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香港(その1)(香港大規模デモ 火種となった「引き渡し条例」とは何か、1国2制度てこにした台湾統一しぼむ 香港への寛容不要に、香港の混乱が中国のアキレス腱になりうる理由 国際金融センターで何が起きているのか) [世界情勢]

本日は、香港(その1)(香港大規模デモ 火種となった「引き渡し条例」とは何か、1国2制度てこにした台湾統一しぼむ 香港への寛容不要に、香港の混乱が中国のアキレス腱になりうる理由 国際金融センターで何が起きているのか)を取上げよう。

先ずは、6月10日付けロイター「香港大規模デモ、火種となった「引き渡し条例」とは何か」を紹介しよう。
https://jp.reuters.com/article/hongkong-politics-extradition-idJPKCN1TB0Q2
・『中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」の改正案に反対する大規模デモが香港で9日行われた。主催者発表によれば103万人が参加し、2003年の「国家安全条例」案に反対した50万人規模のデモを大きく上回った。 今回の改正案が成立すれば、香港住人だけでなく、香港に住んだり渡航した外国人や中国人までもが、中国側からの要請があれば本土に引き渡されることになる。 国内外で圧力が強まる中、逃亡犯条例改正案は12日から立法会で審議が始まる予定。現立法会は体制派(親中派)が優勢で、法案は月内に可決されるとみられている。 6日には、弁護士ら数百人が異例の抗議活動に参加し反対を表明した。 大規模デモの火種となった香港の引渡し条例改正案について、以下にまとめた』、その後の激しい抗議行動を受けて、事実上の廃案となったようだが、完全撤回まではいってないようだ。ここで、「火種」をよく知っておくのは意義深い。
・『逃亡犯条例改正案とは何か  香港特別行政府が2月に提案した改正案で、現在ケースバイケースで対応している刑事容疑者の身柄引き渡し手続きを簡略化し、香港が身柄引き渡し条約を結んでいる20カ国以外にも対象を広げるという内容だ。 改正案は、香港から中国本土や台湾、マカオへの身柄引き渡しも初めて明示的に認めている。香港当局は、これによって香港を本土からの犯罪人の逃避先にしていた「抜け穴」を塞ぐことができると主張する。 外国当局から引き渡しの要請を受けた香港当局は、引き渡し手続きを開始し、法廷での審理を経た上で、最終的に引き渡しを承認することができる。容疑者は、法廷での審理結果に不服があれば上訴することもできる。しかし、一方で、引き渡し手続きに対する立法会の監督権限はなくなる』、対象を広げるついでに、「香港から中国本土や台湾、マカオへの身柄引き渡しも初めて明示的に認めている」、とは巧妙なやり方だ。
・『香港行政府は、なぜ改正案を進めているのか  昨年、香港人の若い女性が旅行先の台湾で殺害された事件をきっかけに、香港当局は法改正に乗り出した。警察は、この女性の交際相手が香港に帰国後、自白したとしているが、この男は(殺人事件では訴追されず)現在マネーロンダリング関連の罪で服役している。 一方で、台湾当局は、改正案は香港にいる台湾人をリスクにさらすものだとして強く反対しており、もし改正案が成立した場合も、殺人犯としてこの男の引き渡しを求めることは拒否するとしている。 香港が1997年、「一国二制度」の下で英国から中国に返還される以前から、いずれ本土との間に身柄引き渡しについての取り決めが必要になるとの指摘が当局者や専門家から出ていた。 香港に広範な自治を認めた同制度では、中国本土とは異なる独立した司法システムの維持も認めている。 返還後、中国本土の司法や安全保障当局者との間で非公式協議が行われたが、ほとんど進展はみられなかった。中国本土では、共産党が司法制度をコントロールしている』、きっかけとなった「香港人の若い女性が旅行先の台湾で殺害された事件」については、「台湾当局は、改正案は香港にいる台湾人をリスクにさらすものだとして強く反対しており、もし改正案が成立した場合も、殺人犯としてこの男の引き渡しを求めることは拒否」、というのでは、真の狙いは「中国本土」への引き渡しにあるのだろう。
・『改正案に対する反発の強さはどの程度か  改正案に対する懸念は最近になって急速に広がり、普段であれば香港や中国の当局と大っぴらに対立することを嫌うビジネス界や体制派にまで拡大している。 香港の裁判官も非公式に警戒感を表明しており、香港に拠点を持つ本土の弁護士でさえ、本土の司法システムでは最低限の公正さすら期待できないとして、これに同調している。香港の弁護士グループは、改正案の延期を求め、政府に詳細な要望書を提出した。 香港当局は、裁判官が引き渡し審査に際して、「番人」としての役割を果たすと強調している。だが、中国本土と香港との関係緊密化に加え、引き渡し審査内容が限定的であることから、裁判官が中国政府からの政治的圧力や批判にさらされる恐れがある、と一部の裁判官は非公式に懸念している。 学校や弁護士、そして教会グループが、人権擁護団体とともに改正案への抗議活動に参加している。 改正案を巡って立法会で乱闘騒ぎが起きたことを受け、行政府は通常の立法手続きを迂回して法案成立を急ぐことを決め、反対派を激怒させた。 人権への懸念を巡り、国外からの政治的、外交的圧力も強まっている。ポンペオ米国務長官や英独の外相が表立って発言し、欧州11カ国の総領事などが林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官に面会して正式に抗議している。 「法の支配や香港の安定と安全保障、偉大な国際貿易拠点としての地位に深刻な打撃を与えるものだ」。英国の最後の香港総督を務めたクリス・パッテン氏は6日、こう述べて懸念を表明した。 一部の野党政治家は、この問題は香港の独立的地位にとって転換点となるものだとしている』、G20東京サミットで話題にしなかったのは、中国との関係改善を図る安倍政権の「温情」だろう。
・『改正案を撤回又は延期する可能性は  林鄭氏や行政府幹部はこの改正案を強力に擁護しており、台湾で起きた殺人事件を巡って行動を起こし、「抜け穴」を閉じる必要があると強調している。 また、政治的、宗教的な訴追に直面していたり、拷問を受ける恐れがある容疑者の場合、引き渡しを阻止する「安全弁」が講じられているほか、死刑に処される恐れがある容疑者も引き渡しされないと主張する。 引き渡しの対象を重い犯罪に限定し、9件の経済犯罪については明示的に除外するなど、引き渡しの要件を厳しくしたものの、行政府が改正案そのものを撤回したり、より慎重な議論を行うために延期するような兆候はない。 外交圧力に直面する中国当局者も、この問題は主権問題だとして香港特別行政府を支持する立場を明確にしている』、撤回するか否かは、抗議運動如何だが、最近は暴力的なものも出てきている。これは、運動潰しを狙った中国系の差し金である可能性も考えられよう。

次に、元駐中国大使で宮本アジア研究所代表の宮本 雄二氏が6月19日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「1国2制度てこにした台湾統一しぼむ、香港への寛容不要に」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00023/061700060/?P=1
・『逃亡犯条例改正をめぐり香港の混乱が続いている。6月9日、香港史上最多の100万人超が参加する反対デモが起こり、香港政府は15日、審議を延期すると発表した。だが、16日、その完全撤廃を求めて、前回を上回る200万人近くがデモに参加した(いずれも主催者発表)。香港は混迷を深めている。 歴史をたどると、物事の本質がもっとはっきり見えてくるものだ。 中国共産党は香港、台湾を取り戻さないと近代100年の“屈辱の歴史”は清算されないと考えてきた。失われた領土の回復は、中国共産党にとって著しく重大な事業なのだ』、台湾問題も絡んでそもそも論を展開するとは、さすが元駐中国大使だ。
・『矛盾と対立をはらんだ一国二制度  香港は「香港島」と、中国と陸続きの「新界」からなる。香港島は1842年のアヘン戦争後に英国領となり、その後、英国は新界を99年間租借した。その期限が1997年に訪れた。〓小平は78年に改革開放政策を決めると、台湾問題を念頭に置きながら、香港問題の解決を考え始めた。当然、香港全部の返還が大前提であり、そのためには英国と交渉する必要がある。中英の香港返還交渉は80年代に始まった。 84年12月、中英共同声明が発出された。これは国際約束であり、中国のその後の香港政策の基本的枠組みとなった。香港は高度の自治権を持つ特別行政区となり、そこで実施されていた自由や権利は保障されることとなった。しかしながら、香港は中国の一部となり、中央の直轄となった。具体的にどう統治するかは、全国人民代表大会(全人代、日本の国会に相当)が決定する「香港基本法」で定める。 香港が中国に帰属するという建前と、香港に与えられる高度な自治との間には調整の難しい深刻な矛盾と対立が存在していた。天安門事件から1年もたたない90年4月、基本法が成立したが、この矛盾は解決されなかった。曖昧さを残したものしか作れなかったのだ。基本法を具体化するプロセスの中で、それらの矛盾が逐次表面化していく。基本法の解釈権について、「中央が管理する事務」と「中央と香港の関係」は全人代が、それ以外は、香港法院が解釈できると定めている。だが、その細部は不明であり、前例を積み重ねるしかなかった。中国と香港の関係はそのつど緊張した。それが香港の「一国二制度」の宿命だった』、「一国二制度」はやはりガラス細工のように脆かったようだ。
・『香港に寛容だったのは台湾を統一するため  それでも、基本法の実施に当たり、中国は可能な限り香港の現行制度と自由と人権に配慮してきた。自由で繁栄する香港の存在が、中国自身が経済発展するのに必要だったからだ。香港は50年代半ばから工業化を進め、80年代にはシンガポール、韓国および台湾とともに経済成長著しい「アジアの四小龍」と呼ばれた。中国は香港を最大限に活用して経済発展を図ることにした。中国の改革開放に香港は重要な役割を果たしてきたのだ。 同時に〓小平は台湾問題の解決を見据えていた。葉剣英(全人代の常務委員会委員長)は81年、台湾に対し香港以上に柔軟な一国二制度を提案した。台湾は香港よりさらに大きな自治と権限を持つことができ、軍隊まで保有できるという内容だ。83年、〓小平はその早期実現への期待を表明した。基本は、中国共産党と中国国民党による第3次国共合作だった。香港で一国二制度を成功させることは、台湾問題を解決する道でもあったのだ』、「〓小平」が「台湾に対し香港以上に柔軟な一国二制度を提案」、「第3次国共合作」まで考えていたとは、構想力の大きさに改めて驚かされる。
・『逃亡犯条例改正は共産党政府が繰り出した第4の矢  これらの理由により、北京は香港に対し比較的柔軟な姿勢を持続させた。しかし香港における政治運動は中国本土に悪影響を与える。香港の経済を自由に発展させ、それを利用しながら、同時に政治の管理を強めたいというのが北京の本音だった。 転換点となったのが2003年の50万人デモである。基本法は反逆、国家分裂、反乱扇動など国家安全を脅かす行為を禁止する法律を香港が自ら立法するよう規定している(23条)。02年、香港政府はその立法化に着手した。しかし、デモによりこれは失敗に終わった。 中国は、この動きを愛国心不足のためだと認識し、12年に「徳育・国民教育科」の導入を目指した。だが北京の意向を受けた香港政府の動きは、中高生の強い反対を呼び起こし撤回に追い込まれた。 中国は続いて14年、17年に行われる予定の香港行政長官選挙において、民主派が立候補するのを事実上不可能とする決定を下した。これに反対する香港の人たちは「雨傘運動」を繰り広げた。この運動は79日間継続したが、中国は譲歩せず、反対運動は挫折した。 そして今回の逃亡犯条例改正に反対するデモである。中国が12年以来、香港への管理を強化する流れの中で、香港が返還されて以降、最大のデモとなった。中国の経済発展と国力の増大は香港の有用性を相対的に低下させ、それが香港の中国化を促進する。それに対する反発と将来への不安が、これほど多くの香港の人たちをデモに駆り立てたのであろう。 しかし、理由はそれだけではない。香港の出来事は中国の国内情勢と不可分に結び付いている』、当局は「79日間継続した」「雨傘運動」は「挫折した」、の「二匹目のドジョウ」を狙っているのだろうが、今回はどうなるのだろう。
・『香港の経済的重要性は20年で7分の1に低下  12年11月、習近平氏が中国共産党総書記に就任した。その頃、中国の国力は増大し、世界における中国の存在感も急速に拡大していた。中国国内のナショナリズムの高まりも顕著だった。同年9月に始まった尖閣問題をめぐる日中の衝突は、中国の対外姿勢を「実力による現状変更」という新たな段階に引き上げ、自己主張の強い強硬姿勢に転換させた。 この基本姿勢の転換は、香港においては、中国の権威を誇示し管理を強化する方向に作用した。中国経済にとって香港の有用性が大きく低下した事実が、それを助長した。香港経済は、1997年には中国全体の2割弱の規模を誇っていた。それが20年後の2017年にはわずか3%弱となった。深?は経済規模で香港に追い付き、ハイテク分野でははるかに引き離した。金融市場としても上海の重要性の方がさらに高まった。中国は香港に対して、以前ほど遠慮する必要がなくなったわけだ。 香港を優遇するもう1つの理由であった台湾問題も、この20年間で大きく変質した。中国国民党の統治は終わり、その優勢も消えた。国共合作による統一は夢と消え、台湾独立派が力を強めた。一国二制度に基づき台湾問題を解決するという基本方針に変わりはないが、台湾と香港は分けて考えざるを得なくなった。台湾問題を念頭に、香港の政治に甘い姿勢を見せる必要もないと考える人たちが増えた。 国際社会との関係でも中国は自信を付けた。中国が天安門事件後の国際的孤立から脱却し、経済を驚異的な勢いで成長させたのを背景として、欧米は中国の民主化や人権にあまり口出ししなくなった。むしろ遠慮するようになったほどだ。逆に、中国の影響力と国際的発言力は増大した。昔ほど欧米を気にする必要はなくなった。 これらを背景に、香港を「より中国的に」統治すべきだという声が中国指導部の中で強まったとしても不思議ではない。とりわけ、「中国モデル」に従い中国国内の管理と統制を強めているときに、香港にだけ自由気ままを許したのでは示しがつかないだろう。2012年以来、そういう方向で香港の管理強化が意図されてきたことは恐らく間違いない。 従って、香港の人たちが「北京は香港の『中国化』を進めている」と強く感じ、それに反発し抵抗しているという見方は正しい。中国大陸への経済的な依存が高まり、中国の影響力が増す中で、香港の生きざま(Way of Life)を守りたいということだ。それは欧米のいう「民主化」とは必ずしも一致しない。英国の植民地であった時代に香港が真の民主主義を経験したことは一度もなかった』、「「中国モデル」に従い中国国内の管理と統制を強めているときに、香港にだけ自由気ままを許したのでは示しがつかない」、というのは香港にとっては、厳しい材料だ。
・『国際社会の注目が改正を延期させた  中国が台頭し、自分たちのやり方に対する自信を増大させたことが、米国を中心とする欧米社会において中国異質論を生み出し、中国を現行国際システムに対する「修正主義者」と断じさせた。米国では、今、中国をたたいておかないと米国の民主主義自体が壊されるという恐怖心が芽生えているという。これまでのように、中国はいずれ自分たちと似たような国になるのだから、中国が嫌がることはあまり言わずにいてあげようという雰囲気は欧米から消えた。自由や人権という、民主主義の核心的価値を求めるべく、再度声を上げるべきだという雰囲気になってきている。なんだか天安門事件の頃の雰囲気に似てきた。 今回、香港政府が逃亡犯条例改正の延期を決めたのは、混乱を収拾し事態を沈静化するためだろう。同時に6月28日から始まる20カ国・地域首脳会議(G20サミット)を強く意識した対応だ。天安門事件のときのような人権をめぐる対立の構図を、世界との関係で作りたくないのだとみられる。 米中対立の激化は、中国国内で路線の違いを表出させ、もう少しソフトな対応を求める声が強まっている。香港問題についても同じ力学が作用する。力で押さえつけ管理を強めるだけでは物事はうまくいかないと思っている人も少なくないのだ。逃亡犯条例改正問題は、中国と世界との関係がどのように収れんしていくのかという問題と切り離せない関係にあるのだ』、香港にとっては、米国など「国際社会の注目」だけが頼りの綱のようだ。

第三に、 経済ジャーナリストの岩崎 博充氏が7月9日付け東洋経済オンラインに寄稿した「香港の混乱が中国のアキレス腱になりうる理由 国際金融センターで何が起きているのか」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/291118
・『香港政府が進めようとした「逃亡犯条例」をめぐって、反政府デモが過激度を増している。 6月16日には人口800万人の香港で、4人に1人に当たる200万人が参加。7月1日から2日にかけては一部の若者たちが立法会(議会)に突入し、一時的に議場を占拠した。 CNNやBBCは、先進国でこのような事態が起こったことを驚きをもって伝えていた。香港政府が目指す逃亡犯条例の改正をめぐるゴタゴタは、まだ収束する気配はなさそうだ。国際金融センター、自由港区として知られる香港だが、中国に返還されて7月1日でちょうど22年。香港の統治に自信を見せていた習近平中国国家主席だが、香港は中国にとってアキレス腱になる部分も出てきた。 香港あっての中国と言われてきたが、いったい何が起きているのか――。国際金融センター・香港が直面する課題を考える』、「国際金融センター」を中心にみるというのも興味深い。
・『香港デモの背景には「米中貿易交渉」?  6月9日に103万人、6月16日には200万人という大規模な香港デモが起こったわけだが、その背景には「米中貿易交渉」の動きもあると言われている。香港政府が目指していた逃亡犯条例は、その法案が可決されてしまえば、香港に居住する人々はむろんのこと、香港で働くビジネスマンや観光で訪れた外国人に対しても、何らかの口実をつけて逮捕され、強制的に中国本土に移送されて裁判にかけられるのではないか――そんな懸念があるからだ。 まさに、香港で保障されている自由や人権が奪われてしまう可能性が出てくる。そんな逃亡犯条例に反発して自然発生的に起きたのが今回の香港デモだが、実は同時進行的に、アメリカ議会が香港政府を牽制する動きに出ていた。 共和党のルビオ上院議員、民主党のカーディン上院議員など超党派の議員が、103万人デモ直後の6月13日、これまでアメリカが香港に与えてきた貿易上の特権措置を見直す法案を提出。香港の「高度な自治」の検証を義務付ける法案「香港人権・民主主義法案」を提出したのだ。 アメリカは「アメリカ・香港政策法」に基づいて、香港に対して関税やビザ発給面で優遇してきたが、香港に高度な自治がなくなればさまざまな特権を廃止したほうがよく、そのためには、香港に十分な自治権があるかどうか、毎年検証を義務付けようという法案だ。提出された法案には、中国本土への容疑者引き渡しに関与した人物に対する資産凍結など制裁措置も盛り込んでいる。同法案は、ペロシ下院議長(民主党)も支持する姿勢を示しており、与野党の枠を乗り越えて早期に可決されるかもしれない。 この法案が出された背景には、中国がアメリカに対して発した「内政干渉するな」という脅しに反発したものとも言われているが、米中貿易交渉のタイミングを考えると、この法案が中国へのプレッシャーの1つであることは間違いない。 ちなみに、香港は大半の商品に関税がかからない自由港区だが、日中貿易交渉の一環で中国にかかっている追加関税も、香港を通せば非課税扱いになる。その香港ルートも、閉ざしてしまおうというのが今回出された法案の狙いの1つだ』、「香港人権・民主主義法案」については、初めて知った。「中国にかかっている追加関税も、香港を通せば非課税扱いになる。その香港ルートも、閉ざしてしまおうというのが今回出された法案の狙いの1つだ」、というのは中国にとっては、極めて重い意味を持ちそうだ。
・『香港は中国の「集金マシーン」?  一方、中国にとって香港は貿易面でも、そして世界中から投資資金を集めるという面でも不可欠な存在だ。 香港の株式市場に上場している企業の半数は中国本土に籍を置く企業だ。つまり、中国企業は香港市場に上場することで、資金を集めて成長してきたところがある。株式市場だけではなく、中国企業が発行する債券など有価証券の大半は、香港の金融市場で売買取引される。中国はまさに香港の金融市場の集金力に支えられて成長してきたと言っていい。 実際に、2018年の新規株式公開(IPO)調達ランキングでは、香港市場が世界第1位になっている。中国のスマートフォン大手「小米(シャオミ)」やネット出前の「美団点評」などが新規上場したことで、IPOによる調達額は366億米ドル(約4兆1000億円、大手会計事務所デロイト・トウシュ・トーマツ調べ、以下同)となった。これは、2017年の2.2倍に達する金額だ。 2位はニューヨーク証券取引所(288億ドル)、3位は東京(262億ドル)となった。もっとも、2018年は中国の大手テック企業の上場が相次ぎ、動画配信大手「iQIY(愛奇芸、アイチーイ)」、音楽配信のテンセント・ミュージック・エンターテイメント・グループになどは、香港ではなくナスダックやニューヨークに上場している。 デロイト中国法人によると、2019年もIPOによる資金調達額で、香港取引所(HKEX)は世界3位以内を維持するだろうと予測している。香港でのIPO実施企業を約200社、調達額を1800億~2300億香港ドルと想定している。 もっとも、香港取引所での2019年1~3月期に実施されたIPOでは、前年同期より27社少ない37社で、調達額は16%減の204億香港ドル(2894億円)。香港取引所は、調達額では1位から後退している。米中貿易交渉やファーウェイの影響が少なからず出ていると言っていいだろう。 これを中国企業から見れば、2018年の中国企業のエクイティ・ファイナンス調達額のうち42%、IPOに限れば55%が香港市場で調達していると報道されている。香港は、まさに中国本土に世界マネーを供給してきた貴重な金融市場と言える。 一方で、香港はまた中国のマネーが逃げていく場としても注目されるようになっている。香港の不動産投資や事業への投資という形で、中国マネーが香港を通じて世界に流出する現象だ。 最近になって仮想通貨のビットコインが急騰して話題になっているが、ビットコインを通じて中国マネーが本土から流失しているという報道もある。中国ではビットコインの売買は禁止されているのだが、「OTC (店頭)市場」での信用取引は黙認されているとも言われ、その利益が香港などで事業資金に転換される』、第二の記事では、中国にとって香港の重要性は低下したとあったが、必ずしもそうでもないようだ。
・『インデックス投信に組み入れられる香港株  中国が香港を通じてかき集めているマネーは莫大な額にのぼる。香港市場で組成されるファンドの多くは、中国企業が組み入れられ、それを購入する欧米や日本の銀行や投資家は、いつのまにか中国に多額のお金を投資していることになる。 こうした現実に対して、ルビオ上院議員なども世界の株価指数に連動する投資信託などの情報開示が不十分だと指摘。実際に、日本の証券会社や銀行などが販売しているインデックス型の投信などの中には、香港を通して中国の企業に投資しているケースが多い。 とりわけ、グローバルなフィンテック関連企業などは、2018年に急速に伸びており、アクセンチュアの調査によると、フィンテックベンチャー企業への投資額は、世界全体で2017年の2倍を超える553億ドルに達し、とりわけ中国への投資額は9倍に跳ね上がっている。 2018年のフィンテック投資総額の46%を中国が占めており、いかに中国が世界からマネーを集めているかがわかる。もちろん、直接中国に入るマネーも多いが、香港を通して流入する投資額も巨大なものだ。 アメリカが中国に対して仕掛けている貿易戦争も、考えてみればすでに遅きに失しているのかもしれない。それだけ、中国は世界のマネーを集めてしまったと言わざるをえない。 問題はこれで香港に何かが起きたときに、どんな影響が出るかだ。今回の立法会への突入が象徴するように、先進国であのような暴動が起これば、警察が取り締まりを強化することは間違いない。ああした暴動は、香港政府や中国政府に動くきっかけや大義を与えてしまうため、香港の金融業界ではデモそのものを懸念していると言われる。 ひょっとすると、2047年まで約束されている「1国2制度」を繰り上げて、香港の自治権を中国政府が奪うような事態になるかもしれない。香港はイギリスから返還されるときに、当時中国のトップだった〓小平とマーガレット・サッチャー英首相が50年間の「1国2制度」に合意したわけだが、中国が自治の回復を名目に香港から「高度な自治」を奪ってしまうかもしれない。 2047年といえば、まだ遠い未来のことのように思えるが、住宅ローンなどを組む際には、すでに影響が出てきていると言われる。実際、日本から香港に進出している企業や投資家の一部には、シンガポールなどに拠点を移そうとする動きが現実になっている。 かつて、天安門事件直後に香港市民に取材したとき、5分の1程度の市民は「返還までに海外に脱出したい」と答えていたのを思い出す。近年、一度海外脱出した香港市民がまた香港に戻ってきた話をよく聞く。今回の香港デモが彼らに与えた影響は極めて大きかったようだ。 当然のことながら、欧米の銀行や証券会社、投資運用会社なども、シンガポールや東京などに拠点を移す動きが出てくる可能性もある。かといって、金融市場のルールや銀行口座のルールなどはそのまま継続する可能性が高い。香港は、預金保険なども金額こそ800万円程度と少ないが、外貨預金も保証の対象となっており、海外からの顧客にとっては日本よりも充実していると言える。 香港と言えば、「HSBC」や「シティバンク」、日系の「NWB」(注)といったポートフォリオを組んで資産運用してくれる「ポートフォリオ・アドバイザリー・サービス」を展開する銀行が有名だが、こうした金融機関も1国2制度の見直しがあった場合、どんな変化を余儀なくされるかは不透明だ。少なくとも、優位性のあるファンドの組成や世界中の債券に優先的に投資することはできなくなるかもしれない。 それだけ香港が持つ国際金融センターの機能は大きいということだ』、その通りだろう。
(注)NWB:新生銀行系のNippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank。
・『シンガポールに脅かされる香港の経済自由度  実際に香港の国際金融センターとしての位置付けは極めて確固たるものがある。最新の「世界金融センター指数」を見ても、香港は世界第3位に入っている。トップ10は次のとおりだが、香港は前年に続き3位に入っている(第25回、2019年3月発表)。 1. ニューヨーク 2. ロンドン 3. 香港 4. シンガポール 5. 上海 6. 東京 7. トロント 8. チューリヒ 9. 北京 10. フランクフルト 注目すべきは、上海と北京がそれぞれトップ10に入ってきており、今や中国も国際金融センターの仲間入りしていることだ。とりわけ上海は東京より高い5位に入っている。それだけ、中国も香港に代わる国際金融センターの育成に力を注いでいるということだろう。 一方、アメリカのシンクタンクであるヘリテージ財団とウォールストリート・ジャーナルが算出している「経済自由度指数(INDEX of Economic Freedom)」を見ると、香港は25年連続でトップを維持している。しかしながら、シンガポールに肉薄されており、いつそのトップの座を奪われても不思議ではないような状態だ。トップ10は、次のようになっている(2019年版)。 ① 香港(90.2点) ? シンガポール(89.4点) ③ ニュージーランド(84.4点) ④ スイス(81.9点) ⑤ オーストラリア(80.9点) ⑥ アイルランド(80.5点) ⑦ イギリス(78.9点) ⑧ カナダ(77.7点) ⑨ アラブ首長国連邦(77.6点) ⑩ 台湾(77.3点) ちなみに、日本は30位となっている。 経済自由度指数の採点では、財政の健全性や汚職の多寡、政府支出の大小、ビジネス、労働、投資の自由度などなど10項目で採点されている。世界的にも権威のある指数であり、香港の25年連続第1位は、それだけ香港の優位性を象徴している。 一方、香港が国際金融センターとして中国本土への集金マシーンとして機能している以外の部分では、近年ややその存在感を失いつつある。金融センター以外の部分ではあまりにも中国本土が成長してしまったために、その存在意義が失われつつあるともいえる。 国際金融センターとしての地位はシンガポールに迫られており、いずれはトップの座を明け渡すことになる可能性が高い。実際に、金融機関の一部はすでにシンガポールに脱出を図っているとも言われる。 ▽戦争が起きない限り金融システムは揺るぎない(1国2制度の期限が、あと30年を切った現在、今後は「2047年問題」が香港を苦しめる可能性は高い。逃亡犯条例の改正で4人に1人がデモに参加した状況を見ても、香港人の不安や焦りは想像できる。 いずれにしても、香港の未来は今回の香港デモによって、やや不透明感を増したと言っていい。とはいえ、香港に海外口座を持っている人もいると思うが、こうした金融システムが揺らぐようなことはまずないと考えていいだろう。 金融システムの根幹が揺らぐような事態というのは、もはや「内戦」や外部との「戦争」しか考えられない。世界有数の国際金融センターにそんな事態が起これば、日本の株式市場や債券市場も無傷では済まない。 それどころか、日本が世界最大級のダメージを受ける可能性もある。香港に資産を置いておくのも、日本に置いておくのも緊急事態のダメージはそう変わらない、ということだ。 ただ、これまでもそうだったように中国は時間をかけて香港から自由を奪っていく可能性はある。シンガポールなど、自由度の高い金融機関へのシフトを長期的な視野で考えておいたほうがいいのかもしれない。 日本が悩まされている「キャピタル・フライト(資本流出)」は、今後香港や中国が経験することになるかもしれない』、「世界金融センター」のランキングについては、東京は、ロンドン、ニューヨークに次ぐ3位との統計もある。ただ、「金融システムの根幹が揺らぐような事態というのは、もはや「内戦」や外部との「戦争」しか考えられない」、との見方はいささか甘いような気がする。リーマン・ショック級の事態はもっと高い確率で起こり得る。中国での各種のバブルは崩壊寸前であることを考慮すれば、もっと深刻に考えておいた方がいいのではなかろうか。
タグ:香港 ロイター 東洋経済オンライン 日経ビジネスオンライン 岩崎 博充 宮本 雄二 (その1)(香港大規模デモ 火種となった「引き渡し条例」とは何か、1国2制度てこにした台湾統一しぼむ 香港への寛容不要に、香港の混乱が中国のアキレス腱になりうる理由 国際金融センターで何が起きているのか) 「香港大規模デモ、火種となった「引き渡し条例」とは何か」 「逃亡犯条例」の改正案に反対する大規模デモ 香港住人だけでなく、香港に住んだり渡航した外国人や中国人までもが、中国側からの要請があれば本土に引き渡されることになる 現在ケースバイケースで対応している刑事容疑者の身柄引き渡し手続きを簡略化し、香港が身柄引き渡し条約を結んでいる20カ国以外にも対象を広げるという内容 香港から中国本土や台湾、マカオへの身柄引き渡しも初めて明示的に認めている 引き渡し手続きに対する立法会の監督権限はなくなる 香港行政府は、なぜ改正案を進めているのか 香港人の若い女性が旅行先の台湾で殺害された事件をきっかけ 台湾当局は、改正案は香港にいる台湾人をリスクにさらすものだとして強く反対しており、もし改正案が成立した場合も、殺人犯としてこの男の引き渡しを求めることは拒否するとしている 「一国二制度」 改正案に対する反発の強さはどの程度か 改正案を撤回又は延期する可能性は 「1国2制度てこにした台湾統一しぼむ、香港への寛容不要に」 中国共産党は香港、台湾を取り戻さないと近代100年の“屈辱の歴史”は清算されないと考えてきた 矛盾と対立をはらんだ一国二制度 香港に寛容だったのは台湾を統一するため 逃亡犯条例改正は共産党政府が繰り出した第4の矢 香港の経済的重要性は20年で7分の1に低下 国際社会の注目が改正を延期させた 「香港の混乱が中国のアキレス腱になりうる理由 国際金融センターで何が起きているのか」 香港デモの背景には「米中貿易交渉」? これまでアメリカが香港に与えてきた貿易上の特権措置を見直す法案を提出。香港の「高度な自治」の検証を義務付ける法案「香港人権・民主主義法案」を提出 与野党の枠を乗り越えて早期に可決されるかもしれない 香港は大半の商品に関税がかからない自由港区だが、日中貿易交渉の一環で中国にかかっている追加関税も、香港を通せば非課税扱いになる。その香港ルートも、閉ざしてしまおうというのが今回出された法案の狙いの1つだ 香港は中国の「集金マシーン」? インデックス投信に組み入れられる香港株 シンガポールに脅かされる香港の経済自由度
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米中経済戦争(その8)(ついに「長征」を宣言した習近平氏 米国との持久戦を覚悟、トランプ氏“ファーウェイ発言”の裏にワシントンの暗闘、米中協議 再開しても変わらぬ対立の基本構図) [世界情勢]

米中経済戦争については、5月18日に取上げた。G20での米中首脳会談も踏まえた今日は、(その8)(ついに「長征」を宣言した習近平氏 米国との持久戦を覚悟、トランプ氏“ファーウェイ発言”の裏にワシントンの暗闘、米中協議 再開しても変わらぬ対立の基本構図)である。

先ずは、6月4日付け日経ビジネスオンライン「ついに「長征」を宣言した習近平氏、米国との持久戦を覚悟」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00019/053100056/?P=1
・『1934年、国民党軍と戦っていた中国共産党軍10万人は拠点としていた江西省瑞金の地を放棄し、壮絶な行軍を始めた。約2年の歳月をかけ1万2500kmを移動して陝西省延安にたどり着いた時、残っていたのはわずか2万人とも3万人とも言われている。この長期にわたる行軍の中で、毛沢東は共産党における指導権を確立した。 中国近現代史におけるハイライトの1つ、「長征」と呼ばれる出来事である。無残な敗退戦だったとの見方もあるが、中国では長征を歴史的偉業と位置づけている。形勢不利の中でも持久戦に切り替えて耐え忍んだことが反転攻勢のきっかけとなったことは間違いなく、この出来事は中国共産党のDNAに深く刻まれた。 5月20日、長征の出発地を訪れた習近平国家主席は「今こそ新たな長征に出なければならない」と国民に呼びかけた。米中貿易交渉は行き詰まり、対立が激化している。米国との争いの短期決着は諦め、持久戦に持ち込むとの宣言とも取れる。 世界経済にとって現時点で考えられる最良のシナリオは、6月末に大阪で開催される20カ国・地域(G20)首脳会議に伴って行われる米中首脳会談で両国の貿易交渉が着地することだ。だが、もはやそのシナリオは楽観的すぎるとみたほうがよいだろう。 関税引き上げに続いて、トランプ米大統領が打ち出した華為技術(ファーウェイ)への執拗な制裁は「何の証拠も示さずに民間企業を痛めつけることが許されるのか」と、中国では衝撃と反発をもって受け止められた。国営メディアでも連日厳しいトーンでの報道が続いており、安易な妥協はしないという共産党指導部のメッセージと受け止められている。 「大阪で米国との貿易交渉がまとまる可能性は、ほぼなくなった。あるとすれば、トランプ大統領が得意の変わり身で譲歩した場合だ」。かつて政府機関に身を置いたある共産党員は、こう解説する。米中交渉がまとまらなければ、中国経済が大きなダメージを受けることは間違いない。「10年ほどは苦しい状況が続くだろう。だが、その後の中国経済はさらに強くなる」(同)。 米中両国の交渉は典型的な「囚人のジレンマ」に陥っている。両国経済にとってのベストなシナリオは早期に貿易戦争が終わることだ。すなわち米国は追加関税と華為技術(ファーウェイ)制裁を解除、中国は国有企業を保護するため産業補助金の撤廃や技術移転の事実上の強要を禁止する。だが、どちらか一方だけが実行し、もう一方が実行しなかった場合、実行した側が大きな損失を被るため、互いに不信感を募らせている状況では実現しない』、「米中両国の交渉は典型的な「囚人のジレンマ」に陥っている」とは言い得て妙だ。
・『天安門事件後は「豊かさ」で国民の不満を抑え込む  このままの展開が続けば、待ち受けるのは経済や技術のブロック化だ。問題はそれが中長期的に必ずしも米国にとって有利に働くとは限らない点にある。次世代通信技術では中国は世界最先端の地位を確立した。国家規模でのビッグデータやAI(人工知能)活用においても、プライバシーなどの壁をクリアしなければならない民主主義国家に比べて中国が有利だ。弱点である半導体などの技術分野も急ピッチで追い上げている。中国がブロック経済圏を確立してしまえば、技術的にも経済的にも米国の影響力はむしろ失われる。 一方の中国にも弱みはある。今日6月4日は1989年に起きた天安門事件からちょうど30年に当たる。民主化を訴える学生への武力行使は、中国共産党にとっては消し去りたい記憶だ。節目を迎える中で、海外メディアによる天安門事件についての記事が目立つ。肝心の中国国内における民主化運動は下火だが、それも経済的な豊かさがあってこそ。天安門事件以降、中国共産党は経済成長を以前にも増して追求し、国民に豊かさを享受させることで、一党独裁体制の安定を図った。 民主化への動きが下火になっている現状は、そのもくろみが現段階ではうまくいっているということだろう。ただし今後、貿易戦争による経済の混乱が拡大し、長期化すれば、現在の政治体制への不満が噴出しかねない。それは中国政府にとって最も避けたい展開だろう。 激しさを増す米中の貿易戦争。「新長征」を呼びかけた習国家主席はこれを共産党の存続をかけた戦いと位置づけたのかもしれない。だとすれば、両国の争いが容易に収まることは考えづらい。日本経済への影響もさらに大きなものになりそうだ』、「「新長征」を呼びかけた」とはいえ、「天安門事件後は「豊かさ」で国民の不満を抑え込」んできただけに、いまさら耐乏生活に戻ることは無理で、米国に対する交渉上のポーズだろう。ただ、長期化すれば、日本にも深刻な影響が及ぶことは覚悟する必要がありそうだ。

