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エプスタイン事件(その1)(エプスタイン怪死事件とマックスウェルの亡霊、MITメディアラボのスキャンダルが「テック産業全体」への不信感に繋がる理由) [世界情勢]

今日は、米国で大問題になっており、日本人スタープレーヤーにも影響も与えているエプスタイン事件(その1)(エプスタイン怪死事件とマックスウェルの亡霊、MITメディアラボのスキャンダルが「テック産業全体」への不信感に繋がる理由)を取上げよう。

先ずは、在米作家の冷泉彰彦氏が8月17日付けでメールマガジンJMMに投稿した「エプスタイン怪死事件とマックスウェルの亡霊」from911/USAレポート」を紹介しよう。
・『大統領選挙は「前年の夏」を迎え、本来であればトランプへのチャレンジャーを選ぶ民主党予備選はもっと盛り上がっていてもいはずです。また、連続して発生している乱射事件の報道も、直後はともかく全体として低調です。一方で、中国との通商戦争、そして大統領の連銀への介入などから、米国株は急速に調整が入り実体経済原則(正しくは→減速)の兆候も指摘されていますが、こちらの報道も経済紙やビジネス局が中心となっています。 その代わりと言っては何ですが、この2019年の夏、アメリカでは一つの事件が大きく報道される中で、意外な展開を遂げています。ヘッジファンドを主宰し、巨万の富を築いた億万長者であると同時に、未成年の女性の多くを人身売買や性的虐待の対象とした容疑で逮捕・起訴されたジェフリー・エプスタインの事件に他なりません。 この事件ですが、7月6日にニュージャージーのテターボロ空港に自家用機で着陸したところで、エプスタインが逮捕されたことで、一気に報道が拡大しました。その後一旦は鎮静化していたのですが、8月10日の早朝に、拘置所で死亡しているのが発見されると、改めて大きな騒動となっています。 このエプスタインの事件が話題となった理由としては、容疑そのものが極めて悪質だったことがまずあります。金の力で女性を食い物にしたという話は古今東西に色々とあるわけですが、ここまで大規模なものは珍しいと思います。 カリブ海のUSバージン諸島の一部である、リトル・セント・ジェームス島という島を1998年に買って別荘とした上で、この島を舞台に多くの少女を「人身売買で連行」してきて、虐待の対象としたというだけで、まるで小説や映画のような話です。 更に、話題となっているのが、エプスタインの交友関係の中にビル・クリントンや、その側近であったジョージ・スファノポロス、また英国王室のアンドリュー王子、そして外でもないドナルド・トランプ夫妻の名前があることです。ですから、全貌が明るみに出たとしたら、大きな政治スキャンダルに発展する可能性があるわけです。 これに加えて、エプスタインが死亡したことで、現在この事件の中心人物として、追及を受けつつある一人の女性の問題があります。この女性ですが、20世紀末の欧米で「メディア王」として著名であった故ロバート・マックスウェルの遺児であるギスレーヌ・マックスウェル女史(現在57歳)です』、超弩級のスキャンダルで、確かに「大きな政治スキャンダルに発展する可能性がある」ようだ。
・『このギスレーヌ・マックスウェルですが、ある時期にエプスタインの愛人であったとされています。その一方で、エプスタインは少女性愛の病癖があるので、ギスレーヌは、その幇助をしていた容疑があります。つまり交際相手のエプスタインのために、少女を「調達」していたという疑惑です。 現時点では、ギスレーヌに対する逮捕状は請求されていませんが、彼女に対する民事訴訟が提起される中、メディアは彼女の行方を必死になって追っています。数日前には、カリフォルニアのファーストフード店に現れたとして、『ニューヨーク・ポスト』というタブロイド紙がその写真をスクープして話題になりました。 しかし、他でもない『ニューヨーク・ポスト』が、ロバート・マックスウェルの遺児をスキャンダルで追跡しているというのは、何という因縁でしょう。『ニューヨーク・ポスト』というのは、FOXグループの総帥であるルパート・マードックが1970年代から保有していますが、このマードックこそ、マックスウェルとのメディア戦争を戦った仇敵であったからです。 ちなみに、ロバート・マックスウェルは、その最晩年である90年代初頭に、同紙のライバル紙である『ニューヨーク・デイリー・ニュース』の経営権を保有していたこともあるわけで、何とも言えない巡り合わせを感じます』、「マードックこそ、マックスウェルとのメディア戦争を戦った仇敵であった」、とは確かに「何とも言えない巡り合わせ」までおまけがつくとはまさに超弩級のスキャンダルに恥じない内容だ。
・『この事件ですが、大きく分けて3つの謎を秘めていると思います。 1点目は、外でもないエプスタインの「怪死」という問題です。そもそも、エプスタインの「身柄」に関しては、不自然なことだらけでした。まず、7月6日にどうしてアメリカに入国したのかという疑問があります。報道によればパリから自家用ジェットで戻ってきたところを捕まったのだというのですが、アメリカに入国すれば逮捕される危険がある中で、どうして堂々と戻ってきたのでしょうか? どうしてもアメリカに来て「しなくてはならないこと」があったとして、それは何だったのでしょう? 全くもって小説のような話ですが、もしかしたら何らかの証拠となる文書なりを自分の手で隠滅する必要があったとか、あるいはアメリカ国内に潜伏している何者かと、直接会って会話する必要があったなどの理由が考えられますが、謎のままです。 ところで、逮捕後のエプスタインについては、様々な動きがありました。中でも大きな話題になったのは弁護人からの保釈請求でした。弁護人側は、6千万ドル(約630億円)の保釈金を積んで、エプスタインの身柄を未決囚用の拘置所からマンハッタンの自宅での軟禁に移そうと請求しました。その交渉の過程では、「検察はパスポート、現金、貴金属を押収する」という条件で保釈が認められそうだとか、いやダメだというようなニュースが連日報道されていたのです。 これに対しては、「拘置所から出したら『消される』のでは?」といった説がネットでは飛び交っていました。この保釈請求という問題も、全くの謎です。必死の思いでアメリカに入国した以上は、自宅コンドミニアムにある「証拠隠滅」あるいは、何者かとの面会にこだわったのか、あるいは、弁護人の方が刺客を用意していてエプスタインを「消す」ために保釈を狙ったのか、これも謎のままです。 結果的に、保釈は認められませんでしたが、そのエプスタインは8月10日(土)の早朝6時30分ごろに、拘置所の房内で死亡しているのが発見されました。首には絞めた跡があり、警察は明らかに自殺であると発表しています。 このニュースを受けて、メディアは騒然となりました。警察は「明らかな自殺」としていますが、疑わしい点が数多くあるからです。まず、エプスタインは、一旦、7月27日に自殺未遂を起こしており、直後に24時間のスーサイド・ウォッチ(自殺防止の監視)の対象となっています。ですが、なぜか2日後の29日にはその監視が外されています。これは拘置所の規則違反だそうです。 そのほかにも、2人の房であったのに、同室の被疑者が他に移されて結局は独房状態だったそうで、これも規則違反でした。また、死亡の直前には弁護人が「エプスタインは落ち着いているので、監視の厳しい房から通常の房に出してくれ」という申し立てをして、それが認められたそうです。そこで房を移動したその晩に自殺したというのです。また規定にあった「30分間隔での監視」もされておらず、7時間にわたって監視が外れていたのだそうです。これも規則違反ですが、一連の違反については「人手不足のため」という説明がされています。 極め付けは、検死結果です。エプスタイン側の人間が、遺体を運び出して第三者による検死を行ったところ、通常の縊死ではあり得ないような形で、首の骨が折れていたというのです。仮にそうであれば、他殺説が浮上しそうで大変なのですが、今のところ、この疑惑については多くの疑惑の一つという扱いで、それほど決定的なインパクトは持っていません。そのこと自体が不自然でもあるのですが、この事件の全体が謎であり、闇であることを示しているのかもしれません』、警察が「「一連の違反については「人手不足のため」という説明」、というのはいかにも不自然、自殺との「検死結果」にも疑惑が出るなど、突っ込みどころ満載のようだ。
・『ところで、本稿のこの部分を書いている正にその時点で、「ウォール・ストリート・ジャーナル」のサイトからプッシュで送られてきた情報によれば、警察の公式的な検死結果としては、自殺であることは間違いないという結果が出たそうです。 ちなみに、著名人で、事件への関与も噂されている人物がこの「他殺説」を吹聴しているのですから困ったものです。それは、合衆国大統領であるトランプ自身であり、「下手人はビルとヒラリー」だという陰謀説を、何の根拠なくツイートで拡散しているのです。要するに、クリントン夫妻は、過去に多くの悪事を働いてきたと批判するパフォーマンスの延長ですが、全くもって困ったものです』、トランプ大統領が「下手人はビルとヒラリー」だという陰謀説を、何の根拠なくツイートで拡散している」、というのもおどろくべきことだ。
・『2番目の問題は、そのトランプとエプスタインの「接点」です。 両者の「接点」を具体的に示唆した問題としては、アコスタ問題があります。今から12年前の2007年、エプスタインは、未成年者への性的虐待で起訴されそうになったのですが、フロリダの連邦検事と「秘密の司法取引」を行って、罪を免れたことがありました。その当時の検察官の一人を、こともあろうにトランプは自分の政権下で労働長官に任命していたのです。 それは、アレキサンダー・アコスタという人物です。こんなことをやっていると、本来であれば重罪になるはずのエプスタインを「不起訴にした」ことへの見返りとして閣僚にしたような印象を与えるわけです。この問題については、報道とともに大騒ぎとなり、結局、アコスタは大臣から罷免されました。 更に取り沙汰されているのは、エプスタインがトランプの持っている有名な、フロリダのマー・ア・ラゴを性的虐待の舞台にしていたという疑惑です。両者は、1990年前後から極めて親密で、マー・ア・ラゴを舞台として、多くの美女を集めたパーティーを繰り返していたそうです。 一部には、そもそも奥さんのいるトランプに、メラニアを紹介したのはエプスタインだという噂もあるぐらいです。中でも話題になっているものとしては、レイプ疑惑の問題があります。2016年の大統領選の最中に、匿名の女性が名乗り出て、「自分は13歳の時に、エプスタインのパーティーで、トランプにレイプされた」として、損害賠償請求の民事訴訟を提起したという事件です。ただ、この事件は原告が匿名を貫いたこともあり、信憑性が疑われる中で、トランプ支持者からは「根拠なき誹謗中傷」という抗議が出ました。そんな中で、メディアもこの事件を一旦は敬遠していたという経緯があります』、トランプも叩けばいくらでもホコリが出てくるようだ。
・『3番目の問題は、最初に少しご紹介したギスレーヌ・マックスウェルという女性の位置付けです。エプスタインが死亡した現在、彼女が事件の核心を知る人物として、当局も、またメディアも重大な関心を寄せています。 このギスレーヌ・マックスウェルですが、どうやらエプスタインの交際相手であったのは間違いないようです。但し、エプスタインは少女性愛の病癖があるので、ギスレーヌは、愛する男性のためにその幇助をしていた共犯という可能性が指摘されています。さて、このギスレーヌのことを語るには、やはり父親であるロバート・マックスウェルに触れないわけにはいきません。マックスウェルというのは、ルパート・マードックのライバルとして、英国のデイリー・ミラー、そして当時は米国最大の出版社であったマクミラン社などを手中に収めてメディアの企業帝国を築いていた存在でした。 そのマックスウェルとマードックの確執については、英国の政治家で作家のジェフリー・アーチャーが "The Fourth Estate(1996年、邦題は『メディア買収の野望』)でフィクション化していますので、当時は世界的に大変に有名なライバル同士でした。 また、マックスウェルは、ユダヤ系の実業家としても有名で、一部には秘密組織モサドの工作員だったという説もあります。そのマックスウェルは、1991年11月に地中海で事故死したとされています。その葬儀は、イスラエルのオリーブ山で行われたそうですが、参列した財界人から直接聞いた話では、大変に盛大なものであったそうです。 このマックスウェルの死については、モサドに殺されたなどの噂が多数ありますが、結局のところ彼の死後に明らかとなったのは、裏金を含めた資金繰りが行き詰まっていたということです。ですから、金策尽きて自殺したという考え方が一番自然ではあるのですが、公式的には事故死ということになっています。 ところが、今回の事件などを通して明らかとなってきたのは、その晩年のマックスウェルが、個人的な金融アドバイザーとしてエプスタインを雇っていたという事実です。またその際に父親とエプスタインの連絡係をやっていたのが、ギスレーヌだという説もあります。 そこで一つの疑問が浮かび上がってきます。1991年にロバート・マックスウェルが急死すると同時に、彼が一代で築いたメディア帝国はガラガラと崩壊していきました。グループ全体の本当の財務状況は、マックスウェルだけが把握する中で、総帥の死は綱渡り的な資金繰りを滞らせ、グループの崩壊を招いたのですが、その崩壊は同時にグループの経営の違法性を暴露したのでした。 つまり企業年金資産を抵当に入れて資金調達をするとか、子会社を上場させて調達した資金を非上場の親会社に流したりといった違法行為によって、この企業グループの資金繰りが成立していた、その違法性が明らかになったのです。 マックスウェル帝国が総帥の死によって崩壊したのちに、家業に参画していたその子達、つまりギスレーヌの兄たちは負債を相続したと同時に、違法な企業経営に参画した責任を問われて破滅していったのでした。多くの場合、民事上も、そして刑事上も責任を問われていったのです。 疑問というのは、多くの兄たちが破滅していった一方で、どうして末子のギスレーヌが「経済的にも社会的にも生き残ったのか?」という問題です。同時に、このマックスウェル帝国の崩壊に当たって、マクスウェルの相談相手であったエプスタインが、むしろ財を成している可能性があるという点です。 何しろ、マックスウェルの残したのは、最低でも4億ポンド(530億円?)という巨額の負債と、主として英国と米国を舞台にした刑事訴追というマイナスでした。 そこから、エプスタインとギスレーヌがどうして逃げおおせたのか、どうしてもその点に疑問を感じざるを得ないのです』、これだけ多くの疑惑が山積しているのであれば、当面、アメリカのメディアは大忙しだろう。
・『いずれにしても、エプスタインの死の真相、そしてトランプとの関係、更にはエプスタインとマックスウェル家、特に亡くなった総帥ロバートと、残されたギスレーヌとの関係と、謎が謎を呼ぶストーリーであることは間違いありません。そこには、セクシャリティの異常性という問題、あるいは政治やスパイ組織の陰謀という可能性も含まれており、そうした要素を完全に排除することはできません。 ですが、この一連の問題を整理するには、やはり「カネ」という観点を軸に考えるのが一番の近道である、そのようにも思うのです。つまり、1991年のロバート・マックスウェルの死も、その28年後、2019年のジェフリー・エプスタインの死も、同じように資金繰りに窮する中での自滅であったという可能性です。 その上で、ギスレーヌがエプスタインに接近したのは、男女の関係という要素もあったかもしれませんが、それ以上に亡くなった父の財産を、少なくとも母であるマックスウェル夫人と自分の手元にはある程度残しておきたい、そのためにエプスタインの協力が必要だったという可能性はあります。もしかしたら、マックスウェル帝国の破滅に巻き込まれないためには、エプスタインの方もギスレーヌを必要としていたのかもしれません。 トランプとエプスタインとの関係も、同じように「女性を集めて支配するのが好き」という悪癖で仲間になったのかもしれませんが、それ以上に、破産法を駆使して事業を整理しながら私財はチャッカリ確保してきたトランプにとって、エプスタインの才覚と組む理由はあったのかもしれません。 そう考えると、やはりこのエプスタインとトランプというのは、最近はともかく相当に抜き差しならない関係であり、エプスタインの事件の捜査が続く限り、トランプは恐らく気が休まることはないのではないでしょうか。決定的な証拠が出て来る可能性は薄くても、2020年の選挙へ向けて、中間層におけるトランプの印象にはダメージになる可能性はあると思われるからです』、「エプスタインとトランプというのは、最近はともかく相当に抜き差しならない関係であり、エプスタインの事件の捜査が続く限り、トランプは恐らく気が休まることはないのではないでしょうか」、トランプのコア支持層である「忘れられた白人層」への影響は余りないだろうが、その他の支持層へは影響しそうだ。
・『ちなみに、捜査の現状としては、やはりエプスタインによる、多くの当時未成年であった女性たちへの虐待についての事実確認ということが中心です。当局も、メディアも、当面は、そうした捜査の状況を追いながら、最終的にはエプスタインとギスレーヌがあらゆる手段を使って保全した父ロバート・マックスウェルの遺産が、エプスタインから虐待を受けた被害者救済に使われることを目指している、現在進んでいるのは事実上そのような方向性であると考えられます。 いずれにしても、この事件、主役は死んだとはいえ、全くの現在進行形であり、今後の展開が注目されます』、劇場型のトランプ政治に、飛んでもない1幕が加わったものだ。「今後の展開」が楽しみだ。

次に、マイナースタジオ代表取締役CEOの石田 健氏が9月11日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「MITメディアラボのスキャンダルが「テック産業全体」への不信感に繋がる理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/214469
・『MITメディアラボの所長を務めていた伊藤穣一氏が9月7日に辞表を提出した。「Joi」の愛称で知られ、日本とアメリカのテクノロジー・コミュニティーから尊敬を集めていた同氏の去就は、日本国内でも話題を集めている。 この辞任の引き金となったのは、アメリカの実業家として知られるジェフリー・エプスタイン被告の獄中自殺を発端とした報道だ。エプスタイン被告は多数の少女を性的虐待したことで起訴された後、不審とも言える自殺を遂げた。その後、被告からメディアラボが寄付を受けていたことが明らかになり、複数の研究者が抗議辞任。先月15日、伊藤氏は自身の個人ファンドも被告から出資を受けていたことを明らかにした上で謝罪文を公開した』、伊藤穣一氏はNHK番組にもよく登場し、参考になる意見を述べていたので、尊敬していたが、このような結果になり残念だ。
・『The New Yorkerのスクープで事件が急変  謝罪文を公開した時点では伊藤氏が「飛び火」を受けたかのような印象だったが、今月6日にThe New Yorkerが新たな記事をスクープしたことで事態は急変する。 それによれば、エプスタイン被告はMITの寄付者データベースに「不適格」と示されていたものの、メディアラボ側はそれを知りながら寄付を受け取っていた。しかも、リークされたメールでは、伊藤氏がスタッフに対して被告に関係した資金を匿名処理するよう指示しており、メディアラボにおいて被告が「ヴォルデモート」(小説『ハリー・ポッター』シリーズ)に登場する“名前を言ってはならない人”)と呼ばれていたことも明かされた。また被告に関係した資金は当初80万ドルとされていたが、750万ドルにのぼることも示唆されている。 一連の報道は、伊藤氏が違法行為に手を染めていたわけではないものの、明らかに倫理的逸脱があり、当初の謝罪にも虚偽が含まれていることを示した。たとえば朝日新聞は今回の辞任を「混乱を収束させる狙い」と記事で述べるなど、日本の主要メディアでは未だに伊藤氏が飛び火を受けたかのような論調で報じているが、事件のインパクトと経緯を考えれば、より踏み込んだ理解が必要になる』、確かに「伊藤氏が飛び火を受けたかのような論調」、というのは通用しないようだ。
・『起業家、投資家としての手腕も買われた伊藤氏  伊藤穣一氏は、日本のテック産業で広く知られる存在である。TwitterやFlickrなど名だたるネットサービスの投資家として知られ、日本でも東証一部に上場するデジタルガレージの共同創業者を務めるほか、ソニーやカルチュア・コンビニエンス・クラブなど名だたる大企業で取締役などを務めた。 最近では、NHK教育テレビ「スーパープレゼンテーション」でナビゲーターを務めたことで世間一般での知名度も高まっていた。2011年、伊藤氏がメディアラボ所長へと就任した際は、学位を取得していない人物の選任という「異例」の人事が注目を集めたが、彼の実績を考えても適任だという声が出てくるほど、業界内では知名度のある存在であった』、「学位を取得していない人物の選任という「異例」の人事が注目」、よほど他の能力が優れていたのだろう。
・『「#MeToo」ムーブメントに連なる事件の重大性  事件の重大性は、たんに伊藤氏が有名人だからという点ではない。そこには3つの重要なポイントが指摘できる。 まず、この事件が2017年から続く「#MeToo」ムーブメントの延長線上の出来事として理解される点だ。今回、The New Yorkerで記事を執筆したのが、ローナン・ファロー氏。同氏は、MeTooムーブメントのきっかけとなったハーヴェイ・ワインスタイン被告によるセクハラの調査報道記事を執筆したことで知られる。 驚くべきことに、ファロー氏は女優ミア・ファロー氏と映画監督ウディ・アレン氏の実子であり、最近ではミア・ファロー氏が「(アレン氏の子どもではなく)フランク・シナトラの息子かもしれない」と明かしたことで話題を集めた。セレブリティの息子でありながらジャーナリストとして申し分のない実績を上げている同氏が、この問題を1つの研究機関の醜聞としてではなく、アメリカ社会を揺るがすムーブメントのなかに位置づけていることは想像に難くない。 当初メディアラボに批判が集まった際、業界の著名人らが伊藤氏を擁護するサイトを立ち上げたが、メディアラボの院生アルワ・ムボヤ氏は「なぜエプスタインによって傷つけられていた少女に心を傷めなかった人が、伊藤が職に留まることを気にかけるのでしょうか?」と批判した。おそらく伊藤氏を擁護した人々は、この問題が#MeTooムーブメントに連なる重大な局面にあるという認識はなかっただろう』、なるほど。
・『NYTは最も酷「い真実を印刷しなかった」  もう1つは、本件がThe New Yorkerで報じられる前に、The New York Times(NYT)に持ち込まれていたものの、根幹部分が報道されなかったという疑惑だ。これは、ジャーナリストのジーニ・ジャーディン氏が指摘しており、内部告発者がすべてを話したにもかかわらず「最も酷い真実を印刷しなかった」と述べている。 ジャーディン氏の指摘にNYTから応答はないものの、重要な事実は伊藤穰一氏がNYTのボードメンバーであった(すでに辞任)点だ。言うまでもなく、NYTには本件に対する説明責任が求められる。 そして最後に、メディアラボ自体の問題がある。日本でも知名度の高いメディアラボだが、今回の事件を受けて批判的な声も出始めている。メディアラボの研究成果について疑義を投げかけるBusiness Insiderやテクノエリートの欺瞞(ぎまん)を指摘するGuardian、メディアラボを「疑似科学の学術機関」とすら述べるFortuneのような声は、近年の巨大テック企業への不信感と相まってますます増えていくだろう。 メディアラボに限らず、誇大宣伝された研究や理想主義的な美辞麗句によって内実が覆い隠されたプロジェクトを検証する動きは、今後強まっていくかもしれない。 またメディアラボの行く末自体も不透明だ。人身売買の被害者が、エプスタイン被告が所有する島において人工知能の大家マーヴィン・ミンスキー氏(2016年死去)と性行為をさせられたという告発がすでに報道されている。ミンスキー氏はメディアラボの共同創設者であり、研究機関のスタート時点から問題を抱えていたことが明らかになれば、その存続に影響が出てくる可能性もある』、「メディアラボの研究成果について疑義」が出てきたとは大変なことだ。
・『テック産業全体の不信感につながる可能性  今後、事件が起きた背景も解明されていくはずだが、伊藤氏がメディアラボの資金調達を期待されていたという点は見逃せない。 所長就任に際してNYTは、伊藤氏がメディアラボの資金調達を推進する役割があることを報じていた。メディアラボの創設者ニコラス・ネグロポンテ氏によれば、政府や大企業のスポンサーから得ているメディアラボの運営費用は過去10年間で減少しており、伊藤氏は他候補よりも資金調達を推進するリーダーシップが際立っており、その点が評価されたことを明言している。 「自戒:クソ野郎から投資話や金を受け入れてはならない」と自らTwitterで表明していた伊藤氏にとって、資金調達を重視するあまりの倫理的逸脱が本件を招いたのか、あるいはエプスタイン被告の愚行を軽視していたのかは、まだ明らかではない。しかし伊藤氏が被告の行為を「知らなかった」と述べているが、2008年にはエプスタイン被告の罪は明らかになっていた。自宅に足を運ぶ間柄でありながら、被告の罪を知らなかったことに疑念の声もあがっており、MITの調査によって踏み込んだ事実も明らかになっていくだろう。 テック産業と不透明な資金の関係性は、今回だけの問題ではない。 サウジアラビアのジャーナリストが暗殺された事件にムハンマド・ビン・サルマン皇太子が関与していた可能性を受けて、サウジアラビア政府から出資を受けているソフトバンクにも批判が集まっている。完全に透明性を持った資金を探してくることは容易ではないが、MITやソフトバンクのような業界のリーダーたちが不透明な資金を受け入れていたことは、産業全体への不信感に繋がっていくことだろう。 テック産業がアメリカ西海岸のユートピアを体現するカウンターカルチャーであった時代はすでに終焉した。いまやそれは、プライバシーや倫理的観点から強い疑義を向けられる巨大産業であり、その資金源に注目が集まるのは至極当然のことである。産業で最もよく知られた研究機関の1つが直面したスキャンダルは、当初の印象よりも広い範囲に影響を及ぼすかもしれない』、広く「テック産業」にも「当初の印象よりも広い範囲に影響を及ぼすかもしれない」、というのは重大なことだ。今日は、長くなったので、明日はエプスタイン事件とMITメディアラボの関係を、さらに掘り下げてみたい。
タグ:石田 健 冷泉彰彦 ダイヤモンド・オンライン メールマガジンJMM エプスタイン事件 (その1)(エプスタイン怪死事件とマックスウェルの亡霊、MITメディアラボのスキャンダルが「テック産業全体」への不信感に繋がる理由) 「エプスタイン怪死事件とマックスウェルの亡霊」from911/USAレポート」 拘置所で死亡 リトル・セント・ジェームス島 、この島を舞台に多くの少女を「人身売買で連行」してきて、虐待の対象としたというだけで、まるで小説や映画のような話 エプスタインの交友関係の中にビル・クリントンや、その側近であったジョージ・スファノポロス、また英国王室のアンドリュー王子、そして外でもないドナルド・トランプ夫妻の名前がある 大きな政治スキャンダルに発展する可能性 ロバート・マックスウェルの遺児であるギスレーヌ・マックスウェル女史 エプスタインは少女性愛の病癖があるので、ギスレーヌは、その幇助をしていた容疑 マードックこそ、マックスウェルとのメディア戦争を戦った仇敵 3つの謎 1点目は、外でもないエプスタインの「怪死」という問題 どうしてアメリカに入国したのかという疑問 どうしてもアメリカに来て「しなくてはならないこと」があったとして、それは何だったのでしょう 弁護人からの保釈請求 拘置所の房内で死亡しているのが発見 警察は明らかに自殺であると発表 エプスタインは少女性愛の病癖があるので、ギスレーヌは、その幇助をしていた容疑があります 24時間のスーサイド・ウォッチ(自殺防止の監視)の対象となっています。ですが、なぜか2日後の29日にはその監視が外されています 死亡の直前には弁護人が「エプスタインは落ち着いているので、監視の厳しい房から通常の房に出してくれ」という申し立てをして、それが認められたそうです。そこで房を移動したその晩に自殺したというのです 「30分間隔での監視」もされておらず、7時間にわたって監視が外れていた 一連の違反については「人手不足のため」という説明 エプスタイン側の人間が、遺体を運び出して第三者による検死を行ったところ、通常の縊死ではあり得ないような形で、首の骨が折れていたというのです トランプ自身であり、「下手人はビルとヒラリー」だという陰謀説を、何の根拠なくツイートで拡散 2番目の問題は、そのトランプとエプスタインの「接点」 エプスタインは、未成年者への性的虐待で起訴されそうになったのですが、フロリダの連邦検事と「秘密の司法取引」を行って、罪を免れた その当時の検察官の一人を、こともあろうにトランプは自分の政権下で労働長官に任命 エプスタインを「不起訴にした」ことへの見返りとして閣僚にしたような印象を与える エプスタインがトランプの持っている有名な、フロリダのマー・ア・ラゴを性的虐待の舞台にしていたという疑惑 匿名の女性が名乗り出て、「自分は13歳の時に、エプスタインのパーティーで、トランプにレイプされた」として、損害賠償請求の民事訴訟を提起したという事件です 3番目の問題は、最初に少しご紹介したギスレーヌ・マックスウェルという女性の位置付け エプスタインが死亡した現在、彼女が事件の核心を知る人物として、当局も、またメディアも重大な関心 マックスウェルは、ユダヤ系の実業家としても有名で、一部には秘密組織モサドの工作員だったという説も 晩年のマックスウェルが、個人的な金融アドバイザーとしてエプスタインを雇っていた 一連の問題を整理するには、やはり「カネ」という観点を軸に考えるのが一番の近道 トランプとエプスタインとの関係も、同じように「女性を集めて支配するのが好き」という悪癖で仲間になったのかもしれませんが、それ以上に、破産法を駆使して事業を整理しながら私財はチャッカリ確保してきたトランプにとって、エプスタインの才覚と組む理由はあったのかもしれません 「MITメディアラボのスキャンダルが「テック産業全体」への不信感に繋がる理由」 伊藤穣一氏が9月7日に辞表 被告からメディアラボが寄付を受けていたことが明らかになり 伊藤氏は自身の個人ファンドも被告から出資を受けていたことを明らかにした上で謝罪文を公開 The New Yorkerのスクープで事件が急変 エプスタイン被告はMITの寄付者データベースに「不適格」と示されていた メディアラボ側はそれを知りながら寄付を受け取っていた。しかも、リークされたメールでは、伊藤氏がスタッフに対して被告に関係した資金を匿名処理するよう指示しており、メディアラボにおいて被告が「ヴォルデモート」(小説『ハリー・ポッター』シリーズ)に登場する“名前を言ってはならない人”)と呼ばれていた 被告に関係した資金は当初80万ドルとされていたが、750万ドルにのぼる 起業家、投資家としての手腕も買われた伊藤氏 学位を取得していない人物の選任という「異例」の人事が注目 「#MeToo」ムーブメントに連なる事件の重大性 NYTは最も酷「い真実を印刷しなかった」 テック産業全体の不信感につながる可能性 テック産業がアメリカ西海岸のユートピアを体現するカウンターカルチャーであった時代はすでに終焉した。いまやそれは、プライバシーや倫理的観点から強い疑義を向けられる巨大産業であり、その資金源に注目が集まるのは至極当然
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トランプ大統領(その42)(アメリカが心酔する「新ナショナリズム」の中身 保守主義の「ガラガラポン」が起きている、トランプ再選の哀しい切り札 米国を切り裂く人種間分断の深刻、トランプ氏「グリーンランド購入」発言 火消しの米) [世界情勢]

トランプ大統領については、6月13日に取上げた。今日は、(その42)(アメリカが心酔する「新ナショナリズム」の中身 保守主義の「ガラガラポン」が起きている、トランプ再選の哀しい切り札 米国を切り裂く人種間分断の深刻、トランプ氏「グリーンランド購入」発言 火消しの米)である。

先ずは、元共同通信論説委員長で青山学院大学教授、ジャーナリストの会田 弘継 氏が6月27日付け東洋経済オンラインに寄稿した「アメリカが心酔する「新ナショナリズム」の中身 保守主義の「ガラガラポン」が起きている」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/288843
・『今度のスローガンは「アメリカをつねに偉大に(Keep America Great)」だという。アメリカのドナルド・トランプ大統領が6月18日再選出馬を宣言した。共和党内の支持率は9割近くに達し、同党の大統領候補選びでは対抗馬はまだ出そうにない。仮に再選で敗れたとしても、共和党内での大きな影響力は続くだろう。だとすれば、この数十年間、共和党の屋台骨をつくってきたアメリカ保守主義はどうなるのか――』、興味深そうだ。
・『「トランピズム」の核心  自由貿易や小さな政府といった、アメリカ保守主義の中核的な理念について、トランプ大統領は重視していない。自由貿易を核として進むグローバリゼーションに対しては敵視さえしている。自由貿易と並んで、冷戦後期以来、アメリカ保守主義外交の中心的テーマであった民主化の拡大、つまりネオコン(新保守主義者)路線にも否定的だ。 自由貿易に代わって保護主義、他国の民主化などより「アメリカ・ファースト」で非介入路線。これが、トランピズム(トランプ主義)の核心だ。 そうなった背景は、トランプが疲弊した白人労働者階級をターゲットにして、彼らの力を借りて綱渡りのように中西部のラストベルト(錆びた工業地帯)の各州を勝ち取り、大統領ポストを手にしたからだ。 逆に、そのように勝利したことで、ラストベルトの白人労働者の不安や不満への対処を共和党の政策から切り離すことはできなくなり、そうした政策を支える理念が必要になった。つまり、新しい時代状況と政策に沿い、それらを主導していくための思想の模索が始まった。保守思想再編への動きである。 本連載の第1回で取り上げたように、そうした再編は保守派メディアの変革という形で表面化している(『日本人が知らない「トランプ派メディア」の本質』)。今回はメディア変革の裏側で起きている思想再編に、さらに焦点を当ててみる。 第1回ではネオコン論壇の旗艦のような雑誌であった『ウィークリー・スタンダード』の廃刊について触れた。それ以前に、ネオコン論壇誌では内政専門誌『パブリック・インタレスト』が2005年には廃刊し、外交専門誌『ナショナル・インタレスト』は現実主義外交系シンクタンクに買い取られた。 残るネオコン系主要誌は『コメンタリー』だけとなった。アフガン・イラク戦争の長期化に加えてリーマン危機にさらされたアメリカ国民の徒労感や挫折感が、論壇状況を変えてきた。トランプはそうした思想環境を背景に出てきたことは第1回で説明したとおりである』、一時は一世を風靡したネオコンもすっかり形無しのようだ。
・『新たに出現したトランプ派メディアなどを舞台に、一部の知識人グループがトランプ登場を歴史的機会と捉え、保守思想を組み替え、新たな思想運動を起こそうとしている。ここに来て、そのが形が徐々に見え始めた。きっかけとなったのは、保守派ケーブルテレビ、FOXニュースの人気政治コメンテーター、タッカー・カールソンのこの1月の発言だ。 カールソンは、6月20日にトランプ大統領がイラン軍事攻撃を直前で中止した際に、大統領に大きな影響を与えた人物と見られている。トランプは個人的にしばしば助言を仰ぎ、カールソンはイランと戦争を始めることには強く反対してきていた』、「イラン軍事攻撃を直前で中止した際に、大統領に大きな影響を与えた人物」、ということでは、今後も要注目だ。
・『労働者層を踏み台にするエリートという構図  そのカールソンは1月初め、市場経済とアメリカの「家族」の問題について、次のようなことを番組の中で長々と「独り言」として述べた。 「アメリカでは今や、結婚は金持ちしかできない。そんなことでいいのか。半世紀前には、結婚や家族生活において階級格差などほとんどなかった。1960年代後半から、貧困層が結婚できなくなった。1980年代には労働者階級のかなりの部分でそうなってきた。18~55歳の貧困層では26%、労働者階級では36%しか結婚していない」 労働者階級の子どもを見ると、半分近く(45%)が14歳までに両親の離婚に直面している。さらに婚外子、家庭崩壊などが激しく増加している。中間層以上の裕福な家庭では56%の成人が結婚しており、離婚率もずっと低い。どうしてか。 市場経済がなすがままにする連邦政府の誤った政策が、労働者階級の「家族生活」の経済的・社会的・文化的基盤を台無しにしている。カールソンはそう批判した。製造業の働き口がなくなり、高卒以下の労働者の賃金が下がり続け、結婚もできず、家庭は崩壊し、薬物・アルコール濫用、犯罪増加につながっている、と指摘した。 富裕層のエリートたちは労働者を踏み台にして、脱工業化経済の中で繁栄を享受しているのに労働者の苦境に見て見ぬふりをしている。「すさまじい怠慢ぶり」だ、とカールソンが激しく批判した。 共和党だけでなく民主党も同罪だと述べ、大きな問題は、アメリカ保守思想の一方の核である「市場」が、もう1つの核である「家族」を破壊しているということだ、と論じた。「家族の価値」を重んじる保守派による資本主義批判という点が注目される』、格差を問題視するのはリベラルに通じる面もあるが、「大きな問題は、アメリカ保守思想の一方の核である「市場」が、もう1つの核である「家族」を破壊しているということだ、と論じた」、「家族」重視という点で保守主義なのだろう。。
・『これに対し、中西部ラストベルトの崩壊貧困家庭からはい上がって、自身の物語を『ヒルビリー・エレジー』という本にまとめ、今は保守派論客となったJ・D・ヴァンスは保守派論壇誌『ナショナル・レビュー』への寄稿で満腔の賛意を表明した。 アメリカのGDPは拡大し、輸入雑貨が安く買えても、子どもの死亡率は下がらず、離婚も減らないし、寿命まで縮んでいる地域がある。これで豊かな国だといえるのか。「政府の介入」が必要だ。「市場が解決する」などありえない。 トランプ政権時代に入り、アメリカの保守派からこうした声が出るのは当たり前のように思えるが、FOXテレビや『ナショナル・レビュー』という保守の中核メディアで保守派論客が堂々と市場経済を否定し、大きな政府(「政府の介入」)を求め、しかも市場経済が家族を破壊しているとまで主張するのは、大きな思想変化が起きたことを意味する。既成の保守派内から猛然と反論が出たのは当然であった』、「保守の中核メディアで保守派論客が堂々と市場経済を否定し、大きな政府(「政府の介入」)を求め、しかも市場経済が家族を破壊しているとまで主張するのは、大きな思想変化」、日本では余り伝えられないが、確かに重要で「大きな思想変化」だ。
・『トランプ以前の保守コンセンサスには戻れない  保守理念を根本から問い直すようなカールソンの独り言が大きな出来事となったのは、それだけで終わらなかったからだ。 今年3月、宗教右派系の中では有力な論壇誌『ファースト・シングス』に「著名な15人の保守派著述家・学者」(ニューヨーク・タイムズ紙)が、「無効なるコンセンサスに抗して」という声明を発表した。 「無効なるコンセンサス」とは、これまでアメリカ保守主義の核となってきた理念のことだという。具体的には、「自由貿易、国境を越えた人の自由な移動、小さな政府、あらゆる問題の解決策としてのテクノロジー」といったドグマを指している。 声明は、こうしたドグマは20世紀における共産主義との戦いでの勝利に重要な役割を果たしたが、いまでは「家族制度の安定、共同体の団結」を破綻させ、「日常生活のポルノ化、死の文化、競争への盲信、悪質な検閲のような多文化主義」を招き入れている、と論じた。 その背景は、実はアメリカの保守主義がその敵であるリベラリズム(進歩主義)と同じ「個の自律(individual autonomy)」の 原理で動いてきたからだ。個の自律を崇めてきた結果、保守主義がもっとも忌み嫌う「専制(tyranny)」が生まれてしまったのは、皮肉ではないか――と、声明は論じた。 トランプ現象はこうした問題に対処する機会を与えている。もはやトランプ以前の保守のコンセンサスに後戻りすることは不可能だ。「レーガン主義の復活を望む者たちとは手を組まない」。自由な貿易や人の移動で利益を得ているのはエリートだけであり、そこから出現する「世界的専制」に対抗する「新たなナショナリズム」を支持するのだ、と声明は宣言した』、「実はアメリカの保守主義がその敵であるリベラリズム(進歩主義)と同じ「個の自律(individual autonomy)」の 原理で動いてきたからだ。個の自律を崇めてきた結果、保守主義がもっとも忌み嫌う「専制(tyranny)」が生まれてしまったのは、皮肉ではないか――と、声明は論じた」、なるほど言われてみればそうなのかも知れない面白い見方だ。
・『この声明が大きな意味を持つのは、既成のアメリカ保守主義とリベラリズム(進歩主義)は同じ穴のムジナだと批判し、この双方を否定したうえでトランプ以降の新たな保守主義の確立を訴えている点である。一種のガラガラポンのようなことを始めようとしている。そのキーワードが新たなナショナリズムだ。 一方、保守系論壇誌『クレアモント・レビュー・オブ・ブックス(CRB)』に「トランピズムとナショナリズムと保守主義」と題する論文が2月下旬に掲載され、これも保守思想界にちょっとしたセンセーションを起こした。連載第1回で紹介したように、CRBは躍進しているトランプ派メディアの1つだ。思想史的には西海岸の(レオ・)シュトラウス派と呼ばれる潮流の中で生まれた論壇誌である』、「新たなナショナリズム」とはどんなものなのだろう。
・『「国民精神の復活」が連鎖的に起きている  論文の著者は、クリストファー・デムート。保守派有力シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)理事長を1980年代から20年以上務め、財政危機にあった同研究所を立て直した。AEIは長くネオコンの牙城と見なされていた。デムートはその理事長を退いたあと、保守系ハドソン研究所の特別研究員となっている。保守シンクタンク界の大立て者といっていい。 そのデムートが、トランプ派CRBへの寄稿論文で「トランピズムのエッセンスはナショナリズム」であると要約し、いま米欧先進各国では「国民精神の復活」が、ちょうど「諸国民の春」と呼ばれた1848年革命の時と同じように連鎖的に起きていると分析した。1848年革命では、欧州各国の市民は蜂起して王侯貴族らが国境を越えてつくるエリート体制を打ち倒そうとした。 デムートはイギリスのジャーナリスト、デビッド・グッドハートの著書を引用し、「どこでもたち(Anywheres)」に対する「どこかたち(Somewheres)」の反乱だと論じた。「どこでもたち」とはグローバルに活動するエリートたち。彼らは世界中の同類がいるところなら、どこに住もうと構わない。エリートのネットワークの中で豊かに生きている。 他方で「どこかたち」は、地域に根付いて暮らす労働者や農民だ。家族、地域社会やさまざまな共同体、そして信仰が大切だ。トランプは、「どこかたち」の反乱の力を借りて登場した。「どこか」が反乱を起こしているのは、「代表政治」が衰退して彼らの声が届かなくなったからだ……とデムート論文は展開し、連邦議会の改革などを提案する。 デムートは、このままトランプが目指す方向でアメリカ政治が動いていけば、「保守主義運動と共和党はこれまでとは違ったものになる。保守の意味がまったく新しいものなる」とし、そこに向かって実際に思想的な再編が進んでおり、再編は「ナショナリズムの復活に形と意味を与えることを目的にすべきだ」と訴えていることだ』、「「どこでもたち(Anywheres)」に対する「どこかたち(Somewheres)」の反乱だ」、というのも確かに当てはまりそうな面白い見方だ。
・『カールソンの「独言」から始まり『ファースト・シングス』の声明に至る一連の動きが示しているのは、保守派陣営内で冷戦期以来の保守思想から脱却して、新たな思想形成の動きが始まっており、その核に「ナショナリズム」が据えられていることだ。 アメリカでは、これまでナショナリズムという言葉は、ナチズムやファシズムと結びつけられて、否定的なニュアンスを込めて使われることが多かった。愛国主義的な意味を表現する場合は「パトリオティズム」が使われてきた。それは左右を問わなかった。そのナショナリズムが今、保守派内で前面に出されて使われるようになったことだけでも、思想風土の変化をうかがわせる』、こうした「ナショナリズム」は、トランプのアメリカ・ファーストだけでなく、欧州での極右の主張にも通じるものがありそうだ。
・『7月には保守派論壇が大集合  デムートは、論文の中で「保守的ナショナリズム」という言葉を使い、これからの方向性を示そうとしている。デムートの考え方に影響を与えたのは、イスラエルのシオニスト思想家ヨラム・ハゾニーの著書『ナショナリズムの徳』(2018年)である。 デムートの論文は書評の形式を取っており、同書も含め主にこの2~3年に著された9冊を取り上げている。タッカー・カールソンの著作も挙げている。保守派の思想再編を考えるうえで極めて重要な著作が含まれる。 興味深いのは、民主党に近い政策も取り込んで保守派を改革しようとし、2016年選挙でマルコ・ルビオ上院議員を推した「リフォーモコン(改革派保守)」の間でも新しいナショナリズムを標榜する動きが出ていることだ(東洋経済プラス拙稿『進化する「リフォーモコン」』参照」)。 これまで挙げてきた、カールソン、デムート、ハゾニーや『ファースト・シングス』に声明を出した知識人グループや、トランプ時代の新たな思想を模索するCRBや『アメリカン・アフェアーズ』など論壇誌の主催者らは、この7月中旬にワシントンに大集合し、「ナショナル・コンサーバティズム(国民保守主義)」の形成について話し合う。 その国民保守主義のベースとなるのは、『ナショナリズムの徳』をはじめデムートが挙げた最近の重要著作のいくつかだ。これらの著作の中心的主張は、『ファースト・シングス』声明にあった「個の自律」批判である。これは、個人の自由と平等を中心に据えたアメリカ建国理念の批判にまで至りかねない。次回はそれらの内容から、アメリカ保守思想再編の中身をさらに探っていく』、「「ナショナル・コンサーバティズム(国民保守主義)」の形成について話し合う」の結果はどうなったのだろうか、筆者の報告が楽しみだ。

