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2019年展望(アベノミクスの好循環が途切れた「3年前の悪夢」が2019年に再来か、日本が抱える2019年 7つの重大な経済リスク 五輪バブルが弾けるのは2019年後半か、2019年の安倍政権に渦巻く「7年目の不安」 選挙が目白押しの中 アベノミクスに危機) [経済政治動向]

大晦日の今日は、2019年展望(アベノミクスの好循環が途切れた「3年前の悪夢」が2019年に再来か、日本が抱える2019年 7つの重大な経済リスク 五輪バブルが弾けるのは2019年後半か、2019年の安倍政権に渦巻く「7年目の不安」 選挙が目白押しの中 アベノミクスに危機)を取上げよう。

先ずは、みずほ総合研究所 専務執行役員調査本部長/チーフエコノミストの高田 創氏が12月26日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「アベノミクスの好循環が途切れた「3年前の悪夢」が2019年に再来か」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/189579
・『アベノミクスのもとで景気拡大は12月で戦後最長の「いざなみ景気」にならび、来年1月には最長記録を更新する可能性がいわれている。 好況を生み出したのが、想定を超える円安が株高につながる好循環だが、2019年はこの好循環が「2016年」のように途切れる可能性がある』、憂鬱な展望だが、確かに悪材料が揃っており、覚悟が必要なようだ。
・『円安の好循環が途切れた「2016年の再来」の可能性  2012年以降のアベノミクスの成果は企業が想定する為替レートを超えた円安が株高をもたらす好循環によるものだった。 逆にいえば平成バブル崩壊以降の景気停滞は超円高と資産デフレの悪循環が原因だった。つまりアベノミクスの成功は超円高・株安悪の循環を超金融緩和の金融政策で断ち切ったことにあった。 だが、2012年以降の好循環が初めて途切れたのが2016年だ。 図表1は想定為替レートと円ドル為替の推移だ。図表を振り返っても2016年は明らかに、これまでの想定為替レートを超える円安の好循環が崩れたことが示される。 現在は、依然、円ドルの為替水準は、想定為替レートより円安になっていて「好循環」が続いているのは救いだが、一方で懸念は世界的な景気拡大を牽引してきた中国サイクルとITサイクルが下方に転じたことだ。 2019年についての最大のリスクシナリオは、2016年同様に想定為替レートを超える円高によって好循環が途切れることだ。 その可能性が現実になるとしたら、世界経済の環境悪化で、米国FRBの利上げスタンスが転換し、日米の金利差縮小などの予想から円高トレンドに一気に転じることだ。 それは同時に金融・財政当局にとっても、急速な円高圧力のもとで、マイナス金利を導入するなど、マクロ政策運営で苦闘させられた、2016年のトラウマ、悪夢の再来となりかねない』、2016年ぐらいで済むのだろうか。
・『世界経済は“足踏み状態” 中国の減速が最大のリスク  そうした状況に陥る可能性は、図表2のグローバルな景況感を反映するグローバル合成PMIの推移をみてもわかる。現在の形状は2015年から2016年にかけて生じた状況に類似する。 実体経済は、堅調な米国を除き一時的な足踏み状態(ソフトパッチ)の様相を呈し、今後、2015~2016年のように世界経済が減速に至る不安がある。 2016年は中国を中心とした新興国経済の減速が、米国・ユーロ圏など先進国経済にも波及した。現状も中国経済の減速やITサイクルのピークアウトなどを起点として当時と似た状況に陥るリスクを秘めている。 なかでも最大の不安定要因が中国経済である。 次に示した図表3は、中国の景況感を示している。みずほ総研ではこれを「チャイナ・クロック」として活用している。  過去を振り返っても、製造業を中心にした世界の景況感は、中国の動きに少し遅れる形で、その動きに連動するように変わってきた。 2013年から14年、15年初にかけて中国ショックとされた中国の落ち込みが、その後、世界経済の減速を招いた。しかし15年から中国の景況感が回復に向かったことに加え、世界的なITサイクルの改善があって世界経済は回復、さらに、2016年末以降、米国トランプ政権主導の景気回復が世界全体を押し上げた。 その後、中国の景況感は2016、17年と徐々に減速に向かい、足元は停滞へと下方に向かい始めた様相になっている。加えて、国内自動車販売や輸出が下方屈折を示していることもあり、世界経済の牽引エンジンの中国経済が停滞局面に入った可能性がある』、「中国経済が停滞局面に入った」とすれば、日本への影響も甚大だろう。
・『2016年と類似する2019年のリスク  下記の図表4は、2016年の世界の状況と今を比較したもので、既にいくつかの共通項がある。 最近でも、原油価格下落のほかにも、Brexitをめぐる不透明感の強まりなどは、15~16年と共通するものだ。 欧州ではほかにも、イタリアなどの財政問題や独仏でのメルケル首相やマクロン大統領の指導力低下などもあり、欧州地域の不安定化も16年との共通点だ』、ただ、よくよく図表3を見ると、15~16年の中国経済は回復局面にあったのに対し、今回は停滞局面にあり、Brexitの影響も今回の方が大きそうなので、15~16年より深刻とみるべきだろう。
・『円高で日銀と財務省は「悪夢の再来」 財政金融政策の余力少ない  それでは、2016年の日銀と財務省の“悪夢”はなんだったのか。 当時、2015年末から2016年にかけての急速な円高トレンドへの転換で、日銀はさらなる金融緩和策として2016年1月のマイナス金利導入に追い込まれた。 さらに、16年6月の国民投票でのBrexit決定を受けて進んだユーロ安・円高も加わり、日銀は9月には、10年物国債をゼロ近傍に誘導するイールドカーブ・コントロールまで踏み出すことになった。 一方、財務省にとっては2016年6月の消費増税延期に追い込まれたことが、トラウマだ。 日銀は2018年7月の金融政策決定会合で、16年に「劇薬」に近い金融緩和強化に追い込まれた状況からの正常化を行うべく、長期金利の誘導幅を広げ金利上昇の余地を増やすなど、事実上、異常な緩和政策の「出口」に向けたスタンスにかじを切り始めている。 一方、財務省は2019年10月の消費増税を起点として財政再建への一歩を踏み出そうとしている。 以上の金融・財政当局の動きは、今日の局面からは極めて妥当な政策と筆者は判断している。 ただし、そうした正常化への動きに対する大きなハードルが「2016年のリスク」の再来であり、このことは、2019年の最大のリスクとして認識する必要があるだろう。 しかも困ったことには、「2016年の再来」というリスクケースに陥った時に、対応する金融財政政策の余地が乏しいことだ。 政策当局は、過度な円高を回避するべく米国との十分なコミュニケーションを深めるとともに、日本国内での円高への過剰反応を抑えることも必要になるだろう』、確かに今回は政策的に打つ手がないのは深刻だ。高田氏は立場上、悲観色を薄めているが、厳しい目にみるべきだろう。

次に、経済ジャーナリストの岩崎 博充氏が12月28日付け東洋経済オンラインに寄稿した「日本が抱える2019年、7つの重大な経済リスク 五輪バブルが弾けるのは2019年後半か」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/257758
・『「2019年は株価が下落する要素しか思いつかない」「不安材料しかない」株式市場関係者の声だが、実際に今年のクリスマスはそんな展開となった。アメリカ株がニューヨークダウ平均で600ドル超の大幅下落となり、日本株も日経平均で1000円を超す下落幅を記録するなど、惨憺たる状況で終わった。 アメリカでは、リーマンショック以来の大幅な下げとなり、一部では「暗黒のクリスマス」といった悲観的な表現も飛び交った。クリスマス明けの株式市場では1000ドルを超す史上最高の暴騰となったものの、トランプ政権の方向性のない迷走ぶりに投資家も直面せざるを得なかったともいえる。 もっとも、2019年には世界的な景気後退懸念をはじめとして、アメリカや欧州にはさまざまな不安要素にあふれている。米中貿易交渉や英国の合意なきEU離脱(ハードブレグジット)といったリスク要因があり、そこにトランプ米大統領の気まぐれな政策姿勢が世界に大きな混乱をもたらしている、と言っていいだろう。 そんな状況の中で、日本の2019年はいったいどんな1年になるのか。大混乱の外的要因に加えて、日本国内の内的要因も日本には存在する。日本経済の2019年を俯瞰してみたい』、これは株価の暴落も踏まえた記事なので、第一の記事よりは現状を織り込んでいる可能性がある。
・『消費税、五輪バブル、世界同時株安  とりあえずいま直面している世界同時株安だが、その影響は日本市場にも重くのしかかって来ている。アメリカの株式市場が下落すると、それに輪をかけて日本市場も大きく下げるのが通常のパターンだが、今回もその状況が再現されるとみていいのかもしない。 FRB(米連邦準備制度理事会)よる金利の引き上げが、株価下落の最大の要因であることは間違いないが、アメリカの株価下落の影響で、日経平均株価は10月2日には2万4270円という高値をつけていたものの、12月26日にはその高値から15%も下落した。 ニューヨークダウは、10月3日の2万6828ドルから12月24日には2万1792ドルまで大きく下げて、下落率は18%を超えた。そう考えると、日本の株価はもっと大きく下げる可能性が高い。 もっとも、現在の株式市場はほとんどヘッジファンドのAI(人工知能)による投資判断が主流だから、「パウエルFRB議長、解任か?」といったニュースに、AIが反応した株価下落ともいえる。それだけ、トランプ米大統領が発信する「トランプリスク」が市場の混乱を招いているともいえる。 いずれにしても、日本は株価をはじめとして外的要因が大きく作用していることは確かだ。2019年はこうした外的要因に加えて、日本国内の内的要因によって株価や景気が大きく影響を受けるのではないかと言われている。 実際に、金融市場に大きな影響をもたらしそうな外的リスクには何があるのだろうか。大雑把に考えると次の4点に絞られるだろう。 ①合意なきブレグジットへの懸 ②米中貿易協定交渉、念日米物品協定(TAG)などアメリカによる一連の保護貿易主義 ③FRBによる金利引上げ懸念 ④一連のトランプリスク  合意なきEU離脱(ハードブレグジット)は、早ければ1月中旬にもイギリス議会で採決が行われるが、ブレグジットの承認に至る前に、メイ英首相の不信任案が英国議会に出される可能性が高く、与党の保守党内からの反乱などで承認される可能性もある。メイ首相が不信任となれば、総選挙の実施となり、事態はさらに混乱していく』、4つとも深刻なリスクだ。
・『ハードブレグジットでデリバティブが不安定に?  ハードブレグジットの最大の懸念は、金融派生商品(デリバティブ)の決済機関の大半がロンドンに集中しているため、デリバティブ商品が不安定になることだ。想定元本6000兆円とも言われており、リーマンショック時の6200兆円に匹敵する金融危機の可能性も否定できない。実態が不透明なのも、混乱に拍車をかける。 アメリカの保護貿易主義に関しては、1月から日米の物品貿易交渉がスタートするが、日本に不利な貿易交渉になるのは避けられないだろう。戦闘機を大量に発注することで交渉を有利にしようとする安倍政権の目論見通りに行けばいいのだが、先行きは不透明だ。 一方のアメリカと中国の貿易交渉の期限も2月末に迫っており、互いに25%の関税を掛け合うような事態になる可能性がある。そうなれば、日本企業への影響は大きくなる。 一連のトランプリスクも、ますます拡大している。シリアから米軍を撤退させるなど地政学リスクにも及んでおり、メキシコの国境に壁を作る予算をめぐって政府機関の一部閉鎖が続いている。トランプ大統領自身にも、ロシア疑惑がいよいよ核心に迫っており弾劾裁判への動きがスタートするかもしれない。株価暴落の要因になるはずだ。 トランプ大統領にリーダーシップがないことは明らかであり、アメリカがいまや世界最大のリスクとなりつつある。アメリカに依存しすぎる日本にとって 2019年は極めて大きなリスクを抱えることになるのかもしれない』、「ハードブレグジットでデリバティブが不安定に?」というのは、やや誇張気味だ。決済がロンドンに集中していることは事実だが、参加者はいずれもプロであり、予め織り込んでいる筈だ。
・『日本固有のリスクが爆発する?  さて、そんな外的要因にさらされている日本だが、2019年にはさらなる国内要因のリスクが存在している。簡単に列記すると次のようになる。 ①東京五輪バブルの崩壊が始まる ②消費税率アップによる景気減速リスク ③日銀の金融政策の機能不全  まずは東京五輪のバブル崩壊だが、周知のようにオリンピックにはバブル崩壊がつきものだ。21世紀になってからのアテネ、北京、ロンドン、リオデジャネイロといった歴代の五輪でも、開催決定直後から株式市場などは上昇するものの、早ければ実際の開催から数年前、遅くとも五輪開催直後から株価下落、景気減速するケースが多い。 たとえばアテネの場合は2000年に起きたITバブル崩壊の影響を受けて、アテネ総合指数の株価は6000ポイントから1000ポイント台まで下落。五輪開催時には2500ポイント前後に戻して、その後は順調に推移した。 しかし、最近の傾向としてはオリンピック開催前後の景気減速が当たり前で、投資が集中する開催前の2~3年をピークに、開催の半年前ぐらいから景気減速が始まることが多い。とは言え、その大半はオリンピックの開催とは関係のないITバブル崩壊やリーマンショックといった経済全体の動きに左右されることのほうが多い。 唯一の例外は2000年のシドニーぐらいで、五輪の準備中から開催後も含めて株価や経済全体が上昇基調となった。オーストラリアのシドニー・オリンピックが比較的影響を受けずに済んだのは、2000年をピークとしたITバブルで世界中の景気が高騰していた時期と重なり、さらにITバブル崩壊の影響を資源国「オーストラリア」は、さほど受けなかったからかもしれない。 既存の建物を活用するなど、財政的な負担を極力抑えたロンドン五輪では、残念なことに開催した2012年までの間にリーマンショックを迎えたため、一時期は大きな株価低迷、景気減速となった。五輪開催後はリーマンショックからの立ち直りで、世界的に景気が拡大し、五輪の影響は最小限に済んだと言われる。 東京オリンピックは、当初5000億円程度の予算と言っていたのが、 いつのまにか2兆9600億円の規模になっており、15万人の雇用創出を生むという内容に変化した。都内で人手不足の元凶になっているのは、東京五輪の経済効果なのかもしれない。 もっとも、日本の場合は政府が意図的に五輪バブルを演出しており、2次的な波及効果も合わせれば5兆円規模と言われているが、早ければ開催日である2020年8月の1年前ぐらいから景気減速が見えてくるかもしれない。オリンピック関連施設などが次々に完成してくる段階で、建設現場での雇用などが失われていくことになる。 そもそも5兆円規模の経済効果といえば、日本のGDPの100分の1程度だから、経済効果は期待薄。最近のオリンピックに経済効果はない、と言われるゆえんだ。特に、先進国には経済的なメリットは少ない。それが分かっていながら、政府は意図的にバブルを演出しており、国民の意識の中に消費拡大を浸透させようとしている。 東京都は2030年までのレガシー効果などを含めて32兆円の経済効果があると試算している。仮に32兆円あったとしても、日本経済全体からすればたいしたことのない数字と言える。2020年の本番前に少なくとも直接的な経済効果は吹き飛ぶ可能性がある。 2019年は、アメリカの景気後退も顕著になってくるはずだから、日本では五輪バブル崩壊と合わせて意識的な消費低迷が加速する可能性がある。わずか2週間程度のイベントのために、莫大な公共投資を集中して行うのがオリンピック。言い換えれば、景気刺激策としては絶好の好機なのだが、その反動は避けられない』、オリンピック特需は大したことはないとはいえ、他の悪材料と重なると影響は深刻だろう。
・『過剰な消費税率アップ対策、逆に景気抑制効果か?  ②の消費税率アップに伴う景気後退懸念だが、政府は食料品など一部の商品に対しては8%の税率を維持。加えて、キャッシュレスによる買い物に対してポイント還元するなど、消費税率引き上げのショックを和らげようと必死になっている。消費税率アップの影響がどの程度出るのかは未知数だが、 はっきり言えることはわずか2%の消費税率アップのために民間企業は各種の対応に追われ、大きな負担を強いられるということだ。 大衆迎合的なバラマキをするぐらいなら、政府や地方自治体のペーパーレスや印鑑レスといった作業効率のアップを測ったほうがよほど経済効果が見込めそうなものだ。医療制度の効率を図るためにスマホによる処方箋の処理を解禁するなど、スマホ社会に適合した規制緩和をどんどん推し進めて行く方がよほど経済効果は高いだろう。 ③の日銀の金融政策機能不全というのは、世界中で今後の景気減速が懸念されている中で、日本だけが金利引き下げや量的緩和できる余地を持っていない状況のことだ。景気減速に対応できる金融政策が打てないことを意味しており、日本だけが他の国よりも大きく減速する可能性があるかもしれない。 さらに、日銀はこれまでETF(上場投資信託)を通して購入した株式などの金融資産を大量に保有しているわけだが、日経平均株価が1万8000円を割り込むと、購入した価格よりも割り込む元本割れの状態となり、日銀が大量の不良債権を抱えることになってくる。 日銀の信用が落ち込んで、日本銀行発行券=円の価値が大きく下落する可能性が出てくる。黒田東彦・日銀総裁が心配する1ドル=125円の壁を大きく突破してしまう可能性もあるということだ。そうなれば原油価格が大きく落ち込んではいてもガソリン価格は上昇し、 輸入品の価格も大きく上昇することになる。 景気が悪い中でのインフレ=スタグフレーションが2019年には心配されるということだ』、大幅円安によるスタグフレーションは確かにありそうなシナリオだ。
・『日本が抱える最大のリスクは「財政赤字」!  さて、2019年がどんな1年になるのかは正直言って誰にも分からないことだが、その対応を考えることは大切だろう。アメリカ経済の景気減速が心配されている中で、急激な円高も予想されるし、逆に日本の景気減速が想定範囲を超えれば、次は円安が心配になってくる。 日本経済にとって最大のリスクは何かということを考えておくべきだろう。東京オリンピックの経済効果が薄れてくる2019年の後半には、何が起こるのか。インフレ率2%を達成させるために、安倍政権は6年もの間、450兆円もの莫大な資金を中央銀行を通して市中に流してきた。 この流動性を縮小しなければならない期限も2019年あたりから始まる可能性がある。日銀の金融政策で残されたものと言えば、実際にヘリコプターから現金をばらまくことぐらいしかない、とも言われている。 急激な円安が進んで輸入インフレが起これば、日銀はインフレ抑制のために金利を引き上げなければならない。金利上昇のためには、現在の異次元の量的緩和を中止しなければならない。そもそも日銀が国債を買い入れることで、銀行などに大きな負担をかけ続けてきた。 ややもすると忘れられがちだが、日本経済にとって最大のリスクは、昔も今も1000兆円を超す財政赤字であることだ。その事実を忘れてはならない。ヘリコプターマネー論は最近、勢いを失ったが、景気が悪くなれば再び息を吹き返す可能性がある。その場合は、財政赤字がさらに膨大に膨らみ、円の大暴落、長期金利の高騰による財政赤字の一層の拡大となって、悪循環に陥る懸念がある点は、要注意だ。

第三に、政治ジャーナリストの泉 宏氏が12月28日付け東洋経済オンラインに寄稿した「2019年の安倍政権に渦巻く「7年目の不安」 選挙が目白押しの中、アベノミクスに危機」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/257650
・『「あと3年、日本のかじ取りを担う決意だ」と9月の自民党総裁選圧勝で3選を果たした安倍晋三首相だが、年の瀬の永田町では「任期全うは簡単ではない」(自民長老)との声が広がっている。 平成最後のクリスマスに株価が2万円の大台を割り込むなど、アベノミクスの危機が目立ち、米中貿易摩擦やEU(欧州連合)主要国の混乱などで国際情勢も流動化が際立つ。「内政外交ともいつ、何が起こるか分からない状況」(閣僚経験者)だからだ。 来年は統一地方選と参院選が重なる「政治決戦の年」で、10月には消費税率の10%への引き上げが予定されている。12月26日に再登板から満6年を迎えた首相にとっても「不安がいっぱいの政権7年目」(側近)となることは避けられない』、第二次安倍政権の「ツキ」もいよいよ剥げそうだ。
・『政治日程は窮屈、難題も多い  来年の政治日程をみると、首相の政権運営の前途には多くの関門が並ぶ。1月28日召集予定の通常国会では、初の100兆円台となった2019年度政府予算の早期成立が最優先課題だが、国土強靭化のための大型補正予算の処理が先行するため、年度内成立への審議日程は極めて窮屈だ。 さらに、4月は統一地方選投開票日(前半7日、後半21日)で、21日には衆院の沖縄3区や大阪12区の補選も実施される。その後も4月30日に天皇陛下退位、5月1日に新天皇即位という歴史的皇室行事があり、6月末の主要20カ国・地域(G20)首脳会合のあとの7月下旬に参院選、そして10月1日には消費増税へと進む。まさに政治的ビッグイベントが目白押しだ。 政権運営からみると、首相にとっての最初の関門は沖縄3区補選だ。今年9月末の沖縄県知事選で与党が推した候補が、主要野党と「オール沖縄」が擁立した玉城デニー前衆院議員(自由党)に大敗しただけに、玉城氏の転出に伴う4月21日の沖縄3区補選で与党支持候補が敗れれば、政府が強行している米軍普天間飛行場の辺野古移設のための埋め立て工事への影響も避けられない。 併せて、統一地方選で自民の苦戦が際立てば、与党内で参院選への危機感が高まる一方で、野党共闘に勢いがつくことは確実だ。 もちろん首相にとっての最大の難関は、7月下旬に予定される参院選だ。今年7月、国会で定数6増(選挙区2比例代表4)を盛り込んだ公職選挙法改正が成立したことで、来夏の参院選の改選は124議席(同74同50)となる。 今回改選の対象となる2013年参院選では、自民党が2001年以降で最多となる65議席(同47同18)を獲得、特に1人区では自民が29勝2敗と完勝した。自民党は2016年参院選でも56議席(同37同19)と圧勝して27年ぶりに単独過半数を回復し、憲法改正に前向きな一部野党も加えたいわゆる「改憲勢力」が、参院でも「3分の2」を超えた。 ただ、2019年の参院選以降の「3分の2勢力」維持には、2013年並みの自民大勝が必要だが、「現状では50議席台前半に留まる」(選挙専門家)との見方が多い。32の1人区で主要野党が統一候補を擁立すれば、「自民党は20議席獲得が精一杯」(同)とされ、残る13の複数区でも自民複数当選が見込めるのは1~2区しかない。 さらに、比例代表も2017年衆院選での各党の得票などから推計すれば、「自民が20議席を超えるのは困難」(自民選対)との見方が多く、自民合計議席は改選前を大幅に下回る50台前半というのが「常識的見方」(同)だ。その場合、参院全体で自民党は単独過半数を大きく割り込み、「改憲勢力3分の2」も消滅することになる。 第1次安倍政権で実施された前回の「亥年選挙」の参院選(2007年7月)では、自民党が37議席という歴史的惨敗を喫し、9月の首相退陣につながった。それだけに首相は「何としても汚名をそそぎたい」と秘策を練っているとされる』、どんな秘策が出てくるのだろう。
・『「7.28同日選」も取らぬ狸の皮算用  そこで浮上してきたのが「衆参同日選」断行論だ。通常国会が1月28日召集となれば会期末は6月26日で、会期延長がなければ参院選は自動的に7月21日投開票となる。6月28、29両日にはG20首脳会合が大阪で開催されるが、首相はこれに合わせて来日する予定のプーチン・ロシア大統領との日ロ首脳会談で、「残された最大の外交課題」である日ロ平和条約締結と北方領土問題での「基本合意」に強い意欲を示している。 このため、永田町では「歴史的な日ロ合意を大義名分に、首相が“日ロ解散”に打って出る」(自民長老)との憶測も広がる。その場合は、短期会期延長による7月初旬解散・28日投開票という「7.28同日選」となる可能性が大きい。 過去2回行われた同日選はいずれも自民党が圧勝した。今回も「政権選択選挙となる衆院選をかぶせれば、野党選挙共闘は破綻する」(自民選対)との見方が多い。「野党共闘潰しの秘策で、首相の国政選7連勝となれば、参院選後の憲法改正実現にも弾みがつく」(細田派幹部)という期待もある。 ただ、“超難題”の北方領土問題で「歯舞・色丹の2島先行返還」への道筋すら明確にできなければ、「同日選どころではなくなる」(自民選対)ことも予想され、現時点では「まさに、取らぬ狸の皮算用」というのが実態だ。 そうした首相サイドの思惑を狂わせそうなのがアベノミクスの危機だ。25日の株価急落で「来年以降の世界経済減速の前触れ」(有力エコノミスト)との見方が広がり、日本経済への影響も深刻化する可能性が出てきたからだ。 ただ、25日を底に27日には株価が2万円を回復したこともあり、与党幹部は「世界経済は今のところ堅調」(岸田文雄自民党政調会長)、「日本のファンダメンタルズ(基礎的条件)はしっかりしている」(斎藤鉄夫公明党幹事長)と平静を装うが、政府部内には「1日で1000円もの急落はリーマンショック級で、年末以降も不安定な値動きが続くのは確実」(経産省幹部)との警戒感が広がっている。 これに対し、主要野党は「異常な金融緩和などで株価を支えてきたが、限界が露呈しつつある」(大塚耕平国民民主党参院議員会長)とアベノミクスの失敗が原因だと指摘、「消費不況が深刻化している。消費増税はあり得ない」(枝野幸男立憲民主党代表)と増税見送りも要求している。 菅義偉官房長官は記者会見で「リーマンショック級の事態が起きないかぎり、法律で定められたとおり来年10月から引き上げる予定だ」と繰り返したが、与党内には「来年も株価が低迷したままなら、首相が来年のG20を経て増税の延期や凍結を表明する可能性がある」(閣僚経験者)との声も相次ぐ。ただ、そうなれば「首相自身がアベノミクスの破たんを認めたことにもなる」(自民長老)だけに首相の責任問題も浮上する』、確かに北方領土交渉は、「二島先行」も難しくなりそうな雰囲気だし、アベノミクスの「化けの皮」が剥げつつあることも大きな打撃だろう。
・『安倍首相は自信満々も、経済に暗雲  そうした中、首相は連休明けの25日に記者団から第2次安倍政権満6年の感想を求められると「大変感慨深い。7年目を迎えても日々、国家国民のため全力投球で頑張っていきたい」と語るとともに、あえて第1次安倍政権にも言及し「非常に肩に力を入れて頑張ったが1年で終わった。あの挫折と経験が大切な肥やしになった」と自信満々の笑顔で振り返ってみせた。 しかし、政権の命綱でもあったアベノミクスが危機に瀕し、年明けから始まる日米貿易交渉でも「盟友」のはずのトランプ米大統領が首相を攻め立てる場面も想定される。任期中の実現を公約した「憲法改正」も実現の見通しは立たず、「政権のレガシー(遺産)」作りのための日ロ交渉も「失敗すれば安倍外交も失速する」(自民幹部)ことは確実だ。このため、首相の自信とは裏腹に「7年目の政権運営は内政外交とも八方ふさがり」(首相経験者)ともみえる。 来年の干支(えと)は己亥(つちのとい)で前回は1959年。その年に結婚された当時の皇太子が、60年後の2019年4月、天皇を退位されるという因縁も絡み、2019年は新時代の幕開けの年になる。さらに歴史を紐解けば、60年前は首相の祖父の故岸信介元首相が押し進めていた日米安保改定への反対運動で岸政権が揺れ、5000人以上の死者を出した伊勢湾台風に襲われた年でもある。 己亥は「足元を固めて次を目指す」との意味合いがあるとされるが、政権7年目の首相が足元を固めて、首尾よく2019年11月20日の「史上最長政権」にたどり着けるかは、なお予断を許さない』、「内政外交とも八方ふさがり」とは言い得て妙だ。2019年は経済面では厳しくなるが、安倍政権の崩壊がありそうなのは楽しみだ。
タグ:東洋経済オンライン ダイヤモンド・オンライン 高田 創 泉 宏 岩崎 博充 2019年展望 (アベノミクスの好循環が途切れた「3年前の悪夢」が2019年に再来か、日本が抱える2019年 7つの重大な経済リスク 五輪バブルが弾けるのは2019年後半か、2019年の安倍政権に渦巻く「7年目の不安」 選挙が目白押しの中 アベノミクスに危機) 「アベノミクスの好循環が途切れた「3年前の悪夢」が2019年に再来か」 2019年はこの好循環が「2016年」のように途切れる可能性がある 円安の好循環が途切れた「2016年の再来」の可能性 2019年についての最大のリスクシナリオは、2016年同様に想定為替レートを超える円高によって好循環が途切れることだ 世界経済は“足踏み状態” 中国の減速が最大のリスク 2016年と類似する2019年のリスク 原油価格下落のほかにも、Brexitをめぐる不透明感の強まりなどは、15~16年と共通 円高で日銀と財務省は「悪夢の再来」 財政金融政策の余力少ない 「2016年の再来」というリスクケースに陥った時に、対応する金融財政政策の余地が乏しい 過度な円高を回避するべく米国との十分なコミュニケーションを深めるとともに、日本国内での円高への過剰反応を抑えることも必要になるだろう 「日本が抱える2019年、7つの重大な経済リスク 五輪バブルが弾けるのは2019年後半か」 2019年には世界的な景気後退懸念をはじめとして、アメリカや欧州にはさまざまな不安要素にあふれている 大混乱の外的要因に加えて、日本国内の内的要因も日本には存在する 消費税、五輪バブル、世界同時株安 金融市場に大きな影響をもたらしそうな外的リスク ①合意なきブレグジットへの懸念 ②米中貿易協定交渉、念日米物品協定(TAG)などアメリカによる一連の保護貿易主義 ③FRBによる金利引上げ懸念 ④一連のトランプリスク 日本固有のリスクが爆発する? ①東京五輪バブルの崩壊が始まる ②消費税率アップによる景気減速リスク ③日銀の金融政策の機能不全 過剰な消費税率アップ対策、逆に景気抑制効果か? 景気が悪い中でのインフレ=スタグフレーションが2019年には心配される 日本が抱える最大のリスクは「財政赤字」! 「2019年の安倍政権に渦巻く「7年目の不安」 選挙が目白押しの中、アベノミクスに危機」 再登板から満6年を迎えた首相にとっても「不安がいっぱいの政権7年目」(側近)となることは避けられない 政治日程は窮屈、難題も多い 政治的ビッグイベントが目白押し 最大の難関は、7月下旬に予定される参院選 自民合計議席は改選前を大幅に下回る50台前半というのが「常識的見方」 「7.28同日選」も取らぬ狸の皮算用 歴史的な日ロ合意を大義名分に、首相が“日ロ解散”に打って出る “超難題”の北方領土問題で「歯舞・色丹の2島先行返還」への道筋すら明確にできなければ、「同日選どころではなくなる」 首相サイドの思惑を狂わせそうなのがアベノミクスの危機 年も株価が低迷したままなら、首相が来年のG20を経て増税の延期や凍結を表明する可能性がある そうなれば「首相自身がアベノミクスの破たんを認めたことにもなる」 首相の責任問題も浮上
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欧州難民問題(その7)(なぜ彼らはヨーロッパへ向かったのか? 難民ビジネスの実態と語られない不都合な真実、日本人が知らない欧米のきわどい「移民問題」 各国で移民や難民に対する寛容性に差、欧州「移民受け入れ」で国が壊れた4ステップ これから日本にも「同じこと」が起きる) [世界情勢]

欧州難民問題については、昨年3月1日に取上げたままだった。久しぶりの今日は、(その7)(なぜ彼らはヨーロッパへ向かったのか? 難民ビジネスの実態と語られない不都合な真実、日本人が知らない欧米のきわどい「移民問題」 各国で移民や難民に対する寛容性に差、欧州「移民受け入れ」で国が壊れた4ステップ これから日本にも「同じこと」が起きる)である。

