言葉遊びのようなものも中にはあるでしょう。ちなみにアメリカの場合、ハラスメントよりもディスクリミネーションのほうが、社会的に根深い問題であると認識されていると思います。
・中野:嫌がらせではなく差別ですね。アメリカは多民族・多宗教国家だから、差別は非常に深刻な社会問題ですよね。もちろんハラスメントはいけないことですが、このように、ハラスメントが言葉遊びのように使われると、本質を見誤る恐れがあります。
・渋澤:私が(幼少期から大学までアメリカで過ごし)日本で就職したとき、一番理解できなかったのが、上下関係でした。実力で上に立つならわかるのですが、生まれた年齢が1年早いというだけで先輩風を吹かせる人っているじゃないですか。あれ、まったく意味不明。これもハラスメントみたいなものじゃないですか。年功序列ハラスメント。「ネンハラ」(笑)。
・中野:年功序列を重んじる日本企業の縦社会に通じるものがありますね。
・藤野:私たちがまだ社会人になったばかりの頃は、そういうものなんだと受け容れてきたところはあります。
・中野:でも、藤野さんが昔勤めていたゴールドマン・サックスのような外資系金融だと、そんなものはないように思えますが。
・藤野:特にゴールドマン・サックスが株式を公開する前の、パートナーと呼ばれた人たちは雲上人というか、神のような存在でしたからね。縦社会どころの騒ぎではなくて、神と下々(笑)。もちろん、外資系でもパワハラのようなことはありますよ。ただ、パワハラを受けた側は即、自分からその組織を離れて、次の新天地を目指すのが普通です。
・中野:結局、さまざまなハラスメントは、年功序列と終身雇用という日本的な雇用慣習によってかなりの部分が醸成されたような気がしてならないのですよ。実力とは関係なく、入社年次で上下関係が構築される組織に、新卒で入社して定年まで働き続けるものという意識があるから、上からどれだけ無理難題が飛んできても、下の人たちは必死に耐えるしかない、というパワハラ関係に陥りやすいのではないでしょうか。
+「忖度する」なんて、パワハラの典型例です。若い頃、上司から「そんなこと、いちいち言わせるな。察しろよ」と怒られましたが、まったく教えてもらっていないのに、わかるはずないでしょう。
▽日本人はキレやすい?
・渋澤:アメリカの人種差別は、そもそもパワハラの一種だと思うのですが、日本の場合、アメリカほどの多民族国家ではないから、ハラスメントといえば、人間の上下関係に根差したものになりがちなのかもしれません。
・藤野:今の中野さんの話でふと思い出したことがあります。先日、上海に行く用事があって、何となく中国人と日本人の違いはどこにあるのかを考えていたのですが、ひとつ気づいたことがありました。それは、怒りの沸点が違うことです。
+たとえば、中国人って、ディスカッションしているときは大声で怒鳴り合っているように聞こえるのですが、彼らは必ずしもケンカしているわけではないのです。ひととおり言い合った後は、何事もなかったかのようにケロッとしています。 これに対して日本人は、ちょっとしたことで切れる。怒りの沸点が非常に低いのです。当然のことですが、切れた側も、切れられた側も、嫌な気持ちになるから、最初から何も言わずに黙っている。それが日本人の特徴です。だから忖度などという、「奇跡のコミュニケーション術」が大手を振ってまかり通っているのではないでしょうか。
・中野:日本企業にいる場合、自己主張しすぎるとレッテルを貼られるのですよ。「あいつは反体制派だ」とか言われてしまう。だから、私に言わせれば、日本企業で出世してきた人は、ひたすらパワハラに耐えてきた人ばかりです。彼らは、右から左に受け流す能力に長けているわけですが、そんな能力は、これからは何の役にも立たないと思います。
+正直、日本の組織で出世した人の大半は、劣化しているとさえ思います。で、これがまた癖の悪いところで、自分がパワハラを受けた人は、自分の部下に対して同じことをしようとします。
▽「減点主義」の日本、「加点主義」のアメリカ
・藤野:仕返し文化ですね。私はかつて外資系の運用会社にも勤務していた時期があったのですが、そこでは「360度評価」といって、上司、同僚、部下が、それぞれ自分をどう評価しているかで、昇進、給与が決められました。そのとき、アメリカ人と日本人の評点に差があることに気づいたのです。たとえばアメリカ人が50点と評価した同一人物への、日本人の評点は40点というように、低くなる傾向がつねに見られたのです。その原因は、アメリカ人が加点主義であり、日本人が減点主義だからだと思うのです。冒頭の話に戻りますが、そもそもハラスメントが30種類以上もあると自体、日本人がいかに減点主義であるかを物語っています。
・中野:しかしですよ、なぜ「あの子、可愛いね」というだけでセクハラになるのでしょうかね。時と場合にもよるでしょう。
・渋澤:それはダメでしょう。でもごく普通のビジネスシーンで「今日の服、似合っているね」くらいは大丈夫でしょう?
・藤野:渋澤さん、それはかなり危ないですよ。
・渋澤:えっ、本当?
・藤野:はい。基本的にアウトです。
・渋澤:「あ、髪切ったんだ」っていうのは?
・藤野:それも残念ながらダメです。セクハラに関していえば、相手に性的関心を持っていると受け取られことは、すべてアウトだと思ったほうが。
・中野:ほらね、わからないではないですが、どんどん拡大解釈されているように思えませんか。女性に「髪切ったんだ」って言うのがセクハラだとしたら、男性が男性に同じことを言ったとき、セクハラに問えるのかどうか。
・藤野:まあ、確かに男性が男性に「髪切ったんだね」って言ったとしても、その場合はセクハラに問われるリスクは低いのかもしれません。
・中野:おかしいでしょ。もし女性に対して男性が普通に「髪切ったんだね」と言ったとしても、そのどこに性的関心があるのでしょうか。単に髪を切っているからそう言っただけですよ。それって、自意識過剰なのでは。
▽他人に嫌な思いをさせていないかどうかを考えるべき
・藤野:でも、常識は時代の流れによって変わっていくものだから、セクハラの定義も、徐々に変わっていくのかもしれません。
・中野:それはわかりますよ。福田前事務次官の発言は明らかにセクハラですし、それは批判されるべきことですが、ハラスメント全般について言えば、30数種類もあるというのは明らかにゆきすぎです。それは組織の行動を制限する方向に作用するものであり、経済的には何のメリットにもならないと思います。
+しかも、セクハラって、男性が女性に行うものというイメージが強いのですが、逆だってありますよね。香水の匂いがきつい女性が「あのおじさん、加齢臭がきつくない?」なんて発言は、立派なセクハラです。「おばさん」という言い方をセクハラだと批判するのなら、「おじさん」という呼称だって、立派なセクハラでしょう。でも、そんなことを言っていたらキリがないし、事態はエスカレートする一方です。何というか、世の中全体的に寛容性が失われているような気がします。
・渋澤:ハラスメントって「嫌がらせ」の意味でしょ。昔、親に言われましたよね。「自分がされて嫌だと思うことを人にしてはいけない」って。ハラスメントの種類が30以上もあるなどと言うと、ハラスメントは自由な行動を制限するものだと考えてしまいがちですが、種類には大した意味がなくて、自分の発言、行動が他人に嫌な思いをさせていないかどうかを、きちんと考えるべきなのでしょうね。
https://toyokeizai.net/articles/-/219728

次に、筑波大学教授(臨床心理学、犯罪心理学)の原田 隆之氏が5月6日付け現代ビジネスに寄稿した「セクハラ・パワハラの心理を徹底分析?サイコパスの「真実」を明かす 身近に潜む「マイルド・サイコパス」」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽ニュースを賑わすハラスメント事件
・ここのところ、パワーハラスメント、セクシャルハラスメント事件が立て続けに起き、世間を賑わせている。 今年になってからでも、大相撲行司による若手行司へのセクハラ、レスリング協会強化本部長による伊調馨選手に対するパワハラ、財務省次官による記者へのセクハラなど、次々と大きな社会問題となっている。
・私もこれらの問題について、繰り返し寄稿してきた。
 +大相撲行司セクハラ事件、式守伊之助の言い訳に潜む「2つの問題点」 http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54090 
 +「伊調馨さんは選手なんですか?」衝撃会見で露呈したパワハラの構造 http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54900 
 +「セクハラ調査お願い文書」からほとばしる財務省の強権体質 http://gendai.ismedia.jp/articles/-/55324 
・海外でも、大韓航空の「水かけ姫」こと、チョ・ヒョンミン氏が、広告会社の社員に激怒してコップの水をかけたことが刑事事件に発展して、大きな問題になっている。 彼女は、「ナッツ・リターン事件」で有罪判決を受けたチョ・ヒョンア氏の妹だ。いずれも創業者一族の令嬢である。
・また、スウェーデンでは、ノーベル文学賞を選考するスウェーデン・アカデミーが、セクハラ・スキャンダルに揺れている。 アカデミーメンバーの夫が、複数の女性に対してセクハラや性的暴行を行ったと告発され、さらに同人による情報漏洩疑惑なども発覚した。その結果、今年の文学賞の発表が見送られるという前代未聞の事態に陥っている。
・ハラスメントとは、端的に言うと「嫌がらせ行為」である。その種類にはさまざまなものがあるが、あるサイトによると30種類を超えるという。 代表的なものには、上に挙げたもののほか、アルコールを無理強いする「アルコールハラスメント」、大学などで教員が指導学生に行う「アカデミックハラスメント」、相手をことさらに無視したり嫌味を言ったりする「モラルハラスメント」、妊娠中・出産後の女性に対する「マタニティハラスメント」などがある。
・これらの行為が、最近になって急に増えたわけではないだろう。 社会の変化や意識の高まりにつれて、それまで日常的に「当たり前」として行われていたことに、被害者が声を上げるようになってきたという理解が正しいと思う。
・従前は、被害者のほうも、それらの行為を受け入れざるを得ない状況にあったり、自分のほうが悪いと思っていたりした場合もある。 しかし、社会の変化、人々の意識の高揚に伴って、当たり前ではないこと、自分に非があるわけではないこと、異議を申し立ててよいことなどに気づき、声を上げるようになったのである。
・いつの世にも社会の変化に取り残され、古い制度や意識に雁字搦めになったままの者はいて、相も変わらず「当たり前」だと思って態度や言動を変えないものだから、ハラスメントはなくならない。 さらに、ネット社会になって、見ず知らずの第三者によるハラスメントも増えてきた。これは従来にないタイプのハラスメントである。 内容としては、匿名をいいことにSNSなどで誰かを中傷したり罵倒したりする「ネットハラスメント」がある。
・もっと卑劣なケースは、事件やハラスメントの被害者に対し、被害者には非がないのに、その非をあげつらったりするようなハラスメントであり、「セカンドハラスメント」などと呼ばれることもある。 最近では、セクシャルハラスメントや性犯罪の被害者が声を上げる「#MeToo」運動に対して、被害者をことさらに誹謗中傷するような動きが広がりをみせている。
▽ハラスメント防止対策に効果はあるか
・こうしたハラスメントに対して、社会のひずみの是正、意識改革が声高に唱えられるが、それで加害者は本当に考えを改めるのだろうか。 確かに意識改革や啓発運動は大事である。それによって世の中の大多数の意識が変わってきたからだ。 加害者の多くは「無意識的に」ハラスメント行為を行っているので、意識改革や教育はそれなりに意味のあることのように思える。
・しかし、依然として古い意識に凝り固まっている人々は、他人の意見を聞いても頑なになるばかりで、「そのつもりはなかった」などと言い逃れをして、ほとぼりも冷めぬ間に相も変わらず、同じ言動を繰り返してしまうのではないかという危惧もある。
・たとえば、前財務次官は、いまだに非を認めておらず謝罪もしていない。「全体を聞いてもらえばわかる」などと言い訳をしていたが、全体を聞こうが部分だろうが、あの発言が彼自身のものであれば、誰がどう聞いてもセクハラである。 日本の官庁のトップのトップにまで上り詰めた人が、なぜこんな簡単なことがわからないのだろうか。
・ほかにも、伊調選手へのパワハラ事件について、「なぜこれがパワハラかわからない」などと放言した至学館大学の学長についても然りである。ハラスメントは知性とは関係のない別の要因がからんでいるのだろうか。 もしかすると、他人の権利や感情について、それに反応するスイッチが切れている人がいて、このような人々に対しては、いかなる異議申し立てや批判の言葉も、そして啓発活動や人権教育も響かないのかもしれない。
・最近、欧米ではハラスメントを行う人々のパーソナリティに着目した研究が大きな関心を呼んでいる。 そうした研究のなかで、他人の人権を顧みることができず、その気持ちに共感ができない一群の人々を、「マイルド・サイコパス」と呼んでいる。
▽「マイルド・サイコパス」とは
・サイコパスと聞くと、誰もが思い浮かべるのは、連続殺人鬼や猟奇的犯罪者などの姿かもしれないが、研究によれば、サイコパスはどの社会にも人口の1%から数%は存在する。そして、その圧倒的大多数は犯罪行為までは行わない。 仮に日本に1%のサイコパスがいるとして、その数は100万人を超えるのだから、これは当然と言えば当然である。
・ただ、犯罪までは行わないにしても、彼らは日常的に他人の人権を踏みにじったり、嫌がらせ行為をしたり、嘘をついたりして、世の中にじんわりと迷惑をかけ続けている。 つまり、彼らの多くが加担するのは、凶悪犯罪のような突発的な悪事ではなく、日常に溶け込む慢性的な悪事である。
・サイコパスとはスペクトラム(連続体)のようなもので、その極端な一端に猟奇的犯罪者のような人々がいるが、別の端には犯罪的ではないが、慢性的に社会を蝕む「マイルド・サイコパス」がいる。
・サイコパス研究の第一人者であるカナダの犯罪心理学者ロバート・ヘアは、サイコパスの特徴を4つの因子に分けて記述している。 それを簡単に説明すると、以下のようになる。
  第1因子(対人因子):表面的魅力、虚言癖、尊大な自己意識、他者操作性
  第2因子(感情因子):不安や良心の欠如、浅薄な感情、共感性欠如、冷淡性、残虐性
  第3因子(生活様式因子):衝動性、刺激希求性、無責任、長期的目標の欠如
  第4因子(反社会性因子):幼少期の問題行動、少年非行、多種多様な犯罪行動
・これらの特徴の掛け合わせによって、さまざまなサイコパス像が浮かび上がる。 ヘアは、サイコパス傾向を測定するために、「サイコパス・チェックリスト」を開発している。 犯罪的なサイコパスは、そのチェックリストにおいて、どの因子も最高得点を取るような人々である。 一方、マイルド・サイコパスは、これらの特徴は満たしていても、ある程度「マイルド」に抑えられている。
・身の周りに連続殺人鬼はいなくても、人当たりがよく魅力的で、行動力はあるが、感情が薄っぺらく、無責任で平気で嘘をついたり、人の気持ちを思いやることのできない人物については、多くの人に心当たりがあるのではないだろうか。
▽職場のサイコパス
・企業や組織における「マイルド・サイコパス」の研究では、サイコパス上司のいる会社の場合、部下の離職率、うつ、モチベーションの低下が際立っていることが相次いで報告されている。 ハラスメントに限ってみれば、サイコパス上司がいない会社では、ハラスメント発生率が58%だったのに対し、サイコパス上司がいる会社では93%だった。つまり、サイコパス上司は、必ずといっていいほどハラスメント行為に及ぶのである3。
・イギリスの研究では、サイコパス上司のハラスメント行為による社会的損失は、年間35億ポンド(約5200億円)と見積もられている。 こうした研究を受けて、企業内で「マイルド・サイコパス」を早期に見つけ、彼らを責任ある地位に就かせないようにする試みも広がっている。
・ヘアらは、「ビジネス・スキャン」という企業版「サイコパス・チェックリスト」を開発し、これを採用する会社が増えている。 これまでリーダーシップに関しては、指導力、チームワーク、コミュニケーション能力、プレセン能力、対人能力など、そのプラスの側面について論じられることが多く、書店のビジネスコーナーに行けば、そのような書籍がたくさん並んでいる。 しかし、近年は、上述のようなリーダーシップの負の側面についても研究が進んできたというわけである。
・「マイルド・サイコパス」が企業内の重要な位置に就いてしまえば、ハラスメント行為にとどまらず、横領、情報漏洩などに手を染める恐れも大きいし、粉飾決算、談合、製品偽装、検査偽装などの企業犯罪に主導的に加担することもある。
・彼らは表面的には魅力的で、コミュニケーション能力に優れているうえ、不安がないので、思い切りがよく卓抜した行動力や実行力を見せることがあり、そのために誤ってリーダーに選ばれやすい。 事実、職場で指導的地位にいる者の4人に1人は、「マイルド・サイコパス」の基準に当てはまるという研究もある。
・企業のトップ、政治家、科学者、芸術家などにも、「マイルド・サイコパス」が多く、彼らはまた「成功したサイコパス」とも呼ばれている。 サイコパスはパーソナリティの問題であるが、知能や他の能力が優れていれば、社会的な成功を収めることも可能だからである。
・先ごろ行われた南北会談で、北の指導者に対する印象がガラリと変わったと口々に述べる人がいて、「ノーベル平和賞か」などと言われている始末である。 しかし、「表面的な魅力」「優れたコミュニケーション能力」にまんまと騙されているような気がしないわけではない。
▽「マイルド・サイコパス」にどう対処するか
・一連のハラスメント事案を見るにつけ、一旦事件が明るみに出ると、企業や組織に対するダメージが著しく大きくなる。 冒頭でも述べたように、社内研修や教育だけで、こうした人々に対処することは難しい。 そもそも人の権利を侵害し、無責任に行動し、共感性や罪悪感などが備わっていないのが彼らの特徴であるから、いくら知識を与えても、効果がないのである。
・啓発によって意識を高める効果があるのは一般的な人々だけであって、一番のリスクグループである「マイルド・サイコパス」には、まさに馬の耳に念仏に終わってしまう。 では、彼らにはどのように対処すればよいのか。 残念ながら、現時点で効果的な対処法はない。 サイコパスの原因の多くは、脳の機能的な障害であるとわかっており、それを治療する方法は、今のところない。 心理療法を行った場合、逆効果になったという研究すらある。
・近著『サイコパスの真実』では、これまで論じてきた「マイルド・サイコパス」のほか、犯罪的サイコパスについても分析し、その原因、対処、治療についても解説した。 サイコパスは、ホラー映画や犯罪小説のなかだけにいるのではなく、われわれの社会にも確実に存在して、さまざまな害を与え続けている。
・サイコパスの真実を知り、その対策を検討することは、繰り返されるハラスメント事案だけでなく、多くの社会的な害を防ぐためにも今後一層重要になってくるだろう。(論文等の出所の注は省略)
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/55555

第一の記事で、『ハラスメントの種類が30以上もあるというのは、メディアなどが作った言葉遊びのようなものも中にはあるでしょう』、については、「社会人の教科書:全35種類の○○ハラスメント一覧」が参考になる。
http://business-textbooks.com/harassment32/
『さまざまなハラスメントは、年功序列と終身雇用という日本的な雇用慣習によってかなりの部分が醸成されたような気がしてならないのですよ。実力とは関係なく、入社年次で上下関係が構築される組織に、新卒で入社して定年まで働き続けるものという意識があるから、上からどれだけ無理難題が飛んできても、下の人たちは必死に耐えるしかない、というパワハラ関係に陥りやすいのではないでしょうか』、(中国人に比べて)『日本人は、ちょっとしたことで切れる。怒りの沸点が非常に低いのです。当然のことですが、切れた側も、切れられた側も、嫌な気持ちになるから、最初から何も言わずに黙っている。それが日本人の特徴です。だから忖度などという、「奇跡のコミュニケーション術」が大手を振ってまかり通っているのではないでしょうか』、『日本の組織で出世した人の大半は、劣化しているとさえ思います。で、これがまた癖の悪いところで、自分がパワハラを受けた人は、自分の部下に対して同じことをしようとします』、『ハラスメントは自由な行動を制限するものだと考えてしまいがちですが、種類には大した意味がなくて、自分の発言、行動が他人に嫌な思いをさせていないかどうかを、きちんと考えるべきなのでしょうね』、などの指摘、特に最後の点は大いに参考になった。
第二の記事は、心理学者たしく理論的だが、これはこれで理解が深まり、参考になる。『ハラスメントとは、端的に言うと「嫌がらせ行為」である』、『これらの行為が、最近になって急に増えたわけではないだろう。 社会の変化や意識の高まりにつれて、それまで日常的に「当たり前」として行われていたことに、被害者が声を上げるようになってきたという理解が正しいと思う』、『欧米ではハラスメントを行う人々のパーソナリティに着目した研究が大きな関心を呼んでいる。そうした研究のなかで、他人の人権を顧みることができず、その気持ちに共感ができない一群の人々を、「マイルド・サイコパス」と呼んでいる』、『彼らの多くが加担するのは、凶悪犯罪のような突発的な悪事ではなく、日常に溶け込む慢性的な悪事である』、『カナダの犯罪心理学者ロバート・ヘアは、サイコパスの特徴を4つの因子に分けて記述している』、『企業や組織における「マイルド・サイコパス」の研究では、サイコパス上司のいる会社の場合、部下の離職率、うつ、モチベーションの低下が際立っていることが相次いで報告されている 彼らは表面的には魅力的で、コミュニケーション能力に優れているうえ、不安がないので、思い切りがよく卓抜した行動力や実行力を見せることがあり、そのために誤ってリーダーに選ばれやすい。事実、職場で指導的地位にいる者の4人に1人は、「マイルド・サイコパス」の基準に当てはまるという研究もある』、などの指摘は、新鮮で大いに教えられた。特に、『思い切りがよく卓抜した行動力や実行力を見せることがあり、そのために誤ってリーダーに選ばれやすい』、というのは、昔の職場を思い出しても、役員のかなりが当てはまっていたようだ。 『啓発によって意識を高める効果があるのは一般的な人々だけであって、一番のリスクグループである「マイルド・サイコパス」には、まさに馬の耳に念仏に終わってしまう。では、彼らにはどのように対処すればよいのか。残念ながら、現時点で効果的な対処法はない。サイコパスの原因の多くは、脳の機能的な障害であるとわかっており、それを治療する方法は、今のところない』、というのはショッキングな指摘だが、そうしたことを前提に考えていく必要があろう。
タグ:東洋経済オンライン ハラスメント 現代ビジネス 草食投資隊 原田 隆之 (その7)(ハラスメント指摘のやりすぎで会社は壊れる このままいくと世の中が窮屈になってしまう、セクハラ・パワハラの心理を徹底分析〜サイコパスの「真実」を明かす 身近に潜む「マイルド・サイコパス」) 渋澤 健氏、中野晴啓氏、藤野英人氏 「ハラスメント指摘のやりすぎで会社は壊れる このままいくと世の中が窮屈になってしまう」 ハラスメントにはなんと30以上の種類 まざまなハラスメントは、年功序列と終身雇用という日本的な雇用慣習によってかなりの部分が醸成 日本人は、ちょっとしたことで切れる。怒りの沸点が非常に低いのです。当然のことですが、切れた側も、切れられた側も、嫌な気持ちになるから、最初から何も言わずに黙っている。それが日本人の特徴です。だから忖度などという、「奇跡のコミュニケーション術」が大手を振ってまかり通っているのではないでしょうか 日本企業で出世してきた人は、ひたすらパワハラに耐えてきた人ばかりです 日本の組織で出世した人の大半は、劣化しているとさえ思います。で、これがまた癖の悪いところで、自分がパワハラを受けた人は、自分の部下に対して同じことをしようとします ハラスメントの種類が30以上もあるなどと言うと、ハラスメントは自由な行動を制限するものだと考えてしまいがちですが、種類には大した意味がなくて、自分の発言、行動が他人に嫌な思いをさせていないかどうかを、きちんと考えるべきなのでしょうね 「セクハラ・パワハラの心理を徹底分析?サイコパスの「真実」を明かす 身近に潜む「マイルド・サイコパス」」 ハラスメントとは、端的に言うと「嫌がらせ行為」である これらの行為が、最近になって急に増えたわけではないだろう。 社会の変化や意識の高まりにつれて、それまで日常的に「当たり前」として行われていたことに、被害者が声を上げるようになってきたという理解が正しいと思う 欧米ではハラスメントを行う人々のパーソナリティに着目した研究が大きな関心を呼んでいる 他人の人権を顧みることができず、その気持ちに共感ができない一群の人々を、「マイルド・サイコパス」と呼んでいる サイコパスはどの社会にも人口の1%から数%は存在 彼らの多くが加担するのは、凶悪犯罪のような突発的な悪事ではなく、日常に溶け込む慢性的な悪事である カナダの犯罪心理学者ロバート・ヘアは、サイコパスの特徴を4つの因子に分けて記述 サイコパス上司のいる会社の場合、部下の離職率、うつ、モチベーションの低下が際立っていることが相次いで報告されている リーダーシップの負の側面についても研究が進んできた 彼らは表面的には魅力的で、コミュニケーション能力に優れているうえ、不安がないので、思い切りがよく卓抜した行動力や実行力を見せることがあり、そのために誤ってリーダーに選ばれやすい。 事実、職場で指導的地位にいる者の4人に1人は、「マイルド・サイコパス」の基準に当てはまるという研究もある 成功したサイコパス 啓発によって意識を高める効果があるのは一般的な人々だけであって、一番のリスクグループである「マイルド・サイコパス」には、まさに馬の耳に念仏に終わってしまう では、彼らにはどのように対処すればよいのか。 残念ながら、現時点で効果的な対処法はない。 サイコパスの原因の多くは、脳の機能的な障害であるとわかっており、それを治療する方法は、今のところない 近著『サイコパスの真実』
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ハラスメント(その6)(「まだ結婚しないの?」安倍政権が進めた「官製婚活」5年で起こったこと、巨額税金投入で国家プロジェクトと化した「婚活」への違和感) [社会]

ハラスメントについては、4月26日に取上げた。今日は、(その6)(「まだ結婚しないの?」安倍政権が進めた「官製婚活」5年で起こったこと、巨額税金投入で国家プロジェクトと化した「婚活」への違和感)である。