次に、みずほ総合研究所調査本部 欧米調査部長の安井明彦氏が7月24日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「トランプ再選の哀しい切り札、米国を切り裂く人種間分断の深刻」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/209665
・『2020年の大統領選挙を前に、米国が人種問題に揺れている。トランプ大統領が人種差別とも批判される言動で白人票固めを急ぐ一方で、民主党の各候補は黒人票の獲得を競う。奴隷制から公民権運動へと重い歴史を持つ人種間の分断が、大統領選挙の行方を左右しそうな雲行きだ』、もともと移民により多民族国家として成立した米国で、「人種間の分断」を煽ったことで、銃乱射事件などが多発しているのも、深刻な問題だ。
・『トランプ支持者が「人種差別」的な発言に追随  「彼女を(国に)送り返せ、彼女を(国に)送り返せ」 7月17日、ノースカロライナ州で行われた選挙集会で、支持者から自然発生的に沸き起こったコールが、全米を驚愕させている。「人種差別」とも批判されたトランプ大統領の言動を、支持者が自発的に受け継いだからだ。米国の汚点であるはずの人種差別を示唆する言葉が広く共有された衝撃からか、当日の夕方には、辞書大手のメリアム・ウェブスター社のサイトで、人種差別が検索ワードの1位に躍りでた。 引き金となったのは、トランプ大統領による3日前のツィートである。トランプ大統領は、集会に先立つ7月14日、ソマリア生まれのオマール下院議員や、プエルトルコ系のオカシオコルテス下院議員など、民主党の4人の女性・非白人議員を、もともといた国に「帰ったらどうか」とツィッターで攻撃した。 これに対して、民主党の議員を中心に「大統領にあるまじき人種差別的な発言だ」との反発が広がった。民主党が多数派である米下院では、大統領を非難する決議が採択される騒ぎとなっている。 米メディアは、その言葉が持つ歴史的な重みから、あまり人種差別という表現を使わない。しかし、今回のトランプ大統領のツィートに関しては、「米国の人種差別の歴史に深く根ざした言葉使いだ(ワシントンポスト紙)」と断じる向きがある。 第二次世界大戦当時の日系移民が標的となったように、特定の人種の人々を「(国に)帰れ」と攻撃するのは、米国における人種差別の伝統的な論法だという。なかには、過去にオバマ大統領が米国生まれかどうかを疑問視した経緯などを紐解き、トランプ大統領の人種差別的な傾向を指摘する報道すら見られる。 そうしたなかで迎えた17日の選挙集会は、米国における人種間の分断の深さを浮き彫りにすると同時に、再選を目指すトランプ大統領にとっては、白人の人種差別的な感情に訴えかける戦略の有効性が示された出来事となった。あれだけの論争があったにもかかわらず、トランプ大統領が演説でオマール議員を批判するや否や、人種差別的とされた「(国に)帰れ」を連想させる言葉を、大統領の支持者は熱狂的に唱和した。それは、誰に促されたわけでもなく、自然に生まれた現象だった』、「トランプ支持者が「人種差別」的な発言に追随」、というのは恐ろしいことだ。
・『「忘れられた人々」を動かした非白人・移民への反感  どうやらトランプ大統領は、人種間の分断を切り札に、2016年大統領選挙の再現を狙っているようだ。4人の民主党議員を巡る騒動に限らず、最近のトランプ大統領には、非白人に対して厳しい言動が目立つ。不法移民に関しては、強制送還を視野に入れた一斉摘発の方針が明らかにされている。急増する中米からの難民に関しては、来年の受け入れをほぼゼロにする計画が進んでいると報じられている。 背景にあるのは、2016年の成功体験である。トランプ大統領が予想外の勝利を収めた理由の1つは、それまでの民主党支持から乗り換えた白人の存在にある。2012年にオバマ大統領に投票した有権者を追跡調査すると、2016年の大統領選挙では9%がトランプ大統領に乗り換えている。その8割以上を占めるのが、白人の有権者だった。 立場を変えた白人の象徴的な存在が、中西部の白人ブルーカラー層である。2016年の大統領選挙では、ペンシルバニア州やミシガン州など、共和党が連敗してきた中西部の州における勝利が、トランプ大統領の誕生を支えた。その原動力となった中西部の白人ブルーカラー層は「忘れられた人々」と称され、製造業の停滞による経済的な苦境を理由に、トランプ大統領の米国第一主義に魅了されたと言われてきた。 しかし、「忘れられた人々」がトランプ大統領に引き寄せられたのは、経済的な理由だけではなかった。実際には、経済政策では民主党の主張に近い有権者までもが、人種や移民の問題を理由に、トランプ大統領支持に乗り換えていた。そこで強い吸引力となったのは、メキシコからの移民に対する口汚い批判のように、人種差別的な感情を刺激したトランプ大統領の主張だった。 世論調査によれば、2016年の大統領選挙は、人種や移民に対する考え方の違いが、投票する候補を選ぶ決め手となる度合いが、過去の選挙よりも高かった。特に、中西部でオバマ大統領からトランプ大統領に乗り換えた有権者には、非白人や移民への否定的な感情が強い傾向があったことが明らかになっている』、確かに「忘れられた人々」にアピールするには、人種差別的発言は有効なようだ。
・『たとえば、2016年の大統領選挙では、2012年のオバマ大統領支持からトランプ大統領支持に乗り換えた中西部の有権者のうち、約65%が不法移民の強制送還に賛成していた。一方で、民主党のクリントン候補に投票した有権者では、強制送還に賛同した割合は2割程度に過ぎなかった。 共和党のなかには、減少傾向にある白人に頼った選挙戦略に対して、疑問を呈する声がある。特に2008年、2012年の選挙でオバマ大統領に連敗を喫した直後には、非白人への支持拡大を急務とする意識が強かった。たとえば、いくら共和党が白人に支持されているといっても、少なくともヒスパニックの4割程度から票を得なければ、大統領選挙では勝利できないといわれてきた。 しかし、2016年のトランプ大統領は、ヒスパニックからの得票率が30%を割り込んだにもかかわらず、白人票の掘り起こしによって、見事に勝利を手にした。その勝利の方程式に、トランプ大統領はこだわっている』、トランプは、人種差別発言がヒスパニックの支持をさらに減らすリスクについて、どう考えているのだろう。
・『民主党の候補者たちが黒人票の獲得を競う理由  白人票に頼るトランプ大統領の戦略は、「打倒トランプ」を至上命題とする民主党の思考にも影響を与えている。非白人票への傾斜である。 環境問題と並び人種間の平等は、トランプ政権の2年間で、最も民主党支持者の関心が高まった論点である。2019年1月に発表された世論調査によれば、民主党支持者の約70%が人種間の平等を「非常に重要な課題である」と答えている。2016年の調査と比べると、約10%の大幅増である。 なかでも大統領選挙を目指す候補者が注目するのが、黒人支持者の動向だ。民主党では、2020年の大統領選挙での指名候補を争う予備選挙が本格化している。サンダース上院議員やウォーレン上院議員らの有力候補者たちは、黒人向けの雑誌に寄稿したり、格差や住宅問題で黒人が直面する経済的な課題の解決を提案したりするなど、黒人票の獲得を競っている。 黒人票への関心の高さを示す象徴的な出来事が、6月末に行われた民主党候補者によるテレビ討論会で起こった。予備選挙の支持率でトップを走るバイデン元副大統領が、厳しい攻撃を受けたのだ。討論会に先立ちバイデン元副大統領は、上院議員時代に超党派の協力を進めてきた実績として、人種差別的な主張で知られた共和党議員たちと協力してきたことを誇らしげに語っていた。 討論会の場では、ジャマイカ系とインド系の親をもつハリス上院議員が、この発言を厳しく批判した上で、黒人に対する人種差別撤廃に関するバイデン元副大統領の議員時代の取り組みを糾弾した。 討論会での厳しいやり取りは、メディアの大きな注目を集めた。この論争をきっかけに、ハリス議員の支持率が急上昇する一方で、バイデン元副大統領の支持率が低下する展開となっている』、「バイデン元副大統領」は知名度は高くても、「議員時代の取り組みを糾弾」されるというのは、大きな弱みだ。
・『もう一方の「忘れられた人々」「打倒トランプ」の鍵を握る黒人票  民主党が黒人票に注目する理由は、トランプ大統領への反動だけではない。黒人票の行方は、トランプ大統領の再選を占う重要なカギとなる。オバマ大統領支持からトランプ大統領支持に乗り換えた白人と並び、2016年の大統領選挙で民主党が敗れたもう1つの大きな理由が、黒人の投票率の低さだったからだ。 2016年の大統領選挙では、2012年にオバマ大統領に投票した有権者のうち、7%が投票を行っていない。トランプ大統領に乗り換えた有権者(9%)よりは少ないが、接戦となった大統領選挙では、決して無視できない水準である。 民主党にとって致命的だったのが、黒人票の動向だ。2016年の大統領選挙では、黒人の投票率が60%を割り込み、2012年(67%)を大きく下回った。オバマ大統領への支持から無投票に変わった有権者の約半数は白人だが、それに次いで多かったのは4割弱を占めた黒人だった。 中西部の白人ブルカラー層が、トランプ大統領の勝利を生んだ「忘れれらた人々」だったとすれば、民主党の敗北を決定的にした黒人は、もう1つの「忘れられた人々」だった。伝統的に民主党の候補者は、積極的に黒人票を得ようとしてこなかったからだ。人種問題への意識が高い黒人の有権者は、そう簡単には共和党に投票しない。票を奪われるリスクが低い以上、民主党の選挙運動の重点は、黒人以外の有権者に置かれがちだった。 実際に、2016年にオバマ大統領支持から無投票に変わった有権者のうち、選挙期間中に民主党陣営から何らかの働きかけを受けた割合は、4割強に過ぎなかった。2012年にオバマ大統領に投票し、2016年にも民主党候補に投票した有権者の場合(7割弱)より、かなり低い水準である。 黒人票の重要性は、大統領選挙の2年後に行われた2018年の中間選挙で、早くも証明されている。民主党が躍進したこの選挙では、黒人の投票率が51%を超えた。大統領選挙での投票率よりは低いが、2014年の中間選挙と比較すると10%以上の大幅な上昇である』、「票を奪われるリスクが低い以上、民主党の選挙運動の重点は、黒人以外の有権者に置かれがちだった」、というのは確かに民主党の重大な手落ちだ。しかし、民主党には黒人の投票率を上昇させる切り札が欠けているようだ。
・『二大政党間の分断が人種間の分断との共鳴を強める  2020年の大統領選挙で民主党がトランプ大統領の再選を阻むには、黒人の支持者を着実に投票に向かわせることが大前提となる。すでに述べたように、オバマ大統領支持からトランプ大統領支持に転じた白人ブルーカラー層は、非白人や移民への否定的な感情が強い。支持者の9割弱を白人が占める共和党と違い、非白人の支持者が4割強を占める民主党が、こうした有権者を取り戻すような政策を打ち出すのは難しい。もう1つの「忘れられた人々」である黒人に、まず民主党の関心が集まるのも無理はない。 もっとも、こうした民主党陣営の黒人票への執心は、さらに人種間の分断を深めかねない。トランプ大統領の過激な言動に呼応するように、民主党の主張も先鋭化しているからだ。 たとえば民主党の一部には、奴隷制による経済的な損害を理由に、黒人への補償金の支払いを主張する声がある。全米での支持は3割に届かず、黒人初の大統領であるオバマ大統領ですら否定的だった政策だが、サンダース議員やウォーレン議員、ハリス議員といった候補者たちは、その是非を検討する価値はあると主張している。 トランプ大統領の下で、共和党の支持者も変わってきた。2019年7月に行われた世論調査によれば、共和党支持者の6割弱が「米国は世界中の人々に開かれすぎており、国としてのアイデンティティを失うリスクがある」という指摘に同意している。トランプ政権が誕生した2017年の調査では、同様の回答は5割に満たなかった。 かねてから米国では、二大政党間の分断の深まりが指摘されてきた。2020年の大統領選挙では、そうした2大政党間の分断が、人種間の分断との共鳴を強めている』、「2大政党間の分断が、人種間の分断との共鳴を強めている」、というのは言い得て妙だが、その結果は恐ろしいことになる懸念もありそうだ。

第三に、8月23日付け産経新聞「トランプ氏「グリーンランド購入」発言 火消しの米」を紹介しよう。
https://www.sankei.com/world/news/190823/wor1908230035-n1.html
・『トランプ米大統領が北極圏にある世界最大の島、デンマーク自治領グリーンランドを購入する意向を表明した問題は、同国のフレデリクセン首相が「ばかげている」と一蹴したことで事実上決着した。一方、トランプ政権は、中国やロシアの北極海への進出や気候変動による北極海航路の可能性をにらみ、戦略的重要性を増しているグリーンランドへの関心を強めており、今回の騒動で生じたデンマークとの亀裂を修復し、北極圏をめぐる関係強化を目指していく方針だ。 トランプ氏は21日、ホワイトハウスで記者団に対し、グリーンランド購入は「単なる検討課題だった」と説明した上で、首相の発言は「暴言であり不適切だ」と述べ、「米国を『ばか』呼ばわりするのは許さない」と訴えた。 一方、国務省によるとポンペオ国務長官は同日、デンマークのコフォズ外相と電話で会談し、グリーンランド自治政府を含むデンマークとの北極圏での関係強化について話し合った。 ポンペオ氏は、同じ北大西洋条約機構(NATO)加盟国のデンマークと北極圏で中露に対抗していく姿勢を確認するとともに、トランプ発言の「火消し」を図ったとみられる』、「フレデリクセン首相が「ばかげている」と一蹴した」のに対し、トランプ大統領は「「米国を『ばか』呼ばわりするのは許さない」と訴えた」、非は明らかにトランプにあるのに、強気で反撃したのは、選挙民向けだろう。
・『米政権がグリーンランドに関心を向けるのは、第一には豊富なレアアース(希土類)資源が埋蔵されているためだ。 希土類の生産で世界的優位にある中国が米国への希土類の輸出規制を示唆しているのに危機感を抱く米国は、希土類の安定供給元の確保を模索。グリーンランド自治政府とは最近、希土類採掘への投資に向けた覚書を交わした。 また、気候変動で北極圏の氷が解け、北極海航路という新たな戦略的物流ルートが生まれつつある中、中露が影響力拡大を図っていることも、北極海と北大西洋の間に位置する要衝であるグリーンランドの重要性を高めている。 米国は、グリーンランド北部に空軍基地を置き、弾道ミサイルの早期警戒や人工衛星の追跡に活用。これに対し、中国も2016年、島にある旧米軍基地の跡地の買収を図ったほか、18年には米軍基地に近接する土地での空港建設の入札に参加したが、いずれも米国の意向を受けたデンマークから阻止されている。 ただ、グリーンランドに米軍基地があるにもかかわらず中露が進出しているのは、基地が中露に対する抑止力の役割を果たしていないことを意味する。 このため米国内では、前時代的な外国からの土地購入ではなく、今回の騒動をデンマークとの安全保障協力の強化につなげ、中露に対抗する契機にすべきだとの意見が相次いでいる』、「前時代的な外国からの土地購入ではなく、今回の騒動をデンマークとの安全保障協力の強化につなげ、中露に対抗する契機にすべきだ」、との意見は妥当だろう。それにしても、トランプ大統領がいきなり買収を提案するとは、外交慣行を無視した荒っぽいやり方だ。国務長官に相談もせずにやったのだろうか。
『■米国による外国の土地買収 米国は過去に外国からの土地買収を通じて領土を拡張してきた。ジェファソン大統領は1803年、現在の南部ルイジアナ州から北部モンタナ州にまたがる地域をフランスから購入。アンドリュー・ジョンソン大統領は67年、西部のアラスカをロシアから買い取った。ウィルソン大統領は1917年、現在の米領バージン諸島をデンマークから購入した。グリーンランドをめぐっては、トルーマン大統領が46年に1億ドル相当の金塊と引き換えに買収を図ったが失敗している』、「グリーンランドをめぐっては、トルーマン大統領が46年に1億ドル相当の金塊と引き換えに買収を図ったが失敗」、というのは初耳だが、因縁の島であることは間違いないようだ。
タグ:東洋経済オンライン 産経新聞 ダイヤモンド・オンライン 安井明彦 トランプ大統領 トランプ米大統領 (その42)(アメリカが心酔する「新ナショナリズム」の中身 保守主義の「ガラガラポン」が起きている、トランプ再選の哀しい切り札 米国を切り裂く人種間分断の深刻、トランプ氏「グリーンランド購入」発言 火消しの米) 会田 弘継 「アメリカが心酔する「新ナショナリズム」の中身 保守主義の「ガラガラポン」が起きている」 「アメリカをつねに偉大に(Keep America Great)」 「トランピズム」の核心 ネオコン(新保守主義者)路線にも否定的 自由貿易に代わって保護主義、他国の民主化などより「アメリカ・ファースト」で非介入路線 中西部のラストベルト(錆びた工業地帯)の各州を勝ち取り、大統領ポストを手にしたからだ 一部の知識人グループがトランプ登場を歴史的機会と捉え、保守思想を組み替え、新たな思想運動を起こそうとしている タッカー・カールソン イラン軍事攻撃を直前で中止した際に、大統領に大きな影響を与えた人物 労働者層を踏み台にするエリートという構図 市場経済がなすがままにする連邦政府の誤った政策が、労働者階級の「家族生活」の経済的・社会的・文化的基盤を台無しにしている 富裕層のエリートたちは労働者を踏み台にして、脱工業化経済の中で繁栄を享受しているのに労働者の苦境に見て見ぬふりをしている。「すさまじい怠慢ぶり」だ、とカールソンが激しく批判 大きな問題は、アメリカ保守思想の一方の核である「市場」が、もう1つの核である「家族」を破壊しているということだ、と論じた ヒルビリー・エレジー J・D・ヴァンス 満腔の賛意を表明 保守の中核メディアで保守派論客が堂々と市場経済を否定し、大きな政府(「政府の介入」)を求め、しかも市場経済が家族を破壊しているとまで主張するのは、大きな思想変化が起きたことを意味する。既成の保守派内から猛然と反論が出たのは当然であった トランプ以前の保守コンセンサスには戻れない 「著名な15人の保守派著述家・学者」 「無効なるコンセンサスに抗して」という声明 自由貿易、国境を越えた人の自由な移動、小さな政府、あらゆる問題の解決策としてのテクノロジー」といったドグマ いまでは「家族制度の安定、共同体の団結」を破綻させ、「日常生活のポルノ化、死の文化、競争への盲信、悪質な検閲のような多文化主義」を招き入れている 実はアメリカの保守主義がその敵であるリベラリズム(進歩主義)と同じ「個の自律(individual autonomy)」の 原理で動いてきたからだ。個の自律を崇めてきた結果、保守主義がもっとも忌み嫌う「専制(tyranny)」が生まれてしまったのは、皮肉ではないか 既成のアメリカ保守主義とリベラリズム(進歩主義)は同じ穴のムジナだと批判し、この双方を否定したうえでトランプ以降の新たな保守主義の確立を訴えている点である 「国民精神の復活」が連鎖的に起きている イギリスのジャーナリスト、デビッド・グッドハートの著書を引用し、「どこでもたち(Anywheres)」に対する「どこかたち(Somewheres)」の反乱だと論じた 「ナショナリズム」 7月には保守派論壇が大集合 「トランプ再選の哀しい切り札、米国を切り裂く人種間分断の深刻」 トランプ大統領が人種差別とも批判される言動で白人票固めを急ぐ 人種間の分断が、大統領選挙の行方を左右しそうな雲行きだ トランプ支持者が「人種差別」的な発言に追随 民主党の4人の女性・非白人議員を、もともといた国に「帰ったらどうか」とツィッターで攻撃 「忘れられた人々」を動かした非白人・移民への反感 中西部の白人ブルーカラー層は「忘れられた人々」 民主党の候補者たちが黒人票の獲得を競う理由 もう一方の「忘れられた人々」「打倒トランプ」の鍵を握る黒人 黒人の投票率の低さ 人種問題への意識が高い黒人の有権者は、そう簡単には共和党に投票しない。票を奪われるリスクが低い以上、民主党の選挙運動の重点は、黒人以外の有権者に置かれがちだった 二大政党間の分断が人種間の分断との共鳴を強める 「トランプ氏「グリーンランド購入」発言 火消しの米」 デンマーク自治領グリーンランドを購入する意向を表明した問題は、同国のフレデリクセン首相が「ばかげている」と一蹴したことで事実上決着 首相の発言は「暴言であり不適切だ」と述べ、「米国を『ばか』呼ばわりするのは許さない」と訴えた ポンペオ国務長官は同日、デンマークのコフォズ外相と電話で会談し、グリーンランド自治政府を含むデンマークとの北極圏での関係強化について話し合った は豊富なレアアース(希土類)資源が埋蔵 北極海航路という新たな戦略的物流ルートが生まれつつある中、中露が影響力拡大を図っていることも、北極海と北大西洋の間に位置する要衝であるグリーンランドの重要性を高めている 国内では、前時代的な外国からの土地購入ではなく、今回の騒動をデンマークとの安全保障協力の強化につなげ、中露に対抗する契機にすべきだとの意見が相次いでいる
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環境問題(その4)(3メガ融資先 パーム油生産大手で人権侵害 インドネシアで実態判明 ESG方針の試金石に、欧米でいきなり「環境」が重要政策になった事情 なぜ選挙戦を左右するほどになったのか、いつの間にか周回遅れ 日本の環境意識はどこへ?、旅行大手HISも参入 「パーム油発電」の危うさ CO2排出は火力並み FIT制度揺るがす) [世界情勢]

環境問題については、昨年6月5日に取上げたままだった。久しぶりの今日は、(その4)(3メガ融資先 パーム油生産大手で人権侵害 インドネシアで実態判明 ESG方針の試金石に、欧米でいきなり「環境」が重要政策になった事情 なぜ選挙戦を左右するほどになったのか、いつの間にか周回遅れ 日本の環境意識はどこへ?、旅行大手HISも参入 「パーム油発電」の危うさ CO2排出は火力並み FIT制度揺るがす)である。

先ずは、昨年12月11日付け東洋経済オンライン「3メガ融資先、パーム油生産大手で人権侵害 インドネシアで実態判明、ESG方針の試金石に」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/253341
・『日本のメガバンク3社から多額の融資を受けているインドネシア食品大手傘下のパーム(アブラヤシ)油生産企業で、数多くの人権侵害が起きている事実が判明。融資継続の是非が問われる事態になっている。 問題が指摘されているのは、インドネシア最大手の食品会社インドフードだ。 マレーシアに本拠を置く国際的なパーム油生産に関する認証団体のRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)の紛争パネルは11月2日に報告書を発表。約2年にわたる検証の結果として、インドフードのグループ企業が所有する北スマトラの農園や搾油工場において、賃金の未払いなど数多くの不正行為が行われていたと指摘した。インドフードのグループ企業であるロンドン・スマトラ・インドネシア社に是正を求めるとともに、RSPOの事務局に認証を停止するように指示した』、「メガバンク」はどうするのだろう。
・『多岐にわたる違法行為  RSPOの通告文書によれば、違法行為の内容は、インドネシアの労働法違反に該当する超過労働や賃金の未払い、退職金の不払い、労働組合への差別的扱い、女性労働者への差別的処遇など多岐にわたっている。RSPOの紛争パネルは「違反行為が蔓延していることに対して、適切な処分を下すべきである」と結論づけている。 こうした中、RSPOによる認証取り消し方針を踏まえて、日本のメガバンク3社の対応に注目が集まっている。国際環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)日本代表の川上豊幸氏は「メガバンクのESG(環境・社会・ガバナンス)に基づく投融資ルールが機能するか否かの試金石になる」と指摘する。 RANは2016年10月、インドネシアの労働者権利擁護団体などとともに、インドフードのパーム農園で違法労働が蔓延しているとして、RSPOに苦情処理手続きを申し立てた。今回、違法行為が認定されたことを踏まえ、RANとともに申し立て手続きをしたインドネシアのアブラヤシ農園労働者権利擁護団体OPPUKのヘルウィン・ナスティオン事務局長(アブラヤシ農園労組SERBUNDO会長)は「日本のメガバンクは自社の投融資方針に基づき、きちんとモニタリングをしてほしい。そのうえで、融資を継続するか否か再検討してほしい」と東洋経済の取材に答えている。)インドフードの開示資料によれば、メガバンク3社は9月末現在、インドフードグループに700億円近い融資残高がある。しかもメガバンク3社は5月から6月にかけて、環境や人権問題への配慮を明記した新たな投融資方針を定め、ESGに配慮した事業運営に取り組むことを明らかにしている。それゆえ、事態を静観できなくなっている。 三菱UFJフィナンシャル・グループは5月15日付で「MUFG環境方針」「MUFG人権方針」および「MUFG環境・社会ポリシーフレームワーク」を制定。7月1日から適用を開始している。MUFG人権方針によれば、「お客様に対しても、人権を尊重し、侵害しないことを求めていきます」と明記。「提供する商品やサービスが、人権侵害の発生と直接的に結び付いている場合は、適切な対応を取るようにお客様に働きかける」と記している。 三井住友フィナンシャルグループ傘下の三井住友銀行は「事業融資方針の制定およびクレジットポリシーの改定について」と題したニュースリリースを6月18日に公表。石炭火力発電や森林伐採と並び、パーム油農園開発への対応を明記したうえで、「違法伐採や児童労働などの人権侵害が行われている可能性の高い融資を禁止します」と明言している』、ESGとは、環境(Environment)、社会的責任(Social)、企業統治(Governance)を指し、機関投資家などが投資する際の判断基準にもなっている。各行は上述のようにさらに細分化した方針を打ち出しているようだ。
・『3メガは個別取引の回答を留保  一方、6月13日に「責任ある投融資等の管理態勢強化について」と題した方針を発表したのがみずほフィナンシャルグループ。法令やルールに違反する取引先について、「公共性や社会的正義、人道上の観点から取引を行わない」と明記。「パームオイル、木材」分野を挙げたうえで、「それらの人権侵害や環境破壊への加担を避けるため、持続可能なパーム油の国際認証・現地認証や先住民や地域社会とのトラブルの有無等に十分に注意を払い、取引判断を行います」と述べている。 問題はこうした方針がきちんと機能しているかどうかだ。東洋経済は3メガバンクに質問状を送付。今回のRSPOによる違法行為認定に関しての見解や融資方針見直しの有無、インドフードおよびグループ企業への融資に際して、これまでどのような注意を払ってきたのかについて尋ねた。 だが、3社とも「個別取引にかかわる質問については回答を控える」などと回答した。そのうえで、みずほは一般論として、「『特定セクターに対する取り組み方針』に基づいた判断を行うとともに、エクエーター(赤道)原則(大規模プロジェクト向け融資における環境・社会への配慮基準)への取り組み等を通じて、環境・社会影響を考慮してリスク管理を行っている」と説明。三菱UFJは「(MUFG人権方針などについては)ビジネス環境の変化に応じて定期的に見直しを行い、個別セクター追加や既存ポリシーの高度化を図る方向で進めていく。パームオイルについても検討対象になると考えている」と答えている。 三井住友は「パーム油に関しては、今年度に事業別融資方針を制定し、融資採り上げに際して、一定の基準を満たした国際認証の取得状況などを確認し、融資判断を行っている。また、“人権侵害につながるようなリスクを最小化するため”お客様との対話に努めている」などとしている。) メガバンクと並んで注目されるのが、公的年金を管理・運用する「年金積立金管理運用独立行政法人」(GPIF)の動向だ。インドフードの株式は外国株の代表的な株価指数「MSCI ACWI」に組み込まれており、GPIFも同社株式を保有している。 だが、人権侵害を理由に同社株式に関しての投資方針を見直すことは簡単ではないという。GPIFによれば、「個別銘柄への投資判断をすべて外部の運用会社に委託することが法令で定められていること」などを理由に、「特定の企業を投資対象から除外することを指示できない」としている。 そのうえで一般論として、「2017年6月に定めたスチュワードシップ活動原則に基づき、運用会社が重要なESG課題であると考えるテーマについて、投資先企業と積極的にエンゲージメント(建設的な対話)することをGPIFからお願いするとともに、その取り組みを運用会社の評価項目に位置づけている」と回答している』、なるほど。
・『取引中止に動くペプシコ、不二製油  インドフードへのスタンスや働きかけの有無について明らかにしないメガバンクと対照的なのが、インドフードグループからパーム油を調達している欧米や日本の大手食品会社の動向だ。これらの企業は、取引に関する情報開示で先行するとともに、取引見直しの方針も明示している。 世界最大手食品会社のネスレは「9月をもって、商業的な理由によりインドフードとの合弁事業を打ち切ることで合意した」と発表。アメリカのペプシコも、インドフードとの食品合弁会社がインドフードのグループ企業からのパーム油の調達を2017年1月に中止していることを明らかにしている。 ペプシコはホームページ上で、インドフードのグループ企業での労働問題についてNGOがRSPOに苦情申し立てをしていることや、同社と問題の解決に向けて協議を続けてきたこと、RSPOによる認証取り消し方針を踏まえて、インドフードグループに対応を求めていることについても詳しく説明している。 日本企業で注目されるのが、不二製油グループ本社の動きだ。パーム油取り扱いで国内首位の同社は、「責任あるパーム油調達方針」を2016年3月に策定。その中で「先住民、地域住民および労働者(契約労働者、臨時労働者、移民労働者を含む)の搾取ゼロ」を公約。サプライヤーに対しても「児童労働や強制労働または奴隷労働を禁止すること」「すべての適用法令に従って(最低賃金、超過勤務、最大労働時間、福祉手当、休暇に関係する法令を含む)労働者に対して補償を提供すること」などの基準の順守を義務づけるとしている。そのうえで、2020年までに搾油工場までの完全なトレーサビリティの達成を目指す方針を策定し、調達先に法令順守の徹底を促している。 2018年5月には新たに「グリーバンスメカニズム」(苦情処理メカニズム)を策定。消費者やNGOなどからも苦情を受け付けるとともに、苦情処理の進捗状況をホームページ上で公表している。インドフードとグループ企業については、9月30日以降、取引を停止するとの方針が示されている。 その理由について、「NGOや顧客などのステークホルダーから環境や労働問題に関しての懸念が伝えられていたことから、調査やエンゲージメント(建設的な対話活動)を実施したうえで、責任あるパーム油調達方針に基づいて判断した」(山田瑶・CSR・リスクマネジメントグループCSRチームアシスタントマネージャー)という。 このように、金融機関と食品会社とでは、取引先企業への働きかけのレベルにおいて大きく異なる。金融機関もESG方針を定めた以上、問題を起こした企業にどのような対応をしているかの説明が求められるようになっている』、環境金融研究機構の本年6月19日付けニュースによれば、大手米銀のシティ・グループはインドフードグループへの資金提供を停止したようだが、メガバンクはいまだに継続しているようだ。もっともらしい方針には、明らかに反している筈だが、継続するなら説明責任を果たすべきだろう。このままでは、物笑いの種になるだけだ。

次に、みずほ総合研究所 欧米調査部長の安井 明彦氏が6月14日付け東洋経済オンラインに寄稿した「欧米でいきなり「環境」が重要政策になった事情 なぜ選挙戦を左右するほどになったのか」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/286755
・『保護主義やポピュリズムで騒がしい米欧の政治情勢だが、ともすれば見過ごしがちなのが地球温暖化をはじめとする環境問題への関心の高まりである。 ヨーロッパでは欧州議会選挙で環境系の政党が躍進し、来年に大統領選挙を控えるアメリカでは、民主党の指名候補を決める予備選挙で、環境問題が大きな争点になっている。異常気象の頻発による地球温暖化への関心の高まりはもとより、格差の是正などを含めた左派の主張を結集させる論点として、環境問題の存在感が高まっていることは見逃せない』、ヨーロッパだけでなく、アメリカでも「環境問題の存在感が高まっている」とは頼もしい。
・『バイデン前副大統領の「宣言」  「大統領就任初日には、われわれを正しい方向に導くために、オバマ―バイデン政権時代の提案をはるかに超え、前例のない新たな一連の大統領令に署名する」 この何とも勇ましい宣言は、アメリカの大統領選挙で民主党の予備選挙に出馬しているバイデン前副大統領が、6月4日に発表した環境問題に関する公約の一文だ。 民主党の候補者争いで支持率のトップを走るバイデン氏だが、本格的な公約を発表したのは環境問題が初めてである。自らが副大統領を務めたオバマ政権の取り組みを上回り、「2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする」とうたうなど、極めて意欲的な内容が盛り込まれた。 数ある政策のなかで、まずバイデン氏が環境問題での公約発表を選んだのは、民主党の予備選挙において、この問題が熱い注目を集めている証しである。世界の関心は米中貿易摩擦などに集まりがちだが、2020年の大統領選挙に向けた予備選挙の現場では、環境問題が見逃せない争点に育ちつつある。 環境問題の存在感が高まっているのは、アメリカだけではない。ヨーロッパにおいても、5月23~26日に投票が行われた欧州議会議員選挙において、緑の党などの環境系政党が大きく議席を増やした。イギリスのガーディアン紙が「静かな革命がヨーロッパを席巻した」と報じたように、欧州議会では4番目の会派となる議席数を獲得、国別でもフランスでは第3政党、ドイツでは第2政党となるなど、予想外の躍進を果たしている。 アメリカとヨーロッパで同時に進行する環境問題への関心の高まりは、世論調査にも明らかだ。ピュー・リサーチセンターの調査によれば、アメリカで「気候変動(温暖化)は自国にとって深刻な脅威である」と答える割合は、2013年の40%から2018年には60%近くにまで上昇している。ヨーロッパの主要国でも、フランスで同様の回答が50%台から80%台にまで大幅に上昇したのを筆頭に、イギリスで約20%ポイント、ドイツでも約15%ポイントの上昇を記録している(図1)』、確かに「世論調査」でも如実に表れているようだ。
・『興味深いのは、アメリカとヨーロッパ主要国の双方において、環境問題が左右の政治勢力を分かつ争点になっている点だ。ピュー・リサーチセンターの調査によれば、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスのいずれの国においても、気候変動を自国の深刻な脅威と指摘する割合は、右派の支持者ほど低く、左派の支持者では高い傾向がある(図2)。 とくに左右の違いが大きいのは、アメリカである。2018年の世論調査では、民主党支持者の9割近くが、気候変動を自国の深刻な脅威と指摘している。その一方で、同様の回答を行う共和党支持者の割合は、3割程度にとどまっている』、確かにアメリカでは左右の違いが大きいようだ。
・『アメリカではほぼ民主党に限られた「現象」  アメリカにおける地球温暖化問題への関心の高まりは、ほぼ民主党支持者に限られた現象だ。2013年からの世論調査の変化をさかのぼると、気候変動を自国に対する深刻な脅威と回答する共和党支持者の割合は、20%台での微増にとどまっている。一方で、民主党支持者による同様の回答は、60%弱から80%を上回るまでに増加している。あまり共和党支持者の意見が変わらない一方で、民主党支持者の意見だけが大きく変わり、その結果として党派対立が厳しくなる構図は、民主党の支持者が寛容になり、共和党支持者との意見の相違が広がった移民問題と似通っている(『日本人が知らない欧米のきわどい「移民問題」』)。 党派的な立場による意見の分裂からは、既存の政治に不満を抱える有権者のうち、左寄りの主張を持つ人々を惹きつける政策として、環境問題の魅力が高まっている様子がうかがえる。 左派の政策といっても、富裕層増税や大企業批判だけでは、どうしても新味に欠ける。その一方で、各地での異常気象の頻発により、地球温暖化の影響が実感され始めている。政府による対応が求められるなど、「大きな政府」との親和性が高いこともあり、左派勢力にとっては環境問題のもつ吸引力が際立ちやすい環境である。 とくにアメリカでは、グリーン・ニューディールの名の下で、環境問題を中心に据えて、左派的な政策を結集させていく試みが進んでいる。 グリーン・ニューディールは、2018年11月に投開票が行われたアメリカ議会中間選挙で、史上最年少の女性下院議員となったアレクサンドリア・オカシオコルテス氏が公約に掲げ、一躍有名になった構想である。アメリカ有力紙の記事件数をみると、中間選挙直後から件数が急増している。2019年に入ると、かねて民主党支持者に関心の高かったメディケア・フォー・オール(国家主導の国民皆保険制)を上回る月があるほどだ(図3)』、オカシオコルテス氏に対してはトランプ大統領が激しく攻撃しているようだ。
・『グリーン・ニューディール構想の特徴は、大胆な地球温暖化対策であるだけではなく、温暖化対策の強化を突破口にして社会・経済システムの広範な改革を実現しようとする点にある。具体的には、まず温暖化対策の強化により、新たな技術の開発や、関連産業による雇用の増加が目指される。 次に、創出された新たな雇用に関しては、労働者の権利保護や職業訓練の充実など、格差の是正を意識した取り組みが盛り込まれている。さらには、国家を総動員した政策が目指す理想像として、政府が働きたい国民すべてに雇用を保証する仕組み(『米民主党がブチ上げた「雇用保証」とは何か』)や、メディケア・フォー・オールといった大掛かりな改革を、グリーン・ニューディールの延長線上に位置づける向きもある』、民主党がますます左旋回すると、次期大統領選挙には不利だろう。
・『対中政策とも連動している  バイデン氏の公約発表は、民主党の予備選挙における環境問題の吸引力の強さを表している。 左傾化が指摘される民主党において、環境政策以外の分野では、バイデン氏は中道寄りの立場を鮮明に打ち出してきたからだ。大胆に斬新な政策を打ち出すというよりも、「オバマ時代への回帰」を印象づけるのがバイデン氏の戦略であり、サンダース上院議員やウォーレン上院議員など、左寄りの性格が強い候補者と一線を画すセールス・ポイントである。 例えば医療の分野では、バイデン氏はメディケア・フォー・オールへの支持を明確にしておらず、オバマケアの漸進的な発展を主張するにとどまってきた。 ところが、環境問題は勝手が違った。実はバイデン氏にとって環境問題は、「オバマ時代への回帰だけでは物足りない」とする批判の象徴的な存在になりかねなかった。同氏のアドバイザーが、化石エネルギーの選択肢を残すなど、中道寄りの提案を模索しているとの報道が流れ、サンダース氏などから厳しい批判を受けていたからだ。 そうした批判の高まりからほどなく、バイデン氏は今回の公約の発表に踏み切った。医療の分野では左傾化圧力を受け流してきたバイデン氏も、環境問題が争点に浮上するや否や、直ちに「オバマ時代超え」を宣言した格好である。 バイデン氏の公約では、医療保険制度までをも含む社会・経済システムの改革を求めているわけではない。しかし、グリーン・ニューディールの考え方については、「非常に重要な枠組みである」と評価している。また、単なる温暖化対策にとどまらず、新技術・新産業の発展と、それによる雇用の創出を目指している点などでは、ほかの候補者と共通した広がりがある。 興味深いのは、対中政策との関連である。バイデン氏は、中国を名指ししたうえで、温暖化対策への取り組みが不十分な国からの輸入に対し、課徴金や輸入制限を行うよう提案している。また、産業政策や一帯一路構想を通じ、国内外で石炭エネルギーを補助していると批判し、国際的な連携によって対中圧力を強める方針も明らかにしている』、対中政策はトランプと同じく強硬なようだ。
・『これまでバイデン氏は、「中国とは競争にならない」と発言したと伝えられるなど、対中政策の手ぬるさが批判されてきた。今回の公約からは、環境政策を手掛かりに、対中政策で反転攻勢に出ようとするバイデン氏の思惑がうかがえる。 もちろん、民主党の予備選挙で盛り上がったからといって、アメリカの環境政策が大きく変わるとは限らない。環境政策は、党派によって大きく主張が分かれる論点である。たとえ2020年の大統領選挙で民主党の大統領が誕生したとしても、議会で共和党の賛同が得られない限り、グリーン・ニューディールを推進するような法律を成立させることは難しい』、環境政策には議会の壁が高そうなのは残念だ。
・『トランプ氏は「社会主義」と批判  また、それ以前の問題として、大統領選挙の段階において環境政策を軸とした論法が、民主党の命取りとなる可能性がある。その実現に巨額な財源が必要であるだけでなく、左派的な政策を結集させる論点になっている以上、「大きな政府」に対する反感を呼び起こしやすいのは間違いない。実際にトランプ大統領は、グリーン・ニューディールを「社会主義」と批判している。 しかし、共和党も油断は禁物である。安全保障や健全財政など、伝統的に共和党が重視してきた政策分野と、環境問題の結びつきが強まっているからだ。地球温暖化問題は、基地の立地や航路の変更を強いられる点などから、安全保障上のリスクとして位置づけられていると同時に、災害対策費用の増加につながる点で、財政上のリスクとしても意識され始めている。 それだけではない。アメリカとヨーロッパに共通した特徴として、環境問題への関心の高まりは、若い世代に牽引されている。アメリカでは、全体としては環境問題への関心が低い共和党支持者ですら、1980年代以降に生まれたミレニアル世代は、支持者の主力であるベビー・ブーマー世代(1946~1964年生まれ)よりも、「現在の温暖化対策は不十分」と考える割合が高い。 環境問題への関心の高まりは、左派にとっては、既存の政治に対する批判を取り込み、若い世代を惹きつける格好の機会になりえる一方で、右派にとっては、世代交代に取り残されないために、足掛かりを模索しなければならない試練となる。 かねてアメリカでは、共和党の支持者に占める高齢者の比率が着実に高まっている。次世代の関心事項を取り込めるかどうかは、目先の選挙への影響を超えた意味合いを持つ。共和党としても、「大きな政府」に頼らない切り口で、右派なりの環境政策を語る知恵が求められている』、「右派なりの環境政策を語る知恵」、とはいっても実際には難しそうだ。