先ずは、作家の橘玲氏が2017年5月19日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「なぜ彼らはヨーロッパへ向かったのか? 難民ビジネスの実態と語られない不都合な真実[橘玲の世界投資見聞録]」を紹介しよう。
http://diamond.jp/articles/-/128711
・『ハーシム・スーキは37歳の公務員で、地元の水道局に勤めていた。仕事はコンピュータ部門の責任者として住民に請求書を発行することだ。 2012年、ハーシムは突然逮捕され空港に連れていかれた。空軍が管理する国際空港の地下深くには数百人が押し込められた巨大な牢獄があり、毎日4~5人ずつが拷問室に連れ出され、独身男性は性器に電気ショックをかけられ、ハーシムのような既婚者は手首を縛られて12時間も吊るされた。 平凡な男がなぜこんな理不尽な目にあったかというと、ハーシムがダマスカスに住むスンニ派のシリア人だったからだ。 2011~13年にシリアの地下牢で1万1000人以上が拷問死したとされている。この驚くべき事実が明らかになったたのは、関係者によって遺体写真5万5000枚のデータが密かに国外に持ち出されたからだ。多くの遺体には殴られたり、首を絞められたり、電気ショックを受けたりした跡があった。目をくりぬかれた遺体もあった。 イギリスのジャーナリスト、パトリック・キングズレーの『シリア難民』の原題は“The New Odyssey ”だ。古代ギリシアの詩人ホメーロスの『オデュッセイア』では、英雄オデュッセウスの10年におよぶ漂泊が語られた。「現代のオデッセイ」では、ハーシムが故国を捨て、シリア難民となって単身スウェ-デンに渡り、家族を呼び寄せようと苦闘する姿が描かれている』、シリア問題はアサド政権の勝利で決着しそうだが、内乱が激化する前でもこんな酷い事件があったとは、難民の主要発生源になっているのも納得である。
・『「移民」と「難民」の線引き  イギリス『ガーディアン』紙の移民問題担当になったキングズレーは、ヨーロッパに難民が殺到する前から、彼らの状況を綿密に取材していた(その過程でハーシムに出会った)。難民とはどのようなひとたちで、何を目的にどのように海を渡ってヨーロッパを目指すのか。日本人がほとんど知らない移民ビジネスの内情も含めて紹介してみたいが、その前にまず、「移民immigrant」と「難民refugee」の使い分けについてすこし書いておきたい。 キングズレーは、移民とは「理由にかかわらず一つの国から別の国にやってくるひと」のことだという。だが本来は中立的なこの言葉をネガティブな意味で使うメディアが出てきた。移民とは「経済的な理由で故郷を捨てたひと」のことで、彼らは正規の手続きで居住ビザや就労ビザを取得すればいいのであって、特別な保護は必要ない。逆にいえば、こうした手続きをせずに居住・就労するのはすべて「不法移民」だ。 こうした批判に対抗して、リベラルなメディアは、戦争・内戦や圧政から逃れてきたひとたちを「難民」と呼ぶようになった。彼らはやむをえない事情で国を離れなければならなくなったのだから、面倒な手続きなしに人道的な保護の対象になるのだ。 このようにして、「難民」のことを「移民」と呼ぶのは「政治的に正しくない(反PC)」とされるようになった。「シリア移民」という呼称は、「カネが目的でやってきた連中なんだから、厳格な審査をして、基準に満たなければ問答無用で国に返せばいい」という主張を含意するのだ。 だがキングズレーは、こうした事情を認めつつも、「移民」と「難民」を区別することに危惧を表明する。移民問題を専門に取材してきた彼からすれば、「移民」と「難民」のあいだには広大なグレーゾーンがあり両者を見分けることはほとんど不可能だ。「難民には保護を受ける権利があるが移民にはない」という決めつけは、気に入らない人間や集団に「移民」のレッテルを貼り排斥することにつながるだろう。 中近東やアフリカから多くのひとたちがヨーロッパを目指すのは、家族と安心して暮らしたいからでもあり、経済的に生きていけないからでもある。ほとんどの場合、こうした事情は重なりあっているから、両者を無理矢理区別しようとすると、恣意的な線引きが新たな差別を生むことになる。 だが現実には、シリアの凄惨な内戦から逃れてきたハーシムのようなひとたちを「移民」と呼ぶのは違和感があるので、本稿でもキングズレーの指摘に留意しつつ、「移民」と「難民」を使い分けることにしたい』、「移民」と「難民」の違いが改めてよく理解できた。
・『「リビアには2つの海がある」  アフリカからヨーロッパへの密入国を扱う運び屋は、「リビアには2つの海がある」という。ひとつは地中海、もうひとつはサハラという「砂の海」だ。 サハラ砂漠を渡るには、大きく2つのルートがある。 ひとつは西アフリカから(リビアの南の)内陸の国ニジェールのアガデスを経由するルートで、国境を越えてリビアの地中海沿岸の町まで直線距離でおよそ1600キロある。このルートを使うのは、ナイジェリア、中央アフリカ、コンゴ共和国などのひとたちだ。 もうひとつが東アフリカからスーダンの首都ハルツームを経由するルートで、こちらはリビア南東の国境を越えて地中海まで2000キロ近くある。このルートを使うのは主に、紅海沿岸のエリトリアから圧政を逃れてきたひとたちだ。 「砂の海」は、荒れた地中海同様に危険に満ちている。だが砂嵐に埋もれたり、盗賊に襲われて砂漠に置き去りにされても発見されることはほとんどないので、どれくらいの遭難者がいるのかはわからないままだ。 密入国の運び屋は中古の4WDに限界まで乗客を詰め込んでサハラを渡る。キングズレーの調査では、アガデスからリビアまでの相場が1人15万西アフリカフランCFA(約2万7000円)。ただし値段は時期や業者によって大きく異なり、倍の500ユーロ(約5万9000円)払ったというひともいれば、30人グループで1人わずか5万CFA(約9000円)ということもある。 こうした相場から概算すると、アガデスからリビアまでの1回の旅で運び屋は450万CFA(約81万円)、1年で25万ポンド(約3865万円)を売り上げる。アガデスの運び屋ビジネスの「市場規模」は年1600万~1700万ポンド(約24億7000万~26億3000万円) で、そこに警官への賄賂100万ポンド(約1億5500万円)が加わる。彼らが運び屋ビジネスに手を染めるのは需要があるからと、ほかに仕事がないからだ。 運び屋の拠点であるニジェールもまた、アフリカの「失敗国家(脆弱国家)」のひとつだ。政府首席顧問は、キングズレーの取材に次のようにこたえた。「反政府活動のせいで、観光客はアガデスまで来なくなり、手工芸品は売れなくなった。多くの人が転職を余儀なくされた。職人は庭師になった。運び屋になった者もいる」』、ここでの運び屋への支払いはリビア海岸までなので、ヨーロッパに行くにがさらにかかるとなると、大変だ。
・『リビアからヨーロッパを目指した密航船に乗っていたのは西アフリカから来ていた出稼ぎ労働者だった  リビアからイタリアへと地中海を渡る密航の拠点となるのはトリポリの西、チュニジアとの国境ちかくにあるズワラという町だ。モロッコやアルジェリアなど北アフリカの他の国々と同じく、リビアもアラブ系とベルベル系の人種が混在しているが、ズワラはベルベル人の町だ。 この漁村からヨーロッパを目指すのは、サハラ砂漠を渡ってきたひとたちだけではない。アフリカ人を満載した密航船の映像がニュースで頻繁に流されたが、彼らの多くはじつはリビアに出稼ぎに来ていたのだとキングズレーは指摘する。 2011年の革命まで、カダフィ大佐の独裁下にあったリビアは、西アフリカの貧困地域のひとたちにとっては安定した出稼ぎ先だった。だがそのリビアが内戦状態になったことで、彼らは誘拐や恐喝のリスクにさらされることになった。 だったら故国に帰ればいいではないか、と思うだろうが、スーツケースひとつで空港に行って飛行機に乗る、というわけにはいかない。南に向かうにしても、そこにはサハラという「砂の海」が横たわっており、無事に故郷に辿りつけても仕事はない。だとすれば、どっちにしても危険なことには変わりないのだから、地中海を渡ってヨーロッパを目指したほうがマシだと考えるのも無理はない。このようにしてリビアから、大量の出稼ぎアフリカ人たちが密航船に乗り込むことになったのだ』、リビアからの難民には、サハラ砂漠を横断してきた人たちだけでなく、リビアに来ていた出稼ぎアフリカ人たちもいたとは初めて知った。
・『ギングズレーの取材では、2015年の時点で、サハラ以南のアフリカ人の密航料金は最高1000ドルで、彼らより裕福なシリア人は2500ドルだった。料金に応じて、アフリカ人は 船倉に押し込められ、シリア人は甲板に座ることができる。 もっとも多く使われるのは船長17メートルほどの漁船で、乗せられるのは300人が限度だが、業者はそこに700人から800人を詰め込む。「ゾディアック」と呼ばれるゴムボートは短距離用で定員20~30人にもかかわらず、100~150人がすし詰めにされて外洋に向かう。いずれも転覆したら助かる可能性はなく、「浮かぶ棺桶」以外のなにものでもない。 1人1000ドルで1隻のゾディアックに100人を乗せれば、1回の旅で運び屋は10万ドル(約1100万円)を売り上げる。そこから船の調達費(1隻1万1000ディナール=約102万円)とエンジン代、移民たちを待機させる倉庫の費用を差し引くと8万ドル(約900万円)。その利益を港を支配している民兵組織と折半しても、密航業者の手元には4万ドル(約450万円)が残る。漁船ならさらに利益は大きく、1回の航海で18万ポンド(約2782万円)を密航業者と民兵組織で山分けする。 リビアのズワラを出向した船は、250キロほど離れたイタリア最南端の島ランペドゥーサを目指す。とはいえ、不安定な船で長距離を航海するわけではない。密航業者は乗客の一人にGPS発信機と衛星電話を渡し、リビアの領海を越えたらすぐに救難要請の電話をかけるよう指示するのだ。 遭難信号を受信したら、近くの船舶は救助に向かわなくてはならない。とはいえ、一般船舶が難民を救助するのは限界があるので、連絡を受けた救難センターは海軍や沿岸警備隊の船か、国境なき医師団などNGOの救援船に連絡をとることになる。こうして難民たちはシチリアなどの港に集められ、登録手続きを受けるのだ』、密航業者と民兵組織にとっては、濡れ手に粟のおいしいビジネスのようだ。
・『  ランペドゥーサ島は「世界一の絶景」で知られる北アフリカにもっとも近いイタリアの島で、領海警備と遭難船救助のための巨大な無線施設が立つ難民問題の最前線でもある。しかし島の日常は、私たちの想像とはまったくちがう。島民たちが難民に接触することはほとんどなく、すぐ近くで密航船が転覆して何百人も死んでいるのに、彼らの日々の生活はなにひとつ変わることなくつづいていく。 ベルリン映画祭金熊賞(グランプリ)に輝いたジャンフランコ・ロージ監督のドキュメンタリー『海は燃えている』は、ランペドゥーサ島の12歳の男の子を主人公に、生命がけで地中海を渡る難民たちと、島の平和な生活との対比を描いている。この映画が強い印象を与えたのは、逆説的だが、「難民問題の最前線」でなにひとつ事件らしきことが起きないからだ。なぜなら、難民たちはこんな島になんの興味もなく素通りしてしまうのだから。 こうした事情は『シリア難民』でも描かれている。リビアから密航船に乗り込んだハーシムはイタリア沿岸警備隊に救助され、シチリア島東岸のカターニア港で簡単な審査を受けたあと、バスに乗せられ、えんえん18時間かけてイタリア北部のベニスの施設に連れて行かれる。そこで難民たちは、北のヨーロッパへの玄関口であるミラノ駅への行き方を教えられるのだ。 イタリアで難民が大きな社会問題にならないのは、ランペドゥーサ島と同じだ。彼らはただ素通りするだけなのだから、救助したあとは「人道的」にどんどん北の国境近くまで運び、国外に出て行ってもらえばいいのだ。いまや豪華なミラノ駅は、難民があまりに増えたため、天井の高いアトリウムの中二階を難民の待ち合わせや待機のために開放しているという。 EUはシェンゲン協定で人の移動が自由化されているから、いったんイタリアに入国すれば、ビザやパスポートがなくてもスウェーデンに行くのは簡単そうに思える。だが、ハーシムの旅の困難はイタリアを出国しても終わらない。 スイスやオーストリアでは、警察が列車に乗ってきて乗客を調べることがある。そこでビザがないことがわかって拘束されると、これまでの努力が無駄になってしまう。スウェーデンは、他国で難民登録した者を受け入れないのだ。 そのリスクを避けるには、ミラノからスウェーデンのマルメまで1人875ユーロ(約10万円)で運ぶ白タクを利用する方法もある。だが業者は、契約時点で半額を前払いするよう求めるので、ぎりぎりの予算で旅をする難民たちはなかなか決断できず、けっきょく鉄道を使うことになるのだという。 ここで役に立つのが、SNSでの情報交換だ。どのルートで警察の検問があり、どのルートが安全かを難民たちは血眼で調べている。ハーシムもミラノから直接ドイツに入るルートは危険だと判断し、ニースからパリを経由してドイツに行き、そこからスウェーデンを目指した。 スウェーデンが難民たちの「ユートピア」になったのは、難民認定されると短期間で家族を呼び寄せることができるからだ。地中海を渡るのは危険なので、ハーシムも家族を連れた旅を諦め、妻子をエジプトに残して一人での密航を余儀なくされた。エジプトで妻もわずかな貯金をやりくりしてぎりぎりの生活をしているから、なんとしてもスウェーデンにたどり着かなくてはならなかったのだ。 その結果、スウェーデンには難民が殺到することになり、さしもの「人道国家」も音を上げて、現在はデンマークからの鉄道や道路で厳重な検問を行なうことになった。これはシェンゲン協定に抵触するが、難民をほとんど受け入れていない他国はこの措置に文句をいうわけにもいかず黙認している』、イタリアなどの途中の国は通過するだけなので、問題にならないとはその通りなのだろう。難民たちがSNSで情報交換しているとは、現代的だ。
・『家族でヨーロッパに渡ってきた難民は比較的裕福  2015年にヨーロッパで難民が大問題になったのは、シリアからトルコ経由でギリシアに渡るひとたちが押し寄せたからだ。それまではリビアから地中海を渡ってイタリアを目指したのに、なぜ彼らはギリシアルートに切り替えたのか。キングズレーによれば、ここでもSNSが決定的な役割を担っている。 バックパッカーは、旅行ガイドブックとちがう旅のルートを開拓すると、自慢話も兼ねてそれをインターネット上に写真つきで詳細に紹介する。それと同様に、シリアからトルコ経由でギリシアに渡った初期の移民たちが、自分の体験をフェイスブックやワッツアップに投稿した。 ヨーロッパを目指すひとたちにもっとも多く読まれたホームページには、こう書かれていたという。 「君は悩むだろう。自力で行くべきか、それとも密航業者を探すべきか、と。誰もが同じ問いにぶつかる。わかっておかなくてはいけないのは、すべてのルートが確実というわけではないし、密航業者を使っても意図した場所に行けるとは限らないことだ。その理由をよく調べること。それをやったら、あとは神に任せること。……個人的には、自力で行くことをお勧めする」 このルートの魅力は、トルコからエーゲ海を越えてギリシアに渡る費用が1人1000ドルと、地中海ルートの半額以下なことだ。だがもっと大きなちがいは、トルコ側の密航の拠点であるイズミルからギリシアのレスボス島までは50キロほどしなく、それもトルコ沿岸を進んで外洋には出ないので、地中海に比べてはるかに安全なことだ。 こうして、シリア国内に留まっていたひとたちが、このルートなら最初から家族で旅することができると考えて続々と出国を始めた。2015年には500人以上の難民がエーゲ海で溺死し、クルド人の男の子アラン・クルディがトルコの海岸に打ち上げられた写真が世界に配信されて衝撃を与えたが、この悲劇は「子ども連れでも安全」と思ったからこそ起きたのだ。 ギリシアのレスボス島に上陸した難民の扱いは、イタリアのランペドゥーサ島と同じだ。島民たちはただ通り過ぎていくだけの難民にほとんど興味を持たず、徒歩で港を目指す彼らに同情した島民が自分の車で運んでやるくらいだ。 レスボス島に上陸する難民を救ける地元のひとたちの映像がニュースで繰り返し流されたが、キングズレーによれば、救援活動の中心になっているのは島に移住したイギリス人夫婦だという。彼らのことをイギリスのメディアが「エーゲ海の天使」と報じたことで、続々とボランティアが集まってきた。ヨーロッパからの観光客が救援活動に参加することもあるというが、いずれも「地元のひと」ではない。 ギリシアの島に無事上陸すると、難民たちは仮登録のあとギシリア本土に渡り、そこからバスで北の国境まで送られる。国境を越えてマケドニアに入ると、列車でセルビアを北上し、ハンガリーとの国境まで行く。ハンガリーはEU加盟国なので、ここで国境を越えることさえできれば、あとはドイツでも北欧でも好きなところに行くことができる。 こうして数万の難民がハンガリー国境に殺到し、驚いた政府は「洪水を食い止める必要がある」として国境にフェンスをつくった。すると難民たちは西のクロアチアを目指し、スロベニア、オーストリアへと難民危機は広がった。私たちが目にした、乳母車を押しながら歩く疲れ果てた難民の映像はこの時期に撮られたものだ。 こうしたニュース映像から「戦火に追われた貧しく哀れなひとたち」を想像するだろうが、エーゲ海を渡る料金が一人1000ドルなのだから、5人家族で旅をしようとすれば100万円ちかいキャッシュが必要になる。このことからわかるように、彼らは弁護士、医師、エンジニアなどシリアの裕福なひとたちで、パスポートとビザがあればダマスカス空港から飛行機でヨーロッパに来ることができた。その方途が閉ざされたので、仕方なく困難な陸路の旅をしているのだ(これはすなわち、旅をするお金を工面できないひとたちがまだシリアに残されている、ということだ)』、「旅をするお金を工面できないひとたちがまだシリアに残されている」というのは、まだまだ難民の流れが止まる気配はないのかも知れない。
・『ヨーロッパ各国が共同して第三国定住難民の受け入れ枠を最低100万人まで増やす必要がある   『シリア難民』でキングズレーは、難民はヨーロッパだけの問題ではないと述べる。レバノンは人口450万人ほどの小国だが、2015年の時点で、約120万人ものシリア難民を受け入れている(5人に1人がシリア難民)。トルコには200万人、ヨルダンには60万人のシリア難民がおり、エジプトの登録者は14万人だが実際にはその倍が暮らしているとされる。危機前のシリアの人口は1800万人で、そのうち中東諸国に避難した人々は400万人に達する。 ヨーロッパの国でも、難民の受け入れには大きな差がある。スウェーデンはヨーロッパに来た難民80万人のうち7人に1人を受け入れたが、その結果、移民排斥を唱える国民党が大きく支持率を伸ばし、最大野党の保守党がシリア人への永住権付与の廃止を提案したことで、社会民主党を中心とする中道左派政権も移民に厳しい政策をとらざるを得なくなった。 シリアの内戦に終わりが見えないなか、この混乱をいったいどう収拾すればいいのだろう。 キングズレーは、EUやヨーロッパが行なっている難民対策はなんの効果もないという。生きる術がないひとたちは、どんな危険を冒してでも海を渡ろうとする。国民に受けのいい「移民に厳しい政策」は、いたずらに溺死者を増やすだけだ。 難民がヨーロッパを目指すのは、中東諸国ではキャンプに収容されるだけで、働くことも子どもを学校に行かせることもできないからだ。トルコやレバノン、ヨルダンなどが難民の就労を認めないのは、そんなことをすれば国民の職が奪われて社会が不安定化すると恐れているからだ。 そこでキングズレーは、この問題の解決には、ヨーロッパ各国が共同して第三国定住難民の受け入れ枠を最低100万人まで大幅に増やすことが必要だという。ヨーロッパが難民を引き受けるとわかれば、中東の国々は、短期的には難民の就労や就学を認めても大丈夫だと安心するだろう。そのうえで全EU加盟国の難民保護システムを同じ水準にすれば、難民の側もよりよい国を求めて右往左往することはなくなる。 もっともキングズレーが認めるように、こうしたシステムが日の目を見る可能性は非常に小さい。イギリスやフランス、オランダなどで右派ポピュリズムが吹き荒れる様子を目にした以上、いまやどの国の政府も難民を積極的に受け入れることはできないのだ。 生命がけでスウェーデンに渡ったハーシムは、しばしばシリアでの幸福な日々を思い出す。金曜日になるとアンズの木の下で、家族や友だち一家とピクニックをした。 ヨーロッパのゆたかな国はいま、トルコやヨルダン、レバノンに補助金を払い、難民をキャンプに押し込めて溢れ出ないようにしている。だとしたらシリアのアサド、リビアのカダフィ、イラクのフセインなどの独裁者にカネを渡して、国民を国内に監禁しておいてもらった方がずっとマシだっただろう。 もっともEUの政治家や官僚は、ぜったいにこのことを認めないだろうが』、難民キャンプにいるシリア難民が400万人というのでは、確かに「独裁者にカネを渡して、国民を国内に監禁しておいてもらった方がずっとマシだっただろう」というのは、その通りだ。キングズレー氏の解決策なるものは、現実味を欠いているようだ。欧州は、来年も難民問題で悩まされることになりそうだ。

次に、みずほ総合研究所 欧米調査部長の安井 明彦氏が7月19日付け東洋経済オンラインに寄稿した「日本人が知らない欧米のきわどい「移民問題」 各国で移民や難民に対する寛容性に差」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/229966
・『7月中旬に欧州を歴訪したドナルド・トランプ米大統領は、現地でもトランプ節全開だった。NATO(北大西洋条約機構)首脳会議にあわせて訪れたベルギーでは、NATO加盟国に国防費の増額を突きつけたと思えば、ロシアからのエネルギー輸入を進めるドイツを「ロシアの捕虜のようなものだ」と批判するなど、同盟関係のほころびを感じさせる言動を重ねた。 続いて訪問した英国でも、EU離脱(ブレグジット)を巡る閣内不和にメイ首相が苦慮している最中に、「メイ首相が(EUと)結ぼうとしている協定は、(ブレグジットを決めた)国民投票の結果とは異なる」「自分であれば別のやり方をしただろう」と言い放つなど、火に油を注ぐような発言を行った』、ドイツや英国にとって、トランプ米大統領は余計な波風を立てるだけの迷惑極まりない存在のようだ。
・『欧州の難民問題にあえて口を挟んだ  中でも目を引いたのが、欧州の難民問題への口出しである。トランプ大統領は、NATO首脳会議に関する記者会見で、「欧州は移民に乗っ取られようとしている。EUは気をつけなければならない」と述べた。英サン紙とのインタビューでも、「欧州が何百万人もの人(難民)を受け入れているのは悲しいことだ」「(難民によって欧州は)伝統的な文化を失いつつある」と持論を展開している。 欧州の難民問題は、NATO各国の国防費や、将来的な米英のFTA(自由貿易協定)交渉にも影響があるブレグジットと比べ、米国との直接的な利害関係は定かではない。まして、ドイツでメルケル政権が深刻な閣内対立に陥る原因になり、EUでもイタリアなどの難民に厳しい国とドイツなどとの対立が表面化しているなど、政治的には繊細な論点である。 それにもかかわらずトランプ大統領は、欧州の域内・国内問題に、あえて口を挟んだ。そこから浮かび上がるのは、欧米の違いを問わず、移民・難民問題が社会を切り裂く断層になっている現状である。 米欧の違いを問わず、移民・難民への対応については、政治的な立場による意見の乖離が大きい。欧州の一部には、移民に厳しいトランプ大統領の政策に共鳴する雰囲気が感じられる。 欧州各国では、概して右寄りの政党を支持する国民は難民に厳しく、左寄りの政党を支持する国民は難民に寛容だ。2017年に米ピュー・リサーチ・センターが行った世論調査によれば、英国、ドイツ、フランスといった主要国では、「難民の大量流入は重大な脅威である」と答える割合は、3割台に止まっている。しかし、これを支持政党別に集計すると、右寄りの政党を支持する国民は、その半数程度が難民を脅威と感じており、1~2割しか問題視していない左寄りの政党支持者と、大きく乖離している。 一方で、支持政党による差が小さい国は、そもそも国全体として難民の流入を脅威と感じる傾向が強い。イタリア、ハンガリー、ポーランドといった国では、支持政党の違いにかかわらず、5~6割の国民が難民の大量流入を重大な脅威だと認識している。国内での意見の差こそ小さいが、主要国との分断は深い』、欧州のリベラリズムはどうやら風前の灯のようだ。。
・『そもそも欧州は米国より難民寛容度が低い  そこには、移民・難民への懸念を手掛かりに、トランプ大統領と欧州の右派が共鳴し、欧州域内・国内の分断が深まる可能性が指摘できる。実際にトランプ大統領は、大規模な反トランプデモが計画されている英国を訪れるに当たり、「英国民は、わたしのことを大好きなはずだ。彼らは移民問題でわたしに同意しているし、そもそも移民問題こそが、ブレグジットの理由だったはずだ」と述べている。 トランプ大統領の米国第一主義を支えたスティーブ・バノン前首席戦略官は、トランプ大統領の訪英にあわせ、ロンドンで欧州各国の右派政党要人と会談を持ったとも報じられている。 興味深いのは、難民に脅威を感じる傾向が強い国は、相対的に米国に好意的である点だ。同じくピュー・リサーチ・センターの調査では、英国、ドイツ、フランスでは、「米国の力に脅威を感じる」とする回答が3割を超えている。とくにドイツと英国では、中国よりも米国を脅威と感じる回答の方が多かった。その一方で、ハンガリー、イタリア、ポーランドでは、米国を脅威と感じる割合は2割程度に止まっている。 そもそも欧州は、米国と比べて人種の多様性への寛容さに欠ける。2016年にピュー・リサーチ・センターは、人種や国籍の多様性が自国に与える影響に関して、国際的な世論調査を行った。米国の場合には、多様性を肯定的にとらえる回答が約6割となり、否定的な見解は1割に満たなかった。 ところが欧州では、英国、フランス、ドイツといった主要国ですら、多様性を肯定的に評価する回答は2~3割に過ぎず、否定的な回答と拮抗している。ハンガリー、イタリア、ポーランドといった難民への警戒心が高い国になると、4~5割が多様性を否定的にとらえている。 フランスの優勝で幕を閉じたサッカーのワールドカップでは、勝ち進んだ欧州のチームに多様な人種のメンバーが含まれていた点が注目されている。しかし、世論調査の結果を見る限り、サッカーチームの多様性が、そのまま欧州の寛容さを示しているわけではなさそうだ。 意外かもしれないが、米国は欧州よりも移民・難民に寛容なだけではなく、寛容さの度合いが高まる傾向にある。1994年にピュー・リサーチ・センターが行った世論調査では、「移民は米国を強くする」という回答は3割程度であり、「移民は米国の負担になる」という回答が6割強を占めていた。ところが2017年の調査では、「米国を強くする」との回答が6割を上回り、「負担になる」との回答は3割弱に止まっている』、「そもそも欧州は米国より難民寛容度が低い」というのは、米国が元々移民国家であることからすれば、その通りだろう。。
・『米国の問題は支持政党による見解相違の拡大  むしろ米国の問題は、支持政党による見解の相違が拡大している点にある。2017年の調査では、民主党支持者の8割強が「移民は米国を強くする」と回答しているのに対し、共和党支持者では同様の回答が4割強となっている。1994年の調査では、いずれの政党の支持者も3割強が「移民は米国を強くする」と回答しており、支持政党による違いは拡大している。欧州主要国と比べると、総じて移民・難民には好意的だが、支持政党による意見の分断は、欧州より深いのが現実である。 米国では、支持政党による分断の深まりによって、移民問題が政治的な争点になりやすい環境が生み出されている。対立政党との違いが打ち出しやすく、この問題に注目が集まると、有権者の投票意欲が盛り上がりやすいからだ。 2016年の大統領選挙でも、移民に対する厳しい姿勢は、トランプ大統領の勝利を決定づけた重要な要因だった。共和党の予備選挙でトランプ大統領は、あらゆる州で移民問題を重視する有権者から他候補を上回る支持を得た。 ヒラリー・クリントン元国務長官との対決となった本選挙では、移民問題を重視する有権者の6割強が、トランプ大統領を選んでいる。トランプ旋風の背景としては、白人ブルーカラーの経済的な不満が指摘される。しかし実際には、経済問題を重視した有権者の5割強は、クリントン候補を選んでいた。 11月6日に投開票が行われる米国の中間選挙でも、移民問題への注目度は高い。ワシントンポスト紙が行った世論調査によれば、2割程度が移民問題を中間選挙の最大の争点にあげている。これは医療保険と同じ程度の注目度であり、経済・雇用問題に次ぐ注目度の高さである。さらに共和党支持者に限れば、3割弱が移民問題を最重要課題にあげており、経済・雇用問題を上回り、最も関心の高い論点になっている。これとは対照的に、通商問題を中間選挙の最重要課題とする回答は、いずれの政党の支持者でも5%に満たず、圧倒的に注目度は低い。 実際に、移民問題を巡る論戦は熱を帯びてきた。民主党は、トランプ大統領による不法移民の取り締まり強化を猛烈に批判している。現場で不法移民の取り締まりを担当するICE(移民税関捜査局)の廃止など、極端な政策を主張する候補者も少なくない。 一方の共和党陣営は、不法移民の取り締まりは定められた法律を執行しているに過ぎず、ICE廃止等の民主党の主張は、国境警備の放棄につながる暴論だと批判する。「国境がなければ、国は存在しない」というのが、トランプ大統領の決まり文句である』、中間選挙で下院は民主党が勝利したとはいえ、中南米からの大量移民の流れなどもあって、米国でも移民問題は大きな争点になっているようだ。
・『メキシコから来る人より、行く人の方が多い  ところで、米国と欧州が似通っているのは、移民・難民問題による国内の分断だけではない。「米国の移民、欧州の難民」という区別も、実態に即さなくなってきている。 従来の米国では、移民の主な流入先はメキシコであり、経済的に豊かな生活を求める「移民」としての性格が強かった。シリアなどの内戦が続く国から逃れてきた欧州の難民とは、色合いの違いがあった。 ところが最近の米国では、移民の流入先が変わってきている。増えているのは、エルサルバドル、ホンジュラス、グアテマラといった、政情不安を抱える中米の国々からの流入であり、メキシコとの人の行き来は、むしろ米国からの流出超になっているもようである。 「北のトライアングル」といわれる中米の国々からは、国内の治安の悪さなどを逃れようとする人々が、米国を目指している。移民というよりは、難民の性格が強い人たちだ。最近では、やはり治安が悪化しているベネズエラからも、米国を目指す難民が増えつつあるという。 難民の多寡は、流出元となる国の政情の安定に左右される。外交問題にもなり得る論点であり、容易に解決策は見いだせない。難民の受け入れが招く国内・域内の分断のみならず、米欧が向き合わなければならない課題は重い』、「メキシコとの人の行き来は、むしろ米国からの流出超になっている」というのは初めて知った。メキシコ経済が力をつけたからなのだろう。中間選挙時に大きく取り上げられた中南米からの大量移民の流れは、最近は殆ど報道がないが、一体どうなっているのだろう。

第三に、 政治学者で九州大学大学院比較社会文化研究院准教授の施 光恒氏が12月30日付け東洋経済オンラインに寄稿した「欧州「移民受け入れ」で国が壊れた4ステップ これから日本にも「同じこと」が起きる」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/256915
・『出入国管理法改正案が、12月8日、参議院本会議で可決、成立した。これにより、今後5年で外国人単純労働者を最大約34万人受け入れることが見込まれ、2025年には50万人超を受け入れることも視野に入れていると言われている。 本稿では第2次大戦後、直近では「アラブの春」やシリア内戦以降、欧州による大量の移民受け入れによってどのような深刻な問題が生じたかを描いた『西洋の自死移民・アイデンティティ・イスラム』を気鋭の政治学者が解説。実質的な「移民法」で、日本がどのようにして移民国家化へ進むのかを予測する』、これまで移民を強く制限してきた日本も、移民問題がいよいよ「他人事」ではなくなったようだ。
・『「平和ボケ」が「国のかたち」を変えてしまう  改正出入国管理法が国会で可決され、外国人単純労働者の事実上の受け入れが決まった。今後5年間で最大約34万人の受け入れを見込んでいる。2025年までに50万人超を受け入れるという話もある。 事実上、日本の移民国家化に先鞭をつけかねない、つまり「国のかたち」を変えてしまいかねない重要法案であったにもかかわらず、審議は拙速だった。衆参両院の法務委員会での審議は合計38時間にとどまった。たとえば、今年7月のカジノ解禁に関する法案(IR実施法案)の可決に比べても審議は短かった。 周知のとおり、欧州をはじめ、移民は多くの国々で深刻な社会問題となっている。にもかかわらず外国人単純労働者を大量に受け入れようとするのであるから、受け入れ推進派は最低限、欧州のさまざまな社会問題から学び、日本が移民国家化しないことを十分に示さなければならなかった。現代の日本人はやはり「平和ボケ」しており、移民問題に対する現実認識が甘いのではないだろうか』、「平和ボケ」は本来はリベラル左派を批判する際に使われる言葉で、今回のように推進している政権やそれを支える層に向けた言葉としては違和感を感じる。
・『そんななか、欧州諸国の移民問題の惨状を描き、話題を呼んだ1冊の本の邦訳が先頃出版された。イギリスのジャーナリストであるダグラス・マレー氏が著した『西洋の自死――移民・アイデンティティ・イスラム』(中野剛志解説、町田敦夫訳、東洋経済新報社)である。 欧州諸国は戦後、移民を大量に受け入れた。そのため、欧州各国の「国のかたち」が大きく変わり、「私たちの知る欧州という文明が自死の過程にある」と著者のマレー氏は警鐘を鳴らす。 昨年、イギリスで出版された原書は、350ページを超える大著であるにもかかわらず、ベストセラーとなった。その後、欧州諸国を中心に23カ国語に翻訳され、話題を巻き起している。イギリスアマゾンのサイトでみると、現在、レビューが750件以上もついており、平均値は4.8である。イギリス人に大きな支持を受けているのがわかる。 著者は本書の冒頭に次のように記す。「欧州は自死を遂げつつある。少なくとも欧州の指導者たちは、自死することを決意した」。「結果として、現在欧州に住む人々の大半がまだ生きている間に欧州は欧州でなくなり、欧州人は家(ホーム)と呼ぶべき世界で唯一の場所を失っているだろう」。 本書では、「英国をはじめとする欧州諸国がどのように外国人労働者や移民を受け入れ始め、そしてそこから抜け出せなくなったのか」「その結果、欧州の社会や文化がいかに変容しつつあるか」「マスコミや評論家、政治家などのインテリの世界では移民受け入れへの懸念の表明がどのようにして半ばタブー視されるように至ったか」「彼らが、どのような論法で、一般庶民から生じる大規模な移民政策への疑問や懸念を脇に逸らしてきたか」などが詳細に論じられおり、非常に興味深い』、なるほど。
・『入れ替えられる欧州の国民と文化  イギリスをはじめとする欧州各国では、大量移民の影響で民族構成が大きく変わりつつある。本書で挙げられている数値をいくつか紹介したい。各国のもともとの国民(典型的には白人のキリスト教徒)は、少数派に転落していっている。 2011年のイギリスの国勢調査によれば、ロンドンの住人のうち「白人のイギリス人」が占める割合は44.9%である。また、ロンドンの33地区のうち23地区で白人は少数派である〔ちなみに、この数値を発表したイギリスの国家統計局のスポークスマンは、これはロンドンの「ダイバーシティ」(多様性)の表れだと賞賛したそうである!〕。 ロンドンではすでに数年前に白人のイギリス人は少数派になっているのだ。2014年にイギリス国内で生まれた赤ん坊の33%は、少なくとも両親のどちらかは移民である。オックスフォード大学のある研究者の予測では、2060年までにはイギリス全体でも「白人のイギリス人」は少数派になると危惧されている。 スウェーデンでも今後30年以内に主要都市すべてでスウェーデン民族は少数派になると予測されている。国全体としても、スウェーデン民族は現在生きている人々の寿命が尽きる前に少数派になってしまうと推測される。 民族構成が変わるだけでなく、欧州諸国の文化的・宗教的性格も変容する。イギリス国民のキリスト教徒の割合は、過去10年間で72%から59%と大幅に減少し、2050年までには国民の3分の1まで減る見込みだ。 2016年にイギリスに生まれた男児のうち、最も多かった名前は「モハメッド」であった。 同様に、ウィーン人口問題研究所は、今世紀半ばまでに15歳未満のオーストリア人の過半数がイスラム教徒になると予測している。オーストリアは、それ以降、イスラム国家になる可能性が高いといってもいいだろう』、ロンドンは英国内でも最も多民族化が進んでいるが、「2060年までにはイギリス全体でも「白人のイギリス人」は少数派になると危惧」、「今世紀半ばまでに15歳未満のオーストリア人の過半数がイスラム教徒になると予測」、などは確かにショッキングな予測だ。「2016年にイギリスに生まれた男児のうち、最も多かった名前は「モハメッド」であった」というのは、イスラム教徒が子供に付ける名前はそれに集中しがちだが、「白人のイギリス人」の場合は分散しているということで、大騒ぎするのはどうかと思う。
・『欧州社会を統合していたキリスト教の信仰は風前の灯火  著者は、欧州諸国でイスラム教徒の影響力が増大すれば、宗教や文化が大きく変容するだけでなく、政治文化も変わってしまうと懸念する。欧州が伝統的に育んできた言論の自由や寛容さが失われてしまうのではないかというのだ。 従来、欧州の知識人層は、移民出身者であっても、欧州で長年暮らすうちに自由民主主義的価値観になじみ、それを受容するはずだと想定していた。しかし、実際はそうではなかった。言論の自由や寛容さ、ジェンダーの平等などの価値を共有しようとはしない者は決して少なくないと著者は述べる。 たとえば、欧州ではイスラム教徒に対する批判を行うことはすでにかなりハードルが高くなっている。批判者が「人種差別主義者」「排外主義者」などのレッテルを貼られ、社会的地位を失いかねないからである。イスラム教徒の利害を守る圧力団体が欧州各地で数多く組織化されているという。あるいは、シャルリー・エブド事件など、イスラム教に不敬を働いたという理由で襲撃される事件もさほど珍しくない。 伝統的に欧州社会を統合していたのはキリスト教の信仰である。近代以降は、キリスト教的価値観が世俗化されたものとして「人権」などの自由民主主義の原理がそれに取って替わっていると考えられることが多かった。 移民の大規模な流入により、世俗化され、自由民主主義という原理によって結び付けられた欧州という前提が脅かされつつある。キリスト教の伝統、あるいは自由民主主義に支えられた基盤が掘り崩され、いわゆる欧州文明がこの世から消え去ってしまうのではないかと著者は大きな危惧を抱くのである』、欧州のテロが移民の二世、三世によって引き起こされていることから、彼らに自由民主主義の価値観を植え付けるのは難しいのかも知れない。「いわゆる欧州文明がこの世から消え去ってしまう」というのは、寂しいが、もともと文明は不変のものではなく、時代と共に変化していくと考えれば、やむを得ないのだろう。
・『本書の描き出す欧州の現状は、先ごろ改正入管法を国会で可決し、外国人労働者の大量受け入れを決めた日本にとってもひとごとではない。本書を読むと、移民の大規模受け入れに至った欧州の状況は、現在や近い将来の日本によく似ているのではないかと感じざるをえない。 たとえば、欧州諸国の移民大量受け入れを推進した者たちの論拠は次のようなものだった。「移民受け入れは経済成長にプラスである」「少子高齢化社会では受け入れるしかない」「社会の多様性(ダイバーシティ)が増すのでいい」「グローバル化が進む以上、移民は不可避であり、止められない」。 本書の第3章で著者は、これらの論拠について1つひとつ証拠を挙げながら反駁(はんばく)し、どれも説得力のないものだと示す。 だが、欧州の指導者たちは、1つが論駁(ろんばく)されそうになると別の論拠に乗り換え、一般庶民の懸念を巧みに逸らし、移民受け入れを進めてきた』、4つの論拠は改正入管法審議時にも聞いた。
・『同じことが日本でも起こる  この4つの論拠は外国人労働者や移民の受け入れ推進の主張として、日本でもよく耳にするものである。日本でも今後、推進派の政治家や学者、評論家、マスコミは、おそらく、これらの論拠を適当に乗り換えつつ、実質的な移民受け入れを進めていくのではないだろうか。 そのほかの点でも、本書が描き出す欧州の過去の状況をたどっていくと、今後の日本の外国人労働者や移民受け入れの議論がどのように展開するか、大まかな予測が可能ではないだろうか。 次のようなものだ。
 1:学者やマスコミは、「政治的な正しさ」(ポリティカル・コレクトネス)に過敏になり、移民受け入れに肯定的な見解や調査結果は積極的に報道する一方、否定的なものは、「報道しない自由」を行使し、大衆の耳に入りにくくする(たとえば、「移民受け入れは財政的に大きなマイナスだ」という研究結果は報道されない)。
 2:同様に移民の犯罪についても、「人種差別だ」というレッテル貼りを恐れて、警察もマスコミもあまりはっきりと犯人の社会的属性や事件の背景などを発表しなくなる。
 3:「ドイツのための選択肢」(AfD)といったいわゆるポピュリスト政党の躍進など移民受け入れを懸念する動きが一般国民の間に広がった場合、マスコミや政治家は、その第一の原因としての従来の移民受け入れ政策の是非をきちんと吟味することはせず、懸念を表明する人々のほうばかりに目を向け、ことごとく「極右」「排外主義」「人種差別」などと攻撃する。つまり、「問題そのものではなく、問題が引き起こす症状のほうを攻撃する」ようになる。
 4:こうしたことが続く結果、政治家や大手メディア関係者といったエリート層と一般国民の間の意識のズレがますます大きくなり、国民の分断が生じてしまう。
 西欧諸国に比べて、ハンガリーなどの東欧諸国は、近年、移民受け入れに対し断固たる抑制策をとることが多い。著者はこの相違に関して、過去の植民地主義や第2次大戦中のナチズムなどのために西欧諸国は、欧州の文化に対して自信を失い、贖罪意識を持っていると指摘する。自文化への自信の喪失や贖罪意識が、移民受け入れ政策を方向転換することができない理由の1つとなっているというのである。 自文化への自信の喪失や歴史的な贖罪意識という点でも、西欧諸国と日本は似ている。 改正入管法をめぐる日本の国会審議は、欧州の失敗例をほとんど分析せずに終わってしまった。手遅れになる前に、本書『西洋の自死』を多くの日本人が読み、欧州の現状や苦悩を知り、日本の行く末について現実感をもって考えてほしいと思う』、上記の1.~4.は確かに大いに懸念される。この記事は大いに参考になる。『西洋の自死』が出版されたのが、12月14日なのでしょうがない面もあるが、出来れば国会審議前にこの記事が出ていれば、審議を深められたのにと、残念に思う次第だ。
タグ:橘玲 東洋経済オンライン ダイヤモンド・オンライン 安井 明彦 欧州難民問題 トランプ米大統領 (その7)(なぜ彼らはヨーロッパへ向かったのか? 難民ビジネスの実態と語られない不都合な真実、日本人が知らない欧米のきわどい「移民問題」 各国で移民や難民に対する寛容性に差、欧州「移民受け入れ」で国が壊れた4ステップ これから日本にも「同じこと」が起きる) 「なぜ彼らはヨーロッパへ向かったのか? 難民ビジネスの実態と語られない不都合な真実[橘玲の世界投資見聞録]」 「移民」と「難民」の線引き 移民とは「経済的な理由で故郷を捨てたひと」のことで、彼らは正規の手続きで居住ビザや就労ビザを取得すればいいのであって、特別な保護は必要ない。逆にいえば、こうした手続きをせずに居住・就労するのはすべて「不法移民」だ 「難民」のことを「移民」と呼ぶのは「政治的に正しくない(反PC)」とされるようになった 「リビアには2つの海がある」 リビアから、大量の出稼ぎアフリカ人たちが密航船に乗り込むことになったのだ 難民たちの「ユートピア」スウェーデンに向かうひとたちの苦難 家族でヨーロッパに渡ってきた難民は比較的裕福 ヨーロッパ各国が共同して第三国定住難民の受け入れ枠を最低100万人まで増やす必要がある 「日本人が知らない欧米のきわどい「移民問題」 各国で移民や難民に対する寛容性に差」 欧州の難民問題にあえて口を挟んだ そもそも欧州は米国より難民寛容度が低い 米国の問題は支持政党による見解相違の拡大 メキシコから来る人より、行く人の方が多い 施 光恒 「欧州「移民受け入れ」で国が壊れた4ステップ これから日本にも「同じこと」が起きる」 改正出入国管理法 事実上、日本の移民国家化に先鞭をつけかねない、つまり「国のかたち」を変えてしまいかねない重要法案であったにもかかわらず、審議は拙速 ダグラス・マレー氏 『西洋の自死――移民・アイデンティティ・イスラム』(中野剛志解説、町田敦夫訳、東洋経済新報社) 欧州諸国は戦後、移民を大量に受け入れた。そのため、欧州各国の「国のかたち」が大きく変わり、「私たちの知る欧州という文明が自死の過程にある」 欧州は自死を遂げつつある。少なくとも欧州の指導者たちは、自死することを決意した 結果として、現在欧州に住む人々の大半がまだ生きている間に欧州は欧州でなくなり、欧州人は家(ホーム)と呼ぶべき世界で唯一の場所を失っているだろう 英国をはじめとする欧州諸国がどのように外国人労働者や移民を受け入れ始め、そしてそこから抜け出せなくなったのか その結果、欧州の社会や文化がいかに変容しつつあるか マスコミや評論家、政治家などのインテリの世界では移民受け入れへの懸念の表明がどのようにして半ばタブー視されるように至ったか 彼らが、どのような論法で、一般庶民から生じる大規模な移民政策への疑問や懸念を脇に逸らしてきたか 入れ替えられる欧州の国民と文化 各国のもともとの国民(典型的には白人のキリスト教徒)は、少数派に転落していっている ロンドンではすでに数年前に白人のイギリス人は少数派になっている 2060年までにはイギリス全体でも「白人のイギリス人」は少数派になると危惧 スウェーデンでも今後30年以内に主要都市すべてでスウェーデン民族は少数派になると予測 今世紀半ばまでに15歳未満のオーストリア人の過半数がイスラム教徒になると予測 欧州社会を統合していたキリスト教の信仰は風前の灯火 キリスト教の伝統、あるいは自由民主主義に支えられた基盤が掘り崩され、いわゆる欧州文明がこの世から消え去ってしまうのではないか 移民受け入れは経済成長にプラスである」「少子高齢化社会では受け入れるしかない 社会の多様性(ダイバーシティ)が増すのでいい グローバル化が進む以上、移民は不可避であり、止められない ものだ。  1:学者やマスコミは、「政治的な正しさ」(ポリティカル・コレクトネス)に過敏になり、移民受け入れに肯定的な見解や調査結果は積極的に報道する一方、否定的なものは、「報道しない自由」を行使し、大衆の耳に入りにくくする 2:同様に移民の犯罪についても、「人種差別だ」というレッテル貼りを恐れて、警察もマスコミもあまりはっきりと犯人の社会的属性や事件の背景などを発表しなくなる 3:「ドイツのための選択肢」(AfD)といったいわゆるポピュリスト政党の躍進など移民受け入れを懸念する動きが一般国民の間に広がった場合、マスコミや政治家は、その第一の原因としての従来の移民受け入れ政策の是非をきちんと吟味することはせず、懸念を表明する人々のほうばかりに目を向け、ことごとく「極右」「排外主義」「人種差別」などと攻撃する。つまり、「問題そのものではなく、問題が引き起こす症状のほうを攻撃する」ようになる 4:こうしたことが続く結果、政治家や大手メディア関係者といったエリート層と一般国民の間の意識のズレがますます大きくなり、国民の分断が生じてしまう
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株式・為替相場(その8)(円はもはや安全資産ではないのか 今年は安値圏で推移 その背景は、“下落相場入り”で迎える2019年 個人投資家は「買いのチャンス」か、2019年にもう一度大きな暴落がやって来る 今は「静かなバブル崩壊」が続いているだけだ) [世界経済]