先ずは、富山大学非常勤講師の斉藤 正美氏が5月21日付け現代ビジネスに寄稿した「「まだ結婚しないの?」安倍政権が進めた「官製婚活」5年で起こったこと 巻き込まれる企業や団体の実態」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・ 財務省事務次官のセクハラ問題が発覚し、セクハラについて議論が沸騰している。また世界的に#MeToo運動が広がり、セクハラや性暴力の被害が次々と告発されるようになったことも記憶に新しい。
・あまり語られないが、婚活もセクハラの問題をはらんでいる。実は今年で、安倍政権が「官製婚活」に税金を投入し始めて5年になる。全国各地で自治体や企業が巻き込まれた結果、何が起きているのか。官製婚活について取材・研究してきた富山大学非常勤講師の斉藤正美氏が、問題点と危機感を綴る。
▽官製婚活とセクハラ
・福井県庁を1年半ほど前に訪問した際、エントランスには独身従業員の結婚を応援する「縁結び企業さん」の一覧リストが展示されていた。 これは社内に結婚のお世話をする「職場の縁結びさん」(婚活サポーター)を置くもので、「めいわくありがた縁結び」と呼ばれる。「ふくい応援企業が100社到達!」と書かれ、ハートの折り紙が飾られ、まるで営業成績を誇るかのようだった。
・本年4月現在、参加企業が212社に上るという。福井県の担当職員によれば、「職場の縁結びさん」は、独身の人に「あんた(結婚は)どうなのー」と声を掛けると言い、中小会社では社長が「縁結びさん」になる場合もあるという。 担当者によれば、「職場の縁結びさん」には、社長など「独身の方に物が言えるような人」や「職場の先輩とか同僚とかの既婚者」など、いわば断りづらい人を選ぶという。
・しかし、上司から「まだ結婚しないのか」や「そろそろ結婚したら」という声かけをされると、人によってはそれだけで十分セクハラになるのではないか。 また結婚を望まない人やレズビアンやゲイにとっては職場に独身社員の結婚を斡旋する部署があるだけで、毎日出社するのが苦痛になるだろう。
労働者の意に反する上司の性に関わる言動は、従業員の就業環境を不快にしたり、就業に支障を生じたりすることにもなりかねず、「環境型のセクシュアル・ハラスメント」に該当する。
・婚活についてはこれまで自治体主導で取り組まれてきたが、2016年6月「ニッポン一億総活躍プラン」の閣議決定により、企業・団体・大学等など地域全体が結婚応援をしていかなければならないとされ、自治体と地域企業や大学との連携を求める動きが加速している。
・上であげたような例が全国各地で進行しているのだ。しかも婚活の現場を取材すると、「結婚っていいよね」「いいことやっているから楽しい」などと同じ思いで突っ走る傾向も散見し、セクハラ、パワハラがあちらこちらで起きているのではないかと懸念される。
・安倍政権が「官製婚活」に税金を投入し始めて今年でちょうど5年になる。 官製婚活とは、少子化対策のために国が交付金を出し、全国の自治体が行う婚活支援のこと。官製婚活とは一体何だったのか。 官製婚活に、企業はどのように巻き込まれたのか。官製婚活は私たちの生活にどのような影響を及ぼすのか、実例を通して見ていこう。
▽企業や団体が次々と巻き込まれている
・官製婚活には、2013年より18年度まで毎年3〜40億の少子化対策の交付金が確保され、このための事業は、2015年には北海道から沖縄までの全国47都道府県に及んでおり、その事業数は353に達している。 事業の種類は、①お見合い型マッチング、②婚活パーティ・出会いイベント、女子力アップ、自己PR術などの婚活セミナー、③中高大学生に向けて「卵子の老化」や結婚適齢期の知識を教えるライフプラン教育。
・これらはいずれも、少子化対策には「20代の結婚や出産を増やす」ことが必要として盛んになっている。 また、官製婚活は、地方活性化や地方創生というアベノミクスの経済政策の一環として行われているため、婚活支援企業との連携のみならず、婚活事業への協賛や協力などという形でホテルやレストラン、旅行業者をはじめとする一般企業の巻き込みに拍車がかかっている。
・勤め先の会社が婚活の協賛企業になれば、婚活とは関係ないと思っていた人も会社で婚活セミナーを催したり、社員に婚活に参加するよう婚活メンターをやらなければならなくなったりする。 婚活は、企業や団体で働く人にとって、他人事ではないのだ。
・福井県は、ブライダル業や理容・美容業、お寺の住職、退職教員などを「地域の縁結びさん」に任命するなど婚活支援の先進県として知られる。福井県の西川一誠知事は、「めいわくありがた縁結び」というその事業名の「名付け親」である。
・婚活に熱心な自治体は、知事が企業や団体を婚活に巻き込むことにも熱心なところが多い。 企業のトップや管理職であれば知事との良好な関係を持とうとし、知事の応援団としてこうした動きに反応することもあるだろう。そうしたトップの下で働くと否応なく、婚活婚活と、職場から結婚を応援する雰囲気の中で働かざるを得なくなる。
・企業が燃えて宣言をしているのであれば、結婚したくない人は声を掛けられないように目立たないようにしてしのぐしかない。 しかし、中間管理職が結婚応援の盛り立て役を命じられでもしたら、結婚したくない人の人権侵害にならないよう配慮をしつつ会社の命に答えるのは、至難の業だ。セクハラ、パワハラとして訴えられるリスクもある。
・福井県の担当者に、県が結婚支援に力を入れることに対して疑問はないかと尋ねたところ、結婚を望む方に相手を紹介するだけである、関係機関や県の人権担当部署にも連携をとってやっているので問題はない、という認識を述べていた。
・しかし、婚活は「女性活躍課」の所管であった。女性活躍推進法が「女性の職業生活における活躍の推進」を図るための法律であることからすれば、女性活躍課というのは、女性が働きやすい環境をつくることを任務とする。 当然、セクハラがない職場環境を保持することはその重要な任務の一つだろう。そうした領域を担当する課が婚活施策の推進をするのは、ダブルスタンダードであり、悪い冗談としか思えない。
▽「企業子宝率」をご存知ですか?
・「企業子宝率」という指標があるのをご存じだろうか。 従業員(男女問わず)が企業在職中に持つことが見込まれる子どもの数を指し、ダイバーシティ・コンサルタントの渥美由喜氏が考案した。政府が白書や審議会資料でしばしば紹介し、日経新聞などのメディアが積極的に広報した。 現在この「企業子宝率」調査は、政府の交付金により福井、静岡、鳥取、富山、青森県の5つの県で実施されている。
・「職場の子どもの生み育てやすさ」を表す指標だとされ、子宝率が高い企業には入札における特典などの優遇措置をつける自治体もある。 通常、出生率調査は出産可能とされる15歳から49歳までの女性を対象とするが、渥美氏は子育てのしやすさを表すには「男女ともに対象」とした方がよいとし、在職中の男性従業員を含めて計上するという。
・この調査は、自治体が企業に依頼して、それぞれの企業で従業員のこどもの数と、いくつの時に子どもが産まれたかという年齢を調べるものだ。 調査段階で、企業に従業員の個人情報を調べさせ個人のプライバシーに介入させるリスクがあること、同時に、社員にとっては知られたくない個人情報を会社の上司から聞かれて答えざるを得ないか、断れば、個人的な事情を勘ぐられるなどの不利益を生む可能性がある。
・さらに、自治体担当者に、社員のプライバシーに踏み込む調査を行う際、調査対象者の人権をどう配慮しているか、筆者が尋ねたところ、「個人名を表記しない」「プライバシーに配慮している」程度の返答にとどまった。 個人の了解を得ることを義務づける、調査拒否を認めるなど社会調査上の倫理規定がないのは、人権侵害のリスクが高く、公的統計調査としては問題含みである。
・ゲイやレズビアンで法律婚がしたくない・できない人、あるいは結婚をしたくない人、自らの性的指向などを会社に明かさないで勤務している人、諸事情で子どもができない人、持ちたくない人、不妊治療をしている人など会社にプライベートを詮索されたくない人は、少なくないはずだ。
・もちろん結婚・出産圧力となってしまう問題もある。勤務している会社を通して、まだ結婚しないのか、今子どもは何人いるのか、などと調査であれ聞かれると、セクハラやパワハラと認識する人も少なくないだろう。 一方、会社の管理職としても、そうした従業員のプライバシー侵害に踏み込まざるを得ないリスクをこの調査は企業に強いることになりかねない。
・また、指標は本当に子育てのしやすさを表しているのだろうか。 2017年2月22日、渥美由喜氏を招いて行われた「富山県子宝モデル企業表彰式」では、男性経営者ばかりが満面の笑みをたたえひな壇で知事を囲んで表彰状を持って記念撮影していた。 会場を見回しても女性は後方に座るなど影が薄かった。さらに、「企業子宝率」が高いとして表彰された2社が事例発表していた。驚いたのは、2社とも男性従業員が約9割を占めていた。そのうちの1つである電力会社の役職者に占める女性比率は、わずか1.8%であった。
・渥美氏の講演や当日配布資料における総評は、渥美氏自身の労働・子育て経験が主で、子宝率データと子育てのしやすさに関する分析はなかった。 企業子宝率は、表彰式を見る限り、知事と企業の男性トップ同士の連携を強めたり、渥美氏のような男性コンサルの仕事の機会を増やしたりする手段になっていそうだ。
・企業子宝率について富山県議会では、共産党や社民党の議員がパワハラにもなりかねない調査は問題だ、算出方法も公開できず、後から検証もできない数値を使うことをやめたらどうかと追求した。 その影響か、2018年度表彰企業の代表には女性が若干名加わっていた。しかし富山県は、批判を受けても、石井隆一県知事の強い意向により2018年度もこの調査と表彰式を継続することになったという。
▽官製婚活に対する危機感
・この他に企業巻き込み策として特筆されるのは、福岡県が全国に先駆けて行った企業等に結婚応援宣言をする取り組みである。独身従業員に対してどんな結婚応援の取り組みをするかを、それぞれの社が宣言する。 例えば、従業員を対象とした出会いイベントを年何回開催する、社内で縁結び活動の担当者(婚活メンター)を決めるなどである。
・2016年12月に開催された第一回結婚応援宣言では、加藤勝信少子化担当大臣も出席した。 加藤大臣は「結婚や子供を産むことや価値観を押し付けたり、プレッシャーを与えたりすることがあってはならない」と言いつつ、政府が示した「希望出生率1.8」という数値目標の実現に向けて頑張ろうと述べた。
・その会場では、福岡県内でも有名な明太子の会社や仏壇の会社が高らかに結婚宣言した。壇上には、それら企業トップの男性7名と知事、加藤大臣の男性ばかりがずらりと並んだ。 小川洋福岡県知事は、「個人の価値観に配慮の上」と述べつつも、従業員に結婚祝い金制度の創設などをすることを奨励した。大臣と知事の要望を前にした経営者が、従業員の価値観よりも会社ぐるみの結婚奨励に走るのもわからないわけではない。
・結局、官製婚活とは一体、なんだったのか。 最近の官製婚活は、自治体だけでは限界があると、企業や団体、大学などを巻き込んでくる。所属する企業や団体がこうした事業を始めると、担当者は不本意ながらセクハラで訴えられるリスクも抱え込むことになる。 ここで取り上げたのは、3つの県の事例にすぎないが、婚活で企業・団体・大学を巻き込む事例は全国各地で枚挙に暇がない。
・企業の独身従業員の中には結婚したくない人、会社とプライベートな生活とを切り離しておきたい人などさまざまな立場や価値観がある。 しかし国や自治体から補助金つきで婚活支援に協力することをこぞって求められている現在、企業は個々の従業員の価値観や人権をどれだけ尊重できるだろうか。
・婚活の名のもとに、セクハラ、パワハラがあちこちで起きているかもしれない現状に、危機感は募るばかりだ。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/55627

次に、上記の続きである 5月22日付け現代ビジネス「巨額税金投入で国家プロジェクトと化した「婚活」への違和感 政官財のトライアングルで回っていた」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・安倍政権が推進した「官製婚活」とは何だったのか? この5年間、毎年3〜40億の少子化対策の交付金が確保され、自治体にとどまらず、企業や団体を巻き込んで行われてきた。 では、そもそも官製婚活はどのように進められてきたのか? 官製婚活について取材・研究してきた富山大学非常勤講師の斉藤正美氏がその構図・実態を明らかにする。
▽「政府お抱え」委員と婚活業界への利益誘導
・前回(「安倍政権が進めた『官製婚活』5年で起こったこと」)紹介したように「ニッポン一億総活躍プラン」が2016年6月に閣議決定され、婚活事業への支援を国・地方自治体の取り組みに加え、企業や団体、大学など民間の取り組みへと拡大して支援していく方針が決まった。 具体的な取り組み内容や手法等を検討するために、同年10月、内閣府「結婚の希望を叶える環境整備に受けた企業・団体等の取り組みに関する検討会(以下、検討会)」が設置された。
・この検討会がまとめた提言では、企業・団体・大学等の結婚に向けた取り組みを「国・地方自治体が連携して、適切に支援していくこと」が必要と指摘された。 ポイントは、地方自治体の取り組みに限っていた交付金を民間企業の取り組みへも回せるようにしたことだ。 具体的な内容には、一般に生涯の人生設計を指す「ライフプラン」という言葉が10回も頻出していた。 実はこれは、生殖機能も劣化するから「妊娠にも適齢期がある」ということを若い世代に教えるもので、暗に結婚、出産を急がせるために中高大学生向けにライフプラン講座を行うという提案だ。
・だが、提言をまとめた「検討会」の構成メンバー12名には偏りがあることが判明している。「検討会」が審議するのは、婚活事業への支援対象を企業や団体、大学などへと拡大することについてであったにもかかわらず、婚活支援事業者の母体企業リクルートの関係機関に在職する人が委員に就いていた。 他にも婚活業界と関係が深い研究者が「検討会」の座長や委員を務める一方、婚活業界ともつながりの深い知事も委員に選ばれていた。その一方で委員の中に婚活事業の対象となる労働者の代表は不在という有様だ。
・「検討会」は、婚活支援が民間に広がることで利益を得る側の関係者に偏っており、「検討会」及び提言の妥当性に疑問符がつく。
▽政官財のトライアングル
・この「検討会」が始まる前に、婚活支援業者の団体に、全国知事会ならびに自民党の議員が連携し、婚活支援の交付金を民間の婚活支援の取り組みへと拡大するよう政府に働きかける動きがあった。  2015年11月、尾崎正直高知県知事(全国知事会次世代育成支援対策PTリーダー)が知事会を代表して、婚活に関する少子化対策交付金の弾力的運用を求める緊急提言を出している。
・尾崎知事は、大蔵省(現・財務省)出身で知事3期目であるが、これまでも少子化対策の審議会委員には何度も選ばれている。 そして本「検討会」の委員にも選ばれ、民間業者への支援をバックアップする発言も行うなど、一貫して、婚活支援事業者らを側面支援する動きに関わっている人物だ。
・さらに、16年6月、大手民間婚活支援事業者の集まりである「一般社団法人結婚・婚活応援プロジェクト(以下、「婚活プロジェクト」)」が民間企業の知識を活用すべきだという要請書を、政府に提出していた。 その時、政府へと繋いだのが自民党内に設置されていた「婚活・街コン推進議員連盟(現在は、ブライダル・婚活議員連盟(以下、「婚活議連」))であった。先述の尾崎高知県知事は、「婚活プロジェクト」のパネルディスカッションにも登壇している。
・なお、「婚活議連」の設立時の会長であった小池百合子自民党衆議院議員(当時)は、ゆるキャラを婚活議連の公認キャラクターに認定するなどして婚活業界の盛り上げに力を尽くしてきた人物である。婚活議連は、「就活の次は婚活が当たり前」にしようと、婚活業界をバックアップしている。
・「婚活プロジェクト」が「婚活議連」と連携して提出した要請書の内容は、自治体の婚活では成果が上がらないとし、民間の蓄積された知識・手法を活用しやすくするために「民間婚活企業・団体への補助を可能とする予算措置や税制優遇措置の実現」を要請するものだ。 要は、交付金が配布されている自治体の取り組みでは成果が上がらないから、蓄積がある民間の結婚支援事業者にも交付金を回すよう求めたのである。
・民間事業者への支援を検討する「検討会」の委員に、リクルートの関係機関に所属する委員をはじめとして婚活業界とつながりのある研究者、知事など、婚活支援事業者の利害関係者が多数選任されていた。 またその背後には、婚活業界と婚活議連、全国知事会という政官財のトライアングルがあり、連携して政府や世論への働きかけを強めていたのである。これでは、「検討会」とその提言の適格性に疑念を抱かざるを得ない。
・そもそも内閣府の少子化対策関連の審議会には、様々な審議会で委員を歴任する「政府お抱え」のような人物が存在する。 ダイバーシティ・コンサルタントの渥美由喜氏は、多数の審議会委員を務め、全国の自治体等を婚活に関する講演やセミナーで飛び回り、婚活推進に貢献している人物である。 前回取り上げた「企業子宝率」は、渥美氏自身が考案したものだが、全国の自治体で交付金により推進されている。
・婚活支援のしくみでより問題なのは、「お抱え」委員たちは、事業の盛り上げ役をするだけではなく、事業の検証役も任せられていることだ。 少子化対策についてどのような事業をいかに進めていくかを審議する委員会の委員である渥美氏らが、事業を審査する側の外部有識者委員にも選任されている。さらに渥美氏は、内閣府の平成28年度「地域少子化対策重点推進交付金」の効果を検証する担当の企画・分析委員長に選任され、大部の報告書をまとめている。
・調査は詳細な調査票に基づいて行われているものの、少子化対策事業の推進に関わる委員が事業の成果・検証サイドの委員も務めるというのでは、税金を使う事業の公平性が疑われ、納税者の納得は得られるのだろうか。
▽婚活業界による自治体婚活の受注事例
・しかしながら、こうした交付金を受託する側は、すでに準備が整っている。 2018年現在、IBJ(日本結婚相談所連盟、東証一部上場)やパートナー・エージェント、ツヴァイ(イオン・グループ)、ノッツエなど多くの大手・中堅婚活業者は、婚活パーティや婚活セミナーをはじめとする自治体の婚活支援事業を受注している。
・さらに婚活支援の事業者らは、各社が「あなたの街の婚活支援を応援します」(IBJ)、「地方自治体の皆さまと共に、地域に根ざした婚活を」(パートナー・エージェント)などと地方自治体の婚活支援を受託しようとして準備万端の構えを見せている。 受注できるレパートリーも、自治体イベントや婚活セミナーの受託、ライフデザイン(プラン)講座の受託、移住促進プログラム(体験促進ツアー)から、結婚相談、マッチングシステムづくり、それに「プロのノウハウとシステムを活用した事業検証・改善提案」まで至れりつくせりである。
・公務員が素人ながらに婚活を推進し、単独での事業運営が難しい自治体であれば、交付金が使えるなら飛びつきたくなるだろう。 そうなると、自治体婚活とはますます名ばかりで、実際には、民間の婚活業者が運営している自治体の婚活事業が増えそうだ。
・尾崎委員が知事を務める高知県は、2007年から出会いの場を提供するなど、婚活に熱心な取り組みを続けてきた。現在、「高知家の出会い・結婚・子育て応援コーナー」を設置し、結婚に対する総合的支援を行っている。 先述の交付金の効果・検証報告書でも高知県の事業は「一定の効果が見られた」と評価されている。
・その中で、1対1の出会いをサポートするマッチングシステムの「高知で恋しよ!!」事業には、すでに大手婚活支援事業者のIBJが14年から11回も研修に入っている。 さらに本年3月2日には、石坂茂社長自らが研修に乗り込んでいる。IBJは、「婚活支援でお困りの地方自治体の皆様を、IBJは積極的にサポート」すると述べ、「オリジナル結婚支援ノウハウ」を伝授したと言う。 しかし、高知県のマッチング事業の年間の成婚数は、わずか4組(16年1月〜17年2月)と、民間婚活事業者の支援を受けても状況が劇的に変わるわけではないようだ。
・しかしながら、民間の婚活支援業者への交付金による支援が正式に決まった以上、自治体との関係づくりも終え、自治体婚活受注に備えて準備万端の婚活支援企業は、今後ライフプラン教育など予算のつきそうな事業にますます参入していく流れが加速しそうである。
▽リクルートが大学のライフプラン教育に進出
・次に、「検討会」で提案されたライフプラン教育が、実際どのように進められているかを事例でみてみよう。ライフプラン講座は、婚活関連企業が受注に備えて準備しているプログラムの一つでもある。 なお、「ライフプラン」とは、従来はキャリア教育などとして行われてきたが、安倍政権の婚活支援が始まってからは、中高大学生に「卵子の老化」や「妊娠適例期」など、20代の結婚を増やすための知識を啓蒙することが中心となっている。
・結婚情報誌『ゼクシィ』を発行し、「ゼクシィ縁結び」というマッチングサービスを行っているリクルート系列のリクルートブライダル総研の落合歩氏は2015年に岐阜大学、岐阜女子大学など岐阜県内の3大学でライフプランの授業を行っている。 その授業とは、「妄想婚姻届で考えるライフデザインセミナー」というもので、若い世代に対して、結婚や妊娠、出産、子育てなどの知識を提供しつつ生活設計を考えてもらうものという。
・なお、岐阜の5大学で行われた講座では『ゼクシィ』の付録を使ったというが、婚活関連業界が大学に講師を派遣し、自らの婚活業界になじみをもってもらうための布石づくりをしているといえよう。  実は、リクルート系列の民間結婚支援事業のゼクシィは、以前から全国各地の自治体と連携して「まちキュン・ご当地婚姻届」というご当地オリジナルのデザインによる婚姻届サービスを実施している。戸籍は国家が国民を管理するツールだが、それにファッション性を加え商品化するという突拍子もない取り組みである。
・しかもそれを大学の講座で活用するという。戸籍の差別性を考えると問題があるのではないか。おそらくリクルートが「ご当地婚姻届」の開発を行い、地方自治体に協力依頼をしていくうちに全国の自治体とつてができたのだろう。 結果、「未来のマーケット発展・創造に繋がる各種活動」を主な業務としているリクルート総研が、岐阜県からの受託を得て、講座の講師を請け負った。
・自治体の信用を得たという意味でも、財政負担なしで学生に広報できるという意味でも、「未来のマーケット発展・創造」を狙うリクルート側にとって願ったり叶ったりであろう。 こうしたライフプラン講座は、滋賀県、奈良県、島根県など多くの自治体で大学生や婚活サポーター向けに行われるなど広がりを見せている。
・大学が自治体と協力して行う授業が、ブライダル企業の営利目的の活動になっているのは、税の使われ方として納得できるものだろうか。 さらに言うなら、正規の授業ではないにしろ、戸籍を無批判にビジネスとして活用する講座が大学で行われることも問題を孕んでいよう。
▽「東京オリンピックを誰と一緒に見ますか」
・最後に、他の自治体とは様相を異にする東京都の事例を挙げたい。 都は1年前の3月に初の結婚応援イベント「TOKYO縁結び2017」を開催し、小池知事は「東京オリンピックを誰と一緒に見ますか」とオリンピックと婚活をひっかけたフレーズで婚活イベントに登場し話題を呼んだ。
・筆者はこのイベントの直後、都の担当者に取材を申し込んだが、当時は何も動いていないと語っていた。 しかし、本年2月、東京都は、「オリンピックとパラリンピック、あなたは誰と観ますか?」とオリンピックを目標に結婚をと言わんばかりの動画を3,000万円の予算で制作し、都内の地下鉄や映画館などで放映したことが報道され、かっこ悪い、予算が高すぎるなどとネットで炎上した。
・その直後に担当者に取材した際には、18年度も市町村やNPO団体の結婚関連イベントを掲載するポータルサイト開設、ならびに結婚後の新生活に関する情報を知らせるハンドブックの作成など、結婚に関する普及啓発事業として約5,000万円を計上していると答えていた。
・だが、3月に開かれた都議会で自民党議員が、なぜ東京都に結婚しろといわれなければいけないのかといった抗議の声が寄せられている、動画は税金を使った思いつきだ、と小池知事にただした。 他の都道府県では、自民党の議員が婚活事業を導入するよう提案することが多いが、東京都はそれとは一見異なる状況に見える。
・答弁で小池都知事は、自身が婚活街コン議連の会長を長年務めてきたことを例にあげ、婚活イベントは新たなビジネスモデルが共有できる場として賑わっていた、と反論し今後も結婚を後押しする政策を行うことを表明した。 だがこうした小池知事の答弁は、一部の事業者だけを支援するものだなどという反発も出るなど東京都の婚活事業については、議会でも議論を引き起こしている。小池都知事が婚活業界と繋がりが強いゆえに、東京都の今後の行方が注目される。
・官製婚活が国の政策として進められている背景には、全国知事会、自民党の婚活議連、それに婚活業界という政官財のトライアングルの活動が大きく影響していた。 そして最近では、リクルート系列の企業が大学でのライフプラン教育に進出するなど、婚活事業者が自治体の事業を受託し、婚活関連サービス市場が著しく拡大している。お金の動きからだけみると、婚活ビジネス花盛りで万々歳である。
・しかし、「結婚、結婚」と煽るような気運を育むことはセクハラをも生じさせる恐れがある。こうした弊害のある婚活支援が税金でまかなわれ、婚活支援企業に補助金として流れていく。 しかも、検証のしくみが十分に機能していないという無責任状況にある。官製婚活に税金が投入されてから5年を経た現在、官製婚活について、今一度改めて見直す時期ではないだろうか。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/55647