第三に、作家の冷泉彰氏が7月7日付けメールマガジンJMMに投稿した「[JMM1061Sa]「いつの間にか周回遅れ、日本の環境意識はどこへ?」from911/USA」を紹介しよう。
・『大阪G20が無事に終了しましたが、日本での関心としては米中の通商交渉、そしてG20直後に起きた米朝の首脳会談の方に集中したという印象です。その結果として、G20自体への関心の薄さが際立っています。G20そのものに関しても、空前の警備体制ばかりが話題になる中で、何が話し合われ、何が決まったのかという「内容」については、余り報道されていないようです。 今回のG20で出された「首脳宣言」についていえば、まず全体のテーマである「SDGs(持続可能な開発)」という概念すら改めて報じられることがなく、その結果として、個々の実行計画についての報道も極めて少なかったようです。若者と女性の雇用におけるエンパワーメントであるとか、グローバル金融と情報セキュリティ問題など喫緊の課題が多かったのに、折角のG20を社会としての取り組みの契機にできないというのは、残念としか言いようがありません』、日本政府の広報担当者がこれらの点をきちんとPRしなかったためだろう。
・『中でも問題なのが、環境問題です。今回のG20において環境問題というのは、大きな目玉でした。首脳宣言においても、34.「地球環境問題と課題」「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)及び「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム」(IPBES)の重要な作業に留意しつつ,また,近年の異常気候や災害に照らして,我々は,気候変動,資源効率,大気汚染,土地汚染,淡水汚染,海洋プラスチックごみを含む海洋汚染,生物多様性の損失,持続可能な消費と生産,都市環境の質その他の環境問題を含む複雑で差し迫ったグローバルな課題に対処し,また,持続可能な成長を促進しながら,最良の入手可能な科学を用いて,エネルギー転換を促進し主導する緊急の必要性を認識する。 産業界が公的部門と相乗効果を持って重要な役割を果たす形で,環境と成長の好循環が技術革新を通じて行われるパラダイム・シフトが必要とされている。この目的のため,我々は,好循環を加速化させ,強じんで,包摂的で,持続可能な将来への転換を主導する重要性を強調する。我々は,具体的で実際的な行動をとり,世界中から国際的な最良の慣行と知識を集め,公的及び民間の資金,技術及び投資を動員し,ビジネス環境を改善する重要性を強調する。という具体的な提言がされています。 こうしたメッセージが、日本国内で十分に報じられているとは思えません。中でも特に気になるのは「気候変動」の問題です。この間も、鹿児島県では記録的な豪雨に見舞われました。この季節は、多くの死者を出した2018年の西日本豪雨の被災がちょうど1年前、2017年の北九州豪雨の被災が2年前で、それぞれに復興が十分ではない一方で、災害の記憶は生々しいものがあります。 また、台風の被害も深刻化しており、2018年9月の台風21号では大阪を中心に西日本では大きな被害が出ました。また台風被害ということでは、2016年8月末に起きた台風10号では、東北の太平洋岸から北海道の十勝地方など、以前には台風被害の余り報告されていない地域で甚大な被害が出ています。 一連の異常な気象災害に関しては、勿論大きな話題にはなっています。ですが、全く原因の異なる地震と結びつけて「日本列島は自然災害の厳しい地域なので、一層の防災・減災対策により国土を強靭化する」といった議論は出たり入ったりしますが、異常な気象現象の主因が地球規模での温暖化であり、その原因は二酸化炭素の排出増だという議論は余り見られません。 一方で、プラスチックごみの問題は、細粒化したプラスチックが深刻な海洋汚染を生じているわけです。この問題については、今回のG20で大きく取り上げられたことを契機に、日本でもようやく認知が進みましたが、やはり認識は十分ではありません。 1997年12月にCOP3が京都で行われ、いわゆる京都議定書が採択された際には、大きな話題になりましたが、それから22年を経過した現在、日本における環境論議は冷却してしまっています。 その後、2015年12月のパリCOP21では「パリ協定」が締結され、日本は2030年までに、2013年比で、温室効果ガス排出量を26%削減するという目標設定で合意しています。実は、その達成は簡単ではなく、炭酸ガスの取引などを使って相当な努力をしないといけないのですが、その議論も十分ではありません。 例えば、現在行われている参院選においても、環境論議は停滞しています。驚いたのは、左派新党の「れいわ新選組」の環境政策です。「原発即時禁止・被曝させない」というスローガンに続いた具体的な政策の中では「エネルギーの主力は火力」と大きくうたっています。そこには、パリ協定の削減目標への言及はなく、温暖化や気候変動への問題意識も全くないのです。 立憲民主党の場合は、さすがに民主党時代にCOPなどへ参画した流れから、「パリ協定の1.5℃目標に向け、2050年CO2排出ゼロをめざし、気候変動対策を進めます。」という文言は政策として掲げられています。そうなのですが、「エネルギー・環境ビジョン」の冒頭には、この問題ではなく「原発再稼働を認めず、原発ゼロ基本法案の早期成立を目指します。」というスローガンが掲げられています。 政権与党の自民党の場合はさすがに総花的で「徹底した省エネ、再エネの最大限の導入、火力発電の高効率化、原発依存度の可能な限りの低減などの方針を堅持しつつ、安定供給と低コスト化を両立するための技術革新を図ることで2030年エネルギーミックスの確実な実現を目指します。また、2050年に向けたエネルギー転換・脱炭素化を目指し、あらゆる選択肢を追求します。」という記述が見られますが、公約中の大きなボリュームを占める防災・減災に関する部分では、気候変動への言及はありません』、確かに与野党とも「エネルギー転換・脱炭素化」や「気候変動」には腰が引けている。
・『つまり、折角高いお金をかけて誘致して、猛烈な警備体制でトラブルなくG20を実施することができたのに、SDGsや環境に関するメッセージは、少なくとも日本の政界や有権者には届いていないわけです。 また、日本は自然を大切にする文化を基盤にしながら、高度成長期の公害問題を、環境技術と省エネ技術で克服した、いわば環境問題の優等生であったはずです。にも関わらず、一体どうして、このような状況に立ち至っているのでしょうか? 1つには、2011年に発生した福島第一原発事故の影響が余りにも大きかったということがあります。冷静に考えてみれば、この原発事故で直接高線量に被曝することで健康被害を受けた人というのは、極めて限定的です。ですが、社会に与えた不安感や、原子核物理の原理を知っている人と知らない人のデバイド、そして賛否両論の激しい応酬や、結果的に深刻化している風評被害などは、現在でもその多くが克服されていません。 その結果として、いつまでもこの問題が政治的関心の吸引力を持つこととなり、「即時原発廃止」であるとか「再稼働禁止」といった極端な議論が多くの支持を集めてしまっています。その延長で、左派政党の主張として「エネルギーの主力は火力」というスローガンが掲げられるという驚くべき事態となっているわけです。 2点目としては、人口縮小、経済の縮小という問題があります。パリ協定の目標値との関連でいえば、日本の場合は「排出ガスの総量」では何とか目標のカーブに沿った削減ができています。ですが、人口一人当たりの排出ガスということでは、まだまだ世界の中ではトップクラスの高水準となっています。ですから、非常に単純化していえば、人口減少と経済の縮小によって国全体としては、削減ができているという構造となっています。 ということは、SDGs(持続可能な開発)という思想から見れば、一人一人のライフスタイルは環境負荷という面では決して持続可能ではない一方で、雇用や報酬ということで言えば、女性や若者へのエンパワーメントという点で、問題を抱えているということにもなります。 つまり、環境と産業構造、再分配といった社会の構造的な問題把握や、改善への方向性といった論議が非常に欠けているわけです。別の角度から言うのであれば、環境問題が「衣食足りて礼節を知る」と言う言葉の「礼節」の部分であるのならば、その「衣食」が足りなくなってくることで、関心が薄れている、そのような危険性も感じます。 3つ目は、自然災害、特に気候変動の問題です。欧米では、ここ数年の異常気象が温暖化の問題と関係付けられて、深刻な議論が進められています。例えば、アメリカでの環境論議を牽引している格好の、アレクサンドリア・オカシオコルテス議員が、「グリーン・ニュー・ディール」を主唱し始めた一つの契機は、彼女の両親の故郷であるプエルト・リコにおける2017年9月の「ハリケーン・マリア」被災であると言われています。 欧州でも毎年のように、異常な降雨や高温といった現象が起きていますし、北米の場合、2018年から19年にかけて西部では異常な降雪と雪解け水による洪水、更には豪雨被害など以前には考えられなかったような被害が出ています。欧州における、こうした異常気象は、温暖化、そして排出ガス問題と結びつけての議論がされています。 一方で、日本の場合も前述のように異常な気候変動が毎年大きな被害をもたらしているわけですが、この問題を温暖化理論と結びつけ、世界的な二酸化炭素削減問題として議論するという流れは、余り出てきていません。少なくとも、今回の参院選における与野党の議論ではほとんどゼロとなっています。 私が恐れているのは、その日本の感覚がアメリカの保守主義における自然観に似通ってきているという点です。 アメリカの保守主義の立場は、温暖化理論を認めません。何故ならば、雷雨、竜巻、雹(ひょう)、暴風雪といった大平原特有の激しい気象災害は、「神の下した試練」であり、これに対して人間は「同じく神の恵み」である石油や石炭などの資源を使って自分たちの開拓した農園や鉱工業を守っていくのは当然という考え方があるからです。 つまり神に選ばれた存在である人間は、人為の限りを尽くして神の試練である自然と戦って良いのであって、その人為が気候変動の原因だなどという神に対して僭越な認識は信じないのです。 日本の場合は、手つかずの自然というのが尊敬と崇拝の対象となるわけです。そうなると、いかに台風の被害や豪雨被害が前代未聞であっても、それはあくまで「母なる自然」の下した人間への試練であるわけで、その試練に対しては生存を守るために人為で戦うのが正当であり、「母なる自然」そのものを排出ガス削減で変更できるという感覚は薄いのかもしれません。 そうなると、手つかずの自然を崇拝する日本の文化が、人為への自制という発想のないアメリカの化石燃料に依存した保守カルチャーと、まるで似たような発想法になってきているとも言えます。 つまり、これだけ豪雨や台風での被害が激化していても、その対策として「排出ガス削減」への問題意識が生まれないというのは、「原発への直感的な忌避が優先する」とか「人口と経済の縮小により環境という礼節への関心が薄れた」という問題とは、全く別の問題として「自然の怒りを謙虚に受け止める」的なカルチャーが「悪さ」をしているのではないか、そのようにも思われるのです』、「手つかずの自然を崇拝する日本の文化が、人為への自制という発想のないアメリカの化石燃料に依存した保守カルチャーと、まるで似たような発想法になってきているとも言えます」、というのにはやや無理もあるが、面白い指摘だ。
・『そんな中、かつて97年のCOP3京都会議の頃には、「途上国へも過去の先進国同様の排出権を」と主張して、全体目標に対して激しく反発していた中国が、現在では、自家用車の全面EV(電気自動車)化へのメドをつけ、原発を含むエネルギー多様化への道のりにも目算をつける中で、排出ガス問題での優等生を狙っているという状況となりました。 また、前述のようにアメリカでは、AOCことオカシオコルテス議員の主唱する「グリーン・ニュー・ディール」政策が民主党の大統領候補たちが政策パッケージとして採用し始めています。先週行われた第一回の民主党TV討論で、バイデン候補を追い詰めて人気が急上昇中のカマラ・ハリス候補(上院議員、カリフォルニア州選出)もその一人です。 このような状況が続きますと、やがて日本の環境政策は国際社会から孤立してゆく危険性を感じます。少なくとも、参院選における各党の主張を見る限り、そうした不安感は払拭できません。 そんな中で、環境省では事務次官に官房長であった鎌形浩史氏が就任したという報道に接しました。私事にわたりますが、鎌形氏とは遥か昔にお互いに塀を隔てた隣の高校に在籍する中で、ある時期大変に親しい交友を結んだ記憶があります。鎌形氏の恩師であった木戸一夫という先生の門下で共に学んだこともありますし、何よりも鎌形氏の鋭利でありながら温かみのある独特の知性には刺激を受けたのを覚えています。 鎌形氏とは、その後は親交が途切れ、環境官僚になっていることも知りませんでした。ですが、今回次官就任の報に接して、難局の中ではありますが個人的なエールを送りたいと思います』、「やがて日本の環境政策は国際社会から孤立してゆく危険性を感じます」、その通りなのかも知れない。冷泉氏のかつての親友の鎌形浩史氏が環境省事務次官に就任したようなので、鎌形氏の活躍にせいぜい期待したい。

第四に、8月21日付け東洋経済オンライン「旅行大手HISも参入、「パーム油発電」の危うさ CO2排出は火力並み、FIT制度揺るがす」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/298320
・『熱帯雨林などのエコツアーに熱心で、「地球環境の保全」を標榜している大手旅行会社エイチ・アイ・エス(以下、HIS)が、環境保護団体からの厳しい批判にさらされている。 FoE JAPANなど国内外の環境保護団体は7月30日、HISが子会社を通じて宮城県角田(かくだ)市で計画を進めているパーム油を燃料としたバイオマス発電事業からの撤退を求める署名約14万8000筆を同社宛てに送付した。 同日の記者会見でFoE JAPANの満田夏花事務局長は、「パーム油発電は熱帯雨林を破壊し、地球の気候や生物多様性に悪影響を与える。HISは事業をやめるべきだ」と訴えた』、「「地球環境の保全」を標榜」しながら、問題が多い「バイオマス発電事業」を進めるとは、HISはどうなっているのだろう。
・『調達先が確定していない?  西アフリカ原産のアブラヤシの実から精製したパーム油は、単位面積当たりの収量が菜種油や大豆油などと比べて多いことなどから現在、植物油脂の中で最も多く生産されている。マーガリンやスナック菓子などの食用のみならず、化粧品などの原料としても幅広く用いられている。インドネシアやマレーシアを中心として全世界での年間の生産規模は7000万トンに達し、そのうち約75万トンが日本に輸入されている。 HISはそのパーム油を、発電用燃料として用いようとしている。再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)に基づき、発電した電力を高値で売れることに目をつけた。 現在、角田市内では、HIS子会社による発電所建設工事が2020年3月の完成に向けて急ピッチで進められている。7月初めに現地を訪れると、大型トラックなどの工事車両がひっきりなしに出入りしていた。だが、表向きの工事の順調さとは裏腹に、不透明感が強まっている。 6月の角田市議会での日下七郎市議の質問に対して、大友喜助・角田市長から注目すべき発言があった。「(HISに確認したところ)認証パーム油の調達先などについては確定しておらず、現在調整中だ」(大友市長)。 HISが取材に応じないため詳細は明らかでないが、パーム油調達の見通しが立たないまま、建設工事が先行している可能性が高い。 HISの子会社は3月に国際的なパーム油の認証団体「RSPO」(持続可能なパーム油のための円卓会議)の正会員になり、RSPOの認証を受けたパーム油調達を進めようとしている。経済産業省が設備稼働の条件として、RSPO認証の取得などを通じた、環境破壊を伴わない「持続可能性」の確認を義務付けているためだ。 HISの子会社が計画している発電所の出力は4万1000キロワット。そこから計算すると、燃料として調達が必要なパーム油の量は年間約7万~8万トン程度と見られる。HISはそれに見合うRSPO認証油を確保しなければ発電所を稼働させることはできない。しかし、そのハードルはきわめて高いと見られている。 RSPOなどの第三者認証を取得したパーム油の大半は現在、欧米に輸出されており、日本に入ってきている量は少量と見られる。それもほとんどが燃料以外の利用だ。パーム油発電を行うにあたって経産省は、非認証油と混ざらない形で厳しく分別管理された認証油の使用を発電事業者に求めている。 このハードルをクリアし、発電所を動かすことはできなければ、HISの場合、約90億円とも見られている設備投資が無駄になるおそれがある。計画に反対する立場から2月にHISの澤田秀雄社長と面談した東北大学の長谷川公一教授(環境社会学)は、「澤田氏自身、パーム油発電の実情についてあまりご存じでなかった。確たる展望があって事業を進めているのか、疑問を感じた」と語る』、澤田氏は誰かの上手い売り込みにじっくり検討することなく、すぐ乗ってしまったのかも知れないが、お粗末極まる。
・『火力発電所3基分に匹敵する認定  HISに限らず、パーム油発電に目を付けた発電事業者は少なくない。経済産業省によれば、2018年12月末時点でのパーム油発電所のFIT認定容量は、約180万キロワット。大手電力会社が運営する大型の火力発電所3基分に相当する規模だ。 それらすべての計画が実現した場合、経産省の試算では、パーム油の年間使用量は最大で360万トンに達する。現時点で稼働済みの発電所での使用量である約18万トンの20倍に相当する規模だ。食用や化粧品などの主たる用途での使用量(約60万トン)をもはるかに上回る。 もしも、180万キロワットもの発電所建設計画が現実になった場合、いったい何が起こるのか。国際価格の高騰をもたらし、食品産業の原料調達に支障を来す可能性があると経産省自身が危惧している。パーム油生産のために新たに熱帯雨林が切り開かれ、環境破壊が一段と深刻になるおそれもある。 パーム油発電のFIT認定量の急増に直面した経産省は、実際の建設を抑制すべく、ガイドラインを策定して買い取り対象となる電力に使用されるパーム油を「RSPO認証またはそれと同等」に限定した。これにより、事業開始に一定の歯止めがかかっていることは確かだ。 もっとも、「使用するパーム油がRSPO認証を取得していれば、森林破壊につながらないのかと言えば、そうとも言えない」(地球・人間環境フォーラムの飯沼佐代子氏)。RSPO自体、監査の実効性確保など課題が指摘されているうえ、パーム油の需要が増えれば、さらなるアブラヤシ農園の開発が加速する可能性が高いためだ』、「パーム油の年間使用量は最大で360万トンに達する。現時点で稼働済みの発電所での使用量である約18万トンの20倍に相当する規模だ。食用や化粧品などの主たる用途での使用量(約60万トン)をもはるかに上回る」、いくら「買い取り対象となる電力に使用されるパーム油を「RSPO認証またはそれと同等」に限定」したところで、到底実現不可能な膨大な数字だ。経産省はもっと本格的に抑えるべきだろう。
・『また、パーム油生産が一大産業になっているマレーシアやインドネシアの政府は、自らの主導で構築した認証制度をRSPOと同等と見なすように日本政府に強く働きかけている。環境負荷が大きいことから、EU(欧州連合)がパーム油の燃料利用を抑制すべく規制強化を進めている中で、インドネシアやマレーシア政府は代わりとなる新たな市場として日本に大きな期待を寄せている。 パーム油発電の業界団体も「(両政府肝いりの認証制度が)RSPO認証と同等と認められることにより、安定的に事業を運営していけることを期待している」(池田力・バイオマス発電協会常務理事)という。 だが、そうした国家主導の認証制度については、認証取得のハードルが低いうえに、メタンなど温室効果ガスの大量排出につながる泥炭地の開発を禁止していないことなど、「抜け穴の多さ」も指摘されている。仮に認証の基準が緩められると、乱開発した農園からの生産物であっても基準に適合することになり、大量に輸入される道が開かれる。現在、様子を見ているFIT認定を受けたパーム油発電所の建設が一斉に始まる可能性も高い』、「マレーシアやインドネシアの政府は、自らの主導で構築した認証制度をRSPOと同等と見なすように日本政府に強く働きかけている」、こんあのは認めるべきではない。
・『温室効果ガスの排出は火力発電所並み  パーム油などのバイオマス燃料は一般に「カーボンニュートラル(炭素中立)」と称されている。植物は大気中の二酸化炭素を吸収・固定するため、仮に発電などに使用しても「入り」と「出」が同じで、温室効果ガスの増大を伴わないという理屈だ。しかし、実際はそうとも言い切れない。 経産省が設置したバイオマス燃料の持続可能性の確認を検討するための専門家会合に提出された資料によれば、パーム油発電(アブラヤシの栽培から、加工、輸送、燃焼に至るライフサイクルベース)で発生する二酸化炭素などの温室効果ガスの量は、LNG(液化天然ガス)コンバインドサイクル火力発電並みと試算されている。 パーム油の製造過程や運搬に重油などの化石燃料が多く使われるためだ。また、製造工程で発生するメタンガスの処理が不適切な場合、温室効果ガスの排出量は通常のLNG火力のそれを上回る。そればかりでなく、アブラヤシの栽培時に泥炭地の開発を伴う場合には、土地利用の変化がない場合と比べて、温室効果ガスの排出量は139倍にもなると試算されている。 「温室効果ガス排出量の多さ1つを取っても、パーム油発電には重大な問題がある」と、バイオマス利用に詳しい泊みゆき・バイオマス産業社会ネットワーク理事長は指摘する。 そもそもFIT制度は、再エネの利用を通じて温室効果ガスを削減することを目的としている。FIT制度は、電気料金に上乗せして徴収される、私たち電力ユーザーの多額の負担金によって支えられている。 「パーム油を含めたバイオマスの利用については、化石燃料を燃やして発電した場合よりも環境負荷が少ないと言えるのか、定量的なチェックが必要だ」。相川高信・自然エネルギー財団上級研究員はこう指摘する。 8月22日、経産省は有識者による会合を開催し、パーム油利用などバイオマス発電の持続可能性を担保するためのルール案を提示する。議論は大詰めを迎えている』、「アブラヤシの栽培時に泥炭地の開発を伴う場合には、土地利用の変化がない場合と比べて、温室効果ガスの排出量は139倍にもなると試算」、こんなのをFIT制度に乗せようとするのは、制度本来の趣旨を逸脱した「悪乗り」だ。「持続可能性を担保するためのルール案」を厳格にすべきなのは、言うまでもない。
タグ:環境問題 東洋経済オンライン グリーン・ニューディール 安井 明彦 JMM 「れいわ新選組」 (その4)(3メガ融資先 パーム油生産大手で人権侵害 インドネシアで実態判明 ESG方針の試金石に、欧米でいきなり「環境」が重要政策になった事情 なぜ選挙戦を左右するほどになったのか、いつの間にか周回遅れ 日本の環境意識はどこへ?、旅行大手HISも参入 「パーム油発電」の危うさ CO2排出は火力並み FIT制度揺るがす) 「3メガ融資先、パーム油生産大手で人権侵害 インドネシアで実態判明、ESG方針の試金石に」 インドネシア最大手の食品会社インドフード 国際的なパーム油生産に関する認証団体のRSPO 紛争パネルは11月2日に報告書を発表。約2年にわたる検証の結果として、インドフードのグループ企業が所有する北スマトラの農園や搾油工場において、賃金の未払いなど数多くの不正行為が行われていたと指摘した。インドフードのグループ企業であるロンドン・スマトラ・インドネシア社に是正を求めるとともに、RSPOの事務局に認証を停止するように指示した 多岐にわたる違法行為 3メガは個別取引の回答を留保 取引中止に動くペプシコ、不二製油 シティ・グループはインドフードグループへの資金提供を停止 「欧米でいきなり「環境」が重要政策になった事情 なぜ選挙戦を左右するほどになったのか」 バイデン前副大統領の「宣言」 アメリカとヨーロッパ主要国の双方において、環境問題が左右の政治勢力を分かつ争点になっている アメリカではほぼ民主党に限られた「現象」 オカシオコルテス 対中政策とも連動している トランプ氏は「社会主義」と批判 冷泉彰 「[JMM1061Sa]「いつの間にか周回遅れ、日本の環境意識はどこへ?」from911/USA」 今回のG20において環境問題というのは、大きな目玉 異常な気象現象の主因が地球規模での温暖化であり、その原因は二酸化炭素の排出増だという議論は余り見られません 「パリ協定」 2013年比で、温室効果ガス排出量を26%削減するという目標設定で合意しています。実は、その達成は簡単ではなく、炭酸ガスの取引などを使って相当な努力をしないといけないのですが、その議論も十分ではありません 「エネルギーの主力は火力」 アメリカの保守主義 アメリカの保守主義の立場は、温暖化理論を認めません 大平原特有の激しい気象災害は、「神の下した試練」であり、これに対して人間は「同じく神の恵み」である石油や石炭などの資源を使って自分たちの開拓した農園や鉱工業を守っていくのは当然という考え方がある 日本の場合は、手つかずの自然というのが尊敬と崇拝の対象となるわけです。そうなると、いかに台風の被害や豪雨被害が前代未聞であっても、それはあくまで「母なる自然」の下した人間への試練であるわけで、その試練に対しては生存を守るために人為で戦うのが正当であり、「母なる自然」そのものを排出ガス削減で変更できるという感覚は薄いのかもしれません 「旅行大手HISも参入、「パーム油発電」の危うさ CO2排出は火力並み、FIT制度揺るがす」 HISが子会社を通じて宮城県角田(かくだ)市で計画を進めているパーム油を燃料としたバイオマス発電事業からの撤退を求める署名約14万8000筆を同社宛てに送付し パーム油調達の見通しが立たないまま、建設工事が先行している可能性が高い 燃料として調達が必要なパーム油の量は年間約7万~8万トン程度と見られる。HISはそれに見合うRSPO認証油を確保しなければ発電所を稼働させることはできない。しかし、そのハードルはきわめて高いと見られている 澤田秀雄社長と面談した東北大学の長谷川公一教授(環境社会学)は、「澤田氏自身、パーム油発電の実情についてあまりご存じでなかった。確たる展望があって事業を進めているのか、疑問を感じた」と語る 火力発電所3基分に匹敵する認定 2018年12月末時点でのパーム油発電所のFIT認定容量は、約180万キロワット。大手電力会社が運営する大型の火力発電所3基分に相当する規模 パーム油の年間使用量は最大で360万トンに達する。現時点で稼働済みの発電所での使用量である約18万トンの20倍に相当する規模だ。食用や化粧品などの主たる用途での使用量(約60万トン)をもはるかに上回る マレーシアやインドネシアの政府は、自らの主導で構築した認証制度をRSPOと同等と見なすように日本政府に強く働きかけている 温室効果ガスの排出は火力発電所並み
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歴史問題(8)(アウシュヴィッツを強調することはホロコーストを矮小化すること、暗号名チューブ・アロイズ~原爆投下・チャーチルの戦略) [世界情勢]

歴史問題については、昨年8月20日に取上げた。久しぶりの今日は、(8)(アウシュヴィッツを強調することはホロコーストを矮小化すること、暗号名チューブ・アロイズ~原爆投下・チャーチルの戦略)である。特に、後者はこれまでの常識を覆すものなので、必読である。

先ずは、作家の橘玲氏が昨年12月14日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「アウシュヴィッツを強調することはホロコーストを矮小化すること[橘玲の世界投資見聞録]」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/188512
・『ポーランド、クラクフ郊外のアウシュヴィッツ、ベルリン郊外のザクセンハウゼン、ミュンヘン郊外のダッハウ、プラハ郊外のテレジーンの強制収容所を訪れて、ホロコーストについてはなんとなくわかったつもりになっていた。だがアメリカの歴史家ティモシー・スナイダー(イェール大学教授)は、『ブラックアース ホロコーストの歴史と警告』(慶應義塾大学出版会)で、「アウシュヴィッツがずっと記憶されてきたのに対し、ホロコーストのほとんどは概ね忘れ去られている」という。アウシュヴィッツを「見学」したくらいでは、20世紀のこの驚くべき出来事の全貌はほとんどわからないのだ』、私の知識も浅いので、この記事で勉強したい。
・『アウシュヴィッツだけが強制収容所と絶滅収容所が共存していた   「ガス室はなかった」とホロコーストを否認する「陰謀論者」の系譜は、映画『否定と肯定』のモデルとなったアメリカのホロコースト研究者デボラ・E・リップシュタットが詳細に検討している。 [参考記事]●ヨーロッパだけでなくアメリカにも賛同者がいるホロコースト否定論の根拠とは? そこでも述べられているが、ホロコースト研究の初期には「強制収容所」と「絶滅収容所」は区別されていなかった。 絶滅収容所はヘイムノ、ルブリン、ソボビル、トレブリンカ(以上、ポーランド)とベウジェツ(ウクライナ)の収容所で、第二次世界大戦の独ソ戦においてドイツ軍のモスクワへの電撃侵攻作戦が失敗し、長期戦の様相を呈した1941年末から建設が始められた。これらの収容施設の目的は端的に「ユダヤ人を絶滅させること」で、そこに送られたユダヤ人は生き延びていないから証言者もいない。 それに対してザクセンハウゼンやダッハウなどドイツ国内の強制収容所は、戦場に送られたドイツの成人男性の代わりにユダヤ人や共産主義者などを使役するための施設で、劣悪な環境から大量の死者を出したとしても、その目的はあくまでも労働だった。 そのなかでアウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所だけは、労働を目的とするアウシュヴィッツ(第一収容所)と、絶滅収容所としてつくられたビルケナウ(第二収容所)が併存していた。アウシュヴィッツの入口に掲げられた有名な「ARBEIT MACHT FREI(働けば自由になる)」の標語はナチスの「皮肉」ではなく、そこが強制労働施設だったからだ。 「死の収容所」アウシュヴィッツからの生存者の多くは労働要員で、ガス室の存在は伝聞でしか知らなかった。なかには「ゾンダーコマンド(労働部隊)」としてガス室や焼却施設で死体処理に従事したユダヤ人もいたが、彼らは秘密保持のために数カ月でガス室に送られ生存者はきわめて少ない。――その貴重な証言として、ギリシアのユダヤ人(セファルディム)で戦争末期にアウシュヴィッツに送られ、奇跡的に生き残ったシュロモ・ヴェネツィアの『私はガス室の「特殊任務」をしていた』 (河出文庫)がある。 戦後、ホロコーストについての見解が混乱した理由に、絶滅収容所がソ連支配下の東欧圏にあり、研究者が収容所跡を検証したり、資料を閲覧できなったことがある。ソ連の公式見解では、大祖国戦争(独ソ戦)はファシストと共産主義者の戦いで、ナチスが虐殺したのは共産主義者であってユダヤ人ではなかった。ソ連がホロコーストを認めなかった背景には、ヒトラーに先んじたスターリンによる虐殺を隠蔽する目的もあった。 アウシュヴィッツというと、フランクルの名著『夜と霧』のように、人間性を根こそぎ否定される過酷な状況から「生還」した物語を思い浮かべるだろうが、絶滅収容所に送られた者たちはそもそも「生還」できなかった。これが、「アウシュヴィッツはホロコーストを矮小化している」という第一の理由だが、スナイダーの批判はこれにとどまらない。彼は、「(絶滅収容所を含め)強制収容所を強調することがホロコーストを矮小化している」というのだ』、強制収容所と絶滅収容所の違いがよく理解できた。「アウシュヴィッツの入口に掲げられた有名な「ARBEIT MACHT FREI」の標語はナチスの「皮肉」ではなく、そこが強制労働施設だったからだ」、でこれまでの疑問も解けた。「ソ連の公式見解では、大祖国戦争(独ソ戦)はファシストと共産主義者の戦いで、ナチスが虐殺したのは共産主義者であってユダヤ人ではなかった」、というのは戦勝国によるなりふり構わない歴史捏造だ。
・『2600万人というとてつもない死者を出した「血まみれの土地」  これまで第二次世界大戦の歴史を書く者は、英語、ドイツ語、フランス語にせいぜいロシア語を扱える程度だった。だが1969年生まれのスナイダーは、東欧史を専門としパリ、ウィーン、ワルシャワなどで研究活動の従事するなかでポーランド語やウクライナ語などを学び、ヨーロッパの言語のうち5カ国語を話し、10カ国語を読むことができるようになった。 こうした語学の知識を活かし、これまで研究者が容易にアクセスできなかった東欧圏の歴史資料を渉猟したうえで、スナイダーは『ブラッドランド ヒトラーとスターリン大虐殺の真実』(筑摩書房)を書き、20世紀の最大の悲劇はポーランド、ウクライナ、ベラルーシ、バルト三国、ロシア西部など、これまでほとんど注目されてこなかった地域で起きたと述べた。これらの地域が「ブラッドランド(血まみれの土地)」だ。 ブラッドランドはまず、スターリンがソ連国内の「植民地化」を進めるなかで飢餓に襲われ、1930年代はじめにはウクライナを中心に500万人以上の餓死者を出した。その後、スターリンが自らの失政を正当化するためにこれを「敵」の陰謀だとしたために大規模な粛清が始まり、1937年から38年の「大テロル」では70万人ちかい人々が処刑されたとされる。 1939年8月に独ソ不可侵条約が結ばれるとポーランドは分割され、ドイツ領でもソ連領でも抵抗運動を組織する可能性がある教養層を中心に20万人のポーランド国民が殺害された。この時期、ドイツとソ連はポーランド人100万人の強制移住を行ない、ドイツはさらにポーランド内のユダヤ人をゲットーに隔離した。 1941年6月にドイツが同盟を破棄してソ連に侵攻したあとは虐殺の範囲はさらに拡大し、ドイツ占領下のベラルーシではソ連が支援するパルチザンへの報復として女性や子どもを含む30万人以上が殺された。独ソ戦においては、包囲されたレニングラードで100万人が故意に餓死させられ、ソヴィエト人の捕虜300万人以上が飢えと放置により死亡した。 1941年後半に戦局が停滞すると、ヒトラーはユダヤ人をヨーロッパから排除するための「最終解決」に踏み切った。当初は親衛隊の特別行動部隊(アインザッツグルッペン)や、占領下ソ連のパトロールを任務としていたドイツ秩序警察の警察大隊がユダヤ人を狩り出して銃殺していたが、やがて一酸化炭素で窒息死させるガス車が使われるようになり、最終的にはシアン化水素を使ったガス室と大規模な焼却施設を備えた絶滅収容所がつくられた。こうして1945年までに、占領下のソ連、ポーランド、バルト諸国でユダヤ人およそ540万人が銃殺またはガス殺されたのだが、これはブラッドランドの死亡者の一部で、1930年代からのわずか15年間でこの地域では一般市民1400万人が生命を落としたとされる。これに独ソ戦の戦死者1200万人を加えると、死者の総数は2600万人というとてつもない数になる。まさに「血まみれの土地」と呼ぶ以外形容のしようがない惨劇が起きたのだ。 スナイダーはこうした歴史的事実を膨大な資料によって検証していくが、しかしこれは政治的にはきわめて微妙な主張でもあった。ブラッドランドを生み出したのはヒトラーとスターリンだが、戦後のドイツにおいてこの両者を比較することは「ホロコーストという唯一無二の民族の悲劇を相対化する」右翼/極右の歴史修正主義とされてきたのだ。 [参考記事]●愛国を謳うドイツのリベラルと愛国を嫌悪する日本のリベラル スナイダーが『ブラッドランド』につづいて、ホロコーストのみをテーマとした『ブラックアース』を書いたのは、この誤解に応える意味もあったのだろう』、「ブラッドランド」とは言い得て妙だ。「ブラッドランドを生み出したのはヒトラーとスターリンだが、戦後のドイツにおいてこの両者を比較することは「ホロコーストという唯一無二の民族の悲劇を相対化する」右翼/極右の歴史修正主義とされてきた」、というのは確かに微妙な問題だ。
・『「アウシュヴィッツはドイツ人を免責している」  スナイダーは『ブラックアース』で、きわめて過激な主張をする。ドイツ国内でアウシュヴィッツが強調されるのは、自らの罪を反省するのではなく矮小化するためだというのだ。ここは重要な部分なので、すこし長くなるが全文引用しよう。 第二次世界大戦後、ドイツにとってアウシュヴィッツは、なされた悪の実際の規模を著しく小さなものに見せるので、比較的扱いやすい象徴であり続けている。アウシュヴィッツをホロコーストと合体させてしまうのは、「それが起きているとき、ヨーロッパ・ユダヤ人の大量殺戮をドイツ人は知らなかった」というグロテスクな主張をまことしやかなものとした。ドイツ人の中にはアウシュヴィッツで起きていることを正確には知らなかった者もいた可能性はある。多くのドイツ人がユダヤ人の大量殺戮を知らなかったという可能性は、これはありえない。ユダヤ人の大量殺戮は、アウシュヴィッツは死の施設になるずっと前から、ドイツでは知られていたし議論されていた。少なくとも家族や友人の間では語られていた。何万ものドイツ軍が3年にわたって何百という死の穴のうえで何百万というユダヤ人を射殺していた東方では、ほとんどの者たちは何が起きているのかを知っていた。何十万ものドイツ人が殺戮を実際に目の当たりにしたし、東部戦線の何百万ものドイツ人将兵がそれを知っていた。戦時中、妻やなんと子どもたちまで殺戮現場を訪れていたし、兵士や警察官はもとよりだが、ドイツ人は時に写真付きで家族に詳細を書き綴った手紙を送った。ドイツの家庭は、殺害されたユダヤ人からの略奪品で豊かになった。それは何百万例というのではきかなかった。略奪品は郵便で送られたり、休暇で帰省する兵士や警察官によって持ち帰られた。 同様の理由から、アウシュヴィッツは、戦後のソ連、今日の共産主義国家崩壊後のロシアでも、都合の良い象徴だった。仮にホロコーストがアウシュヴィッツに収斂するならば、ドイツによるユダヤ人大量殺戮が、実はソ連が直前まで占領していた場所で始まったことを容易に忘れられるからだ。また、ソ連西部の誰もがユダヤ人大量殺戮のことを知っていたが、それはドイツ人が知っていたのと同じ理由からだった。すなわち東方での大量殺戮の手法は、何万人も参加させる必要があったし、何十万人にも目撃されていた。ドイツ軍は去って行ったが、死の穴はそのまま残された。仮にホロコーストがアウシュヴィッツのみと重ね合わされるなら、こうした経緯もまた歴史や記念式典から除外しうるというわけである。 同名の映画も公開されて話題となったブルンヒルデ・ポムゼル、トーレ・D. ハンゼン『ゲッベルスと私──ナチ宣伝相秘書の独白』(紀伊國屋書店)では、戦時中に宣伝省に勤務していた103歳の女性が、驚くべき記憶力と明晰な論理で「なにも知らなかった。私に罪はない」と断言して衝撃を与えた。だがこれも、「アウシュヴィッツに移送されたユダヤ人がガス殺されていたことは知らなかった」という意味で、そこにウソはないのだろうが、だからといって「なにも」知らないということにはならない。こうしてスナイダーは、「アウシュヴィッツはドイツ人を免責している」と批判するのだ』、「ドイツにとってアウシュヴィッツは、なされた悪の実際の規模を著しく小さなものに見せるので、比較的扱いやすい象徴であり続けている。アウシュヴィッツをホロコーストと合体させてしまうのは、「それが起きているとき、ヨーロッパ・ユダヤ人の大量殺戮をドイツ人は知らなかった」というグロテスクな主張をまことしやかなものとした」、「アウシュヴィッツは、戦後のソ連、今日の共産主義国家崩壊後のロシアでも、都合の良い象徴だった」、などは意外だが、説得力がある。「ドイツの家庭は、殺害されたユダヤ人からの略奪品で豊かになった。それは何百万例というのではきかなかった。略奪品は郵便で送られたり、休暇で帰省する兵士や警察官によって持ち帰られた」、というのも大いにあり得る話だ。
・『ドイツのユダヤ人をわざわざポーランドまで移送しなければならなかった理由  ブラッドランドではなぜ、想像を絶するような惨劇が可能になったのだろうか。それをスナイダーは、国家(主権)が破壊されたからだという。 ヒトラーがユダヤ人の「絶滅」を望んでいたことはまちがいないが、だとしたらなぜ、遠く離れたポーランドまで彼らを移送しなければならなかったのか? ナチスが合理的に「最終解決」を進めていたとすれば、もっとも効率的なのはザクセンハウゼンやダッハウのような大都市近郊の収容所にガス室をつくることだろう。 しかしナチス幹部にこうした方法を検討した形跡はみられない(ダッハウにはシャワー室に偽装したガス室がつくられたが、それは稼働していないとされている)。スナイダーによれば、それはナチス統治時代ですらドイツは主権国家であり、法と官僚制が機能していたからだ。 ドイツ国内のユダヤ人の資産を没収し強制収容所に送るには、こうした行政措置を正当化する法と、その法を実施する官僚機構が必要だった。強制収容所のユダヤ人(彼らはドイツ国民=市民でもあった)をガス殺するには、同様にそれを正当化する立法が必要になる。主権国家は法によって統治されているのであり、ナチスは自分たちに都合のいい法律をつくることはできただろうが、「統治者」である以上、無法行為を行なうことはできなかった。なんの罪もない自国の市民をガス室で殺害するのは無法行為以外のなにものでもなく、そのための法律などつくれるはずがなかったのだ。 ところがこのとき、ナチスドイツには都合のいい領土があった。新たに獲得した東欧圏(ブラッドランド)で、そこでは国家の主権が破壊されているので法にしばられることなく、どのようなことも「超法規的」に行なうことができた。これが、ドイツのユダヤ人を国内の収容所ではなく、わざわざポーランドまで移送しなければならなかった理由だ。 このことをスナイダーは、エストニアとデンマークという2つの国の比較で説明する。どちらもバルト海沿岸の小国だが、両国のユダヤ人の運命は大きく異なっていた。エストニアでは、ドイツ軍がやってきたとき(1941年7月)に居住していたユダヤ人の99%が殺害されたのに対し、デンマークでは市民権をもつユダヤ人の99%が生き延びたのだ。 だがこれは、デンマークが民主的で、エストニアに反ユダヤ主義が跋扈していたからではない。戦前はデンマークの方がユダヤ人に対する差別が厳しく、1935年以降はユダヤ難民を追い出していた。それに対してエストニアは保守的な独裁政権だったがユダヤ人は共和国の平等な市民とされ、オーストリアやドイツからのユダヤ人難民を引き受けてもいたのだ。 だとしたらなぜ、これほど極端なちがいが生じるのか。 その理由をスナイダーは、エストニアがリトアニアやラトヴィアとともに1940年にソ連に占領されたあと、ドイツの占領下に入ったからだという。この「二重の占領」によって、エストニアの主権(統治機構)は徹底的に破壊されてしまった。 それに対してデンマークはソ連と国境を接しておらず、1940年4月にドイツに占領されたあとも一定の範囲で主権が認められていた。デンマークに求められていたのは食糧の供給で、ナチスには国家を破壊する理由はなかった。 独ソ戦が膠着状態に陥ると、デンマーク政府とナチスドイツとの蜜月関係にひびが入りはじめる。アメリカなど連合国は1942年12月には「ドイツによるユダヤ人殺害に協力した者は戦後になって由々しい結果に向き合うことになろう」との警告を発していた。ナチスがユダヤ人の「最終解決」に踏み切った頃には、デンマーク政府にはそれに協力しないじゅうぶんな理由があったのだ』、「新たに獲得した東欧圏(ブラッドランド)で、そこでは国家の主権が破壊されているので法にしばられることなく、どのようなことも「超法規的」に行なうことができた。これが、ドイツのユダヤ人を国内の収容所ではなく、わざわざポーランドまで移送しなければならなかった理由だ」、ナチスといえどもドイツ国内では「法にしばられ」ていたというのは、興味深い指摘だ。ドイツ国民の目も意識していたのだろう。
・『ソ連とナチスドイツによる「二重の占領」が行なわれた場所で資本家、知識人、ユダヤ人が根こそぎ殺戮されていった理由  ブラッドランドでいったい何が起きたのか? じつはそこに異常なことはなにひとつなく、ひとびとは生き延びるために合理的に行動しただけだ。スナイダーの説明を単純化すれば、次のようになるだろう。 あなたは村の一員として、貧しいながらもそれなりの暮らしができていた。村には大きな屋敷に住む金持ちと、何人かのユダヤ人がいた。 その村がある日突然、ソ連の占領下に入ることになる。ソ連軍とともにオルグにやってきた共産党員によれば、この世界は革命(善)と反革命(悪)の対立で、善を担うのは労働者、理想世界の実現を阻むのは資本家だ。だからこそ、敵である資本家(金持ち)を殲滅しなければならない。 この奇怪なイデオロギーを聞いたあなたは、突如として大きな幸運を手にしたことに気づく。あなたは貧しいのだから、労働者(善)にちがいない。それに対して資本家(悪)は誰かというと、村でいちばんの金持ち以外にいない。この資本家をソ連軍(共産党)に売り渡し、ラーゲリ(収容所)送りにしてしまえば、労せずして土地や屋敷が手に入るのだ。 外国(エイリアン)による占領という極限状況であなたが生き延びようとすれば、真っ先に共産党に入党し、「革命」に協力して「資本家」を打倒し、すこしでも富を獲得しようとするだろう。 ところが1年もたたないうちに、あなたの村はこんどはナチスドイツの占領下に入ることになる。彼らは共産主義者を敵としていたが、より奇怪なイデオロギーを奉じていた。ナチスによれば、世界はアーリア民族(善)とユダヤ人(悪)の対立で、共産主義者(敵)とはユダヤ人のことなのだ。 あなたが共産党員であることがわかれば、せっかく手に入れた土地や屋敷を手放さなければならないばかりか、強制収容所に送られるか、場合によっては銃殺されるかもしれない。あなたが救われる道はたったひとつしかない。それは、村のユダヤ人を共産主義者としてナチスに売り渡すことだ。 このようにして、ポーランド、ウクライナ、ベラルーシ、バルト三国など、ソ連とナチスドイツによる「二重の占領」が行なわれた場所で資本家、知識人、そしてユダヤ人が根こそぎ殺戮されていった。 スナイダーが強調するのは、ジェノサイドはファシズムという「絶対悪」が単独で行なったわけではないということだ。主権(統治)が崩壊したなかで、ひとびとが生き残るためにどんなことでもやる極限状況が生まれると、そこから「絶対悪」が立ち現われてくる。 これは、誰が正しくて誰が間違っているという話ではない。こうした極限状況に置かれれば、ごく少数の例外を除いて、あなたも、もちろん私も、生き延びるためにジェノサイドに加担するのだ』、「ポーランド、ウクライナ、ベラルーシ、バルト三国など、ソ連とナチスドイツによる「二重の占領」が行なわれた場所で資本家、知識人、そしてユダヤ人が根こそぎ殺戮されていった」、「極限状況に置かれれば、ごく少数の例外を除いて、あなたも、もちろん私も、生き延びるためにジェノサイドに加担するのだ」、などは「ブラッドランド」の悲劇の背景を的確に指摘したもので、大変興味深い。