株式・為替相場については、世界同時株安(その7)として、2月16日に取上げた。久しぶりの今日は、(その8)(円はもはや安全資産ではないのか 今年は安値圏で推移 その背景は、“下落相場入り”で迎える2019年 個人投資家は「買いのチャンス」か、2019年にもう一度大きな暴落がやって来る 今は「静かなバブル崩壊」が続いているだけだ)である。

先ずは、12月25日付けダイヤモンド・オンラインが米紙ウォール・ストリート・ジャーナルの記事を転載した「円はもはや安全資産ではないのか 今年は安値圏で推移、その背景は」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/189430
・『ボラティリティが猛烈な勢いで復活している。そして混乱期に資産の逃避先になることが多い日本円は相変わらず弱い。 何が起きているのか  株や社債、そして商品(コモディティ)は今年そろって売られてきた。こうした市場では通常、安全資産とされる円がドルに対して上昇する。 S&P500種株価指数は9月20日につけた過去最高値から14.5%下落した。以来、リスクを回避したい投資家に人気の金は3.8%上昇している。一方、円は方向性を欠いている。 最近では1ドル=111.88円をつけた。これは、円がなお今年の安値圏にあることを意味する。先週1.6%上昇したにもかかわらずだ。 円が安全資産の地位を得た一因として、日本の超低金利を背景に、同国投資家が数年にわたって海外の株や債券をせっせと購入してきたことがある。そうした投資家は混乱時に海外資産を売って日本に還流させる傾向があるため、円が上昇する。  アナリストらはキャリートレードでの円人気にも言及している。これは新興国市場などで見られる高いリターンを狙い、借り入れをして資産を買う戦略だ。こうした取引から引き揚げる運用会社は円を買い戻さなければならず、円相場が上昇する』、今日の円相場は1ドル=110.57円と僅かながら円高気味だ。
・『それが意味すること  ドイツ銀行シンガポール支店のアジアマクロ戦略責任者サミーア・ゴエル氏は「ドル・円の今年の動きが奇妙で普通と違う」と述べた。 ゴエル氏らは今年の変則的な動きについて、いくらか説明はできるものの、安全資産という円の地位は長期的には変わらないと考えている。日本の多額の経常黒字などが根拠だ。 円は依然キャリートレードに使われているが、運用会社はユーロなど他の通貨に手を伸ばしている。そして日本の投資家はここ数週間、海外資産を売るのではなく買っている。株よりも債券に殺到してはいるが。 中央銀行の動きも背景となっている。連邦準備制度理事会(FRB)は19日に今年4回目となる利上げを決めた。 これに対し日本銀行は20日の会合で、超緩和的な金融政策を維持することを決定した。この違い――日米の政策金利の差がこれほど広がったことは10年以上なかった――は円に対するドル高を意味する。 日本では機械受注や工業生産といった経済指標がこのところ予想を下回っているため、一部の投資家は日銀による金融政策正常化が一段と遠のくと確信するかもしれない。アライアンス・バーンスタインのポートフォリオマネジャー、モーガン・ハーティング氏は「円に安全資産の性質を与えている要素が相殺される可能性がある」と述べた』、円が万一、安全資産の座からすべり落ちるようだと、一国だけ取り残された異次元緩和、財政赤字の大きさなどに焦点が当たって、一気に暴落し、異次元緩和の副作用といわれたリスクが顕在化し得る点には最大限の注意が必要だろう。

次に、経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員の山崎 元氏が12月26日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「“下落相場入り”で迎える2019年、個人投資家は「買いのチャンス」か」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/189582
・『少し早めの下落相場入り(先週から週明けにかけて、内外の株価が大きく下落した。米国、日本ともに代表的な株価指数は直近の高値から2割以上下落したので、株式市場関係者の慣例的定義によると「下落相場入り」だ。 率直に言うと、株価の本格的な下落は予想よりも少し早く現れた。ただし、意外感はあまりない。 今回の株価の下落要因とされている、米中貿易摩擦などを背景とした「世界景気の減速への懸念」も、米国FRB(連邦準備制度理事会)の金融引き締め継続も、あるいは来年秋に予定されている日本の消費税率引き上げや、五輪関連特需の息切れ懸念も、いずれも既に投資家の視野に入っていた材料だ。 株価が経済の動きに対して先取り気味に動くことを考えると、今回の株価下落を大いに意外だと思う市場関係者は少ないのではないか。 下落の原因の中で最も本質的な要因は、金融引き締めの継続に伴う米国の長短の金利上昇だ。金融引き締めによる金利の上昇は、いつかはリスク資産の価格下落をもたらすし、最終的に金融引き締めに勝てる上昇相場はない。 ただし、経験則的には長期金利で4%くらいの水準が、株式に対する債券の魅力が高まって株価下落のトリガーになるレベルであったものが、インフレ率が低下した今日の世界経済にあっては、3%近辺の米国長期国債利回りでも十分に高かったようだ』、「下落の原因の中で最も本質的な要因は、金融引き締めの継続に伴う米国の長短の金利上昇だ」、なるほど。
・『「バブル崩壊」ではなさそうだが  株価が下落局面入りした場合に、確認が必要なのは、それが本格的なバブル崩壊なのかどうかだ。 今のところ、リーマンショックに至ったサブプライム問題がはらんでいた米国の不動産バブルのような大物の歪みは、存在していないように見受けられる。 12月24日に米国のムニューシン財務長官が大手金融機関6社に対し、流動性の供給を念押ししたというニュースは、「どこかにヤバい金融機関でもあるのか?」との不安を喚起する逆効果的な情報発信だったが、現段階では危機が噂されるような大手金融機関はない。 大手の米銀は、十分な自己資本を備えているように思われる。問題があるとすると、例えば高いレバレッジを掛けて、信用度の低い債券に投資してサヤ抜きを狙うポジションを取っていたヘッジファンドのような主体が破綻することだろうか。 保有ポジションの投げ売りのようなことが起きると市場への影響が大きいし、ファンドの破綻が連鎖した場合に、大手金融機関に影響が及ぶ可能性がゼロではない。ゴールドマン・サックス出身のムニューシン氏がこうした情報をつかんで懸念しているというのであれば、投資家にとってはさらに気持ちの悪い局面が訪れそうだ。 ただし、大きな歪みがないとしても、現在の大統領がトランプ氏で、財務長官がこのムニューシン氏、さらにFRB議長がいかにも素人臭いパウエル氏という米国経済政策の布陣は、危機対応の点では不安が残る。 トランプ大統領は、パウエルFRB議長が普通のFRB議長のように、物価と雇用を見て小刻みに利上げを続けていることに不満を隠さない。トランプ氏が任命したスタッフがトランプ氏への忠誠よりも通常の職責を果たすことに対してトランプ氏が不満を持つ、というパターンは何度も繰り返されておなじみになっているが、FRB議長の解任は難しそうだ』、トランプにしてみれば、解任による巨大なリスクを取るよりも、株価下落の言い訳としてFRB議長を批判しているだけなのかも知れない。
・『市場の予想通りに、世界経済がやや減速するとすれば、物価に掛かる上昇圧力も収まるので、FRBは追加的な利上げをしなくても顔が立つようになる可能性があるが、パウエル氏にはそのような融通性はないかもしれない。現在予想されているように、来年あと2回利上げがあるとすると、株価の反転には時間がかかるかもしれない。 また、もう一方の経済的懸念である米中貿易摩擦は、トランプ大統領の政治的人気取りの手段であることに加えて、情報産業をめぐる米中の主導権争いの意味が出てきたので、簡単に収束しそうにない。 当面、中国側の方が影響は大きそうだが、中国経済の減速は世界景気を通じて米国企業の業績にも影響してくるので、世界の株式市場にとってリスク要因であり続けるだろう』、中国側は米中貿易摩擦に融和的姿勢を取り始めたようだが、問題が「情報産業をめぐる米中の主導権争い」にまで拡大してきたので、収束は確かに簡単ではなさそうだ。
・『株価水準そのものは高いのか  米国企業の株価はどうか。いわゆる「GAFA」の株価をPERで見ると、グーグルの親会社アルファベットが36.64倍、アップルが12.33倍、フェイスブックが18.7倍、アマゾンが75.3倍とまちまちである(いずれも米国版ヤフー・ファイナンスによる)。 率直に言って、いずれも「安くない」と思うが、「半値になれば十分安い」というくらいの株価なので、株価自体が大きなバブルを形成しているという印象はない。 では、日本の株価はどうか。 東証一部の株式の平均PERは12月25日の株価で計算すると、12倍を割り込んでいる。益利回りで8.5%以上あることになり、仮に来年の経済成長がマイナスに落ち込んでも「高くはない」というレベルにある。加重平均では年率2.5%を超える配当利回りから考えても株価は高くない。 ただし、今年の投資主体別の動きを大雑把に見ると、日銀が6兆円買ったが、外国人投資家が5兆円売り越した。株価動向に対して決定的だったのは、外国人の売りであり、今後の海外のマーケットで株式が売られると、日本株も連れ安する状況は続くだろう。 日銀のETF買いをどう評価するのかは、市場関係者の間でも意見の割れるところだろう。「日銀が買わなければ、もっと株価は安かったはずだ」という意見もあり、否定しきることは難しいが、さりとて日銀が買うから株価は上がるだろうとの印象は乏しい。 日銀の株式買いは、株価の大勢への影響は乏しく、個人投資家の押し目買いの機会を相当程度奪っただけではないかという意見があり、筆者も概ね同意する。現在の状況で日銀がETF買いから手を引くことは考えにくいが、あまりいい政策手段ではなかったとの印象を持っている』、「日銀の株式買いは、株価の大勢への影響は乏しく、個人投資家の押し目買いの機会を相当程度奪っただけ」との見方は、その通りなのかも知れない。
・『当面の投資方針はいかに  当面、(1)米国の金融引き締め政策継続、(2)米中貿易摩擦の緩和観測なし、(3)日本では消費増税予定、(4)欧州経済も不安定で、(5)世界経済の減速は新興国に悪影響、といった悪材料が実現レベルではまだ出尽くしていない感じだが、「予想」のレベルでは概ね織り込まれているように思われる。 特に、日本の株価は少なくとも「高過ぎる」ことはなさそうなので、今後、主に海外要因での下落があるとしても、下落した株価に対しては、「買いのチャンス」ではないかという視点から考えたい。 2018年は、つみたてNISAが始まり、iDeCo(個人型確定拠出年金)の口座数が100万口座を超えた。初心者の投資家がかなり増えたことになるが、こうした制度で投資をしている投資家は、積立投資で徐々に株式投資額を増やして長期で保有する投資家なので、積立投資を継続することでいいだろう。 これらの積立投資口座で、株式への投資比率に引き上げの余地がある投資家は、今後の株価下落を期待して、株式への投資比率を上げることも考慮に値するように思われる。 一方、通常の株式投資家は、当面、持ち株を維持しながら、「もう1割下がったら、買い増しする」という心積もりを持って、追加投資のチャンスをうかがうのがいいのではないか。 今回の株価下落は、米国の金融引き締めに伴う循環的なものであり、規模はそれほど大きくないはずだ。株式投資のコツは株価が下がったところで行うことにあるのだから、「買いチャンスを待つ」のが基本的な戦略になる。 一方、心配なのは不動産投資だ。経験則的には、株価が下落して数ヵ月後くらいに中古マンションの価格が下がる。マンション投資などのセールスを受けている方は、当面買いを見送る方がいいだろう。買いそうになっている方も、キャンセルが可能なら、いったんキャンセルが正解になる可能性があるように思う。 もちろん、株式も不動産も、投資は読者ご自身の判断で行ってほしい』、「特に、日本の株価は少なくとも「高過ぎる」ことはなさそうなので、今後、主に海外要因での下落があるとしても、下落した株価に対しては、「買いのチャンス」ではないか」との山崎氏の「ご宣託」は、個人的には嬉しいが、証券業界の一員の言い分として、割り引いて捉える必要もありそうだ。

第三に、財務省出身で慶應義塾大学大学院准教授の小幡 績氏が12月29日付け東洋経済オンラインに寄稿した「2019年にもう一度大きな暴落がやって来る 今は「静かなバブル崩壊」が続いているだけだ」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/257942
・『世界的に株価が暴落している。アメリカの株価は、テクノロジーが中心のナスダック市場が高値から一時20%以上下落した。高値からの20%下落は一般的に弱気相場入りと呼ばれる。 それでも12月26日のアメリカの株式市場は、この大暴落の後を受けて大幅反発し、NYダウ工業株30種平均は史上初めて1日で1000ドル以上の上昇という記録的な上げ幅となったし、ナスダックも5%以上上昇した。27日もダウは下落後最終的には260ドル上昇したが、これで一息ついたのだろうか』、小幡 績氏の「ご宣託」はどんなものなのだろう。
・『暴落と「米中貿易戦争」「トランプ」は無関係  日本時間12月26日朝のメディアは25日の日本株の暴落を受けて、一般紙も含めて大騒ぎだった。彼らの解説は、背景にあるのは米中貿易戦争による世界景気減速懸念やドナルド・トランプ大統領の政治の不透明さによるものというものだった。 しかし、貿易戦争はずっと続いており、ここにきてむしろ解決へ向かうために中国側が譲歩する兆しもあり、暴落とは無関係のはずだ。また、トランプ大統領の政治的不透明さに関しては、メキシコ国境の壁を巡り議会の予算審議が難航し、政府機関の閉鎖などが起きている、ということがテレビの絵になりやすいため、主な理由の一つとして取り上げられているが、これも株価とはまったく関係がないはずだ。 一方、市場関係者のコメントとしては、FRB(米連邦準備制度理事会)議長の利上げ姿勢が問題であるとしている。「市場環境がこれだけ悪いのに、なぜ利上げを続けるのか?」という非難あるいは愚痴として報じられている。そこだけはトランプの主張と市場関係者の主張は一致しているようだ。 しかし、それ以外の点ではトランプ大統領の動きは、市場からは批判を浴びている。利上げは問題だが、FRB議長の解任検討は、市場を根底から壊す可能性のあるニュースだった。次は「スティーブン・ムニューシン財務長官の解任検討」だ。同氏が「株価急落対策委員会」のようなものを招集したという報道で下落が加速したこともあり、ある意味市場に寄った動きかもしれない。だが、いざ解任となれば経済の司令塔が不在になり、何もかも大混乱となる可能性もあり、結局市場は一瞬パニックになった。すでにジェームズ・マティス国防長官が政権中枢から去ることにより、「アメリカの外交、軍事戦略はついに破綻するのでは?」という恐怖が広がっている中で、「経済もか?」という恐怖感があった。 総合すると、一般メディアも市場関係者も、暴落の原因はトランプ大統領とFRBにあると非難しているが、これは全くの間違いだ。その証左は、12月26日にアメリカの株価が暴騰したことだ。26日にトランプ大統領の何が変わったか?FRBの姿勢に変化はあったのか?そんなニュースは一つもない。貿易戦争はすぐに大きく動くはずもない。 何もないのに株価は急激に回復した。暴騰した。これは何を意味するのか?この乱高下は、マーケットセンチメントが非常に怯えた状態になっているということを示しているということだ。 投資家たちが怯えていれば短期の仕掛けにもなすすべなく、恐怖から投売りをするか、怯えて凍り付いているしかない。だから、連日の下げになすすべもなく暴落が続いた。押し目買いの動きなどほとんどなく、反発の気配もなかった。 その一方で、反発の気配も全くなく、誰も買わなかったのに急激に反発した。それは一部のヘッジファンドしか買い上げた主体がいなかったのだ。マーケットが薄いから少しの買いで一気に上げることができる。下げたときは売りを膨らませ、段階的に買い戻しては売りを繰り返した。だから、朝方は少し反発して始まって、後場から大きく下げるということが繰り返されたのだ』、いつもながら小幡 績氏の解説は明快で、説得力がある。ヘッジファンドが買い上げの主体というのも、ありそうな話だ。
・『しかし、26日の回復は一気だった。象徴的なのは、アメリカ市場ではなく、日本市場だ。日経平均株価は朝方大幅反発で始まったのが、前場の後半から上げ幅を縮小していき、一時的にはマイナスにもなった。だがそこから引け際だけで先物は約400円も急回復したのだ。チャートの様相は異常で、少しの取引で一気に戻した。売りのときは枚数を膨らまし、鞘を少しずつ抜きながら利益を膨らませ、買い戻しのときは自作自演で損は出るが取引量は少ないので、利益の一部しか相殺されない。この異常な短時間の反発こそが、仕掛けであることを明確に物語っていると同時に、相場心理が弱気に傾いていることを表している』、行動ファイナンスの専門家らしい明快な分析だ。
・『もう一度必ず「仕掛け」が来て「成立する」はずだ  この一連の動きに対し、強気派たちは(要はマーケット関係者)、全員といっていいほど、「下げたのがそもそもの間違いで、取引がクリスマスで薄くなっているところへ、今年儲かっていないヘッジファンドが小遣い稼ぎのために暴れただけだ」、と偉そうに解説するだろう。 しかし、それは間違っている。ヘッジファンドの仕掛けが成功するということは、しかも暴落の仕掛けが成功するということは、あるいは暴落で仕掛けようとするということは、相場の心理が非常に弱っており、びくついているからなのだ。相場の心理が健全なら、そんな仕掛けは跳ね返されてしまうし、わざわざ損するリスクがあるような仕掛けはしない。 逆に、暴騰することもおかしい。普通なら心理が弱っているから戻してくれば安心してしまい、ナイーブな投資家なら買いをいれたりできない。恐怖は残ったまま、いや、むしろ一度暴落を目の当たりにし、さらに弱っているはずだ。結局大きく戻したのは、もう一度仕掛けるときに下落幅を確保しておくためのもので、暴落をむしろ仕掛けやすいのだ。したがって、もう一度同じ仕掛けが来る。成立する。 私は、今後、全体としては下落方向に向かいつつ、株価の乱高下が継続すると予想する。相場心理は何も改善していない。相場の恐怖はまだまだ続くのだ。これは静かなバブル崩壊局面の中の乱高下なのだ』、先の山崎氏の見方よりも、はるかに信頼性が高そうだ。2019年の株式相場動向には、大いに気をつける必要がありそうだ。
タグ:東洋経済オンライン 世界同時株安 ダイヤモンド・オンライン 小幡 績 山崎 元 米紙ウォール・ストリート・ジャーナル 株式・為替相場 (その8)(円はもはや安全資産ではないのか 今年は安値圏で推移 その背景は、“下落相場入り”で迎える2019年 個人投資家は「買いのチャンス」か、2019年にもう一度大きな暴落がやって来る 今は「静かなバブル崩壊」が続いているだけだ) 「円はもはや安全資産ではないのか 今年は安値圏で推移、その背景は」 混乱期に資産の逃避先になることが多い日本円は相変わらず弱い 運用会社はユーロなど他の通貨に手を伸ばしている 日本の投資家はここ数週間、海外資産を売るのではなく買っている 円に安全資産の性質を与えている要素が相殺される可能性 「“下落相場入り”で迎える2019年、個人投資家は「買いのチャンス」か」 株価の本格的な下落は予想よりも少し早く現れた 下落の原因の中で最も本質的な要因は、金融引き締めの継続に伴う米国の長短の金利上昇だ 「バブル崩壊」ではなさそうだが 在の大統領がトランプ氏で、財務長官がこのムニューシン氏、さらにFRB議長がいかにも素人臭いパウエル氏という米国経済政策の布陣は、危機対応の点では不安が残る FRB議長の解任は難しそうだ 株価水準そのものは高いのか 日本の株価 仮に来年の経済成長がマイナスに落ち込んでも「高くはない」というレベルにある 日銀の株式買い 株価の大勢への影響は乏しく、個人投資家の押し目買いの機会を相当程度奪っただけではないかという意見 日本の株価は少なくとも「高過ぎる」ことはなさそうなので、今後、主に海外要因での下落があるとしても、下落した株価に対しては、「買いのチャンス」ではないかという視点から考えたい 今回の株価下落は、米国の金融引き締めに伴う循環的なものであり、規模はそれほど大きくないはずだ 「2019年にもう一度大きな暴落がやって来る 今は「静かなバブル崩壊」が続いているだけだ」 暴落と「米中貿易戦争」「トランプ」は無関係 FRB議長の解任検討は、市場を根底から壊す可能性のあるニュース 次は「スティーブン・ムニューシン財務長官の解任検討」 この乱高下は、マーケットセンチメントが非常に怯えた状態になっているということを示しているということだ 一部のヘッジファンドしか買い上げた主体がいなかった 26日の回復は一気だった。象徴的なのは、アメリカ市場ではなく、日本市場だ この異常な短時間の反発こそが、仕掛けであることを明確に物語っていると同時に、相場心理が弱気に傾いていることを表している もう一度必ず「仕掛け」が来て「成立する」はずだ 結局大きく戻したのは、もう一度仕掛けるときに下落幅を確保しておくためのもので、暴落をむしろ仕掛けやすいのだ したがって、もう一度同じ仕掛けが来る。成立する これは静かなバブル崩壊局面の中の乱高下なのだ
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日産ゴーン不正問題(その4)(ゴーン再々逮捕で「負けられない戦争」に踏み込んだ検察の誤算と勝算、「従軍記者」朝日の”値千金のドキュメント”が描く「検察の孤立化」) [企業経営]

日産ゴーン不正問題については、12画12日に取上げた。今日は、(その4)(ゴーン再々逮捕で「負けられない戦争」に踏み込んだ検察の誤算と勝算、「従軍記者」朝日の”値千金のドキュメント”が描く「検察の孤立化」)である。

