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アスクルVSヤフー(窮地のアスクル ヤフーの反論に社外取締役が再反論 「ヤフーに最低限のモラルあると過信してた」、アスクル新社長が激白!ヤフーとの離別に迷いなし 吉岡 晃(アスクル社長 最高経営責任者)特別インタビュー、アスクル社長と独立社外取締役の不再任は 本当に問題だったのか?) [企業経営]

今日は、アスクルVSヤフー(窮地のアスクル ヤフーの反論に社外取締役が再反論 「ヤフーに最低限のモラルあると過信してた」、アスクル新社長が激白!ヤフーとの離別に迷いなし 吉岡 晃(アスクル社長 最高経営責任者)特別インタビュー、アスクル社長と独立社外取締役の不再任は 本当に問題だったのか?)を取上げよう。

先ずは、ジャーナリストの大西 康之氏が7月24日付けJBPressに掲載した「窮地のアスクル、ヤフーの反論に社外取締役が再反論 「ヤフーに最低限のモラルあると過信してた」」を紹介しよう。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/57106
・『8月2日の株主総会直前にIFRS(国際財務報告基準)で連結子会社アスクルの岩田彰一郎社長に退任要求を突きつけたヤフーに対し、ガバナンスの権威が一斉に異論を唱え始めた』、総会はヤフー勝利となったが、問題を改めてみてみよう。
・『「大株主なら何をやってもいいわけじゃない」  7月23日には元パナソニック副社長の戸田一雄氏らアスクルの独立取締役が、独立役員会アドバイザーの久保利英明弁護士とともに記者会見し「大株主なら何をやってもいいということではないはず」(戸田)と訴えた。同日には日本の商法の大家、上村達男早稲田大学名誉教授も「退任要求は提携違反」とする法律意見書を出した。 23日、都内で開いたアスクル独立委員会の記者会見には戸田氏のほか、アスクルの社外監査役の安本隆晴氏、弁護士の松山遥氏も参加した。 戸田氏は記者会見の冒頭で「(アスクルの個人向けネットショッピング事業)『ロハコを売れないか』と言ってきて『売れない』と答えたら『社長を辞めろ』。これでは支配株主の立場で圧力をかけているとしか思えない。1週間後には(株主総会で大株主のヤフーが岩田社長の取締役選任案に反対して)そうなってしまう。本当に悩んでいる」と苦しい胸の内を明かした。 7月18日に岩田氏が記者会見で「ロハコ事業の譲渡を要求された」と語ったことに対し、ヤフーが「事業を譲渡する意向があるかどうか打診しただけ」とのコメントを発表したことについては、「実際には、事細かな条件を提示して譲渡を求めてきている」と反論した。 その上で独立役員会の意見として、 (1)岩田社長退任の是非については、指名報酬委員会で議論・決議した後の交代は現場を混乱させ、企業価値にマイナスになる (2)ロハコ事業の譲渡については、2018年12月にロハコ事業の再構築プランを発表したばかりであり、その効果を検証してから検討すべき (3)(ヤフーが今後もアスクルにロハコ事業譲渡を求めるなら)支配株主であるヤフーとの利益相反取引であることを十分に理解し、対等な立場で交渉することが求められる の3つを公表した。 コーポレートガバナンスの権威として知られる久保利弁護士は、「株式の過半を握っていれば何でもできる、というわけではない。世界でも稀な日本の親子上場(親会社と子会社がともに上場企業であるケース)は非常に大きな問題を抱えている」と語った』、「上村達男早稲田大学名誉教授」や「独立役員会アドバイザーの久保利英明弁護士」の主張は説得力がある。
・『「ヤフーに最低限のモラルがあると過信していた」  記者会見での質疑応答は以下の通り(Qは聞き手の質問)。 Q:今回のアスクルとヤフーの一件で一番の問題は何か。 戸田氏 「自分は一体、何をやってきたのか」ということだ。アスクルの独立取締役、指名委員会の委員長として一生懸命ガバナンスをやってきたのに、土壇場でゴロッと変わってしまう。 久保利氏 ガバナンスは日本の資本市場を機能させる上で大変重要だが、世界でも稀な日本の親子上場、多層上場は果たして合理的なのか。1つの会社の資産を二重三重に勘定する仕組みでもあり、非常に多くの問題を抱えたスタイルだと思う。私はJPX(日本証券取引所)の社外取締役でもあるので、この問題を座視する訳にはいかない。 松山氏 支配株主の義務とは何かという問題だ。(業績不振などの場合)株主には取締役を交代させる権利がある。だが今回のように、事前には一声も上げず、株主総会の招集通知案内が印刷の校了を迎える1週間前になって、突然「トップには辞めてもらう。後任は好きに選べ」という姿勢には問題がある。 Q:今回、ヤフーから社長の退任要求があったことで親子上場が問題視されたが、その前に「親子上場には問題がある」とは考えなかったのか。 戸田氏 正直に言うと(支配株主としての権利を乱用しない)最低限のモラルが(ヤフーには)あるものだと過信していた。(取締役会や独立委員会などで)親子上場の問題点については何度か議論をしたこともあるが、性善説にぶら下がりすぎたと反省している。 Q:株主総会でヤフーから派遣されているアスクル取締役2名を候補者から外す考えはないか。 戸田氏 一昨年まで、ヤフーとアスクルは非常にうまくいっていた。イコール・パートナーシップの一番いい例ではないかと思えたほどだ。ヤフーから派遣されている二人の取締役も非常によくやってくれていて、感謝の気持ちがあった。それがこんなことになるとは、という思いだ。 安本氏 アスクルの生みの親であるプラスの今泉公二社長が、岩田氏の取締役選任を否決すると聞いた時には、非常にがっかりした。もう少し長い目で見て欲しかった』、「親子上場」の問題点が、改めてクローズアップされたことは確かなようだ。「生みの親であるプラス」がヤフー側についた理由を知りたいところだ。

次に、8月24日付けダイヤモンド・オンライン「アスクル新社長が激白!ヤフーとの離別に迷いなし 吉岡 晃(アスクル社長 最高経営責任者)特別インタビュー」を紹介しよう(Qは聞き手の質問、Aは吉岡氏の回答)。
https://diamond.jp/articles/-/212710
・『筆頭株主であるヤフーと対立しているオフィス用品大手のアスクル。8月2日の株主総会では、創業社長だった岩田彰一郎氏の再任にヤフーが反対し、吉岡晃COO(最高執行責任者)が社長に昇格した。新社長はヤフーとどう対峙するのか、直撃した。 Q:前社長を解任した筆頭株主のヤフーに、後継社長としてどう向き合っていきますか。 A:ヤフーとの資本提携は解消したい。その考えは、社長が代わっても全く変わることはありません。 こんな形で社長を代えられて、いつまた同じことが起こるか分からないし、経営陣や社員のしこりは消えない。それにヤフーは独立社外取締役まで3人全員解任したので、会社が壊れてしまった。社長が新しくなったからといって次の日から仲良くしましょうということになるはずがない。 Q:ソフトバンクの宮内謙社長は、記者会見で「アスクルは本当に資本提携の解消を求めているのでしょうか」と述べましたが。 A:われわれは本当に解消したい。そのスタンスで間違いありません。ただ、ヤフーとすぐに資本提携を解消しようとすれば、ヤフーが保有するアスクル株の売り渡しを求める権利(売り渡し請求権)を行使することになります。今の段階でそれに踏み切れば、先方は拒否すると思うので、間違いなく法廷闘争になるでしょう。それを望んでいるわけではないので、慎重に事を進めていきます。 Q:ヤフーと話し合いはできそうですか。 A:早速、アスクルの社外取締役でもある小澤隆生・ヤフー専務執行役から協議の提案をいただいたので、話し合いを始めます。最初のテーマは独立社外取締役の選任。資本提携を解消するにも、独立した役員からガバナンスの意見を求めて進めるのが最良の方法ですから。) Q:独立社外取締役はヤフーが決めることになる? A:いいえ。独立社外取締役を全員解任したのはヤフーですが、もともと独立社外取締役には支配的株主をけん制する機能があるので、それをヤフーが選ぶのは絶対に間違っています。すでにわれわれで新たな社外役員のリストアップに入っています。実際に誰にお願いするかは、独立した指名報酬委員会で議論して決めるプロセスを踏みたいと思っています。 Q:ヤフーが解任したので、今のアスクルに指名報酬委員会はありませんが。 A:ですから、臨時にでも指名報酬委員会を設置したい。独立社外取締役は全員解任されましたが、独立した社外の監査役が2人残っているので、その2人を中心に第三者の弁護士を入れて組成することを考えています。 それはアスクル内部の機関なので、そこが新しい独立社外取締役を選定し取締役会に提案する。そして臨時株主総会を早期に開催し、独立役員の承認を受けることになります。ヤフーには、こうしたプロセスで進めることをお話しするつもりです。 Q:本当に資本提携を解消することはできるのでしょうか。 A:ヤフーのプレスリリースによると「ヤフーよりよい相手がいるなら話を聞く意向はある」ということですから、話し合いの糸口はあると思います。これも独立役員の意向を聞きながら進めていくので、臨時株主総会の後に本格化することになるでしょう。 Q:ヤフーが保有する45%のアスクル株の譲り渡し先として、ヤフーよりよい相手がいますか。 A:現在、事業会社や国内外のファンド4社から提案を受けています。そこから複数社を選んでいきます。1社だけを選ぶとまた同じように独立性を脅かされかねないので。 Q:そこは、ヤフーよりも企業価値を高める相手になりますか。 A:まさにそうした視点で、4社の提案を精査しています。ヤフーとの提携は、BtoCのロハコ事業の集客で大きな効果を発揮しましたが、BtoBも含めて考えると、ヤフー以外の方が有効かもしれない。どんな相手とどんなシナジーを生み出せるのか。それを精査して、最終的には、これから選ぶ独立役員の意見を聞いて決めます。) Q:ヤフーの傘下で、ロハコ事業を成長させた方がよいとの見方もあるのではないでしょうか。 A:いいえ。もはやヤフーと一緒にいることがアスクルの企業価値にとってよいという結論にはなりません。ヤフーの連結子会社でいることの最大の問題点は、ヤフーもアスクルもeコマース(電子商取引、EC)をやっていることです。結果、ヤフーのECにとってはよいことでも、それがアスクルにとってはそうではないという利益相反が生まれることがはっきりした。 例えば、ECでアマゾンや楽天を追い抜くという目標を立てているヤフーは、赤字を拡大してでも流通総額をどんどん増やしたいが、われわれは赤字を拡大して規模を大きくしていく戦略を取り得ない。 仮にECを巨大グループの中の一つのコストセンターとして位置付けるなら、赤字を出して流通総額を拡大する戦略は有効かもしれませんが、上場企業であるわれわれが、赤字を出して規模を大きくするなんてあり得ないわけです。 Q:ヤフーがアスクルのロハコ事業の流通総額を一気に増やそうとするなら、アスクルを完全子会社化するしかないと。 A:契約では、ヤフーがアスクルの株を買い増すには両社の合意が必要ですから、そんなことは想定もしていません。先方がどう考えるかは計り知れないが、われわれとしてはそんなことはできない話だと思っています。 Q:ヤフーはロハコ事業の92億円の赤字を「由々しきこと」としているが、その移管は「考えていない」としている。彼らのそもそもの狙いは何ですか。 ヤフーのEC事業の成長の定義は流通総額の増加です。そのためにロハコ事業をコントロールしたいという狙いは明白です。私は、これまでヤフーとロハコ事業について何度も協議しましたが、「こんな赤字なんて大したことない」「むしろ流通総額を上げろ」という意向の方が強かった。だから、この期に及んで急にロハコが赤字じゃないかと問題視するのは非常に違和感がありますね。 Q:ヤフーの川邊健太郎社長は、ソフトバンクグループの孫正義社長から、アマゾンと楽天を追い抜くようにプレッシャーをかけられていたのでしょうか。吉岡さんは、そうした話を聞いたことはありますか。 A:ああ、1月11日に川邊さんが来社されたとき、「孫さんから、楽天とアマゾンをいつ超えるんだという質問ばかりされる」という話をしていましたよ。岩田の隣で私も聞きました。まあ、孫さんのプレッシャーって私は直接見たことがないので断定的なことは言えませんが、お立場としてそういうものもあるのかもしれませんね。でも、だからといって、アスクルが赤字を出してロハコの流通総額を拡大させるという話には全くならないです』、誕生した新社長もヤフーに対する反感が強く、このままではヤフーの思い通りにはなりそうもなさそうだ。ヤフーもソフトバンクグループから「楽天とアマゾン」超えの圧力を受けていたようだ。今後の展開が大いに注目される。

第三に、早稲田大学大学院経営管理研究科(早稲田大学ビジネススクール)教授の鈴木一功氏が9月4日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「アスクル社長と独立社外取締役の不再任は、本当に問題だったのか?」を紹介しよう。なお、注は省略。
https://diamond.jp/articles/-/213626
・『アスクルの年次株主総会において、大株主のヤフーとプラスの反対により、同社の岩田彰一郎社長と独立社外取締役の再任が否決されたことは大きく報道された。川邊健太郎社長をはじめとするヤフー経営陣の決定はあまりに一方的であるとして、業界団体や個人投資家などから批判の声が上がっている。だが、ヤフーによる決断は本当に問題だったのだろうか。M&Aの専門家でファイナンス理論の第一人者である、早稲田大学ビジネススクールの鈴木一功教授は、コーポレートガバナンスや法律の原則論を軽視した感情的な議論が展開される現状に警鐘を鳴らす。 2019年8月2日、アスクルは年次株主総会を開催し、大株主であるヤフーとプラスの反対により、社長である岩田彰一郎氏、および独立社外取締役の位置づけにある戸田一雄氏、宮田秀明氏、斉藤惇氏の会社側提案の取締役候補4名について、再任を否決した。 本件については、ヤフー側とアスクルの現経営陣側で激論が闘わされ、特に独立社外取締役を実質的に大株主が解任した形となったことから、「少数株主の利益を護る立場にある独立社外取締役」を大株主の一存で交替させることは、コーポレートガバナンスの観点から問題であり、大株主の株主権の濫用ではないか、という批判が各種団体や証券取引所の関係者から相次いだ。 筆者は、こうしたヤフー批判の論調に違和感を覚えるとともに、今回のヤフーへの批判が、2006年のライブドアによるニッポン放送の株式公開買付(TOB)によらない株式取得を巡る、ライブドアへの批判と酷似している、という意味で既視感を覚えた。 本稿では、本件の簡単な経緯と双方の主張の中で問題視された点を整理し、今回の不再任の是非、および少数株主保護と親子会社間の利益相反問題について考察する』、珍しくヤフーの立場をファイナンス理論の立場から擁護する記事なので、参考までにみてみよう。
・『アスクルとヤフーによる提携から現在に至るまでの事実関係  まず、アスクルとヤフーとの資本業務提携の経緯を確認しておこう。 両社が提携を発表したのは、2012年4月27日である。ヤフーは第三者割当増資によって、1株1433円で、2302万8600株のアスクル株を取得した。その投資金額は330億円、議決権比率で42.6%を握る大株主となった。アスクルの親会社であったプラスも株主として留まったことから、2社合算での持株比率は過半数を超えることとなり、その状況は現在も続いている。 当時の新聞記事によると、アスクルは、2009年に自社で始めた個人向けの通販サイトが営業赤字になり、また全社でも最終赤字となったので、ヤフーのポータルから顧客を自社サイトに誘導することで、個人向け通販を立て直そうという意図があった。他方ヤフーも、自社の個人向けショッピングサイトが楽天やアマゾンに取扱高で水をあけられていて、アスクルの持つ配送網を活用して利便性を高める必要があった。 そして資本業務提携により、アスクルは、ロハコ(Lohaco)という個人向けショッピングサイトを立ち上げ、ヤフーのトップページからリンクされるようになった。 資本業務提携後のアスクルの業績は、図表1のように推移した。なお、2018年5月期、2019年5月期のロハコ部門の数字には、2017年7月に買収したペット用品通販のチャーム社のデータを含む(図表中∗を参照)。 提携から7年間で、ロハコ部門の年間売上は21億円から652億円(チャーム社分を除けば513億円)と大きく増えているものの、他の大手ネット通販が1兆円規模の売上であることと比べれば、到底及ばない。また、2019年5月期においても、アスクルのロハコ部門は営業赤字であり、2020年5月期予想でも営業赤字が続く予想(赤字幅は縮小)である。 株価については、どうだろうか。図表2は、両社が提携を発表した直後の2012年5月における株価を100として、アスクル、ヤフー、楽天の株価の推移を示したものである。 株価については、2019年6月末時点で、アスクルの株価は業務資本提携発表直後の約1.9倍となっており、同期間にヤフーや楽天の株価が1.3~1.4倍程度にしかなっていないことに比べれば、パフォーマンスがよい。ただし、同期間に東証株価指数(TOPIX)も約1.9倍になっているので、アスクルの株価のパフォーマンスが格段によかったとはいえない。なお、2019年6月末時点で、ヤフーが保有するアスクル株は約200億円の含み益を抱えていた計算になる』、なるほど。
・『以上を踏まえたうえで、今回の案件について考えてみよう。 本件には、いくつかの異なる次元の問題点があり、それが議論を複雑にしている。そこで、以下のように論点を整理する。なお本稿では、主に(1)と(2)について議論し、(3)については(1)との関連で簡単に触れたい。 (1)過半数を超える議決権を持つ株式による、現社長および現在の指名委員会委員長を兼ねる独立社外取締役の再任に反対することに正当性はあるか。また、その結果として、一時的にとはいえ独立社外取締役が存在しない企業となることに対する、コーポレートガバナンス・コード上の問題はないか。 (2)上場子会社において、大株主である親会社と、子会社の少数株主の利益相反に問題はないか。独立社外取締役が果たすべき役割は何か。本件における、大株主と少数株主間の利益相反問題の本質はどこにあるのか。 (3)子会社上場について、どのような規制が必要か。また、親子上場を認める場合、望ましいガバナンス上のあり方とは何か』、論点整理は問題なさそうだ。
・『論点(1)社長と独立社外取締役の不再任は不当で、コーポレートガバナンス・コード上の問題があったのか  まず、過半数を超える議決権を持つ株式による、現社長、および指名委員会委員長を兼ねる独立社外取締役の再任への反対。これが、今回の最大の論点であることは間違いない。 特に、独立社外取締役を大株主が再任しないことについては、「親子上場企業のガバナンス上、重大な問題」(日本取締役協会)、「上場子会社のガバナンスの根幹を崩すもの」(日本コーポレート・ガバナンス・ネットワーク)、「議決権行使を行い、それによって子会社の安全装置とも言われる独立社外取締役の解任にまで至ったことを懸念」(日本取引所グループ清田CEO)と、数多くの反対意見や懸念が表明されている。 しかしながら、そもそも取締役の選任は、会社法によって株主総会の普通決議事項として認められているものである。少なくとも現行の法律上は、上場子会社に関する特別の定めはなく、取締役に社内、独立社外の区別もない。今回の手続きに格段の問題はないように思える。 また不再任の背景についても、図表1に示したように、ロハコ事業の業績が提携から7年を経ても必ずしも芳しくないことを考えれば、株主権の濫用というほどまでに、説得力のない理由による不再任とはいえないように思える。 さらに言えば、コーポレートガバナンス・コードでは、“comply or explain”(遵守せよ、さもなければ説明せよ)の原則に基づき、遵守が望ましいものの、遵守せずにその理由を説明する、という選択肢が認められている。不再任によって、一時的に独立社外取締役が不在になるとしても、その理由がきちんと説明できれば、違法状態とはいえない。加えて言えば、経済産業省「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」も、あくまでも「指針」である。 むしろ、こうしたいわゆるソフトローにおける、社外取締役やグループ・ガバナンスに関する考え方を理由に、会社法に基づく株主総会での株主の取締役選任が制約されるとは考えがたい。もしそのようなことが許されるのであれば、少数株主保護を掲げれば、経営陣は支配株主の要請を跳ね返すことが可能になってしまう。すなわち、経営陣の保身(エントレンチメント)の口実として、少数株主保護が使われかねないことを意味する。 筆者は、今回の不再任騒ぎに既視感を覚えている。それは、2005年に株式公開買付(TOB)規制の裏を掻いて、ニッポン放送の議決権の過半数を握るに至ったライブドアのケースである』、mply or explain”の原則に基づき、遵守が望ましいものの、遵守せずにその理由を説明する、という選択肢が認められている」、のは確かだが、今回は「その理由」の説明はどうもないようだ。「少数株主保護を掲げれば、経営陣は支配株主の要請を跳ね返すことが可能になってしまう」、というのはもっともらしいが、議論を単純化した極論のようにも思える。
・『これはライブドアが、本来であればTOBにより取得することが強制されているニッポン放送の過半数の議決権を、市場内取引(株式市場の立会外取引ToSTNeT-1と通常取引の組み合わせ)によって取得してしまった事例である。このときにも、ライブドアの行為が、少数株主も平等に支配権プレミアムを享受するために存在するTOB規制の趣旨がないがしろにされた、という批判がなされた。 しかしながら、TOB規制にこのような抜け道があることは、当時筆者を含めたM&Aの専門家の間では広く知られていた。だが、たとえば大崎貞和によれば、公開買付制度による厳しい規制を、子会社化等による企業グループ再編や他の企業との戦略的提携の妨げとなるとして嫌ってきたのは、むしろ経済界であったとされる。なお、ニッポン放送の件を契機に、2006年証券取引法が改正され、この抜け道は塞がれた。 今回の独立社外取締役問題も構図が似ているように思える。田中亘によれば、平成26年改正会社法の検討過程において、一定の株式会社に対し、社外取締役の選任を義務づけるべきかが、法制審議会会社法制部会で議論された。しかし、「各会社がその特性に適した企業統治を採用する自由を妨げるべきではないことなどを理由とする反対論」により義務づけは見送られた。 田中によると「こうした反対論は、主として産業界出身者から寄せられた」、とされる。すなわち、経済界の経営の自由度を重視する姿勢が、社外取締役の選任を努力義務的位置づけにし、社外取締役が不在となっても、違法ではない状況への道を開く遠因となったと考えられる。 ニッポン放送とアスクルの件に共通しているのは、経済界の経営の自由度を確保したいというニーズによって、ある種、規制や制度設計に曖昧さ(抜け道)が意図的に残され、その抜け道が、本来の規制や制度設計の趣旨に必ずしもそぐわない形で利用されてしまったということである。 実際にそのような事例が出てくると、「このような抜け道の利用は、規制の趣旨から認められない」といった批判の嵐になる。しかしながら、抜け道を残すということには、それが自分たちの都合の良いようにも悪いようにも利用される可能性を残すことでもある。それが嫌なのであれば、ある程度みずからの手足を縛ることになるとしても、曖昧さを残さず、可能な限り規制や制度の趣旨が達成できるような形で当初から文言を設計すべきである。 なお、秋に開かれる臨時国会で、上場企業や非上場の大会社に社外取締役の設置を義務づける方向で、会社法を改正することが審議される予定という。今回の件は、法律改正が後手に回るという意味でも、ニッポン放送の件と酷似している』、「経済界の経営の自由度を確保したいというニーズによって、ある種、規制や制度設計に曖昧さ(抜け道)が意図的に残され、その抜け道が、本来の規制や制度設計の趣旨に必ずしもそぐわない形で利用されてしまった」、というのはその通りだろう。しかし、「コンプライアンスとは単なる法令順守ではなく、社会的要請に応えていくこと」という元東京地検特捜部検事で弁護士の郷原信郎氏の考え方に従えば、ヤフーの行為はやはり問題がある。筆者は「法令順守」という狭義の考え方に束縛されているようだ。
・『論点(3)で掲げた親子上場問題についても、類似の問題がある。 経済界は従来から、親子上場の規制には消極的であり、今回ヤフーに批判的意見を開示した団体においても、「上場子会社は、独自の資金調達手段による成長の加速や社員のモチベーションの維持・向上という利点を有する。」(日本コーポレート・ガバナンス・ネットワーク)、「親子上場は子会社の事業成長を加速するインキュベーション支援機能もあり」(日本取締役協会)と、親子上場制度自体には肯定的な見解をわざわざ述べている。 親子上場については、学識経験者の中でも、その賛否は分かれる。たとえば、宮島英昭らは、上場子会社にとっては、親会社という大株主によるモニタリング機能により、業績が独立企業よりも良いと報告している。 しかしながら、アスクルは、ソフトバンクグループから見ると曾孫会社(アスクルは、ヤフー〔親〕、ソフトバンク〔祖父〕、ソフトバンクグループ〔曾祖父〕という支配構造を持つ)である。アスクルに対して、親、祖父、曾祖父の誰がモニタリングを提供するかとなると、責任の所在は曖昧といわざるを得ない。むしろ、積み重なった4つの親子関係といういびつな支配構造の中で、より複雑な少数株主問題が内在しているように思える。 かつて、ニッポン放送・ライブドアの件を契機に、TOB規制が見直されたように、今回のアスクルの件は、親子上場に関する規制や制度設計、そして上場子会社のガバナンスに関して議論する格好の機会を与えてくれたといえる。経営の自由度を理由に、こうした議論を封じるのでなく、親子上場のメリットとデメリットを検証し、どのような形態や条件の下で上場子会社が許容、もしくは規制されるべきかという議論を進めるべきであろう』、これはその通りだ。
・『論点(2)少数株主利益の保護に背き、支配株主との利益相反を招いたのか  ここからは2つ目の論点である、少数株主保護についても考察しておこう。 たしかに、コーポレートガバナンス・コードにおいては、独立社外取締役に少数株主の利益の代弁することを期待していると思われる。しかしながら、今回のアスクルの件に関して、ことさらに少数株主利益の保護が持ち出されていることに対して、筆者は違和感を覚える。 そもそも、ロハコ事業はもちろんのこと、BtoB事業を含めても、アスクルの業績は芳しくない。2017年2月の倉庫火事や、近時の配送料高騰という事情はあるにせよ、売上高営業利益率は、2012年5月期の3%台から、直近2決算期には1.2%弱にまで低下している。 このような状況において、現社長の再任を決定した指名委員会や独立社外取締役は、はたして少数株主利益のために行動したと言い切れるのだろうか。 独立社外取締役といえども、経営陣によって、株主総会に候補として提案され、選任される。そのような独立社外取締役が、自身を候補として推薦してくれた経営陣に、どこまで厳しい意見を言えるのだろうか(あまり厳しいことを言っていると、次の株主総会では取締役候補から外されてしまうかもしれない)。独立社外取締役は、社内取締役よりは、しがらみに囚われない意見を述べられるであろうことは認めるが、経営陣に対する監視役という意味では絶対の存在ではない。 さて、少数株主の利益という観点から、ヤフーが取締役の不再任を発表した前日の7月16日から、株主総会の開催された8月2日までのアスクルの株価の推移を見ておこう。この間、アスクルの株価の上昇率は17%、同期間のTOPIXの上昇率は-2%である。もし今回の不再任のニュースが、少数株主利益を害するものであると市場が判断したのであれば、株価は下落したはずである。少なくとも、株価の反応を見る限り、不再任の発表によって少数株主利益が棄損されたとはいえない。 大株主であるヤフーとアスクルの利益相反と、少数株主利益の保護が問題になるとすれば、ロハコ事業を安値でヤフーに譲渡することであろう。この点については、アスクルの独立役員会が7月10日付の意見書で、ロハコ事業の譲渡への現経営陣の反対が、今回の不再任の背景にある可能性を主張している。これに対して、ヤフー側は7月29日付の開示資料で、不再任の理由はアスクルの業績低迷であるとし、こうした可能性を全面否定している。 今後、ロハコ事業を巡って、利益相反が生じる可能性は否定できない。だが現時点では仮定の話であり、どちらか一方の見解に与することは難しいというのが、筆者の意見である』、これもその通りだろう。
・『以上、アスクルの取締役不再任問題について、3つの論点を整理し、筆者の見解を述べた。 2019年を振り返ると、本件を含めて、上場企業の経営権を巡る問題が多い。 伊藤忠によるデサントへの敵対的TOB成立、廣済堂のMBOに対する旧村上ファンドの対抗TOBによる阻止、LIXILの会社側取締役候補の否認と株主提案取締役の選任という、3つの従来にはない形の経営権争いが行われ、いずれもその後、経営陣が交代している。また、HISによるユニゾホールディングスへの敵対的TOBは失敗には終わったものの、議決権の過半数を取得せず、比較的少ない資金で企業の経営権を掌握しようとするTOBが可能であるという、現状の制度の問題点を明らかにしたように思える。 こうした事案は、2014年以降、コーポレートガバナンス・コードとスチュワードシップ・コードの導入により目指してきた、株主によるコーポレートガバナンスが、本格的に機能し始めている証左とも考えられる。それは経営者に対して、株主に説明責任が果たせる、より理論的な企業経営への転換を迫っているように思える。今回のアスクルのケースも、株主を主体とするガバナンスの新しい形を模索する過程で起こった事案と考えられるかもしれない。 少数株主利益は軽んじられてはならないが、その一方で、支配株主が経営陣を選任し、企業の経営の方向性を決められるというのが、株式会社の経営の原則でもある。「一所懸命に経営してきた現社長を、冷徹に解任する大株主」という構図に感情的に惑わされるのではなく、経営陣の保身(エントレンチメント)に悪用されないための独立社外取締役を含めた社外取締役の選解任方法や、ガバナンス上、社外取締役にどこまでの責任を期待するのかを考え直す機会として、本件が受け止められることを期待したい』、総論的で特に違和感はない。いずれにしても、アスクル新社長が今後、ヤフーとどのように提携関係を深めてゆくのか、注目したい。
タグ:郷原信郎 ダイヤモンド・オンライン JBPRESS 大西 康之 アスクルVSヤフー (窮地のアスクル ヤフーの反論に社外取締役が再反論 「ヤフーに最低限のモラルあると過信してた」、アスクル新社長が激白!ヤフーとの離別に迷いなし 吉岡 晃(アスクル社長 最高経営責任者)特別インタビュー、アスクル社長と独立社外取締役の不再任は 本当に問題だったのか?) 「窮地のアスクル、ヤフーの反論に社外取締役が再反論 「ヤフーに最低限のモラルあると過信してた」」 「大株主なら何をやってもいいわけじゃない」 独立役員会アドバイザーの久保利英明弁護士 上村達男早稲田大学名誉教授も「退任要求は提携違反」とする法律意見書 『ロハコを売れないか』と言ってきて『売れない』と答えたら『社長を辞めろ』。これでは支配株主の立場で圧力をかけているとしか思えない 独立役員会の意見 (1)岩田社長退任の是非については、指名報酬委員会で議論・決議した後の交代は現場を混乱させ、企業価値にマイナスになる (2)ロハコ事業の譲渡については、2018年12月にロハコ事業の再構築プランを発表したばかりであり、その効果を検証してから検討すべき (3)(ヤフーが今後もアスクルにロハコ事業譲渡を求めるなら)支配株主であるヤフーとの利益相反取引であることを十分に理解し、対等な立場で交渉することが求められる ヤフーに最低限のモラルがあると過信していた 「アスクル新社長が激白!ヤフーとの離別に迷いなし 吉岡 晃(アスクル社長 最高経営責任者)特別インタビュー」 ヤフーとの資本提携は解消したい。その考えは、社長が代わっても全く変わることはありません。 こんな形で社長を代えられて、いつまた同じことが起こるか分からないし、経営陣や社員のしこりは消えない。それにヤフーは独立社外取締役まで3人全員解任したので、会社が壊れてしまった。社長が新しくなったからといって次の日から仲良くしましょうということになるはずがない 慎重に事を進めていきます ヤフーの連結子会社でいることの最大の問題点は、ヤフーもアスクルもeコマース(電子商取引、EC)をやっていることです 「孫さんから、楽天とアマゾンをいつ超えるんだという質問ばかりされる」 鈴木一功 「アスクル社長と独立社外取締役の不再任は、本当に問題だったのか?」 今回のヤフーへの批判が、2006年のライブドアによるニッポン放送の株式公開買付(TOB)によらない株式取得を巡る、ライブドアへの批判と酷似している、という意味で既視感を覚えた アスクルとヤフーによる提携から現在に至るまでの事実関係 論点(1)社長と独立社外取締役の不再任は不当で、コーポレートガバナンス・コード上の問題があったのか そもそも取締役の選任は、会社法によって株主総会の普通決議事項として認められているものである コーポレートガバナンス・コードでは、“comply or explain” ソフトローにおける、社外取締役やグループ・ガバナンスに関する考え方を理由に、会社法に基づく株主総会での株主の取締役選任が制約されるとは考えがたい。もしそのようなことが許されるのであれば、少数株主保護を掲げれば、経営陣は支配株主の要請を跳ね返すことが可能になってしまう 経済界の経営の自由度を確保したいというニーズによって、ある種、規制や制度設計に曖昧さ(抜け道)が意図的に残され、その抜け道が、本来の規制や制度設計の趣旨に必ずしもそぐわない形で利用されてしまったということ 「コンプライアンスとは単なる法令順守ではなく、社会的要請に応えていくこと」 論点(3)で掲げた親子上場問題についても、類似の問題 親子上場のメリットとデメリットを検証し、どのような形態や条件の下で上場子会社が許容、もしくは規制されるべきかという議論を進めるべき 論点(2)少数株主利益の保護に背き、支配株主との利益相反を招いたのか 伊藤忠によるデサントへの敵対的TOB成立 廣済堂のMBOに対する旧村上ファンドの対抗TOBによる阻止 LIXILの会社側取締役候補の否認と株主提案取締役の選任 従来にはない形の経営権争い いずれもその後、経営陣が交代している 株主によるコーポレートガバナンスが、本格的に機能し始めている証左
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7pay不正利用(7pay不正利用で露呈したセブン&アイの「ITオンチなのに自前主義」、「7pay」不正問題には 日本企業の経営のダメさが凝縮している これはマネジメントの問題だ、セブンペイは氷山の一角!ITオンチ企業が陥るデジタル戦略の落とし穴、7pay大失敗に見る セブン帝国最大の強み「結束力」に生じた亀裂) [企業経営]