次に、1月27日付けNHK BS1スペシャル「暗号名チューブ・アロイズ~原爆投下・チャーチルの戦略」のポイントを紹介しよう。なお、Youtubeでの全編版は以下
https://www.youtube.com/watch?v=C_dHF8-uvYY
・『原爆は米国が単独で開発した…そんな通説が塗り替えられようとしている。英国首相チャーチルがヒトラー率いるナチスドイツに対抗するため自国の科学者を米国に送り込み、原爆を完成に導いていたのだ。しかし、スターリン率いるソビエトも原爆開発を急ぐためスパイを英国に送り機密情報を盗んでいた。そして、原爆をめぐる英米ソの思惑は「ポツダム会談」で衝突する。原爆投下の裏側で何が起きていたのか?秘められた核戦略を追う』、英国が原爆開発に裏で大きな力を発揮していたとは、驚いた。
・『第1章 原爆をめぐるドイツVS英国  ヒットラーは開戦前から原爆開発計画。米国に亡命したアインシュタインらはルーズベルトに対抗して原爆開発するよう提言。しかし、米国は原爆は大き過ぎて実用にならないと冷淡。英国では亡命した科学者がウラン238だけに濃縮すれば飛行機で運べるほど小型化可能になるとした。チャーチルは単なる理論を現実に変えたと気付き、チューブ・アロイズ計画。科学者はユダヤ系中心に50名。しかし、ドイツによる空襲が障害に。米国に伝えたところ、ルーズベルトも政策転換、チャーチルと共同研究で合意。真珠湾攻撃で米国も参戦、チャーチルは米国でルーズベルトに成果を交換し合うことを提案。ノルウェーにあるドイツの重水(核分裂の連鎖反応を加速)製造工場を破壊。米国でも英国の協力で研究が加速。1942.12、シカゴ大に実験用原子炉建設し、ウラン238からプルトニウムを作り出す。しかし、米国顧問のブッシュは英国に情報渡すことに抵抗、独占しようとした』、当初、消極的だった米国に、濃縮での小型化のアイデアで政策転換させたとは、主役は英国だったことになる。「米国顧問のブッシュは英国に情報渡すことに抵抗、独占しようとした」、米英間でもこのようなことがあるとは、驚きだが、画期的新兵器はやはり「独占」したいもののようだ。
・『第2章 核の独占  チャーチルはブッシュを英国に呼びつけ、英国は独自に開発すると伝えた。カナダに米国の協力なしで原爆工場を建設、モントリオール大に重水を運び込む。ルーズベルトは、英国を追い詰めると、戦後も必要になる同盟関係を壊すとして、情報交換を再開。カナダで米英首脳会談で秘密協定(ケベック協定)。第二条では「互いの合意なしに第三国に使用しない」と、投下の決定権に対等の地位。米国のロスアラモスに全米から6000人の科学者が集められたが、若い人間が多く、英国が派遣したのはベテランが多かった。爆縮の仕組みは英国の科学者フックスら2人のアイデア、均質に爆縮させるためにレンズを使う。当初の敵はドイツだったが、やがてソ連に。スラーリングラードの戦いで、ドイツは劣勢に。ソ連は1942.2に原爆開発を決定』、この段階でも実質的にリードしたのは英国だったようだ。
・『第3章 新たな脅威 スターリンVSチャーチル  ソ連はチャーチルが原爆を持てば、ソ連に使うと危惧。スパイが英米の原爆開発情報を流していた。特に、フックスはドイツ共産党員で英国に亡命、原爆開発の最高機密を流していた。「フックスは全てをファシズムとの戦いと捉え、一国の手に留まるのは危険と考えていた」(フックスの甥)。チャーチルもソ連が原爆開発を進めているだろうと危惧。1944にはドイツの敗色が濃厚に。チャーチルは原爆開発競争でソ連を勝たせてはならないとしたが、ルーズベルトは戦後もソ連との協調が必要と考えていた。デンマークの物理学者ニールス・ボーアは、核の国際管理のため、米英ソで技術を共有、開発競争をなくそうとした。ルーズベルトはボーアにチャーチルを説得するよう依頼したが、チャーチルはボーアをソ連のスパイと疑い、ルーズベルトにソ連に情報を流さないよう協定』、「核の国際管理」をチャーチルが潰したとは、かえすがえすも残念だ。
・『第5章 投下への道程  9月のハイドパーク協定では、日本に使用することを視野に。ヤルタ密約でソ連参戦、千島の領有権。2か月後、ルーズベルト急死。トルーマンは反ソ。ドイツ降伏後も、チャーチルはまだ日本が降伏しておらず、ソ連が新たな脅威として、目標選定委員会で、原爆の威力を世界に示すには、被害への恐怖が大きいほど抑止力になると主張。ある高度で爆発させると、地上からの反射波と重なって威力が増大。空襲被害が少ない広島、長崎が候補に。ソ連はスパイ情報で実験があることを察知。スターリンは対日参戦を急ぐ。チャーチルは日本への投下に同意、ソ連の参戦前に使用したい。ソ連は原爆投下前に参戦したい。ポツダム会談で、ソ連は日本の天皇から和平への働きかけの依頼があったことを明かしたが、参戦。実験成功でソ連の参戦は不要になり、米英の出方は強気に。トルーマンはスターリンに新兵器を入手したと脅したが、既に知っていたスターリンは冷静、対日参戦の予定を繰り上げた。7/26ポツダム宣言、8/6広島原爆投下、8/9ソ連参戦・長崎原爆投下、8/10にトルーマンは米兵の命を救うため原爆投下と宣言。8/15終戦
・『第6章 終わりのないXX  1946 トルーマンはマクマホン法で原爆技術の海外移転を禁止。1949ソ連原爆実験、1952米国水爆実験、1953ソ連水爆実験。フックスは自白し英国で裁判、9年の服役後、ドイツに。戦後のソ連の東欧支配に疑問を感じた。英国は独自の核開発。核の軍拡競争の責任はチャーチルに』、核の米英による独占を阻止したフックスは、「核による恐怖の均衡」を作り出したが、米英が独占していれば、核兵器のソ連への使用もあり得たと考えれば、正しいことをしたのかも知れない。いずれにしろ、これまでの常識を覆すいい番組だった。
タグ:橘玲 強制収容所 絶滅収容所 ダイヤモンド・オンライン 歴史問題 ポツダム会談 (8)(アウシュヴィッツを強調することはホロコーストを矮小化すること、暗号名チューブ・アロイズ~原爆投下・チャーチルの戦略) 「アウシュヴィッツを強調することはホロコーストを矮小化すること[橘玲の世界投資見聞録]」 家ティモシー・スナイダー 『ブラックアース ホロコーストの歴史と警告』(慶應義塾大学出版会) 「アウシュヴィッツがずっと記憶されてきたのに対し、ホロコーストのほとんどは概ね忘れ去られている」 アウシュヴィッツだけが強制収容所と絶滅収容所が共存していた 絶滅収容所はヘイムノ、ルブリン、ソボビル、トレブリンカ(以上、ポーランド)とベウジェツ(ウクライナ)の収容所で、第二次世界大戦の独ソ戦においてドイツ軍のモスクワへの電撃侵攻作戦が失敗し、長期戦の様相を呈した1941年末から建設が始められた。 そこに送られたユダヤ人は生き延びていないから証言者もいない アウシュヴィッツの入口に掲げられた有名な「ARBEIT MACHT FREI 絶滅収容所がソ連支配下の東欧圏にあり、研究者が収容所跡を検証したり、資料を閲覧できなったことがある。ソ連の公式見解では、大祖国戦争(独ソ戦)はファシストと共産主義者の戦いで、ナチスが虐殺したのは共産主義者であってユダヤ人ではなかった 2600万人というとてつもない死者を出した「血まみれの土地」 20世紀の最大の悲劇はポーランド、ウクライナ、ベラルーシ、バルト三国、ロシア西部など、これまでほとんど注目されてこなかった地域で起きたと述べた。これらの地域が「ブラッドランド(血まみれの土地)」だ 占領下のソ連、ポーランド、バルト諸国でユダヤ人およそ540万人が銃殺またはガス殺された 15年間でこの地域では一般市民1400万人が生命を落としたとされる。これに独ソ戦の戦死者1200万人を加えると、死者の総数は2600万人 ブラッドランドを生み出したのはヒトラーとスターリンだが、戦後のドイツにおいてこの両者を比較することは「ホロコーストという唯一無二の民族の悲劇を相対化する」右翼/極右の歴史修正主義とされてきた 「アウシュヴィッツはドイツ人を免責している」 ドイツにとってアウシュヴィッツは、なされた悪の実際の規模を著しく小さなものに見せるので、比較的扱いやすい象徴であり続けている アウシュヴィッツは、戦後のソ連、今日の共産主義国家崩壊後のロシアでも、都合の良い象徴だった。仮にホロコーストがアウシュヴィッツに収斂するならば、ドイツによるユダヤ人大量殺戮が、実はソ連が直前まで占領していた場所で始まったことを容易に忘れられるからだ ドイツのユダヤ人をわざわざポーランドまで移送しなければならなかった理由 新たに獲得した東欧圏(ブラッドランド)で、そこでは国家の主権が破壊されているので法にしばられることなく、どのようなことも「超法規的」に行なうことができた。これが、ドイツのユダヤ人を国内の収容所ではなく、わざわざポーランドまで移送しなければならなかった理由だ ソ連とナチスドイツによる「二重の占領」が行なわれた場所で資本家、知識人、ユダヤ人が根こそぎ殺戮されていった理由 ポーランド、ウクライナ、ベラルーシ、バルト三国など、ソ連とナチスドイツによる「二重の占領」が行なわれた場所で資本家、知識人、そしてユダヤ人が根こそぎ殺戮 ジェノサイドはファシズムという「絶対悪」が単独で行なったわけではないということだ。主権(統治)が崩壊したなかで、ひとびとが生き残るためにどんなことでもやる極限状況が生まれると、そこから「絶対悪」が立ち現われてくる NHK BS1スペシャル 「暗号名チューブ・アロイズ~原爆投下・チャーチルの戦略」 第1章 原爆をめぐるドイツVS英国 米国に亡命したアインシュタインらはルーズベルトに対抗して原爆開発するよう提言。しかし、米国は原爆は大き過ぎて実用にならないと冷淡 国では亡命した科学者がウラン238だけに濃縮すれば飛行機で運べるほど小型化可能になるとした 米国に伝えたところ、ルーズベルトも政策転換、チャーチルと共同研究で合意 米国顧問のブッシュは英国に情報渡すことに抵抗、独占しようとした 第2章 核の独占 チャーチルはブッシュを英国に呼びつけ、英国は独自に開発すると伝えた。カナダに米国の協力なしで原爆工場を建設 ルーズベルトは、英国を追い詰めると、戦後も必要になる同盟関係を壊すとして、情報交換を再開 投下の決定権に対等の地位 第3章 新たな脅威 スターリンVSチャーチル フックスは全てをファシズムとの戦いと捉え、一国の手に留まるのは危険と考えていた ルーズベルトは戦後もソ連との協調が必要と考えていた デンマークの物理学者ニールス・ボーアは、核の国際管理のため、米英ソで技術を共有、開発競争をなくそうとした ルーズベルトはボーアにチャーチルを説得するよう依頼したが、チャーチルはボーアをソ連のスパイと疑い、ルーズベルトにソ連に情報を流さないよう協定 第5章 投下への道程 ソ連はスパイ情報で実験があることを察知。スターリンは対日参戦を急ぐ トルーマンはスターリンに新兵器を入手したと脅したが、既に知っていたスターリンは冷静、対日参戦の予定を繰り上げた
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米中経済戦争(その9)(人民元「破七」で金融戦争突入 捨て身の中国の勝算 米国相手に突っ張るしかない習近平 国民に「新長征」を強いる、米中経済戦争が 世界的な通貨戦争の引き金を引こうとしている 円高が日本経済を直撃する、ぐっちーさん「米中戦争で見落しがちな真実」 トランプと習近平はどこまで「本気」なのか) [世界情勢]

米中経済戦争については、7月4日に取上げた。今日は、(その9)(人民元「破七」で金融戦争突入 捨て身の中国の勝算 米国相手に突っ張るしかない習近平 国民に「新長征」を強いる、米中経済戦争が 世界的な通貨戦争の引き金を引こうとしている 円高が日本経済を直撃する、ぐっちーさん「米中戦争で見落しがちな真実」 トランプと習近平はどこまで「本気」なのか)である。

先ずは、元産経新聞北京特派員でジャーナリストの福島 香織氏が8月9日付けJBPressに寄稿した「人民元「破七」で金融戦争突入、捨て身の中国の勝算 米国相手に突っ張るしかない習近平、国民に「新長征」を強いる」を紹介しよう。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/57263
・『今週、人民元が1ドル=7元のラインを突破した。米国東部時間で8月5日、月曜午前、1ドル=7.05元に急落。これは2008年5月以来の水準で、世界は米中貿易戦争が米中金融戦争に突入したと認識した。 中国語で「破七、守七」と呼ばれる1ドル7元ラインは、一種の心理ラインとされ、これを超えると、中国政府としても制御できない勢いで人民元暴落が起きかねないと言われていた。中国側は昨年(2018年)、元暴落を防ごうと外貨準備をかなり投入して元を買い支えていたことを明らかにしている。中国経済の実態からいえば、人民元はむしろ介入によってこれまで高く誘導されてきたというのが事実なのだろう。 米国側は、中国が為替介入によって元を切り下げることを警戒していた。そして、この元暴落を受けて、トランプ政権は5日、中国を25年ぶりに“中国は意図的に元を切り下げている”として為替操作国認定したのである。これがどういう意味を持つのか、今後何が起きるのか、少し考えてみたい』、興味深そうだ。
・『「破七」は自信の表れか?  中国政府はこれまで「破七」を非常に恐れており、このラインを突破させないよう必死だった。だが、8月5日、人民銀行(中央銀行)は人民元取引の目安となる基準値を6.9225に設定した。これは5月16日以来の大幅な引き下げだ。 7月末の第12回目の米中通商協議で米政府が3000億ドル分の中国製品に10%の追加輸入関税を発表し、さらにFBRが利下げに転じたことを受けて、中国も七ラインを守る(守七)努力を諦めたのかもしれない。あるいは中国経済の疲労度が「守七」を維持できなくなったのか。 だが、その後の人民銀行の記者会見での公式コメントは比較的泰然としている。「完全に合理的なバランスの水準を保ち、人民元は基本的に安定している」「米国の一国主義、貿易保護主義的措置と中国への追加関税措置の影響で、人民元は急落し7元ラインを超えた。しかし人民元は“バスケット”によって安定を維持できるので、これは市場供給と国際為替市場の波動の影響だ」・・・。 8月2日の人民元の終値は6.9416元なので、確かに基準値としてはおかしくないのだが、今までの「守七」に固執していた中国政府の態度が変わったということの意味が大きい。コメントの口調から受ける印象としても、中国が一線を越えて、米国と金融戦争に突入する覚悟が決まった、ということかもしれない。フィナンシャル・タイムズ紙は専門家のコメントを引用しながら、「破七」は中国経済の疲労を示しているのではなく、むしろ経済実力に対する自信の表れだといったニュアンスで論評していた』、FTまでが「経済実力に対する自信の表れ」と論評していたのであれば、その通りなのだろう。
・『人民元安はデメリットの方が大  では、中国の覚悟は本当に勝算あってのものなのだろうか。 たとえばおもちゃ製造の中小工場が、製造原価6元のおもちゃを7ドルで売るとする。1ドル6元の時、儲けは人民元換算すると36元。これが1ドル7元だとすれば、それが42元になる。確かに輸出品を製造する工場にとっては有利だ。 また、ある製造品が米国から関税を25%かけられていたとき、人民元が10%切り下げられれば、関税は15%にまで下がったことになる。もちろん、中国が米国から仕入れる原材料の仕入れ値が割高になるという問題もあるが、輸出国の立場でいえば、元安は中国製造業を救うことになる。 だが、中国にとって人民元安はメリットよりもデメリットの方が大きいといわれている。 まず、資金流出が一層加速する懸念がある。人民元の価値がこのままとめどなく下がってしまう可能性が出てくれば、人民元を持っている人たちは人民元を売って他の資産に変えようとするだろう。人民元売りが加速してさらに人民元が下がる。人民元が紙くず同然になってしまったら、中国経済はどうなるのか。 中国人の社会生活にはどういう影響があるのか。エネルギー、食糧など人々の生活を支えている物資の多くが外国からドル建てで輸入されている。間違いなく生活物価は高騰する。特に比較的生活レベルが高い都市の中間層の暮らしが打撃を受ける。 ドル建て社債を発行している中国企業はどうなるのだろうか。外債発行はこの数年の中国企業のトレンドだった。米中金利差で利ザヤを稼ごうという狙いもあった。中国の対外債務は公式には1.9兆ドル。そんな高い水準ではないという人もいるが、2017年初めから四半期ごとに平均700億ドルずつ増えてきた。62%が短期債務で、年初には「年内に1.2兆ドルの借り換えが必要」と言われていた。中国企業が「一帯一路」推進のために借り入れたドル建て債務の返済は、今年、来年がピークだ。つまり元高で借りた金を元安で返すとすれば、負担は増大する。大丈夫なのか。 市場原理に照らせば、元が下がると各国の投資家が中国に投資し、外資の流入が起きる。それによって景気が回復し、景気が回復すると為替も回復するはずである。だが貿易戦争が悪化し、米中対立が激化するなか、少なくとも米国の同盟国の企業はむしろ撤退モードに入っている。 「破七」を契機に中国不動産市場のバブルが崩壊する懸念も指摘されている。8月5日の不動産指数は2.36%下がり、100以上の不動産企業の株価が一斉に下落した。碧桂園、万科、融創中国、中国恒大といった企業は3~5%のレベルで株価が下がり、宝龍、龍光、富力、佳兆業、建業は軒並み5%以上、中国奥園は7.47%下落している。中国政治局会議で不動産業界を短期的に刺激する政策が出された直後に、あっと言う間に政策が挫折したわけだ。理由は不動産業界の外債がこの「破七」局面で軒並み償還期日を迎え、借り換えの必要が迫られているにもかかわらずハードルが上がってしまったからだ。 外債の借り換えが困難なうえ、中国のキャピタルフライトが加速すると、不動産市場の「銭荒(資金欠乏)」現象が起き、バブルが一気に崩壊する、というシナリオもあり得る。政府にとってバブル崩壊の何が怖いかと言うと、家計債務の7割が不動産ローンで、中国人は資産の8割前後を不動産として持っており、地方財政収入の7割前後が不動産開発のための土地譲渡によるものだということだ。不動産バブル崩壊は中国人の資産の崩壊そのもの。当然、社会に動揺が走り、秋の党中央委員会総会前に習近平政権の足元はさらに不安定化しかねない』、数年前までは人民元の国際化を旗印に穏やかな人民元上昇を図っていたのとは、様変わりの変化である。「不動産業界の外債がこの「破七」局面で軒並み償還期日を迎え、借り換えの必要が迫られている」、というのは不動産バブルの崩壊を生じかねない爆弾だ。
・『貨幣戦争を仕掛けざるを得ない党内事情  そういう状況なので、トランプ政権や欧米メディアが批判するように「破七」は中国側の意図的な為替操作、という見方もあるが、実際のところはそうせざるを得ない状況に追い込まれたのであって、必ずしも勝算がある作戦ではない気がする。 「守七」を維持できなかった理由の1つに、中国にとって最大のオフショア人民元業務センターである香港で継続している「反送中デモ」もあるだろう。これはすでに「反中デモ」に変貌しつつあり、負傷者逮捕者が増加の一途をたどっている。8月5日にはゼネストが行われ、香港の都市機能そのものが麻痺しつつある。当然、人民元の流動性にもマイナス影響を与えている。 とすると、習近平政権としては、どこを落としどころに考えているのだろうか。ロイターの報道は、中国側は人民元の防衛ラインを「7.2」あたりに設定し直すつもりではないか、といった関係者のコメントを引用していた。だが果たして本当に「7.2」でとどめられるのだろうか。 多くのメディアが、トランプの貿易戦争に対して、習近平政権が貨幣戦争を仕掛けた、というふうに理解している。だが、ニューヨーク・タイムズの香港特派員が指摘するように、共産党には外国勢力に頭を下げる歴史がなかったことが習近平への圧力になっており、国家指導者として強硬姿勢をとる以外の選択肢がなかった、というのが本当のところだろう。米国に妥協すれば「投降派」としてやり玉にあげられ、政権トップの座の維持が難しいという党内事情がありそうだ。 同時に、昨年夏までは習近平を政権の座から引きずり降ろそうとしていた勢力が、今年は比較的おとなしい。対米政策、経済政策がさらに惨憺たる状況になるまでむしろ習近平に好きなようにさせて、時が来ればその責任をすべて取らせる形で中国政治をリセットしようという魂胆なのか』、党内の反「習近平」勢力が、時が来るのを待ち構えているというのも不気味だ。
・『「新長征」を呼びかけた習近平  今年春の全人代(全国人民代表大会:日本の国会に相当)で、中国政府は米国の強い要請に応える形で外商投資法を急いで成立させ、改革開放を進めようとした。だが、5月の第11回米中通商協議直前に、95%合意しかけていた貿易交渉のテーブルを、習近平が「自分が一切の責任をとる」と言ってひっくり返した。 その後、江西省に行って「新長征」を呼びかけた段階で、習近平自身も“負け戦”を想定しているのかもしれない。 「長征」とはご存知のように、中国共産党軍が中華ソビエト共和国の中心地であった江西省瑞金を放棄し、1934年から36年にかけて延安まで1万2500キロを徒歩で敗走した歴史のことだ。この間、国際情勢の変化によって中国国民党が日本と戦争しなければ、共産党は消えていた。日本と戦うために国共合作(国民党と共産党の協力)方針が取られ、国民党が日本との戦いによって疲弊し、国共内戦で敗北したがために、今の共産党政権と中国があるわけだ。共産党の歴史にとって長征は原点だが、実際は15万人以上の共産党軍が7000人ぐらいにまで減った苛酷でみじめな敗走だった。新長征を人民に呼びかけた習近平は、再び中国人民に、苛酷でみじめな敗走を2~3年耐え忍べ、と言っているに等しい。 だが、この呼びかけに従うことができるほど、今の中国人は我慢強くないかもしれないし、習近平政権が望む国際情勢の変化(例えば「トランプは次の選挙で敗退する」とか「日米が仲間割れする」とか)も起こらないかもしれない。 負けを覚悟で、わずかな可能性に勝負をかける戦略であるとすれば、これはなかなか危うい。「交渉の末のある程度の妥協」という、至って普通のシナリオではなく、世界があっと驚くような行動に出ないとも限らないからだ。香港、台湾、半島・・・。中国が何か仕掛けそうな不安定な地域はたくさんある。 私は6月に『習近平の敗北』(ワニブックス)という本で、「9がつく年は必乱の年」という中国人のジンクスを紹介した。そこで人民元の暴落も香港の暴発の可能性も書いてきたが、自分が書いたその内容が本当に起きてくると、今さらながらちょっと怖い』、香港も空港の占拠と閉鎖で、人民解放軍による介入が現実味を帯びており、極めて不気味だ。ただ、夕方のテレビのニュースでは、空港の警備強化や、裁判所による占拠を不法とする判断などから、運行は再開され、混乱は多少落ち着きつつあるようだ。トランプ大統領も人民解放軍による介入を牽制しているようだ。なお、今日の日経夕刊は「米、対中関税555品先送り 「第4弾」、スマホなど12月」、「NY株大幅高・円急落 米中摩擦懸念和らぐ」と伝え、一触即発の状態からは落ち着きを取り戻したようだ。

次に、早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問・一橋大学名誉教授の野口 悠紀雄氏が8月9日付け現代ビジネスに寄稿した「米中経済戦争が、世界的な通貨戦争の引き金を引こうとしている 円高が日本経済を直撃する」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/66457
・『ドナルド・トランプ米大統領が中国からの輸入に対する関税上乗せを明らかにしたことで、米中貿易戦争がエスカレートしている。この影響で、世界の金融市場に動揺が広がっている。 いまの局面で重要な点は、2つある。 第1は、制裁関税の対象として、アメリカが消費財に踏み込んだことだ。これによってアメリカ経済が被害を被ることは、当然予想される。そうしてでも中国を叩く必要があるという強い意志を、アメリカは示したことになる。 第2は、通貨戦争の様相が出てきたことだ。中国が人民元安を容認し、これを受けてアメリカが中国を為替操作国に指定した。これが世界的な通貨戦争に発展する可能性もある。そうなると、円高が進行する可能性があり、日本経済は大きな影響を受けるだろう』、「トランプ米大統領」だけでなく、米国議会でも強硬派の声が大きくなっているだけに、着地点が見えない展開だ。
・『エスカレートする米中貿易戦争  トランプ大統領は、アメリカが輸入する中国製品のうち約3000億ドル(約32兆円)に対して、9月1日から10%の関税を上乗せすると、8月1日にツイッターで明らかにした。 中国は、これに対する報復措置として、アメリカからの農産品の購入を一時停止した。 2018年に始まった米中貿易戦争によって、2015年5月初めまでの段階で、中国からの輸入500億ドルに25%、2000億ドルに10%の追加関税が課されていた。 アメリカは、今年の5月10日に、2000億ドルに対する制裁関税を10%から25%に引き上げた。これを受けて、世界の株式市場で株価が急落した。 6月末の米中首脳会談で第4弾の発動はいったん見送られたものの、中国側に譲歩の姿勢がみえないとして、今回の強硬策に打って出たのだ。 今回の引き上げがなされると、中国からの輸入のうち、2500億ドルに25%、3000億ドルに10%の追加関税がかかることになる。 なお、トランプ大統領は、3000億ドル分について、「段階的に引き上げる可能性がある。25%以上もあり得る」と述べた。 近い将来に米中が合意に至る可能性は、低下している』、「エスカレートする」スピードも速いことに驚かされる。
・『米中両国の経済に悪影響が及ぶ  今回の対象には、中国からの輸入依存度が高い消費財が多く含まれている。スマートフォンやPC(パソコン)、衣料品、玩具など、消費者への影響に配慮してこれまで避けてきた品目が中心だ。 高関税が実施されれば、消費財が値上りし、企業業績も下押しされるだろう。 国際通貨基金(IMF)は、今年4月に発表した「世界経済見通し」において、米中両国が全ての輸入に対する関税率を25%に引き上げた場合、実質GDP成長率がどの程度低下するかを、いくつかのモデルを用いて推計した(World Economic Outlook April 2019; Chapter 4 - The Drivers of Bilateral Trade and The Spillovers From Tariffs; April 3, 2019、Box4.4、p.125)。 その結論は、つぎのとおりだ。 (1)米中貿易は、短期的には25〜30%。長期的には30〜70%ほど落ち込む。 (2)これによって、実質経済成長率(年率)は、中国は0.5~1.5%ポイント、アメリカは0.3~0.6%ポイントほど落ち込む。 このように両国とも痛手を負うのだが、中国のほうが影響が大きい。これは、輸出依存度が高いからだ。 中国に生産拠点を持つ日本企業への影響も避けられない。タイやベトナムなどへの生産拠点移動などの動きが急ピッチで進むだろう』、「実質経済成長率」押し下げ効果は、中国の方がアメリカの2倍以上あるようだが、これを国内投資の引上げで相殺しようにも、既に国内投資が伸び切った状態にあるだけに、困難だろう。
・『リスクオフ志向が強まり金融市場が動揺  8月5日の株式市場で、ダウ工業株30種平均は大幅に続落し、前週末比767ドル(2.9%)安の2万5717ドルと、6月5日以来2カ月ぶりの安値になった。ダウ平均の下げ幅は今年最大で、2018年12月4日以来ほぼ8カ月ぶりの大きさだった。 6日午前の中国市場で、株価が大幅続落した。代表的株価指数である上海総合指数は一時3%超下落した。 6日の東京株式市場で日経平均株価は3日続落し、一時は前日比600円超下げた。終値は、前日比134円98銭(0.65%)安の2万0585円31銭となった。これは、7か月ぶりの安値だ。 長期金利(新発10年債利回り)は、6日にマイナス0.215%と2016年7月以来の低水準になった。 マイナス0.2%は、日本銀行の長短金利操作で誘導目標の下限として市場で意識されている水準だ。 原油価格も値下がりしている。 株安、金利下落(債券価格上昇)、円高、人民元安、原油価格下落。これらは、投資家の「リスクオフ」(危険回避)と呼ばれる行動によって引き起こされるものだ。 外見上は、2016年半ばに起こったこととよく似ている。ただし、リスクオフが高まる原因は異なる。 2016年の際には、アメリカが量的緩和政策から脱却して金融正常化を開始し、そのため、リスク資金の供給が減少して、投機の時代が終焉したということが原因であった。 それに対して現在は、貿易戦争の帰結が見えないという不確実性の高まりだ。これによって将来の見通しが立ちにくくなったので、投資のリスクが大きくなった。このため、安全と考えられる資産に投資が向かうのだ』、日本の長期金利の「マイナス」幅拡大は、地域金融機関を中心に金融機関に大きな打撃だろう。
・『貿易戦争進展に伴って元安が進んでいる  5日の中国・上海外国為替市場の人民元相場は、対ドルで続落し、1ドル=7・0352元となった。1ドル=7元を超える元安は、2008年5月以来11年ぶりだ。 これを受けて、中国人民銀行は5日朝、人民元の対ドル相場の基準値を昨年12月以来の低水準となる1ドル=6・9225元に設定した。一定の元安を容認したことになる。 これによって、追加関税の効果を打ち消し、輸出を下支えしようとする意図があるのだろう。 では、どの程度の元安になれば、関税引き上げの効果を打ち消せるのだろうか? 中国からアメリカへの財輸出は、2017年において約5000億ドル、2018年に約5400億ドルである。 ところで、上述のように、2019年5月初めまでの段階で、このうち500億ドルに25%、2000億ドルに10%の追加関税が課されている。これによって輸入額は、(500x25%+2000x10%)/5000=6.5%ほど値上がりしたことになる。 他方で元ドルレートの推移を見ると、2018年1月には1ドル=6.3元程度であったものが、貿易戦争勃発の影響で、11月には6.9元程度にまで元安になった。 そして、2019年2月には、6.7元程度になった。5月下旬には、2000億ドル分についての追加関税率が10%から25%に引き上げられたことに伴い、6.9元まで元安になった。 このように、貿易戦争の進展に伴って、元安が進んでいるのだ。 6.3元から6.9元までは9.7%程度の元安だから、これによって、関税率引き上げの効果(上述の計算では6.5%)は、打ち消されたと考えることができる。 では、今後はどうか? 第4弾の対象は上記のように3000億ドルだが、これは、2018年の中国からアメリカへの輸出の約55%になる。したがって、これに10%の追加関税がかかれば、輸出総額は5.5%増加する。 元の対ドルレートが5.5%下落すれば、その効果は打ち消されることになる。これは、1ドル=6.9元であるものが、1ドル=7.3元になることによって実現される。したがって、ここが、今後の元レートの1つの目安になるという見方がある』、これは余りに単純化した試算値で、文字通り「1つの目安」でしかない。
・『通貨戦争になると日本は直接に影響を受ける  中国通貨当局の元安容認を受けて、アメリカ財務省は5日、中国を「為替操作国」に指定した。これは、1994年以来、25年ぶりのことだ。事態は通貨戦争の様相を呈してきた。 また、トランプ大統領は、連邦準備理事会(FRB)に対して利下げ圧力をかけており、9月に追加利下げが行われるとの観測がなされている。また、ヨーロッパ中央銀行も秋に利下げを行うのではないかとの観測がある。こうなると、世界的な通貨安競争が始まる可能性もある。 この問題は、当然、日本の金融政策にも大きな影響を与える。 ただし、中国は手放しで元安を進めるわけにはいかないことに注意が必要だ。 なぜなら、元安に歯止めがかからなければ、資産を中国国内から海外に持ち出す大規模な資本流出が加速し、中国の金融市場が不安定化するからだ。 以上のような国際金融市場の動きは、日本にも影響を与えている。6日の東京市場では、円相場が一時、1ドル=105円台半ばまで上昇した。 これは、世界経済のリスクが増すと、安全な資産と見なされている円に資金が流れるためだと考えられる。 高関税にしてもファーウエイ排除にしても、日本は影響を受ける。しかし、それはあくまでも間接的な影響だ。ところが、 通貨戦争となれば、日本は 直接の影響を受ける。 企業利益にはかなり大きな影響を与える。日本企業(とくに製造業)の利益は、円安で増加し、円高で減少する傾向があるからだ。今後円高が進行すれば、利益減少が顕在化するだろう。 マーケットを通じる影響だけではない。トランプ大統領は、かねてから、「日本が円安政策をとっている」という考えを表明していた。こうした批判が、日本をターゲットとする直接的な政策(例えば、自動車の輸入規制)に発展する可能性も否定できない』、日本としては、これまで享受してきた「円安」メリットを諦め、円高への圧力を甘受すべきなのではなかろうか。

第三に、投資銀行家のぐっちーさんが8月10日付け東洋経済オンラインに寄稿した「ぐっちーさん「米中戦争で見落しがちな真実」 トランプと習近平はどこまで「本気」なのか」の3頁目までを紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/296934
・『ドナルド・トランプ大統領がまたもや「中国に関税をかけるぞ」、とツイッターで脅したことで、世界中で一時株価が急落、大騒ぎになっています(その後も乱高下を繰り返していますな)。こうなるとGDPも雇用統計も糞もない(笑)。 ぐっちーポストの「有料メルマガ」では当初から散々書いてきたテーマなので、「何をいまさら」なんですが、多くのメディアの人はそういう情報にお金を払う気は毛頭ないようで、平気で電話してくる方々がたくさんいて、よほど仲のいいメディアの人でない限り、お話はお断りしています。なぜなら、こちらのいいたいことをすべて読んだうえで質問してもらわないと、答えの一部だけを切り取られたりして誤解されてもムカつくし、そういう意味ではメディアの姿勢も問われるべきではないでしょうか。 というわけで、本来別の話題を書くつもりだったのですが、メディアの方のアクセスも多いので、こうしておけば過去の記事をちゃんと読んで取材に来てくれるだろう、ということで、東洋経済オンラインには本件について過去に書いてきたことをまとめてみます』、ぐっちーさんの見解とは興味深そうだ。
・『アメリカの「対中貿易赤字」は高水準のまま  まず、誤解を恐れずに言えば、米中貿易摩擦問題による「経済上の大問題」は、そもそもほとんど存在すらしていません。そんなもの、現実には最初から今に至るまでないに等しいのです。お互いに関税を掛けたり、輸入禁止をしてみたり、いろいろなことをやっていますが、実際にそれで何かの効果が見られましたか?これは統計をちょっと見たら明らかなんですが、どうしてそれがわからないまま、大騒ぎしているのか、全く意味不明です。 すでにアメリカが関税をかけ始め、中国が報復をして1年以上がたつんですよ。それで何かが変わったか。例えば貿易統計を見てみると、ほとんど何も変わっていないということがすぐわかります。制裁前も後もアメリカの貿易赤字は高い水準ですし、対中国の貿易赤字水準も少し減ったくらいで、ほぼ変わりません。これは大きな問題が起きていないということ以外、説明のしようがありませんよね。みなさん、一体何を見ているのでしょうか。 今回の株価下落は、トランプ大統領がさらに追加関税をかけるとツイートしたことに端を発します。しかし、これはディールの一環で最初から考えていた手を打ったにすぎません。 要するに、初めからいずれこれをやるというのは予想できることです。メルマガでは明確にそう書いてきましたし、市場関係者でこの辺を理解していない人はもうほとんどいないんじゃないでしょうか。恐らく自分で参加したことのない、メディアや学者、エコノミストだけが右往左往していて、だんだん話が大きくなっているような気がします。ある意味怖いですね。そうした人たちの分析を読んで大変だ、と思っている皆さんはもっと怖いです(笑)。メダカがクジラになってしまっている。 これも何度も書いていますが、トランプという人は本気で喧嘩する気は全くないのです。あくまでもディールの一部としてやっているだけなので、要するにプロレスでチョップを打ったり打たれたりしながら、大げさに倒れたりしている、というのが現状なのに、なんで市場が右往左往する必要があるんでしょうか。別に放っておけばいいし、安くなった株があれば買えばいいのです』、「トランプという人は本気で喧嘩する気は全くないのです。あくまでもディールの一部としてやっているだけなので、要するにプロレスでチョップを打ったり打たれたりしながら、大げさに倒れたりしている、というのが現状なのに、なんで市場が右往左往する必要があるんでしょうか」、というのは、言われてみれば、その通りなのかも知れない。先に紹介した記事はいずれも「大変」というトーンなので、真逆だ。
・『米中は本気で戦う気などない  1ドル=105円台なんて、しばらく来るとは思ってなかったレベルですから、ドルが欲しかった人は「しめしめ」でしょう(元安の余波でアジア通貨が全面安となり、逃避資金として円が買われているわけです。FRB(米連邦準備制度理事会)がどーしたこーした、と言っている人がいますが、信じられませんね)。 一方、中国の習近平主席にしても、本気で喧嘩する気は毛頭ありません。このままプロレスをやり続け、来年の大統領選挙でトランプが負けてくれればラッキーだ、というモードにすでに入っています。「国有企業への農産物の輸入停止要請」はチョップより少し強力なバックドロップという感じですが(笑)、アメリカに致命傷を与えるわけではありません(アメリカはほかに売り先がいくらでもある)。 この話の中で最もまずいのは、お互いにエスカレートしていって、貿易摩擦のレベルではなく、米中によるイデオロギー(ここでは国家の思想体系)の対立になることで、そこまで行くならこれは大変な影響があります。このレベルはディールになりません。それこそ世界経済は凍り付くでしょう。 例えばアメリカが「中国共産党の1党独裁は許さん」、と言い出したり、中国が「アメリカこそ人権侵害を繰り返している(人種問題その他)」とやりだせば、合意などしようがなくなり、まさに米中激突。ただ、先ほど書いたように、お互いにそこまでは全く望んでおらず、どこかで手を打つということになるわけです。まさにトランプのプロレスに習近平が乗って見せた、ということに過ぎません。 繰り返しますが、貿易統計上、想像を絶するような大きなことは何も起きておらず、アメリカ経済は好調、中国経済はちょっと不調ですが、習近平の独裁体制は完璧です。一体だれが自らこれを壊したいと思うでしょうか。一番危ないのは、お互い妥協できない問題であって、いま起きている問題はいくらでも「ディール」ができることですから、何がそんなに問題なのか意味が分かりません。 むしろ日韓関係こそ、韓国が全くディールする気がありませんから、日本が譲歩しない限りこれはこれで大変な問題です。ただ、別に日韓がどうなろうとも世界経済にはほとんど影響がありませんから、それはある意味どうでもいいテーマです。韓国経済は塗炭の苦しみを味わうでしょうが、文在寅政権としてはそれで、「反日でまとまって国が一体となればそれでいい」、くらいに考えているんじゃないでしょうか。実際に支持率は上がっているわけですから、マッチポンプとしては「高性能」です』、「米中は本気で戦う気などない」が、「お互いにエスカレートしていって、貿易摩擦のレベルではなく、米中によるイデオロギー(ここでは国家の思想体系)の対立になることで、そこまで行くならこれは大変な影響があります」、というのは香港への中国人民解放軍による介入があれば、一気に火を噴くだけに、大いに気になるところだ。楽観的なぐっちーさんも、この点には警戒色を示し、ヘッジしているようだ。
・『株式投資の本質とは何か  ということで、貿易摩擦の激化、というなら、その証拠を見せてもらいたい。1年たってもほとんど何も大きな影響がないわけですから、今後もありません。ワタクシに言わせれば、摩擦にもなっていません。大統領選挙までまだ時間がありますから、トランプも今妥協する気は全くない。しばらくはプロレスが続く、ということです。 その意味で、マーケットとしては短期的にはチャンスなんでしょう。 クオリティーの高いものはそうはいってもこういう「プロレス」には強く、ワタクシが1980年代から保有しているコアポートフォリオの一部である、ジョンソン&ジョンソン(ティッカーシンボルはJNJ、ニューヨーク市場)は、市場全体が5日急落した中、130.16ドルで取引を終えましたが、前日比ではわずかマイナス0.91ドルでした。1ドルすら下がっていない。正直、もっと下がってくれれば買い増したのにね。 要するにそういうことです。いつも申し上げていますが、どうせ株式投資をするならこういう株を買うべきでしょう。あとは寝ていれば良いのです。これが投資の基本ですね。 ちなみに、日本株は全てとはいいませんが、残念ですが基本的に全くお勧め致しません。理由は有料メルマガにたくさん書いていますので、大変申し訳ありませんがお金を払ってご覧ください(笑)』、ジョンソン&ジョンソンは製薬、医療機器その他のヘルスケア関連製品を扱う超優良企業で、景気に左右され難い代表的銘柄なので、市場が急落しても下げは小幅というのは当然だ。「マーケットとしては短期的にはチャンスなんでしょう」、というのはその通りなのかも知れない。
タグ:東洋経済オンライン IMF 野口 悠紀雄 JBPRESS ジョンソン&ジョンソン 現代ビジネス 福島 香織 米中経済戦争 (その9)(人民元「破七」で金融戦争突入 捨て身の中国の勝算 米国相手に突っ張るしかない習近平 国民に「新長征」を強いる、米中経済戦争が 世界的な通貨戦争の引き金を引こうとしている 円高が日本経済を直撃する、ぐっちーさん「米中戦争で見落しがちな真実」 トランプと習近平はどこまで「本気」なのか) 「人民元「破七」で金融戦争突入、捨て身の中国の勝算 米国相手に突っ張るしかない習近平、国民に「新長征」を強いる」 人民元が1ドル=7元のラインを突破 「破七、守七」と呼ばれる1ドル7元ラインは、一種の心理ラインとされ、これを超えると、中国政府としても制御できない勢いで人民元暴落が起きかねないと言われていた 「破七」は自信の表れか? 人民元安はデメリットの方が大 貨幣戦争を仕掛けざるを得ない党内事情 「新長征」を呼びかけた習近平 香港も空港の占拠と閉鎖で、人民解放軍による介入が現実味を帯びており、極めて不気味だ テレビのニュースでは、空港の警備強化や、裁判所による占拠を不法とする判断などから、運行は再開され、混乱は多少落ち着きつつあるようだ トランプ大統領も人民解放軍による介入を牽制 「米、対中関税555品先送り 「第4弾」、スマホなど12月」 「NY株大幅高・円急落 米中摩擦懸念和らぐ」 「米中経済戦争が、世界的な通貨戦争の引き金を引こうとしている 円高が日本経済を直撃する」 エスカレートする米中貿易戦争 米中両国の経済に悪影響が及ぶ 今年4月に発表した「世界経済見通し」 米中貿易は、短期的には25〜30%。長期的には30〜70%ほど落ち込む 実質経済成長率(年率)は、中国は0.5~1.5%ポイント、アメリカは0.3~0.6%ポイントほど落ち込む リスクオフ志向が強まり金融市場が動揺 貿易戦争進展に伴って元安が進んでいる 通貨戦争になると日本は直接に影響を受ける 「ぐっちーさん「米中戦争で見落しがちな真実」 トランプと習近平はどこまで「本気」なのか」 アメリカの「対中貿易赤字」は高水準のまま 米中は本気で戦う気などない お互いにエスカレートしていって、貿易摩擦のレベルではなく、米中によるイデオロギー(ここでは国家の思想体系)の対立になることで、そこまで行くならこれは大変な影響があります 株式投資の本質とは何か
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香港(その1)(香港大規模デモ 火種となった「引き渡し条例」とは何か、1国2制度てこにした台湾統一しぼむ 香港への寛容不要に、香港の混乱が中国のアキレス腱になりうる理由 国際金融センターで何が起きているのか) [世界情勢]