次に、元・経済産業省米州課長で中部大学特任教授の細川昌彦氏が6月30日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「トランプ氏“ファーウェイ発言”の裏にワシントンの暗闘」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00133/00012/?P=1
・『G20大阪サミット(主要20カ国・地域首脳会議)で、特に世界の注目が集まったのが米中首脳会談だ。大方の予想通り、新たな追加関税は発動せず、貿易協議を再開することで合意した。一応の“想定内”で、市場には安堵が広がった。しかし、その安堵もつかの間、トランプ米大統領の記者会見で激震が走った。中国の通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)との取引を容認すると発言したからだ。 早速、各メディアは以下のような見出しを打った。「華為技術(ファーウェイ)との取引容認」「ファーウェイへの制裁解除へ」 だが、トランプ大統領の発言だけで判断するのは早計だ。米中双方の政府からの発表を見極める必要がある。 確かに、トランプ大統領は記者会見で、「(米国企業は)ファーウェイに対して製品を売り続けても構わない」と言った。しかし、同時に「ファーウェイを禁輸措置対象のリストから外すかどうかについては、まだ中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席と話していない。我々が抱えている安全保障上の問題が最優先だ。ファーウェイの問題は複雑なので最後まで残すことにした。貿易協議がどうなるかを見ていきたい」とも語っている。そして「安全保障上の問題がないところは装備や設備を売ってもいい」と付け加えているのだ。 もともと、米国の法律上、ファーウェイに対して「事実上の禁輸」になっているのは、ファーウェイが「安全保障上の重大な懸念がある」と米商務省によって認定され、いわゆる“ブラックリスト”に載ったからだ。「事実上」というのは、“ブラックリスト”の企業に輸出するためには、商務省の許可が必要になり、それが「原則不許可」の運用になるからである。現在でも「安全保障上問題がない、例外的なケース」は許可されている。 従ってトランプ発言は、単に現行制度について発言しているにすぎず、何か変更があったとしても、せいぜい、若干の運用を緩和する程度だという見方もできる』、「(米国企業は)ファーウェイに対して製品を売り続けても構わない」とのトランプ発言の含意が漸く理解できた。確かに、「ファーウェイの問題は複雑」なようだ。
・『超党派の議員から「トランプ発言」への批判が噴出  ファーウェイはツイッターで、「トランプ氏はファーウェイに米国のテクノロジーを購入することを再び許可すると示唆した」と発信し、自社の都合のいいように受け止めている。だが、果たしてどうだろうか。 昨年春、米国が中国の大手通信機器メーカー・中興通訊(ZTE)への制裁を解除した時は、ZTEは罰金支払いや経営陣の入れ替えに応じた。ファーウェイに対しても禁輸措置の解除に向けて何らかの条件を付けるべく、今後協議が行われるかのような報道もあるが、これもなかなか難しいだろう。 米ワシントンではこうしたトランプ氏の発言に対して早速、民主党のシューマー上院院内総務や共和党のルビオ上院議員が厳しく批判している。「ファーウェイの問題は安全保障の問題で、貿易交渉で交渉材料にすべきではない」というのが、米国議会の超党派の考えだ。 昨年春、トランプ大統領が習主席からの要求に応じてZTEの制裁を取引で解除したことは、彼らにとって苦々しい経験となっている。大統領選に立候補を表明しているルビオ上院議員にいたっては、大統領が議会の承諾がないまま、勝手に貿易交渉で安全保障の観点での制裁を解除できないようにする法案まで提出している。 仮に今後、ZTEのようなパターンになりそうならば、トランプ大統領は選挙戦において共和党からも民主党からも厳しい批判にさらされることは容易に想像できる。 果たしてファーウェイへの制裁がどういう方向に行くのか、大統領選も絡んでもう少し見極める必要があるようだ』、「ファーウェイの問題は安全保障の問題で、貿易交渉で交渉材料にすべきではない」という「米国議会の超党派の考え」は、トランプにとってはやり難そうだ。
・『トランプvs“オール・ワシントン”の綱引き  私はトランプ政権を見るとき、トランプ大統領とトランプ大統領以外の“オール・ワシントン”を分けて考えるべきだ、と当初より指摘してきた(関連記事:米中の駆け引きの真相は“トランプvsライトハイザー” 、以降、“オール・アメリカ”よりも“オール・ワシントン”の方が適切なので、表現を改める)。“オール・ワシントン”とは議会、政権幹部、シンクタンク、諜報機関、捜査機関などのワシントンの政策コミュニティーである。 トランプ大統領自身は関税合戦によるディール(取引)に執着している。今や2020年の大統領再選への選挙戦略が彼の頭のほとんどを占めていると言っていい。すべてはこの選挙戦にプラスかマイナスかという、いたって分かりやすいモノサシだ。中国に対して強硬に出る方が支持層にアピールできる。民主党の対抗馬からの弱腰批判も避けられると思えば、そうする。追加関税の引き上げが国内景気の足を引っ張り、株価が下がると思えば、思いとどまる。株価こそ選挙戦を大きく左右するとの判断だ。 他方、後者の“オール・ワシントン”の対中警戒感は根深く、トランプ政権以前のオバマ政権末期からの筋金入りだ。ファーウェイに対する安全保障上の懸念も2000年代後半から強まり、この懸念から2010年には議会の報告書も出されている。米国の技術覇権を揺るがし、安全保障にも影響するとの危機感がペンス副大統領による“新冷戦”宣言ともいうべき演説やファーウェイに対する制裁といった動きになっていった。 この2つはある時は共振し、ある時はぶつかり合う。 昨年12月、ブエノスアイレスでの米中首脳会談の最中に、ファーウェイの副社長がカナダで逮捕された件はこれを象徴する。トランプ大統領は事前に知らされなかったことを激怒したが、捜査機関にしてみれば、トランプ大統領に習主席との取引に使われかねないことを警戒しての自然な成り行きだ。 そして5月15日には米国商務省によるファーウェイに対する事実上の輸出禁止の制裁も発動された。これはこの貿易交渉決裂の機会を待っていた“オール・ワシントン”主導によるものだ。 実はファーウェイに対する事実上の輸出禁止の制裁は2月ごろから米国政府内では内々に準備されていた。それまでのファーウェイ製品を「買わない」「使わない」から、ファーウェイに「売らない」「作らせない」とするものだ。ファーウェイもこの動きを察知して、制裁発動された場合に備えて、日本など調達先企業に働きかけるなど、守り固めに奔走していた。しかし次第に貿易交渉が妥結するとの楽観論が広がる中で、発動を見合わせざるを得なかったのだ。そうした中、この切り札を切るタイミングが貿易交渉決裂でやっと到来したのだ』、「ファーウェイの副社長がカナダで逮捕された件」を「トランプ大統領は事前に知らされなかった」のは、「捜査機関にしてみれば、トランプ大統領に習主席との取引に使われかねないことを警戒しての自然な成り行き」だったとは初めて知った。捜査機関もなかなかしたたかなようだ。
・『ファーウェイ問題、第2ペンス演説、そして香港問題   “オール・ワシントン”にとって、ファーウェイは本丸のターゲットだ。前述のZTEはいわばその前哨戦であった。今回も習主席は昨年のZTE同様、ファーウェイへの制裁解除を首脳会談直前の電話会談で申し入れていた。 トランプ大統領がこの本丸まで取引材料にすることを警戒して、“オール・ワシントン”もそれをさせないように、水面下でさまざまな手を打ってトランプ大統領をけん制していたようだ。 ペンス副大統領による中国批判の演説を巡る綱引きもそうだ。 中国との新冷戦を宣言した、有名な昨年10月のペンス演説に続いて、天安門30年の6月4日、中国の人権問題を強烈に批判する「第2ペンス演説」が予定されていた。トランプ大統領はこれに介入して、一旦6月24日に延期され、更に無期限延期となっている。米中首脳会談をしたくてしようがないトランプ大統領が、その妨げになることを恐れ介入したのだ。 これに対し、 “オール・ワシントン”もさらなる対中強硬策を繰り出す。本来、予定されていた第2ペンス演説には、中国の大手監視カメラメーカー・ハイクビジョンなど数社に対する制裁の発動も盛り込まれていた。これが当面、表に出なくなったことから、次に用意していた中国のスーパーコンピューター企業への制裁を急きょ発動したのである。 香港問題についてもポンペオ国務長官は「首脳会談で取り上げる」と香港カードを振りかざしていたが、中国は「内政問題」として首脳会談で取り上げることに強く反発していた。人権問題に全く無関心なトランプ大統領本人は、「中国自身の問題」と至って淡泊で、首脳会談で取り上げられることもなかった。 中国は「敵を分断する」のが常とう手段だ。トランプ大統領と対中強硬派の“オール・ワシントン”を分断して、組み易いトランプ大統領とだけ取引をする。そんな大統領の危なっかしさは今後、大統領選で増幅しかねない。“オール・ワシントン”が警戒する日々が続く』、「中国の人権問題を強烈に批判する「第2ペンス演説」が予定されていた。トランプ大統領はこれに介入して・・・無期限延期となっている」、副大統領とまで対立していたとは初耳だ。「中国は「敵を分断する」のが常とう手段」なので、「“オール・ワシントン”が警戒する日々が続く」というのは面白い。
・『前回の首脳会談より後退した貿易交渉の再開  貿易交渉そのものについては、第4弾の追加関税は発動せず、貿易交渉を再開することで合意した。これはまるで昨年12月のブエノスアイレスでの米中首脳会談の光景を繰り返しているようだ。トランプ大統領の本音が経済状況からさらなる関税引き上げをしたくない時のパターンなのだ。この時、NYダウは乱高下して先行き懸念が持たれていた頃だ。 その際、私はこう指摘した。 「トランプ大統領は習近平主席との取引をしたがったようだ。米国の対中強硬路線の根っこにある本質的な問題は手付かずで、90日の協議で中国側が対応することなど期待できない。制度改正など政策変更を必要とするもので、中国国内の統治、威信にも関わる」「今回の“小休止”はクリスマス商戦を控えて、さらなる関税引き上げを避けたぐらいのものだ。これらは何ら本質的な問題ではない。」(関連記事:G20に見る、米中の駆け引きの真相とは) 今回はこの90日という交渉期限さえ設けられていない。いつまでもズルズルといきかねない』、その通りなのだろう。
・『苦肉の交渉カード集めに奔走した習近平  5月初旬の貿易交渉決裂後、米中の攻防はなかなか見ごたえのあるものだった。常に米中双方の交渉ポジションは流動的で、ダイナミックに変化する。 本来、貿易戦争の地合いは国内経済状況を考えれば、圧倒的に米国有利のはずだった。中国国内の失業率は高く、経済指標は悪化をたどっている。関税引き上げによる食料品の物価は上昇しており、庶民の不満も無視できない。他方、米国経済は陰りの兆しが出てきたといっても、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ予想もあって依然、高株価を維持している。米中の相対的な経済の体力は明らかに米国有利だ。ただし、これはトランプ大統領が焦りさえしなければ、という条件付きだ。 5月10日、閣僚級の貿易交渉が決裂して、米国による2000億ドル分の中国製品に対する追加制裁関税が発動された。前述のように5月15日にはファーウェイに対する事実上の輸出禁止の制裁も発動された。 ここまでは明らかに米国の攻勢に中国は受け身一辺倒で、中国指導部は手詰まりで焦りがあった。中国指導部としては党内の対米強硬派や国内世論の不満をなだめなければならない。そのために対米交渉を“対等”に闘っている姿を見せるための交渉カードを早急にそろえる必要があったのだ。8月には定例の重要な会議である北戴河の会議があって、党内の長老たちから対米交渉について厳しい批判を受ける恐れもある。 交渉カードの1つが、米国が輸入の8割を中国に依存するレアアースの禁輸のカードである。習主席が急きょレアアース関連の磁石工場を視察したり、レアアース規制のための検討委員会を設置したり、揺さぶりの動きを繰り出した。(関連記事:「反ファーウェイvsレアアース」の米中衝突を徹底解説) 更にファーウェイに対する制裁に協力する企業をけん制するために、中国版のブラックリストの策定も検討するという。中国製の先端技術の禁輸をほのめかすという、“空脅し”まで繰り出した。 この段階ではいずれも検討している動きを見せて、米中首脳会談に向けて揺さぶりになればよいのだ。そして米国が繰り出す対中制裁に対して“対等”に対応していることを国内に示せればよい。 香港問題で地合いが悪くなると、電撃的に北朝鮮を訪問して、交渉カードを補強したのもその一環だ。「中国抜きでの北朝鮮問題の解決はない」と、中国の戦略的価値を誇示できればよい。メディアの目を香港問題からそらす効果もある』、「手垢」のついたレアアース問題を持ち出したり、「電撃的に北朝鮮を訪問」などが、「交渉カードを補強」というのはなるほどと納得した。
・『中国に見透かされたトランプの焦り  6月に入ってからのトランプ大統領のツイッターを読めば、中国との首脳会談をやりたい焦りがにじみ出ていた。大統領再選の立候補宣言をして、選挙戦を考えてのことだ。 「会わないのなら、第4弾の3000億ドルの関税引き上げをする」 このように5月13日に第4弾の制裁関税を表明したものの、本音ではやりたくなかったのだろう。これまで累次の制裁関税をやってきて最後に残ったもので、本来やりたくないものだ。消費財が4割も占めて、消費者物価が上がってしまう。議会公聴会でも産業界からは反対の声の大合唱だ。選挙戦で民主党の攻撃材料にもなりかねない。そこで振り上げた拳の降ろしどころを探していた。 中国もそんなことは重々承知で、第4弾は「空脅し」だと見透かして、首脳会談への誘い水にも一切だんまりを決め込み、じっくりトランプ大統領の焦りを誘っていた。 中国にしてみればトランプ大統領の心理状態がツイッターの文面で手に取るようにわかる。 首脳会談をしたいトランプ大統領をじっくりじらして、直前のサシでの電話会談で条件を申し入れて首脳会談の開催を決める。こうして首脳会談は中国のペースで進んでいった』、「首脳会談への誘い水にも一切だんまりを決め込み、じっくりトランプ大統領の焦りを誘っていた。 中国にしてみればトランプ大統領の心理状態がツイッターの文面で手に取るようにわかる」、政治家のツイッター利用は、外交面ではマイナス効果のようだ。「ディールの達人」も形無しだろう。
・『“オール・ワシントン”の動きは収束しない  こうして本来、地合いが悪いにも関わらず、巧みな
駆け引きで中国ペースで終始した今回の米中首脳会談であった。 しかし貿易交渉を再開するといっても、それぞれ国内政治を考えれば、双方ともに譲歩の余地はまるでない。中国も補助金問題や国有企業問題などを中国にとって原理原則の問題と位置付けたからには、国内的に譲歩の余地はない。米国も大統領選では対中強硬がもてはやされる。あとは国内経済次第だ。急激に悪化して軌道修正せざるを得ない状況になるかどうかだ。 いずれにしても、関税合戦が収束しようがしまいが、米中関係の本質ではない。 根深い“オール・ワシントン”による中国に対する警戒感は、中国自身が国家資本主義の経済体制を軌道修正しない限り、延々続くと見てよい。中国がかつて、鄧小平時代の「韜光養晦」(注)に表面的には戻ろうとしても、一旦衣の下の鎧(よろい)が見えたからには、手綱を緩めることはまずない。 例えば、中国に対して量子コンピューターなどの新興技術(エマージング・テクノロジー)の流出を規制するための“新型の対中ココム(かつての対共産圏輸出統制委員会)”の導入の準備も着々と進められている。米国の大学も中国企業との共同研究は受け入れないなど、サプライチェーンだけでなく研究開発分野の分断も進んでいくだろう。 こうした中で、今後、日本政府、日本企業は、安全保障の視点でどう動くべきかという問題を米国側から突き付けられる場面も想定しておくべきだろう。 大統領選にしか関心のないトランプ大統領にばかり目を奪われず、“オール・ワシントン”の動きも見逃してはならない』、習近平が一時、大国意識丸出しで驕り高ぶって、「鎧」をひけらかしていたツケが出たのかも知れない。「トランプ大統領にばかり目を奪われず、“オール・ワシントン”の動きも見逃してはならない」、というのはその通りだろう。
(注)韜光養晦:とうこうようかい。爪を隠し、才能を覆い隠し、時期を待つ戦術を形容するために用いられてきた(Wikipedia)

第三に、元駐中国大使で宮本アジア研究所代表の宮本 雄二氏が7月2日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「米中協議、再開しても変わらぬ対立の基本構図」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00023/070100073/?P=1
・『日本がホストした今回の20カ国・地域首脳会議(G20サミット)は、改めてその重要性を世界に再確認させたと言ってよかろう。首脳宣言において「保護主義」という言葉はなかったが、自由貿易の原則は明記し、WTO(世界貿易機関)改革を進めることで合意を見た。日本が提唱する「大阪トラック」(データ流通、電子商取引に関する国際的なルール作り)も、この文脈の中で意味を持つ重要なイニシアチブだ。 成果は不十分、見通しは不明との厳しい評価もある。だが、世界の流れが、ルールよりも力、交渉よりも既成事実の押しつけに向かいかねない状況下で、よく健闘したと評価すべきだ。 定期的な首脳会議を含む国際対話のメカニズムは万難を排して生き残らせるべきだ。首脳会議というものは、休み時間でも待ち時間でも、いつでもできる。もちろん正式に時間をとって会談をしてもよい。首脳同士の意思疎通を図るきわめて重要なメカニズムなのだ』、「G20サミット」全体の評価は、立場上、甘くならざるを得ないのだろう。
・『変わらぬ、対立の基本構図  その中で最も関心を集めたのが米中首脳会談であった。米中交渉の継続が確認され、対中追加関税も先送りされ、米企業が華為技術(ファーウェイ)に部品を販売するのも認められることになった。これで世界は一息ついたということだ。 だが、その先に目をやるといかに厳しい現実が待っているか、すぐに分かる。本年5月、米中が交渉を中断せざるを得なかった基本構図はそのままだからだ。米国があらゆる手段を使って中国の台頭を押さえつけようとし、中国がそれに徹底抗戦――これがその構図だ。 その象徴が技術をめぐる覇権争いであり、当面、ファーウェイ問題に集約される。中国がこの問題の解決なしに米国と合意することはないと見られていたし、ドナルド・トランプ大統領もこの問題での譲歩をほのめかして、中国側の歩み寄りを促そうとしていた。米国は今回、そのトランプ流の交渉術を使って交渉継続の合意に持ち込んだのだろう。中国側は農産品の購入を約束したようだし、北朝鮮問題をめぐっては習近平国家主席が直前に訪朝し、トランプ大統領に土産を準備した。 しかしワシントンに目を向ければ、力で中国を押さえ込もうと考える対中強硬派の勢いは衰えていない。トランプ政権の中にも対中強硬派は多い。今後の米中折衝の中でファーウェイに関し、今回の首脳会談において果たして何が約束され、その具体的な中身は何だったのかについて、米中の間でもめる可能性は甚だ大きい。 トランプ大統領の記者会見での発言を聞いてもよく分からない。ファーウェイに対する米国政府の措置は米国の「国家安全保障」の観点からなされているものであり、大統領の一存で勝手に中身を変えられるものではないだろう。今回の合意の中身といわれるものが、米国内の政治状況に応じて変わっていく可能性さえあるのだ。 「チャブ台返し」外交は、人から「信頼」を奪い、合意の成立を著しく困難なものにしてしまう。米国がこれ以上の制裁を科さないと約束の上、今年5月の時点に戻り交渉を再開することにしたとしても、何が再交渉のベースなのかについて、またもめるだろう』、「「チャブ台返し」外交は、人から「信頼」を奪い、合意の成立を著しく困難なものにしてしまう」、というのはその通りだ。
・『中国の“待ちの作戦”は米国の“耐える力”を過小評価  中国も余裕しゃくしゃくというわけでは全くない。交渉再開の対価は大きい。3000億ドル分の対米輸出に対する新規制裁は回避したものの、2000億ドル分の制裁関税は5月に10%から25%に引き上げられたままだ。しかも交渉再開は農産品の購入と結びつけられている。ファーウェイもどこまで救済されるかはっきりしていない。習近平国家主席が緊張気味の渋い顔を続けるのも分からないわけではない。 しかし、この危機を乗り越えれば時間は中国に有利に作用するという確信めいたものはあるようだ。中国は生き残り、今より強くなるという見通しといってもよい。交渉を継続さえしていれば危機にはならない。今の状況をだらだら続けていけば、そのうち米国で変化が起こるという“待ちの作戦”といってもよい。ファーウェイなどの先端企業を全力で守りながら耐え忍ぶことになる。 この戦略的判断は、1つには、米国は国民の不満を抑えきれないが、中国は可能だという見方に裏打ちされている。経済的打撃がもっと米中の国民に及ぶようになれば中国の方が耐えられるという判断だ。しかしこの見方は、米国民が中国の台頭を真に脅威と見なしたときに示すであろう“耐える力”を過小評価している。ワシントンでは今や、中国がサイバー攻撃などの手段を使って米国の民主主義を壊そうとしているという見方まで出てきている。簡単に中国の方が有利だという結論にはならないのだ。 2つ目として、中国が最近「自力更生」を強調し始め、米国による締め出しに備えようとしている点を挙げることができる。中国が基本的には自力で今日の宇宙産業をつくり出したことは事実だ。だが、これから加速度的に拡大し深化する技術革新の世界を「自力」だけで生き延びることができるとは思えない。権威主義的な社会においても、上からの指示で知識や技術の「応用」を創新することはできる。しかし全く新しい知識や技術そのものの創新(イノベーション)は、全てのことを疑ってかかり、否定することのできる「自由な精神」がなければ不可能だ。少なくとも現在の中国共産党のシステムは、それを許容していない』、「中国の“待ちの作戦”は米国の“耐える力”を過小評価」というのはその通りだろう。。
・『中国における対外強硬派と協調派の争い  米中対立の激化は、中国国内のナショナリズムを刺激し、対外強硬派の勢いを強めている。中国語で米国は「美国」になる。「恐美派」や「崇美派」を批判する論評も増えてきた。その傾向を強めれば強めるほど自国に対する過大評価に陥りやすくなる。対外強硬姿勢は、南シナ海の軍事化を強め、フィリピンの漁船を圧迫し、尖閣諸島周辺への中国公船の連日の出没となる。2012年以来の中国の対外強硬姿勢が中国と周辺諸国との関係を悪化させ、中国の国際的孤立を招いたにもかかわらず、またそうしようとしている。 中国国内においても国際協調を求める声は決して小さくはない。しかし、自国の経済的利益を赤裸々に打ち出すトランプ政権の自国第一主義と対中経済制裁は、中国国民の反発を招き、中国国内の国際協調派の立場を損ねている。だがナショナリズムに煽(あお)られて米国のやり方にならい、中国が外国企業を敵味方に峻別(しゅんべつ)して圧迫するならば、多くの外国企業が中国市場から離れることになるだろう。結局、中国のためにならない。 中国国内も決して一枚岩ではないのだ。だが内政干渉もどきの米国の圧力に屈してぶざまな譲歩もできない。中国のこれからの発展の芽を摘むような米国の抑圧に屈することもできない。中国も狭い範囲でしか動く余地はないのだ。 米中が、どういう交渉をするかはそれぞれの国内事情が一層大きく影響するだろう。お互いに譲歩は難しい。衝突を避けながら国内向けに説明可能なギリギリの落としどころを探りながらの交渉となろう。 米中対立を全面的に解決するために払うべき国内的代価は、あまりに大きくなってしまった。全面的解決のためにはより大きなピクチャー、つまり追求する理念を国民に示して妥協の必要性を説き、国民の支持を得る必要がある。トランプ大統領にその理念はない。中国側も世界と協調するためには経済と軍事安全保障面の両方で方向の転換が不可欠であり、党と国民の支持を取り付ける必要がある。そう主張する中国国内の声はまだ小さい。 それでも、少なくとも交渉は続いているという印象を内外に与え続ける必要はある。米中ともに本当に衝突する気はないのに、不測の事態が本当に衝突を招きかねないからだ。交渉が停滞すれば再度、首脳会談をセットし、それをモメンタムとしながら交渉を続けていくこととなろう。 憂鬱な将来展望だが、それが新しい現実だと割り切るしかなかろう。日本外交は米中衝突を回避する努力を続け、経済界は最適オプションの再調整をする。それしかないだろう』、どうも「憂鬱な将来展望」は避け難いようだ。日本経済も大きなマイナスの影響を受けると覚悟した方がよさそうだ。消費増税どころではないのかも知れない。
タグ:日経ビジネスオンライン 米中首脳会談 細川昌彦 米中経済戦争 (その8)(ついに「長征」を宣言した習近平氏 米国との持久戦を覚悟、トランプ氏“ファーウェイ発言”の裏にワシントンの暗闘、米中協議 再開しても変わらぬ対立の基本構図) 「ついに「長征」を宣言した習近平氏、米国との持久戦を覚悟」 「長征」 形勢不利の中でも持久戦に切り替えて耐え忍んだことが反転攻勢のきっかけとなった 習近平国家主席は「今こそ新たな長征に出なければならない」と国民に呼びかけた 米中両国の交渉は典型的な「囚人のジレンマ」に陥っている 天安門事件後は「豊かさ」で国民の不満を抑え込む 「トランプ氏“ファーウェイ発言”の裏にワシントンの暗闘」 ファーウェイに対して「事実上の禁輸」になっているのは、ファーウェイが「安全保障上の重大な懸念がある」と米商務省によって認定され、いわゆる“ブラックリスト”に載ったからだ 超党派の議員から「トランプ発言」への批判が噴出 「ファーウェイの問題は安全保障の問題で、貿易交渉で交渉材料にすべきではない」 トランプvs“オール・ワシントン”の綱引き “オール・ワシントン”の対中警戒感は根深く、トランプ政権以前のオバマ政権末期からの筋金入り ファーウェイの副社長がカナダで逮捕 トランプ大統領は事前に知らされなかったことを激怒したが、捜査機関にしてみれば、トランプ大統領に習主席との取引に使われかねないことを警戒しての自然な成り行きだ ファーウェイ問題、第2ペンス演説、そして香港問題 中国の人権問題を強烈に批判する「第2ペンス演説」が予定されていた。トランプ大統領はこれに介入して、一旦6月24日に延期され、更に無期限延期となっている “オール・ワシントン”もさらなる対中強硬策を繰り出す 中国のスーパーコンピューター企業への制裁を急きょ発動 香港問題についてもポンペオ国務長官は「首脳会談で取り上げる」と香港カードを振りかざしていたが トランプ大統領本人は、「中国自身の問題」と至って淡泊で、首脳会談で取り上げられることもなかった 前回の首脳会談より後退した貿易交渉の再開 苦肉の交渉カード集めに奔走した習近平 レアアースの禁輸のカード 電撃的に北朝鮮を訪問して、交渉カードを補強 中国に見透かされたトランプの焦り 中国もそんなことは重々承知で、第4弾は「空脅し」だと見透かして、首脳会談への誘い水にも一切だんまりを決め込み、じっくりトランプ大統領の焦りを誘っていた トランプ大統領の心理状態がツイッターの文面で手に取るようにわかる 首脳会談をしたいトランプ大統領をじっくりじらして、直前のサシでの電話会談で条件を申し入れて首脳会談の開催を決める。こうして首脳会談は中国のペースで進んでいった “オール・ワシントン”の動きは収束しない 鄧小平時代の「韜光養晦」 大統領選にしか関心のないトランプ大統領にばかり目を奪われず、“オール・ワシントン”の動きも見逃してはならない 宮本 雄二 「米中協議、再開しても変わらぬ対立の基本構図」 変わらぬ、対立の基本構図 米国があらゆる手段を使って中国の台頭を押さえつけようとし、中国がそれに徹底抗戦――これがその構図 ファーウェイに対する米国政府の措置は米国の「国家安全保障」の観点からなされているものであり、大統領の一存で勝手に中身を変えられるものではないだろう 「チャブ台返し」外交は、人から「信頼」を奪い、合意の成立を著しく困難なものにしてしまう
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イラン問題(その2)(トランプ イラン攻撃取り消しは作戦開始10分前、ベトナム イラク イラン…アメリカが繰り返す「悪のレッテル作戦」 イランの犯行を裏付ける証拠はない、タンカー攻撃 自作自演だった。見えてきたトランプ政権と実行組織のつながり) [世界情勢]

イラン問題については、昨年8月24日に取上げた。ホルムズ海峡の緊張が俄かに高まった今日は、(その2)(トランプ イラン攻撃取り消しは作戦開始10分前、ベトナム イラク イラン…アメリカが繰り返す「悪のレッテル作戦」 イランの犯行を裏付ける証拠はない、タンカー攻撃 自作自演だった。見えてきたトランプ政権と実行組織のつながり)である。なお、タイトルは、中東情勢(その12)(イラン問題1)から変更した。

先ずは、6月22日付けNewsweek日本版「トランプ、イラン攻撃取り消しは作戦開始10分前」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/06/10-59_1.php
・『トランプ米大統領は21日、イランによる米軍の無人偵察機撃墜に対する報復措置として軍事攻撃を承認したものの、その後撤回したことについて、軍事攻撃は無人偵察機の撃墜に対する報復措置としては釣り合いが取れないと判断したためだと説明した。 トランプ大統領は「昨晩、3カ所に対する報復攻撃を実施する準備を整えていたが、(イラン側で)何人が死亡する可能性があるのかと質問したところ、150人との答えが返ってきた」とし、「攻撃開始の10分前に中止を決めた。無人偵察機の撃墜に対する報復措置として(軍事攻撃は)不釣合いだ。急ぐことはない」とツイッターに投稿した。 その上で、イランに対する制裁措置は効果を発揮しており、20日夜に追加制裁を導入したと表明。ただ詳細については明らかにしなかった。 トランプ政権高官によると、ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)やポンペオ国務長官、ハスペル米中央情報局(CIA)長官らが報復攻撃に賛成したという。高官は「大統領補佐官らや国防総省首脳部の間で、イランの活動に対する適切な対応を巡り完全に意見が一致していた。大統領が最終決断を下した」と話した』、「無人偵察機の撃墜に対する報復措置として(軍事攻撃は)不釣合い」として中止したというのは、不自然だ。「不釣合い」であることなど「報復攻撃を実施する準備」段階でも分かっていた筈で、国務長官やCIA長官らも分かっていながら、攻撃を大統領に進言したとは到底信じられない。緊迫感を出すために、初めから仕組まれたシナリオなのではなかろうか。
・『イラン当局者はロイターに対し、オマーンを通じてトランプ大統領から米軍による攻撃が近く実施されるとの警告を受けたことを明らかにしていた。ただトランプ氏は同時に、戦争には反対しており、協議を行う意向も示したという。 あるイラン政府当局者は匿名を条件に「トランプ(大統領)は、このメッセージでイランとの戦争に反対しており、様々な問題についてイランと協議したいと述べている。短期間で返答するよう求めているが、この問題について決めるのは最高指導者ハメネイ師だというのが、イランの現時点での返答だ」と発言した。 別の当局者は「われわれは(ハメネイ師が)いかなる協議にも反対していることを明確にしているが、メッセージは伝える。ただし、オマーン当局には、イランを攻撃すれば地域や国際社会に重大な結果を招くと伝えた」と述べた。 米NBCのチャック・トッド記者は、報道番組「ミート・ザ・プレス」でのトランプ大統領とのインタビュー後、トランプ氏がイランとの交渉に前提条件を一切設けず、ロウハニ大統領か最高指導者のハメネイ師と話し合う意向を示したと伝えた。 トランプ大統領の突然の決断は、ワシントンでさまざまな反応を呼んだ。尻込み批判の一方、抑制を評価する声も上がった。 ペロシ下院議長(民主党)は記者団に「あの規模の巻き添え被害を伴う攻撃を行えば、かなり挑発的とみなされるだろう。大統領がそうした選択をしなかったことをうれしく思う」と述べた。 米国が当面、外交的手段の模索に意欲を示す兆候も出ている。外交筋らによると、米国は国連安全保障理事会に24日の非公開会合招集を求めたという。 トランプ大統領は20日、イランが米軍の無人偵察機を撃墜したことについて「誤射」によるものとの見方を示していた。 記者団に「おそらく間違いをやらかしたのだと思う。将校か誰かが誤ってドローンを撃ち落してしまったのだろう」と述べた・・・』、攻撃中止が、イランを交渉に追い込むとでも思っていたのだろうか。どうも逆効果なのではあるまいか。