先ずは、司法ジャーナリストの村山 治氏が12月28日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「ゴーン再々逮捕で「負けられない戦争」に踏み込んだ検察の誤算と勝算」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/189868
・『カルロス・ゴーン日産自動車前会長らが有価証券報告書虚偽記載の疑いで電撃逮捕されてから1ヵ月余り。 東京地検特捜部は、12月21日、私的な損失を日産に付け替え、日産に損害を与えたなどとする新たな会社法違反(特別背任)の疑いでゴーン氏を再々逮捕した。 世界が注目する検察の捜査は「市場に対する裏切り」の摘発から「会社の私物化」の実態解明へと舞台を移した。 事件の背景には「フランス政府・ルノー」vs.「検察・日産」の図式が浮かんでおり、「国の威信にかけても絶対に負けられない」という検察側の事情も透けて見える』、検察の突然のスタンス変更の背後には、何があったのだろう。
・『勾留延長「却下」の翌日「会社の私物化」で逮捕  東京地裁が、検察側の意表をつく決定をしたことが、事態の急転をもたらした。東京地検が有価証券報告書の虚偽記載容疑で逮捕、勾留したゴーン氏らについて、さらに10日間の勾留延長を今月20日に東京地裁に求めたところ、地裁は請求を却下した。これは検察にとって想定外の出来事だった。 特捜部は保釈の可能性がでてきた翌21日、特別背任容疑でのゴーン氏の再々逮捕に踏み切った。 「ゴーン氏が(拘置所から)出てくると(日産の)協力者が勇気を出せない。(会社を私物化していたことなどを暴く捜査協力に向けて)雪崩を待つ意味がある」 この日の昼過ぎ、捜査の内情に詳しい関係者は逮捕の狙いと意義を筆者に解説した。 そして、こう付け加えた。「ルノー、フランス政府に(いかにゴーン氏が日産を私物化していたかを)知らせる意味もある」 逮捕が、「仏政府・ルノー」を強く意識して行われたことは間違いない。 特捜部の発表や関係者の話によると、ゴーン氏は自身の資産管理会社と新生銀行の間で、金融派生商品投資で報酬を運用する契約を結んでいたが、2008年秋のリーマンショックによる急激な円高で約18億5000万円の評価損を出した。 日産の代表取締役兼最高経営責任者(CEO)だったゴーン氏は、新生銀行から追加の担保を求められ、損失分を含む契約の権利を日産に付け替えることを提案したとされる。 この条件として、新生銀行側が日産の取締役会での承認を求めたのに対し、ゴーン氏側は、「『報酬の範囲内で処理をするので問題ない。会社に負担は発生しない』と反論。取締役会で、ほかの取締役に損失を隠したまま、外国人の役員報酬の投資に関わる権限を秘書室幹部に与える特別な決議をさせ」(18年12月24日朝日新聞朝刊)、同年10月、損失を含む投資契約の権利を日産に移し、日産に同額の損害を与えた疑いがあるという』、日産では本当に損害が出たのだろうか。
・『自身の損失を日産に付け替え「海外滞在で時効はまだ」  朝日新聞などの報道によると、ゴーン氏が契約の権利を日産に移した翌月の08年11月、証券取引等監視委員会が新生銀行を定期検査。この損失付け替えについて、日産とゴーン氏の間で利益相反に当たる可能性が高いと指摘した。 ゴーン氏は09年2月、契約の権利を日産から資産管理会社に再び戻したとされる。 ゴーン氏は、この権利の付け替えの際、信用保証で協力してもらったサウジアラビア人の知人が経営する会社に対し、09年6月から12年3月の間に4回にわたり、日産の子会社から計1470万ドル(現在のレートで約16億3000万円)を入金させ、日産に損害を与えた疑いがあるという。 会社法の特別背任罪は、会社の役員らが任務に背き、自己もしくは第三者の利益を図る目的で会社に損害を与えた場合に成立する。 法定刑は重く、10年以下の懲役または1000万円以下の罰金に処せられる。 特別背任罪の時効は7年だが、海外にいる間は時効は中断する。海外に滞在することが多いゴーン氏については、時効は完成していないと検察側は判断したとみられる。 付け替えに伴う日産側の実損の有無も問題になるが、記者会見で質問を受けた東京地検の久木元伸次席検事は「負担をすべき義務を負わせたことが財産上の損害に当たると考えている」との見解を明らかにした』、「契約の権利を日産から資産管理会社に再び戻した」にも拘らず、戻すまでの一時的な権利移転だけでも問題と解釈するのは、多少無理がありそうだ。
・『ゴーン氏側は全面否認「日産に損害与えていない」  これに対してゴーン氏側は、逮捕容疑を全面否認している。 弁護人によると、ゴーン氏は日産がドルではなく円で報酬を支払ったため、固定レートで報酬をドルに替えるため、金融派生商品投資で運用する契約を結んだ。 損失付け替えについて、ゴーン氏は「一時的に日産の信用を担保として借りただけ。その間に発生した数千万円の損失は自ら負担して日産には損害を与えていない。監視委の指摘があったから、契約を戻したわけでもない」などと説明しているという。 また、信用保証で協力を得た知人については、サウジアラビアのビジネス界の重要人物で長年の友人だとしている。 「日産のために同国の王族や政府へのロビー活動を行い、現地の販売店と日産との間で起きたトラブルの解決にも関わった。支出されたカネは、こうした業務への対価だった」と説明。 「仕事で貢献をしてもらったことへの正当な対価だ。信用保証の謝礼ではない」と主張し、特別背任容疑を否認している模様だ。 ゴーン氏側は役員報酬の有価証券報告書への虚偽記載(金融商品取引法違反)でも、容疑を否認している。 法廷では検察との全面対決が予想されるが、特捜部はさらにインパクトの強い、ゴーン氏による「会社の私物化」の摘発にまで踏み込んだ。 その背景には、「フランス政府・ルノー」vs.「検察・日産」の図式が抜き差しならぬところまで進んでしまったという事情がある』、検察も「清水の舞台」から飛び降りる覚悟のようだ。
・『仏政府の意向を受けた「統合」に危機感抱いた日産  19年前、経営破綻の危機に瀕した日産は、ルノーから出資をあおぎ、最高執行責任者(COO)として送り込まれたゴーン氏の辣腕経営で再生した。ゴーン氏はカリスマ経営者として日産社内で「神格化」された。 日産は業績を伸ばし、いまでは、ルノーと立場は逆転し、企業規模では日産がルノーを大きく上回る。ルノーは日産からの配当が収益の半分に達しているとされる。 しかし、資本関係ではルノーは日産に対して絶対的に優勢なままだ。ルノーは43%の日産株を握る一方で、日産が持つルノー株は15%で議決権もない。 日産側は独立性を保ち、不平等な資本関係を見直したい考えだが、ルノーの筆頭株主のフランス政府・マクロン政権は日産をルノーの完全支配下に置き、自国産業へ貢献させたい思惑があるとされる。 ルノーは、もとは日本の旧国鉄のようなフランスの国策会社で、民営化されたあとも、仏政府が筆頭株主で15%の株を持つ。日産は、第4次産業革命ともいわれる電気自動車や自動運転技術などで先行。 高い失業率と3割を切る低支持率にあえぐマクロン政権にとって、ゴーン氏は、日産とルノーを結びつける「接着剤」だった。 ゴーン氏は、仏政権の意を受けて日産とルノーの経営統合に向けて動き出していたともいわれ、このことに日産内部で危機感が強まっていたとの見方もある』、いくらルノー側が経営統合に向けて動き出したとはいえ、本来は会社法に則って対処すべっき問題だ。
・『当初は国内捜査で完結する有報虚偽記載の立件を優先  日産社内で、ゴーン氏がからむ不正疑惑の事実が判明した経緯は明らかではないが、18年春、日産幹部がゴーン氏の不正についてひそかに検察当局に接触したのが、捜査の端緒になった。 容疑を裏付ける供述をする代わりに、罪を減免する司法取引が日本でも18年6月から施行されることになり、その「摘発候補」を物色していた特捜部には、渡りに船だった。 日産幹部は、検察OB弁護士の助言を受け、ゴーン氏の側近で、経費の不正支出などの疑惑に詳しい外国人専務執行役員をまず協力者にした。 さらにゴーン氏の個人的な経理などに関わる日本人の秘書室幹部を説得。2人は、特捜部との司法取引に応じ、特捜部にゴーン氏が日産の投資資金を私的に流用したり、経費を不正支出したり、役員報酬の過少申告をしていたりした疑惑に関わる関係資料をごっそり特捜部に提出。 ゴーン氏の指示で行ったとされる「不正」の事実関係を詳細に供述したという。 問題は、それらの疑惑の舞台の多くが海外だったことだ。 海外には日本の司法権は及ばず、検察も簡単に手を出せない。裏付け証拠の収集は簡単ではなかった。 ゴーン氏を告発した日産幹部らは、特捜部が、悪性の印象を持たれやすい「会社私物化」を特別背任容疑などで摘発することを望んでいたとされるが、結局、国内捜査で完結する、立証しやすい有価証券虚偽記載の立件を優先することになった。 特捜部が最初にゴーン氏にかけた容疑は、ゴーン氏が、2010~14年度の5年分の報酬が実際は計約100億円だったのに、報告書に半分の計約50億円と、うその記載をし、約50億円を隠したとする容疑だった。 有価証券報告書は、投資家の判断の元となる企業の各年の財務状況や役員情報を記載したもので、うそを書くことは許されない。 役員報酬の個別開示は、08年のリーマンショックの後、投資家や株主への情報開示が強化される一環で導入され、09年度の決算から1億円以上の役員報酬の開示が義務づけられた。 有価証券報告書の虚偽記載は10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金。特別背任など「実質犯」と罪の重さは同じだ。有罪になれば、実刑判決が言い渡されてもおかしくない。 検察にとっても、報酬の虚偽記載に目を光らせるのは、証券市場の要請にかなったものであり、従来の財務諸表の粉飾でなく、役員報酬の開示義務違反を初めて摘発した意義もあった』、「有価証券報告書の虚偽記載」のような形式犯と、「特別背任など「実質犯」と罪の重さは同じだ」というのは初めて知ったが、なんとなく釈然としない量刑だ。
・『仏政府、水面下で注文 検察・日産は「圧力」と反発  だが、「カリスマ経営者逮捕」の衝撃は、予想以上のものだった。 11月19日、特捜部が来日したゴーン氏と共犯の日産代表取締役のグレッグ・ケリー氏の2人を逮捕すると、世界中が驚愕した。 ただ、役員報酬の虚偽記載がいかに市場に実害をもたらしているかの説明は難しかった。検察OB弁護士らの「形式犯」批判が起きた一方で、ゴーン氏の勾留が長くなるとともに、海外メディアなどからは、長期勾留、弁護士立ち会いなしの取り調べなど、捜査手続きに対する批判が起きた。 日産とルノーの提携関係の見直しをめぐるせめぎ合いも、激しさを増すことになる。ルノーのバックにいた仏政府の動きも目立ち始めた。 ゴーン氏を検察に告発した日産執行部は、逮捕を機に、日産の経営からゴーン氏を完全にシャットアウトしようともくろんでいた。 逮捕3日後の11月22日、日産は臨時取締役会を開き、社内調査の結果、「複数の重大な不正行為」があったとして、ゴーン氏の代表権と会長職、ケリー氏の代表権を解くことを全員一致で決議した。 だがルノー側は、取締役の解任については難色を示し、日産側は当面、ゴーン氏らの取締役解任を決める株主総会の開催を見送った。 仏政府・ルノー側は、日産が対ルノーの関係を自社側に有利に運ぶため、ゴーン氏の粗探しをして検察に告発した、と受け止めた。 ルノーは、ゴーン氏のルノーCEO解任を見送り、日産の後任会長をルノーに指名させるよう求めた。ティエリー・ボロレCEO暫定代行は、日産の西川廣人社長兼CEO宛ての書簡で臨時株主総会の開催を要求したりするなど、日産の人事への介入も強めた。 日産はいずれの要求も拒否したが、両社の主導権争いは激しさを増した。 水面下での仏政府の動きが、日本側にいやがうえでも「外交問題」を意識させることになった。 ルメール仏経済・財務相はマスコミに対し、ルノーがゴーン氏を解任しなかった理由について「推定無罪の原則があり、不正を裏付ける証拠を我々は持っていない」と説明する一方で、仏政府は水面下で日本政府に対し、「刑事司法手続きが野蛮ではないか」などと注文をつけていた。 当事者の法務・検察当局や日産側は「圧力」と受け止め、反発を強めた』、日本では「推定無罪の原則」が軽んじられ、逮捕されると検察側から垂れ流される情報で、マスコミも有罪一色の報道になるのも困ったものだ。
・『事態の深刻さに気付いた検察幹部 日産は「グウの音も出ない」摘発求める  困った日産側は、検察側にルノー、仏政府側が「グウの音も出ない」ような事件、つまり、会社を私物化した事件の摘発を求めた。 しかし、検察幹部の多くは、「確実に裁判で勝てる」と見立てている役員報酬の虚偽記載の訴追だけで十分ではないか、と考えていた。 検察側の情況が一変するのは、冒頭に記したように、東京地裁による勾留延長請求の却下だった。2回目の逮捕に伴う10日間の勾留が満期となる20日。 東京地裁は、特捜部が求めた2人の勾留延長請求を「5年分と3年分の2回に分けて逮捕した2つの容疑は事業年度の連続する一連の事案。勾留を延長する事由には当たらない」として、却下したのだ。 検察側が同様の連続事案を分割して立件するのは珍しいことではない。特に、特捜事件ではたいて検察の勾留請求が認められてきただけに、衝撃が走った。 海外メディアなどからの「長期勾留」に対する批判には、「日本の司法制度を理解していない」と意に介していなかった検察首脳らも、却下決定には慌てた。 21日の朝日新聞朝刊は、弁護側が「『裁判所がおかしな事件だという心証を得ている証拠だ』と勢いづく」、「別の刑事裁判官は、『厳しい処罰を加えるほどの強い違法性はない、という判断もあり得る』と語った」と伝えた。 日産側は、ゴーン氏が保釈されると、報復されるのではないかとおびえた。 取締役の身分を残したゴーン氏が出社して社員に自らの潔白を訴え、告発した幹部を糾弾することもあり得ると、浮足立った。 検察幹部らは事態の深刻さにようやく気付いた。捜査の協力者である日産側が揺らぐと、事件の公判維持にも影響が出る恐れがあると危惧したのだ。 特捜部は、検察幹部らの思惑は別にして、日産のゴーン事件調査チームと連携し、ゴーン氏が会社を私物化している容疑を、虚偽記載捜査と同時並行で内偵していた。 着手は虚偽記載での再逮捕容疑を起訴した後の年明け以降と想定していたとみられるが、裁判所の勾留却下で逮捕を前倒しせざるを得なかったとみられる』、特捜部が証拠固め前にあわてて逮捕したとは、ずいぶん危ない橋を渡ったものだ。
・『「特捜部廃止論」も出かねない 「負けられない戦争」に  「検察・日産」連合の思惑を、「日産幹部によるクーデター」や、「検察の国策捜査」と見る向きもある。 ゴーン氏を検察に告発した日産側の行動は、独裁者として君臨した暴君に対する下克上、一種のクーデターだったとの見方もできなくはないが、ゴーン事件の事情に詳しい金融庁関係者はその見方を否定する。 朝日新聞は11月22日の朝刊で「クーデターというよりも、我慢の限界だ。ゴーン会長は経営者としては大したものだと思うが、人間としてはいい加減にしろということだ。それを抜きには語れない」との日産幹部の言葉を伝えたが、金融庁関係者は「あれこそが、今回の事件の本質だ」と話す。 検察はどうか。検察が私企業である日産に肩入れするために捜査することは許されない。犯罪があるから摘発する、のが建前だ。 ただ、今回は、ゴーン氏の告発に動いた日産幹部が弁護士の助言で核心の情報を知る役員・社員を説得し、検察との間で、司法取引を成立させた。 結果として日産の執行部は検察の「協力者」となり、日産の調査チームは検察捜査を補助するエンジンにもなった。 それが、これまで捜査が到達することが難しかった大企業の「奥の奥の院」でのトップの重大な市場ルール違反や私物化疑惑にメスを入れることを可能にした。 逆に、その捜査構造ゆえに、日産と経営の主導権争いをしているルノーと仏政府が、「検察・日産」を目の敵にすることにもつながった。 結果として、ゴーン事件は、「ゴーン・フランス政府・ルノー」対「日本政府(検察)・日産」の戦いになった。 検察は、特別背任容疑の摘発に踏み込んだことで、後に引けなくなった。海外での証拠収集は難関だ。とはいえ、この捜査に失敗すれば、内外から厳しい批判を受けるのは必至で、特捜部廃止論が間違いなく起きるだろう。 検察は、背水の陣で、ゴーン事件を徹底解明するしかなくなった』、特捜部の存続を賭けた大勝負の行方が大いに注目される。

次に、元東京地検特捜部検事で弁護士の郷原信郎氏が12月24日付け同氏のブログに掲載した「「従軍記者」朝日の”値千金のドキュメント”が描く「検察の孤立化」」を紹介しよう。
https://nobuogohara.com/2018/12/24/%e3%80%8c%e5%be%93%e8%bb%8d%e8%a8%98%e8%80%85%e3%80%8d%e6%9c%9d%e6%97%a5%e3%81%ae%e5%80%a4%e5%8d%83%e9%87%91%e3%81%ae%e3%83%89%e3%82%ad%e3%83%a5%e3%83%a1%e3%83%b3%e3%83%88%e3%81%8c/
・『東京地検特捜部が日産のカルロス・ゴーン会長を逮捕した事件については、(1)突然の逮捕、(2)逮捕容疑は、実際に支払われた役員報酬ではなく、「退任後の支払の約束」に過ぎなかったこと、(3)再逮捕事実が、当初の逮捕事実と同じ虚偽記載の「直近3年分」だったこと、(4)再逮捕事実による勾留延長請求を、東京地裁が却下したこと、(5)延長請求却下の翌日に、特捜部がゴーン氏を特別背任で再逮捕したこと、という「衝撃」が繰り返されてきた。 私は、その都度、明らかになった衝撃の事実を解説する記事を書いてきた。 その私にとって、特別背任による再逮捕の翌日の朝日新聞朝刊2面に掲載された【(時時刻刻)特捜、特別背任に急転換 「虚偽記載は形式犯」批判に反発 ゴーン前会長再逮捕】という記事の内容は、この事件の展開や内容に関して、これまで繰り返されてきた「衝撃」に匹敵するほどの「驚き」だった』、冷静な郷原氏が驚くとは余程のことだ。
・『朝日記事で明らかになった特別背任再逮捕に至る経緯  朝日の記事では、検察が特別背任による再逮捕に至った経緯について、次のように書かれている。「特別背任は、20日の地裁決定まではやらなくてもいいと思っていた。だが今はやるべきだと思っている」 ゴーン前会長に会社法違反(特別背任)容疑を適用した21日、検察幹部は言った。翻意の理由は、勾留延長を退けた「裁判所の仕打ち」だと説明した。 東京地検特捜部は6月ごろから捜査を開始。司法取引した日産幹部の聴取や資料分析を重ね、ゴーン前会長による「会社の私物化」の事件化を目指した。日産側が購入した海外の高級住宅の私的利用など、背任が疑われる話もあった。しかし、確実に立件できる「本丸」と判断したのは、2010~17年度の8年間で約91億円にのぼった「報酬隠し」だった。 適用したのは金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)だ。前半5年と後半3年に分けて逮捕し、20日間ずつ勾留する方針を立てた。最初の逮捕は11月19日。検察幹部は「事件として立つのはこれだけだ」と述べ、年内の捜査終結をにおわせていた。 だが、隠した報酬は退任後に支払う仕組みであり、前会長はまだ受領していないことが報じられると、「形式犯だ」「特別背任が実質犯なのに、できなかった」との批判が噴出した。 それでも検察幹部らは「ガバナンス(企業統治)が重視される時代の潮流に乗った新しい類型の犯罪。投資家や株主を欺く重罪だ」と意に介さなかった。 11月27日付朝刊で朝日新聞が「私的損失 日産に転嫁か」との見出しで、今回の特別背任の容疑の一部を報じた際も、検察幹部らは「推定無罪の原則は忘れないように」と話し、立件には消極的な姿勢だった』、検察が「推定無罪の原則」を持ち出したとは驚きだが、この頃までは余裕があったのだろう。
・『潮目が変わったのは、報酬の虚偽記載の後半3年分で再逮捕した12月10日以降だった。国内外のメディアが「長期勾留」批判を繰り返す中、世論を意識した地裁が勾留延長を認めないのではないかという観測が、検察庁内に広まった。「特別背任」カードを切るための検討が具体化した。 地裁は勾留期限の20日、延長請求を却下。検察側の準抗告も棄却した。地裁は21日、5年分と3年分を「事業年度の連続する一連の事案」と判断したと説明した。地裁が棄却の理由を明らかにするのは異例だ。 地裁の判断は、後半3年の捜査について「簡単に終えられるでしょう」というメッセージのようだった。法律の素人ならともかく、同じ法律家の裁判官まで「報酬の虚偽記載は形式犯」という見方を示したと検察は受け取った。 このままではこの事件の価値が軽んじられる――。検察幹部は「そこまでいうなら、裁判所が『実質犯』と考える特別背任もやるということだ」と話した』、検察は「居直って」再々逮捕したとは、よほど追い詰められてのことだろう。
・『特別背任再逮捕に至る経緯についての私の「推測」  その記事が出る数時間前の21日夕刻、特別背任による再逮捕を受け、私は【ゴーン氏特別背任逮捕は、追い込まれた検察の「暴発」か】と題するブログを出した。 前日の勾留延長請求却下から、急転直下、再逮捕となり、なかなか頭の整理をするのも大変だったが、それまでの捜査の経緯を振り返り、その「衝撃的な事態」について、その時点で推測できることを書いた。 もし、特別背任が立件可能なのであれば、当初の逮捕事実で起訴した12月10日の時点で、特別背任で再逮捕したはずだ。ところが、再逮捕事実が、2018年3月期までの直近3年間の同じ虚偽記載の事実だった。また、20日の勾留期間が年末年始にかかる12月10日以降に新たな事実で再逮捕すれば、年末年始休暇返上で捜査を継続することになり、各地から集められている多くの応援検事を年末年始に戻さず留め置くことになる。これらのことから考えても、12月10日の時点で特別背任の刑事立件が可能と判断していたのであれば、その時点で、特別背任で再逮捕していたはずである。 このような捜査の経緯から考えても、12月10日の時点では、特別背任の容疑について、刑事立件が予定されていたとは思えないと指摘した。 そして、 直近3年間の虚偽記載という再逮捕事実で勾留延長を請求して却下され、準抗告まで行っていることからすると、再逮捕後の10日間の捜査によって、特別背任の立件が可能になったとも考えられない。特別背任での再逮捕は、勾留延長請求の却下を受けて急遽決定されたものと思われた。 朝日の記事は、20日の勾留延長却下決定までは、特別背任による再逮捕をする予定ではなかったが、却下決定という「裁判所の仕打ち」を、裁判所が「報酬の虚偽記載は形式犯」という見方を示したと受け止めて、急遽、再逮捕することにした、としている。それは、私の推測の根幹部分を「検察幹部の発言」によって裏付けるものだった。 一つの新聞の記事に過ぎないと言っても、羽田空港でのゴーン氏逮捕を映像付きで速報するなど、検察内部に深く食い込み、現場の動きをいち早くつかんで、まさに「従軍記者」さながらの取材報道をしてきた朝日新聞の記事だけに、信ぴょう性は高いと見るべきであろう。 最大の問題は、このような経緯で、検察が、特別背任による再逮捕を行ったことが正しかったのかどうかだ』、さすが特捜部の内情を知り尽した郷原氏ならではの鋭い指摘だ。
・『再逮捕容疑事実に対する“重大な疑問”  その後の報道によれば、その逮捕容疑の概要は、以下のようなもののようである ゴーン氏は、10年前の2008年、リーマンショックの影響でみずからの資産管理会社が銀行と契約して行った金融派生商品への投資で18億5000万円の含み損を出したため、新生銀行から担保の追加を求められ、投資の権利を日産に移し損失を付け替えた。その付け替えが日産の取締役会の承認を経ておらず違法ではないかということが証券取引等監視委員会の新生銀行の検査の際に問題にされ、結局、この権利は、ゴーン氏の 資産管理会社に戻された。 その権利を戻す際に、サウジアラビア人の知人の会社が、担保不足を補うための信用保証に協力した。平成21年から24年にかけて、日産の子会社から1470万ドル(日本円でおよそ16億円)が送金された。 このうち、損失を付け替えたことが第1の特別背任、サウジの知人に送金したことが第2の特別背任だというのが検察の主張のようだ。しかし、報道によって明らかになった事実を総合すれば、二つの事実について特別背任罪で起訴しても、有罪判決を得ることは極めて困難だと考えられる。検察は、ここでも日産秘書室長との司法取引を使おうと考えているのかもしれないが、そうなると、「日本版司法取引」の制度自体の重大な問題が顕在化することになる』、どういうことなのだろう。
・『第1については、新生銀行側が担保不足への対応を求めたのに対して、ゴーン氏側が、「日産への一時的な付け替え」で対応することを提案し、新生銀行がこれに応じたが、証券取引等監視委員会による銀行への検査で、新生銀行が違法の疑いを指摘されて、新生銀行側が日産に対して再度対応を求め、それが日産社内でも問題となり、結局、短期間で「付け替え」は解消され、日産側には損失は発生していないようだ。それを、「会社に財産上の損害を発生させた」特別背任罪ととらえるのは無理がある。 確かに、その時点で計算上損失となっている取引を日産に付け替えたのだとすれば、その時点だけを見れば、「損失」と言えなくもない。しかし、少なくとも、その取引の決済期限が来て、損益が確定するまでは、損失は「評価損」にとどまり、現実には発生しない。不正融資の背任事件の場合、融資した段階で「財産上の損失」があったとされるが、それは、その時点で資金の移動があるからであり「評価損」の問題とは異なる。ゴーン氏側が、「計算上損失となった取引を、一時的に、日産名義で預かってもらっていただけで、決済期限までに円高が反転して損失は解消されなければ、自己名義に移すつもりだった」と弁解した場合、実際に、損失を発生させることなくゴーン氏側に契約上の権利が戻っている以上、「損害を発生させる認識」を立証することも困難だ』、説得力溢れたクールな指摘だ。
・『第2については、サウジアラビア人の会社への支出は、当時CEOだったゴーン氏の裁量で支出できる「CEO(最高経営責任者)リザーブ(積立金)」から行われたもので、ゴーン氏は、その目的について、「投資に関する王族へのロビー活動や、現地の有力販売店との長期にわたるトラブル解決などで全般的に日産のために尽力してくれたことへの報酬だった」と供述しているとのことだ。実際に、そのような「ロビー活動」や「トラブル解決」などが行われたのかどうかを、サウジアラビア人側の証言で明らかにしかなければ、その支出がゴーン氏の任務に反したものであることの立証は困難であり(「販促費」の名目で支出されていたということだが、ゴーン氏の裁量で支出できたのであれば、名目は問題にはならない)、そのサウジアラビア人の証言が得られる目途が立たない限り、特別背任は立件できないとの判断が常識的であろう。 検察は、サウジアラビア人の聴取を行える目途が経たないことから、特別背任の立件は困難と判断していたと考えられる。サウジアラビア人の証言に代えて、検察との司法取引に応じている秘書室長が、「支出の目的は、信用保証をしてくれたことの見返りであり、正当な支出ではなかった」と供述していることで、ゴーン氏の弁解を排斥できると判断して、特別背任での再逮捕に踏み切ったのかもしれない。 しかし、そこには、「司法取引供述の虚偽供述の疑い」という重大な問題がある。 この秘書室長は、ゴーン氏の「退任後の報酬の支払」に関する覚書の作成を行っており、今回の事件では、それが有価証券報告書の虚偽記載という犯罪に該当することを前提に、検察との司法取引に応じ、自らの刑事責任を減免してもらう見返りに検察捜査に全面的に供述している人間だ。そのような供述には、「共犯者の引き込み」の虚偽供述の疑いがある。そのため、信用性を慎重に判断し、十分な裏付けが得られた場合でなければ、証拠として使えないということは、法務省が、刑訴法改正の国会審議の場でも繰り返し強調してきたことだ』、「司法取引供述の虚偽供述の疑い」を法務省が強調していたというのは初耳だが、検察はそれを承知の上で踏み込んだのだろうか。
・『「覚書」という客観証拠もあり、外形的事実にはほとんど争いがない「退任後の報酬の支払」に関する供述の方は、有価証券報告書への記載義務があるか否かとか、「重要な事項」に当たるのか否かなど法律上の問題があるだけで、供述の信用性には問題がない。しかし、秘書室長の「サウジアラビア人の会社への支出」の目的について供述は、それとは大きく異なる。ゴーン氏の説明と完全に相反しているので、供述の信用性が重大な問題となる。 その点に関して致命的なのは、この支払については、日産側は社内調査で全く把握しておらず、「退任後の報酬の支払」の覚書について供述した秘書室長が、この支出の問題については、社内調査に対して何一つ話していないことだ(上記朝日記事でも、「再逮捕は検察独自の捜査によるもので、社内調査が捜査に貢献するという思惑通りにはなっていない」としている。)。 秘書室長は、検察と司法取引する前提で、社内調査にも全面的に協力したはずであり、もし、このサウジアラビア人に対する支出が特別背任に当たる違法行為だと考えていたのであれば、なぜ社内調査に対してそれを言わなかったのか。「その点は隠したかった」というのも考えにくい。この支出が特別背任に当たり、秘書室長がその共犯の刑事責任を負う可能性があるとしても、既に7年の公訴時効が完成しており、刑事責任を問われる余地はないからである(ゴーン氏については海外渡航期間の関係で時効が停止していて、未完成だとしても、その時効停止の効果は、共犯者には及ばない)。 結局、秘書室長の供述の信用性には重大な問題があり、ゴーン氏の説明・弁解を覆して「サウジアラビア人への支出」が不当な目的であったと立証するのは極めて困難だと言わざるを得ない。 検察が従前、再逮捕についての消極的姿勢だったことには十分な合理性があったと考えられる』、秘書室長が社内調査でこの問題を言わなかったのは確かに謎だ。「秘書室長の供述の信用性には重大な問題」があるにも拘らず、検察が取上げたのも謎だ。
・『朝日記事が持つ意味とその影響  結局のところ、今回の再逮捕容疑の特別背任は、起訴しても有罪に持ち込めるような事件だとは思えない。 そういう意味で、朝日記事の「特別背任は、20日の地裁決定まではやらなくてもいいと思っていた。」という検察幹部の言葉は、「やろうと思えばやれるがやらない」という意味ではなく、事件の内容・証拠関係から、特別背任で起訴すること、有罪判決を得ることは難しいと判断をしていたという意味であり、それは、合理的な判断だったと言える。 ところが、朝日記事によると、検察組織として、一旦は、特別背任は立件しないという方針を固めていたのに、裁判所の勾留延長却下決定を「仕打ち」と受け止め、急遽、再逮捕する方針に変わったというのである。 しかも、そのような方針転換をした理由についての検察幹部の言葉が「新聞の活字」として露わになった。 日本の刑事司法においては、検察が「正義」を独占し、裁判所は、極端に検察寄りだったことは事実であり、特に、特捜事件については、裁判所が検察の主張を否定することはほとんどなかった。しかし、「裁判所は検察の言いなりになっていれば良い」というようなことを検察幹部が新聞記者にあからさまに言ってのけるというのは、検察の驕りを端的に表している。朝日記事は、そのような「検察の傲慢」を、そのまま活字に表現したのだ。 裁判所が、今回、特捜事件では異例の勾留延長請求却下に加えて、検察の準抗告棄却決定の理由を公表するという異例の措置をとったことからも、裁判所特捜事件に対する姿勢は従来とは異なったものになりつつある。 朝日記事は、検察が、裁判所の適切な判断に対して不当に「反発」して、無理筋の特別背任による再逮捕という「暴挙」に至ったことを明らかにした。それは、検察が、従来、「『検察の正義』を追認するだけの存在」として見下していた裁判所から厳しいチェックを受けること、これまで「従軍記者」と考えていた司法メディアからも冷ややかな目で見られることで、「孤立化」の様相を深めつつある状況をリアルに描いたものとも言えるのである。 そういう意味で、今回の朝日記事は、日産・ゴーン氏事件の今後の展開のみならず、検察が「正義」を独占してきた日本の刑事司法の構造自体を変えていくことに対しても影響を与える「値千金のドキュメント」と言えるだろう。このような記事を書くことが可能となったのは、朝日新聞が、ゴーン氏逮捕以来、まさに「従軍記者」のように、捜査の現場や検察幹部に「密着」して取材をしてきたこと、それによって、検察側から「本音」を聞き出せる立場にあったからである。 このようなメディアと検察との「距離の近さ」は、これまで多くの事件で、検察捜査が無批判に報道され、その権力の暴走を許す原因ともなってきた。しかし、今回は、それが、検察捜査の経過と内部での方針決定の内幕をリアルに描くことで、検察の暴走に歯止めをかける方向に作用するかもしれない』、第一の記事よりはるかに深く、読みでがある。このままでは、特捜部解体に向かっているのかも知れない。
タグ:カルロス・ゴーン 郷原信郎 ダイヤモンド・オンライン 同氏のブログ 日産ゴーン不正問題 (その4)(ゴーン再々逮捕で「負けられない戦争」に踏み込んだ検察の誤算と勝算、「従軍記者」朝日の”値千金のドキュメント”が描く「検察の孤立化」) 村山 治 「ゴーン再々逮捕で「負けられない戦争」に踏み込んだ検察の誤算と勝算」 勾留延長「却下」の翌日「会社の私物化」で逮捕 自身の損失を日産に付け替え「海外滞在で時効はまだ」 ゴーン氏側は全面否認「日産に損害与えていない」 仏政府の意向を受けた「統合」に危機感抱いた日産 当初は国内捜査で完結する有報虚偽記載の立件を優先 仏政府、水面下で注文 検察・日産は「圧力」と反発 事態の深刻さに気付いた検察幹部 日産は「グウの音も出ない」摘発求める 「特捜部廃止論」も出かねない 「負けられない戦争」に 「「従軍記者」朝日の”値千金のドキュメント”が描く「検察の孤立化」」 朝日記事で明らかになった特別背任再逮捕に至る経緯 潮目が変わったのは、報酬の虚偽記載の後半3年分で再逮捕した12月10日以降 特別背任再逮捕に至る経緯についての私の「推測」 再逮捕容疑事実に対する“重大な疑問” 損失を付け替えたことが第1の特別背任 サウジの知人に送金したことが第2の特別背任 短期間で「付け替え」は解消され、日産側には損失は発生していないようだ。それを、「会社に財産上の損害を発生させた」特別背任罪ととらえるのは無理がある サウジアラビア人の証言が得られる目途が立たない限り、特別背任は立件できないとの判断が常識的 「司法取引供述の虚偽供述の疑い」 「共犯者の引き込み」の虚偽供述の疑い 信用性を慎重に判断し、十分な裏付けが得られた場合でなければ、証拠として使えないということは、法務省が、刑訴法改正の国会審議の場でも繰り返し強調 秘書室長が、この支出の問題については、社内調査に対して何一つ話していない ゴーン氏の説明・弁解を覆して「サウジアラビア人への支出」が不当な目的であったと立証するのは極めて困難 朝日記事が持つ意味とその影響 裁判所の勾留延長却下決定を「仕打ち」と受け止め、急遽、再逮捕する方針に変わった 「裁判所は検察の言いなりになっていれば良い」というようなことを検察幹部が新聞記者にあからさまに言ってのけるというのは、検察の驕りを端的に表している 裁判所特捜事件に対する姿勢は従来とは異なったものになりつつある 検察が、従来、「『検察の正義』を追認するだけの存在」として見下していた裁判所から厳しいチェックを受けること、これまで「従軍記者」と考えていた司法メディアからも冷ややかな目で見られることで、「孤立化」の様相を深めつつある状況をリアルに描いたもの 日本の刑事司法の構造自体を変えていくことに対しても影響を与える「値千金のドキュメント」 メディアと検察との「距離の近さ」は、これまで多くの事件で、検察捜査が無批判に報道され、その権力の暴走を許す原因ともなってきた 今回は、それが、検察捜査の経過と内部での方針決定の内幕をリアルに描くことで、検察の暴走に歯止めをかける方向に作用するかもしれない
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”右傾化”(その8)(靖国神社の宮司が「反天皇」になっていた理由とは? [橘玲の日々刻々]、靖国神社は「御霊」を独占できるのか? 保守論壇は天皇の慰霊の旅の矛盾を説明すべき[橘玲の日々刻々]、天皇の甥を「暴走列車」呼ばわり 神社界分裂で飛び交う“不敬”怪文書) [国内政治]

”右傾化”については、9月28日に取上げた。今日は、(その8)(靖国神社の宮司が「反天皇」になっていた理由とは? [橘玲の日々刻々]、靖国神社は「御霊」を独占できるのか? 保守論壇は天皇の慰霊の旅の矛盾を説明すべき[橘玲の日々刻々]、天皇の甥を「暴走列車」呼ばわり 神社界分裂で飛び交う“不敬”怪文書)である。

先ずは、作家の橘玲氏が11月5日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「靖国神社の宮司が「反天皇」になっていた理由とは? [橘玲の日々刻々]」を紹介しよう。
http://diamond.jp/articles/-/184481
・『靖国神社の宮司が天皇を批判するという前代未聞の出来事が発覚し、保守派のあいだに激震が走っています。 報道によれば宮司は、「どこを慰霊の旅で訪れようが、そこには御霊はないだろう」と今上天皇の慰霊の旅を否定し、「はっきり言えば、今上陛下は靖国神社を潰そうとしてるんだよ。わかるか」と述べています。それに加えて、「もし、御在位中に(今上天皇が)一度も親拝なさらなかったら、今の皇太子さんが新帝に就かれて参拝されるか? 新しく皇后になる彼女は神社神道大嫌いだよ。来るか?」と語ったようです。 この発言が報じられて宮司は退任の意向を示しましたが、これだけではとうてい収まりそうもありません。靖国神社は明治維新以来の英霊を祀るために、天皇を祭司として建立されました。その天皇を宮司が否定するならば、神社として存続する根本的な理由を問われます。 暴言の背景には、A級戦犯合祀以来、天皇が靖国を親拝していないことがあります。保守派は諸外国の批判に配慮する「君側の奸」を攻撃してきましたが、元宮内庁長官のメモによって、「だから、私はあれ(A級戦犯合祀)以来参拝していない。それが私の心だ」という昭和天皇の発言が明らかになりました』、独断でA級戦犯合祀という致命的ミスをしておいて、祭司たる天皇を宮司が否定したとは、確かに「神社として存続する根本的な理由を問われます」という大椿事だ。
・『靖国神社は祭司である昭和天皇にいっさい相談せず、独断でA級戦犯を合祀しています。昭和天皇はそれに納得せず、今上天皇もその意を汲んで、在位中にいちども靖国を訪れない。このままでは皇太子も同じで、「天皇の社」である靖国神社はつぶれてしまうのではないかという危機感が宮司の暴言になったのでしょう。 今上天皇が朝鮮半島にゆかりのある神社を訪問したとき、ネットでは天皇を「反日左翼」とする批判が現われました。従来の右翼の常識ではとうてい考えられない奇妙奇天烈な現象ですが、ネトウヨ(ネット右翼)の論理では、天皇であっても「朝鮮とかかわる者はすべて反日」なのです。 これと同様に、靖国神社の宮司の論理では、英霊に親拝しない天皇は「反靖国」であり、「反日」だということなのでしょう。宮司が会議でこれを堂々と発言し、それに対してなんの反論もなかったということは、神社内部でこうした議論が日常的に行なわれていたと考えるほかありません。驚くべきことに、保守派がもっとも大切にする靖国神社はネトウヨの同類に乗っ取られていたのです』、「靖国神社の宮司の論理では、英霊に親拝しない天皇は「反靖国」であり、「反日」だということなのでしょう」とは驚くほど手前勝手な論理だ。
・『天皇が靖国に来られない原因をつくったのが自分たちなら、なにをいっても振り上げた拳は自分のところに戻ってくるだけです。A級戦犯合祀が問題の本質である以上、分祀以外に天皇親拝を実現する方法はないでしょうが、それを自分からいうことはできません。靖国神社が独断で合祀したことについて、これまで陰に陽に批判されてきており、それに耐えきれず「なにもかも天皇が悪い」と“逆ギレ”したと考えれば、今回の異様な出来事も理解できます。 靖国神社が「反天皇」であることが白日の下にさらされて、まっとうな右翼/保守派は自らの態度を示すことが求められています。いまのところ、重い沈黙が支配しているだけのようですが』、確かに「「なにもかも天皇が悪い」と“逆ギレ”した」と理解する他なさそうだが、誠にお粗末な騒ぎである。

次に、この続きである12月5日付け「靖国神社は「御霊」を独占できるのか? 保守論壇は天皇の慰霊の旅の矛盾を説明すべき[橘玲の日々刻々]」を紹介しよう。
http://diamond.jp/articles/-/187412
・『靖国神社の宮司が天皇を批判して退任するという前代未聞の出来事は、靖国神社がネトウヨの同類に乗っ取られたかのような衝撃を与えました。その後、当の宮司の手記が月刊『文藝春秋』に掲載され、実態がすこしわかってきました。 前宮司によると、靖国神社は不動産や駐車場の賃貸収入、資産運用の利益などもあって財政的に恵まれており、職員のほとんどは学校を出てから定年まで勤める公務員のような身分です。そのうえ単立宗教法人であるため神社本庁には人事権や指導権がなく、自分たちの好きなように処遇を決めることができます。 日々を大過なく過ごすことしか考えていない靖国神社の職員たちにとって、天皇の親拝問題は、自分たちでどうにかできるわけではないので考えても仕方ありません。「改革」を叫ぶ新任の宮司はうるさいだけの存在で、内部の研究会での暴言を録音してマスコミに流すことでやっかいばらいした、ということのようです』、職員たちによるやっかいばらいのための内部告発、というので経緯は理解できた。
・『前宮司も、神職たちに「ぼしんせんそう(戊辰戦争)」を漢字で書かせるような知識問題をやらせたといいますから、恨みをかっていたのはたしかでしょう(驚いたことに、幹部クラスでも低い点数の者がいたそうです)。靖国神社は日本の伝統を「保守」しているのではなく、たんなる「生活保守」だったのです。 前宮司は研究会で、「どこを慰霊の旅で訪れようが、そこに御霊はないだろう? 遺骨はあっても」と述べて、今上天皇の慰霊の旅を全否定したわけですが、なぜこのような発言をしたかの真意も手記で述べられています。 私たちは漠然と、魂は超自然的な存在で、自分の墓だけでなく、生命を失った場所にも、遺族のところにも、思い出の場所にもいるはずだと思っています。しかし元宮司は、こうした時空を超えた魂の偏在を否定し、正しい神道では戦死者の御霊は靖国神社にしかいないといいます。戦場に残されたのはたんなる「遺骨」でしかなく、だからこそ、そんな場所で「鎮魂」してもなんの意味もないのです。 これはきわめて偏狭な考え方ですが、靖国神社には戦死者の御霊を「独占」しなければならない事情があります。御霊がどこでも望む場所に行けるなら、千鳥ケ淵戦没者墓苑にもいるはずだからです。そうなれば皇族も政治家も、参拝のたびに「歴史問題」が騒がしい靖国ではなく、どこからも批判の出ない千鳥ヶ淵でこころおきなく戦没者の霊を鎮めればよいことになってしまうのです。この危機感が、「今上陛下は靖国神社を潰そうとしてるんだよ」との暴言につながったのでしょう』、「靖国神社には戦死者の御霊を「独占」しなければならない事情があります」、というのも前宮司発言の背景を見事に解き明かしている。
・『靖国神社を守るためには、靖国が御霊を独占しなければなりません。ところがそうすると、今上天皇が生涯をかけた慰霊の旅が、御霊のない場所を訪れるだけの「観光旅行」になってしまいます。これは保守派にとって深刻な矛盾であり、このことを率直に述べただけでも前宮司の手記には大きな意味があります。 保守論壇はあれだけリベラルのダブルスタンダードを叩いたのですから、「御霊は靖国神社にしかいないが、天皇は鎮魂の旅をしている」という自らのダブルスタンダードにも真摯に向き合うべきでしょう』、保守論壇が不都合なことは黙殺する姿勢を続けるのであれば、不誠実極まりない。それにしても、「御霊は靖国神社にしかいない」などと手前勝手な主張をするようでは、国民はますます靖国神社から遠ざかるだけだろう。