第一の記事で、『婚活もセクハラの問題をはらんでいる』、というのは鋭い指摘だ。ただ、細かく言うと、マリッジハラスメント(マリハラ)、シングルハラスメントと呼ばれるものだ。 『婚活についてはこれまで自治体主導で取り組まれてきたが、2016年6月「ニッポン一億総活躍プラン」の閣議決定により、企業・団体・大学等など地域全体が結婚応援をしていかなければならないとされ、自治体と地域企業や大学との連携を求める動きが加速している』、というのは初めて知った。 『企業が燃えて宣言をしているのであれば、結婚したくない人は声を掛けられないように目立たないようにしてしのぐしかない。 しかし、中間管理職が結婚応援の盛り立て役を命じられでもしたら、結婚したくない人の人権侵害にならないよう配慮をしつつ会社の命に答えるのは、至難の業だ。セクハラ、パワハラとして訴えられるリスクもある』、というのはその通りだ。 『「企業子宝率」・・・調査段階で、企業に従業員の個人情報を調べさせ個人のプライバシーに介入させるリスクがあること、同時に、社員にとっては知られたくない個人情報を会社の上司から聞かれて答えざるを得ないか、断れば、個人的な事情を勘ぐられるなどの不利益を生む可能性がある』、このような問題含みの指標が大手を振って登場するとは、所管は厚労省だろうが、同省はつい最近も裁量労働制に関する調査でみっともない問題を起こしている。安倍政権を忖度して、正常に慎重判断すべきことも、「イケイケ」で荒っぽい行政になってしまったようだ。 『企業巻き込み策として特筆されるのは、福岡県が全国に先駆けて行った企業等に結婚応援宣言をする取り組みである。独身従業員に対してどんな結婚応援の取り組みをするかを、それぞれの社が宣言する。例えば、従業員を対象とした出会いイベントを年何回開催する、社内で縁結び活動の担当者(婚活メンター)を決めるなどである』、企業も補助金を受け取れるとはいえ、こんなことをよくぞ恥ずかしげもなくするものだ、とあきれてものも言えない。
第二の記事では、『政官財のトライアングルで回っていた』、『「政府お抱え」委員と婚活業界への利益誘導』、『婚活支援のしくみでより問題なのは、「お抱え」委員たちは、事業の盛り上げ役をするだけではなく、事業の検証役も任せられていることだ』、『リクルートが大学のライフプラン教育に進出』、など「官製婚活」の闇が明らかにされて、厚労省もその歯車の1つに過ぎず、安倍自民党政権を挙げての壮大な仕組みだったことが理解できた。婚活に「業界」までができていたとは・・・。 『高知県のマッチング事業の年間の成婚数は、わずか4組(16年1月〜17年2月)と、民間婚活事業者の支援を受けても状況が劇的に変わるわけではないようだ』、財政負担はともかく、年間の成婚数が4組では成果はなきに等しいようだ。 『他の都道府県では、自民党の議員が婚活事業を導入するよう提案することが多いが、東京都はそれとは一見異なる状況に見える』、というのは東京都知事選挙での騒動を考えれば、何ら特筆すべきこととは思えない。
いずれにしろ、婚活にここまでダーティな仕組みができていたとは、改めて怒りを覚えた。
タグ:福井県 ハラスメント 現代ビジネス 小池知事 (その6)(「まだ結婚しないの?」安倍政権が進めた「官製婚活」5年で起こったこと、巨額税金投入で国家プロジェクトと化した「婚活」への違和感) 斉藤 正美 「「まだ結婚しないの?」安倍政権が進めた「官製婚活」5年で起こったこと 巻き込まれる企業や団体の実態」 官製婚活とセクハラ 「ニッポン一億総活躍プラン」の閣議決定 企業・団体・大学等など地域全体が結婚応援をしていかなければならないとされ、自治体と地域企業や大学との連携を求める動きが加速 官製婚活には、2013年より18年度まで毎年3〜40億の少子化対策の交付金が確保 事業数は353 お見合い型マッチング 婚活パーティ・出会いイベント、女子力アップ、自己PR術などの婚活セミナー 中高大学生に向けて「卵子の老化」や結婚適齢期の知識を教えるライフプラン教育 20代の結婚や出産を増やす 「めいわくありがた縁結び」 中間管理職が結婚応援の盛り立て役を命じられでもしたら、結婚したくない人の人権侵害にならないよう配慮をしつつ会社の命に答えるのは、至難の業だ。セクハラ、パワハラとして訴えられるリスクもある 企業子宝率 従業員(男女問わず)が企業在職中に持つことが見込まれる子どもの数 調査段階で、企業に従業員の個人情報を調べさせ個人のプライバシーに介入させるリスクがあること、同時に、社員にとっては知られたくない個人情報を会社の上司から聞かれて答えざるを得ないか、断れば、個人的な事情を勘ぐられるなどの不利益を生む可能性 企業巻き込み策として特筆されるのは、福岡県が全国に先駆けて行った企業等に結婚応援宣言をする取り組みである。独身従業員に対してどんな結婚応援の取り組みをするかを、それぞれの社が宣言する 最近の官製婚活は、自治体だけでは限界があると、企業や団体、大学などを巻き込んでくる。所属する企業や団体がこうした事業を始めると、担当者は不本意ながらセクハラで訴えられるリスクも抱え込むことになる 「巨額税金投入で国家プロジェクトと化した「婚活」への違和感 政官財のトライアングルで回っていた」 「政府お抱え」委員と婚活業界への利益誘導 委員の中に婚活事業の対象となる労働者の代表は不在 政官財のトライアングル 一般社団法人結婚・婚活応援プロジェクト 婚活・街コン推進議員連盟 より問題なのは、「お抱え」委員たちは、事業の盛り上げ役をするだけではなく、事業の検証役も任せられていることだ リクルートが大学のライフプラン教育に進出 「東京オリンピックを誰と一緒に見ますか」 弊害のある婚活支援が税金でまかなわれ、婚活支援企業に補助金として流れていく 検証のしくみが十分に機能していないという無責任状況
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働き方改革(その15)(失礼な「働き方改革」法案、今度は「過労死隠し」 厚労省が働き方改革の腰を折る反則技連発、米国のいいなり 自国の働く人捨てる日本の愚行 何のための働き方改革か) [経済政策]

働き方改革については、4月2日に取上げた。今日は、(その15)(失礼な「働き方改革」法案、今度は「過労死隠し」 厚労省が働き方改革の腰を折る反則技連発、米国のいいなり 自国の働く人捨てる日本の愚行 何のための働き方改革か)である。

先ずは、中国人でソフトブレーン創業者の宋 文洲氏が4月20日付け宋メールに掲載した「失礼な「働き方改革」法案」を紹介しよう。
・昨日、証明書類が必要になって北京にいる妹にお願いしました。 すると1時間半後に「取ってきた」と言うのです。「今日は土曜日じゃないの?」と言うと「役所は土日もやっているのよ。兄さん知らなかったのね。」と言われました。 そう言えば、中国では銀行も土日営業しています。「日本の銀行は3時まで」と言うと中国人は目が点になります。夫婦が共に働く中国では、行政サービスや金融サービスは仕事時間外に受けるのが当たり前です。
・日本の国会で大騒ぎしている働き方改革法案。この話を聞くたびに不快になるのはなぜ個人の働き方を法律で決めてもらわないといけないのかと思うからです。与党と経営者団体がやるべきことは社員が働き方を決める権利を尊重することです。自由な労働市場に基づきより良いサービスを規制緩和と経営改革を通じて実現することです。働き方は生き方の重要な部分であるため、法律で働き方を決めることは生き方を法律化するようなものです。
・夕方や土日にも住民サービスを受けることは、公務員や民間人の総労働時間を増やさずに実現することが可能です。しかし、社員がいくら働き方を変えてもしょせん、規制と経営の下で行われた「戦闘行為」です。兵隊がいくら勇敢に犠牲を払っても大本営と司令達が改革を拒否すれば無駄死にが増えるだけです。
・実は働く社員の一人一人は必死です。自分の家族を守るために少しでも収入を改善しようと時計の針を見ながら残業代を計算する父親の姿が目に浮かびます。しかし、彼らは兼業できない、転職しにくいから、一つの会社に媚びを売って忖度し、他に通用しない社畜に成り下がるしかないのです。だから安い残業代を狙って、少しでも収入が良くなるように頑張っています。
・本当のことを言えば、彼らが好きなだけ兼業できるならば、何も同じ会社でわずかな残業代を稼ぐ必要はないのです。正々堂々と他のところで気分転換しながら勉強しながら稼げばいいのです。しかし、政権のために働き方改革を宣伝する大手マスコミのサラリーマンに聞いてみれば分かるように、兼業を許す大手マスコミがどこにありますか。規定上できても運用上不可能にしている大手も出てきましたが、正規と非正規労働の格差がこれだけ大きくなれば、非正規に成り下がらないように、必死に忖度しないサラリーマンはいないのです。
・結局、働き方改革は社員を楽にする法案ではなく、経営者を楽にする法案なのです。 そして当局や経営者側に立つ既得権益者たちがその法案に「働き方改革」という失礼なタイトルをつけて国会で通そうとするのです。先日、データ不正との理由でこの法案の通過を放棄された時に、経営団体の代表たちはこぞって残念を表明したことが象徴的でした。働き手のためのものであれば、労働者たちが反対するはずです。この法案は羊の頭を掲げて犬の肉を売る法案なのです。
・私は左翼と思われるかもしれませんが、間違いなく保守なのです。現役の時から自由経済と経営改革を信じて止まない経営者でした。私は日本で最初に残業を制限した経営者だったかもしれません。サービス残業を最も早く厳しく批判した経営者だったと思います。
・本当の進歩は社員の労働強度を減らしながら、収入を維持することです。あるいは同じ労働強度を維持しながら、社員の収入を上げることです。「週休7日が幸せか」と過労死遺族に問い詰める飲食産業の経営者議員。これは「働き方改革」の本質を象徴する一幕です。週休7日を求める日本の社員を見たことはありませんが、構造改革と経営改革が遅れているくせに毎日社員に勤勉と頑張りを求める経営者を私はたくさん知っています。
・同じ飲食産業でも先日深センで社員が楽になって顧客が満足する風景を見ました。着席するとウェーターがやってきてテーブルに置いてある二次元バーコードを指して「ご注文はこちらからどうぞ。」と言った後、20分間の砂時計をひっくり返して「上の砂がなくなるまで食事が揃わない場合、食事が無料になります。」と言って去りました。二次元バーコードを携帯でスキャンして写真付きのメニューから食事を注文し、食事後にそのまま携帯で支払うのです。注文取りなし、レジなしです。社員がやることはクレーム処理や老人や子供の手伝いです。
・この現場から分かるように、規制緩和を通じて金融改革をした上、経営者が技術投資と経営改革を敢行しない限り、上述のようなサービスは出現しません。「週休7日が幸せか」という誰も望んでいない仮説を立てる暇と、「働き方改革」を法制化する暇があるなら、自分たちの改革に早く着手したほうが自他ともに良くなりますよ。

次に、5月16日付けダイヤモンド・オンライン「今度は「過労死隠し」、厚労省が働き方改革の腰を折る反則技連発」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・安倍首相が今国会の目玉と位置付ける「働き方改革」の関連法案の審議が4月27日からようやく始まったが、早くも暗雲がかかる。社員を際限なく働かせることが可能になると批判が強い「高度プロフェッショナル制度」(高プロ)が盛り込まれているうえに、紛糾の“火ダネ”がまた生まれた。
・労働時間の規制を緩和しても、社員を働かせ過ぎることがないよう取り締まりはきちんと行われている例として、加藤勝信厚労相が国会答弁などであげていた野村不動産への特別指導は、社員の過労自殺が起きてから動き出したのが「真相」だったことが発覚したからだ。
・厚労省は、裁量労働制の適用拡大では、裁量労働制の労働時間が短いことを示そうとして、根拠の曖昧な「不適切データ」を国会に出すという“反則技”で、一部の法案の撤回に追い込まれたばかり。性懲りもなく、目玉法案を通すためならルールも無視するかのような反則技が止まらない。
▽特別指導の発端は社員の過労自殺だった
・「過労死隠し」の疑惑の発端は、3月4日付の朝日新聞が報じた「野村不動産 社員が過労自殺」の記事だった。 記事やその後の厚労省などの説明で、明らかになった経緯はこうだ。50歳代の男性社員が2016年9月に過労自殺。遺族は、翌17年春に労働基準監督署に労災を申請し、厚労省東京労働局はこの労災申請を端緒として野村不動産に調査に入り、その結果、裁量労働制の乱用が見つかった。
・そして昨年12月25日には東京労働局の勝田智明東京労働局長が野村不動産の宮嶋誠一社長を呼んで、同社に対し「特別指導」という極めて異例の行政指導が行われた。 この一連の経緯のなかで異例のことが相次いだ。 通常は公表されない特別指導の実施を、指導の翌26日に厚労省は、東京労働局長の定例記者会見で明らかにしたのだ。
・毎月、開かれるこの定例会見は、ふだんは雇用状況の説明などが主な内容で、メディアの関心はさして高くない。だがこの日は違った。 高級マンション「プラウド」を全国展開する不動産大手の野村が、本社や各地の支社で裁量労働制を違法に適用、長時間労働をさせていた労働基準法違反の事実がいきなり発表されたから、新聞各紙は大きな扱いで一斉に報じた。
・裁量労働制は、実際に働いた時間でなく、あらかじめ労使で合意した労働時間(みなし労働時間)に基づいて残業代込みの賃金を払う制度。社員がいくら長時間働いても追加の残業代を支払わなくてもよいため、連合などから「長時間労働を助長する」と強く批判されてきた制度だ。
・このため、労働基準法は適用要件を厳しく定め、労働時間を自らコントロールする必要がある社員にしか適用できないルールになっている。 ところが、野村不動産はこのルールを破り、モデルルームで接客する社員や中古物件の仲介業務を行う社員らに違法に適用していた。裁量労働制が適用されたのは全社員のほぼ3分の1にあたる約600人で、違法適用は2005年から続いていた。 まさに「乱用」だった。
▽異例ずくめの公表の陰で伏せられた「不都合な事実」
・裁量労働制が乱用されやすいことはかねて指摘されていたが、大手企業で乱用の実態が明らかになるのは初めてと言っていい。 新聞各紙が大きな扱いで報じることになったが、そもそも「特別指導」が、指導対象になった企業名も含めて公表されたのは異例のことだ。
・全国の労働基準監督署は、労働法令に違反した企業に対して年間ほぼ10万件もの是正勧告をしているが、原則として個別の是正勧告をしたかどうかは明らかにせず、当然、企業名も公表しない。 厚労省が例外的に公表すると定めているのは、原則として以下の2つのケースだけだ (1)法令違反した企業を刑事事件として立件した場合 (2)2017年1月に出した「企業名公表」のルールに当てはまる場合
・野村不動産による裁量労働制の乱用は悪質だが、現時点では立件されていないので(1)には当てはまらない。(2)は「社員が過労死・過労自殺」したことい加えて、「月100時間以上の違法残業を社員10人以上にさせた」といった悪質なケースが一年以内に見つかった場合に企業名を公表するもので、「2アウトルール」と呼ばれるが、野村不動産はこの基準にも当てはまらない。
・過去に特別指導が行われたのは、2016年の電通事件の時だけで、この時も記者会見では公表していない。特別指導した個別の企業名を記者会見で公表するのは、野村不動産のケースが初めて。 極めて異例の対応で、しかも肝心の社員の過労自殺の事実は伏せられたままの公表だった。
・26日の会見では、特別指導の根拠法令などを問う質問も出たが、鈴木伸宏・労働基準部長は「何か法令に基づいてやっているものではない」と回答。東京労働局長の独断で行われた指導だったことを明らかにした。
・特別指導の際に、労働局内でも厚労省内でも決裁文書が作られていなかったことも、後に明らかになっている。労働局の一局長が、民間企業に対して、その権限を恣意的に行使していた可能性が非常に高いのだ。
▽加藤厚労相は真逆の国会答弁 批判を抑える「好事例」を準備?
・何を狙って野村不動産への特別指導が公表されたのか。 それは、その後、国会答弁で加藤厚労相が、裁量労働制の乱用を取り締まった事例として野村不動産に対する特別指導のことを何度かあげていることがヒントになる。
・例えば、2月20日の衆院予算委員会での質疑で、共産党の高橋千鶴子議員との間で、加藤厚労相はこんなやり取りをしている。
・高橋議員 「裁量労働制を隠れみのに、ただ働きや長時間労働をさせることがあり得る。(適用対象を)拡大すれば、もっと起こり得る」
・加藤厚労相 「野村不動産をはじめとして、適切に運用していない事業所等もありますから、そういうものに対してしっかり監督指導を行っている」
・もともと政府が今国会に提出した「働き方改革」の関連法案には当初、裁量労働制の適用対象を営業職の一部に拡大することが含まれていた。これに対して野党は、「過労死が増える」と猛反対していた。そうした中での加藤氏の、この答弁である。「裁量労働制の乱用があったとしても、労働基準監督署がしっかりと取り締まるから、心配いりません。だから、適用対象を拡大しても、過労死は起きません」。翻訳すれば、だいたいこんな意味になる。
・これまでの流れを見てみると、野村不動産への特別指導が、まるで、国会答弁で使うために周到に準備されていたかのようだ。 安倍首相が、今国会を「働き方改革国会」と命名したのは、特別指導の公表から9日後の1月4日に行われた年頭の記者会見の場だった。 森友・加計問題で野党の追及や国民の批判が強まるばかりの安倍政権にとって、長時間労働の規制や非正社員の待遇改善策などを盛り込んだ働き方改革関連法案は、イメージアップにはうってつけの法案だ。
・最大の問題は、高プロ制度と裁量労働制の対象拡大に対して、「過労死が増える」という野党の批判を国会審議でどう抑え込むかだった。 こうした状況で、裁量労働制を乱用していた野村不動産を取り締まったという「実績」は、野党の批判をかわすのに絶好の事例だったといえる。
・しかし現実は、「しっかり監督指導を行っている」と、過労死は未然に防げることを強調するかのような加藤厚労相の答弁とは逆で、社員が過労死しなければ、労働基準監督署は調査にすら入ることができなかった「真相」が浮かび上がることになった。
・本来は公表事案ではないのに「特別指導」を公表する一方で、過労自殺の事実を隠したのは、野党の批判をかわして目玉法案の審議を有利に進めるためだったのではないかーと野党は猛反発している。  野党側はこれまで連日のように国会内で合同ヒアリングを開催し、厚労省の幹部を呼んで問いただしてきた。
・最大の焦点は、野村不動産への特別指導の時点で、加藤厚労相が過労自殺の事実を知っていたのかどうか、だ。 知っていたのであれば、「過労死隠し」に厚労省のトップが関与した疑いが強まる。さらに、過労自殺があったことを知りながら、国会で「しっかり監督している」と答弁したのなら、「政治的な責任は逃れられない」(立憲民主党の長妻昭氏)との意見も強い。
・しかし野党側の追及に、厚労省幹部は「ゼロ回答」を連発している。
・野党議員 「過労自殺について、加藤厚労相には報告したのか」
・厚労省幹部 「労災認定は、その有無も含めて個人情報につながるので、個人情報保護の観点からコメントを控える」
・野党議員 「特別指導の公表について、いつ加藤厚労相に報告したのか」
・厚労省幹部 「監督指導の個別事案の詳細は回答を控える」
・厚労省幹部はその後、昨年11~12月に、特別指導について加藤厚労相に事前報告を3回行っていたことだけはようやく明らかにした。 しかし、報告の際に使った資料は、大半を黒塗りにして開示。労災認定した事実も4月に入ってようやく公式に認めたが、特別指導の端緒や過労自殺について報告したか、といった肝心なことは全く明かさなかった。
▽飛び出した「恫喝」発言 疑惑追及にいら立ち
・疑惑追及に対する厚労省側の焦りを象徴するように、勝田東京労働局長のメディアに対する「恫喝」発言が飛び出したのはこの後だ。 3月30日の勝田局長の定例会見。記者の質問は特別指導の経緯に集中したが、局長は「ノーコメント」「お答えできません」を連発した。
・それでも食い下がる記者に対し、勝田局長は、こう言い放った。「なんなら、みなさんのとこに行って是正勧告してあげてもいいんだけど」 発言の真意を問われた勝田局長は「いろんな会社が是正勧告を受けているということを言いたかっただけ」と、釈明したが、発言は撤回せず、むしろ、「みなさんの会社も、決して真っ白じゃないでしょう」「(テレビ局に対して)長時間労働という問題で指導をやってきています」と、火に油を注ぐような発言を繰り出した。
・その日の夜、東京労働局から会見に出席した記者に、発言を撤回し謝罪する、旨のメールが送られてきたが、後の祭りだった。 勝田局長はその後、衆議院と参議院の厚生労働委員会に参考人として呼ばれ、与野党双方の議員から批判を浴びた後、東京労働局長を更迭された。
・だが結局、厚労省が過労自殺を隠したまま、野村不動産の特別指導だけを公表するという異例の対応をした理由や経緯はいまだ明らかにされないままだ。
▽法案成立を焦って?「おきて破り」“目玉改革”に暗雲
・働き方改革関連法案の審議入りは遅れに遅れてきた。原因は厚労省の相次ぐ「反則技」だ。 最初は、裁量労働制の労働時間についての「不適切データ」だった。 データ自体の元々の調査もずさんだったが、比較できないデータ同士を比較し、「裁量労働制で働く人の労働時間は、一般の人より短い」という政府に都合のいいデータを作り、安倍首相が国会答弁で紹介した。
・このことがばれて、安倍首相は裁量労働制の適用拡大の撤回に追い込まれた。だがその反省もないまま、次に飛び出したのが、野村不動産への特別指導と「過労死隠し」の疑惑だ。 過労死をなくすことを目標に掲げる厚労省が、法案審議を有利に進める目的で、過労死を隠し恣意的に権力を行使したというのが事実なら、悪質な反則技と言える。
・そしてその疑惑へのきちんとした説明もないまま、政府与党は4月27日、公文書改ざん問題などでの麻生財務相の引責を求める野党議員が欠席するなかで、衆院本会議で働き方改革関連法案の趣旨説明を行い、審議入りを強行した。
・もともと関連法案の内容をめぐる政府与党と野党、経済界と連合との間の対立は根深いものがある。 年収1075万円超の専門職を労働時間規制から外す「高プロ」にしても、第一次安倍政権が導入をもくろんだものの、野党や労働団体の反対で頓挫した「ホワイトカラーエグゼンプション」を衣替えしたものだ。
・バブル崩壊後の長い経済停滞や、人件費の安い新興国とのグローバル競争の激化のもとで、経済界は効率よく労働力を使える制度を求め、政府もこうした声にこたえ、非正規化などを加速させる規制緩和を打ち出してきた。 労働時間の規制緩和をめぐる政府与党と野党、連合との対立も、こうした働き方をめぐる20年近くの綱引きの中で続いてきたものだ。
・野党はその後、審議に戻ったが、「反則技」や野党がいなければそれに乗じてでも、“20年戦争”に終止符を打ち悲願成就をという魂胆なのだろうか。 関連法案の中には、正規・非正規社員の不合理な待遇格差をなくす「同一労働同一賃金」の実現を目指すものもある。 だが「おきて破り」を繰り返すやり方ではせっかくの“改革”への支持はおぼつかないだろう。
https://diamond.jp/articles/-/170055