次に、『週刊現代』特別編集委員の近藤 大介氏が6月18日付け現代ビジネスに掲載した「ベトナム、イラク、イラン…アメリカが繰り返す「悪のレッテル作戦」 イランの犯行を裏付ける証拠はない」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/65285
・『タンカー攻撃の犯人  今週は、ファーウェイ本社視察の第2弾を書こうと思っていたが、安倍晋三首相がイランを訪問している真っ最中の6月13日に、2隻のタンカーへの攻撃事件が発生した。そのことで、5日が経ってもいまだに世界は騒然としているので、急遽イランの話を書くことにする。 このコラムは基本は中国問題をフォローしているが、中国はイラン最大の貿易相手国であり、中国とイランの「浅からぬ縁」についても後半で述べたい。 イラン時間の6月13日午前7時15分頃(日本との時差は4時間半)、東京千代田区に本社を置く国華産業が運行するパナマ船籍のタンカー「コクカ・カレイジャス」(全長170m、1万9349t)が、オマーン湾のホルムズ海峡付近で何者かに攻撃を受け、左舷後方のエンジンルームから火の手が上がった。この日はエタノール2万5000tを積んで、サウジアラビアのアルジュベール港を出て、シンガポールに向かっていた。 21人のフィリピン人乗組員が、慌ててCO2消火器を噴射して火を消し止めたが、約3時間後に再び、今度は左の船体中央に攻撃を受けた。これは危険と見た乗組員全員が、救命艇に乗り換えて脱出。近くを航行中の船に救出された。 もう一隻、ノルウェーのフロントラインが所有するタンカー「フロント・アルタイル」(全長251m、6万2849t)も同日、同じ海域で同様の攻撃を受けた。アブダビから台湾へ向けてナフサを積んでいたが、やはりフィリピン人11人、ロシア人11人、ジョージア人1人の乗組員は、救命艇に乗って脱出し、イラン海軍の艦艇に救出された。 以上が事件の概要だが、アメリカのドナルド・トランプ大統領は同日、早々と「イランの仕業に違いない」とコメント。マイク・ポンペオ国務長官も同日、「イランに責任がある」と断定した。 アメリカが「犯人」としているのが、イラン革命防衛隊(IRGC)だ。1979年のイラン革命後に創建された最高指導者アリ―・ハメネイ師直轄の「第2軍隊」で、総兵力は10万人以上に上る。 一方、イラン側は、犯行を名指しされたことに対して、怒り心頭である。モハンマド・ザリフ外相は同日、「根拠のない主張を断固否定する。イランの敵が背後にいる可能性がある」と述べた。BBCの映像を見ると、イラン国民もアメリカに対して、強いフラストレーションを溜めている。 アメリカは、そこまで「イラン犯行説」を主張するのであれば、イランの犯行であると世界の誰もが納得する証拠を示すべきである。 14日、パトリック・シャナハン国防長官代行は「これからできるだけの情報を開示していく」と述べたにとどまった。また同日、アメリカ軍は、「イラン革命防衛隊が攻撃された後のタンカーに近づき、不発の機雷を除去した映像」を公開した。 だが、自国の近海に爆発するかもしれないタンカーが漂流していれば、機雷除去に向かうのは当たり前のことだろう。 このように、誰もが納得する根拠を示さないで「悪のレッテル」を張るアメリカの手法は、現在、中国のファーウェイ・テクノロジーズ(華為技術)を非難しているのと、まったく同じである』、「アメリカの手法」は誰がみても不自然だ。
・『「ギリシャ悲劇」を繰り返すな  今回の事件で、私が思い起こしたのは、ベトナム戦争にアメリカが参戦するきっかけとなった1964年8月のトンキン湾事件である。 以下の引用は、27ヵ国に翻訳されたティム・ワイナー『ニューヨークタイムズ』記者の著作『CIA秘録』(邦訳は2011年、文春文庫)からのものである。〈 戦争はトンキン湾決議によって公認された。この決議は、8月4日にアメリカの船が国際水域で北ベトナムからいわれのない攻撃を受けた、と大統領と国防総省が発表し、これを受けて採択されたものだった。(中略)それは単純な間違いなどではなかった。ベトナム戦争は捏造された諜報に基づく政治的な嘘で始まった。(中略)だが事実の全容がNSA(国家安全保障局)公表の詳細な供述書によって明らかにされたのは、2005年11月になってのことだった 〉 ベトナム時間の1964年8月4日午後10時頃、トンキン湾を航行中のアメリカ海軍の2隻の駆逐艦は、北ベトナム軍から攻撃を受けたと勘違いし、反撃しながら回避行動を取った。 この軍からのこの報告と、NSAが8月4日夜のものと偽った2日前の出来事に関する傍受記録の報告から、リンドン・ジョンソン大統領は北ベトナムとの戦争を決意。8月7日に議会を通過させ、アメリカは泥沼のベトナム戦争へと突入していった。 〈 2005年11月のNSAの報告書は告白する。「厖大な量の報告を利用していたとすれば、(北ベトナムからアメリカへの)攻撃などなかった事実が明らかになっていただろう」。(中略)諜報は「攻撃があったとする見解を支えるために故意に歪められた」のである。(中略) この「ギリシャ悲劇」ともいうべき政治劇は、40年後に再演され、イラクの兵器に関する虚偽の諜報が別の大統領(ジョージ・W・ブッシュJr)の戦争を正当化することになった 〉 まさに、2度あることは3度あると言う通り、1964年のベトナム戦争、2003年のイラク戦争、そして今回ではないのか。「ギリシャ悲劇」を再々演させないためにも、われわれは何より、冷静に事実のみに基づいて判断することが求められている』、まさに、「2度あることは3度ある」のが今回のようだ。
・『国際常識に照らせばあり得ない  冷静に判断するということで言えば、そもそもアメリカとイランの対立が起こったのは、トランプ大統領が昨年5月8日、イラン核合意から一方的に離脱を宣言したことが原因である。 2002年の一般教書演説でブッシュ大統領は、イラク、イラン、北朝鮮を「悪の枢軸」と呼び、実際に2003年3月、イラク戦争を開戦した。 それが一段落し、イラクのサダム・フセイン大統領が処刑される半年前の2006年6月、イランとの核合意を目指す「P5+1」体制が発足した。「P5」とは国連安保理の常任理事国のアメリカ、中国、ロシア、イギリス、フランスで、「+1」とはイランと深い関わりを持つドイツだ。これに当事者イランを含めた7ヵ国で、イランの核開発問題を協議したのだ。 それから紆余曲折を経て、9年後の2015年7月、ついにイラン核合意(JCPOA)が成立した。簡単に言えば、イランが15年間、核開発を凍結し、国連及び各国は対イラン制裁を緩和するというものだ。日本外務省のある多国間交渉の専門家に言わせれば、「今世紀に人類が成し得た最高の芸術的外交作品」だという。 だが、「前任のオバマ大統領が行ったものはすべて悪」と考えるトランプ大統領は、この「芸術的外交作品」を、あっさりポイ捨てしてしまった。 さらに今年5月2日には、イラン産原油の禁輸制裁から8ヵ国(中国、インド、イタリア、ギリシャ、日本、韓国、台湾、トルコ)に認めてきた適用措置を終了させ、「今後もイラン産原油の輸入を続ければアメリカの制裁対象にする」とした。 これにイランは猛反発し、核合意が履行されない場合、7月8日から核開発を再開すると警告している。そんなさなかに、今回のタンカー攻撃事件が起こったのだ。 それにしても、百歩譲って、もしもアメリカが主張するようにイランの犯行だったとするなら、安倍首相はとんだ「赤っ恥外交」を行ったことになる。「敵対するアメリカとイランの仲裁に行く」と勇んで、あえて火中の栗を拾いに行ったというのに、結果は飛んで火に入る夏の虫のように、火に油を注ぐ結果になったのだから。 そもそも安倍首相が、ハサン・ロウハニ大統領や、最高指導者のハメネイ師と会談している時期に、イランが日本のタンカーを攻撃するものだろうか? ザリフ外相は5月16日、わざわざ訪日して首相官邸を訪れ、仲裁の労を取ってくれる安倍首相に、頭を下げているのだ。国際常識に照らせば、とてもあり得る話ではない。 むしろ日本の同盟国とは思えない不見識な行動に出たのは、アメリカの方だ。安倍首相がロウハニ大統領と会談した12日、アメリカ財務省は、「イラン革命防衛隊が支援する武装組織に武器を密輸した」として、企業1社と個人2人を新たに制裁対象に加えたと発表したのだ。 安倍首相としては、和平を仲介している最中に後ろから弾が飛んできたようなもので、二重に「赤っ恥外交」である』、アメリカの行動で、「安倍首相としては、和平を仲介している最中に後ろから弾が飛んできたようなもので、二重に「赤っ恥外交」である」というのは、本当に考えられないような暴挙だ。
・『日本とイランの関係  そもそもなぜこんな時期に、安倍首相はイランを訪問したのだろうか? ある側近に訊ねると、こう答えた。 「安倍総理の脳裏にあるのは、一にも二にも7月21日に控えた参院選だ。参院選に向けて『外交の安倍』をアピールしようと、『令和初の国賓』としてトランプ大統領を招き(5月18日~21日)、イランを訪問し(6月12日~14日)、大阪G20サミットを開く(6月28日~29日)。 もう一つ、北朝鮮を訪問して金正恩委員長と日朝首脳会談も行いたいと模索しているが、こちらは難航している。 安倍総理のイラン訪問の話が出たのは、先々月にホワイトハウスを訪問し、ワシントン近郊でゴルフをやった時だった(4月26日~27日)。安倍総理の方から、『近くイランを訪問して中東の緊張緩和に取り組みたい』と申し出たのだ。それに対し、トランプ大統領も『よろしく頼む』となった。 安倍総理は、父・安倍晋太郎外相の秘書官だった時(1983年8月)、当時イラン・イラク戦争の真っ最中だった両国を訪問し、戦争の仲裁に一役買ったことが、強く記憶に残っている。当時、イラクで饗されたユーフラテス川で釣ったばかりの大魚を食べたら、父子共に腹を下して大変だったなんてエピソードも聞いたことがある。 それで5月にトランプ大統領が来日した際、さらに具体的に詰めた。安倍総理としては、『外相秘書官時代の再現』のように、イランに加えて、敵対するイスラエル、サウジアラビアも含めた3ヵ国訪問にしようと考えていた。だが、これにはトランプ大統領の雷が落ちた。『オレも今回は中国と韓国へは行かず、日本だけに来たんだぞ。行くならイランだけにしろ!』。 トランプ大統領は、イランとの戦争を、決して望んでいない。言付かったのは、『ロウハニ大統領が新たな2国間交渉に応じるなら、自分も会う用意がある』ということだった」 選挙のために安倍外交があるのだとしたら、これほどお粗末なことはない。言うまでもないことだが、中東情勢は、日本の選挙にお付き合いしてくれるほど生易しい世界ではない。 ただ、今年は日本とイランの国交樹立90周年であり、長年の友好を示す機会ではあった。 資源エネルギー庁の石油輸入調査統計によれば、アメリカがイランへの禁輸を課す前の2017年度の日本の原油輸入先は、1位サウジアラビア39.4%、2位UAE24.8%、3位カタール7.6%、4位クウェート7.3%、5位ロシア5.3%、6位イラン5.2%で、イランは重要な原油輸入先の一つだった。 余談になるが、日本とイランは古代から、浅からぬ縁があった。孫崎享・元駐イラン大使の夫人で、イラン研究家として名高い孫崎紀子氏の労作に、『「かぐや姫」誕生の謎』(2016年、現代書館)がある。 孫崎夫人の研究によれば、日本最古の物語である『竹取物語』は、菅原道真の孫・菅原文時(899年~981年)の作だという。3世紀から400年続いたササン王ペルシャは、638年、アラブから押し寄せたイスラム勢力によって、首都クテシフォンが陥落。最後の王ヤズデギルド3世一族は、東方へ逃亡した。一部は唐の都・長安に辿り着き、王女の一人が高宗皇帝に嫁いでいる。 さらにその一部が、遣唐使の帰路の船に同乗して日本へ辿り着いたというのだ。「孝徳天皇5年(654年)夏4月、吐火羅国男2人女2人舎衛女1人風に被いて日向に流れ来たれり」(『日本書紀』)。「吐火羅」(トカラ)とは王族が一時避難していたトカリスタン(現アフガニスタン)で、舎衛(シャー)とは古代ペルシャ語で「王」の意だという。 以下は省略するが、様々な検証に基づき、「かぐや姫」はペルシャの王女だったというのが、孫崎紀子氏の見解だ。つまり、日本が最初に元号を定めた大化の改新(645年)の時期から、すでに日本とイランは交流していたことになる。マシュー・ペリー提督の黒船が浦賀の港に現れ、アメリカと修好を結ぶ1200年以上も前のことだ』、安倍首相は、「イランに加えて、敵対するイスラエル、サウジアラビアも含めた3ヵ国訪問にしようと考えていた。だが、これにはトランプ大統領の雷が落ちた」、というのはありそうな話だ。「大化の改新(645年)の時期から、すでに日本とイランは交流していた」、というの初めて知った。
・『中国・ロシアとイランの関係  さて、7世紀のヤズデギルド3世一族が中国の高宗皇帝を頼ったように、21世紀のロウハニ大統領も習近平主席を頼った ロウハニ大統領は6月13日午前、安倍首相とハメネイ師の会談に立ち会った。当初は同席予定がなかったが、やはり重要会談ということで、その後のことを考えて同席したのだろう。ハメネイ師は安倍首相に対して厳しい表情で、「トランプとはやりとりする価値もない」と一蹴した。 この会談が終わると、ロウハニ大統領は慌ただしく政府専用機に乗って、キルギスタンの首都ビシケクに向かった。翌14日に、第19回上海協力機構(SCO)サミットに出席するためである。 SCOは、上海でAPEC(アジア太平洋経済協力会議)が開かれた2001年に、主に中央アジアの安定と発展を図ることを目的として、同地で成立した。名称の通り、中国が主導した初の国際組織で、現在の参加国は、中国、ロシア、インド、カザフスタン、キルギス、パキスタン、タジキスタン、ウズベキスタンの8ヵ国。オブザーバーは、アフガニスタン、ベラルーシ、イラン、モンゴルである。 日本とノルウェーのタンカー攻撃事件で、アメリカとイランの対立がさらに激化する中、習近平主席とロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、ロウハニ大統領を温かく迎えたのだった。 習近平主席はSCOサミットで、こう強調した。 「『上海精神』と『一帯一路』(シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロード)の共通認識に則って、グローバルな貿易体制を維持・保護し、開放型の世界経済を構築しようではないか」 この日、習近平主席は、ロウハニ大統領と個別にも会談した。新華社通信が伝えた両首脳の発言は、以下の通りだ。 習近平: 「昨年(5月)、SCO青島サミットの期間に、私とロウハニ大統領は、両国関係及び互いに関心がある地域と国際問題について深く意見を交換し、重要な共通認識に至った。中国としては常に、高度に戦略的かつ長期的な立場から両国関係を見ている。国際情勢や地域の情勢がいかに変化しようと、中国はイランと共に努力し、両国の全面的な戦略的パートナーシップ関係を、引き続き安定して発展、推進させていくつもりだ。 両国は戦略的な意思疎通を強化し、双方の核心的な利益の問題について、互いに支持し合っていくことが大事だ。協調にして対処することを強化し、実務的な協力を安定して展開していくことだ。(中略) 中国はイラン核合意(2015年7月)を全面的に支持し、イランと共に国連、SCOなど多国間の枠組みでの協調や調整を強化していく。そして共同で国際関係の基本的な準則、グローバル主義を断固として守っていく。かつ中国とイランを含む発展途上国の共同利益を維持し、保護していく」 ロウハニ:「イランと中国の関係は、長期的かつ戦略的なものだ。イランは、対中関係を高度に重視し、全方位的に発展させていくよう尽力する。そして『一帯一路』を共に積極的に築き、双方の広範囲での協力の潜在力を掘り起こしていく。 イランは、アメリカが単独でイラン核合意から脱退するという誤った行動に、決然と反対する。そして中国が、国際的な実務社会で積極的な影響を発揮していることを、積極的に評価する。中国との意思疎通と協調を強化していきたい」 さらに習近平主席とプーチン大統領は、ロウハニ大統領を伴って、14日夕刻、隣国タジキスタンの首都ドゥシャンベに向かった。この地で15日に開かれた第5回アジア相互協力信頼醸成措置会議(CICA)に出席するためだった。 CICAは、1992年に独立直後のカザフスタンのナザルバエフ大統領が提唱して始まったアジアの安全保障問題を話し合う国際会議である。参加国は中国、ロシア、インド、イランを始め27ヵ国。オブザーバーは日本を含む13ヵ国である。 これだけのアジアのメンバーを主導しているのは、中国である。前回5年前の上海大会で議長を務めた習近平主席は、円卓に居並ぶ各国首脳を前に、野太い声を響かせた。 「君子は本に務め、本は道より生まれ立つと言うが、私は2015年以来、アジア運命共同体の構築を提唱してきた。4月に『第2回“一帯一路”国際協力サミットフォーラム』(習主席が主催して北京で開催)で共通認識となったように、アジアからゼロサム和の挑発や保護主義を放逐し、貿易と投資を自由化・利便化させ、『一帯一路』の国際協力プラットフォームのもとで、開放された包容力のあるアジアを共同で追い求めていくのだ」 こうして、まさに「捨てる神あれば拾う神あり」という感じで、中国(及びロシア)は、イランを取り込んでしまったのである』、「中国(及びロシア)は、イランを取り込んでしまった」、トランプ大統領もこうしたことは織り込んでいた筈だろうが、次はどうするのだろう。
・『中国経済の心臓部  思えば、中国とイランは、シルクロードの時代から2000年の長きにわたる友好国である。現在でもそのことは変わらず、テヘランの中国大使館のホームページには、こう記されている。 〈 中国とイランは、1971年8月16日に国交を結んだ。1979年にイランイスラム共和国建国後も、関係は良好に発展している。2016年1月、習近平主席は歴史的なイラン訪問を果たし、「制裁解除後時代」にふさわしい全面的な戦略的パートナーシップ関係を結んだ。 2017年に両国の貿易額は371.8億ドル(世界全体の0.9%)で、中国の輸入が185.8億ドル、輸出が186億ドルである。中国にとってイランは重要な原油の輸入国で、2017年の原油輸入は3100万トンを超える。 2017年、中国はイランに、36億3860万ドルの直接投資を行った(世界全体の2.91%)。2017年末時点で、中国のイランへの直接投資残高は36億9500万ドルに上る。同様に中国がイランで請け負っているインフラ整備は累計で587億300万ドルに達する。イラン核合意の後、両国の貿易は活性化している 〉 私は、北京で暮らしていた約10年前、三里屯(「北京の原宿」のような繁華街)にある大きなイラン料理のレストランで、イランの外交官と何度かランチしたことがある。アメリカの悪口を言いまくりながら、コカ・コーラをがぶ飲みするので、「アメリカ経済に貢献しているのでは?」と冷やかしたら、「アメリカを飲み干しているのだ」と切り返された。 その外交官が言っていた文句が、いまも耳に残っている。私が「中国の巨大な経済発展をどう捉えているか?」と聞いた時の返答だ。 「中国が巨人だとするなら、イランはその心臓部だ。なぜならイランが血液にあたる石油を供給してやって、初めて巨人は活動できるからだ。そのことは日本もインドも韓国も、アジアの経済大国はどこも同じだ」 そう言えば、当時付き合っていたモンゴルの外交官も、「万里の長城を造った中国が偉大なのではなく、それを造らざるを得ないほど強大だったモンゴルが偉大なのだ」と誇っていたものだ。 ともあれ、2017年のイランの原油の輸出先は、1位中国28%、2位インド22%、3位韓国18%、4位日本8.2%だから、そのイランの外交官の言葉は、あながち大言壮語とも言えない』、イランと中国の関係がこれほど深いとは、初めて知った。
・『安倍外交の成果が問われる  思えば、「中東を民主化させる」と言って2003年にイラク戦争を起こしたのはブッシュJr.大統領だったが、中東の多くの国がいまだに旧態依然とした独裁王制にある中で、一番民主的な選挙と議会政治を行っているのがイランである。 4月上旬に来日したセイエッド・サジャドプール元イラン外務次官(イラン国際問題研究所長)の講演を聞く機会があったが、次のように述べていた。 「トランプ大統領が昨日、イラン革命防衛隊をテロリストに指定したが、わが国は議会制民主主義がしっかり根づき、過去40年、毎年選挙を実施して物事を決めている。あの大変だった核合意も、6ヵ国と深い議論の末にまとめ上げた。トランプ政権の方こそ、国際協調を勝手に破って他国を追い詰めていく経済的テロリストだ。 イランは、議論と防衛を重要視する国だ。今後トランプ政権がどんな手段に出てこようとも、主体的に責任感を持って防衛していく」 この時、「スープより椀が熱くなってはいけない」というイランの諺を知った。 だが現実は、「アメリカvs.中国・ロシア」という前世紀の冷戦のようなブロック化が進み、スープ(イラン)よりも椀(周辺国)の方がデットヒートしそうな勢いだ。 そんな中で、来週末には、いよいよ大阪G20サミットが開催される。すでに日本にとって「重量オーバー」のような気がしてならないが、この6年半の安倍外交の成果が問われている』、「中東の多くの国がいまだに旧態依然とした独裁王制にある中で、一番民主的な選挙と議会政治を行っているのがイランである」、言われてみれば、その通りなのかも知れない。イランには、トランプ政権の挑発に乗らず、頑張ってほしいところだが、石油輸出がアメリカの圧力で減少するのに我慢できるかがカギだろう。

第三に、6月23日付けMONEY VOICEが高島康司氏の『ヤスの備忘録』連動メルマガ』を転載した「タンカー攻撃、自作自演だった。見えてきたトランプ政権と実行組織のつながり=高島康司」を紹介しよう。
https://www.mag2.com/p/money/714694
・『オマーン湾の日本タンカー攻撃について真実がわかってきた。米国は「イランの仕業」と決めつけたが、実行した組織と米国のつながりを示す証拠が出てきている。(『未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ』高島康司)※本記事は有料メルマガ『未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ』2019年6月21日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ』、これは第二の記事よりストレートなようだ。
・『アメリカが資金援助?イランを陥れる反体制組織とは何者なのか 早々に「イランの仕業」と決めつけ  現地時間の6月13日、東京に本社がある「国華産業」が運行するパナマ船籍のタンカー「コクカ・カレイジャス」は、オマーン湾のホルムズ海峡付近で攻撃を受けた。左舷後方のエンジンルームで爆発があり、船体には機雷が爆発したように見える小さな穴ができた。乗組員の証言では、飛行物体による攻撃に見えたという。乗組員全員は救命艇で脱出し、近くを航行中の船に救出された。 また、ノルウェーのフロントラインが所有するタンカー「フロント・アルタイル」も同じ海域で攻撃を受けた。乗組員は救命艇に乗って脱出し、イラン海軍の艦艇に救出された。乗組員は、魚雷による攻撃のようだったと証言している。 オマーン湾では5月12日にサウジやUAEのタンカーなど4隻が何者かに攻撃を受けた。今回の攻撃はこれに続く事件である。 前回同様、トランプ大統領は「イランの仕業に違いない」とコメント。マイク・ポンペオ国務長官も同日、「イランに責任がある」と断定した』、早手回しの決め付けだ。
・『イラン犯人説への疑念  しかし、トランプ政権のこのような非難に対して、イランは全面的に否認している。これは外部の勢力の陰謀であるとも声明している。 イランのザリフ外相は13日、自身のツイッターで「最高指導者ハメネイ師と日本の首相が広範かつ友好的な対話をしているときに起きた」とし、「イランが提案している地域の対話フォーラムが不可欠になる」と語って各国に外交的解決を呼びかけた。 また日本をはじめ諸外国も、この攻撃が実際にイランによるものかどうか疑念を呈している。 6月13日は安倍首相が、日本の首相としては40年ぶりに訪問し、緊張の高まるアメリカとの関係を仲裁しようとしていたときだ。イランのローハニ大統領、最高権力者のハメネイ師との会談も行われていた。 このようなときに日本の運営するタンカーを攻撃すると、イランにとっては貴重な友好国である日本との関係が損なわれる可能性が高い。これはイランが自らを追い詰める結果になる。 もちろん、このようなときだからこそ、イランはホルムズ海峡の閉鎖を睨んで、タンカーを攻撃する実力があることを明白に示す必要性があったとの見方もある。しかし、これはかなり疑わしい。イランはペルシャ湾に3000隻の自爆攻撃用の高速艇を主体に、ミサイル艇やフリゲート艦、そして小型の潜水艦部隊などを展開している。ホルムズ海峡を通過するタンカーの攻撃が可能なことは、あえて実演しなくても分かることだ』、確かにイランには攻撃のメリットがなさそうだ。
・『アメリカはこれまで多くの戦争をでっちあげてきた  2003年、当時のブッシュ政権は、イラクが大量破壊兵器を秘密裏に保有していることを示す明白な証拠があるとして、イラク侵略戦争を始めた。後にそうした事実はまったく存在せず、ブッシュ政権が提示した証拠はすべて嘘であったことが証明された。 また古くは、1964年には、北ベトナムのトンキン湾に停泊していたアメリカの駆逐艦に2発の魚雷が発射される事件が起こった。当時のジョンソン大統領はこれが北ベトナム軍の仕業だと決めつけ、即座に北ベトナム爆撃を実施した。後にこの攻撃はアメリカ軍による自作自演であったことが分かった。 アメリカには戦争を引き起こす口実をでっちあげる長い歴史がある。それもあって、オマーン湾で起こった今回のタンカーの攻撃事件に対するトランプ政権の説明は、あまり信用されていない』、「アメリカには戦争を引き起こす口実をでっちあげる長い歴史がある」、第二の記事でも指摘していた点だ。
・『鮮明な画像  一方トランプ政権は、このような状況を打破し、この攻撃がイランによるものであることを証明するために、日本が運用するタンカー「コクカ・カレイジャス」に付着させた不発の機雷を高速艇が撤去する様子を撮影したビデオを公開した。そこには、イラン革命防衛隊が保有する3,000隻の高速艇によく似た船が写っていた。 さらに18日には同じ高速艇のもっと鮮明なカラー画像が公開された。たしかに革命防衛隊の高速艇に似ていることは間違いない。 これらの証拠をもとにポンペオ国務長官は、「この海域でこうした攻撃を実施する能力があるのはイランだけだ」としてイランの責任を追求している』、「不発の機雷を高速艇が撤去」しているのであれば、後始末をしているのに過ぎないのに、犯人扱いとはトランプ政権の主張は乱暴過ぎる。
・『どう見てもイランではない  しかし、どれだけの証拠を見せられても、今回のような攻撃を行う動機はイランには見当たらないので、これがイランによるものだとはにわかには信じがたい。 この攻撃を実行した勢力が別に存在するのなら、それはどのような勢力なのだろうか? このような疑問に答えようと情報を集めていたら、極めて興味深い情報を見つけた。「イスラエリ・ニュースライブ」というネットメディアがある。ここはスティーブ・ベンヌンというキリスト教の原理主義者が、聖書の預言の実現過程を世界情勢に探ることを目的にして、中東に関連したニュースを解説するメディアである。興味深いことに、イスラエルのリクード政権には非常に手厳しく、批判的だ。 ここは5月7日に興味深い番組を放映した。5月7日はオマーン湾の4隻のタンカー攻撃があった5月12日の5日前である。この放送では番組のホストのスティーブ・ベンヌンが、イスラエルにいる情報筋から得たというメールを紹介していた。それは次のようなものだった。 スティーブへ ジョン・ボルトンと近い関係にあるイランの反体制組織(People’s Mojahaddin of Iran)のメンバーが、イラン革命防衛隊がペルシャ湾で使っている高速艇と同じような船を手に入れようとして逮捕されたようだ。 明らかに自作自演の偽旗作戦が進行しているが、これはアメリカというよりも、この反体制組織が状況を混乱させるためにやっていることだ。 まだ米海軍とイラン海軍は偶発的事故を回避するための調整が行われている。イラン海軍は厳戒態勢にあり、だれも休暇を取っていない。毎日100万バレルの原油を売っているのだからね。 このようなメールであった。これを見ると、イランの反体制組織が革命防衛隊によく似た高速艇を手に入れ、イランを追いつめるための偽旗作戦の実施を準備している可能性があることを示している。 6月13日のタンカー攻撃には、日本が運用するタンカーに革命防衛隊によく似た高速艇が接近し、機雷を外しているビデオが公開された。この事件が起こる1カ月以上前に、イランの反体制組織が高速艇の入手を試み、自作自演の偽旗作戦を実施しようとしていると警告する情報があるのだ』、高速艇が「イランの反体制組織」のものというもありそうな話だ。
・『モジャーヘディーネ・ハルグ  このメールにある「People’s Mojahaddin of Iran」とは、「モジャーヘディーネ・ハルグ」のことである。別名「MEK」とも呼ばれている。 「MEK」は、1965年に当時のイランを統治していたパーレビ国王の独裁体制の打倒を目標に設立された反体制組織だ。イデオロギーは社会主義で、イスラムとは距離を保っていたが、1979年のイラン革命でホメイニ師が指導する反体制勢力が強くなるとこれと協力し、パーレビ体制を打倒した。 しかし、ホメイニ師によるイスラム原理主義の国家体制が出現すると、今度は現在のイスラム共和国の体制に離反し、政権の打倒を目指すようになった。1980年から1988年まで続いたイラン・イラク戦争では、サダム・フセインの庇護のもと、イラク側で戦った。2003年にフセイン政権が崩壊すると、イラク国内にいた「MEK」のメンバーは米軍に投降した。 このように、イランと敵対するイラク側で戦ったために「MEK」はイラン国内では裏切りものと見なされ、国内の支持基盤はとんどない。「MEK」の唯一の基盤は、フランスに住みパーレビ政権を支持する人々だ』、なるほど。
・『本拠地はアルバニア  このような「MEK」だが、この情報を見るとかなり小さな組織であるように思うかもしれない。しかし、実際はそうではない。アルバニアに相応な規模の軍事施設を持ち、5千人から3万人のメンバーを有する強力な軍事組織である。 「MEK」はアメリカではテロ組織として指定されていたが、2012年にそれは突然と解除された。同じ年、アルバニアはイランとの外交関係を回復する準備をしていたが、それを突然と中心(正しくは中止)した。そして、やはり2012年に「MEK」がアルバニアに拠点を移し、巨大な本拠地の建設を始めた。 2012年にアメリカが「MEK」のテロ組織指定を解除した理由は分かっていないが、オバマ政権から多額の支援金の支払いと引き換えに、「MEK」の拠点をアルバニアに構築する提案がアルバニア政府にあったとの情報がある。 アルバニア政府はこれを受け入れたので、イランとの外交関係を破棄したのではないかと見られている』、アメリカのテロ撲滅hが如何に「ご都合主義的」かを物語っている。
・『ジョン・ボルトンとの関係  そして興味深いのは、「MEK」と安全保障担当補佐官のジョン・ボルトンとの関係である。 以前にも当メルマガの記事で何度か紹介しているが、アメリカには資金の流れから政治家の背後にいる勢力をあぶり出す「オープンシークレット・ドット・オルグ」というサイトがある。運営しているのは民主党系のNPO法人だ。 試みにこのサイトで「MEK」に関係する資金の流れを調べると、興味深いことが分かる。「MEK」にはアメリカでロビー活動を展開する「イランに抵抗する国民委員会(NCRI)」という名の団体を運営している。ここは「MEK」の支持を拡大するための、共和党を中心に多くの政治家に献金をしている。 なかでも「NCRI」から最大の献金を受けているのが、ジョン・ボルトンである。この献金もあってか、ジョン・ボルトンは2017年にパリの「MEK」支持集会で支持演説をしている』、「「NCRI」から最大の献金を受けているのが、ジョン・ボルトンである」、というのには驚かされた。「NCRI」の資金は元を辿れば、MEKへのCIAなどの秘密工作資金なのではなかろうか。ボルトンは自分たちで、国家予算で援助し、その一部を「献金」の形でキックバックさせているのかも知れない。
・『政権転覆後のイラン大統領  周知のようにジョン・ボルトンは、トランプ政権内でイラン攻撃と体制転換を進めるネオコンのタカ派である。 そしてボルトンがイランの体制転換後の大統領候補として熱烈に押すのが、マリアム・ラジャビという女性だ。マリアム・ラジャビこそ、「MEK」の指導者である。 このようにボルトンと「MEK」のつながりは強い。ボルトンは「MEK」から政治資金の献金を受け、「MEK」をトランプ政権内で支持しているのだ』、なるほど。
・『ボルトンとMEKの自作自演か  このような「MEK」のメンバーが、イラン革命防衛隊が保有する高速艇に類似した船を買おうとして、5月初旬に逮捕されたのだ。実際にこうした事件があったことは、クエートの新聞記事でも報道されている。 このように見ると、今回のタンカー攻撃はイランが実行したとはとてもいえないことははっきりしている。 タンカー攻撃をイランのせいにして戦争を画策しているボルトンと「MEK」が実行した自作自演である可能性は否定できない』、最もありそうなシナリオだ。
・『「MEK」被害者の会の情報  そして、さらに興味深いことが分かった。「MEK」には「ネジャット・ソサイティー」という名の被害者団体があった。イラン国内に支持基盤のない「MEK」は、メンバーを拉致同様の方法で確保している。そのため、娘や息子を拉致された家族が中心となり、被害者団体を立ち上げた。おそらくこの組織には、イラン政府も協力しているのだろう。このサイトが「MEK」に関する情報がもっとも充実している』、イランにも「拉致」問題があるとは、初めて知った。
・『アルバニア大統領が米空母に乗船?  「ネジャット・ソサイティー」の最近の記事には、実に興味深い情報があった。アルバニア大統領のイリル・メタが米空母に乗船している写真が掲載されていた。 乗船している空母は「エイブラハム・リンカーン」である。「エイブラハム・リンカーン」はイランに圧力をかけるために、ペルシャ湾に派遣されている空母だ。なぜそこにアルバニアの現役の大統領が乗船しているのだろうか? この画像が掲載されている記事が出たのは、5月15日だ。オマーン湾でUAEやサウジの4隻のタンカーが何者かによって攻撃された事件の3日後である。もしかしたら、攻撃があった日にアルバニア大統領は「エイブラハム・リンカーン」に乗っていたのかもしれない。何をしていたのだろうか? アルバニアは、「MEK」の本拠地のある国である。「MEK」を受け入れるための交換条件として、米政府から莫大な資金がアルバニアにわたっている可能性は否定できない。「MEK」に対してもそうだ。 このように見ると、今回のタンカー攻撃をイランのせいにするにはあまりに無理がある。 むしろ、ボルトン、「MEK」、アルバニアのつながりで起こった自作自演の偽旗作戦であった可能性は非常に高いように思う』、説得力溢れた主張だ。
・『これから大量に出てくるイラン犯人情報  しかし、今回のメルマガで紹介したような情報は日本の主要メディアで報じられることはないだろう。 むしろ、ボルトンやポンペオによって、タンカー攻撃の実行犯はイランであることを証明する膨大な情報が、これから流されるはずだ。 日本政府も日本の主要メディアも、こうしたアメリカが流す一方的な情報に流され、次第にイラン犯行説を信じるようになる可能性が高いように思う。残念である。 このメルマガでは、こうした流れに抵抗し、真実を明らかにするつもりだ。(続きはご購読ください。初月無料です)』、騙されないように気をつけたい。
タグ:高島康司 現代ビジネス トンキン湾事件 鮮明な画像 Newsweek日本版 MONEY VOICE 近藤 大介 イラン問題 (その2)(トランプ イラン攻撃取り消しは作戦開始10分前、ベトナム イラク イラン…アメリカが繰り返す「悪のレッテル作戦」 イランの犯行を裏付ける証拠はない、タンカー攻撃 自作自演だった。見えてきたトランプ政権と実行組織のつながり) 「トランプ、イラン攻撃取り消しは作戦開始10分前」 イランによる米軍の無人偵察機撃墜に対する報復措置として軍事攻撃を承認したものの、その後撤回 緊迫感を出すために、初めから仕組まれたシナリオ 「ベトナム、イラク、イラン…アメリカが繰り返す「悪のレッテル作戦」 イランの犯行を裏付ける証拠はない」 タンカー攻撃の犯人 コクカ・カレイジャス」 「フロント・アルタイル」 アメリカのドナルド・トランプ大統領は同日、早々と「イランの仕業に違いない」とコメント 誰もが納得する根拠を示さないで「悪のレッテル」を張るアメリカの手法は、現在、中国のファーウェイ・テクノロジーズ(華為技術)を非難しているのと、まったく同じである 「ギリシャ悲劇」を繰り返すな イラクの兵器に関する虚偽の諜報が別の大統領(ジョージ・W・ブッシュJr)の戦争を正当化 2度あることは3度ある 国際常識に照らせばあり得ない イラン核合意(JCPOA)が成立 「今世紀に人類が成し得た最高の芸術的外交作品」 「前任のオバマ大統領が行ったものはすべて悪」と考えるトランプ大統領は、この「芸術的外交作品」を、あっさりポイ捨てしてしまった 安倍首相としては、和平を仲介している最中に後ろから弾が飛んできたようなもので、二重に「赤っ恥外交」である 日本とイランの関係 中東情勢は、日本の選挙にお付き合いしてくれるほど生易しい世界ではない 孫崎紀子氏 『「かぐや姫」誕生の謎』(2016年、現代書館) 大化の改新(645年)の時期から、すでに日本とイランは交流していた 中国・ロシアとイランの関係 中国経済の心臓部 安倍外交の成果が問われる 『ヤスの備忘録』連動メルマガ』 「タンカー攻撃、自作自演だった。見えてきたトランプ政権と実行組織のつながり=高島康司」 アメリカが資金援助?イランを陥れる反体制組織とは何者なのか 早々に「イランの仕業」と決めつけ イラン犯人説への疑念 アメリカはこれまで多くの戦争をでっちあげてきた どう見てもイランではない モジャーヘディーネ・ハルグ 「MEK」 イランと敵対するイラク側で戦ったために「MEK」はイラン国内では裏切りものと見なされ、国内の支持基盤はとんどない 「MEK」の唯一の基盤は、フランスに住みパーレビ政権を支持する人々だ 本拠地はアルバニア 「MEK」はアメリカではテロ組織として指定されていたが、2012年にそれは突然と解除 ジョン・ボルトンとの関係 「NCRI」から最大の献金を受けているのが、ジョン・ボルトンである 政権転覆後のイラン大統領 ボルトンは「MEK」から政治資金の献金を受け、「MEK」をトランプ政権内で支持 ボルトンとMEKの自作自演か 「MEK」被害者の会の情報 アルバニア大統領が米空母に乗船? これから大量に出てくるイラン犯人情報
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トランプ大統領(その41)(トランプの「欧州嫌い」はここまで深刻だった 揺れる米欧関係 試される日本の戦略的外交、世界経済を危機に陥れる!?トランプ政権の「FRB多数派工作」、トランプ「世界戦略」の全貌がイラン制裁と米中摩擦で見えてきた、トランプ大統領は 善悪二元の「ブードゥー経済学」で間違った貿易戦争を仕掛けている) [世界情勢]

トランプ大統領については、3月10日に取上げた。今日は、(その41)(トランプの「欧州嫌い」はここまで深刻だった 揺れる米欧関係 試される日本の戦略的外交、世界経済を危機に陥れる!?トランプ政権の「FRB多数派工作」、トランプ「世界戦略」の全貌がイラン制裁と米中摩擦で見えてきた、トランプ大統領は 善悪二元の「ブードゥー経済学」で間違った貿易戦争を仕掛けている)である。

先ずは、東洋大学教授の薬師寺 克行氏が4月27日付け東洋経済オンラインに寄稿した「トランプの「欧州嫌い」はここまで深刻だった 揺れる米欧関係、試される日本の戦略的外交」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/278451
・『統一地方選を終えて、安倍首相がフランスやアメリカなど6カ国を訪問した。6月に予定されている「20カ国・地域(G20) 首脳会議」の成功に向け、主要国首脳との事前調整が主な理由とされているが、この外遊にはもう1つの隠された目的がある。それは深刻な対立に陥っている米欧関係の修復である。 トランプ大統領の登場後、米欧関係の悪化は目に余るものがあるが、その深刻さはとどまるところを知らない。政府関係者によると、4月初めにフランスで開かれたG7外相会合での議論は、「米欧がことごとく対立し、ここまでひどい状態に陥っているのかというレベルだった」という』、安倍首相の訪問は、G20ホスト国としての当然の動きだが、なんとも間の悪い時にホスト国の番が回ってきたものだ。
・『米欧は重要な問題でことごとく対立  G7外相会談は、首脳会合の成功に向けて取り上げる議題や各国の主張などをすり合わせる場である。毎年、人権から気候変動、経済、地域紛争など世界が直面している幅広い問題について意見交換し、共同コミュニケを発表する。これまでもG7の間で考え方の違いがなかったわけではないが、真正面から対立することは少なかった。その結果、毎年発表される文書の多くの部分は前年の内容を踏襲してきた。 ところが今年は様変わりだったようだ。まず、アメリカのポンペオ国務長官が欠席し、サリバン国務副長官が代理で出席した。国務長官の欠席は異例のことだが、なぜかアメリカ政府はその理由を明らかしていない。そして、外相会合の場でも、誰もポンペオ氏欠席を話題にしなかった。共同コミュニケ作成に向けた議論になると、アメリカがあれこれ難題を突き付け、殺伐とした雰囲気だったという。 もともとアメリカと欧州は、イラン核合意、アメリカによる鉄鋼・アルミニウムの輸入制限とそれに対するEUの報復関税、イスラエルが占領しているシリアのゴラン高原についてアメリカがイスラエルの主権を認めた問題、あるいは地球温暖化対策の国際枠組みであるパリ協定からのアメリカの離脱など、多くの重要な問題で真っ向から対立している。 それを反映して、外相会合でアメリカは、「パリ協定」や、パレスチナ問題に関連する「国連安保理決議」、さらには「世界貿易機関」(WTO)や「国際法に従って」などという言葉や言い回しをコミュニケに盛り込むことにことごとく反発した。多くがこれまでのコミュニケには何の問題もなく盛り込まれていたものだ。 アメリカの自己中心的対応が吹き荒れた結果、コミュニケでは「イスラエルとパレスチナの間の紛争について意見交換を行ったが、明らかな相違がみられた」などというこれまでにない表現が盛り込まれた。また「国際法」という言葉が消えて「国際的なルール」などに置き換えられている。 世界のルールは自分が作るという自負心の強いアメリカは、伝統的に自国の主権に制約がかけられる国際法や国際的合意を嫌う。アメリカの利益を最優先し、それに合わない国際的な合意は軽視、あるいは無視することはトランプ大統領が初めてではない。とはいえ、ここまで徹底して細部にわたって欧州各国を相手に文言や表現にこだわり、自分の主張を貫いた例は過去にあまりない。それだけトランプ政権の「反欧州」の空気が強いことを表している。会議には河野外相も出席していたが、米欧間の激しい応酬の前には脇役でしかない。 第2次世界大戦後の米欧関係は自由、民主主義、市場経済などという政治経済社会の枠組みや価値観を共有し、戦後の復興と著しい経済発展を実現してきた。また東西冷戦のもとで北大西洋条約機構(NATO)という安全保障の枠組みを構築し、ソ連に向き合ってきた。その結果、歴史上、最も成功した同盟関係ともいわれてきたほど安定感のある関係だった』、「河野外相も出席していたが、米欧間の激しい応酬の前には脇役でしかない」、シュンと大人しくせざるを得ない河野外相の姿が目に浮かぶようだ。
・『過去と次元の異なる「米欧対立」  もちろん長い歴史の中には、自主独立路線を主張するフランスのドゴール大統領がNATO離脱宣言を打ち出したこともあった。アメリカのレーガン大統領が欧州に何の相談もなく戦略防衛構想(SDI)を表明し、フランスなどが強く反発したこともあった。また、NATO加盟国の国防予算が少なすぎるという不満は、アメリカから何度も突き付けられてきたが、積極的に対応した国はほとんどなかった。 しかし、米欧がどれほど対立しようとも、アメリカと英仏独など欧州の主要国は、戦後の世界秩序を創り上げ、維持・発展させてきたという自負と責任感を持っていた。ゆえに決定的な対立を回避するという知恵も併せて持っていた。 ところが今回の米欧対立はこれまでとは根本的に異なっている。トランプ大統領という特異な人物の登場がこれまでとは次元の違う米欧対立を生み出したことは否定できない。トランプ氏は、自由貿易などこれまでの繁栄をもたらした秩序の維持について一顧だにせずアメリカの利益追求にこだわり、既存の秩序を破壊しようとしている。 しかし、トランプ大統領だけが今の危機を生み出したとも言い切れない。欧州の側にも原因がある。欧州はかつて持っていた統合力や一体性を失いつつある。そうした変動に向き合う主要国トップの指導力の低下も著しい。混迷を続ける英国のEU離脱やフランスのイエロー・ベスト運動、広範囲に及ぶポピュリズムの拡散は、リーダーの不在と欧州の求心力の低下を物語っている。 トランプ大統領の強引な主張に対し、フランスのマクロン大統領やドイツのメルケル首相は格調高い説得力のある批判を展開してきた。しかし、演説だけでは米欧対立の危機を克服できない。つまり、欧州の側にもアメリカに向き合い、問題解決を図る力がなくなってきているのである。 この状況を歓迎しているのが言うまでもなく中国とロシアである。冷戦後のEUやNATOの拡大に激しく反発しているロシア、あるいは「一帯一路」の世界的展開で欧州に対しても経済的、政治的影響力を強めたい中国にとって、米欧対立と欧州の分裂という状況は、自分たちが欧州を侵食する好機と捉えている。すでに東欧の小国に加えイタリアまでもが一帯一路への参加を表明している。 自由と民主主義、市場経済を標榜してきた欧州に、権威主義国家を代表する中国とロシアが入り込んでくることは、世界秩序の変動の始まりを意味することにほかならない。しかし、そうした危機感はG7外相会合の様子を見る限りまだ十分に共有されているようには見えない』、「過去と次元の異なる「米欧対立」」の間に、「権威主義国家を代表する中国とロシアが入り込んでくる」、というのは複雑極まる構図だ。
・『日本初の戦略的外交が展開されている  そこで日本である。日本の欧州外交と言えば従来は英仏独とお付き合いをすることで十分だった。日本外交の中心はアメリカとの同盟関係の維持・強化であり、また中国や韓国など近隣諸国との外交だった。欧州外交はその付属物的存在だった。 しかし、日本が西側の一員として戦後秩序の恩恵に浴し、経済発展を遂げたことも事実だ。そのシステムが揺らぎ始めたのであれば、見過ごすわけにはいかない。深刻な米欧対立と欧州の分裂の危機を前にして日本政府が危機感を持つのは当然である。 安倍首相は、昨年1月にエストニア、ラトビア、リトアニア、ブルガリア、セルビアおよびルーマニアを、10月にはスペイン、フランス、ベルギーを訪問している。さらに今年1月にはオランダと英国を、そして今回、フランス、イタリア、スロバキア、ベルギーを訪問する。主要国だけでなく、歴代首相がほとんど訪問したことのない国々にまで足を運ぶのは、深刻な現実を放置できないと考えているからであろう。 これは欧州を対象とする日本の初めての戦略的外交の展開である。もちろん安倍首相が訪問したくらいで米欧関係を改善させたり、欧州崩壊の流れを食い止めることはできるはずもない。しかし、日米同盟関係にあぐらをかいていれば事が足る時代は終わりつつある。新たな時代を見据えた戦略的外交の意味は今後もますます大きくなるだろう』、「主要国だけでなく、歴代首相がほとんど訪問したことのない国々にまで足を運ぶのは、深刻な現実を放置できないと考えているからであろう」というのは、安倍首相へのゴマスリだろう。実態は、「外交の安倍」をPRし、「やってる感」を出すためではなかろうか。