本日は、香港(その1)(香港大規模デモ 火種となった「引き渡し条例」とは何か、1国2制度てこにした台湾統一しぼむ 香港への寛容不要に、香港の混乱が中国のアキレス腱になりうる理由 国際金融センターで何が起きているのか)を取上げよう。

先ずは、6月10日付けロイター「香港大規模デモ、火種となった「引き渡し条例」とは何か」を紹介しよう。
https://jp.reuters.com/article/hongkong-politics-extradition-idJPKCN1TB0Q2
・『中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」の改正案に反対する大規模デモが香港で9日行われた。主催者発表によれば103万人が参加し、2003年の「国家安全条例」案に反対した50万人規模のデモを大きく上回った。 今回の改正案が成立すれば、香港住人だけでなく、香港に住んだり渡航した外国人や中国人までもが、中国側からの要請があれば本土に引き渡されることになる。 国内外で圧力が強まる中、逃亡犯条例改正案は12日から立法会で審議が始まる予定。現立法会は体制派(親中派)が優勢で、法案は月内に可決されるとみられている。 6日には、弁護士ら数百人が異例の抗議活動に参加し反対を表明した。 大規模デモの火種となった香港の引渡し条例改正案について、以下にまとめた』、その後の激しい抗議行動を受けて、事実上の廃案となったようだが、完全撤回まではいってないようだ。ここで、「火種」をよく知っておくのは意義深い。
・『逃亡犯条例改正案とは何か  香港特別行政府が2月に提案した改正案で、現在ケースバイケースで対応している刑事容疑者の身柄引き渡し手続きを簡略化し、香港が身柄引き渡し条約を結んでいる20カ国以外にも対象を広げるという内容だ。 改正案は、香港から中国本土や台湾、マカオへの身柄引き渡しも初めて明示的に認めている。香港当局は、これによって香港を本土からの犯罪人の逃避先にしていた「抜け穴」を塞ぐことができると主張する。 外国当局から引き渡しの要請を受けた香港当局は、引き渡し手続きを開始し、法廷での審理を経た上で、最終的に引き渡しを承認することができる。容疑者は、法廷での審理結果に不服があれば上訴することもできる。しかし、一方で、引き渡し手続きに対する立法会の監督権限はなくなる』、対象を広げるついでに、「香港から中国本土や台湾、マカオへの身柄引き渡しも初めて明示的に認めている」、とは巧妙なやり方だ。
・『香港行政府は、なぜ改正案を進めているのか  昨年、香港人の若い女性が旅行先の台湾で殺害された事件をきっかけに、香港当局は法改正に乗り出した。警察は、この女性の交際相手が香港に帰国後、自白したとしているが、この男は(殺人事件では訴追されず)現在マネーロンダリング関連の罪で服役している。 一方で、台湾当局は、改正案は香港にいる台湾人をリスクにさらすものだとして強く反対しており、もし改正案が成立した場合も、殺人犯としてこの男の引き渡しを求めることは拒否するとしている。 香港が1997年、「一国二制度」の下で英国から中国に返還される以前から、いずれ本土との間に身柄引き渡しについての取り決めが必要になるとの指摘が当局者や専門家から出ていた。 香港に広範な自治を認めた同制度では、中国本土とは異なる独立した司法システムの維持も認めている。 返還後、中国本土の司法や安全保障当局者との間で非公式協議が行われたが、ほとんど進展はみられなかった。中国本土では、共産党が司法制度をコントロールしている』、きっかけとなった「香港人の若い女性が旅行先の台湾で殺害された事件」については、「台湾当局は、改正案は香港にいる台湾人をリスクにさらすものだとして強く反対しており、もし改正案が成立した場合も、殺人犯としてこの男の引き渡しを求めることは拒否」、というのでは、真の狙いは「中国本土」への引き渡しにあるのだろう。
・『改正案に対する反発の強さはどの程度か  改正案に対する懸念は最近になって急速に広がり、普段であれば香港や中国の当局と大っぴらに対立することを嫌うビジネス界や体制派にまで拡大している。 香港の裁判官も非公式に警戒感を表明しており、香港に拠点を持つ本土の弁護士でさえ、本土の司法システムでは最低限の公正さすら期待できないとして、これに同調している。香港の弁護士グループは、改正案の延期を求め、政府に詳細な要望書を提出した。 香港当局は、裁判官が引き渡し審査に際して、「番人」としての役割を果たすと強調している。だが、中国本土と香港との関係緊密化に加え、引き渡し審査内容が限定的であることから、裁判官が中国政府からの政治的圧力や批判にさらされる恐れがある、と一部の裁判官は非公式に懸念している。 学校や弁護士、そして教会グループが、人権擁護団体とともに改正案への抗議活動に参加している。 改正案を巡って立法会で乱闘騒ぎが起きたことを受け、行政府は通常の立法手続きを迂回して法案成立を急ぐことを決め、反対派を激怒させた。 人権への懸念を巡り、国外からの政治的、外交的圧力も強まっている。ポンペオ米国務長官や英独の外相が表立って発言し、欧州11カ国の総領事などが林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官に面会して正式に抗議している。 「法の支配や香港の安定と安全保障、偉大な国際貿易拠点としての地位に深刻な打撃を与えるものだ」。英国の最後の香港総督を務めたクリス・パッテン氏は6日、こう述べて懸念を表明した。 一部の野党政治家は、この問題は香港の独立的地位にとって転換点となるものだとしている』、G20東京サミットで話題にしなかったのは、中国との関係改善を図る安倍政権の「温情」だろう。
・『改正案を撤回又は延期する可能性は  林鄭氏や行政府幹部はこの改正案を強力に擁護しており、台湾で起きた殺人事件を巡って行動を起こし、「抜け穴」を閉じる必要があると強調している。 また、政治的、宗教的な訴追に直面していたり、拷問を受ける恐れがある容疑者の場合、引き渡しを阻止する「安全弁」が講じられているほか、死刑に処される恐れがある容疑者も引き渡しされないと主張する。 引き渡しの対象を重い犯罪に限定し、9件の経済犯罪については明示的に除外するなど、引き渡しの要件を厳しくしたものの、行政府が改正案そのものを撤回したり、より慎重な議論を行うために延期するような兆候はない。 外交圧力に直面する中国当局者も、この問題は主権問題だとして香港特別行政府を支持する立場を明確にしている』、撤回するか否かは、抗議運動如何だが、最近は暴力的なものも出てきている。これは、運動潰しを狙った中国系の差し金である可能性も考えられよう。

次に、元駐中国大使で宮本アジア研究所代表の宮本 雄二氏が6月19日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「1国2制度てこにした台湾統一しぼむ、香港への寛容不要に」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00023/061700060/?P=1
・『逃亡犯条例改正をめぐり香港の混乱が続いている。6月9日、香港史上最多の100万人超が参加する反対デモが起こり、香港政府は15日、審議を延期すると発表した。だが、16日、その完全撤廃を求めて、前回を上回る200万人近くがデモに参加した(いずれも主催者発表)。香港は混迷を深めている。 歴史をたどると、物事の本質がもっとはっきり見えてくるものだ。 中国共産党は香港、台湾を取り戻さないと近代100年の“屈辱の歴史”は清算されないと考えてきた。失われた領土の回復は、中国共産党にとって著しく重大な事業なのだ』、台湾問題も絡んでそもそも論を展開するとは、さすが元駐中国大使だ。
・『矛盾と対立をはらんだ一国二制度  香港は「香港島」と、中国と陸続きの「新界」からなる。香港島は1842年のアヘン戦争後に英国領となり、その後、英国は新界を99年間租借した。その期限が1997年に訪れた。〓小平は78年に改革開放政策を決めると、台湾問題を念頭に置きながら、香港問題の解決を考え始めた。当然、香港全部の返還が大前提であり、そのためには英国と交渉する必要がある。中英の香港返還交渉は80年代に始まった。 84年12月、中英共同声明が発出された。これは国際約束であり、中国のその後の香港政策の基本的枠組みとなった。香港は高度の自治権を持つ特別行政区となり、そこで実施されていた自由や権利は保障されることとなった。しかしながら、香港は中国の一部となり、中央の直轄となった。具体的にどう統治するかは、全国人民代表大会(全人代、日本の国会に相当)が決定する「香港基本法」で定める。 香港が中国に帰属するという建前と、香港に与えられる高度な自治との間には調整の難しい深刻な矛盾と対立が存在していた。天安門事件から1年もたたない90年4月、基本法が成立したが、この矛盾は解決されなかった。曖昧さを残したものしか作れなかったのだ。基本法を具体化するプロセスの中で、それらの矛盾が逐次表面化していく。基本法の解釈権について、「中央が管理する事務」と「中央と香港の関係」は全人代が、それ以外は、香港法院が解釈できると定めている。だが、その細部は不明であり、前例を積み重ねるしかなかった。中国と香港の関係はそのつど緊張した。それが香港の「一国二制度」の宿命だった』、「一国二制度」はやはりガラス細工のように脆かったようだ。
・『香港に寛容だったのは台湾を統一するため  それでも、基本法の実施に当たり、中国は可能な限り香港の現行制度と自由と人権に配慮してきた。自由で繁栄する香港の存在が、中国自身が経済発展するのに必要だったからだ。香港は50年代半ばから工業化を進め、80年代にはシンガポール、韓国および台湾とともに経済成長著しい「アジアの四小龍」と呼ばれた。中国は香港を最大限に活用して経済発展を図ることにした。中国の改革開放に香港は重要な役割を果たしてきたのだ。 同時に〓小平は台湾問題の解決を見据えていた。葉剣英(全人代の常務委員会委員長)は81年、台湾に対し香港以上に柔軟な一国二制度を提案した。台湾は香港よりさらに大きな自治と権限を持つことができ、軍隊まで保有できるという内容だ。83年、〓小平はその早期実現への期待を表明した。基本は、中国共産党と中国国民党による第3次国共合作だった。香港で一国二制度を成功させることは、台湾問題を解決する道でもあったのだ』、「〓小平」が「台湾に対し香港以上に柔軟な一国二制度を提案」、「第3次国共合作」まで考えていたとは、構想力の大きさに改めて驚かされる。
・『逃亡犯条例改正は共産党政府が繰り出した第4の矢  これらの理由により、北京は香港に対し比較的柔軟な姿勢を持続させた。しかし香港における政治運動は中国本土に悪影響を与える。香港の経済を自由に発展させ、それを利用しながら、同時に政治の管理を強めたいというのが北京の本音だった。 転換点となったのが2003年の50万人デモである。基本法は反逆、国家分裂、反乱扇動など国家安全を脅かす行為を禁止する法律を香港が自ら立法するよう規定している(23条)。02年、香港政府はその立法化に着手した。しかし、デモによりこれは失敗に終わった。 中国は、この動きを愛国心不足のためだと認識し、12年に「徳育・国民教育科」の導入を目指した。だが北京の意向を受けた香港政府の動きは、中高生の強い反対を呼び起こし撤回に追い込まれた。 中国は続いて14年、17年に行われる予定の香港行政長官選挙において、民主派が立候補するのを事実上不可能とする決定を下した。これに反対する香港の人たちは「雨傘運動」を繰り広げた。この運動は79日間継続したが、中国は譲歩せず、反対運動は挫折した。 そして今回の逃亡犯条例改正に反対するデモである。中国が12年以来、香港への管理を強化する流れの中で、香港が返還されて以降、最大のデモとなった。中国の経済発展と国力の増大は香港の有用性を相対的に低下させ、それが香港の中国化を促進する。それに対する反発と将来への不安が、これほど多くの香港の人たちをデモに駆り立てたのであろう。 しかし、理由はそれだけではない。香港の出来事は中国の国内情勢と不可分に結び付いている』、当局は「79日間継続した」「雨傘運動」は「挫折した」、の「二匹目のドジョウ」を狙っているのだろうが、今回はどうなるのだろう。
・『香港の経済的重要性は20年で7分の1に低下  12年11月、習近平氏が中国共産党総書記に就任した。その頃、中国の国力は増大し、世界における中国の存在感も急速に拡大していた。中国国内のナショナリズムの高まりも顕著だった。同年9月に始まった尖閣問題をめぐる日中の衝突は、中国の対外姿勢を「実力による現状変更」という新たな段階に引き上げ、自己主張の強い強硬姿勢に転換させた。 この基本姿勢の転換は、香港においては、中国の権威を誇示し管理を強化する方向に作用した。中国経済にとって香港の有用性が大きく低下した事実が、それを助長した。香港経済は、1997年には中国全体の2割弱の規模を誇っていた。それが20年後の2017年にはわずか3%弱となった。深?は経済規模で香港に追い付き、ハイテク分野でははるかに引き離した。金融市場としても上海の重要性の方がさらに高まった。中国は香港に対して、以前ほど遠慮する必要がなくなったわけだ。 香港を優遇するもう1つの理由であった台湾問題も、この20年間で大きく変質した。中国国民党の統治は終わり、その優勢も消えた。国共合作による統一は夢と消え、台湾独立派が力を強めた。一国二制度に基づき台湾問題を解決するという基本方針に変わりはないが、台湾と香港は分けて考えざるを得なくなった。台湾問題を念頭に、香港の政治に甘い姿勢を見せる必要もないと考える人たちが増えた。 国際社会との関係でも中国は自信を付けた。中国が天安門事件後の国際的孤立から脱却し、経済を驚異的な勢いで成長させたのを背景として、欧米は中国の民主化や人権にあまり口出ししなくなった。むしろ遠慮するようになったほどだ。逆に、中国の影響力と国際的発言力は増大した。昔ほど欧米を気にする必要はなくなった。 これらを背景に、香港を「より中国的に」統治すべきだという声が中国指導部の中で強まったとしても不思議ではない。とりわけ、「中国モデル」に従い中国国内の管理と統制を強めているときに、香港にだけ自由気ままを許したのでは示しがつかないだろう。2012年以来、そういう方向で香港の管理強化が意図されてきたことは恐らく間違いない。 従って、香港の人たちが「北京は香港の『中国化』を進めている」と強く感じ、それに反発し抵抗しているという見方は正しい。中国大陸への経済的な依存が高まり、中国の影響力が増す中で、香港の生きざま(Way of Life)を守りたいということだ。それは欧米のいう「民主化」とは必ずしも一致しない。英国の植民地であった時代に香港が真の民主主義を経験したことは一度もなかった』、「「中国モデル」に従い中国国内の管理と統制を強めているときに、香港にだけ自由気ままを許したのでは示しがつかない」、というのは香港にとっては、厳しい材料だ。
・『国際社会の注目が改正を延期させた  中国が台頭し、自分たちのやり方に対する自信を増大させたことが、米国を中心とする欧米社会において中国異質論を生み出し、中国を現行国際システムに対する「修正主義者」と断じさせた。米国では、今、中国をたたいておかないと米国の民主主義自体が壊されるという恐怖心が芽生えているという。これまでのように、中国はいずれ自分たちと似たような国になるのだから、中国が嫌がることはあまり言わずにいてあげようという雰囲気は欧米から消えた。自由や人権という、民主主義の核心的価値を求めるべく、再度声を上げるべきだという雰囲気になってきている。なんだか天安門事件の頃の雰囲気に似てきた。 今回、香港政府が逃亡犯条例改正の延期を決めたのは、混乱を収拾し事態を沈静化するためだろう。同時に6月28日から始まる20カ国・地域首脳会議(G20サミット)を強く意識した対応だ。天安門事件のときのような人権をめぐる対立の構図を、世界との関係で作りたくないのだとみられる。 米中対立の激化は、中国国内で路線の違いを表出させ、もう少しソフトな対応を求める声が強まっている。香港問題についても同じ力学が作用する。力で押さえつけ管理を強めるだけでは物事はうまくいかないと思っている人も少なくないのだ。逃亡犯条例改正問題は、中国と世界との関係がどのように収れんしていくのかという問題と切り離せない関係にあるのだ』、香港にとっては、米国など「国際社会の注目」だけが頼りの綱のようだ。

第三に、 経済ジャーナリストの岩崎 博充氏が7月9日付け東洋経済オンラインに寄稿した「香港の混乱が中国のアキレス腱になりうる理由 国際金融センターで何が起きているのか」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/291118
・『香港政府が進めようとした「逃亡犯条例」をめぐって、反政府デモが過激度を増している。 6月16日には人口800万人の香港で、4人に1人に当たる200万人が参加。7月1日から2日にかけては一部の若者たちが立法会(議会)に突入し、一時的に議場を占拠した。 CNNやBBCは、先進国でこのような事態が起こったことを驚きをもって伝えていた。香港政府が目指す逃亡犯条例の改正をめぐるゴタゴタは、まだ収束する気配はなさそうだ。国際金融センター、自由港区として知られる香港だが、中国に返還されて7月1日でちょうど22年。香港の統治に自信を見せていた習近平中国国家主席だが、香港は中国にとってアキレス腱になる部分も出てきた。 香港あっての中国と言われてきたが、いったい何が起きているのか――。国際金融センター・香港が直面する課題を考える』、「国際金融センター」を中心にみるというのも興味深い。
・『香港デモの背景には「米中貿易交渉」?  6月9日に103万人、6月16日には200万人という大規模な香港デモが起こったわけだが、その背景には「米中貿易交渉」の動きもあると言われている。香港政府が目指していた逃亡犯条例は、その法案が可決されてしまえば、香港に居住する人々はむろんのこと、香港で働くビジネスマンや観光で訪れた外国人に対しても、何らかの口実をつけて逮捕され、強制的に中国本土に移送されて裁判にかけられるのではないか――そんな懸念があるからだ。 まさに、香港で保障されている自由や人権が奪われてしまう可能性が出てくる。そんな逃亡犯条例に反発して自然発生的に起きたのが今回の香港デモだが、実は同時進行的に、アメリカ議会が香港政府を牽制する動きに出ていた。 共和党のルビオ上院議員、民主党のカーディン上院議員など超党派の議員が、103万人デモ直後の6月13日、これまでアメリカが香港に与えてきた貿易上の特権措置を見直す法案を提出。香港の「高度な自治」の検証を義務付ける法案「香港人権・民主主義法案」を提出したのだ。 アメリカは「アメリカ・香港政策法」に基づいて、香港に対して関税やビザ発給面で優遇してきたが、香港に高度な自治がなくなればさまざまな特権を廃止したほうがよく、そのためには、香港に十分な自治権があるかどうか、毎年検証を義務付けようという法案だ。提出された法案には、中国本土への容疑者引き渡しに関与した人物に対する資産凍結など制裁措置も盛り込んでいる。同法案は、ペロシ下院議長(民主党)も支持する姿勢を示しており、与野党の枠を乗り越えて早期に可決されるかもしれない。 この法案が出された背景には、中国がアメリカに対して発した「内政干渉するな」という脅しに反発したものとも言われているが、米中貿易交渉のタイミングを考えると、この法案が中国へのプレッシャーの1つであることは間違いない。 ちなみに、香港は大半の商品に関税がかからない自由港区だが、日中貿易交渉の一環で中国にかかっている追加関税も、香港を通せば非課税扱いになる。その香港ルートも、閉ざしてしまおうというのが今回出された法案の狙いの1つだ』、「香港人権・民主主義法案」については、初めて知った。「中国にかかっている追加関税も、香港を通せば非課税扱いになる。その香港ルートも、閉ざしてしまおうというのが今回出された法案の狙いの1つだ」、というのは中国にとっては、極めて重い意味を持ちそうだ。
・『香港は中国の「集金マシーン」?  一方、中国にとって香港は貿易面でも、そして世界中から投資資金を集めるという面でも不可欠な存在だ。 香港の株式市場に上場している企業の半数は中国本土に籍を置く企業だ。つまり、中国企業は香港市場に上場することで、資金を集めて成長してきたところがある。株式市場だけではなく、中国企業が発行する債券など有価証券の大半は、香港の金融市場で売買取引される。中国はまさに香港の金融市場の集金力に支えられて成長してきたと言っていい。 実際に、2018年の新規株式公開(IPO)調達ランキングでは、香港市場が世界第1位になっている。中国のスマートフォン大手「小米(シャオミ)」やネット出前の「美団点評」などが新規上場したことで、IPOによる調達額は366億米ドル(約4兆1000億円、大手会計事務所デロイト・トウシュ・トーマツ調べ、以下同)となった。これは、2017年の2.2倍に達する金額だ。 2位はニューヨーク証券取引所(288億ドル)、3位は東京(262億ドル)となった。もっとも、2018年は中国の大手テック企業の上場が相次ぎ、動画配信大手「iQIY(愛奇芸、アイチーイ)」、音楽配信のテンセント・ミュージック・エンターテイメント・グループになどは、香港ではなくナスダックやニューヨークに上場している。 デロイト中国法人によると、2019年もIPOによる資金調達額で、香港取引所(HKEX)は世界3位以内を維持するだろうと予測している。香港でのIPO実施企業を約200社、調達額を1800億~2300億香港ドルと想定している。 もっとも、香港取引所での2019年1~3月期に実施されたIPOでは、前年同期より27社少ない37社で、調達額は16%減の204億香港ドル(2894億円)。香港取引所は、調達額では1位から後退している。米中貿易交渉やファーウェイの影響が少なからず出ていると言っていいだろう。 これを中国企業から見れば、2018年の中国企業のエクイティ・ファイナンス調達額のうち42%、IPOに限れば55%が香港市場で調達していると報道されている。香港は、まさに中国本土に世界マネーを供給してきた貴重な金融市場と言える。 一方で、香港はまた中国のマネーが逃げていく場としても注目されるようになっている。香港の不動産投資や事業への投資という形で、中国マネーが香港を通じて世界に流出する現象だ。 最近になって仮想通貨のビットコインが急騰して話題になっているが、ビットコインを通じて中国マネーが本土から流失しているという報道もある。中国ではビットコインの売買は禁止されているのだが、「OTC (店頭)市場」での信用取引は黙認されているとも言われ、その利益が香港などで事業資金に転換される』、第二の記事では、中国にとって香港の重要性は低下したとあったが、必ずしもそうでもないようだ。
・『インデックス投信に組み入れられる香港株  中国が香港を通じてかき集めているマネーは莫大な額にのぼる。香港市場で組成されるファンドの多くは、中国企業が組み入れられ、それを購入する欧米や日本の銀行や投資家は、いつのまにか中国に多額のお金を投資していることになる。 こうした現実に対して、ルビオ上院議員なども世界の株価指数に連動する投資信託などの情報開示が不十分だと指摘。実際に、日本の証券会社や銀行などが販売しているインデックス型の投信などの中には、香港を通して中国の企業に投資しているケースが多い。 とりわけ、グローバルなフィンテック関連企業などは、2018年に急速に伸びており、アクセンチュアの調査によると、フィンテックベンチャー企業への投資額は、世界全体で2017年の2倍を超える553億ドルに達し、とりわけ中国への投資額は9倍に跳ね上がっている。 2018年のフィンテック投資総額の46%を中国が占めており、いかに中国が世界からマネーを集めているかがわかる。もちろん、直接中国に入るマネーも多いが、香港を通して流入する投資額も巨大なものだ。 アメリカが中国に対して仕掛けている貿易戦争も、考えてみればすでに遅きに失しているのかもしれない。それだけ、中国は世界のマネーを集めてしまったと言わざるをえない。 問題はこれで香港に何かが起きたときに、どんな影響が出るかだ。今回の立法会への突入が象徴するように、先進国であのような暴動が起これば、警察が取り締まりを強化することは間違いない。ああした暴動は、香港政府や中国政府に動くきっかけや大義を与えてしまうため、香港の金融業界ではデモそのものを懸念していると言われる。 ひょっとすると、2047年まで約束されている「1国2制度」を繰り上げて、香港の自治権を中国政府が奪うような事態になるかもしれない。香港はイギリスから返還されるときに、当時中国のトップだった〓小平とマーガレット・サッチャー英首相が50年間の「1国2制度」に合意したわけだが、中国が自治の回復を名目に香港から「高度な自治」を奪ってしまうかもしれない。 2047年といえば、まだ遠い未来のことのように思えるが、住宅ローンなどを組む際には、すでに影響が出てきていると言われる。実際、日本から香港に進出している企業や投資家の一部には、シンガポールなどに拠点を移そうとする動きが現実になっている。 かつて、天安門事件直後に香港市民に取材したとき、5分の1程度の市民は「返還までに海外に脱出したい」と答えていたのを思い出す。近年、一度海外脱出した香港市民がまた香港に戻ってきた話をよく聞く。今回の香港デモが彼らに与えた影響は極めて大きかったようだ。 当然のことながら、欧米の銀行や証券会社、投資運用会社なども、シンガポールや東京などに拠点を移す動きが出てくる可能性もある。かといって、金融市場のルールや銀行口座のルールなどはそのまま継続する可能性が高い。香港は、預金保険なども金額こそ800万円程度と少ないが、外貨預金も保証の対象となっており、海外からの顧客にとっては日本よりも充実していると言える。 香港と言えば、「HSBC」や「シティバンク」、日系の「NWB」(注)といったポートフォリオを組んで資産運用してくれる「ポートフォリオ・アドバイザリー・サービス」を展開する銀行が有名だが、こうした金融機関も1国2制度の見直しがあった場合、どんな変化を余儀なくされるかは不透明だ。少なくとも、優位性のあるファンドの組成や世界中の債券に優先的に投資することはできなくなるかもしれない。 それだけ香港が持つ国際金融センターの機能は大きいということだ』、その通りだろう。
(注)NWB:新生銀行系のNippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank。
・『シンガポールに脅かされる香港の経済自由度  実際に香港の国際金融センターとしての位置付けは極めて確固たるものがある。最新の「世界金融センター指数」を見ても、香港は世界第3位に入っている。トップ10は次のとおりだが、香港は前年に続き3位に入っている(第25回、2019年3月発表)。 1. ニューヨーク 2. ロンドン 3. 香港 4. シンガポール 5. 上海 6. 東京 7. トロント 8. チューリヒ 9. 北京 10. フランクフルト 注目すべきは、上海と北京がそれぞれトップ10に入ってきており、今や中国も国際金融センターの仲間入りしていることだ。とりわけ上海は東京より高い5位に入っている。それだけ、中国も香港に代わる国際金融センターの育成に力を注いでいるということだろう。 一方、アメリカのシンクタンクであるヘリテージ財団とウォールストリート・ジャーナルが算出している「経済自由度指数(INDEX of Economic Freedom)」を見ると、香港は25年連続でトップを維持している。しかしながら、シンガポールに肉薄されており、いつそのトップの座を奪われても不思議ではないような状態だ。トップ10は、次のようになっている(2019年版)。 ① 香港(90.2点) ? シンガポール(89.4点) ③ ニュージーランド(84.4点) ④ スイス(81.9点) ⑤ オーストラリア(80.9点) ⑥ アイルランド(80.5点) ⑦ イギリス(78.9点) ⑧ カナダ(77.7点) ⑨ アラブ首長国連邦(77.6点) ⑩ 台湾(77.3点) ちなみに、日本は30位となっている。 経済自由度指数の採点では、財政の健全性や汚職の多寡、政府支出の大小、ビジネス、労働、投資の自由度などなど10項目で採点されている。世界的にも権威のある指数であり、香港の25年連続第1位は、それだけ香港の優位性を象徴している。 一方、香港が国際金融センターとして中国本土への集金マシーンとして機能している以外の部分では、近年ややその存在感を失いつつある。金融センター以外の部分ではあまりにも中国本土が成長してしまったために、その存在意義が失われつつあるともいえる。 国際金融センターとしての地位はシンガポールに迫られており、いずれはトップの座を明け渡すことになる可能性が高い。実際に、金融機関の一部はすでにシンガポールに脱出を図っているとも言われる。 ▽戦争が起きない限り金融システムは揺るぎない(1国2制度の期限が、あと30年を切った現在、今後は「2047年問題」が香港を苦しめる可能性は高い。逃亡犯条例の改正で4人に1人がデモに参加した状況を見ても、香港人の不安や焦りは想像できる。 いずれにしても、香港の未来は今回の香港デモによって、やや不透明感を増したと言っていい。とはいえ、香港に海外口座を持っている人もいると思うが、こうした金融システムが揺らぐようなことはまずないと考えていいだろう。 金融システムの根幹が揺らぐような事態というのは、もはや「内戦」や外部との「戦争」しか考えられない。世界有数の国際金融センターにそんな事態が起これば、日本の株式市場や債券市場も無傷では済まない。 それどころか、日本が世界最大級のダメージを受ける可能性もある。香港に資産を置いておくのも、日本に置いておくのも緊急事態のダメージはそう変わらない、ということだ。 ただ、これまでもそうだったように中国は時間をかけて香港から自由を奪っていく可能性はある。シンガポールなど、自由度の高い金融機関へのシフトを長期的な視野で考えておいたほうがいいのかもしれない。 日本が悩まされている「キャピタル・フライト(資本流出)」は、今後香港や中国が経験することになるかもしれない』、「世界金融センター」のランキングについては、東京は、ロンドン、ニューヨークに次ぐ3位との統計もある。ただ、「金融システムの根幹が揺らぐような事態というのは、もはや「内戦」や外部との「戦争」しか考えられない」、との見方はいささか甘いような気がする。リーマン・ショック級の事態はもっと高い確率で起こり得る。中国での各種のバブルは崩壊寸前であることを考慮すれば、もっと深刻に考えておいた方がいいのではなかろうか。
タグ:香港 ロイター 東洋経済オンライン 日経ビジネスオンライン 岩崎 博充 宮本 雄二 (その1)(香港大規模デモ 火種となった「引き渡し条例」とは何か、1国2制度てこにした台湾統一しぼむ 香港への寛容不要に、香港の混乱が中国のアキレス腱になりうる理由 国際金融センターで何が起きているのか) 「香港大規模デモ、火種となった「引き渡し条例」とは何か」 「逃亡犯条例」の改正案に反対する大規模デモ 香港住人だけでなく、香港に住んだり渡航した外国人や中国人までもが、中国側からの要請があれば本土に引き渡されることになる 現在ケースバイケースで対応している刑事容疑者の身柄引き渡し手続きを簡略化し、香港が身柄引き渡し条約を結んでいる20カ国以外にも対象を広げるという内容 香港から中国本土や台湾、マカオへの身柄引き渡しも初めて明示的に認めている 引き渡し手続きに対する立法会の監督権限はなくなる 香港行政府は、なぜ改正案を進めているのか 香港人の若い女性が旅行先の台湾で殺害された事件をきっかけ 台湾当局は、改正案は香港にいる台湾人をリスクにさらすものだとして強く反対しており、もし改正案が成立した場合も、殺人犯としてこの男の引き渡しを求めることは拒否するとしている 「一国二制度」 改正案に対する反発の強さはどの程度か 改正案を撤回又は延期する可能性は 「1国2制度てこにした台湾統一しぼむ、香港への寛容不要に」 中国共産党は香港、台湾を取り戻さないと近代100年の“屈辱の歴史”は清算されないと考えてきた 矛盾と対立をはらんだ一国二制度 香港に寛容だったのは台湾を統一するため 逃亡犯条例改正は共産党政府が繰り出した第4の矢 香港の経済的重要性は20年で7分の1に低下 国際社会の注目が改正を延期させた 「香港の混乱が中国のアキレス腱になりうる理由 国際金融センターで何が起きているのか」 香港デモの背景には「米中貿易交渉」? これまでアメリカが香港に与えてきた貿易上の特権措置を見直す法案を提出。香港の「高度な自治」の検証を義務付ける法案「香港人権・民主主義法案」を提出 与野党の枠を乗り越えて早期に可決されるかもしれない 香港は大半の商品に関税がかからない自由港区だが、日中貿易交渉の一環で中国にかかっている追加関税も、香港を通せば非課税扱いになる。その香港ルートも、閉ざしてしまおうというのが今回出された法案の狙いの1つだ 香港は中国の「集金マシーン」? インデックス投信に組み入れられる香港株 シンガポールに脅かされる香港の経済自由度
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米中経済戦争(その8)(ついに「長征」を宣言した習近平氏 米国との持久戦を覚悟、トランプ氏“ファーウェイ発言”の裏にワシントンの暗闘、米中協議 再開しても変わらぬ対立の基本構図) [世界情勢]

米中経済戦争については、5月18日に取上げた。G20での米中首脳会談も踏まえた今日は、(その8)(ついに「長征」を宣言した習近平氏 米国との持久戦を覚悟、トランプ氏“ファーウェイ発言”の裏にワシントンの暗闘、米中協議 再開しても変わらぬ対立の基本構図)である。

先ずは、6月4日付け日経ビジネスオンライン「ついに「長征」を宣言した習近平氏、米国との持久戦を覚悟」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00019/053100056/?P=1
・『1934年、国民党軍と戦っていた中国共産党軍10万人は拠点としていた江西省瑞金の地を放棄し、壮絶な行軍を始めた。約2年の歳月をかけ1万2500kmを移動して陝西省延安にたどり着いた時、残っていたのはわずか2万人とも3万人とも言われている。この長期にわたる行軍の中で、毛沢東は共産党における指導権を確立した。 中国近現代史におけるハイライトの1つ、「長征」と呼ばれる出来事である。無残な敗退戦だったとの見方もあるが、中国では長征を歴史的偉業と位置づけている。形勢不利の中でも持久戦に切り替えて耐え忍んだことが反転攻勢のきっかけとなったことは間違いなく、この出来事は中国共産党のDNAに深く刻まれた。 5月20日、長征の出発地を訪れた習近平国家主席は「今こそ新たな長征に出なければならない」と国民に呼びかけた。米中貿易交渉は行き詰まり、対立が激化している。米国との争いの短期決着は諦め、持久戦に持ち込むとの宣言とも取れる。 世界経済にとって現時点で考えられる最良のシナリオは、6月末に大阪で開催される20カ国・地域(G20)首脳会議に伴って行われる米中首脳会談で両国の貿易交渉が着地することだ。だが、もはやそのシナリオは楽観的すぎるとみたほうがよいだろう。 関税引き上げに続いて、トランプ米大統領が打ち出した華為技術(ファーウェイ)への執拗な制裁は「何の証拠も示さずに民間企業を痛めつけることが許されるのか」と、中国では衝撃と反発をもって受け止められた。国営メディアでも連日厳しいトーンでの報道が続いており、安易な妥協はしないという共産党指導部のメッセージと受け止められている。 「大阪で米国との貿易交渉がまとまる可能性は、ほぼなくなった。あるとすれば、トランプ大統領が得意の変わり身で譲歩した場合だ」。かつて政府機関に身を置いたある共産党員は、こう解説する。米中交渉がまとまらなければ、中国経済が大きなダメージを受けることは間違いない。「10年ほどは苦しい状況が続くだろう。だが、その後の中国経済はさらに強くなる」(同)。 米中両国の交渉は典型的な「囚人のジレンマ」に陥っている。両国経済にとってのベストなシナリオは早期に貿易戦争が終わることだ。すなわち米国は追加関税と華為技術(ファーウェイ)制裁を解除、中国は国有企業を保護するため産業補助金の撤廃や技術移転の事実上の強要を禁止する。だが、どちらか一方だけが実行し、もう一方が実行しなかった場合、実行した側が大きな損失を被るため、互いに不信感を募らせている状況では実現しない』、「米中両国の交渉は典型的な「囚人のジレンマ」に陥っている」とは言い得て妙だ。
・『天安門事件後は「豊かさ」で国民の不満を抑え込む  このままの展開が続けば、待ち受けるのは経済や技術のブロック化だ。問題はそれが中長期的に必ずしも米国にとって有利に働くとは限らない点にある。次世代通信技術では中国は世界最先端の地位を確立した。国家規模でのビッグデータやAI(人工知能)活用においても、プライバシーなどの壁をクリアしなければならない民主主義国家に比べて中国が有利だ。弱点である半導体などの技術分野も急ピッチで追い上げている。中国がブロック経済圏を確立してしまえば、技術的にも経済的にも米国の影響力はむしろ失われる。 一方の中国にも弱みはある。今日6月4日は1989年に起きた天安門事件からちょうど30年に当たる。民主化を訴える学生への武力行使は、中国共産党にとっては消し去りたい記憶だ。節目を迎える中で、海外メディアによる天安門事件についての記事が目立つ。肝心の中国国内における民主化運動は下火だが、それも経済的な豊かさがあってこそ。天安門事件以降、中国共産党は経済成長を以前にも増して追求し、国民に豊かさを享受させることで、一党独裁体制の安定を図った。 民主化への動きが下火になっている現状は、そのもくろみが現段階ではうまくいっているということだろう。ただし今後、貿易戦争による経済の混乱が拡大し、長期化すれば、現在の政治体制への不満が噴出しかねない。それは中国政府にとって最も避けたい展開だろう。 激しさを増す米中の貿易戦争。「新長征」を呼びかけた習国家主席はこれを共産党の存続をかけた戦いと位置づけたのかもしれない。だとすれば、両国の争いが容易に収まることは考えづらい。日本経済への影響もさらに大きなものになりそうだ』、「「新長征」を呼びかけた」とはいえ、「天安門事件後は「豊かさ」で国民の不満を抑え込」んできただけに、いまさら耐乏生活に戻ることは無理で、米国に対する交渉上のポーズだろう。ただ、長期化すれば、日本にも深刻な影響が及ぶことは覚悟する必要がありそうだ。