第三に、健康社会学者の河合 薫氏が5月22日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「米国のいいなり 自国の働く人捨てる日本の愚行 何のための働き方改革か」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・また。そうまた、大切な命が会社に奪われた。それでも国はのたまう。「生産性向上には裁量労働制拡大が必要だ」と。 いったい何のための仕事なんだ? いったい会社は誰のものなんだ? 人生を奪うような働き方をさせてまで、“アメリカさん”のいいなりになりたいのだろうか。
・しょっぱなから少々鼻息が荒くなってしまった。今回は「裁量労働制拡大と知られざる文書」について、アレコレ考えてみる。 先週、東京のIT企業で裁量労働制で働いていた男性会社員(当時28歳)が、くも膜下出血で過労死していたことがわかった。 亡くなる直前の2カ月間の残業時間は、月平均87時間45分。裁量労働制が適用される前には最長で月184時間の残業があった。
・男性は不動産会社向けのシステム開発担当で、チームリーダーに昇格した際に専門業務型の裁量労働制が適用された。長時間労働は適用前から常態化しており、適用後は徹夜を含む連続36時間の勤務もあった(みなし労働時間は1日8時間)。
・男性はTwitterに、
 +やっと家ついたー。この安心感よ。今月も華麗に300時間やー。ねむすぎ。
 +ねむい。13時から翌日の18時までってなんなん。
 +仕事終わるまであと22時間 +うおー!やっとしごとおわったぁー!!社会人になってから36時間ぶっ通しで働いたの初めてやがな。 などと投稿。
・家族に頭が痛いと訴えた翌月、自宅アパートで亡くなっているのが見つかったという。 代理人の弁護士は、「男性の過重労働は裁量労働制の適用前からだが、適用直後には徹夜勤務があるなど、裁量労働制が過労死に悪影響を及ぼした可能性は高い」 と指摘している。
・また、テレビ朝日でドラマを担当していた男性プロデューサー(当時54歳)が、2015年に心不全で過労死していたこともわかった。男性は裁量労働制を適用する制作部門に所属し、直近3カ月の残業時間は、月70~130時間。
・テレ朝は「極めて重く受け止めている。社員の命と健康を守るための対策をより一層進めてまいります」とコメント。さらに、テレ朝は5月16日、報道局で映像取材のデスクを務めていた子会社の男性社員(49)も4月21日に急死したことを明らかにした。が、勤務実態などについては「遺族に対応中であり、プライバシーに関わる」として回答を控えた。
▽“たかが仕事”で、人生を奪われる異常な事態
・ ……。 いったいいつになったら、過労死や過労自殺が死語になるのだろう。 それ以上に気になるのが、過労死や過労自殺という言葉への“温度”の低さだ。実にサラリ、というかなんというか。 “たかが仕事”で、人生を奪われる異常な事態に鈍感になっている、そう思えてならないのである。
・これだけ裁量労働制が問題になっているにもかかわらず、政府は高度プロフェッショナル制度の成立を目指すというのだから、わけがわからない。 厚労省のずさんなデータも「結果には問題ない」って?? でもって、今年1月に行った調査で1000以上の事業所で裁量労働制の運用に問題があることがわかったから、事業所に対して立ち入り調査を行い、違反が見つかった場合には、行政指導を行う方針を固めたって??(こちらを参照)
・全国の事業所は400万カ所超で、監督が実施されるのは毎年全体の3%程度にとどまる。原因は慢性的な人員不足だ。(こちらを参照)
・ここまでして「裁量労働制拡大」を、なぜ、しなければならないのか? 日本の財界の要請?  いや、それだけではない。「残業代がバカにならないから、労働時間規制を見直してね!」って、“アメリカさん”に要請されたからだ。
・Recommendations  The American Chamber of Commerce in Japan (ACCJ) urges the Ministry of Health, Labor and Welfare (MHLW) to modernize the current work-hour regulations to better reflect the changing social and economic environment, including Japan’s evolution into a services-oriented, knowledge-based economy and the diversification of the Japanese workforce. (邦訳)提言 在日米国商工会議所(ACCJ)は厚生労働省に対し、現行 の労働時間法制を見直し、サービス業の台頭、知識集約型 経済への移行および就業形態の多様化等社会経済環境 の変化に対応した制度の創設を要請する。
・このような文言で始まるのは、 Modernize Work Hours Regulation and Establish a White-Collar Exemption System(労働時間法制の見直しおよび自律的な 労働時間制度の創設を)と題された意見書で、2006年12月6日、在日米国商工会議所(ACCJ)が、安倍政権(第一次)に提出した。
・ACCJとはどんな団体か ACCJは1948年に設立され、日本で活動する米国企業1400社の代表が加入し、約3000人のメンバーが名を連ねる。そのミッションは、「日米の経済関係のさらなる進展、会員企業および会員活動の支援、そして日本における国際的なビジネス環境の強化等」だ。
・メンバーによって、メンバーのために運営される完全に独立した商工会議所として、日本で最も影響力のある外国経済団体の1つで、日米のビジネスの進展を図るコミュニティーとして高い評価を受ける一方、実情は「政策を日本政府に命令している」団体とされている。
・先の意見書が出された当時、日経産業新聞では、以下のように報道(要約)。(前略)ACCJは「同制度は優秀なホワイトカラーにやる気と自信を与え、日本の国際競争力も向上する」と主張している。 同制度では、働く人が忙しいときは深夜まで働ける一方、暇なときは早退することも可能だ。仕事の成果や組織への貢献度で給与を決めるので、残業しても給与は増えない。 米国では年収2万3660ドル(約270万円)以上のホワイトカラーが対象だが、日本では年収800万円以上を対象とすべきだと提言している。 厚生労働省は2007年の通常国会で同制度の法制化を目指し、日本経団連は導入に賛成している。 2006年12月7日付日経産業新聞から)
・一方、しんぶん赤旗ではこう報じている(要約)。(前略)これは際限ない長時間労働を合法化する制度です。 ACCJは「管理監督者」の範囲拡大や、年収800万円以上はすべて対象にすることを主張。 また、事務職、専門職、コンピューター関連のサービス労働者、外回りの営業職にも適用を求め、深夜労働の割増賃金は「労働コストの上昇を招くだけ」と廃止を要求している。 労働時間規制を撤廃し、日本に投資した米国企業が米国流で労働者を使えることをめざしています。 前者は「労働者のやる気」を、後者は「投資家が米国流で労働者を使えること」にスポットをあてているが、提言書全体を読めば「投資で儲かる人のための労働制度改革」であることは明白である(以下、要約・抜粋 提言書のWebでの公開期間は終了)。
 +効率性・能力・生産性に優れた労働者が、能力の劣る者より高い報酬を得られる仕組みは、海外投資家にとって競争力のある魅力的な市場となる
 +労働時間規制の適用除外労働者に対する深夜業の割増賃金の廃止を要請する
 +深夜業の割増賃金制度は、現代のホワイトカラー労働者の働き方に適さず、労働コストの上昇を招くだけ
・さらに、過労死についても言及しているのだが、ここは結構なポイントなので、原文のまま掲載する。 ホワイトカラー・エグゼンプション制度を批判する者は、過労死を助長しかねないと主張している。しかしながら、ACCJはむしろ、日本の現行制度に基づき労働時間規制の対象となっているホワイトカラー労働者から、より効果的に、より生産的に働く意欲を引き出すことができるのではないかと考えている。労働者の健康と安全については別に規制が行われており、日本の各企業の健康・労働安全保護のための制度に従って使用者による運用に委ねられるべきである。
▽ホワイトカラーエグゼンプション=労働時間短縮?
・………書いているだけで吐きそうになった。 つまり、大雑把にまとめると、「残業代とか払うのバカらしいから、さっさと辞めてよ。そしたらもっと海外投資家が投資するよん! 過労死は別の問題。こっちはちゃんと企業が規制すればいいでしょ? 僕たちの要望とは関係ないよ~」ってことだ。
・この意見書は、2005年からホワイトカラーエグゼンプションを議論していた政府の追い風になったと、私は推測している。 なんせ、与党内から慎重論が出ていたにもかかわらず、意見書が出された翌月の2007年1月5日。柳沢厚生労働相(当時)は、「次期通常国会に法案を提出する方針を変えるつもりはない」と改めて強調。
・さらに、安倍首相も次のようにコメントした。「日本人は少し働き過ぎじゃないかという感じを持っている方も多いのではないか。(労働時間短縮の結果で増えることになる)家で過ごす時間は、例えば少子化にとっても必要。ワーク・ライフ・バランスを見直していくべきだ」(2007年1月5日付朝日新聞より)
・つまり、このとき政府は、ホワイトカラーエグゼンプション=労働時間短縮と思い込んだ。 一方、経団連にとっては、渡りに舟。 1995年の「新時代の『日本的経営』」で、3種類の労働者グループに分類し、「低コスト」化を進めてきたわけだが、その中の「長期蓄積能力活用型グループ」のコスト削減に好都合となった。 つまり、企業の人件費削減と海外投資家からカネを引き出すには、何がなんでも「新ホワイトカラーエグゼンプション」が必要不可欠。
・悲しい話ではあるけど、過労死とか過労自殺とか関係なし。「え? 労働時間を管理しろって? そんなの労働時間規制からはずす働き方なんだから、そんなの企業には関係ない。労働者が自分の健康くらい管理できなくてどうする? 誰も死ぬまで働けなんて言っていない」と労働者を突き放し、「アメリカ投資家の奴隷になれ! そうすれば日本企業は魅力的になる」と暗に言っている。 ……私にはそうとしか思えないのである。
・これまでにも何度も書いてきたとおり、裁量労働制そのものに反対する気はない。 だが、日本には時期尚早。裁量権を与えることもなければ、過剰労働にならないための義務を果たすつもりもない日本には、1075万円という年収制限を付けようとも、「新ホワイトカラーエグゼンプション」を取り入れる資格などない。
・もし、「自分はもっと自由にやりたい!」という人は、「高度専門能力活用型」として、有期雇用契約すればいい。強者には「自由」を手に入れるだけの力があるはずだ。 KAROSHIは決して、他人事ではないはずなのに。大切な家族を亡くした人たちの悲痛な叫びに、なぜ、もっと真摯に耳を傾けることができないのか? 私には到底理解できないのである。
▽過労死撲滅に真摯に向き合わない日本 いったい何のために私たちは働いているのか?
・「働く」という行為は、人生を豊かにするための大切な手段であり、行為だ。 なのに、働くことで大切な命が奪われている。しかも過労死。 私のようなフリーランスなら「自己責任」だが、会社が請け負った仕事を、なぜ、会社に雇用されている人たちが、自分の命を削りながら果たさなきゃいけないのか。
・「働く」という行為には、「潜在的影響(latent consequences)」と呼ばれる、経済的利点以外のものが存在し、それらこそが人を元気にし、人のやる気を喚起し、生きる力を与えるリソースが存在する。本来、私たちの人生を豊かにするための「働く」行為が、ただの「カネ」にすり替わっている。
・いったいいつまで「人生の邪魔をする働かせ方」を、偉い人たちは許すのか。 人間は仕事、家庭、健康という3つの幸せのボールを持っていて、どのボールが地面に落ちても幸せになれない。 「仕事」「家庭」「健康」のボールをジャグリングのように回し続けられる、「人生の邪魔をしない職場」を目指すことが必要なのに……。
・過労死につながるから高プロがダメなのではない。過労死撲滅に真摯に向き合わない日本に、高プロを適用する資格などないのだ。「問題だけ突っつくだけかよ!」という人は、これまで散々、何本もの本コラムで具体策を提案しているのでお読みいただければ幸いである。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/200475/052100160/?P=1

第一の記事で、 『働き方改革法案。この話を聞くたびに不快になるのはなぜ個人の働き方を法律で決めてもらわないといけないのかと思うからです。与党と経営者団体がやるべきことは社員が働き方を決める権利を尊重することです。自由な労働市場に基づきより良いサービスを規制緩和と経営改革を通じて実現することです。働き方は生き方の重要な部分であるため、法律で働き方を決めることは生き方を法律化するようなものです』、というのは、言われてみれば確かにその通りだ。 『働き方改革は社員を楽にする法案ではなく、経営者を楽にする法案なのです。そして当局や経営者側に立つ既得権益者たちがその法案に「働き方改革」という失礼なタイトルをつけて国会で通そうとするのです』、『構造改革と経営改革が遅れているくせに毎日社員に勤勉と頑張りを求める経営者を私はたくさん知っています』、などの指摘には説得力がある。
第二の記事で、『労働局の一局長が、民間企業に対して、その権限を恣意的に行使していた可能性が非常に高いのだ』、としているが、『国会答弁で加藤厚労相が、裁量労働制の乱用を取り締まった事例として野村不動産に対する特別指導のことを何度かあげている・・・野村不動産への特別指導が、まるで、国会答弁で使うために周到に準備されていたかのようだ』、ということであれば、単に労働局の一局長の判断ではなく、本省からの指示があったとみる方が自然なように思える。『過労死をなくすことを目標に掲げる厚労省が、法案審議を有利に進める目的で、過労死を隠し恣意的に権力を行使したというのが事実なら、悪質な反則技と言える』、「ここまでやるか」というほど強引な手法は、安倍政権の焦りを示しているのだろう。
第三の記事で、『在日米国商工会議所(ACCJ)の意見書が・・・安倍政権(第一次)に提出』、というのは初めて知ったが、安倍政権が成立に異常なまでにこだわる理由がなるほどと理解できた。ただ、『政府は、ホワイトカラーエグゼンプション=労働時間短縮と思い込んだ』、というのは、「フリ」をしただけではないのか、という気がする。 『裁量労働制そのものに反対する気はない。 だが、日本には時期尚早。裁量権を与えることもなければ、過剰労働にならないための義務を果たすつもりもない日本には、1075万円という年収制限を付けようとも、「新ホワイトカラーエグゼンプション」を取り入れる資格などない・・・過労死撲滅に真摯に向き合わない日本に、高プロを適用する資格などないのだ』、というのはさすが河合氏だけあって説得力がある。
タグ:日経ビジネスオンライン ダイヤモンド・オンライン 河合 薫 働き方改革 宋 文洲 宋メール (その15)(失礼な「働き方改革」法案、今度は「過労死隠し」 厚労省が働き方改革の腰を折る反則技連発、米国のいいなり 自国の働く人捨てる日本の愚行 何のための働き方改革か) 「失礼な「働き方改革」法案」 働き方改革法案。この話を聞くたびに不快になるのはなぜ個人の働き方を法律で決めてもらわないといけないのかと思うからです 与党と経営者団体がやるべきことは社員が働き方を決める権利を尊重することです。自由な労働市場に基づきより良いサービスを規制緩和と経営改革を通じて実現することです。働き方は生き方の重要な部分であるため、法律で働き方を決めることは生き方を法律化するようなものです 働き方改革は社員を楽にする法案ではなく、経営者を楽にする法案なのです 構造改革と経営改革が遅れているくせに毎日社員に勤勉と頑張りを求める経営者を私はたくさん知っています 「今度は「過労死隠し」、厚労省が働き方改革の腰を折る反則技連発」 目玉法案を通すためならルールも無視するかのような反則技が止まらない 労働局の一局長が、民間企業に対して、その権限を恣意的に行使していた可能性が非常に高いのだ 加藤厚労相が、裁量労働制の乱用を取り締まった事例として野村不動産に対する特別指導のことを何度かあげている 野村不動産への特別指導が、まるで、国会答弁で使うために周到に準備されていたかのようだ 飛び出した「恫喝」発言 疑惑追及にいら立ち 過労死をなくすことを目標に掲げる厚労省が、法案審議を有利に進める目的で、過労死を隠し恣意的に権力を行使したというのが事実なら、悪質な反則技と言える 「米国のいいなり 自国の働く人捨てる日本の愚行 何のための働き方改革か」 IT企業で裁量労働制で働いていた男性会社員(当時28歳)が、くも膜下出血で過労死 テレビ朝日でドラマを担当していた男性プロデューサー(当時54歳)が、2015年に心不全で過労死 “たかが仕事”で、人生を奪われる異常な事態 在日米国商工会議所(ACCJ) 労働時間法制の見直しおよび自律的な 労働時間制度の創設を)と題された意見書 このとき政府は、ホワイトカラーエグゼンプション=労働時間短縮と思い込んだ 裁量労働制そのものに反対する気はない。 だが、日本には時期尚早。裁量権を与えることもなければ、過剰労働にならないための義務を果たすつもりもない日本には、1075万円という年収制限を付けようとも、「新ホワイトカラーエグゼンプション」を取り入れる資格などない 過労死撲滅に真摯に向き合わない日本に、高プロを適用する資格などないのだ
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日本の政治情勢(その23)(小田嶋氏:安倍首相はおそらく辞めないんじゃないかと思う) [国内政治]

日本の政治情勢については、5月21日に取り上げたばかりだが、今日は、小田嶋氏の本日付けのコラムが余りに面白かったので、(その23)(小田嶋氏:安倍首相はおそらく辞めないんじゃないかと思う)である。

コラムニストの小田嶋 隆氏が昨日付けの日経ビジネスオンラインに寄稿した「安倍首相はおそらく辞めないんじゃないかと思う」を紹介しよう。
・この原稿を書いている現時点から数えて3日前の5月21日、加計学園の獣医学部新設をめぐる問題で、愛媛県が新たな文書を国会に提出した。文書では、3年前に柳瀬唯夫元総理大臣秘書官が官邸で学園側と面会したことが明らかになっている(こちら)。
・2日後の23日には、森友学園への国有地の売却をめぐる問題で、財務省が「廃棄した」と説明してきた学園側との交渉記録が見つかったとして関連文書を国会に提出している。なお、NHKなどの報道によれば、この記録文書については、去年2月に問題が明るみになったあと、財務省理財局の一部の職員が保管してあった記録を廃棄するよう指示していたことがあわせて発覚した(こちら)。
・さらに同じ23日、防衛省が、陸上自衛隊イラク派遣部隊の日報隠蔽問題の調査結果を公表している。「防衛省は当時の稲田朋美防衛相による再捜索の指示が伝わらなかったことを要因に挙げ、組織的隠蔽はなかったと結論付けた」とのことだ(こちら)。
・よくもまあ、あとからあとからとんでもない資料が出てくるものだと思うのだが、それでは、これらの一連の新事実が現政権の致命傷になるのかというと、私は、必ずしもそういう方向には展開しないだろうと考えている。
・23日に、私はこんなツイートを発信している。《本来なら4月に決裁文書の改竄が明るみに出た時点ですでに詰みなんだけど、今回のこの交渉記録文書の廃棄の発覚で、逃げ道は完全に塞がれた。これでもなお逃げ切れるのだとしたら、別の何かが死ぬことになるのだと思う。》(こちら) ところが、調べてみたところ、財務省が文書の改竄を発表したのは、4月ではなくて3月の12日だった。ということは、私のツイートにある「4月に決裁文書の改竄が明るみに出た時点で」という表現は、間違いだったことになる。この場でお詫びして訂正しておくことにする。
・とにかく、この事件をずっと注視してきたつもりでいる私にしてからが、文書改竄発覚の日時を失念していたわけだ。この事実を見てもわかるとおり、いわゆる「モリカケ問題」は、次々と新事実が暴露されている一方で、順調に風化が進んでもいる。もしかしたら、このまま尻すぼみで忘れられるかもしれない。
・今回は、この点について考えてみる。 モリカケ問題の風化と、できれば、風化した後にやってくる未来について、触れることができれば有益かもしれない。
・国会に提出された財務省の文書と愛媛県の文書は、色々な意味で、容易ならざる事実を物語っている。 たとえば、総理夫人である安倍昭恵さんの関与を強く示唆する記述が含まれている。それとは別に、安倍首相が加計学園による獣医学部新設の計画を3年前の段階で知っていたことを疑わせる文言が各所に散見されていたりもする。いずれにせよ、現政権にとっては、極めて不都合な資料だ。
・ということはつまり、事態はまさに、安倍首相ご自身が、昨年の2月17日に国会の答弁の中で 「私や妻が関係していたということになれば、まさにこれはもう私は、それはもう間違いなく総理大臣も国会議員もやめるということははっきりと申し上げておきたい」という、強い調子の言葉とともに全面否定した、国有地取引への「関与」を裏付ける方向で推移しているわけで、してみると、安倍首相は、今回出てきた文書に追い立てられる形で、自ら職を辞することになるのだろうか。
・私は、ここでも、そういう事態には立ち至らないだろうという観測を抱いている。 なぜかといえば、なにがあろうと30パーセント以下に数を減らすことのない確固たる政権支持層が、いわゆる「モリカケ問題」を、結局のところ、問題視していないからだ。 別の言い方をするなら、「モリカケ問題」を理由に政権への支持をひるがえすタイプの国民は、とっくの昔に政権を見捨てているのであって、今年の3月の段階でなお政権を支持していた人々は、この先モリカケ問題でどんな新事実が浮上しようが、決して安倍支持を引っ込めるようなことはしない、ということだ。
・ごぞんじの通り、政権のコアな支持層の中には、「モリカケ問題は、マスゴミやパヨク連中によるフェイクニュースにすぎない」「あることないことを針小棒大に報道する捏造だ」「安倍さんには一点の曇りもない」「陰謀だ」という見方を牢固として捨てない人々が一定数含まれている。
・とはいえ、私の見るに、その種のいわゆる熱狂的な「アベ信者」は、声が大きいだけで、見かけほど数が多いわけではない。 多くの政権支持層は、実のところ、モリカケ問題が「クロ」であることに気づいているはずだ。彼らは、メディアで語られている事件の構図のすべてに関して安倍首相が責任を負うべきだとまでは考えていなくても、少なくとも「モリカケ」事案の一部に首相や夫人が関わっていたことについては、内心、すでに認めているはずだと私は思う。
・で、ここから先が大切なところなのだが、日本人のおよそ3割を占める政権支持層は、モリカケ案件に総理夫妻が関与していたことを承知していながら、それでもなお、「それがどうしたんだ?」 と考えて、そのことを、辞職に値する不祥事だとは考えていないのだ。
・戦後の政治家は、大筋において、なんらかの意味で利益誘導を心がけている人々だった。 地元に鉄道の線路を引っ張ってくることを手始めに、地場産業の育成や、大手企業の誘致、高速道路計画の立案や原子力発電所の建設に伴う周辺自治体への補償などなど、地域選出の議員は、当然のつとめとして地元のために国の予算を使わしめることに力を尽くした。また、いわゆる「族議員」と呼ばれる議員たちも、自分に票と議席をもたらしてくれた特定の業界や団体の意を受けて、利益誘導をはかることを特段に後ろめたい仕事だとは考えていなかった。
・というのも、昭和の常識では、議員が為すべき第一の仕事は、すなわち自分を選出してくれた地元や業界や後援会組織や宗教団体への恩返しをすることだと考えられていたからで、それゆえにこそ、わたくしども20世紀の人間の多くは、そうやって様々な地域や組織や支援団体や圧力団体が、選挙を通じて利益誘導のための代議士を飼うことそれ自体を、民主主義の実相と信じて疑わなかったのである。
・そのデンで行くと、安倍さんが自分の親しい友人が経営する学園グループのためにひと肌脱いだことは、身内びいきのそしりは免れ得ないのだとしても、一人の人間として見れば、ごく自然な感情の発露でもあるし、昭和の常識から考えれば、むしろ頼りになる政治家(←「おやじさん」とか呼ばれるタイプの)としての当然の振る舞い方だったと言って良い。
・森友学園のために助言や協力を試みたのも、自分の政治的信条に共鳴してくれている教育者を応援しようとした熱意のあらわれであって、たしかに、公正な行政手続からはみ出している部分があったことは否定できないのかもしれないが、それにしたところでたいした問題ではない。というのも、政治家の「影響力」とは、つまるところ「公正な行政手続からはみ出すこと」そのものを指す言葉なのであって、だとすれば、「公正な行政手続を多少とも歪曲させる」ことができる政治家こそが、結局のところ「強い政治家」だということになる。
・実際、一部のマスコミや有識者が、政治腐敗の極致であるかのようにことさらに批判している「ネポティズム」(縁故主義)を、「そんなに悪いばっかりのものでもないだろ?」と考えている日本人は少なくない。
・現実に、仕事の回し合いや、社員の採用でも、縁故主義はわれわれの社会の有力な基本線であるわけだし、民間であれお役所であれ学校であれメディアであれ、われわれは、あらゆる場面でよく知った顔を優遇し、よく知っている人々に特別扱いを受けることで自分たちにとって居心地の良い社会を育んでいる。とすれば、お上品ぶったメディア貴族の記者連中や、きれいごとの言論商売で口を糊している腐れインテリの先生方がどう論評しようが、オレは非人情で公正な四角四面の政治家なんかより、清濁併せ呑む度量をそなえた懐の深い人情味溢れた昔ながらの政治家の方が好きだよ、と考える人々が一向に減らないことを、一概に日本社会の後進性と決めつけてばかりもいられないのだろう。
・その種の、現実に目の前で起こっていることこそが人間の社会の本当のリアルで、本に書いてあるみたいな小難しいリクツは、要するにアタマの良い連中がこねくり回してる絵図以上のものではないと考えている人々にしてみれば、あらまほしき立憲政治の建前だの、正しい民主政治の手続きだのみたいなお説教は、「なんだかタメになりそうなお話だけど、オレは忙しいんで、ひとつそこにいる猫にでも教えてやってくれよ」 と言いたくなるテの退屈なお題目なのであろうし、憲法にしろポリティカル・コレクトネスにしろ一票の重さにしろ文書主義にしろ、その種の社会の授業の中で連呼されていた一声聞いただけでアクビの出て来るタイプの言葉には、嫌悪感は覚えても、ひとっかけらの親近感も感じないはずなのだ。
・つい昨日、ツイッターのタイムラインに流れてきた画像で考えさせられたのは、「月刊WiLL」という雑誌の6月号の写真だった(こちら)。 見ると、表紙の一番右に 「危機の宰相は独裁でいい」という大きな見出しが掲げられている。 編集部がこういう見出しをトップに持ってきたことは、この種の主張を歓迎する読者がそれだけいることを見越した上での判断なのだとは思う。
・おそらく、信頼できる独裁者による政治のほうが、いつも議論ばかりしていて話が先に進まない議会制民主主義の非効率な政策決定過程よりもずっと合理的で果断でスピーディーであるはずだ、と考えている有権者は、おそらく多い。
・で、そういう人々は、立憲主義が危機に陥っていようが、文書主義が死に直面していようが、「そいつらは、やけにカラダがよわいんだな」くらいにしか思わないわけで、結局のところ、弱い者の味方をしているつもりでいるいい子ぶりっ子の連中の言い草が不愉快なわけだ。
・モリカケ問題を扱ううえでの難しさは、国会での不毛なやりとりをずっと見せつけられていると、「些細なネポティズムを騒ぎ立てて政局を作ろうとしている野党よりも、とにかく国策を進めようとしている与党の方がずっと誠実だ」というふうに見えてきてしまうところにある。 実際、法案の審議に対してどちらが誠実であるのかという一点だけについていえば、たしかに、与党の方がマトモに審議しようとしていることは事実だからだ。
・ただ、どうしてスケジュール通りに法案の審議に入れないのかの理由は、野党が妨害しているからというよりは、政権の側が答えるべき質問にマトモに答えていないからだ。 与党ならびに関係省庁が、重大な疑惑についての文書を隠蔽し、廃棄し、改竄して、質問をはぐらかしているからこそ国会が空転していることを忘れてはならない。 ……と、この種のお説教を書いていると自分ながら空しくなる。
・なぜというに、私がいま書いたみたいなことは、わかっている人には言うまでもなくわかりきった話だし、聞く耳を持たない人々にとっては、目障りなだけのクズだからだ。 ということは、私の文章を読んで目が開かれたり啓蒙されたりする人間は一人もいないのであろうな。
・話題を変えよう。 日本大学で起こっている恐ろしくも不毛な出来事に関連して、私は、23日の未明に 《仮にも日本一の規模を誇る大学の広報が、これほどまでに醜い弁明を平然と開示している現今の事態は、この一年の国会答弁が、言葉を軽視する風潮を蔓延させてきた流れと無縁ではないはず。→「つぶせ」は「最初から当たれ」という意味 日大が主張:朝日新聞デジタル》というツイートを書きこんだ。
・このツイートには、私を「アベノセイダーズ」であると論評するタイプの反論が多数寄せられた。  私の書き方に曖昧な点があったことは認めなければならない。 たしかに、虚心に読み下すと、このツイートの論旨は、オダジマが、日大の広報がバカな弁明を並べ立てた「原因」を、国会において不誠実な答弁を繰り返している安倍政権による悪影響に求めているように見える。
・私の真意は少し違う。 書き方として、そういう書き方になっているが、私が伝えたかったのは、「安倍政権がこの1年以上国会を舞台に繰り広げている日本語の成り立ちそのものを毀損する悪質な言い逃れの答弁と、日大の広報がこのたびの悪質タックル事件に関する弁明として告知した、文脈を無視して形式論理上の曲芸に逃げ込むテの立論は、その本質において同質であり、いずれも、言葉の機能を偏頗な論争技術の道具に堕さしめている点で極めて社会を害するものだ」ということだ。つまり 「われわれの周囲にあまたある腐敗は、どれもこれも同じ腐臭を放っている」という観察を言葉にしたものでもある。
・その「腐臭を放っているもの」に、もし名前をつけるのであれば、いっそ「日本」と呼んでもかまわない。 してみると、私のアカウントに押し寄せて、「反日」というレッテルを貼って行った人たちの言い分にも一理はあったわけだ。
・このツイートに先立つ3日ほど前の5月19日に 《安倍さんについてなにがしかの論評すると、必ずや「どうしてそんなに日本がきらいなのですか?」という感じの質問が届く。一応マジレスしておく。日本が好きだからこそ、政権のやりかたに反対せねばならないケースがある。それだけの話だ。どうしてこんな簡単なことがわからないのだろうか。》(こちら)という内容のツイートを投稿したのだが、これには、7988件の「いいね」が付き、198件のリプライが押し寄せた。
・私を「反日」と呼ぶ人たちが想定している「日本」と、私が、「腐臭を放っている実体」として名付けようとした「日本」は、正反対のものだ。 思うに、様々なズレは、ここにはじまっている。 ともあれ、大切なのは、われわれが暮らしているこの日本の社会が、この5年ほどの間に、いけずうずうしい言い訳を並べ立てる卑劣な大人や、三百代言顔負けの聞くに堪えない屁理屈を押し出してくる商売人の目立つ、どうにも不愉快な場所に変化しつつあるということだ。
・その原因のすべてを安倍政権に押し付けるつもりはない。 私は、言葉というコミュニケーションツールへの基本的な信頼感が、根本的な次元で損なわれていることの原因の少なくとも一部は、国会答弁の中でこの1年来繰り返されているあまりにも不毛な言葉のやりとりにあるはずだ、とは考えている。
・しかしながら安倍政権もまた、変化した「日本」の影響を受けていることは間違いないからだ。 なので、私は日本を取り戻さなければならないと考えている。 ん? この点では、安倍さんと一致しているのだろうか。
・具体的にどんな日本を取り戻すのかについて、果たして歩み寄りの余地があるものなのかどうか、しばらく考えてみたい。その前に、「自分を取り戻せ」とか言われそうだが。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/174784/052400144/?P=1