次に、東短リサーチ代表取締役社長の加藤 出氏が5月16日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「世界経済を危機に陥れる!?トランプ政権の「FRB多数派工作」」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/202174
・『ドナルド・トランプ米大統領が、米連邦準備制度理事会(FRB)のコントロールを狙った試みは失敗した。FRBにスティーブン・ムーア氏とハーマン・ケイン氏を理事として送り込もうとしたが、米上院の反対により頓挫したのだ。 金本位制への回帰など2人とも奇抜な金融政策を主張してきた人物だ。それもさることながら、上院共和党議員が彼らを支持することを嫌がった最大の原因は、2人の倫理的な問題にあった。 ムーア氏は女性蔑視だと批判されるコラムを書いていたり、税金の滞納や離婚した前夫人に対する金銭面でのトラブルなどを抱えたりしていた。ケイン氏も“セクシャルハラスメントの地雷”と警戒されてきた。共和党議員らは、2人のFRB理事就任に賛成する投票を行うと、来年の選挙で地元の女性有権者から激しい批判を浴びてしまうと恐れたのである。 しかし、トランプ大統領もマイク・ペンス副大統領も来年の大統領選挙を意識して、FRBに景気刺激策を行わせたがっている。米メディアによると、ホワイトハウスは早速新たにポール・ウィンフリー氏(ヘリテージ財団・経済政策統括)をFRB理事に指名する様子だという。FRBに圧力を加えるため、大統領に忠誠を示す人物を何とか送り込みたいようだ。さすがに今後は事前の“身辺調査”を入念に行うだろうが……』、共和党議員らが、2人の金融政策に対する考え方よりも、地元の女性有権者からの批判を恐れたというのは、ありそうな話だ。
・『FRB理事の二つの空席にトランプ派が座れば、FRB内はかき回されるだろう。彼らが講演を行うたびに金融市場が大きく揺さぶられる恐れもある。ただし、投票において彼らは主導権を握れない。FRB理事の総数は(議長と副議長を含め)7人だからだ。 また、政策金利であるフェデラルファンド金利の誘導目標や量的金融緩和策などの金融政策の根幹部分は米連邦公開市場委員会(FOMC)で決定されている。同委員会の投票は地区連邦銀行の総裁を含む計12人で行われる。 その点では、黒田東彦総裁や若田部昌澄副総裁など事実上の“安倍派”が多数派を占める日本銀行の現政策委員会のような構図には、FRBはなりにくいといえる。 FRBの創立は1913年だが、その根拠法である連邦準備法は米国の中央銀行が特定の勢力の支配下に落ちないように防御線を張っている。FRB理事の任期は大統領の任期(最大2期8年)よりはるかに長い14年。また、地区連銀総裁の任命に政権は関与できない。 このように、連邦準備法はFRBが時の政権の影響を過度に受けないような枠組みを定めている。金融政策は中長期的な視点で運営される方がよい、という考え方がその背景にある。 一方で、FRBの独立性とは政権内における独立だと米国では伝統的に考えられてきた。国民から選ばれた大統領とFRBが全面対決を続けることは本来であれば望ましくない。適度な距離感が求められているといえる。 その点でもし来年の大統領選挙でトランプ氏が再任されたら、FRBは非常に悩ましいことになる。議長と2人の副議長の任期が到来すれば、ホワイトハウスはトランプ派を任命するだろう(議長と副議長の任期は4年で理事より短い)。時間がたつにつれて、理事にも徐々にトランプ派が増える。 次期幹部がバランスの取れた人物であればよいのだが、そうでない場合、世界経済にとっても大きなリスク要因となり得る。米大統領選挙の行方はこの点においても注目を集めるといえるだろう』、確かに「トランプ氏が再任され」れば、大変なことになりそうだ。現在は、米国債10年物の利回りは2%と安定しているが、将来のインフレ懸念で大きく上昇することになろう。これは、日本にも波及する懸念が強いとみておくべきだろう。

第三に、立命館大学政策科学部教授の上久保誠人氏が5月21日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「トランプ「世界戦略」の全貌がイラン制裁と米中摩擦で見えてきた」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/203023
・『トランプ大統領の「アメリカファースト(米国第一主義)」が猛威を振るっている。米国はイランとの対立を先鋭化させている。トランプ大統領は、イラン産原油の全面禁輸を決定し、これに対抗してイランは核兵器開発につながるウラン濃縮の拡大に踏み切る可能性を示唆した。 また、米国は中国との貿易戦争において、高官級通商協議が不調に終わったことで、中国製品2000億ドル分に課す制裁関税を10%から25%に引き上げた。また、中国通信機器最大手の華為技術(ファーウェイ)に事実上の輸出禁止措置を発動した。中国は即日、報復措置を表明した』、安倍首相は現在、イランを訪問し、米国との仲立ちをしようとしているが、成果は期待薄だろう。先ほど、ホルムズ海峡を通過中の日本の海運会社が運航するタンカー1隻が攻撃を受け、船を放棄して船員が脱出したとのニュースが入った。船籍はパナマなので、日の丸を掲載してなかったのかも知れない。安倍首相訪問との関連も不明だ。
・『過去最強の米国が狙う「新しい国際秩序」の構築  この連載では、米国が従来の地政学的な枠組みでは説明できない「新しい国際秩序」を着々と築いてきたことを説明してきた。米国は「世界の警察官」を続けることに関心がなくなった。だから、世界から少しずつ撤退を始めている。重要なのは、これはトランプ大統領の思い付きではなく、バラク・オバマ大統領の時代から始まった、党派を超えた国家戦略だということだ(本連載第170回)。 しかし、米国は世界の警察官をやめたといっても、弱くなったわけではない。いまだに世界最強の圧倒的な軍事力・経済力を誇っている。むしろ、「シェール革命」によって世界最大の産油国・産ガス国となった米国は、「過去最強」といっても過言ではない。 その圧倒的な力を使う米国は、まるで「世界の暴力団」のようだ(第191回)。だが、トランプ大統領は気まぐれに振る舞っているわけではない。今、米国がさまざまな国に揺さぶりをかけているのは、米国がさまざまな国々との間の「適切な距離感」を再構築する取り組みである』、「さまざまな国々との間の「適切な距離感」」を探る過程では、かなりの摩擦もあるだろう。
・『米国の圧倒的な石油支配力がベネズエラ経済を崩壊させた  2019年に入って顕著になってきたのは、米国が「シェール革命」で得た石油・ガスを支配する力を、露骨に使い始めたことだ。この連載では、トランプ大統領が就任した時から、大統領がアメリカファーストを自信満々で推し進めることができる根拠として、「シェール革命」を指摘してきた(第170回・P.4)。 要は、シェール革命によって米国自身が世界一の産油・産ガス国になった。その結果、米国が「世界の警察官」を務める大きな理由であった、世界中から石油・ガスを確保する必要性がなくなってきたのだ。その結果、米国は産油国に気を遣わなくなり、エルサレムのイスラエル首都承認など、世界を混乱させるのが明らかな行動を、平気で取るようになった(第173回)。 だが、ここにきて米国は、シェール革命で産油国に無関心になっただけでなく、それをより積極的に新しい国際秩序構築に使い始めたように思う。それがはっきりしたのが、南米の主要な産油国であり、独裁政権のベネズエラに対する米国の動きだ。 現在、ベネズエラは169万%のインフレ、5年連続マイナス経済成長、3年間で総人口の1割(300万人)以上の国民が国を脱出、5日におよぶ全国停電が起こるなど、深刻な経済危機にある。また、今年1月以降は現職のニコラス・マドゥロ大統領とフアン・グアイド暫定大統領(国会議長)の2人の大統領が並び立つという異常な状態にある。 ベネズエラの経済危機の背景には、国際石油価格の長期的な下落がある。2013年末、1バレル100ドルに迫っていた原油価格は2014年の下半期から急落し始め、 2016年には24.25ドルまで下がった。その大きな要因がシェールオイルの本格的な流通の拡大だ。ベネズエラは、原油を中心とする石油が輸出の97%を占める、典型的な「産油国の経済構造」(第147回)だ。原油価格の下落は、経済危機に直結することになった。 さらに問題となったのは、米国への輸出の比率はピーク時には5割超を占め、2018年時点でも約36%を占めている、ベネズエラの「米国依存」の経済構造だった。ベネズエラに対する米国の制裁措置は、オバマ政権期の2015年から始まっていたが、それは政府・軍の高官に対する米国への渡航禁止や英国内の資産凍結にとどまっており、本格的な経済制裁が始まったのはトランプ政権からだ。 2017年8月の金融制裁では、ベネズエラ政府や国営企業が発行する債権の取引や金融取引、金や仮想通貨の取引も含む金融取引に米国人・法人が関与することを禁止した。これで、マドゥロ政権が対外債務の借換えや外貨を獲得するのが困難になった。 また、今年1月末の石油貿易に関する制裁措置は、ベネズエラから米国への石油輸入、および米国からベネズエラへの石油輸出を事実上禁止するものである。「米国依存」のベネズエラ経済は、外貨獲得源の半分近くを失った。 マドゥロ政権は、現在国が直面する経済破綻は米国が仕掛けた「経済戦争」によるものだと繰り返し訴えている。それ以前に、「石油輸出依存」「米国依存」の経済構造の問題を放置した自業自得のようにも思えなくもないが、いずれにせよトランプ政権がシェール革命で得た圧倒的な力を使ってベネズエラを滅多打ちにして倒したことは間違いない』、マドゥロ政権にはロシアや中国が支援しているとはいっても、その支援は焼け石に水だろう。ベネズエラ軍の政権支持もいつまで続くのだろうか。
・『米国はイランも経済制裁だけで滅多打ちにしてKOできる  米国はイランに対しても、シェール革命で得た圧倒的な石油支配力を見せつけている。2015年にオバマ政権下でイランと欧米6ヵ国が締結した核合意は、イランがとりあえず10年間は核開発を止めて、IAEA(国際原子力機関)の査察をきちんと受ける代わりに、経済制裁を解除するというものだ。イランは、その義務を守ってきているが、その気になれば、秘密裏の核開発は可能なものではある。 トランプ大統領は、この核合意について「一方的かつ最悪な内容で、決して合意すべきではなかった。平穏や平和をもたらさなかった。今後ももたらすことはない」と完全否定し、2018年5月に離脱を宣言した。大統領からすれば、「シェール革命」で得た米国の石油支配力があれば、イランを滅多打ちにしてKOできるのに「どうしてこんな中途半端な合意で満足するのだ」ということだろう。 トランプ大統領は、オバマ前政権の政策を嫌い、地球温暖化対策のパリ協定、TPPなどを次々とひっくり返そうとしてきた。だが、イランとの核合意については、オバマ前大統領に対する感情的な反発というより、合理的な計算に基づいている。 イランは、原油収入が政府歳入の約45%、輸出額の約80%を占める、典型的な石油依存型の経済構造である。その状況からの脱却を目指し産業の多角化を実現するために、原子力発電が必要というのが、イランの核開発疑惑に対する言い分だった。 だが、イランの言い分が嘘でなければだが、核合意で原子力発電の開発も止まる。産業多角化は進まなくなった。その上、シェール革命による石油価格の長期低落がイラン経済を苦しめてきた。さらに、トランプ大統領が、イラン産原油の輸入を禁止する経済制裁を再発動させ、イランから石油を輸入し続けてきた中国、インド、日本、韓国、トルコに認めてきた適用除外も打ち切ることを決定した。イラン経済は壊滅的な打撃を受けることになる。 イランのハッサン・ロウハニ大統領は、米国への対抗措置として、核合意について履行の一部を停止したと表明した。だが、トランプ大統領は痛くもかゆくもないし、むしろさらに経済制裁を強化する理由になる。一報(正しくは「方」)でイランはあまり強硬になると、核合意をなんとか守ろうとしてきたフランス、ドイツ、ロシア、中国、イギリスの反発を招く懸念もある。 イランは、「ホルムズ海峡封鎖」を示唆してもいるが、それは「石油依存経済」のイランにとって、自殺行為でもある。要するに、米国に対抗する有効な手段はない。トランプ大統領は、イランへの経済制裁を強める一方で、国家安全保障担当を含む側近らに、イランとの戦争は求めていないと伝えたという。当然だろう。戦争などという「無駄な支出」をしなくても、イランを滅多打ちにしてKOできるからだ』、KOする過程では、穏健派のロウハニ大統領が失脚し、代りに強硬派が政権を握り、軍事的にも一触即発といった最悪の事態に陥るリスクもあるだろう。
・『米中が互いに25%関税発動 民間企業ファーウェイも制裁対象に  そして、米中貿易戦争である。米国は2018年7月以来段階的に、計2500憶ドルの中国製品に制裁関税を課してきた。昨年末から、米中は貿易協議を開催し、決着点を模索してきた(第201回)。閣僚級協議を続け、「合意文書」の95%は出来上がっていたというが、中国が5月に入って見直しを求めるなど突然手のひらを返した。 米国は、まだ追加関税をかけていない残りの中国製品3000億ドル(約33兆円)分に課す制裁関税を10%から25%に引き上げることを決定した。トランプ大統領は最大の切り札を出し、「関税は圧倒的な富を米国にもたらす」とツイートを連発した。これに対して中国は、約600億ドル(約6兆6000億円)相当の米国製品に課している追加関税を最大25%に引き上げる報復措置を発表した。 だが、米国は中国への攻撃の手を緩めない。米国はファーウェイへの輸出禁止措置を発動したのだ。ファーウェイは、次世代通信規格「5G」で先行し、特許の国際出願件数は世界トップを占めるなど、中国のハイテク企業の代表だが、米国がファーウェイを制裁する理由はそれだけではない。 米国は、中国共産党や中国軍とファーウェイの深い関係を疑い、ファーウェイが米国の通信ネットワークへの侵入などを通じて安保を脅かす可能性があるとの見方を強めてきた。米国は、中国がサイバー攻撃などで奪ってきた知財をもとに、米国の経済・軍事面の覇権を奪おうとしているという疑惑を持ってきたが、ファーウェイはその疑惑のど真ん中にいるとみなされてきたのだ(第201回・P.5)』、米中関係は全面的な経済戦争の様相を呈してきたようだ。
・『「米国に食わせてもらって」成長した中国が覇権に挑戦することへのトランプ大統領の怒り  米中貿易戦争は、派手な関税引き上げの報復合戦に注目が集まりがちだが、ハイテク分野で追い上げ、軍事・経済両面で覇権の座を奪おうとする中国と、それを防ごうとする米国の対立構図が本質とみられるようになっている。この連載も、そういう見方をしてきた。 だが、実は米中貿易戦争の肝は、中国製品に課す高関税そのものではないかと考えるようになった。その理由は、中国がなぜ米国の覇権を驚かすまで急激な経済成長を成し遂げたかを考えればわかる。 この連載では、トランプ大統領が登場する前の米国の国家戦略を振り返ってきた(第170回)。それはもともと第二次世界大戦後、ソ連・中国共産党などの共産主義ブロックの台頭による東西冷戦に勝利するための戦略であった。米国は世界各地に米軍を展開し、同盟国の領土をソ連の軍事的脅威から防衛し、米国自身と同盟国が安全に石油・ガスなど天然資源を確保するため、「世界の全ての海上交通路」も防衛する「世界の警察官」になった。 また、米国は同盟国に「米国市場への自由なアクセス」を許した。米国は、同盟国を自らの貿易システムに招き、工業化と経済成長を促した。その目的は、同盟国を豊かにすることで、同盟国の国内に貧困や格差による不満が爆発し、共産主義が蔓延することを防ぐことだった。この米国の国家戦略の恩恵を最も受けたのが、日本であることはいうまでもない。 ソ連が崩壊し、東西冷戦が終結した。この時点で、米国の国家戦略は変わってもおかしくなかったが、米国は唯一の覇権国家として、「世界の警察官」「米国市場への自由なアクセス」の戦略を継続した。ここで、日本に代わって最も恩恵を受けるようになったのが、「改革開放政策」に舵を切った中国だった。 2000年代に入り、中国は米国に対する輸出を拡大することで、劇的な経済成長を成し遂げた。そして、米国で儲けたカネを使って、軍事力の拡大を進め、アフリカなどに巨額の投資をして拠点を作り、米国の地政学的優位性を揺るがせ始めた(第120回)。そして、「安かろう、悪かろう」の工業品や農産物の輸出から、ハイテク技術への転換を進めて、サイバー戦争でも優位に立ち、米国から覇権を奪おうという意欲を見せ始めた。 しかし、見方を変えれば、中国は「米国に食わせてもらった」からこそ、急激に経済成長できたといえる。トランプ大統領の中国に対する怒りは、ここに本質がある。そして、軍事的な拡大や地政学的な脅威や、ハイテク企業の成長に一つひとつ対応することも大事だが、より本質的には貿易を止めて中国に米国のカネが流れないようにすることが重要だと、「ディールの達人」トランプ大統領は当然考える。 実際、報復関税合戦は、中国の一方的な敗北の様相を呈している。中国は経済が落ち込み、30年ぶりに経済成長率が6%を割り込むという予測が出てきた。一方、米国経済は好調を維持しているのだ。 当初、米中は貿易摩擦では早々に妥協して決着し、舞台はハイテク分野に移っていくとみられていた。だが、今後も米国はなんだかんだと難癖をつけながら、貿易摩擦についても報復関税合戦を続けていくかもしれない。見方を変えれば、米国がハイテク分野で中国に注文を付け続けるのは、報復関税を続けるための方便だといえるのかもしれない。それが、より中国の本質的な弱点を突くことになると、トランプ大統領は見抜いている』、「報復関税合戦は、中国の一方的な敗北の様相を呈している」というのは、米国への打撃がなぜ少ないのかは不明だ。いずれにせよ、習近平が一時は驕り高ぶり過ぎたのも事実だが、「米国がハイテク分野で中国に注文を付け続けるのは、報復関税を続けるための方便だといえるのかもしれない」、というのは困ったことだ。

第四に、作家の橘玲氏が6月4日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「トランプ大統領は、善悪二元の「ブードゥー経済学」で間違った貿易戦争を仕掛けている【橘玲の日々刻々】」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/204600
・『トランプの経済政策のスゴいところは、その理屈が最初から最後まですべて間違っていることです。それも、信じがたいような初歩的レベルで。 トランプはまず、貿易黒字を「儲け」、貿易赤字を「損」だと考えます。だからこそ、二国間貿易でアメリカに対して黒字になっている中国や日本は、「損」させていることに対してなんらかの埋め合わせをしなくてはなりません。 さらにそこから、貿易は「戦争」だという極論が出てきます。貿易赤字の国(アメリカ)は被害者で、貿易黒字の国(中国や日本)は加害者です。被害者=善は、いわれるがままにぼったくられるのではなく、加害者=悪に対して制裁を加えなくてはならないのです。こうして予言が自己実現するように、米中がお互いに高率の関税を課す「貿易戦争」が勃発しました。 トランプはFRB(米連邦準備理事会)に対して執拗に利下げを要求していますが、これも「戦争理論」で説明できます。「(FRBが利下げすれば)ゲームオーバーだ。アメリカが勝利する!」とツイッターでつぶやいたのは、高関税に苦しむ中国は財政支出を拡大させ、金利を引き下げるから、アメリカが先んじて利下げすれば「戦況」はより有利になるからだそうです。 この「戦争」に勝てば「どんな場合でも中国が合意したがる!」ことになって、これまで貿易赤字という「悪」に苦しめられてきたアメリカの善良な(トランプ支持の)ブルーワーカーたちは正当な「ゆたかさの権利」を取り戻すことができるのです。 トランプがまったく理解していないのは、貿易赤字/黒字はグローバル経済を国家単位で把握するための会計上の約束事で、損得とはなんの関係もないことです。 日本経済を地域単位で把握するために、各県別の「貿易収支」を計算することができます。静岡県の県民が愛知県からトヨタの車を購入すれば「貿易赤字」になりますが、だからといってその分だけ静岡県が貧乏になるわけでもなければ、県同士で「戦争」しているわけでもありません。愛知県のひとが車を売った利益で静岡県の物産(お茶やミカン)を購入すれば、どちらもよりゆたかになるというだけのことです。 これは国際経済学の初歩の初歩で、大学の授業では真っ先に扱うでしょうし、最近では高校の政治経済でも習うかもしれません。それにもかかわらず貿易黒字=儲け/貿易赤字=損という誤解がなくならないのは、(自称「知識人」も含め)ほとんどのひとが、交易による利益を「搾取」と同一視しているからです。なぜなら、その方がわかりやすいから。 複雑で不可解な現実をもっともかんたんに理解する方法は、集団を「善(俺たち)」と「悪(奴ら)」に分割したうえで、この世界で善と悪の戦いが起きていると考えることです。稀代のポピュリストであるトランプは、自分に投票するような有権者は、この単純な枠組みでしかものごとを理解できないと(本能的に)知っているのでしょう。だからこそ、まっとうな経済学者の批判や助言をすべて無視するのです。 この間違った貿易理論は「ブードゥー経済学」と呼ばれています。私たちが生きているのは「合理的な近代」などではなく、ブードゥー(呪術)的な世界だということがいよいよはっきりしてきました。 後記:アメリカ政府は中国の通信機器大手ファーウェイ(華為技術)に対する輸出規制を発表しましたが、こちらは安全保障上の問題で、経済(貿易)問題とは異なります』、アメリカにはノーベル経済学賞の受賞者が最も多いのに、トランプの「ブードゥー経済学」がまかり通っているというのは、最大級の皮肉だ。
タグ:東洋経済オンライン ダイヤモンド・オンライン 上久保誠人 トランプ大統領 薬師寺 克行 加藤 出 「外交の安倍」 (その41)(トランプの「欧州嫌い」はここまで深刻だった 揺れる米欧関係 試される日本の戦略的外交、世界経済を危機に陥れる!?トランプ政権の「FRB多数派工作」、トランプ「世界戦略」の全貌がイラン制裁と米中摩擦で見えてきた、トランプ大統領は 善悪二元の「ブードゥー経済学」で間違った貿易戦争を仕掛けている) 「トランプの「欧州嫌い」はここまで深刻だった 揺れる米欧関係、試される日本の戦略的外交」 米欧は重要な問題でことごとく対立 過去と次元の異なる「米欧対立」 「やってる感」 「世界経済を危機に陥れる!?トランプ政権の「FRB多数派工作」」 スティーブン・ムーア氏とハーマン・ケイン氏を理事として送り込もうとしたが、米上院の反対により頓挫 共和党議員らは、2人のFRB理事就任に賛成する投票を行うと、来年の選挙で地元の女性有権者から激しい批判を浴びてしまうと恐れた 「トランプ「世界戦略」の全貌がイラン制裁と米中摩擦で見えてきた」 過去最強の米国が狙う「新しい国際秩序」の構築 米国がさまざまな国々との間の「適切な距離感」を再構築する取り組み 米国の圧倒的な石油支配力がベネズエラ経済を崩壊させた 米国はイランも経済制裁だけで滅多打ちにしてKOできる 米中が互いに25%関税発動 民間企業ファーウェイも制裁対象に 「米国に食わせてもらって」成長した中国が覇権に挑戦することへのトランプ大統領の怒り 米国がハイテク分野で中国に注文を付け続けるのは、報復関税を続けるための方便だといえるのかもしれない 「トランプ大統領は、善悪二元の「ブードゥー経済学」で間違った貿易戦争を仕掛けている【橘玲の日々刻々】」 トランプはまず、貿易黒字を「儲け」、貿易赤字を「損」だと考えます 二国間貿易でアメリカに対して黒字になっている中国や日本は、「損」させていることに対してなんらかの埋め合わせをしなくてはなりません 貿易は「戦争」だという極論 貿易赤字の国(アメリカ)は被害者で、貿易黒字の国(中国や日本)は加害者 FRB(米連邦準備理事会)に対して執拗に利下げを要求 高関税に苦しむ中国は財政支出を拡大させ、金利を引き下げるから、アメリカが先んじて利下げすれば「戦況」はより有利になるからだそうです トランプがまったく理解していないのは、貿易赤字/黒字はグローバル経済を国家単位で把握するための会計上の約束事で、損得とはなんの関係もないことです (自称「知識人」も含め)ほとんどのひとが、交易による利益を「搾取」と同一視しているから 稀代のポピュリストであるトランプは、自分に投票するような有権者は、この単純な枠組みでしかものごとを理解できないと(本能的に)知っているのでしょう 「ブードゥー経済学」 ノーベル経済学賞の受賞者
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米中経済戦争(その7)(トランプ 対中関税を25%に 経済界は「支払うのは米国の国民と企業」と批判、米国激怒! 習近平が突然「喧嘩腰」になったワケ 改めて宣戦布告した中国 エスカレート必至の貿易戦争の行方、米国が「報復関税&ファーウェイ」で中国を“総攻撃”) [世界情勢]

米中経済戦争については、昨年12月24日に取上げた。今日は、(その7)(トランプ 対中関税を25%に 経済界は「支払うのは米国の国民と企業」と批判、米国激怒! 習近平が突然「喧嘩腰」になったワケ 改めて宣戦布告した中国 エスカレート必至の貿易戦争の行方、米国が「報復関税&ファーウェイ」で中国を“総攻撃”)である。なお、タイトルから「対立」をカットした。

先ずは、5月10日付けNewsweek日本版「トランプ、対中関税を25%に 経済界は「支払うのは米国の国民と企業」と批判」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/05/25-18.php
・『米政府は10日、中国からの2000億ドル相当の輸入品に対する関税を10%から25%に引き上げた。 新たな関税は米東部時間10日午前0時1分(日本時間同午後1時1分)以降の輸出品に適用される。 対象となるのは5700品目以上。 米税関・国境取締局(CBP)によると、米東部時間10日午前0時01分までに中国を出発した貨物は10%の関税を適用する。 こうした猶予期間は、昨年の過去3回の関税引き上げには適用されていなかった。ただ、これまでの制裁関税は少なくとも3週間前に実施が通知されていた。今回は表明から約5日間での発動となった。 関税引き上げの対象分野で最も規模が大きいのは、インターネットモデム、ルーターなどのデータ伝送機器で約200億ドル。次にプリント基板(PCB)の約120億ドルが続く。 家具、照明、自動車部品、掃除機、建築資材なども対象になる』、小休止状態にあった米中経済戦争が再び再燃したようだ。
・『全米民生技術協会(CTA)のゲーリー・シャピロ最高経営責任者(CEO)は、関税を支払うのは、トランプ大統領が主張する中国ではなく米国の消費者と企業だと指摘。「われわれの業界は米国で1800万人以上の雇用を支えているが、関税引き上げは壊滅的だ」とし、「米国のテクノロジー部門では、昨年10月以降、すでに発動されている関税で毎月約10億ドルのコストが発生している。これは追加のコストを吸収できない小規模事業者、スタートアップ企業には死活問題になり得る」と述べた。 エコノミストや業界コンサルタントによると、米国の消費者が関税引き上げの影響を感じるには3─4カ月かかる可能性がある。小売り業者は輸入コストの増加を受けて、値上げを迫られるとみられている』、関税引上げは、中国の輸出企業のみならず、米国企業や消費者にとっても大きな痛手になる筈だが、その効果が現れるまでには「3─4カ月かかる可能性」とかなりのタイムラグがあるようだ。

次に、ジャーナリストの福島 香織氏が5月16日付けJBPressに寄稿した「米国激怒! 習近平が突然「喧嘩腰」になったワケ 改めて宣戦布告した中国、エスカレート必至の貿易戦争の行方」を紹介しよう。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/56398
・『米中貿易戦争はやはり激化せざるをえない、ということが今さらながらに分かった。双方とも合意を求めるつもりはないのかもしれない。 劉鶴副首相率いる中国側の交渉チームは5月にワシントンに赴いたが、物別れに終わり、米国は追加関税、そして中国も報復関税を発表。協議後の記者会見で劉鶴は異様に語気強く中国の立場を主張した。だが、交渉は継続するという。 4月ごろまでは、5月の11回目のハイレベル協議で米中間の貿易問題は一応の妥結に至り、6月の米中首脳会談で合意文書を発表、とりあえず米中貿易戦争はいったん収束というシナリオが流れていた。それが5月にはいって「ちゃぶ台返し」になったのは、サウスチャイナ・モーニング・ポストの報道が正しければ、習近平の決断らしい。習近平はこの決断のすべての「責任」を引き受ける覚悟という。 では習近平はなぜそこまで覚悟を決めて、態度を急に反転させたのだろうか』、習近平による「ちゃぶ台返し」の背景を知りたいとことだ。
・『改めて宣戦布告した習近平  第11回目の米中通商協議ハイレベル協議に劉鶴が出発する直前の5月5日、トランプはツイッターで「米国は2000億ドル分の中国製輸入品に対して今週金曜(10日)から、関税を現行の10%から25%に引き上げる」と宣言。さらに「現在無関税の3250億ドル分の輸入品についても間もなく、25%の関税をかける」と発信した。この発言に、一時、予定されていた劉鶴チームの訪米がキャンセルされるのではないか、という憶測も流れた。結局、劉鶴らは9~10日の日程で訪米したのだが、ほとんど話し合いもせず、トランプとも会わず、物別れのまま帰国の途についた。 サウスチャイナ・モーニング・ポストなどは、トランプがこうした態度に出たのは、中国側の譲歩が足りないことに忍耐が切れたからであり、譲歩を拒んだのは習近平自身にすべて責任があると報じた。匿名の消息筋の話として「交渉チーム(劉鶴ら)は、次のハイレベル協議で、(妥結のために)習近平により多くの譲歩をするよう承諾を求めたが、習近平はこうした提案を拒否した」「責任は全部私(習近平)が負う」とまで言ったという。この習近平の断固とした姿勢を受けて、中国側交渉チームは、ワシントンに提案するつもりだった「最後の妥結案」を直前になって強硬なものに変更した。これにトランプのみならず、穏健派のムニューシンまで激怒し、今回の関税引きにつながった、という話だ。ならば、習近平に貿易戦争を終結させる意志はないということだろうか。 ではなぜ、劉鶴をあえてワシントンに送ったのか。 ホワイトハウスの発表によれば、トランプは習近平から「美しい手紙」を受け取ったそうだ。その中には習近平の「対話継続」の要望がしたためられていたという。手紙には、依然、協議が妥結することを望むとあり、「我々はともに努力し、これらのことを完成させましょう」とあったそうである。 トランプはこれに対し、次のように発言している。 「中国側は、交渉を最初からやり直したい、といい、すでに妥結に至っていた“知財権窃盗”の問題など多くの内容について撤回を要求してきた。こんなことはあり得ない」「中国側が交渉のテーブルに戻りたいなら、何ができるのか見せてもらおう」「関税引き上げは我々の非常にいい代替案だ」 これに対する中国側の立場だが、劉鶴がワシントンを離れる前の記者会見でこんな発言をしている。新華社の報道をそのまま引用しよう。「重大な原則の問題において中国側は決して譲歩しない」「目下、双方は多くの面で重要な共通認識に至っているが、中国側の3つの核心的な関心事は必ず解決されなければならない。1つ目は、全ての追加関税の撤廃だ。関税は双方の貿易紛争の起点であり、協議が合意に達するためには、追加関税を全て撤廃しなければならない。 2つ目は、貿易調達のデータが実際の状況に合致しなければならないことで、双方はアルゼンチンで既に貿易調達の数字について共通認識を形成しており、恣意的に変更すべきではない。 3つ目は協議文書のバランスを改善させること。どの国にも自らの尊厳があり、協議文書のバランスを必ず図らなければならない。今なお議論すべき肝心な問題がいくつか存在する。昨年(2018年)以降、双方の交渉が何度か繰り返され、多少の曲折があったが、これはいずれも正常なものだった。双方の交渉が進行する過程で、恣意的に“後退した”と非難するのは無責任だ」「中国国内市場の需要は巨大で、供給側構造改革の推進が製品と企業の競争力の全面的な向上をもたらし、財政と金融政策の余地はまだ十分あり、中国経済の見通しは非常に楽観的だ。大国が発展する過程で曲折が生じるのは良いことで、われわれの能力を検証することができる」 このような自信に満ちた強気の発言は、劉鶴にしては珍しく、明らかに“習近平節”だ。 つまり、習近平は、米国との貿易戦争、受け立とうじゃないか、と改めて宣戦布告した、といえる。これは、3月の全人代までの空気感と全く違う。3月までは米中対立をこれ以上エスカレートさせるのは得策ではない、という共通認識があったと思われる。だが、習近平の全人代での不満そうな様子をみれば、習近平自身は納得していなかっただろう。貿易戦争における中国側の妥協方針は李克強主導だとみられている。 劉鶴をワシントンにとりあえず派遣したのは、中国としては米国との話し合いを継続させる姿勢はとりあえず見せて、協議が妥結にこぎつけなかったのは米国側の無体な要求のせい、ということを対外的にアピールするためだったのだろう』、習近平が「改めて宣戦布告した」背景には、何があるのだろう。
・『「台湾のため」に米国には屈しない  では貿易戦争妥結寸前、という段階で習近平が「俺が責任をもつ」といってちゃぶ台返しを行ったその背景に何があるのか。李克強派が習近平の強気に押し切られたとしたら、その要因は何か。 1つは台湾総統選との関係性だ。米中新冷戦構造という枠組みにおいて、米中の“戦争”は貿易戦争以外にいくつかある。華為(ファーウェイ)問題を中心とする“通信覇権戦争”、それと関連しての「一帯一路」「中国製造2025」戦略の阻止、そして最も中国が神経をとがらせているのが“台湾問題”だ。 台湾統一は足元が不安定な習近平政権にとって個人独裁政権を確立させるための最強カード。その実現が、郭台銘の国民党からの出馬表明によって視野に入ってきた。もちろん国民党内では抵抗感が強く、実際に郭台銘が総統候補となるかはまだわからないが、仮に総統候補になれば、勝つ可能性が強く、そうなれば、中台統一はもはや時間の問題だ。郭台銘は「中華民国」を代表して中国と和平協議を行う姿勢を打ち出している。だが、その「中華民国」とは、今の中国共産党が支配する地域を含むフィクションの国。双方が「中国は1つ」の原則に基づき、統一に向けた協議を行えば、フィクションの国が現実の国に飲み込まれるのは当然だろう。そもそも郭台銘に国家意識はない。大中華主義のビジネスマンであり、しかも共産党との関係も深い。彼は共産党と自分の利益のために台湾を売り渡す可能性がある。つまり今、台湾問題に関して、中国はかなり楽観的なシナリオを持ち始めている。 貿易戦争で中国側が全面的妥協を検討していたのは、そのバーターとして米国に台湾との関係を変えないでもらおうという狙いがあったからだ。だが中国に平和統一に向けたシナリオが具体的に見え出した今、米国にはそんなバーターに応じる余裕はない。台湾旅行法、国防授権法2019、アジア再保証イニシアチブ法に続き、台湾への武官赴任を認める「2019年台湾保障法」を議会で可決した。となると、中国にすれば、台湾のために貿易交渉で米国に屈辱的な妥協にこれ以上甘んじる必要性はない。妥協しても米国は台湾に関しては接近をやめないのだから』、台湾問題、しかも鴻海創業者の「郭台銘の国民党からの出馬表明」、までが絡んでいるとは初めて知り、驚かされた。シャープや鴻海にしてみれば、米中関係悪化で経営をしっかり舵取りしてもらわなければならない時期に、郭台銘が経営をおっぽり出して、政治に熱を上げるというのは最悪の事態だろう。願わくば、「総統候補」になれずに経営に復帰してほしいといったところだろう。
・『「バイデン大統領」を待ち望む中国  もう1つの可能性は、劉鶴の発言からも見て取れるように、貿易戦争が関税引き上げ合戦になった場合、「中国経済の見通しの方が楽観的」と考えて、突っ張れば米国の方が折れてくるとの自信を持っている可能性だ。 中国経済に関していえば、第1四半期の数字は予想していたよりも良かった。私は、これは李克強主導の市場開放サインや減税策に海外投資家が好感したせいだと思っているので、李克強の対米融和路線を反転させれば、また中国経済は失速すると思うのだが、どうだろう。 さらに、もう1つの背景として、大統領選挙の民主党候補にジョー・バイデンがなりそうだ、ということもあるかもしれない。バイデンは中国が長らく時間をかけて利権づけにしたパンダハガー(「パンダを抱く人」=親中派)政治家であり、実際彼は「中国は我々のランチを食べ尽くすことができるのか?」と語り、中国脅威論に与しない姿勢を示している。来年の秋にバイデンが大統領になるなら、習近平は妥協の必要がない。中国は今しばらく忍耐すればいいだけだ。むしろ、トランプを挑発して、その対中姿勢を不合理なほど過激なものにさせた方が、企業や一般家庭の受ける経済上のマイナス影響が大きくなり、トランプの支持率が落ちるかもしれない。次の大統領選で民主党政権への転換の可能性はより大きくなるかもしれない。 トランプがファーウェイ問題や一帯一路対策で、企業や周辺国に“踏み絵を踏ます”かのような圧力をかけるやり方は、一部では不満を引き起こしている。アンチ中国派のマレーシアのマハティール首相ですら、米中貿易戦争でどちらかを選べ、と迫られたら、「富裕な中国を選ぶ」(サウスチャイナ・モーニング・ポスト、3月8日付)と答えている。強硬な姿勢をとっているのはトランプの方だ、というふうに国際世論を誘導しようと中国側も懸命に動いている』、親中派をパンダハガーと呼ぶというのは、初めて知ったが、上手い表現だ。仮にバイデンが大統領になるのであれば、それを待つというのも手ではあるが、その可能性が低いとすればリスクが余りに大きいだろう。もっとも、「国際世論を誘導」する作戦は上手くいっているようだ。
・『2人の政治家の命運はいかに?  さて、私はこういった背景に加えて、若干の党内の権力闘争の要素も感じてしまうのだ。 というのも、サウスチャイナ・モーニング・ポストの報道ぶりが、いかにも今回の貿易戦争の決裂は全部習近平の一存で決まった、とわざわざその責任に言及しているからだ。サウスチャイナ・モーニング・ポストは香港で発行されている日刊英字新聞である。アリババに買収されて以来、中国寄りの報道になっているが、厳密に言えば、曽慶紅や江沢民に近い。米中通商協議が決裂し、そのツケがマイナス影響として国内の経済、社会の表層に表れた場合は、習近平退陣世論を引き起こそう、などという曽慶紅ら、長老らの狙いを含んだ報道じゃないか、という気がしてしまった。 いずれにしろ、習近平が「責任は全部、俺がかぶるから」と言って、交渉のちゃぶ台返しを行ったのだとしたら、今後の中国の経済の悪化次第では、習近平責任論は出てくるだろう。あるいは、その前にトランプに対する米国内の風当たりが強くなるのか。 つまり貿易戦争の勝敗は、トランプと習近平のそれぞれの政治家としての命運もかかっている。その勝敗の行方を決める次のステージが大阪で行われるG20の場だとしたら、ホストの日本もなかなか責任重大だ』、習近平もかなりのリスクを取っているようだ。G20が見物だ。