次に、元・経済産業省米州課長で中部大学特任教授の細川昌彦氏が6月30日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「トランプ氏“ファーウェイ発言”の裏にワシントンの暗闘」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00133/00012/?P=1
・『G20大阪サミット(主要20カ国・地域首脳会議)で、特に世界の注目が集まったのが米中首脳会談だ。大方の予想通り、新たな追加関税は発動せず、貿易協議を再開することで合意した。一応の“想定内”で、市場には安堵が広がった。しかし、その安堵もつかの間、トランプ米大統領の記者会見で激震が走った。中国の通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)との取引を容認すると発言したからだ。 早速、各メディアは以下のような見出しを打った。「華為技術(ファーウェイ)との取引容認」「ファーウェイへの制裁解除へ」 だが、トランプ大統領の発言だけで判断するのは早計だ。米中双方の政府からの発表を見極める必要がある。 確かに、トランプ大統領は記者会見で、「(米国企業は)ファーウェイに対して製品を売り続けても構わない」と言った。しかし、同時に「ファーウェイを禁輸措置対象のリストから外すかどうかについては、まだ中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席と話していない。我々が抱えている安全保障上の問題が最優先だ。ファーウェイの問題は複雑なので最後まで残すことにした。貿易協議がどうなるかを見ていきたい」とも語っている。そして「安全保障上の問題がないところは装備や設備を売ってもいい」と付け加えているのだ。 もともと、米国の法律上、ファーウェイに対して「事実上の禁輸」になっているのは、ファーウェイが「安全保障上の重大な懸念がある」と米商務省によって認定され、いわゆる“ブラックリスト”に載ったからだ。「事実上」というのは、“ブラックリスト”の企業に輸出するためには、商務省の許可が必要になり、それが「原則不許可」の運用になるからである。現在でも「安全保障上問題がない、例外的なケース」は許可されている。 従ってトランプ発言は、単に現行制度について発言しているにすぎず、何か変更があったとしても、せいぜい、若干の運用を緩和する程度だという見方もできる』、「(米国企業は)ファーウェイに対して製品を売り続けても構わない」とのトランプ発言の含意が漸く理解できた。確かに、「ファーウェイの問題は複雑」なようだ。
・『超党派の議員から「トランプ発言」への批判が噴出  ファーウェイはツイッターで、「トランプ氏はファーウェイに米国のテクノロジーを購入することを再び許可すると示唆した」と発信し、自社の都合のいいように受け止めている。だが、果たしてどうだろうか。 昨年春、米国が中国の大手通信機器メーカー・中興通訊(ZTE)への制裁を解除した時は、ZTEは罰金支払いや経営陣の入れ替えに応じた。ファーウェイに対しても禁輸措置の解除に向けて何らかの条件を付けるべく、今後協議が行われるかのような報道もあるが、これもなかなか難しいだろう。 米ワシントンではこうしたトランプ氏の発言に対して早速、民主党のシューマー上院院内総務や共和党のルビオ上院議員が厳しく批判している。「ファーウェイの問題は安全保障の問題で、貿易交渉で交渉材料にすべきではない」というのが、米国議会の超党派の考えだ。 昨年春、トランプ大統領が習主席からの要求に応じてZTEの制裁を取引で解除したことは、彼らにとって苦々しい経験となっている。大統領選に立候補を表明しているルビオ上院議員にいたっては、大統領が議会の承諾がないまま、勝手に貿易交渉で安全保障の観点での制裁を解除できないようにする法案まで提出している。 仮に今後、ZTEのようなパターンになりそうならば、トランプ大統領は選挙戦において共和党からも民主党からも厳しい批判にさらされることは容易に想像できる。 果たしてファーウェイへの制裁がどういう方向に行くのか、大統領選も絡んでもう少し見極める必要があるようだ』、「ファーウェイの問題は安全保障の問題で、貿易交渉で交渉材料にすべきではない」という「米国議会の超党派の考え」は、トランプにとってはやり難そうだ。
・『トランプvs“オール・ワシントン”の綱引き  私はトランプ政権を見るとき、トランプ大統領とトランプ大統領以外の“オール・ワシントン”を分けて考えるべきだ、と当初より指摘してきた(関連記事:米中の駆け引きの真相は“トランプvsライトハイザー” 、以降、“オール・アメリカ”よりも“オール・ワシントン”の方が適切なので、表現を改める)。“オール・ワシントン”とは議会、政権幹部、シンクタンク、諜報機関、捜査機関などのワシントンの政策コミュニティーである。 トランプ大統領自身は関税合戦によるディール(取引)に執着している。今や2020年の大統領再選への選挙戦略が彼の頭のほとんどを占めていると言っていい。すべてはこの選挙戦にプラスかマイナスかという、いたって分かりやすいモノサシだ。中国に対して強硬に出る方が支持層にアピールできる。民主党の対抗馬からの弱腰批判も避けられると思えば、そうする。追加関税の引き上げが国内景気の足を引っ張り、株価が下がると思えば、思いとどまる。株価こそ選挙戦を大きく左右するとの判断だ。 他方、後者の“オール・ワシントン”の対中警戒感は根深く、トランプ政権以前のオバマ政権末期からの筋金入りだ。ファーウェイに対する安全保障上の懸念も2000年代後半から強まり、この懸念から2010年には議会の報告書も出されている。米国の技術覇権を揺るがし、安全保障にも影響するとの危機感がペンス副大統領による“新冷戦”宣言ともいうべき演説やファーウェイに対する制裁といった動きになっていった。 この2つはある時は共振し、ある時はぶつかり合う。 昨年12月、ブエノスアイレスでの米中首脳会談の最中に、ファーウェイの副社長がカナダで逮捕された件はこれを象徴する。トランプ大統領は事前に知らされなかったことを激怒したが、捜査機関にしてみれば、トランプ大統領に習主席との取引に使われかねないことを警戒しての自然な成り行きだ。 そして5月15日には米国商務省によるファーウェイに対する事実上の輸出禁止の制裁も発動された。これはこの貿易交渉決裂の機会を待っていた“オール・ワシントン”主導によるものだ。 実はファーウェイに対する事実上の輸出禁止の制裁は2月ごろから米国政府内では内々に準備されていた。それまでのファーウェイ製品を「買わない」「使わない」から、ファーウェイに「売らない」「作らせない」とするものだ。ファーウェイもこの動きを察知して、制裁発動された場合に備えて、日本など調達先企業に働きかけるなど、守り固めに奔走していた。しかし次第に貿易交渉が妥結するとの楽観論が広がる中で、発動を見合わせざるを得なかったのだ。そうした中、この切り札を切るタイミングが貿易交渉決裂でやっと到来したのだ』、「ファーウェイの副社長がカナダで逮捕された件」を「トランプ大統領は事前に知らされなかった」のは、「捜査機関にしてみれば、トランプ大統領に習主席との取引に使われかねないことを警戒しての自然な成り行き」だったとは初めて知った。捜査機関もなかなかしたたかなようだ。
・『ファーウェイ問題、第2ペンス演説、そして香港問題   “オール・ワシントン”にとって、ファーウェイは本丸のターゲットだ。前述のZTEはいわばその前哨戦であった。今回も習主席は昨年のZTE同様、ファーウェイへの制裁解除を首脳会談直前の電話会談で申し入れていた。 トランプ大統領がこの本丸まで取引材料にすることを警戒して、“オール・ワシントン”もそれをさせないように、水面下でさまざまな手を打ってトランプ大統領をけん制していたようだ。 ペンス副大統領による中国批判の演説を巡る綱引きもそうだ。 中国との新冷戦を宣言した、有名な昨年10月のペンス演説に続いて、天安門30年の6月4日、中国の人権問題を強烈に批判する「第2ペンス演説」が予定されていた。トランプ大統領はこれに介入して、一旦6月24日に延期され、更に無期限延期となっている。米中首脳会談をしたくてしようがないトランプ大統領が、その妨げになることを恐れ介入したのだ。 これに対し、 “オール・ワシントン”もさらなる対中強硬策を繰り出す。本来、予定されていた第2ペンス演説には、中国の大手監視カメラメーカー・ハイクビジョンなど数社に対する制裁の発動も盛り込まれていた。これが当面、表に出なくなったことから、次に用意していた中国のスーパーコンピューター企業への制裁を急きょ発動したのである。 香港問題についてもポンペオ国務長官は「首脳会談で取り上げる」と香港カードを振りかざしていたが、中国は「内政問題」として首脳会談で取り上げることに強く反発していた。人権問題に全く無関心なトランプ大統領本人は、「中国自身の問題」と至って淡泊で、首脳会談で取り上げられることもなかった。 中国は「敵を分断する」のが常とう手段だ。トランプ大統領と対中強硬派の“オール・ワシントン”を分断して、組み易いトランプ大統領とだけ取引をする。そんな大統領の危なっかしさは今後、大統領選で増幅しかねない。“オール・ワシントン”が警戒する日々が続く』、「中国の人権問題を強烈に批判する「第2ペンス演説」が予定されていた。トランプ大統領はこれに介入して・・・無期限延期となっている」、副大統領とまで対立していたとは初耳だ。「中国は「敵を分断する」のが常とう手段」なので、「“オール・ワシントン”が警戒する日々が続く」というのは面白い。
・『前回の首脳会談より後退した貿易交渉の再開  貿易交渉そのものについては、第4弾の追加関税は発動せず、貿易交渉を再開することで合意した。これはまるで昨年12月のブエノスアイレスでの米中首脳会談の光景を繰り返しているようだ。トランプ大統領の本音が経済状況からさらなる関税引き上げをしたくない時のパターンなのだ。この時、NYダウは乱高下して先行き懸念が持たれていた頃だ。 その際、私はこう指摘した。 「トランプ大統領は習近平主席との取引をしたがったようだ。米国の対中強硬路線の根っこにある本質的な問題は手付かずで、90日の協議で中国側が対応することなど期待できない。制度改正など政策変更を必要とするもので、中国国内の統治、威信にも関わる」「今回の“小休止”はクリスマス商戦を控えて、さらなる関税引き上げを避けたぐらいのものだ。これらは何ら本質的な問題ではない。」(関連記事:G20に見る、米中の駆け引きの真相とは) 今回はこの90日という交渉期限さえ設けられていない。いつまでもズルズルといきかねない』、その通りなのだろう。
・『苦肉の交渉カード集めに奔走した習近平  5月初旬の貿易交渉決裂後、米中の攻防はなかなか見ごたえのあるものだった。常に米中双方の交渉ポジションは流動的で、ダイナミックに変化する。 本来、貿易戦争の地合いは国内経済状況を考えれば、圧倒的に米国有利のはずだった。中国国内の失業率は高く、経済指標は悪化をたどっている。関税引き上げによる食料品の物価は上昇しており、庶民の不満も無視できない。他方、米国経済は陰りの兆しが出てきたといっても、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ予想もあって依然、高株価を維持している。米中の相対的な経済の体力は明らかに米国有利だ。ただし、これはトランプ大統領が焦りさえしなければ、という条件付きだ。 5月10日、閣僚級の貿易交渉が決裂して、米国による2000億ドル分の中国製品に対する追加制裁関税が発動された。前述のように5月15日にはファーウェイに対する事実上の輸出禁止の制裁も発動された。 ここまでは明らかに米国の攻勢に中国は受け身一辺倒で、中国指導部は手詰まりで焦りがあった。中国指導部としては党内の対米強硬派や国内世論の不満をなだめなければならない。そのために対米交渉を“対等”に闘っている姿を見せるための交渉カードを早急にそろえる必要があったのだ。8月には定例の重要な会議である北戴河の会議があって、党内の長老たちから対米交渉について厳しい批判を受ける恐れもある。 交渉カードの1つが、米国が輸入の8割を中国に依存するレアアースの禁輸のカードである。習主席が急きょレアアース関連の磁石工場を視察したり、レアアース規制のための検討委員会を設置したり、揺さぶりの動きを繰り出した。(関連記事:「反ファーウェイvsレアアース」の米中衝突を徹底解説) 更にファーウェイに対する制裁に協力する企業をけん制するために、中国版のブラックリストの策定も検討するという。中国製の先端技術の禁輸をほのめかすという、“空脅し”まで繰り出した。 この段階ではいずれも検討している動きを見せて、米中首脳会談に向けて揺さぶりになればよいのだ。そして米国が繰り出す対中制裁に対して“対等”に対応していることを国内に示せればよい。 香港問題で地合いが悪くなると、電撃的に北朝鮮を訪問して、交渉カードを補強したのもその一環だ。「中国抜きでの北朝鮮問題の解決はない」と、中国の戦略的価値を誇示できればよい。メディアの目を香港問題からそらす効果もある』、「手垢」のついたレアアース問題を持ち出したり、「電撃的に北朝鮮を訪問」などが、「交渉カードを補強」というのはなるほどと納得した。
・『中国に見透かされたトランプの焦り  6月に入ってからのトランプ大統領のツイッターを読めば、中国との首脳会談をやりたい焦りがにじみ出ていた。大統領再選の立候補宣言をして、選挙戦を考えてのことだ。 「会わないのなら、第4弾の3000億ドルの関税引き上げをする」 このように5月13日に第4弾の制裁関税を表明したものの、本音ではやりたくなかったのだろう。これまで累次の制裁関税をやってきて最後に残ったもので、本来やりたくないものだ。消費財が4割も占めて、消費者物価が上がってしまう。議会公聴会でも産業界からは反対の声の大合唱だ。選挙戦で民主党の攻撃材料にもなりかねない。そこで振り上げた拳の降ろしどころを探していた。 中国もそんなことは重々承知で、第4弾は「空脅し」だと見透かして、首脳会談への誘い水にも一切だんまりを決め込み、じっくりトランプ大統領の焦りを誘っていた。 中国にしてみればトランプ大統領の心理状態がツイッターの文面で手に取るようにわかる。 首脳会談をしたいトランプ大統領をじっくりじらして、直前のサシでの電話会談で条件を申し入れて首脳会談の開催を決める。こうして首脳会談は中国のペースで進んでいった』、「首脳会談への誘い水にも一切だんまりを決め込み、じっくりトランプ大統領の焦りを誘っていた。 中国にしてみればトランプ大統領の心理状態がツイッターの文面で手に取るようにわかる」、政治家のツイッター利用は、外交面ではマイナス効果のようだ。「ディールの達人」も形無しだろう。
・『“オール・ワシントン”の動きは収束しない  こうして本来、地合いが悪いにも関わらず、巧みな
駆け引きで中国ペースで終始した今回の米中首脳会談であった。 しかし貿易交渉を再開するといっても、それぞれ国内政治を考えれば、双方ともに譲歩の余地はまるでない。中国も補助金問題や国有企業問題などを中国にとって原理原則の問題と位置付けたからには、国内的に譲歩の余地はない。米国も大統領選では対中強硬がもてはやされる。あとは国内経済次第だ。急激に悪化して軌道修正せざるを得ない状況になるかどうかだ。 いずれにしても、関税合戦が収束しようがしまいが、米中関係の本質ではない。 根深い“オール・ワシントン”による中国に対する警戒感は、中国自身が国家資本主義の経済体制を軌道修正しない限り、延々続くと見てよい。中国がかつて、鄧小平時代の「韜光養晦」(注)に表面的には戻ろうとしても、一旦衣の下の鎧(よろい)が見えたからには、手綱を緩めることはまずない。 例えば、中国に対して量子コンピューターなどの新興技術(エマージング・テクノロジー)の流出を規制するための“新型の対中ココム(かつての対共産圏輸出統制委員会)”の導入の準備も着々と進められている。米国の大学も中国企業との共同研究は受け入れないなど、サプライチェーンだけでなく研究開発分野の分断も進んでいくだろう。 こうした中で、今後、日本政府、日本企業は、安全保障の視点でどう動くべきかという問題を米国側から突き付けられる場面も想定しておくべきだろう。 大統領選にしか関心のないトランプ大統領にばかり目を奪われず、“オール・ワシントン”の動きも見逃してはならない』、習近平が一時、大国意識丸出しで驕り高ぶって、「鎧」をひけらかしていたツケが出たのかも知れない。「トランプ大統領にばかり目を奪われず、“オール・ワシントン”の動きも見逃してはならない」、というのはその通りだろう。
(注)韜光養晦:とうこうようかい。爪を隠し、才能を覆い隠し、時期を待つ戦術を形容するために用いられてきた(Wikipedia)

第三に、元駐中国大使で宮本アジア研究所代表の宮本 雄二氏が7月2日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「米中協議、再開しても変わらぬ対立の基本構図」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00023/070100073/?P=1
・『日本がホストした今回の20カ国・地域首脳会議(G20サミット)は、改めてその重要性を世界に再確認させたと言ってよかろう。首脳宣言において「保護主義」という言葉はなかったが、自由貿易の原則は明記し、WTO(世界貿易機関)改革を進めることで合意を見た。日本が提唱する「大阪トラック」(データ流通、電子商取引に関する国際的なルール作り)も、この文脈の中で意味を持つ重要なイニシアチブだ。 成果は不十分、見通しは不明との厳しい評価もある。だが、世界の流れが、ルールよりも力、交渉よりも既成事実の押しつけに向かいかねない状況下で、よく健闘したと評価すべきだ。 定期的な首脳会議を含む国際対話のメカニズムは万難を排して生き残らせるべきだ。首脳会議というものは、休み時間でも待ち時間でも、いつでもできる。もちろん正式に時間をとって会談をしてもよい。首脳同士の意思疎通を図るきわめて重要なメカニズムなのだ』、「G20サミット」全体の評価は、立場上、甘くならざるを得ないのだろう。
・『変わらぬ、対立の基本構図  その中で最も関心を集めたのが米中首脳会談であった。米中交渉の継続が確認され、対中追加関税も先送りされ、米企業が華為技術(ファーウェイ)に部品を販売するのも認められることになった。これで世界は一息ついたということだ。 だが、その先に目をやるといかに厳しい現実が待っているか、すぐに分かる。本年5月、米中が交渉を中断せざるを得なかった基本構図はそのままだからだ。米国があらゆる手段を使って中国の台頭を押さえつけようとし、中国がそれに徹底抗戦――これがその構図だ。 その象徴が技術をめぐる覇権争いであり、当面、ファーウェイ問題に集約される。中国がこの問題の解決なしに米国と合意することはないと見られていたし、ドナルド・トランプ大統領もこの問題での譲歩をほのめかして、中国側の歩み寄りを促そうとしていた。米国は今回、そのトランプ流の交渉術を使って交渉継続の合意に持ち込んだのだろう。中国側は農産品の購入を約束したようだし、北朝鮮問題をめぐっては習近平国家主席が直前に訪朝し、トランプ大統領に土産を準備した。 しかしワシントンに目を向ければ、力で中国を押さえ込もうと考える対中強硬派の勢いは衰えていない。トランプ政権の中にも対中強硬派は多い。今後の米中折衝の中でファーウェイに関し、今回の首脳会談において果たして何が約束され、その具体的な中身は何だったのかについて、米中の間でもめる可能性は甚だ大きい。 トランプ大統領の記者会見での発言を聞いてもよく分からない。ファーウェイに対する米国政府の措置は米国の「国家安全保障」の観点からなされているものであり、大統領の一存で勝手に中身を変えられるものではないだろう。今回の合意の中身といわれるものが、米国内の政治状況に応じて変わっていく可能性さえあるのだ。 「チャブ台返し」外交は、人から「信頼」を奪い、合意の成立を著しく困難なものにしてしまう。米国がこれ以上の制裁を科さないと約束の上、今年5月の時点に戻り交渉を再開することにしたとしても、何が再交渉のベースなのかについて、またもめるだろう』、「「チャブ台返し」外交は、人から「信頼」を奪い、合意の成立を著しく困難なものにしてしまう」、というのはその通りだ。
・『中国の“待ちの作戦”は米国の“耐える力”を過小評価  中国も余裕しゃくしゃくというわけでは全くない。交渉再開の対価は大きい。3000億ドル分の対米輸出に対する新規制裁は回避したものの、2000億ドル分の制裁関税は5月に10%から25%に引き上げられたままだ。しかも交渉再開は農産品の購入と結びつけられている。ファーウェイもどこまで救済されるかはっきりしていない。習近平国家主席が緊張気味の渋い顔を続けるのも分からないわけではない。 しかし、この危機を乗り越えれば時間は中国に有利に作用するという確信めいたものはあるようだ。中国は生き残り、今より強くなるという見通しといってもよい。交渉を継続さえしていれば危機にはならない。今の状況をだらだら続けていけば、そのうち米国で変化が起こるという“待ちの作戦”といってもよい。ファーウェイなどの先端企業を全力で守りながら耐え忍ぶことになる。 この戦略的判断は、1つには、米国は国民の不満を抑えきれないが、中国は可能だという見方に裏打ちされている。経済的打撃がもっと米中の国民に及ぶようになれば中国の方が耐えられるという判断だ。しかしこの見方は、米国民が中国の台頭を真に脅威と見なしたときに示すであろう“耐える力”を過小評価している。ワシントンでは今や、中国がサイバー攻撃などの手段を使って米国の民主主義を壊そうとしているという見方まで出てきている。簡単に中国の方が有利だという結論にはならないのだ。 2つ目として、中国が最近「自力更生」を強調し始め、米国による締め出しに備えようとしている点を挙げることができる。中国が基本的には自力で今日の宇宙産業をつくり出したことは事実だ。だが、これから加速度的に拡大し深化する技術革新の世界を「自力」だけで生き延びることができるとは思えない。権威主義的な社会においても、上からの指示で知識や技術の「応用」を創新することはできる。しかし全く新しい知識や技術そのものの創新(イノベーション)は、全てのことを疑ってかかり、否定することのできる「自由な精神」がなければ不可能だ。少なくとも現在の中国共産党のシステムは、それを許容していない』、「中国の“待ちの作戦”は米国の“耐える力”を過小評価」というのはその通りだろう。。
・『中国における対外強硬派と協調派の争い  米中対立の激化は、中国国内のナショナリズムを刺激し、対外強硬派の勢いを強めている。中国語で米国は「美国」になる。「恐美派」や「崇美派」を批判する論評も増えてきた。その傾向を強めれば強めるほど自国に対する過大評価に陥りやすくなる。対外強硬姿勢は、南シナ海の軍事化を強め、フィリピンの漁船を圧迫し、尖閣諸島周辺への中国公船の連日の出没となる。2012年以来の中国の対外強硬姿勢が中国と周辺諸国との関係を悪化させ、中国の国際的孤立を招いたにもかかわらず、またそうしようとしている。 中国国内においても国際協調を求める声は決して小さくはない。しかし、自国の経済的利益を赤裸々に打ち出すトランプ政権の自国第一主義と対中経済制裁は、中国国民の反発を招き、中国国内の国際協調派の立場を損ねている。だがナショナリズムに煽(あお)られて米国のやり方にならい、中国が外国企業を敵味方に峻別(しゅんべつ)して圧迫するならば、多くの外国企業が中国市場から離れることになるだろう。結局、中国のためにならない。 中国国内も決して一枚岩ではないのだ。だが内政干渉もどきの米国の圧力に屈してぶざまな譲歩もできない。中国のこれからの発展の芽を摘むような米国の抑圧に屈することもできない。中国も狭い範囲でしか動く余地はないのだ。 米中が、どういう交渉をするかはそれぞれの国内事情が一層大きく影響するだろう。お互いに譲歩は難しい。衝突を避けながら国内向けに説明可能なギリギリの落としどころを探りながらの交渉となろう。 米中対立を全面的に解決するために払うべき国内的代価は、あまりに大きくなってしまった。全面的解決のためにはより大きなピクチャー、つまり追求する理念を国民に示して妥協の必要性を説き、国民の支持を得る必要がある。トランプ大統領にその理念はない。中国側も世界と協調するためには経済と軍事安全保障面の両方で方向の転換が不可欠であり、党と国民の支持を取り付ける必要がある。そう主張する中国国内の声はまだ小さい。 それでも、少なくとも交渉は続いているという印象を内外に与え続ける必要はある。米中ともに本当に衝突する気はないのに、不測の事態が本当に衝突を招きかねないからだ。交渉が停滞すれば再度、首脳会談をセットし、それをモメンタムとしながら交渉を続けていくこととなろう。 憂鬱な将来展望だが、それが新しい現実だと割り切るしかなかろう。日本外交は米中衝突を回避する努力を続け、経済界は最適オプションの再調整をする。それしかないだろう』、どうも「憂鬱な将来展望」は避け難いようだ。日本経済も大きなマイナスの影響を受けると覚悟した方がよさそうだ。消費増税どころではないのかも知れない。
タグ:日経ビジネスオンライン 米中首脳会談 細川昌彦 米中経済戦争 (その8)(ついに「長征」を宣言した習近平氏 米国との持久戦を覚悟、トランプ氏“ファーウェイ発言”の裏にワシントンの暗闘、米中協議 再開しても変わらぬ対立の基本構図) 「ついに「長征」を宣言した習近平氏、米国との持久戦を覚悟」 「長征」 形勢不利の中でも持久戦に切り替えて耐え忍んだことが反転攻勢のきっかけとなった 習近平国家主席は「今こそ新たな長征に出なければならない」と国民に呼びかけた 米中両国の交渉は典型的な「囚人のジレンマ」に陥っている 天安門事件後は「豊かさ」で国民の不満を抑え込む 「トランプ氏“ファーウェイ発言”の裏にワシントンの暗闘」 ファーウェイに対して「事実上の禁輸」になっているのは、ファーウェイが「安全保障上の重大な懸念がある」と米商務省によって認定され、いわゆる“ブラックリスト”に載ったからだ 超党派の議員から「トランプ発言」への批判が噴出 「ファーウェイの問題は安全保障の問題で、貿易交渉で交渉材料にすべきではない」 トランプvs“オール・ワシントン”の綱引き “オール・ワシントン”の対中警戒感は根深く、トランプ政権以前のオバマ政権末期からの筋金入り ファーウェイの副社長がカナダで逮捕 トランプ大統領は事前に知らされなかったことを激怒したが、捜査機関にしてみれば、トランプ大統領に習主席との取引に使われかねないことを警戒しての自然な成り行きだ ファーウェイ問題、第2ペンス演説、そして香港問題 中国の人権問題を強烈に批判する「第2ペンス演説」が予定されていた。トランプ大統領はこれに介入して、一旦6月24日に延期され、更に無期限延期となっている “オール・ワシントン”もさらなる対中強硬策を繰り出す 中国のスーパーコンピューター企業への制裁を急きょ発動 香港問題についてもポンペオ国務長官は「首脳会談で取り上げる」と香港カードを振りかざしていたが トランプ大統領本人は、「中国自身の問題」と至って淡泊で、首脳会談で取り上げられることもなかった 前回の首脳会談より後退した貿易交渉の再開 苦肉の交渉カード集めに奔走した習近平 レアアースの禁輸のカード 電撃的に北朝鮮を訪問して、交渉カードを補強 中国に見透かされたトランプの焦り 中国もそんなことは重々承知で、第4弾は「空脅し」だと見透かして、首脳会談への誘い水にも一切だんまりを決め込み、じっくりトランプ大統領の焦りを誘っていた トランプ大統領の心理状態がツイッターの文面で手に取るようにわかる 首脳会談をしたいトランプ大統領をじっくりじらして、直前のサシでの電話会談で条件を申し入れて首脳会談の開催を決める。こうして首脳会談は中国のペースで進んでいった “オール・ワシントン”の動きは収束しない 鄧小平時代の「韜光養晦」 大統領選にしか関心のないトランプ大統領にばかり目を奪われず、“オール・ワシントン”の動きも見逃してはならない 宮本 雄二 「米中協議、再開しても変わらぬ対立の基本構図」 変わらぬ、対立の基本構図 米国があらゆる手段を使って中国の台頭を押さえつけようとし、中国がそれに徹底抗戦――これがその構図 ファーウェイに対する米国政府の措置は米国の「国家安全保障」の観点からなされているものであり、大統領の一存で勝手に中身を変えられるものではないだろう 「チャブ台返し」外交は、人から「信頼」を奪い、合意の成立を著しく困難なものにしてしまう
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イラン問題(その2)(トランプ イラン攻撃取り消しは作戦開始10分前、ベトナム イラク イラン…アメリカが繰り返す「悪のレッテル作戦」 イランの犯行を裏付ける証拠はない、タンカー攻撃 自作自演だった。見えてきたトランプ政権と実行組織のつながり) [世界情勢]

イラン問題については、昨年8月24日に取上げた。ホルムズ海峡の緊張が俄かに高まった今日は、(その2)(トランプ イラン攻撃取り消しは作戦開始10分前、ベトナム イラク イラン…アメリカが繰り返す「悪のレッテル作戦」 イランの犯行を裏付ける証拠はない、タンカー攻撃 自作自演だった。見えてきたトランプ政権と実行組織のつながり)である。なお、タイトルは、中東情勢(その12)(イラン問題1)から変更した。

先ずは、6月22日付けNewsweek日本版「トランプ、イラン攻撃取り消しは作戦開始10分前」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/06/10-59_1.php
・『トランプ米大統領は21日、イランによる米軍の無人偵察機撃墜に対する報復措置として軍事攻撃を承認したものの、その後撤回したことについて、軍事攻撃は無人偵察機の撃墜に対する報復措置としては釣り合いが取れないと判断したためだと説明した。 トランプ大統領は「昨晩、3カ所に対する報復攻撃を実施する準備を整えていたが、(イラン側で)何人が死亡する可能性があるのかと質問したところ、150人との答えが返ってきた」とし、「攻撃開始の10分前に中止を決めた。無人偵察機の撃墜に対する報復措置として(軍事攻撃は)不釣合いだ。急ぐことはない」とツイッターに投稿した。 その上で、イランに対する制裁措置は効果を発揮しており、20日夜に追加制裁を導入したと表明。ただ詳細については明らかにしなかった。 トランプ政権高官によると、ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)やポンペオ国務長官、ハスペル米中央情報局(CIA)長官らが報復攻撃に賛成したという。高官は「大統領補佐官らや国防総省首脳部の間で、イランの活動に対する適切な対応を巡り完全に意見が一致していた。大統領が最終決断を下した」と話した』、「無人偵察機の撃墜に対する報復措置として(軍事攻撃は)不釣合い」として中止したというのは、不自然だ。「不釣合い」であることなど「報復攻撃を実施する準備」段階でも分かっていた筈で、国務長官やCIA長官らも分かっていながら、攻撃を大統領に進言したとは到底信じられない。緊迫感を出すために、初めから仕組まれたシナリオなのではなかろうか。
・『イラン当局者はロイターに対し、オマーンを通じてトランプ大統領から米軍による攻撃が近く実施されるとの警告を受けたことを明らかにしていた。ただトランプ氏は同時に、戦争には反対しており、協議を行う意向も示したという。 あるイラン政府当局者は匿名を条件に「トランプ(大統領)は、このメッセージでイランとの戦争に反対しており、様々な問題についてイランと協議したいと述べている。短期間で返答するよう求めているが、この問題について決めるのは最高指導者ハメネイ師だというのが、イランの現時点での返答だ」と発言した。 別の当局者は「われわれは(ハメネイ師が)いかなる協議にも反対していることを明確にしているが、メッセージは伝える。ただし、オマーン当局には、イランを攻撃すれば地域や国際社会に重大な結果を招くと伝えた」と述べた。 米NBCのチャック・トッド記者は、報道番組「ミート・ザ・プレス」でのトランプ大統領とのインタビュー後、トランプ氏がイランとの交渉に前提条件を一切設けず、ロウハニ大統領か最高指導者のハメネイ師と話し合う意向を示したと伝えた。 トランプ大統領の突然の決断は、ワシントンでさまざまな反応を呼んだ。尻込み批判の一方、抑制を評価する声も上がった。 ペロシ下院議長(民主党)は記者団に「あの規模の巻き添え被害を伴う攻撃を行えば、かなり挑発的とみなされるだろう。大統領がそうした選択をしなかったことをうれしく思う」と述べた。 米国が当面、外交的手段の模索に意欲を示す兆候も出ている。外交筋らによると、米国は国連安全保障理事会に24日の非公開会合招集を求めたという。 トランプ大統領は20日、イランが米軍の無人偵察機を撃墜したことについて「誤射」によるものとの見方を示していた。 記者団に「おそらく間違いをやらかしたのだと思う。将校か誰かが誤ってドローンを撃ち落してしまったのだろう」と述べた・・・』、攻撃中止が、イランを交渉に追い込むとでも思っていたのだろうか。どうも逆効果なのではあるまいか。

次に、『週刊現代』特別編集委員の近藤 大介氏が6月18日付け現代ビジネスに掲載した「ベトナム、イラク、イラン…アメリカが繰り返す「悪のレッテル作戦」 イランの犯行を裏付ける証拠はない」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/65285
・『タンカー攻撃の犯人  今週は、ファーウェイ本社視察の第2弾を書こうと思っていたが、安倍晋三首相がイランを訪問している真っ最中の6月13日に、2隻のタンカーへの攻撃事件が発生した。そのことで、5日が経ってもいまだに世界は騒然としているので、急遽イランの話を書くことにする。 このコラムは基本は中国問題をフォローしているが、中国はイラン最大の貿易相手国であり、中国とイランの「浅からぬ縁」についても後半で述べたい。 イラン時間の6月13日午前7時15分頃(日本との時差は4時間半)、東京千代田区に本社を置く国華産業が運行するパナマ船籍のタンカー「コクカ・カレイジャス」(全長170m、1万9349t)が、オマーン湾のホルムズ海峡付近で何者かに攻撃を受け、左舷後方のエンジンルームから火の手が上がった。この日はエタノール2万5000tを積んで、サウジアラビアのアルジュベール港を出て、シンガポールに向かっていた。 21人のフィリピン人乗組員が、慌ててCO2消火器を噴射して火を消し止めたが、約3時間後に再び、今度は左の船体中央に攻撃を受けた。これは危険と見た乗組員全員が、救命艇に乗り換えて脱出。近くを航行中の船に救出された。 もう一隻、ノルウェーのフロントラインが所有するタンカー「フロント・アルタイル」(全長251m、6万2849t)も同日、同じ海域で同様の攻撃を受けた。アブダビから台湾へ向けてナフサを積んでいたが、やはりフィリピン人11人、ロシア人11人、ジョージア人1人の乗組員は、救命艇に乗って脱出し、イラン海軍の艦艇に救出された。 以上が事件の概要だが、アメリカのドナルド・トランプ大統領は同日、早々と「イランの仕業に違いない」とコメント。マイク・ポンペオ国務長官も同日、「イランに責任がある」と断定した。 アメリカが「犯人」としているのが、イラン革命防衛隊(IRGC)だ。1979年のイラン革命後に創建された最高指導者アリ―・ハメネイ師直轄の「第2軍隊」で、総兵力は10万人以上に上る。 一方、イラン側は、犯行を名指しされたことに対して、怒り心頭である。モハンマド・ザリフ外相は同日、「根拠のない主張を断固否定する。イランの敵が背後にいる可能性がある」と述べた。BBCの映像を見ると、イラン国民もアメリカに対して、強いフラストレーションを溜めている。 アメリカは、そこまで「イラン犯行説」を主張するのであれば、イランの犯行であると世界の誰もが納得する証拠を示すべきである。 14日、パトリック・シャナハン国防長官代行は「これからできるだけの情報を開示していく」と述べたにとどまった。また同日、アメリカ軍は、「イラン革命防衛隊が攻撃された後のタンカーに近づき、不発の機雷を除去した映像」を公開した。 だが、自国の近海に爆発するかもしれないタンカーが漂流していれば、機雷除去に向かうのは当たり前のことだろう。 このように、誰もが納得する根拠を示さないで「悪のレッテル」を張るアメリカの手法は、現在、中国のファーウェイ・テクノロジーズ(華為技術)を非難しているのと、まったく同じである』、「アメリカの手法」は誰がみても不自然だ。
・『「ギリシャ悲劇」を繰り返すな  今回の事件で、私が思い起こしたのは、ベトナム戦争にアメリカが参戦するきっかけとなった1964年8月のトンキン湾事件である。 以下の引用は、27ヵ国に翻訳されたティム・ワイナー『ニューヨークタイムズ』記者の著作『CIA秘録』(邦訳は2011年、文春文庫)からのものである。〈 戦争はトンキン湾決議によって公認された。この決議は、8月4日にアメリカの船が国際水域で北ベトナムからいわれのない攻撃を受けた、と大統領と国防総省が発表し、これを受けて採択されたものだった。(中略)それは単純な間違いなどではなかった。ベトナム戦争は捏造された諜報に基づく政治的な嘘で始まった。(中略)だが事実の全容がNSA(国家安全保障局)公表の詳細な供述書によって明らかにされたのは、2005年11月になってのことだった 〉 ベトナム時間の1964年8月4日午後10時頃、トンキン湾を航行中のアメリカ海軍の2隻の駆逐艦は、北ベトナム軍から攻撃を受けたと勘違いし、反撃しながら回避行動を取った。 この軍からのこの報告と、NSAが8月4日夜のものと偽った2日前の出来事に関する傍受記録の報告から、リンドン・ジョンソン大統領は北ベトナムとの戦争を決意。8月7日に議会を通過させ、アメリカは泥沼のベトナム戦争へと突入していった。 〈 2005年11月のNSAの報告書は告白する。「厖大な量の報告を利用していたとすれば、(北ベトナムからアメリカへの)攻撃などなかった事実が明らかになっていただろう」。(中略)諜報は「攻撃があったとする見解を支えるために故意に歪められた」のである。(中略) この「ギリシャ悲劇」ともいうべき政治劇は、40年後に再演され、イラクの兵器に関する虚偽の諜報が別の大統領(ジョージ・W・ブッシュJr)の戦争を正当化することになった 〉 まさに、2度あることは3度あると言う通り、1964年のベトナム戦争、2003年のイラク戦争、そして今回ではないのか。「ギリシャ悲劇」を再々演させないためにも、われわれは何より、冷静に事実のみに基づいて判断することが求められている』、まさに、「2度あることは3度ある」のが今回のようだ。
・『国際常識に照らせばあり得ない  冷静に判断するということで言えば、そもそもアメリカとイランの対立が起こったのは、トランプ大統領が昨年5月8日、イラン核合意から一方的に離脱を宣言したことが原因である。 2002年の一般教書演説でブッシュ大統領は、イラク、イラン、北朝鮮を「悪の枢軸」と呼び、実際に2003年3月、イラク戦争を開戦した。 それが一段落し、イラクのサダム・フセイン大統領が処刑される半年前の2006年6月、イランとの核合意を目指す「P5+1」体制が発足した。「P5」とは国連安保理の常任理事国のアメリカ、中国、ロシア、イギリス、フランスで、「+1」とはイランと深い関わりを持つドイツだ。これに当事者イランを含めた7ヵ国で、イランの核開発問題を協議したのだ。 それから紆余曲折を経て、9年後の2015年7月、ついにイラン核合意(JCPOA)が成立した。簡単に言えば、イランが15年間、核開発を凍結し、国連及び各国は対イラン制裁を緩和するというものだ。日本外務省のある多国間交渉の専門家に言わせれば、「今世紀に人類が成し得た最高の芸術的外交作品」だという。 だが、「前任のオバマ大統領が行ったものはすべて悪」と考えるトランプ大統領は、この「芸術的外交作品」を、あっさりポイ捨てしてしまった。 さらに今年5月2日には、イラン産原油の禁輸制裁から8ヵ国(中国、インド、イタリア、ギリシャ、日本、韓国、台湾、トルコ)に認めてきた適用措置を終了させ、「今後もイラン産原油の輸入を続ければアメリカの制裁対象にする」とした。 これにイランは猛反発し、核合意が履行されない場合、7月8日から核開発を再開すると警告している。そんなさなかに、今回のタンカー攻撃事件が起こったのだ。 それにしても、百歩譲って、もしもアメリカが主張するようにイランの犯行だったとするなら、安倍首相はとんだ「赤っ恥外交」を行ったことになる。「敵対するアメリカとイランの仲裁に行く」と勇んで、あえて火中の栗を拾いに行ったというのに、結果は飛んで火に入る夏の虫のように、火に油を注ぐ結果になったのだから。 そもそも安倍首相が、ハサン・ロウハニ大統領や、最高指導者のハメネイ師と会談している時期に、イランが日本のタンカーを攻撃するものだろうか? ザリフ外相は5月16日、わざわざ訪日して首相官邸を訪れ、仲裁の労を取ってくれる安倍首相に、頭を下げているのだ。国際常識に照らせば、とてもあり得る話ではない。 むしろ日本の同盟国とは思えない不見識な行動に出たのは、アメリカの方だ。安倍首相がロウハニ大統領と会談した12日、アメリカ財務省は、「イラン革命防衛隊が支援する武装組織に武器を密輸した」として、企業1社と個人2人を新たに制裁対象に加えたと発表したのだ。 安倍首相としては、和平を仲介している最中に後ろから弾が飛んできたようなもので、二重に「赤っ恥外交」である』、アメリカの行動で、「安倍首相としては、和平を仲介している最中に後ろから弾が飛んできたようなもので、二重に「赤っ恥外交」である」というのは、本当に考えられないような暴挙だ。
・『日本とイランの関係  そもそもなぜこんな時期に、安倍首相はイランを訪問したのだろうか? ある側近に訊ねると、こう答えた。 「安倍総理の脳裏にあるのは、一にも二にも7月21日に控えた参院選だ。参院選に向けて『外交の安倍』をアピールしようと、『令和初の国賓』としてトランプ大統領を招き(5月18日~21日)、イランを訪問し(6月12日~14日)、大阪G20サミットを開く(6月28日~29日)。 もう一つ、北朝鮮を訪問して金正恩委員長と日朝首脳会談も行いたいと模索しているが、こちらは難航している。 安倍総理のイラン訪問の話が出たのは、先々月にホワイトハウスを訪問し、ワシントン近郊でゴルフをやった時だった(4月26日~27日)。安倍総理の方から、『近くイランを訪問して中東の緊張緩和に取り組みたい』と申し出たのだ。それに対し、トランプ大統領も『よろしく頼む』となった。 安倍総理は、父・安倍晋太郎外相の秘書官だった時(1983年8月)、当時イラン・イラク戦争の真っ最中だった両国を訪問し、戦争の仲裁に一役買ったことが、強く記憶に残っている。当時、イラクで饗されたユーフラテス川で釣ったばかりの大魚を食べたら、父子共に腹を下して大変だったなんてエピソードも聞いたことがある。 それで5月にトランプ大統領が来日した際、さらに具体的に詰めた。安倍総理としては、『外相秘書官時代の再現』のように、イランに加えて、敵対するイスラエル、サウジアラビアも含めた3ヵ国訪問にしようと考えていた。だが、これにはトランプ大統領の雷が落ちた。『オレも今回は中国と韓国へは行かず、日本だけに来たんだぞ。行くならイランだけにしろ!』。 トランプ大統領は、イランとの戦争を、決して望んでいない。言付かったのは、『ロウハニ大統領が新たな2国間交渉に応じるなら、自分も会う用意がある』ということだった」 選挙のために安倍外交があるのだとしたら、これほどお粗末なことはない。言うまでもないことだが、中東情勢は、日本の選挙にお付き合いしてくれるほど生易しい世界ではない。 ただ、今年は日本とイランの国交樹立90周年であり、長年の友好を示す機会ではあった。 資源エネルギー庁の石油輸入調査統計によれば、アメリカがイランへの禁輸を課す前の2017年度の日本の原油輸入先は、1位サウジアラビア39.4%、2位UAE24.8%、3位カタール7.6%、4位クウェート7.3%、5位ロシア5.3%、6位イラン5.2%で、イランは重要な原油輸入先の一つだった。 余談になるが、日本とイランは古代から、浅からぬ縁があった。孫崎享・元駐イラン大使の夫人で、イラン研究家として名高い孫崎紀子氏の労作に、『「かぐや姫」誕生の謎』(2016年、現代書館)がある。 孫崎夫人の研究によれば、日本最古の物語である『竹取物語』は、菅原道真の孫・菅原文時(899年~981年)の作だという。3世紀から400年続いたササン王ペルシャは、638年、アラブから押し寄せたイスラム勢力によって、首都クテシフォンが陥落。最後の王ヤズデギルド3世一族は、東方へ逃亡した。一部は唐の都・長安に辿り着き、王女の一人が高宗皇帝に嫁いでいる。 さらにその一部が、遣唐使の帰路の船に同乗して日本へ辿り着いたというのだ。「孝徳天皇5年(654年)夏4月、吐火羅国男2人女2人舎衛女1人風に被いて日向に流れ来たれり」(『日本書紀』)。「吐火羅」(トカラ)とは王族が一時避難していたトカリスタン(現アフガニスタン)で、舎衛(シャー)とは古代ペルシャ語で「王」の意だという。 以下は省略するが、様々な検証に基づき、「かぐや姫」はペルシャの王女だったというのが、孫崎紀子氏の見解だ。つまり、日本が最初に元号を定めた大化の改新(645年)の時期から、すでに日本とイランは交流していたことになる。マシュー・ペリー提督の黒船が浦賀の港に現れ、アメリカと修好を結ぶ1200年以上も前のことだ』、安倍首相は、「イランに加えて、敵対するイスラエル、サウジアラビアも含めた3ヵ国訪問にしようと考えていた。だが、これにはトランプ大統領の雷が落ちた」、というのはありそうな話だ。「大化の改新(645年)の時期から、すでに日本とイランは交流していた」、というの初めて知った。
・『中国・ロシアとイランの関係  さて、7世紀のヤズデギルド3世一族が中国の高宗皇帝を頼ったように、21世紀のロウハニ大統領も習近平主席を頼った ロウハニ大統領は6月13日午前、安倍首相とハメネイ師の会談に立ち会った。当初は同席予定がなかったが、やはり重要会談ということで、その後のことを考えて同席したのだろう。ハメネイ師は安倍首相に対して厳しい表情で、「トランプとはやりとりする価値もない」と一蹴した。 この会談が終わると、ロウハニ大統領は慌ただしく政府専用機に乗って、キルギスタンの首都ビシケクに向かった。翌14日に、第19回上海協力機構(SCO)サミットに出席するためである。 SCOは、上海でAPEC(アジア太平洋経済協力会議)が開かれた2001年に、主に中央アジアの安定と発展を図ることを目的として、同地で成立した。名称の通り、中国が主導した初の国際組織で、現在の参加国は、中国、ロシア、インド、カザフスタン、キルギス、パキスタン、タジキスタン、ウズベキスタンの8ヵ国。オブザーバーは、アフガニスタン、ベラルーシ、イラン、モンゴルである。 日本とノルウェーのタンカー攻撃事件で、アメリカとイランの対立がさらに激化する中、習近平主席とロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、ロウハニ大統領を温かく迎えたのだった。 習近平主席はSCOサミットで、こう強調した。 「『上海精神』と『一帯一路』(シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロード)の共通認識に則って、グローバルな貿易体制を維持・保護し、開放型の世界経済を構築しようではないか」 この日、習近平主席は、ロウハニ大統領と個別にも会談した。新華社通信が伝えた両首脳の発言は、以下の通りだ。 習近平: 「昨年(5月)、SCO青島サミットの期間に、私とロウハニ大統領は、両国関係及び互いに関心がある地域と国際問題について深く意見を交換し、重要な共通認識に至った。中国としては常に、高度に戦略的かつ長期的な立場から両国関係を見ている。国際情勢や地域の情勢がいかに変化しようと、中国はイランと共に努力し、両国の全面的な戦略的パートナーシップ関係を、引き続き安定して発展、推進させていくつもりだ。 両国は戦略的な意思疎通を強化し、双方の核心的な利益の問題について、互いに支持し合っていくことが大事だ。協調にして対処することを強化し、実務的な協力を安定して展開していくことだ。(中略) 中国はイラン核合意(2015年7月)を全面的に支持し、イランと共に国連、SCOなど多国間の枠組みでの協調や調整を強化していく。そして共同で国際関係の基本的な準則、グローバル主義を断固として守っていく。かつ中国とイランを含む発展途上国の共同利益を維持し、保護していく」 ロウハニ:「イランと中国の関係は、長期的かつ戦略的なものだ。イランは、対中関係を高度に重視し、全方位的に発展させていくよう尽力する。そして『一帯一路』を共に積極的に築き、双方の広範囲での協力の潜在力を掘り起こしていく。 イランは、アメリカが単独でイラン核合意から脱退するという誤った行動に、決然と反対する。そして中国が、国際的な実務社会で積極的な影響を発揮していることを、積極的に評価する。中国との意思疎通と協調を強化していきたい」 さらに習近平主席とプーチン大統領は、ロウハニ大統領を伴って、14日夕刻、隣国タジキスタンの首都ドゥシャンベに向かった。この地で15日に開かれた第5回アジア相互協力信頼醸成措置会議(CICA)に出席するためだった。 CICAは、1992年に独立直後のカザフスタンのナザルバエフ大統領が提唱して始まったアジアの安全保障問題を話し合う国際会議である。参加国は中国、ロシア、インド、イランを始め27ヵ国。オブザーバーは日本を含む13ヵ国である。 これだけのアジアのメンバーを主導しているのは、中国である。前回5年前の上海大会で議長を務めた習近平主席は、円卓に居並ぶ各国首脳を前に、野太い声を響かせた。 「君子は本に務め、本は道より生まれ立つと言うが、私は2015年以来、アジア運命共同体の構築を提唱してきた。4月に『第2回“一帯一路”国際協力サミットフォーラム』(習主席が主催して北京で開催)で共通認識となったように、アジアからゼロサム和の挑発や保護主義を放逐し、貿易と投資を自由化・利便化させ、『一帯一路』の国際協力プラットフォームのもとで、開放された包容力のあるアジアを共同で追い求めていくのだ」 こうして、まさに「捨てる神あれば拾う神あり」という感じで、中国(及びロシア)は、イランを取り込んでしまったのである』、「中国(及びロシア)は、イランを取り込んでしまった」、トランプ大統領もこうしたことは織り込んでいた筈だろうが、次はどうするのだろう。
・『中国経済の心臓部  思えば、中国とイランは、シルクロードの時代から2000年の長きにわたる友好国である。現在でもそのことは変わらず、テヘランの中国大使館のホームページには、こう記されている。 〈 中国とイランは、1971年8月16日に国交を結んだ。1979年にイランイスラム共和国建国後も、関係は良好に発展している。2016年1月、習近平主席は歴史的なイラン訪問を果たし、「制裁解除後時代」にふさわしい全面的な戦略的パートナーシップ関係を結んだ。 2017年に両国の貿易額は371.8億ドル(世界全体の0.9%)で、中国の輸入が185.8億ドル、輸出が186億ドルである。中国にとってイランは重要な原油の輸入国で、2017年の原油輸入は3100万トンを超える。 2017年、中国はイランに、36億3860万ドルの直接投資を行った(世界全体の2.91%)。2017年末時点で、中国のイランへの直接投資残高は36億9500万ドルに上る。同様に中国がイランで請け負っているインフラ整備は累計で587億300万ドルに達する。イラン核合意の後、両国の貿易は活性化している 〉 私は、北京で暮らしていた約10年前、三里屯(「北京の原宿」のような繁華街)にある大きなイラン料理のレストランで、イランの外交官と何度かランチしたことがある。アメリカの悪口を言いまくりながら、コカ・コーラをがぶ飲みするので、「アメリカ経済に貢献しているのでは?」と冷やかしたら、「アメリカを飲み干しているのだ」と切り返された。 その外交官が言っていた文句が、いまも耳に残っている。私が「中国の巨大な経済発展をどう捉えているか?」と聞いた時の返答だ。 「中国が巨人だとするなら、イランはその心臓部だ。なぜならイランが血液にあたる石油を供給してやって、初めて巨人は活動できるからだ。そのことは日本もインドも韓国も、アジアの経済大国はどこも同じだ」 そう言えば、当時付き合っていたモンゴルの外交官も、「万里の長城を造った中国が偉大なのではなく、それを造らざるを得ないほど強大だったモンゴルが偉大なのだ」と誇っていたものだ。 ともあれ、2017年のイランの原油の輸出先は、1位中国28%、2位インド22%、3位韓国18%、4位日本8.2%だから、そのイランの外交官の言葉は、あながち大言壮語とも言えない』、イランと中国の関係がこれほど深いとは、初めて知った。
・『安倍外交の成果が問われる  思えば、「中東を民主化させる」と言って2003年にイラク戦争を起こしたのはブッシュJr.大統領だったが、中東の多くの国がいまだに旧態依然とした独裁王制にある中で、一番民主的な選挙と議会政治を行っているのがイランである。 4月上旬に来日したセイエッド・サジャドプール元イラン外務次官(イラン国際問題研究所長)の講演を聞く機会があったが、次のように述べていた。 「トランプ大統領が昨日、イラン革命防衛隊をテロリストに指定したが、わが国は議会制民主主義がしっかり根づき、過去40年、毎年選挙を実施して物事を決めている。あの大変だった核合意も、6ヵ国と深い議論の末にまとめ上げた。トランプ政権の方こそ、国際協調を勝手に破って他国を追い詰めていく経済的テロリストだ。 イランは、議論と防衛を重要視する国だ。今後トランプ政権がどんな手段に出てこようとも、主体的に責任感を持って防衛していく」 この時、「スープより椀が熱くなってはいけない」というイランの諺を知った。 だが現実は、「アメリカvs.中国・ロシア」という前世紀の冷戦のようなブロック化が進み、スープ(イラン)よりも椀(周辺国)の方がデットヒートしそうな勢いだ。 そんな中で、来週末には、いよいよ大阪G20サミットが開催される。すでに日本にとって「重量オーバー」のような気がしてならないが、この6年半の安倍外交の成果が問われている』、「中東の多くの国がいまだに旧態依然とした独裁王制にある中で、一番民主的な選挙と議会政治を行っているのがイランである」、言われてみれば、その通りなのかも知れない。イランには、トランプ政権の挑発に乗らず、頑張ってほしいところだが、石油輸出がアメリカの圧力で減少するのに我慢できるかがカギだろう。