今日は、7pay不正利用(7pay不正利用で露呈したセブン&アイの「ITオンチなのに自前主義」、「7pay」不正問題には 日本企業の経営のダメさが凝縮している これはマネジメントの問題だ、セブンペイは氷山の一角!ITオンチ企業が陥るデジタル戦略の落とし穴、7pay大失敗に見る セブン帝国最大の強み「結束力」に生じた亀裂)を取上げよう。

先ずは、7月5日付けダイヤモンド・オンライン「7pay不正利用で露呈したセブン&アイの「ITオンチなのに自前主義」」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/207950
・『コンビニ業界の王者・セブン-イレブンを擁するセブン&アイ・HDが満を持して7月1日にスタートさせた独自のキャッシュレスサービス「7Pay」。だが、同月2日に不正利用が発覚し、4日の謝罪会見では幹部の“ITオンチ”ぶりと当事者意識のなさが露呈。消費者の信頼を失墜させている』、お粗末極まる対応には、呆れ果てた。
・『たった4日で900人、5500万円の被害  サービス開始から4日で謝罪会見――。コンビニエンスストア業界の圧倒的な王者であるセブン&アイ・ホールディングス(HD)の子会社が、全国のセブン-イレブンの店舗で7月1日に始めたキャッシュレス決済サービス「7Pay」で、不正利用が発覚。4日に運営会社である7Payの小林強社長らが都内で記者会見して謝罪した。 何者かが利用者のアカウントに不正にアクセスし、利用者が登録していたクレジットカードやデビットカードからお金をチャージ。セブン-イレブンの店舗で、タバコなど単価が高く換金性のある商品を購入していたケースがあったという。 同社によると、4日午前6時現在で約900人、約5500万円の被害があったとみられる。 ただ会見では、不正アクセスは中国など海外の複数の国からあったとは説明されたものの、原因は「調査中」の一点張り。詳細は明らかにされなかった。 7payのセキュリティのずさんさについて、被害者やセキュリティの専門家などがインターネット上で検証作業を進めている。7Payを使うために必要な「7iD」のパスワードを忘れて新たに登録し直す際に、登録したメールアドレス以外のアドレスにパスワードを知らせるメールが送ることができてしまうことや、本人確認のために、SMS(ショートメッセージサービス)に数字などのコードを送って入力させる「二段階認証」と呼ばれる仕組みを採用していなかったことなどが指摘されている』、典型的な謝罪会見の割には、危機管理が全く出来ていない後世に語り継がれるようなお粗末な会見だった。
・『「二段階認証?」と聞き返した7Pay運営会社トップ  こうした7payのセキュリティについて、当然記者会見で注目が集まった。ところが、「どうして二段階認証を採用しなかったのか」という報道陣の質問に対して、7Payの小林強社長が「二段階認証?」と聞き返し、さらには「二段階云々」と発言。運営会社トップがキャッシュレス決済の安全の基本を知らないという”ITオンチ”ぶりを露呈する事態となった。同様に不正利用があったソフトバンクとヤフーが展開する「PayPay」が、二段階認証を採用していても不正を防げなかった先行事例の教訓を学んでいないように見える。 さらに、同席したセブン&アイ・HD執行役員の清水健・デジタル戦略部シニアオフィサーは、不正利用について謝罪したものの、「(サービス開始前に)セキュリティー審査をしたが、脆弱性は確認されなかった」と繰り返すなど、当事者意識がまるで感じられない姿勢を見せた。 そもそもリアルのコンビニ店舗では“業界最強”を誇るセブンだが、インターネット戦略では迷走を繰り返してきた経緯がある。 2015年にスタートしたインターネットショッピングサイト「オムニセブン」は、アマゾンや楽天などすでにECの巨人が市場に浸透した後の進出となり、品揃えの不十分さもあって拡大しなかった。 そこで戦略を切り替え、コンビニ店舗で使えるスマートフォンアプリ「セブンアプリ」を18年6月にリリース。利用者に割引クーポンを送るなどのメリットを付与し、ダウンロード数は1000万を超えた。 だが、同年に小売店の店頭を席巻したのは、前出のPayPayや、LINEの「LINE Pay」などIT大手のキャッシュレス決済サービスだった。業界2位のファミリーマートやローソンは、いち早くこれらのサービスを店頭で使える態勢を整えた。 だがセブンは、これらの利用開始がようやく今月と出遅れたうえに、ようやく独自開発の7Payのスタートにこぎつけたが、いきなり大きくつまずいたわけだ』、「小林強社長が「二段階認証?」と聞き返した」、のもさることながら、「清水健・デジタル戦略部シニアオフィサーは・・・「(サービス開始前に)セキュリティー審査をしたが、脆弱性は確認されなかった」、との言い訳には絶句した。審査のいい加減さを自ら暴露しただけだ。
・『コンビニ創業の成功体験に自信 IT人材が払底  セブンの今回の失態は、長くこだわってきた「自前主義」が、専門外のITの世界で通用しなかったことが大きい。 なぜ、セブンはそこまで自前主義にこだわるのか。総合スーパーのイトーヨーカ堂などを擁するグループ内で圧倒的な力を持つのは、国内コンビニを展開するセブン-イレブン・ジャパンだ。日本独自のコンビニというビジネスモデルを創り上げたのが彼らであることは間違いない。 ところが最近は、人手不足や過剰出店に苦しむフランチャイズ加盟店との間で、営業時間や粗利の分配比率をめぐって対立し、経済産業省や公正取引委員会が是正に乗り出すほどの社会問題となっている。 にもかかわらず自ら抜本的な見直しに踏み込めないのは、自前主義によって、国内コンビニ業界で王者の座を築いた成功体験への、自信とこだわりが強すぎるからだと指摘されている。 コンビニ業界2位のファミリーマートも、7Payと同時に独自のキャッシュレス決済サービス「ファミペイ」をスタートさせた。ただし、こちらは貯まったポイントをNTTドコモの「dポイント」や、楽天ポイントと連携させるなど、セブンとは異なる「オープン主義」を掲げる。 さらにファミマでは、キャッシュレス事業を進めるにあたっても、購買情報などビッグデータの活用を重視する親会社の伊藤忠商事が人材を送り込むなどして深く関与している。ローソンも独自決済サービスこそ始めていないが、決済関連部門に親会社である三菱商事の人員が入っている。 その一方で、セブン&アイ・HDで重要なのはリアル店舗のコンビニ。商品開発、出店、オーナー対応といったコンビニ運営に関わる部署が花形で、前述のオムニセブンなどネット関係の部署は一段低く見られている。ITや決済関連の専門知識を持つ社員の数はそもそも少なく、人材が払底している。 記者会見で失態を曝した7Payの小林社長は、かつてセブン&アイ・HD取締役として「オムニチャネル推進室長」を務めたものの、鈴木敏文名誉顧問が追いやられたクーデターよりも前の15年5月に取締役を退任。グループ内の出世の“本流”から外れた人物と目されていた。 それに加えて、7Payには他の事業会社で問題を起こしたり、成果を上げられなかった社員が送り込まれたりするケースがある。こうした環境では社員のモチベーションも保てず、独自のキャッシュレス決済サービスを導入するのに十分な体制だったか疑問符がつく。 後発組にもかかわらず、利用者の「安心・安全」を守れなかった7pay。キャッシュレス決済そのものへの信頼を失墜させた責任はあまりに重い』、IT部門は社内データの分析が中心で、外部のネットワークの接続では全くノウハウがなかったのだろう。今朝の日経新聞によれば、営業時間短縮を訴えた加盟店が、日曜休業を申請、本部は今回も契約解除で脅しているようだ。セブン-イレブンは、組織としてまともに機能しなくなったようだ。

次に、経済評論家の加谷 珪一氏が7月9日付け現代ビジネスに寄稿した「「7pay」不正問題には、日本企業の経営のダメさが凝縮している これはマネジメントの問題だ」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/65747
・・・『満を持して投入したサービスが4日でダウン  セブン&アイ・ホールディングス傘下の決済サービス会社セブン・ペイは2019年7月4日、都内で記者会見を開き、同社のスマートホンフォン(スマホ)決済サービス「7pay(セブンペイ)」のアカウントが、第三者による不正アクセスを受けたと発表した。 7payは、スマホを利用したQRコード決済のサービスのひとつで、7月1日に事業をスタートしたばかりである。スマホにダウンロードしたアプリにクレジットカードなどからお金をチャージし、アプリが表示するバーコードを店員がスキャンすることで決済が完了する。 QRコード決済のサービスは、操作が簡便であることから、中国などを中心に爆発的に普及しており、国内でもソフトバンクグループのPayPayが100億円還元キャンペーンを実施するなどシェア争いが激化している。 7payは、QRコード決済としては後発だが、セブン-イレブンという巨大な店舗網を背景としたサービスであり、競合各社にとっては警戒すべき相手だったに違いない。だが、同社のサービスはわずか4日でハッキングされ、大半のサービスを停止せざるを得ない状況に追い込まれた。 セブン-イレブンの知名度が高いだけに社会に与えたインパクトも大きく、下手をするとQRコード決済そのものに冷や水を浴びせかねない状況だ。 これに加えて今回のトラブルでは、会見に臨んだ同社トップが、セキュリティについてほとんど知識を持っていないことが明らかになるなど、ずさんな経営体制も露呈している。 今回の不正アクセスの被害者は現時点で約900人、金額は約5500万円とされているが、今回の不正アクセスの原因はどこにあったのだろうか』、原因を解明してもらいたいところだ。
・『「2段階認証って何?」の衝撃  不正アクセスの詳細について会社側は完全に情報を開示していないので、現時点で明らかになっている情報をベースに考察すると、2段階認証と呼ばれる本人確認の仕組みを採用していなかったことと、パスワードを変更する際、登録したメールアドレス以外のアドレスでも手続きができるようになっていたことの2つが大きいと考えられる。 同社以外のQRコード決済サービスでは、本人確認に2段階認証の仕組みを導入している。最初に登録したスマホとは異なるスマホでログインするといった操作を行う場合、携帯電話のSMS(ショートメッセージサービス)にパスワードが送られ、それを入力しない限り次の操作に移ることができない。携帯電話そのものを盗まれない限り、簡単に第三者がアカウントを乗っ取ることはできない仕組みだ。 ところが7payでは、この仕組みが導入されていなかったことから、パスワードが破られてしまうと、第三者がアカウントを乗っ取ることができてしまう。 会見では、記者から「なぜ2段階認証の仕組みを採用しなかったのか」という質問が出たものの、同社トップが「2段階認証?…」と言葉に詰まる状況となり、逆に記者から2段階認証の仕組みを説明され、はじめてその概念を理解するという出来事があった。 これに加えて同社のサービスでは、パスワード失念などリセットが必要となった場合、あらかじめ登録しているメール・アドレスとは別のアドレスに手続きメールを送ることができる仕組みになっていた。同社は、セブン-イレブンやイトーヨーカドー、ネットショッピングのオムニ7などにおいて、多くの既存会員を擁している。各サービスに共通するIDも発効しているので、既存会員は当然、7payも使うことができる。 既存会員の中にはキャリアメール(NTTドコモなど通信会社が提供するメール)でID登録をした人も多く、格安SIMなどへの乗り換えによってキャリアメールが使えなくなっている可能性があることから、別のアドレスも使える仕様にしたという。 若年層でキャリアメールを使っている人はあまり見かけないが、セブンの場合、中高年以上の利用者も多く、キャリアメールでの登録が多かった可能性は高いだろう。だが、パスワードの変更手続きを登録メール以外でもできるような設定にしてしまえば、アカウント乗っ取りが多発するのは自明の理であり、これは明らかにサービスの設計ミスいってよい』、利便性を重視するの余り、セキュリティを疎かにするというのはお粗末過ぎる。
・『経営トップは技術に詳しい人であるべきか?  同社トップが2段階認証を知らなかったことについてはネットを中心に驚きの声が上がっている。2段階認証の仕組みは、セキュリティ分野における初歩の初歩の概念なので、いくら技術の専門家ではないとはいえ、決済サービスのトップがこれを知らなかったというのは、大きな問題といってよいだろう。 だが、技術に詳しい人をトップに据えればそれで問題が解決するのかというと話はそう単純ではない。これはトップが技術に詳しいかどうかということではなく、日本企業が抱えている深刻な経営問題と捉えた方がよい。 一般論として経営トップに立つ人は、自身が経営する企業の製品やサービスについて詳しく知っておく必要がある。だが、技術が細分化されていたり、経営領域が拡大すれば、当然、自身ではカバーできない部分も出てくる。 技術に詳しい人が必ずしも経営者としての適正(正しくは「適性」)を備えているとは限らないので、トップの人選にあたってもっとも重視されるべきなのは、やはり経営者としての能力であることは言うまでもない。 仮に技術に詳しくなくても、優秀な経営者であれば、自身が詳細な知識を持っていないことをすぐに認識するので、詳しい人間をスタッフとして近くに置くか、責任者として登用する形で、知識不足をカバーする体制が構築されるはずである。諸外国のIT企業トップの中にも、ITに詳しくないという人はそれなりにいるが、問題なく経営できている。 だが、人材の流動性が乏しく、年功序列を基本とする日本企業の場合、経営者としての適正(同上)がない人がトップに立つケースはザラにある。仮にトップにそれなりの見識があっても、年次の関係で自由に部下を配置できない、社内に専門的な人材がいないといった理由から、十分なサポート体制を構築できないことも多い。今回のケースがどちらに相当するのかはまだ分からないが、日本企業に顕著な問題である可能性は高いだろう』、確かにセブン-イレブンに止まらず、「日本企業に顕著な問題」なのかも知れない。
・『最終的にはすべてマネジメントの問題  今回のシステムを開発した企業名は明らかにされていないが、既存システムとの連携などを考えると、同社がこれまでシステム開発を依頼してきた複数の大手システム会社である可能性が高い。システム会社の技術力劣化を指摘する声もあるようだが、さすがに2段階認証の不採用や、登録メール以外でもパスワード変更ができる仕組みについて、その脆弱性を理解していなかったはずはない。 現場からは「この仕組みではセキュリティ上危険だ」という指摘が上がっていた可能性が高く、一方、営業サイドの人間からは、利用者の利便性を最優先する声が出たことも想像に難くない。利便性とセキュリティをめぐって論争になるのは悪いことではなく、最適なサービスにするための重要なステップともいえる。 むしろ、経営陣が保身ばかり考え、トラブルを避けたいという意向が強すぎると、某銀行のネットサービスのように、利用者にとって不便極まりないものが出来上がることにもなりかねない。 利便性とセキュリティとの間で対立が起こった時、最終的な決断を下すのは経営者の責務であり、このような場面でこそ経営者としての能力が問われることになる。結果的にこうした脆弱なシステムを作り上げてしまったのは、まさにセブン&アイ・ホールディングスのマネジメントの問題であると筆者は考えている』、その通りだ。

第三に、8月5日付けダイヤモンド・オンライン「セブンペイは氷山の一角!ITオンチ企業が陥るデジタル戦略の落とし穴」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/210786
・『不正利用問題に揺れたセブンペイが、9月末でのサービス終了を発表した。発覚直後の会見では、セキュリティー対策への認識の甘さが露呈したが、これを対岸の火事だと安心してはいられない。あらゆる業種・業態で、デジタル活用にはリスクがつきまとう。かつて東京地方裁判所・東京高等裁判所でIT専門の調停委員を務め、企業におけるデジタル活用やシステム開発の問題に詳しい、経済産業省CIO補佐官の細川義洋氏に“素人”でも気を付けなければならないIT開発の要点を聞いた』、ぴったりの専門家の言い分も参考になりそうだ。
・『セブンペイの開発ベンダーは訴えられたら負ける?  Q:セブンペイの不正利用問題では、同社のセキュリティーへの認識の甘さや対応の遅さなどが浮き彫りになりましたが、この件に関して率直なご意見をお聞かせください。 A:ダイヤモンド・オンラインの読者の方は多くがユーザー企業(事業会社)の立場かもしれません。ただ、今回の件を実際の開発を行うベンダーの視点からお話しすると、もしもセブンペイとベンダーが裁判になったら、ベンダーが負ける可能性が高いと思っています。 Q:なぜでしょうか。 A:平成21年に通販会社のウェブサイトからクレジットカード情報が盗まれるという事件があり、ユーザー企業はシステムを開発したベンダーと裁判になりました。このときの判決は、基本的な責任はベンダー側にあるというものでした。ユーザーの希望通りに開発したのに、何が悪かったのか。 システム開発においては、たとえユーザーから要望がなかったとしても、その専門家たるベンダーがシステムの危険性に気付いて、自分の判断でできるところは修正し、またはユーザー企業に必要な作業を提案したり、追加の見積もりを出したりする責任があります。これを一般に、ITベンダーの「専門家責任」といいます』、「ITベンダーの「専門家責任」」とは初耳だが、合理的な考え方だ。
・『先述の通販会社のウェブサイトは、閲覧者がデータベースを不正に操作できてしまう危険な構造になっていました。しかし、こうした構造を避けてセキュリティー対策を施しておくことは、当時のIT業界ではすでに常識でした。経済産業省やIPA(情報処理推進機構)から注意喚起も出ていましたし、同様の脆弱性が問題となって起きた事件もありました。専門家であるITベンダーは当然そうした常識を知っていたはずですから、ユーザーから要望や注意がなくても、改善策を自発的にやるか、提案をしなければならない。それを怠ったということで、本件はベンダー側の責任になりました。 Q:セブンペイでは、二段階認証を採用していなかった点が問題視されていました。 A:今の時代であれば当然、二段階認証を導入しておかなければいけません。たとえセブンペイ側から要望がなかったとしても、最低限、ベンダーは提案すべきです。実際の提案・開発段階でどのような事情があったのかはわかりませんが、今までのセキュリティーがらみの判決を鑑みると、訴訟になれば「ベンダーが悪い」となる可能性は大いにありますね』、なるほど。
・『“プロにお任せ”はNG! セブンペイに提案を受け入れる姿勢はあったか  逆に、ユーザー企業はこうした提案を引き出さなくてはなりません。つまり、引き出せなかったベンダーとの関係性に問題があるということ。ベンダーも人間です。お金が足りないからそこまでやりきれない、お客さんから要望がないからこれくらいでいいだろう、スケジュールに余裕がないから後回しにしよう…と考えたくもなります。 先ほど、ベンダーには専門家責任があると言いましたが、ベンダーがプロだからといって「任せておけばいい」というわけではありません。むしろ、ユーザー企業がベンダーに積極的に疑問をぶつけて、会話をリードしていかなければならないのです』、(ベンダーの提案を)「引き出せなかったベンダーとの関係性に問題がある」、というのは、驕り高ぶったセブン&アイでは、大いにありそうだ。
・『Q:ユーザー企業として、ベンダーと具体的にどのような対話をしていくべきなのでしょうか。 A:ベンダーに提案を依頼する前に、ユーザー企業内で「どんな心配事があるのか」を考えておくべきです。 まず、どこでどんな情報が発生して、どのようなやりとりを経て、最終的にどうなるのか、という情報の流れを図面にします。データフローとよばれるものです。この図ができたら、今度は自分が悪者になったつもりで、「どこが狙いやすいか」とか「どうやったらなりすませるか」を考えてみる。できればそれなりの技術的な知見を持った人も含めて、複数人でデータフローのあら探しをするのです。 Q:あら探しはユーザー企業内だけでやるべきなのですか。 A:「その情報がどれだけ大切なのか」を一番よくわかっているのが、ユーザー企業です。そのため、技術的な課題はさておき、まずはユーザー企業だけで好き勝手に妄想してみることが必要なのです。 その後、ベンダーに提案を依頼する前の段階でいろいろな心配事をベンダーにぶつけます。できれば、複数のベンダーと話をするのがいい。そこで、セキュリティーを含めてあらゆる心配事をさらに深掘りしていくのです。 また、実際の開発が始まってからは、「提案だけならいつでも受け取る」姿勢が重要です。例えば、開発中にセキュリティーの問題が見つかった場合。ベンダーから「追加の開発が必要だ」と言われたときに、「契約も結んだし、今さら何を言っている。そんなことできるわけない」と、聞く耳持たずではいけません。 やはり、ベンダーは日々ITの現場にいて、知見も蓄積されています。提案するのにも、理由があるはず。最終的にやるかどうかはユーザー企業内で判断すればいいですが、ユーザー企業はベンダーからの追加提案、追加見積もり、スケジュール変更などを「聞く姿勢」をしっかり示しておくべきです。そうすれば、おのずと必要な情報は引き出せてくると思います。 今回、セブンペイがベンダーとどのような関係を築いていたかは臆測の域を出ません。とはいえ、やはり二段階認証の話が開発中ずっと出なかったとは考えられない。ユーザー企業に必要なのは、専門的な知識よりも、謙虚で柔軟な姿勢なのだろうと思います』、「ユーザー企業に必要なのは、専門的な知識よりも、謙虚で柔軟な姿勢」、というのは、セブン&アイに最も欠けていたのだろう。
・『プロジェクトがもめて頓挫するのは同床異夢の組織である  Q:業種業態問わず、さまざまな企業でITプロジェクトが進んでいます。IT開発経験の少ない企業がつまずきやすいポイントは、どんなところでしょうか。 A:一番問題が起きるのは、要件定義(注:導入するシステムにどんな機能を持たせるのか、機能の範囲や性能などを決めておくこと)ですね。開発経験が少ない企業だと、この「要件定義をしなければいけないもの」に抜け漏れが出てしまうことがあります。 また、「この機能は必要かどうか」とか「いつまでに必要なのか」といった意思決定がスムーズにできないことも多いです。システム担当者がやりたいことと、実際にシステムを使うエンドユーザー部門の意見が食い違ってしまう。それをまとめられる人がいないので、上層部に判断を委ねることになり、余計に時間がかかる…ということが起こります。 Q:システム利用者が多くの部門に及ぶと、利害関係が生じてプロジェクトが進まないという話はよく聞きます A:プロジェクト成功に向けてうまく動けていない組織は、「このシステムができたら会社がもうかる」「うちの部署がこう変わる」といった「デジタル化したときの夢」を共有できていません。同床異夢だから、実現すべき姿にズレが生じてしまうのです』、一般論としては分かるが、セブン&アイに当てはまるのかはまだ情報不足だ。
・『開発途中で、「うちの部署にこんなデメリットがあるなんて知らなかった!」というクレームが入るのはよくある話。開発に入る前に、関係者を集めて具体的な業務とメリット・デメリットをみんなで語り合い、模造紙やホワイトボードにまとめるなどして、イメージをビジュアル的に共有することがプロジェクトの第一歩です。この段階で、プロジェクトによって「損をする部門」があるのであれば、会社全体の利益と照らし合わせたうえで、事前に対策を考えておくべきです。 多くの人が関わるプロジェクトにおいて、現場のリーダーには、熱意とイメージ力、そして議論をファシリテートする力が必要です。そして、そのリーダーにきちんと権限が与えられていること。現場に決定権がなければ、結局上層部にお伺いを立てなければならず、滞りが出てしまいます』、これも、セブン&アイに当てはまるのかはまだ情報不足だ。
・『ITを「本業」だと考えない企業にデジタル・トランスフォーメーションはできない  Q:著書『システムを「外注」するときに読む本』の出版から2年がたちました。企業を取り巻く環境も随分変わったと思いますが、最近気になる問題はありますか。 A:昨今のプロジェクトでは、AWS(アマゾン)やAzure(マイクロソフト)などのクラウドサービスを活用することが多くあります。クラウドサービスはそれぞれサービス内容が異なるので、できることとできないことに違いがあるのですが、これを正しく理解できていない。そのため、できると思っていたことが、いざ開発してみると実現できないということがあるのです。 しかも、クラウドサービス事業者はサービスを提供するだけで、それ以外の部分には責任を持ちません。ベンダーも自社の製品ではないため、必要な知識や検討事項に抜け漏れが出ることもあります。こうしたトラブルは今後増えていくでしょう。 対策として、ユーザー企業はクラウドサービス事業者が開催する研修に参加するなど、積極的に情報を収集すべきです。複数のクラウドサービスのサービス内容、セキュリティー、契約内容の比較検討をユーザー企業自身でやったほうがいい。うまくいかなくて、最終的に困るのは自分たちなのですから。 忙しい業務の合間を縫って勉強するのは大変だと思われるかもしれませんが、私は、ITに関する知識の習得は「本業」として考えるべきだと思います。デジタル・トランスフォーメーションでは、IT中心に仕事をしていくことになります。「ITはうちの専門分野ではない」「ITはスタッフ部門の仕事」という認識は改めなければなりません』、これはセブン&アイに当てはまりそうだ。
・『Q:「本業」として考えるには、具体的にどういう点を改善すべきですか。 A:例えば、ユーザー企業において、「IT部門で長年経験を積んだ人が出世しない」とか「ITの研修にお金がかけられない」というのはよくある話です。ITは動いて当たり前。動かないと非難されるけど、動いても褒められない。多くの企業で、システム部門の立場はそんなところでしょう。しかし、これではデジタル・トランスフォーメーションは成功しません。ITの成功を、本業と同様に評価する姿勢が必要です。 今は、部門横断的なデジタル活用をめざして、システム部門以外もITプロジェクトに参加するケースがあります。例えば、営業担当がITプロジェクトに週2回携わるとなったときに、「自分の営業成績が下がって困る」状況ではだめ。ITプロジェクトで出した成果も、その活動の割合に応じて人事考課できちんと加味してあげるべきです。 まずは、こうした人事の視点からITに関わることを評価する。これが関係者のやる気につながります。要件定義とか、セキュリティー対策とか、細かいことはプロジェクトメンバーのモチベーションあってのことです』、専門家だけあって、一般論が多いが、セブン&アイでのシステム部門の軽視は、セブンペイの社長に如実に表れているようだ。