第三に、元・経済産業省米州課長で中部大学特任教授の細川昌彦氏が5月17日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「米国が「報復関税&ファーウェイ」で中国を“総攻撃”」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00133/00007/?P=1
・『米中摩擦の“主旋律”と“通奏低音”が一挙に音量を増してクライマックスの展開になってきた。米国の対中戦略については、トランプ米大統領による報復関税合戦の“主旋律”と米国議会、政権幹部、情報機関など“オール・アメリカ”による冷戦モードの“通奏低音”に分けて見るべきだが、いよいよ両者が合体・共鳴してきた。 トランプ大統領による派手な報復関税合戦は表面的には非常に目立ち、耳目を集めている。これが私の言う“主旋律”だ。直前まで合意寸前と見られていた米中貿易交渉が一転、暗礁に乗り上げた。米国は2000億ドル分の中国製品に課す第3弾の制裁関税を10%から25%に引き上げ、さらに第4弾として制裁関税の対象を中国からの全輸入品に広げることを表明した。合意に向けて楽観論が市場を含めてまん延していただけに、衝撃を与えている。 今後、仮に急転直下合意があったとしても、それは“小休止”にすぎず、2020年の大統領選挙までは一山も二山も“主旋律”の見せ場を作って支持者にアピールするだろう。 他方、5月15日、米国は中国の通信大手、華為技術(ファーウェイ)に対する事実上の禁輸措置を発表した。米国の対中戦略の“通奏低音”とは、トランプ政権以前から高まる対中警戒感を背景とした根深い問題を指すが、今回の措置はその象徴的な動きで、「切り札」だ。 これは拙稿「米国は中国ファーウェイのサプライチェーン途絶に動く」(2019年2月5日)で予想した通りの展開だ。ファーウェイに対して、これまでの政府機関だけでなく、民間企業にも「買わない」「使わない」という規制を広げた。さらに、「買わない」「使わない」から「売らない」「作らせない」の段階にいよいよ突入したのだ。まさにトップギアに入った。 本丸ファーウェイに対してサプライチェーン(供給網)を封じる強力な手段で迫るものだ。グローバルなサプライチェーンを分断する影響も出てくるだろう。詳しくは前述の拙稿を参照されたい。 私がこの展開を予想した今年2月の段階で、既に米国政権はこの「切り札」の準備を進めていた。あとはカードを切るベストのタイミングを見計らっていたのだ。それが対中貿易交渉が暗礁に乗り上げた今だ。 1年前、中国の通信機器大手、中興通訊(ZTE)に対して同様の措置を発動した際には、ZTEは経営危機に陥り、中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席がトランプ大統領に制裁解除を頼み込んだ経緯がある。その効果を確信したトランプ大統領が習近平主席との交渉の「切り札」を切ったのだ。同時に、関税交渉と違って、米国議会が大きく関わり、トランプ大統領も安易な妥協はできないことには注意を要する。 さらに”通奏低音”はファーウェイ問題にとどまらない。この後には、中国への技術流出を阻止すべく、新型の対中COCOM(ココム=対共産圏輸出統制委員会)とも言うべき新技術の輸出管理を今年中にも導入すべく準備が進められている。着々と通奏低音は演奏する楽器の厚みを増しているのだ。 表面的な関税合戦ばかりに目を奪われず、こうした本質的な動きも進行していることを忘れてはならない』、「派手な報復関税合戦」が「“主旋律”」で、ファーウェイ問題などが「“通奏低音”」とは上手い表現だ。それらが「一挙に音量を増してクライマックスの展開になってきた」、「着々と通奏低音は演奏する楽器の厚みを増している」、などというのはその通りだろう。「新技術の輸出管理を今年中にも導入すべく準備が進められている」、というのもやっかいな問題だ。
・『日本企業も他人事ではない  ファーウェイ問題の日本企業との関わりは極めて重要なので、ここで再度警鐘を鳴らしたい。 現状でも日本の部材メーカーのファーウェイへの売り上げは年間7000億円程度にも上る。さらに、今後成長すると見込んでファーウェイへの売り込みを強化しようとしている日本企業も多い。 米国にとって意味ある規制にするためには、部材の供給能力のある日本による対中国の輸出管理の運用に関心が向いて当然だ。米国が「懸念顧客リスト」に載せて原則輸出不許可の運用をすると、日本政府による輸出管理の運用は独自の判断ではあるが、それを“参考にする”のが通例である。 しかしどのように“参考にする”のかは明確ではない。あくまで“機微度”に応じたケース・バイ・ケースの判断だが、日本企業も白黒がはっきりしない難しい判断を迫られることになる。要するに日本企業の経営者にとって、不慣れな「リスク・マネジメント」が重要になるのだ。 他方、ファーウェイも早くから米国政府の動きを察知して、危機感を持って米国以外からの部材の調達先の確保に奔走していた。日本の部材メーカーにとっても重要顧客であるだけに難しい対応を迫られることになる。少なくとも「『漁夫の利』を得ようとした」と米国から見られることのないよう、慎重さが必要になっている。 また日本で生産された製品の中に、米国から調達した部品が25%以上含まれていると、米国の規制対象になる(再輸出規制)ことも日本企業にとっては要注意だ。不注意で米国の規制違反になることがあってはならない』、「日本の部材メーカーのファーウェイへの売り上げは年間7000億円程度にも上る」というのでは一大事だ。
・『米中ともに「合意はしたいが、妥協はできない」関税合戦  次に“主旋律”である米中の関税合戦を見てみよう。 トランプ大統領も中国の習近平主席も「合意はしたいが、妥協はできない」のだ。その背景については、既にさまざま論じられているが、米中の駆け引きを見る上での基本的視点は、大きく2点ある。 米中双方における国内の「政治力学」と「経済状況」だ。 まず、米国の政治力学と経済状況はどうか。 トランプ大統領の頭の中は2020年の大統領再選が支配しており、判断のモノサシは分かりやすい。米国における通商問題のカギを握るのは米国議会だ。その議会は今や共和党、民主党問わず、対中強硬一色である(例外は、民主党の大統領候補の有力な一人であるバイデン元副大統領で、対中融和で知られ、対中強硬論に与しない姿勢を示している)。ここで安易に妥協すれば、批判の的になり、大統領選挙キャンペーンに大きなマイナスだ。 それをうまく活用しているのが、対中交渉の責任者であるライトハイザー米通商代表部(USTR)代表だ。一時2月ごろは、中国の知的財産権など構造問題にこだわる交渉姿勢を、早く合意したいトランプ大統領から批判されて、不仲説までささやかれた。しかし米国議会での公聴会などであえて議会の強硬圧力を受けることで、トランプ大統領の風圧をしのいできた。まさに長年ワシントンで生き延びてきた「ワシントン・サバイバー」の真骨頂だ。 これはかつて米朝協議において、ポンペオ国務長官、ボルトン大統領補佐官が諜報機関の情報を駆使して、安易な妥協は国内で批判を受けることをトランプ大統領に悟らせ、踏みとどまらせたことと軌を一にする。 トランプ大統領の前では無力な政権幹部は、米国議会や諜報機関といったワシントンの政策コミュニティーと連携することによって、何とかトランプ大統領の暴走を最小限にしているのだ。 米国政権内のパワーバランスも大きく変化した。中国が一旦合意したことを撤回して、約束を反故(ほご)にしたことが今回、トランプ大統領が強硬姿勢に転じたきっかけである。だが、このことが「中国は信頼できない」と主張してきた対中強硬派の論客、ナバロ大統領補佐官の信任を高めることになった。今や、穏健派のムニューシン財務長官の影は薄く、ナバロ補佐官、ライトハイザーUSTR代表といった対中強硬派が政権内を支配している』、「トランプ大統領の前では無力な政権幹部は、米国議会や諜報機関といったワシントンの政策コミュニティーと連携することによって、何とかトランプ大統領の暴走を最小限にしているのだ」という指摘は説得力がある。トランプはどうも相対交渉では、相手に引きずられ、甘くなりかちなのを、彼らが軌道修正しているようだ。
・『強気の背景は米国経済の好調さ  米国の好調な経済もトランプ大統領を強気にさせている要因だ。トランプ大統領の関心事は選挙戦に大きく影響する株価の動向である。 昨年11月、12月の株価の乱高下は米中の関税合戦による株価急落の懸念をもたらした。その後、米中協議が順調な進展を見て、マーケットは合意を織り込んでいた。大統領選に向けて重視する株価に激震を走らせる追加関税の引き上げはないだろうと、中国側も高をくくっていた節がある。 今回、5月5日のトランプ大統領のツイッターで追加関税を課すことが突然明らかにされ、激震が走ったが、一時下がった株価も半分戻すなど、マーケットのパニックはなさそうだ。トランプ大統領もこの株価の動きに大いに自信を持ったようだ。 実体経済も失業率は3.6%という1969年以来の低失業率で、インフレ率も低い。多少、関税引き上げで物価が上がっても許容範囲と見たようだ。 むしろ関税合戦が経済の足を引っ張るようだと、米連邦準備理事会(FRB)に利下げをさせる、いい口実になると考えた。これは来年の大統領再選に向けて、経済の好環境を作ることにもなる。早速5月14日、トランプ大統領はツイッターで、中国が経済を下支えするために利下げすると予想して、FRBに同じ措置をとるよう要求した。 FRBも協力させられれば、米国経済の体力は中国を圧倒して、余裕を持った戦いができるとの見立てだ』、こんな法外な要求にFRBが従うようであれば、市場は将来のインフレ懸念から長期金利はむしろ上昇する可能性もある。
・『中国党内権力は常在戦場  他方、中国はどうか。 中国の国内政治は常在戦場だ。常に政権の基盤を揺るがす隙を狙っている。 焦点は米国が重視している、国有企業への巨額補助金や知的財産権問題という中国の構造問題だ。共産党保守派の長老たちから見れば、国内の構造問題に米国が一方的に手を突っ込んでくるのは内政干渉と受け止める。アヘン戦争終結時の南京条約も思い起こさせる屈辱として、批判噴出したのだ。しかも国有企業による補助金は根深い利権、既得権を揺さぶりかねない。 今回、中国の交渉者である劉鶴副首相が一旦合意した150ページあった合意文書案は北京に持ち帰った際に、激しく批判され、習主席も認めなかったという。その結果、中国の本質的な構造問題に関する部分が大きく削除されて、105ページになって返されたとの報道もある。 今回の「ちゃぶ台返し」の方針は習主席の決断で、すべての「責任」を引き受ける覚悟だと、一部の報道で流れている。事の真偽は定かではないが、こうした報道が流されること自体、共産党内の揺さぶりの要素も垣間見ることができる。 下手をすれば、劉鶴副首相という、エリートの経済学者の顧問を抜てきして対米交渉の責任者に据えた習主席の責任にも及びかねない。 今年10月1日に建国70周年の一大イベントを控え、習主席にとって内政、外交を安定させることは最重要課題だ。弱腰外交の批判が共産党内だけでなく、世論にまで及び、ナショナリズムがコントロール困難になることのないよう細心の報道統制をしている。 こうした政治状況では習主席も首脳会談で譲歩しづらい。 ここで注目すべきは王岐山副主席の動向だ。 昨年3月の全人代(全国人民代表大会)人事で王岐山が副主席になった時には、今後の対米外交のカギを握ると見られて、注目されていた。しかし、その後の存在感は全くない。彼の人事を巡る権力闘争もあって、さまざまな臆測が飛び交っている。この難局に至っても王副主席が動かないかは注目点だ。 中国の経済状況も微妙だ。 今年初めの頃は景気の減速が深刻な時期であったが、そのため習主席は劉副首相に対米交渉を早期にまとめるよう指示をし、妥協カードを繰り出した。ところが4月にはこの夏にも景気が底を打つとの見方も広がり、やや余裕ができたため、対米交渉も強気に転じたのだ。 ところが5月15日発表の経済統計では、小売りも生産も投資も振るわず、景気の先行き懸念は再び広がっている。特に追加関税が中国の雇用に打撃を与える恐れもあって、今後、大幅な景気対策を打ち出して、必死にしのごうとするだろう。 「妥協はできないが、合意はしたい」。習主席が大阪での20カ国・地域(G20)首脳会議の場で、どういうカードを切ってくるか。ボールは中国側にある。 こうした米中双方の「政治力学」と「経済状況」は、現時点での“スクリーン・ショット”にすぎない。これまでの半年でも変化したように、今後も時間の経過とともに大きく変化するものだ。それに応じて、米中のドラマがどう展開していくかに注目すべきだろう。 そしてこれはあくまでも米中関係の表面的な部分で、これだけに振り回されてはいけない。米中が奏でる“通奏低音”の部分も含めて、米中関係の全体像の中で相対化して見ることも必要だ』、さすが元経済産業省米州課長として対米交渉の最前線に立った筆者だけあって、読みは広範で深く、大いに参考になった。やはり大阪でのG20が当面の注目点のようだ。
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欧州(その5)(現代版シルクロードはローマに通ず マルコ・ポーロの逆を行く中国とイタリアの合意、政治経験のないコメディアンがウクライナ大統領選で圧勝できた理由、欧州を席巻する子供デモは「チコちゃん現象」かもしれない 子供に叱られて喜ぶ大人たち) [世界情勢]

欧州については、昨年6月11日に取上げた。久しぶりの今日は、(その5)(現代版シルクロードはローマに通ず マルコ・ポーロの逆を行く中国とイタリアの合意、政治経験のないコメディアンがウクライナ大統領選で圧勝できた理由、欧州を席巻する子供デモは「チコちゃん現象」かもしれない 子供に叱られて喜ぶ大人たち)である。

先ずは、4月18日付けダイヤモンド・オンラインが、米紙WSJ記事を転載した「現代版シルクロードはローマに通ず マルコ・ポーロの逆を行く中国とイタリアの合意」を紹介しよう。筆者はカナダ在住のライターのロンディ・アダムソン氏。
https://diamond.jp/articles/-/199077
・『あなたが語学を学ぶ大学教授が洗練されたファッションの仕上げに日替わりで小粋なスカーフを巻いていたら、イタリアの大学に通っていると実感するだろう。また、ほぼ全員の教授がどこかの時点で、大抵は恨みがましい口調で次のように語るならば、ここはイタリアの大学だと思い知るだろう。第2次世界大戦後に「マーシャルプラン」(米国の推進した欧州復興支援計画)の資金がイタリアの中道右派、キリスト教民主を支えるのに使われ、そのために彼らが何十年も権力の座に居座り、同国に左派政権が誕生するのを妨げたというのだ。 筆者はここ数年、同国中部ペルージャにある大学でイタリア語を勉強している。時には1カ月滞在し、時にはもっと長いこともある。それは楽しくもあり屈辱的な経験でもある。同じクラスには他にも40代を過ぎた学生や欧州の年金生活者が少しはいるが、多くの在校生は外国留学プログラムで派遣された中国人の大学生たちだ。筆者が2月に受講していた上級レベルのクラスメートはおよそ70%が中国人だった。筆者の指導教官の一人はこれを「中国の侵略」と呼んだ。イタリア人はポリティカル・コレクトネス(政治的・社会的に差別や偏見がないこと)をめったに気にかけない。 大学側はこうした学生を頼みとしている。彼らの多くは中国・イタリア学術交流プログラム「マルコ・ポーロ」の一環でイタリアを訪れる。一方で、イタリアはインフラ投資を必要としている。先進7カ国(G7)の中で中国の広域経済圏構想「一帯一路」に参加する最初の国となったのもイタリアだ。この構想はある意味、マルコ・ポーロの逆を行く取り組みだといえる』、「上級レベルのクラスメートはおよそ70%が中国人」とは驚かされた。ここまで中国が進出しているのであれば、「一帯一路」への参加も頷ける。
・『未来を見据えた裕福な中国で生まれ育ったクラスメートたちは、頭脳明晰で開放的、かつ野心に満ちている。彼らがイタリア的なものを何でも楽しみ、すぐ取り入れるのを見るのは愉快だ。彼らの多くはクラスメートや教師にわかりやすいイタリア名を名乗っている。彼らが将来イタリアや中国で働くか、両国の橋渡しをすることは容易に想像できる。大半は成功した教養のある家庭の出身で、今も中国特有の神話を信じている。それが何より顕著となったのは、あるクラスで毛沢東の名が挙がったときだ。(筆者を含む)中国人以外の学生の一部が彼に対する批判を口にした途端、めったにない本物の緊張の瞬間が訪れた。 「一帯一路」合意を支持するイタリア人にとって、中国の政治システムは問題ではない。多くの人々が信じるのは、欧州連合(EU)は自分たちを見捨てたのだから、イタリアはよそに目を向ける必要があるということだ。イタリアの公的債務は国内総生産(GDP)比で約130%の水準にあり、若者の失業率は33%に達する。筆者がカナダから来たと告げると、必ずカナダ移住についての質問攻めに遭う。「仕事はあるのか?」「冬はそんなに寒いのか?」などだ。そして最もイタリア人らしいのがこの質問。「誰か裏から手を回してくれる人を知らないか?」』、「欧州連合(EU)は自分たちを見捨てたのだから、イタリアはよそに目を向ける必要がある」とのイタリア人の言い分には、もはやEU創設国としての誇り捨て去ってしまったようだ。
・『米国もEUもイタリア政府が中国の地政学的影響力拡大に手を貸す決断をしたのを快く思っていない。すでに中国国有企業によるイタリアの主要な港――トリエステ、ジェノバ、パレルモなど――の管理運営または出資についての協議が始まっている。イタリアの一帯一路首席交渉官の一人、ミケーレ・ジェラチ氏はそうした苦情に対し、「嫉妬」によるものだとはねつけた。 「懸念」がより正確な言葉かもしれない。筆者はイタリア人もいくらかは懸念を感じているはずだと思う。マーシャルプランを押しつけがましいと感じる彼らにとって、この新たなシルクロードを通じて何がやってくるかは分からないのだ』、「中国国有企業によるイタリアの主要な港の管理運営または出資についての協議」の行方が当面の注目点だろう。

次に、ジャーナリストの仲野博文氏が4月23日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「政治経験のないコメディアンがウクライナ大統領選で圧勝できた理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/200477
・『ウクライナで21日に行われた大統領選挙の決選投票は、政治経験の全くない41才のウォロディミル・ゼレンスキー氏と現職のペトロ・ポロシェンコ大統領による対決となったが、決選投票前に複数のメディアが伝えた通り、ゼレンスキー氏の圧勝という結果に終わった。2014年に親ロシア派のヤヌコヴィッチ政権が市民デモによって崩壊し、それから間もなくして行われた選挙で大統領に選ばれたポロシェンコ氏だが、就任時に期待されていた経済再建や汚職の撲滅を成功させたとは言えず、多くのウクライナ人有権者が不満を抱えていた。新しく大統領に選ばれたゼレンスキー氏は国内の人気テレビドラマで大統領を演じてきた喜劇役者だが、75%近くの票を得た彼の圧勝は、有権者が抱く希望なのか、それとも諦めなのか』、コメディアンが圧勝とは、政治不信の「諦め」なのだろう。
・『39人が立候補する乱戦 1、2位による決選投票で決着  もともと大統領選挙は3月31日に実施されたが、実に39人が立候補する異例の展開になった。ゼレンスキー氏やポロシェンコ氏以外にも、元首相のユリヤ・ティモシェンコ氏や元副首相のユーリ・ボイコ氏らが次期大統領の座を狙って出馬。先月31日の選挙ではゼレンスキー氏が約30.2%の得票率でトップを獲得、ポロシェンコ氏は15.9%で2位という結果に終わった。ウクライナの法律では、大統領選挙で得票率の過半数を制する候補者が出なかった場合は、2位につけた候補と決選投票を行わなければならず、今月21日にゼレンスキー氏とポロシェンコ氏による決選投票が行われることになったのだ。 決選投票とはいうものの、過去5年間のポロシェンコ体制に失望した有権者は多く、さらに1回目の投票でゼレンスキー氏がダブルスコアに近い形でポロシェンコ氏に勝利していたため、最終的にゼレンスキー氏が勝利すると信じて疑う市民が多かったようだ。また、決選投票が近づくにつれて、各報道機関が支持率調査の結果を発表していったが、異なる支持率調査でも数字はそれほど大きく変わらず、平均するとゼレンスキー氏が約70%、ポロシェンコ氏が約30%という図式であった。 21日の決選投票では、投票の締め切りから間もなくして、各メディアが出口調査の結果を伝え始め、ゼレンスキー勝利がほぼ確実と報じた。現地時間の22日早朝には開票率が85%にまで達し、すでにゼレンスキー氏の勝利は確実となり、ゼレンスキー氏が約73%の得票率で約24%のポロシェンコ氏に圧勝したことが伝えられた。ポロシェンコ大統領も、「大統領職から離れます。政治の世界から離れるという意味ではありませんが、ウクライナの人々の意思を受け入れることにします」とツイートし、事実上の敗北宣言を行った』、なるほど。
・『新大統領ゼレンスキー氏 テレビドラマで大統領を演じてきた異色の経歴  新大統領となるゼレンスキー氏は41歳。ウクライナ中部の町クルィヴィーイ・リーフでユダヤ系の両親のもとに生まれ、大学教授であった父の仕事の関係で幼少期をモンゴルで過ごした。17歳の時にウクライナ全土で開かれているコメディ大会に初めて参加し、そこからメキメキと頭角を現していく。大学では法学を専攻していたが、卒業後はプロのコメディアンとして活動することを選択。自らがプロデュースしたコメディ集団を率いて、旧ソ連諸国をツアーで回り、コメディアンとしての腕を磨いた。転機となったのは彼が25歳になった2003年。ゼレンスキー氏のコメディ集団はウクライナの大手テレビ局と契約を結び、番組出演や番組制作を行うようになった。 ゼレンスキー氏はウクライナで喜劇俳優としてのキャリアを着実に積み上げてきたが、2015年からスタートしたテレビドラマ「人民の執事」のヒットによってさらに知名度を高めることに成功している。すでに3シーズンにわたって放送されたドラマの中で、ゼレンスキー氏は汚職や不正を嫌う30代の教師を演じ、ソーシャルメディアの力によって主人公が教師から大統領に転身し、ウクライナに存在する様々な問題を解決していくという内容だ。日本では考えられないが、サードシーズンの最終回がオンエアされたのは3月28日。大統領選を戦っていたゼレンスキー氏は大統領役でドラマに直前まで出演し、大統領選は最終回のオンエアから間もない31日に行われた。 今回の大統領選挙では、ドラマ「人民の執事」の影響力が、政治経験の全くないゼレンスキー氏を勝利させた最大の原動力であったと見る人は少なくない。アメリカのトランプ大統領は2004年から始まったリアリティショー「アプレンティス」で、毎週出演者の1人をクビにしていく冷酷な経営者を好演したが、これがアメリカの若い有権者に優れた経営手腕を持つリーダーというイメージを刷り込む結果となり、大統領選挙でのイメージづくりに一役買ったとされている。ゼレンスキー氏の手法は、トランプ大統領のものよりも、さらに徹底している。 ゼレンスキー氏は2018年の大晦日に大統領選挙への出馬を表明したが、すでに同年3月にはドラマのタイトルでもある「人民の執事」が政党名として正式に登録されており、これまでドラマを制作していたスタッフの一部が政党のスタッフに転職までしている。ゼレンスキー氏が主人公のウクライナ大統領を演じたドラマは、前述のとおり大統領選挙直前の3月28日まで毎週木曜日に放送されていた。 大統領選挙の候補者が選挙期間中に大統領を演じるドラマに出演することに対し、メディアを使った典型的なプロパガンダ活動でフェアではないという声が大学教授やジャーナリストから上がったものの、結局グレーゾーンという認識で放置されたまま大統領選挙は行われた。ゼレンスキー氏が出演する番組のほとんどは「1+1」というテレビ局で放送されており、この局のオーナーがウクライナのオルガリヒ(新興財閥)であるため、富裕層に優しい政治が行われるのではという懸念もすでに出ている』、「オルガリヒ(新興財閥)」がバックについているのでは、確かに「富裕層に優しい政治が行われるのではという懸念」も的外れではなさそうだ。
・『親ロシア派政権崩壊から5年 新リーダーの舵取りに対する国民の期待度は?  今回の大統領選挙で大敗を喫したポロシェンコ大統領についても触れておこう。2014年に発生した政変以降、定期的にウクライナの情報を聞いてきたウクライナ人の1人で、現在はキエフの政府系シンクタンクで広報責任者をつとめるテトヤナ・オリニックさんは言う。 「景気の停滞に関しては、実は2016年を境にプラス成長に転じています。ゆるやかな上昇ですが、ポロシェンコ政権の功績だったと私は確信しています。ただ、汚職に関してはポロシェンコ大統領でも対処できなかったのは事実。東部で続く戦闘と、賄賂なしではビジネスもできない現状に、国民がもう疲れ切ってしまったことがゼレンスキー大統領を誕生させたのではないでしょうか」 ポロシェンコ大統領にとって不運だったのは、東部で親ロシア派民兵と戦うウクライナ軍の装備品調達に多くの予算を使う必要があり、他分野に十分な予算を回せなかったことだ。以前の記事でも触れたが、東部ドンバス地方での戦闘が激化し始めた頃、ウクライナ軍には十分な兵器が存在せず、市民からの寄付によってなんとか成立していた。しかし、5年におよぶ戦闘で国民は疲弊。昨年11月末にウクライナの広範囲で戒厳令が敷かれた際には、「大統領選での再選を狙った人気取りのパフォーマンス」と揶揄されるほどであった。 ゼレンスキー氏の過去の発言を調べていくと、EUとNATOへの早期加盟を目指していくことを繰り返し主張しており、加えて任期中にドンバス地方で現在も続く戦闘を終結させるとも語っている。また、国内の法人税を変更して海外投資を呼び込み、国内経済を活性化させていくプランについても有権者に語っている。しかし、政治経験がゼロで、ウクライナ政界に強いネットワークを持たないゼレンスキー氏が、閣僚選びやこれからの政権運営で何を行うのかは不明だ。 親ロシア派勢力との戦闘終結に多くの時間を注いだポロシェンコ大統領に対し、ウクライナの有権者は2期目のチャンスを与えなかった。ゼレンスキー大統領誕生が意味するのは国民の期待の表れなのか、それとも諦めのサインなのだろうか』、新大統領は親EU・NATOのようだが、ロシアとの関係改善も目指すようで、これからの舵取りが注目される。

第三に、在独作家の川口 マーン 惠美氏が4月26日付け現代ビジネスに寄稿した「欧州を席巻する子供デモは「チコちゃん現象」かもしれない 子供に叱られて喜ぶ大人たち」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/64339
・『全世界の大人たちに向かって  4月5日の本欄で、ドイツで燃え盛っている子供のデモのことを書いた。スウェーデンのグレタ・トゥンベルク(Greta Thunberg)という少女が、去年の8月に始めた環境運動“Fridays for future”に、ドイツの多くの生徒が共感し、毎金曜日に学校をサボってデモをしている話だ。 https://gendai.ismedia.jp/articles/-/63945 目的は、一刻も早くCO2を削減して、「惑星」を滅亡から救うこと。今、すぐに行動を起こさないと、地球はまもなく取り返しがつかなくなるそうだ。もちろん、この子たちがそう固く信じている背景には、信じ込ませた人たちがいる。 「グレタというのは現在9年生(日本の中3)のスウェーデン人の女の子で、地球の温暖化を食い止めるための活動家ということになっている。ヨーロッパで9年生といえば、学校にもお化粧バッチリで通う大人っぽい女の子が多い中、グレタはおさげ頭で、化粧っ気もなく子供っぽい。そして、過激な内容のスピーチを無表情でする。この頃、マスコミで姿を見ない日はないほどの有名人だ。 去年、米『Time』誌は、世界で一番影響力の強いティーンエイジャー25人のリストにグレタを加えた。先日、3月30日には、本来なら優秀な映画やテレビ作品、あるいは、映画やテレビで活躍した人に与えられるドイツの『ゴールデンカメラ賞』の特別賞を受賞し、ベルリンに集合したスターたちや来賓から満場の喝采を受けた」(前述の拙稿より引用) 4月17日には、グレタはバチカンで法王に会っている。普通、ローマ法王の前に出るときは、アメリカ大統領夫人であろうが、ハリウッドスターであろうが、アウトフィットは黒の正装が常識だが、彼女はTシャツと運動靴で現れ、“Join the Climate Strike”と書いた紙を法王に示した。ほとんど暴挙と言える。 グレタはその他にも、EUの委員長に面会したり、ヨーロッパ中に広がっている子供デモの特別ゲストとして招かれたり、とにかく引っ張りだこだが、今年1月の末、スイスのダボス会議で行ったスピーチは、とりわけ強烈だった。 彼女は全世界の大人たちに向かって、まるで無表情で次のように言ったのだ。「私たちは、あなた方が希望を持つことを許さない」「あなた方が恐怖を覚えることを望んでいる。私たちが常に感じているような恐怖を」「私たちは、あなた方が自分の家が燃えているときのようにパニックに陥ることを望む。家は本当に燃えているのだ」 しかし、この不吉な御宣託を不気味に感じたのは私だけだったらしく、今やメルケル独首相からシュタインマイヤー独大統領までが、グレタの蒔いた種で広がりつるある子供デモのことを褒め称えている。 ドイツ政界の重鎮ショイプレ氏に至っては、生徒が金曜日の授業をサボることを容認している教師たちのことまで褒めた。また、主要メディアも、グレタと、そして彼女に続く子供たちを異常に祭り上げている』、「ダボス会議で行ったスピーチ」は「9年生(日本の中3)」とは思えないような激烈な内容だが、「ドイツ政界の重鎮」たちや「主要メディア」が褒めそやすとは、いかにもドイツらしい。
・『ボーっと生きてんじゃねーよ!  子供たちの主張は、ひとえにCO2の削減だ。石炭火力発電所は即刻停止、ガソリン車もやめる。飛行機も極力乗らず、肉も食べないのが正しい生活であるとする(酪農も多くのCO2を発生させるから)。 子供たちのこの過激な思想を支えているのが、「大人たち」への憤りだ。自然を壊しておきながら、未だに反省もせず、何の手立ても打たない大人に対する彼らの怒りは、とどまるところを知らない。 ただ、実際問題として、子供たちの言うとおりにしたら、地球が温暖化で壊れる前に、ドイツが経済破綻で壊れる。そうなったら、肉は食べたくても食べられないし、飛行機や車も、乗りたくても乗れない。それどころか、環境を保護することもできなくなるだろう。CO2は、いわば産業発達の指針である。 そこで、ある記者がグレタにその解決法について尋ねたら、彼女はまたもや無表情で、「自分たちが作った汚泥の除去の仕方を、子供に尋ねるな」と一蹴。そして、それを聞いた大人たちが、あっぱれと言わんがばかりに喜んだのだ。 そのとき、私がふと思い出したのがチコちゃん。グレタはドイツでは、ジャンヌダルクなどと言われているが、私に言わせればチコちゃんだ! これは、5歳児と称する頭でっかちの女の子に「ボーっと生きてんじゃねーよ!」と叱咤され、多くの大人が有難がっている日本の現象と瓜二つではないか。 グレタがときに片方の眉を上げて、皮肉そうな微笑みを見せるところも、チコちゃんにそっくり。それにしても、大人が子供に叱られて喜ぶのは、世界的な風潮なのだろうか』、「「自分たちが作った汚泥の除去の仕方を、子供に尋ねるな」と一蹴」とは恐れ入るほどの見事な切り返しだ。「チコちゃん」も形なしだ。
・『ドイツの多くの人たちは、今、老いも若きも皆、過激な自然回帰ムードに陥っている。そして、それに伴って緑の党の躍進がすごい。SPD(社民党)などとっくに追い越して、CDU(キリスト教民主同盟・現在やはり落ち目)に次ぐ第2党だ。 ドイツは右傾しているという報道をよく見かけるが、それは間違いで、本当は、中心軸が左傾している。 右派の政党AfD(ドイツのための選択肢)も確かに伸びているが、左派の緑の党の伸びは、それとは比べ物にならない。肝心要の保守CDUまでが、緑の党としっくりきている状態だ。もし、与党の連立再編があれば、緑の党が政権に加わる可能性は高いだろう。 つまり、「ドイツが右傾で危険!」という警告の裏には、実は左派の、反対勢力を極右として潰そうとする作戦があると私は見ている。 いずれにしても、Fridays for futerを支援する緑の党にとって、グレタ現象ほど有難いものはない。ここでデモをしている子供たちは、将来、CDUでもSPDでもなく、緑の党に投票するだろう。緑の党は、数年後の豊穣な収穫を思い描きながら、せっせと大票田を耕しているような気分ではないか。 一方、FDP(自民党)は最初からグレタの運動に懐疑的だ。リントナー党首に言わせれば、グレタに拍手喝采して、脱原発だけでなく脱火力や電気自動車奨励へと突き進んでいるドイツ国民の姿と、2015年の秋に“refugees welcome”と叫んで100万人もの難民を入れたドイツ国民の姿は酷似している。 当時、もっと冷静に対処していれば、ドイツやEUは今、これほど深刻な難民問題を抱えることはなかった。それと同じく、ドイツ国民は今回もまた、数年後に何十万人もの失業者が出て初めて、自分たちの決断の誤りを深く後悔するのではないかと、リントナー氏』、「リントナー氏」の警告ももっともだ。
・『それでもCO2は減らず  さて、3月の末、興味深いことが起こった。グレタが突然、自身のフェイスブックで、CO2削減を進めるためには、原発も一つのオプションであるという意味のことを書きこんだのだ。 原発は CO2を出さないのだから、それほど間違った話ではない。しかも、グレタの祖国スウェーデンは原発大国でもある。 ただ、彼女の応援団は驚愕した。ドイツでは原発は悪で、環境派が口に出して擁護するなどあり得ない。原発がCO2を出すと思っている人も多い。そこで、たちまち大騒ぎとなり、結局、フェイスブックの書き込みは修正された。 今のドイツでは、たとえCO2削減のためであっても、原発に言及することはタブー中のタブー。グレタにも許されないことのようだった。 しかし、タブーではあるけれど、少しずつ懸念の波は広がっている。太陽光パネルが増え、風車が立ち並び、電気自動車が増産されても、それだけで素晴らしいCO2フリーの社会が完成するわけではないことは、だんだんわかってきた。それどころかCO2は減らず、ドイツの電気代は、すでにEUで一番高くなっている。 先週、来年のDGP(正しくはGDP?)予測は2度目の下方修正をされ、プラス0.5%まで落ちた。このままでは、バカを見るのはまた貧乏人だ。 なのに、日本には、ドイツで素晴らしいことが進んでいるように宣伝している人が今も多い。チコちゃん、勘違いをしている人たちに、ぜひ、何とか言ってやってください』、現実世界では、CO2削減と脱原発のように相矛盾する課題も多い。その中で解を出していくのは、グレタではなく、やはり政治の役割だろう。
タグ:欧州 WSJ マーシャルプラン ダイヤモンド・オンライン 現代ビジネス 川口 マーン 惠美 (その5)(現代版シルクロードはローマに通ず マルコ・ポーロの逆を行く中国とイタリアの合意、政治経験のないコメディアンがウクライナ大統領選で圧勝できた理由、欧州を席巻する子供デモは「チコちゃん現象」かもしれない 子供に叱られて喜ぶ大人たち) 「現代版シルクロードはローマに通ず マルコ・ポーロの逆を行く中国とイタリアの合意」 イタリアの中道右派、キリスト教民主を支えるのに使われ、そのために彼らが何十年も権力の座に居座り、同国に左派政権が誕生するのを妨げた ペルージャにある大学 上級レベルのクラスメートはおよそ70%が中国人 「中国の侵略」 大学側はこうした学生を頼みとしている 彼らの多くは中国・イタリア学術交流プログラム「マルコ・ポーロ」の一環でイタリアを訪れる 「一帯一路」に参加する最初の国 マルコ・ポーロの逆を行く取り組み 多くの人々が信じるのは、欧州連合(EU)は自分たちを見捨てたのだから、イタリアはよそに目を向ける必要があるということ すでに中国国有企業によるイタリアの主要な港――トリエステ、ジェノバ、パレルモなど――の管理運営または出資についての協議が始まっている 仲野博文 「政治経験のないコメディアンがウクライナ大統領選で圧勝できた理由」 ウォロディミル・ゼレンスキー氏 ゼレンスキー氏の圧勝 ポロシェンコ氏だが、就任時に期待されていた経済再建や汚職の撲滅を成功させたとは言えず、多くのウクライナ人有権者が不満を抱えていた 人気テレビドラマで大統領を演じてきた喜劇役者 新大統領ゼレンスキー氏 テレビドラマで大統領を演じてきた異色の経歴 ゼレンスキー氏の手法は、トランプ大統領のものよりも、さらに徹底 ウクライナのオルガリヒ(新興財閥) 富裕層に優しい政治が行われるのではという懸念 東部で親ロシア派民兵と戦うウクライナ軍の装備品調達に多くの予算を使う必要があり、他分野に十分な予算を回せなかったこと EUとNATOへの早期加盟を目指していくことを繰り返し主張 「欧州を席巻する子供デモは「チコちゃん現象」 スウェーデンのグレタ・トゥンベルク(Greta Thunberg)という少女 環境運動“Fridays for future”に、ドイツの多くの生徒が共感し、毎金曜日に学校をサボってデモをしている 目的は、一刻も早くCO2を削減して、「惑星」を滅亡から救うこと 9年生(日本の中3)のスウェーデン人の女の子で、地球の温暖化を食い止めるための活動家 米『Time』誌は、世界で一番影響力の強いティーンエイジャー25人のリストにグレタを加えた ドイツの『ゴールデンカメラ賞』の特別賞を受賞 スイスのダボス会議で行ったスピーチ 「私たちは、あなた方が希望を持つことを許さない」「あなた方が恐怖を覚えることを望んでいる。私たちが常に感じているような恐怖を」 「私たちは、あなた方が自分の家が燃えているときのようにパニックに陥ることを望む。家は本当に燃えているのだ」 メルケル独首相からシュタインマイヤー独大統領までが、グレタの蒔いた種で広がりつるある子供デモのことを褒め称えている 主要メディアも、グレタと、そして彼女に続く子供たちを異常に祭り上げている 子供たちの主張は、ひとえにCO2の削減だ 子供たちのこの過激な思想を支えているのが、「大人たち」への憤りだ。自然を壊しておきながら、未だに反省もせず、何の手立ても打たない大人に対する彼らの怒りは、とどまるところを知らない ある記者がグレタにその解決法について尋ねたら 「自分たちが作った汚泥の除去の仕方を、子供に尋ねるな」と一蹴 チコちゃんだ! 緑の党の躍進 デモをしている子供たちは、将来、CDUでもSPDでもなく、緑の党に投票するだろう グレタが突然、自身のフェイスブックで、CO2削減を進めるためには、原発も一つのオプションであるという意味のことを書きこんだのだ ドイツでは原発は悪で、環境派が口に出して擁護するなどあり得ない 結局、フェイスブックの書き込みは修正された CO2は減らず、ドイツの電気代は、すでにEUで一番高くなっている
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トランプ大統領のロシア疑惑(ロシア疑惑捜査 トランプ氏と弁護団「勝利」の裏側、ロシア疑惑報告書 トランプ氏はなぜ「訴追」を免れたか、ムラー報告書公表から1週間 米政治の混迷はむしろ深まっている、トランプ「護衛官」 バー司法長官のロシア疑惑) [世界情勢]

今日は、トランプ大統領のロシア疑惑(ロシア疑惑捜査 トランプ氏と弁護団「勝利」の裏側、ロシア疑惑報告書 トランプ氏はなぜ「訴追」を免れたか、ムラー報告書公表から1週間 米政治の混迷はむしろ深まっている、トランプ「護衛官」 バー司法長官のロシア疑惑)を取上げよう。