小田島氏が、『よくもまあ、あとからあとからとんでもない資料が出てくるものだと思うのだが』、というのは官邸が、都合が悪い情報は一気に出した方がダメージが小さいと判断した上でのことだろう(加計問題は別だが)。 『そういう事態(安倍首相が今回出てきた文書に追い立てられる形で、自ら職を辞する)には立ち至らないだろうという観測を抱いている。 なぜかといえば、なにがあろうと30パーセント以下に数を減らすことのない確固たる政権支持層が、いわゆる「モリカケ問題」を、結局のところ、問題視していないからだ』、というのは、トランプ大統領が相次ぐ暴言、セックススキャンダルにも拘わらず、コア支持層に支えられている構図と似ているようだ。『戦後の政治家は、大筋において、なんらかの意味で利益誘導を心がけている人々だった』、『一部のマスコミや有識者が、政治腐敗の極致であるかのようにことさらに批判している「ネポティズム」(縁故主義)を、「そんなに悪いばっかりのものでもないだろ?」と考えている日本人は少なくない』、というのは残念ながら事実だ。ただ、このネポティズムはクローニーキャピタリズム(仲間内資本主義)とも呼ばれ、アジア金融危機時に、欧米から批判されたものだ。現在でも、韓国、マレーシアで大いに問題視されている。『憲法にしろポリティカル・コレクトネスにしろ一票の重さにしろ文書主義にしろ、その種の社会の授業の中で連呼されていた一声聞いただけでアクビの出て来るタイプの言葉には、嫌悪感は覚えても、ひとっかけらの親近感も感じないはずなのだ』、ということは、アメリカでも問題になっている「社会の分断」は、日本でも深刻だと考えなばならない。 『信頼できる独裁者による政治のほうが、いつも議論ばかりしていて話が先に進まない議会制民主主義の非効率な政策決定過程よりもずっと合理的で果断でスピーディーであるはずだ、と考えている有権者は、おそらく多い』、というのは、プーチン、トランプ、エルドアン(トルコ大統領)などの「強権政治」の流れの一つの支流なのかも知れない。 最後の 『日本を取り戻す』ことにかけての結びはなかなかの傑作だ。
タグ:日経ビジネスオンライン 強権政治 森友学園 加計学園 日本の政治情勢 小田嶋 隆 (その23)(小田嶋氏:安倍首相はおそらく辞めないんじゃないかと思う) 「安倍首相はおそらく辞めないんじゃないかと思う」 愛媛県が新たな文書を国会に提出した。文書では、3年前に柳瀬唯夫元総理大臣秘書官が官邸で学園側と面会したことが明らかになっている 陸上自衛隊イラク派遣部隊の日報隠蔽問題の調査結果 次々と新事実が暴露されている一方で、順調に風化が進んでもいる なにがあろうと30パーセント以下に数を減らすことのない確固たる政権支持層が、いわゆる「モリカケ問題」を、結局のところ、問題視していない 日本人のおよそ3割を占める政権支持層は、モリカケ案件に総理夫妻が関与していたことを承知していながら、それでもなお、「それがどうしたんだ?」 と考えて、そのことを、辞職に値する不祥事だとは考えていないのだ 戦後の政治家は、大筋において、なんらかの意味で利益誘導を心がけている人々だった ネポティズム」(縁故主義) お上品ぶったメディア貴族の記者連中や、きれいごとの言論商売で口を糊している腐れインテリの先生方がどう論評しようが、オレは非人情で公正な四角四面の政治家なんかより、清濁併せ呑む度量をそなえた懐の深い人情味溢れた昔ながらの政治家の方が好きだよ、と考える人々が一向に減らないことを、一概に日本社会の後進性と決めつけてばかりもいられないのだろう 憲法にしろポリティカル・コレクトネスにしろ一票の重さにしろ文書主義にしろ、その種の社会の授業の中で連呼されていた一声聞いただけでアクビの出て来るタイプの言葉には、嫌悪感は覚えても、ひとっかけらの親近感も感じないはずなのだ 月刊WiLL 危機の宰相は独裁でいい 信頼できる独裁者による政治のほうが、いつも議論ばかりしていて話が先に進まない議会制民主主義の非効率な政策決定過程よりもずっと合理的で果断でスピーディーであるはずだ、と考えている有権者は、おそらく多い 日本大学で起こっている恐ろしくも不毛な出来事 私を「反日」と呼ぶ人たちが想定している「日本」と、私が、「腐臭を放っている実体」として名付けようとした「日本」は、正反対のものだ 安倍政権もまた、変化した「日本」の影響を受けていることは間違いないからだ。 なので、私は日本を取り戻さなければならないと考えている 具体的にどんな日本を取り戻すのかについて、果たして歩み寄りの余地があるものなのかどうか、しばらく考えてみたい。その前に、「自分を取り戻せ」とか言われそうだが クローニーキャピタリズム
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福祉問題一般(その1)(引きこもりの利用者を「うつ」にする就労支援施設 隠れパワハラの実態、旧優生保護法 見過ごされた被害、高齢者や低所得者に空家を貸し出す「セーフティネット住宅」の闇と光) [社会]

今日は、福祉問題一般(その1)(引きこもりの利用者を「うつ」にする就労支援施設 隠れパワハラの実態、旧優生保護法 見過ごされた被害、高齢者や低所得者に空家を貸し出す「セーフティネット住宅」の闇と光)を取上げよう。

先ずは、ジャーナリストの池上正樹氏が5月17日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「引きこもりの利用者を「うつ」にする就労支援施設、隠れパワハラの実態」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽「自死しても責任はとらないよ」 利用者に高圧的な就労支援事業所
・「当事者(本人)が自死した場合、事業所は一切の責任を負いません」 ある就労移行支援施設を辞めようとしたら、そんな誓約書にサイン、捺印させられて、疑問に感じたというのは、利用者のAさん(36歳)である。
・施設側が捺印を迫った誓約書には、他にも「掲示板などで事業所の悪口や業務妨害に該当するような書き込みがあり、事業所が訴えを起こした場合、異論はないと約束します」といった文言も記されており、Aさんは「利用者を最後まで苦しめるような自己保身的なやり方に、ショックと怒りを感じた」と話す。
・Aさんは、大学を卒業後、なかなか就職が決まらず、その後も企業の採用試験で落とされ続けた。半年以上にわたって働けない状態が続いたことから、接客業のパートで生活を続けた。 その頃、Aさんは“燃え尽き症候群”のような状況に陥り、医療機関に診てもらったところ「適応障害」と診断された。
・結局、薬の副作用が原因で、2度目の職場で退職を強要されたのです」 それ以来、職業訓練校に通ったものの、企業からは不採用と言われ続け、3年ほど前までの間、何もできなくなって自宅に引きこもってきた。
・このままではいけない。働かなければ……」 そう焦ったAさんは、頑張って役所の窓口にメールなどで相談したものの、いい返事が来なかったという。そして、ネットで見つけた専門家の紹介で医療機関に連絡。しばらく通院した後、冒頭の就労支援事業所に辿り着いた。
・辞めるきっかけとなったのは、支援員から理不尽な理由で怒られたことだ。これ以上、継続して通所することに、自分の体調を壊す懸念があったという。 このまま事業所にいても、就労に繋がる適切な支援を受けられそうにないことや、事業所に継続して通所していたら、より体調(精神面)が悪化する恐れがあると感じたので、退所する決意をしました」
・Aさんは、他の利用者が同じ作業をしている中で、1人だけ施設長の指示で別の作業を長時間させられていた。 「このような行いは、障害者虐待防止法に記載されている心理的虐待(仲間に入れない)に該当するのではないでしょうか。障害福祉の就労支援事業所として問題ないのでしょうか」 Aさんは、そう疑問を投げかける。
▽恫喝し、誓約書を書かせる 事業所の深刻な「隠れパワハラ」
・施設内では、施設長がたびたび利用者に怒鳴り散らしていた。いわば、パワハラ行為だ。施設長から「ここを辞めてもらってもいい」と言われた利用者もいたという。 また、事業所の利用についての話し合いを行った際に、「精神疾患を抱えている人は、注意や指導によって体調を崩すことがある」との意見が出ると、施設の支援員は「それはただの甘えだ」と発言することもあった。
・Aさんによると、利用にあたっての仲介者から、施設のサービス管理責任者に、利用者に合った支援を行うよう依頼があったと聞いているが、事業所としてそのような対応は行われていないという。
・別の30歳代の利用者Bさんも、この事業所の相談室で、3人に囲まれて凄まれるという「圧迫面談」を何度も受けて通所できなくなり、今も精神的ショックに陥っている。「3人で取り囲まれる圧迫面談以外にも、施設の外で怒鳴られたり、就労のための指導の名の下、追いつめられたりしました」(Bさん)。
・Bさんは管轄する自治体に相談したものの、相談支援業者に会って話し合うよう勧められるだけ。「実際会って話せば、心が揺れてしまうし、大丈夫かな……と思って話した後、怖い目に遭ったこともある」と、不安で身動きできなくなっている。「いざ自分がこの立場になってみて、面と向かって言い返せない自分の弱さも痛感しております。役所ももうあてにはならず、自分もいま本当に弱くて、どうすればいいかわかりません」
・就労移行支援とは、障害者総合支援法に基づく就労系障害福祉サービス。就労を希望する障害者を対象に、職場体験や求職活動に対する支援、適正に応じた職場開拓など、就労につなぐためのサポートをしていく。利用期間は2年間となっている。 事業所に支給される額は、定員や実績に応じて、利用者1人あたり、1日5000円から1万890円。国が2分の1、都道府県と市長村がそれぞれ4分の1ずつ負担する。事業所の指定や監査は、都道府県が行うことになっている。
・Aさんは、都道府県の窓口に相談したものの、「氏名を出さなければ対応できない」と言われたという。 厚労省によれば、そのような誓約書に捺印を迫ることや、利用者に怒鳴るなどのパワハラ、圧迫面談などは、事実であれば不適切であり、障害者総合支援法の理念にも反する行為。悪質な場合には、口頭や文書での注意に留まらず、行政処分の対象になるという。
・利用は公費で賄っているため、目的は規則に縛られる。施設側が利用者に明確な理由もなく「来なくていい」などと言う行為は、「サービス提供拒否の禁止」に抵触する。そもそも誓約書を書かせること自体、法令に書いてあるわけではなく、任意のやりとりの中での話になるので、安易に署名しないよう注意してほしいとしている。
▽そもそも「引きこもり」脱出を助けるための事業では?
・Aさんは、こう話す。「引きこもりの人たちを受け入れるはずなのに、ここではまったく逆。自分たちの言うことを聞く人だけを受け入れている。この施設に通っていると、おかしなことが多すぎて、精神的な症状が悪化しそうになります」
・周囲の施設長らに尋ねてみたものの、「利用者を怒鳴る、誓約書を交わすなどということは考えられない」と驚く。 多くの就労支援事業所は、法の理念や規則に則って、利用者のための就労サポート事業を丁寧に行っている。一方で、様々な事情から、長年働くことができなかったり、引きこもらざるを得なかったりした当事者たちにとっては、就労だけがゴールではなく、多様な生き方を見つけることができる時代になった。
・そんな人たちを応援するツールの1つである就労支援事業の一部の現場で、反論しにくい弱い立場の障害者に対する“見えない虐待”が野放し状態になっている。同じような“パワハラ施設”が他にも潜在している可能性がある。
https://diamond.jp/articles/-/170186

次に、5月17日付けNHK時論公論「旧優生保護法 見過ごされた被害」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・障害などを理由に子どもをできなくする不妊手術を強制されたとして、5月17日、東京、仙台、そして札幌で、3人が国に損害賠償を求める裁判を起こしました。手術を行う根拠となったのは優生保護法という法律でした。なぜ、許されるはずの無い人権侵害が、法律が見直されるまでの半世紀もの間続いたのでしょうか。
▽解説のポイント
・解説のポイントです。優生保護法とはどのような法律だったのか。なぜ、被害は見過ごされてきたのか。そして、救済の課題についてです。
▽優生保護法とは
・優生保護法が施行されたのは戦後間もない昭和23年。「不良な子孫の出生を防止する」という「優生思想」のもと、精神障害や知的障害などを理由に子どもをできなくする不妊手術が始まりました。当時は親の障害や病気が子どもにそのまま遺伝すると考えられていたからです。
・そして、法律のもうひとつの柱が中絶の合法化です。大量の引揚者や出産ブームで人口が急増する一方、食料や住宅の不足が深刻化していたからです。当時の国の会議の資料には人口の抑制と国民の質を向上させる2つの狙いが記されています。不妊手術は本人の同意がなくても、医師の診断の上、都道府県の審査会が認めれば実施されました。
・当時の厚生省の通知には、身体の拘束や、麻酔薬を使ったりだましたりしても手術が許されると記されています。こうして、国を挙げて手術を推し進めていったのです。 法律は平成8年まで施行され、およそ1万6500人が本人の同意がないまま手術を強いられました。形式的には本人の同意を得ていても、ハンセン病の患者など、療養所での結婚の条件に、実質的には手術を強制されたケースを含めると、被害者の数はおよそ2万5000人に上ります。手術が最も多く行われていたのは昭和30年代で、その後、件数は減っていきますが、平成に入ってからも実施されていました。
▽被害者の訴え
・裁判を起こした東京に住む75歳の男性です。14歳のとき、強制的に手術を受けさせられました。子どもを欲しがった妻には亡くなる直前まで、打ち明けることができなかったといいます。男性は「このまま胸にしまっておくことはできず裁判に踏み切った。人生を返して欲しい」と話します。厚生労働省はこの問題についてこれまで一貫して「当時は合法だった」として謝罪も補償もしていません。
▽優生保護法 改正の機会も
・多くの人の人権を踏みにじってきた優生保護法。昭和40年代と50年代に見直しが議論されたこともありました。しかし、その過程で、強制不妊手術が広く問題にされることはありませんでした。当時、最も注目されたのは、増加していた中絶の規制強化について。「生命の尊重」を掲げる団体が、規制の強化を求めたのに対し、「産む産まないは女性の選択」だとして女性団体が猛反発。結局、国会に提出された改正案も廃案となります。優生保護法を改正する機会はあったものの、別の議論の影に隠れ、強制不妊手術の実態が明らかになることはなかったのです。
▽なぜ遅れた 法律の見直し
・法律の改正は平成8年になってようやく行われます。 強制不妊手術などを認めた条項が削除され、法律の名前も母体保護法に変わりました。 他の法律や制度との整合性がとれなくなったことが大きな理由です。
・前年には、精神保健福祉法が成立。障害者の権利を尊重し、福祉を手厚くするという政策を進めようという足元で、強制的な手術を強いる優生保護法は異質な存在になっていたのです。そして、長らく療養所にハンセン病患者を強制的に隔離してきた「らい予防法」も廃止。合わせて療養所の中で行われてきた不妊手術の法的根拠となってきた優生保護法も見直されたのです。当時、海外から非難の声があがっていたという事情もありました。
・なぜ、もっと早く法律を見直すことができなかったのでしょうか。 法律を所管していた当時の厚生省の官僚たちはおかしな法律だと思ったが、「何十年も肯定されてきた法律を否定するのは躊躇した」とか「法律が誤っていたとなると国家賠償の対象になるので慎重にならざるを得なかった」と証言します。たとえ人権を著しく侵害する差別的な法律であっても、一度つくったものは簡単には見直せないというのです。そもそも、優生思想が盛り込まれた条項については、「死に法」ですとか「死文化」していたと認識していたといいます。つまり、実害のない法律だったというのです。
・しかし、実際は平成に入ってからも数件、手術は行われていて、法律は生きていたのです。 こうした法律が半世紀もの間残った理由は3つあると思います。ひとつは、官僚の、過去の政策の否定は許されないという考え方です。
・そして、もうひとつは、被害者が声をあげられず被害の実態が明らかになってこなかったということです。手術を強いられた人の中には障害が重く声を上げられないという人もいるとみられます。そして、障害者が子どもを育てるのは大変だといわれ、手術に同意させられた家族は後ろめたさで声を上げられなかった。こうした事情も考えられます。
・さらには、私たち社会もこうした人たちに目を向けてこなかった、知ろうとしなかったということがあります。自分と同じように尊厳や権利が守られているのか思いを致さなかったのです。被害の実態が明らかにならない中、問題は埋もれ、行政だけでなく、政治も動くことはありませんでした。
▽救済の課題は
・その反省から、いま政治の場で救済を図ろうと議論が進められています。 きっかけはことし1月。被害者が声を上げ、初めて裁判を起こしたのです。いま、課題となっているのが時間の壁です。手術の記録など資料の多くが保存期間を過ぎ廃棄されているとみられています。では、どうやって被害を特定し、救済を進めていけばいいのか。参考になるのが、海外のしくみです。昭和50年まで障害者への不妊手術が行われていたスウェーデンでは、政府が謝罪した上で新たな法律をつくり被害者に補償金の支払いを行いました。この中では当事者の言い分を尊重するとともに、新たにつくられた補償委員会が本人に代わって病院などから必要な資料を入手し被害を認定しました。
・被害者はすでに高齢化が進んでいます。当事者だけでなく、医療機関や施設の関係者など埋もれた被害の断片でも知っている人の証言を拾い上げ、速やかに救済を進める必要があります。そして、もうひとつ忘れてはならないのは、過ちを繰り返さないために国の責任で問題を検証することです。同じ様に国の政策の誤りが問われたハンセン病の問題では検証会議が2年半に渡って調査を行い、被害の実態に加え、専門家やメディアなどの責任を明らかにしました。この経験を生かさなければなりません。
・優生保護法を長年、許してきたのは私たちの社会でもあります。 人権を踏みにじられた人たちに目を向けてこなかった責任を重く受け止め、事実に基づかない考えや偏見を持ち、他の人を傷つけていないか。絶えず考えていく必要があると思います。
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/297638.html