第四に、8月20日付けダイヤモンド・オンライン「7pay大失敗に見る、セブン帝国最大の強み「結束力」に生じた亀裂」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/212109
・『コンビニエンスストア業界の王者が鳴り物入りで始めたキャッシュレス決済サービス「セブンペイ」は、3カ月でお蔵入りに。後手に回る対応や社内の混乱から、「セブン帝国」の強みである結束力に亀裂が生じていることが伝わってくる。 「記者会見の動画中継を見ていて、思わずズッコケた」──。セブン&アイ・ホールディングス(HD)が、「セブンペイ」の中止を発表した8月1日のそれだ。たった3カ月でサービス終了という失態に、ある関係者は言葉を失った。 セブン独自のスマートフォンによるキャッシュレス決済サービスは、7月1日の開始直後にアカウントの乗っ取りによる不正利用が発覚。「2段階認証」がなされていないなど、セキュリティー上の不備が次々と指摘され、9月末での中止を余儀なくされた。 HD傘下の運営会社であるセブン・ペイの奥田裕康取締役営業部長は、「開発段階では2段階認証を想定していたが、使用感を考慮して“入り口”の敷居を低くした」と見通しの甘さを釈明した。 経済産業省や民間企業などで構成する一般社団法人キャッシュレス推進協議会のガイドラインでは、2段階認証を求めている。そして、協議会の理事には、セブン-イレブン・ジャパン(SEJ)の古屋一樹会長が就任している他、会員企業にはSEJやセブン・ペイも名を連ねる。前出の関係者は、「協議会の会合には各社の担当者が出席していた。一体何を聞いていたのか」とあきれ顔だ。 不正利用の原因については、グループナンバー2の後藤克弘HD副社長をトップとした、「セキュリティ対策プロジェクト」が調査を続けている。だが、調査報告書は「セキュリティー上の理由」によって外部に公表しない方針だ。過去に個人情報の漏えいを起こしたベネッセHDや日本テレビ放送網は、同様の報告書を公表しているにもかかわらず、である。 セブンペイ終了後も、同じIDとパスワードを用いたインターネット通販サイト「オムニセブン」や、クーポンがたまる「セブンアプリ」はサービスを続ける。セブン側は、IDとパスワードを初期化したことなどから、「セブンペイ以外のサービスはセキュリティー上の問題はない」と主張。これらのサービスに登録された個人情報の「明確な漏洩の痕跡は認められない」との見解を示した。 しかし、国際大学GLOCOM客員研究員の楠正憲氏は、「調査報告書がセキュリティーを理由に公表できないということは、まだ欠陥が残った状態だと思われても仕方がない」と指摘。個人情報についても、「従来使われていたIDが攻撃対象となっており、オムニセブンから相応の流出が起きているのではないか」との見方を示す』、「開発段階では2段階認証を想定していたが、使用感を考慮して“入り口”の敷居を低くした」との奥田裕康取締役営業部長の発言は、セブンペイ社長が2段階認証を知らなかったことから、疑わしい。センブン&アイも参加している「キャッシュレス推進協議会のガイドラインでは、2段階認証を求めている」にも拘らず、セブンペイ社長は知らなかったというのは、お粗末過ぎる。
・『社内ノウハウ得られず欠陥だらけで実用化 コンビニ事業も逆風に  なぜ、ここまで欠陥だらけのセブンペイが実用化されたのか。 運営会社のセブン・ペイには、ファミリーマートのキャッシュレス決済サービス「ファミペイ」が始まる7月に間に合わせなければという焦りがあった。加えて、決済関連のノウハウを有するセブン銀行や電子マネー「nanaco」の担当部署から、十分な協力が得られなかった。さらに、システム構築を請け負ったITベンダーが複数社にまたがっており、責任を持って全体最適の実現を目指す体制でなかったことも影響した。 セブンでは、グループの屋台骨である国内コンビニ事業において今年2月、本部と加盟店との対立が表面化。24時間営業や粗利の分配を巡る不公平さが強い批判を浴び、経産省や公正取引委員会が是正に乗り出している。 こちらを取り仕切るSEJの関係者に言わせれば、セブンペイ問題は、「あれは、HDがやったこと」と、ひとごとの姿勢だ。 セブンペイの火の粉を払おうとするSEJ内部では、24時間営業を巡る社内の足の引っ張り合いが目下の関心事だ。永松文彦社長は、希望する加盟店に時短営業を認めるとアナウンス。それにもかかわらず、時短営業を阻止しようと加盟店に圧力をかける本部社員の動きを上層部が抑え切れない。 このように、結束力が武器だったはずのグループ内は、そこかしこで反目、分裂の様相を呈しており、収拾がつかない。鈴木敏文HD名誉顧問の会長時代は、良くも悪くも持ち前の“徹底力”でグループをけん引していた。だが井阪隆一HD社長の体制となってからは、グループや加盟店に従来たまっていた不満や不均衡が一気に噴き出しているように見える。 不振の百貨店や総合スーパー事業のリストラも焦眉の急だが、「腹をくくって改革を進められる人物が、今のセブン経営陣にはいない。その後継となり得る人材も見当たらない」(ある小売り大手幹部)。 国内コンビニ事業で盤石のシェアを築き、グループ売上高12兆円と「セブン帝国」と呼ばれる巨大企業に成長したセブン&アイ・HD。噴出する諸問題への後手に回る対応は、グループの強固な結束力の崩壊の予兆を感じさせる』、前述のように、今日、新に「日曜休業」問題までが噴出、本部は今回も契約解除で脅しているようだ。あちこちで噴出している「グループの強固な結束力の崩壊の予兆」に対して、如何に対応してゆくか、リーダシップが問われているようだ。 
タグ:ダイヤモンド・オンライン 現代ビジネス 加谷 珪一 7pay不正利用 (7pay不正利用で露呈したセブン&アイの「ITオンチなのに自前主義」、「7pay」不正問題には 日本企業の経営のダメさが凝縮している これはマネジメントの問題だ、セブンペイは氷山の一角!ITオンチ企業が陥るデジタル戦略の落とし穴、7pay大失敗に見る セブン帝国最大の強み「結束力」に生じた亀裂) 7pay不正利用で露呈したセブン&アイの「ITオンチなのに自前主義」」 たった4日で900人、5500万円の被害 「二段階認証?」と聞き返した7Pay運営会社トップ セブンは、これらの利用開始がようやく今月と出遅れたうえに、ようやく独自開発の7Payのスタートにこぎつけたが、いきなり大きくつまずいた コンビニ創業の成功体験に自信 IT人材が払底 後発組にもかかわらず、利用者の「安心・安全」を守れなかった7pay。キャッシュレス決済そのものへの信頼を失墜させた責任はあまりに重い 日曜休業を申請 「「7pay」不正問題には、日本企業の経営のダメさが凝縮している これはマネジメントの問題だ」 「2段階認証って何?」の衝撃 経営トップは技術に詳しい人であるべきか? 日本企業が抱えている深刻な経営問題 トップの人選にあたってもっとも重視されるべきなのは、やはり経営者としての能力であることは言うまでもない。 仮に技術に詳しくなくても、優秀な経営者であれば、自身が詳細な知識を持っていないことをすぐに認識するので、詳しい人間をスタッフとして近くに置くか、責任者として登用する形で、知識不足をカバーする体制が構築されるはずである。諸外国のIT企業トップの中にも、ITに詳しくないという人はそれなりにいるが、問題なく経営できている 日本企業に顕著な問題である可能性 最終的にはすべてマネジメントの問題 「セブンペイは氷山の一角!ITオンチ企業が陥るデジタル戦略の落とし穴」 経済産業省CIO補佐官の細川義洋氏 “素人”でも気を付けなければならないIT開発の要点 セブンペイの開発ベンダーは訴えられたら負ける? ITベンダーの「専門家責任」 “プロにお任せ”はNG! ベンダーの提案を)「引き出せなかったベンダーとの関係性に問題がある プロジェクトがもめて頓挫するのは同床異夢の組織である ITを「本業」だと考えない企業にデジタル・トランスフォーメーションはできない 「ITはうちの専門分野ではない」「ITはスタッフ部門の仕事」という認識は改めなければなりません 「7pay大失敗に見る、セブン帝国最大の強み「結束力」に生じた亀裂」 キャッシュレス推進協議会のガイドラインでは、2段階認証を求めている 協議会の理事には、セブン-イレブン・ジャパン(SEJ)の古屋一樹会長が就任している他、会員企業にはSEJやセブン・ペイも名を連ねる 調査報告書がセキュリティーを理由に公表できないということは、まだ欠陥が残った状態だと思われても仕方がない 社内ノウハウ得られず欠陥だらけで実用化 コンビニ事業も逆風に 噴出する諸問題への後手に回る対応は、グループの強固な結束力の崩壊の予兆を感じさせる
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日本型経営・組織の問題点(その7)(トヨタが「終身雇用」を諦めてくれた方が日本の労働者の賃金は上がる、相次ぐ脱終身雇用宣言 信頼と責任築く経営哲学いずこに?、NECは新卒1000万 NTTは1億円 研究者待遇 世界基準に) [企業経営]

日本型経営・組織の問題点については、2月12日に取上げた。今日は、(その7)(トヨタが「終身雇用」を諦めてくれた方が日本の労働者の賃金は上がる、相次ぐ脱終身雇用宣言 信頼と責任築く経営哲学いずこに?、NECは新卒1000万 NTTは1億円 研究者待遇 世界基準に)である。

先ずは、ノンフィクションライターの窪田順生氏が5月16日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「トヨタが「終身雇用」を諦めてくれた方が日本の労働者の賃金は上がる」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/202493
・『トヨタ社長が「終身雇用を守るのは難しい」と発言をしたことが、ネット上で大騒動になっている。若い世代ほど「終身雇用」への憧れを持っているのだ。しかし、実際には企業が終身雇用を放棄した方が、日本人の賃金は上がる』、本当だろうか。
・『若い世代が憧れる「終身雇用」を無残にも全否定したトヨタ社長  日本企業ではじめて売上高が30兆円を超えたトヨタ自動車が、ネット民からボロカスに叩かれている。  豊田章男・トヨタ自動車社長が、日本自動車工業会の会長という肩書きで臨んだ記者会見で、「終身雇用を守っていくというのは難しい局面に入ってきた」「雇用を続けている企業にインセンティブがあまりない」と述べたことに対して、以下のような批判の声が一部から寄せられているのだ。 「役員報酬を1人平均2億も払えるのなら社員を大事にしろ」「トヨタがそんなことを言い出したら、もう誰も働きたくなくなる」「こんなことを軽々しく言う会社には、もう優秀な新卒がこないだろ」 このご時世、「安定」を求めてトヨタを目指す若者を「優秀」と呼んでいいのかは甚だ疑問ではあるが、怒れる方たちの気持ちはわからんでもない。 オッサン世代は人数が多いだけで、死ぬまで会社にぶら下がって退職金もガッポリともらえているのに、なんでそんな「老害」の尻拭いを下の世代がやらなくてはいけないのだ、という「世代間格差」が露骨にあらわれるテーマであることに加えて、「終身雇用」というのは、多くの人々、特に若い世代にとっては「憧れ」なのだ。 独立行政法人労働政策研究所の「第7回勤労生活に関する調査」(平成28年)によれば、「終身雇用」「年功賃金」を支持する者の割合は、調査を開始した1999年以降、過去最高の87.9%となっている。 と、聞くと、会社に忠誠を誓う中高年リーマンたちの顔を思い浮かべるかもしれないが、この動きを牽引しているのは、意外にも若者だ。20~30代で「終身雇用」「年功賃金」を支持する割合が2007年頃から急激に伸びているという。 どんな会社でもいいから定年退職の日まで雇われたい――。なんて感じで若者たちが抱いた大志を、日本を代表する大企業トップが無情にも握りつぶしてしまったのだ』、「20~30代で「終身雇用」「年功賃金」を支持する割合が2007年頃から急激に伸びている」、というのは派遣など非正規雇用に苦しめられてきたことも背景にあるのだろう。
・『他の先進国の賃金が上昇する中 日本だけが減少した  ただ、気休めを言うわけではないが、若い世代の方たちは、そこまで悲観的になる必要はない。むしろ、トヨタ自動車のように日本社会に大きな影響を与える大企業が「終身雇用」をサッサとギブアップしてくれた方が、日本のためになる。 皆さんの「賃金」が上がっていくからだ。 ご存じのように、日本の労働者はこの20年、仕事は早くてうまくて、賃金はギリギリまで安くという「牛丼スタイル」でコキ使われてきた。 経済協力開発機構(OECD)が試算した働き手1人の1時間あたりの賃金は、この20年でイギリスは87%アップ、アメリカ76%、フランス66%、ドイツ55%と先進国は順調に増えている中で、日本はマイナス9%となっている。 「見たか!これがメイド・イン・ジャパンの底力だ!」と日本製の電化製品を海外に自慢している間に、外国人がドン引きするほどの「労働者軽視国家」になっていたというわけだ。 では、なぜこうなってしまうのか。要因は様々だが、そこには終身雇用システムの根幹をなす「年功賃金」の影響も大きい。 新卒の給料は安く、中堅はまあまあ、ベテランは高給取りという年功序列型給与の企業というのは、基本的に会社に長いこと勤め上げることを前提とした賃金設定となっている。つまり、日本の労働者は、定年まで雇ってくれるという「保障」と引き換えに、若いうちは低賃金でもガマンすることを強いられているのだ。 この傾向は昨日今日に始まったことではなく、戦後の大企業のサラリーマンはずっと「安定」というニンジンをブラ下げられながら、「賃金先送り」で働いてきた』、「働き手1人の1時間あたりの賃金は、この20年でイギリスは87%アップ、アメリカ76%、フランス66%、ドイツ55%と先進国は順調に増えている中で、日本はマイナス9%となっている」、とのOECD試算には驚かされた。ただ、要因として、「終身雇用システムの根幹をなす「年功賃金」の影響も大きい」との指摘はいささか乱暴だ。為替の影響などもっと多面的にみるべきだろう。もっとも、「戦後の大企業のサラリーマンはずっと「安定」というニンジンをブラ下げられながら、「賃金先送り」で働いてきた」、との指摘はその通りだ。
・『低賃金でもニコニコできたのは終身雇用を前提とした社会だから  わかりやすいのは1974年、不況が長引く中で、一部製造業で「中間管理職に減給旋風」(読売新聞1974年11月14日)が起きた時だ。 普通の国の労働者なら「なぜ俺らだけ」「経営者のクビをとれ」と大騒ぎになるのだが、当時、大企業の中間管理職の多くはこれを素直に受け入れた。それどころか、自主的に給料の10%を返上する“サラリーマンの鑑“も現れたという。この背景に、定年まで雇ってもらえるという「保障」があるのは明らかだ。 「終身雇用を建前にして、会社自身が“社会福祉団体”である日本では、なかなか荒療治がやりにくい。そこで失業者を出さないかわりに、ある程度の賃金カットは耐え忍んでもらいたいということになるわけで、帰属意識の強い管理職には、どの会社にも多かれ少なかれ、こうしたことを受け入れる下地があるようだ」(同上) では、日本人を低賃金でもニコニコさせてきた、この「保障」がなくなったらどうなるか?将来が不安だから、もっと給料を上げろという怒りの声が持ち上がるのは当然だ。優秀な人はどんどん条件のいい会社へ移ってしまうので、企業側も賃上げせざるを得なくなるのだ。 もしトヨタが、終身雇用をギブアップすれば当然、トヨタで働く人たちの賃金は上がっていく。横並びが基本の日本では、他の製造業も同じような動きが出る。大企業がそうなれば、優秀な人材の流出を食い止めるためにも、中小企業も賃上げをしなくてはいけない。そうなると、賃上げのできない経営能力の乏しい経営者や、ブラック企業は自然に淘汰されていくので、労働者の環境も改善されていくというわけだ。 という話をすると、「そんなにうまくいくわけがないだろ!終身雇用がなくなったら街に50~60代の失業者が溢れかえるし、将来を安心して働くことができないので日本企業の競争力も落ちるぞ!」と、まるでこの世の終わりのように大騒ぎをする人がいるが、そういうことには断じてならない。 実は日本の「終身雇用」というのは、実態とかけ離れて過大評価されている部分が多々あるからだ』、「優秀な人はどんどん条件のいい会社へ移ってしまう」、というほど日本の労働市場は流動化してないし、「終身雇用をギブアップすれば当然、トヨタで働く人たちの賃金は上がっていく」、」との見立ても乱暴過ぎる。豊田章男社長は、そこまで甘くない筈だ。
・実は終身雇用は単なるスローガン  内閣府の「日本経済2017-2018」で、学校卒業後に就職して会社に定年まで勤める、いわゆる「一企業キャリア」を歩む人がどれほどいるかを以下のように紹介している。 《就業経験のある男性の79%は初職が正規であるが、そのうち一度も退職することなく「終身雇用」パスを歩んでいる男性(退職回数0回)は、30代で48%、40代で38%、50代で34%である》 《正規で入職した女性のうち、「終身雇用」パスを歩んでいるのは50代で7%程度でしかなく、労働市場から退出した割合も高い》 50代まで1つの会社に勤め上げる日本人は大企業などのほんの一握りで、大多数は他の先進国の労働者と同様に、「定年まで雇ってくれる会社」という理想郷を追い求めながら、自助努力で転職を重ねているのが現実なのだ。つまり、9割近い日本人がもてはやす「終身雇用」だが、実は大多数の人は享受することはない制度であって、スローガンのようなものなのだ。 この傾向はバブル期もそんなに変わっていないし、それ以前も然りである。松下幸之助だ、大家族主義だという一部大企業の特徴的な雇用制度が、マスコミで喧伝されるうちに1人歩きして、何やら日本社会全体の代名詞のようにミスリードされてしまっただけの話なのだ。 もっと言ってしまうと、これは日本人の発明ではない。 終身雇用のルーツは大正あたりだといわれているが、今のような完成形に近づいたのは、1938年に制定された「国家総動員法」である。その前後の「会社利益配当及資金融通令」や「会社経理統制令」で株主や役員の力が剥奪され、とにかく生産力を上げるために企業という共同体に国民を縛り付けておくひとつの手段として、終身雇用も始まった。 では、これは日本オリジナルの発想かというと、そうではない。ソ連の計画経済をドイツ経由でまんまパクったものだ。国が経済発展を計画的に進める中、国民は国が規制をする企業に身を投じて一生涯、同じ仕事をする、というソ連モデルを、時の日本の権力者たちが採用した。それが、集団主義が大好きな日本人にピタッとハマったのである。 要するに、「終身雇用」は日本式経営でもなんでもなく、単に戦時体制時に導入した社会主義的システムをいまだにズルズルとひきずっているだけなのだ。そして、実際には形骸化している終身雇用に安心感を持ち、低賃金も喜んで受け入れてきた、というのが日本人の正しい姿なのである。 よく最近の日本は右傾化しているという指摘があるが、先ほど紹介したように、最近の若者は死ぬまで雇われたいという思いが年々強くなっている。愛国だ、日本は世界一と叫びながら、経済に対する考え方はどんどん左傾化しているのだ。 「最も成功した社会主義」なんて揶揄される日本が、果たして終身雇用という、実態から乖離したイデオロギーから脱却できるのか。注目したい』、「終身雇用は単なるスローガン」、というのはむしろ共同幻想に近いと思う。「経済に対する考え方はどんどん左傾化している」、というのは、前述の「非正規雇用に苦しめられてきたこと」の裏返しなのではなかろうか。いずれにしても、変化には年月がかかるだろうが、最終的な着地点がどうなるかは要注目だ。

次に、健康社会学者(Ph.D.)の河合 薫氏が5月21日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「相次ぐ脱終身雇用宣言、信頼と責任築く経営哲学いずこに?」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00118/00024/?P=1
・『今回は「信頼と責任」について、あれこれ考えてみようと思う。 トヨタ自動車の豊田章男社長の「終身雇用決別宣言」が、物議をかもしている。日本自動車工業会の会長として行った記者会見で、「今の日本(の労働環境)を見ていると雇用をずっと続けている企業へのインセンティブがあまりない」と指摘し、「現状のままでは終身雇用の継続が難しい」との見解を明かしたのだ。 トヨタ自動車といえば、3月期の連結決算(米国会計基準)での売上高が前年比2.9%増の30兆2256億円となり、日本企業として初めて30兆円を超えた名実ともに日本を代表する企業である。 が、実際には日本の企業であって日本の企業ではない。国内生産のうち半分以上は輸出だし、トヨタ本体の社員数はすでに日本人よりも外国人のほうが多い。 つまり、トヨタは「MADE BY TOYOTA」というフレーズが象徴するように、グローバル企業であり、先の豊田社長の言葉を私なりに翻訳すると、「あのね、グローバル的には“終身雇用”という概念はないの。日本人だけ雇用し続けるっておかしいでしょ? だからさ、日本人の社員も、“〇〇歳まで会社にいられるし〜”とか思わないでね」ということなのだろう』、河合氏の「翻訳」は、見事に本音を言い当てている。
・『終身雇用はもう限界  いずれにせよ、終身雇用を巡っては、経団連の中西宏明会長も(日立製作所会長)も7日の定例会見で、「企業からみると(従業員を)一生雇い続ける保証書を持っているわけではない。制度疲労を起こしている。終身雇用を前提にすることが限界になっている」と発言。 経済同友会の桜田謙悟代表幹事も14日の記者会見で、「昭和の時代は、大変よく機能したと思う。ただ、経済そのものが大きく変革してしまった中で、終身雇用という制度をとらえるとすれば、やはり『制度疲労』を起こしている可能性があるので、もたないと、わたしは思っている」と述べるなど、今月に入って立て続けに終身雇用決別宣言が頻発している。 相次ぐ経済界のトップ中のトップの重鎮たちのコメントに、 「その前に賃金を上げろよ!」「役員報酬減らせばいいだけだろ!」「この人たちみんな終身雇用の恩恵を受けた人たちだろ!」「結局は安い賃金で、若くて、使い勝手のいい社員が欲しいだけだろ!」と批判が殺到している。 残念ながら終身雇用は“絶滅危惧種”から“絶滅種”になる。 10年以上前から企業は「希望退職」という名のリストラを行い、定年前に役職定年という「予期的期間」を設け、「セカンドキャリア研修」という名の肩たたき研修を行い、終身雇用脱却を狙ってきたけど、今回の発言で明治時代に起源をもち、昭和期に甘美な香りを漂わせてきた「終身雇用」は死滅するのだ。 私はこれまで「長期雇用」の重要性を何度も指摘してきた。理由は何度も書いてきたとおり、それが人間の生きる力の土台となり、すべての人が秘めるたくましさを引き出すからに他ならない。 であるからして、今回の「終身雇用決別宣言」には、ある種の絶望感なるものを感じている。 そして、働く人たちとの信頼関係で成立してきた長期雇用(終身雇用)という心理的契約を語るのに、 「雇用をずっと続けている企業へのインセンティブがない」(by 豊田社長) 「一生雇い続ける保証書を持っているわけではない」(by 中西会長) などと、インセンティブ、保証書というワードを用いたことに、心がひどくきしんでいる。 いずれの方たちも、トヨタ自動車、日立製作所、SOMPOホールディングスといった日本を代表する企業のトップに上りつめた人たちで、色々な角度から経営を考え、チャンレジし、未来を見据えた上での発言だとは思う』、同感だ。
・『長期雇用は雇用制度ではなく「経営哲学」  だが、なぜ、ひとこと「ただし、戦力となる社員は65歳だろうと、70歳だろうと年齢に関係なく雇用し続ける」と断言してくれなかったのか? なぜ「50代だろうと60代だろうと、我が社が求めるスキルを持っている人は年齢に関係なく新規採用する」と明言してくれなかったのか? それが残念でしかたがないのである。 失礼ついでに言わせていただけば、経済界のトップの方たちは、長期雇用(終身雇用)を制度と考えているようだが、長期雇用は雇用制度ではなく「経営哲学」である。 働く人たちが安全に暮らせるようにすることを企業の最大の目的と考えた経営者が、「人」の可能性を信じた。それは社員と家族が路頭に迷わないようにすることであり、その経営者の思いが従業員の「この会社でがんばって働こう。この会社の戦力になりたい!」という前向きな力を引き出し、企業としての存続を可能にしていたのではないか。 人間は、相手との関係性の中で行動を決める厄介な動物である。 「自分を信頼してくれている」と感じる相手には信頼に値する行動を示し、「自分を大切にしてくれている」と感じる相手には精いっぱいの誠意を尽くす。信頼の上に信頼は生まれるのであって、不信が信頼を生み出すことはない。 トヨタの会長だった奥田碩氏が、機会ある度に「解雇は企業家にとって最悪の選択。株価のために雇用を犠牲にしてはならない」と語り、経団連会長として「人間の顔をした市場経済」という言葉を掲げたのも、「長期雇用は日本株式会社の背骨」という経営哲学があったからではないのか。 そもそも「終身雇用」という言葉の生みの親とされる米国の経営学者ジェームズ・C・アベグレン博士は、Lifetime commitment という言葉を用い、「企業は単なる市場労働の場ではなく、社会組織であり、共同体であり、そこで働く人たちが安全に暮らせるようにすることを最大の目的としている」と説いた(『日本の経営』1958年)。それは働く人を、非人格化していた米国の企業への警鐘でもあった。 そもそも、会社=COMPANYは、「ともに(COM)パン(Pains)を食べる仲間(Y)」であり、一緒に行動する集団である。その集団の機能を発揮するには「つながり」が必要不可欠だ。 Lifetime commitment(=長期雇用) は、いわば企業に内在する“目に見えない力”であるつながりを育むための時間と空間への投資であり、つながりが育まれることで、自分のプライベートな目的の達成を気にかける個人の集団ではなく、協働する組織が誕生する。 私がこれまで講演会や取材でお邪魔した1000社を優に超える企業でも、高い生産性をキープし続けている長寿企業は、例外なく長期雇用を前提としていた』、奥田碩元経団連会長が「長期雇用」を重視していたとはさすがだ。アベグレン博士の指摘も適格だ。
・『雇用を生む仕事を作るのが経営者の仕事  経済界で「終身雇用制度をやめるべし」という議論が出はじめた1990年代初頭にOECD(経済協力開発機構)が行った労働市場の調査でも、米国や英国では流動的な労働市場が成立している一方で、ドイツやフランスは、日本と同じように企業定着率の高い長期雇用慣行が形成されていることがわかっている。 私の尊敬する経済学者であり、トヨタの研究でも知られる東京大学大学院経済学研究科の藤本隆宏先生も、「カネ、カネ、カネの経営は古い。経済の最先端は人だ」と断言し、「現場の人を大切にする、経営者は従業員を絶対に切らないように走り回る。仕事が無けりゃ、仕事を作るのが経営者の仕事だ」と、世界中の現場を見て回った経験を交え、明言する。 つまるところ、問題は「長期雇用」にあるのではなく、長期雇用の利点を引き出すリソースを働く人たちに与えていないことが原因になっているのではないか。そう思えてならないのである。 たとえば、日本企業は「意思決定をしない」あるいは「意思決定が遅い」と酷評されることが多い。 「現地で検討されていることでも、日本は本社の役員会議のタイミングが優先され、検討は後回しになる。段々とこちら側もやる気をなくして、盛り上がっていた現場が沈滞する。裁量権を与えられてないマネジャーの存在意義がわからない。もっとリーダーとしての権限を与えないと日本企業は生き残れない」 こういった話を、海外に赴任している人や、海外の日本法人に勤める人たちから、何度も聞かされてきた。 現場に責任は負わせるけど、現場に裁量権は与えない。そんな組織風土も長期雇用の利点を相殺しているのではないか。 あるいは日本企業は「ラインの決定事項ばかりが優先され、現場のプロフェッショナルの意見に耳を傾けない。専門スタッフと経営スタッフはパートナーなのに日本企業では上下関係。日本にはプロという概念がないのか」というボヤキも幾度となく聞いた。 また、外資系は確かに業績が悪化すると「〇%リストラせよ」という指示が、トップから出されることがあるが、人事制度は日本の企業よりはるかに柔軟で、周りとの人間関係や信頼関係なども評価するケースが多い。働く人が「やりたい」と手を上げれば、それを徹底的にフォローし、教育に投資する制度もある。 マネジメントに進むか、専門職に進むかの選択も早い時期に行われ、それぞれにきちんとした教育を行い、評価し、その成果を発揮する機会もある。定年制は年齢差別になるので存在しないが、長期雇用を前提としている企業は2000年以降、確実に増えた』、「仕事が無けりゃ、仕事を作るのが経営者の仕事だ」との藤本隆宏先生の指摘や、「問題は「長期雇用」にあるのではなく、長期雇用の利点を引き出すリソースを働く人たちに与えていないことが原因になっているのではないか」、というのには諸手を上げて賛成だ。
・『人材重視の経営が収益を生み出す  長期雇用を悪の根源と考えるよりも、社員の能力形成への努力をしてほしい。なぜならどんなに先行研究を探しても「長期雇用が会社の生産性を下げる」エビデンスは見当たらないし、人材重視の経営が結果的に企業の収益を生み出す最良の選択であることは明白だからである。 ただ、本当にただ、終身雇用廃止宣言に踏み切ったトップたちの気持ちも少しだけわかる。というか、経営側だけを責める気になれないという、正直な気持ちがある。 将来が混沌とする社会状況を鑑み、定年まで「死んだふり」をする会社員は増殖しているし、「終身雇用を前提とした会社の正社員になりたい」という若者も増えた。会社にい続けること、会社員でいること自体を目的とする「会社員という病」にかかっている人たちがこの数年で増えたとも感じるからである。 独立行政法人労働政策研究・研修機構の「第7回勤労生活に関する調査」(平成28年)によれば、「終身雇用」「年功賃金」を支持する者の割合は、調査を開始した1999年以降、過去最高の87.9%に達している。「組織との一体感」「年功賃金」を支持する割合もそれぞれ、88.9%、76.3%と過去最高で、特に20~30歳代で、「終身雇用」「年功賃金」の支持割合が2007年から急激に伸びた。 また、1つの企業に長く勤めて管理的な地位や専門家になるキャリアを望む者(「一企業キャリア」)の割合は 50.9%。2007 年調査では年齢階層別でもっとも支持率が低かった 20歳代が、半数を超え54.8% と、もっとも高い支持率となった。 時系列に見ると、「一企業キャリア」を選択する割合が ゆるやかな上昇傾向を示す一方、「複数企業キャリア」「独立自営キャリア」を望む割合は低下傾向を示していた。 長期雇用を望む人が増えること自体に問題はないが、長く雇用されるには自らにも「責任」を果たす必要があることをわかっているのか? とちょっとばかり疑問なのだ』、確かに、正社員たちが既得権益の確保だけに目を向けるのは問題だ。
・『雇用される側にも「責任」が生じる  長期雇用は健康社会学的には「職務保証(=job security)」と呼ばれ、職務保証とは、 第1に、「会社のルールに違反しない限り、解雇されない、という落ち着いた確信をもてる」 第2に、「その働く人の職種や事業部門が、対案の予知も計画もないままに消滅することはない、と確信をもてる」 と働く人が感じることで成立する。 真の職務保証とは、「今日と同じ明日がある」という安心であり、自分も「ルールに違反しない」という責任を全うすることが必要不可欠。 にもかかわらず、責任を放棄し「〇〇歳まで会社にいられる」と“かりそめの安心”に身を委ね、働き方改革を逆手にちょっとでもプレッシャーをかけられようものなら、パワハラだの、ブラック企業だのと企業側を批判する輩も存在する。 今の日本企業に本当に必要なのは、企業と働く人が「信頼と責任」でつながること。そのためにも、企業側は働く人に「あなたは我が社にとって大切な人」というメッセージを送り続けてほしい。 職務保証は、経営者が働く人を尊重し、「人」と接することで機能する心理的契約である。 今回の経済界たちの重鎮の「終身雇用決別宣言」が、企業と働く人たちがもう一度「真の職務保証とは何か? それを実現するには何をすればいいのか?」という問題意識につながればいいなぁと、切に願っている』、前向きないい提言だ。