第三に、12月13日付けダイヤモンド・オンライン「天皇の甥を「暴走列車」呼ばわり、神社界分裂で飛び交う“不敬”怪文書」を紹介しよう。なお、神社本庁での問題については、このブログの2017年7月5日で取上げた。
https://diamond.jp/articles/-/188386
・『全国8万社の神社を傘下に置く宗教法人、神社本庁。その職員宿舎の売買を巡る疑惑に端を発した“聖俗”2トップの確執が神社界を二分する中、複数の怪文書が飛び交う泥仕合に発展している。中には、靖国神社前宮司による天皇家批判を想起させるような怪文書が飛び交っている。 「“なんちゃって”元ビジネスマン」「暴走列車の『パワハラ』」「理解力のない一言居士」「脳で考えることはせず、『脊椎反射』しか行っていない」(原文ママ)……。今月に入り、全国の神社関係者の間で、そんな神道の基本理念である「浄明正直」とほど遠い文言が散りばめられた複数の怪文書が飛び交っている。 冒頭の文言は全て、神社界唯一の専門紙『神社新報』をもじった『神社“真”報』と題された匿名文書からの抜粋だが、週刊ダイヤモンド編集部が入手しただけで、この他にも数種類の怪文書が確認されている。しかも、その批判の矛先は、なんと、今上天皇の義理の甥で、神社界を“象徴”する「統理」の役職に就く、鷹司尚武氏というから驚くほかない。 なぜなら、統理とは「権力」ではなく「権威」という面において神社界のシンボルとなる別格の存在だからだ。旧皇族や旧華族がその任を務めることが多く、神社本庁が「本宗」と仰ぐ伊勢神宮の大宮司を経て就くのが近年の慣例。もちろん神社関係者ならば、統理への批判など「畏れ多くて想像もつかない」(複数の神社関係者)のが常識のはずである』、神社で厳かに儀式を行う宮司を取りまとめる神社本庁で、このような泥仕合が展開されているとは、開いた口が塞がらない。
・『背景にある神社界「聖」と「俗」の対立  今年5月に統理に就任した鷹司統理は、公家の家格の頂点である「五摂家」の一つ、鷹司家の現当主であり、昭和天皇の第3皇女の養子で、天皇の義理の甥だ。この華麗なる家柄に加え、慶應義塾大学大学院修了後、日本電気(NEC)に入社、最後はNEC通信システム社長を務め、神社界の“外”でも功績を残した人物である。 怪文書の背景にあるのは、神社界の「聖」の部分を担うその鷹司統理と、「俗」の部分を担う事務方のトップ、田中恆清・神社本庁総長の間で起きている、田中総長の進退を巡る神社界2トップの対立だ(参考記事)。 経緯を簡単に振り返ろう。9月の役員会で、職員宿舎の売買の疑惑(参考記事)を巡り、上層部と業者の癒着を疑いその解明を求める文書を作成して解雇処分となった神社本庁の元幹部職員と、神社本庁の間で今も続いている処分無効を求める訴訟に対し、一部の理事から「和解の道を探るべし」という提案が上がり、鷹司統理も、平成の御代替わりを前に収束を図るためにも議論を深めた方がいい、という見解を示した。 これに立腹した田中総長が「悔しいが今日限りで辞めさせていただく」と突如の辞任表明。ところが、10月、田中総長は一転して続投宣言する。これに驚いた鷹司統理が「人の上に立つ者や組織の長は、自らの言葉に責任を持つべきで、軽々しく変えてはならない」と異例の苦言を呈したことで、聖俗2トップの対立が先鋭化した。 問題なのは、現在出回っている怪文書の一部が、出所不明の取るに足らないものと切って捨てるわけにはいかないという点だ。 「例えば『神社“真”報』始め、一部の怪文書には、神社本庁の幹部職員クラスしか知り得ない内容が書かれている。少なくても、内部事情に精通する関係者がバックにいないと書ける代物ではない」と複数の神社本庁関係者は言う。 当然、匿名で関係各所に送りつけられるこれらの怪文書を、神社本庁内部の者が書いた、あるいは書かせたのかは分からない。一方で、別の神社本庁関係者はため息交じりにこう明かした。「幹部職員は今、統理派と総長派に分裂しています。統理派は鷹司氏に直接情報を上げ、逆に総長派は統理をないがしろにし、田中氏に忠誠を誓っています。大勢を占める田中派幹部職員たちは陰で鷹司統理のことを呼び捨てにし、『あいつは神社界のことが何も分かっていない。民間とは違うのだ』と息巻いています」 加えて、神社関係者が首を傾げるのは、前述の懲戒解雇された元幹部職員と比べた際の組織的な対応の差だ。さらに別の神社本庁関係者は言う。「一連の鷹司統理批判の怪文書に対し、担当幹部は内部調査や告発などは行わないことを早々に決めました。片や、懲戒解雇された元職員が作った文書が出回った際には、名誉棄損だとして、田中総長の指示で顧問弁護士も同席して疑わしい職員を事情聴取するなど、徹底的な犯人探しを行いました。しかも今回は、統理という神社界の象徴が悪しざまに批判されているにもかかわらず、何もしないというのでは行動に一貫性がないと言われても仕方ない」 平成の終焉が近づく中、神社界が泥仕合を演じている』、「泥仕合」とは私も使ったが、どうも言葉としては不適切なようだ。というのも、記事で読む限りは、怪文書は鷹司統理の方から出たものではなく、田中派から出た一方的なもののようだ。だからこそ、怪文書について、田中執行部が「内部調査や告発などは行わない」ことにしたのだろう。鷹司統理には、田中総長やその一派を追い出す秘策はあるのだろうか。
タグ:橘玲 ダイヤモンド・オンライン 神社本庁 ”右傾化” (その8)(靖国神社の宮司が「反天皇」になっていた理由とは? [橘玲の日々刻々]、靖国神社は「御霊」を独占できるのか? 保守論壇は天皇の慰霊の旅の矛盾を説明すべき[橘玲の日々刻々]、天皇の甥を「暴走列車」呼ばわり 神社界分裂で飛び交う“不敬”怪文書) 「靖国神社の宮司が「反天皇」になっていた理由とは? [橘玲の日々刻々]」 靖国神社の宮司が天皇を批判するという前代未聞の出来事が発覚 宮司は、「どこを慰霊の旅で訪れようが、そこには御霊はないだろう」と今上天皇の慰霊の旅を否定し、「はっきり言えば、今上陛下は靖国神社を潰そうとしてるんだよ。わかるか」と述べています 背景には、A級戦犯合祀以来、天皇が靖国を親拝していないこと 靖国神社は祭司である昭和天皇にいっさい相談せず、独断でA級戦犯を合祀 ネットでは天皇を「反日左翼」とする批判が 靖国神社の宮司の論理では、英霊に親拝しない天皇は「反靖国」であり、「反日」だということ 「なにもかも天皇が悪い」と“逆ギレ”した 「靖国神社は「御霊」を独占できるのか? 保守論壇は天皇の慰霊の旅の矛盾を説明すべき[橘玲の日々刻々]」 宮司の手記が月刊『文藝春秋』に掲載 「改革」を叫ぶ新任の宮司はうるさいだけの存在で、内部の研究会での暴言を録音してマスコミに流すことでやっかいばらいした、ということのようです 元宮司は、こうした時空を超えた魂の偏在を否定し、正しい神道では戦死者の御霊は靖国神社にしかいないといいます 戦場に残されたのはたんなる「遺骨」でしかなく、だからこそ、そんな場所で「鎮魂」してもなんの意味もないのです きわめて偏狭な考え方 御霊がどこでも望む場所に行けるなら、千鳥ケ淵戦没者墓苑にもいるはずだからです。そうなれば皇族も政治家も、参拝のたびに「歴史問題」が騒がしい靖国ではなく、どこからも批判の出ない千鳥ヶ淵でこころおきなく戦没者の霊を鎮めればよいことになってしまうのです 今上天皇が生涯をかけた慰霊の旅が、御霊のない場所を訪れるだけの「観光旅行」になってしまいます。これは保守派にとって深刻な矛盾 「天皇の甥を「暴走列車」呼ばわり、神社界分裂で飛び交う“不敬”怪文書」 の職員宿舎の売買を巡る疑惑に端を発した“聖俗”2トップの確執が神社界を二分する中、複数の怪文書が飛び交う泥仕合に発展 靖国神社前宮司による天皇家批判を想起させるような怪文書が飛び交っている 批判の矛先は、なんと、今上天皇の義理の甥で、神社界を“象徴”する「統理」の役職に就く、鷹司尚武氏 背景にある神社界「聖」と「俗」の対立 鷹司統理は、公家の家格の頂点である「五摂家」の一つ、鷹司家の現当主であり、昭和天皇の第3皇女の養子で、天皇の義理の甥だ 「聖」の部分を担うその鷹司統理 「俗」の部分を担う事務方のトップ、田中恆清・神社本庁総長 職員宿舎の売買の疑惑(参考記事)を巡り、上層部と業者の癒着を疑いその解明を求める文書を作成して解雇処分となった神社本庁の元幹部職員と、神社本庁の間で今も続いている処分無効を求める訴訟に対し、一部の理事から「和解の道を探るべし」という提案が上がり、鷹司統理も、平成の御代替わりを前に収束を図るためにも議論を深めた方がいい、という見解 これに立腹した田中総長が「悔しいが今日限りで辞めさせていただく」と突如の辞任表明 10月、田中総長は一転して続投宣言 怪文書の一部 神社本庁の幹部職員クラスしか知り得ない内容が書かれている。少なくても、内部事情に精通する関係者がバックにいないと書ける代物ではない 一連の鷹司統理批判の怪文書に対し、担当幹部は内部調査や告発などは行わないことを早々に決めました 片や、懲戒解雇された元職員が作った文書が出回った際には、名誉棄損だとして、田中総長の指示で顧問弁護士も同席して疑わしい職員を事情聴取するなど、徹底的な犯人探しを行いました 今回は、統理という神社界の象徴が悪しざまに批判されているにもかかわらず、何もしないというのでは行動に一貫性がないと言われても仕方ない
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日本の構造問題(その9)(貿易で米独に勝てない日本経済が抱える過去の戦略ミス、なぜ日本の組織は息苦しいのか? 今も昔も日本人を支配する妖怪の正体) [社会]

昨日に続いて、日本の構造問題(その9)(貿易で米独に勝てない日本経済が抱える過去の戦略ミス、なぜ日本の組織は息苦しいのか? 今も昔も日本人を支配する妖怪の正体)を取上げよう。

先ずは、三井住友銀行 チーフ・エコノミストの西岡純子氏が12月5日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「貿易で米独に勝てない日本経済が抱える過去の戦略ミス」を紹介しよう。
・今年7-9月のGDP(国内総生産)は、物価変動分を除く実質で前期比年率▲1.2%と、マイナス成長に転じた。 自然災害の影響が消費や輸出に影響したことが減少の主因で、経済の牽引役となっている民間企業の設備投資は8四半期連続で増加しており、落ち込みは一時的な動きだろう。 だが先行きを展望すれば、日本経済が抱える課題は多い。海外では緩やかに需要が鈍化しているうえ、来年の年初から始まる日米物品貿易協定(TAG)交渉の結果次第では、輸出産業は今年ほど楽観はできない。 さらには、来年10月実施の消費増税と、ビッグイベントが控える。だが懸念されるのはGDPの鈍化だけではない』、何なんだろう。
・『減り続ける交易利得 原油価格値下がりは朗報か  日本経済は、海外への投資で“稼ぐ”体制へと移っている実態からいえば、GDPだけ見てみても経済の全体像を把握できない。 海外への投資から得られる所得や、貿易取引における価格の変化が、国全体の所得にどのような利得をもたらしているのかという尺度も合わせて評価する必要がある。 中でもこのところ注目すべきことは、交易利得の減少(交易条件の悪化)だ(図表1)。 交易利得とは、輸出入双方の価格の変化がどれだけ所得の流出入に影響したかを分析する指標である。 例えば、商品市況の上昇(下落)は、エネルギー原材料を輸入に依存する日本経済には交易条件の悪化(改善)要因として働く。また、円高(円安)は輸入価格を押し下げる(押し上げる)ことで一般には交易条件の改善(悪化)要因である。 国際競争力の向上(低下)で価格引き上げが積極化(消極化)することも、交易条件の改善(悪化)要因である。 海外との取引では、貿易のほか、証券投資や直接投資を通じて所得の受取・支払も発生する。 日本は国内での投資が抑制されてきた一方、海外への投資が積極化してきたことで、海外からの所得の受取(利子・配当収入など)が国民所得の嵩上げに存在感を増してきた。 しかし、その海外からの所得・純受取もここ3年ほどは、改善が頭打ちとなっている。 つまり、今の日本経済は、GDPの伸びが鈍い上、足元では交易利得が大きく減っていることと、それを相殺する海外からの所得流入の勢いも失せており、国民所得総額の伸びが総じて抑えられた状況にあるという、非常に厳しい状況なのだ。 そうした中、ここ1ヵ月で原油価格は大きく低下した。これは朗報といえるのだろうか』、確かに易条件の悪化は深刻だ。
・『アジア諸国との競争で価格抑制 製品の差別化を後回しに  交易条件の低下が始まったのは2000年央である。それまでは、どちらかといえば日本の交易条件は良好だった。 だが、90年代の後半のIT革命をきっかけに、世界的に資本の生産性が向上し、また諸外国による市場開放の拡大で人・モノ・サービスの移動が活発になった。 人手を必要とする工程は労働単価が相対的に安い新興国に集中し、いわゆる新興国と先進国の間での分業体制が定着するようになった。さらに、2001年に中国がWTOに加盟したことで、こうした世界レベルでの製造業の分業体制が加速度的に広がった。 その折、日本はアジア諸国との競争で優位に立つための戦略として、製造コストの削減に力を入れ、アジア諸国の製品と価格競争で負けないために輸出価格の抑制を徹底した。 本来なら、技術力や生産性などで、比較優位にある自国の輸出品目は、その優位性をもとに外貨建ての値段を引き上げることができるはずだ。 だが、日本はアジアとの競争で値上げを回避し続けてきた結果、交易条件は実に2012年ごろまで長く、悪化の一途を辿ったのだった。 もちろん、交易条件の悪化の一番の理由は、2006年ごろから2008年の間の原油価格の急騰だったが、当時は輸出価格の抑制と時期が重なったことで日本の交易条件の悪化が一層、加速した。 ちなみに、輸出価格の抑制をしながら、日本企業が製品の高付加価値化を進めたのも事実である。 自動車、電気機器、汎用性機械など、製品の差別化も進められた。 しかし、製品の差別化が進んだ割には、価格の引き上げが後回しにされたことで、交易条件は悪化の一途を辿ったのだ』、「日本はアジア諸国との競争で優位に立つための戦略として、製造コストの削減に力を入れ、アジア諸国の製品と価格競争で負けないために輸出価格の抑制を徹底した」というのは、致命的な戦略ミスだ。
・『輸出価格を引き上げたドイツとは好対照  この点、高付加価値化や製品差別化で、交易条件を大きく改善させたのがドイツである。 現在は交易条件の改善は2016年からの原油価格の反発とユーロ安で足元では鈍化しているものの、過去と比べて水準はなお高い。 国内外で取引される物・サービスの“数量”の回復に加え、価格転嫁の進捗によって、ドイツ経済は国民所得が大きく伸びた。 こうしたドイツの成長を見ると、産業構造が近いとされる日本が随分と水をあけられたことは明らかだ。 15年ほど前のドイツ経済は日本と同様、デフレ的な経済状況に苦しみ、通貨統合後のユーロ高に促された交易条件の改善でも、2000年代前半の数量の改善は大きく出遅れた。 その後、アジア経済の好況に乗って2000年代後半には輸出数量の回復に勢いが戻ったものの、当時の加速度的な交易条件の悪化(原油高)によって交易利得の本格回復を見ることなく、リーマンショックを引き金にした金融危機の影響を受けGDPも落ち込んだ。 しかし、金融危機後のドイツは、原油安だけでなく、輸出品目の価格引き上げを進めたことで交易条件が改善、価格・数量の両面で収益が押し上げられた』、金融危機後のドイツの対応は理想的だ。
・『原油安だけでは交易条件の改善は一時的  主要国間で交易条件の違いに影響をもたらすのは、大きくは(1)為替の影響の違い、(2)輸入構造の違い、(3)輸出構造の違い、の3点だ。 これら3要因のうち、短期的にもはっきりと観測しやすいのは(1)と(2)である。 日本の輸入構造は米独と比べてエネルギー関連の鉱産物および燃料のウェイトが高い。 また、為替の影響度についても、日本では輸出取引全体の約5割が、輸入取引の約7割がドル建てだ。商品市況の変動と絡んだ為替ドルの変動で、輸入側のコストの上下が日本全体の交易条件を変動させやすい。 これに対してドイツは財の輸出入の3分の2をEU域内での取引が占めており、自国通貨建ての決済の割合は日本よりも多い。 輸出構造の違いも、特に日本とドイツの交易条件の差を説明する上で、重要な要素だ。 日本とドイツの輸出相手国を見ると、ドイツはユーロ圏ないしユーロ圏を除くEUが6割強を占めるのに対し、日本は中国およびアジア新興国が半分以上だ。 互いに地の利を生かした構造であることは明らかだが、その中でも違いと言えば、ドイツは所得水準の近い国との間で、最終製品を中心にした水平的な貿易取引が多いのに対し、日本は部品を提供した上で、アジア新興国で加工するという垂直的な分業体制が定着していることだ。 前者のような水平的な貿易では、例えば自動車でも互いに輸出入を行うことで競争が展開され、技術力のある国の製品差別化が進みやすい。それが定着すると、比較優位にある国(ドイツ)は消費国に対し価格転嫁を進めやすくなる。 一方で、日本は2000年初以降のアジア諸国の需要の拡大をビジネスチャンスととらえると同時に、アジア域内に急速にサプライチェーンを拡大した。 国際競争力を維持する上で、技術力での優位だけでは足りず、価格を下げることでシェアを維持しようとしてきた。 これこそが日本の交易条件が改善しにくくなった背景であり、ドイツに大きく水をあけられた理由である。 日本の産業を活況にする上で、円安が必要だとする主張が今なお多い。確かに円安は輸出競争力を向上させることは事実である。しかし、肝心のドル建て価格を積極的に引き上げることができない限り、国民所得の安定した増加は続かない。 結局は、原油価格など、その時々の商品市況の上下に所得の流出入が左右され、一喜一憂する状況は続いてしまうだろう』、日本の輸出価格の抑制は円高時代から続く悪弊だ。当時は、円高→輸出価格の抑制→黒字拡大→円高、といった悪循環に陥っていたが、円安になっても輸出価格の抑制に頼っているようでは、救いがない。
・『株価の低迷も同じ理由 「値上げ我慢」では限界  ちなみに、米独では、交易条件の改善と数量が回復する局面では総じて株価が上昇している。 米国では、このところ株価の動向が不安定なことから、米国経済の変調を懸念する声も多いが、交易条件と数量双方が安定して改善している状況から考えると、米国の株価が過去のリセッション時のような急激な調整局面を迎えるとは思えない。 一方ですでに交易条件が悪化に転じ、貿易取引の数量も頭打ち感が出てきている日本の株価が、米国の株価に比べて、低く評価されているのも、理由がないことではないのだ。 日本はエネルギー原材料の調達を輸入に頼る経済であり、原油など商品価格の低下は日本経済にとって朗報のはずだ。しかし、一方で製品の差別化や高付加価値化で輸出価格を引き上げる取り組みがないと、交易条件の改善もそのとき限りでそれは一時的な恩恵なのだろう。 企業が値上げを我慢しコスト削減で頑張るといった「デフレマインド」を放棄しないままでは、国全体で見た所得の流出を許してしまうことになる。 そして結局、それは国内で財政赤字を吸収する余力がなくなることにもつながってしまう』、説得力ある日本経済論だ。

次に、ビジネス戦略コンサルタント・MPS Consulting代表の鈴木博毅氏が12月6日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「なぜ日本の組織は息苦しいのか? 今も昔も日本人を支配する妖怪の正体」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/186200
・『忖度、パワハラ、同調圧力、いじめ、ネット炎上、無責任主義……。なぜ、日本の組織は息苦しいのか? 会社から学校、家族、地域コミュニティ、ネットまで、日本社会が抱える問題の根源には「空気」という妖怪が存在する。それは明治維新、太平洋戦争、戦後の経済成長にも大きく作用し、今日もまったく変わらず日本人を支配する「見えない圧力」である。15万部のベストセラー『「超」入門 失敗の本質』の著者・鈴木博毅氏が、40年読み継がれる日本人論の決定版、山本七平氏の『「空気」の研究』をわかりやすく読み解く新刊『「超」入門 空気の研究』から、内容の一部を特別公開する・・・』、本質を突いているようで、興味深そうだ。
・『旧日本軍からネット炎上まで今も昔も変らず日本人を支配するもの  1977年(文庫版は1983年)に出版された山本七平・著『「空気」の研究』という書籍があります。この書は、日本人の特殊な精神性や日本的な組織の問題点を指摘する存在として、世に出て以降ずっと読み継がれてきました。 同書を一読されたほとんどの方は、この書が今の日本の何か重要な問題を描き出していると感じるのではないでしょうか。 神経をすり減らす人間関係、個性より周囲との協調性を優先する教育、繰り返される組織内での圧力などが今、問題となっています。 息を潜めて、目立つことを避けながらも、周囲を常に意識しなければ不安にさせられる「相互監視的」な日本社会のリアル。誰もが「空気」に怯えながら、「空気」を必死で読む日々に疲れ切っているように見えます。 山本氏は、世界の歴史や宗教への深い造詣、戦地での極限の体験などから、日本人を支配する「空気」という存在を、多角的に描写してその力学を解き明かしています。『「空気」の研究』で鋭く描写された多くの理不尽な構造は、残念なことに現代日本でもまったく変わらないままです』、その通りだ。
・『エスカレートする日本社会の生きづらさ  「空気」という言葉から、日本社会の息苦しさを連想する人は多いのではないでしょうか。自由に意見が言えず、人と違えば叩かれ、同調圧力を常に感じる。 山本氏は『「空気」の研究』で、日本の組織・共同体は「個人と自由」という概念を排除する、と指摘しました。 最近ではネットやSNSでの誹謗中傷、匿名の集団による個人攻撃もエスカレートしています。学校ではいじめや自殺がなくならず、会社ではブラック企業や過労死が問題になっています。 1977年に同書が世に出て以降、日本社会の生きづらさは改善されるどころか、益々ひどくなっているように思えます。では、なぜ日本社会はこんなにも息苦しいのでしょうか? それは、私たちの社会に浸透する「空気」と大いに関係しているのです』、全く同感だ。
・『「空気」が日本を再び破滅させる  東日本大震災後の国の対応、東京都の築地市場の移転問題、相次ぐ巨大企業の不祥事と隠蔽、次々と明らかになる組織内でのパワハラやセクハラ……。その都度指摘されるのが「同調圧力」「忖度」「ムラ社会」「責任の曖昧さ」などです。 問題への対処にさえ「なかったフリをする」「起きた事故の惨禍に目をつぶる」など、日本社会の悪しき慣習が、この国の問題を拡大して日本人を苦しめているかのようです。 『「空気」の研究』で、山本氏は衝撃的な予言を残しています。もし日本が、再び破滅へと突入していくなら、それを突入させていくものは戦艦大和の場合の如く「空気」であり、破滅の後にもし名目的責任者がその理由を問われたら、同じように「あのときは、ああせざるを得なかった」と答えるであろう。 山本氏は砲兵士官として1944年にフィリピンのルソン島に出撃し、その地で敗戦を迎えています。そのため『一下級将校の見た帝国陸軍』などの軍体験を活かした著作も多いです。その山本氏が「日本が再び破滅するなら、空気のためだ」と予言しているのです。 敗戦後の日本は、1980年代まで経済成長が続き、一億総中流時代と呼ばれた豊かな時期を経験していました。その頃すでに、日本の未来に「空気による破滅」を山本氏は予感していたのです』、「「日本が再び破滅するなら、空気のためだ」」と予感していた山本氏は、やはりさすがだ。
・『日本軍の失敗と今の社会問題に共通すること  終戦直前、護衛戦闘機もなく沖縄へ出撃した戦艦大和は、アメリカの戦闘機の波状攻撃を受けて戦果なく撃沈されました。無謀な作戦の理由を聞かれて、軍令部次長だった小沢 治三郎中将はこう答えたと言います。 「全般の空気よりして、当時も今日も(大和の)特攻出撃は当然と思う」 山本氏はこの発言に「空気」の存在を見ていました。 当然とする方の主張はそういったデータ乃至根拠は全くなく、その正当性の根拠は専ら「空気」なのである。従ってここでも、あらゆる議論は最後には「空気」できめられる。 さらに、山本氏は大胆に、空気を「妖怪」のようなものだと指摘します。 統計も資料も分析も、またそれに類する科学的手段や論理的論証も、一切は無駄であって、そういうものをいかに精緻に組みたてておいても、いざというときは、それらが一切消しとんで、すべてが「空気」に決定されることになるかも知れぬ。とすると、われわれはまず、何よりも先に、この「空気」なるものの正体を把握しておかないと、将来なにが起るやら、皆目見当がつかないことになる。 「空気」で合理性が消し飛ばされ、非合理極まりない決定に突き進むかもしれない。日本が破滅の道を避けるには、「空気という妖怪」の正体を見極めるべきなのです』、その通りだが、正体を見極めるのは容易ではなさそうだ。
・『なぜ穏和な日本人は集団になると攻撃的になるのか  日本社会でたびたび問題となる「いじめ」。集団の中で誰かを多数で攻撃したり、陰湿な差別をすることに、学校現場で歯止めがかかりません。いじめの対象にされた子どもが自殺する痛ましい犯罪がいまだに続いています。 最近では、ネットや不特定多数が参加するSNSでも、特定の人物を袋叩きにするような現象が頻繁に起こっています。 空気を乱す者を敵視して、集団になると個人の倫理を捨てて一斉に攻撃する陰湿さ。日本人は性格的に穏和な人が多いと言われながら、特定の状況には極めて非情、不寛容で仲間外れにすることに容赦がありません。まるで古い時代の村八分のようです。 一体、なぜこのようなことが起きるのでしょうか。そしてなぜ、日本社会はそれを克服できないのでしょうか。 日本的なムラの仕組みにも、「空気」が大きく関係しているのです』、ただ、グローバルな視点で考えると、集団内での仲間外れは、日本は特に酷いが、欧米でも程度の差こそあれ見られる事象なのではないだろうか。
・『一瞬で頭が切り替わり矛盾も気にしない  日本人は海外に行くと、その国に溶け込んでしまうと言われます。「郷に入れば郷に従う」で、その国の文化や信条にできる限り従おうとするからでしょう。日本人の民族性の一つは、「状況に即応する」ことなのかもしれません。 何かに染まりやすい、自らを進んで塗り替える性質を持っているのです。裏を返せば、状況に即応する意味での一貫性が日本人には常に存在しています。 山本氏は「明治維新」「文明開化」「敗戦後」には、がらりと変わったという意味での共通点があると指摘します。みんなが一緒に新しい方向を向く。文明開化の時代と言われたら、国を挙げてそれに取り組み、みんなが乗っかってしまう。 敗戦で戦争が終わり、平和な時代になると、鬼畜米英がアメリカの自由主義万歳になる。一瞬でほとんどの人の頭が切り替わり、なぜそうなったかは気にしない。こうした日本人の瞬時の対応力を、山本氏は「見事なものだ」と何度も褒めています。 時代の転換点で、状況にすぐ頭が追いついてしまう。だから時に、他国を驚かすような急激な変化を実現し、ちょっと前までの自分たちと矛盾することなど、日本人は苦にもしない。そのプラス面が出たのが明治維新であり、その後の文明開化や敗戦後の経済成長だったのです』、節操なく新しいものに飛びついていくのは、確かに日本人の特性のようだ。
・『仮装の西洋化では変わらなかった日本人の根源的ルーツ  変わってしまった状況に「即応する」のが日本人の行動原理だとするなら、江戸時代から明治維新、戦前から戦後という大激変期にも、日本人の根本は変わっていないのではないでしょうか。 「仮装の西洋化」で日本人は自分が変身したように感じて、過去を捨ててしまう。しかしその実体は、「変化に即応する」「先に進む度に過去の歴史を捨てる」など、変わらない日本人の根源的な行動様式、一貫した思想の結果ではないか。 平成になり、21世紀に生きているように振る舞いながらも、その規範や意識、抱えている問題は、まさに「昭和の行動原理」から生み出されているのかもしれません。いや、日本人の根源的な思想は、大昔から変化していない可能性さえあるのです』、なかなか説得力があり、興味深い指摘だ。
・『日本人を知るための、もう一つの「失敗の本質」  過去30年以上読まれ続けた『失敗の本質』という名著があります。野中郁次郎氏ら6名の共著者によるこの書籍は、旧日本軍の戦略・組織上の失敗を明らかにした書として累計70万部以上のロングセラーとなっています。 山本氏の『「空気」の研究』は、日本人の思考様式や文化的精神性の「失敗の本質」を解明した名著と言えるかもしれません。日本人が集団として組織化したときの“規範”も分析しているため、日本人が陥りやすい「失敗の本質」を探り当てているのです。 明治維新や近代化、敗戦後の復興と経済成長では、日本人は世界でも稀な偉業を成し遂げています。誇るべき日本人の文化的・思想的ルーツの力なのは間違いありません。 一方で、日本は悲惨な第2次世界大戦で数百万人の命を失いました。敗戦後の経済至上主義的な社会でも多くの問題を生み出し、放置したまま拡大して惨劇にまで発展させたことがたびたびありました。この傾向は現在も続いています。 山本氏が描いた「空気」を本当の意味で知ることは、私たち日本人を知ることです。日本人の思考や精神のメカニズムを知ることです。日本人を縛り続け、歴史上の幾多の成功と失敗へと導いてきた恐るべき「何かの力」を把握して、その正体を見極めることなのです』、なるほど。
・『空気という妖怪の正体をつかむ「7つの視点」  新刊『「超」入門 空気の研究』は、『「空気」の研究』を構造から把握するために、次の7つの視点で紐解きます。 ●第1章「空気という妖怪の正体」 なぜ空気が合理性を破壊するのか。不可能とわかり切っている作戦をなぜ決行するのか。この章では、日本人が合理性と空気の狭間で引き裂かれている理由を解説します。 ●第2章「集団を狂わせる情況倫理」 日本人は共同体、集団になると、なぜか愚かな決断をしてしまう。ムラ社会と言われる日本で、空気が共同体にどんな影響を与えているかを解説します。 ●第3章「思考停止する3つの要因」 日本社会の中に、空気の拘束をより強力にしてしまう要素が存在します。何が空気を狂暴化させているのか、日本人の思考法とともに空気の構造を読み解きます。 ●第4章「空気の支配構造」 空気が日本社会を支配するときの、3つの代表的パターンを紹介して、精神的な拘束が、物理的な影響力に転換される構造を明らかにしていきます。 ●第5章「拘束力となる水の思考法」 加熱した空気を冷やす「水」という存在。山本氏の記述から、水の機能とその正体を解説し、その限界を明示することで、空気を打破する新しい入り口を考えます。 ●第6章「虚構を生み出す劇場化」 空気は虚構を生み出すが、人間社会では虚構こそが人を動かす。日本人が、虚構の劇場化で社会を動かし、時に狂う理由を、歴史を踏まえながら解説していきます。 ●第7章「空気を打破する方法」 山本氏の解説した「根本主義(ファンダメンタリズム)」などから、本書第6章までの分析を踏まえて、空気打破の方法を発展的に論じます。 山本氏は空気の拘束から脱出するためには、その正体をまず正確に把握すべきだと何度も強調しています。 日本社会に息苦しさを生み出す空気と、個人に自由を許さない共同体原理。日本の組織を支配して、時に合理性を完全に放棄させるその恐ろしさ。太平洋戦争の惨禍と社会統制の異常な時代を体験した多くの日本人は、空気の異常性を訴え、空気打破への願いを込めて、さまざまな形で空気の正体を描写しようとしてきました。 山本氏の『「空気」の研究』は、空気打破への英知の集大成と考えることもできます。 私たち日本人は、明治維新から150年を経て、空気を打ち破る入り口に立っています。今こそ、悲惨な歴史を繰り返さないため、健全な未来を創造するために、『「空気」の研究』からその打破の方法を学びとるべきなのです。(この原稿は書籍『「超」入門 空気の研究』から一部を抜粋・加筆して掲載しています)』、山本氏をはじめ多くの人々が、解明に取り組んできた難題に、この本がどれだけ答を用意したのかは不明だが、時間があれば読んでみたい1冊ではある。
タグ:ダイヤモンド・オンライン 鈴木博毅 『「超」入門 失敗の本質』 日本の構造問題 (その9)(貿易で米独に勝てない日本経済が抱える過去の戦略ミス、なぜ日本の組織は息苦しいのか? 今も昔も日本人を支配する妖怪の正体) 西岡純子 「貿易で米独に勝てない日本経済が抱える過去の戦略ミス」 減り続ける交易利得 中でもこのところ注目すべきことは、交易利得の減少(交易条件の悪化)だ アジア諸国との競争で価格抑制 製品の差別化を後回しに 日本はアジア諸国との競争で優位に立つための戦略として、製造コストの削減に力を入れ、アジア諸国の製品と価格競争で負けないために輸出価格の抑制を徹底した 輸出価格を引き上げたドイツとは好対照 原油安だけでは交易条件の改善は一時的 ドイツは所得水準の近い国との間で、最終製品を中心にした水平的な貿易取引が多い 日本は部品を提供した上で、アジア新興国で加工するという垂直的な分業体制が定着 水平的な貿易では、例えば自動車でも互いに輸出入を行うことで競争が展開され、技術力のある国の製品差別化が進みやすい。それが定着すると、比較優位にある国(ドイツ)は消費国に対し価格転嫁を進めやすくなる 日本の輸出価格の抑制は円高時代から続く悪弊 株価の低迷も同じ理由 「値上げ我慢」では限界 「なぜ日本の組織は息苦しいのか? 今も昔も日本人を支配する妖怪の正体」 日本社会が抱える問題の根源には「空気」という妖怪が存在する 山本七平氏の『「空気」の研究』 『「超」入門 空気の研究』 旧日本軍からネット炎上まで今も昔も変らず日本人を支配するもの 息を潜めて、目立つことを避けながらも、周囲を常に意識しなければ不安にさせられる「相互監視的」な日本社会のリアル。誰もが「空気」に怯えながら、「空気」を必死で読む日々に疲れ切っているように見えます エスカレートする日本社会の生きづらさ 社会に浸透する「空気」と大いに関係 「空気」が日本を再び破滅させる 「同調圧力」「忖度」「ムラ社会」「責任の曖昧さ」 「なかったフリをする」「起きた事故の惨禍に目をつぶる」など、日本社会の悪しき慣習 山本氏が「日本が再び破滅するなら、空気のためだ」と予言 日本軍の失敗と今の社会問題に共通すること 「空気」で合理性が消し飛ばされ、非合理極まりない決定に突き進むかもしれない なぜ穏和な日本人は集団になると攻撃的になるのか 一瞬で頭が切り替わり矛盾も気にしない 仮装の西洋化では変わらなかった日本人の根源的ルーツ 日本人を知るための、もう一つの「失敗の本質」 空気という妖怪の正体をつかむ「7つの視点」 私たち日本人は、明治維新から150年を経て、空気を打ち破る入り口に立っています。今こそ、悲惨な歴史を繰り返さないため、健全な未来を創造するために、『「空気」の研究』からその打破の方法を学びとるべきなのです
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日本の構造問題(その8)(子供の熱中症死を続出させる「根性大国ニッポン」の狂気、「アイデンティティ」って何ですか、日本の労働生産性がG7で最下位にとどまる理由) [社会]