第三に、福祉ジャーナリスト(前・日本経済新聞社編集委員)の浅川澄一氏が8月30日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「高齢者や低所得者に空家を貸し出す「セーフティネット住宅」の闇と光」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・国交省が高齢者や低所得者、障害者などに向けて、空家を貸し出す新たな住宅政策を始める。名付けて「セーフティネット住宅」。住宅困窮者への「安全・安心住宅」というわけだ。 貸すのは新築ではない。全国に広がっている空家に着目した。その着想自体はとてもいい。国交省のかねてからの課題の空家対策と自宅暮らしが難しくなった単身高齢者などの不安解消を結びつけた、一石二鳥のアイデアだ。国交省では入居者を「住宅確保要配慮者」と名付けた。分かり難い日本語だ。
・この4月に公布された「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律(住宅セーフティネット法)の一部を改正する法」によるもので、10月には施行される。
・空家、空き室を抱える大家さんが、都道府県と政令市、中核市の自治体にセーフティネット住宅として登録する。自治体はその登録情報を地域住民(住宅確保要配慮者)に知らせ、入居者を募る。大家には最高200万円の改修費、入居者には最高4万円もの家賃補助が国や自治体から出る。
・入居できるのは高齢者だけではない。賃貸住宅への入居が難しい人たちを想定している。障害者や子育て者、被災者、月収15万8000円以下の低所得者、外国人、失業者、新婚世帯、DV被害者などとかなり幅広い。
・賃貸住宅の単なる紹介でないところが売り物である。入居希望者に対して、自治体ごとに「居住支援協議会」を新たに設置して生活支援にあたる。同協議会は、(1)家主や宅地建物取引業者、賃貸住宅管理業者などの不動産関係者(2)NPOや社会福祉法人、それに新設の「居住支援法人」などの居住支援団体(3)都道府県や市区町村の住宅と福祉部局――で構成する。
・既に、全都道府県と京都市、福岡市、東京都杉並区など21の区市町村で設置されている。協議会には、国から上限1000万円の活動費が助成される。 この中で居住支援法人が新制度の要となるだろう。家賃の債務保証などを行うNPO法人などを都道府県が指定する。介護保険制度のケアマネジャーや地域包括支援センターに近い役割といえそうだ。
・想定している住宅は、マンションなど集合住宅や一般民家など何でもいい。マンションの場合は、オーナーが不動産業者などを通じて空き室を解消する努力がかなり成されている。問題は古い民家である。 かつて家族世帯が住んでいた2階建ての戸建て住宅が格好のモデルとなる。2階にあるかつての子ども部屋2~4室に住んでもらい、家主の老人が1階で暮らすイメージだ。家主がいなければ入居者は増える。これを「共同居住型住宅」(シェアハウス型)と命名した。
・こうした説明だけ聞いていると万々歳の政策のように見える。国交省は登録住宅の目標をこの10月から2020年度末までの3年半の間に17万5000戸と設定した。
▽「セーフティネット住宅」への疑問
・果たして、そんなに増えるのだろうか。民家の持ち主が、社会貢献事業に前向きになるだろうか。サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)でも5年間で約20万戸だった。それを上回るハイピッチの目標を掲げている。
・首を傾げざるを得ない仕組みも目を引く。まず第一の疑問は入居者の居住面積についてだ。 個室で9m2以上とした。一般民家の2階の子ども部屋を想定すると、多くは6畳間だから9.9m2となる。これを念頭に置いて9m2としたようだ。 改装費や家賃に税を投入しているにもかかわらず、9m2で構わないとしたのはこれまでの政策との整合性を問われかねない。歴史を振り返ってみる。
・国交省は、建設省の時代から住宅建設計画法に基づく住宅建設5ヵ年計画の中で、最低居住面積の基準を設けてきた。罰則を伴わないが、国としての考え方である。 1976年からの第3期5ヵ年計画で短期滞在の単身サラリーマンを想定して、「1人16m2」と決めた。現実に単身者向け住宅の促進を目指したものではなくあくまで目安だ。それが1986年からの第5期5ヵ年計画で16m2は維持しながら、新たに単身の中高齢者だけは25m2とした。
・2006年には継承された住生活基本法により住生活基本計画が策定され、若年者を含めすべての単身者について最低居住面積を25m2とした。 2011年に始まったサ高住では、この数値を引き継ぎ、「標準型は25m2」となる。ただ、1人での入浴や調理が難しい高齢者もいるため、浴室とキッチンを居室に設けず共用とした場合は「特例として18m2以上」も認めた。
・こうして現行基準では、18m2が最低居住面積となっている。それなのに、いきなり半分の9m2で構わないとは。あまりにも無謀だ。18m2の根拠が改めて問われてしまう。「まず、空家対策ありき」と受けとめられる。
・おまけに、「居室にトイレがなければ住宅とは言えない」という長年の持論もあっさり取り下げて共用でいいとした。18m2の特例でも、サ高住はすべてトイレが居室内にある。住宅の基本理念が消えてしまったようだ。
・住宅を求めている「住宅確保要配慮者」は特別な人たちなのだろうか。特別な人たちは、従来のあるべき基準を無視していい。狭い劣悪な住宅で我慢してもらおうということだろうか。 国交省では、9m2では狭いと感じているようで、「その代りに住宅全体の面積を広くとっている」と強弁する。  住宅全体は「15m2×入居者数+10m2」という基準を設けた。例えば、3人の入居者が2階の3室の子ども部屋に入居すると、9m2×3人=27m2となり、全体面積は15m2×3人+10m2=55m2。つまり1階が28m2、2階が27m2となるわけだ。取り立てて、一階が広いわけではない。
▽高齢者の場合、認知症ケアはどうする?
・第二の疑問は高齢者が入居した場合の生活とケアについてである。住宅確保要配慮者とはいえ、現実的に自宅に代わる「第二の自宅」を最も求めているのは高齢者である。それも要介護度の軽い、あるいは要介護直前の虚弱な高齢者だろう。初期だが確実に認知症ケアの必要性がありそうだ。
・しかし、要介護度が中重度にならないと特別養護老人ホームには入居できない。認知症の人の最適施設のグループホームは足りない。サ高住や有料老人ホームに入居するには金銭のゆとりがない。 そんな高齢者にとっては家賃補助が出るこのセーフティネット住宅は誠に喜ばしい。では入居するとどうなるか。
・民家活用は若者に人気のシェアハウス型と説明される。古い戸建て住宅に見知らぬ高齢者や低所得者たちが雑居する。本物のシェアハウスでは、若者たちが食事を作り、掃除機や洗濯機を使い、浴槽も自分たちで洗う。家事を皆で協力しあい共同生活を楽しむ。 溢れる好奇心が新しい人間関係を築き、コミュニティが生まれる。だが、人生の老年期を迎えた高齢者が入居するとそうはなり難い。
・まず、三度の食事を自分たちで作り続けられるだろうか。大家が食事を提供することになる可能性が高い。あるいは、介護保険の訪問介護サービスでヘルパーが来るかもしれない。 そうなると状況が一変する、有料老人ホームに合致するので有料老人ホームの届けを自治体に提出しなければならない。たとえ一人でも、入居者に食事や介護保険サービスを大家が提供すれば、老人福祉法の有料老人ホームの規定を満たすからだ。
・自治体に届けを出すと、各自治体が定める「有料老人ホーム設置運営指導指針」を守らねばならない。そこには、「居室面積を13.2m2(8畳)以上に」と記され、廊下幅やスタッフの配置数など事細かに基準が定められており、とても普通の民家では対応できそうにない。
・まず、居室面積が大違いである。6畳(9.9m2)間を8畳間に変えるのは容易でない。つまり、国交省の新法が、厚労省の老人福祉法と相いれないことになる。 とはいえ、「有料老人ホーム設置運営指導指針」は単なる「ガイドライン」。法律ではないから、脱法行為にはならない。しかし、自治体の職員の中には、ガイドライン違反を大事と捉え、事業者がすくみ上るような言説を弄し、「脅し」に近い指導があるとよく耳にする。大家にとっては、ガイドライン違反という後ろめたさはつきまとう。
・つまり、国交省は要介護高齢者の入居をほとんど想定していないまま法律案を作りあげた。現実は、要介護高齢者がこうした賃貸住宅を最も必要としているにもかかわらずだ。
▽実は、認知症ケアの切り札に?
・そして第三の課題であるが、これは疑問点というよりも逆に、前向きな施策に転じる可能性を指摘したい。一般の民家を活用することで、認知症ケアへの素晴らしい呼び水になるからである。 第一、第二で述べた矛盾は、戸建ての空家に固執したために生じた。実は、このこだわりがとんでもない光明に通じるから面白い。
・認知症ケアの大原則に、生活の継続性がよく言われる。認知症になる前のライフスタイル、暮らし方を変えてはいけない。同じような生活環境を保つことが重要であるということ。元々は1982年にデンマークで提起され、その後国際的に浸透した高齢者ケアの三原則の一つである。
・暮らしの基本は住まいである。高齢者が親しんできた住まいを、認知症になっても大きく変えてはならない。今の高齢者が、「私の住まい」と感じるのは木造りの民家だろう。 その古い日本独特の和風建築こそが、認知症高齢者に欠かせない生活環境となる。この事実にいち早く気づき、実践してきたのが「宅老所」活動である。戸建ての自宅や古い空家を活用した、認知症の高齢者に寄り添う日本独特のケアスタイルとして知られる。宅老所の「宅」は、自宅の宅である。
・大病院や大施設の医療や介護に疑問を抱いた女性(看護師や薬剤師、介護職などが多い)たちが、地域に根を下ろして、高齢者の生活を丸ごと手助けしようと始めた。介護保険施行以前の1990年代の話である。 その支援方法がいい。利用者から見ると、「通って(通所)、泊まって(短期入所)、来てくれて(訪問)、そして住まいも(住宅)」という4つの機能が1ヵ所に詰まっている。まことに融通無碍なサービス拠点だ。
・家族がいない日中にまず本人が「通い」出す。昼食を摂り、職員と一緒に入浴も。その居心地がいいので、家族が不在の夜に「泊まり」が始まる。週末に家族が自宅にいても、外出の際には本人は同行できないのでヘルパーとして宅老所から職員が「訪問」する。そのうち認知症の症状が進むと、家族が夜間寝られなくなるので、本人の宅老所での泊まりが続き、結果として「住まい」として使い出す。
・全面的に本人に関わるこうしたケア手法は、各地で高く評価された。その基本に住まいがある。個人活動でもあり、宅老所といえば家賃の安い、使い込まれた民家が大半だった。襖や障子に囲まれ、こたつや仏壇のある普通の民家。
・これが、認知症ケアの鉄則「生活の継続性」に適合した。宅老所の機能は、介護保険に取り込まれ「小規模多機能型居宅介護」を生み出す。ただし、4機能のうち「住まい」は外れる。 民家活用のセーフティネット住宅は、かつての宅老所が持っていた機能のうちの「住まい」である。であれば、残りの3機能(通所、短期入所、訪問)を視野に入れねばならない。そうすれば認知症ケアの理想郷である宅老所そのものに近付く。
・現行制度に合わせると、「デイサービス+泊まり」が最善の選択肢だろう。24時間のケアを実現できる。生き残った宅老所の中には、このスタイルを採っているところもある。 介護保険制度では認知症の本人の住まいとしてグループホームがある。9人定員で、ほぼ同数のスタッフが配置される。日中は3人のスタッフが常駐する手厚い介護態勢は特養など他の居住系施設が及ばない。
・だが、利用者はわずか20万人ほどにとどまり絶対数が足りない。度重なる制度改定で運営基準が厳しくなる一方で、厚労省も増大に及び腰である。 国交省では、思いもしなかったことだろうが、空家の活用という一筋の赤い糸が認知症ケアを手繰り寄せることになる。その可能性を強く指摘したい。前段階として、セーフティネット法の運用をサ高住と同様に、厚労省との共同所管にすべきだ。
・認知症ケアが国家戦略として取り上げられる時代である。民家活用を舞台に載せたのであれば、認知症ケアに結びつけない手はない。まずは省庁の縦割りを乗り越えて考えてみるべきだろう。
https://diamond.jp/articles/-/140250

第一の記事で、就労支援『事業所に支給される額は、定員や実績に応じて、利用者1人あたり、1日5000円から1万890円』、もらっておきながら、『恫喝し、誓約書を書かせる 事業所の深刻な「隠れパワハラ」』、している就労支援事業所があるというのは、社会福祉施設ではありがちな話とはいえ、ここまでのケースがあるのには驚かされた。 『Bさんは管轄する自治体に相談したものの、相談支援業者に会って話し合うよう勧められるだけ』、『厚労省によれば、そのような誓約書に捺印を迫ることや、利用者に怒鳴るなどのパワハラ、圧迫面談などは、事実であれば不適切であり、障害者総合支援法の理念にも反する行為。悪質な場合には、口頭や文書での注意に留まらず、行政処分の対象になるという』、といったように、問題は自治体、さらには厚労省の監督のいいかげんさにありそうだ。自殺者が出るといった悲惨なことが起きる前に、監督体制を見直してもらいたい。
第二の記事で、 『昭和40年代と50年代に見直しが議論されたこともありました。しかし、その過程で、強制不妊手術が広く問題にされることはありませんでした。当時、最も注目されたのは、増加していた中絶の規制強化について。「生命の尊重」を掲げる団体が、規制の強化を求めたのに対し、「産む産まないは女性の選択」だとして女性団体が猛反発。結局、国会に提出された改正案も廃案となります』、というのは、『ポイントのズレた議論が「罪つくり」になるケースもあり得ることを示したものといえよう。放置して厚労省の責任も重大だ。 ただ、『優生保護法を長年、許してきたのは私たちの社会でもあります』、というのは、厚労省と並んで重大な責任があるマスコミについては、明示的に触れることから逃げているのは残念だ。訴訟での時間の壁を突破する仕組みや、『ハンセン病の問題では検証会議』、といった仕組みも必要だろう。
第三の記事で、 『国交省・・・「セーフティネット住宅」・・・かねてからの課題の空家対策と自宅暮らしが難しくなった単身高齢者などの不安解消を結びつけた、一石二鳥のアイデアだ』、とはいうものの、『「セーフティネット住宅」への疑問』、にあるように安易さも目立つようだ。『実は、認知症ケアの切り札に?・・・その古い日本独特の和風建築こそが、認知症高齢者に欠かせない生活環境となる。この事実にいち早く気づき、実践してきたのが「宅老所」活動である』、と筆者は評価しているようだが、肝心の「宅老所」活動についての説明が不十分なのが残念だ。「宅老所・グループホーム全国ネットワーク」のホームページ(https://www.takurosho.net/)をざっと見ただけでは、十分には理解できなかった。
タグ:一般 国交省 ダイヤモンド・オンライン 池上正樹 優生保護法 浅川澄一 NHK時論公論 福祉問題 (その1)(引きこもりの利用者を「うつ」にする就労支援施設 隠れパワハラの実態、旧優生保護法 見過ごされた被害、高齢者や低所得者に空家を貸し出す「セーフティネット住宅」の闇と光) 「引きこもりの利用者を「うつ」にする就労支援施設、隠れパワハラの実態」 「自死しても責任はとらないよ」 利用者に高圧的な就労支援事業所 援員から理不尽な理由で怒られた このまま事業所にいても、就労に繋がる適切な支援を受けられそうにないことや、事業所に継続して通所していたら、より体調(精神面)が悪化する恐れがあると感じたので、退所する決意 恫喝し、誓約書を書かせる 事業所の深刻な「隠れパワハラ」 管轄する自治体に相談したものの、相談支援業者に会って話し合うよう勧められるだけ 事業所に支給される額は、定員や実績に応じて、利用者1人あたり、1日5000円から1万890円 「旧優生保護法 見過ごされた被害」 障害などを理由に子どもをできなくする不妊手術を強制 国に損害賠償を求める裁判 被害者の数はおよそ2万5000人 昭和40年代と50年代に見直しが議論されたこともありました。しかし、その過程で、強制不妊手術が広く問題にされることはありませんでした。当時、最も注目されたのは、増加していた中絶の規制強化について。「生命の尊重」を掲げる団体が、規制の強化を求めたのに対し、「産む産まないは女性の選択」だとして女性団体が猛反発 速やかに救済を進める必要 過ちを繰り返さないために国の責任で問題を検証すること 「高齢者や低所得者に空家を貸し出す「セーフティネット住宅」の闇と光」 高齢者や低所得者、障害者などに向けて、空家を貸し出す新たな住宅政策 「セーフティネット住宅」 空家対策と自宅暮らしが難しくなった単身高齢者などの不安解消を結びつけた、一石二鳥のアイデア 大家には最高200万円の改修費、入居者には最高4万円もの家賃補助が国や自治体から出る 「セーフティネット住宅」への疑問 入居者の居住面積 9m2で構わないとしたのはこれまでの政策との整合性を問われかねない 「居室にトイレがなければ住宅とは言えない」という長年の持論もあっさり取り下げて共用でいいとした 高齢者が入居した場合の生活とケアについて 介護保険の訪問介護サービスでヘルパーが来るかもしれない。 そうなると状況が一変する、有料老人ホームに合致するので有料老人ホームの届けを自治体に提出しなければならない 古い日本独特の和風建築こそが、認知症高齢者に欠かせない生活環境となる。この事実にいち早く気づき、実践してきたのが「宅老所」活動である
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安倍政権のマスコミへのコントロール(その7)(安倍一強を可能にする安倍首相のメディア支配の動かぬ証拠、安倍一強を可能にする安倍首相のメディア支配の動かぬ証拠、森友問題スクープ記者を“左遷” NHK「官邸忖度人事」の衝撃) [メディア]

安倍政権のマスコミへのコントロールについては、昨年10月15ひに取上げた。今日は、(その7)(安倍一強を可能にする安倍首相のメディア支配の動かぬ証拠、安倍一強を可能にする安倍首相のメディア支配の動かぬ証拠、森友問題スクープ記者を“左遷” NHK「官邸忖度人事」の衝撃)である。

先ずは、元レバノン大使の天木直人氏が2月24日付け同氏のブログに掲載した「安倍一強を可能にする安倍首相のメディア支配の動かぬ証拠」を紹介しよう。
・毎日のように安倍政権のデタラメ振りが明らかになっているというのに、安倍政権が揺らぐ気配はない。 その最大の理由は野党の体たらくにある。 実際のところ、野党がどんなに安倍批判を行おうと、国民は動かない。 それどころか、野党はますます国民から愛想をつかされている。 しかし、野党がダメでも、世論の安倍不支持が支持を上回れば、安倍政権はひとたまりもない。 だからこそ、安倍首相はメディア支配に全力投球しているのだ。
・その動かぬ証拠を発売中の週刊実話(3月8日号)に見つけた。 ニューススクランブルの中の政治記事がこう書いている。 安倍首相が悲願の憲法改正へ向け最も高いハードルとなる国民投票をにらんで、テレビ界の大改革に手を突っ込む構えを見せ始めたという。
・つまり、1月末に安倍首相は楽天の三木谷浩史社長が代表理事をつとめ、IT関連企業が集まる新経済連盟の新年会に出席し、いまやネットテレビは地上波と同じぐらいの影響力があるようになったが、日本の法体系が追いついていない、と言って、電波制度改革に並々ならぬ意欲を示したという。 これは、あたかもネットテレビに対する脅しのように聞こえるが、そいうではないという。
・この発言の本当の狙いは、地上波テレビ局に対する脅しであると、テレビ局関係者は次のように解説しているという。 すなわち最近の地上波テレビの一部は安倍批判を示し始めた。 それに神経をとがらせた安倍首相は、ネットを規制するのではなく、むしろ電波制度改革によってネットを活用し、現在の地上波を追い込むぞと揺さぶりをかけているというのだ。
・ただでさえメディアの生き残りをかけた競争は激しい。 これ以上安倍首相がメディアを支配するようになると、何も知らない国民は、ますます安倍暴政から遠ざけられる事になる。 もし週刊実話のこの記事が本当なら、事態は深刻だ。 野党もだめなら、国民も動かなくなる。 それこそが安倍首相の思惑だという事である(了)
http://kenpo9.com/archives/3306

次に、3月27日付けダイヤモンド・オンラインがロイター記事を転載した「安倍一強を可能にする安倍首相のメディア支配の動かぬ証拠」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・安倍晋三首相の肝いりである放送規制改革を巡る議論が本格化している。焦点は政治的公平などを定めた放送法4条撤廃の有無。官邸サイドの撤廃方針に対して、放送業界や監督官庁の総務省は、慎重スタンスを崩していない。官邸は通信(インターネット)と放送の融合を進めるにあたり、規制のレベルを比較的自由なネットに合わせたい意向だが、放送関係者からは、放送の信頼性が揺らぎかねないと危惧する声も出ている。
▽コンテンツ強化狙う
・「私は以前、AbemaTVに出演したが、ネットテレビは視聴者の目線に立てば、地上波と全く変わらない。技術革新によって通信と放送の垣根がなくなる中、国民共有財産である電波を有効活用するため、放送事業のあり方の大胆な見直しが必要だ」――。安倍首相は2月6日の衆院予算委員会でこう述べ、放送改革に対する強い決意を示した。
・安倍首相が出演したAbemaTVはサイバーエージェント (4751.T)が運営するネットテレビ局で、2016年4月に開局した。月間アクティブユーザーは約1000万人。 ニュースやドラマ、アニメ、バラエティなどを地上波テレビ局と同じように編成しているのが特徴で、配信手法の違いを除けば、見た目はほとんど地上波テレビと変わらない。
・政府関係者によると、今回の改革方針には通信(ネット)と放送とで異なる規制の一本化やそれに伴う放送法4条の撤廃、放送のハード・ソフト分離、放送の著作権処理の仕組みのネットへの導入などが盛り込まれている。
・改革の背景にあるのが、世界規模で進む通信と放送の融合という大きな流れと、日本のコンテンツ産業に対する危機感だ。 政府の規制改革推進会議(議長:大田弘子政策研究大学院大学教授)は、5月にも取りまとめる答申にこれらの改革方針を盛り込みたい意向。だが、どこまで盛り込めるかはこれからの議論次第の側面も強く、まだ流動的となっている。
▽ハード・ソフト分離
・日本の地上波テレビ局は米国などとは違い、放送設備部門と番組制作部門が一体化しており「番組を作れば、必ず放送される状況にある」(関係者)。改革推進派はこの競争原理が働きにくい状況を問題視しており、放送設備などのハードとコンテンツ制作のソフトを分離することで、コンテンツに競争原理を導入したい考えだ。
・「ネットフリックス(NFLX.O)などネット動画がどんどん成長する中で、日本の放送局の伸びはわずかだ。日本の放送コンテンツ産業は成長余地が大きく、日本の強みとして海外にも売り込みたい」(政府関係者)。
・これに対して 日本民間放送連盟の井上弘会長(TBSテレビ名誉会長)は15日の会見で「民間放送が普通のコンテンツ制作会社となってしまったら、字幕放送や手話放送、災害放送や有事の際の放送はできなくなるのではないか」と懸念を示している。
▽放送法4条撤廃
・通信と放送の融合を進める際、規制をどちらにそろえるかも問題となる。安倍首相は2月6日の予算委員会で「ネットは自由な世界であり、その自由な世界に規制を持ち込むという考え方は全くない。であるならば、放送法をどうするかという問題意識を持っている」と述べ、放送法の規制緩和に積極的なスタンスを示した。
・そこで焦点となるのが、官邸サイドが検討している放送法4条の撤廃だ。4条では放送内容の政治的公平や多角的視点を求めており、放送の信頼性を構成する1つの要素となっているとの見方が多い。 一方でネットにはこうした規制がなく、フェイク(偽)ニュースが生まれやすいという土壌がある。
・野田聖子総務相は、22日の衆院総務委員会で4条について「撤廃した場合には公序良俗を害するような番組や事実に基づかない報道が増加する等の可能性が考えられる」と述べ、撤廃に慎重な姿勢を示した。 民放連の井上会長も15日の会見で「フェイクニュースへの対応が世界的に共通の社会問題になってきた昨今、バランスの取れた情報を無料で送り続ける放送の役割は、これまで以上に重要になっている」と語り、改革ありきの議論に疑問を呈した。
・これに対して改革推進派は「4条があるから放送の信頼性が保たれていると言うが、新聞は4条がなくても信頼度は高い。信頼性は4条の有無で決まるものではなく、しっかりと取材をして書いているかどうかに尽きる」(政府関係者)と反論している。
▽権力の介入危惧
・この問題を国会でも取り上げた奥野総一郎衆院議員(希望の党)は、放送法の規制レベルをネットに合わせたときの問題点について「ネットに合わせて規制を比較的自由にしたときに、権力が放送内容に対して口出ししてくることも考えられる」と指摘した。
・現在は放送法3条で放送内容に対する外部の介入を禁じている。 一足先に政治的公平規制「フェアネス・ドクトリン」が撤廃された米国では、トランプ大統領が一部の放送局を「フェイクだ」と攻撃。メディアの政治色の偏りなどを背景に、社会の分断が強まっている。
・ペンシルベニア大学アネンバーグ・コミュニケーション・スクールのビクター・ピッカード准教授は、米国の状況について「政治的なバランスや公益を守ることを約束させるセーフガードがなくなって、メディアはより市場原理に影響されやすくなり、結果として極端な議論、センセーショナリズムに支配されてしまった」と指摘。「米国の経験を教訓として、日本は警戒感を持つべきだ」と忠告した。
・元NHKプロデューサーで武蔵大学の永田浩三教授も「戦争中、放送が旗振り役を担ったという歴史がある。放送法は国民の表現の自由を最大限生かしながら健全な民主主義の発達を支えるもので、その歴史の流れを無視して4条だけをいじるのは全体を見ない議論だ」と批判した。
▽安倍首相のけん制か
・複数の関係者の間では、今回の改革方針は、憲法改正をテレビに邪魔されないための安倍首相のけん制ではないかとの観測も出ている。テレビ局は国から電波の割り当てを受け、放送事業を営んでいる。認可を取り消されると放送事業を継続できなくなるため、そうした事態を連想させることで、テレビ局をけん制しようという見立てだ。
・これに対して改革推進派は「改革はあくまで通信と放送の融合とコンテンツ産業の強化が目的で、政治的なものではない」(政府関係者)と指摘。 「電波の有効活用ということでこの議論をはじめたのは確かだが、放送から電波を取り上げようとは誰も言っていない。将来像についても、すでにそのレールが敷かれているわけではない」と強調している。
・昨年、規制改革推進会議は電波の利用権を競争入札にかける「電波オークション」導入を議論したが、「検討継続」となり、事実上、結論が先送りされた過去がある。政府内の温度差が大きい中で、どこまで改革に踏み込めるかはまだ不透明だ。
https://jp.reuters.com/article/japan-broadcasting-idJPKBN1H20C6

第三に、5月17日付け日刊ゲンダイ「森友問題スクープ記者を“左遷” NHK「官邸忖度人事」の衝撃」を紹介しよう。
・「皆様のNHK」どころか、これでは“安倍様のNHK”だ。森友学園問題に関するスクープを連発していたNHK大阪放送局の記者が突如“左遷”されるというのだ。安倍政権の急所である森友問題を報道させないための“忖度人事”ではと、NHK内部に衝撃が走っている。
・森友問題を最初に指摘した木村真豊中市議が15日、フェイスブックに〈大阪NHKの担当記者さんが、近く記者職から外されるということです!〉〈NHKが「忖度」したということなのか〉と投稿し、物議を醸している。
・これを受け、日刊ゲンダイが調べたところ、木村氏が言及したA記者は現在、大阪放送局の報道部の副部長だが、来月8日付で記者職を離れ、番組チェックなどを行う「考査室」へ異動する内々示が出されたという。
・「考査室は、定年間際の社員が行くような部署で、悪くいえば“窓際”。A記者は昨年、森友問題が発覚した後、いち早く籠池前理事長のインタビューを行い『籠池に最も近い記者』とメディア関係者の間で一目置かれていました。今年4月4日の『財務省が森友学園側に口裏合わせ求めた疑い』をスクープしたのもA記者。文書改ざん問題など、検察の捜査が進んでいて、真相究明はまさにこれからというタイミングだけに、A記者も上層部に記者職を継続したいと伝えていた。なのに“考査室”ですからね」(NHK関係者)
・スクープ記者がいなくなれば、安倍首相を追い詰めるような森友問題の報道はNHKからガタ減りするだろう。やはり“忖度人事”なのか。 A記者に話を聞こうとしたが、「私の立場ではお答えすることはできません」と口をつぐんだ。NHKに問い合わせると、「職員の人事に関して、原則、お答えすることはありません」(広報局)と返答した。
・前出の木村市議はこう言う。「スクープ記者を外すようではNHKは終わりです。視聴者を見て番組を作っているとはいえず、今後、受信料を払いたくないという国民も出てくるのではないでしょうか」
・NHKの森友報道をめぐっては、先日、共産党議員の国会事務所に〈森友報道をトップニュースで伝えるな〉と、上層部が部下に指示したとのNHK内部からとみられるタレコミもあった。いったい誰のための公共放送なのか。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/229227

第一の記事は、第二の記事についての背景の説明となるものだ。『安倍首相が悲願の憲法改正へ向け最も高いハードルとなる国民投票をにらんで、テレビ界の大改革に手を突っ込む構えを見せ始めたという』、『最近の地上波テレビの一部は安倍批判を示し始めた。 それに神経をとがらせた安倍首相は、ネットを規制するのではなく、むしろ電波制度改革によってネットを活用し、現在の地上波を追い込むぞと揺さぶりをかけているというのだ』、など「安倍首相の悪巧み」もここに極まれり、といったところだろう。
第二の記事は、放送規制改革論議を詳しくみたものだ。『背景にあるのが、世界規模で進む通信と放送の融合という大きな流れと、日本のコンテンツ産業に対する危機感だ』、『放送設備部門と番組制作部門が一体化しており「番組を作れば、必ず放送される状況にある」(関係者)。改革推進派はこの競争原理が働きにくい状況を問題視しており、放送設備などのハードとコンテンツ制作のソフトを分離することで、コンテンツに競争原理を導入したい考えだ』、などは表向きの建前論としては、もっともな印象も受ける。『野田聖子総務相は、22日の衆院総務委員会で4条について「撤廃した場合には公序良俗を害するような番組や事実に基づかない報道が増加する等の可能性が考えられる」と述べ、撤廃に慎重な姿勢を示した』、というのはハト派らしい発言だが、首相から強く迫られれば、余り期待できそうもない。『今回の改革方針は、憲法改正をテレビに邪魔されないための安倍首相のけん制ではないかとの観測も出ている。テレビ局は国から電波の割り当てを受け、放送事業を営んでいる。認可を取り消されると放送事業を継続できなくなるため、そうした事態を連想させることで、テレビ局をけん制しようという見立てだ』というのは第一の記事の指摘にも通じるものだ。放送規制改革自体は、意義もあり、時間をかけてじっくり議論すべき課題だ。ただ、それをテレビ局けん制に使おうとするのは、余りにも悪辣過ぎる。
第三の記事で、『記者職を離れ、番組チェックなどを行う「考査室」へ異動する内々示』、というのは、官邸に示す狙いのミエミエの懲罰人事だ。背後には、官邸から何らかの示唆があったのではないか、と疑われる。こんなことでは、他のNHKのスクープ記者たちはますます萎縮してゆくだろう。「報道の自由度ランキング」(リンク先は下記)は、2018年で67位と主要7か国では異例の低さだが、この分では低位低迷を続けざるを得ないだろう。
http://ecodb.net/ranking/pfi.html
タグ:日刊ゲンダイ 天木直人 ダイヤモンド・オンライン 安倍政権 報道の自由度ランキング ロイター記事を転載 マスコミへのコントロール 同氏のブログ (その7)(安倍一強を可能にする安倍首相のメディア支配の動かぬ証拠、安倍一強を可能にする安倍首相のメディア支配の動かぬ証拠、森友問題スクープ記者を“左遷” NHK「官邸忖度人事」の衝撃) 「安倍一強を可能にする安倍首相のメディア支配の動かぬ証拠」 安倍首相が悲願の憲法改正へ向け最も高いハードルとなる国民投票をにらんで、テレビ界の大改革に手を突っ込む構えを見せ始めた 最近の地上波テレビの一部は安倍批判を示し始めた。 それに神経をとがらせた安倍首相は、ネットを規制するのではなく、むしろ電波制度改革によってネットを活用し、現在の地上波を追い込むぞと揺さぶりをかけている 放送規制改革を巡る議論が本格化 焦点は政治的公平などを定めた放送法4条撤廃の有無 背景にあるのが、世界規模で進む通信と放送の融合という大きな流れと、日本のコンテンツ産業に対する危機感 放送設備部門と番組制作部門が一体化しており「番組を作れば、必ず放送される状況にある」(関係者) 官邸サイドが検討している放送法4条の撤廃 野田聖子総務相 「撤廃した場合には公序良俗を害するような番組や事実に基づかない報道が増加する等の可能性が考えられる」と述べ、撤廃に慎重な姿勢 現在は放送法3条で放送内容に対する外部の介入を禁じている 戦争中、放送が旗振り役を担ったという歴史 放送法は国民の表現の自由を最大限生かしながら健全な民主主義の発達を支えるもので、その歴史の流れを無視して4条だけをいじるのは全体を見ない議論 憲法改正をテレビに邪魔されないための安倍首相のけん制ではないかとの観測も テレビ局は国から電波の割り当てを受け、放送事業を営んでいる。認可を取り消されると放送事業を継続できなくなるため、そうした事態を連想させることで、テレビ局をけん制しようという見立てだ 「森友問題スクープ記者を“左遷” NHK「官邸忖度人事」の衝撃」 現在、大阪放送局の報道部の副部長だが、来月8日付で記者職を離れ、番組チェックなどを行う「考査室」へ異動する内々示 スクープ記者がいなくなれば、安倍首相を追い詰めるような森友問題の報道はNHKからガタ減りするだろう。やはり“忖度人事”なのか
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医療問題(その15)(医者選び 「専門医」はどれほど重視すべき?、今春スタートした研修医の新制度は「地域医療崩壊」の序曲だ、過剰医療大国ニッポンの不都合すぎる真実 いまだバリウム検査に偏る胃がん検診の謎) [社会]