第三に、7月12日付け日経ビジネスオンライン「NECは新卒1000万、NTTは1億円 研究者待遇、世界基準に」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00019/071100074/?P=1
・『日本企業が最先端のエンジニアや研究者の待遇改善に乗り出している。日本では給料や昇進の面では文系優位と言われる。一方、米シリコンバレーなど世界の潮流は理系やエンジニア優位だ。 こうした中、NTTがスター研究者に年1億円の報酬を出すことが明らかになり、話題となっている。7月8日、NTTはシリコンバレーの3つの研究所で先端研究に乗り出すことを披露する式典を開催した。それに先だってインタビューに応じたNTTの澤田純社長は「研究者の報酬は米国現地の水準に合わせていく。日本ではエキスパートでも年収2000万円程度だが、その5倍を超えるケースも出てくるだろう」と明かした。つまりスター研究者には、1億円以上の報酬を出す用意があると言うのだ。 日本の会社員にとっては夢のような金額かもしれない。だが、シリコンバレーのスター中のスターのエンジニアにとって1億円は十分な報酬ではない。 例えば、GAFA(グーグル、アマゾン・ドット・コム、フェイスブック、アップル)などでは、人工知能(AI)分野で著名なエンジニアであれば、1年あたり株式も含めて200万ドル(約2億2000万円)程度の報酬も普通とされている。米オラクルが人工知能(AI)のトップエンジニアに年600万ドル(約6億6000万円)を提示したことが話題になった。 NTTはこれまでシリコンバレーの研究開発拠点でクラウドコンピューティングやセキュリティー、AIの一分野である機械学習やIoTなど、まさにGAFAと真っ向勝負の分野を手掛けてきた。新しい研究所では対象とする分野や実用化までの時期を変え、シリコンバレーで新たな人材エコシステムの構築を図る。 澤田社長は「量子コンピューター、暗号情報理論、生体情報処理の3分野で10年後以降の将来を見据えた理論的な部分を対象とした基礎研究に取り組んでいく。社員になってもらう方もいるかもしれないが、人的ネットワークをつくってアライアンスもしていく。研究者がいるところには研究所のブランチもつくっていきたい」と説明する。 シリコンバレーに駐在し、3研究所を束ねるNTT Researchの五味和洋社長兼CEO(最高経営責任者)は「各研究所長などを起点に、人が人を呼ぶ循環を作っていきたいと考えている。NTTが築いてきたR&D(研究開発)の歴史も説明することで、共感した方が何人か来てくれている」と言う。 例えば、量子コンピューターなど次世代のコンピューティングに欠かせない物理学と情報学の基礎技術を研究する「Φ Laboratories」の所長には、内閣府の革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)プログラム・マネージャーの山本喜久氏を招へいした。スタンフォード大学の応用物理学科・電気工学科の教授も務めた経歴を持ち、量子分野で有名な賞を複数受賞している。 GAFAのような派手な買収戦略はとらないという。「大学の研究室を人材ごと買収してしまうケースもあるが、その時点で大学との関係が切れてしまう。大学に在籍したまま連携していただくこともあるだろう」(NTTの川添雄彦・取締役研究企画部門長)。買収には資金も必要な上、買収後のマネジメントにも労力がかかる』、NTTのようにシリコンバレーで最先端研究をするのであれば、給与は現地事情に合わせるのは当然だ。ただ、現地のマネジャーが、彼らを上手くマネージできるのかには疑問も残る。
・『NECの最年少主席研究員はシリコンバレーで独立  一方、NTTとほぼ時を同じくして、NECが今年10月に人事制度を改定し、新入社員でも1000万円以上の年収を得られるようにすることが明らかになった。 NECは2018年にシリコンバレーの研究所で大きな出来事があった。機械学習で世界的にも有名なエンジニアである藤巻遼平氏とそのチームが研究所からごっそりと抜けたのだ。藤巻氏が新会社のドットデータ(dotData)をカーブアウト(事業の一部などを切り離して独立させること)で立ち上げた。詳細は非公開だがNECは株主として関係を保っている。 NECは藤巻氏を同社では史上最年少となる33歳で研究員の最高位である主席研究員に据えて、報酬面でも役員と同等レベルで処遇していた。ただ「AI・機械学習の分野でシリコンバレーの大手やスタートアップと渡り合っていくには、日本の大企業の組織では難しい面がある。一方で日本のスタートアップがシリコンバレーで新規に顧客を開拓するのも難しい」(藤巻氏)として、NECとの関係を保ちつつ、シリコンバレーで世界に打って出る道を選んだ。 滑り出しは好調のようだ。「シリコンバレーや米国内からもエンジニアなどが応募してくれるようになってきた」(藤巻氏)。2019年6月末には米調査会社フォレスター・リサーチのリポートで、自動化機械学習ソリューション分野のマーケットでリーダー的なポジションにある3社のうちの1社であると評価された。別の1社はこの分野で世界的にも有名になった米データロボットだ。 藤巻氏は「NECには第2の藤巻が出てくる流れをつくってほしい」と常々発言している。NECの1000万円スター新入社員はそのきっかけになるかもしれない。GAFAは大卒で1500万円以上の収入があるとされる。500万~600万円程度の日本の大手企業の新卒給与とのギャップはかなり埋まる。 NECがスター新入社員に1000万円を提示する以上、社内の優秀なエンジニアの賃金水準の見直しも必至だろう。実際、今回の制度改定は新入社員だけでなく、若手を対象にしたものだという。また、国内での優秀な人材の獲得競争を受けて、他社が追随していく可能性もありそうだ。 日本の伝統的な大企業であるNTTとNECが賃金水準だけでなく研究内容で世界基準をクリアできるか。それは日本全体の競争力にもつながる課題である。 まずは世界的に著名な学会でのプレゼンスを上げていくべきだろう。AIの学会ではGAFAや中国のテックジャイアントであるBAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)が幅をきかせている。既にNTTが掲げる大学との連携も実現している。 量子コンピューターなどはグーグルも研究開発に取り組んでいる。NTTは基礎研究とはいえ重なる分野も出てくるだろう。それまでに世界的な地位を確立できているか。残された時間は意外と少ない』、「NECがスター新入社員に1000万円を提示する以上、社内の優秀なエンジニアの賃金水準の見直しも必至だろう」、と簡単に書いているが、これは実は難題の筈だ。無論、スター新入社員は終身雇用の対象外だろうが、どのような職種、事業部門まで対象を広げるのか、お手並み拝見といきたい。
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商社(デサントVS伊藤忠)(デサントを巡る買収劇 「最終決着」の舞台裏 会長最側近を送り込み 全責任を負う伊藤忠、なぜデサント社員は伊藤忠に反発したのか "資本の論理"だけならブランドに傷) [企業経営]

今日は、商社(デサントVS伊藤忠)(デサントを巡る買収劇 「最終決着」の舞台裏 会長最側近を送り込み 全責任を負う伊藤忠、なぜデサント社員は伊藤忠に反発したのか "資本の論理"だけならブランドに傷)を取上げよう。

先ずは、3月28日付け東洋経済オンライン「デサントを巡る買収劇、「最終決着」の舞台裏 会長最側近を送り込み、全責任を負う伊藤忠」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/273502
・『大企業同士がお互いの対話を欠いたままで自社の言い分を世間に主張しあう、前代未聞の「劇場型TOB(株式公開買い付け)」は、あっけない幕切れを迎えた。 スポーツウェア大手のデサントは3月25日、石本雅敏社長が6月開催予定の株主総会をもって退任し、代わって伊藤忠商事の繊維カンパニーでトップを務めていた小関秀一氏が新社長に就任すると発表した。伊藤忠の岡藤正広会長の最側近として知られる人物だ。一方のデサントでは、石本氏以外も生え抜きの取締役は総退陣する。 デサント出身の取締役として残るのは金勲道氏と小川典利大氏。いずれも中途入社組である。金氏は2000年に韓国デサントに入社し、デサントの韓国事業を大きく成長させた功労者だ。もう一人の小川氏はアディダスジャパン副社長などを経て2016年にデサントに入社した。経営手腕への評価は高く、石本氏退任後の社長候補としても名が挙がった』、まさに「劇場型TOB」だ。
・『鮮明になった“伊藤忠色”  6月からの新体制では現在10人の取締役を6人に減らし、デサント出身2人、伊藤忠出身2人、社外2人とする。人数の印象以上に強まるのが“伊藤忠色”だ。伊藤忠からは小関氏のほか、同社執行役員で監査部長を務めていた土橋晃氏が取締役となる。土橋氏はCFO(最高財務責任者)に就任する予定だ。社外取締役には佐山展生・スカイマーク会長、高岡浩三・ネスレ社長を据えた。いずれも伊藤忠とゆかりのある著名経営者だ。 取締役以外のキーパーソンにも要注目だ。デサントの専務執行役員として伊藤忠から派遣される久保洋三氏である。現在は伊藤忠商事の常務執行役員で食料カンパニープレジデントを務めるが、本籍は繊維部門。伊藤忠が完全子会社化したジーンズ大手のエドウィンで会長を務めた経験もある。食料部門出身の伊藤忠元役員は「彼は岡藤会長に見込まれてエドウィンの再建に当たった。現場を見る目が確かで、繊維出身ながら食料ビジネスでも存在感を発揮してきた」と、久保氏の力量に太鼓判を押す。 実は久保氏は、十数年前には伊藤忠でデサントとの窓口役を務めていた。まだ両社の関係が円満な時期で、デサント社内にも知己は多い。そのため、久保氏は新体制で営業面の統括役になることが確実視されている。エース級の人材を投入して社長に加え営業トップとCFOを押さえたことで、今後は伊藤忠がデサントの経営一切を仕切ることになるだろう。 伊藤忠がデサントへの敵対的TOBに踏み切ったのは今年1月末のことだ。買い付け期限は3月14日までで、デサントの直近株価に約50%ものプレミアムをつけてデサント株の最大40%を買い付けることとした。当時の伊藤忠の出資比率は30.44%で、これが33.4%を超えることで株主総会における特別決議での拒否権を、すなわち事実上の経営支配権を持つことになる。 2月7日にデサントはこのTOBへの反対意見を表明。「劇場型」の構図がいよいよ鮮明になったが、実は両社はその直後から水面下の話し合いを始めた。伊藤忠の代表は小関氏。デサント側は石本氏自身が2月中旬に4回にわたって面談に臨んだ。交渉のポイントは新体制での取締役数で、伊藤忠は「デサントから2人、伊藤忠2人、社外2人」を主張。デサントは「デサント1人、社外4人」を求めた。 伊藤忠の影響力縮小にこだわるデサントに、いったんは伊藤忠が譲歩し、取締役会を「デサントから2人、伊藤忠1人、社外2人」とする案がまとまった。2月27日にデサントが取締役会を開いて和解案を議決し、翌28日に公表する段取りまで決まっていたが、合意の直後に石本氏が翻意。これを受けて伊藤忠は2月22日に交渉打ち切りを決め、その後は「資本の論理」でデサントの現経営陣を排除する方針を貫徹した。 石本氏は早くから自らの退任は覚悟していたようだが、土俵際に追い詰められて、なお絶望的な戦いを挑んだ真意は不明だ。それほどまでに、同氏とデサント社員の伊藤忠への反感が強かったということだろうか。この段階で、伊藤忠からさらに譲歩を引き出せるだけの材料があったとは思えない』、佐山展生氏は投資ファンドのインテグラル株式会社代表取締役でもある。「「デサントから2人、伊藤忠1人、社外2人」とする案を「合意の直後に石本氏が翻意」したほど「伊藤忠への反感が強かった」のだろうか。
・『デサントの未来に責任を負う伊藤忠  TOBの直接的なきっかけは、昨年6月に決算報告のため伊藤忠本社を石本氏が訪れた際、伊藤忠の岡藤会長との話し合いが決裂したことだ。デサントは1984年と1998年に2回、経営危機に陥ったが伊藤忠の支援で再生した経緯がある。1994年以降は社長も伊藤忠から派遣されてきた。だが、デサントによれば、2011年ごろから伊藤忠は自社との取引拡大を強要するようになった。 それに不満を高めたデサント生え抜きによるクーデターによって、2013年に就任したのが創業家の3代目である石本氏だ。石本氏は就任早々に「取引強要」の経緯をまとめた報告書を伊藤忠側に渡して改善を迫った。しかし、伊藤忠側が動かなかったことでデサント側には伊藤忠への根深い不信が生まれた。石本氏たちにとって、今回のTOBを通じて伊藤忠に対する不満を世の中に発信できたことは1つの成果ではあるだろう。 伊藤忠がかつての取引強要問題を自ら検証するかは疑問だが、もう同じことはできない。さらに同社はデサントの未来に対して大きな責任を背負うことになる。伊藤忠は現在のデサントの収益構造が韓国事業に依存していると指摘し、国内の立て直しや中国事業を拡大する必要性を強調してきた。今後は2020年の東京五輪や2022年の北京五輪といったスポーツイベントを控える中でデサントがどのように成長するのかを示す必要がある。 伊藤忠は今回のTOBに200億円を投じ、かつ経営に全面的にコミットする。伊藤忠によるTOBにはデサントの労組やOB会まで反対の意向を表明しており、社員からの信頼獲得が何よりの課題だ。それには伊藤忠のグローバルな調達網や資金力を活かして、デサントを大きく成長させるビジョンを描き出すことが欠かせない。それができなければ、劇場型TOBはシナリオがないまま経営者同士が感情的対立をつのらせた「激情型」でしかなかったことになる。こんなに不毛なことはない』、「取引強要」とはかってならありそうな話だったが、現在では公正取引委員会が独禁法の優越的地位の濫用の監視を強めているので、デサント側の反発の要因は他にあるのではなかろうか。

次に、元銀行員で法政大学大学院 教授の真壁 昭夫氏が4月3日付けPRESIDENT Onlineに寄稿した「なぜデサント社員は伊藤忠に反発したのか "資本の論理"だけならブランドに傷」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/28228  (2頁目以降は会員登録(無料)が必要)
・『50%上乗せのプレミアム価格で株式を買い集め  3月14日、伊藤忠商事がデサントに対して実施した株式の公開買い付け(TOB、Take-Over Bid)が終了した。TOBへの応募は約1512万株に達し、買い付け予定数の上限(721万株)を大きく上回った。わが国の主要企業間で、今回のような“敵対的TOB”が成立したのは実質的には初めてとみてよいだろう。 これまで伊藤忠は、筆頭株主としてデサントに経営の改善を求めてきた。一方、デサントとしては自社の考えを貫きたかった。伊藤忠は協議を重ねても進展は見込めないと判断し、デサントへの敵対的TOBに踏み切った。 TOBが成立した主な理由は2つある。ひとつは、伊藤忠がTOB価格に50%ものプレミアム(上乗せの価格)をつけたことだ。そしてもうひとつは、伊藤忠のストラテジー(戦略)は、株主にとってそれなりの説得力があったことである。株式買い取り価格と、企業戦略経済の観点から海外投資家を中心にTOBに応募した株主は多かった。 ただこの結果が伊藤忠にとって成功かどうかは、まだわからない。敵対的TOBでは、企業の内部にさまざまな違和感を残すおそれがある。デサントでは、経営陣をはじめ組織が大きく入れ替わる。この状況で伊藤忠が取り組むべきことは、従業員の不安を解消して組織をひとつにまとめることだ。組織の構成員すべてがベクトルを合わせ、その上で経営陣が持続性あるビジネスモデルを構築することが、TOB後には重要となる』、その通りだろう。
・『伊藤忠は「中国事業の拡大」に自信を持っていた  伊藤忠がデサントに敵対的TOBを仕掛けた背景には、両社の戦略の違いがある。 伊藤忠は、デサントの中国ビジネスへの取り組みを加速させ、グローバルブランドを育成したい。具体的には、伊藤忠はデサントに対して、中国において早期に1000店を出す成長戦略に取り組むべきと求めてきた。伊藤忠は中国事業に自信を持っている。加えて、アパレル事業は伊藤忠の岡藤正広会長が強くコミットしてきたビジネスセグメントでもある。 中国は所得水準の上昇とともに世界有数の消費市場として存在感を発揮している。今後の経済動向への不安はあるものの、伊藤忠は中国市場においてデサントのシェアを高めたかった。この考えに基づき、伊藤忠は自社のアドバイスを聞き入れることを強く求めてきた。 一方、デサントは30%を保有する筆頭株主である伊藤忠との資本関係を維持しつつ、独自の戦略に取り組みたかった』、「中国ビジネスへの取り組み」で温度差があったというのは理解できる。「伊藤忠は中国事業に自信を持っている」のは、伊藤忠が中国最大のコングロマリットCITICグループと戦略的業務・資本提携関係にあることが背景にあるのだろう。
・『「水沢ダウン」のヒットで、デサント側にも自信があった  デサントは、国内を中心に高付加価値のブランドを自前で育てることにコミットしてきた。企業が競争力のあるブランドを育成するには、それなりの時間がかかる。その上で同社は、海外での成長戦略に取り組むことを目指してきた。 創業家出身の石本雅敏社長は、「水沢ダウン」のヒットなどを受けて、自らの考えに相応の自信があったはずだ。また、デサントは中国市場の開拓にも取り組んできた。その背景には、売り上げの50%を占める韓国事業への依存度を低下させ、収益源を分散させる狙いがあった。 石本氏には、短期間での中国事業へのコミットメントを求める伊藤忠の考えはリスクが高いと映ったはずだ。中国経済の先行きは不透明だ。加えて、短期間でグローバルブランドを目指せば、従来の製品よりも品質が低下するなどしてブランド価値が損なわれるとの危惧もあっただろう』、「石本氏には、短期間での中国事業へのコミットメントを求める伊藤忠の考えはリスクが高いと映ったはずだ」、と慎重姿勢をとったのは分からないでもないが、「50%を占める韓国事業への依存度を低下させ」ることも急務だった筈だ。さらに、後付けではあるが、最近の日韓関係悪化で日本製品不買運動が起きたら、ひとたまりもないだろう。
・『ついに「資本の論理」が「日本の企業風土」に勝った  両社は協議を重ねてきたが、折り合いはつかず、話がこじれてしまった。そのため、伊藤忠は敵対的TOBに踏み切った。これは「資本の論理」が「わが国の企業風土」に勝ったことを意味する。わが国における企業経営の常識が大きく変わりつつあると考える。 長年、わが国の企業は、融和を重視した経営を行ってきた。企業は波風を立てることを避けてきたともいえる。 企業の経営者と株主の利害が対立した場合、話し合いによる利害の調整が優先されることが多かった。背景には、多様な利害関係者(株主、地域社会、顧客など)の納得感や安心感が得られていない状況の中で経営の主導権を確保できたとしても、企業が多様なステークホルダーと長期の良好な関係を築くことは難しいとの考えがあった。 一方、伊藤忠は経済合理性(期待収益率の高いマーケットに進出し、シェアを押さえること)に強くこだわった。世界経済の中で相対的に高い成長率を維持し、人口が多い中国にビジネスチャンスがあることへの異論は少ないだろう。この考えの是非を問うべく、伊藤忠はデサントへの敵対的TOBに踏み切った』、「ついに「資本の論理」が「日本の企業風土」に勝った」、というのは確かに画期的だ。
・『海外投資家は「50%」という株価プレミアムを評価  ここで重要のはTOB価格の水準だ。伊藤忠はTOBの価格を2800円に設定した。これは、1月30日のデサント終値に対して50%も高い。50%という株価プレミアム(基準日の株価に対する上乗せ価格)は、わが国の株式市場の70%超の売買を占める海外投資家を中心に、多くの株主の賛同を得た。伊藤忠の主張は、株主に対して、デサントの戦略を上回る成長への期待を与えた。 その結果、伊藤忠は敵対的TOBを成立させた。これは、「わが国の企業風土」よりも、価格や経済合理性に基づく「資本の論理」に軍配が上がったことに他ならない。 現時点で、伊藤忠の拡張主義的な戦略の正否はわからない。中国経済の動向など、新生デサントの将来に影響を与える要因は多い。伊藤忠が取り組むべきことは組織全体を落ち着かせ、ひとつにまとめることだ』、TOB時の「株価プレミアム」は、通常30%程度とされているので、確かに高目だ。
・『なぜ1000人超のデサント従業員が反対したのか  企業が実力を発揮するには、組織構成員の視点がひとつの方向に集中していなければならない。「ヘッドカウント×集中力」が企業の実力だ。その上で、伊藤忠は長期的に付加価値を創出できるビジネスモデルを構築しなければならない。これは一朝一夕にできることではない。 TOBは、禍根を残す。なぜなら、TOBは組織を根本から変えてしまうからだ。その不安があったから、1000人を超えるデサントの従業員もTOBに反対した。伊藤忠主導の下でデサントの取締役10人のうち9人が退任する。デサント内では、伊藤忠が経営を主導することへの反発感、組織が変わることへの不安がかなり強くなっているだろう。 TOBが成立し、デサントの組織は不安定化している。その中で伊藤忠は短期間での成果実現にこだわるべきではないだろう。強引に自社の主張を突き通そうとすれば、さらにデサント内部に動揺が広がる。それは、デサントの経営の持続性を低下させる。状況によっては、伊藤忠にもリスクが波及しかねない』、その通りだろう。
・『TOB後の判断を誤ると、組織の統率が取れなくなるおそれ  今回のTOB成立はわが国企業全体にとって大きな意味がある。大手企業が仕掛けた敵対的TOBの成立を受け、わが国企業の経営風土は、融和重視から、資本の論理に基づいたものに変化していくだろう。 今後、筆頭株主と経営陣の議論が行き詰まった場合、国内主要企業間での敵対的TOBが増える可能性がある。ただし、TOBの成立が企業の成長を保証するわけではない。TOB成立後の判断を誤ると、組織の統率が取れなくなるおそれがある。 そのリスクを抑えるために、企業は、組織をまとめ、持続性あるビジネスモデルを確立しなければならない。伊藤忠によるデサントへのTOB成立を契機に、組織力の引き上げを通して、長期の視点で成果の実現にこだわる企業が増えることを期待したい』、「わが国企業の経営風土は、融和重視から、資本の論理に基づいたものに変化していくだろう」、「長期の視点で成果の実現にこだわる企業が増えることを期待したい」、その通りだ。伊藤忠のお手並み拝見といきたい。
タグ:東洋経済オンライン デサント PRESIDENT ONLINE 真壁 昭夫 「デサントを巡る買収劇、「最終決着」の舞台裏 会長最側近を送り込み、全責任を負う伊藤忠」 鮮明になった“伊藤忠色” 約50%ものプレミアム デサントの未来に責任を負う伊藤忠 デサントは1984年と1998年に2回、経営危機に陥ったが伊藤忠の支援で再生した経緯 伊藤忠によるTOBにはデサントの労組やOB会まで反対の意向を表明 商社(デサントVS伊藤忠)(デサントを巡る買収劇 「最終決着」の舞台裏 会長最側近を送り込み 全責任を負う伊藤忠、なぜデサント社員は伊藤忠に反発したのか "資本の論理"だけならブランドに傷) 前代未聞の「劇場型TOB(株式公開買い付け)」は、あっけない幕切れ 石本雅敏社長が6月開催予定の株主総会をもって退任 伊藤忠商事の繊維カンパニーでトップを務めていた小関秀一氏が新社長に就任 デサントでは、石本氏以外も生え抜きの取締役は総退陣 デサント出身の取締役として残るのは金勲道氏と小川典利大氏。いずれも中途入社組である。金氏は2000年に韓国デサントに入社し、デサントの韓国事業を大きく成長させた功労者だ。もう一人の小川氏はアディダスジャパン副社長などを経て2016年にデサントに入社 いったんは伊藤忠が譲歩し、取締役会を「デサントから2人、伊藤忠1人、社外2人」とする案がまとまった 合意の直後に石本氏が翻意。これを受けて伊藤忠は2月22日に交渉打ち切りを決め、その後は「資本の論理」でデサントの現経営陣を排除する方針を貫徹 伊藤忠は自社との取引拡大を強要するように 社員からの信頼獲得が何よりの課題 「なぜデサント社員は伊藤忠に反発したのか "資本の論理"だけならブランドに傷」 敵対的TOBでは、企業の内部にさまざまな違和感を残すおそれがある 伊藤忠が取り組むべきことは、従業員の不安を解消して組織をひとつにまとめること 伊藤忠は「中国事業の拡大」に自信を持っていた 中国において早期に1000店を出す成長戦略に取り組むべきと求めてきた 「水沢ダウン」のヒットで、デサント側にも自信があった 売り上げの50%を占める韓国事業への依存度を低下させ ついに「資本の論理」が「日本の企業風土」に勝った 伊藤忠は経済合理性(期待収益率の高いマーケットに進出し、シェアを押さえること)に強くこだわった 海外投資家は「50%」という株価プレミアムを評価 なぜ1000人超のデサント従業員が反対したのか 伊藤忠は短期間での成果実現にこだわるべきではないだろう TOB後の判断を誤ると、組織の統率が取れなくなるおそれ TOB成立を契機に、組織力の引き上げを通して、長期の視点で成果の実現にこだわる企業が増えることを期待したい
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武田薬品巨額買収(その2)(巨額買収決議の武田 次の焦点は「アリナミン」 大衆薬業界が熱視線、武田薬品の「大バクチ」7兆円巨額買収が日本社会に問いかけること リスクは大きいがこのままではジリ貧だ、労基法違反の武田薬品 遠いメガファーマの道 急速なグローバル化の陰で社内にきしみ) [企業経営]

武田薬品巨額買収については、昨年5月15日に取上げた。久しぶりの今日は、(その2)(巨額買収決議の武田 次の焦点は「アリナミン」 大衆薬業界が熱視線、武田薬品の「大バクチ」7兆円巨額買収が日本社会に問いかけること リスクは大きいがこのままではジリ貧だ、労基法違反の武田薬品 遠いメガファーマの道 急速なグローバル化の陰で社内にきしみ)である。なお、タイトルからこれまの「日本企業の海外M&Aブーム(そのX)」を外した。

先ずは、昨年12月6日付け日経ビジネスオンライン「巨額買収決議の武田、次の焦点は「アリナミン」 大衆薬業界が熱視線」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/report/15/110879/120500907/?P=1
・『武田薬品工業は12月5日、臨時株主総会を開き、アイルランドの製薬大手シャイアーの買収を決議した。買収額は7兆円弱となる見通し。財務基盤の悪化を防ぐため、武田薬品は事業売却を進める方針。そこで次の焦点として浮上するのが、栄養ドリンク剤「アリナミン」の売却だ。 武田薬品工業は12月5日に開いた臨時株主総会で、アイルランド製薬大手シャイアーの買収を決議した。買収額は約7兆円で日本企業による過去最大のM&A(買収・合併)となる。3兆円は借り入れや社債で賄う計画だが、残りの4兆円を新株発行で対応する。新株発行の是非について、今回の総会で3分の2以上の賛成を得る必要があった。財務の悪化などを懸念する創業家やOBら一部株主が反対していたが、機関投資家などの支持を得て承認された。 買収手続きは2019年1月8日に完了する見通し。武田薬品は売上高が世界上位10位圏内に入るメガファーマ(巨大製薬会社)として新たな成長軌道に乗せる構えだが、市場関係者や業界関係者は、武田薬品が今後、資産売却にどこまで踏み切るかに関心を示す。 資産売却について、クレディ・スイス証券の酒井文義氏は「合計金額は1兆円規模になる」とみる。武田薬品は新株発行後も年180円程度の株主配当金を維持するとしており、その原資を確保するには資産売却は避けられない。手元資金に余裕が出れば、シャイアーの抱える有利子負債の削減も前倒しで進めるとみられる。5日の臨時株主総会でも、クリストフ・ウェバー社長が「非中核事業の売却を進める」と表明した。 ウェバー社長は具体的にどの事業を売却するか明らかにしていないが、市場関係者や業界関係者が「目玉」とみるのが、栄養ドリンク剤「アリナミン」に代表される大衆薬事業だ。「売りに出されれば3000億から5000億円程度になるはず。多くの企業が手を上げるだろう」と国内の大衆薬メーカー関係者は話す』、自らの時価総額を超えるような超大型買収をした以上、資金調達で事実上の「銀行管理」の状態にあるなかでは、「非中核事業の売却を進める」との社長表明は当然のことだ。
・『「テレビCMがなくなると寂しい」  アリナミンは1954年に、ビタミンB1欠乏症である脚気の治療薬として発売され、栄養ドリンク剤や錠剤に加え、注射薬としても提供している。当初はほとんどが医療用医薬品だったが、栄養ドリンク剤が医薬部外品に移行したことで、大衆薬としての認知度が高まった。 武田は潰瘍性大腸炎・クローン病治療薬「エンティビオ」や、多発性骨髄腫治療薬「ニンラーロ」など医療用医薬品を収益の柱に据えており、相対的に大衆薬の比重は下がっている。「非中核事業」と目されるのも、このためだ。 もっとも、アリナミン事業は株主からの支持も高い。5日の臨時株主総会に参加した個人株主は「アリナミンは数少ない一般向け商品。もし事業が売却されてテレビCMがなくなると寂しい気持ちもする」と話した。ウェバー社長は総会で「収益性の高い会社を目指す」と改めて強調したが、医療用医薬品の研究開発費は大きく失敗するリスクも大きい。安定収益が見込める大衆薬事業を切り離す可能性はあるのか。注目が集まりそうだ』、アリナミンの「テレビCMがなくなると寂しい」との声や、「安定収益が見込める大衆薬事業を切り離す」ことによる経営不不安定化のリスクは、確かにあっても、悪化した財務内容の立て直しが急務なようだ。