第三に、6月23日付けMONEY VOICEが高島康司氏の『ヤスの備忘録』連動メルマガ』を転載した「タンカー攻撃、自作自演だった。見えてきたトランプ政権と実行組織のつながり=高島康司」を紹介しよう。
https://www.mag2.com/p/money/714694
・『オマーン湾の日本タンカー攻撃について真実がわかってきた。米国は「イランの仕業」と決めつけたが、実行した組織と米国のつながりを示す証拠が出てきている。(『未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ』高島康司)※本記事は有料メルマガ『未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ』2019年6月21日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ』、これは第二の記事よりストレートなようだ。
・『アメリカが資金援助?イランを陥れる反体制組織とは何者なのか 早々に「イランの仕業」と決めつけ  現地時間の6月13日、東京に本社がある「国華産業」が運行するパナマ船籍のタンカー「コクカ・カレイジャス」は、オマーン湾のホルムズ海峡付近で攻撃を受けた。左舷後方のエンジンルームで爆発があり、船体には機雷が爆発したように見える小さな穴ができた。乗組員の証言では、飛行物体による攻撃に見えたという。乗組員全員は救命艇で脱出し、近くを航行中の船に救出された。 また、ノルウェーのフロントラインが所有するタンカー「フロント・アルタイル」も同じ海域で攻撃を受けた。乗組員は救命艇に乗って脱出し、イラン海軍の艦艇に救出された。乗組員は、魚雷による攻撃のようだったと証言している。 オマーン湾では5月12日にサウジやUAEのタンカーなど4隻が何者かに攻撃を受けた。今回の攻撃はこれに続く事件である。 前回同様、トランプ大統領は「イランの仕業に違いない」とコメント。マイク・ポンペオ国務長官も同日、「イランに責任がある」と断定した』、早手回しの決め付けだ。
・『イラン犯人説への疑念  しかし、トランプ政権のこのような非難に対して、イランは全面的に否認している。これは外部の勢力の陰謀であるとも声明している。 イランのザリフ外相は13日、自身のツイッターで「最高指導者ハメネイ師と日本の首相が広範かつ友好的な対話をしているときに起きた」とし、「イランが提案している地域の対話フォーラムが不可欠になる」と語って各国に外交的解決を呼びかけた。 また日本をはじめ諸外国も、この攻撃が実際にイランによるものかどうか疑念を呈している。 6月13日は安倍首相が、日本の首相としては40年ぶりに訪問し、緊張の高まるアメリカとの関係を仲裁しようとしていたときだ。イランのローハニ大統領、最高権力者のハメネイ師との会談も行われていた。 このようなときに日本の運営するタンカーを攻撃すると、イランにとっては貴重な友好国である日本との関係が損なわれる可能性が高い。これはイランが自らを追い詰める結果になる。 もちろん、このようなときだからこそ、イランはホルムズ海峡の閉鎖を睨んで、タンカーを攻撃する実力があることを明白に示す必要性があったとの見方もある。しかし、これはかなり疑わしい。イランはペルシャ湾に3000隻の自爆攻撃用の高速艇を主体に、ミサイル艇やフリゲート艦、そして小型の潜水艦部隊などを展開している。ホルムズ海峡を通過するタンカーの攻撃が可能なことは、あえて実演しなくても分かることだ』、確かにイランには攻撃のメリットがなさそうだ。
・『アメリカはこれまで多くの戦争をでっちあげてきた  2003年、当時のブッシュ政権は、イラクが大量破壊兵器を秘密裏に保有していることを示す明白な証拠があるとして、イラク侵略戦争を始めた。後にそうした事実はまったく存在せず、ブッシュ政権が提示した証拠はすべて嘘であったことが証明された。 また古くは、1964年には、北ベトナムのトンキン湾に停泊していたアメリカの駆逐艦に2発の魚雷が発射される事件が起こった。当時のジョンソン大統領はこれが北ベトナム軍の仕業だと決めつけ、即座に北ベトナム爆撃を実施した。後にこの攻撃はアメリカ軍による自作自演であったことが分かった。 アメリカには戦争を引き起こす口実をでっちあげる長い歴史がある。それもあって、オマーン湾で起こった今回のタンカーの攻撃事件に対するトランプ政権の説明は、あまり信用されていない』、「アメリカには戦争を引き起こす口実をでっちあげる長い歴史がある」、第二の記事でも指摘していた点だ。
・『鮮明な画像  一方トランプ政権は、このような状況を打破し、この攻撃がイランによるものであることを証明するために、日本が運用するタンカー「コクカ・カレイジャス」に付着させた不発の機雷を高速艇が撤去する様子を撮影したビデオを公開した。そこには、イラン革命防衛隊が保有する3,000隻の高速艇によく似た船が写っていた。 さらに18日には同じ高速艇のもっと鮮明なカラー画像が公開された。たしかに革命防衛隊の高速艇に似ていることは間違いない。 これらの証拠をもとにポンペオ国務長官は、「この海域でこうした攻撃を実施する能力があるのはイランだけだ」としてイランの責任を追求している』、「不発の機雷を高速艇が撤去」しているのであれば、後始末をしているのに過ぎないのに、犯人扱いとはトランプ政権の主張は乱暴過ぎる。
・『どう見てもイランではない  しかし、どれだけの証拠を見せられても、今回のような攻撃を行う動機はイランには見当たらないので、これがイランによるものだとはにわかには信じがたい。 この攻撃を実行した勢力が別に存在するのなら、それはどのような勢力なのだろうか? このような疑問に答えようと情報を集めていたら、極めて興味深い情報を見つけた。「イスラエリ・ニュースライブ」というネットメディアがある。ここはスティーブ・ベンヌンというキリスト教の原理主義者が、聖書の預言の実現過程を世界情勢に探ることを目的にして、中東に関連したニュースを解説するメディアである。興味深いことに、イスラエルのリクード政権には非常に手厳しく、批判的だ。 ここは5月7日に興味深い番組を放映した。5月7日はオマーン湾の4隻のタンカー攻撃があった5月12日の5日前である。この放送では番組のホストのスティーブ・ベンヌンが、イスラエルにいる情報筋から得たというメールを紹介していた。それは次のようなものだった。 スティーブへ ジョン・ボルトンと近い関係にあるイランの反体制組織(People’s Mojahaddin of Iran)のメンバーが、イラン革命防衛隊がペルシャ湾で使っている高速艇と同じような船を手に入れようとして逮捕されたようだ。 明らかに自作自演の偽旗作戦が進行しているが、これはアメリカというよりも、この反体制組織が状況を混乱させるためにやっていることだ。 まだ米海軍とイラン海軍は偶発的事故を回避するための調整が行われている。イラン海軍は厳戒態勢にあり、だれも休暇を取っていない。毎日100万バレルの原油を売っているのだからね。 このようなメールであった。これを見ると、イランの反体制組織が革命防衛隊によく似た高速艇を手に入れ、イランを追いつめるための偽旗作戦の実施を準備している可能性があることを示している。 6月13日のタンカー攻撃には、日本が運用するタンカーに革命防衛隊によく似た高速艇が接近し、機雷を外しているビデオが公開された。この事件が起こる1カ月以上前に、イランの反体制組織が高速艇の入手を試み、自作自演の偽旗作戦を実施しようとしていると警告する情報があるのだ』、高速艇が「イランの反体制組織」のものというもありそうな話だ。
・『モジャーヘディーネ・ハルグ  このメールにある「People’s Mojahaddin of Iran」とは、「モジャーヘディーネ・ハルグ」のことである。別名「MEK」とも呼ばれている。 「MEK」は、1965年に当時のイランを統治していたパーレビ国王の独裁体制の打倒を目標に設立された反体制組織だ。イデオロギーは社会主義で、イスラムとは距離を保っていたが、1979年のイラン革命でホメイニ師が指導する反体制勢力が強くなるとこれと協力し、パーレビ体制を打倒した。 しかし、ホメイニ師によるイスラム原理主義の国家体制が出現すると、今度は現在のイスラム共和国の体制に離反し、政権の打倒を目指すようになった。1980年から1988年まで続いたイラン・イラク戦争では、サダム・フセインの庇護のもと、イラク側で戦った。2003年にフセイン政権が崩壊すると、イラク国内にいた「MEK」のメンバーは米軍に投降した。 このように、イランと敵対するイラク側で戦ったために「MEK」はイラン国内では裏切りものと見なされ、国内の支持基盤はとんどない。「MEK」の唯一の基盤は、フランスに住みパーレビ政権を支持する人々だ』、なるほど。
・『本拠地はアルバニア  このような「MEK」だが、この情報を見るとかなり小さな組織であるように思うかもしれない。しかし、実際はそうではない。アルバニアに相応な規模の軍事施設を持ち、5千人から3万人のメンバーを有する強力な軍事組織である。 「MEK」はアメリカではテロ組織として指定されていたが、2012年にそれは突然と解除された。同じ年、アルバニアはイランとの外交関係を回復する準備をしていたが、それを突然と中心(正しくは中止)した。そして、やはり2012年に「MEK」がアルバニアに拠点を移し、巨大な本拠地の建設を始めた。 2012年にアメリカが「MEK」のテロ組織指定を解除した理由は分かっていないが、オバマ政権から多額の支援金の支払いと引き換えに、「MEK」の拠点をアルバニアに構築する提案がアルバニア政府にあったとの情報がある。 アルバニア政府はこれを受け入れたので、イランとの外交関係を破棄したのではないかと見られている』、アメリカのテロ撲滅hが如何に「ご都合主義的」かを物語っている。
・『ジョン・ボルトンとの関係  そして興味深いのは、「MEK」と安全保障担当補佐官のジョン・ボルトンとの関係である。 以前にも当メルマガの記事で何度か紹介しているが、アメリカには資金の流れから政治家の背後にいる勢力をあぶり出す「オープンシークレット・ドット・オルグ」というサイトがある。運営しているのは民主党系のNPO法人だ。 試みにこのサイトで「MEK」に関係する資金の流れを調べると、興味深いことが分かる。「MEK」にはアメリカでロビー活動を展開する「イランに抵抗する国民委員会(NCRI)」という名の団体を運営している。ここは「MEK」の支持を拡大するための、共和党を中心に多くの政治家に献金をしている。 なかでも「NCRI」から最大の献金を受けているのが、ジョン・ボルトンである。この献金もあってか、ジョン・ボルトンは2017年にパリの「MEK」支持集会で支持演説をしている』、「「NCRI」から最大の献金を受けているのが、ジョン・ボルトンである」、というのには驚かされた。「NCRI」の資金は元を辿れば、MEKへのCIAなどの秘密工作資金なのではなかろうか。ボルトンは自分たちで、国家予算で援助し、その一部を「献金」の形でキックバックさせているのかも知れない。
・『政権転覆後のイラン大統領  周知のようにジョン・ボルトンは、トランプ政権内でイラン攻撃と体制転換を進めるネオコンのタカ派である。 そしてボルトンがイランの体制転換後の大統領候補として熱烈に押すのが、マリアム・ラジャビという女性だ。マリアム・ラジャビこそ、「MEK」の指導者である。 このようにボルトンと「MEK」のつながりは強い。ボルトンは「MEK」から政治資金の献金を受け、「MEK」をトランプ政権内で支持しているのだ』、なるほど。
・『ボルトンとMEKの自作自演か  このような「MEK」のメンバーが、イラン革命防衛隊が保有する高速艇に類似した船を買おうとして、5月初旬に逮捕されたのだ。実際にこうした事件があったことは、クエートの新聞記事でも報道されている。 このように見ると、今回のタンカー攻撃はイランが実行したとはとてもいえないことははっきりしている。 タンカー攻撃をイランのせいにして戦争を画策しているボルトンと「MEK」が実行した自作自演である可能性は否定できない』、最もありそうなシナリオだ。
・『「MEK」被害者の会の情報  そして、さらに興味深いことが分かった。「MEK」には「ネジャット・ソサイティー」という名の被害者団体があった。イラン国内に支持基盤のない「MEK」は、メンバーを拉致同様の方法で確保している。そのため、娘や息子を拉致された家族が中心となり、被害者団体を立ち上げた。おそらくこの組織には、イラン政府も協力しているのだろう。このサイトが「MEK」に関する情報がもっとも充実している』、イランにも「拉致」問題があるとは、初めて知った。
・『アルバニア大統領が米空母に乗船?  「ネジャット・ソサイティー」の最近の記事には、実に興味深い情報があった。アルバニア大統領のイリル・メタが米空母に乗船している写真が掲載されていた。 乗船している空母は「エイブラハム・リンカーン」である。「エイブラハム・リンカーン」はイランに圧力をかけるために、ペルシャ湾に派遣されている空母だ。なぜそこにアルバニアの現役の大統領が乗船しているのだろうか? この画像が掲載されている記事が出たのは、5月15日だ。オマーン湾でUAEやサウジの4隻のタンカーが何者かによって攻撃された事件の3日後である。もしかしたら、攻撃があった日にアルバニア大統領は「エイブラハム・リンカーン」に乗っていたのかもしれない。何をしていたのだろうか? アルバニアは、「MEK」の本拠地のある国である。「MEK」を受け入れるための交換条件として、米政府から莫大な資金がアルバニアにわたっている可能性は否定できない。「MEK」に対してもそうだ。 このように見ると、今回のタンカー攻撃をイランのせいにするにはあまりに無理がある。 むしろ、ボルトン、「MEK」、アルバニアのつながりで起こった自作自演の偽旗作戦であった可能性は非常に高いように思う』、説得力溢れた主張だ。
・『これから大量に出てくるイラン犯人情報  しかし、今回のメルマガで紹介したような情報は日本の主要メディアで報じられることはないだろう。 むしろ、ボルトンやポンペオによって、タンカー攻撃の実行犯はイランであることを証明する膨大な情報が、これから流されるはずだ。 日本政府も日本の主要メディアも、こうしたアメリカが流す一方的な情報に流され、次第にイラン犯行説を信じるようになる可能性が高いように思う。残念である。 このメルマガでは、こうした流れに抵抗し、真実を明らかにするつもりだ。(続きはご購読ください。初月無料です)』、騙されないように気をつけたい。
タグ:高島康司 現代ビジネス トンキン湾事件 鮮明な画像 Newsweek日本版 MONEY VOICE 近藤 大介 イラン問題 (その2)(トランプ イラン攻撃取り消しは作戦開始10分前、ベトナム イラク イラン…アメリカが繰り返す「悪のレッテル作戦」 イランの犯行を裏付ける証拠はない、タンカー攻撃 自作自演だった。見えてきたトランプ政権と実行組織のつながり) 「トランプ、イラン攻撃取り消しは作戦開始10分前」 イランによる米軍の無人偵察機撃墜に対する報復措置として軍事攻撃を承認したものの、その後撤回 緊迫感を出すために、初めから仕組まれたシナリオ 「ベトナム、イラク、イラン…アメリカが繰り返す「悪のレッテル作戦」 イランの犯行を裏付ける証拠はない」 タンカー攻撃の犯人 コクカ・カレイジャス」 「フロント・アルタイル」 アメリカのドナルド・トランプ大統領は同日、早々と「イランの仕業に違いない」とコメント 誰もが納得する根拠を示さないで「悪のレッテル」を張るアメリカの手法は、現在、中国のファーウェイ・テクノロジーズ(華為技術)を非難しているのと、まったく同じである 「ギリシャ悲劇」を繰り返すな イラクの兵器に関する虚偽の諜報が別の大統領(ジョージ・W・ブッシュJr)の戦争を正当化 2度あることは3度ある 国際常識に照らせばあり得ない イラン核合意(JCPOA)が成立 「今世紀に人類が成し得た最高の芸術的外交作品」 「前任のオバマ大統領が行ったものはすべて悪」と考えるトランプ大統領は、この「芸術的外交作品」を、あっさりポイ捨てしてしまった 安倍首相としては、和平を仲介している最中に後ろから弾が飛んできたようなもので、二重に「赤っ恥外交」である 日本とイランの関係 中東情勢は、日本の選挙にお付き合いしてくれるほど生易しい世界ではない 孫崎紀子氏 『「かぐや姫」誕生の謎』(2016年、現代書館) 大化の改新(645年)の時期から、すでに日本とイランは交流していた 中国・ロシアとイランの関係 中国経済の心臓部 安倍外交の成果が問われる 『ヤスの備忘録』連動メルマガ』 「タンカー攻撃、自作自演だった。見えてきたトランプ政権と実行組織のつながり=高島康司」 アメリカが資金援助?イランを陥れる反体制組織とは何者なのか 早々に「イランの仕業」と決めつけ イラン犯人説への疑念 アメリカはこれまで多くの戦争をでっちあげてきた どう見てもイランではない モジャーヘディーネ・ハルグ 「MEK」 イランと敵対するイラク側で戦ったために「MEK」はイラン国内では裏切りものと見なされ、国内の支持基盤はとんどない 「MEK」の唯一の基盤は、フランスに住みパーレビ政権を支持する人々だ 本拠地はアルバニア 「MEK」はアメリカではテロ組織として指定されていたが、2012年にそれは突然と解除 ジョン・ボルトンとの関係 「NCRI」から最大の献金を受けているのが、ジョン・ボルトンである 政権転覆後のイラン大統領 ボルトンは「MEK」から政治資金の献金を受け、「MEK」をトランプ政権内で支持 ボルトンとMEKの自作自演か 「MEK」被害者の会の情報 アルバニア大統領が米空母に乗船? これから大量に出てくるイラン犯人情報
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トランプ大統領(その41)(トランプの「欧州嫌い」はここまで深刻だった 揺れる米欧関係 試される日本の戦略的外交、世界経済を危機に陥れる!?トランプ政権の「FRB多数派工作」、トランプ「世界戦略」の全貌がイラン制裁と米中摩擦で見えてきた、トランプ大統領は 善悪二元の「ブードゥー経済学」で間違った貿易戦争を仕掛けている) [世界情勢]

トランプ大統領については、3月10日に取上げた。今日は、(その41)(トランプの「欧州嫌い」はここまで深刻だった 揺れる米欧関係 試される日本の戦略的外交、世界経済を危機に陥れる!?トランプ政権の「FRB多数派工作」、トランプ「世界戦略」の全貌がイラン制裁と米中摩擦で見えてきた、トランプ大統領は 善悪二元の「ブードゥー経済学」で間違った貿易戦争を仕掛けている)である。

先ずは、東洋大学教授の薬師寺 克行氏が4月27日付け東洋経済オンラインに寄稿した「トランプの「欧州嫌い」はここまで深刻だった 揺れる米欧関係、試される日本の戦略的外交」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/278451
・『統一地方選を終えて、安倍首相がフランスやアメリカなど6カ国を訪問した。6月に予定されている「20カ国・地域(G20) 首脳会議」の成功に向け、主要国首脳との事前調整が主な理由とされているが、この外遊にはもう1つの隠された目的がある。それは深刻な対立に陥っている米欧関係の修復である。 トランプ大統領の登場後、米欧関係の悪化は目に余るものがあるが、その深刻さはとどまるところを知らない。政府関係者によると、4月初めにフランスで開かれたG7外相会合での議論は、「米欧がことごとく対立し、ここまでひどい状態に陥っているのかというレベルだった」という』、安倍首相の訪問は、G20ホスト国としての当然の動きだが、なんとも間の悪い時にホスト国の番が回ってきたものだ。
・『米欧は重要な問題でことごとく対立  G7外相会談は、首脳会合の成功に向けて取り上げる議題や各国の主張などをすり合わせる場である。毎年、人権から気候変動、経済、地域紛争など世界が直面している幅広い問題について意見交換し、共同コミュニケを発表する。これまでもG7の間で考え方の違いがなかったわけではないが、真正面から対立することは少なかった。その結果、毎年発表される文書の多くの部分は前年の内容を踏襲してきた。 ところが今年は様変わりだったようだ。まず、アメリカのポンペオ国務長官が欠席し、サリバン国務副長官が代理で出席した。国務長官の欠席は異例のことだが、なぜかアメリカ政府はその理由を明らかしていない。そして、外相会合の場でも、誰もポンペオ氏欠席を話題にしなかった。共同コミュニケ作成に向けた議論になると、アメリカがあれこれ難題を突き付け、殺伐とした雰囲気だったという。 もともとアメリカと欧州は、イラン核合意、アメリカによる鉄鋼・アルミニウムの輸入制限とそれに対するEUの報復関税、イスラエルが占領しているシリアのゴラン高原についてアメリカがイスラエルの主権を認めた問題、あるいは地球温暖化対策の国際枠組みであるパリ協定からのアメリカの離脱など、多くの重要な問題で真っ向から対立している。 それを反映して、外相会合でアメリカは、「パリ協定」や、パレスチナ問題に関連する「国連安保理決議」、さらには「世界貿易機関」(WTO)や「国際法に従って」などという言葉や言い回しをコミュニケに盛り込むことにことごとく反発した。多くがこれまでのコミュニケには何の問題もなく盛り込まれていたものだ。 アメリカの自己中心的対応が吹き荒れた結果、コミュニケでは「イスラエルとパレスチナの間の紛争について意見交換を行ったが、明らかな相違がみられた」などというこれまでにない表現が盛り込まれた。また「国際法」という言葉が消えて「国際的なルール」などに置き換えられている。 世界のルールは自分が作るという自負心の強いアメリカは、伝統的に自国の主権に制約がかけられる国際法や国際的合意を嫌う。アメリカの利益を最優先し、それに合わない国際的な合意は軽視、あるいは無視することはトランプ大統領が初めてではない。とはいえ、ここまで徹底して細部にわたって欧州各国を相手に文言や表現にこだわり、自分の主張を貫いた例は過去にあまりない。それだけトランプ政権の「反欧州」の空気が強いことを表している。会議には河野外相も出席していたが、米欧間の激しい応酬の前には脇役でしかない。 第2次世界大戦後の米欧関係は自由、民主主義、市場経済などという政治経済社会の枠組みや価値観を共有し、戦後の復興と著しい経済発展を実現してきた。また東西冷戦のもとで北大西洋条約機構(NATO)という安全保障の枠組みを構築し、ソ連に向き合ってきた。その結果、歴史上、最も成功した同盟関係ともいわれてきたほど安定感のある関係だった』、「河野外相も出席していたが、米欧間の激しい応酬の前には脇役でしかない」、シュンと大人しくせざるを得ない河野外相の姿が目に浮かぶようだ。
・『過去と次元の異なる「米欧対立」  もちろん長い歴史の中には、自主独立路線を主張するフランスのドゴール大統領がNATO離脱宣言を打ち出したこともあった。アメリカのレーガン大統領が欧州に何の相談もなく戦略防衛構想(SDI)を表明し、フランスなどが強く反発したこともあった。また、NATO加盟国の国防予算が少なすぎるという不満は、アメリカから何度も突き付けられてきたが、積極的に対応した国はほとんどなかった。 しかし、米欧がどれほど対立しようとも、アメリカと英仏独など欧州の主要国は、戦後の世界秩序を創り上げ、維持・発展させてきたという自負と責任感を持っていた。ゆえに決定的な対立を回避するという知恵も併せて持っていた。 ところが今回の米欧対立はこれまでとは根本的に異なっている。トランプ大統領という特異な人物の登場がこれまでとは次元の違う米欧対立を生み出したことは否定できない。トランプ氏は、自由貿易などこれまでの繁栄をもたらした秩序の維持について一顧だにせずアメリカの利益追求にこだわり、既存の秩序を破壊しようとしている。 しかし、トランプ大統領だけが今の危機を生み出したとも言い切れない。欧州の側にも原因がある。欧州はかつて持っていた統合力や一体性を失いつつある。そうした変動に向き合う主要国トップの指導力の低下も著しい。混迷を続ける英国のEU離脱やフランスのイエロー・ベスト運動、広範囲に及ぶポピュリズムの拡散は、リーダーの不在と欧州の求心力の低下を物語っている。 トランプ大統領の強引な主張に対し、フランスのマクロン大統領やドイツのメルケル首相は格調高い説得力のある批判を展開してきた。しかし、演説だけでは米欧対立の危機を克服できない。つまり、欧州の側にもアメリカに向き合い、問題解決を図る力がなくなってきているのである。 この状況を歓迎しているのが言うまでもなく中国とロシアである。冷戦後のEUやNATOの拡大に激しく反発しているロシア、あるいは「一帯一路」の世界的展開で欧州に対しても経済的、政治的影響力を強めたい中国にとって、米欧対立と欧州の分裂という状況は、自分たちが欧州を侵食する好機と捉えている。すでに東欧の小国に加えイタリアまでもが一帯一路への参加を表明している。 自由と民主主義、市場経済を標榜してきた欧州に、権威主義国家を代表する中国とロシアが入り込んでくることは、世界秩序の変動の始まりを意味することにほかならない。しかし、そうした危機感はG7外相会合の様子を見る限りまだ十分に共有されているようには見えない』、「過去と次元の異なる「米欧対立」」の間に、「権威主義国家を代表する中国とロシアが入り込んでくる」、というのは複雑極まる構図だ。
・『日本初の戦略的外交が展開されている  そこで日本である。日本の欧州外交と言えば従来は英仏独とお付き合いをすることで十分だった。日本外交の中心はアメリカとの同盟関係の維持・強化であり、また中国や韓国など近隣諸国との外交だった。欧州外交はその付属物的存在だった。 しかし、日本が西側の一員として戦後秩序の恩恵に浴し、経済発展を遂げたことも事実だ。そのシステムが揺らぎ始めたのであれば、見過ごすわけにはいかない。深刻な米欧対立と欧州の分裂の危機を前にして日本政府が危機感を持つのは当然である。 安倍首相は、昨年1月にエストニア、ラトビア、リトアニア、ブルガリア、セルビアおよびルーマニアを、10月にはスペイン、フランス、ベルギーを訪問している。さらに今年1月にはオランダと英国を、そして今回、フランス、イタリア、スロバキア、ベルギーを訪問する。主要国だけでなく、歴代首相がほとんど訪問したことのない国々にまで足を運ぶのは、深刻な現実を放置できないと考えているからであろう。 これは欧州を対象とする日本の初めての戦略的外交の展開である。もちろん安倍首相が訪問したくらいで米欧関係を改善させたり、欧州崩壊の流れを食い止めることはできるはずもない。しかし、日米同盟関係にあぐらをかいていれば事が足る時代は終わりつつある。新たな時代を見据えた戦略的外交の意味は今後もますます大きくなるだろう』、「主要国だけでなく、歴代首相がほとんど訪問したことのない国々にまで足を運ぶのは、深刻な現実を放置できないと考えているからであろう」というのは、安倍首相へのゴマスリだろう。実態は、「外交の安倍」をPRし、「やってる感」を出すためではなかろうか。

次に、東短リサーチ代表取締役社長の加藤 出氏が5月16日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「世界経済を危機に陥れる!?トランプ政権の「FRB多数派工作」」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/202174
・『ドナルド・トランプ米大統領が、米連邦準備制度理事会(FRB)のコントロールを狙った試みは失敗した。FRBにスティーブン・ムーア氏とハーマン・ケイン氏を理事として送り込もうとしたが、米上院の反対により頓挫したのだ。 金本位制への回帰など2人とも奇抜な金融政策を主張してきた人物だ。それもさることながら、上院共和党議員が彼らを支持することを嫌がった最大の原因は、2人の倫理的な問題にあった。 ムーア氏は女性蔑視だと批判されるコラムを書いていたり、税金の滞納や離婚した前夫人に対する金銭面でのトラブルなどを抱えたりしていた。ケイン氏も“セクシャルハラスメントの地雷”と警戒されてきた。共和党議員らは、2人のFRB理事就任に賛成する投票を行うと、来年の選挙で地元の女性有権者から激しい批判を浴びてしまうと恐れたのである。 しかし、トランプ大統領もマイク・ペンス副大統領も来年の大統領選挙を意識して、FRBに景気刺激策を行わせたがっている。米メディアによると、ホワイトハウスは早速新たにポール・ウィンフリー氏(ヘリテージ財団・経済政策統括)をFRB理事に指名する様子だという。FRBに圧力を加えるため、大統領に忠誠を示す人物を何とか送り込みたいようだ。さすがに今後は事前の“身辺調査”を入念に行うだろうが……』、共和党議員らが、2人の金融政策に対する考え方よりも、地元の女性有権者からの批判を恐れたというのは、ありそうな話だ。
・『FRB理事の二つの空席にトランプ派が座れば、FRB内はかき回されるだろう。彼らが講演を行うたびに金融市場が大きく揺さぶられる恐れもある。ただし、投票において彼らは主導権を握れない。FRB理事の総数は(議長と副議長を含め)7人だからだ。 また、政策金利であるフェデラルファンド金利の誘導目標や量的金融緩和策などの金融政策の根幹部分は米連邦公開市場委員会(FOMC)で決定されている。同委員会の投票は地区連邦銀行の総裁を含む計12人で行われる。 その点では、黒田東彦総裁や若田部昌澄副総裁など事実上の“安倍派”が多数派を占める日本銀行の現政策委員会のような構図には、FRBはなりにくいといえる。 FRBの創立は1913年だが、その根拠法である連邦準備法は米国の中央銀行が特定の勢力の支配下に落ちないように防御線を張っている。FRB理事の任期は大統領の任期(最大2期8年)よりはるかに長い14年。また、地区連銀総裁の任命に政権は関与できない。 このように、連邦準備法はFRBが時の政権の影響を過度に受けないような枠組みを定めている。金融政策は中長期的な視点で運営される方がよい、という考え方がその背景にある。 一方で、FRBの独立性とは政権内における独立だと米国では伝統的に考えられてきた。国民から選ばれた大統領とFRBが全面対決を続けることは本来であれば望ましくない。適度な距離感が求められているといえる。 その点でもし来年の大統領選挙でトランプ氏が再任されたら、FRBは非常に悩ましいことになる。議長と2人の副議長の任期が到来すれば、ホワイトハウスはトランプ派を任命するだろう(議長と副議長の任期は4年で理事より短い)。時間がたつにつれて、理事にも徐々にトランプ派が増える。 次期幹部がバランスの取れた人物であればよいのだが、そうでない場合、世界経済にとっても大きなリスク要因となり得る。米大統領選挙の行方はこの点においても注目を集めるといえるだろう』、確かに「トランプ氏が再任され」れば、大変なことになりそうだ。現在は、米国債10年物の利回りは2%と安定しているが、将来のインフレ懸念で大きく上昇することになろう。これは、日本にも波及する懸念が強いとみておくべきだろう。