先ずは、3月30日付けロイター「焦点:ロシア疑惑捜査、トランプ氏と弁護団「勝利」の裏側」を紹介しよう。
https://jp.reuters.com/article/trump-mueller-russia-idJPKCN1RA0I0
・『バー米司法長官がモラー特別検察官によるロシア疑惑捜査報告書の概要を連邦議会に通知したとき、トランプ大統領の弁護団は、議事堂に近いオフィスに顔をそろえていた。 彼らはこの日まもなく、祝杯を挙げるべき理由を手にすることになる。これには恐らく、重要な戦略的判断が寄与していた。モラー特別検察官は、2016年の米大統領選挙でトランプ氏またはその側近がロシアと共謀したか否かについて、22カ月に及ぶ捜査を行い、証人500人に事情聴取した。トランプ氏の弁護士たちは、大統領本人への事情聴取が行われないよう手を尽くした。 この戦略は功を奏し、特別検察官の捜査チームから本格的な事情聴取を受けるという司法上の危機からトランプ氏を守った。もっともトランプ氏自身は、喜んで事情聴取に応じると公言しており、今年1月27日に聴取を行うという仮の日程まで組まれていたほどだ。 しかしトランプ氏の弁護士の1人はロイターに対し、モラー氏による大統領への聴取を認めるつもりは全くなかったと語った。モラー氏も、証言を求める召喚状を発行することはなかった。 トランプ氏の主要弁護士たち、ジェイ・セクロー氏、ルディ・ジュリアーニ氏、ジェーン・ラスキンおよびマーチン・ラスキン夫妻は24日、会議用円卓を囲んでコンピューターの画面を開き、バー司法長官による報告書概要の発表を待った。ついにその概要がネット上に公開されたとき、彼らは歓喜に沸いた。 モラー氏はロシアとの共謀の証拠を見いだせなかった、とバー司法長官は言った。また、トランプ氏が捜査を邪魔しようと試みて司法妨害を行ったという証拠も不十分だったと結論した。モラー特別検察官は、この点はまだ未解明の問題だとしている。 この結果は、捜査がトランプ政権に大きな影を落としていただけに、大統領にとって大きな政治的勝利となった。 セクロー氏は26日、ロイターに対し、ジュリアーニ氏が抱きついてきたと明かした。セクロー氏によれば、彼は他のメンバーに「この上なく素晴らしい」と言ったという。ジュリアーニ氏はバー司法長官が捜査結果を発表した数分後、「予想していたよりも良い結果だ」とロイターに話した』、「バー司法長官による報告書概要の発表」の時点では、「トランプ氏の主要弁護士たち」は大喜びだったようだ。
・『トランプ氏の弁護団は、同氏に対する本格的な事情聴取を求めるモラー氏の度重なる要請を巧みに拒否し、大統領が大陪審で証言するよう召喚されることを回避した。その代わりに、トランプ氏が文書による回答を提示することで合意し、これは昨年11月に実現している。 この違いは大きかった。何人かの弁護士は、トランプ氏が事情聴取に応じたら、彼が連邦捜査局(FBI)に対してうそをついていた、法律用語で言えば「虚偽の陳述」をしていたと主張される可能性があった。ジュリアーニ氏は、モラー特別検察官がトランプ氏に対し、ロシアとの共謀について尋ねるだけにとどまらず、それ以外の事項にも脱線するようなことがあれば、事情聴取は「偽証のわな」になると公言していた。 トランプ氏は、事実のわい曲やあからさまなうそを指摘されることが頻繁にある。 弁護団の戦略に詳しい2人の情報提供者が匿名で語ったところでは、この1年間、トランプ氏の弁護士たちは両面作戦を推進してきたという。つまり、ジュリアーニ氏が、ケーブルテレビの報道番組でモラー特別検察官による「魔女狩り」を公然と攻撃する一方、ラスキン夫妻が水面下でモラー氏のチームと交渉する、というアプローチだ。 モラー氏の報道官は、コメントの求めに応じなかった』、弁護団が、「本格的な事情聴取を求めるモラー氏の度重なる要請を巧みに拒否し・・・文書による回答」に止めたのは、さらに「両面作戦を推進してきた」というのは、さすが超一流弁護団だ。
・『「二の舞はごめんだ」  2017年5月にモラー氏が捜査を開始したとき、弁護団は当初、捜査に協力する方が最短距離で幕引きに至ると判断していたと、当時、大統領に関する捜査への対応を担当していたホワイトハウスの法律顧問タイ・コブ氏は言う。ホワイトハウス職員20人以上が特別検察官による事情聴取に応じ、政権側は2万点以上の文書を提出した。 トランプ氏自身が事情聴取に応じるかどうかも切迫した問題となっていた。聴取の日程が暫定的に決められたにもかかわらず、トランプ氏の法律顧問たちの意見は分かれていた。当時、トランプ氏の個人弁護団のトップを務めていたジョン・ダウド氏は、事情聴取はあまりにもリスクが高いと懸念していた。 海兵隊出身で好戦的なダウド氏は、トランプ大統領自身が意欲を見せているにもかかわらず、事情聴取に応じることに反対した状況を回想して、「ノコノコ出ていって下手を打つわけにはいかない」と語った。 ダウド氏によれば、彼はモラー氏のチームに「彼らがフリン氏やパパドプロス氏に対してやったことについて」話をしたという。国家安全保障担当大統領補佐官だったマイケル・フリン氏と、選挙の際にトランプ氏の側近だったジョージ・パパドプロス氏は、特別検察官による事情聴取に応じた末に、結局FBIに対する偽証について有罪を認めた。 ダウド氏は「彼らの二の舞を演じるつもりはなかった」と、あるインタビューで話している。 ダウド氏によれば、モラー特別検察官から、事情聴取で16の分野について協議したいと言われ、あまりにも話が広がりすぎていると考えたという。トランプ氏の弁護団は、暫定的な聴取日程に合意しつつ、捜査陣がすでに把握している内容を知ろうと同氏に探りを入れていたという。 「彼らが実際に何を考えているかを知りたかった。彼らはそれを胸の内に隠していた。われわれの狙いは、協議を重ねるうちに、彼らの考えがだんだん分かってくるだろうということだった。それが、協議を続けていた狙いだ」とダウド氏。トランプ氏を事情聴取に応じさせるつもりはまったくなかったと同氏は付け加えた』、特別検察官のチームと「協議を重ねるうちに、彼らの考えがだんだん分かってくるだろう」とは、特別検察官のチームの脇が相当甘かったのか、弁護団の嗅覚が優れていたのだろう。
・『大統領を守る  コブ氏によれば、事情聴取が中止になった後は、捜査プロセスが長引くことは明らかだったという。 「大統領の弁護団が、事情聴取に応じないがその可能性は残しておくと2018年1月に決めた以上、捜査がかなり長引くことは明らかだった」と同氏は言う。 また弁護団は、モラー氏がトランプ氏に証言を義務付ける召喚状を発行するのではないかと日々心配しなければならなかった。もし召喚状が発行されたら、裁判官に召喚状の無効化を求めるというのが彼らの計画だった。そうなれば最高裁にまで至る司法の場での争いが予想される。だが、召喚状は結局来なかった。 「われわれは最初から、召喚状が来たらその無効を申し立てるつもりだった」とセクロー氏は言う。「法律上はこちらが有利だと自信を持っていた」 専門家が皆これに同意するわけではないが、トランプ氏の弁護団の見解では、他の情報源から情報を得ることが不可能な場合、あるいは極めて例外的な事態を除けば、大統領に証言を強制することはできない、というものだった。 2018年春の時点では、トランプ氏には2つの選択肢があるように思われた。事情聴取に応じるか、召喚状を受けるか、である。 この時点までに、すでに弁護団は再編されていた。ダウド氏は3月に辞任。ラスキン夫妻とジュリアーニ氏が4月に加わった。ホワイトハウスでは、5月にコブ氏に代わりエメット・フラッド氏が就任した。一貫して主要メンバーであったのはセクロー氏だけだ。 捜査当局との交渉に詳しい情報提供者によれば、新たな弁護団はモラー氏に対し、大統領の事情聴取を正当化するような段階まで捜査が達していることを示すように求めたという。 この情報筋によれば、弁護団は「犯罪の証拠をつかんだと言えるような立場にあるのか」と尋ねたという。 2018年秋を通じて、弁護団はこの立場を固守する一方で、トランプ氏の事業や財務その他の事項に波及するような聴取ではなく、2016年の選挙以前におけるロシアとの共謀の可能性についてという限定的なテーマに関してのみトランプ氏が文書による質問に回答する、という落とし所に向けて交渉を続けた』、「限定的なテーマに関してのみトランプ氏が文書による質問に回答する」との交渉も巧みだ。
・『重大な岐路  モラー氏が、質問リストの提示に同意したことが重大な岐路となった。情報筋によれば、同氏が事情聴取の要請をやめたわけではなかったが、文書による回答を渋々認めたことは、大きな転機となった。 「『彼らは召喚状の発行を決意するだろうか』と絶えず悩む状況から、『文書での質問に答えている』という状況になった」と情報筋は語る。 当時ロシア疑惑の捜査を指揮していたコミーFBI長官を解任し、セッションズ司法長官が捜査を終結させないことについて頻繁に公然たる批判を浴びせたことで、トランプ氏が司法妨害を試みたかどうかという点については、トランプ氏の弁護団は質問を受け入れなかった。 弁護団は、大統領が自身の政権で働くよう任命した人物を自ら解雇したからといって、司法妨害で有罪とされることはあり得ないと考えていた。 事情に詳しい情報筋によれば、「それは質問項目から外され」、選挙におけるロシアの干渉を巡る質問に対する回答についてモラー氏との交渉が続いたという。 「最終的に、戦略はうまくいった。事情聴取なし、大陪審召喚状もなし、だ」 トランプ氏は昨年11月20日、モラー特別検察官への回答書に署名し、フロリダ州の別荘「マール・ア・ラーゴ」で感謝祭の祝日を過ごすため、ワシントンを離れた。 当時ジュリアーニ氏はロイターに対し、「われわれは提示された質問にすべて回答した。当然ながら選挙前の時期に関する、ロシアに的を絞った質問だった」と語っている。「選挙後については何もなかった」 ジュリアーニ氏によれば、モラー氏のチームは交渉の間、トランプ氏本人に対して、できれば直接追加の質問を行う機会を求めてきたという。だが最終的にモラー氏は、何の条件も追加質問の機会もなしに、単に文書による回答のみを受け入れることに同意した、とジュリアーニ氏は言う。 昨年末の時点では、トランプ氏の弁護団はモラー氏の捜査陣とほとんど接触を持たなくなっていた。 弁護団の戦略についてセクロー氏は、「うまくいったのではないか。飛行機は無事に着陸した」と語った』、トランプ氏は「「マール・ア・ラーゴ」で感謝祭の祝日」でさぞかに「枕を高くして寝られた」ことだろう。

次に、4月21日付けロイター「焦点:ロシア疑惑報告書、トランプ氏はなぜ「訴追」を免れたか」を紹介しよう。
https://jp.reuters.com/article/usa-trump-russia-obstruction-idJPKCN1RV0DW
・『米司法長官は18日、2016年大統領選のロシア介入疑惑を巡る捜査報告書の公開を前に記者会見し、トランプ陣営とロシア側との共謀は認められなかったと強調した。 その一方で、一部の法律専門家からは、モラー特別検察官の捜査報告書にはそれとは正反対の証拠が多数盛り込まれており、判断は議会に任されるべきだとする声が出ている。 18日に公表されたモラー特別検察官の報告書は、トランプ氏による捜査妨害の試みについて新たな詳細を明らかにした。トランプ氏がモラー氏を解任したり捜査を制限しようと試みたり、2016年6月に選対幹部がロシア人と面会した際の詳細を秘匿し、さらに元顧問に恩赦をちらつかせたことなどが、新たに明かにされた。 民主党側は18日、捜査報告書にはトランプ氏の不適切な行動を示す不穏な証拠が含まれており、議会による調査が加速する可能性があるとの見方を示した。 一部の法律専門家も、こうした見方に同調する。検察側にはトランプ氏を司法妨害容疑で追及するだけの十分な証拠があったものの、現職大統領は訴追しないという司法省の長年の方針を踏まえ、モラー氏が訴追に難色を示した、と分析する。 コーネル大学のジェンス・オーリン教授(法学)は、モラー報告書は、「(司法妨害の)事案の数とその深刻度について、非常に徹底的に調べたものだ」と指摘する。 モラー氏の報告書は、司法当局者や証人に対するトランプ氏の振る舞いも含めた一連の行動について詳述。その中で、モラー氏は議会には大統領を監督する権限があると指摘している。 少なくとも6人の法律専門家が、モラー氏は議会がこの件を取り上げることを意図していると分析している。 「(報告書は)議会に対して、ウインクし、うなずき、再びウインクして、証拠は十分にあり、次は議会が動く番だと訴えている」と、ロサンゼルスのロヨラ法科大学院のジェシカ・レビンソン教授は分析する。 議会上院の民主党議員も、同じ見方を示した。下院各委員会の委員長は共同声明を出し、議会が証拠を吟味することを「特別検察官は疑いなく期待している」と表明した。 だが、共和党のダグ・コリンズ下院議員は、これに異議を唱えた。 「報告書は、議会が今司法妨害を調べるべきだとは言っていない。司法妨害に関する立法はできると言っているのだ」と、同議員はツイートした。 モラー氏の広報担当者は、コメントの求めに応じなかった』、モラー特別検察官は、「現職大統領は訴追しないという司法省の長年の方針」のもと、訴追する代わりに議会に判断を委ねたというのは、なかなか巧みな逃げ方だ。
・『トランプ氏の法律チームは、報告書は大統領にとって「完全な勝利だ」としている。 「もし司法妨害があったと思ったなら、彼らは(訴追)していただろう。だがそうしなかった」と、トランプ氏の弁護士を務めるジェイ・セクロー氏はインタビューに答えて言った。 民主党側が議会での追及に向けて動くかは現段階でははっきりしない。もし仮に下院が弾劾手続きの開始を決めても、共和党が過半数を占める上院がトランプ氏を弾劾する可能性は極めて低い。 トランプ氏が指名したバー司法長官は18日の記者会見で、トランプ氏を司法妨害容疑で追及するには十分は証拠がなかったと述べ、大統領を擁護した。 バー氏は、議員に宛てた過去の書簡で、大統領選への介入について、トランプ陣営はロシア側と共謀していないとしたモラー氏の捜査の結果によっても、この問題は根拠がなくなっていると述べていた』、バー氏については、第四の記事では利益相反の疑いが浮上したようだ。。
・『ウォーターゲート時代の司法省見解  米国の法律では、「司法行政のあるべき執行に影響を与えたり、邪魔したり、妨げたりすること」は犯罪にあたる。 司法妨害を立証するには、検察側は、容疑者が「不正な」または不適切な動機から行動したこと、つまり捜査を妨害する明確な意思があったことを証明しなければならない。 また、司法妨害事件は、他の不適切な行為の秘匿と重なる場合が多いと、法律専門家は指摘する。 現職大統領が焦点となる場合、問題はより複雑になる。 ニクソン大統領の辞任につながった1970年代のウォーターゲート事件の当時に出された司法省の見解は、現職大統領は訴追できない、というものだった。 米国憲法は、この問題について沈黙している。 モラー特別検察官は捜査報告書で、同省のこの見解を「受け入れた」とし、トランプ氏を司法妨害容疑で訴追するのに十分な証拠があるかどうかについて、結論を出せなかったとしている』、「現職大統領は訴追できない」というのは、「ウォーターゲート事件の当時に出された司法省の見解」だったとは。ただ、憲法上の規定ではないので、必ずしもこの見解に縛られる必要はない筈で、モラー氏自身の判断でもあるのだろう。
・『動機は何か  大統領の行動と意図は「犯罪行為は全くなかったと断定的に結論することを妨げる難しい問題を提示している」と、モラー報告書は記している。 だがモラー氏は、報告書は大統領の「潔白を証明するものではない」とも述べている。 バー司法長官は、大統領が、捜査によって自分の政権が脅かされると考え「不満と怒りを募らせていた」と述べた。 それにもかかわらず、トランプ氏は捜査の完了に必要な書類や証人をモラー氏から奪ったりしなかったと、バー氏は指摘した。 「行動が妨害的だったかどうかは別にして、動機が不正ではなかったことを示すこの証拠は、大統領に捜査を妨害する不正な意図があったとする主張に強く対抗するものだ」と、バー氏は述べた』、司法長官を大統領の完全なイエスマンであるバー氏に交代させたことも、立派な「司法妨害」であるような気もするが・・・。

第三に、在米作家の冷泉彰彦氏が4月25日付けNEWSWEEK日本版に寄稿した「プリンストン発 日本/アメリカ 新時代:ムラー報告書公表から1週間、米政治の混迷はむしろ深まっている」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/reizei/2019/04/1-1_1.php
・『トランプ支持派、反トランプの民主党左派、中間層の世論......それぞれのグループの対応がいまだに定まらない  4月18日に「ムラー特別検察官報告書」が公表されて1週間が経過しました。1週間も経てば、賛成と反対のリアクションもハッキリして、政治的な勝敗も明らかになっていても良さそうな時期です。ところが、今回の報告書については、そうではありません。トランプ大統領とその支持派、アンチ・トランプの民主党、中間層の世論、と仮に3つのグループに分けたとして、それぞれのリアクションが固まりません。 まず大統領自身がそうです。3月末に報告書に関してバー司法長官による4ページの「要約」が出て大統領の訴追はされないことが固まった時点では、大統領は喜んでいました。「(ロシアとの)共謀はない」「司法妨害もない」のだとして、それまでの民主党やメディアの攻撃は全て「フェイク」だと決めつけ、勝利宣言をしていたのです。 今回の報告書全文の発表でも、直後はそうだったのですが、400ページにわたる内容が徐々に明らかになるとリアクションは変わりました。「ロシアとの関係の詳細」「限りなく司法妨害に近い司法省への圧力の詳細」「陣営メンバーのウィキリークスへの接近」などのエピソードが書かれていたことを知ると、大統領は一転して「ひどい内容」だと言って怒りのモードに入っています』、やはりバー司法長官が都合よくまとめた「要約」と、全文ではインパクトが違うのは当然だろう。
・『民主党内の対立は激化  一方の民主党ですが、報告書の公表前の時点では、とりあえず党の「顔」であるナンシー・ペロシ下院議長などが「弾劾は求めず、選挙で決着をつける」という党の方針を確認していました。 ですが、レポートの全文が発表になると黙っていられなくなるグループが出て来ました。従来から弾劾強硬派であるオカシオコルテス議員など党内左派からは、「こんなに倫理的に問題のある大統領を弾劾できないのはおかしい」という声が上がっています。その結果として、政策面だけでも極端な左派と中道の対立がますます激化しています。 その背景には中道層の動揺という問題があります。各メディアは「灰色だが訴追はなし」「訴追はないが容疑に関係するエピソードは公開」、という今回の報告書について、元来のトランプ支持者は「勝利」と思うだろうし、反対派は「倫理的に批判」という攻勢を強めるだろう、しかし所詮は左右対立の中で何も変わらないのではないかという計算をしていました。 ですが、世論調査が示すものは少し違いました。調査機関にもよりますが、今回の「レポート公表」を受けて、大統領の支持率は明らかに低下しています。就任以来最低とは言えないものの、例えば保守系のFOXニュースでも不支持が支持を6%も上回っています。ちなみに、政治サイト「リアル・クリアー・ポリティクス」調べの主要世論調査の全国平均では、支持率43.9%まで下がっています。ということは、支持派は勝利、反対派は怒りという対立の固定化ではなく、少なくとも中間層の一部が「不支持に回った」と考えねばなりません。 だからこそ、大統領は全文公開後に怒ったわけですし、民主党の左派は「弾劾できないのはおかしい」と言い始めたのです。つまり、報告書の内容が玉虫色の灰色決着であっただけでなく、世論の受け止め方も玉虫色というか灰色ということになります。一週間を経過した中で、浮かび上がってきたのはそのような構図です。 こうした状況について、民主党左派のバーニー・サンダース議員(大統領候補)は、「弾劾を進めれば時間がかかる。そうなれば大統領選の議論も、ムラー報告書がどうとか、トランプの倫理がどうという話題に集約されてしまう。そうなれば、環境や医療保険や、あるいは性差別や移民差別など、必要な論争が全部、吹っ飛んでしまう」として、若手の「即時弾劾論」を戒めています。 この発言については、珍しくサンダース氏が原則論からマキャベリズムにシフトしたなどと話題になっているのは事実です。ですが、こうなると政策の左派と中道、即時弾劾論と戦略的な先送り論という2つの軸において、民主党はバラバラ。そう言われても仕方がありません。では、そのような「敵失」に乗じて大統領の勢いが浮上しているのかというと、必ずしもそうでもないところに、現在の米政治の不透明感があります』、「珍しくサンダース氏が原則論からマキャベリズムにシフトした」とは驚きだが、言っていることはまもとだ。ただ、「若手の「即時弾劾論」」は直ぐには収まらないとすれば、民主党もバラバラで、肝心の選挙に向けたエネルギーは分散しているようだ。

第四に、4月26日付けNEWSWEEK日本版「トランプ「護衛官」、バー司法長官のロシア疑惑」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/04/post-12045.php
・『ムラー特別検察官の捜査報告を過小評価したがるバー司法長官だが、実は彼自身にも疑惑の人物や業界との関係がある  まあ見慣れた光景だが......。 ウィリアム・バー司法長官が米議会で集中砲火を浴びている。ロバート・ムラー特別検察官の提出したロシア疑惑に関する捜査報告書について、連邦議会宛ての書簡で露骨にドナルド・トランプ大統領を利する解釈を示したからだ。その後も議会証言で口を滑らせ、16年大統領選でFBIがトランプ陣営を「スパイ」していた可能性があると発言。これも民主党議員にかみつかれた。 それだけではない。そもそもバーがロシア疑惑の捜査に監督者として関わるのは不適切だと指摘する専門家もいる。 なぜか。以前にバーが働いていた事務所や会社の雇用主が、ロシア疑惑における複数の重要人物とつながっているからだ。そうであれば、バーも前任者のジェフ・セッションズ同様、この事案から身を引くべきだと論じる向きもある。 「重要なのは実際に利益の相反があったかどうかではない。利益の相反があるように見えるという事実だ」と言うのは、フォーダム大学法科大学院教授で司法の倫理に詳しいジェッド・シュガーマンだ。 バーは公表した自身の資産報告で、過去にロシアとつながりのある(またはその疑いがある)法律事務所や企業のために働いていたと認めている。ロシアと深いつながりのある持ち株会社から配当も受け取っていた。 これらの事実は、司法長官の指名承認公聴会ではさほど注目されなかった。当時は、バーが前年にロシア疑惑の捜査を批判する内容の法的意見を作成していたことや、ムラーの報告書を(恣意的に要約せず)そっくり議会に提供するかどうかが最大の争点だったからだ。 疑惑の会社の名は既に知られているが、そうした会社とバーの関係はまだ解明されていない。それでも利益相反の疑いがある限り、議会民主党は追及の手を緩めないだろう。 そうであれば「司法省ではなく、独立機関による調査が必要だ」と本誌に語ったのはジョージタウン大学法科大学院のマイケル・フリシュ。独立系の監視団体「政府監視計画」のスコット・エイミーも、「彼は何も違法なことはしていないが、過去にこれらの組織と関与していたのなら、(ロシア疑惑の捜査から)身を引かないのは不適切ではないか」と言う』、「議会証言で口を滑らせ、16年大統領選でFBIがトランプ陣営を「スパイ」していた可能性があると発言」、司法長官の発言とは思えない軽率な発言だ。利益相反の疑いがあるのであれば、「バーも前任者のジェフ・セッションズ同様、この事案から身を引くべきだ」というのは正論だ。
・『トランプJr.の電話の相手  本誌は司法省に再三コメントを求めたが、回答はなかった。仕方ないので、現時点で分かっている事実を整理しておく。 まず、バーはロシアと深いつながりのある会社ベクター・グループから配当金を受け取っていた。同社のハワード・ローバー社長は90年代にロシアを訪れた際、トランプを同伴させている(この訪問がモスクワのトランプ・タワー建設計画の発端になったとされる)。 シュガーマンによれば、ドナルド・トランプJr.はトランプ・タワーで(大統領選中の16年6月に)行われたトランプ陣営とロシア人弁護士との会談を準備するに当たり、ローバーに電話をしていたとされる。 「ローバーとロシアの縁は深い。モスクワにトランプ・タワーを建てる計画を支援していたともされる。もともとバーの判断力には問題があるが、これほどトランプに近く、ロシア疑惑とも近い会社と金銭的な関係を持っていたのはまずい」 次はモスクワのアルファ銀行との関係だ。17年3月から司法長官に就任するまでの間、バーが弁護士として所属していた法律事務所カークランド&エリスはアルファ銀行の代理人だった。また同事務所の共同経営者で、やはりアルファ銀行とつながっているブライアン・ベンチョースキーは17年6月、トランプから司法省犯罪対策部門のトップに指名されている(昨年7月にようやく承認された)。 ベンチョースキーは同法律事務所でアルファ銀行の代理人を務め、同銀行とトランプのファミリー企業トランプ・オーガニゼーションがオンライン上で怪しげなやりとりをしていたとの疑惑にも対応していた。 また同銀行の株主にはロシアの富豪ゲルマン・ハンがいる。そしてこの男の娘婿で弁護士のアレックス・バンデルズワンは、ロシア疑惑の捜査で虚偽の供述をしたとして訴追されている。 「弁護士の職業規範に照らすと、バーが同銀行の法律顧問だったかどうかはとても重要だ」と前出のフリシュは言う。「もしも法律顧問の立場であれば、直接的な関わりはないとしても、利益相反の疑いが生じ得る」 次は米オクジフ・キャピタル・マネジメントという名のヘッジファンド。バーは16年から18年まで役員会に名を連ねていた。そしてこの会社も怪しい』、利益相反もさることながら、ロシア疑惑そのものにどっぷり嵌っている印象も受ける。
・『共謀疑惑の発生地点  このファンドは米大富豪ジフ兄弟の出資金を元手に、資金運用のプロであるアメリカ人のダン・オクが立ち上げたもの。07年の上場後もジフ兄弟は同社の株式を保有しているが、彼らはロシア政府から目を付けられてもいる。ロシア政府と対立する米資産家ビル・ブラウダーと仕事上のつながりがあるからだ。 16年6月のトランプ陣営幹部とロシア人弁護士の秘密会談で、ジフ兄弟の名前が出たことも分かっている。問題の弁護士ナタリア・ベセルニツカヤが、ヒラリー・クリントンによる「違法行為」の証拠をちらつかせたときのことだという。 バーがオクジフに在籍していいた事実だけで、利益相反の可能性があると考える専門家もいる。ロシア政府がジフ兄弟に関心を抱いていた事実も、今回の捜査の対象だったからだ。 「あの秘密会議にベセルニツカヤが出席していて、ブラウダーとその交友関係について話したという事実。それを踏まえると、あの会合の目的は何で、ブラウダーやジフ兄弟の役割は何かという疑問が生じる。そこで何らかの共謀があったのだろうか」とシュガーマンは問う。 そして最後に、ドイツ銀行の問題がある。ドイツ銀行は大統領の座を目指すトランプに融資を提供していた唯一の銀行として知られるが、バーはここに相当な資産を預けていた。この銀行はロシアの資金洗浄疑惑でも名前が挙がっており、議会が今もトランプと同銀行のつながりを調べている。 いかがだろう。これだけの事実がそろえば、バーはロシア疑惑の捜査の監督から身を引くべきではないだろうか。 「個人的に関与し、何らかの利益を得ていたのなら問題だ」と言うのは、かつて連邦選挙管理委員会の法律顧問を務めたラリー・ノーブル。「それはトランプ政権全体の問題でもある。この政権に関わる人間は誰もが、何らかの形でロシアとつながっているように見える」 そのとおり。見飽きた光景だけれど、目を離してはいけない』、「ドイツ銀行は大統領の座を目指すトランプに融資を提供していた唯一の銀行として知られる」、「ロシアの資金洗浄疑惑でも名前が挙がっており、議会が今もトランプと同銀行のつながりを調べている」、とこんなところでドイツ銀行の名前が出てきたことにも驚かされた。バー氏はどうみても、ロシア疑惑の渦中にあるようで、よくぞ恥ずかしげもなく司法長官の職に就いているものだ。
タグ:ロイター 冷泉彰彦 重大な岐路 Newsweek日本版 トランプ大統領 ロシア疑惑 (ロシア疑惑捜査 トランプ氏と弁護団「勝利」の裏側、ロシア疑惑報告書 トランプ氏はなぜ「訴追」を免れたか、ムラー報告書公表から1週間 米政治の混迷はむしろ深まっている、トランプ「護衛官」 バー司法長官のロシア疑惑) 「焦点:ロシア疑惑捜査、トランプ氏と弁護団「勝利」の裏側」 バー米司法長官 モラー特別検察官によるロシア疑惑捜査報告書の概要を連邦議会に通知 トランプ氏の弁護士たちは、大統領本人への事情聴取が行われないよう手を尽くした。 この戦略は功を奏し、特別検察官の捜査チームから本格的な事情聴取を受けるという司法上の危機からトランプ氏を守った 本格的な事情聴取を求めるモラー氏の度重なる要請を巧みに拒否し、大統領が大陪審で証言するよう召喚されることを回避 その代わりに、トランプ氏が文書による回答を提示することで合意し、これは昨年11月に実現 トランプ氏が事情聴取に応じたら、彼が連邦捜査局(FBI)に対してうそをついていた、法律用語で言えば「虚偽の陳述」をしていたと主張される可能性があった 事情聴取は「偽証のわな」になる トランプ氏の弁護士たちは両面作戦を推進してきた ジュリアーニ氏が、ケーブルテレビの報道番組でモラー特別検察官による「魔女狩り」を公然と攻撃する一方、ラスキン夫妻が水面下でモラー氏のチームと交渉する 「二の舞はごめんだ」 トランプ氏の側近だったジョージ・パパドプロス氏は、特別検察官による事情聴取に応じた末に、結局FBIに対する偽証について有罪を認めた われわれの狙いは、協議を重ねるうちに、彼らの考えがだんだん分かってくるだろうということだった 大統領を守る トランプ氏の事業や財務その他の事項に波及するような聴取ではなく、2016年の選挙以前におけるロシアとの共謀の可能性についてという限定的なテーマに関してのみトランプ氏が文書による質問に回答する、という落とし所に向けて交渉を続けた モラー氏が、質問リストの提示に同意したことが重大な岐路となった 最終的に、戦略はうまくいった。事情聴取なし、大陪審召喚状もなし、だ 「焦点:ロシア疑惑報告書、トランプ氏はなぜ「訴追」を免れたか」 捜査報告書にはそれとは正反対の証拠が多数盛り込まれており、判断は議会に任されるべきだとする声 トランプ氏による捜査妨害の試みについて新たな詳細を明らかにした。トランプ氏がモラー氏を解任したり捜査を制限しようと試みたり、2016年6月に選対幹部がロシア人と面会した際の詳細を秘匿し、さらに元顧問に恩赦をちらつかせたことなどが、新たに明かにされた 議会による調査が加速する可能性 モラー氏は議会には大統領を監督する権限があると指摘 証拠は十分にあり、次は議会が動く番だと訴えている ウォーターゲート時代の司法省見解 ウォーターゲート事件の当時に出された司法省の見解は、現職大統領は訴追できない、というもの 動機は何か プリンストン発 日本/アメリカ 新時代:ムラー報告書公表から1週間、米政治の混迷はむしろ深まっている」 トランプ支持派、反トランプの民主党左派、中間層の世論......それぞれのグループの対応がいまだに定まらない 民主党内の対立は激化 ナンシー・ペロシ下院議長などが「弾劾は求めず、選挙で決着をつける」という党の方針を確認 弾劾強硬派であるオカシオコルテス議員など党内左派からは、「こんなに倫理的に問題のある大統領を弾劾できないのはおかしい」という声が上がっています 今回の「レポート公表」を受けて、大統領の支持率は明らかに低下しています 報告書の内容が玉虫色の灰色決着であっただけでなく、世論の受け止め方も玉虫色というか灰色 サンダース議員 「弾劾を進めれば時間がかかる。そうなれば大統領選の議論も、ムラー報告書がどうとか、トランプの倫理がどうという話題に集約されてしまう。そうなれば、環境や医療保険や、あるいは性差別や移民差別など、必要な論争が全部、吹っ飛んでしまう 珍しくサンダース氏が原則論からマキャベリズムにシフトしたなどと話題 「トランプ「護衛官」、バー司法長官のロシア疑惑」 バー司法長官 彼自身にも疑惑の人物や業界との関係がある 以前にバーが働いていた事務所や会社の雇用主が、ロシア疑惑における複数の重要人物とつながっている バーも前任者のジェフ・セッションズ同様、この事案から身を引くべきだ 重要なのは実際に利益の相反があったかどうかではない。利益の相反があるように見えるという事実だ 「司法省ではなく、独立機関による調査が必要だ」 議会証言で口を滑らせ、16年大統領選でFBIがトランプ陣営を「スパイ」していた可能性があると発言 トランプJr.の電話の相手 バーはロシアと深いつながりのある会社ベクター・グループから配当金を受け取っていた ローバーとロシアの縁は深い。モスクワにトランプ・タワーを建てる計画を支援していたともされる。もともとバーの判断力には問題があるが、これほどトランプに近く、ロシア疑惑とも近い会社と金銭的な関係を持っていたのはまずい モスクワのアルファ銀行との関係 米オクジフ・キャピタル・マネジメントという名のヘッジファンド 共謀疑惑の発生地点 ドイツ銀行は大統領の座を目指すトランプに融資を提供していた唯一の銀行として知られる ロシアの資金洗浄疑惑でも名前が挙がっており、議会が今もトランプと同銀行のつながりを調べている
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テロとの戦い(その1)(安田純平氏が独白「“無謀”に突っ込む人間が社会には必要」、2014年12月シドニーで発生した銃撃戦の悲劇) [世界情勢]

今日は、遅ればせながら、テロとの戦い(その1)(安田純平氏が独白「“無謀”に突っ込む人間が社会には必要」、2014年12月シドニーで発生した銃撃戦の悲劇)を取上げよう。

先ずは、2月12日付け日刊ゲンダイ「安田純平氏が独白「“無謀”に突っ込む人間が社会には必要」」を紹介しよう(Qは聞き手の質問、Aは安田氏の回答)。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/247106
・『2015年6月にシリアで武装組織に拘束され、昨年10月23日、3年4カ月ぶりに解放された。日本での会見では「自業自得」とも語り、またぞろ「自己責任論」バッシングも生じたものの、ほどなく鎮火。その後は雑誌で手記を発表し、今年1月にはメールマガジンを始めて希少な経験を語るなどジャーナリストとして事実を伝える活動をずぶとく続けている。帰国後の日本を見て、いま何を感じ、何をやろうとしているのか。 Q:3年ぶりの日本で、帰国後どのように過ごされましたか。 A:年末は妻の実家がある鹿児島に墓参りをして、正月は私の実家のある埼玉に行っていました。お世話になった方が何人か亡くなられていました。もっと早く帰れればと悔いています。早く帰れる可能性はなくはなかったので私のミスです。 Q:機内で取材を受ける様子がまず日本では報じられましたが、解放直後とは思えないくらい落ち着いていました。 A:機内では入れ代わり立ち代わりでさまざまな人に取材されました。トルコで解放後、最初にお酒を飲んだのはその機内なんです。ワインのミニボトル1本とビール1缶だけだったのですが、おそろしく酔っぱらって。そのせいで冗舌だったのかもしれません(笑い)。 Q:「安田純平の死んでも書きたい話」という有料メルマガを1月から「まぐまぐ!」で配信されています。配信直後は購読増加ランキングで1位でした。 A:まずは自分にできる仕事として、幽閉されているときにつけていた日記や時事的な話題などを書いていこうと思っています。 Q:カメラや取材ノートは武装勢力に没収されたそうですが、日記は大丈夫だったのですか。 A:私を解放するということは拘束時の様子が話されることを意味しますから日記は大丈夫でした。彼らも見られて困るものは私に見せませんから。もちろん当時の日記はそのままではとても読める文章にはなっていないし、人前に出せない類いのメモもありますから、手を入れてメルマガに少しずつ出していきます。日記は書籍化する予定です。 Q:3年前と日本が変わったと思うことは。安倍政権が今も続いていると思いましたか。 A:「モリカケ」問題は帰国後に知りましたが、あれだけのことが明らかになっているのに首相が辞任に至らないのは驚きです。メディアは首相の地元もあまり取材してないようで不思議です。あとはテレビ番組がずいぶん変化した印象です。今回、私はワイドショー系にはほとんど出ていなくて、ニュース番組か報道番組の取材しか受けていないんです。以前もありましたけど、タレントのみなさんがニュースや時事モノについてもかなり自由に意見を言う番組が増えています。話はプロですから上手ですけど、事実関係を説明するべきものも省いてあちらのペースで進めてしまうから、今は出演しないほうがいいと周りから言われました。 Q:情報発信のハードルは下がっていますからね。 A:ツイッターでは私がパスポートを偽造してシリアに入国したと本気で書いている人がいました。その人たちは愛国者のつもりで書いているのかもしれませんが、それでは日本政府や入国管理局を無能だと言っていることになるのに。ツールに罪があるわけではないので、こちらの発信をよくよく考えてうまく使っていかないといけないなと思いました。これは2015年とは全然違います。』、確かにワイドショー系には出ない方が正解だろう。
・『フェイクニュースによって日本人が狙われる  Q:トランプ大統領が言い出した「フェイクニュース」という言葉も日常的に使われるようになりました。 A:私がイスラム国から解放されたという間違ったフェイクニュースもクルド系メディアが流して、今も掲載されています。2004年にイラクでスパイ容疑で拘束された時も、当初は「人質」と報道され、その後は「拘束」とメディアが修正していったのですが、インターネット上では当時のフェイクニュースがそのまま残っています。私が人質にされたのは今回が初めてです。フェイクしか見ない人もいますし、フェイクに反論するだけでは対処しきれない。私が人質だったというフェイクニュースが残り続けることには問題があります。今回、私の解放に際して身代金が支払われたという真偽不明の情報が報じられましたが、身代金が支払われて日本人の人質が解放されたという情報が世界中に出回ると、日本人を誘拐すれば金になると思われてしまいます。 Q:紛争地に行くジャーナリストが狙われやすくなってしまう。 A:ジャーナリストだけではありません。すべての日本人がターゲットになってしまいます。実際にシリアの武装勢力も日本のメディアをインターネットでチェックしていました』、「身代金が支払われたか」は不明のままだが、「身代金が支払われて日本人の人質が解放されたという情報が世界中に出回ると、日本人を誘拐すれば金になると思われてしまいます」というのは確かで、不明のままにしておいた方がいいのだろう。
・『自己責任論者の思い込み  Q:今回も自己責任論が議論されましたが、以前と違って「危険な取材をするジャーナリストを批判するのはおかしい」と多くのジャーナリストやメディアが擁護に回った印象です。 政府が自己責任論を言いませんでしたから。イラク人質事件のときは自衛隊のイラク撤退が人質解放の条件であり、政治問題でした。政府に助けてもらうのかと、自己責任論を掲げて批判してくる人は日本政府がなんでもできると思い込んでいるのでしょう。しかし、日本政府に本当に救出ができたのか。交渉はしていたのか。身代金を払うためには人質が生きていることを確認する生存証明を取る必要がありますが、拘束中、日本政府は一度も取っていません。紛争地に行く自由は、死んでしまうことも含めた自由です。政府がほとんど何もできない場所ですから、自分の身で責任を取るしかない。究極の自由とも言えます』、「「危険な取材をするジャーナリストを批判するのはおかしい」と多くのジャーナリストやメディアが擁護に回った」ので、自己責任論による批判が以前ほどではなくなったというのはいいことだ。
・『もっと紛争地を取材するべきです  Q:お連れ合いに「いざという場合には一切放っておけ」と伝えていたとか。 A:日本政府にしろ、トルコまで行ってくれたフリージャーナリストにしろ、いろいろな方が動いてくれましたが、こちらからは何もしないようにと以前から妻には言っていました。妻が記者会見を開けば、何を言っても言葉尻をとらえられてしまうでしょう。後藤健二さん(シリアで拘束されて殺害されたジャーナリスト)のときも、メディアは後藤さんの家族のマンションを連日取り囲んだ。捕まっている主体は本人なのに、それが広がってしまうんです。でも妻は本当によくがんばってくれました。次に海外に行くなら南の島にしてくれと言われていますが。 Q:3年4カ月の間、ほぼ独居で拘束されていたのに、よく拘禁症になりませんでしたね。 A:何度も正気を失いそうになって壁を蹴りつけたり暴れたりもしました。ただ、中国から来ていたウイグル人の施設では私に気を使ってか、部屋の窓から見えるように馬とかアヒルとかを移動動物園のように広場に連れてきたりしていました。 Q:安田さんにとって、日本人が海外を直接取材をする意味は。 A:一般論ですが、“無謀”に突っ込んでいく人間がいるから波紋が生まれ、何かが浮かび上がってきます。これは紛争地に限らない話だし、ジャーナリストに限る話でもありません。たとえば、かつてアフガニスタンを取材したとき、たまたまカブールの日本大使館の職員と話をしました。彼らからはアフガニスタンの道路について聞かれました。日本のODAで道路建設が必要かどうかを判断する情報が欲しいのですが、彼らは現場には行けないからです。日本が独自の道を進むには独自の情報は有益です。それを国が規制して、他国が集めた情報に頼っていればいいのでしょうか。 Q:今後の予定は。 A:また紛争地に行きます、とは今は言えませんね(笑い)。ただ、スペインではシリアで解放されたジャーナリストが再びシリアやイラクに取材に行っています。フリーランスはどうしても大手メディアが入ることができない場所やテーマを取材するようになります。日本も“無謀”に突っ込んでいく人の存在を保障できる社会にならないと。もっと紛争地を取材するべきです。それが社会をより強くするのですから』、紛争地で何が起きているのかを取材するフリーランスジャーナリストの存在は、なくてはならないものだ。労をねぎらいたい。