日本の構造問題については、6月8日に取上げた。今日は、(その8)(子供の熱中症死を続出させる「根性大国ニッポン」の狂気、「アイデンティティ」って何ですか、日本の労働生産性がG7で最下位にとどまる理由)である。

先ずは、ノンフィクションライターの窪田順生氏が7月26日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「子供の熱中症死を続出させる「根性大国ニッポン」の狂気」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/175658
・『災害級猛暑の中で、熱中症にかかる子どもが続出している。こんな事態になってなお、なぜ日本人は根性論から抜け出せないのか。旧日本軍に蔓延していた「狂った考え」が、今なお日本社会全体を覆っているからではないだろうか』、なかなか興味深そうだ。
・『「亡き女子マネへ…」美談にされた酷い事件  「猛暑に耐えてこそ」という根性論は旧日本軍にも蔓延していました。 気が狂いそうになるような連日の暑さのなかで、本当に気が狂ってしまったのではないかと心配するような、「子どもへの虐待」が続発している。 7月17日、愛知県豊田市の小学校ではすさまじい炎天下で高温注意情報が出ているなか、エアコンのない校舎で過ごしていた1年生112人に、さらに1キロ離れた公園まで歩かせて、昆虫採集や花摘みをさせるという暴挙に出た。 行きの道中から疲れを訴えていた男の子は、唇が真っ青になって意識を失い、そのまま帰らぬ人となった。熱中症のなかでも、重い症状にあたる「熱射病」だった。 甲子園の地方予選でも、炎天下で母校の応援に駆り出される子どもたちがバタバタと倒れている。あまりに犠牲者が出て感覚が麻痺してしまったのか、いつもは何かと「子どもを守れ」と世間にご高説を垂れる「正義の大新聞」までおかしなことを言い始めた。 新潟の私立加茂暁星高校が地方予選準決勝で敗れたことを、「練習直後に倒れ…亡き女子マネジャーへ、捧げる2本塁打」(朝日新聞デジタル2018年7月22日)と報じたのだ。 タイトルだけ聞くと、漫画「タッチ」を思わせるような甲子園感動秘話を連想するかもしれないが、正確には、この女子マネージャーは、「練習後に約3.5キロ離れた学校に戻るため、選手とともにランニングをさせられて倒れた」のである。 しかも、遺族によると、倒れた時に心室細動を発症していたが、野球部の監督は「呼吸は弱いけれどある」(朝日新聞デジタル2017年7月25日)とAEDを使わず、救急車が来るのを待っていたという。数日後、女子マネージャーは低酸素脳症で亡くなった』、朝日新聞としては、甲子園主催社として美談にまとめたのだろうが、倒れた後の野球部監督の対応は、刑事責任さえ問われておかしくないほどの酷い対応だ。
・『戦前の「軍国美談」にソックリ 異様な「甲子園美談」報道  どう考えても「いやあ、甲子園って本当にいいものですね」で済まされるような話ではないにもかかわらず、甲子園の主催社として高野連に「忖度」でもしたのか、8月5日の開幕へ向けて全国の「甲子園大好きおじさん」を煽るコンテンツにすり替えられてしまっているのだ。 太平洋戦争時、赤紙が来た夫が戦闘に集中できるようにと、自ら命を絶った妻を「日本女性の鏡」だと褒めちぎった戦前マスコミの「軍国美談」を彷彿とさせる、異常な「甲子園美談」報道といえる。 今年の暑さは異常だ。そんな言葉が日本全国にあふれているが、異常だ異常だと騒ぐわりに、大人よりも暑さに弱い子どもたちに対して、なんら特別なケアをしようとはしない。むしろ、「教育」や「鍛錬」の名のもと、積極的に殺人的な暑さのなかへ放り込む。 当然、犠牲者が出るが、大人たちは責任追及もせず、反省も促さない。普段は「子どもを守れ」とエラそうなことを言っている人たちも、「避けられなかった悲劇」みたいに妙に歯切れが悪くなるのだ。社会全体で無言の圧力をかけて、「亡くなった子どもはたまたま暑さに弱かった」という方向へ持っていく。 なんてことを言うと、「亡くなった子どもたちは気の毒だが、だからといって、あまり極端に過保護にするのもいかがなものか」みたいな反論をする人たちが必ず出てくる。 「昔の部活はもっと過酷だった。炎天下で、1人や2人ぶっ倒れるこどなど珍しくもなかった」「昔はクーラーなんてなかったから、もっと暑かった。そういうなかで遊んだり、スポーツをしたりすることで、強い子どもになる」――。 こういう「認識の決定的なズレ」を耳にするたび、デジャブというか、これと似たやりとりが延々と無限ループしているような話があったなよな、と考えていたのだが、最近ようやくそれが何かを思い出した』、「普段は「子どもを守れ」とエラそうなことを言っている人たちも、「避けられなかった悲劇」みたいに妙に歯切れが悪くなるのだ」、確かにこの発想の断絶を奇異に思わない日本人が圧倒的多数のようだ。
・『米兵に多くの死者を出した「バターン死の行進」  太平洋戦争中の「バターン死の行進」である。 フィリピン進行作戦をおこなっていた旧日本軍が、投降した米軍兵士たちをバターンからオードネルというところまでおよそ100キロ、歩かせた行軍のことである。 その過程や捕虜収容所で、米軍兵士に多くの死亡者が出たことから、旧日本軍の「捕虜虐待」として戦後に裁かれ、責任者だった本間雅晴中将は処刑されている。 おいおい、現代日本の熱中症死と、70年以上前の戦争中の出来事を一緒にするなよと思うかもしれないが、実は両者の正当性を巡る論争というのは、驚くほど似ている。というか、丸かぶりだ。 この「バターン死の行進」は、アメリカ人からすれば今も許せぬ非道な「虐待」だが、日本の愛国心溢れる方たちからすれば、「米軍捕虜のわがまま」「戦争に勝った後に日本を不当に貶めるための言いがかり」ということになっている。 要は「虐待」ではないというのである。 その根拠となっているのは、旧日本軍が歩かせた「100キロ」というのが、1日換算では20キロで、そんなに過酷ではないということだ。米軍捕虜は武装解除しているので手ぶらである。屈強な米兵が十分な休憩を与えられながら歩いたというのなら、実態としては「ウォーキング」程度のものであるにもかかわらず、大袈裟に被害者ぶっているというのだ。事実、「同じルートを同じ時期に歩いてみたけど、まったく余裕だった」みたいなことをおっしゃる方もたくさんいる。 両者の主張の是非はともかく、筆者が強く感じるのは、昨今の熱中症議論とほぼ同じ無限ループに入っている点だ』、「バターン死の行進」は「旧日本軍が歩かせた「100キロ」というのが、1日換算では20キロで、そんなに過酷ではない」というのは、初めて知ったが、それでも死者が出たのは、日本軍の責任だろう。
・『虐待の意図はなくても実際に人が死んでいるのが現実  たとえば、冒頭で紹介した豊田市のケースでは、熱射病で命を奪われた子ども側の視点に立てば、「あんな暑いなかで1キロも歩かせるなんて虐待だ」となる。しかし、これを「虐待ではない」と主張する人は、「同じことをして平気な子どももいるんだから、その子がたまたま身体が弱かっただけ」となる。 「バターン死の行進」についていまだに歴史的評価が分かれているのと同じで、子どもの熱中症死をめぐる認識のズレも、その溝を埋めることは難しく、どうしても堂々巡りになってしまうのだ。 ただ、白黒をつけることはできないものの、両者の構造が同じなのであれば、なぜこういう悲劇が起きてしまうのかという根本的な原因を探ることはできる。 実際にフィリピン・ルソン島で砲兵隊本部の少尉として敗戦・捕虜生活を送った経験のある評論家の山本七平氏は、「一下級将校の見た帝国陸軍」(文春文庫)のなかで、「バターン死の行進」についてこのように述べている。《収容所で「バターン」「バターン」と米兵から言われたときのわれわれの心境は、複雑であった。というのは、本間中将としては、別に、捕虜を差別したわけでも故意に残虐に扱ったわけもなく、日本軍なみ、というよりむしろ日本的基準では温情をもって待遇したからである》(P.98) このあたりの認識の悲劇的なまでのすれ違いは、子どもの熱中症死にもピッタリ当てはまる。豊田市の1年生を受け持った担任も、女子マネージャーにランニングをさせた監督も、子どもたちを故意的に残虐に扱おうなどと微塵も思っていなかったはずだ。むしろ、彼らの基準では温情をもって待遇していたはずだ。 たとえば、報道によると、亡くなった女子マネージャーは監督から「マイペースで走って戻るように」(朝日新聞デジタル2017年7月25日)と言われたという。この監督なりの気遣いをみせているのだ。 しかし、結果として子どもは死んだ。温情をもって待遇した米軍捕虜がバタバタ倒れたように』、意図がどうであれ、結果には責任を取るべきだろう。
・『日本の大人が信じ込んでいる“クレイジーな基準”  「そんなのは防ぎようがないだろ」と思う方も多いかもしれないが、筆者の考えはちょっと違う。そんな言葉が出てしまうこと自体、「防ぐつもりがない」のではないか。つまり、そもそも「温情」のベースとなる「基準」が、狂っているとしか思えないのだ。 それを示唆するのは、かつて自身も「米兵への虐待」の当事者として、この問題に向き合った山本七平氏の以下のような記述である。 日本軍の行軍は、こんな生やさしいものでなく、「六キロ行軍」(小休止を含めて一時間六キロの割合)ともなれば、途中で一割や二割がぶっ倒れるのはあたりまえであった。そしてこれは単に行軍だけではなくほかの面でも同じで、前述したように豊橋でも、教官たちは平然として言った、「卒業までに、お前たちの一割や二割が倒れることは、はじめから計算に入っトル」と。》(同書P.98) 一方、太平洋戦争時、既にアメリカは車社会だった。普段から長時間歩く習慣のないアメリカ人たち、しかもジャングルで戦闘を繰り広げて体力が落ちている彼らに、「犠牲者折り込み済み」のハードな行軍を基準として少しばかり優しくしても、「虐待」としか受け取られないというわけだ。 このすれ違いは、熱中症死を引き起こす大人たちにも見られる。彼らがこれまで受けてきた教育は、「暑い日は外に出ない」なんて生やさしいものではない。「炎天下のなかで体を鍛える」ためには、「1割や2割が倒れるのも想定内」というものだ。 こういうクレイジなー基準を持つ大人がいくら温情をかけても、子ども側からすれば「虐待」以外の何物でもないのだ。 保護者からの受けも良く、子どもたちからも人望のある「いい先生」が、熱中症や「しごき」で次々と子どもの命を奪うのは、彼らの人間性に問題があるからではなく、彼らが正しいと信じ込んでいる「日本的基準」が狂っているからなのである』、最後の部分は的確な指摘である。
・『甲子園だけじゃない!日本企業にも息づく狂気  この狂気はどこからくるのか。そのヒントは、やはり「死の行進」を生み出した日本軍にある。実は旧日本軍の演習でも、今の高校野球の練習を彷彿とさせるかのように、暑さでバタバタと人が倒れていた。 85年前の夏には、富士山の裾野演習をおこなっていたところ「赤坂第一聯隊 殆ど日射病で倒る 死亡七名 重軽患者百数十名」(読売新聞1933年7月3日)なんてことがちょこちょこ起きている。 なぜこういうことになるのか。そこには、戦後アメリカ軍が日本の敗因を分析したレポートの中にもある「精神主義の誇張」がある。「重傷も癒す精神力 戦場の将兵は科学を超越する」(読売新聞1940年12月28日)なんて記事からもわかるように、「精神力」を鍛えれば、どんなに体をいじめても問題なし、という考えにとらわれていたのである。 これが教育現場に持ち込まれ、今だに綿々と息づいているのが、部活動であり、甲子園である。「動じぬ精神力・打ち勝つ野球… 打倒私立へ、都立の意地」(朝日新聞デジタル×ABCテレビ 2017年7月8日)なんて見出しからもわかるように、スポーツ科学が発達した今もなお、高校球児たちは、旧日本軍的な「精神力があれば何でも乗り切れる」という「根性指導」を強いられている。 そして、もうお気づきだろうが、この「1人や2人ぶっ倒れるのは想定内」という根性論は、教育を終えた子どもたちが身を投じる企業社会にも当てはまる。強い組織を作るためには、「1人や2人ぶっ倒れるのは想定内」という厳しい鍛錬のなかで、強い組織人をつくることが求められる。 そこから脱落して、心を病んだり、自殺をしたりする人は「たまたま弱かった」で片付けられる。つまり、部活で子どもの熱中症死が何度も繰り返されるのと、ブラック企業で若手社員の自殺が後を絶たない問題は、根っこがまったく同じであり、それは「バターン死の行進」にも通じる、「犠牲者を前提とした組織運営」という狂った基準があるのだ。 今年も甲子園が開幕する。猛暑のなかで肩を酷使しながら速球を投げるピッチャーや、意識朦朧としながら白球を追いかける野手を、同じく暑さでフラフラな子どもたちが喉を枯らして応援をする。子どもたちが苦しみ悶えて、がっくりと膝をつく姿を見て大人たちは、「なんて美しい姿だ」と感動をする。 「異常な暑さ」という言葉をテレビや新聞で耳にタコができるほどよく聞くが、もしかしたら異常なのは暑さではなく、我々の社会の方ではないのか』、「「精神主義の誇張」」や「旧日本軍的な「精神力があれば何でも乗り切れる」という「根性指導」」が、いまだに社会の隅々にまで生きているというのは、不気味だ。どうすれば脱却できるのだろうか。

次に、ソフトブレーン創業者の宋文州氏が10月12日付けのメールマガジンに掲載した「「アイデンティティ」って何ですか」を紹介しよう。
・『「子供は何歳から留学すべきか」、「子供は何歳から英語を勉強すべきか」を議論する際、多くの日本人は「日本人としてのアイデンティティがまだ形成されていないのに・・・」と言います。しかし、私の記憶では中国人からこのようなアイデンティティ論を聞いたことがありません。 「日本人のアイデンティティは何ですか」と聞くとたぶん殆どの方がはっきり答えられないと思います。たぶんなんとなく自分と同様に思考し、同様に行動する人の特徴を意味するでしょう。しかし、英語のアイデンティティは単なる「識別すること」に過ぎないのです。 外国に住む中国人は華僑と言って世界中に7千万人もいますが、皆さんから見れば彼らはしっかりしたアイデンティティを持っていると思うかもしれませんが、華僑のアイデンティティは多様である上、常に激しく変化しているのです。 本来の華僑は中国国籍を持ちながら中国に生活拠点がない人たちでした』、確かに日本人は、意味不明のアイデンティティ論にこだわるようだ。
・『しかし、ここ数十年の中国では、華僑も中国に生活拠点を持つようになりました。 また、私のような、中国に生活のベースを持ちながらよく海外でも生活する人も華僑と呼ばれることがあります。華僑と国内の中国人との区別が無くなるにつれてそのアイデンティティも無くなるのです。 華僑に対して外国の国籍を取得した中国系の人のことを「華人」というのですが、これも元々は海外に住むことが前提でした。しかし、ここ数十年、旅行、留学、資産運用、政治リスクなどの理由で外国のパスポートを取得する中国人はたくさんいます。彼らは外国に家を持っても仕事や生活の中心は中国にあります。 このような人たちは華人なのか華僑なのか、本来の華僑と華人のどちらにも属さないような気がします。 私は自分のアイデンティティと子供のアイデンティティを考えたこともありません。 親の影響、環境の影響と自分が歩んできた独自の経験が自分独自のアイデンティティを形成してくれるはずです。国や文化からの影響は受けますが、国に属し国によって分類されるものではありません』、彼のアイデンティティ論は、説得力に富んでおり、言われてみればその通りだと思う。
・『先週からロサンゼルスに来ています。台湾の知人と昼食する際、彼は華人としてロサンゼルスの中国系の企業家達を纏めて中国本土と交流を行う団体のキーパーソンです。 同じ中国語を話し、同じ文化背景を持つ彼に他の中国人との区別を意識しませんが、大陸の体制や政治について話せば、その考え方の違いは歴然とします。 夜の街を散策すると路上で歌ったりダンスしたりする方々の殆どはヒスパニック系の方々ですが、その歌の歌詞は英語ではありません。 ロサンゼルスの人気レストランは殆どメキシコ系料理です。農場、建設現場、ホテルの清掃係など、メキシコの不法移民がいないと経済は回らないでしょう。 メキシコからやってきた移民たちは仕事上英語を使うのですが、同じメキシコ人とスペイン語を話しメキシコ料理を食べ故郷の歌を歌う機会はたくさんあります。 米国の影響をいくら受けても在米メキシコ人のアイデンティティはなくならないでしょう』、なるほど。   
・『私が海外で出会った日本人は皆メキシコ人以上に日本人の集まりによく参加し、日本語を話し、日本料理を楽しむのです。日本のアイデンティティを無くすどころか、むしろ日本にいる日本人よりずっと日本のアイデンティティを持っているような気がします。 アイデンティティとは家族と友人から受けた影響で自然に形成するものです。 日本人の家庭に生まれた以上、その文化に自然に染まるのです。 外国文化の影響は日本文化の影響を消すものではなく、むしろその人独自のアイデンティティを作り出してくれるのです。 印象深い人とは環境に同化する人ではなく、様々な環境の影響を受けながらも独自の生き方をする人です。その過程に形成された個性はその人を識別する最もよいアイデンティティになるのです』、海外にいる日本人は、「日本にいる日本人よりずっと日本のアイデンティティを持っている・・・アイデンティティとは家族と友人から受けた影響で自然に形成するものです」というのは、その通りだ。「印象深い人とは環境に同化する人ではなく、様々な環境の影響を受けながらも独自の生き方をする人です」は、いかにも宋氏らしい鋭い指摘だ。国に囚われたアイデンティティ論からは脱却すべきだろう。

第三に、経済的視点から、第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミストの熊野英生氏が9月19日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「日本の労働生産性がG7で最下位にとどまる理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/179992
・『政府は「働き方改革」や「生産性革命」を掲げて生産性向上に躍起だが、日本の生産性が低いといわれるのはなぜなのか。国際的に比較することで、現状と課題を考えてみた。 日本の生産性は70年代からG7で最下位  日本生産性本部が、OECD加盟国35ヵ国で比較した時間当たりの労働生産性は、2016年のデータで20位である。 日本の生産性を100とすると、米国は151、ドイツが148、フランスが145、イタリアが118、イギリスが115、カナダが110となっている。これら7ヵ国を先進7ヵ国(G7)としてまとめると、日本はG7の中での生産性の順位は、データが遡及可能な1970年以降でずっと7番目(最下位)なのである。 私たちは、日々、生産性を上げるために働き方を工夫して、時間当たりの能率を高めようとしている。しかし、マクロの集計値から割り出した生産性は、国際的に見ると、思った以上に低い。こうした「低生産性の構造」は克服できるのだろうか』、G7で最下位を続けているとは、恥ずかしい限りだ。
・『上で述べたOECD加盟国の1時間当たりの労働生産性を示したのが、下の図表1だ。 日本の低生産性の犯人と考えられているのは、高齢化が進んで、消費が弱くなっていることだ。 確かに、単身世帯を含んだ全世帯のうち40%が無職世帯として増えてくようになると、消費者の傾向が節約志向になってしまう。年金生活者は、収入が固定的であり、かつ、所得水準も低い。厚生年金が月16.5万円で、年収ベースで約120万円の世帯が標準だとすると、そう高い買い物などはできないから、おのずと小売・サービス産業は付加価値の獲得が難しいと思われる』、主因が「高齢化が進んで、消費が弱くなっていること」だとすれば、改善する見込みは考え難そうだ。
・『サービス業の生産性の低さはどの国も共通する  そこで、日本の生産性を業種別に分解して、さらに主要国で同様の業種別生産性を計算してみた。(図表2)。ここでは、為替変動をなるべく排除して考えるために、OECDの購買力平価(PPP)で表示する加工を施した。 まず、気がつくのは、卸小売、個人サービスの生産性水準は、日本だけでなく、米国やドイツでも同様に低いことだ。 個人サービスの内訳をさらに詳しく見ても、相対的に宿泊・飲食サービスは低い。この点は各国で共通している。 日本の場合は、ヘルスケア・社会支援といった分野の生産性は4.10万ドルと特に低い。これは医療・介護・福祉が労働集約的な産業である上、財政状況が厳しいため、サービス単価が極端に抑え込まれているせいだろう。 日米欧を比較する限り、日本だけがサービスの生産性が低く、それが高齢化によって引き起こされているという要因だけではなさそうだ。どの国も、サービスの生産性は相対的に低くて、日本は高齢化や財政難によってそのことに拍車がかかっていると見た方がよい』、人手不足でロボット導入など機械化が進めば、生産性向上の余地もあるだろうが、安倍政権がやろうとしている安易な外国人導入策では、生産性は低いままだろう。
・『製造業は非価格競争力が弱点 牽引する産業がない日本  産業別の生産性を見たとき、日本の製造業は確かに相対的に高い生産性を誇っている。米国には及ばないが、ドイツとイギリスとは並んでいる。 ただ日本の場合、産業の中で、製造業が突出して生産性が高いというわけではない。米国では、全体平均に比べて製造業の生産性は1.47倍と高い。日本は1.39倍であり、米国ほどではない。 ドイツは、就業者1人当たりの製造業の生産性は米国ほど高くはないが、総労働時間は日本の約8割であり、時間当たり生産性は日本の25%ほど高い。また、時間当たり賃金は7割も高い。 日本の製造業は、生産性はそこそこ高いのだが、ドイツや北欧諸国に比べて非価格競争があるとはいえない。このことは、労働費用の安い新興国との価格競争に巻き込まれやすいことを暗示している。 また産業別に見た生産性の高さのランキングでは、日本は図表2の7ヵ国の中で、製造業が3位であることを除くと、電気・ガス・水道の4位で、他の業種は軒並み下位である。 このことは、日本で突出した生産性を誇っている産業がないことを示す。つまり、日本の生産性を上位に引っ張っていく産業の不在が、低生産性の特徴といえるのだ』、リーディング産業の欠如とは寂しい限りだ。
・『就業構造にも原因 高スキル職の割合が低い  筆者は、日本の生産性が高くない理由が、スキル=人的資本の蓄積によって製品や商品の価格やサービス単価を引き上げていこうという意識が弱いからではないかと考える。 高付加価値化の追求が必ずしも徹底されていないと言い換えてもよい。 このことは、就業者を職業別に分類してみても、専門職・技師の割合が少ないことでもわかる。 代わりに、事務補助員、サービス・販売員、単純作業の従業者は多目である。 これだけで確定的なことは言えないとしても、スキルが求められる職業の割合が低く、サービス業従業者などの汎用性のある職業の割合が高いことは、日本でスキルを重視した職業が少ないことをうかがわせる。 また、就業者の労働形態では日本は短時間労働者の割合が高く、かつ短時間労働者はフルタイム労働者の賃金の56.6%の水準しか受け取っていない(図表3)。このフルタイムとパートタイムとの賃金格差は欧州諸国と比べても大きい』、「日本の生産性が高くない理由が、スキル=人的資本の蓄積によって製品や商品の価格やサービス単価を引き上げていこうという意識が弱いからではないかと考える」というのには同感だ。もっと高付加価値化を目指さないと、生き残れないだろう。
・『高齢化のトレンドは逆風 低賃金の短時間労働者増える  今後、日本の高齢化が進んでいくと、企業内の人員構成は50・60歳代のウエイトが高まるだろう。そのとき、現在よりも、技能・専門職が増えていき、企業の高付加価値化は進むのだろうか。 2015年の総務省「国勢調査」では、55~59歳の雇用者の非正規比率は26.0%だが、60~64歳になると36.3%、65~69歳では39.0%と上昇していく。このデータは、企業内人口構成がシニア化するほど非正規する傾向を示している。 日本は短時間労働者の割合が高く、しかも低賃金であることは述べたが、おそらく、これはサービス化と高齢化に伴う変化ともいえよう。そうであるなら、今後、低賃金の短時間労働者が増える傾向がますます強まると考えた方がよい。 このことは日本が今後、生産性を高めていく場合の大きな課題になる。 また、産業別にみて、生産性上昇を牽引するセクターが見当たらないことも述べた。製造業は、米国やドイツに比べると、まだ劣位にある。 今後、非価格競争力を高めてさらに突出した生産性を目指すことが課題だろう。成長戦略として、貿易連携などを軸に、日本の強いところを伸ばしていく構想も求められる』、既に製造拠点の海外移転(垂直分業)は十分進んでいる筈だが、「貿易連携」とは水平分業を進めよという意味なのだろうか。もう少し説明して欲しいところだ。
・いずれにせよ、生産性向上は日本にとって必須の課題だ。中身のないアベノミクスなどと浮ついたことばかり言ってないで、地道な改善策を進めてほしいものだ。
タグ:メールマガジン ダイヤモンド・オンライン 窪田順生 熊野英生 宋文州 日本の構造問題 (その8)(子供の熱中症死を続出させる「根性大国ニッポン」の狂気、「アイデンティティ」って何ですか、日本の労働生産性がG7で最下位にとどまる理由) 「子供の熱中症死を続出させる「根性大国ニッポン」の狂気」 「亡き女子マネへ…」美談にされた酷い事件 私立加茂暁星高校 「練習直後に倒れ…亡き女子マネジャーへ、捧げる2本塁打」(朝日新聞 戦前の「軍国美談」にソックリ 異様な「甲子園美談」報道 米兵に多くの死者を出した「バターン死の行進」 虐待の意図はなくても実際に人が死んでいるのが現実 日本の大人が信じ込んでいる“クレイジーな基準” 甲子園だけじゃない!日本企業にも息づく狂気 「「アイデンティティ」って何ですか」 「子供は何歳から留学すべきか」、「子供は何歳から英語を勉強すべきか」を議論する際、多くの日本人は「日本人としてのアイデンティティがまだ形成されていないのに・・・」と言います 中国人からこのようなアイデンティティ論を聞いたことがありません 親の影響、環境の影響と自分が歩んできた独自の経験が自分独自のアイデンティティを形成してくれるはず 国や文化からの影響は受けますが、国に属し国によって分類されるものではありません 「日本の労働生産性がG7で最下位にとどまる理由」 日本の生産性は70年代からG7で最下位 日本の低生産性の犯人と考えられているのは、高齢化が進んで、消費が弱くなっていることだ サービス業の生産性の低さはどの国も共通する 製造業は非価格競争力が弱点 牽引する産業がない日本 就業構造にも原因 高スキル職の割合が低い 高齢化のトレンドは逆風 低賃金の短時間労働者増える
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米中対立(経済戦争)(その6)(習近平のメンツをつぶした華為ショックの余波 逮捕の背後に垣間見える米国の意図とは、ファーウェイの足を引っ張っているのは 本当は誰か、中国が米国との関係修復で歩み寄る決断をした3つの理由) [世界情勢]

米中対立(経済戦争)については、12月6日に取上げた。今日は、(その6)(習近平のメンツをつぶした華為ショックの余波 逮捕の背後に垣間見える米国の意図とは、ファーウェイの足を引っ張っているのは 本当は誰か、中国が米国との関係修復で歩み寄る決断をした3つの理由)である。なお、タイトルの( )内は「通商問題等」から広がってきたため、変更した。

先ずは、元産経新聞北京支局員でジャーナリストの福島 香織氏が12月12日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「習近平のメンツをつぶした華為ショックの余波 逮捕の背後に垣間見える米国の意図とは」を紹介しよう。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/218009/121000190/?P=1
・『米中首脳会談の裏側で進行していた中国最大手通信技術メーカー・華為技術の副会長兼CFO(最高財務責任者)孟晩舟の逮捕で、米中貿易戦争が一時休戦かという期待は完全に裏切られた。90日の猶予を得るために妥協に妥協を重ねた中国・国家主席の習近平は大いにメンツをつぶされ、世界の株式市場では中国関連株が総崩れ。米大統領ドナルド・トランプはホワイトハウスを通じて、首脳会談中に孟晩舟が逮捕されたことは知らなかったと公表し、カナダ首相のトルドーも政治的干渉はない、としているが、本当だろうか。ロイターによれば大統領補佐官(国家安全保障担当)のボルトンは事前に司法当局から聞いて知っていたらしい。ボルトンが知っていてトランプが知らないなんてことがあるだろうか。とすると、このタイミングで孟晩舟の逮捕に踏み切った米国側の狙いは? 華為ショックの背後に垣間見える米国の意図と、米中関係の今後の展開を読んでみたい』、孟晩舟氏はその後、保釈にはなったが、カナダ国内に留め置かれている。
・『カナダ司法当局は12月5日、華為の副会長でCFOの孟晩舟を米国の要請で逮捕したと発表した。5日付けのカナダ紙グローブ&メールの特ダネを受けての公表だった。逮捕日は12月1日、つまりアルゼンチン・ブエノスアイレスで行われた米中首脳会談で、米国が来年1月1日に実施予定の中国製輸入品2000億ドル分に対する追加関税引き上げを90日猶予するということで合意したと発表された日だ。世界市場はこれで米中貿易戦争はひとまず休戦と胸をなでおろしたのだが、その裏側で米国は習近平を追いつめる最高の切り札を切っていたわけだ。 逮捕容疑は孟晩舟本人の要請もあって当初公表されなかった。米国は孟晩舟の身柄の引き渡しをカナダ政府に求めているが、カナダの中国大使館は「これは人権侵害だ!」と強烈な抗議声明を即日発表。中国外交部は「カナダであれ米国であれ、彼女が両国の法律に違反している証拠はいまだ中国側に提示されていない」として、即時釈放と孟晩舟の合法的権利を守るように要請している。 7日に行われた保釈審理では、孟晩舟は華為の香港の子会社を通じて、米国のイラン制裁に違反したという。これまでの報道を総合すると、少なくとも130万ユーロのヒューレットパッカード製技術を使用したコンピューター設備をイランのモバイルテレコミュニケーション(MCI)に販売した容疑があり、このとき制裁違反を隠すためにアメリカの金融機関に虚偽の報告を行った詐欺容疑を検察側は主張している。孟晩舟は2008年2月から2009年4月までその子会社の取締役を務めており、孟晩舟が指示を出していたと見られている。 華為とイランとの関係については、米国当局は2016年からZTE(中興、中国大手スマホメーカー)とともに商務当局が調査を開始。今年4月から華為に対しては、刑事捜査が始まっていた。米国がイランとの関係正常化に向けた交渉の中で、米国の制裁期間中、イランと交易した中国企業リストの提出を要求したところ、華為、ZTEの名前が出てきたのが調査開始のきっかけという。 米国は先にZTEに対して米国企業に対ZTE禁輸令を出すなどして締めあげた。ZTEから得た内部報告の中に、ZTEのライバルである華為が北朝鮮やイランに対しての秘密貿易の詳細があったことで、孟晩舟の刑事捜査に入ったようだ。12月1日の米中首脳会談でも、トランプは華為の刑事捜査の件を習近平に話して、その譲歩を迫ったという話もある。 トランプが華為の刑事捜査をちらつかせ習近平に圧力をかけながら、クアルコムのNXP買収を承認させたり、自動車関税撤廃を認めさせたりするなどの譲歩を引き出し、あたかも90日の猶予をやるという態度を見せながら、素知らぬ顔で華為のCFOを逮捕したというのなら、さすがトランプ、人が悪い。しかもフィナンシャルタイムズによれば、習近平は米中首脳会談の時点で、孟晩舟逮捕の件は知っていたという。孟晩舟の逮捕の決定的証拠であるイラン企業との取引記録を提供したのはHSBCと言われているが、HSBCから習近平サイドに事前連絡を行っていたとみられている。ただ習近平はこのとき、華為の件についてトランプに切り出していない』、HSBCは英国・香港を中心にグローバル展開する大手銀行であるが、米国当局のみならず、中国側にも事前連絡したとは、トラブル回避に最大限の神経を使う国際的銀行らしい動きだ。
・『華為発展に解放軍、国家安全部の関与  だが孟晩舟逮捕は、貿易戦争そのものよりも習近平政権にとって致命傷になりうる。華為は普通の企業ではないし、孟晩舟は並の幹部ではないからだ。 華為について、少しおさらいしておこう。創始者にしてCEOの任正非は解放軍の化学繊維工場の技術兵出身。退役後、同じ解放軍出身の仲間とともに1988年に華為公司を創立して総裁となった。90年代の無線通信業界に参入、当時はまだライバルもほとんどなく、また解放軍の資金提供と後押しもあり、瞬く間にIT企業の雄に躍り出る。2003年にはネット民が選ぶ中国IT重大人物の一人に選ばれ、2005年には米タイム誌が選ぶ世界に影響を与える100人に選ばれた。2011年にはフォーブス誌の中国人長者番付92位に入った。 華為の発展と解放軍や国家安全部の関与は疑う余地がない。華為は民間企業ではあるが、解放軍から無償で技術提供を受けることで発展、資金も解放軍筋から流れているとみられている。また任正非自身、華為を創立する前に国家安全部で任務に就いていた経歴があったといわれている。華為と解放軍は長期合作プロジェクトをいくつも調印しており、中国の軍事技術開発を目的に創られた企業といっても過言ではない。私の知人が香港のスマートフォン部品企業に勤めているとき、華為との商談には解放軍中将クラスが同席していたという話も聞いた。 そういう解放軍を背景にした企業だが、表向きの顔は民営の多国籍企業としてインドやストックホルム、米国に次々と研究開発センターを創設し、海外の優秀な技術者を集めまくり、シーメンスやモトローラなど海外の大手技術企業とも合資合弁会社をつくりまくり、2005年には中国国内での売り上げより海外での売り上げが多くなった。2008年にはモバイル設備市場世界シェア3位、モバイルブロードバンド商品累計出荷額世界シェア1位、国際特許出願数も首位に。2018年現在、スマホ出荷量でアップルを抜き世界シェア2位。さらに2019年から各国で商用サービスが本格化する5G網構築の主導権を米企業クアルコムなどと争い、その結果次第では中国が次世代の通信覇権を奪うことになる。さらに2017年の年間売り上げ925億ドル、売り上げの10%以上を研究開発費に向け、最近ではAI向け高性能チップ開発にも成功、量産を開始し、米企業の牙城に切り込もうとしている。一言で言えば習近平政権が国家戦略の一つとして掲げる「中国製造2025」の中心をなす通信技術、AIのイノベーションを支える基幹企業であり、同時に解放軍の情報戦やサイバー戦を支える技術開発の先鋒(せんぽう)である。逆に言えば、華為をつぶせば中国の通信覇権の野望を砕き、米国の国家安全を脅かす中国のサイバー戦、情報戦を抑え込むことが容易になる。 米国が華為を恐れるのは単に強力なライバルというだけではない。華為製品を通じてスパイウェアやマルウェアが政府の中枢システムに入り込み、軍事技術窃取や盗聴、時限的にサイバー攻撃などを仕掛けるのではないかという危惧がある。2008年以降、華為の米国企業への投資を対米外国投資委員会はことごとく拒否してきた。2012年、米上院議会は華為、ZTEの商品が中国の諜報活動に便宜を図っているとして1年の調査ののち、市場から排除するよう警告。トランプ政権になってからは、自国市場で華為、ZTE製品を排除するだけでなく、米軍基地などが置かれている同盟国でも中国通信機器・設備の排除を呼び掛けている。オーストラリア、ニュージーランド、英国に続いて、孟晩舟逮捕後に日本も政府調達から中国通信機器メーカーを外すことを決定した』、「5G網構築の主導権を米企業クアルコムなどと争い」ほどの最先端企業に成長したとは、国家の後押しがあったにせよ、大したものだ。
・『習近平は孟逮捕の情報を知っていた?  さて、孟晩舟はその華為帝国のナンバー2、任正非の長女である。彼女は任正非が別れた妻の娘なので、当初は親子関係は社内でも秘密であったという。受付や事務仕事の下積みをやったのち、華中科技大学院で修士号を取得、その後、実務で頭角を現し、任正非の娘であることが明らかにされた。実力、人望、血統申し分なく、任正非の長男、任平の頭越しに、任正非の後継者と目されている。任正非は年内にも正式に引退を表明して孟晩舟にCEOの座を譲るのではないか、という噂もあった。つまり米国は、華為の次期トップ潰しをやった。これは対中交渉の材料として揺さぶりをかけるというようなかわいいものではない。華為の息の音を止めるつもりでやっているように見える。 さて、注目されるのは習近平政権の対応だ。これだけ激しくメンツをつぶされれば、怒り心頭で米中首脳会談での合意は反故にするのかと思いきや、貿易戦争と華為事件を関連付けた公式コメントはない。識者たちにも、米中の合意を損なうようなコメントをするなと通達が出ているようだ。ニューヨークタイムズの分析では、習近平は米中関係安定を優先させつつ、軍部や保守派、人民の間で急激に高まる反米感情を鎮めねばならないという、厳しい状況の板挟みにある、という。 習近平は首脳会談時点で孟晩舟逮捕の情報を知っていて、トランプの求める妥協に応じたわけだから、この時点で孟晩舟のことは見捨てて米中合意を優先させた、という見方もある。任正非および華為が江沢民派で江沢民ファミリーや曽慶紅ファミリーの資金洗浄なども負ってきたホワイトグローブ企業であることは公然の秘密ともいえ、習近平はむしろ米国を利用して華為をいったんつぶし再建する過程で、華為が牛耳る通信利権を江沢民・曽慶紅派から奪うつもりでいるという話もある』、「任正非および華為が江沢民派で江沢民ファミリーや曽慶紅ファミリーの資金洗浄なども負ってきたホワイトグローブ企業である」というのは初耳だ。「習近平はむしろ米国を利用して華為をいったんつぶし再建する過程で、華為が牛耳る通信利権を江沢民・曽慶紅派から奪うつもりでいる」というのは、裏読みにせよ、習近平はなかなかしたたかなようだ。
・『最後に生き残るのはどっちだ  だが、習近平政権は国内向けには「戦でもって戦を止める(以戦止戦)」といった勇ましい発言を繰り返しており、こうした米国のあからさまな「宣戦」に弱腰でいれば、民族的英雄企業でもある華為の次期トップが逮捕されたことへ中国人民の怒りはいつ米国から習近平政権に向かうかわからない。目下、一部の人民の間ではアップル製品を叩き壊すなどのパフォーマンスや米貨排斥を叫ぶ声や、報復にボーイングやレイセオンの幹部を中国で禁じている台湾への武器供与を行ったという理由で逮捕してはどうか、といった意見まで出ている。華為のバックに解放軍があることを思えば、軍権の掌握に腐心する習近平としてはふがいない所を見せたままでは済まないかもしれない。そう考えると、習近平が今見せている忍耐や思惑も、どこかの時点で暴走する心配もあるわけだ』、習近平のお手並み拝見だ。
・『一方で、今回の逮捕劇がトランプ政権内部の権力闘争によるものだという見方も完全には排除されていない。トランプは本当に孟晩舟逮捕計画を知らされておらず、ディープステート集団やCIAが米中首脳会談の合意を妨害するためにことを進めたという説だ。このタイミングでの孟晩舟逮捕は貿易戦争休戦を御破算にするだけでなく、中国市場進出の米国企業株が軒並みに打撃を受け、その悪影響は日本を含む世界経済にも波及しうる。 いまだ四中全会が開かれていない中国共産党内部では習近平派およびアンチ習近平派の権力闘争が激化し、対米政策の失敗を理由に習近平を失脚させようという動きもある。いくつもの不確定要素が重なりあって米中対立の末に、最後に生き残るのは習近平なのか、トランプなのか、あるいは世界中が混乱と停滞の時代に突入することになるのか。これは共産党の体制内学者でも米国政府系シンクタンクのアナリストでも、なかなか予測のつかない展開といえそうだ。 この容疑が事実なら米国に引き渡されれば、最悪30年の懲役刑もありうるらしい。カナダ司法当局は逃亡の恐れありとして保釈に反対している。保釈されるとすれば彼女の中国・香港パスポートの放棄など12項目の条件を満たすことと1400万カナダドルの保釈金が必要。孟晩舟の弁護士は彼女が4人の子供の母親であること、高血圧や睡眠窒息症など健康上に問題があることなどを前面に出して保釈を勝ち取りたいようだ。華為側は孟晩舟が違法行為に関与しているとは考えていないとの見解を示している』、孟晩舟氏は前述の通り、その後、一応保釈されたようだが、今後の展開から目が離せないようだ。