医療問題については、2月26日に取上げた。今日は、(その15)(医者選び 「専門医」はどれほど重視すべき?、今春スタートした研修医の新制度は「地域医療崩壊」の序曲だ、過剰医療大国ニッポンの不都合すぎる真実 いまだバリウム検査に偏る胃がん検診の謎)である。

先ずは、総合南東北病院外科医長 中山 祐次郎氏が3月19日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「医者選び、「専門医」はどれほど重視すべき? 第26回 分かりにくい資格の仕組みを解説」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・こんにちは、総合南東北病院外科医長の中山祐次郎です。(途中省略)
・さて、今回は「医者選び」というテーマでお話ししたいと思います。
▽医者の肩書にある「専門医」って?
・医者には、医師免許の他に「専門医」という資格があります。病院のホームページを見ると、医師の肩書のところに「○○専門医」と書いてあるのが分かるでしょう。私が勤める病院のホームページには、私の名前とともに 外科専門医  消化器外科専門医 などと書いてあります。
・医師以外の方には、この専門医という資格がどれほど信頼に値するものなのか、分かりづらいと思います。そこで、かなりリアルな実情を書いてみました。なお、医者同士であっても他の科の専門医資格はあまりどんなものか分かりません。
▽専門医は「2階建て」構造
・専門医は科によって取得にかかる苦労や難易度もまちまちです。よく言われるのが、「専門医は2階建て(あるいは3階建て)でできている」というもの。 外科の場合、この1階部分が外科専門医になります。平成25(2013)年時点で2万1275人が外科専門医資格を持っています。日本に2万人以上もいるんですね。55個ある広告可能な専門医の中で、最多の人数を誇ります。ちなみに次点は消化器病専門医(1万8876 名)、その次が整形外科専門医(1万7280名)です。
・この資格を私が取ったのは、医者になって6年目のことでした。私は研修医で入植した病院の同期に外科医が4人おりましたが、私以外は全員5年目で取得していました。 実はこの資格には2回の試験があり、1回目は医師4年目に筆記試験を受けます。それに合格した者が、2回目の面接試験を受けるのです。私は1回目の筆記試験には合格したのですが、多忙を言い訳に2回目の試験の申請をし忘れたため1年遅れで受験をしたのでした。なんとも間抜け。
・ちなみに1回目の筆記試験は、8割くらいが合格する試験です。最新のデータ(2017年度、第12回外科専門医試験)では968名が受験し、786名が合格。合格率は81.2%でした。
▽120件の手術執刀をしていなければ試験すら受けられない
・正直なところ、この筆記試験はそれほど難しくありません。過去問を集めた問題集が市販されており、それをやるのとあとは日常の診療で学べば十分だと思います。ただし、これは「消化器外科」という胃腸や肝臓などを専門としている医師に限ったもので、肺を専門とする呼吸器外科医や、乳がんを専門とする乳腺外科医にとってはなかなか難しいようです。それもそのはず、試験問題の多くは消化器外科の問題だからです。私の印象では、「ふだんきちんと勉強しながら学んでいる消化器外科医ならだれでも合格する試験」と言えるでしょう。
・しかしこの試験を受けるためには、いくつかの条件をクリアする必要があります。その条件とは、 +120例以上の手術を執刀していること +350例以上の手術に参加していること です。まず、120例以上もの手術を「執刀」せねばなりません。執刀とは、手術において「メス」と言って患者さんの皮膚を切ってから、悪いものを切除して最後にお腹を閉じて「ありがとうございました」までの大部分を行わなければならないということ。これを医者になって1~4年目くらいで経験するのは、なかなか大変です。もちろん今の私かそれより年長の医師が指導医として同じ手術に参加し、手取り足取りということになります。
▽乳がんから胃腸、外傷、心臓まで幅広く学ぶ
・そして、後者の350例のなかには、同じような手術に参加すれば良いというわけではなく、まんべんなく色んな手術に参加する必要があり、このような縛りがあります。すなわち、 消化管および腹部内臓(50例) 乳腺(10例)  呼吸器(10例) 心臓・大血管(10例) 末梢血管(10例) 頭頸部・体表・内分泌外科(甲状腺など)(10 例) 小児外科(10例) 外傷の修練(10点) です。
・これらを全て学んで初めて受験資格が得られるのですが、このハードルが高いのです。私も若手のころは、心臓の手術を学びに他の病院に3カ月泊まり込みで行ったり、外傷(おおけがのことです)の手術を経験するために救命センターに3カ月学びに言った(注:「行った」のミス)記憶があります。 なお、この試験に受かった翌年に受ける面接試験では、ほとんど落ちないと聞いています。
▽外科専門医であっても一人で執刀できる手術があまりないことも
・しかし、ここで大切なことを申し上げておきます。それは、「外科専門医を持っていても、一人で責任を持って執刀できる手術はあまりない」という点です。専門医という名前はかっこいいのですが、私のイメージではあくまでスタートラインに立った外科医、という印象です。医師6年目に外科専門医になったとき、「独力でできる手術」の少なさに唖然としたのをよく覚えています。
・ちょっとややこしいのですが誤解ないようにお願いしたいのが、外科専門医だけを持っていても、そしてそれを持っていなくても、ハイレベルな外科医は存在するという点です。ややこしいのですが、この資格をなぜか取得せず、しかし第一人者としてバリバリ手術をしている医師も稀にいます。ですから、専門医とは、「その資格を持っていれば、ある一定以上の知識と技術があることが保証されている」くらいの資格として認識していただければ良いでしょう。
▽勉強をし過ぎた消化器外科専門医試験
・そして、次の資格です。最初に示した図の2階建ての2階部分になります。1階目の外科専門医を持っていなければ取れない資格だからです。「消化器外科専門医」という資格は、外科専門医とは少し違う趣があります。これを取るために、私は結構な労力を費やしました。
・この専門医を取得するためには、消化器外科に特化したより専門的な知識と技術を要求されます。そして、難易度が高いとされる手術の執刀100例に加え、全部で450例以上の手術参加が必要です。さらには筆記試験も難しく、私は試験前3カ月ほど、ほぼ毎日勉強をしました。医師15年目、40歳代半ばのベテランでも落ちる試験と聞いていたので、ビビッた私はスタディプラス(高校生や受験生が多く使う学習管理アプリです)というスマホアプリを使いました。後から計測された勉強時間を見てみると、実に合計100時間ほどを費やしており驚きました。さすがにちょっと勉強をしすぎたようで、試験当日は一番最初に解き終わり会場を出ることになりましたが。
・こちらの試験も合格率は74.5%(2017年度)でしたので、外科専門医と同じくらいとなります。試験会場には、私より先輩の医歴(医者になってからの年数)の外科医もたくさんお見かけしました。
・また、試験を受けるためには論文を3本以上自分で書いていなければならないなど、外科専門医とは比較にならない高いレベルが要求されます。ですので、こちらをもっている医者は「かなり高いレベルで消化器外科について専門性を有している」と言えると思います。一般的な「専門医」というイメージでは、こちらの消化器外科専門医がそのイメージに合うでしょう。
▽専門医制度は変わりつつあります
・他の科の専門医資格では、私が聞いたところではだいたい消化器外科専門医と同じ程度の能力を求められるようです。医師になって6~8年目に取れる資格が多いです。つまり2階建ての2階部分ですね。どの科の医師も、キャリアを始める時には「あと何年で専門医を取る」ことを目標にしていることが多い印象です。
・以上、医者の専門医について解説しました。まとめると、皆さんが医者を選ぶ際、「専門医は必ずしも必要ではないが、あったらある一定以上の水準は保証される」となります。
・実は今、この専門医をどうするか色々と議論がなされていて、業界ではゴタゴタしています。専門医制度の導入が大学病院への医師誘導となり、地域医療に悪影響を及ぼすのではないかという意見が多く、運用規則が改定されるなどしています。あと数年後にはまたちょっと変わってくるかもしれませんが、原則は私が書いたような内容で良いかと思います。 ではまた次回、お会いしましょう。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/011000038/031600029/?P=1

次に、5月17日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した山梨大学学長の島田眞路氏へのインタビュー「今春スタートした研修医の新制度は「地域医療崩壊」の序曲だ 島田眞路・山梨大学学長に聞く」を紹介しよう(▽は小見出し、Qは聞き手の質問、Aは島田氏の回答、+は回答内の段落)。
・ 『週刊ダイヤモンド』5月19日号の第1特集は「20年後も医学部・医者で食えるのか? 医歯薬看の新序列」。国家試験に合格した医学部卒業生が初期臨床研修(2年)を経て進む後期研修が形を変え、「新専門医制度」として今春始まった。新制度で資格を取得できる施設は大学病院が中心。専門医の質の向上と共に、医師の地域偏在が是正されると一部で期待されたが、都市集中は変わらず。地方から憤りの声が上がる。怒れる一人、日本皮膚科学会理事長で山梨大学学長の島田眞路さんに話を聞いた。
▽新専門医研修で約500人が東京都に流入 地方は相当怒っている
Q:専門医制度(下表参照)が今春始まりました。
A:東京都で今春までに初期臨床研修を受けた人数が1350人だったのに対し、今春に新専門医研修で採用された人数は1825人。つまり、約500人も東京都に流入しました(次ページ表参照)。 第1回の結果をみて、地方は相当怒っていると思いますよ。喜んでいるのは東京や被害を受けなかった府県だけ。地方で本当に地域医療を心配している人は、怒っています。
▽危惧したことが現実に 山梨県で新制度の外科の研修医たった1人
Q:山梨県はどうでしたか?
A:山梨県は当然出ていく人の方が多いです。いわゆる旧帝、旧六、新八と呼ばれる国立大学(病院)が研修先としてある都府県ぐらいがまあ増えました。 国立大学には全部格があるんですよ。その格に応じて文部科学省の役人も配置されている。下克上なんてないんですよ。普通の競争を阻害している要因があるんです、既に。それが国立大学が発展しない本当の理由。東京大、京都大、大阪大……と。何段階もあって、うちなんか底のほう。
Q:新専門医制度の課題は何だと思いますか。
A:結局、各学会がプログラム(≒各都道府県の定員)をたくさん作りすぎました。要するにその地域に必要なぶんだけじゃなくて、過剰にあるのです。 プログラムを作っても応募がゼロだったら意味がありません。地方のプログラムには必ず何人は入れるとか、強制性を持たせれば行きわたるのに。
+危惧したことが現実になりました。山梨県で新制度の研修医になった外科はたった1人。これが続いたら医療崩壊です。今までだってこれに近いことが起きていて、ロートル(年寄り)の医師が頑張っていた。大学が好きで残っているからまだ医療が成り立っていました。
Q:なぜ研修医は東京に行きたいのでしょうか?
A:そりゃ魅力ある街だからでしょう。医師の卵の望み通りにやるとこういうことがずっと続いてきたわけで、何とかしなきゃいけない。でもその意識が少ない。日本専門医機構(以下、機構)の柱は「プロフェッショナル・オートノミー(職業的自律性)」。要するに、「医師が自分たちだけで運営して決めたい」ということ。それを変えたくないのだったら、どうやって自己犠牲してやるんだという案を出さないといけません。
▽医療は公益的な事業 職業選択の自由、医師に認められるのか
Q:機構は今回、都市部である5都府県(東京、神奈川、愛知、大阪、福岡)の14基本領域については、「過去5年間の平均採用実績を超えない」との条件(シーリング)を課していました。その結果、すべて枠内に収まったと発表しています。
A:地方に医師を回すためには、過去の平均採用実績以下に上限を定めるべきです。でもそうすると反対理由として、憲法22条の職業選択の自由が必ず出てくる。医師に本当にそれが認められるのでしょうか。医療は公益的な事業。本当に個人の自由をそこまで認めていいのでしょうか。公益が優先するのではないでしょうか。
Q:今年3月末にあった機構の社員総会でも、島田さんはシーリングの提案をされた?
A:例えばとして、「過去の平均採用実績×0.8」と提案しました。 社員総会で機構は「東京都への集中は防げた」みたいなことを言いましたから、「集中は防げていないよ」と言い返しました。今までも東京都に集中はありました。そして東京都は医者であふれている。一方私たちのような地方は本当に大学病院の運営が厳しい。新専門医制度が始まると、少しは地方に医師が回るようになるんじゃないかとの期待感はゼロではありませんでした。
Q:でも、社員総会では反対意見が上がったと。
A:「東京都が減れば、東京都の大学医局から地方に派遣する医師が減る」と。でもそれって詭弁ですよね。東京都の大学病院には関連病院というのがあって、そこに行かせるという話なんだから。山梨県まで来ないんですよ。地方の隅々までは行かないんですよ。派遣って2、3ヵ月とかで、しかも派遣される医師はぐちぐち不満を言いながら。そういうのがいいのか、本当にその県の医療事情が分かっている国立大学病院に最初から研修医を入れるのがいいのか。山梨県も、山梨大学附属病院に入れてくれれば地域の医療事情を分かっているからちゃんと回せる。
+東京都は集まりすぎるから適当に関連病院に回して、その結果研修医が辞めちゃう。東京都の指導医は若手医師を本気でケアしないからです。ぐるぐる回されたら、良い研修もできるわけないです。それよりも地方のことは地方に任せたらっていうのが私の考えです。「なんでもかんでも俺に任せろ」と中央集権的なことを言って、「関連病院をかわいがりますよ」と。無責任なことを言っているんですよ。
▽2004年に始まった初期臨床研修制度 地域医療の崩壊の引き金
Q:そもそも、島田さんは2004年に始まった初期臨床研修制度(新研修医制度、医師臨床マッチング制度)を問題視している。
A:国は壮大な制度を作ったつもりでしょうが、結局都会に医師を集める制度だったんですよ。なぜ作られたかというと、それまでの研修制度では、研修してもあまりにもレベルが低い。その結果、当直の研修医が担当した患者が亡くなったりすると、これはなんだと。だから最低2年は基本の科を回って研修しましょうよと。それはいいですが、皆さん出身大学に残らないでどこいっても自由ですよとなった。一大事。地域医療の崩壊の引き金になりました。
+医学部にいくような人はやはり都会から来ています。受験戦争に勝ち抜く人しか通らないからです。それで初期臨床研修制度が始まって何が起こったかと言うと、皆故郷、すなわち都会に帰るんですね。
▽推薦制度で地域枠 35人確保しないと地域医療が崩壊
Q:山梨大学で言いますと。
A:初期臨床研修制度が始まる前は、結構な数が残ってくれました。100人いたら50人とか60人とか。 制度が始まっても、私たちは優秀な大学になりたかったものだから、山梨県の学生をというより優秀な学生をとるポリシーを続けました。まあ残ってくれるだろうという思いもありました。だから結果的に山梨県からは5人ぐらいしかとっていなかった。制度が始まると、その人たちが残っても他の人は皆帰るみたいなことが起こりはじめました。これは危機です。
+なので、私たちは推薦制度で山梨県の学生をできる限りとる地域枠を作りました。過去には山梨県で将来働くと約束してくる県外学生の推薦枠もありましたが、結局残ってくれないのでやめました。今は1学年125人のうち35人が地域枠、90人が一般入試です。35人確保しないと地域医療が崩壊する。いろいろ議論しましたが、医療崩壊を防ぐにはこれしかないと。
+90人の一般入試枠は研究者になったり海外に出て行ったり。日本のためになる医師を育てたい。その中から少しは山梨県に残ってほしいと思いますが、なかなか現れてくれません。もうトレンドだから。「残るとダサい」みたいな感じのようです。
▽島田眞路(しまだ・しんじ)
・1977年東京大学医学部卒業。山梨医科大学(現山梨大学医学部)皮膚科学教室助教授、東京大学医学部附属病院分院皮膚科科長・助教授、山梨大学医学部附属病院病院長などを経て、2015年から山梨大学学長。現在、日本皮膚科学会理事長なども兼務。
https://diamond.jp/articles/-/170251

第三に、5月21日付け東洋経済オンライン「過剰医療大国ニッポンの不都合すぎる真実 いまだバリウム検査に偏る胃がん検診の謎」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・ほとんどの風邪には抗菌薬(抗生物質)が効かないことは、医者の間では常識だ。風邪の原因の9割はウイルス感染症とされるが、細菌に効き感染症の治療にかかせない薬である抗生物質はウイルスにはそもそも効かない。
・だが、風邪で通院すると、今でも「フロモックス」や「クラビット」などの抗生物質が処方されることが少なくない。「抗生物質が風邪の特効薬だと誤解している患者はまだ多い。『なぜよく効く薬をだしてくれないのか?』といぶかしげな表情で迫られると、つい経営のことも考えて希望どおりに処方してしまう」とある医師は打ち明ける。
▽抗生物質を多用しないよう厚労省も動いた
・『週刊東洋経済』は5月21日発売号(5月26日号)で「医療費のムダ」を特集。命や健康を脅かす過剰な検査・検診、あふれる残薬、人工透析、整骨院、終末期医療といった、「聖域」だらけとなっている医療の現実を描いている。
・抗生物質の多用が続くと、薬が効かない耐性菌の広がりにつながりかねない。厚生労働省は昨年、重い腰を上げ、抗生物質の適正使用の手引を作成。細菌感染が疑われる重症のときに使用を限り、軽い風邪や下痢には用いないよう勧めている。今年4月の診療報酬改定では、乳幼児の風邪や下痢に際し、適切な説明により抗生物質の処方を避ければ、医師に報酬が支払われる仕組みが新設された。
・風邪に抗生物質を処方するような「過剰診療」「効果の薄い医療」が医療現場では蔓延している。過去の慣習や医療関係者の既得権益、世間の無理解などが背景として複合的に絡み合う。日本の医療費が膨張の一途をたどる中、このままでよいのだろうか。
・過剰な医療を見直す動きは、今や世界的な潮流だ。代表的なのは、北米の医師が中心となり治療や検査が過剰になってないかを検証する「チュージングワイズリー(賢い選択)」運動である。2012年に米国内科専門医認定機構(ABIM)財団が、賛同した専門学会からそれぞれ提示されたムダな医療の「五つのリスト」を公表し、本格的にスタートした。
・運動はカナダや北欧、豪州などにも広がり、70超の学会が約500項目のムダな医療のリストを打ち出している。2016年10月には佐賀大学名誉教授の小泉俊三医師(特集内でインタビュー)を代表に日本支部も立ち上がった。『週刊東洋経済』の特集「医療費のムダ」では医療経済ジャーナリストの室井一辰氏の協力を得て、同リストの中から、日本の医療現場でもよく行われている60項目をピックアップし解説している。
・米国で始まったキャンペーンに呼応し、日本でも総合診療指導医コンソーシアムが日本におけるムダな医療の「五つのリスト」を公表した。「通常の腹痛で腹部CT(コンピュータ断層撮影)検査を勧めない」「無症状で健康な人にMRI(磁気共鳴断層撮影)検査による脳ドックを勧めない」など5つのうち4つが検査・検診に関する提言となっている。
・「過剰医療は先進国の共通課題だが、中でも日本では検査や検診の過剰が深刻だ」。コンソーシアムの世話人を務める、群星沖縄研修センターの徳田安春センター長は語る。 実際、日本医学放射線学会が指針で推奨していない「通常の頭痛を訴える人への頭部CT、MRI検査」を頻繁に行っている病院は、調査対象の半数を占めた――。昨年1月、順天堂大学の隈丸加奈子准教授がそんな調査を行った。隈丸准教授は「CTのような被曝を伴う検査のデメリットへの認識が、現場に浸透していない」と危惧する。経済協力開発機構(OECD)加盟各国中でも、日本のCT、MRIの台数は圧倒的だ。人口100万人当たりの機器台数は両者とも加盟国中トップに立つ。
▽検査するだけ収入が増す出来高払い
・日本の外来診療は検査をするだけ収入が増す出来高払いとなっており、病院経営者からすれば、こうした高額な機器を入れた以上、稼働率を上げようとなりがちだ。過剰検査の弊害は患者本人の不利益にとどまらない。検査が重なると、本当に必要な検査が後回しになったり、重要な指摘を見落としたりしかねないためだ。それは特定の病気の有無を調べるための検診でも同様で、典型的なのが胃がん検診だ。
・胃がん検診は1982年に開始され、2015年に内視鏡検査が選択肢に加わるまで、40歳以上を対象に年1回、胃部X線検査(バリウム検査)で行うものとされてきた。胃がん死亡者数は年約5万人と50年近くほぼ変わらず高止まりする中、国が一貫して推奨してきたバリウム検査だが、患者からも医師からも評判は芳しくない。
・患者にとっては発泡剤を飲み検査台上で無理な体位を求められる身体的苦痛に加え、バリウムによる排便障害もある。何より「胸部X線検査の数十倍から100倍近くの被曝量」(複数の医師)のデメリットは無視できない。
・医師にとっても現在、消化器内科の臨床現場で活躍するのはもっぱら内視鏡検査であり、バリウム検査はそれこそがん検診の場でしか扱うことはない。特に若手医師はほとんどが、学生時代にも臨床現場でもバリウム検査を学んでいない。 そのため「経験がないから不安で、つい内視鏡での再検査に回してしまう。結果はほとんどが異常なし」(若手医師)。患者にとっては二度手間のうえ、医療保険財政にも負担をかけることになる。「内視鏡が未発達だった時代は、外からでも工夫して見ようとするバリウム検査の意義は確かにあった。だが内視鏡技術が著しく進歩した今もバリウム検査に頼っているのはおかしい」。NPO法人日本胃がん予知・診断・治療研究機構事務局長の笹島雅彦医師は話す。
・実は内視鏡検査を新たに推奨した現行の「胃がん検診ガイドライン2014年版」(国立がん研究センターがん予防・検診研究センター)の当初案では、推奨するのは引き続きバリウム検査のみで、内視鏡検査は推奨しないとなっていた。だが、臨床医たちからの猛反発を受けて、ようやく盛り込まれた経緯がある。数千万円するX線装置を積んだ検診車や検診センター、放射線技師など、バリウム検査にかかわる利害関係者への配慮が働いていたといわれている。
・ただ胃がん検診で内視鏡検査を行っている自治体は今も少数だ。内視鏡医の人手不足の問題が大きく、医師不足の地域ではより厳しい。そもそも全国民が一律に毎年胃がん検診を受ける必要性があるのか、という根本的な疑問の声も専門家からは上がっている。「胃がんは生活習慣病ではなく、99%がピロリ菌による感染症だと判明している。危険度が診断できるようになった以上、一律の検診は合理的ではない」。北海道医療大学の浅香正博学長は力を込める。
▽ピロリ菌と胃粘膜委縮双方が陰性なら?
・そのため一部の先進的な自治体や健康保険組合は「胃がんリスク層別化検査」(胃がんリスク検診)を導入している。ピロリ菌感染の有無と、胃粘膜萎縮の程度を血液検査で確認して、胃がん発症の危険度をグループ分けする。ピロリ菌と胃粘膜萎縮双方が陰性なら、胃がんのリスクはほぼゼロで内視鏡検査は基本必要ない。
・いずれかが陽性ならば内視鏡検査を受け、胃炎があれば保険適用で除菌治療を行う。ピロリ菌陽性率は4割弱とみられ、「検査が必要な人を絞り込むことで、確かな診断力を持った内視鏡医による対応が可能になる」(国立国際医療研究センター国府台病院の上村直実名誉院長)。
・「もし、もっと早い時期に胃がんリスク検診を経て、内視鏡検査を受けていたら、夫は助かったかもしれない」。スキルス胃がんの患者・家族の会「NPO法人希望の会」理事長の轟浩美さんは話す。轟さんの夫は毎年自治体の実施する住民検診でバリウム検査を受けていたが、見つかった時はすでに末期のスキルス胃がんだった。「全員検査でリスク分けもされず、流れ作業のようになっているバリウム検査では救える命も救えない」(轟さん)。
・大手企業の健康保険組合では、胃がんリスク検診への切り替えが続々進むが、市区町村の住民検診ではまだ限定的だ。厚生労働省が「死亡率減少効果が明らかになっていない」(健康局がん・疾病対策課)などとして、住民検診などでは胃がんリスク検診を「推奨しない」としているためだ。自主判断できる企業健保とは異なり、行政の実施する住民検診では「国の推奨と異なる選択には相当の覚悟がいる」(複数の医師)のが現実だ。
・厚労省が推奨しないとする根拠となっているのが、先の国立がん研究センターの胃がん検診ガイドラインだ。内視鏡検査こそようやく推奨に転じたが、胃がんリスク検診をほぼ名指しする形で「科学的根拠不明な検診」などと強い調子で批判している。
▽胃がんリスク検診導入を働きかけた医師の末路
・『バリウム検査は危ない』(小学館)著者でジャーナリストの岩澤倫彦氏によれば、関西のある市では基幹病院の検診担当部長だった消化器内科医が、胃がんリスク検診の導入を自治体に働きかけて実現手前までこぎつけた。だが突然理由も告げられず、検診担当部長の職を解かれ閑職に追いやられた。結果、同市でのリスク検診導入は白紙に戻った。この直前に、「国立がん研究センター検診研究センターの幹部が市を訪れていた」という複数の証言があるという。
・ただ、胃がんリスク検診を強く批判していた当時のガイドライン作成の担当者2人は、今春そろって退任。後任となった国立がん研究センターの中山富雄検診研究部長は「検診というかは別にして、リスク分類することの有用性は高い。どう検査としてシステム化するのか、運用面での支援を含め、対話を深めていきたい」と話す。
・旧来のシステムやしがらみに固執することなく、国民の命や健康を守るためにできることは何なのか。広く医療者に問われている。
https://toyokeizai.net/articles/-/221458