次に、経済評論家の加谷 珪一氏が12月12日付け現代ビジネスに寄稿した「武田薬品の「大バクチ」7兆円巨額買収が日本社会に問いかけること リスクは大きいがこのままではジリ貧だ」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58934
・『国内製薬最大手の武田が、総額7兆円という日本企業としては最大規模のM&A(合併・買収)を決断した。同社はガラパゴスの典型といわれる日本の製薬業界で唯一、グローバルに戦えるポテンシャルを持つとされてきたが、思い切った買収ができず、このままでは本格的なグローバル化を実現できない状況となりつつあった。 今回の決断は、武田にとって世界に飛躍する最後のチャンスだったが、同時に国内トップという居心地のよい環境に後戻りすることもできなくなった。同社は従来の立場を捨て、グローバル市場における挑戦者にシフトしたことになる』、「国内トップという」ぬるま湯を出て、寒風吹きすさぶ「グローバル市場における挑戦者にシフトした」とは、遅きに失したきらいはあるとはいえ、大したものだ。
・『医薬品メーカーに残された3つの道  武田薬品工業は2018年12月5日、臨時株主総会を開催し、アイルランド製薬大手シャイアーの買収について株主の承認を得た。買収金額は何と7兆円近くになる見込みで、武田自身の時価総額をはるかに上回る巨額買収が実現する。国内企業のM&Aとしては過去最高金額である。 今回の買収提案については、自身よりも時価総額が大きい企業を買収するというリスクの高いスキームであったことから、創業家など一部の株主が反対を表明していた。 武田はオーナー企業ではあるが、創業家は数%の持ち分しかなく、創業家出身の経営者だった武田國男氏は2003年にトップを退任しており、事業には直接タッチしていない。過半数の株主は機関投資家という状況なので、総会では大きな混乱もなく買収提案が可決された。だが、今回の決断が創業以来の「大きな賭け」であることは間違いない。 武田がこれだけリスクの大きい買収を決断した背景となっているのは、このままではグローバル市場に取り残されてしまうという危機感である。 同社は国内トップの製薬会社だが、グローバル市場では中小企業に過ぎない。武田の2018年3月の売上高は約1兆8000億円。これに対してロシュやノバルティス、ファイザーといったトップグループの企業は軒並み5兆円規模の売上高がある。 製薬業界は新薬の開発に巨額投資を行う必要があり、企業体力が小さい企業は圧倒的に不利になる。一方で、ジェネリック医薬品の普及によって、製品のコモディティ化も急速に進んでいる。 グローバル市場においては、圧倒的な規模を持つ巨大製薬メーカー(いわゆるメガファーマ)になるか、ジェネリックのメーカーになるか、もしくは特定分野にフォーカスしたニッチ・メーカーになるのかという3つの選択肢しかない。 今回の買収で武田の売上高は4兆円に近づき、何とかメガファーマの一角を占めることが可能となる』、武田を踏み切らせた強い「危機感」はその通りだろう。
・『花形職種MRのリストラが相次ぐ  これまで世界の製薬業界では、大手各社がメガファーマを目指して巨額買収合戦を繰り広げてきたが、このゲームはほぼ終盤戦に差し掛かっている。つまり武田にとっては、今のタイミングを逃してしまうと、買う会社がなくなってしまい、メガファーマになるという道は諦めなければならない。 一方、武田は国内トップのメーカーなので、国内市場に特化するという選択肢もあるが、そうもいかないのが現実だ。 国内の製薬業界では、花形職種ともいわれてきたMR(医薬情報担当者)の早期退職が相次いでいる。MRというのはいわゆる営業職のことで、かつては予算をふんだんに使って医師を接待するなど、製薬業界を象徴する仕事だった。最近は従来型の接待営業から、専門医療情報を医師に提供するという知的なスタイルにシフトしているが、会社の稼ぎ頭であることに変わりはなかった。 各社が稼ぎ頭であるMRをリストラしているのは、価格の安いジェネリック医薬品が急速に普及してきたからである。かつてジェネリック医薬品は、臨床での実績が少ないことから使用をためらう医師も多かったが、医療費抑制の流れから最近では一般的に使われるようになってきた。 高齢化によって医療費そのものは増えているが、ジェネリックが普及すれば、新薬のメーカーにとっては逆風となる。日本の財政は今後、さらに厳しい状況となるのは確実であり、医療費抑制の動きも顕著となるだろう。長期的には人口減少で患者そのものが減ってしまうことを考えると、国内市場がメインの企業は、規模を縮小する以外に生き残る方法がなくなってしまう』、「ジェネリック医薬品」の普及は確かに急速だ。「MRのリストラが相次ぐ」のも当然だろう。
・『リスクは大きいけれど…  国内の製薬業界は典型的なガラパゴスとされ、再編が続くグローバルな流れとは無縁の状況が長く続いてきた。しかし、国内トップの武田だけはグローバルで戦えるポテンシャルを持っていると認識されており、経営陣が決断すれば、グローバル企業に脱皮できる可能性があった。 今回の買収がその最後のチャンスだったわけだが、このスキームに対しては「価格が高すぎる」との声が上がっている。武田自身の時価総額が3兆円台であるにもかかわらず、2倍の規模の会社を買収するのだから無理もない。 だがM&Aというのは売り手と買い手が揃ってはじめて成立するものであり、買い手の都合がよい時にベストな売り手が出てくるとは限らない。場合によっては割高であることが分かっていても、決断せざるを得ない時もある。 価格面以外にも懸念材料を挙げればキリがない。 もっとも大きいのは、武田がグローバルに打って出るための相手としてシャイアーがふさわしいのかという問題である。武田は規模こそ小さいものの「がん」「消化器」「中枢神経」といったメジャーな領域をカバーする総合メーカーであり、最終的にはメガファーマとしてのシェア拡大を狙っていると考えられる。 ところがシャイアーは、血友病や免疫疾患など希少疾患を得意とするメーカーであり、どちらかというとニッチ戦略に近い。武田から買収提案が出された前後に、がん治療薬の事業をフランスの製薬会社に売却していることからも、その傾向を伺い知ることができる。 両社の事業領域に重複は少なく、統合によるコスト削減効果もそれほど大きくない(会社側は1600億円と説明している)。シャイアーはニッチであるがゆえに高収益となっており、2017年12月期の決算では、4300億円の営業キャッシュフローを確保したが、この高収益が今後も継続する保証はない』、「統合によるコスト削減効果もそれほど大きくない」、「シャイアー・・・の高収益が今後も継続する保証はない」、などから、今後の「買収後の成長戦略」がカギになるのだろう。
・『武田の決断が日本社会に突きつけること  最終的に武田はシャイアーの創薬基盤をフル活用し、大きな利益を生み出す新薬を開発していく以外に、高額買収を正当化する手段はないだろう。 本来であれば、武田は10年前にこうした決断をしておくべきだったが、現実はそう簡単ではなかったと考えられる。 武田國男氏の後を継いでトップに就任した長谷川閑史氏は同社のグローバル化を推し進め、グラクソ・スミスクラインの部門責任者だったクリストフ・ウェバー氏をトップに招聘するなど着々と布石を打ってきた。それでも、大型買収を実施できるまでの体制を構築するには時間がかかったものと思われる。 今回の買収で武田の財務状況は一気に悪化するので、もはや後戻りはできない。だが国内トップという居心地のよい環境を自ら捨て去り、グローバル市場のチャレンジャーになるという姿勢は評価してよいだろう。 巨額買収を決断した同社の一連の経緯は、今の日本社会を象徴しているといってよい。 1990年代まで日本の大手メーカー各社は世界トップ企業と肩を並べる水準だったが、失われた30年によって、多くが国内では大手のままでもグローバル市場では中小企業に転落してしまった。国内市場だけで活動していれば、すぐに会社が消滅することはないだろうが、人口減少と日本の相対的なポジションの低下で、さらなる規模の縮小と低収益化を余儀なくされる。 一方、このタイミングでグローバル市場に出て行くにはタイミングが遅く、決断にはかなりのリスクが伴う。だが5年後にはこうしたチャンスすら消滅しているかもしれない。 国内市場だけでやっていけばよいという意見もあるが、鎖国でもしない限り、グローバル市場の影響を受けてしまうので、日本経済単独で豊かな社会を築くことは現実的に難しい。成長を諦め、貧しさを甘んじて受け入れるのか、リスクを取って豊かさを目指すのか、平成という失われた30年が終わろうとしている今、武田の決断は日本社会に対する最後の問いかけといってよいだろう』、説得力に富んだ分析だ。これだけ大きな決断は、やはり外国人社長でないと出来なかったのだろうか。残された国内の製薬大手がどうするのかも注目される。

第三に、6月23日付け東洋経済オンライン「労基法違反の武田薬品、遠いメガファーマの道 急速なグローバル化の陰で社内にきしみ」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/288079
・『6兆円強の大金を投じて欧州製薬大手のシャイアーを買収し、売上高3兆円を超える世界9位のメガファーマに躍り出た武田薬品工業の足もとで、お粗末な労働基準法違反が発覚した。 2018年9月から今年5月までの9カ月間で、労働基準監督署から合計5件の労働基準法違反(是正勧告4件、指導1件)を指摘されていたのだ。 具体的には、東京・日本橋のグローバル本社において、労使間で結ぶ三六(サブロク)協定で定めた時間外労働の上限(月70時間)を超過したケースが2件あった(昨年11月と今年4月)。さらに、昨年9月には同じグローバル本社で、就業前後の時間外に勤務の実態がありながら賃金不払いとなっていた案件も1件発生し、東京の中央労働基準監督署から是正勧告を受けている』、信じられないような「お粗末さ」だ。
・『労基法違反を繰り返したのに「ホワイト企業」  労基署の是正勧告を受けると、期日までに指摘された違反内容を改善したうえで、防止策などを記した是正報告書を提出することが義務づけられる。是正勧告は行政指導の一種で、罰金などの処分はない。ただ、改善がみられなかったり、違反を繰り返した場合などは、まれではあるが、検察庁に送検されるケースもある重い処分だ。 さらに問題なのは、とくに優良な健康経営を実践している企業に経済産業省がお墨付きを与える「健康経営優良法人」の認定を武田が受けていたことだ。 武田は、2019年2月に認定された2019年の大規模法人部門(ホワイト500)に選ばれた。これは大企業なら「取ってないとおかしい」というほどポピュラーな存在で、製薬関連企業で33社が取得している。大塚製薬や第一三共、エーザイ、塩野義製薬などが2018年にも認定されているが、武田は2019年からと遅かった。 しかし、労基法違反が発覚し、ホワイト500の認定を自主返上せざるをえなくなった。「労基法などの同一条項で複数回違反しないこと」という認定基準に抵触したからだ。武田の説明によると、4月末に2度目の是正勧告を受けたことを受けて5月のゴールデンウイーク明けに経産省に報告し、経産省との協議のうえ、6月5日に自主返上の手続きを開始したという。 従業員に子育てがしやすい労働環境などが整った企業を厚生労働省が認定する「プラチナくるみん」も取得済みだったが、ホワイト500と同様、こちらも自主返上の手続に入っている。 労基法違反が明るみに出たのは、法令違反事案の存在を認めた社内資料を基にした内部告発があったためだ。 経産省への内部告発は、会社が認めた前述の5件以外にも違法行為があると示唆したうえで、ホワイト500に申請する際に会社は「重大な労働基準関係法令の同一条項に複数回違反しているにもかかわらず、虚偽の内容で申請し、認定を受けました」と指摘している』、「内部告発」は経産省だけでなく、肝心の労基署にも行われたのだろう。経産省の「ホワイト500」、厚生労働省の「プラチナくるみん」、それぞれ別の目的があるとはいえ、こんなくだらない賞を作る省庁も問題だ。
・『武田は内部告発のいう「虚偽」を完全否定 しかし、武田は「人事が社内調査を行ったうえで、ほかに重大な法令違反の隠ぺいや虚偽申請などの事実はないことを確認した」と内部告発を完全否定する。昨年11月の経産省への申請時点で労基署からの是正勧告はあったが、「同一条項で複数回違反」ではなかったため申請したという。その後、今年4月に2回目の是正勧告を受けたため、規程に従って認定の自主返上手続に入ったと説明する。 もし告発どおりだと、ホワイト500の申請は虚偽となり、自主返上では済まずに認定が剥奪され、最大4年間申請もできないペナルティーも課される。経産省は現時点では虚偽申請だと考えておらず、会社が言う通りの自主返上の手続きに入っているという立場だ。 それにしても、先進的なグローバル経営を標榜する企業の足もとで、なぜこのような事態が起きているのだろうか。 武田の広報担当者は「昔の武田では(労基法違反は)あったが、ここしばらくは減ってきていた」という。近年は違反をしないように社員にも厳しく指導がいくようになったことが違反減少につながった、というのが武田関係者の解説だ。武田の内部事情に通じた複数の業界関係者からも同じような声が聞かれる。 是正勧告を受けた社員やその上司らに聞き取りをした結果、武田の人事部門は「上司と部下のコミュニケーションの問題が主因」と判断しているようだ。上司は部下の仕事ぶりをみて、過重だと思えば、部下と話し合って上限を超えないように解決策を出す必要がある。一方、部下は早めの相談が求められるが、今回は両者間のコミュニケーションに問題があったというのだ。 ただ、この説明にはやや無理がある。複数の武田OBは、昨年春以降のシャイアーとの買収に絡むタフな交渉が社員の仕事量を増加させたのではないかと指摘する。労基法違反5件のうち3件がグローバル本社で起きていることも、その疑いを強める』、「経産省は現時点では虚偽申請だと考えておらず、会社が言う通りの自主返上の手続きに入っているという立場だ」、というのは経産省らしいが、国民の立場からは情けない姿勢だ。「シャイアーとの買収に絡むタフな交渉が社員の仕事量を増加させたのではないか」、というのは大いにありそうなことだ。
・『フレックスタイム制や「中抜け勤務」も柔軟に  2018年8月には生産性を向上させるために、これまで以上に働き方の柔軟性を増す制度を導入した。1日の標準勤務時間のうち最低でも2分の1以上は働かないといけなかったという設定をなくし、半日休暇を取得した場合でも残り半日にフレックスタイム制を利用できるようにした。 勤務時間中に病院や銀行に行くなどのプライベートな用事のために、勤務を短時間中断する働き方(中抜け勤務)も、上司の了解を得れば可能になった。在宅勤務に限らず、一定要件を満たせば、自宅以外でも勤務できるテレワーク制度も取り入れた。 ただこれは、従業員には使い勝手のよい制度だが、労働時間を管理する立場からいうと逆に難しい面を伴うものだ。 そこに武田をグローバル企業として脱皮させる、シャイアー買収という過去にない大型案件が重なった。グローバル本社に集う広報や経理、財務、法務、事業開発などの部門は、イギリスに株式を上場し、事業の本拠を置くシャイアーとの折衝が重なる。関係者が「季節労働」と口をそろえるように、時期ごとに訪れる仕事量の多い山がさらに高くなったうえに、柔軟な働き方導入により、労働管理やコミュニケーションの高度化が要求されるようになった。 5月24日にはグローバルHR日本人事室名の「【至急・緊急】時間管理におけるコンプライアンス順守の再徹底」、6月7日には「時間管理におけるコンプライアンス順守徹底に向けた私たちのコミットメント」と題した文書が日本国内の全従業員に送付された。 ともに法令順守の徹底を訴える内容で、「法令違反に抵触する事案が複数の事業場で再三発生しています。(中略)きわめて深刻な状況です」などと危機感をあらわにしている。 とくに後者は、国内部署のトップ18人が宣誓・署名する形をとっている。CFO(最高財務責任者)のコスタ・サルウコス、日本ビジネス部門トップの岩﨑真人の各氏ら、武田の最高執行機関であるタケダ・エグゼクティブチーム(TET)メンバー数名を含む上位管理職が名を連ねている』、こんな文書は「出した」というだけで、時間管理をどのように推進していくのかという具体策がないままでは、意味のない単なる精神論だ。
・『主要部門トップの連名で危機感を共有?  国内主要部門のトップが連名で従業員に法令順守などを訴えるのは武田では初めてのこと。危機感の醸成と共有が狙いだろうが、内部告発は「これはあくまでも労働基準監督署に向けたポーズであり、(中略)労基法違反について真剣に受け止めている、と見せかけるために送信されたメールである」と手厳しく批判している。 そして、最大の疑問はトップのクリストフ・ウェバー社長のこの件への肉声が武田の社内外に伝わってこないことだ。一連の問題について、トップがどのように考え、どのように解決していくかを聞きたいところだが、今のところウェバー氏は音なしの構えだ。 6月27日の株主総会では、議決権行使助言機関のISSが、ROE(自己資本比率)が低いことを理由にウエバー社長の取締役選任への反対推奨を突きつけている。 武田OB株主や創業家の一部からなる有志団体「武田薬品の将来を考える会」も、昨年のシャイアー合併反対に続き、今年の株主総会でも損失発生時に経営陣に役員報酬の返還などを請求できる「クローバック条項の定款への採用」「全取締役の個別報酬も開示」を株主提案している。 株主総会でウェバー社長はどんな説明をするのだろうか』、「一連の問題について、トップがどのように考え、どのように解決していくか」、といった純粋な国内労務問題については、ウェバー社長が関心を持つとは思えない。株主提案は否決されて終わりだろう。 
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LIXIL問題(その2)(LIXIL 潮田氏 vs 瀬戸氏 確執の源流、LIXIL問題 助言会社と海外投資家 かみ合わぬ争点) [企業経営]

LIXIL問題については、4月22日に取上げた。今月25日の株主総会を控えた今日は、(その2)(LIXIL 潮田氏 vs 瀬戸氏 確執の源流、LIXIL問題 助言会社と海外投資家 かみ合わぬ争点)である。

先ずは、6月17日付け日経ビジネスオンライン「LIXIL 潮田氏 vs 瀬戸氏 確執の源流」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/special/00133/?P=1
・『LIXILグループの前CEO・瀬戸欣哉氏の「辞めさせ方」を巡って大騒動が巻き起こっている。昨秋、創業家2代目・潮田洋一郎氏が主導して瀬戸氏を解任。その経緯が問題視された。両氏の確執の源流はどこにあり、社内で何が起きていたのか。 「LIXILになってから、いいことがない。常にゴタゴタばかりだ」 5月31日、東京湾を望む大型ホテル「グランドニッコー東京 台場」の宴会場は緊張感に包まれた。住設・建材大手LIXILグループの代理店が一堂に会する年次大会。集まったのはトイレなど水回り製品を扱う代理店オーナーだ。 代理店会の会長が約200人の参加者を代表し、コーポレートガバナンス(企業統治)を巡る同社の混乱に不満をぶちまけた。原因は、潮田洋一郎会長兼CEO(最高経営責任者)と、潮田氏が昨秋CEOから解任した瀬戸欣哉氏の対立。怒りの言葉を浴びた山梨広一社長兼COO(最高執行責任者)は、厳しい表情でわびていたという。 その前週の23日、石川県金沢市の「ホテル日航金沢」ではサッシなど建材を扱う代理店の年次大会があった。そこでも微妙な空気が流れていた。 営業方針を説明したのは副社長の大坪一彦氏と、国内建材事業の責任者である吉田聡氏。大坪氏が強調した「シェア拡大」は潮田氏が瀬戸路線を否定するように掲げたものだ。一方、吉田氏が語ったのは利益重視の付加価値路線。瀬戸氏の経営方針の延長にある。 ある関係者は、「古くからのサッシの代理店にとって、吉田さんはある意味、裏切り者でしょう。これまでこの会社には、潮田体制にモノ申す人がほとんどいなかったから」と話す。 LIXILは、サッシなどを手掛ける旧トステムやトイレなどを扱う旧INAXなど住設5社が統合して2011年に誕生した会社が前身だ。旧INAX創業家の伊奈一族が経営への関与を薄める一方、旧トステム創業家2代目の潮田氏は絶大な権力を持ち続けてきた。その潮田氏が16年に“プロ経営者”として招聘したのが瀬戸氏だった。 潮田氏vs瀬戸氏。なぜ、LIXILのトップ人事を巡る対立が、得意先も巻き込んだ大騒動に発展したのか。確執の源流が、瀬戸氏の「辞めさせ方」だ』、代理店の年次大会で、「代理店会の会長が約200人の参加者を代表し、コーポレートガバナンス(企業統治)を巡る同社の混乱に不満をぶちまけた」というのは確かに異常事態だ。
・『突然の「解任」の通告  昨年10月27日、イタリアに滞在中だった瀬戸氏に、一本の電話がかかってきた。「これまで話してきた通り、自分がやりたいので辞めてほしい」 声の主は潮田氏。突然の「解任」の通告に瀬戸氏は「上半期の業績は悪かったが10月から業績は回復している。今辞めるのはあまりにも無責任だ」などと反論した。だが、潮田氏は「指名委員会の総意」だとして、最後は瀬戸氏が押し切られる形になった。 潮田氏が言う「指名委員会の総意」なるものは“作り物”だった。 前日の10月26日に緊急招集された指名委員会。自身もメンバーの一人である潮田氏は、10月19日の会食で「潮田さんがCEOを務めるなら私はいつでも身を引く」という瀬戸氏の発言があったなどと説明。指名委員会は瀬戸氏のCEO解任と潮田氏自身のCEO就任、並びに当時、社外取締役で指名委員会委員長だった米マッキンゼー・アンド・カンパニー出身の山梨広一氏のCOO(最高執行責任者)就任を決めた。 本来なら、瀬戸氏の辞意を指名委員会として確認してしかるべきだが、そうした事実は見られない。潮田氏が瀬戸氏から聞いた「潮田氏がCEOを務めるなら身を引く」という発言が独り歩きし、最終的に10月31日の取締役会で瀬戸氏はCEOを解任されてしまう。 瀬戸氏はこの発言について、「雇われの身である“プロ経営者”としての信条」として周囲に語っていた事実は認める。だが、中期経営計画をスタートしてから半年しかたっておらず、業績を根拠にした議論も、瀬戸氏本人への辞意の確認も徹底されないまま、指名委員会は瀬戸氏解任を決めてしまった。その経緯がガバナンスの観点で極めて問題だと確信するにつれて、瀬戸氏は疑念と反発を強めていく。 その頃、機関投資家たちも動き出していた。12月、会社側は機関投資家向けの説明会を開催したが、納得しない海外の機関投資家が相次いで説明責任を果たすように要求。2019年1月には世界最大級の投資家である米ブラックロックが、突然のトップ交代や、指名委員でもあった潮田氏、山梨氏がそれぞれCEO、COOに就任したことの利益相反の可能性などについて説明を求める書簡を送り付けた。 LIXILの実質的な最大株主からの突き上げに、会社側に緊張が走った。さらに追い打ちをかけたのが、英マラソン・アセット・マネジメントら英米機関投資家4社の投資家連合の動きだ。 3月20日、英マラソンらは潮田氏、山梨氏の取締役からの解任を議案とする臨時株主総会の招集請求を会社側に送付。共同提案者には、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)から年金資産の運用を受託している米タイヨウ・パシフィック・パートナーズの名前もあった。普段は表に出て会社と対決することがない穏健な長期投資家たちからも「ノー」を突き付けられた。 瀬戸氏が退任してからLIXILの株価は年末までに2割以上下落し、ガバナンスを巡る問題が企業価値を大きく毀損したことを問題視した。「この状態を放置しては資金の出し手に説明がつかない」(マラソンの高野雅永氏)との危機感が、彼らを突き動かした。 ただ、請求するにもLIXIL株の3%以上の所有が必要だ。機関投資家4社が集まっても、足りない。どうするか。 マラソンの高野氏は愛知県常滑市に足を運んだ。旧トステムと並ぶもう一つの前身企業、旧INAXの創業の地である。面談の相手はLIXILの現任取締役で、旧INAX創業家の伊奈啓一郎氏。投資家連合が当てにしたのは、伊奈一族と伊奈家が株式を寄贈した常滑市が保有するLIXIL株だった。 伊奈氏は、同じく旧INAX出身で元社長の川本隆一氏と共に、瀬戸氏解任を決めた取締役会では反対票を投じていた。その後も、今回の瀬戸氏解任の経緯について異議を唱えてきたが、「常に多数決で負けてきた」という思いがある。投資家連合からの誘いに乗った』、緊急の指名委員会が潮田氏の一方的な説明だけで、海外出張中の「瀬戸氏の辞意」を確認せずに、その場で解任したというのは、余りに不自然で、潮田氏の言いなりだ。「瀬戸氏が退任してからLIXILの株価は年末までに2割以上下落し、ガバナンスを巡る問題が企業価値を大きく毀損した」とあっては、機関投資家4社が「旧INAX創業家の伊奈啓一郎氏」を巻き込んで、「潮田氏、山梨氏の取締役からの解任を議案とする臨時株主総会の招集請求」したのは、当然だろう。
・『会社側が解任請求を「無効化」  臨時総会を突き付けられた会社側は対応を迫られる。総会の会場は5月下旬に押さえた。だがこのまま臨時総会を開くわけにはいかない。投資家対策のアドバイザーを中心に票読みを進めると、投資家連合に分があったからだ。 4月18日、会社側は潮田氏が5月20日に取締役を辞任することを発表した。自ら辞することで、臨時総会で解任されることを回避した──。投資家連合や瀬戸氏らにはそう見えた。 その頃、「潮田さんは辞める理由を探していた」とあるLIXIL幹部が明かす。潮田氏からすれば、理由もなく辞めてはガバナンス不全を自ら認めることになる。それだけは避けたかったはずだ。 LIXILは潮田氏の辞任を発表したのと同じ日、業績の大幅下方修正を発表した。11年に買収したイタリアの建材子会社ペルマスティリーザの巨額損失が原因で、19年3月期、LIXILは522億円の最終赤字に沈んだ。 「私の記憶の限り最大の赤字。一義的な責任はCEOだった瀬戸さんにある。ただ、任命したのは当時、指名委員会のメンバーで取締役会議長だった私。瀬戸さんを招いたのは取締役を続けてきた38年間で最大の失敗だった」 潮田氏は自らの辞任の理由を任命責任だと説明した。潮田氏だけでなく、山梨氏も6月の定時株主総会で取締役を退任すると表明。臨時総会を開催する意義を失った投資家連合は5月9日、招集請求を取り下げるしかなかった。 株主からの解任請求をかわした潮田氏と山梨氏。だが、社内にも瀬戸氏解任に対する不満がくすぶっていた。 4月下旬。2カ月後の定時株主総会に諮る取締役候補を決める指名委員会宛に意見書が届いた。瀬戸氏解任後の潮田・山梨体制を痛烈に批判する内容だ。 「潮田さんのビジョンは(中略)全てのステークホルダーにとっても有害」「山梨さんは常に潮田さんの考えに沿って仕事を執行」「山梨さんと仕事をする時に感じることは、決断をしてくれない、立場を常に変える、不誠実で不透明な経営姿勢」「山梨さんもしくは潮田さんの影響を受けた人間が経営することになれば、LIXIL Groupは遠からず経営不全で立ち行かなくなります」 意見書を出したのは、上級執行役ら14人で構成される「ビジネスボード」のメンバーのうち10人。現場を取り仕切る幹部の多くが、潮田・山梨体制に不満を鬱積させていた。それは瀬戸氏が4月5日に定時総会向けに株主提案した、瀬戸氏自身を含む8人の次期取締役候補を暗に支持する内容ともいえた』、臨時総会の「票読みを進めると、投資家連合に分があった」ので、潮田氏と山梨氏が辞任で「解任請求をかわした」だけでなく、イタリアの建材子会社の巨額損失で522億円の最終赤字と業績下方修正し、潮田氏は自らの辞任の理由を任命責任だと説明するとは、本当に巧みだ。「上級執行役ら14人で構成される「ビジネスボード」のメンバーのうち10人」が「潮田・山梨体制を痛烈に批判する」意見書を出したというのは、通常の組織ではあり得ないような勇気ある行動だ。負ければクビになることを覚悟の上なのだろう。
・『会社側「けんか両成敗」を主張  この時の指名委員会の委員長は英経営者協会会長などを歴任した社外取締役のバーバラ・ジャッジ氏。瀬戸氏解任を決めた当時の指名委員の一人だが、瀬戸氏を支持する上級執行役や機関投資家らは瀬戸氏の株主提案を取り入れるのではといちるの望みをかけていた。ジャッジ氏自身、「定時総会後も取締役として残る意欲が満々だった」と複数の関係者は証言する。 だが、5月13日、会社側が発表した取締役候補の中にジャッジ氏の名前はなかった。ジャッジ氏は記者会見に出席する予定だったが、代わりに現れた取締役の菊地義信氏は、「委員長はジャッジだが、日本語での微妙なニュアンスもあるので私から」と説明した。 菊地氏は潮田氏と山梨氏がCEOとCOOに就き、指名委員から外れたのを機に、委員会のメンバーに入った一人。旧トステム創業者の潮田健次郎氏の時代から潮田氏を支えてきた人物だ。 前日の指名委員会では激論が交わされたようだ。ジャッジ氏と菊地氏が候補者案で対立したとの見方もある。主導権争いに敗れたのか、関係者によるとジャッジ氏は指名委員会名での発表文書について、「これは私ではなく菊地氏が作った」と発言していたという。 候補者リストからはジャッジ氏のみならず、全ての現任取締役が外れていた。菊地氏は「取締役を一新することが経営の健全化につながる」と強調したが、あるLIXIL幹部は「指名委員会の議論はどこかで『けんか両成敗』の考えが優勢になったのだろう」と推測する。 こちらは現任取締役を外した。そちらも現任取締役は外れるべきだ──。瀬戸氏自身のほか伊奈氏、川本氏の現任取締役が候補に名を連ねる瀬戸氏側の提案を強烈にけん制した形だ。 もっとも、会社側の取締役候補選びには急ごしらえ感が否めない。 発表された候補は8人。その中に、瀬戸氏側候補である前最高裁判所判事の鬼丸かおる氏と、元あずさ監査法人副理事長の鈴木輝夫氏の名前があった。8人一括の選任を目指す瀬戸氏らは、これを「分断工作」と捉えた。 実は発表前日の夜、瀬戸氏に会社側から、鬼丸氏と鈴木氏を候補にするから伝えてほしいというメールが届いている。「事前に承諾もなく連絡先も知らないとはあまりにも不誠実」。鬼丸氏と鈴木氏は猛抗議するも会社側は無視、最終的に「会社提案・株主提案」として招集通知に記載してしまう。 さらに、発表後にコニカミノルタ取締役会議長の松崎正年氏、元米国務省のカート・キャンベル氏をバラバラと候補に追加している。「分断工作」の次は「多数派工作」か。会社側の取締役選定の経緯について、ジャッジ氏は「今期で取締役を退任するので取材には応じられない」と口を閉ざす』、「指名委員会の委員長は英経営者協会会長などを歴任した社外取締役のバーバラ・ジャッジ氏」とは権威付けのための大物だが、「激論が交わされた」とはいえ、結局は丸め込まれてしまったようだ。「「今期で取締役を退任するので取材には応じられない」と口を閉ざす」のはやむを得ないだろう。
・『「会長案件だ。文句あるか」  機関投資家や上級執行役はなぜ潮田氏への反発を強めるのか。それは、潮田氏がLIXIL株の約3%しか保有していないのに、会社のオーナーであるかのごとく振る舞い、合理的な経営判断を妨げてきたとみているからだ。 その象徴が、潮田氏が検討していたMBO(経営陣が参加する買収)とシンガポールへの本社移転だ。西村あさひ法律事務所が作成した瀬戸氏解任の経緯に関する調査報告書には、開示文書ではカットされた部分に、この案を巡り両氏が対立した様子が記されている。 潮田氏によるシンガポールへの本社移転構想は、社内の幹部や金融機関のM&A(合併・買収)担当者らにとっては、半ば公然の秘密だった。日本の将来に懐疑的な潮田氏はシンガポールに移住しており、本社移転を「潮田氏の相続税対策ではないか」と周囲は見ていた。売上高の約7割を国内に依存する同社にとって、移転構想は合理性に乏しく国内の取引先などの反発も必至だ。 それでも潮田氏は本気だったようだ。昨年8月、他の取締役メンバーとともにシンガポール証券取引所などを訪問している。関係者の一人は、「取締役とCEOから退いても、潮田さんは諦めないだろう。シンガポール系や中国系なども含め、買収資金を出そうというファンドはいくらでもいる」と話す。 潮田氏が自ら辞任する理由として挙げた業績悪化の主因、ペルマをはじめとする多くのM&Aも、潮田氏が主導したものだ。ある関係者は「砂糖に群がるアリのごとく内外の投資銀行が手数料目当てで潮田会長に様々な案件を持ち込んでいた。投資を正当化する資料作りに憤慨する社員もいたが、やがて罪悪感は薄れ、『これは会長案件だ。文句あるのか』『俺の仕事は買収することだ。止められるなら止めてみろ』とまで言う者もいた」という。 「とにかく買うことが目的となり、買収後にバッドニュースが出ても積極的に社内で共有されることはなく、現地の放漫経営を許してきた」(LIXIL幹部)。ペルマの巨額損失はその結果だ。 瀬戸氏はこうした状況に社長就任当初から警鐘を鳴らし、16年5月ごろからペルマ売却について取締役会メンバーに非公式に打診し始めている。だが、潮田氏と旧トステム出身の取締役は瀬戸氏の提案に反発。最終的には社外取締役が売却プロセスの開始に理解を示し、中国企業への売却という形で瀬戸氏の考えは実行されることになった。 瀬戸氏の不運は18年10月中旬、米当局がペルマの中国企業への売却を承認しなかったことだ。瀬戸氏解任が10月31日。11月27日にペルマの売却断念が発表された。そもそも潮田氏はペルマを中核事業として育てたいという考えを当初から示しており、辞任会見でも「宝石を石ころにした」と瀬戸氏を批判し、その執着ぶりを露呈している』、事業のベースは日本にあるのに、「潮田氏の相続税対策」で本社のシンガポール移転のためのMBOを検討するとは、公私混同も極まれりだ。瀬戸氏がペルマ売却に向け動いたというのは、最終的に米当局による売却の不承認とはなったが、正しい方向だったのだろう。潮田氏が「宝石を石ころにした」と瀬戸氏を批判したとは、飛んでもない言いがかりだ。
・『形だけのガバナンス先進企業  瀬戸氏は当初、ガバナンスに潮田氏が大きな影響力を及ぼしていることを容認していた節がある。かつて、「創業家かどうかは関係なく、取締役の役割は経営者を交代させること。潮田さんの姿勢は、まさにそれだ」と語っていた。 ただし、それは正しい意思決定のプロセスが機能することが前提だった。LIXILは、社外取締役が半数以上を占める指名委員会が、取締役候補やCEOの後継計画を決める「指名委員会等設置会社」である。経営の「監督」と「執行」が明確に分かれ、株式会社の形態の中で最もガバナンスが利く体制とされる。だが、LIXILの実態は違った。 旧トステム出身のある幹部は、「(創業者の潮田)健次郎さんの思いを忠実に、早く実行する社員が評価されてきた。洋一郎さんは健次郎さんほど事業へのこだわりはないが、その社風は今も残り続けている」と打ち明ける。 会社側と瀬戸氏側の取締役候補はともに、「潮田氏の影響力を排除する」と強調している。会社側は社外取締役から暫定CEOを選ぶと表明し、瀬戸氏は自らのCEO復帰に意欲を示す。 6月4日、瀬戸氏ら株主提案者は東京地方裁判所に6月25日の定時総会の決議などをチェックする総会検査役の選任を申し立てた。定時総会は事実上の「政権選択の場」。LIXILの今後のガバナンスの行方を決定づけるものになる』、定時総会の行方は大いに注目される。
・『制約条件作る「忖度」を排除する:前CEO 瀬戸 欣哉氏  なぜ私が今回、個人としてここまで会社と戦っているのか。それはこれまで、LIXILグループで働く皆さんに、「Do The Right Thing(正しいことをしよう)」と言ってきたのに、今回の問題を見過ごしたら、言ってきたことがウソになるからだ。 経営は、全ての選択肢の中から一番いいものを選んで初めて、それなりの結果が出る。日本的な忖度の問題は、選択肢を限定する制約条件を作ってしまうことだ。特に、経営の一線から離れた昔の実力者が権力を握っている場合は、今の現場を知らないから良い結果を出せる蓋然性が少ない。 失敗しても自分で立て直せるのならいいが、取り巻きの人間が忖度して「うまくいっています」と報告する状況では、軌道修正が遅れる。実際、ペルマスティリーザの場合もそうだった。 会社側の取締役候補は全員新任で、その中の社外取締役から暫定CEOを選ぶという。兼職が多い方もいて、本気でLIXILの経営に時間を割けるのだろうか。大事な会社を実験台にされてはたまらない』、もっともな主張だ。
・『指名委員会、運用間違えば暴走:コニカミノルタ取締役会議長 松崎 正年氏  LIXILグループが採用している「指名委員会等設置会社」という体制は、どんな力のある人でも社外取締役にチェックされるというメリットがある。ただし、どんな人を社外取締役に選ぶかが重要で、数をそろえたり、多様性に配慮したりするだけでは機能しない。逆に、運用を間違えれば、権限が大きいだけに指名委員会は暴走する。それが最大のデメリットで、今回の件(瀬戸氏解任の経緯)はそれを示している。 会社にとって一番大切なことは、持続的な成長をすることだ。そのためにはトップがチェックされる仕組みが欠かせない。人によっては軌道を外す場合があり、そんな時に「殿、ちょっとお待ちください」と止めるのが社外取締役の役割だ。今回のLIXILのように創業家が影響力を発揮しようとしても、ちゃんとした社外取締役がいればここまでの騒動にならなかったはずである。 社外取締役は、常に「職業的懐疑心」を持たなければならない。LIXILの場合、創業家の影響は明らかに注意が必要で、それを排除するのが私の役目だ』、指名委員会がまともに運営されるか否かを注視していきたい。