次に、4月12日付け東洋経済オンライン「フジテレビ「目撃!超逆転スクープ3 ?戦慄の凶悪犯vs決死の救出作戦?」取材班」「人質18人立てこもりテロ起こした凶悪犯の正体 2014年12月シドニーで発生した銃撃戦の悲劇」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/275777
・『ジャーナリストが現場に駆けつけるのは、数分後、数時間後、時には数日後です。何かが起きる前からその場にいて、すべてを目撃することは極めてまれです。あのとき、なぜ私があの場にいたのかは、今でも理解できません。でも、私は“そこにいた”のです」 そう語るのは、オーストラリアの大手テレビ局、チャンネル7の名物ニュースリポーター、クリス・リーズン(53)。世界各地のニュースの現場に駆けつける彼は、アメリカ同時多発テロ事件や東日本大震災でも現場からリポートをしてきた。そんな彼の30年に及ぶ経験の中でも、この事件は最も深く胸に刻まれていると言う。クリスは、規制線の中からの報道を許された「唯一のジャーナリスト」だったのだ。 2014年12月15日。クリスが半年間の長期休暇を終えて、久しぶりに出勤した朝、通りでコーヒーを買っていたときに事件は起きた……』、ニュースリポーターがたまたまテロ事件に遭遇するとは珍しいこともあったものだ。
・『穏やかな朝のカフェが一転、事件発生  オーストラリア最大の都市、シドニー中心部にあるリンツカフェは、クリスマスを目前にして、開店直後から賑わいを見せていた。 午前9時40分、突然、立ち上がったのは、黒い野球帽を被った男。少し前から店長のトリイ・ジョンソン(34)を呼び出し話し込んでいた男だった。 「全員、その場から動くな。ここにいる人間はすべて人質だ。自分の言う通りにすれば危害は加えない。シドニーの町は今、私たちの攻撃下にある」 肩に下げたバッグから取り出したのは、銃身を短く改造したショットガン。背中に背負ったリュックサックの膨らみ、隙間からのぞくケーブルは「自爆装置付きの爆弾だ」と叫んだ。「オーストラリア初のテロリストによる立てこもり事件」が発生した瞬間だった。 銃を掲げる男は、従業員に店の出入り口の鍵をかけさせた。そのとき、店内にいたのは、10人の客と8人の店員。合わせて18人が人質となる立てこもり事件の幕が上がった……・・・ニュースリポーターのクリス・リーズンは、すぐに街の異変を感じ取った。慌ててテレビ局に駆け戻り、カメラマンと一緒に飛び出した。 リンツカフェは、チャンネル7の目の前だ。そして、カメラは衝撃の光景を捉える。 通りに面した4つの窓。そこには両手を上げ、恐怖でブルブルと震える人質たちがずらりと並んでいた。銃を手にした男の姿も見える。 すぐに警察が駆けつけ、クリスたちテレビクルーを押し返す。カフェには、それ以上、近づくことができなかった。 ガラス張りのテレビ局の中から、目と鼻の先にあるカフェの模様が伝えられる。 「生中継で速報をお伝えしています。街の中心で武装した警察官がカフェを取り囲んでいます。中には人質がいます」 現場からわずか30mの場所で、クリスは衝撃の事件の一部始終を伝えることになる……』、テレビ局の目と鼻の先で発生したにせよ、「すぐに街の異変を感じ取った・・・カメラマンと一緒に飛び出した」とはさすがだ。
・『市内の3カ所に爆弾犯人の要求  犯人の男は、店長のトリイにメモを渡した。トリイによる実際の通報音声が残されている。「目の前に立っている男からのメッセージを読んでいます。街の3カ所に爆弾がある。警察は近づくな。近づくと仲間が爆発させる……」。 犯人は複数のグループであり、シドニー市内の観光名所と目抜き通りに爆弾を仕掛けてあると言う。そして3カ所目は、男の背中にあった。 そして、男は2つの要求をしていた。1つ目は、「イスラム国」の旗を用意すること。2つ目は「首相とのラジオ生討論」だった。 男の犯行声明は、嫌でも人々に1年前の「ボストンマラソン爆弾テロ事件」を思い起こさせた。都市を狙った爆弾テロ。オーストラリアが経験したことのない恐怖だった。 犯人は人質たちに携帯電話をテーブルの上に置くように指示。しかし、人質の中には、指示に従ったふりをして隠し持つ者。犯人の目を盗んで携帯電話を取り戻す者がいた。事件発生当時、店内には多くの客がおり、従業員はそろいの服装をしていたことから、犯人は人質の人数を正しく把握することができなかった。 人質たちはトイレに行く際など、犯人の目を盗み、外部との接触を試みる。人質たちは命の危機を感じていた……「人質になっている。すごく怖い。みんなを愛している」(店長)。 警察の特殊部隊が出動し、周囲を取り囲むと、いら立つ犯人は人質に電話をかけさせる。 「今にも誰かを撃ちそうです。お願いだから警察にカフェから離れるように言ってください。急いでください。2分も経てば殺されます」 窓には、人質が掲げたメッセージ……「去れ!さもないと彼は私たちを皆殺しにする」。 銃と爆弾と人質を前に、警察はなす術がなくビルから引き下がっていく。 「テロリストの要求には一切応じず、交渉により平和的解決を目指す」。警察は終始一貫この方針に従い、最後まで頑なにこだわった。だがこの姿勢が、犯人だけでなく、人質をも追い込み、事件を悲劇の結末へと導くことになる。 犯人は爆弾を持っているという情報を受け、カフェのあるビルだけでなく、周囲2ブロックは全員退避。メディアは規制線の外から生中継をするしかなかった。カフェの向かいにあるチャンネル7も例外ではなく、局内から全職員の退避が命じられる。そんな中、カメラマンのグレッグ・パーカーは、カフェを見渡せる2階のニュースルームにカメラを設置、録画状態のまま局を離れていた。 事件発生から2時間後、グレッグは警察の目を盗み、カメラのバッテリーを交換しに行った。警察に見つかったグレッグが、社屋から追い出されようとしていたそのとき、声をかけてきたのは、特殊部隊のスナイパーだった。 「カフェの窓を監視するのに最適な場所はどこだ?」 「ここから私と一緒にカメラのレンズを通して見るのがいちばんだ」 グレッグはスナイパーとともに、再び2階のニュースルームに戻り、望遠レンズで向かいのカフェの窓を撮影し続けることになった。こうして、前代未聞のスナイパーとカメラマンのタッグによる狙撃作戦が始まった。 数時間後、有名リポーターのクリス・リーズンも特別に局内に戻ることを許された。規制線の中に入ることを許された唯一のジャーナリストとカメラマン。2人は、現場からわずか30mの距離で事件の一部始終を見届けることになる』、「カフェを見渡せる2階のニュースルームにカメラを設置、録画状態のまま局を離れていた」とはカメラマンの手際もさすがだ。
・『犯人の正体と人質たちの闘い  カメラの映像から、警察が特定した犯人の正体は自称・イスラム教の聖職者、マン・モニス(50)。イラン出身のモニスは複数の犯罪歴を持ち、つねにトラブルを抱えている“有名人”。オーストラリア軍の海外派兵に反対する街頭活動を繰り返し、メディアにも取り上げられていた人物だった。 警察はカフェを取り囲む3カ所にスナイパーを配置。通りに面した4つの窓から狙撃のタイミングを探る。 しかし、窓には“人質の盾”、モニスは店内の“死角”から動かない。 そして背中には「爆弾」が……この状況では、狙撃は実質的に不可能だった。 事件発生から6時間。なす術のない警察。要求がいっさい受け入れられず、怒りを増していくモニス。一向に救出の手が差し伸べられない人質の中には、焦りが広がっていた。 「このままでは殺されてしまう」 最初に動いたのは、モニスから最も離れた場所、正面入り口の自動ドアの近くにいた82歳のジョン・オブライエンだった。ドアの横には緑のボタンがあり、それを押せば、ドアが開くのではないか。トイレに行った際に、女性店員にこのボタンについて聞いてみたが、新人の店員は「ドアが開くかどうかはわからない」と言う。 ロックされているドアは開くのか。ジョンは数センチずつ、ジリジリとドアに近づく。モニスはその動きを察知。2度も警告を与えていた。 午後3時35分、ジョンはモニスが目を離した一瞬の隙をつき、一か八かの賭けに出た。自動ドアに駆け寄り、ボタンを押した。そのときのジョンの様子をテレビカメラが捉えている。 ロックされていたはずのドアが開き、ジョンが外に飛び出した。 さらに、1人の男性が続いて脱出。店内の混乱の中で、1人の店員が非常口から脱出に成功した。 18人から15人になった人質……この脱出で犯人・モニスの怒りは頂点に達する。 「勝手に動くなと言ったろ!見せしめに1人を殺すからな」』、最初に脱出に成功した82歳の老人も、なかなか勇気があったようだ。
・『発生から16時間を過ぎて激しい銃撃戦に突入  3人の人質が脱出に成功したことで、残された人質は絶体絶命の危機に立たされる。地獄の密室と化した店内で始まる人質と犯人の心理戦。生還への闘い……。 テレビカメラが見つめ続けたカフェ立てこもり事件は、発生から16時間を過ぎて、特殊部隊が突入。大都市の中心部で繰り広げられた激しい銃撃戦で衝撃の結末を迎えることになる。 被害者だけに配布された資料、1万4500人の関係者の証言と、1200時間分の映像分析によって事件を徹底検証した「インクエスト(検死法廷による事件報告書)」を基に、番組では事件の詳細を完全再現。世界を震撼させた犯行の全容に迫った』、突入したということは、「犯人は複数のグループであり、シドニー市内の観光名所と目抜き通りに爆弾を仕掛けてある」との当初の話は嘘だったことが警察も掴んだからなのだろう。この記事は番組を見せるために、あえて結末には触れてないが、Wikipediaによれば、「突入の際に、人質となっていた2人が死亡」と犠牲を小さく抑えることができたようだ。
タグ:東洋経済オンライン テロとの戦い 日刊ゲンダイ (その1)(安田純平氏が独白「“無謀”に突っ込む人間が社会には必要」、2014年12月シドニーで発生した銃撃戦の悲劇) 「安田純平氏が独白「“無謀”に突っ込む人間が社会には必要」」 シリアで武装組織に拘束 「自己責任論」 「安田純平の死んでも書きたい話」という有料メルマガ 幽閉されているときにつけていた日記や時事的な話題などを書いていこう 「モリカケ」問題は帰国後に知りましたが、あれだけのことが明らかになっているのに首相が辞任に至らないのは驚きです ワイドショー系にはほとんど出ていなくて フェイクニュースによって日本人が狙われる 身代金が支払われて日本人の人質が解放されたという情報が世界中に出回ると、日本人を誘拐すれば金になると思われてしまいます 自己責任論者の思い込み 以前と違って「危険な取材をするジャーナリストを批判するのはおかしい」と多くのジャーナリストやメディアが擁護に回った印象です もっと紛争地を取材するべきです “無謀”に突っ込んでいく人間がいるから波紋が生まれ、何かが浮かび上がってきます 「フジテレビ「目撃!超逆転スクープ3 ?戦慄の凶悪犯vs決死の救出作戦?」取材班」「人質18人立てこもりテロ起こした凶悪犯の正体 2014年12月シドニーで発生した銃撃戦の悲劇」 名物ニュースリポーター、クリス・リーズン 穏やかな朝のカフェが一転、事件発生 シドニー中心部にあるリンツカフェ オーストラリア初のテロリストによる立てこもり事件 18人が人質 リンツカフェは、チャンネル7の目の前 すぐに街の異変を感じ取った。慌ててテレビ局に駆け戻り、カメラマンと一緒に飛び出した 市内の3カ所に爆弾犯人の要求 犯人は複数のグループであり、シドニー市内の観光名所と目抜き通りに爆弾を仕掛けてあると言う 犯人の正体と人質たちの闘い イスラム教の聖職者、マン・モニス 発生から16時間を過ぎて激しい銃撃戦に突入 突入の際に、人質となっていた2人が死亡
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英国EU離脱問題(その14)(浜矩子教授「今の英国の混乱ぶりは情けない」、CIAが視る世界:鉄の女サッチャーとは程遠い 氷の首相メイの罪と罰、BREXIT再延期が浮き彫りにする 英国・EU危機の深淵、英国のEU離脱は労働党との妥協で「穏健路線」に 10月31日までの離脱期限延期で何が起きるか) [世界情勢]

英国EU離脱問題については、昨年9月19日に取上げた。日替わりのように事態が流動的だったが、漸く半年間の延期が決まったのを受けた今日は、(その14)(浜矩子教授「今の英国の混乱ぶりは情けない」、CIAが視る世界:鉄の女サッチャーとは程遠い 氷の首相メイの罪と罰、BREXIT再延期が浮き彫りにする 英国・EU危機の深淵、英国のEU離脱は労働党との妥協で「穏健路線」に 10月31日までの離脱期限延期で何が起きるか)である。

先ずは、3月31日付け東洋経済オンラインが掲載した同志社大学教授の浜矩子氏へのインタビュー「浜矩子教授「今の英国の混乱ぶりは情けない」 ブレグジットの決断そのものは正しいのだが」を紹介しよう。Qは聞き手の質問、Aは浜氏の回答。
https://toyokeizai.net/articles/-/274148
・『ブレグジット(英国のEU<欧州連合>離脱)は迷走を続けている。3月29日、英国下院はテリーザ・メイ首相がEUと合意した離脱協定案を344対286で否決した。否決は3度目。3月中に合意すれば、5月22日までに法的な整備を行って離脱することとされていたが、これがなくなった。EU側は英国議会が4月12日までに何らかの「前進する方向性」を決定しEUに示さなければ、さらなる離脱延期を検討することはできないとしている。このまま時間だけが過ぎれば、4月12日に「合意なき」(ノーディール)ブレグジットが実現してしまう。 今回の投票では、ボリス・ジョンソン前外相やジェイコブ・リースモグ議員など、従来は協定案に反対してきた離脱強硬派の一部が賛成に回ったにもかかわらず、可決できなかった。4月12日は5月のEU議会選挙に候補を出すかどうか、という観点から設定された期日。合意なき離脱を避けるためには、EUが納得する何らかの前進的な方針を出しての長期の離脱延期、離脱の撤回、国民投票のやり直しがありうる。だが、いずれにしても、英国議会の議論は割れたままだ。長期の離脱延期となれば、欧州議会選挙に候補者を立てる必要が出てくる。 今回は、英国とEUとの関係、なぜ、いつまでも議会はまとまらないのか、英国の事情に詳しい浜矩子同志社大学教授に話を聞いた。浜教授はブレグジットの混乱の背景には格差の拡大もあると指摘。話は持論であるアホノミクス(アベノミクス)批判にもつながっていった』、なお、この記事のあと4月11日にEUは英国の離脱を10月末まで再延期することを認めた。浜氏は三菱総研時代に英国に駐在していただけあって、参考になりそうだ。
・『英国と大陸欧州は体質も目指す方向も違っていた  Q:かねて英国はEUを離脱すべしと主張されていました。 A:そもそも英国はEUに入ったことが間違いだった。いずれは離脱するだろうと見ていた。経済・社会の体質が島国の英国と大陸欧州とではまったく違う。欧州統合の理念はドイツとフランスが再び戦争を起こさないための共同体形成という外交・安全保障上のテーマから出発している。その後、だんだん経済統合へと進んでいったが、原点は欧州防衛共同体を志向したものであった。ところが、英国はそうした意識は非常に稀薄だった。 1960年代末から1970年代にかけて、英国経済は非常に低迷した。一方で、統合欧州は欧州経済共同体<EEC>として関税同盟を作った初期の効果が大きく、成長力が高まって市場も拡大していった。そのため、経済的にその流れに乗りたいという実益的発想から、英国も加盟を考えるようになった。 そうした英国の狙いとか体質の違いを、フランスのシャルル・ド・ゴール大統領(当時)はよく見抜いていて、「島国体質の彼らとわれわれの考えは合わない」と拒否し、ド・ゴールが死ぬまで英国は入れてもらえなかった。「アメリカの傀儡であり、トロイの馬である」と語ったことは有名だ。だが、アメリカにそこまでの考えがなく、その点では結果的に取り越し苦労だった。 だが、外交・安全保障に基づく理念先行の大陸と実益・経済優先のイギリスの体質の違いはド・ゴールの指摘のとおりだった。加盟当初からボタンの掛け違いのようなことは目立ち、見返りが少ないことにカネばかり出さされて、と英国が不満に思うことは今に始まったことではない。 統合欧州は理念先行、政治先行、外交・安全保障先行なので、実益はともかく、とにかく最初にルールをしっかり決めよう、形を作ろうとするのがやり方だ。国々がひしめき合って、ひとまたぎで国境を超えられるので、ルールを決めないとカオスになってしまう、という現実もある。イギリスは海賊国で海に出たら何が起こるかわからない、成り行きでその場その場で最も実益の高い選択をする。だから、最初から入らなければ、こんな騒ぎにもならなかった、というのが私の印象だ』、確かに「外交・安全保障に基づく理念先行の大陸と実益・経済優先のイギリスの体質の違い」を見抜いて英国のEEC加盟に反対したド・ゴール大統領は、先見の明があったことになる。
・『Q:なぜ、国民投票から2年たっても、離脱できないほど混乱してしまったのでしょうか。 A:出て行くと決めた後の英国は無様(ぶざま)で、見ていて情けない。離脱派議員は「EU側とまともに交渉すると、敵の術中にはまる」「ブリュッセルが言うことはすべて罠だ」「隷属国家になる」などと疑心暗鬼で、「われわれのペースで物事を決めるのだ」と意固地になったりして、大人げない。 こうしたことは英国らしくなく、もっと、プラグマティックで実務的に物事を進めていくのが英国流だったはずだ。なぜ感情的になって脅し文句みたいなことをほざいて、作業を遅らせているのだろうか。知人と話をしてみると、当の英国人たちも驚いているようだ。 従来、加盟に反対してきた良識的な離脱派が政治の一線から退き、幼児化した政治家が前面に出たことが原因だとみている。昔のジェントルマン政治家であれば、もっと淡々と実務を進めていっただろう。具体的なことは官僚どうしで詰めていけばよい話だ』、民主主義のお手本だった国でも、「幼児化した政治家が前面に出たことが原因」とはいやはやと呆れるしかない。
・『アイルランド問題を事前に示さなかった責任  離脱協定案に反対しているいわゆる離脱強硬派といわれる人たちは、私に言わせれば発作的離脱派、離脱過激派だ。ボリス・ジョンソン前外相やジェイコブ・リースモグ議員などだが、彼らはいわゆる昔のイングランド民族主義者だ。旧・支配階級に属するので古色蒼然たる「大英帝国よ、もう一度」といった発想もある。彼らはよく「take back control(舵取り力を取り戻せ)」 というが、これまでEUにそんなに牛耳られていたわけでもない。 そもそも混乱の一因として彼らは国民投票の前にウソを言っていたことが大きい。意図的、感情的にEUの分担金とか移民問題などで不当にEUを非難したりした。彼らの過激な発言を聞いて、扇動されたのが、世の中の活況や一段と富裕化する富裕層から置いてけぼりを食らったと感じてきた庶民と貧困層だ。アメリカ的にいえばプアホワイト的な人々だ。アメリカのトランプ支持者と重なる部分が明らかにある。 Q:デイヴィド・キャメロン前首相は、国民投票でブレグジットは否決されると考えていた。そもそも、保守党は単独過半数を取れないので、公約した国民投票をやらなくて済む、と思っていたと後に話しました。 A:伝家の宝刀を抜くときは、どちらに転んでも大丈夫な準備をしてやるものだが、甘かった。 もしも、もっとまともに将来の英国・EU関係について考えていたのなら、国民投票をやると言い出す前に英国の北アイルランド地方とアイルランド共和国との関係の問題について慎重に慎重を期して考えて、この問題について国民の注意を喚起していたはずだ。そして、それでも離脱という投票結果が出た場合に備えて、北アイルランド・アイルランド共和国間の国境について、離脱後にどのように対応するつもりであるのかを国民に示していたはずである。 現状では、この陸上国境は事実上のフリーパス状態になっている。英国とアイルランド共和国がいずれもEU加盟国だからだ。だが、離脱後には状況が変わる。それでも、フリーパス状態を維持するのか。そうではないのか。そうではなくなることは、国境周辺におけるテロの再発につながるかもしれない。だが、フリーパス状態を維持すれば、それはブレクジットが尻抜けになることを意味する。このような状況に関する対応が、「合意ある離脱」への大きな障害物となっている。 最大の難関となっているこの問題について、国民投票前に国民の注意を喚起しなかった。この点については、大いに責任を問われて然るべきところだ。あの国民投票について、それを仕掛けた人々が何と甘く考えていたことか』、キャメロン前首相は「国民投票でブレグジットは否決されると考えていた」というのも甘いし、「伝家の宝刀を抜くときは、どちらに転んでも大丈夫な準備をしてやるものだが、甘かった」というのはその通りだ。
・『EUの通貨統合は苦しくなるばかりだ  Q:英国以外の国でもEUに対する不満、EUエリートがルールを決めていくことへの抵抗感は高まっています。 A:欧州統合の推進者たちは、「偉大な欧州」の実現に向けて、統合の理念を高く掲げ、その理念に対応した設計図に現実をあわせていくことこそ自分たちの使命だと考えて来た。その系譜を受け継いでいるのが、今、前述の庶民たちから「エリート層」として嫌がられている政治家や論者たちだ。 東欧から加盟してきた小さい国々は自分たちのサイズ、体型をEU型に合わせられ、いわば窮屈だったり、ぶかぶかだったりする服を無理してまとうことにあまりメリットがないなと感じ始めた。とくに、高飛車にルールを押しつけてくるドイツやフランスには怒りを感じている。後から入った国だけでなく、最近は初期メンバーであるイタリアもそうした姿勢を強めている。 Q:英国は通貨統合に入っていませんが、ユーロはドイツにとっては弱すぎ、南欧諸国にとっては強すぎて、いびつです。これを解決するために銀行同盟や財政同盟などユーロを軸とした政策が進められています。そうしたことも問題になったのではないでしょうか。 A:それはある。通貨統合は次元の違うハードルの高さだった。各国の経済状況が異なる中で、金利が1本というのは無理な話で、これをやってしまったことで、経済に変調を来している。この無理な体制を維持しようと思えば、結局のところ、加盟国たちに対する政策的締め付けを強化し、窮屈な収斂と平準化を押しつけていくほかはない。 そうすればするほど、国々は窮屈さが増し、憤懣が蓄積する。そろそろ、ひたすら統合の深化を進めなければならないという発想から離れて、わが道を行くこともできる方法を模索すべきではないか。むろん、EU官僚はそのような発想はしないだろうが』、EU創設メンバーの1つであるイタリアに緊縮策を押し付けたこともあって、ポピュリスト政権誕生を招いたことは深刻だ。
・『Q:英国はEUを離脱してどんな姿を目指すのでしょうか。 A:メイ首相は、離脱という国民投票結果を受けて、これからの英国は「グローバル・ブリテン」を目指すと言った。あれは決して悪くないイメージだったと思う。EUという名の閉鎖的な経済空間に閉じこもるのを止めて、どこの国ともオープンに開かれた経済を実現していく。大海原に乗り出して行く英国的海賊魂の再発見だ。 大航海時代じゃあるまいし、そんなのは時代錯誤的幻想だ、という識者は多い。だが、実をいえば、この開放性こそグローバル時代によくマッチしていると私は思う。WTOの掲げた「自由、無差別、互恵」は、本当はすべての国がそうあるべきだが、そのように行動できないところが問題だ。 ただ、メイ首相も「グローバル・ブリテン」という言葉が本来持っている意味を実現していく気合いが十分入っているのかどうかは実に疑わしい。自分が言ったことの本当の意味がわかっていなかったようだ。 英国もあるときから英国らしくなくなった。敗北の甘い香り、老大国としての英国、これを私は「老いらく(楽)の国」と名づけたが、それはダメだとマーガレット・サッチャー元首相が「成長だ、成長だ」と尻をひっぱたいた。労働組合をぶっ潰し、インフラを民営化し、証券制度改革「ビッグバン」を進めた。これが意外に上手くいって外国からの投資を呼び込むことに成功した。ただし、格差は拡がっていった。 さらに、サッチャーの路線を継承し、かつ軟弱化し幼稚化したのがトニー・ブレア元首相。彼は労働党だけれども、政策はサッチャーに似ている。アホノミクスが掲げる「クールジャパン」はブレアの「クールブリタニア」のぱくり。その頃、ダイアナ妃が世界的なブームになったこともあって、すっかり舞い上がり、オリンピックまでやってしまった。このころから落ち着いて物を考えられなくなったのではないか』、「「クールジャパン」はブレアの「クールブリタニア」のぱくり」というのは初耳だが、「クールジャパン」の方がさんざんミソがついてしまったようだ。
・『偽預言者が掲げる耳心地よいスローガンに警戒せよ  Q:ポピュリズムの跋扈は世界的な現象と言われていますが、民主主義、議院内閣制発祥の英国でも同様というわけですね。 A:その罠に陥る隙が次第に世界的な広がりを持つようになってしまっている。それが怖い。英国は大人の国のようであって、徹底的に何でもありな面もある。この面を助長する力学が巣食い始めることが心配だ。やはり格差が広がっている事が背景にある。いわゆるエリートたちと庶民の上手な共存と支え合いが英国の絶妙な二人三脚だったはずだが、そこが崩れてきている。 そういうところに、幼稚な政治家が単純にして明快なメッセージを振りかざす。ブレクジットの英国では、それがtake back controlというスローガンになった。アメリカでは「アメリカ・ファースト」。日本では「強い日本を取り戻す」とか、「世界の真ん中で輝く国創り」とか、目指すは「一億総活躍社会」だなどという国威発揚・総動員体制的な号令になる。いずれも、偽予言者が発する、耳心地よい単純なスローガンだ。 しかし、格差は成長によって解決できるわけではない。モノは有り余っているが、上手く分かち合いができていないことが問題で、必要なのは再分配だ。偽予言者はそのことを語らない。さらに、幼稚な政治家は弱虫なので、弱いものいじめや反対する人への凶暴性を発揮したりすることに注意が必要だ。ハンガリー、ポーランド、チェコ、ルーマニアでもそういう右翼的な指導者が政権を取っている。洋の東西を問わず、どうも、偽預言者の大量発生症候群が顕著だ。警戒しなければならない』、「偽預言者の大量発生症候群」とは本当に困ったことだ。そのうち、現実の壁にぶつかって、正気を取り戻すのだろうか。

次に、4月5日付けNews Week日本版「グレン・カール CIAが視る世界:鉄の女サッチャーとは程遠い、氷の首相メイの罪と罰」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/glenn/2019/04/post-22_1.php
・『ブレグジットを漂流させた最大の戦犯はテリーザ・メイ――今からでも「残留」に舵を切るべきだ  本人は嫌がっているが、テリーザ・メイ英首相は「鉄の女」と呼ばれたマーガレット・サッチャー元首相とよく比較される。 女性でイギリスの首相になったのはこの2人だけだ。いずれも保守党の党首だが、野党からも変革と近代化の担い手と目されていて、共にオックスフォード大学の出身。移行期間もEUとの合意もない「ハードブレグジット」の可能性が高まるなか、メイが驚異の粘り腰を見せているのも、たぶんサッチャー並みに鉄壁の頑固さを持ち合わせているからだろう。 しかし2人には違いもある。サッチャーが強いイギリスの復活について明確なビジョンと目標を持ち、鉄のように固い決意で突き進んだのに対し、メイは政治家の役割を「何かをすることであり、何者かであることではない」と考える。だが16世紀フランスの哲学者モンテーニュの言葉を借りるなら、かつて世界の海を制した偉大な国の指導者たる者は、「行く先の定まらぬ船にはどんな風も役に立たぬ」ことを知るべきだ。 ところが今はメイ政権の閣僚でさえ、首相自身がどこに行き先を定めているのか分からずにいる。だから国民は互いに矛盾する幾多の願望(主権の回復、国境の開放、入国管理の強化、自由貿易、移民の排除、大国の地位、等々)が渦巻く海を漂うのみで、イギリスという船は困窮と影響力の低下へとまっしぐらに進んでいる。 歴史を振り返れば、回避できるのに自滅の道を選んだ国は皆無に等しい。稀有な例は、例えば1861年のアメリカだろう。当時の大統領は、国が2つに引き裂かれていくのを手をこまねいて見つめるのみで、流れを変えるための行動を起こさなかった。結果としてこの年に南北戦争が起こり、国は分断された』、確かにメイ首相が政治家の役割を勘違いしていることが、混乱を大きくしているようだ。
・『「民意」に引きずられるな  メイも確かに国を導こうと努めた(ただし不合理な民意にクギを刺すことはなかった)が、EU離脱が現実になればイギリスは空中分解しかねない。スコットランドやウェールズ、さらには北アイルランドがEU残留を望み、連合王国を去る可能性がある。いずれにせよ、時間がない。このまま期限が過ぎて合意なき離脱となれば、この国の影響力は低下し、国民は貧しくなる。代わりに得られるものは......偽りのプライドのみだ。 16年の国民投票では、確かに国民の52%がEU離脱を選んだ。しかし国民の大半は、どんな離脱のシナリオでも避け難い経済成長の鈍化を望んでいない(あるいは「避け難い」という事実から目を背けている)。それでもメイは民主主義の原則に忠実で、国民投票で民意が示された以上、その意思に従うべきであり、そうでなければ民主主義が失われると考えている。 国民投票の段階で、メイはEU離脱に反対していた。しかし国民投票で離脱派が勝ち、その20日後に首相に推されてからの彼女は一貫して「ソフトブレグジット」なるものを目指してきた。EU市場との良好な関係を維持し、EUの定めた各種規制もある程度は受け入れるという立場だ。そしてどうにか政権を維持してきた。 しかし彼女の行動は真の「指導者」にふさわしいものではなかった。一国の指導者たる者は、とりわけ危機的な状況で政策や法制などの複雑な問題の判断を迫られたとき、民意に引きずられてはならない。 国民投票のような直接民主主義で効果的な統治はできない。国民は互いに相いれない主張や願望を星の数ほども掲げるのみで、直面する問題の全容や個々の政策に関する決定の複雑な部分までは理解できない。 ところがメイ首相は、国民投票で示された民意を実行するだけの技術者と化している。船長が進むべき方角を指し示せないようでは、イギリスという船は漂うのみ。残された選択肢は少なく、どれを取っても国の、そして民主主義の衰退につながるだろう。 18世紀のフランスの思想家モンテスキューは、原則重視も度が過ぎれば失政につながると教えてくれた。アメリカ屈指の偉大な大統領だったエイブラハム・リンカーンは、個々の法律や原則を守るために国全体が滅びることがあってはならないと言った。 保守主義、とりわけイギリス的保守主義の伝統にも学ぶべき教訓がある。約250年前、保守主義の偉大な思想家であったエドマンド・バークは、選挙で選ばれた人物が単に多数意見を実現するためだけに行動すれば国民の信頼と自らの責務を裏切ることになると警告している。 「諸君(国民)を代表する人物には、勤勉さだけでなく判断力が求められる」。バークはそう言っている。「もしも彼があなた方の意見のために自分の判断を曲げることがあれば、彼はあなた方のために働いたのではなく、あなた方を裏切ったことになる」』、「メイ首相は、国民投票で示された民意を実行するだけの技術者と化している。船長が進むべき方角を指し示せないようでは、イギリスという船は漂うのみ。残された選択肢は少なく、どれを取っても国の、そして民主主義の衰退につながるだろう」との手厳しい批判はその通りだ。メイ首相は何故こうしたことに気付かないのだろう。
・『管理者ではなく指導者たれ  つまりこういうことだ。メイは投票で示された民意を実行することが民主主義の原則に従うことだと信じているが、それこそが彼女の目指す民主主義の凋落を招き、国民の意思を裏切ることになるのだ。 今のイギリスはブレグジットをめぐって真っ二つに、絶望的なほどに分断されている。極めて難しい状態だ。この状況に、メイの官僚的な冷静さはふさわしくない。惨敗必至と思われるなら、指導者はゲームのルールを変えなければならない。 彼女はイギリスのEU残留を強く主張すべきだった。国民に対して、自分は国民の一貫性がなく自滅型の衝動を統括するのではなく、公共の利益のために自らの決断力と指導力を行使すると告げるべきだった。そしてEU離脱の是非をめぐる2度目の国民投票の実施を呼び掛けるべきだった。 自分の意見を控えることは指導力ではない。民主主義において求められるのは、一貫性を欠き破壊的な国民の願望に指導者が従うことではなく、国民の生活にとって重要な問題について明確な決断を下すことだ。 メイの個人としての政治的目標の欠如、技術的な凡庸さ、問題を過度に単純化した(つまりばかげた)国民投票の結果への固執は、彼女が「鉄の女」とは程遠いことを示している。 危機、それも国の存続に関わる危機の際、指導者は進むべき方向を選び、混乱と矛盾に満ちた国民の気まぐれを拒絶しなければならない。単なる管理運営者にとどまることを拒み、国民を率いなければならない。 それができれば、メイはイギリスを救うことができるはずだ。それが彼女個人の政治的な破滅を意味するとしても構わないではないか。彼女は偉大な連合王国の素晴らしい遺産に沿った行動を取ることになるのだから。たとえその偉大な国が、今は未熟な国民投票で示された社会的・経済的なストレスのせいで今にも分裂しそうな状態にあるとしても』、正論である。願わくば、メイ首相がこの記事を読んで、政治スタイルを一変させることだが、いまや遅すぎるのかも知れない。

第三に、在独ジャーナリストの熊谷 徹氏が4月11日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「BREXIT再延期が浮き彫りにする、英国・EU危機の深淵」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00023/041100035/?P=1
・『興味深いのは、EU(欧州連合)のドナルド・トゥスク大統領が延期についての合意をツイッターで発表した、4月11日午前1時57分という時刻だ。 各国の首脳たちは前日の午後6時に会議を始め、日付が変わるまで合意に達することができなかった。これは、延期の是非について激しい議論が行われたことを示している』、確かに異例の長時間会議だ。
・『「EUはBREXITの人質にされる」  BREXIT(英国のEU離脱)の期限はまず3月29日から4月12日に延ばされた後、テリーザ・メイ英首相が6月末までの延期を要請していた。 EU側の態度も一枚岩ではない。EUの事実上のリーダー国ドイツのアンゲラ・メルケル首相は、前日のメイ首相との個別会談で、期限の延期について比較的柔軟な態度を示していた。 これに対し、フランスのエマニュエル・マクロン大統領はメルケル氏よりも延期に批判的な態度を取ってきた。同氏は首脳会議の前に「延期を認めるには、英国政府が具体的なスケジュールを示すことが条件だ」と発言した。会議が8時間近く続いたことは、メイ首相がBREXITに向けての具体的なプランを他国の首脳たちに示すことができず、フランスなどが強く反発したことを示唆している。 マクロン大統領は会議の後「今後数カ月の間に、BREXITをめぐる協議がEUの他のプロジェクトを危険にさらすのを避けることが不可欠だ。我々は欧州を再生させなくてはならない。BREXITがこのプロジェクトを妨害してはならない」というコメントを発表している。またベルギーのシャルル・ミシェル首相も「私は英国議会が抱える問題の人質にされるのはごめんだ」と語っている』、マクロン大統領の言い分ももっともで、ベルギー首相も相乗りしたようだ。
・『EU改革プロジェクトに遅れ  マクロン大統領がBREXITの延期について批判的である理由は、彼がドイツと共同で主導権を取って、EUの競争力を強化するためのプロジェクトを始めようとしているからだ。具体的には、欧州にデジタル化を担当する新しい官庁を設置し、中国や米国に比べて遅れている人工知能の研究開発を加速する。 またEUは対米政策でも難題を抱えている。ドナルド・トランプ大統領が率いる米国との関係は、日に日に悪化している。貿易摩擦は日ごとに深刻化し、米国はEU加盟国から輸入する自動車の関税を大幅に引き上げる可能性がある。これはモノづくり大国ドイツに深刻な打撃を与える。 さらにトランプ氏は、欧州防衛の要だった軍事同盟、北大西洋条約機構(NATO)についても批判的な姿勢を強めている。欧州諸国は、米国抜きでも局地紛争などに対応できる態勢をこれまで以上に整えなくてはならない。 さらにEUでは、財政難に苦しむ東欧諸国と南欧諸国を中心に、中国の一帯一路計画に参加する国が増えており、対中戦略において足並みの乱れが生じている。このためEUは統率の取れた対中戦略について一刻も早く合意し、加盟国に対して「抜け駆け」を禁じる必要がある。 だが今年1月以来、EUはBREXITへの対応に時間を割かれてしまい、首脳会議を開いてもこれらの重要な議題について十分に協議することができない状態が続いている。誰も公には言わないが、「BREXITをめぐる協議に一刻も早く決着をつけてほしい」というのがEU側の本音である。 EUはメイ首相との間で合意したBREXIT協定案の内容を変更することを拒否している。したがってEUが柔軟性を示すことができるのは、BREXITの期日だけである。しかし、EUは今回6カ月以上も期日を延期することで、BREXITをめぐる協議が延々と続く危険を抱え込んだ。英国側は「EUは意外と柔軟ではないか。結局合意なしのBREXITが怖いに違いない」と思うだろう。 10月末の期日が近づいた時、英国政府が再び延期を求める可能性もある。EUが英国議会の人質に取られ、他の議題がおろそかにされるという危険は誇張ではない』、「EUが柔軟性を示すことができるのは、BREXITの期日だけ」というのは、初めて知って、今回の延期の意味が理解できた。
・『英国の欧州議会選挙参加への懸念  さらにマクロン大統領らを心配させているのが、5月23日~26日に行われる欧州議会選挙である。 当初EU側は、英国をこの選挙に参加させない方針だった。EUを離脱しようとしている英国の議員を欧州議会に参加させた場合、立法過程に問題が生じる恐れがあるからだ。 たとえば将来ある法案が欧州議会で可決され、賛成した議員の中に英国からの議員が含まれていたとしよう。今年秋に英国がEUを離脱した場合、他の国の議員が「EUの加盟国ではない英国の議員が投じた票は無効だ」と主張して、法案の撤回または採決のやり直しを求める声が出る可能性がある。 したがってEU側は当初「BREXITの期限は、どんなに延ばしても欧州議会選挙直前の5月22日まで」と主張していた。EU加盟国の首脳は、英国が欧州議会選挙に参加した場合、BREXITの混乱がEUに飛び火すると危惧しているのだ。 EU側がBREXITの期限を10月末まで延ばしたことは、欧州議会が法案の妥当性に関するリスクを抱え込んだことを意味する』、「英国が欧州議会選挙に参加」すると、確かにややこしいことになりそうだ。
・『メイ首相の無策への絶望感?  EU加盟国は、絶対に譲れない「レッド・ライン」としていた5月22日の防衛線をなぜあっさり放棄したのだろうか。メイ首相のBREXIT協定案は、今年1月以降すでに3回も英国議会下院で否決されている。メイ首相は最近、野党労働党のジェレミー・コービン党首と打開策を協議し始めた。コービン氏はあわよくば保守党政権を打倒し、自分が首相になることを狙っている人物だ。自分の党すら統御できない首相が、野党党首に自分の提案をすんなりと受け入れさせることができるとは到底考えられない。 EU側は英国に5月22日まで猶予を与えても、メイ首相が協定案を英国議会で通過させることは不可能だと判断したのだ。つまり2カ月程度の延期では解決策とならないほど、メイ首相は手持ちのカードがなくなっているのだ。 欧州議会選挙では、イタリアやドイツ、フランスなどの右派ポピュリスト政党による会派が、得票率を伸ばすことを狙っている。BREXITをめぐりEUと英国政府が陥った袋小路は、ポピュリスト政党にとって「伝統政党の統治能力が欠如している」ことを有権者にアピールする上で、絶好の材料となるだろう。欧州が歩みつつある暗夜行路の終着点は、まだ当分見えそうにない』、「ポピュリスト政党にとって「伝統政党の統治能力が欠如している」ことを有権者にアピールする上で、絶好の材料となる」というのは本当にマズイことだが、英国では「伝統政党の統治能力が欠如」していることは事実なのでしょうがないようだ。