第一の記事で、 『これらを全て学んで初めて受験資格が得られるのですが、このハードルが高いのです。私も若手のころは、心臓の手術を学びに他の病院に3カ月泊まり込みで行ったり、外傷(おおけがのことです)の手術を経験するために救命センターに3カ月学びに言った(注:「行った」のミス)記憶があります』、というのは、確かに大変そうだ。 『この資格をなぜか取得せず、しかし第一人者としてバリバリ手術をしている医師も稀にいます。ですから、専門医とは、「その資格を持っていれば、ある一定以上の知識と技術があることが保証されている」くらいの資格として認識していただければ良いでしょう』、 消化器外科専門医については、『試験を受けるためには論文を3本以上自分で書いていなければならないなど、外科専門医とは比較にならない高いレベルが要求されます。ですので、こちらをもっている医者は「かなり高いレベルで消化器外科について専門性を有している」と言えると思います。一般的な「専門医」というイメージでは、こちらの消化器外科専門医がそのイメージに合うでしょう』、なるほどと納得したところで、 『専門医制度は変わりつつあります』というので若干、ズッコケたが、これは次の記事で問題含みの制度のようだ。
第二の記事で、 『新専門医研修で約500人が東京都に流入 地方は相当怒っている』、とあるが、枠組みの変更を何故、厚労省(文科省?)が行ったのかの説明がないのが残念だ。 『(国立大学の)の格に応じて文部科学省の役人も配置されている。下克上なんてないんですよ』、というのには驚いた。日本は「階層社会」だが、こんなところにまで現れていたとは・・・。
第三の記事で、 『ほとんどの風邪には抗菌薬(抗生物質)が効かないことは、医者の間では常識だ』、というのはうろ覚えの記憶を改めてはっきりさせてくれた。 『厚生労働省は昨年、重い腰を上げ、抗生物質の適正使用の手引を作成。細菌感染が疑われる重症のときに使用を限り、軽い風邪や下痢には用いないよう勧めている』、というのは遅すぎたきらいはあるが、患者が受け入れるにはまだ時間がかかるのだろう。 『「過剰医療は先進国の共通課題だが、中でも日本では検査や検診の過剰が深刻だ」・・・日本医学放射線学会が指針で推奨していない「通常の頭痛を訴える人への頭部CT、MRI検査」を頻繁に行っている病院は、調査対象の半数を占めた』、『経済協力開発機構(OECD)加盟各国中でも、日本のCT、MRIの台数は圧倒的だ。人口100万人当たりの機器台数は両者とも加盟国中トップ』、という無駄も腹立たしい限りだ。 『「胃がん検診ガイドライン2014年版」(国立がん研究センターがん予防・検診研究センター)の当初案では、推奨するのは引き続きバリウム検査のみで、内視鏡検査は推奨しないとなっていた・・・数千万円するX線装置を積んだ検診車や検診センター、放射線技師など、バリウム検査にかかわる利害関係者への配慮が働いていたといわれている』、『胃がんリスク検診導入を働きかけた医師の末路』、なども腹が立つ。既得権の壁にメスを入れない限り、無駄な検診・医療が医療財政をますます圧迫し、健康保険制度を破綻の道に追いやってゆくだろう。
タグ:医療問題 東洋経済オンライン 日経ビジネスオンライン ダイヤモンド・オンライン 中山 祐次郎 (その15)(医者選び 「専門医」はどれほど重視すべき?、今春スタートした研修医の新制度は「地域医療崩壊」の序曲だ、過剰医療大国ニッポンの不都合すぎる真実 いまだバリウム検査に偏る胃がん検診の謎) 「医者選び、「専門医」はどれほど重視すべき? 第26回 分かりにくい資格の仕組みを解説」 専門医は「2階建て」構造 試験を受けるためには、いくつかの条件をクリアする必要 120例以上の手術を執刀していること +350例以上の手術に参加 まんべんなく色んな手術に参加する必要があり、このような縛りがあります 私も若手のころは、心臓の手術を学びに他の病院に3カ月泊まり込みで行ったり、外傷(おおけがのことです)の手術を経験するために救命センターに3カ月学びに言った 「その資格を持っていれば、ある一定以上の知識と技術があることが保証されている」くらいの資格として認識していただければ良いでしょう 消化器外科専門医 試験を受けるためには論文を3本以上自分で書いていなければならないなど、外科専門医とは比較にならない高いレベルが要求 般的な「専門医」というイメージでは、こちらの消化器外科専門医がそのイメージに合うでしょう 「今春スタートした研修医の新制度は「地域医療崩壊」の序曲だ 島田眞路・山梨大学学長に聞く」 新専門医研修で約500人が東京都に流入 地方は相当怒っている 立大学には全部格があるんですよ。その格に応じて文部科学省の役人も配置されている 「過剰医療大国ニッポンの不都合すぎる真実 いまだバリウム検査に偏る胃がん検診の謎」 厚生労働省は昨年、重い腰を上げ、抗生物質の適正使用の手引を作成。細菌感染が疑われる重症のときに使用を限り、軽い風邪や下痢には用いないよう勧めている 「通常の頭痛を訴える人への頭部CT、MRI検査」を頻繁に行っている病院は、調査対象の半数を占めた 経済協力開発機構(OECD)加盟各国中でも、日本のCT、MRIの台数は圧倒的だ。人口100万人当たりの機器台数は両者とも加盟国中トップに立つ 胃がんリスク層別化検査 ピロリ菌と胃粘膜萎縮双方が陰性なら、胃がんのリスクはほぼゼロで内視鏡検査は基本必要ない
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日本企業の海外M&Aブーム(その6)富士フイルムの米ゼロックス買収問題1:(富士フイルムのゼロックス買収を混迷させる「実質タダ」スキーム、かくも節操のないゼロックスの「買収白紙撤回」、ゼロックス買収白紙化が富士フイルムの改革に役立つ理由) [企業経営]

今日は、日本企業の海外M&Aブーム(その6)富士フイルムの米ゼロックス買収問題1:(富士フイルムのゼロックス買収を混迷させる「実質タダ」スキーム、かくも節操のないゼロックスの「買収白紙撤回」、ゼロックス買収白紙化が富士フイルムの改革に役立つ理由)を取上げよう。

先ずは、5月14日付けダイヤモンド・オンライン「富士フイルムのゼロックス買収を混迷させる「実質タダ」スキーム」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・富士フイルムホールディングス(HD)が1月に発表した米ゼロックス買収が二転三転している。  まず4月27日、米ニューヨーク州上級裁判所が買収差し止めの仮処分を決定した。「ゼロックスのジェフ・ジェイコブソンCEOが、自らの地位を守るために富士フイルムHDとの統合を推進し、株主利益を守らなかった」という、カール・アイカーン氏ら大株主の訴えを認めた格好だ。
・さらに5月1日、突然ゼロックスが大株主2人との和解案に合意。ジェイコブソンCEOら取締役の大多数を、アイカーン氏らが推す取締役に代え、富士フイルムHDとの契約も見直すとの内容だった。
・ところがそのわずか2日後、和解案に対して定められた期限内に裁判所の認可が下りなかったという理由で、この和解案は期限切れに。ゼロックスは27日の仮処分に対し上訴していた富士フイルムHDに合流する形で、自らも4日に上訴に加わった。 数日間でコロコロ態度を変えるゼロックス経営陣に、日米関係者が振り回される状態が続いている。
▽上訴審は9月に開廷
・仮処分命令の判決文によると、ジェイコブソンCEOは当初、現金での売却を検討していた。だが長らく経営陣に退陣を迫るなど厳しい攻撃を続けてきたアイカーン氏に対抗するため富士フイルムHDと共同戦線を張ることに決め、富士フイルムHDのスキームを丸のみした──という(富士フイルムHD、ゼロックスは否定)。
・そもそも、アイカーン氏らが激しく反対するのは富士フイルムHDが実質タダでゼロックスを手に入れるスキーム。現に同氏は8日には「キャッシュで1株40ドル以上であれば買収提案を検討する」と表明。つまり、約5600億円を投じる一般的な買収方法でゼロックスを買えと要求しているわけだ。
・一方で、キャッシュアウトなしの買収は、富士フイルムHDの株主には譲れない条件だ。 なぜなら「成長が止まった複写機事業でキャッシュアウトを伴う巨額買収をすれば、成長投資を行う体力が削がれ企業価値を毀損する」(外資系証券アナリスト)との声が強いからだ。
・混迷が深まる中、今後の鍵を握るのは、残り85%のゼロックス株主の動向だ。古森重隆・富士フイルムHD会長は「大手機関投資家など富士フイルムHDの株主と共通の投資家も多く、すでに買収案に対して賛同を得られている」と自信を崩さない。
・だが、トランプ政権下で外国企業による米企業の買収に法廷で待ったがかかるケースが増えている。そんな中、この買収が今後成立するか否かは極めて不透明だ。 上訴審の開廷は9月で、混迷は当分続く。現時点で、乾坤一擲の買収は「タダより高いものはない」を実証しているようだ。
http://diamond.jp/articles/-/169758

次に、闇株新聞が5月15日付けで掲載した「かくも節操のないゼロックスの「買収白紙撤回」」を紹介しよう。
・米事務機器大手のゼロックスは5月13日(日本時間14日午前)、1月31日に合意していた富士フイルムホールディングス(以下、富士フイルム)による買収合意を解消すると発表しました。 ゼロックスの現経営陣が、かねてから今回の買収案に反対していたカール・アイカーン、ダーウィン・ディーソンら「物言う株主」の意向を受け入れ、買収合意解消を決めてしまったようです。しかしこれに至るまでのゼロックス経営陣の迷走ぶりは、まさに表題にある「節操のない」ものとなります。
・そもそも1月31日に発表されていた富士フイルムのゼロックス買収案とは、まず合弁会社(富士フイルムが75%、ゼロックスが25%を保有)である富士ゼロックスが金融機関から6710億円を借り入れて富士フイルムの保有する75%を自社株買いし、ゼロックスの完全子会社となります。そして富士フイルムはその6710億円でゼロックスの第三者割当増資を引き受けて50.1%の株式を取得し、連結子会社にするというものでした。
・その6710億円の根拠は、富士ゼロックスの企業価値を約9000億円と算定し、その75%という計算です。しかし発表当時のゼロックスの時価総額は直前の株価上昇もあり約90億ドル(約1兆円)あったため、その50.1%を取得するためには倍額を少しこえる第三者割当増資が必要となるため6710億円では足りません。
・そこでゼロックスの株主に25億ドル(2750億円)の特別配当を支払い、ゼロックスの企業価値を引き下げて何とか6710億円で収まるように考えたようです。つまり富士フイルムの資金負担はゼロとなります。
・一見してゼロックスがタダで手に入るように見えますが、そのからくりはゼロックスの50.1%しか取得していないからで、さらに少なくとも収益が上がっている富士ゼロックスの75%と、業績が縮小しているゼロックスの50.1%を交換したことにもなります。
・最大の問題は、ジェイコブソンCEOらゼロックスの現経営陣が大半残留して引き続きゼロックスの経営にあたり、「親会社」となった富士フイルムも4名の取締役を送り込みますが取締役会の過半数を握るわけでもなく(経営を支配できるわけでもなく)、何よりもカール・アイカーンら「物言う株主」を含むゼロックスの既存株主もそのまま残ってしまうことです。
・「物言う株主」であるかどうかは別にしてもゼロックスの一般株主は、投資先が買収されることによるプレミアムを一切受け取ることができません。25億ドルの特別配当もゼロックスの資産から支払われるため、それだけゼロックスの企業価値が低下することになり、差し引きでは何のプラスにもなりません。
・さてそこからの動きですが、カール・アイカーンやダーウィン・ディーソンら「物言う株主」の申し立てを受けてNY州の裁判所が4月27日、富士フイルムのゼロックス買収を一時的に差し止めてしまいました。
・さらに5月1日になって、(富士フイルムによる買収後にも残留して経営にあたることになっていた)ジェイコブソンCEOを含むゼロックスの現経営陣が、カール・アイカーンら「物言う株主」と電撃的に和解し、ジェイコブソンCEOを含む7名の現取締役が辞任して「物言う株主」が推薦する6名の取締役候補を受け入れると発表してしまいました。6名にした意味は、富士フイルムが推薦する取締役候補は4名なので(取締役の定数は10名)、すでに過半数を押さえてしまったことになるからです。
・ところが5月3日になって、今度は大株主が期限内に提訴を取り下げなかったとしてジェイコブソンCEOを含む現経営陣が和解と辞任の撤回を発表してしまいました。
・そして今回(5月13日)、ジェイコブソンCEOを含む現経営陣が、カール・アイカーンら「物言う株主」と再び和解し、現経営陣の辞任と、「物言う株主」の推薦する取締役候補の受け入れ、さらに富士フイルムによるゼロックス買収まで白紙撤回してしまいました。
・今回の理由は、4月15日までに合弁会社である富士ゼロックスの財務諸表が提出されなかったというものですが、3月決算の富士ゼロックスが4月15日までに財務諸表を提出できないことを、長く合弁会社の株主だったゼロックスの現経営陣が知らないはずがありません。
・富士フイルムによるゼロックス買収の最終決定権は両社の株主総会にありますが、ゼロックスの取締役会が一度承認した富士フイルムによる買収を白紙撤回しても、それだけでは法に触れるわけではありません。 一般論ですが企業の経営陣は、自らの損得勘定より株主の利益を優先しなければなりません。ところがどうもジェイコブソンCEOを含むゼロックスの現経営陣は、高額の退職金と引き換えに、富士フイルムによる買収を白紙撤回したと噂されています。
・富士フイルムの古森会長を含む経営陣は、「訴訟も考える」と言っているようですが、それが米国の裁判所である限り、富士フイルムに有利な決定が出ることはまずありません。 富士フイルムがすぐにやるべきことは、富士フイルムの取締役会でもゼロックス買収と、富士フイルムと富士ゼロックスの取締役会では自社株買いを、それぞれ白紙撤回してしまうことです。ゼロックスがすでに白紙撤回していますが、富士フイルムと富士ゼロックスもそれぞれの取締役会で承認しているため、同じように白紙撤回しておく必要があります。
・現時点のゼロックスに興味を示す企業は多くないはずで、これらの白紙撤回でゼロックスの株価も一層下落するはずです。それでもどうしてもゼロックスを買収したいのであれば、今度はTOBでゼロックスの全株を正々堂々と取得するべきです。また収益の上がっている富士ゼロックスは当分の間そのまま75%を保有しておくべきです。
http://yamikabu.blog136.fc2.com/blog-entry-2221.html

第三に、元銀行員で法政大学大学院教授の真壁昭夫氏が5月22日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「ゼロックス買収白紙化が富士フイルムの改革に役立つ理由」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽大株主の横やりで解消となった富士フイルムとゼロックスの買収合意
・5月13日、米国事務機器大手のゼロックスコーポレーション(ゼロックス)が、富士フイルムホールディングス(富士フイルム)による買収合意を解消すると発表した。解消の主な理由は、ゼロックスの大株主であるカール・アイカーン氏が買収に横やりを入れたことだ。 既に同氏は、ゼロックス1株につき40ドル以上なら買収を検討すると表明している。その行動を見ていると、買収金額を釣り上げる同氏一流の戦略とも見える。富士フイルムは、アイカーン氏の要望に応じなかった。富士フイルムは、アイカーン氏の仕掛けたマネーゲームに巻き込まれることを拒否したともいえる。
・今回の買収劇解消の決定によって、長い目で見て不利益を被るのはむしろ米国のゼロックスとその株主かもしれない。クラウドコンピューティングサービスが世界に浸透する中、今後もペーパーレス化の波は衰えることは考え難い。ゼロックスが手掛ける印刷機などへの需要は減少することは避けられない。同社が生き残るには、コストカットが必要だ。
・ただ、それだけでは不十分だ。企業の成長のためには構造改革を進め、新しい分野や、期待収益率の高いビジネスの創造が求められる。その取り組みをゼロックスは進めてこなかった。富士フイルムとの経営統合は、イノベーションが遅れているゼロックスにとってチャンスである。
・一方、富士フイルムは経営の革新を続け、新しい事業分野の創造を通して需要の取り込みに注力してきた。米国ゼロックスの買収の先行きは見通しづらいものの、富士フイルムはこれまでのイノベーションの道を歩み続ければよいだろう。
▽変化に対応できずイノベーションに乗り遅れた米ゼロックス
・ゼロックスは、印刷技術のイノベーションによって成長を遂げた。1960年代、同社は電子印刷技術を確立し、70年代にはレーザープリンターを市場に投入した。その印刷品質の高さは世界から支持された。米国の複写機市場をゼロックスが独占した時期もあった。かつて、印刷することを「ゼロックスする」と言ったのもうなづける。
・しかし1990年代に入ると、大きな変化が訪れた。それがIT革命だ。IT化が進むにつれ、紙の使用が減少した。マイクロソフトのソフトウェアの登場によって、文書はコンピューターで作成し、デジタル情報として保存することが増えた。2000年代に入るとクラウドコンピューティングサービスやタブレットPCなどが普及した。今や、資料はデバイス上で閲覧することが当たり前だ。ペーパーレス会議も常識になっている。
・この間の株価推移を振り返ると、1999年にゼロックスの株価は最高値を付けた。2000年以降は30~50ドル台のレンジで推移している。つまり、同社への成長期待は高まっていない。裏返せば、ゼロックスはレーザープリンターに続くイノベーションを起こせていない。
・現在、インターネットで検索することを「ググる」という。それはグーグルの検索エンジンが不可欠だからだ。方や、もう「ゼロックスする」とは誰も言わない。それも、ゼロックスが環境の変化に適応できず、需要を生み出せていないことの裏返しだ。 ゼロックスが生き残るためには、コストカットと成長分野の開拓を同時に進めなければならない。そのために、富士ゼロックスの運営を通して関係のある富士フイルムは、絶好のパートナーだ。
・しかし、ゼロックス経営陣は経営革新を実行することができなかった。彼らが最も重視してきたのは、ゼロックスブランドの維持かもしれない。株主などのステークホルダーが長期的な成長期待を持てるだけの経営戦略は示されなかった。長期的な事業展開が見通しづらい分、利害関係者の視線は目先の利益に向かいやすい。早い段階で経営陣が経営再生の戦略を提示できていたなら、買収交渉がマネーゲーム化するのは防げたかもしれない。
▽イノベーションを発揮してきた富士フイルム
・1月末に、富士フイルムがゼロックスの買収で合意したことは、ゼロックス再生へのチャンスだったはずだ。富士フイルムはイノベーションを発揮して、成長を遂げてきたからである。 もともと、富士フイルムは写真フイルムの生産と販売によって成長してきた。1980年代からは、写真関連の技術を応用して血液検査システム分野に進出するなど、事業の多角化も進められた。その後、IT革命の進行とともにデジタルカメラが登場し、写真フイルム需要は落ち込んだ。IT革命は、ゼロックスだけでなく、富士フイルムにとっても重要な転換点だった。
・この変化に対して、富士フイルムは写真フイルム事業を縮小してコストを削減した。同時に、ゼロックスとの提携を活かし収益を支えた。また、既存テクノロジーを新規事業に応用した。代表例が、検査機器などを中心とする医療、化粧品、産業向けのレンズ事業だ。近年の業績を見ると、内視鏡などの医療機器が成長を牽引している。
・これこそがイノベーションだ。富士フイルムは、すでにあったテクノロジーを新しい分野に結合させた。それによって、自社にはなかった新しい事業、付加価値の高い製品を生み出した。それが需要を喚起し、収益が獲得されている。
・既存事業に見切りをつけ、新しい取り組みを進めることは、口で言うほど容易ではない。よい例が、米国のイーストマン・コダック社だ。同社も、写真フイルム事業で成長してきた。コダックは市場シェアの維持にこだわり、フイルム技術の向上を重視しすぎた。この結果、環境への適応が遅れた。2012年1月、コダックは米連邦破産法11条(チャプターイレブン)を申請した。2013年11月、同社は再建を果たし再上場したが、株価は低迷している。
・重要なことは、経営者が環境の変化を捉え、それに自社の事業構造を適応させることだ。従来にはない製品・サービス、生産プロセス、マーケティング手法、素材などの供給源、組織を創出し、変化に対応する。それがイノベーションだ。反対に、従来の取り組みにしがみついてしまうと、変化への対応は難しいだろう。
▽連続的なイノベーションを目指す富士フイルム
・アイカーン氏による買収反対について、新聞報道などでは、富士フイルムが米国の訴訟リスク、短期的な利益を追求する株主の発想に適応できていないとの指摘が目立つ。それは客観的かつ正当な指摘だ。富士フイルムが海外展開を進める上で、それは生かさなければならない教訓だ。
・それ以上に重要なことは、富士フイルムが持続的な成長に向け、改革の手綱を緩めていないことだ。目指されているのが医療事業の強化だ。同社は、株式の66%を保有する富山化学工業株式会社の完全子会社化を決定した。その理由は、感染症やアルツハイマーなど今後の需要が期待できる治療薬分野での競争力を高めるためだ。戦略上、ヘルスケア関連事業の重要性は増すだろう。
・1990年代、富士フイルムはフイルム需要の低下を事務機器ビジネスで補った。当時、ゼロックスとの提携は戦略的に重要だった。現在、事務機器ビジネスの成長は鈍化している。ゼロックスとの統合交渉が難航する恐れもある。そうなれば、事務機器事業は経営の足かせとなりかねない。
・今後、当分野ではコストの削減が優先されるだろう。その中で、ゼロックスとの統合が進めばよい。もし進まない場合には、事務機器事業のリストラ、再編も選択肢に浮上するだろう。すでに、富士ゼロックスの研究開発費や特許件数はゼロックスより多い。ゼロックスとの関係は切れないとの指摘もあるが、断言はできない。状況によっては、自社ブランドの育成など、従来にはなかった取り組みもあるだろう。ある意味、富士フイルムにとって、ゼロックスとの提携は役割を終えつつあるともいえる。
・このように考えると、今回の買収合意の解消は、富士フイルムがよりダイナミックな改革を目指す契機になるかもしれない。同社に限らず、企業の成長には不断の改革が必要だ。同社がイノベーションを連続的に進め、さらなる成長を目指すことを期待したい。そうした企業が増えれば、「社会の活力」という点でもより前向きな発想が増えるだろう。
http://diamond.jp/articles/-/170574

第一の記事での 『「実質タダ」スキーム』、については次の闇株新聞の方が詳しいようだ。ただ、 『富士フイルムHDの株主には譲れない条件だ。なぜなら「成長が止まった複写機事業でキャッシュアウトを伴う巨額買収をすれば、成長投資を行う体力が削がれ企業価値を毀損する」』、というのはあくまで富士フイルムHD側の事情であり、ゼロックス株主側には関係ないことだ。富士フイルムHDの株式を渡されても、戸惑うだけなのかも知れない。
第二の記事で、 『ゼロックス経営陣の迷走ぶりは、まさに表題にある「節操のない」もの』、は確かに驚くべきことだ。 『ジェイコブソンCEOを含むゼロックスの現経営陣は、高額の退職金と引き換えに、富士フイルムによる買収を白紙撤回』、というのは大いに有り得ることだ。 『富士フイルムがすぐにやるべきことは、富士フイルムの取締役会でもゼロックス買収と、富士フイルムと富士ゼロックスの取締役会では自社株買いを、それぞれ白紙撤回してしまうことです・・・白紙撤回でゼロックスの株価も一層下落するはずです。それでもどうしてもゼロックスを買収したいのであれば、今度はTOBでゼロックスの全株を正々堂々と取得するべきです』、というのであれば、スキーム的にもスッキリしてよさそうに思える。
第三の記事では、『変化に対応できずイノベーションに乗り遅れた米ゼロックス』、と 『イノベーションを発揮してきた富士フイルム』、の対比が分かり易かった。なるほど。 『ゼロックスとの統合交渉が難航する恐れもある。そうなれば、事務機器事業は経営の足かせとなりかねない。 今後、当分野ではコストの削減が優先されるだろう。その中で、ゼロックスとの統合が進めばよい。もし進まない場合には、事務機器事業のリストラ、再編も選択肢に浮上するだろう』、『今回の買収合意の解消は、富士フイルムがよりダイナミックな改革を目指す契機になるかもしれない』、と今回の買収はむしろ失敗する方が良さそうと考えているようだ。その通りなのだろう。
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