次に、早稲田大学大学院経営管理研究科教授の長内 厚氏が12月18日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「ファーウェイの足を引っ張っているのは、本当は誰か」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/188750
・『5Gの覇者に最も近いファーウェイ 副会長の逮捕は何をもたらすか  中国の通信機器メーカーであるファーウェイ(Huawei/華為技術)の社名は、もともと格安スマホユーザーの間では「定番スマホ」として知られる存在だった。昨今のカナダ当局による同社・孟晩舟副会長の逮捕(後、保釈)と、日本政府のファーウェイ排除に関する発言によって、日本でも広く知られるようになった。 ファーウェイはスマートフォン端末市場において、韓国サムスン電子に次ぐ第2位の地位にあると共に、通信インフラ(基地局設備)においてもエリクソン、ノキアに並ぶトップメーカーである。 携帯電話市場において端末と基地局の両方を押さえるは、製品開発戦略上、とても大きな意味を持つ。携帯電話は端末と基地局が相互に通信をし合うことで通話やデータ通信が行われるが、基地局を越えて移動しても途切れることなく通信が継続する必要がある。国や地域を超えても、提携先(ローミング先)の異なる携帯電話キャリアのネットワークにもきちんと接続されなければならない。 こうした相互接続性のことをインターオペラビリティといい、携帯電話端末の開発では、インターオペラビリティを確保するための接続試験(インターオペラビリティテスト)も重要となる。基地局設備は3G(第3世代)や4Gといった各世代の通信規格が標準化されているので、基本的な仕様はキャリアが異なっても共通であるが、全く同一というわけではない。 国やキャリアによってそれぞれ方言のように細部の仕様が異なっているので、どこでも携帯電話が繋がるためには、それぞれの方言に対応できるように準備しておかなければならない。 ゆえに当然のこととして、基地局と端末の両方のノウハウの蓄積があるメーカーの方が、機器開発のコストやリードタイムの面で有利になる。過去にも、モトローラやノキアなどが基地局設備の事業を持つことで、端末市場でも有利にビジネスを行ってきた経験がある。近く実用化される5Gでは、そのポジションに一番近いのがファーウェイと言える』、携帯電話市場において端末と基地局の両方を押さえているファーウェイの強みが理解できた。
・『ファーウェイは技術力もコスト体力もある。しかし、通信機器はプライバシーが守られることが重要であり、それはひいては国の安全保障にも関わる。機能的に優れていて価格が安ければそれでいい、ということにはならないのである。 米国や日本は、ファーウェイの機器からの情報漏洩の危険性を懸念し、同社の設備の規制を打ち出している。ファーウエイ規制の真の目的は、中国企業の経済的な競争力を削ぐことだと見る向きもある。 確かに、ファーウェイの機器からの情報漏洩の具体的な事案が発生したわけではない。ファーウェイは世界中に開発やビジネスの拠点を持つグローバル企業であり、一政府の手先機関ではないと考えるのも、合理的かもしれない』、しかし、中国政府は最近、中国の通信・IT企業に対し、情報提供義務を課したようだ。
・『ファーウェイの足を引っ張るのは中国政府ではないのか  しかし、中国政府がインターネットなどの通信の監視、規制を強めている現状や、ファーウェイ孟副会長の逮捕に対する報復と思われても仕方がないようなタイミングでの中国政府によるカナダ人の拘束などを行えば行うほど、プライバシーや安全保障への懸念が強まることも、また事実であろう。 BtoBの世界の取引は、常にシビアに合理的に行われているように思われがちだが、そこにも情緒的な価値は存在する。それは、企業に対する信頼や安心といった期待である。日本や欧米の通信機器メーカーのビジネスにおいて、情報漏洩や安全保障上の懸念が持ち上がらないのも、自由と民主主義を背景に通信の秘密を守ってきた歴史があり、それが信頼や安心といった情緒的な価値をつくり上げてきたからである。 ファーウェイが、今後世界の通信業界の盟主になるために必要なことは、技術でも資金でもなく、顧客に対していかに信頼や安心を提供できるかということにかかっている。その意味で、ファーウェイの足を引っ張るのは規制を打ち出した米国や日本ではなく、中国政府であると言えるかもしれない』、その通りだろう。
・『日本にとっても依存関係に 共存共栄のバランスが重要  ただ、ファーウェイを抑え込んで、その成長を止めればいいということでもない。ファーウェイのビジネスは、日本の産業にとっても大きな影響が予想される。 携帯端末メーカーとしてのファーウェイは、日本の電子デバイスの大口優良顧客でもある。ファーウエイの端末は中国製であるが、その中に使われているイメージセンサーやバッテリー、液晶パネルなどの主要部品の多くは、日本メーカーが供給している。これはファーウエイと並んで規制対象とされるZTEについても同じ状況である。 現代のエレクトロニクス産業は高度に分業が進み、国を超えた相互依存関係が成り立っている。中国が弱くなれば日本が有利になるという単純な話ではなく、うまく共存共栄のバランスをとらなければ、日本メーカーにとっても打撃となる。 また、通信インフラについても、最大手メーカーの交換機を導入できないということになれば、当然、携帯電話キャリアにとって設備投資のコストは増加することになる。現在の4Gの設備を強化しながら、5Gの設備導入も行う。同時に携帯電話料金の値下げを進めていくとなれば、携帯電話キャリアの負担が大きくなる。 通信インフラは日本の経済、産業を支える基盤でもあり、そのインフラのコストが高くなるということは、日本の産業全体の競争力を弱めかねない。とはいえ、国の安全保障や個人の権利の保障を犠牲にしてまで設備投資のコストを抑えるというのは、リスクが高すぎるだろう。 結局のところ、中国の自由主義経済と民主主義の確立を促すよう圧力を強めることが、日本経済にとって得策なのかもしれない』、日本の電子部品メーカーや携帯電話キャリアにとっては、確かに大きな影響がありそうだ。こうした意味でも、今後の動向は大いに注目される。

第三に、国際コラムニストの加藤嘉一氏が12月18日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「中国が米国との関係修復で歩み寄る決断をした3つの理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/188746
・『中国と米国の関係は1月1日に向けて修復へ向かう?  「それでも我々は1月1日に向けて中米関係をなんとか修復しようとするだろう」 米国と中国が繰り広げる最近の攻防を眺めながら、両国間で貿易戦争が勃発して(7月6日)約50日がたった盛夏の北京で、中国外交部の局長級幹部が筆者にこう語っていたのを思い出した。 来年の1月1日、米中は国交正常化40周年を迎える。その政治体制や民族性から、儀式を重んじるのが中国共産党や中国人民だと感じさせられてきたが、米中貿易戦争が現実的に勃発してしまい、互いに応酬を繰り広げるなかで事態は構造的に長期化・泥沼化するのだろう。 筆者のそんな考えを伝えると、同幹部は「貿易戦争は米中間の戦略的競争関係の一部にすぎない」という観点から同調しつつも、冒頭のコメントを残してきた。 儀式を重んじるという形式上の動機以外に、政策的な意味合いも込められているように思われる。中国にとって、今年40周年を迎えた改革開放の歴史とは、まさに米国との関係を構築し、発展させる過程にほかならなかった。 その意味で、対米関係の悪化はすなわち改革開放の失策に等しいといえる』、「来年の1月1日、米中は国交正常化40周年を迎える」ことは、いまや殆ど報道もされないので、失念していたが、両国はどうするのだろう。
・『中国外交部のプレスリリースに見る米中首脳会談の「良好な雰囲気」観  中国共産党が改革開放40周年を祝うプロセスには、2019年1月1日に米中国交正常化40周年を良好な雰囲気の下で迎えて初めてピリオドが打たれる──。 習近平国家主席は、記念日からちょうど1ヵ月前にアルゼンチンで実施された米中首脳会談にそういう心境で臨んだのかもしれない。 「米中双方が経済貿易の分野で、いくぶんの意見や立場の相違が存在するのは完全に正常なことである。大切なのは相互に尊重し、平等で互恵的な精神にのっとって適切に摩擦を管理すること、その上で、双方が共に受け入れられる解決の方法を探し当てることである」 習近平は会談でトランプ大統領に対してこう切り出し、「新たなラウンドの改革開放プロセス、および国内市場と人民の需要に基づいて市場を開放し、輸入を拡大し、中米経済貿易関連の問題の緩和に尽力していきたい」と寄り添った。 中国外交部のプレスリリースには、習近平がトランプや同政権を批判、牽制する内容は見られず、かつ両首脳が満面の笑みで楽しそうに握手をしている写真が使われていた。 筆者から見て、この事実こそが、中国側が対中関係を改善させたい立場を米国側、中国国内、そして国際社会に対して訴えたいと現段階で考えている状況証拠である。「良好な中米関係は両国人民の根本的な利益に符合するし、国際社会の普遍的期待でもある」(習近平)。 同リリースが、トランプが習近平に対して「米国は中国の学生が米国に留学に来るのを歓迎する」と語ったことを記載していた事実も、中国当局として貿易戦争が勃発して以来、米国への留学を不安視する自国の若者やその家族をなだめるべく奔走している現状が見受けられるのである』、確かに中国側の対米対応は、信じられないほど低姿勢だ。
・『中国側の前向きなコメントは焦燥感がにじみ出ている  今回の会談を経て、米中両首脳はいったん課税の応酬を棚上げすることで合意し、米国側は90日間の“猶予”を中国側に与えることを通達した。 中国側はこの間に農産物やエネルギーといった分野で米国からの輸入を拡大するなどして、3月1日に第3弾(2000億ドル)の課税率が10%から25%に上げられないように、そして最大規模とされる第4弾(2670億ドル)が実施されないように米国側に歩み寄ろうとするであろう。 王毅国務委員兼外相は会談後記者団に対して「両国首脳は友好的で率直な雰囲気の中で2時間半にわたって深い交流を行った。予定していた時間を大幅に上回った。貿易問題に関する議論は前向きで、建設的だった。今回の会談で得た合意は、今後一定期間における中米関係に方向性を示した」と語った。 国内向けのアピールであろうが、仮に3月1日の段階でトランプ政権が中国側の歩み寄りに満足せず、再び中国製品に対して大々的な課税措置を取ってくるリスクが存在するにもかかわらず、ここまで前向きなコメントを残したあたりに、中国側の焦燥感がにじみ出ているように筆者には見受けられた。 中国側が米国側に歩み寄ろうとしている立場と心境がより鮮明に露呈されていたのが、商務部記者会見における高峰報道官(12月6日、北京)の声明文である。少し長くなるが、重要な根拠だと考えられるため3段落分引用する。 「中米両国の経済貿易問題における利益は高度に重なり合っており、天然的に補完し合う構造的需要を擁している。双方のチームは現在順調に意思疎通を行っており、協力関係も良好である。我々は90日以内に合意に至ることに充分な自信を持っている」「中国側としてはまずは農産品、エネルギー、自動車などから着手し、双方が合意に至った具体的事項を着実に実施していきたいと考えている。その後、今後90日間において、明確なタイムテーブルとロードマップに基づいて、双方の利益、共同の需要に符合する知的財産権の保護、技術協力、市場開放、および貿易均衡などの課題を巡って協議をし、合意の形成に尽力していきたい」「中国側としてはこれらの課題を巡って米国側と相互に尊重し、平等で互恵的な協議を行い、両国企業のためにより良いビジネス環境を創造していきたい。これからの90日間で、中米双方はすべての追加課税を取り消すことを最終目標に協議をしていくつもりである」 今年に入って以来、貿易戦争を巡って米国を悪者にし、被害者意識を至るところでむき出しにし、「正義は我にあり」というスタンスで国内外に訴えてきた中国当局から出てきた言葉とはにわかに信じがたかった』、中国側の最近の姿勢は卑屈とさえ思えるほどだ。
・『中国はなぜここにきて米国側に歩み寄ろうとしたのか  なぜここにきて、習近平自らがトランプと友好的な会談に臨むことを通じて、中国側は米国側に歩み寄ろうとしたのだろうか。 筆者は習近平の脳裏には3つの懸念が交錯してきたと考えている。本連載でも随時扱ってきたが、ここで端的に総括してみたい。 (1)景気の下振れと市場心理の悪化が懸念される経済への懸念(経済的懸念) (2)米国との関係悪化が習近平の権力基盤を侵食することへの懸念(政治的懸念) (3)米中国交正常化40周年を円満に迎えられず、祝えないことへの懸念(外交的懸念) この3つの懸念から、ここに来て中国共産党指導部として一定の妥協もやむを得ないという立場で、米国側に歩み寄る意思決定をしたというのが筆者の現段階における分析である。 前向きな雰囲気の中で米中首脳の接触が進んでいるまさにそのとき、またしても不安要素が米中関係を襲うことになる。華為技術(ファーウェイ)の創設者・任正非氏の実娘・孟晩舟副会長兼CFOがカナダのバンクーバーの空港で拘束された事件である。 12月8日、楽玉成・外交部副部長(次官級)がカナダ駐中大使を外交部に呼び出し厳重抗議。「米国の要求に応じるという理由で中国国民を拘留し、中国国民の合法的、正当な権益を侵犯した」カナダ当局のやり方を「極めて悪劣」なものとし、「直ちに釈放することを強烈に促す。さもなければそれが必然的に招く深刻な代償、すべての責任をカナダ側が払うことになるだろう」と半ば脅迫に近い表現で圧力をかけた』、(3)はもはやあきらめたのだろうか。
・『2人のカナダ人の拘束は中国側の報復措置か  12月10日、元カナダ外交官を含む2人のカナダ人が中国の国家安全に危害を与えたとしてそれぞれ北京市と遼寧省丹東市の国家安全局によって「法に基づいて強制措置が取られた」(陸慷・中国外交部報道局長、12月13日)。 孟氏拘束に対する報復措置とも取れるタイミングであった。 その後、バンクーバーの裁判所は孟氏の保釈を条件付きで認める決定を下したが、中国で国家安全局によって拘束されている2人のカナダ人の動向を含め、まだまだ予断を許さない状況が続くであろう。 12月14日には中国の盧沙野・駐カナダ大使が現地紙に寄稿し、「今回の事件は単純な司法案件ではなく、たくらみのある政治的行動である。米国が国家権力を動員し、一中国ハイテク企業を政治的に抹殺しようとした」と指摘。 カナダ側が米国の根拠なき要求に屈し、司法の独立を守らなかったと批判した。中国当局は孟氏拘束の背後には米国の影が作用し、「“国家安全”という装いをもって中国企業を抑え込み、中国の発展を阻害するもの」(盧大使)という揺るがない解釈と立場を抱いているようだ。 筆者が眺める限り、官民問わず、中国はますます米国を信用しなくなっている・・・』、米国側を非難できないので、代わりにカナダがあたかもサンドバックになっているようだ。
・『カナダが陥っている苦境は日本にとってもひとごとではない  一方で、前述したように、中国として米国との関係を修復しなければならない現状は変わっておらず、中国当局もその方向性で1日1日、そして3月1日に向けて米国側と「落としどころ」を探っていくものと筆者は捉えている。 12月11日午前、米国との経済貿易関係を統括する劉鶴・国務院副総理が米国側のムニューシン財務長官、ライトハイザー通商代表と電話会談し、協商の進め方について意見交換をした。これを受けて、高峰商務部報道官は「中米双方は細かい部分の協商に関して密接な意思疎通を保持し、進展は順調である。我々は米国側が訪中し話し合うことを歓迎するし、訪米して話し合うことにも開放的な態度を保持している」とコメントしている(12月13日、商務部記者会見)。 昨今における中国側の歩み寄る姿勢は、往々にして米国や西側国家に対して強硬的な論調を展開することで知られる「環球時報」が12月10日の社説で「中国は米国側に圧力をかけるけれども、孟晩舟がいるのはカナダの勾留所である。米国が裏でどれだけの作用を働かせているとしても、孟に対して直接的に手を動かしたのはカナダである。問題解決のための主戦場はカナダにほかならない」と主張している点にも如実に反映されている。 昨今の背景、一連の事件を通じて、カナダは米中の間に挟まれる形で実質スケープゴート化していると言っても過言ではない。 同じ米国の同盟国として、米中2大国の狭間で生存・発展空間を見いだしていく状況にあるアジア太平洋国家として、日本にとってもひとごとでは決してないだろう。 カナダが陥っている苦境に目を凝らし、そこから「教訓」をくみ取るべきであることは言うまでもない』、仮に孟晩舟氏が来日した場合でも、対米追随の安倍政権は米国が圧力をかけるまでもなく、要請に応じていただろう。その意味ではラッキーだったのだろう。
・いずれにしろ、米中経済戦争は越年しそうだ。
タグ:日経ビジネスオンライン 米中首脳会談 ダイヤモンド・オンライン 加藤嘉一 米中対立 長内 厚 福島 香織 (経済戦争) (その6)(習近平のメンツをつぶした華為ショックの余波 逮捕の背後に垣間見える米国の意図とは、ファーウェイの足を引っ張っているのは 本当は誰か、中国が米国との関係修復で歩み寄る決断をした3つの理由) 「習近平のメンツをつぶした華為ショックの余波 逮捕の背後に垣間見える米国の意図とは」 華為技術の副会長兼CFO(最高財務責任者)孟晩舟の逮捕 中国製輸入品2000億ドル分に対する追加関税引き上げを90日猶予するということで合意 華為発展に解放軍、国家安全部の関与 習近平は孟逮捕の情報を知っていた? 任正非および華為が江沢民派で江沢民ファミリーや曽慶紅ファミリーの資金洗浄なども負ってきたホワイトグローブ企業であることは公然の秘密 習近平はむしろ米国を利用して華為をいったんつぶし再建する過程で、華為が牛耳る通信利権を江沢民・曽慶紅派から奪うつもりでいるという話も 習近平が今見せている忍耐や思惑も、どこかの時点で暴走する心配もある トランプ政権内部の権力闘争によるものだという見方も 「ファーウェイの足を引っ張っているのは、本当は誰か」 5Gの覇者に最も近いファーウェイ 副会長の逮捕は何をもたらすか ファーウェイの足を引っ張るのは中国政府ではないのか 中国政府がインターネットなどの通信の監視、規制を強めている 日本にとっても依存関係に 共存共栄のバランスが重要 「中国が米国との関係修復で歩み寄る決断をした3つの理由」 来年の1月1日、米中は国交正常化40周年を迎える 中国外交部のプレスリリースに見る米中首脳会談の「良好な雰囲気」観 中国側の前向きなコメントは焦燥感がにじみ出ている 中国はなぜここにきて米国側に歩み寄ろうとしたのか 景気の下振れと市場心理の悪化が懸念される経済への懸念(経済的懸念) 米国との関係悪化が習近平の権力基盤を侵食することへの懸念(政治的懸念) 米中国交正常化40周年を円満に迎えられず、祝えないことへの懸念(外交的懸念) 2人のカナダ人の拘束は中国側の報復措置か カナダが陥っている苦境は日本にとってもひとごとではない
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アベノミクス(その30)(「一万円札廃止論」に隠された安倍政権のどす黒い意図、安倍首相赤っ恥 IMF専務理事がアベノミクスに強烈ダメ出し、現在の経済政策は誤りの集大成) [経済政策]

アベノミクスについては、9月26日に取上げた。今日は、(その30)(「一万円札廃止論」に隠された安倍政権のどす黒い意図、安倍首相赤っ恥 IMF専務理事がアベノミクスに強烈ダメ出し、現在の経済政策は誤りの集大成)である。

先ずは、日銀出身で第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏が5月7日付けiRONNAに寄稿した「「一万円札廃止論」に隠された安倍政権のどす黒い意図」を紹介しよう。
https://ironna.jp/article/9603
・『高額紙幣が廃止されるのではないかという噂がある。高額紙幣とは、1万円札のことだ。そうなると、財布の中身は5千円札と千円札、小銭ということになるのか。いや、キャッシュカードやPASMOのような電子マネーを主に使うことになるだろう。 しかし、それは便利で良い、などと考えるのは少し能天気だろう。なぜなら高額紙幣廃止には、もっと「どす黒い意図」が隠されている、との見方があるからである。 日本の政府債務残高は1000兆円を超える。2017年の名目国内総生産(GDP)が546兆円だから、借金は収入の2倍近い。それを政府が本気で返済しようというのならば債務管理に問題はないが、安倍政権は過去2回も消費税増税を延期した。何か奇策を使って債務をなくそうと考えているという見方が根強い。 その最終手段として、1946年2月に行われた預金封鎖・新円切り替えが再びあるのではないかという思惑がある。だが、当時はインフレに苦しみ、預金封鎖で国民の購買活動を停止させたいという狙いがあった。預金をカットするのとは違った意味を持っていたのである。それでも、そうした強権発動が再現されるのではないかという恐怖心が国民の間にある』、預金封鎖の噂は以前からくすぶっているが、また鎌首をもち上げつつあるのだろうか。
・『1946年に預金封鎖に遭った高齢者から話を聞いたことがある。しかも1人ではなく数人だ。筆者が「現憲法下では、財産権は保障されている」とか、「政府はそのような国民の信頼を裏切ることはしない」と説明しても全く納得しない。彼らは最後まで政府を信じないと言って譲らなかった。そして、いつの日か預金封鎖があるかもと警戒していた。 また、政府が「タンス預金」に目をつけたのではないか、という見方もある。現在、日本にあるタンス預金は約45兆円。紙幣流通高は、2017年末で106・7兆円あり、家計を中心に家庭の金庫やタンスにしまい込まれている現金は約4割に達する。 タンス預金がここまで積み上がった背景には、低インフレ・低金利がある。そのほか、相続税強化やマイナンバー導入を警戒して、匿名性の高い1万円札を持とう、という理由もあるだろう。金や外貨も資産保存の手段となるが、価値は変動する。名前の書いていない1万円札は、価値が一定であるという考え方である。 おそらく日本の政府債務を強制的に削減しようとするときは、預金封鎖・新円切り替えではなく、財産税が課されるだろう。この財産税は、誰がどれだけの資産を所有するかを特定しないといけないが、1万円札で財産を持っている人は、資産の特定ができない部分が生まれる。 つまり、タンス預金が資産を隠し持つツールにもなるのだ。だから、「いっそのこと1万円札を廃止してしまおう」という意図が政府にはあるのではないかと疑われている』、政策意図からすれば、正確には低額紙幣に交換できる「廃止」ではなく「無効化」だろう。ずいぶん、乱暴な話ではある。
・『預金封鎖や財産税は毛頭あり得ないはずだが、財政再建は危なっかしい。こうした感覚は、筆者を含めて多くの人が共有するものだろう。 一方、政府・日銀は、1万円札廃止が新円切り替えを連想させるのを嫌がっていると推察される。4月3日の衆院財務金融委員会では、日銀の宮野谷篤理事が高額紙幣廃止について質問され、「現金流通の重要性を踏まえて慎重に考える必要がある」と廃止論に否定的な見解を述べた。李下(りか)に冠を正さず、といったところだろう。 確かに、高額紙幣の廃止論は、最近になってあちこちから登場している。金融政策の効果は、金利をマイナスに下げれば効くはずだが、国民が現金を持つと、そこにマイナス金利がかからない。だから、金融政策の効果を高めるために、紙幣を廃止した方が良いという議論につながっているのだが、これはそもそも海外の経済学者の提案である。 また、インドでは2016年11月に1000ルピーと500ルピー(1ルピー1・63円)の紙幣を廃止した。表向きはキャッシュレス社会の推進をうたうが、本当の狙いは匿名性のある紙幣が地下経済で用いられることを防ぐことにある。インドでは、当然ながら紙幣廃止で混乱が長期化している』、日銀の宮野谷篤理事の答弁は、いかにも「奥女中」らしい言い方だが、もっと強く否定してもいいと思う。強く否定できない理由を勘ぐられるだけだ。
・『筆者は、日本ではマイナス金利の必要も、地下経済を撲滅する必要はないと考える。そもそも、金利をマイナスにすれば政策効果が高まるというのは誤解だ。必要なのは、企業などが投資をしたくなる「動機」の方である。 現時点で1万円札を廃止する必要はないし、そうした議論を話題にすらしなくてもいい。キャッシュカードが決済手段として好ましいと思う人は、1万円札を使わなければいいだけだ。私たちは自由の国で生きているのだから、強制的に「紙幣を廃止せよ」というのは暴論に過ぎない。 仮に「タンス預金を一掃したい」という人がいたならば、2つの良いアイデアがある。一つは財政再建のめどを守り、政府債務が減っていく道筋をつくること。もう一つは預金金利を上げることである。 ここでよく考えておくべきは、タンス預金をする人々は、円という通貨を信じている、という点である。もし財政悪化が、超インフレや円暴落を引き起こすと国民が思ったときは、円ではなく国民資産が海外に流出する。 むろん、タンス預金は匿名性を重視してはいるが、「円を信じていない」という段階ではない。今ならば、消費税を上げて、社会保障システムを維持できるようにすれば、財政不安は解消していく。 そのためには景気拡大が前提だが、今は十分に景気が良い。検討すべきは、預金金利をどのようなタイミングで引き上げていくかだ。ここは、政府の債務管理を念頭に置いて、波乱なく行う必要があり、日銀の出口戦略を進めることと同義である。 繰り返しになるが、財政不安がなくなると金利正常化でタンス預金はなくなる。高額紙幣廃止論はタンス預金が問題ではなく、あくまで財政・金融・経済が問題なのである』、説得力がある主張で、大賛成だ。

次に、10月6日付け日刊ゲンダイ「安倍首相赤っ恥 IMF専務理事がアベノミクスに強烈ダメ出し」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/239007
・『アベノミクスの嘘っぱちに国際社会も呆れ返っている。経済状況を調査する定期協議で来日したIMF(国際通貨基金)のラガルド専務理事が、アベノミクスに痛烈なダメ出しを連発した。 4日の会見では家計所得の伸び悩みなどを挙げて「政策の見直しが必要になる」と切って捨て、2019年10月予定の消費税増税を巡っても「単一税率が最も効果的だ」と言及。増税不満へのガス抜きで導入される軽減税率を否定した。「日本経済は潜在成長率を上回る成長をしており、増税にはベストな状況だ」とクギを刺し、求心力低下で3度目の増税延期をもくろむ安倍首相を牽制したのだ。 それに先立ってIMFが発表した声明は、さらに踏み込んだ内容だった。基礎的財政収支(PB)黒字化の目標時期を20年度から25年度まで5年間もの先送りを批判。〈財政枠組みは依然としてGDPと生産性の伸びについて比較的楽観的な見通しに依存している〉と指摘し、〈現実的な経済成長予測に基づいた〉中長期的な財政健全化計画を求めた』、IMFには日本の財務省からも出向者がいて、対日審査の擦り合わせをしていることから、IMFの主張は概ね財務省の代弁に過ぎないとも言える。
・『経済評論家の斎藤満氏はこう言う。「安倍首相は最長でも3年で政権を去る。IMFが懸念しているのは、アベノミクスに振り回されたその後の日本経済です。GDP600兆円を目指す安倍首相は財政出動の口実を探しており、相次ぐ地震や台風などの自然災害に乗じて公共事業のバラマキに出かねない。日銀による国債の大量発行を招き、金利上昇圧力を抑えるために日銀の国債買い入れに拍車が掛かる。異次元緩和の出口はますます遠のいてしまいます」 安倍首相は総裁選の演説でもアベノミクスの成果をまくし立てていたが、デタラメだ。13年と17年の経済統計を比較すれば、日本経済がチッとも好転していないことはハッキリしている。物価変動を考慮した実質賃金の指数は103.9から100.5に下落し、個人消費は実質ベースで291.6兆円から291.4兆円にダウン。安倍首相は失業率や有効求人倍率の改善を強調し、「250万人の新しい雇用を生みだした」と威張るが、そのうちの211万人は65歳以上の高齢者。年金をアテにできない高齢者が渋々働きに出ているのが実態なのだ。 「IMFは日銀に金融政策のフォワードガイダンスも求め、異次元緩和の出口戦略を促している。欧米との金利差で広がる円キャリー取引の巻き戻しが起きれば、円高不況に転じかねないと警告を突き付けています」(前出の斉藤満氏) アベノミクスは道半ばどころか、首の皮一枚の崖っぷちに追い込まれている』、その通りだ。マスコミも安倍政権に遠慮せず、事実を伝えてもらいたい。