次に、6月14日付け日経ビジネスオンライン「LIXIL問題、助言会社と海外投資家、かみ合わぬ争点」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00030/061400023/?P=1
・『議決権行使助言会社大手の米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)と米グラスルイスの2社が、ガバナンス問題で混乱が続いているLIXILグループの定時株主総会における議決権行使の推奨を投資家向けに示した。取締役選任議案について、いずれも、昨秋CEO(最高経営責任者)から解任され、会社側と対立する瀬戸欣哉氏に対して厳しい内容になっている。瀬戸氏らは自らを含む8人の取締役候補を株主提案しているが、ISSとグラスルイスは瀬戸氏自身の取締役再任に「反対」を推奨した。 一方、瀬戸氏を支持する海外機関投資家からは、助言会社とは逆に会社提案の取締役候補に「反対」を表明する声が相次いでいる。会社側に反対を表明しているのは、潮田洋一郎会長兼CEOと山梨広一社長兼COO(最高執行責任者)の取締役解任を目指して臨時株主総会の招集請求をした英ポーラー・キャピタル・ホールディングスと英マラソン・アセット・マネジメントのほか、オーストラリアのプラチナム・アセット・マネジメント。アクティビスト(物言う株主)ではない長期投資家が株主総会前に議決権行使の立場を表明することは極めて異例だ。 助言会社と瀬戸氏支持を表明した機関投資家の論点は食い違いがあり、6月25日に迫る定時株主総会を前に混迷度合いを深めている。 定時総会には、瀬戸氏が自身を含む取締役候補8人を株主提案した。このうち、鬼丸かおる氏、鈴木輝夫氏の2人は会社側の候補者にもなっている。これにより、会社側の独自候補8人(第1号議案)、会社側と瀬戸氏側の共通候補2人(第2号議案)、瀬戸氏側の独自候補6人(第3号議案)が、株主からの信任を競い合う構図になっている。 ISSは、候補者一人ひとりについて「賛成」「反対」を判断。会社側6人、共通候補2人、瀬戸氏側2人に賛成を推奨し、瀬戸氏について反対を推奨した。共通候補の鬼丸氏、鈴木氏は会社側の候補になることを承諾しておらず、実質的に会社側6人に対し、瀬戸氏側4人となり、仮にこのメンバーで取締役会が構成されると、会社側が過半数を握ることになる。 ISSは、社外取締役候補についてはLIXILと取引がある金融機関の出身者や関係者に反対を推奨したほか、CEOなど経営の経験を重視。企業経営の経験者が多い会社側が有利となった。瀬戸氏側がLIXILと2015年から多額のコンサルティング契約があったとして独立性の問題点を指摘した米国務省出身のカート・キャンベル氏については、「唯一の外国人で企業の経営の知見を生かせる」として賛成を推奨した』、海外機関投資家は瀬戸氏側支持しているのに、彼らにアドバイスする「議決権行使助言会社大手」2社が概ね会社側支持と、見方が大きく食い違ったのは珍しい。
・『ISS:瀬戸氏、取締役はノーだがCEOはあり 他方、社内取締役候補については、瀬戸氏のほか、LIXILの前身会社の1つである旧INAX出身で現取締役の川本隆一氏、旧トステム出身で国内の建材事業責任者の吉田聡氏の3人に反対を推奨した。川本氏、吉田氏を反対したのは、取締役にならなくても知見は生かせるというのがその理由だ。 瀬戸氏については、「解任プロセスには明らかに不備があった」と認めつつ、「株価の下落は瀬戸氏が辞任したことに対する市場のネガティブな反応」などと瀬戸氏の経営手腕に一定の評価をしている。ところが、「瀬戸氏の能力が解任の正当な理由であるという見解を完全に排除することはできない」として、最終的には反対を推奨した。ただ、新たな取締役会がもう一度、瀬戸氏の能力が解任の理由として正当だったかを精査し、正当でなかったならば再びCEOに任命することも検討に値するという見方も示している。 ISSは、取締役会の構成としては、社外取締役8人、社内取締役2人が適当だとした。社内取締役は、会社側からは唯一の社内候補であるLIXILグループ副社長で中核子会社LIXIL社長兼COOの大坪一彦氏、瀬戸氏側からは現任取締役でLIXILの前身会社の1社である旧INAX創業家の伊奈啓一郎氏を推薦した』、「瀬戸氏」への姿勢は分かり難い。
・『グラスルイス:社外取締役は多いほどいい  もう1つの助言会社であるグラスルイスは、基本的に会社側の提案に賛成、瀬戸氏側の提案に反対、という判断を示した。その根拠は、瀬戸氏側の株主提案は当初、機関投資家連合による潮田氏と山梨氏の解任請求を補完することが目的で、潮田氏が既に取締役から辞任し、山梨氏も定時総会をもって退任することになった今、その役割を終えているというものだ。 また、会社提案を支持する基本的な背景として、「社外取締役の構成比率は高い方が良い」とするグラスルイスの考えがある。レポートにも、「圧倒的多数を社外取締役が占める取締役会の構成は、先進国でベストプラクティスとして広く受け入れられており、日本政府のコーポレートガバナンス改革の方向性とも合致している」と記述。9割を社外取締役が占める会社提案を「日本では比較的先進的で、長期的に株主に有益」と評価した。 他方、瀬戸氏については、業績や株価を分析したうえで、「瀬戸氏を含む現在のリーダーシップチームには、利益目標の未達や株主価値を損ねた責任がある」とした。さらに、会社側の候補者が経営の監督を強調している中、瀬戸氏側の候補者には現任の社内取締役が複数含まれていることから、従来の固定観念に基づいて経営するのではないかとの懸念を示した。 ISSもグラスルイスも、助言会社として信じる「良いガバナンス」としての基準を重視して判断している。社外取締役候補者の独立性を精査して一人ひとり判断したり、社外取締役の比率を重視したりしているのは、その表れだろう。会社側はISSの判断について、「大勢としては当社取締役会及び指名委員会の考え方が支持された」とコメントを発表している。 会社側関係者によると、ISSとグラスルイスが会社側に有利な判断を示したことで、安堵感が漂っているという。また、ある国内機関投資家は「ISSとグラスルイスの判断を見て安心した。これで会社提案に賛成してもたたかれないですむ」と話す。 だが、こうした助言会社の姿勢に、瀬戸氏は次のような疑問を呈する。 「ISSは、CEOとしての私の能力を分析して一定の評価をしているように読めるのに、結論では取締役に推奨しないとなっている。判断を避けているという印象を受ける」「グラスルイスについては、会社提案は独立性が高いと言いながら、会社側の現任の社内取締役が助言役として残ることを示唆している。それこそ、私たちが懸念している潮田氏や山梨氏の影響力が残る事態だ」「会社側は暫定CEOを選ぶとしているが、それは問題の先送り。表面的なガバナンスの形にこだわり、経営の実効性に配慮してもらえなかったのは残念」』、「ある国内機関投資家は「ISSとグラスルイスの判断を見て安心した。これで会社提案に賛成してもたたかれないですむ」と話す」、やはり国内機関投資家にとっては、「会社提案に賛成」するいい口実を与えたようだ。
・『海外投資家、瀬戸氏側支持を表明  こうした助言会社の判断は、LIXILのガバナンス不全を問題視してきた海外機関投資家の論点ともかみ合っていない。 会社側候補(第1号議案)に反対をした、LIXILの約4.42%の議決権を保有するプラチナムのポートフォリオ・マネジャーのクレイ・スモリンスキー氏は、次のように判断基準を説明する。 「会社側の候補者は、瀬戸氏解任に賛成した取締役たちに選ばれており、公平性に疑問がある。瀬戸氏解任のプロセスに問題があったことは、外部の弁護士に依頼した調査・検証結果の報告書でも明らかになっているのに、会社側の候補者を選んだ取締役たちは何も行動を起こさなかった」「会社側の候補者は、潮田氏、山梨氏が取締役に残っているとき、しかも、それぞれCEO(最高経営責任者)、COO(最高執行責任者)であるときに選ばれている。選定過程で、両氏の影響力があった可能性を否定できない」「会社側に瀬戸氏解任の経緯を詳細に説明するように求める書簡を送ったのに返事がなかった。投資家とのコミュニケーションを軽視している」「株主提案の方が経営方針が具体的。瀬戸氏は工具のネット販売MonotaRO(モノタロウ)の創業経験やLIXILの事業に対する深い理解があり、事業計画もしっかりしている」「会社側は暫定CEOの下でCEOを選ぶと言っているが、『選ぶ』ということを表明しただけで具体性に欠ける。会社側は潮田氏の影響力を排除すると言うが、であればなぜ、瀬戸氏に任せようとせず、瀬戸氏らの株主提案を排除するのか。『喧嘩両成敗』という発想も的外れだ。瀬戸氏側はガバナンスにおける不適切な行動を見過ごすまいと、正しい行動を起こした」「上級執行役ら『ビジネスボード』のメンバー14人中10人が、瀬戸氏と業務の執行を続けたいと連名で訴えた書簡は極めて重く、彼らの意見を重視した」 臨時総会を請求したマラソンは6月14日、声明を発表。その中で「(臨時総会の請求を取り下げた)後の会社側の対応や言動は株主の不信感を増幅するものでした。(中略)むしろ会社側からは株主に対して敵対的な言動が繰り返されました」「今回の会社提案(第1号議案)の取締役候補は、(中略)マラソンを含めて指名委員と面談した株主が望んだものとはほど遠い」「前CEOの瀬戸氏による経営が市場の評価を得ていたことは、突然のCEO交代後の株価下落を見ても明らか」と、怒りをあらわにしている。ポーラー・キャピタルも、同様の声明を11日に発表している』、「海外投資家、瀬戸氏側支持」の声明は、もっともだ。
・『両陣営で取締役会を構成したら混乱は長期化  助言会社が、自ら信じる「ガバナンスの形式」から会社側と瀬戸氏側の候補者の賛否を判断しているのに対し、これらの機関投資家は、会社側の次期取締役候補の選定プロセスや瀬戸氏側候補に対する敵対的な姿勢なども含め、株主に対する不誠実な対応を問題視している。 会社側が瀬戸氏側の候補者を排除しようと対決姿勢を示している以上、両陣営からの候補者がが取締役会を一緒に構成したら混乱を招くのは必至だ。関係者の中には、瀬戸氏側が負けたら、瀬戸氏を支持してきた機関投資家が株を売却して株価がさらに下がり、アクティビストにつけ入られるのではないかと懸念する声も聞かれる。 助言会社の判断が出たことで、多くの機関投資家会社が会社側か、瀬戸氏側か、どちらを支持するのか最終判断をするとみられる。株主総会は6月25日。いよいよ、大詰めを迎える』、「議決権行使助言会社大手」が概ね会社側を支持し、国内の機関投資家などに影響を及ぼすとみられるだけに、瀬戸氏側は苦戦する可能性もある。どういう結果になるかはともかく、注目点ではある。
タグ:日経ビジネスオンライン LIXIL問題 (その2)(LIXIL 潮田氏 vs 瀬戸氏 確執の源流、LIXIL問題 助言会社と海外投資家 かみ合わぬ争点) 「LIXIL 潮田氏 vs 瀬戸氏 確執の源流」 前CEO・瀬戸欣哉氏の「辞めさせ方」を巡って大騒動 建材を扱う代理店の年次大会 代理店が一堂に会する年次大会 同社の混乱に不満をぶちまけた 突然の「解任」の通告 本来なら、瀬戸氏の辞意を指名委員会として確認してしかるべきだが、そうした事実は見られない 瀬戸氏が退任してからLIXILの株価は年末までに2割以上下落 伊奈氏は、同じく旧INAX出身で元社長の川本隆一氏と共に、瀬戸氏解任を決めた取締役会では反対票を投じていた。その後も、今回の瀬戸氏解任の経緯について異議を唱えてきたが、「常に多数決で負けてきた」という思いがある。投資家連合からの誘いに乗った 会社側が解任請求を「無効化」 会社側「けんか両成敗」を主張 指名委員会の委員長は英経営者協会会長などを歴任した社外取締役のバーバラ・ジャッジ氏 指名委員会では激論が交わされたようだ 「会長案件だ。文句あるか」 潮田氏が検討していたMBO シンガポールへの本社移転 「潮田氏の相続税対策ではないか」と周囲は見ていた 売上高の約7割を国内に依存 移転構想は合理性に乏しく国内の取引先などの反発も必至 買うことが目的となり、買収後にバッドニュースが出ても積極的に社内で共有されることはなく、現地の放漫経営を許してきた ペルマの巨額損失はその結果だ 瀬戸氏の不運は18年10月中旬、米当局がペルマの中国企業への売却を承認しなかったことだ 「宝石を石ころにした」と瀬戸氏を批判 形だけのガバナンス先進企業 制約条件作る「忖度」を排除する:前CEO 瀬戸 欣哉氏 指名委員会、運用間違えば暴走:コニカミノルタ取締役会議長 松崎 正年氏 「LIXIL問題、助言会社と海外投資家、かみ合わぬ争点」 議決権行使助言会社大手 会社側と対立する瀬戸欣哉氏に対して厳しい内容 ISS:瀬戸氏、取締役はノーだがCEOはあり グラスルイス:社外取締役は多いほどいい 海外投資家、瀬戸氏側支持を表明 両陣営で取締役会を構成したら混乱は長期化
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M&A(コクヨVSぺんてる)(コクヨが突如ぺんてる筆頭株主に 文具業界で勃発した経営権問題、ぺんてる株取得は「御法度」と異論噴出 関与する政投銀の姿勢にも疑問) [企業経営]

昨日に続いてM&A(コクヨVSぺんてる)(コクヨが突如ぺんてる筆頭株主に 文具業界で勃発した経営権問題、ぺんてる株取得は「御法度」と異論噴出 関与する政投銀の姿勢にも疑問)を取上げよう。

先ずは、5月28日付けダイヤモンド・オンライン「コクヨが突如ぺんてる筆頭株主に、文具業界で勃発した経営権問題」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/203810
・『親子喧嘩をきっかけに経営不振に陥った大塚家具や、筆頭株主・伊藤忠商事と対立し、創業家社長が退任に追い込まれたデサント――。このところ続いている経営権を巡るゴタゴタが、消費者になじみ深い文具業界でも勃発した。コクヨと、同社が間接出資した未公開企業ぺんてるとの間で、すれ違いが起きている。 今回の騒動の発端は、2012年5月のぺんてる創業家・堀江圭馬氏の社長解任劇までさかのぼる。当時42歳の堀江氏は取締役会で62歳を過ぎた役員4人の退任を求めたのだが、逆に業績不振を理由として堀江氏の緊急解任動議が可決されてしまったのだ。 返り討ちにあった理由を関係者は「会議への遅刻や無断欠席、海外で豪遊を繰り返すなど過去10年の放漫経営のせい。自業自得だった」と振り返る。 創業家である堀江氏とその家族は同社株を37.45%も保有していた。その後トップへの復帰を目指し大株主として何年も活動を続けたが、支持が得られず果たせなかった。創業者の別の一族も十数%を持っていたが、堀江氏はそれすらまとめることができなかったのだ。 返り咲きをあきらめた堀江氏が18年初頭に売却を持ちかけたのが、未公開株を中心に投資を行うマーキュリアインベストメントだ。日本政策投資銀行が出資する東証1部上場の投資会社で、傘下のファンドがぺんてる株約37%を取得した。金額は70億円弱とみられる』、「創業家・堀江圭馬氏の社長解任劇」は、「過去10年の放漫経営のせい」ということであれば、無理からぬところもあるようだ。それを7年の雌伏を経て、ファンドの力を借りるとは恐れ入った。
・『全く寝耳に水の話  ただし、この株式には譲渡制限が付いていた。マーキュリアが売却する際は、ぺんてる取締役会の承認を得る必要があるのだ。 今回のコクヨのぺんてるへの間接出資が騒動となっているのは、このことを押さえなければ理解できない。 10日午後4時、コクヨは、ぺんてるに間接出資したと発表した。ぺんてるの事実上の筆頭株主となったコクヨは「両社の企業価値向上に向け具体的な取り組みを進めていきたい」と意欲を示す。 だが、ぺんてる側は「今後については一切未確定。創業来の独立性を堅持する方針にいささかの変更もない」(13日のリリース)とすげない態度だ。 というのも、ぺんてる側にしてみれば「まったく寝耳に水の話で事前に知らされていなかった。当社が社外取締役も受け入れているマーキュリアから通告があったのは、情報開示のわずか1時間前。コクヨからは午後4時だった」(ぺんてる関係者)という事情があるからだ。 コクヨによるぺんてる株式取得のスキームは少し複雑だ。先ほどから「間接出資」と表現しているのはそのためだ。 今回、コクヨは直接株式を引き受けていない。株式を保有するのは、マーキュリアが運営する投資ファンドで、そのファンドの有限責任持ち分全てを101億円で取得したのだ。つまり、ファンドをかますことで間接的に保有している』、ぺんてる株には「譲渡制限が付いていた」のに、コクヨが「ファンドをかますことで間接的に保有」したという裏技には、釈然としなものが残る。
・『本当は同業のプラスに持ってほしかった  先ほど、この創業家のいわく付きの株式は譲渡制限があると述べた。しかし、この奇策を用いることで、マーキュリアは直接ぺんてる株を譲渡したわけではなく、法的には問題ないという。 ただ、金融業界では「実質的には譲渡制限の潜脱に当たる恐れがある」(大手証券)とか、「今回のような形で出資先に無断で売却するのは、信義則上、未公開株に投資するファンドが絶対やってはいけないこと。これからの投資に影響が出てもおかしくない」(ファンド関係者)といった声も出ている。 こうした批判に対し、マーキュリアの小山潔人・取締役CIO(兼ぺんてる社外取締役)は 「ぺんてるの経営陣から別の事業会社に株式を売ってほしいとの希望があったが、なぜその事業会社が良いのか合理的な説明が一切なかった。当社としては、ぺんてるの事業を改善することが一番大切だと考え、コクヨがぺんてるの企業価値を上げ、ともにグローバルマーケットで戦っていけるベストパートナーであるとの判断のもと、今回の取引を行った」と説明する。 マーキュリアは別の事業会社を明かさなかったが、本編集部の取材で「ぺんてるが本当は株式を持ってほしかったのは同業大手のプラス」(文具業界幹部)であることが判明した。 ぺんてるは「堀江氏に近いマーキュリアに対し警戒感を持っており、マーキュリアと距離のあるプラスに接近しようとしていた」(業界関係者)というのだ。実際、最近も堀江氏はマーキュリアに出入りしているという情報を業界関係者はつかんでいる』、マーキュリアの小山潔人・取締役CIOが、ぺんてる社外取締役を兼務していたのも驚きだ。社外取締役になったのは、創業家の持株がマーキュリアに移ったためと推察されるが、ぺんてる経営陣は、こんな「獅子身中の虫」を抱えることによく同意したものだ。
・『焦点は和田社長の判断  せっかく経営力がないとされる創業家の前社長を追い出して、その株式には譲渡制限も付いているのに、株は自ら関知しない間に望まぬ相手に実質的にわたり、さらには前社長の影までちらつく――。ぺんてる側の不満は膨らんでいる。 実は、5月17日にコクヨの黒田英邦社長とぺんてるの和田優社長のトップ会談がセッティングされていたが、ぺんてる側がキャンセルしている。「情報が外部に漏れていることが分かり、会談の実施でコクヨとの協業が既成事実化するのを恐れた」(関係者)のが原因とみられる。コクヨ側は「話し合いにはもう入っている。まったく話し合いができない状況ではない」(福井正浩執行役員)と主張するが、ぺんてる側は「憶測を呼ぶため、この件は一切ノーコメントだ」としている。 売上高では7倍以上とコクヨの方が大きいが、文具関連の海外比率はコクヨの2割に対し、ぺんてるは6割となっている。コクヨでステーショナリー(文房具)事業本部長を務める福井執行役員は「120以上の国と地域に幅広く展開しているぺんてるは素晴らしい会社。国内の営業基盤では当社も強く、両社が組めば補完関係が発揮できる」とメリットを強調する。 コクヨが望んでいるように業務提携の段階に進めばシナジーは期待できそうだ。だが、株式市場とは縁遠く、資本の論理に振り回されることに慣れていないぺんてるの経営姿勢は固まっていない。和田社長がどう判断するかで、文具業界の構図が大きく動きそうだ』、では、次の主に資本市場からの記事を見てみよう。

次に、5月29日付けダイヤモンド・オンライン「ぺんてる株取得は「御法度」と異論噴出、関与する政投銀の姿勢にも疑問」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/203895
・『筆記具大手のぺんてるの株式を文具最大手コクヨが間接的に取得したことで、ファンド業界が騒然としている。というのも、ファンドを介したその取得方法が“御法度”に近いためだ。しかもそのファンドに、政府系金融機関である政策投資銀行が資金を出していることも波紋を広げている』、「ファンド業界が騒然としている」というのは当然だろう。
・『ぺんてる株の取得方法にファンド業界から異論噴出  「違法ではないかもしれないが、信義に反するし、プロとしてやるべきことではない。ブーイングが出てもおかしくない反則すれすれのプレーで、彼らは業界で二度と仕事ができなくなるのではないか」 外資系大手のプライベートエクイティ(PE)ファンドの幹部は、このように語った上で次のように続ける。 「しかも事が重大なのは、このファンドに政府系金融機関である政策投資銀行(DBJ)の資金が入っていること。政府に近いファンドがやったというのは、大きな問題に発展する可能性もあり、由々しき事態だ」 この幹部がこのように指摘するのは、5月10日に文具最大手のコクヨが、「間接的に」筆記具大手ぺんてるの株式37.45%を取得したことだ。これを受けて、経済紙は「業界再編」との見出しで大きく報じた。 しかしPEファンド業界では、今回のディールは業界再編よりも、法規制の盲点を突いた“寝技行為”なのではないかということの方が話題となっているのだ』、ファンドに「政策投資銀行の資金が入っている」というのも驚きだ。
・『譲渡制限がついていたため投資組合をまるごと売却の荒技  一体、何が問題なのか。そこで、今回のディールを簡単に振り返っておこう。 コクヨは、「当社は2019年5月10日に、株式会社マーキュリアインベストメントが 管理・運営するPI投資事業有限責任組合の有限責任組合員としての持分すべてを取得することを取締役会で決議いたしました」としている。 これに対し売却する側のマーキュリアは、「株式会社マーキュリアインベストメントが管理・運営し、ぺんてる 株式会社へ出資する PI投資事業有限責任組合にコクヨ株式会社が参画(本組合持分の取得をいいます。)することをお知らせ致します」としている(いずれもプレスリリースより)。 つまり、マーキュリアはぺんてる株を保有する「投資組合」を売却、コクヨからすると、「投資組合」そのものを取得することで、同組合が保有するぺんてる株を「間接的」にコントロールすることになったわけだ。 これを受けて5月中旬、コクヨの黒田章裕会長は、関西経済同友会代表幹事を退任するにあたって、今回のぺんてる株の間接保有について、「(息子の)英邦社長がいい買い物をした」と称賛する趣旨の発言をしている。 だが、なぜこのような複雑なスキームを採ったのか。その鍵は、ぺんてるが未上場会社であり、同社の定款に「株式譲渡に関しては、取締役会の承認を得なければならない」と記されていることにある。 つまり、ぺんてる株は「譲渡制限」がついた株式だった。 ぺんてる株は、ファンド(投資組合)が直接保有しているわけではなく、その下にぶら下がるいくつかの“子ファンド”が保有している。しかし、この株は譲渡制限がついており、取締役会の承認がなければ売買できない。 そこでコクヨは、投資組合を“まるごと”買うことでその点をクリア。ぺんてるの取締役会の承認を得ることなく株式を取得し、筆頭株主となれたわけだ。 コクヨ側が「間接的」と言っているのも、冒頭のPEファンド幹部が「反則すれすれの寝技」と言うのも、そうした理由からだ。 これに対しマーキュリア関係者は、「ぺんてるとコクヨとは補完的な関係でシナジーがある。だからマーキュリアとしては今後もこのアライアンスに関わっていくため、売りっぱなしではなくゼネラルパートナーとして残る。ただ、ぺんてる株に譲渡制限がついていたため、仕方がなくこうしたスキームを採らざるを得なかった」と主張する』、こんな脱泡スレスレの行為をファンドがやったということは、せっかく定着しかけてきたPEファンドに対する企業側の警戒心を高めるだけだ。しかも「政策投資銀行の資金が入っている」というのは、何をか言わんやである。
・『中長期的なファンドが変心「高い売却益が目的か」の声も  そもそも、図らずも今回、“主役”の1人になったマーキュリアのようなPEファンドは、わずか数パーセントの株式しか取得していないのに、株主提案という形で増配などを求める「物言う株主」とは異なる。 発行済み株式の過半数を握らないとしても、筆頭株主となって経営を主導、3~5年といった比較的長いスパンで経営改革を断行し、企業価値を向上させて別の株主に譲渡・売却するのが通常だ。 事実、マーキュリアも、2007年にライフネット生命に投資、5年後の12年に上場という形でエグジット(売却)している。食品やサプリメント、化粧品などの製造販売を手掛けるSonokoについても、13年に投資して3年後の16年に売却するなど、中長期的な視野を持ったファンドだと見られていた。 「業界では、DBJ出身者が設立したファンドで、DBJの金も入っているだけに、短期的な収益を追わない中長期的なファンドだという認識だった」(PEファンド関係者) にもかかわらず、今回は大きく違った。 マーキュリアがぺんてる株を取得したのは18年3月22日。それからわずか13ヵ月後の今年5月10日に実質的に売却しており、これまでの投資パターンとは、まったく異なるのは一目瞭然だ。 もちろん、マーキュリアもファンドであることには違いなく、リターンを求めるのは当然のこと。ただ、今回のように寝技的な手法まで使って、短期間で売り抜けようとする姿を捉えて、「高い売却益の獲得に目がくらんだのか」といった見方がもっぱらだ。 このあたりについては、ダイヤモンド・オンラインの既報「コクヨが突如ぺんてる筆頭株主に、文具業界で勃発した経営権問題」を参照いただくとして、業界で問題視されているのは、マーキュリアにDBJの資金が入っており、間接的にDBJも利益を受けているのではないかという点だ』、「マーキュリアがぺんてる株を取得したのは18年3月22日」ということであれば、マーキュリアから社外取締役を迎えたのも理解できる。ぺんてる経営陣にしてみれば、「中長期的なファンド」なる評判を信じ切っていたのだろう。まさかの裏切り行為だ。
・『政府系金融機関の政策投資銀行にも疑問の声が  事実、DBJは、2018年3月にマーキュリアと協働して組成した前述の投資組合を通じて、ぺんてるに資本参加。さらに一連のぺんてる株の取得や、投資組合の売却にも関与している。 「政府系金融機関のDBJが、こんな“禁じ手”をやっていいのか」と投資ファンドの幹部は述べるが、DBJはどう考えているのか。 DBJは本編集部の取材に対し、「マーキュリアはDBJ出身者が設立し、資金を出しているのも確かだが、独立した上場企業であり、私どもの方から個別の取引についてコメントすることはない」としている。 だが、本当にそうだろうか。 前出の投資ファンドの幹部は、「マーキュリアをおもんぱかり、売却益を出すことが目的だったのでは」と見る。 コクヨのリリースを見ると、ぺんてる株を保有する投資組合には101億円支払っていることが示されている。関係者によればマーキュリアの購入価格は2000円程度であったとされているが、それを約3000円で売却したことになる。 となるとDBJは、今回の投資組合の売却によって、50%の利益を確保したことになる計算だ。 DBJは、決して赤字を垂れ流しているわけではない。むしろ、しっかりと黒字を確保しており、今回のディール規模で利益を確保しなければならないほど、差し迫った状況にはまったくない』、DBJは政府系金融機関として、中立性が求められる以上、今回のような「敵対的買収」には手を出すべきでなかった。
・『業績悪化のマーキュリア救済措置との見方も浮上  だが、マーキュリアは、17年度に約22億円だった利益が、翌18年度には21億円となり、初めての減益となった。 今月に入って公表された1月期決算で示された19年度見通しは、減益ペースがさらに加速し、15億円にまで利益が縮小すると予想している。つまり、マーキュリア側には、早い時期に利益を確保しなければならない“事情”があり、「親密なDBJによる救済的な措置だったのではないか」(投資ファンド幹部)と見る向きも少なくない。 DBJは昨年のぺんてる株式取得時に、投資目的について「本件は、今後中間層や就学・就職人口の増加による成長が期待されるアジア等において、ぺんてる海外事業のさらなる推進等を支援するものであり、ぺんてるおよびわが国企業の国際競争力強化に資すると期待されることから、(中略)サポートを行うものです」と強調していた。 しかし、ぺんてるによれば、マーキュリアがぺんてるの株主になって以降、いくつかの海外拠点の視察には出かけているが、それ以外、特に目立つような海外事業に関する提案はなされていないという。 一連のぺんてる株の売買は、法的にはセーフかもしれない。しかし、マーキュリアに加えて、政府系金融機関であるDBJの姿勢には疑問を持たざるを得ない』、「業績悪化のマーキュリア救済措置との見方も」あるとはいえ、こんな脱法的行為が許されるべきではない。コンプライアンスとは、弁護士の郷原信郎氏によれば、法律の規定になければ、何をしてもいいというものではなく、法の精神や社会通念も守るというように、本来は広義に捉えるべきものだ。ぺんてる側がどのような対抗策に出てくるか、大いに注目される。
タグ:ぺんてる コクヨ コンプライアンス M&A 郷原信郎 ダイヤモンド・オンライン コクヨVSぺんてる (コクヨが突如ぺんてる筆頭株主に 文具業界で勃発した経営権問題、ぺんてる株取得は「御法度」と異論噴出 関与する政投銀の姿勢にも疑問) 「コクヨが突如ぺんてる筆頭株主に、文具業界で勃発した経営権問題」 発端は、2012年5月のぺんてる創業家・堀江圭馬氏の社長解任劇までさかのぼる 堀江氏は取締役会で62歳を過ぎた役員4人の退任を求めたのだが、逆に業績不振を理由として堀江氏の緊急解任動議が可決 「会議への遅刻や無断欠席、海外で豪遊を繰り返すなど過去10年の放漫経営のせい。自業自得だった」 創業家である堀江氏とその家族は同社株を37.45%も保有 マーキュリアインベストメント 日本政策投資銀行が出資 株式には譲渡制限が マーキュリアが売却する際は、ぺんてる取締役会の承認を得る必要 コクヨは、ぺんてるに間接出資したと発表 ぺんてる側にしてみれば「まったく寝耳に水の話で事前に知らされていなかった。 株式を保有するのは、マーキュリアが運営する投資ファンド ファンドをかますことで間接的に保有 金融業界では「実質的には譲渡制限の潜脱に当たる恐れがある」 「今回のような形で出資先に無断で売却するのは、信義則上、未公開株に投資するファンドが絶対やってはいけないこと。これからの投資に影響が出てもおかしくない」 マーキュリアの小山潔人・取締役CIO(兼ぺんてる社外取締役) 焦点は和田社長の判断 「ぺんてる株取得は「御法度」と異論噴出、関与する政投銀の姿勢にも疑問」 ぺんてる株の取得方法にファンド業界から異論噴出 違法ではないかもしれないが、信義に反するし、プロとしてやるべきことではない 反則すれすれのプレーで、彼らは業界で二度と仕事ができなくなるのではないか しかも事が重大なのは、このファンドに政府系金融機関である政策投資銀行(DBJ)の資金が入っていること 譲渡制限がついていたため投資組合をまるごと売却の荒技 ぺんてる株は、ファンド(投資組合)が直接保有しているわけではなく、その下にぶら下がるいくつかの“子ファンド”が保有 コクヨは、投資組合を“まるごと”買うことでその点をクリア 中長期的なファンドが変心「高い売却益が目的か」の声も 筆頭株主となって経営を主導、3~5年といった比較的長いスパンで経営改革を断行し、企業価値を向上させて別の株主に譲渡・売却するのが通常だ わずか13ヵ月後の今年5月10日に実質的に売却 政府系金融機関の政策投資銀行にも疑問の声が DBJは政府系金融機関として、中立性が求められる以上、今回のような「敵対的買収」には手を出すべきでなかった 業績悪化のマーキュリア救済措置との見方も浮上 法律の規定になければ、何をしてもいいというものではなく、法の精神や社会通念も守るというように、本来は広義に捉えるべきもの
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M&A(ライザップ)(瀬戸社長「M&A 手段が目的になっていた」 大幅下方修正のRIZAPグループ・瀬戸健氏に聞く、ライザップを追い込んだ、CD「新星堂」の不振 経営不振が経営不振を呼び込む負の連鎖構造) [企業経営]