第三に、立命館大学政策科学部教授の上久保誠人氏が5月21日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「トランプ「世界戦略」の全貌がイラン制裁と米中摩擦で見えてきた」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/203023
・『トランプ大統領の「アメリカファースト(米国第一主義)」が猛威を振るっている。米国はイランとの対立を先鋭化させている。トランプ大統領は、イラン産原油の全面禁輸を決定し、これに対抗してイランは核兵器開発につながるウラン濃縮の拡大に踏み切る可能性を示唆した。 また、米国は中国との貿易戦争において、高官級通商協議が不調に終わったことで、中国製品2000億ドル分に課す制裁関税を10%から25%に引き上げた。また、中国通信機器最大手の華為技術(ファーウェイ)に事実上の輸出禁止措置を発動した。中国は即日、報復措置を表明した』、安倍首相は現在、イランを訪問し、米国との仲立ちをしようとしているが、成果は期待薄だろう。先ほど、ホルムズ海峡を通過中の日本の海運会社が運航するタンカー1隻が攻撃を受け、船を放棄して船員が脱出したとのニュースが入った。船籍はパナマなので、日の丸を掲載してなかったのかも知れない。安倍首相訪問との関連も不明だ。
・『過去最強の米国が狙う「新しい国際秩序」の構築  この連載では、米国が従来の地政学的な枠組みでは説明できない「新しい国際秩序」を着々と築いてきたことを説明してきた。米国は「世界の警察官」を続けることに関心がなくなった。だから、世界から少しずつ撤退を始めている。重要なのは、これはトランプ大統領の思い付きではなく、バラク・オバマ大統領の時代から始まった、党派を超えた国家戦略だということだ(本連載第170回)。 しかし、米国は世界の警察官をやめたといっても、弱くなったわけではない。いまだに世界最強の圧倒的な軍事力・経済力を誇っている。むしろ、「シェール革命」によって世界最大の産油国・産ガス国となった米国は、「過去最強」といっても過言ではない。 その圧倒的な力を使う米国は、まるで「世界の暴力団」のようだ(第191回)。だが、トランプ大統領は気まぐれに振る舞っているわけではない。今、米国がさまざまな国に揺さぶりをかけているのは、米国がさまざまな国々との間の「適切な距離感」を再構築する取り組みである』、「さまざまな国々との間の「適切な距離感」」を探る過程では、かなりの摩擦もあるだろう。
・『米国の圧倒的な石油支配力がベネズエラ経済を崩壊させた  2019年に入って顕著になってきたのは、米国が「シェール革命」で得た石油・ガスを支配する力を、露骨に使い始めたことだ。この連載では、トランプ大統領が就任した時から、大統領がアメリカファーストを自信満々で推し進めることができる根拠として、「シェール革命」を指摘してきた(第170回・P.4)。 要は、シェール革命によって米国自身が世界一の産油・産ガス国になった。その結果、米国が「世界の警察官」を務める大きな理由であった、世界中から石油・ガスを確保する必要性がなくなってきたのだ。その結果、米国は産油国に気を遣わなくなり、エルサレムのイスラエル首都承認など、世界を混乱させるのが明らかな行動を、平気で取るようになった(第173回)。 だが、ここにきて米国は、シェール革命で産油国に無関心になっただけでなく、それをより積極的に新しい国際秩序構築に使い始めたように思う。それがはっきりしたのが、南米の主要な産油国であり、独裁政権のベネズエラに対する米国の動きだ。 現在、ベネズエラは169万%のインフレ、5年連続マイナス経済成長、3年間で総人口の1割(300万人)以上の国民が国を脱出、5日におよぶ全国停電が起こるなど、深刻な経済危機にある。また、今年1月以降は現職のニコラス・マドゥロ大統領とフアン・グアイド暫定大統領(国会議長)の2人の大統領が並び立つという異常な状態にある。 ベネズエラの経済危機の背景には、国際石油価格の長期的な下落がある。2013年末、1バレル100ドルに迫っていた原油価格は2014年の下半期から急落し始め、 2016年には24.25ドルまで下がった。その大きな要因がシェールオイルの本格的な流通の拡大だ。ベネズエラは、原油を中心とする石油が輸出の97%を占める、典型的な「産油国の経済構造」(第147回)だ。原油価格の下落は、経済危機に直結することになった。 さらに問題となったのは、米国への輸出の比率はピーク時には5割超を占め、2018年時点でも約36%を占めている、ベネズエラの「米国依存」の経済構造だった。ベネズエラに対する米国の制裁措置は、オバマ政権期の2015年から始まっていたが、それは政府・軍の高官に対する米国への渡航禁止や英国内の資産凍結にとどまっており、本格的な経済制裁が始まったのはトランプ政権からだ。 2017年8月の金融制裁では、ベネズエラ政府や国営企業が発行する債権の取引や金融取引、金や仮想通貨の取引も含む金融取引に米国人・法人が関与することを禁止した。これで、マドゥロ政権が対外債務の借換えや外貨を獲得するのが困難になった。 また、今年1月末の石油貿易に関する制裁措置は、ベネズエラから米国への石油輸入、および米国からベネズエラへの石油輸出を事実上禁止するものである。「米国依存」のベネズエラ経済は、外貨獲得源の半分近くを失った。 マドゥロ政権は、現在国が直面する経済破綻は米国が仕掛けた「経済戦争」によるものだと繰り返し訴えている。それ以前に、「石油輸出依存」「米国依存」の経済構造の問題を放置した自業自得のようにも思えなくもないが、いずれにせよトランプ政権がシェール革命で得た圧倒的な力を使ってベネズエラを滅多打ちにして倒したことは間違いない』、マドゥロ政権にはロシアや中国が支援しているとはいっても、その支援は焼け石に水だろう。ベネズエラ軍の政権支持もいつまで続くのだろうか。
・『米国はイランも経済制裁だけで滅多打ちにしてKOできる  米国はイランに対しても、シェール革命で得た圧倒的な石油支配力を見せつけている。2015年にオバマ政権下でイランと欧米6ヵ国が締結した核合意は、イランがとりあえず10年間は核開発を止めて、IAEA(国際原子力機関)の査察をきちんと受ける代わりに、経済制裁を解除するというものだ。イランは、その義務を守ってきているが、その気になれば、秘密裏の核開発は可能なものではある。 トランプ大統領は、この核合意について「一方的かつ最悪な内容で、決して合意すべきではなかった。平穏や平和をもたらさなかった。今後ももたらすことはない」と完全否定し、2018年5月に離脱を宣言した。大統領からすれば、「シェール革命」で得た米国の石油支配力があれば、イランを滅多打ちにしてKOできるのに「どうしてこんな中途半端な合意で満足するのだ」ということだろう。 トランプ大統領は、オバマ前政権の政策を嫌い、地球温暖化対策のパリ協定、TPPなどを次々とひっくり返そうとしてきた。だが、イランとの核合意については、オバマ前大統領に対する感情的な反発というより、合理的な計算に基づいている。 イランは、原油収入が政府歳入の約45%、輸出額の約80%を占める、典型的な石油依存型の経済構造である。その状況からの脱却を目指し産業の多角化を実現するために、原子力発電が必要というのが、イランの核開発疑惑に対する言い分だった。 だが、イランの言い分が嘘でなければだが、核合意で原子力発電の開発も止まる。産業多角化は進まなくなった。その上、シェール革命による石油価格の長期低落がイラン経済を苦しめてきた。さらに、トランプ大統領が、イラン産原油の輸入を禁止する経済制裁を再発動させ、イランから石油を輸入し続けてきた中国、インド、日本、韓国、トルコに認めてきた適用除外も打ち切ることを決定した。イラン経済は壊滅的な打撃を受けることになる。 イランのハッサン・ロウハニ大統領は、米国への対抗措置として、核合意について履行の一部を停止したと表明した。だが、トランプ大統領は痛くもかゆくもないし、むしろさらに経済制裁を強化する理由になる。一報(正しくは「方」)でイランはあまり強硬になると、核合意をなんとか守ろうとしてきたフランス、ドイツ、ロシア、中国、イギリスの反発を招く懸念もある。 イランは、「ホルムズ海峡封鎖」を示唆してもいるが、それは「石油依存経済」のイランにとって、自殺行為でもある。要するに、米国に対抗する有効な手段はない。トランプ大統領は、イランへの経済制裁を強める一方で、国家安全保障担当を含む側近らに、イランとの戦争は求めていないと伝えたという。当然だろう。戦争などという「無駄な支出」をしなくても、イランを滅多打ちにしてKOできるからだ』、KOする過程では、穏健派のロウハニ大統領が失脚し、代りに強硬派が政権を握り、軍事的にも一触即発といった最悪の事態に陥るリスクもあるだろう。
・『米中が互いに25%関税発動 民間企業ファーウェイも制裁対象に  そして、米中貿易戦争である。米国は2018年7月以来段階的に、計2500憶ドルの中国製品に制裁関税を課してきた。昨年末から、米中は貿易協議を開催し、決着点を模索してきた(第201回)。閣僚級協議を続け、「合意文書」の95%は出来上がっていたというが、中国が5月に入って見直しを求めるなど突然手のひらを返した。 米国は、まだ追加関税をかけていない残りの中国製品3000億ドル(約33兆円)分に課す制裁関税を10%から25%に引き上げることを決定した。トランプ大統領は最大の切り札を出し、「関税は圧倒的な富を米国にもたらす」とツイートを連発した。これに対して中国は、約600億ドル(約6兆6000億円)相当の米国製品に課している追加関税を最大25%に引き上げる報復措置を発表した。 だが、米国は中国への攻撃の手を緩めない。米国はファーウェイへの輸出禁止措置を発動したのだ。ファーウェイは、次世代通信規格「5G」で先行し、特許の国際出願件数は世界トップを占めるなど、中国のハイテク企業の代表だが、米国がファーウェイを制裁する理由はそれだけではない。 米国は、中国共産党や中国軍とファーウェイの深い関係を疑い、ファーウェイが米国の通信ネットワークへの侵入などを通じて安保を脅かす可能性があるとの見方を強めてきた。米国は、中国がサイバー攻撃などで奪ってきた知財をもとに、米国の経済・軍事面の覇権を奪おうとしているという疑惑を持ってきたが、ファーウェイはその疑惑のど真ん中にいるとみなされてきたのだ(第201回・P.5)』、米中関係は全面的な経済戦争の様相を呈してきたようだ。
・『「米国に食わせてもらって」成長した中国が覇権に挑戦することへのトランプ大統領の怒り  米中貿易戦争は、派手な関税引き上げの報復合戦に注目が集まりがちだが、ハイテク分野で追い上げ、軍事・経済両面で覇権の座を奪おうとする中国と、それを防ごうとする米国の対立構図が本質とみられるようになっている。この連載も、そういう見方をしてきた。 だが、実は米中貿易戦争の肝は、中国製品に課す高関税そのものではないかと考えるようになった。その理由は、中国がなぜ米国の覇権を驚かすまで急激な経済成長を成し遂げたかを考えればわかる。 この連載では、トランプ大統領が登場する前の米国の国家戦略を振り返ってきた(第170回)。それはもともと第二次世界大戦後、ソ連・中国共産党などの共産主義ブロックの台頭による東西冷戦に勝利するための戦略であった。米国は世界各地に米軍を展開し、同盟国の領土をソ連の軍事的脅威から防衛し、米国自身と同盟国が安全に石油・ガスなど天然資源を確保するため、「世界の全ての海上交通路」も防衛する「世界の警察官」になった。 また、米国は同盟国に「米国市場への自由なアクセス」を許した。米国は、同盟国を自らの貿易システムに招き、工業化と経済成長を促した。その目的は、同盟国を豊かにすることで、同盟国の国内に貧困や格差による不満が爆発し、共産主義が蔓延することを防ぐことだった。この米国の国家戦略の恩恵を最も受けたのが、日本であることはいうまでもない。 ソ連が崩壊し、東西冷戦が終結した。この時点で、米国の国家戦略は変わってもおかしくなかったが、米国は唯一の覇権国家として、「世界の警察官」「米国市場への自由なアクセス」の戦略を継続した。ここで、日本に代わって最も恩恵を受けるようになったのが、「改革開放政策」に舵を切った中国だった。 2000年代に入り、中国は米国に対する輸出を拡大することで、劇的な経済成長を成し遂げた。そして、米国で儲けたカネを使って、軍事力の拡大を進め、アフリカなどに巨額の投資をして拠点を作り、米国の地政学的優位性を揺るがせ始めた(第120回)。そして、「安かろう、悪かろう」の工業品や農産物の輸出から、ハイテク技術への転換を進めて、サイバー戦争でも優位に立ち、米国から覇権を奪おうという意欲を見せ始めた。 しかし、見方を変えれば、中国は「米国に食わせてもらった」からこそ、急激に経済成長できたといえる。トランプ大統領の中国に対する怒りは、ここに本質がある。そして、軍事的な拡大や地政学的な脅威や、ハイテク企業の成長に一つひとつ対応することも大事だが、より本質的には貿易を止めて中国に米国のカネが流れないようにすることが重要だと、「ディールの達人」トランプ大統領は当然考える。 実際、報復関税合戦は、中国の一方的な敗北の様相を呈している。中国は経済が落ち込み、30年ぶりに経済成長率が6%を割り込むという予測が出てきた。一方、米国経済は好調を維持しているのだ。 当初、米中は貿易摩擦では早々に妥協して決着し、舞台はハイテク分野に移っていくとみられていた。だが、今後も米国はなんだかんだと難癖をつけながら、貿易摩擦についても報復関税合戦を続けていくかもしれない。見方を変えれば、米国がハイテク分野で中国に注文を付け続けるのは、報復関税を続けるための方便だといえるのかもしれない。それが、より中国の本質的な弱点を突くことになると、トランプ大統領は見抜いている』、「報復関税合戦は、中国の一方的な敗北の様相を呈している」というのは、米国への打撃がなぜ少ないのかは不明だ。いずれにせよ、習近平が一時は驕り高ぶり過ぎたのも事実だが、「米国がハイテク分野で中国に注文を付け続けるのは、報復関税を続けるための方便だといえるのかもしれない」、というのは困ったことだ。

第四に、作家の橘玲氏が6月4日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「トランプ大統領は、善悪二元の「ブードゥー経済学」で間違った貿易戦争を仕掛けている【橘玲の日々刻々】」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/204600
・『トランプの経済政策のスゴいところは、その理屈が最初から最後まですべて間違っていることです。それも、信じがたいような初歩的レベルで。 トランプはまず、貿易黒字を「儲け」、貿易赤字を「損」だと考えます。だからこそ、二国間貿易でアメリカに対して黒字になっている中国や日本は、「損」させていることに対してなんらかの埋め合わせをしなくてはなりません。 さらにそこから、貿易は「戦争」だという極論が出てきます。貿易赤字の国(アメリカ)は被害者で、貿易黒字の国(中国や日本)は加害者です。被害者=善は、いわれるがままにぼったくられるのではなく、加害者=悪に対して制裁を加えなくてはならないのです。こうして予言が自己実現するように、米中がお互いに高率の関税を課す「貿易戦争」が勃発しました。 トランプはFRB(米連邦準備理事会)に対して執拗に利下げを要求していますが、これも「戦争理論」で説明できます。「(FRBが利下げすれば)ゲームオーバーだ。アメリカが勝利する!」とツイッターでつぶやいたのは、高関税に苦しむ中国は財政支出を拡大させ、金利を引き下げるから、アメリカが先んじて利下げすれば「戦況」はより有利になるからだそうです。 この「戦争」に勝てば「どんな場合でも中国が合意したがる!」ことになって、これまで貿易赤字という「悪」に苦しめられてきたアメリカの善良な(トランプ支持の)ブルーワーカーたちは正当な「ゆたかさの権利」を取り戻すことができるのです。 トランプがまったく理解していないのは、貿易赤字/黒字はグローバル経済を国家単位で把握するための会計上の約束事で、損得とはなんの関係もないことです。 日本経済を地域単位で把握するために、各県別の「貿易収支」を計算することができます。静岡県の県民が愛知県からトヨタの車を購入すれば「貿易赤字」になりますが、だからといってその分だけ静岡県が貧乏になるわけでもなければ、県同士で「戦争」しているわけでもありません。愛知県のひとが車を売った利益で静岡県の物産(お茶やミカン)を購入すれば、どちらもよりゆたかになるというだけのことです。 これは国際経済学の初歩の初歩で、大学の授業では真っ先に扱うでしょうし、最近では高校の政治経済でも習うかもしれません。それにもかかわらず貿易黒字=儲け/貿易赤字=損という誤解がなくならないのは、(自称「知識人」も含め)ほとんどのひとが、交易による利益を「搾取」と同一視しているからです。なぜなら、その方がわかりやすいから。 複雑で不可解な現実をもっともかんたんに理解する方法は、集団を「善(俺たち)」と「悪(奴ら)」に分割したうえで、この世界で善と悪の戦いが起きていると考えることです。稀代のポピュリストであるトランプは、自分に投票するような有権者は、この単純な枠組みでしかものごとを理解できないと(本能的に)知っているのでしょう。だからこそ、まっとうな経済学者の批判や助言をすべて無視するのです。 この間違った貿易理論は「ブードゥー経済学」と呼ばれています。私たちが生きているのは「合理的な近代」などではなく、ブードゥー(呪術)的な世界だということがいよいよはっきりしてきました。 後記:アメリカ政府は中国の通信機器大手ファーウェイ(華為技術)に対する輸出規制を発表しましたが、こちらは安全保障上の問題で、経済(貿易)問題とは異なります』、アメリカにはノーベル経済学賞の受賞者が最も多いのに、トランプの「ブードゥー経済学」がまかり通っているというのは、最大級の皮肉だ。
タグ:東洋経済オンライン ダイヤモンド・オンライン 上久保誠人 トランプ大統領 薬師寺 克行 加藤 出 「外交の安倍」 (その41)(トランプの「欧州嫌い」はここまで深刻だった 揺れる米欧関係 試される日本の戦略的外交、世界経済を危機に陥れる!?トランプ政権の「FRB多数派工作」、トランプ「世界戦略」の全貌がイラン制裁と米中摩擦で見えてきた、トランプ大統領は 善悪二元の「ブードゥー経済学」で間違った貿易戦争を仕掛けている) 「トランプの「欧州嫌い」はここまで深刻だった 揺れる米欧関係、試される日本の戦略的外交」 米欧は重要な問題でことごとく対立 過去と次元の異なる「米欧対立」 「やってる感」 「世界経済を危機に陥れる!?トランプ政権の「FRB多数派工作」」 スティーブン・ムーア氏とハーマン・ケイン氏を理事として送り込もうとしたが、米上院の反対により頓挫 共和党議員らは、2人のFRB理事就任に賛成する投票を行うと、来年の選挙で地元の女性有権者から激しい批判を浴びてしまうと恐れた 「トランプ「世界戦略」の全貌がイラン制裁と米中摩擦で見えてきた」 過去最強の米国が狙う「新しい国際秩序」の構築 米国がさまざまな国々との間の「適切な距離感」を再構築する取り組み 米国の圧倒的な石油支配力がベネズエラ経済を崩壊させた 米国はイランも経済制裁だけで滅多打ちにしてKOできる 米中が互いに25%関税発動 民間企業ファーウェイも制裁対象に 「米国に食わせてもらって」成長した中国が覇権に挑戦することへのトランプ大統領の怒り 米国がハイテク分野で中国に注文を付け続けるのは、報復関税を続けるための方便だといえるのかもしれない 「トランプ大統領は、善悪二元の「ブードゥー経済学」で間違った貿易戦争を仕掛けている【橘玲の日々刻々】」 トランプはまず、貿易黒字を「儲け」、貿易赤字を「損」だと考えます 二国間貿易でアメリカに対して黒字になっている中国や日本は、「損」させていることに対してなんらかの埋め合わせをしなくてはなりません 貿易は「戦争」だという極論 貿易赤字の国(アメリカ)は被害者で、貿易黒字の国(中国や日本)は加害者 FRB(米連邦準備理事会)に対して執拗に利下げを要求 高関税に苦しむ中国は財政支出を拡大させ、金利を引き下げるから、アメリカが先んじて利下げすれば「戦況」はより有利になるからだそうです トランプがまったく理解していないのは、貿易赤字/黒字はグローバル経済を国家単位で把握するための会計上の約束事で、損得とはなんの関係もないことです (自称「知識人」も含め)ほとんどのひとが、交易による利益を「搾取」と同一視しているから 稀代のポピュリストであるトランプは、自分に投票するような有権者は、この単純な枠組みでしかものごとを理解できないと(本能的に)知っているのでしょう 「ブードゥー経済学」 ノーベル経済学賞の受賞者
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米中経済戦争(その7)(トランプ 対中関税を25%に 経済界は「支払うのは米国の国民と企業」と批判、米国激怒! 習近平が突然「喧嘩腰」になったワケ 改めて宣戦布告した中国 エスカレート必至の貿易戦争の行方、米国が「報復関税&ファーウェイ」で中国を“総攻撃”) [世界情勢]

米中経済戦争については、昨年12月24日に取上げた。今日は、(その7)(トランプ 対中関税を25%に 経済界は「支払うのは米国の国民と企業」と批判、米国激怒! 習近平が突然「喧嘩腰」になったワケ 改めて宣戦布告した中国 エスカレート必至の貿易戦争の行方、米国が「報復関税&ファーウェイ」で中国を“総攻撃”)である。なお、タイトルから「対立」をカットした。

先ずは、5月10日付けNewsweek日本版「トランプ、対中関税を25%に 経済界は「支払うのは米国の国民と企業」と批判」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/05/25-18.php
・『米政府は10日、中国からの2000億ドル相当の輸入品に対する関税を10%から25%に引き上げた。 新たな関税は米東部時間10日午前0時1分(日本時間同午後1時1分)以降の輸出品に適用される。 対象となるのは5700品目以上。 米税関・国境取締局(CBP)によると、米東部時間10日午前0時01分までに中国を出発した貨物は10%の関税を適用する。 こうした猶予期間は、昨年の過去3回の関税引き上げには適用されていなかった。ただ、これまでの制裁関税は少なくとも3週間前に実施が通知されていた。今回は表明から約5日間での発動となった。 関税引き上げの対象分野で最も規模が大きいのは、インターネットモデム、ルーターなどのデータ伝送機器で約200億ドル。次にプリント基板(PCB)の約120億ドルが続く。 家具、照明、自動車部品、掃除機、建築資材なども対象になる』、小休止状態にあった米中経済戦争が再び再燃したようだ。
・『全米民生技術協会(CTA)のゲーリー・シャピロ最高経営責任者(CEO)は、関税を支払うのは、トランプ大統領が主張する中国ではなく米国の消費者と企業だと指摘。「われわれの業界は米国で1800万人以上の雇用を支えているが、関税引き上げは壊滅的だ」とし、「米国のテクノロジー部門では、昨年10月以降、すでに発動されている関税で毎月約10億ドルのコストが発生している。これは追加のコストを吸収できない小規模事業者、スタートアップ企業には死活問題になり得る」と述べた。 エコノミストや業界コンサルタントによると、米国の消費者が関税引き上げの影響を感じるには3─4カ月かかる可能性がある。小売り業者は輸入コストの増加を受けて、値上げを迫られるとみられている』、関税引上げは、中国の輸出企業のみならず、米国企業や消費者にとっても大きな痛手になる筈だが、その効果が現れるまでには「3─4カ月かかる可能性」とかなりのタイムラグがあるようだ。

次に、ジャーナリストの福島 香織氏が5月16日付けJBPressに寄稿した「米国激怒! 習近平が突然「喧嘩腰」になったワケ 改めて宣戦布告した中国、エスカレート必至の貿易戦争の行方」を紹介しよう。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/56398
・『米中貿易戦争はやはり激化せざるをえない、ということが今さらながらに分かった。双方とも合意を求めるつもりはないのかもしれない。 劉鶴副首相率いる中国側の交渉チームは5月にワシントンに赴いたが、物別れに終わり、米国は追加関税、そして中国も報復関税を発表。協議後の記者会見で劉鶴は異様に語気強く中国の立場を主張した。だが、交渉は継続するという。 4月ごろまでは、5月の11回目のハイレベル協議で米中間の貿易問題は一応の妥結に至り、6月の米中首脳会談で合意文書を発表、とりあえず米中貿易戦争はいったん収束というシナリオが流れていた。それが5月にはいって「ちゃぶ台返し」になったのは、サウスチャイナ・モーニング・ポストの報道が正しければ、習近平の決断らしい。習近平はこの決断のすべての「責任」を引き受ける覚悟という。 では習近平はなぜそこまで覚悟を決めて、態度を急に反転させたのだろうか』、習近平による「ちゃぶ台返し」の背景を知りたいとことだ。
・『改めて宣戦布告した習近平  第11回目の米中通商協議ハイレベル協議に劉鶴が出発する直前の5月5日、トランプはツイッターで「米国は2000億ドル分の中国製輸入品に対して今週金曜(10日)から、関税を現行の10%から25%に引き上げる」と宣言。さらに「現在無関税の3250億ドル分の輸入品についても間もなく、25%の関税をかける」と発信した。この発言に、一時、予定されていた劉鶴チームの訪米がキャンセルされるのではないか、という憶測も流れた。結局、劉鶴らは9~10日の日程で訪米したのだが、ほとんど話し合いもせず、トランプとも会わず、物別れのまま帰国の途についた。 サウスチャイナ・モーニング・ポストなどは、トランプがこうした態度に出たのは、中国側の譲歩が足りないことに忍耐が切れたからであり、譲歩を拒んだのは習近平自身にすべて責任があると報じた。匿名の消息筋の話として「交渉チーム(劉鶴ら)は、次のハイレベル協議で、(妥結のために)習近平により多くの譲歩をするよう承諾を求めたが、習近平はこうした提案を拒否した」「責任は全部私(習近平)が負う」とまで言ったという。この習近平の断固とした姿勢を受けて、中国側交渉チームは、ワシントンに提案するつもりだった「最後の妥結案」を直前になって強硬なものに変更した。これにトランプのみならず、穏健派のムニューシンまで激怒し、今回の関税引きにつながった、という話だ。ならば、習近平に貿易戦争を終結させる意志はないということだろうか。 ではなぜ、劉鶴をあえてワシントンに送ったのか。 ホワイトハウスの発表によれば、トランプは習近平から「美しい手紙」を受け取ったそうだ。その中には習近平の「対話継続」の要望がしたためられていたという。手紙には、依然、協議が妥結することを望むとあり、「我々はともに努力し、これらのことを完成させましょう」とあったそうである。 トランプはこれに対し、次のように発言している。 「中国側は、交渉を最初からやり直したい、といい、すでに妥結に至っていた“知財権窃盗”の問題など多くの内容について撤回を要求してきた。こんなことはあり得ない」「中国側が交渉のテーブルに戻りたいなら、何ができるのか見せてもらおう」「関税引き上げは我々の非常にいい代替案だ」 これに対する中国側の立場だが、劉鶴がワシントンを離れる前の記者会見でこんな発言をしている。新華社の報道をそのまま引用しよう。「重大な原則の問題において中国側は決して譲歩しない」「目下、双方は多くの面で重要な共通認識に至っているが、中国側の3つの核心的な関心事は必ず解決されなければならない。1つ目は、全ての追加関税の撤廃だ。関税は双方の貿易紛争の起点であり、協議が合意に達するためには、追加関税を全て撤廃しなければならない。 2つ目は、貿易調達のデータが実際の状況に合致しなければならないことで、双方はアルゼンチンで既に貿易調達の数字について共通認識を形成しており、恣意的に変更すべきではない。 3つ目は協議文書のバランスを改善させること。どの国にも自らの尊厳があり、協議文書のバランスを必ず図らなければならない。今なお議論すべき肝心な問題がいくつか存在する。昨年(2018年)以降、双方の交渉が何度か繰り返され、多少の曲折があったが、これはいずれも正常なものだった。双方の交渉が進行する過程で、恣意的に“後退した”と非難するのは無責任だ」「中国国内市場の需要は巨大で、供給側構造改革の推進が製品と企業の競争力の全面的な向上をもたらし、財政と金融政策の余地はまだ十分あり、中国経済の見通しは非常に楽観的だ。大国が発展する過程で曲折が生じるのは良いことで、われわれの能力を検証することができる」 このような自信に満ちた強気の発言は、劉鶴にしては珍しく、明らかに“習近平節”だ。 つまり、習近平は、米国との貿易戦争、受け立とうじゃないか、と改めて宣戦布告した、といえる。これは、3月の全人代までの空気感と全く違う。3月までは米中対立をこれ以上エスカレートさせるのは得策ではない、という共通認識があったと思われる。だが、習近平の全人代での不満そうな様子をみれば、習近平自身は納得していなかっただろう。貿易戦争における中国側の妥協方針は李克強主導だとみられている。 劉鶴をワシントンにとりあえず派遣したのは、中国としては米国との話し合いを継続させる姿勢はとりあえず見せて、協議が妥結にこぎつけなかったのは米国側の無体な要求のせい、ということを対外的にアピールするためだったのだろう』、習近平が「改めて宣戦布告した」背景には、何があるのだろう。
・『「台湾のため」に米国には屈しない  では貿易戦争妥結寸前、という段階で習近平が「俺が責任をもつ」といってちゃぶ台返しを行ったその背景に何があるのか。李克強派が習近平の強気に押し切られたとしたら、その要因は何か。 1つは台湾総統選との関係性だ。米中新冷戦構造という枠組みにおいて、米中の“戦争”は貿易戦争以外にいくつかある。華為(ファーウェイ)問題を中心とする“通信覇権戦争”、それと関連しての「一帯一路」「中国製造2025」戦略の阻止、そして最も中国が神経をとがらせているのが“台湾問題”だ。 台湾統一は足元が不安定な習近平政権にとって個人独裁政権を確立させるための最強カード。その実現が、郭台銘の国民党からの出馬表明によって視野に入ってきた。もちろん国民党内では抵抗感が強く、実際に郭台銘が総統候補となるかはまだわからないが、仮に総統候補になれば、勝つ可能性が強く、そうなれば、中台統一はもはや時間の問題だ。郭台銘は「中華民国」を代表して中国と和平協議を行う姿勢を打ち出している。だが、その「中華民国」とは、今の中国共産党が支配する地域を含むフィクションの国。双方が「中国は1つ」の原則に基づき、統一に向けた協議を行えば、フィクションの国が現実の国に飲み込まれるのは当然だろう。そもそも郭台銘に国家意識はない。大中華主義のビジネスマンであり、しかも共産党との関係も深い。彼は共産党と自分の利益のために台湾を売り渡す可能性がある。つまり今、台湾問題に関して、中国はかなり楽観的なシナリオを持ち始めている。 貿易戦争で中国側が全面的妥協を検討していたのは、そのバーターとして米国に台湾との関係を変えないでもらおうという狙いがあったからだ。だが中国に平和統一に向けたシナリオが具体的に見え出した今、米国にはそんなバーターに応じる余裕はない。台湾旅行法、国防授権法2019、アジア再保証イニシアチブ法に続き、台湾への武官赴任を認める「2019年台湾保障法」を議会で可決した。となると、中国にすれば、台湾のために貿易交渉で米国に屈辱的な妥協にこれ以上甘んじる必要性はない。妥協しても米国は台湾に関しては接近をやめないのだから』、台湾問題、しかも鴻海創業者の「郭台銘の国民党からの出馬表明」、までが絡んでいるとは初めて知り、驚かされた。シャープや鴻海にしてみれば、米中関係悪化で経営をしっかり舵取りしてもらわなければならない時期に、郭台銘が経営をおっぽり出して、政治に熱を上げるというのは最悪の事態だろう。願わくば、「総統候補」になれずに経営に復帰してほしいといったところだろう。
・『「バイデン大統領」を待ち望む中国  もう1つの可能性は、劉鶴の発言からも見て取れるように、貿易戦争が関税引き上げ合戦になった場合、「中国経済の見通しの方が楽観的」と考えて、突っ張れば米国の方が折れてくるとの自信を持っている可能性だ。 中国経済に関していえば、第1四半期の数字は予想していたよりも良かった。私は、これは李克強主導の市場開放サインや減税策に海外投資家が好感したせいだと思っているので、李克強の対米融和路線を反転させれば、また中国経済は失速すると思うのだが、どうだろう。 さらに、もう1つの背景として、大統領選挙の民主党候補にジョー・バイデンがなりそうだ、ということもあるかもしれない。バイデンは中国が長らく時間をかけて利権づけにしたパンダハガー(「パンダを抱く人」=親中派)政治家であり、実際彼は「中国は我々のランチを食べ尽くすことができるのか?」と語り、中国脅威論に与しない姿勢を示している。来年の秋にバイデンが大統領になるなら、習近平は妥協の必要がない。中国は今しばらく忍耐すればいいだけだ。むしろ、トランプを挑発して、その対中姿勢を不合理なほど過激なものにさせた方が、企業や一般家庭の受ける経済上のマイナス影響が大きくなり、トランプの支持率が落ちるかもしれない。次の大統領選で民主党政権への転換の可能性はより大きくなるかもしれない。 トランプがファーウェイ問題や一帯一路対策で、企業や周辺国に“踏み絵を踏ます”かのような圧力をかけるやり方は、一部では不満を引き起こしている。アンチ中国派のマレーシアのマハティール首相ですら、米中貿易戦争でどちらかを選べ、と迫られたら、「富裕な中国を選ぶ」(サウスチャイナ・モーニング・ポスト、3月8日付)と答えている。強硬な姿勢をとっているのはトランプの方だ、というふうに国際世論を誘導しようと中国側も懸命に動いている』、親中派をパンダハガーと呼ぶというのは、初めて知ったが、上手い表現だ。仮にバイデンが大統領になるのであれば、それを待つというのも手ではあるが、その可能性が低いとすればリスクが余りに大きいだろう。もっとも、「国際世論を誘導」する作戦は上手くいっているようだ。
・『2人の政治家の命運はいかに?  さて、私はこういった背景に加えて、若干の党内の権力闘争の要素も感じてしまうのだ。 というのも、サウスチャイナ・モーニング・ポストの報道ぶりが、いかにも今回の貿易戦争の決裂は全部習近平の一存で決まった、とわざわざその責任に言及しているからだ。サウスチャイナ・モーニング・ポストは香港で発行されている日刊英字新聞である。アリババに買収されて以来、中国寄りの報道になっているが、厳密に言えば、曽慶紅や江沢民に近い。米中通商協議が決裂し、そのツケがマイナス影響として国内の経済、社会の表層に表れた場合は、習近平退陣世論を引き起こそう、などという曽慶紅ら、長老らの狙いを含んだ報道じゃないか、という気がしてしまった。 いずれにしろ、習近平が「責任は全部、俺がかぶるから」と言って、交渉のちゃぶ台返しを行ったのだとしたら、今後の中国の経済の悪化次第では、習近平責任論は出てくるだろう。あるいは、その前にトランプに対する米国内の風当たりが強くなるのか。 つまり貿易戦争の勝敗は、トランプと習近平のそれぞれの政治家としての命運もかかっている。その勝敗の行方を決める次のステージが大阪で行われるG20の場だとしたら、ホストの日本もなかなか責任重大だ』、習近平もかなりのリスクを取っているようだ。G20が見物だ。

第三に、元・経済産業省米州課長で中部大学特任教授の細川昌彦氏が5月17日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「米国が「報復関税&ファーウェイ」で中国を“総攻撃”」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00133/00007/?P=1
・『米中摩擦の“主旋律”と“通奏低音”が一挙に音量を増してクライマックスの展開になってきた。米国の対中戦略については、トランプ米大統領による報復関税合戦の“主旋律”と米国議会、政権幹部、情報機関など“オール・アメリカ”による冷戦モードの“通奏低音”に分けて見るべきだが、いよいよ両者が合体・共鳴してきた。 トランプ大統領による派手な報復関税合戦は表面的には非常に目立ち、耳目を集めている。これが私の言う“主旋律”だ。直前まで合意寸前と見られていた米中貿易交渉が一転、暗礁に乗り上げた。米国は2000億ドル分の中国製品に課す第3弾の制裁関税を10%から25%に引き上げ、さらに第4弾として制裁関税の対象を中国からの全輸入品に広げることを表明した。合意に向けて楽観論が市場を含めてまん延していただけに、衝撃を与えている。 今後、仮に急転直下合意があったとしても、それは“小休止”にすぎず、2020年の大統領選挙までは一山も二山も“主旋律”の見せ場を作って支持者にアピールするだろう。 他方、5月15日、米国は中国の通信大手、華為技術(ファーウェイ)に対する事実上の禁輸措置を発表した。米国の対中戦略の“通奏低音”とは、トランプ政権以前から高まる対中警戒感を背景とした根深い問題を指すが、今回の措置はその象徴的な動きで、「切り札」だ。 これは拙稿「米国は中国ファーウェイのサプライチェーン途絶に動く」(2019年2月5日)で予想した通りの展開だ。ファーウェイに対して、これまでの政府機関だけでなく、民間企業にも「買わない」「使わない」という規制を広げた。さらに、「買わない」「使わない」から「売らない」「作らせない」の段階にいよいよ突入したのだ。まさにトップギアに入った。 本丸ファーウェイに対してサプライチェーン(供給網)を封じる強力な手段で迫るものだ。グローバルなサプライチェーンを分断する影響も出てくるだろう。詳しくは前述の拙稿を参照されたい。 私がこの展開を予想した今年2月の段階で、既に米国政権はこの「切り札」の準備を進めていた。あとはカードを切るベストのタイミングを見計らっていたのだ。それが対中貿易交渉が暗礁に乗り上げた今だ。 1年前、中国の通信機器大手、中興通訊(ZTE)に対して同様の措置を発動した際には、ZTEは経営危機に陥り、中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席がトランプ大統領に制裁解除を頼み込んだ経緯がある。その効果を確信したトランプ大統領が習近平主席との交渉の「切り札」を切ったのだ。同時に、関税交渉と違って、米国議会が大きく関わり、トランプ大統領も安易な妥協はできないことには注意を要する。 さらに”通奏低音”はファーウェイ問題にとどまらない。この後には、中国への技術流出を阻止すべく、新型の対中COCOM(ココム=対共産圏輸出統制委員会)とも言うべき新技術の輸出管理を今年中にも導入すべく準備が進められている。着々と通奏低音は演奏する楽器の厚みを増しているのだ。 表面的な関税合戦ばかりに目を奪われず、こうした本質的な動きも進行していることを忘れてはならない』、「派手な報復関税合戦」が「“主旋律”」で、ファーウェイ問題などが「“通奏低音”」とは上手い表現だ。それらが「一挙に音量を増してクライマックスの展開になってきた」、「着々と通奏低音は演奏する楽器の厚みを増している」、などというのはその通りだろう。「新技術の輸出管理を今年中にも導入すべく準備が進められている」、というのもやっかいな問題だ。
・『日本企業も他人事ではない  ファーウェイ問題の日本企業との関わりは極めて重要なので、ここで再度警鐘を鳴らしたい。 現状でも日本の部材メーカーのファーウェイへの売り上げは年間7000億円程度にも上る。さらに、今後成長すると見込んでファーウェイへの売り込みを強化しようとしている日本企業も多い。 米国にとって意味ある規制にするためには、部材の供給能力のある日本による対中国の輸出管理の運用に関心が向いて当然だ。米国が「懸念顧客リスト」に載せて原則輸出不許可の運用をすると、日本政府による輸出管理の運用は独自の判断ではあるが、それを“参考にする”のが通例である。 しかしどのように“参考にする”のかは明確ではない。あくまで“機微度”に応じたケース・バイ・ケースの判断だが、日本企業も白黒がはっきりしない難しい判断を迫られることになる。要するに日本企業の経営者にとって、不慣れな「リスク・マネジメント」が重要になるのだ。 他方、ファーウェイも早くから米国政府の動きを察知して、危機感を持って米国以外からの部材の調達先の確保に奔走していた。日本の部材メーカーにとっても重要顧客であるだけに難しい対応を迫られることになる。少なくとも「『漁夫の利』を得ようとした」と米国から見られることのないよう、慎重さが必要になっている。 また日本で生産された製品の中に、米国から調達した部品が25%以上含まれていると、米国の規制対象になる(再輸出規制)ことも日本企業にとっては要注意だ。不注意で米国の規制違反になることがあってはならない』、「日本の部材メーカーのファーウェイへの売り上げは年間7000億円程度にも上る」というのでは一大事だ。
・『米中ともに「合意はしたいが、妥協はできない」関税合戦  次に“主旋律”である米中の関税合戦を見てみよう。 トランプ大統領も中国の習近平主席も「合意はしたいが、妥協はできない」のだ。その背景については、既にさまざま論じられているが、米中の駆け引きを見る上での基本的視点は、大きく2点ある。 米中双方における国内の「政治力学」と「経済状況」だ。 まず、米国の政治力学と経済状況はどうか。 トランプ大統領の頭の中は2020年の大統領再選が支配しており、判断のモノサシは分かりやすい。米国における通商問題のカギを握るのは米国議会だ。その議会は今や共和党、民主党問わず、対中強硬一色である(例外は、民主党の大統領候補の有力な一人であるバイデン元副大統領で、対中融和で知られ、対中強硬論に与しない姿勢を示している)。ここで安易に妥協すれば、批判の的になり、大統領選挙キャンペーンに大きなマイナスだ。 それをうまく活用しているのが、対中交渉の責任者であるライトハイザー米通商代表部(USTR)代表だ。一時2月ごろは、中国の知的財産権など構造問題にこだわる交渉姿勢を、早く合意したいトランプ大統領から批判されて、不仲説までささやかれた。しかし米国議会での公聴会などであえて議会の強硬圧力を受けることで、トランプ大統領の風圧をしのいできた。まさに長年ワシントンで生き延びてきた「ワシントン・サバイバー」の真骨頂だ。 これはかつて米朝協議において、ポンペオ国務長官、ボルトン大統領補佐官が諜報機関の情報を駆使して、安易な妥協は国内で批判を受けることをトランプ大統領に悟らせ、踏みとどまらせたことと軌を一にする。 トランプ大統領の前では無力な政権幹部は、米国議会や諜報機関といったワシントンの政策コミュニティーと連携することによって、何とかトランプ大統領の暴走を最小限にしているのだ。 米国政権内のパワーバランスも大きく変化した。中国が一旦合意したことを撤回して、約束を反故(ほご)にしたことが今回、トランプ大統領が強硬姿勢に転じたきっかけである。だが、このことが「中国は信頼できない」と主張してきた対中強硬派の論客、ナバロ大統領補佐官の信任を高めることになった。今や、穏健派のムニューシン財務長官の影は薄く、ナバロ補佐官、ライトハイザーUSTR代表といった対中強硬派が政権内を支配している』、「トランプ大統領の前では無力な政権幹部は、米国議会や諜報機関といったワシントンの政策コミュニティーと連携することによって、何とかトランプ大統領の暴走を最小限にしているのだ」という指摘は説得力がある。トランプはどうも相対交渉では、相手に引きずられ、甘くなりかちなのを、彼らが軌道修正しているようだ。
・『強気の背景は米国経済の好調さ  米国の好調な経済もトランプ大統領を強気にさせている要因だ。トランプ大統領の関心事は選挙戦に大きく影響する株価の動向である。 昨年11月、12月の株価の乱高下は米中の関税合戦による株価急落の懸念をもたらした。その後、米中協議が順調な進展を見て、マーケットは合意を織り込んでいた。大統領選に向けて重視する株価に激震を走らせる追加関税の引き上げはないだろうと、中国側も高をくくっていた節がある。 今回、5月5日のトランプ大統領のツイッターで追加関税を課すことが突然明らかにされ、激震が走ったが、一時下がった株価も半分戻すなど、マーケットのパニックはなさそうだ。トランプ大統領もこの株価の動きに大いに自信を持ったようだ。 実体経済も失業率は3.6%という1969年以来の低失業率で、インフレ率も低い。多少、関税引き上げで物価が上がっても許容範囲と見たようだ。 むしろ関税合戦が経済の足を引っ張るようだと、米連邦準備理事会(FRB)に利下げをさせる、いい口実になると考えた。これは来年の大統領再選に向けて、経済の好環境を作ることにもなる。早速5月14日、トランプ大統領はツイッターで、中国が経済を下支えするために利下げすると予想して、FRBに同じ措置をとるよう要求した。 FRBも協力させられれば、米国経済の体力は中国を圧倒して、余裕を持った戦いができるとの見立てだ』、こんな法外な要求にFRBが従うようであれば、市場は将来のインフレ懸念から長期金利はむしろ上昇する可能性もある。
・『中国党内権力は常在戦場  他方、中国はどうか。 中国の国内政治は常在戦場だ。常に政権の基盤を揺るがす隙を狙っている。 焦点は米国が重視している、国有企業への巨額補助金や知的財産権問題という中国の構造問題だ。共産党保守派の長老たちから見れば、国内の構造問題に米国が一方的に手を突っ込んでくるのは内政干渉と受け止める。アヘン戦争終結時の南京条約も思い起こさせる屈辱として、批判噴出したのだ。しかも国有企業による補助金は根深い利権、既得権を揺さぶりかねない。 今回、中国の交渉者である劉鶴副首相が一旦合意した150ページあった合意文書案は北京に持ち帰った際に、激しく批判され、習主席も認めなかったという。その結果、中国の本質的な構造問題に関する部分が大きく削除されて、105ページになって返されたとの報道もある。 今回の「ちゃぶ台返し」の方針は習主席の決断で、すべての「責任」を引き受ける覚悟だと、一部の報道で流れている。事の真偽は定かではないが、こうした報道が流されること自体、共産党内の揺さぶりの要素も垣間見ることができる。 下手をすれば、劉鶴副首相という、エリートの経済学者の顧問を抜てきして対米交渉の責任者に据えた習主席の責任にも及びかねない。 今年10月1日に建国70周年の一大イベントを控え、習主席にとって内政、外交を安定させることは最重要課題だ。弱腰外交の批判が共産党内だけでなく、世論にまで及び、ナショナリズムがコントロール困難になることのないよう細心の報道統制をしている。 こうした政治状況では習主席も首脳会談で譲歩しづらい。 ここで注目すべきは王岐山副主席の動向だ。 昨年3月の全人代(全国人民代表大会)人事で王岐山が副主席になった時には、今後の対米外交のカギを握ると見られて、注目されていた。しかし、その後の存在感は全くない。彼の人事を巡る権力闘争もあって、さまざまな臆測が飛び交っている。この難局に至っても王副主席が動かないかは注目点だ。 中国の経済状況も微妙だ。 今年初めの頃は景気の減速が深刻な時期であったが、そのため習主席は劉副首相に対米交渉を早期にまとめるよう指示をし、妥協カードを繰り出した。ところが4月にはこの夏にも景気が底を打つとの見方も広がり、やや余裕ができたため、対米交渉も強気に転じたのだ。 ところが5月15日発表の経済統計では、小売りも生産も投資も振るわず、景気の先行き懸念は再び広がっている。特に追加関税が中国の雇用に打撃を与える恐れもあって、今後、大幅な景気対策を打ち出して、必死にしのごうとするだろう。 「妥協はできないが、合意はしたい」。習主席が大阪での20カ国・地域(G20)首脳会議の場で、どういうカードを切ってくるか。ボールは中国側にある。 こうした米中双方の「政治力学」と「経済状況」は、現時点での“スクリーン・ショット”にすぎない。これまでの半年でも変化したように、今後も時間の経過とともに大きく変化するものだ。それに応じて、米中のドラマがどう展開していくかに注目すべきだろう。 そしてこれはあくまでも米中関係の表面的な部分で、これだけに振り回されてはいけない。米中が奏でる“通奏低音”の部分も含めて、米中関係の全体像の中で相対化して見ることも必要だ』、さすが元経済産業省米州課長として対米交渉の最前線に立った筆者だけあって、読みは広範で深く、大いに参考になった。やはり大阪でのG20が当面の注目点のようだ。
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