第四に、みずほ総合研究所 上席主任エコノミストの吉田 健一郎氏が4月12日付け東洋経済オンラインに寄稿した「英国のEU離脱は労働党との妥協で「穏健路線」に 10月31日までの離脱期限延期で何が起きるか」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/276403
・『4月10日に開催されたEU首脳会合では、英国のEU(欧州連合)離脱期限が2019年10月31日まで延期されることが決まった。英国のテリーザ・メイ首相は、19年6月30日までの離脱期限延期を要請していたが、EU側は離脱方針が定まらない中での短い延期を認めなかった。 延期期間をめぐっては、19年6月30日までの短期間の延期を主張するフランスと、19年12月までの長めの延期を主張するドイツなどが対立し、結果的に双方の主張の間をとって、10月31日までの延期となった。フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、英国がEUに長い間とどまることで、例えば新首相が強硬離脱派議員の中から選ばれ、EU統合の深化を妨げるような政策をとる事態を懸念しているとされる。 離脱期限延期は「前倒し離脱条件付き」とされ、英下院での離脱協定批准とEUとの最終合意など離脱の条件が整えば、10月末を待たずに離脱することが可能とされた。また、6月末の時点で、英国側の離脱協定批准に向けた行動のチェックが行われることとなった。英政府はできる限り早期の離脱を目指すが、EU法によって5月23~26日の欧州議会選挙への参加準備を進めることとなった。 新たに与えられた約6カ月の猶予期間に何が起こるのか。以下では、まず短期的に想定されるシナリオを整理し、そのうえでブレグジット(英国のEU離脱)の着地点について考察する』、「マクロン大統領は、英国がEUに長い間とどまることで、例えば新首相が強硬離脱派議員の中から選ばれ、EU統合の深化を妨げるような政策をとる事態を懸念している」、というのは納得できる話だ。
・『英国がEUと離脱協定を締結し、ブレグジットが実現するまでの道のりはまだ長く、不透明である。 まず英政府は、メイ首相がすでに与党の強硬離脱派の説得をあきらめたため、野党労働党と離脱後の英・EUの将来関係について合意を目指し(以下「与野党合意」とする)、英議会でのコンセンサス形成を狙うこととなる。その上で、昨年11月に英政府・EU間で合意された「EUと英国の将来関係を定めた政治宣言(Political Declaration)」の修正交渉をEUと行うことになろう。EUが政治宣言の修正に応じた場合、同じく昨年11月に合意された「離脱協定(Withdrawal Agreement)」と政治宣言を英下院での採決にかけ、ブレグジットに必要な英下院の承認を目指す』、「前倒し離脱条件付き」とはいえ半年も延びると議会内の緊張感も薄らぎ、妥協意欲を削ぐのではと懸念される。
・『労働党は「ボリス・プルーフ」な合意を要求  労働党への協力要請は、英政府が穏健な離脱路線に方向転換することを意味している。労働党に協力を要請する以上、英政府は労働党の要求に応じる必要がある。ジェレミー・コービン党首が率いる労働党は、EUとの関税同盟の締結やEU単一市場との緊密な関係の維持を党の方針としている。同党は、離脱協議の結果の是非を問う再国民投票を容認しており、これは離脱の取りやめにつながりうる。 労働党は首相が誰であれ与野党合意が維持されるような法的保証を英政府に求める公算が大きい。メイ首相は、EUとの離脱協定が締結された後 辞任する意向を示している。労働党からすれば、辞任後の新首相がボリス・ジョンソン前外相のような保守党の強硬離脱派であった場合でも与野党合意が守られていなければ、合意の意味がない。英タイムズ紙は、こうした法的保証付きの与野党合意を「ウォーター・プルーフ」ならぬ「ボリス・プルーフ」付き合意と報じている。 与野党合意が成立した場合、英国ではこの合意内容を反映させるべく、おそらく政治宣言の変更交渉をEUと行うことになろう。この結果、EUとの合意がなされれば、EU離脱法に基づき、離脱協定と政治宣言が英下院採決にかけられることとなる。 4度目となる下院採決のポイントは、保守党の強硬離脱派造反による賛成票の減少を、労働党の穏健離脱派による賛成票の増加で補えるかという点となる。与野党合意の内容によるが、EUと関税同盟締結などの穏健な離脱路線が明記された場合、保守党内の強硬離脱派の大量造反が予想される。 労働党との交渉が決裂したり、4度目の下院採決が否決されたりした場合、メイ政権は、今後のブレグジットの方向性を問う採決を行う予定である。ここではいくつかの選択肢が採決にかけられる予定である。過去の「示唆的投票」の結果を踏まえると、選択肢としてはEU関税同盟への残留や、国民投票の再実施などが考えられる。保守党が従来より目指している包括的なFTA(自由貿易協定)といった選択肢が含まれる可能性もある』、レームダックになったメイ首相が、「「ボリス・プルーフ」付き合意」を結べる可能性は低いのではなかろうか。
・『合意できなければ、解散総選挙しかない  それでも英下院でブレグジットの方向性が定まらなければ、いよいよ英下院におけるコンセンサス形成は行き詰まる。この場合、英政府の選択肢としては、「合意なき離脱(ノーディール・ブレグジット)」、「解散総選挙の実施」、「国民投票の再実施」などが考えられる。英下院は過半の議員が合意なき離脱には反対しており、英下院がこれを選択する公算は小さい。国民投票の再実施については、労働党政権への政権交代が必要なのではないかと筆者はみている。 その場合、残された手段としては解散総選挙しかないだろう。英調査会社YouGovが4月2~3日に行った支持率調査では保守・労働両党の支持率は拮抗している(保守党32%、労働党31%)。 解散総選挙や国民投票の再実施になった場合、10月31日の離脱期限に間に合わず、英国は再度EUに対して離脱期限の延期要請に追い込まれる可能性がある。しかし、今回のEU首脳会合における、離脱期限の延期に対するフランスの厳しい姿勢を踏まえると、EU側がさらなる離脱延期を認めるかは定かではない。EUが離脱期限の延期を認めなければ、合意なき離脱となる可能性がある。 ブレグジットの先行きは複雑で不透明だが、「合意のある離脱」、「合意なき離脱」、「離脱取りやめ」といった可能性のうち、最終的には合意のある離脱が実現するだろう。合意なき離脱は英・EU共にメリットがなく、そういった事態は発生しないと予想している。 合意のある離脱では、離脱協定が合意の基本となる。メイ首相が交渉した離脱協定はEUも承認したもので、EUはこの協定以外の離脱協定を受け入れる姿勢は示していないからだ。英国は、離脱協定に基づく離脱の後、EUとの関税同盟締結や単一市場残留のような穏健な離脱を目指すのか、EUとFTAを締結するなどややEUと距離を置く将来関係にするのか、あるいはWTO(世界貿易機構)ルールの下で何の協定も結ばないのかといった選択を迫られる』、「合意なき離脱は英・EU共にメリットがなく、そういった事態は発生しないと予想している」という見立てで、一安心した。
・『「離脱取りやめ」もハードルが多すぎる  ブレグジット後の英・EU関係は、「離脱協定+関税同盟」、「離脱協定+FTA」、「離脱協定+WTO」などからの選択となるが、現在は「離脱協定+関税同盟」が選択される可能性が相対的に高まっている。英国が離脱協定の修正をあくまで望むことは可能だが、そのうちアイルランド島のバック・ストップ問題に関する部分の修正に、EU側は応じていない。今後英側で離脱強硬派政権が誕生した場合であっても、EU側の対応は変わらないだろう。 「離脱取りやめ」については、その可能性は高まっているものの、英下院で過半の支持を得るには至っていないうえ、実施までには越えねばならないハードルが多い。解散総選挙の実施や、そしておそらく労働党への政権交代が必要であり、その上で国民投票法を成立させ、国民投票で「EU残留」という結果を得る必要がある。これらの実現には1年以上かかる可能性が指摘されており、再国民投票実施の場合には、離脱期限の再延期が必要になる。 他方で、「合意なき離脱」については、現在の英下院がこれを能動的に選択する可能性は低い。また、仮に解散総選挙になったとしても、世論は合意なき離脱を支持していないので、合意なき離脱を支持するような強硬離脱派議員が過半を占める下院になるとは考えにくい。 10月末までに英下院での方向性が定まらなければ解散総選挙の可能性が高まり、やはり離脱期限の再延期が必要になる。しかし、前述のとおりフランスが今回の首脳会合で示した厳しい姿勢を踏まえると、10月に離脱期限の再延期を申請する場合のハードルは今回よりも高いものとなろう。 そのため、EU側が英国の離脱期限延期要求を認めずに、なし崩し的に離脱期限が過ぎてしまい、合意なき離脱が事故的に起きるシナリオがありうるが、実際にはそれも考えづらい。合意なき離脱の容認は、EUにとっても非常に危険な賭けであるからだ。合意なき離脱に伴う不確実性の上昇によりEUが景気後退に陥るリスクが高まれば、最終的には失業率の上昇を通じて政治的な不安定化にもつながる可能性がある。 英国が実際にEUを離脱するのはいつになるのか。英国で与野党合意に成功すれば、5月22日までに英国は離脱することになる。他方で、英下院の方針が定まらずにメイ首相が辞任し、解散総選挙となれば、10月末までブレグジットはもつれ込むことになる』、EU離脱問題のニュースには「いい加減にしろ」と食傷気味ではあるが、まだまだ気が抜けない状態が半年間も続くようだ。
タグ:東洋経済オンライン 日経ビジネスオンライン 浜矩子 モンテーニュ 英国EU離脱問題 熊谷 徹 一帯一路計画 (その14)(浜矩子教授「今の英国の混乱ぶりは情けない」、CIAが視る世界:鉄の女サッチャーとは程遠い 氷の首相メイの罪と罰、BREXIT再延期が浮き彫りにする 英国・EU危機の深淵、英国のEU離脱は労働党との妥協で「穏健路線」に 10月31日までの離脱期限延期で何が起きるか) 浜矩子教授「今の英国の混乱ぶりは情けない」 ブレグジットの決断そのものは正しいのだが」 英国と大陸欧州は体質も目指す方向も違っていた フランスのシャルル・ド・ゴール大統領(当時)はよく見抜いていて、「島国体質の彼らとわれわれの考えは合わない」と拒否し 外交・安全保障に基づく理念先行の大陸と実益・経済優先のイギリスの体質の違い アイルランド問題を事前に示さなかった責任 take back control キャメロン前首相は、国民投票でブレグジットは否決されると考えていた 伝家の宝刀を抜くときは、どちらに転んでも大丈夫な準備をしてやるものだが、甘かった EUの通貨統合は苦しくなるばかりだ 「クールジャパン」はブレアの「クールブリタニア」のぱくり 偽預言者が掲げる耳心地よいスローガンに警戒せよ 洋の東西を問わず、どうも、偽預言者の大量発生症候群が顕著だ News Week日本版 グレン・カール CIAが視る世界:鉄の女サッチャーとは程遠い、氷の首相メイの罪と罰 ブレグジットを漂流させた最大の戦犯はテリーザ・メイ サッチャーが強いイギリスの復活について明確なビジョンと目標を持ち、鉄のように固い決意で突き進んだ メイは政治家の役割を「何かをすることであり、何者かであることではない」と考える 「行く先の定まらぬ船にはどんな風も役に立たぬ」 「民意」に引きずられるな 一国の指導者たる者は、とりわけ危機的な状況で政策や法制などの複雑な問題の判断を迫られたとき、民意に引きずられてはならない 国民投票のような直接民主主義で効果的な統治はできない 船長が進むべき方角を指し示せないようでは、イギリスという船は漂うのみ メイ首相は、国民投票で示された民意を実行するだけの技術者と化している 管理者ではなく指導者たれ 民主主義において求められるのは、一貫性を欠き破壊的な国民の願望に指導者が従うことではなく、国民の生活にとって重要な問題について明確な決断を下すことだ 「BREXIT再延期が浮き彫りにする、英国・EU危機の深淵」 「EUはBREXITの人質にされる」 マクロン大統領はメルケル氏よりも延期に批判的な態度 我々は欧州を再生させなくてはならない。BREXITがこのプロジェクトを妨害してはならない EU改革プロジェクトに遅れ 対中戦略について一刻も早く合意し、加盟国に対して「抜け駆け」を禁じる必要 英国の欧州議会選挙参加への懸念 メイ首相の無策への絶望感? BREXITをめぐりEUと英国政府が陥った袋小路は、ポピュリスト政党にとって「伝統政党の統治能力が欠如している」ことを有権者にアピールする上で、絶好の材料となるだろう 吉田 健一郎 「英国のEU離脱は労働党との妥協で「穏健路線」に 10月31日までの離脱期限延期で何が起きるか」 離脱期限延期は「前倒し離脱条件付き」 マクロン大統領は、英国がEUに長い間とどまることで、例えば新首相が強硬離脱派議員の中から選ばれ、EU統合の深化を妨げるような政策をとる事態を懸念している 労働党は「ボリス・プルーフ」な合意を要求 合意できなければ、解散総選挙しかない 「離脱取りやめ」もハードルが多すぎる 合意なき離脱の容認は、EUにとっても非常に危険な賭け
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韓国(財閥問題)(その3)(ロッテ トップ収監で「お家騒動」の構図に異変発生、ロッテ副会長の重光氏に再び代表権 代表取締役は2人体制に、かつての新星 韓国現代自動車はなぜ輝きを失ったか、大韓航空 深まる混迷 韓進・趙会長死去) [世界情勢]

昨日の日韓関係に続いて、今日は、韓国(財閥問題)(その3)(ロッテ トップ収監で「お家騒動」の構図に異変発生、ロッテ副会長の重光氏に再び代表権 代表取締役は2人体制に、かつての新星 韓国現代自動車はなぜ輝きを失ったか、大韓航空 深まる混迷 韓進・趙会長死去)を取上げよう。なお、このテーマでは2016年11月13日に取上げた。

先ずは、やや古いが、昨年3月6日付けダイヤモンド・オンライン「ロッテ、トップ収監で「お家騒動」の構図に異変発生」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/162254
・『ロッテホールディングスの重光昭夫副会長が、韓国で実刑判決を受け拘束された。昭夫氏は日本では例を見ない獄中経営を行うことになるが、こと日本のかじ取りは難しくなってきそうだ。 ロッテホールディングス(HD)は、現職の代表取締役が実刑判決を受けて収監されるという、日本の企業としてはまず異例の事態に直面している。有罪判決を受けた重光昭夫副会長は代表権を返上したが、いかにもお茶を濁した対応だ。 本誌2月24日号で既報の通り、ソウル中央地裁は、朴槿恵前韓国大統領側への贈賄罪で起訴されていた昭夫氏に懲役2年6カ月の実刑判決を下した。 判決を受け、即日拘束された昭夫氏は自らロッテHDの代表を辞任する意向を示し、21日の取締役会で代表辞任が認められた。ロッテHDは佃孝之社長が単独で代表を務めることになった。 だが、昭夫氏は代表権の返上後も、取締役副会長としてロッテHDにとどまり続ける。ロッテHDの発表によれば、あくまで今回の判決は「日本の法制上、取締役の資格に直ちに影響を及ぼすものではない」としており、代表の辞任で経営体制が大きく変わることはない。 事実、獄中経営が一般的な韓国では、昭夫氏は韓国ロッテグループの代表に残り続けており、今後、ロッテHDの株主総会で昭夫氏を取締役そのものから解任するということについても、現時点ではないとロッテHDは強調する』、「獄中経営が一般的な韓国」とは驚かされた。昭夫氏は父親や兄からの権力奪取には成功したが、「朴槿恵前韓国大統領側への贈賄罪」で収監とは身から出たサビだろう。
・『唯一の代取となった佃社長はどう動く? 兄弟争いも再燃必至  しかし、昭夫氏が物理的に拘束されることで、今後のロッテグループのかじ取りは大きな岐路に立たされる。 特に、昭夫氏の求心力の低下が避けられない中、注目が集まるのが単独で代表取締役となった佃社長の動向だ。もともと佃社長は、創業者であり昭夫氏の実父の重光武雄名誉会長が引き抜いてロッテへ招聘した人物だ。昭夫氏と兄の重光宏之氏の兄弟による経営権争いの中で昭夫氏サイドになる前は、むしろ「昭夫氏とは犬猿の仲」(ロッテ関係者)であったという。 そのため、「この機に乗じてロッテHDの中で、佃氏が独自色を強めようとするのでは」という疑念が、韓国を中心に根強い。 そもそも、代表権の返上を昭夫氏が自主的に行ったのも、取締役そのものから解任されるという最悪の事態を回避するための周囲へのけん制だったのではという見方もある。 昭夫氏個人が所有するロッテHDの株式は現在4%と、事実上経営陣が支配する従業員持株会の約30%よりもはるかに少ない。また、同じく約3割の株式を保有する筆頭株主の光潤社(創業家の資産管理会社)は、兄の宏之氏が支配している。 仮に昭夫氏の取締役解任という話になれば、経営権をめぐって争う宏之氏が反対する理由もなく、「昭夫氏解任自体は、やろうと思えばたやすい」(関係者)のだ。 昨年10月に韓国のロッテグループ4社を再編して誕生させたロッテ持ち株会社は、グループ内の複雑な循環出資を改めるという大義がある一方で、その裏には今回のように有罪判決を受けたときに、韓国内で自身が影響を与え続けられる基盤をつくる狙いがあったともいわれる。実際、昭夫氏は現在韓国のロッテ持ち株会社については約10%の株式を保有する個人筆頭株主だ。 韓国のロッテ持ち株会社の代表を共に務める黄ガク圭(ファン・ガクキュ)氏は昭夫氏が若いころからの最側近で、黄代表と比較しても昭夫氏と佃氏の間には距離感がある。 昭夫氏はいずれにせよさまざまな制約の中、人心をまとめ上げることにも注力せねばならない。 また、ロッテHDにとっての大きなリスクは、昭夫氏と宏之氏の経営権をめぐる争いの再燃だ。 宏之氏が狙うのは、依然として株主総会に大きな影響を与える従業員持株会の切り崩しだ。現在は昭夫氏支持を鮮明にしている持株会だが、議案に賛否の両方を投じられる議決権の不統一行使をさせることで、宏之氏は支持者を囲い込む狙いだ。 昭夫氏が求心力を失いつつある今、持株会の説得がより容易になり、持株会だけでなくほかの取締役へのアプローチも選択肢に入ってくるだろう。 早晩、宏之氏側がアクションを起こすのは間違いない。そのタイミングが、新たなロッテ激変の端緒となる。 日本では現在、製造子会社などの事業会社3社を合併し、上場する計画が進んでいる。だが、実刑判決を受けた取締役がいることで、上場審査に影響を与える可能性を否定できず、子会社上場のハードルが上がるなど、経営そのものへの影響も懸念される・・・』、佃代表取締役社長はかつては、「昭夫氏とは犬猿の仲」だったとは面白くなってきたが、次の記事でその後の展開をみておこう。

次に、本年2月21日付けSankeiBiz「ロッテ副会長の重光氏に再び代表権 代表取締役は2人体制に」を紹介しよう。
https://www.sankeibiz.jp/business/news/190221/bsd1902210500003-n1.htm
・『ロッテホールディングス(HD、東京)は20日、重光昭夫取締役副会長が再び代表権を取得したと発表した。重光昭夫氏は創業者の次男で事実上のトップ。昨年2月に韓国の国政介入事件に絡み贈賄罪で実刑判決を受け、代表権を返上したが、昨年10月に保釈されていた。ロッテHDが20日の取締役会で決議した。代表取締役は佃孝之社長との2人体制になる。同社は「外部の有識者からの意見を参考にした上で、慎重に検討した」と説明した』、昨年10月に保釈されたのは、控訴審で、ソウル高裁が10月5日、懲役2年6月、執行猶予4年(求刑は懲役14年)を宣告したためのようだ。佃孝之社長の動きが当面の注目点だろう。

第三に、昨年11月9日付けロイター「焦点:かつての新星、韓国現代自動車はなぜ輝きを失ったか」を紹介しよう(会社コードは省略)
https://jp.reuters.com/article/hyundai-motor-mojo-idJPKCN1NE08K
・『中国重慶にある人影まばらな韓国の現代(ヒュンダイ)自動車販売店では、大型でより安価なスポーツタイプ多目的車(SUV)といった世界最大の同国市場で人気の車種がなく、客足が遠のいている、と店長が嘆いていた。 たとえ最大25%値引きしても、月間販売台数は100台程度にすぎないと、リーと名乗るこの店長はこぼす。近くにある日産自動車の販売店では、月間販売台数が400台程度だという。 「単純に売り上げが悪い。隣の日産を見てくれ。何十人も客が来ているのに、うちの店には2人しかいない」と、リー店長は愚痴った。 現代自動車は、ここから車で1時間の場所に総工費10億ドル(1130億円)の巨大製造工場を構えている。年間生産台数30万台を目標に、昨年稼動が始まった。 だが、販売の伸び悩みに、中国市場の急減速が重なり、同工場の稼働率は3割程度にとどまっている。事情に詳しい関係者2人がロイターに明かした。 業界で世界5位の現代自動車は、重慶工場の稼働状況や販売店の売り上げについては触れなかったが、中国事業の回復に向けて、提携先の北京汽車(BAIC)と「緊密に協力」しているとコメントした・・・この苦境は、急拡大する市場に素早く安価な人気モデルを投入することで現代自動車が中国進出当初に収めた成功からの劇的な凋落ぶりを物語っている。 2009年には、中国市場における現代自動車と傘下の起亜自動車の合計販売台数は、米ゼネラル・モーターズ(GM)と独フォルクスワーゲンに続く、第3位につけていた。 だが昨年、現代と起亜の合計販売台数は9位に沈み、中国での市場シェアも2010年代初めの10%超から4%へ、半分以下に落ち込んだ。 かつて現代自動車が誇っていた低価格帯モデルにおける市場優位を、吉利汽車(ジーリー)や比亜迪(BYD)など急成長する中国メーカーに譲ってしまった、と業界幹部や専門家は指摘する。 一方、海外のライバルメーカーは、高価格帯モデルで優勢を守っただけでなく、大衆市場向けに価格競争力のある自動車を投入し続けることで、現代自動車の「買いやすい外車」という地位を揺るがした。 世界第2位の自動車市場である米国においても、現代自動車のシェアは昨年4%に低下し、この10年で最低水準となっている。 中国や米国で同社が苦境に陥った理由は似ている。それは、SUV人気の高まりなど消費者の嗜好が変化していることに気づかず、ブランドイメージにそぐわない高価格車を追求してしまったことだ、と中国のディーラー4人と現職も含めた米国ディーラー6人、そして業界幹部や従業員は、そう口をそろえる。 現代自動車は、デザインの一新や新型SUV投入、そして地元の嗜好に合った自動車を素早く開発できるよう現地での裁量を拡大するなど、米国と中国という重要市場における問題改善に取り組んでいる、とロイターに文書で回答した』、驚くほどの凋落ぶりだ。中国の巨大製造工場の「稼働率は3割程度」であれば、かなり収益を圧迫するだろう。
・『間違った製品、間違った価格  長年、韓国メーカーの「お手本」となってきたホンダなど日本車メーカーも、自動運転車や電気自動車(EV)など業界変化に向けた対応に苦戦している。 先月発表された現代自動車の第3・四半期決算は、純利益が68%減少した。2011年には営業利益率が10.3%と、独BMWに次ぐ高水準を誇っていたが、今年1─9月期は2・7%に落ち込んだ。 主要市場におけるSUVのラインアップが魅力に欠けることも、現代自動車にとって痛手となった。米調査会社オートデータによると、同社の米国販売に占めるSUVの割合は昨年36%にとどまり、GMの76%や業界平均の63%に対して、大きく見劣りする。 「当時も今も変わらず課題となっているのは、(本社)経営陣のセダン重視路線だ」。2004年─08年に米国で同社の製品マネジャーを務め、現在は米カリフォルニア州の自動車コンサルタント会社オート・パシフィックで副社長のエド・キム氏はそう語る。 「(米国の)製品プランニング部門やマーケティング部門の担当者は、トラックやSUVのさらなる投入を切望していたが、多くの場合、経営陣を説得するのが非常に難しかった」とキム氏。 米国事業の最高執行責任者(COO)ブライアン・スミス氏は、同社が市場の急速な大型自動車化に、「やや不意をつかれた」ことを認める。 だが、現代自動車が2020年に投入するクロスオーバー型ピックアップトラックなどの新型SUVによって、売り上げは「緩やかだが確実」に回復するだろう、とスミスCOOはロイターに語った。 同社の市場シェアが、ピークだった2011年の5.1%まで回復するかを質問すると、「何年かかかるだろう」と同COOは語った』、米国ではSUVブームなのに、「(本社)経営陣のセダン重視路線」では負け戦となって当然だろう。
・『デザインの平凡化  現代自動車は4年前、主力セダン「ソナタ」のデザインを刷新する際に、特徴だったスポーティーでしなやかな車体の曲線を取りやめるなど、「平凡化」という重大なミスを犯した。このことが、販売台数が減少する一因となった、と米国のディーラーや現代の元幹部は指摘する。 販売台数で米国最大の現代自動車ディーラーを経営するスコット・フィンク氏は、2014年に同社が米国ディラー約20人をソウルに招き、発表前の新型「ソナタ」を披露した時のことを鮮明に覚えている。 「あれを忘れることはないだろう。布が(ソナタから)取り払われたとき、部屋には20人ほどの人がいたが、拍手した人は1人もいなかった」と、フロリダ州を拠点とするフィンク氏は振り返った。 新型ソナタのデザインは、保守的でありきたりで、ディーラーや消費者にまったく受けなかったと、フィンク氏は言う。 「そして、何よりも、ただの価格競争になってしまった」と、フィンク氏は言う。 ソナタは2007年時点で、トヨタ自動車の人気セダン「カムリ」よりも10%程度安かったが、2014年にはカムリより高くなったと、米市場調査会社Edmund.comは分析。ソナタの米販売台数は、2010年には20万台弱だったが、昨年はわずか13万1803台だった・・・』、「発表前の新型「ソナタ」を披露した時」、「部屋には20人ほどの人がいたが、拍手した人は1人もいなかった」さすがアメリカ人ディーラーだけあって、遠慮がない。
・『売り上げ低迷  一方、ロイターが取材した中国の重慶にある現代ディーラー4店では、今年発売された小型SUV「コナ」の中国モデルである「エンシノ」の売り上げが低調だという。 世界の自動車メーカーは、中国市場向けに仕様を変更し、後部座席のスペースをより豪華に仕上げることが多い。運転手を抱えている購入者が多いためだ。 「エンシノは売れない。単純に、中国市場に合わない」。重慶にある現代販売店のリウと名乗るマネージャーはそう語る。「大半の中国人は、より大きくて、より安くて、より見た目のいい車を好むからだ」 事情を知る関係者によると、現代自動車が立てたエンシノの年間生産台数目標は6万台だった。だが4月の発売以降、6カ月間の売り上げはわずか6000台強にとどまっていることが、当局への提出書類から明らかだ。 若い消費者が増えて市場トレンドの変化が速い中国では、新型モデルの開発期間を短縮すると、現代自動車のKoo Zayong副社長は、最近の決算発表の電話会見で述べた。 同社は8月、中国市場向けモデルの向上に特化した部門を設置した。7月には中国事業の責任者を交代させている。 だが、経済減速と競争激化により、中国事業の回復は「段階的」になる可能性が高いと、同社はロイターに文書で語った』、肝心の中国人の嗜好を度外視したとは、ずいぶん思い上がった姿勢だったようだ。
・『父の遺産  事業再興の重荷は創業家3代目のリーダーとなる鄭義宣(チョン・ウィソン)副会長(48)の肩にのしかかることになる、と同社の社員やディーラー、そしてアナリストは指摘する。 今年9月に総括首席副会長に昇進した同氏は、80歳になる父親の鄭夢九(チョン・モング)会長の後継にまた一歩近づいたとみられている。 品質を劇的に向上し、国内外での生産能力を急速に拡大させて現代を世界の主要メーカーの一角に押し上げた立役者とされる鄭会長は、この2年、公の場や重要社内会議に姿を見せていない。 巨大な財閥とその中央化された意思決定を一手に握る同会長の下で、現代自動車は他社との提携を避け、鉄鋼からエンジンやトランスミッションなどの重要部品に至るまで、すべてをグループ内でまかなってきた。 一方で、研究開発費用は他社に劣る水準で推移した。現代自動車の昨年の研究開発費は売り上げの2.6%にとどまった。この数字は競合他社であるフォルクスワーゲンの6.7%、トヨタの3・8%、そしてBYDの3・6%と比べて大きく見劣りする。 鄭副会長はこれまでの慣例を破り、スタートアップに投資したり、外部からの人材引き抜きや、自動運転技術を巡る提携にも乗り出している。 現代自動車は昨年、ライドシェアやロボティクス、人工知能(AI)の開発部門を指揮する最高イノベーション責任者(CIO)に、サムソン電子の出身者を起用した。 鄭副会長は、これまでに「つまづき」も経験している。2011年の米デトロイト自動車ショーでは、これまでの「お値打ち品」のイメージ刷新を狙い、新たなブランドビジョン「モダン・プレミアム」を披露、4年後には同社初の高級車ブランド「ジェネシス」を発表した。 しかし、米国では、今年1─10月のジェネシスの販売台数は、前年同期比45%減の9281台と落ち込んでいる 鄭副会長は、インタビューの要請に応じなかった。 現代自動車のブランドイメージは向上しているものの、「まだプレミアムブランドの足元に及ばない」とGMの韓国事業責任者を務めたニック・ライリー氏は指摘する。「そのため、規模を維持するには、価格競争力を追求する考え方に立ち返らなければならなだろう」』、読んだ限りでは、経営の姿勢がずいぶん酷いようだが、3代目のリーダーとなる鄭義宣副会長の手腕が試されるようだ。

第四に、本日付けの日経新聞「大韓航空、深まる混迷 韓進・趙会長死去、ナッツ事件から4年余り 創業家長男の継承 道半ば」を紹介しよう。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO43479370Y9A400C1FFJ000/
・『大韓航空を傘下に持つ韓国財閥、韓進グループの趙亮鎬(チョ・ヤンホ)会長(70)が8日、死去した。相次ぐ不祥事でグループの信頼が失墜し、アクティビスト(物言う株主)から不透明なガバナンスの改革を突きつけられている非常事態のなかでの急逝となった。長男の趙源泰(チョ・ウォンテ)氏(43)への経営継承は道半ば。グループの針路はさらに視界不良となった。 韓進グループは持ち株会社の韓進KALを筆頭に、大韓航空などの企業群から成る。特に大韓航空は趙氏の長女が2014年に乗務員のナッツの出し方に怒り航空機を引き返させた「ナッツリターン事件」で知られる。死去した趙氏自身も18年にグループ企業の資金の使い方を巡る罪で起訴され経営が揺らいでいた』、「ナッツリターン事件」などは経営の私物化の極致で、世界中に韓国財閥の問題点を知らしめた。
・『グループ総帥の趙氏の死去が伝わった8日、かねて同グループの経営に不満があったアクティビストが早速動いた。韓国のKCGI(コリア・コーポレート・ガバナンス・インプルーブメント)が同日、韓進KAL株の買い増しを公示した。 KCGIは、証券アナリスト出身の姜成富(カン・ソンブ)氏が代表を務める韓国のファンド。創業家一族による不祥事続きの韓進グループは「攻め時」とみて、昨秋から韓進KALの株の買い占めに走り、1月には同社と傘下の大韓航空に経営改革案を要求した。 3月27日の大韓航空の株主総会では、亡くなった趙氏の取締役の再任が阻止される異例の出来事があったが、そこでも同ファンドが間接的な役割を果たしている。その後も着々と韓進KAL株の買い増しを進め、持ち株比率は昨年12月末の10.71%から8日時点で13.47%まで高まった』、「亡くなった趙氏の取締役の再任が阻止される異例の出来事」の背後に、アクティビストKCGIがいたとは初めて知った。
・『防戦にまわる韓進グループに趙会長の死は早すぎた。グループ全体の後継者と目される長男の趙源泰氏は現在、傘下の大韓航空の社長を務めるが、継承作業が進まないうちに急逝してしまったためだ。韓国の大手財閥は創業2世から3世への世襲が進む。サムスンや現代自動車はすでに3世が事実上のトップ。だが、韓進グループは趙氏が直前まで韓進KAL、大韓航空の最高経営責任者(CEO)を務めていた。 グループの支配構造をみても、趙氏が韓進KAL株の17.84%を握る筆頭株主で、趙源泰氏は2.34%にすぎない。 韓進グループは8日、「非常経営体制」に突入したと発表した。当面、会長職は空席のままとし、グループの複数の社長による集団指導体制「社長団会議」で当面は懸案処理に対応しつつ、次期本命トップの長男である趙源泰氏の次期体制への移行を急ぐとみられる。だが先行きは不透明だ。 まずは趙源泰氏の経営者としての手腕が未知数であることだ。ある韓国のアナリストは「これまで経営は趙会長と専門経営者が担ってきたため、大韓航空の社長としての成果が見えない」と指摘する。その大韓航空は経営不振が続く。直近5年間の業績をみても17年を除いて最終赤字だ。趙氏の弟の会社で経営破綻した韓進海運への経営支援や、不動産など無理な投資が影響している。 創業家出身の会長が引責辞任したライバルの錦湖アシアナグループのような資金繰り面での問題はないとされるが、投資家からは負債の圧縮を求められている。大韓航空の負債比率はピークの16年に1000%を超え、18年は744%まで下がったものの、シンガポール航空などアジアの同業他社に比べて高い。 グループ全体の成長戦略もみえない。2月発表の中期経営計画では年間16兆5000億ウォン(約1兆6000億円)の売上高を23年に22兆ウォンに増やし、10%の営業利益率をめざす目標を掲げた。ただ具体策はなく、経営の透明性など株主の改革圧力を表面的にかわす内容にとどまっている』、中期経営計画に「具体策はなく」というのでは、絵に描いた餅に過ぎない。
・『趙氏の保有株の行方も焦点だ。現在、趙氏と長男の趙源泰氏、長女の趙顕娥(チョ・ヒョナ=44)氏、次女の趙顕●(日へんに文)(チョ・ヒョンミン=35)氏ら親族や役員らが持つ株式は28.95%。株の相続に最大50%の相続税率が適用されれば趙源泰氏は資金捻出のため、一部株式の売却を迫られる可能性がある。そうなれば安定株主比率は下がる。 それは韓進KAL株の買い増しを進めるKCGIにとっては有利な展開だ。韓進グループのガバナンスに批判的な大株主の国民年金公団を合わせれば、創業者一族との保有株の差も縮まる。 長男の趙源泰氏は来年、韓進KALの取締役の改選期も迎える。KCGIは来年の株主総会で取締役の再任に反対する可能性が高い。こうした読みが一般的で、韓進KAL、大韓航空の株価は8日そろって上昇した。市場もガバナンス改革に期待を寄せる。韓進グループは防戦を迫られる』、韓国経済を支配してきた財閥には、ほころびが目立ってきた。現在の文政権は財閥に冷淡なようだ。先ずは、韓進グループが趙一族の支配から、KCGIや国民年金公団のようなプロ投資集団の支配に移行するのか、大いに注目される。
タグ:韓国 重慶 ロイター 父の遺産 日経新聞 ダイヤモンド・オンライン 売り上げ低迷 SankeiBiz アクティビスト (財閥問題) (その3)(ロッテ トップ収監で「お家騒動」の構図に異変発生、ロッテ副会長の重光氏に再び代表権 代表取締役は2人体制に、かつての新星 韓国現代自動車はなぜ輝きを失ったか、大韓航空 深まる混迷 韓進・趙会長死去) 「ロッテ、トップ収監で「お家騒動」の構図に異変発生」 重光昭夫副会長 韓国で実刑判決を受け拘束 獄中経営 代表権を返上 ソウル中央地裁は、朴槿恵前韓国大統領側への贈賄罪で起訴されていた昭夫氏に懲役2年6カ月の実刑判決 ロッテHDは佃孝之社長が単独で代表を務めることに 唯一の代取となった佃社長はどう動く? 兄弟争いも再燃必至 経営権争いの中で昭夫氏サイドになる前は、むしろ「昭夫氏とは犬猿の仲」 日本では現在、製造子会社などの事業会社3社を合併し、上場する計画が進んでいる 「ロッテ副会長の重光氏に再び代表権 代表取締役は2人体制に」 保釈されたのは、控訴審で、ソウル高裁が10月5日、懲役2年6月、執行猶予4年(求刑は懲役14年)を宣告したため 「焦点:かつての新星、韓国現代自動車はなぜ輝きを失ったか」 巨大製造工場を構えている。年間生産台数30万台を目標 稼働率は3割程度 現代と起亜の合計販売台数は9位に沈み、中国での市場シェアも2010年代初めの10%超から4%へ、半分以下に落ち込んだ 米国においても、現代自動車のシェアは昨年4%に低下し、この10年で最低水準 SUV人気の高まりなど消費者の嗜好が変化していることに気づかず、ブランドイメージにそぐわない高価格車を追求してしまったことだ 間違った製品、間違った価格 SUVのラインアップが魅力に欠ける (本社)経営陣のセダン重視路線 デザインの平凡化 今年発売された小型SUV「コナ」の中国モデルである「エンシノ」の売り上げが低調 エンシノは売れない。単純に、中国市場に合わない 研究開発費用は他社に劣る水準で推移 「大韓航空、深まる混迷 韓進・趙会長死去、ナッツ事件から4年余り 創業家長男の継承 道半ば」 大韓航空を傘下に持つ韓国財閥、韓進グループ 趙亮鎬(チョ・ヤンホ)会長(70)が8日、死去 長男の趙源泰(チョ・ウォンテ)氏(43)への経営継承は道半ば 「ナッツリターン事件」 趙氏自身も18年にグループ企業の資金の使い方を巡る罪で起訴され経営が揺らいでいた KCGI 株主総会では、亡くなった趙氏の取締役の再任が阻止される異例の出来事 趙氏が韓進KAL株の17.84%を握る筆頭株主で、趙源泰氏は2.34%にすぎない グループの複数の社長による集団指導体制「社長団会議」で当面は懸案処理に対応しつつ、次期本命トップの長男である趙源泰氏の次期体制への移行を急ぐとみられる 負債比率 アジアの同業他社に比べて高い 株の相続に最大50%の相続税率が適用されれば趙源泰氏は資金捻出のため、一部株式の売却を迫られる可能性
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