今日は、M&A(ライザップ)(瀬戸社長「M&A 手段が目的になっていた」 大幅下方修正のRIZAPグループ・瀬戸健氏に聞く、ライザップを追い込んだ、CD「新星堂」の不振 経営不振が経営不振を呼び込む負の連鎖構造)を取上げよう。

先ずは、昨年11月16日付け日経ビジネスオンラインが掲載したライザップ瀬戸社長へのインタビュー「瀬戸社長「M&A、手段が目的になっていた」 大幅下方修正のRIZAPグループ・瀬戸健氏に聞く」を紹介しよう(Qは聞き手の質問)。
https://business.nikkei.com/atcl/report/15/110879/111500902/?P=1
・『急成長していたRIZAPグループが突然、159億円の最終利益を見込んでいた2019年3月期予想を70億円の赤字に大幅下方修正した。プロ経営者として知られる前カルビー会長兼CEO(最高経営責任者)、松本晃氏をCOO(最高執行責任者)に招いたが、社内では古参の経営幹部と意見が対立していた。何が起きているのか。宣言した構造改革をどう進め、再生するのか。瀬戸健社長に聞いた。 Q:6月まで増益としていた今期予想を第二四半期決算で突然、最終赤字に大幅下方修正しました。なぜ大きく変わったのですか。 瀬戸健氏(以下、瀬戸):例えば業績が大きく悪化した子会社のワンダーコーポレーションは今年3月に買収した際にはもっとうまくいくと思っていました。ところが、始めて見ると計画通りにはいかなくなってきました。(第二四半期では)毎週のように売上高が落ち、利益も計画通りにはいかないと分かりました。 実はワンダーコーポレーションが販売するCDは、このまま持っていても売れる見込みがないとして最後は1枚1円で評価し直しました。それでワンダーだけで商品評価損など計39億円の構造改革費用を計上しましたが、決算発表の当日まで同社の幹部は「そこまでしなくても」と“反対”したほどです。 そのほか、非上場の理美容品販売、ジャパンゲートウェイも多額の宣伝費をかけたけども売れ行きは伸びず、これも修正せざるを得ないとなりました。そんな判断の積み上げです』、いくら新興企業とはいえ、2019年3月期最終利益の予想を159億円の黒字から、70億円の赤字に下方修正したのには驚かされた。一体、何があったのだろう。
・『「事業再生」より「落ち込み」スピードの方が速かった  Q:大幅な下方修正はいつ判断したのですか。 瀬戸:業績が計画ほどのびないようだと見えても、自分としては最初は前期並みの営業利益136億円は維持できると思っていました。それが途中で50億円になり、ゼロになり、最後は赤字に踏み込まなければならないとなりました。その意味では段々に判断したということです。 Q:ワンダーコーポレーションがCD販売の不振などで業績が低迷したように、市場としてそもそも縮小する分野の企業をいくつも買収しています。業績悪化は元々、避けがたかったのではないですか。 瀬戸:我々は買収した後に既存の事業を立て直したり、既にグループ化した企業の事業で再生したものをそこに移したりするといった形で再建を図ってきました。その再生のスピードよりも既存事業の落ち込みの方が速かった。この大幅な下方修正はそうしたことの結果です。本当に申し訳ないと思っています。 Q:それら企業の中には買収価格が会社の正味資産である純資産(総資産から負債を差し引いたもの)を下回るところがかなりありました。会計上その差額は「負ののれん」として利益計上できます。その比率は前期の営業利益の54%を占めるほどです。それを狙ったのではないですか。 瀬戸:そうではありません。私が当社を創業したころ、食べ続けるとダイエット効果があるという豆乳おからクッキーを開発し、大ヒットしました。一時は売上高が100億円を超えるほどになりましたが、類似品が出てきたことなどでその後2年ほどの間に10億円まで落ちるという経験をしています。さらにその後、美顔器を開発している企業を買収したところ、それが当たってなんとか一息つきました。 売上高や利益はそれくらい変動する。だからそれらを見る損益計算書(P/L)だけを意識していてはだめだと思ったのです。純資産を含む貸借対照表(B/S)を重視し始めたのはそれからです。負ののれんというより純資産を活用し、その不振企業を再生して、RIZAPグループとして成長しようと考えたのです』、これまではボロ企業を簿価より安く買収して、「負ののれん」として購入時に一括して利益計上できるという錬金術を利用して利益を膨らませていたことになる。「前期の営業利益の54%を占めるほど」というのは非常に大きい。
・『「松本さんは中長期の視点」  Q:買収を繰り返し、グループ企業は85社にも上っています。人材面から見てもスピード感をもって再生するのは難しかったのではないですか。 瀬戸:それは否定できません。株主の期待もあります。2021年3月期に売上高3000億円、営業利益350億円を掲げた「コミット2020」などを公表していますが、そうした成長目標に向けた手段が目的のようになってしまったのかもしれません。 だからM&A(合併・買収)はいったん止めて、構造改革を優先することにしました。 Q:カルビーの前会長兼CEOで、瀬戸さん自身が6月に招聘した松本晃氏は構造改革を先行するよう主張したが、なかなかその通りにならなかったと聞きます。 瀬戸:松本さんは中長期的な視点から何をすべきかを言われた。一方で私は今期についてもどうするかを考えなくてはいけない。長期も短期も両方大切です。両方考えないといけないのですが、なかなかすぐにはいかなかった面はあるかもしれません。先ほどお話ししたように私自身、これまでの段階で「まだ大丈夫では」と思ったこともあります。 (役員の間で松本氏の方針に反対もあったが)私は別に対立とは思いません。いい議論だったと思います。10月に松本さんはCOOを外れましたが、これはマネジメント全般より、構造改革に集中して貰うためです』、「買収を繰り返し、グループ企業は85社にも上っています」というのは、「再生」などは真剣に考えてなかった証拠だ。だからこそ、招聘した松本氏を遠ざけることになったのだろう。
・『買収企業を再生して「シナジー」を効かせる  Q:松本さんはまだ現職にとどまって改革を続けるのですか。 瀬戸:そうです。今回も大きな力になったと思います。ガバナンス(企業統治)についても意見を貰いました。1人の役員が何社も担当するようなことをしても集中できない、当事者意識が希薄になるといったことを言われましたが、その通りでした。 (今は社外活動もあり、松本氏はRIZAPに毎日来ているわけではないが)当社で働いている時間ではなく、どんなインプットをして貰い、アウトプットを我々とともに出すかが全てです。そうしていきたい。 Q:14日の記者会見では、買収した企業の売却も含め、フィットネス事業を中心とした本業に集中すると表明しました。しかし、フリーペーパーや和装品、戸建て住宅など、買収した企業の中にはどのように本業とシナジー(相互作用)を効かせていくのか見えにくいものもあります。 瀬戸:まずグループ企業個々の力を引き上げることだと思います。事業を強くして、その中からよりいいものを選び出してRIZAP本体とのシナジーを効かせていく。そんなイメージでしょうか。 フランスの有名アパレルブランド会社は、不振企業を含め多数のアパレル会社を買収し、再生して力が本当に上がったところをそのブランドと並べて売るといいます。それと似たような考え方です。 Q:構造改革が一段落した後、負ののれんのある企業を主として買収する従来のM&Aはやめるのですか。 瀬戸:必ずしもそういうわけではありません。その時々の状況で判断していくつもりです』「、買収企業を再生して「シナジー」を効かせる」のが可能な子会社はそれほどあるのだろうか、再生させる人材も大丈夫なのだろうか。最近は「結果にコミットする」との有名なテレビCMも少なくなったような気がするが、本業のボディメイクの方が順調なようだが、錬金術が限界を迎えた割には、瀬戸社長は依然強気なようだ。

次に、12月8日付け東洋経済オンライン「ライザップを追い込んだ、CD「新星堂」の不振 経営不振が経営不振を呼び込む負の連鎖構造」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/253950
・『株価は4割も下落、もはや往時の勢いは見られない――。 11月14日、RIZAPグループは2019年3月期の業績見通しを下方修正、営業利益を230億円の黒字から、33億円の赤字に、一気に引き下げた。 会社側の説明によれば従来の見通しに対して、①新規M&Aの凍結で103億円、②構造改革関連費用等を含む非経常的損失が83億円、③買収企業の経営再建遅れ分が71億――などが下振れの要因になっているという。 ②の「主犯」となったのが、RIZAPグループが2018年3月に買収したワンダーコーポレーションだ。わずか半年で39億円の損失を垂れ流す結果となった。 なお、IFRS(国際会計基準)を採用しているRIZAPグループでは、構造改革費用は営業経費に計上されるが、日本基準のワンダーコーポレーションでは特損処理される。ワンダーコーポレーションは同日、39億円の特損計上に伴う純損益の下方修正を発表した』、本日の株価は247円と、ピークの1500円の1/6と低迷するのも当然だろう。
・『ワンダーは5期連続で最終赤字  ワンダーコーポレーションは、ゲームや音楽・映像ソフト、書籍、文具など物販の「ワンダーGOO(グー)」、中古ブランド品などの買い取り販売の「REX(レックス)」、音楽・映像ソフト販売の「新星堂」の3つの業態のほか、TSUTAYAのフランチャイズ事業も手がけ、全国に300以上の店舗がある。 ワンダーコーポレーションはもともと、北関東を中心に展開しているスーパー・カスミの家電製品部門を分離独立させる形で1988年3月に設立された。その後、パソコンやゲームソフト、音楽ソフト、書籍などに取扱品を拡大、2004年10月に旧制度下で店頭公開した。 その後は4年ほど右肩上がりの成長を続け、リーマンショック直前の2008年2月期に20億円の営業利益を計上した。だが、翌期以降は反転。2016年2月期、2017年2月期は2期連続で営業赤字に沈んだ。 低水準の営業損益に加え、それが理由となって店舗の減損計上も余儀なくされる。その結果が4期連続(今期も含めれば5期)の最終赤字だ。再建に手を焼いたカスミは売却先を模索。結果、2018年3月にRIZAPグループが傘下に収めた格好だ。 RIZAPの減量ジムは売上高が年間300億円に満たないのに対し、ワンダーコーポレーションは同700億円を超える。グループの主力企業といってもいい。 その業績低迷最大の原因と言えるのが、2013年2月に買収した新星堂である。 ワンダーコーポレーションが業態別にセグメント開示を始めたのは2011年2月期から。物販のGOOの売上高は612億円あったが、翌期以降減収に転じ、直近の2018年2月期は380億円にまで減っている。 そこでワンダーコーポレーションは、2012年4月以降、M&Aによる外部成長路線に舵を切った。TSUTAYAのFC事業を手がけるサンレジャーを買収し、TSUTAYA事業に参入すると、翌2013年2月には経営不振にあえぎ、債務超過に転落していた老舗レコードショップチェーンの新星堂を買収した』、「ワンダーコーポレーション」もRIZAP同様に、M&Aで外部成長する、しかもどうやら売上高を膨らますことにも狙いがあったようだ。
・『獅子身中の虫となった新星堂  売上高は600億円台から800億円台にハネ上がったものの、これ以降、新星堂は「獅子身中の虫」さながらのやっかいな存在になっていく。TSUTAYAはそれなりに貢献しているが、新星堂は買収以来、一度も決算短信に記載のセグメント利益が黒字化したことがないのだ。 業界団体の統計によれば、CDなどの音楽ソフトの生産金額は1998年の6074億円、DVDなど映像ソフトの販売は2004年の3753億円をピークに、2017年に音楽ソフトは2320億円、映像ソフトは1876億円まで縮小している。 ワンダーコーポレーションは衰退の一途をたどる業界に身を置く企業の再生に挑んだことになる。だが結果は厳しかった。 買収当時155カ所あった店舗は現在では103カ所に減少。さらに自社に新星堂を吸収合併することで、本部経費の削減を進めた。買収から5年以上が経過しながら、セグメント損益は1度も黒字化に至っていない。 GOOの売上高の減少が続いている理由は何か。年によってゲームや音楽、映像ソフトにヒットが出たり出なかったりといった個別要因が積み重なりながら、全体として漸減トレンドが続いてきた。 得意としてきたゲーム、音楽・映像ソフトや漫画本がデジタルに置き代わり、ネット通販も普及していく中で、「リアル店舗でしか提供できないサービスを実現できていない」(ワンダーコーポレーション)ことが原因だ。 こうしたGOOの収益力低下に新星堂の赤字が加わったことが、ここ数年の業績低迷の根本原因と言っていい。 一部誤解を生んでいるが、ワンダーは棚卸し評価損の計上基準を今回変更したわけではない。1年間売れなければ50%、2年間売れなければ1%に切り下げる基準で、毎月評価を見直している。 構造改革費用の資金使途にも一部誤解がある。GOOの店舗は、500坪以上の大型店の中に、音楽・映像ソフト、ゲーム、書籍、文具などの売り場を設ける複合店。TSUTAYAやREXを入れている店もある』、確かに「新星堂は「獅子身中の虫」さながらのやっかいな存在に」なったようだ。
・『構造改革費用の中身は  市場が縮小する音楽・映像ソフトの売り場は圧縮し、空いたスペースにスターバックスなどのカフェやファミリーマートといったコンビニ、ベーカリーショップ、スポーツジムや英会話教室など、集客力があるテナントを誘致する施策を進めている。 既存の売り場を縮小すれば、そこで使用していた什器備品は除却、商品は廃棄の対象になる。音楽・映像ソフトは再販売価格維持制度に守られているので返品は可能だが、全商品が無条件で返品できるわけではない。 返品可能な量は年間の仕入れ額にスライドするので、近年のように仕入れを絞り込んでいると、返品できずに廃棄対象になる商品も少なからず出てくる。 簿価は切り下げていても、廃棄にはコストがかかるため、将来、既存の売り場を縮小する際に発生するであろう除却損、商品廃棄損を試算し、積み上げた額が39億円。この中には、さらに加速化する新星堂の不採算店のスクラップで発生する除却損、商品廃棄損も含まれている。 従って、「テナントの入れ替えが発生する都度、そこにかかるコストが引当金から取り崩されるので、テナントへの転換に伴う損失は基本的に発生しない」(ワンダーコーポレーション)。見方を変えれば、テナントの転換が発生しない限り、今回計上した引当金の取り崩しも発生しない。 つまり、在庫評価損を計上するわけではないので、今期の在庫商品が来期以降売れても売上総利益率を劇的に引き上げるということもない。 ワンダーコーポレーションを悩ませる新星堂だが、今や同社ごと飲み込んだRIZAPグループをも悩ませる。新星堂をRIZAPは再生させることができるのか。茨の道が続くことは間違いない』、RIZAPは「東証1部市場への鞍替え」を目指しているようだが、こんな有様では先送りせざるを得ないだろう。「負ののれん」を狙ったM&A戦略の「落とし穴」からの脱出は容易ではなさそうだ。
明日は、M&A(コクヨVSぺんてる)を取上げる予定である。
タグ:東洋経済オンライン M&A 日経ビジネスオンライン ライザップ (瀬戸社長「M&A 手段が目的になっていた」 大幅下方修正のRIZAPグループ・瀬戸健氏に聞く、ライザップを追い込んだ、CD「新星堂」の不振 経営不振が経営不振を呼び込む負の連鎖構造) 「瀬戸社長「M&A、手段が目的になっていた」 大幅下方修正のRIZAPグループ・瀬戸健氏に聞く」 59億円の最終利益を見込んでいた2019年3月期予想を70億円の赤字に大幅下方修正 ワンダーだけで商品評価損など計39億円の構造改革費用を計上 「事業再生」より「落ち込み」スピードの方が速かった 会計上その差額は「負ののれん」として利益計上できます。その比率は前期の営業利益の54%を占めるほどです M&A(合併・買収)はいったん止めて、構造改革を優先 買収を繰り返し、グループ企業は85社 買収企業を再生して「シナジー」を効かせる 「結果にコミットする」との有名なテレビCM 「ライザップを追い込んだ、CD「新星堂」の不振 経営不振が経営不振を呼び込む負の連鎖構造」 本日の株価は247円と、ピークの1500円の1/6と低迷 ワンダーは5期連続で最終赤字 RIZAPの減量ジムは売上高が年間300億円に満たないのに対し、ワンダーコーポレーションは同700億円を超える 獅子身中の虫となった新星堂 「東証1部市場への鞍替え」
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ソフトバンクの経営(その10)(ソフトバンク・ビジョン・ファンド 出資のサウジなどが不満、ソフトバンク いまごろヤフーを連結子会社化するワケ、顧客離れに苦しむ米スプリント ソフトバンクに暗雲、ソフトバンク 「ジャンク級」でも貸したい銀行の事情) [企業経営]

ソフトバンクの経営については、2月17日に取上げた。今日は、(その10)(ソフトバンク・ビジョン・ファンド 出資のサウジなどが不満、ソフトバンク いまごろヤフーを連結子会社化するワケ、顧客離れに苦しむ米スプリント ソフトバンクに暗雲、ソフトバンク 「ジャンク級」でも貸したい銀行の事情)である。

先ずは、2月20日付けダイヤモンド・オンラインが米紙WSJ記事を転載した「ソフトバンク・ビジョン・ファンド、出資のサウジなどが不満」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/194594
・『ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長が率いる「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」。10兆円規模のこのハイテク投資ファンドに対して、二大出資者であるサウジアラビアとアブダビの政府系ファンドが、ビジョン・ファンドの運用を担うソフトバンクへの不満を募らせている。火種となっているのは投資先の評価額の高さや、投資判断に対する孫正義社長の影響力の大きさだ。 サウジのパブリック・インベストメント・ファンド(PIF)とアブダビのムバダラ・インベストメントは、ビジョンファンドの資本のうち約3分の2を拠出している。両ファンドを満足させられなければ、孫氏が追加資金を確保したり、新ファンドを立ち上げたりすることは難しくなる。 複数の関係者によると、PIFとムバダラは非公式の場で、ビジョン・ファンドが一部投資先に支払った金額についての不満をあらわにした。また関係者の1人は、まずソフトバンクが投資してからその株式をより高い金額でビジョン・ファンドに移管するという手法について、PIFが懸念していると話した。 一部の投資家はPIFに対し、孫氏がファンド幹部の投資判断を却下することがあり、ファンドの意思決定のプロセスが混沌(こんとん)としていることから、土壇場で判断が覆ることも多いと不満を漏らした』、「約3分の2を拠出している」両ファンドが不満というのは穏やかならざる事態だ。
・『2017年半ばの立ち上げ以来、ビジョン・ファンドが明らかにした投資などは総額約600億ドル(6兆6600億円)に上る。投資先には配車サービスの米ウーバー・テクノロジーズや、共有オフィス賃貸の米ウィーワークも名を連ねる。関係者によると、全体の4分の3程度の出資先は決定済みで、ファンド幹部はさらに数十億ドルの調達を検討している。 ビジョン・ファンド、PIF、ムバダラはいずれも関係は良好だとし、PIFとムバダラはビジョン・ファンドの戦略、ガバナンスへの支持を表明している。 複数の関係者によると、両者の緊張の一因は、過去の出資や出資待ち案件の評価額の高さにある。ウィーワークのほか、顔認識技術を開発する香港のセンスタイムなどがやり玉に挙げられている。 ソフトバンクはウィーワークに最大160億ドル出資予定だったが、PIFやムバダラの反対を受け、1月には20億ドルに減らすことを決めた。 ビジョン・ファンドへの投資家は、ソフトバンクがまず自ら投資して、後にビジョン・ファンドに株式を移管するという手法にも不満を抱いている。 PIFとムバダラに近いある人物は、ソフトバンクが両ファンドを犠牲にして、テクノロジー企業の高い評価額に乗じて利益を得ている可能性があることに対し、懸念を表明した。届け出によれば、ソフトバンクがビジョン・ファンドに移管・売却したか、あるいは今後売却予定の株式の価値は少なくとも263億ドルに上る。これら株式の取得に費やしたのは合計249億ドルほどだ』、「ソフトバンクがまず自ら投資して、後にビジョン・ファンドに株式を移管するという手法」は結果的には利益相反行為に相当するが、大いにあり得ることだ。ただ、「今後売却予定の株式の価値は少なくとも263億ドル」、「これら株式の取得に費やしたのは合計249億ドル」ということであれば、移管による益出しの余地は小さくなったようだ。
・『移管済みまたは移管予定の株式には、中国の配車サービス大手の滴滴出行(ディディチューシン)株も含まれる。ソフトバンクは滴滴出行を59億ドルで取得し、ビジョン・ファンドに68億ドルで売却することで合意している。また昨年、インドの宿泊予約サイト運営会社OYO(オヨ)の株を移管した際には、2015年の取得額1億ドルの2倍の額を手にした。 問題になっているのは、ソフトバンクが投資にかかった手数料を上乗せしていることではなく、市場価値が上がっているときに株式を移管することが多いため、ビジョン・ファンドが損失を被る可能性があるという点だ。 時にはソフトバンクが自ら投資先の資金調達ラウンドを主導して、評価額の引き上げを招いたこともある。関係者の話では、最近の資金調達でOYOの評価額は50億ドル近くに達したが、これはソフトバンクが初出資した2015年当時の13倍にあたる。 ソフトバンクは今月、投資家向け説明会で、ビジョン・ファンドの投資は2018年末時点で第三者による評価を受けたとしたほか、評価額は主要投資家が選定した独立コンサルタントによる確認作業や監査など、いくつもの段階をへて決まると述べた。 評価額に対する懸念は、投資プロセス、特に孫氏の権限についての懸念と強く結びついている。複数の関係者によると、孫氏は最近、協力先の反対を振り切って、中国で中古車のネット売買プラットフォームを運営する車好多集団への投資を決めた。投資額は最大15億ドルだという。車好多は最近、あるライバル企業から不正行為を指摘されていた。 車好多は不正行為を否定している。孫氏はウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)に対し、ソフトバンクは独自のデューデリジェンス(資産査定)を行い、競合の訴えは事実無根だったことが判明したと述べた。 関係者によれば、この投資額に基づく車好多全体の評価額は85億ドルとなる。同社と競合する中国企業で、米ナスダック市場に上場するユウシン(Uxin)の時価総額は11億8000万ドル、香港上場のイーシン(Yixin)・グループの時価総額は17億5000万ドルだ』、車好多の「評価額は85億ドル」というのは、ユウシンやイーシンに比べ法外に高過ぎるような気もするが、「投資額は最大15億ドル」であれば、大したことはない、といえるのかも知れない。

次に、5月9日付け日経ビジネスオンライン「ソフトバンク、いまごろヤフーを連結子会社化するワケ」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00002/050800325/
・『ソフトバンクグループの国内通信子会社ソフトバンクは2019年5月8日、兄弟会社であるネット大手のヤフーを第三者割当増資を通じて連結子会社化すると発表した。6月までに4565億円を投じてヤフーが新規発行する15億1147万8050株を取得する。 両社はもともとサービスの連携を強めて相互送客を図ってきた。例えばヤフーが17年2月から始めた「ポイント10倍キャンペーン」。ヤフーショッピングの利用で与えられるポイントは、通常100円の買い物につき1ポイント。それに対して、ソフトバンクのスマホ利用者には10倍の10ポイントをつけた。これもあって17年4~9月期のヤフーショッピングの取扱高は前年比39%増の1407億円と大きく伸びた。 こうした取り組みを加速させるのがヤフー子会社化の主な目的だ。ソフトバンクの宮内謙社長は同日開催した決算会見で「非通信の分野をより強化するため」とヤフー子会社化の狙いを説明。背景にはソフトバンクが主戦場としてきた国内通信市場は成熟が進んでいることがある。ポータルサイトで高いシェアを持ちEC(電子商取引)でも幅広いユーザーを持つヤフーとの連携強化で成長を維持したい考えだ』、ソフトバンクにとっては、予想される業績伸び悩みをヤフーでなんとかカバーしたいのだろうか。
・『一方で、ヤフーの経営がこれまでもソフトバンクグループの意向に左右されてきた面がある。2009年にソフトバンクがデータセンター子会社を約450億円でヤフーに売却。14年に勃発したヤフーによるイー・アクセス買収中止騒動も記憶に新しい。当時、ヤフーは国内携帯電話4位だったイー・アクセスをソフトバンクから買収すると発表。ヤフーの検索サービスなどを手軽に利用できるスマホの開発などの成長戦略を打ち出したが、この買収でソフトバンクに約4500億円を支払うことが判明した。ヤフーの株主が「親会社の資金繰りを助けるためか」と反発する中、計画は発表から2カ月で白紙に戻った。こうした経緯はありながらも、兄弟関係から親子関係に変わるソフトバンクとヤフー。資金の融通にとどまらず、通信とネットを融合させた魅力的なサービスの創出など真の相乗効果につなげられるか』、「兄弟関係から親子関係に変わる」ことが「魅力的なサービスの創出」にどうつながるのか、具体的に指摘して欲しかった。

第三に、5月10日付けロイター「アングル:顧客離れに苦しむ米スプリント、ソフトバンクに暗雲」を紹介しよう。
https://jp.reuters.com/article/sprint-softbank-analysis-idJPKCN1SG04M
・『米携帯電話会社スプリントの業績が失速したことで、8割超を出資するソフトバンクグループの米通信事業に暗雲が立ち込めている。 ソフトバンクGはスプリントをTモバイルUSと合併させて非子会社化する計画だが、規制当局の承認が得られず、4月29日の合併手続き完了期限を3カ月延長した。孫正義社長は9日の会見で「事業は苦しいながらも一応、順調に行っている」と語ったが、不透明感は増すばかりだ。スプリントの2019年1─3月期の純損益は、21億7400万ドルの赤字に転落した。前年同期は6900万ドルの黒字だった。20億ドル(2220億円)の減損損失を計上したことに加え、携帯電話契約数が予想以上に減少したことが足を引っ張ったが、市場では値引きをしても顧客を引きとめられない状況に存続を危ぶむ声が広がっている。 ニュー・ストリート・リサーチのアナリスト、ジョナサン・チャップリン氏は「スプリントは現在の資本構造では単体で存続しないだろう」との見方を示した。 ソフトバンクは起死回生策として、スプリントをTモバイルUSと合併させる計画を1年前に打ち出したが、合併を審査する米規制当局の動きは鈍い。寡占化により競争が後退することを懸念しているためだ。 孫社長は「Tモバイルにとっても、スプリントにとっても、アメリカの消費者にとっても、国家戦略として第5世代(5G)ネットワークを強化する観点からも、合併が実行されるのがベストだと信じている」と合併に理解を求めた。 だが、審査する米司法省は現在の形での合併に難色を示しており、合併を実現するには「身を切る新たな計画」が必要だ。 スプリントとTモバイルUSは4月、米連邦通信委員会(FCC)に対して、合併しなければデータ需要に対応し続ける能力がなくなり、値上げをせざるを得なくなると窮状を訴えた。これにより、もはや単独では生き残れないという厳しい現実が、世間に知れ渡った。 窮状を訴えれば訴えるほど、不安から契約をためらう消費者が出てくることは容易に想像できる。しかし、そこまでしてでも承認アピールをしなければならないところに、同社が置かれている厳しい状況が垣間見える。 ソフトバンクグループが9日発表した2019年3月期の営業利益は、前年比1.8倍の2兆3539億円だった。ビジョンファンドとデルタファンドからの利益は1兆2566億円(前期は3029億円)となり、利益の過半を稼ぎ出した。 ただ、その大半は未実現の評価益(含み益)であり、2000年代初期に起こったインターネットバブルの崩壊と同じようなことが起きれば、逆回転しかねない。 利払いなど6000億円を超える財務費用が重くのしかかる中で、4兆円超の負債を抱えるスプリントの連結外しに失敗すれば、信用力にネガティブな影響が出るのは必至だ。 野村証券・アナリストの増野大作氏は、8日付のリポートで「ソフトバンクグループのスプリントに対する回収可能額は連結簿価とほぼ同じ水準にとなり、今後の米国携帯電話市場の動向やスプリントの収益状況に従来以上に注意を払う必要がある」と警鐘を鳴らしている』、孫社長はトランプ大統領には当選直後に面談しており、認可は簡単にいくと思わせたが、「審査する米司法省は現在の形での合併に難色を示しており」、と難航しているようだ。孫社長には次の一手があるのだろうか。