第三に、財務省出身慶應義塾大学准教授の小幡 績氏が11月26日付けNewsweek日本版に寄稿した「現在の経済政策は誤りの集大成」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/obata/2018/11/post-30.php
・『日本の今の経済政策がすべて間違っていて、一向に修正もされない理由  異次元緩和は、繰り返し指摘したとおり、日本経済に害の最も大きな政策だが、そのほかのこまごました政策もすべて誤っている。これほど誤りの集大成のような経済政策が打ち出されるのは珍しいが、その要因は何か。 第一の可能性は、経済政策に関する理解がすべて間違っているというもの。これは繰り返し指摘してきたように、成長と景気とは別物であり、景気対策をすればするほど経済成長力は失われるにもかかわらず、長期的投資ではなく、目先の需要喚起ばかりをやっていることにより、すべての経済政策を間違うことになる。 第二の可能性は、現在の日本経済に対する理解が誤っているというもの。これは、日銀がインフレを起こそうとして失敗した原因である。日本経済においては、デフレスパイラルというものは存在しないので、デフレスパイラルを解消しようとしても、ないものをなくすことはできないから、どんなに極端な金融緩和をしたとしても、それでインフレが起こることはあり得ない(かった)のだ。ただし、ここでの日本経済の理解が間違っているというのは、インフレにならない原因の論争などという難しい話ではない。日本経済の景気が今良いのか悪いのか、という単純なことについての話だ。エコノミストは全員、現状は景気はとても良いという認識である。その持続力について意見の差はあるが、現状の景気が悪いという人はいない。そして、2012年末から現在まで、景気はずっとよいのであり、それも強弱こそあれ、コンセンサスだ。 それにもかかわらず、経済政策は景気対策、本来であれば人手不足によるコスト増加の過熱を緩和するために、景気を冷やすことすら必要であるにもかかわらず、過熱している景気をさらに過熱してオーバーヒートさせようとしている。これは誰がどうみても誤りだ』、いつもながら遠慮会釈もない鋭い舌鋒だ。異次元緩和導入時にかまびすしかった「デフレ論」は、いつの間にか雲散霧消してしまったようだ。
・『誰のための経済政策か  第三の可能性は、経済政策は経済のために行っているわけではない、というものだ。 そうであれば、経済政策が経済政策として間違うのは当然で、なおかつ修正する必要はなく、間違い続けるのも当然だ。すなわち、政治的な意図で経済政策を行っているのであり、それに投機家たち、いまや機関投資家を含む投資家の90%は投機家であり、短期的な資産価格の上昇さえ実現すればよいので、彼らの強力なサポートを得るために行っているからである。 つまり、政治と投機の都合で経済政策が形成され、有権者と投機家が世論を作るから、当然、政治としての経済政策は経済を目的としなくなるのだ。 なぜ、現在の経済対策がすべて間違っているかというと、この3つの要素がすべて重なっているからで、第一と第二の誤りは修正される余地も可能性もあったのだが、第三の理由により、その修正インセンティブは消去されてしまったため、すべての経済政策がこれほど豪快に間違うことになってしまったのである』、小気味よい痛烈な批判だ。マスコミも安倍政権に忖度ばかりしていないで、こうしたアベノミクス批判も掲載してほしいところだ。
タグ:日刊ゲンダイ 小幡 績 熊野英生 アベノミクス Newsweek日本版 財産税 iRONNA (その30)(「一万円札廃止論」に隠された安倍政権のどす黒い意図、安倍首相赤っ恥 IMF専務理事がアベノミクスに強烈ダメ出し、現在の経済政策は誤りの集大成) 「「一万円札廃止論」に隠された安倍政権のどす黒い意図」 日本の政府債務残高は1000兆円を超える 安倍政権は過去2回も消費税増税を延期した。何か奇策を使って債務をなくそうと考えているという見方が根強い 最終手段として、1946年2月に行われた預金封鎖・新円切り替えが再びあるのではないかという思惑 「タンス預金」に目をつけたのではないか、という見方も タンス預金は約45兆円 タンス預金がここまで積み上がった背景には、低インフレ・低金利 1万円札で財産を持っている人は、資産の特定ができない部分が生まれる いっそのこと1万円札を廃止してしまおう 高額紙幣の廃止論は、最近になってあちこちから登場 インドでは、当然ながら紙幣廃止で混乱が長期化 筆者は、日本ではマイナス金利の必要も、地下経済を撲滅する必要はないと考える 財政悪化が、超インフレや円暴落を引き起こすと国民が思ったときは、円ではなく国民資産が海外に流出する 財政不安がなくなると金利正常化でタンス預金はなくなる。高額紙幣廃止論はタンス預金が問題ではなく、あくまで財政・金融・経済が問題なのである 「安倍首相赤っ恥 IMF専務理事がアベノミクスに強烈ダメ出し」 家計所得の伸び悩みなどを挙げて「政策の見直しが必要になる」 消費税増税を巡っても「単一税率が最も効果的だ」と言及 「日本経済は潜在成長率を上回る成長をしており、増税にはベストな状況だ」とクギ 基礎的財政収支(PB)黒字化の目標時期を20年度から25年度まで5年間もの先送りを批判 IMFが懸念しているのは、アベノミクスに振り回されたその後の日本経済です 財政出動の口実を探しており、相次ぐ地震や台風などの自然災害に乗じて公共事業のバラマキに出かねない 13年と17年の経済統計を比較すれば、日本経済がチッとも好転していないことはハッキリしている 「現在の経済政策は誤りの集大成」 日本の今の経済政策がすべて間違っていて、一向に修正もされない理由 第一の可能性は、経済政策に関する理解がすべて間違っているというもの 第二の可能性は、現在の日本経済に対する理解が誤っているというもの デフレスパイラルというものは存在しない 第三の可能性は、経済政策は経済のために行っているわけではない、というものだ 政治的な意図で経済政策を行っている 政治と投機の都合で経済政策が形成され、有権者と投機家が世論を作るから、当然、政治としての経済政策は経済を目的としなくなるのだ なぜ、現在の経済対策がすべて間違っているかというと、この3つの要素がすべて重なっているから 第三の理由により、その修正インセンティブは消去されてしまったため、すべての経済政策がこれほど豪快に間違うことになってしまったのである
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電機産業(その2)(日本の電機メーカーが敗北した理由 元アスキー社長・西和彦が語る、名門パイオニア、ファンド傘下入りの「覚悟」 3000人規模リストラも計画だが 視界は不良、テスラに悩まされるパナソニック社長の本音 「いったい何者なのか」と自問自答した真意、名門GE異例のトップ交代で解体加速 IoT事業も練り直し) [産業動向]

電機産業については、2016年6月21日に取上げた。久しぶりの今日は、(その2)(日本の電機メーカーが敗北した理由 元アスキー社長・西和彦が語る、名門パイオニア、ファンド傘下入りの「覚悟」 3000人規模リストラも計画だが 視界は不良、テスラに悩まされるパナソニック社長の本音 「いったい何者なのか」と自問自答した真意、名門GE異例のトップ交代で解体加速 IoT事業も練り直し)である。なお、タイトルから「日本の」は削除した。

先ずは、8月30日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した東京大学工学系研究科IoTメディアラボラトリー ディレクターの西 和彦氏へのインタビュー「日本の電機メーカーが敗北した理由、元アスキー社長・西和彦が語る」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/178238
・『技術開発者、経営者、研究者と、IT社会の前線で常に時代を引っ張ってきた西和彦氏。その重層的な経験は、西氏に今、どのような感慨をもたらしているのだろうか。日本IT史における一時代の主役の一側面を記すインタビューをお届けする』、西氏がアカデミックの世界にいたとは。
・『ネット社会の到来と変革の様相はほぼ20年前の予想通りだった  ――西さんと初めてお目にかかったのは1990年代初めのことで、まだインターネットの黎明期でした。その際にはインターネットの未来を実感させられました。 西 確か週刊ダイヤモンドの別冊で、『インターネット超時空術』という雑誌を一緒に作りましたね。 ――1996年です。西さんに監修していただきました。あの時、西さんは、「これからはハワイでも、山の中の温泉でも仕事ができるよ」とおっしゃって、編集スタッフ用のサイトを作って、全員が取材状況を共有できるようにしてくれました。偶然、私は編集作業中に別件でハワイ出張があり、ホテルで「電話にこのパソコンをつなげてインターネットを使いたいのですが」と説明したら、コンシェルジュが「当ホテルではできませんが、ここで聞いてみては?」と教えてくれた場所があり、行ってみるとIBMのハワイ支社でした(笑)。当時はまだ早かったけれど、その後、西さんの言った通り、インターネットで仕事ができる時代が確実にやってきました。西 96年と言えば、私がアスキーの社長を務めていたころですが、そのころの予言はほぼ当たっています。個別の技術うんぬんというよりも、インターネットの社会性というか、人々の暮らしを革命的に変えていくという社会学的な意味での部分はほとんど予測していた通りでした。』、西氏の将来技術への読みはさすがだ。
・『――80年代の西さんは、マイクロソフトと組んで、後に「パソコン」と呼ばれる機器の開発に全力を挙げていましたが、思い出深い機器はありますか。 西 たくさんあって、これ一つにと絞れない(笑)。例えば「NECのPC8001」とかかなぁ。それ以外にもIBMのパソコンや、鳥取三洋電機に作ってもらったゼニス社向けのポータブルパソコンは、世界初のIBM互換機、いわゆるコンパチのノートパソコンでした。松下電器とソニーが同じ規格を採用してくれた「MSXパソコン」や、Windows1.0を搭載した日本初のデスクトップパソコン「NEC PC100」、パソコンに初めてCD-ROMを搭載した富士通の「FM TOWNS 」なども思い出深いものです。企画や設計に深くかかわったからです。 当時は、パソコンに必要なビデオチップやオーディオチップ、そしてCPUもアスキーで開発していたし、CDに74分のビデオを入れられるデジタル画像圧縮技術では日刊工業新聞社から賞もいただきました。 ――懐かしいものばかりですね。連載でも書かれていましたが、発想の根底には「コンピューターはメディアになる」という思想が一貫してありましたね。 西 コンピューターは、最初は数字で、計算機、次に文字、つまりワープロになり、図や写真が扱えるようになり、オーディオ編集やビデオ編集へと機能を高めてきました。 発想のバックボーンにあるのは、じつは子どものころからやっていたアマチュア無線で、電信や音声だけでなく、無線でテレタイプや画像送信ができるようになっていった経験がありました。つまり、無線はメディアになっていったわけです。そうした経験をしていたからこそ、コンピューターもメディアになると予想できたのです』、アマチュア無線の経験がものをいったとは、天才の発想は常人には図り難いものがあるようだ。
・『技術の未来に世界観を持たないトップが日本メーカーの失敗を招いた  ――多くの技術をリードしてきたマイクロソフトですが、スマートフォン時代につまずきました。それはなぜだったとお考えですか。 西 マイクロソフトの「Windowsモバイル」は、新しく開発されたモバイル用のOSで動き、製品としては大変いいものでした。ただマイクロソフトが見誤ったのは、モバイル上で動くアプリをなめていたことです。「全部、ブラウザ上で動くからいいじゃないか」と高をくくっていたんです。そのうちアプリを書いてくれるよ。書いてくれなければ金をやったらいいだろう。でも、誰もスマホ用のアプリの開発に熱心にならなかった。 もし、WindowsモバイルにWindows OSそのものをフルで載せていたら、状況はまったく変わっていたと思います。Windowsが動くスマホならば独立アプリはたくさんあるし、開発もしやすいので、アンドロイドやiOSとも本格的に戦えたと思います。今からでも遅くないと思って、実は東大のうちのラボで試作しています。 ――技術のレベルではなく、ちょっとした戦術の違いで状況が劇的に変わってしまったわけですね。 西 トップが深く関与して、現場の戦術立案のプロセスについて徹底的にチェックすることをしない限り、負けるのではないかと思います。現場にお任せではダメです。現場は自分たちのやっていることに自信を持っていますが、トップは将来的に本当にそれが正しいのかどうか検証する必要がある。上がってきた技術に対しては、現場が責任を持ちます。しかし、トップはもっと大きな世界観と視野を持って、世界と会社の未来を判断しなければなりません。それができなければ、あっという間に事業は死に絶えてしまいます。 そうした未来予測ができるかできないかが、トップに必要とされる重要な資質になっていると思うのです。だからこそ、マイクロソフトでもスティーブ・バルマーは、責任を問われたのでしょう』、トップの責任はやはり極めて重いようだ。
・『――日本の電機メーカーにも同じような過去がありますよね。 西 例えば「ブルーレイ」や「HD DVD(High-Definition DVD)」があります。今やパソコンへのDVD搭載は当たり前ですが、ブルーレイを搭載したパソコンは、いまだに普及していません。 なぜそんなことになったかといえば、ブルーレイ開発の中心だったソニーが、「プレイステーション4」への4K対応ブルーレイ再生機能の搭載を見送ったからです。たった数千円のコストをケチって、人気ゲーム機に搭載しなかった。これは犯罪に近い判断です。これによって4Kブルーレイは、ソニーが自ら中心になって開発した商品なのにもかかわらず、自らその普及に大きなブレーキをかけてしまいました。2Kのブルーレイも4Kのブルーレイも瀕死状態になってしまったと言っていいと思います。 一方、ブルーレイに対抗して東芝が開発したHD DVDもダメでした。こちらはマイクロソフトが、XBOXの標準機能にしなかったからです。もし東芝が、「HD DVD用ドライブをDVD用ドライブと同じ値段でマイクロソフトや他のパソコンメーカーに最初から赤字でも納めます」と言っていれば、マイクロソフトも標準対応にして普及したでしょう。今ではそれが当たり前になっていたに違いありません。 ブルーレイにしろHD DVDにしろ、売れないから作らない、作らないから売れないという“ネガティブシュリンク”にはまってしまったのです。経営陣の大きな戦術ミスが、せっかくの素晴らしい良い技術をダメにしてしまったのではないでしょうか。痛恨の極みです。これはまとめて本にしたいと考えています』、ソニーも東芝も大きな戦術ミスで、もったいないことをしたものだ。
・『中山素平翁に助けられ教えられて自分は生き返った  ――西さんは、パソコンやインターネットを日本に持ってきて、若くして日本を代表するような経営者たちに会われ、口説き落として多くの製品を開発してきました。年配の経営者の方々にかわいがられていて、記者たちの間では「じじい殺し」と言われていました。 西 いや僕は、そんなこと思っていませんでしたけど。嫌なじじいもたくさんいたし、そんなじじいには面と向かって悪口言って、その後は口も利いていません。さすがに葬式には行っているけど(笑)。 ――では、西さんが尊敬する経営者はどんな方ですか。 西 いちばんは、やはり日本興業銀行の頭取だった中山素平さんですね。中山さんに初めてお目にかかったのは、アスキーのスイスフラン建ての無担保転換社債の繰り上げ償還で借り換えの協調融資をお願いにあがったときです。その後、興銀が応援指導してくれてリストラもうまくいきました。 その成果報告とお礼にうかがった際、「あの時は助けていただいて本当にありがとうございました。業績もよくなってきて、ちゃんとお金を返していきます」と挨拶したら、「それはよかった。しかし君、お金を返してもらったら銀行のビジネスはあがったりだよ。それで関係は終わってしまう。だから君、いい会社になって、もっとお金をたくさん借りたまえ」と言われたのにはびっくりしました。 ――構えが違う、というやつですか。 西 バランス感覚を始めとすると総合的な感覚がすごい方でした。日本人として日本のためにという発想にブレがなかったように感じます。 ――「君はリスクを取りすぎだ」とも言われたそうですね。 西 それはね、アスキーの社長を辞める前の話です。中山さんに「アスキーを助けるためにCSKにお金を出してもらうことになりました」と報告したら、「何のために興銀は君を助けたのか」と語気を荒らげて怒られたんです。「君にはそれが分からないのか」と言われたのです。僕はもったいなくて中山さんの前で泣いてしまったのですが、最後はこう言われました。 「こうなったからには、大川さんにはかわいがってもらい、経営者としての立場を維持できるように頑張りなさい。そもそも、君は何でもかんでも喜んで自分のリスクとして抱え込み突撃していくが、これからはやめなさい。たとえ10回うまくいっても、1回失敗するとすべてがおしまいになってしまう。だから気をつけなさい。これからの人生で、もう大きな失敗はしない方がいい」と。 そう言ってもらえると、アスキーを辞めなければならない悲しみよりも、それだけ評価してもらって温かい言葉をかけてもらえているんだと、随分と癒やされました。感謝しています。 中山さんが亡くなった時に、日経新聞は3人のコメントを載せました。中曽根康弘元総理、富士ゼロックスの会長で、中山さんが創設に関わった国際大学の理事長になる小林陽太郎さん、そして僕。若手の経営者の中で最もかわいがってもらったのは僕だというのが理由でした。今でも鎌倉霊園にお参りに行っています』、中山素平氏は、「財界の鞍馬天狗」といわれただけあって、人を見る目があったようだ。
・『大川功は「先を見る目」がすごかった 孫正義には「天の時」がない  ――アスキーを買収したCSKの大川功さんは、どのような方でしたか。 西 ご本人はよく「予兆」という言葉を使っておられましたが、私から言わせれば「先を見る目」「先手を打つ」という機動的な部分がすごかった。 アスキーへの支援決定後、私は社長を退任して平の取締役として大川さんの特命事項担当のような仕事をしていましたが、M&Aとかプロジェクトにお金を出すときの感覚が、他のオーナー経営者とはまったく違っていました。 普通、オーナー経営者はケチで、10億円の事業買収ならば「8億円にならないか」と値切ったりするものです。しかし大川さんは、一切値切らない。むしろ、「10億円? 12億円払うからこうしろ」と言う。そういう買い方をする人でした。 大川さんは2001年に、会長を務めていたセガが家庭用ゲーム機分野から撤退する際に、個人資産約850億円をセガに寄付して“終戦処理”を支援しました。「事業で得たお金は事業に返す」という信念を見せたのですが、そんなオーナー経営者はいませんよ。そこはすごかった。大川さんを超えるオーナー経営者にはまだ出会ったことがありません。 ――ソフトバンクの孫正義さんについても、感じるところをお聞かせいただけますか。西さんと孫さんは、「IT時代の寵児」として、事あるごとに並び称されていました。 西 仲は悪くありませんよ。コンサルの注文もくれたし。ただ一緒に仕事した機会がほとんどないので、正直よくは分かりません。そもそも僕と孫さんは、今では別の世界の住人。孫さんは投資家であり、僕は実業家で研究者です。投資と実業、研究は違います。 ――孫さんは、「ITの未来」への投資を続けています。同じ未来を見ている立場の者としての評価はいかがですか。 西 孫さんの“誤算”は何かと言えば、「時間」だと思います。孫さんの頭の中では猛烈なスピードでIoT とかAIといった技術の進歩と、そこで出現する社会が描かれているのでしょう。研究の現場にいる僕にすれば、その予測は正しい。けれど、孫さんが10年でくると思っている状況になるには30年かかりますよ。「時間切れで死んでるよ」と言いたい。 確かに私も世の中が進むスピードが、どうしてこんなに遅いのかとイライラする毎日です。でも半ばあきらめているんです。ならば、長生きして待とうと。 だから失礼な話だけど、僕は、孫さんのARMへの投資は失敗すると思います。方針は正しいんです。「方針の失敗」ではなくて「時間の失敗」。3~5年では成果は見えず、そのうちファンドの償還期限がきてしまう。つまり時間切れのタイムアウトになるでしょう。孫さんは読みが早すぎなのではないでしょうか。地の利、人の和はあるが、天の時がないということではないでしょうか』、孫氏への評価は手厳しいが、確かに当たっているのかも知れない。
・『IoTにおけるキラーアプリは バイオセンサーなど4つ  ――IT世界の競争では、常に普及の起爆剤となる“キラーアプリ”を誰が創造し、握るのかが重要ですが、IoTにおけるキラーアプリとはどのようなものだとお考えですか。 西 4つほどあると思います。1つ目は人間の体のセンシング、つまりバイオメトリックスセンサー。2つ目がインテリジェントハウス、3つ目がインテリジェントシティ、4つ目が宇宙も含めた意味での空間問題です。 ――しかし、さきほどの「時間」の話のように、IoT活用の歩みは思った以上に遅いという印象もあります。 西 そうですね。とりあえずはバイオメトリックという体のモニターを必要としている人がたくさんいるので、それを中心に研究しています。ばんそうこう型で使い捨ての各種センサーといったものです。 IoTとは何かといえば、結局のところマイクロコントローラーと通信システム、そしてクラウドの3つなのです。そのため、クラウド研究の一環として電子マネーの研究も進めています。ただ、監督当局は、金融システムは理解しているけれど電子マネーのタックスヘイブン的な性質や、一方で現実世界での基軸通貨をめぐる主導権争いとの関係などについて十分に整理できていないのではないかと感じます。そうしたことこそIoT活用面で、課題だと言えます』、監督当局も困難ではあっても、IoT活用面の課題を解きほぐしてもらいたい。
・『5つの革命史を書きたいのは正史と違う現実があるからだ  ――東大は65歳が定年です。その後のことは考えていらっしゃるのですか。 西 Windows関連機器の開発やアスキーの経営は、正直しんどく、つらいものでした。大学での研究生活は前向きで、楽しいものですが、つらさは同じです。だから65歳を過ぎたら、つらくない、楽しめることをしたい。 具体的には、戦争と政治の歴史についてまとめようと思っています。日本古代史と日本戦国史、明治革命史、太平洋戦争前の動員体制史、フランス革命史で1冊ずつ本を書きたいと考えています。 歴史の根底にある政治に興味があるのですが、ある碩学の先生から、「君ね、政治学みたいなむなしいものをやっちゃダメだよ。政治は常に建前と本音があり、政治的建前の研究などというむなしいものに大切な時間を使ってはいけない」と言われ、「そんなものかな」と感じてはいるのですが、それはそれで面白そうじゃないですか。 ――なぜ古代史や戦国史などなのですか。 西 いわゆる正史には、勝者が書き換えたうそがあり、正史ではないことに、さまざまな事実や人の思惑があるからです。日本の歴史は、中国や半島からの帰化した人たち同士の戦いという側面もあります。フランス革命も本当に自由と民主主義のための闘争だったのかは疑問があり、分かりませんからね。 ――西さんと言えば、蔵書の多さも有名ですが、将来は学園長を務めていらっしゃる須磨学園に「西和彦文庫」でも作られますか。 西 今は7万冊ぐらいあるかなぁ。高校時代の英語の金田収二先生から「西君、本は買おうか買うまいか迷ったら全部買いなさい。それによって君の人生は大きく広がって変わりますよ」と教えられて、こんな蔵書になりました。 でも西文庫など作りませんよ。僕が持っている技術や美術の専門書は中高生には難しすぎるし、須磨学園の図書館の司書さんたちも持て余すでしょう。そもそも蔵書とは属人的なものであり、他人に預けても価値は共有されずに古本屋に売られるのがオチです。 「今月の主筆」の連載で、ブックオフを創業した坂本孝さんの話を読んでがっかりしました。というのも、買い取り価格は1冊10円で、7万冊を古本屋さんに売っても、合計で100万円にもならないと知ったからです。本の購入には、1億円は使っていると思うんですけどね。悔しいな。絶対に売りません』、「蔵書とは属人的なものであり、他人に預けても価値は共有されずに古本屋に売られるのがオチです」というのは味わい深い言葉だ。でも、私は1冊10円でも売って整理したい。

次に、12月8日付け東洋経済オンライン「名門パイオニア、ファンド傘下入りの「覚悟」 3000人規模リストラも計画だが、視界は不良」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/254105
・『かつては「名門」と言われ、革新的な技術を生み出してきた創業80年の老舗メーカーのパイオニア。経営再建を模索していたが、香港系投資ファンドの傘下に入ることになった。12月7日、パイオニアはベアリング・プライベート・エクイティ・アジア(以下ベアリング)と経営再建計画で合意したと発表。ベアリングが総額1020億円を投じてパイオニアを買収する。 具体的なスキームはこうだ。パイオニアが来年1月25日に開く臨時株主総会で承認を得た後、来年3月をメドに第三者割当増資を行って、ベアリングから770億円の出資を受ける。その後、残りの株式もベアリング側が250億円で株主から買い取る。買い取り額は1株当たり66.1円で12月7日の終値の88円よりも25%安い。株主にとっては厳しいスキームとなる。 早ければ、2018(正しくは9)年3月中にパイオニアはベアリングの完全子会社となり、上場廃止になる。会見を開いたパイオニアの森谷浩一社長は「サポートしてくださっていた株主の皆様には申し訳ないが、この改革をしなければパイオニアの未来はない」と覚悟を示した』、発表後の株価は63~64円と買い取り額をも下回っている。
・『人員削減や事業整理にも着手へ  ベアリングのジォーン・エリック・サラタ会長兼CEOは、「パイオニアの技術力、ブランド力、人材という強みを活かしながら、まずは迅速な財政基盤の安定化が求められる。そのための非上場化だ」と語った。ベアリングは2006年に日本法人を設立。ホームセンターのジョイフル本田など国内7社、総計2750億円の投資実績を有する。パイオニアがDJ事業を売却する際も名乗りを上げた経緯がある。 森谷社長は経営再建計画の具体的な内容について明言を避けたが、財務基盤安定を最優先に、2年間で全体の約15%に当たる3000人規模の人員削減や事業整理、拠点の統廃合などを進めるとした。取締役は森谷社長を残して5人が辞任し、臨時株主総会後にベアリングからの新たな取締役を受け入れるが、パイオニアから改めて選任される可能性もあるという。 「社内はざわついているが、方向性が決まってよかった」。リストラや事業再編の不安もある中、ある社員は取材に安堵した気持ちを吐露した。 パイオニアは今年5月にカーナビを自動車メーカーに販売するOEM事業で大規模な損失が見込まれると発表。抜本的な対策を早急に講じるため、スポンサー探しに奔走していた。6月には、10年間社長を務めた小谷進社長(現会長)が退任し、森谷社長がバトンを引き継いだ。しかし、2018年4〜6月期決算では資金繰りの懸念から「継続企業の前提に関する疑義注記」が付いた。銀行にOEM事業の再建案を示せず、シンジケートローンの借り換えを拒否される事態に陥ったからだ。 自動車部品メーカー大手のカルソニックカンセイなどが支援先として名乗りを上げる中、最終的に、9月にベアリングとスポンサー支援の基本合意を締結。シンジケートローン借り換え期限間際の9月18日に250億円の融資を受けた。12月中に500〜600億円の増資を行うための本契約に向け10月中の合意を目指したが、交渉が長引いていた。 9月の基本合意時点では、両者は上場維持を前提に話を進めていたというが、森谷社長は「やはりお金だけ出してもらうわけにはいかない。一緒の船に乗り、どう再生して行くかを考えた」と、打ち明ける。増資額が計画より170 億円増えているのは、2020年12月に償還予定の転換社債について、その時期までに150億円分のキャッシュを用意できる見通しが立たないためだという』、「OEM事業で大規模な損失」というのは解せないが、仕事量確保の余り無理な条件で受注したのかも知れない。
・『求められるマネジメント能力  パイオニアはこれまでも経営危機に見舞われてきた。社運をかけたプラズマ事業の不振で2010年まで6年連続の最終赤字を経験した。大規模なリストラや工場閉鎖を断行し、ホンダなど3社に対する第三者割当増資で急場をしのいだ。2014年には祖業のオーディオ事業と売れ筋のDJ機器事業を売却し、車載事業へと大きく舵を切った。 だが、グローバルでの技術革新のスピードを見極められず、客先からの大掛かりな仕様変更を請負わざるを得なくなった。森谷社長は、「売り上げの増減に対してのコストの出方や、開発投資と回収のバランスをマネジメントする能力が不十分だった」と反省を示す。 将来の成長を見込む高精度3D地図を開発する子会社「インクリメントP」や自動運転用の高性能センサーLiDARなど注目すべき事業はあるが、黒字化には程遠い。ベアリングによる完全子会社化が完了するタイミングで、パイオニアは中期経営計画や具体的な再建計画を発表する予定だが、成長戦略をどう描くかが注目される。 加えて、変化の激しい車載ビジネスの荒波の中、パイオニアの高い技術力や優秀な人材を、いかにマネジメントできるかが新体制の課題になる。社員口コミサイトの「Vorkers」には、「経営センスのある人物を外部から迎えるべきだ」という元社員のコメントが寄せられている。外資系ファンド傘下で生まれ変わることができるのか』、なんとか生まれ変わってほしいものだ。

第三に、10月31日付け東洋経済オンライン「テスラに悩まされるパナソニック社長の本音 「いったい何者なのか」と自問自答した真意」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/246498
・『家電から車載に軸足を移して成長する――。一度はそう打ち出したパナソニックが、方針の見直しを決断した。 「実はここしばらくの間、パナソニックという会社がいったい何者なのか、自問自答する日々を過ごした。かつて家電の会社だった時代は説明しやすかったが、今は車載電池、車載エレクトロニクス、工場の(製造)ラインなど、さまざまな事業を展開している。そして気がつくと、パナソニックがいったい何者なのか見えなくなっていた。正直、かなり悩んだ」 今年創業100周年を迎えたパナソニックが10月30日から5日間、東京・千代田区の東京国際フォーラムで開催している記念イベント。開催初日の30日、基調講演に登壇した津賀一宏社長のスピーチのサブタイトルは、「パナソニックは、家電の会社から何の会社になるのか」。テーマの通り、話は社長の悩みの吐露から始まった』、100周年記念イベントの基調講演が「悩みの吐露から始まった」というのは、前代未聞で驚かされた。よほど悩みが深いのだろう。
・『住宅と車載、成長の2本柱に抱く不安  テレビの失敗を元凶とする業績不振から脱却すべく、2012年に社長に就任して以来、家電の次の成長柱を模索してきた津賀氏。2013年には、住宅と車載の2分野を重点事業に位置づけ、2015年から4年間で1兆円の戦略投資枠を設けるなど、事業の育成に注力してきた。 だが、住宅事業は戸建てやリフォーム、介護などの重点領域で中期の収益計画を大幅に下方修正。直近の2018年4〜6月期は営業赤字となり、戦略を再考。そこで現在は、もう一本の柱である車載部品の中でも今後の市場拡大が見込まれるEV(電気自動車)用リチウムイオン電池を成長の柱に位置づけている。 電池事業の最大顧客は2011年から戦略的パートナー契約を結ぶ米EVメーカーのテスラ。アメリカ・ネバダ州の電池工場「ギガファクトリー」にはパナソニックも2000億円程度を出資し、共同で運営している。2017年にはトヨタ自動車との提携検討も発表した。この2社を筆頭に、12社80車種以上に供給し、出荷量ベースでは世界シェアの15%ほどを握る(2017年、調査会社テクノ・システム・リサーチ)など、市場でも優位にある。 電池事業の2017年度の業績は、北米と中国2つの新設工場への先行投資が重く18億円の営業赤字だったが、「今期(2018年度)から本格的に投資の刈り取り時期に入る」(梅田和博CFO)。車載事業の成長がまさにこれから、という時期にも関わらず、津賀氏が思い悩んだのはいったいなぜなのか』、住宅事業も2018年4〜6月期は営業赤字とは深刻だ。
・『津賀氏はこう打ち明ける。「車載電池の会社になるといっても、10年後、20年後に自動車ビジネスがどうなっているかはわからない。そう簡単に事業領域を絞り込むことは難しい」。 慎重な物言いの背景には、車載電池を巡る環境の変化がある。その1つが、テスラの混乱だ。同社初の大衆車となる「モデル3」の生産を2017年7月に開始したが、全自動ラインの立ち上げに苦戦。本来、昨年12月までに達成する予定だった週次5000台の生産目標は今年6月へとずれこんだ。これに伴い、パナソニック側の電池の出荷も計画比で下振れし、生産過剰となった一部を住宅用蓄電池向けに振り分けるなどの対応に追われた』、テスラの「おおボラ」に振り回されるのでは、かなわないだろう。
・『イーロン・マスク氏のツイッターが波紋  それに加えて、テスラのイーロン・マスクCEOの奔放な言動にも肝を冷やすことになった。これまでも過激な言動が話題になってきたマスク氏だが、今年8月にはツイッターで突然、株式の非上場化を示唆し、株価操縦の疑いがあるとしてアメリカの証券取引委員会から起訴される事態にまで発展した。 モデル3の生産台数は、設備の入れ替えなどが奏功し、足元は週次5000台で安定してきた。10月25日に発表された7〜9月期決算は市場予測を上回り、これまでマイナス値が続いていたテスラのフリーキャッシュフローが8億8100万ドルのプラスに転換。パナソニックの電池の出荷も大幅に拡大しているはずだ。それでも、株式市場の見方は厳しく、2018年の初頭から続く株価の低迷は未だ底を打ちそうにない。 モルガン・スタンレーMUFG証券の小野雅弘アナリストは、パナソニックの株価低迷をこう分析する。「株価の変動幅が大きい現在の市場環境では、少しでもリスク要因のある銘柄は避けられる。パナソニックの場合、車載電池の最大顧客であるテスラの生産状況の不透明性に加え、テスラと組むこと自体、同社の信用度を下げるリスクがあるとみられている」。 津賀氏も東洋経済の取材に対し、「テスラとのリスクは常にヘッジしているし、テスラが倒産するわけでもないが、唯一どうにもできないのはイーロンの言動」と苦悩を語った。 今後どこまでテスラと付き合うかも問題だ。10月には中国・上海の工場用地を獲得し、2019年から一部生産を始める予定。パナソニックの津賀氏は中国での協業も「検討する」と発言してきた。ただ、「中国でも手を組む場合、従来よりよい条件でテスラと協業し、投資負担やリスクを抑えない限り、収益性の大幅な向上は望みにくい」(みずほ証券の中根康夫アナリスト)との指摘もある。 リスクはテスラの混乱だけではない。投資に積極的な中国の電池メーカーも脅威だ。EV拡大を国策として進める中国政府の手厚い支援の下、莫大な投資を進める中国の電池メーカーCATLも、中国国内の自動車メーカーのみならず、日産自動車やホンダ自動車など、パナソニックの重要顧客にも、中国国内で発売する一部車種ではあるが採用が始まった。 こうした状況を受け、パナソニック社内には「車載電池は中国勢の勝ち」と見る社員もいる。津賀氏は取材の中で、「われわれの電池が世界最高レベルの品質水準であることに違いはない。パナソニックがCATLに負けたという意見には反応する気にもなれない」と語気を強めた一方で、「当社の競合となりうる筆頭格」とは認めた。また、電子ミラーやコックピット、センサーなど幅広い商品群を展開するパナソニックの車載事業だが、電池に替わるほどの強い部品がないのが現状だ』、テスラでは、イーロン・マスク氏が会長を退くようだが、今後の影響力は未知数だ。さらに、「中国政府の手厚い支援を受ける地場電池メーカーとの競争は、なま易しくはなさそうだ。
・『定まらない未来のビジョン  家電の会社から脱却したものの、車載部品メーカーとしての持続的な成長に不確実性が出てきたパナソニック。そこで、津賀氏が今回の講演で新たに打ち立てた目標が、「くらしアップデート業」なるものだった。 いったいどういうことなのか。家電販売のような完成品を売り切るビジネスモデルではなく、消費者の暮らしにあわせてソフトウェアをアップデートする家電やサービスを強化し、継続的な課金収入を得るモデルを目指すという。その一例として、街中などの特定区間を低速で走り、宅配や売店、医療などさまざまなサービスを展開できるコンセプトカーや、家の中の情報基盤「ホームX」などを発表。つまり、暮らしを軸としたプラットフォーマーを目指すというのだ。 ただ、この新目標はこれまで打ち立ててきた住宅や車載の強化よりも一段高い次元の話だ。展開する多様な取り組みの中でパナソニックの強みがいったいどこにあるのかはまだ見えにくい。パナソニックが次の100年も存続する上での“自分探し”は、今後も続く』、確かに取り巻く環境に不確実性が高いなかでは、“自分探し”も容易ではなかろう。奮闘を期待したい。

第四に、第四に、10月17日付けダイヤモンド・オンライン「名門GE異例のトップ交代で解体加速、IoT事業も練り直し」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/182156
・『米ゼネラル・エレクトリック(GE)が1日、初めて社外出身者をCEOに据えるトップ人事を行った。2017年12月期、58億ドルの最終赤字に沈んだGEは事業売却などのリストラを進めるが、新CEOの下で解体がさらに加速しそうだ。 前CEOのジョン・フラナリー氏は、主力の火力発電機器の低迷が決定的になっていた17年8月にトップに就任。中核部門の医療機器を含む200億ドル規模の事業売却などに着手したが、株価の下落を止めることはできなかった。 フラナリー氏は9月下旬、ひっそりと来日し、経団連の会合で講演していた。会合に参加した企業の幹部は「(危機対応で)疲れていた。看板事業としてぶち上げたIoT(モノのインターネット)関連事業の説明にもかつての勢いを感じなかった」と振り返る。 日本での講演から数日後、フラナリー氏は更迭された。1年という在任期間は、10年以上続投するトップが続いていたGEにとって異例の短さだ』、あの名門GEでCEOが僅か1年で交代というのは、電機業界を取り巻く環境の厳しさを示唆しているのかも知れない。
・『今回、CEOに就任したローレンス・カルプ氏は米医療機器メーカー、ダナハーのトップとして同社の時価総額を5倍にした人物だ。 GEのCEO就任と同時に、15年に買収した仏アルストムの電力部門を含む230億ドルののれん代の大部分を減損処理する方針を示した。カルプ氏のトップ就任が好感され、GE株は反発した。 だが、これで膿を出し切れたのかと疑われてしまうのが現在のGEの苦しいところだ。昨年以降、金融部門での損失計上や年金の積み立て不足といった問題が噴出し、業績予想の下方修正が続いたため、不信感を持たれているのだ』、不信感払拭は簡単ではなさそうだ。
・『日本での事業にも変化  こうした疑いを晴らすためにも、カルプ氏は事業売却やコスト削減を加速するだろう。 リストラは成長分野に位置付けてきたIoT関連事業にも及ぶ。発電機器などのデータを解析して運用改善につなげるIoTプラットホームなどを開発する子会社、GEデジタルのコストを4億ドル減らすという。 プラットホームの売り込み先も絞り込む。GEは日本でソフトバンクやNECと提携し、全方位的に営業してきたが、めぼしい実績を挙げていない。このため、GEの中核製品である航空エンジンや発電機器の顧客(航空業界や電力業界)に注力する。 だが、そうした注力業界の企業幹部ですら、「GEは積極的にアプリを開発する意気込みがなくなった。プラットホームを使って自由に課題解決してくださいという姿勢に後退した」と話す。 同企業を担当していたGEの中堅技術者ら3人が最近、日系電機メーカーにまとまって転職するなどIoT人材がGEを離れている。GEはIoT関連事業を続けるが、事業戦略の練り直しも必要になりそうだ』、何でも自社開発するのではなく、オープンに開発してゆく路線なのだろうが、中堅技術者ら3人がまとまって転職、というのは痛いところだろう。
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