第四に、5月16日付けダイヤモンド・オンラインがWSJ記事を転載した「ソフトバンク、「ジャンク級」でも貸したい銀行の事情」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/202501
・『15兆円を超える負債を抱え、信用格付けがジャンク(投資不適格)級のソフトバンクグループ(SBG)は、これ以上借り入れの余地があるように見えないかもしれない。だが銀行関係者は依然、世界最大のテクノロジー投資家である同社への融資機会を狙っていると話す。 理由の1つは、SBGとの関係がもたらす巨額の手数料だ。融資に伴う利息のみならず、孫正義会長兼社長が次々と手掛ける取引により、投資銀行業務の手数料が発生するからだ。 もう1つの理由はここ数年の戦略転換にある。極めつけは昨年行った組織改正により、銀行も信用格付け機関も、同社を携帯電話事業者ではなく、投資持株会社とみなすことが可能になったことだ。SBGは今も米通信大手スプリントおよび日本の通信事業者ソフトバンクの親会社ではあるが、金融機関は今や、孫氏がかねて主張している通り、仮にスプリントが債務の支払いに困っても、SBGが肩代わりする必要はないとの見方に傾きつつある。 孫氏は先週、親会社のSBGは独立採算の子会社に対する債務保証をしておらず、むしろ「代理弁済をしてはならない」と語った。「SBGの株主からすると、弁済義務がないのに代理して払うのは株主価値を毀損(きそん)することになる」 スプリントは最近、米規制当局に対して「持続可能な競争の道筋を描けない」と述べた上で、同業のTモバイルUSとの合併を当局に阻止されれば、連邦破産法11条の適用申請を検討せざるを得なくなるというアナリストの見解を引用した』、スプリントが「合併を当局に阻止されれば、連邦破産法11条の適用申請を検討せざるを得なくなるというアナリストの見解を引用」とはいえ、自ら破綻の淵にあることを事実上認めた瀬戸際作戦に打って出たのはよほどのことだ。これによりスプリントの新規顧客獲得は一段と困難にならざるを得ない筈だ。
・『数年前までSBGは日本の通信事業部門を100%所有し、アナリストや信用格付け担当者は(特に日本では)同社を主に通信企業とみなしていた。同社の負債総額15兆7000億円のうち、通信事業の負債が大部分を占めており、クレジットアナリストは法的な義務はどうあれ、SBGが通信事業の債務返済を免れるのは難しいと考えていた。 その後SBGは2017年、サウジアラビアの政府系ファンドの出資を受けて、10兆円規模の投資ファンド「ビジョン・ファンド」を立ち上げ、米配車大手ウーバー・テクノロジーズなど世界中の有望な新興企業に資金を投じ始めた。18年12月には日本の通信子会社を株式上場した。 上場後、信用格付け会社のムーディーズ・インベスターズ・サービスやS&Pグローバル・レーティングは、いずれもSBGを投資会社という分類に変更。その後S&Pは同社の格付け見通しを「ネガティブ」から「安定的」に引き上げた。ムーディーズは継続的に投資収益を生むなら、格上げを検討する可能性があると述べた。SBGの社債格付けは両社とも投資不適格としている。 SBGに対する融資は、最終的に中国電子商取引大手アリババグループの株式といった価値ある資産が担保する形となる。一方、ビジョン・ファンドの借入金はウーバーやシェアオフィス運営大手ウィーワークのような企業への出資が担保している。SBGは、保有資産には2450億ドルの価値があるとしている。 ビジョン・ファンドの資産の不都合な点は、その多くがキャッシュフローを生んでいないことだ。ウーバーのような創業年数の浅い企業はまだ赤字を出し続けている。 「株主価値はすぐには債務返済につながらない」。東京の銀行関係者はこう話す。銀行は手元資金の多さや土地などの実物資産をより好ましく思うということだ。それでもこの人物によると、現在の債券投資家は、SBGは償還期限が来れば保有株式を裏付けに新たな債券を発行し、償還資金を確保できると確信している。 もう1つの問題は、SBGやビジョン・ファンドの保有株式の価値が変動するという点だ。SBGは先週、ビジョン・ファンドのウーバーへの16.3%の出資を巡り、38億ドルの評価益を計上した。ウーバー株は10日に上場してから18%下落し、SBGが同社株を取得した18年1月時点の株価に近づいている。 こうした現実をつきつけられてSBG株も急落した。14日には5.4%下落し、3カ月ぶり安値で取引を終えた。10日からの3営業日の値下がり率は13%を超えている。 だがビジョン・ファンドは、がん検査の開発を手掛ける米ガーダント・ヘルスや、インドの宿泊予約サイト運営会社OYO(オヨ)への出資では利益が出ているとしている。こうした利益は未実現利益であっても債券投資家への心理的効果があったと、野村証券のチーフ・クレジット・ストラテジスト、魚本敏宏氏は指摘する。ソフトバンクの5年物クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)のスプレッド――ソフトバンクの債務不履行(デフォルト)に対する保証コスト――は約180ベーシスポイント(bp)まで縮小し、年初から100bp以上低下している』、昨年12月ソフトバンクを上場させたのは、「SBGを投資会社という分類に変更」させる狙いだったようだ。ウーバー株が「SBGが同社株を取得した18年1月時点の株価に近づいている」というのでは、「38億ドルの評価益を計上」は次期には評価損要因になる。それでも、CDSスプレッドが低下したのは、米格付会社が「SBGを投資会社という分類に変更」した効果が債券投資家には利いたようだ。
・『孫氏は9日、10兆円規模のビジョン・ファンド第2号を立ち上げる考えだと述べた。実現すれば、新たに巨大な投資基盤が生まれ、銀行にとっては手数料の増加を意味する。 リフィニティブのデータによると、SBGが昨年支払った投資銀行手数料は8億9400万ドルと世界1位で、2位の独製薬・化学大手バイエルの2倍以上だった。アストリス・アドバイザリー・ジャパンのチーフ・インベストメント・アドバイザー、デービッド・ギブソン氏は「誰も取り残されたくないと思っている」と話す。 SBGは10日、ビジョン・ファンドがみずほフィナンシャルグループやゴールドマン・サックス・グループを中心とする10行から4年・31億ドルの信用枠を確保したとアナリストに説明した。 事情に詳しい関係者によると、ビジョン・ファンドは昨年、パートナーから資金提供を受けるのを待つ間も投資ペースを維持するため、ゴールドマン・サックスやドイツ銀行、野村ホールディングスなどから約70億ドルの融資を受けた。SBGが昨年12月に携帯電話子会社を上場し、235億ドルを調達した際には、この3社を主幹事に起用した。3社はコメントを控えた。 ある東京の銀行関係者によると、SBGは100を超える銀行と取引している。その多くは財務状況を疑っているような印象を与えてチャンスを逃してしまうことを恐れているという。 「リスク分析はもはや関係ない」とこの人物は話す。各銀行の融資判断は他の銀行の動きをどのように予想するかで決まる「ゲーム理論のようなものだ」という。 SBGは日本の個人投資家からも積極的に資金を募っている。4月には個人向け社債を5000億円発行した。日本国内で発行される同種の社債では異例の規模だ。9日には1対2の株式分割を実施すると発表。個人投資家による取得を容易にする動きとみられる』、ビジョン・ファンドについては、大口出資者に不満があるとのことだったのに、「第2号を立ち上げる」というのは、大口出資者が了解したのか、或は、大手銀行に投資銀行手数料のアメを与えるためなのだろうか。いずれにしろ、「各銀行の融資判断は他の銀行の動きをどのように予想するかで決まる「ゲーム理論のようなものだ」」というのでは、銀行も巻き込んでかなりバブリーな様相を呈してきたようだ。SBGに関する不都合な情報(第2の記事を除く)がロイターやWSJなど海外メディアからしか流れてこず、国内系は沈黙したままというのも困ったことだ。  
タグ:ロイター スプリント WSJ 日経ビジネスオンライン ダイヤモンド・オンライン 利益相反行為 ソフトバンクの経営 (その10)(ソフトバンク・ビジョン・ファンド 出資のサウジなどが不満、ソフトバンク いまごろヤフーを連結子会社化するワケ、顧客離れに苦しむ米スプリント ソフトバンクに暗雲、ソフトバンク 「ジャンク級」でも貸したい銀行の事情) 米紙WSJ ソフトバンク・ビジョン・ファンド、出資のサウジなどが不満」 火種となっているのは投資先の評価額の高さや、投資判断に対する孫正義社長の影響力の大きさだ ビジョンファンドの資本のうち約3分の2を拠出 ソフトバンクがまず自ら投資して、後にビジョン・ファンドに株式を移管するという手法にも不満 市場価値が上がっているときに株式を移管することが多いため、ビジョン・ファンドが損失を被る可能性がある 時にはソフトバンクが自ら投資先の資金調達ラウンドを主導して、評価額の引き上げを招いたこともある 第三者による評価 評価額は主要投資家が選定した独立コンサルタントによる確認作業や監査など、いくつもの段階をへて決まると述べた 車好多全体の評価額は85億ドル ユウシン(Uxin)の時価総額は11億8000万ドル、香港上場のイーシン(Yixin)・グループの時価総額は17億5000万ドル 「ソフトバンク、いまごろヤフーを連結子会社化するワケ」 兄弟会社であるネット大手のヤフーを第三者割当増資を通じて連結子会社化 両社はもともとサービスの連携を強めて相互送客 ポータルサイトで高いシェアを持ちEC(電子商取引)でも幅広いユーザーを持つヤフーとの連携強化で成長を維持したい考え ヤフーの経営がこれまでもソフトバンクグループの意向に左右されてきた面 ソフトバンクがデータセンター子会社を約450億円でヤフーに売却 4年に勃発したヤフーによるイー・アクセス買収中止騒動 「アングル:顧客離れに苦しむ米スプリント、ソフトバンクに暗雲」 スプリントの2019年1─3月期の純損益は、21億7400万ドルの赤字に転落 合併を審査する米規制当局の動きは鈍い。寡占化により競争が後退することを懸念しているためだ スプリントの連結外しに失敗すれば、信用力にネガティブな影響が出るのは必至 トランプ大統領には当選直後に面談 「ソフトバンク、「ジャンク級」でも貸したい銀行の事情」 信用格付けがジャンク(投資不適格)級のソフトバンクグループ 同業のTモバイルUSとの合併を当局に阻止されれば、連邦破産法11条の適用申請を検討せざるを得なくなるというアナリストの見解を引用した 信用格付け会社のムーディーズ・インベスターズ・サービスやS&Pグローバル・レーティングは、いずれもSBGを投資会社という分類に変更 CDS)のスプレッド――ソフトバンクの債務不履行(デフォルト)に対する保証コスト――は約180ベーシスポイント(bp)まで縮小し、年初から100bp以上低下 0兆円規模のビジョン・ファンド第2号を立ち上げる考え 「リスク分析はもはや関係ない」とこの人物は話す。各銀行の融資判断は他の銀行の動きをどのように予想するかで決まる「ゲーム理論のようなものだ」
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商社(デサントVS伊藤忠)(デサントを巡る買収劇 「最終決着」の舞台裏 会長最側近を送り込み 全責任を負う伊藤忠、デサント<上>独立目指すも失敗 伊藤忠商事に城を明け渡す、デサント<下>“恫喝テープ”まで飛び出した伊藤忠との戦い) [企業経営]

今日は、商社(デサントVS伊藤忠)(デサントを巡る買収劇 「最終決着」の舞台裏 会長最側近を送り込み 全責任を負う伊藤忠、デサント<上>独立目指すも失敗 伊藤忠商事に城を明け渡す、デサント<下>“恫喝テープ”まで飛び出した伊藤忠との戦い)を取上げよう。

先ずは、3月28日付け東洋経済オンライン「デサントを巡る買収劇、「最終決着」の舞台裏 会長最側近を送り込み、全責任を負う伊藤忠」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/273502
・『大企業同士がお互いの対話を欠いたままで自社の言い分を世間に主張しあう、前代未聞の「劇場型TOB(株式公開買い付け)」は、あっけない幕切れを迎えた。 スポーツウェア大手のデサントは3月25日、石本雅敏社長が6月開催予定の株主総会をもって退任し、代わって伊藤忠商事の繊維カンパニーでトップを務めていた小関秀一氏が新社長に就任すると発表した。伊藤忠の岡藤正広会長の最側近として知られる人物だ。一方のデサントでは、石本氏以外も生え抜きの取締役は総退陣する。 デサント出身の取締役として残るのは金勲道氏と小川典利大氏。いずれも中途入社組である。金氏は2000年に韓国デサントに入社し、デサントの韓国事業を大きく成長させた功労者だ。もう一人の小川氏はアディダスジャパン副社長などを経て2016年にデサントに入社した。経営手腕への評価は高く、石本氏退任後の社長候補としても名が挙がった』、「デサントでは、石本氏以外も生え抜きの取締役は総退陣」とは、TOB合戦の結果とはいえ思い切った人事だ。
・『鮮明になった“伊藤忠色”  6月からの新体制では現在10人の取締役を6人に減らし、デサント出身2人、伊藤忠出身2人、社外2人とする。人数の印象以上に強まるのが“伊藤忠色”だ。伊藤忠からは小関氏のほか、同社執行役員で監査部長を務めていた土橋晃氏が取締役となる。土橋氏はCFO(最高財務責任者)に就任する予定だ。社外取締役には佐山展生・スカイマーク会長、高岡浩三・ネスレ社長を据えた。いずれも伊藤忠とゆかりのある著名経営者だ。 取締役以外のキーパーソンにも要注目だ。デサントの専務執行役員として伊藤忠から派遣される久保洋三氏である。現在は伊藤忠商事の常務執行役員で食料カンパニープレジデントを務めるが、本籍は繊維部門。伊藤忠が完全子会社化したジーンズ大手のエドウィンで会長を務めた経験もある。食料部門出身の伊藤忠元役員は「彼は岡藤会長に見込まれてエドウィンの再建に当たった。現場を見る目が確かで、繊維出身ながら食料ビジネスでも存在感を発揮してきた」と、久保氏の力量に太鼓判を押す。 実は久保氏は、十数年前には伊藤忠でデサントとの窓口役を務めていた。まだ両社の関係が円満な時期で、デサント社内にも知己は多い。そのため、久保氏は新体制で営業面の統括役になることが確実視されている。エース級の人材を投入して社長に加え営業トップとCFOを押さえたことで、今後は伊藤忠がデサントの経営一切を仕切ることになるだろう』、確かに伊藤忠は、「エース級の人材を投入」したことから、本腰が入っているようだ。
・『伊藤忠がデサントへの敵対的TOBに踏み切ったのは今年1月末のことだ。買い付け期限は3月14日までで、デサントの直近株価に約50%ものプレミアムをつけてデサント株の最大40%を買い付けることとした。当時の伊藤忠の出資比率は30.44%で、これが33.4%を超えることで株主総会における特別決議での拒否権を、すなわち事実上の経営支配権を持つことになる。2月7日にデサントはこのTOBへの反対意見を表明。「劇場型」の構図がいよいよ鮮明になったが、実は両社はその直後から水面下の話し合いを始めた。伊藤忠の代表は小関氏。デサント側は石本氏自身が2月中旬に4回にわたって面談に臨んだ。交渉のポイントは新体制での取締役数で、伊藤忠は「デサントから2人、伊藤忠2人、社外2人」を主張。デサントは「デサント1人、社外4人」を求めた。 伊藤忠の影響力縮小にこだわるデサントに、いったんは伊藤忠が譲歩し、取締役会を「デサントから2人、伊藤忠1人、社外2人」とする案がまとまった。2月27日にデサントが取締役会を開いて和解案を議決し、翌28日に公表する段取りまで決まっていたが、合意の直後に石本氏が翻意。これを受けて伊藤忠は2月22日に交渉打ち切りを決め、その後は「資本の論理」でデサントの現経営陣を排除する方針を貫徹した。 石本氏は早くから自らの退任は覚悟していたようだが、土俵際に追い詰められて、なお絶望的な戦いを挑んだ真意は不明だ。それほどまでに、同氏とデサント社員の伊藤忠への反感が強かったということだろうか。この段階で、伊藤忠からさらに譲歩を引き出せるだけの材料があったとは思えない』、一旦は両社で和解案で合意したのに、「合意の直後に石本氏が翻意」というのでは、伊藤忠は異例の敵対的TOBに踏み切ったのも理解できる。
・『デサントの未来に責任を負う伊藤忠  TOBの直接的なきっかけは、昨年6月に決算報告のため伊藤忠本社を石本氏が訪れた際、伊藤忠の岡藤会長との話し合いが決裂したことだ。デサントは1984年と1998年に2回、経営危機に陥ったが伊藤忠の支援で再生した経緯がある。1994年以降は社長も伊藤忠から派遣されてきた。だが、デサントによれば、2011年ごろから伊藤忠は自社との取引拡大を強要するようになった。 それに不満を高めたデサント生え抜きによるクーデターによって、2013年に就任したのが創業家の3代目である石本氏だ。石本氏は就任早々に「取引強要」の経緯をまとめた報告書を伊藤忠側に渡して改善を迫った。しかし、伊藤忠側が動かなかったことでデサント側には伊藤忠への根深い不信が生まれた。石本氏たちにとって、今回のTOBを通じて伊藤忠に対する不満を世の中に発信できたことは1つの成果ではあるだろう。 伊藤忠がかつての取引強要問題を自ら検証するかは疑問だが、もう同じことはできない。さらに同社はデサントの未来に対して大きな責任を背負うことになる。伊藤忠は現在のデサントの収益構造が韓国事業に依存していると指摘し、国内の立て直しや中国事業を拡大する必要性を強調してきた。今後は2020年の東京五輪や2022年の北京五輪といったスポーツイベントを控える中でデサントがどのように成長するのかを示す必要がある。 伊藤忠は今回のTOBに200億円を投じ、かつ経営に全面的にコミットする。伊藤忠によるTOBにはデサントの労組やOB会まで反対の意向を表明しており、社員からの信頼獲得が何よりの課題だ。それには伊藤忠のグローバルな調達網や資金力を活かして、デサントを大きく成長させるビジョンを描き出すことが欠かせない。それができなければ、劇場型TOBはシナリオがないまま経営者同士が感情的対立をつのらせた「激情型」でしかなかったことになる。こんなに不毛なことはない』、「伊藤忠によるTOBにはデサントの労組やOB会まで反対の意向を表明」、ということであれば、確かに「社員からの信頼獲得が何よりの課題」のようだ。伊藤忠は2015年に中国中信集団(CITIC)へ6000億円を投じ10%出資し資本・業務提携をした。昨秋には、先方の株価下落で1400億円を減損処理したが、これまでの提携の成果は乏しいといわれるだけに、デサントの中国ビジネス拡大を狙っているのだろう。

次に、ジャーナリストの有森隆氏が5月8日付け日刊ゲンダイに寄稿した「デサント<上>独立目指すも失敗 伊藤忠商事に城を明け渡す」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/253340
・『「売り手よし 買い手よし で、未来よし!」 4月1日付の全国紙に伊藤忠商事の全面広告が載った。伊藤忠の創業者の伊藤忠兵衛が信奉していたのが近江商人の経営哲学である「三方よし」(売り手よし 買い手よし 世間よし)。 今年の伊藤忠の合言葉は「未来よし!」。 デサントにとって、「売り手よし」となるのか。「伊藤忠が優越的な地位を誇示しているだけではないのか」(デサントの幹部社員)との冷ややかな反応が返ってきた。 経営方針をめぐり対立していたスポーツ用品大手デサントと伊藤忠のガチンコ勝負は、伊藤忠の「圧勝」で終わった。 デサントは3月25日、創業家の石本雅敏社長(56)が退任し、後任に筆頭株主の伊藤忠の小関秀一専務執行役員(63)が就任する人事を発表した。10人いた取締役を6人に減らした上で、デサント側2、伊藤忠側2、独立した社外取締役2の構成とする伊藤忠の案を丸のみするかたちで、デサントは全面降伏した。 デサント株式の約30%を保有していた伊藤忠は、デサントに経営方針の是正を再三求めたが、石本社長が受け入れなかったため、1月31日から3月14日までTOB(株式公開買い付け)を実施した。デサントの経営陣や労働組合、OB会は反対を表明したが、伊藤忠は敵対的TOBに突き進み、持ち株比率を40%に引き上げることに成功した。買い付けに要した資金は200億円』、今回のTOB合戦の裏面をもっと知りたいところだ。
・『6月の定時株主総会とその後の取締役会を経て新しい経営陣(ボード)が正式に発足する。伊藤忠の鈴木善久社長は4月26日、経営への関与を強めたデサントについて「うまくスタートできた」と述べた。 伊藤忠からの独立を目指した創業家の石本社長は、資本の理論の前に白旗を掲げ、デサント城は、あえなく落城した。 2018年夏に表面化した対立で、デサントは半年余り時間を空費した。デサント社内に大きな爪痕が残る。 「伊藤忠から数々の批判を受けて、現場のモチベーションは下がっている」(前出の幹部社員) 当初は蜜月だった両社が激しく敵対し、日本では異例な敵対的TOBにまで発展したのはなぜか? デサントの会社の沿革を簡潔に記す。1935年、石本社長の祖父、他家男氏が大阪で石本商店を創業。戦後、野球用のグラブ、ミットの製造販売を始め、のちにスポーツウエアに進出した。日本初のニット製の野球用ユニホームを作り、多くのプロ野球の球団で採用された。 61年、ブランド名のデサントに商号を変更。社名はフランス語の「Descente=滑降」に由来する。ロゴの「3本の下向きの矢」は、スキーの基本滑降である「直滑降、斜滑降、横滑り」を表している。 伊藤忠との関係は古い。64年、デサントは伊藤忠と組んでワンポイントロゴを入れるきっかけとなったゴルフウエア「マンシングウェア」の共同販売を始めた。デサントは、これを皮切りに「アディダス」などスポーツブランドの日本での総代理店となる。 その後、デサントは2度の経営危機に直面する。84年のマンシングウェアの過剰在庫。98年には売上高の4割を占めていた独アディダスのライセンスの解消だ。 デサントの創業家2代目の石本恵一氏の要請を受け、伊藤忠が2度とも支援し、経営を立て直した。 94年から飯田洋三氏、田尻邦夫氏、中西悦朗氏と3人続けて伊藤忠出身者が社長の椅子に座った。この間、伊藤忠はデサント株式の25・0%を取得。持ち分法適用会社に組み入れた。 両社で海外のブランドの商標権を取得したり、伊藤忠がデサントの海外展開を物流面で支援したりするなど、“蜜月関係”は続いているようにみえた。ところが、デサントの業績が回復するにつれて両社の亀裂があらわになる』、この続きの<下>を見てみよう。

第三に、上記の続き、5月9日付け「デサント<下>“恫喝テープ”まで飛び出した伊藤忠との戦い」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/253407
・『2013年2月26日、デサントは創業家の石本雅敏常務の社長昇格を発表した。 雅敏氏は慶応義塾大学商学部卒。電通勤務などを経て1996年にデサントに入社。創業家出身の社長は19年ぶりのことで、話題性は十分だった。 しかし、A4判の資料2枚のみで開示され、記者会見はなし。伊藤忠商事出身の中西悦朗社長の処遇は「退任」とのみ書かれていた。 今回の騒動で、あの時の交代劇の真相が明らかになる。デサントによると、11年ごろから伊藤忠は自社との取引を150億円に拡大するよう強要した。それにデサントの生え抜きの役員たちは不満を募らせていった。 伊藤忠とのパイプ役だった創業家2代目の石本恵一氏が死去して2カ月半後の13年2月、クーデターが決行された。 伊藤忠から派遣された取締役に事前の連絡のないまま、中西社長の退任と石本常務の社長就任を取締役会で決議した。デサント版の「二・二六事件」だ。 デサントと伊藤忠の不仲ぶりが、産業界に知れ渡った』、2013年のクーデターで石本雅敏社長が登場したとは、溝が深まってから最終的に決着するまで、かなりの年月が経っていたようだ。
・『トップに就いた石本社長は伊藤忠から距離を置き、対立を招いていった。自社商品がファッションブランドとしても注目されていた韓国に直営店網を広げ、韓国事業を経営の柱に据えた。 石本氏が社長就任する直前の13年3月期と18年3月期を比較すると、売上高は1・5倍の1411億円、営業利益は1・8倍の95億円。上乗せ分の大半は韓国事業で、全体の売り上げの5割超を占めた。一方、百貨店などに商品を卸していた国内事業は低迷した。 伊藤忠の岡藤正広会長兼CEOは、1つの人気ブランドに頼って失敗した2度の教訓が経営に生かされていないと考えていた。韓国への過度の依存は同じ轍を踏むことになる。 20年の夏季・東京、22年の冬季・北京とアジアで五輪が続くことから、中国事業の拡大など戦略の転換を強く迫った。 18年、両社の不信を決定的にする“事件”が起きた。6月25日、決算報告に訪れたデサントの石本社長を伊藤忠の岡藤氏が面罵するテープが流出。「週刊文春」(18年11月1日号)は〈伊藤忠のドン岡藤会長の“恫喝テープ”デサント社長に「商売なくなるで」〉と報じた。〈「ここまでナメられたら、やってられへん。俺のことをバカにしとるのか」。任侠映画さながらのセリフが飛び交ったのは一流総合商社の応接室だった。カリスマ経営者と、全く反論できないメーカー社長。約40分間の“恫喝テープ”にはどんな会話が残されていたのか〉と伝えた』、石本氏もいくら若いとはいえ、「全く反論できない」上に、「ここまでナメられたら、やってられへん。俺のことをバカにしとるのか」と啖呵を切るだけとは情けない。
・『石本氏のかたくなな姿勢に、伊藤忠は実力行使を決断。デサントへの出資比率は25%だったが、7月4日以降、デサント株を順次、買い増し、資本の論理でデサントを抑え込む。 すると8月末、デサントはワコールホールディングスと包括業務提携を結んだ。取締役会に緊急動議を提出して機関決定したもので、伊藤忠出身の取締役に事前の根回しはなかった。 伊藤忠は19年1月31日、デサント株のTOBを発表した。買い取り価格は前日の終値の株価に5割のプレミアムをつけた。出資比率を経営の重要事項への拒否権を持てる4割に引き上げる計画だ。伊藤忠に対抗してくれるホワイトナイトをデサントが見つけるのは事実上、困難。これで勝負がついた』、デサントにさんざんソデにされた伊藤忠としては、「5割のプレミアム」で並々ならぬ決意を示したのだろう。。
・『伊藤忠の「デサントの企業価値を高める」戦いが始まるのはこれからだ。200億円を投じてデサントを実質的に手に入れたが、これを上回るリターンを得られなければ、伊藤忠の株主は納得しない。 伊藤忠は22年の北京冬季五輪を見据え、デサントの中国事業を強化する青写真を描く。中国事業のパートナーはスポーツ用品大手、安踏体育用品(ANTA)。丁世忠会長兼CEOは親族を含めてデサント株を7%弱保有。伊藤忠のデサント改革を支持した。 伊藤忠とデサントの対立の爪痕は大きくて深い。国内従業員の9割がTOB反対に署名した事実は重い。社内融和を進めることが急務だ。伊藤忠から送り込まれた小関秀一新社長は“岡藤王国”と呼ばれる繊維の出身。中国通として知られるが、上場企業のトップの器であるかどうかが試されることになる』、デサント社内が落ち着きを取り戻すか、中国事業が強化できるか、などが当面の注目点だろう。
タグ:商社 東洋経済オンライン 日刊ゲンダイ デサントVS伊藤忠 (デサントを巡る買収劇 「最終決着」の舞台裏 会長最側近を送り込み 全責任を負う伊藤忠、デサント<上>独立目指すも失敗 伊藤忠商事に城を明け渡す、デサント<下>“恫喝テープ”まで飛び出した伊藤忠との戦い) 「デサントを巡る買収劇、「最終決着」の舞台裏 会長最側近を送り込み、全責任を負う伊藤忠」 前代未聞の「劇場型TOB 石本雅敏社長が6月開催予定の株主総会をもって退任し、代わって伊藤忠商事の繊維カンパニーでトップを務めていた小関秀一氏が新社長に就任 石本氏以外も生え抜きの取締役は総退陣 鮮明になった“伊藤忠色” 専務執行役員として伊藤忠から派遣される久保洋三氏 久保氏は、十数年前には伊藤忠でデサントとの窓口役を務めていた エース級の人材を投入 約50%ものプレミアム 33.4%を超えることで株主総会における特別決議での拒否権を、すなわち事実上の経営支配権を持つことに デサントはこのTOBへの反対意見を表明 その直後から水面下の話し合いを始めた 2月27日にデサントが取締役会を開いて和解案を議決し、翌28日に公表する段取りまで決まっていたが、合意の直後に石本氏が翻意 その後は「資本の論理」でデサントの現経営陣を排除する方針を貫徹 デサントの未来に責任を負う伊藤忠 昨年6月に決算報告のため伊藤忠本社を石本氏が訪れた際、伊藤忠の岡藤会長との話し合いが決裂 デサントは1984年と1998年に2回、経営危機に陥ったが伊藤忠の支援で再生した経緯 デサント生え抜きによるクーデターによって、2013年に就任したのが創業家の3代目である石本氏だ 「取引強要」 伊藤忠は現在のデサントの収益構造が韓国事業に依存していると指摘し、国内の立て直しや中国事業を拡大する必要性を強調 伊藤忠は今回のTOBに200億円を投じ、かつ経営に全面的にコミットする 伊藤忠によるTOBにはデサントの労組やOB会まで反対の意向を表明 有森隆 「デサント<上>独立目指すも失敗 伊藤忠商事に城を明け渡す」 10人いた取締役を6人に減らした上で、デサント側2、伊藤忠側2、独立した社外取締役2の構成とする伊藤忠の案を丸のみするかたちで、デサントは全面降伏 伊藤忠から数々の批判を受けて、現場のモチベーションは下がっている デサントは2度の経営危機に直面する。84年のマンシングウェアの過剰在庫。98年には売上高の4割を占めていた独アディダスのライセンスの解消だ。 デサントの創業家2代目の石本恵一氏の要請を受け、伊藤忠が2度とも支援し、経営を立て直した デサントの業績が回復するにつれて両社の亀裂があらわになる 「デサント<下>“恫喝テープ”まで飛び出した伊藤忠との戦い」 11年ごろから伊藤忠は自社との取引を150億円に拡大するよう強要 それにデサントの生え抜きの役員たちは不満 クーデターが決行 上乗せ分の大半は韓国事業で、全体の売り上げの5割超を占めた 決算報告に訪れたデサントの石本社長を伊藤忠の岡藤氏が面罵するテープが流出 「ここまでナメられたら、やってられへん。俺のことをバカにしとるのか」 全く反論できないメーカー社長 石本氏のかたくなな姿勢に、伊藤忠は実力行使を決断 ワコールホールディングスと包括業務提携 伊藤忠出身の取締役に事前の根回しはなかった 北京冬季五輪を見据え、デサントの中国事業を強化する青写真
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